(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】光熱変換性樹脂組成物及びそれを含む繊維
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230526BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230526BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20230526BHJP
D01F 1/10 20060101ALI20230526BHJP
D06M 11/48 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
C08K3/20
D01F1/10
D06M11/48
(21)【出願番号】P 2018209592
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】小川 直希
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 遼
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-132042(JP,A)
【文献】特表2010-536970(JP,A)
【文献】特表2011-503338(JP,A)
【文献】特開2008-214596(JP,A)
【文献】特開2009-144037(JP,A)
【文献】特開2017-061767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/18
D01F 1/00-1/10
D06M 11/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、並びに前記熱可塑性樹脂に分散されているタングステン酸化物系の光熱変換性粒子及び保温性粒子を含み、
前記保温性粒子が無機酸化物粒子(ただし、前記光熱変換性粒子に該当するものを除く)であり、
前記光熱変換性粒子の含有量が、0.01質量%以上0.50質量%未満であり、かつ
前記保温性粒子の含有量が、0.01~70質量%である、
繊維用光熱変換性樹脂組成物。
【請求項2】
前記光熱変換性粒子が、以下から選択される、請求項1に記載の光熱変換性樹脂組成物:
一般式(1):M
xW
yO
z{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物の粒子、又は
一般式(2):W
yO
z{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物の粒子。
【請求項3】
前記光熱変換性粒子の体積平均の分散粒子径が、1nm以上800nm以下である、請求項1又は2に記載の光熱変換性樹脂組成物。
【請求項4】
前記保温性粒子が、酸化チタン粒子、酸化ケイ素粒子、酸化アルミニウム粒子、及び酸化ジルコニウム粒子から選択される粒子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の光熱変換性樹脂組成物。
【請求項5】
前記保温性粒子の平均一次粒子径が、10nm以上5μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の光熱変換性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の光熱変換性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の光熱変換性樹脂組成物を含む、光熱変換性繊維。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の光熱変換性樹脂組成物を溶融紡糸することを含む、光熱変換性繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光熱変換性樹脂組成物及びそれを含む繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線を吸収して熱に変換する光熱変換性物質が知られている。光熱変換性物質を含む繊維は、太陽光を熱に変換することで優れた防寒性を与えることできる。
【0003】
このような繊維として、例えば、特許文献1には、酸化スズにアンチモンをドーピングした粒子(「ATO粒子」)を含む、再生セルロース繊維が開示されている。また、特許文献1では、放熱を防止するために酸化チタンをさらに含む再生セルロース繊維も開示している。
【0004】
特許文献2では、タングステン酸化物系の光熱変換性粒子を含む繊維が開示されている。
【0005】
特許文献3は、タングステン系酸化物粒子の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-147785号公報
【文献】特開2006-132042号公報
【文献】特開2005-187323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、少量の光熱変換性粒子で、高い光熱変換性を与えることができる光熱変換性樹脂組成物、及びそれを含む繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
熱可塑性樹脂、並びに前記熱可塑性樹脂に分散されているタングステン酸化物系の光熱変換性粒子及び保温性粒子を含み、前記光熱変換性粒子が、0.01~0.50質量%未満であり、かつ前記保温性粒子が、0.01~70質量%以下である、光熱変換性樹脂組成物。
《態様2》
前記光熱変換性粒子が、以下から選択される、態様1に記載の光熱変換性樹脂組成物:
一般式(1):MxWyOz{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物の粒子、又は
一般式(2):WyOz{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物の粒子。
《態様3》
前記光熱変換性粒子の体積平均粒子径が、1nm以上800nm以下である、態様1又は2に記載の光熱変換性樹脂組成物。
《態様4》
前記保温性粒子が、無機酸化物粒子である、態様1~3のいずれか一項に記載の光熱変換性樹脂組成物。
《態様5》
前記保温性粒子の平均一次粒子径が、10nm以上5μm以下である、態様1~4のいずれか一項に記載の光熱変換性樹脂組成物。
《態様6》
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物からなる群より選択される、態様1~5のいずれか一項に記載の光熱変換性樹脂組成物。
《態様7》
態様1~6のいずれか一項に記載の光熱変換性樹脂組成物を含む、光熱変換性フィルム。
《態様8》
態様1~6のいずれか一項に記載の光熱変換性樹脂組成物を含む、光熱変換性繊維。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、比較例1~2及び実施例1のランプ照射時の温度プロファイルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《光熱変換性樹脂組成物》
本発明の光熱変換性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、並びに熱可塑性樹脂に分散されているタングステン酸化物系の光熱変換性粒子及び保温性粒子を含み、光熱変換性粒子が、0.01~0.50質量%未満であり、かつ保温性粒子が、0.01~70質量%以下である。
【0011】
特許文献1においては、光熱変換性粒子が0.5質量%以上で用いられること、及び光熱変換性粒子を他の粒子と併用できることを開示している。また、特許文献2では、タングステン酸化物系の光熱変換性粒子を、0.001質量%~80質量%の間で用いることができるとしているものの、光熱変換性粒子を他の粒子と併用することは示唆されておらず、また具体的に開示されている繊維には、15質量%~50質量%でタングステン酸化物系の光熱変換性粒子が含有されている。
【0012】
本発明者らは、光熱変換性粒子としてタングステン酸化物系の粒子を0.5質量%未満の少量で用いた場合にのみ、保温性粒子と併用すると、高い光熱変換性を与えることができることを見出した。理論に拘束されないが、光熱変換性粒子と保温性粒子が光熱変換性にとって良好な分散状態をとっているためであると考えられる。
【0013】
〈光熱変換性粒子〉
本発明で用いられる光熱変換性粒子は、タングステン酸化物系の粒子である。本発明者らの検討によれば、光熱変換性粒子として他の種類の粒子を使用した場合には、保温性粒子と併用したとしても、相乗効果による高い光熱変換性を与えることはできなかったのに対して、タングステン酸化物系の粒子を用いた場合には、保温性粒子と併用することによる有利な効果を得ることができた。
【0014】
タングステン酸化物系粒子としては、光熱変換性を有してれば特に限定されない。例えば、このようなタングステン酸化物系粒子としては、特許文献2に開示されているようなタングステン酸化物系粒子を挙げることができる。
【0015】
例えば、光熱変換性粒子としては、
一般式(1):MxWyOz{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物の粒子、又は
一般式(2):WyOz{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物の粒子であってもよい。
【0016】
タングステン酸化物系粒子の製法として、特開2005-187323号公報に説明されている複合タングステン酸化物又はマグネリ相を有するタングステン酸化物の製法を使用することができる。
【0017】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物には、元素Mが添加されている。この為、一般式(1)におけるz/y=3.0の場合も含めて、自由電子が生成され、近赤外光波長領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線を吸収し発熱する材料として有効である。
【0018】
特に、光学特性及び耐候性を向上させる観点から、M元素としては、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe及びSnのうちの1種類以上とすることができる。
【0019】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物の粒子を、シランカップリング剤で処理することによって、近赤外線吸収性及び可視光波長領域における透明性を高めてもよい。
【0020】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0超であれば、十分な量の自由電子が生成され近赤外線吸収効果を十分に得ることができる。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し近赤外線吸収効果も上昇するが、通常はx/yの値が1程度で飽和する。x/yの値は、0.001以上、0.2以上又は0.30以上であってもよく、1.0以下0.85以下、0.5以下又は0.35以下であってもよい。x/yの値は、特に0.33とすることができる。
【0021】
一般式(1)及び(2)において、z/yの値は、酸素量の制御の水準を示す。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、z/yの値が2.2≦z/y≦3.0の関係を満たすので、一般式(2)で表されるタングステン酸化物と同じ酸素制御機構が働くことに加えて、z/y=3.0の場合でさえも元素Mの添加による自由電子の供給がある。一般式(1)において、z/yの値が2.45≦z/y≦3.0の関係を満たすようにしてもよい。
【0022】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶構造を有するか、又は六方晶の結晶構造からなるとき、赤外線吸収性材料微粒子の可視光波長領域の透過が大きくなり、かつ近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。六方晶の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光波長領域の透過が大きくなり、近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。ここで、一般には、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに、六方晶が形成される。具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Fe等のイオン半径の大きい元素を添加したときに、六方晶が形成され易い。しかしながら、これらの元素に限定されるものではなく、これらの元素以外の元素でも、WO6単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよい。
【0023】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有する場合には、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下とすることができ、0.30以上0.35以下とすることができ、特に0.33とすることができる。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の実質的に全てに配置されると考えられる。
【0024】
また、六方晶以外では、正方晶又は立方晶のタングステンブロンズも近赤外線吸収効果がある。これらの結晶構造によって、近赤外光波長領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光波長領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、可視光波長領域の光をより透過して、近赤外光波長領域の光をより吸収する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いてもよい。
【0025】
一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物において、z/yの値が2.45≦z/y≦2.999の関係を満たす組成比を有する所謂「マグネリ相」は、安定性が高く、近赤外光波長領域の吸収特性も高いため、光熱変換性粒子として好適に用いられる。
【0026】
その光熱変換性粒子の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持して応用する場合には、体積平均で2000nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。これは、分散粒子径が2000nm以下であれば、可視光波長領域での透過率(反射率)のピークと近赤外光波長領域の吸収とのボトムの差が大きくなり、可視光波長領域の透明性を有する光熱変換性粒子としての効果を発揮できるからである。さらに分散粒子径が2000nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光波長領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。
【0027】
さらに可視光波長領域の透明性を重視する場合には、粒子による散乱を考慮することが好ましい。具体的には、光熱変換性粒子の体積平均の分散粒子径は800nm以下、500nm以下、又は200nm以下であることが好ましく、好ましくは100nm以下、50nm以下、又は30nm以下であることがより好ましい。光熱変換性粒子の分散粒子径が200nm以下になると、幾何学散乱又はミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い、散乱が低減し透明性が向上する。さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましい。一方、分散粒子径が1nm以上、3nm以上、5nm以上、又は10nm以上あれば工業的な製造は容易となる傾向にある。ここで、光熱変換性粒子の体積平均の分散粒子径は、ブラウン運動中の微粒子にレーザー光を照射し、そこから得られる光散乱情報から粒子径を求める動的光散乱法のマイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製)を用いて測定される。
【0028】
本発明の樹脂組成物中の光熱変換性粒子の含有量は、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.20質量%以上、又は0.30質量%以上であってもよく、0.5質量%未満、0.45質量%以下、0.40質量%以下、0.30質量%以下、0.20質量%以下、又は0.10質量%以下であってもよい。光熱変換性粒子の含有量がこのような範囲であれば、保温性粒子と併用する効果が得られ、かつ樹脂組成物の色調に影響を与えにくい。例えば、光熱変換性粒子の含有量は、0.05質量%以上0.45質量%以下、又は0.10質量%以上0.40質量%以下であってもよい。
【0029】
〈保温性粒子〉
本発明の樹脂組成物は、0.01~70質量%以下で保温性粒子を含む。保温性粒子の種類としては、本発明の有利な効果が与えられる範囲では、特に限定されない。
【0030】
保温性粒子としては、有機微粒子又は無機微粒子を挙げることができる。有機微粒子としては、ポリマー微粒子を挙げることができる。
【0031】
併用する光熱変換性粒子は、近赤外光波長領域の光を大きく吸収するため、その透過色調が青色系から緑色系となることがあり、樹脂組成物の白色度を向上させるために、保温性粒子が白色であることが好ましい。このような観点からも、保温性粒子として、無機酸化物粒子が好ましく、例えば酸化チタン粒子、酸化ケイ素粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子等を挙げることができる。
【0032】
保温性粒子の平均一次粒子径は、10nm以上、30nm以上、50nm以上、100nm以上、300nm以上、又は500nm以上であってもよく、5μm以下、1μm以下、800nm以下、500nm以下、300nm以下、200nm以下、又は100nm以下であってもよい。その平均一次粒子径は、電子顕微鏡法を用いて測定される個数平均の値である。保温性粒子の平均一次粒子径は、例えば10nm~5μm、又は50nm~500nmであってもよい。
【0033】
本発明の樹脂組成物中の保温性粒子の含有量は、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.50質量%以上、1.0質量%以上、3.0質量%以上、5.0質量%以上、又は10質量%以上であってもよく、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、5.0質量%以下、3.0質量%以下、1.0質量%以下、又は0.50質量%以下であってもよい。保温性粒子の含有量がこのような範囲であれば、光熱変換性粒子と併用する効果が得られやすい。例えば、保温性粒子の含有量は、0.05質量%以上40質量%以下、又は0.10質量%以上30質量%以下であってもよい。
【0034】
〈熱可塑性樹脂〉
本発明の樹脂組成物では、光熱変換性粒子及び保温性粒子が熱可塑性樹脂中に分散している。そのような熱可塑性樹脂の種類としては、本発明の有利な効果が与えられる範囲では、特に限定されない。
【0035】
熱可塑性樹脂としては、例えばポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0036】
本発明の樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、20質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は98質量%以上であってもよく、99.98質量%以下、99.8質量%以下、99.5質量%以下、99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、又は50質量%以下であってもよい。例えば、熱可塑性樹脂の含有量は、50質量%以上99.98質量%以下、又は60質量%以上99.98質量%以下であってもよい。
【0037】
〈分散剤〉
光熱変換性粒子の熱可塑性樹脂中への分散性を高める等の目的で、本発明の樹脂組成物中には分散剤が含有されていてもよい。分散剤は、光熱変換性粒子の表面を分散剤がコーティングしている複合粒子の形態で用いられてもよく、樹脂形態である分散剤中に光熱変換性粒子が分散されている複合粒子の形態であってもよい。
【0038】
分散剤としては、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を有している化合物、特に樹脂を挙げることができる。これらの官能基は、光熱変換性粒子の表面に吸着し、タングステン酸化物系粒子の凝集を防ぐことで光熱変換性粒子を均一に分散させることができる。
【0039】
また、特開2011-1551号公報に記載のような分散剤を用いてもよく、そのような分散剤として、水酸基及び/又はエポキシ基を有しているアクリル系樹脂を挙げることができる。そのアクリル系樹脂は、TG-DTAで測定される熱分解温度が230℃以上、好ましくは250℃以上あるものを用いることが耐熱性の観点から好ましい。
【0040】
本発明の樹脂組成物中の分散剤の含有量は、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、又は1.5質量%以上であってもよく、10質量%以下、5.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、1.5質量%以下、1.0質量%以下、又は0.5質量%以下であってもよい。例えば、分散剤の含有量は、0.1質量%以上2.0質量%以下、又は0.3質量%以上1.5質量%以下であってもよい。
【0041】
光熱変換性粒子の重量に対する分散剤の重量の比(分散剤の重量/光熱変換性粒子の重量)は、1.0以上、2.0以上、3.0以上、又は4.0以上であってもよく、10以下、8.0以下、5.0以下、4.0以下、3.0以下、2.0以下、又は1.0以下であってもよい。例えば、この比は、1.0以上5.0以下、又は2.0以上4.0以下であってもよい。
【0042】
《光熱変換性樹脂組成物の製造方法》
上記の光熱変換性樹脂組成物は、上記の光熱変換性粒子、保温性粒子、及び熱可塑性樹脂を混練することによって製造することができる。また、随意に上記の分散剤も併せて混練することができる。この場合において、光熱変換性粒子を分散剤によって事前にコーティングしていてもよい。
【0043】
混練は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ミキシングロールなどのバッチ式混練機、及び二軸押出機、単軸押出機などの連続式混練機などを用いて行うことができる。この際には、使用する材料に応じて、120℃以上、140℃以上、又は150℃以上で、かつ350℃以下、300℃以下、250℃以下、220℃以下、200℃以下、又は180℃以下の温度で混練することができる。
【0044】
《フィルム》
本発明の光熱変換性樹脂組成物を含むフィルムは、上記のようにして得られた樹脂組成物を、フィルム化することによって得られる。フィルムの成形法は特に限定されないが、熱プレス法、単層又は多層インフレーション法、Tダイ法等を挙げることができる。また、本発明のフィルムは、上記の各成分を含むマスターバッチと他の樹脂とを混合して光熱変換性樹脂組成物を得て、これをフィルム化してもよい。
【0045】
すなわち、本発明のフィルムは、上記のような熱可塑性樹脂、並びに熱可塑性樹脂に分散されている上記のようなタングステン酸化物系の光熱変換性粒子及び保温性粒子を含み、光熱変換性粒子が、0.01~0.50質量%未満であり、かつ保温性粒子が、0.01~70質量%以下であってもよい。
【0046】
《繊維》
本発明の光熱変換性樹脂組成物を含む繊維は、例えば、上記のようにして得られた樹脂組成物を溶融紡糸することによって得ることができる。溶融紡糸においては、一般的に用いられる溶融紡糸装置を使用することが可能である。また、本発明の繊維は、上記の各成分を含むマスターバッチと他の樹脂とを混合して光熱変換性樹脂組成物を得て、これを溶融紡糸してもよい。
【0047】
すなわち、本発明の繊維は、上記のような熱可塑性樹脂、並びに熱可塑性樹脂に分散されている上記のようなタングステン酸化物系の光熱変換性粒子及び保温性粒子を含み、光熱変換性粒子が、0.01~0.50質量%未満であり、かつ保温性粒子が、0.01~70質量%以下であってもよい。
【0048】
本発明の繊維は、太陽光を効果的に熱に変換することができるため、非常に優れた防寒性を与えることができ、また白色度の高い色調を与えることも可能である。
【0049】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
《製造例》
〈実施例1〉
六方晶のセシウム酸化タングステンCs0.33WO3が、水酸基及び/又はエポキシ基を有するアクリル系樹脂でコーティングされているタングステン酸化物系粒子(CWO(商標)YMDS―874、住友金属鉱山株式会社)を、セシウム酸化タングステンの含有量が組成物中で0.1質量%となるように秤量した。このタングステン酸化物系粒子と、組成物中で1.0質量%となるように秤量した酸化チタン粒子(TIPAQUE(商標) PF-739、石原産業株式会社)と、ポリエチレンテレフタレート(BELLPET(商標) IP121B、株式会社ベルポリエステルプロダクツ)を、ミキサー混練機で混練し、実施例1の光熱変換性樹脂組成物を得た。この光熱変換性樹脂組成物を熱プレス機でフィルム化し、実施例1の光熱変換性樹脂フィルム(厚さ:60μm)を得た。
【0051】
〈実施例2~6及び比較例1~12〉
実施例1からタングステン酸化物系粒子及び酸化チタン粒子の量を表1に記載のように変更して、又はこれらを添加せずに、実施例2~6及び比較例1~12の樹脂フィルムを得た。
【0052】
〈実施例7及び比較例13〉
酸化チタン粒子を酸化ケイ素粒子(アドマファイン(商標)SC2500-SQ、株式会社アドマテックス)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7の光熱変換性樹脂フィルムを得た。また、タングステン酸化物系粒子を使用しなかったこと以外は実施例7と同様にして、比較例13の樹脂フィルムを得た。
【0053】
〈比較例14~15〉
また、タングステン酸化物系粒子を、赤外線吸収性材料であるATO粒子(NF-8003、日研株式会社)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例14の樹脂フィルムを得た。また、酸化チタン粒子を使用しなかったこと以外は比較例14と同様にして、比較例15の樹脂フィルムを得た。
【0054】
《評価方法》
〈ランプ照射試験〉
各樹脂フィルムについて、近赤外線領域の波長をもつランプを照射し温度推移を測定し、ランプ照射10分後の温度を評価した。ランプは、岩崎電気株式会社PRF-250Wを用いた。
【0055】
〈発熱温度〉
各樹脂フィルムのランプ照射10分後の温度から、ポリエチレンテレフタレートのみからなる比較例1のフィルムの温度を比較対象として差し引き、各樹脂フィルムの発熱温度を評価した。
【0056】
〈併用効果〉
光熱変換性粒子及び保温性粒子を併用した各樹脂フィルムの発熱温度を、同量の光熱変換性粒子を含有しているものの保温性粒子を含有していない例の樹脂フィルムの発熱温度と比較することによって、光熱変換性粒子及び保温性粒子を併用したことによる光熱変換性能の向上の有無を評価した。これらの粒子を併用したことによって、光熱変換性能が実質的に向上した場合(すなわち、発熱温度が1℃以上上昇した場合)には「○」とし、そのような併用による効果が実質的になかった場合には「×」とした。
【0057】
〈白色度〉
各樹脂フィルムについて、分光測色計を用いJI Z 8722に準拠してCIE 1976 Lab(L*a*b*表色系)を評価した。分光測色計は、コニカミノルタ製CR-5を用いた。明度指数L*が80以上である場合には「○」とし、明度指数L*が80未満である場合には「×」とした。
【0058】
《結果》
結果を表1及び表2に示す。また、
図1に、比較例1、比較例3及び実施例1のランプ照射時の温度プロファイルを示す。
【0059】
【0060】
【0061】
比較例1と比較例3との比較、及び比較例2と実施例1との比較から、光熱変換性粒子を添加することによって、光照射10分後の温度が高くなることが分かる。比較例2と実施例1との比較、及び比較例3と実施例1との比較からは、光熱変換性粒子と保温性粒子とを併用することによって、光照射10分後の温度が非常に向上するということが分かる。このような傾向は、比較例4と実施例2との比較、比較例5と実施例3との比較、及び比較例6と実施例4との比較からも理解できる。
【0062】
一方で、比較例7と比較例8との比較、及び比較例9と比較例10との比較からは、光熱変換性粒子の量が0.5質量%を超えると、保温性粒子を併用しても、光照射10分後の温度は、光熱変換性粒子を単独で使用した場合と実質的に変わらないことが分かる。
【0063】
これに対して、比較例3と実施例5との比較、及び比較例3と実施例6との比較からは、保温性粒子は、その量が多くても少なくても、光熱変換性粒子との併用効果を発揮できることが分かる。
【0064】
比較例3と実施例7との比較からは、保温性粒子は、酸化チタン粒子に限らず、酸化ケイ素であっても、本発明の効果を発揮できることが分かる。一方で、比較例14と15との比較からは、光熱変換性粒子が、ATO粒子の場合には本発明の効果を与えることができないことが分かる。