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  • 特許-化学品生産システム 図1
  • 特許-化学品生産システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】化学品生産システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/0631 20230101AFI20230526BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20230526BHJP
【FI】
G06Q10/0631
G06Q50/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018091073
(22)【出願日】2018-05-10
(65)【公開番号】P2019197387
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】奥村 浩一
【審査官】松田 岳士
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-185230(JP,A)
【文献】特開2001-335535(JP,A)
【文献】特開2004-323575(JP,A)
【文献】特開2001-357106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の化学プラントを有効に活用する化学品生産システムであって、
複数の化学プラントの各ユーザ端末と管理サーバがネットワークによって接続されており、
前記管理サーバは、ユーザ固有のID番号及び各ユーザ端末から送信される化学品別プラント稼働状況に関する情報を収集、蓄積したデータベースと、将来の一定期間の化学品別供給予測の情報を収集、蓄積したデータベースと、将来の一定期間の化学品別需要予測の情報を収集、蓄積したデータベースと、化学品の将来の所定期間における需要予測と供給予測の差分を算出する差分算出機能部と、その差分を前記化学品別プラント稼働状況に関する情報をふまえて一又は二以上の化学プラントに割り振り、生産計画及び貯蔵・配送計画としてシミュレーションするシミュレーション機能部と、前記シミュレーションにより最適化された生産計画及び貯蔵・配送計画を各ユーザ端末に送信する送信機能部とを備えていることを特徴とする化学品生産システム。
【請求項2】
前記管理サーバは、さらに、生産計画及び貯蔵・配送計画に基づいて、差額収益を算出するマージン算出機能部を有する請求項1記載の化学品生産システム。
【請求項3】
前記化学品が、石油若しくは石炭由来の化学品、又はバイオマス由来の化学品である請求項1又は2記載の化学品生産システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の化学プラントの稼働を調整して化学品を効率的に製造する化学品生産システムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学品製造プラントのキャパシティの過不足は世界的にアンバランスの状態にある。従来、化学品製造プラントにおいて、需要に対してキャパシティが過剰な場合(キャパシティに対して需要が少ない場合)は、稼働率を落としたり、運転自体を休止したりプラント調整を行っている。一方、需要に対してキャパシティが不足の場合(キャパシティに対して需要が多い場合)は、新規投資によりプラントを新設或いは増設したり、同業他社からの玉融通により賄っている。
【0003】
しかし、稼働率を落としても、プラントの維持には用益稼働やメンテナンスにリソース(人、物、金)が必要であり、その分、無駄なエネルギー消費も発生する。また、プラント休止やプラント調整には廃業に伴う多大なコストと、環境負荷、人員整理という問題が生じる。また、新規投資の場合、需要のもくろみが外れて需要減になると、新たなキャパシティ過剰の問題が生じるなど、需要の増減に柔軟に対応することができない。玉融通は、特定会社間での取引であり、世界の供給バランスを必ずしも最適に反映した取引になるとは限らず、また、無駄な流通コストを顧客に上乗せすることにもなる。
【0004】
特許文献1には、産業プラントの運転を最適化するためのシステムを提供することを目的として、静的入力および動的入力に基づいてリスクを計算するように構成されたリスク計算システムと、そのリスクを使用し決定を導出するように構成された意志決定支援システムと、将来のプラント状態を予測する決定に基づいて、プラント運転を更新するように構成されたプラント制御システムを備えたプラント運転最適化システムが開示されている。しかし、このプラント運転最適化システムは、一企業内での運転最適化システムであって、所定区域内の複数の企業間での運転最適化システムを志向するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-238308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、例えば、日本、アジア等の所定区域内、或いは全世界の化学プラント(化学品製造プラント)のキャパシティを効率的に活用し、化学品の生産と供給の全体最適化を実現しうる化学品生産システムを提供することにある。
本発明の他の目的は、例えば、日本、アジア等の所定区域内、或いは全世界の化学プラントのプラント稼働状態を共有し、キャパシティ過剰プラント(供給側)とキャパシティ不足プラント(需要側)を自動マッチングさせ、それに基づく生産、デリバリ計画を自動算出、自動提案する化学品生産システムを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、上記マッチングにおいて供給側と需要側が匿名でも可能な化学品生産システムを提供することにある。
本発明の別の目的は、上記各目的に加え、さらに収益モデルが付随した化学品生産システムを提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、上記各目的に加え、運営主体として、国・行政機関等の公的機関、商社等の私的機関を前提とした化学品生産システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、複数の化学プラントの各ユーザ端末と管理サーバをネットワークによって接続し、各ユーザ端末から送信される複数の化学プラントの化学品別稼働状況に関する情報を管理サーバに収集、蓄積するとともに、将来の化学品別供給予測の情報、及び将来の化学品別需要予測の情報を管理サーバに収集、蓄積し、化学品の将来の所定期間における需要予測と供給予測の差分を算出し、その差分を一又は二以上の化学プラントに割り振り、その差分を生産計画としてシミュレーションし、その差分を貯蔵・配送計画としてシミュレーションし、得られた化学品の生産計画及び貯蔵配送計画を各ユーザ端末に送信するシステムを構築すると、各プラントのキャパシティを効率的に活用でき、化学品の生産と供給の全体最適化を図れることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、複数の化学プラントを有効に活用する化学品生産システムであって、複数の化学プラントの各ユーザ端末と管理サーバがネットワークによって接続されており、前記管理サーバは、ユーザ固有のID番号及び各ユーザ端末から送信される化学品別プラント稼働状況に関する情報を収集、蓄積したデータベースと、将来の一定期間の化学品別供給予測の情報を収集、蓄積したデータベースと、将来の一定期間の化学品別需要予測の情報を収集、蓄積したデータベースと、化学品の将来の所定期間における需要予測と供給予測の差分を算出する機能部と、その差分を一又は二以上の化学プラントに割り振る機能部と、その差分を生産計画としてシミュレーションする機能部と、その差分を貯蔵・配送計画としてシミュレーションする機能部と、前記生産計画及び貯蔵・配送計画を各ユーザ端末に送信する送信部とを備えていることを特徴とする化学品生産システムを提供する。
【0009】
前記管理サーバは、さらに、差額収益を算出する機能部を有していてもよい。
【0010】
前記化学品は、石油若しくは石炭由来の化学品、又はバイオマス由来の化学品であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の化学プラントの特定の情報を蓄積したデータベースと、将来の化学品別供給予測の情報を蓄積したデータベースと、将来の化学品別需要予測の情報を蓄積したデータベースとに基づいて、所定化学品の将来の所定期間における需要予測と供給予測の差分を算出し、その差分を各化学プラントに割り振り、当該化学品の生産計画、貯蔵・配送計画をシミュレーションし、その結果を各化学プラントに送信するので、所定の区域、例えば日本の化学プラント、或いは全世界の化学プラントのキャパシティを有効に活用しつつ、当該化学品の生産と供給の全体最適化を実現することが可能となる。
また、客観的なデータに基づいて判断するので、特定メーカーや特定商社の独自判断に左右されない、グローバルレベルの生産・流通革新ができる。
さらに、リスク分散できるので、特に中小企業における投資・償却に関する経営負担を緩和できる。
また、エネルギー利用を効率化できるので、環境負荷の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の化学品生産システムの一実施形態を示す概略ブロック図である。
図2】本発明の化学品生産システムの一例である酢酸n-ブチル生産システムに係る概略製造フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の化学品の生産システムは、複数の化学プラント(化学品製造プラント)を有効に活用して化学品を効率よく製造するための化学品生産システムである。この化学品生産システムは、複数の化学プラントの各ユーザ端末と管理サーバがネットワークによって接続されている。
【0014】
前記管理サーバは、ユーザ固有のID番号及び各ユーザ端末から送信される化学品別プラント稼働状況に関する情報を収集、蓄積したデータベースを有している。ユーザ固有のID番号により管理できるので、このシステムの利用者の匿名化が可能である。各ユーザ端末から送信される化学品別プラント稼働状況に関する情報には、各プラントの過去、現在及び未来の化学品別の稼働状況及び稼働予測に関する情報が含まれる。また、この情報には、各プラントの製造フロー、製造可能な化学品名、生産能力、貯蔵能力、移送能力などが含まれていてもよい。
【0015】
各プラントから収集する稼働状況に関する情報としては、各配管を流れる流体等の流量(時間当たりの流量又は積算値)、蒸留物等を貯留するタンクの液量などが、複数プラントをコントロールするのに直接的に必要なパラメータとなる。各配管を流れる流体等の流量は、例えば、積算機能付き流量計により計測できる。タンクの液量は、例えば、液面計により計測できる。また、補助情報として、例えば、バルブの開閉状態や開度、各機器の温度や圧力、ポンプのモーター回転数、熱媒(蒸気や温水等)や冷媒(水、ブライン、代替フロン等)の温度や流量など、さらには、フルキャパシティに対してどの程度の余力があるか、または、正常稼働しているか否かを把握するためのパラメータを収集することも望ましい。
【0016】
前記管理サーバは、また、将来の一定期間の化学品別供給予測の情報を収集、蓄積したデータベース、及び将来の一定期間の化学品別需要予測の情報を収集、蓄積したデータベースを有している。将来の一定期間の化学品別供給予測の情報、将来の一定期間の化学品別需要予測の情報は、例えば、市場調査、モデル構築(移動平均法、指数平滑法、ARIMAモデル、BASSモデル等)などから得ることができる。
【0017】
そして、前記管理サーバは、化学品の将来の所定期間における需要予測と供給予測の差分を算出する機能部と、その差分を一又は二以上の化学プラントに割り振る機能部と、その差分を生産計画としてシミュレーションする機能部と、その差分を貯蔵・配送計画としてシミュレーションする機能部と、前記生産計画及び貯蔵・配送計画を各ユーザ端末に送信する送信部とを備えている。
【0018】
このような化学品生産システムによれば、特定地域(例えば、日本)或いは全世界の化学プラントの稼働状態を把握し、ある特定化学品の需要予測及び供給予測に基づいて、キャパ過剰のプラント(供給側)とキャパ不足のプラント(需要側)を調整し(マッチングさせ)、その化学品の生産計画及びデリバリ計画を作成するので、特定地域(例えば、日本)或いは全世界の化学プラントのキャパシティを効率的に活用でき、化学品の生産、供給の最適化を図ることができる。また、遊休プラントの有効活用が可能となる。さらに、上記マッチングにおいて、供給側と需要側が匿名でも可能であるため、秘密情報が拡散しない。
【0019】
この化学品生産システムの運営主体(管理サーバ保有者)としては、例えば、国・行政機関等の公的機関、商社等の私的機関のいずれであってもよい。
【0020】
上記化学品としては、特に限定されないが、異なる企業に帰属する2以上のプラントにおいて多量に生産される化学品であることが多大な効果が得られる点で好ましい。上記化学品には、石油や石炭を原料とする化学品、バイオマス(例えば、木材、トウモロコシ、さとうきび等)を原料とする化学品などが含まれる。また、上記化学品は、有機化合物、無機化合物のいずれであってもよく、また、気体、液体、固体のいずれであってもよい。
【0021】
上記化学品の代表的な例として、例えば、炭化水素(メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブタジエン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、シクロヘキサンなど)、ハロゲン化炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、塩化ビニルなど)、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、シクロヘキシルアルコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、フェノール(フェノール、クレゾールなど)、カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、ニコチン酸など)、エステル(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、テレフタル酸エチルなど)、油脂、エーテル(ジエチルエーテル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、ジフェニルエーテルなど)、アルデヒド(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アクロレイン、ベンズアルデヒドなど)、ケトン(アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、ニトリル(アセトニトリル、アクリロニトリルなど)、アミン(メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ベンジルアミン、アニリン、イソホロンジアミンなど)、含窒素芳香族複素環化合物(ピリジン、ピコリンなど)、尿素、熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミドなど)、熱硬化性樹脂(フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド)、セルロース誘導体(セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース)、糖類(ブドウ糖、ショ糖、デンプンなど)、水素、酸素、オゾン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、塩素、過酸化水素、無機酸(塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸など)、無機塩(塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウムなど)、無機水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウムなど)、無機酸化物(酸化カルシウム、シリカ、アルミナ、酸化チタン、二酸化マンガン、五酸化リンなど)などが挙げられる。
【0022】
図1は本発明の化学品生産システムの一実施形態を示す概略ブロック図である。この例において、1a、1b、・・・、1xは、それぞれある特定の化学品を製造可能な化学プラントのユーザ端末を示す。ユーザ端末1a、1b、・・・、1xは、それぞれ同一企業に属していてもよいが、多大な効果が得られるという観点からは、少なくとも1つのユーザ端末は異なる企業に属していることが好ましく、すべてのユーザ端末がそれぞれ異なる企業に属していることがさらに好ましい。ユーザ端末の総数は2以上であればよいが、3以上(例えば3~10)であることがより好ましい。
【0023】
前記各ユーザ端末1a、1b、・・・、1xから、このシステムの運営主体が通常所有する管理サーバ10に様々の情報が提供(送信)される。これらの情報には、化学品別のプラント稼働状況(過去、現在、未来)が含まれる。また、これらの情報には、プラントの製造フロー、生産能力、貯蔵能力、移送能力などが含まれていてもよい。
【0024】
管理サーバ10は、データベース2a、データベース2b及びデータベース2cを備えている。データベース2aには、ユーザ固有のID番号及び各ユーザ端末から送信される化学品別プラント稼働状況に関する情報が収集、蓄積されている。通常、運営主体がユーザ固有のID管理(実名とIDの紐付け管理)を行う。前記プラント稼働状況には、過去、現在、未来、化学品別・グレード別の情報が含まれる。
【0025】
データベース2bには、将来の一定期間の化学品別供給予測(空き状態)の情報が収集、蓄積されている。データベース2cには、将来の一定期間の化学品別需要予測(発注予定)の情報が収集、蓄積されている。
【0026】
管理サーバ10は、さらに、差分算出機能部3、シミュレーション機能部4、マージン算出機能部5、送信機能部6を備えている。差分算出機能部3では、前記所定化学品の前記所定期間における需要予測と供給予測の差分を算出する。そして、シミュレーション機能部4では、その差分を前記各化学プラントに割り振り、生産計画、貯蔵・移送計画としてシミュレーションする。生産計画としては、特定プラントにおける生産量(時刻・日・月・年)として計画できる。
【0027】
マージン算出機能部4では、前記生産計画及び貯蔵・移送計画に基づいて、差額収益を算出する。収益としては、例えば、情報登録、マッチング、生産計画、デリバリ計画に分け、各々のマージンを算出する。
【0028】
こうして得られた所定化学品の生産計画、及び貯蔵・移送計画は、各化学プラント提供され、それに基づき、各化学プラントにおいてその生産計画、及び貯蔵・移送計画が実施される。
【0029】
管理サーバ10には、前記各化学プラントの生産計画、貯蔵・移送計画を創出するシミュレーション機能部3、及び前記各化学プラントの差額収益を算出するマージン算出機能部4のほか、供給側(キャパシティ過剰の化学プラント)及び需要側(キャパシティ不足の化学プラント)のID管理システムを有していてもよい。
【0030】
以下、具体的に酢酸n-ブチル(以下、「酢酸ブチル」と略称する)の生産システムについて説明する。一例として、国内に酢酸ブチルの製造プラントが、aプラント(A社)、bプラント(B社)、cプラント(C社)の3つ存在する場合について説明する。これらのプラントは酢酸ブチル製造用の専用プラントであり、いずれも図2に示す製造フローを有している。以下、図2に基づいて説明する。
【0031】
反応系(図示せず)において酢酸とn-ブタノールとを硫酸触媒の存在下でエステル化して得られた粗反応生成物を中和水洗し、デカンターにより大部分の水及び硫酸触媒を分離した後の酢酸ブチル、n-ブタノール、水、硫酸及び微量の副生物を含む供給液は、ライン13(脱低沸塔供給ライン)を経て脱低沸塔11に供給され蒸留に付される。脱低沸塔11の塔頂からは酢酸ブチルの一部のほか、n-ブタノール、水等の低沸物がライン14(脱低沸塔留出ライン)を経て留出する。塔底部からは酢酸ブチルのほかに、反応系から持ち込まれる微量の硫酸、モノブチル硫酸、ジブチル硫酸等の硫酸アルキル類などの高沸物がライン15(脱低沸塔缶出ライン)を経て缶出する。脱低沸塔11の塔側部からは粗酢酸ブチルが取り出される(サイドカットする)。脱低沸塔11の塔側部から取り出された粗酢酸ブチルはライン16(脱高沸塔供給ライン)を経て脱高沸塔12に供給され蒸留に付される。脱高沸塔12の塔頂からは製品酢酸ブチルが留出し、ライン17(脱高沸塔留出ライン)を経て製品タンク19に貯留される。脱高沸塔12の塔底部からは酢酸ブチルの一部のほかに、硫酸、モノブチル硫酸、ジブチル硫酸等の硫酸アルキル類などの高沸物がライン18(脱高沸塔缶出ライン)を経て缶出する。なお、図2において、11a、12aはコンデンサー、11b、12bはリボイラーを示す。
【0032】
本発明の生産システムでは、上記3つの酢酸ブチル製造プラントa、b、cを有効に活用して酢酸ブチルを効率よく製造するため、3つの酢酸ブチル製造プラントa、b及びcの各ユーザ端末と管理サーバがネットワークによって接続されている。
【0033】
前記管理サーバは、ユーザであるA社、B社及びC社固有のID番号及び各ユーザ端末から送信される酢酸ブチル製造プラントa、b及びcの稼働状況に関する情報を収集、蓄積したデータベースを有している。各ユーザ端末から送信される酢酸ブチル製造プラント稼働状況に関する情報には、各プラントa、b及びcの過去、現在及び未来の稼働状況及び稼働予測に関する情報が含まれる。また、この情報には、各プラントa、b及びcの生産能力、貯蔵能力、移送能力などが含まれていてもよい。各プラントa、b及びcの稼働状況に関する情報としては、例えば、配管13、16、17を流れる流体の流量(時間当たりの流量又は積算値)、製品酢酸ブチルを貯留するタンク19の液量、フルキャパシティに対してどの程度の余力があるかを示すパラメータなどが含まれる。
【0034】
前記管理サーバは、また、将来の一定期間の酢酸ブチル供給予測の情報を収集、蓄積したデータベース、及び将来の一定期間の酢酸ブチル需要予測の情報を収集、蓄積したデータベースを有している。そして、前記管理サーバは、酢酸ブチルの将来の所定期間における需要予測と供給予測の差分を算出する機能部と、その差分を酢酸ブチル製造プラントa、b及びcに割り振る機能部と、その差分を生産計画としてシミュレーションする機能部と、その差分を貯蔵・配送計画としてシミュレーションする機能部と、前記生産計画及び貯蔵・配送計画を各ユーザA社、B社及びC社の端末に送信する送信部とを備えている。
【0035】
このような生産システムによれば、酢酸ブチル製造プラントa、b及びcの稼働状態を正確に把握でき、酢酸ブチルの需要予測及び供給予測に基づいて、キャパ過剰のプラント(例えばプラントa)とキャパ不足のプラント(例えばプラントc)の生産計画及びデリバリ計画を作成できるので、各酢酸ブチル製造プラントa、b及びcのキャパシティを効率的に活用でき、酢酸ブチルの生産、供給の最適化を図ることができる。
【0036】
上記の例は、生産システムの対象化学品が酢酸ブチルであるが、これに限らず、種々の液体、気体、固体の化学品を生産システムの対象とすることができる。また、上記の例では、化学品の製造を反応系、精製系ともに連続方式で行っているが、反応系及び精製系の一方或いは両方をバッチ方式で行ってもよい。また、化学品製造プラントは、反応系、精製系のほか、回収系などを備えていてもよい。さらに、上記の例では、複数の化学品製造プラントがすべて特定化学品の専用プラントであるが、これに限らず、少なくとも一つのプラントは汎用プラントであってもよい。また、複数の化学品製造プラントの製造フローは必ずしも同一でなくてもよく、当該化学品を製造可能な製造フローであればよい。
【符号の説明】
【0037】
1a,1b,・・・,1x ユーザ端末
2a,2b,2c データベース
3 差分算出機能部
4 シミュレーション機能部
5 マージン算出機能部
6 送信機能部
10 管理サーバ
11 脱低沸塔
12 脱高沸塔
13 脱低沸塔供給ライン
14 脱低沸塔留出ライン
15 脱低沸塔缶出ライン
16 脱高沸塔供給ライン
17 脱高沸塔留出ライン
18 脱高沸塔缶出ライン
19 製品タンク
図1
図2