(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】医薬品のための経粘膜投与システム
(51)【国際特許分類】
A61K 31/122 20060101AFI20230526BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230526BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20230526BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230526BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230526BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230526BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230526BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20230526BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230526BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230526BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230526BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230526BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230526BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
A61K31/122
A61K9/107
A61K9/70
A61P3/00
A61P9/10
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/16
A61P25/28
A61P27/02
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P35/00
A61P37/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019024977
(22)【出願日】2019-02-15
(62)【分割の表示】P 2017124923の分割
【原出願日】2013-01-17
【審査請求日】2019-03-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-04
(32)【優先日】2012-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
(73)【特許権者】
【識別番号】514183259
【氏名又は名称】サンセラ ファーマシューティカルズ (シュバイツ) アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・クルンメ
(72)【発明者】
【氏名】キース・ジェンセン
(72)【発明者】
【氏名】ユーディト・ドゥバッハ-パウエル
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ・ハウスマン
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】前田 佳与子
【審判官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-516513(JP,A)
【文献】特表2010-500384(JP,A)
【文献】特表2001-504106(JP,A)
【文献】特表2001-508037(JP,A)
【文献】特開2004-43450(JP,A)
【文献】特表2001-506612(JP,A)
【文献】特開平2-83317(JP,A)
【文献】特開平10-53520(JP,A)
【文献】特開2011-207847(JP,A)
【文献】特開平5-4924(JP,A)
【文献】特開平7-126153(JP,A)
【文献】特開平8-291063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イデベノン30~60質量%と、担体材料としてのポリアルコールおよび/またはセルロース誘導体
をこれらの合計量として40~70質量%とを含む、
経粘膜投与システムであって、
前記イデベノンは固溶体(イデベノンが
前記担体材料中に単分子分散された形態)で
あり、
前記ポリアルコールはポリビニルアルコールであり、
前記セルロース誘導体はヒドロキシプロピルメチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースであって、
口内で30分未満に完全に溶解する粘膜付着フィルムである、
前記経粘膜投与システム。
【請求項2】
口内で15分未満に完全に溶解するフィルムである、請求項
1に記載の投与システム。
【請求項3】
イデベノンは、適用後、240分未満、好ましくは60分未満、より好ましくは5~30分の間で最大血中濃度に到達する、請求項
1又は2に記載の投与システム。
【請求項4】
芳香剤、着色剤、甘味料、充填剤、可塑剤、界面活性物質、可溶化剤、液体添加剤、pH安定剤、崩壊剤、溶解度向上剤および吸収促進剤の群からの少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項1
~3のいずれか1項に記載の投与システム。
【請求項5】
イデベノン40~50質量%と、担体材料としてのポリアルコールおよび/またはセルロース誘導体50~60質量%とを含む
、請求項1
~4のいずれか1項に記載の投与システム。
【請求項6】
単層または二重層構造を有する、請求項1
~5のいずれか1項に記載の投与システム。
【請求項7】
ミトコンドリア性疾患、好ましくは、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、常染色体優性視神経萎縮症(DOA)、黄斑変性、緑内障、網膜症、白内障、視神経乳頭ドルーゼン(ODD)、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS)、赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群(MERRF)、筋神経胃腸管性脳症(MNGIE)、カーンズ-セイヤ症候群、CoQ10欠乏症、およびミトコンドリア複合体欠失(1-5,CPEO)から成る群から選択されるミトコンドリア性疾患;神経変性疾患、好ましくは、フリードライヒ運動失調(FRDA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、脳卒中/再灌流障害、および認知症から成る群から選択される神経変性疾患;
神経筋疾患、好ましくは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢帯筋異栄養症(LGMD)、X連鎖性拡張型心筋症(XLDCM)、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PKAN)、脊髄筋萎縮症(SMA)、多発性硬化症、再発寛解型多発性硬化症(RR-MS)、一次進行性多発性硬化症(PP-MS)、二次進行性多発性硬化症(SP-MS)、クーゲルバーグ-ヴェランダー病、およびウェルドニッヒ-ホフマン病から成る群から選択される神経筋疾患;
精神疾患、好ましくは、統合失調症、大鬱病性障害、双極性障害、および癲癇から成る群から選択される精神疾患;
代謝性障害、好ましくは、加齢関連身体機能低下、肥満、体重過多、II型糖尿病、およびメタボリック症候群から成る群から選択される代謝性障害;
癌;多発性硬化症;または
免
疫機能不全、好ましくは、関節炎、乾癬および慢性関節リウマチから成る群から選択される免疫機能不全の処置に使用するための、請求項1~
6のいずれか1項に記載の投与システム。
【請求項8】
請求項1
~6のいずれか1項に記載の投与システムを用量60mg/kg/日以下で含む、請求
項7に記載の処置に使用するための投与システム。
【請求項9】
イデベノンは、0.01mg/kg/日~10mg/kg/日の用量で投与される、請求
項7又は8に記載の処置に使用するための投与システム。
【請求項10】
システムは、ポリマーマトリックスをさらに含む、請求
項7~9のいずれか1項に記載の処置に使用するための投与システム。
【請求項11】
薬物は、頬側口腔内の舌上もしくは舌下または口腔内の他の任意の位置の口腔粘膜を介して投与される、請求
項7~10のいずれか1項に記載の処置に使用するための投与システム。
【請求項12】
第2の治療剤をさらに含む、請求
項7~11のいずれか1項に記載の処置に使用するための投与システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノン、ベンゾキノン、特に1,4-ベンゾキノンを、口腔粘膜(oromucosal)経路を介して患者に投与するための経粘膜投与システム(transmucosal administration system)に関する。詳細には、本発明は、2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-(10-ヒドロキシデシル)-1,4-ベンゾキノン(イデベノン)およびその類似体を、フィルム製剤(口腔ウエハ(oral wafer))を介して投与するための経粘膜投与システムに関する。
【背景技術】
【0002】
イデベノンは、活性な細胞膜抗酸化剤であり、アデノシン三リン酸(ATP)を生じるミトコンドリア電子伝達連鎖(ETC)の必須構成成分であるコエンザイムQ10(CoQ10)の合成類似体である。今日まで、イデベノンは、様々な医学的用途で使用されてきている。イデベノンは、コエンザイムQ10に類似していることから、生体中で還元/酸化サイクルを受け、還元されたイデベノンは、酸化防止剤およびラジカル捕捉剤となる(非特許文献1)。イデベノンは、脂質の過酸化を阻害する能力を有し、細胞膜とミトコンドリアを酸化的障害から保護することが知られている(非特許文献2)。さらに、イデベノンは、ETCと相互作用し、虚血状態でのATP形成を維持する。イデベノンが、アルツハイマー病および他の神経変性疾患の処置で重要となり得る神経成長因子を刺激することも示されてきた(非特許文献3)。またイデベノンを、フリードライヒ運動失調および他のミトコンドリアおよび神経筋疾患の処置に用いることも提案されてきた(非特許文献4、非特許文献5)。
【0003】
イデベノンは、親油性化合物であるため、この化合物の通常の投与経路である従来の経口投与後に、胃腸管でかなり吸収される。錠剤またはカプセル剤などの投薬形態が、臨床試験において、および市販製品として使用されてきた。本発明者らは、イデベノンの薬理学的プロファイルに関する検討過程において、イデベノンが、腸に吸収された後、肝臓を最初に通過する間に非常に急速に代謝されること(「初回通過効果」)を発見した。実験では、98%を超えるイデベノンが、肝臓の初回通過において代謝された。イデベノンは、肝臓で代謝されると、側鎖の酸化、キノン環の還元、硫酸およびグルクロン酸抱合を受けて、腎臓から排泄される。肝臓での代謝量が大きいことにより、薬理学的に活性なイデベノンが高血漿レベルとなる可能性は大きく低減される。この強力な初回通過代謝のために、イデベノンの経口投与では、体内で薬理学的に有効な血漿レベルを達成させるために、化合物を高用量としなければならない。このような高用量は、下痢などの望ましくない副作用を引き起こす場合がある。
【0004】
さらに、イデベノンの経口製剤が「嚥下」される必要性は、嚥下に問題がある患者、例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーまたはフリードライヒ運動失調のような重篤な神経筋疾患を有する患者、高齢患者または若年患者に投与する際の実際上の支障となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】A.Mordente、G.E.Martorana、G.Minotti、B.Giardina、Chem.Res.Toxicol.11(1998)、54-63
【文献】M.Suno、M.Shibota、A.Nagaoka、Arch.Gerontol.Geriatr. 8(1989)、307-311
【文献】K.Yamada、A.Nitta、T.Hasegawa、K.Fuji、M.Hiramatsu、T.Kameyama、Y.Furukawa、K.Hayash、T.Nabeshima、Behav.Brain Res.83(1997)、117-122
【文献】A.O.Hausse、Y.Aggoun、D.Bonnet、D.Sidi、A.Munnich、A.Rotig、P.Rustin、Heart 87(2002)、346-349
【文献】Di Prospero N.A.、Baker A.、Jeffries N、Fischbeck K.H. Lancet Neurol 6(2007)878-886
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有利な実施形態の概要
この問題の解決策は、特に薄いポリマー系フィルムから成る特定のタイプの経粘膜投与システムを用いて得られたデータに基づく本発明において提供される。このシステムは、口腔粘膜に付着したとき、活性成分を直接、粘膜に、または部分的に口腔内の唾液中に、食道(espphagus)に、および胃に放出する。活性成分は、口腔、食道および胃において、主に粘膜を介して吸収されることから、従来の経口投与および消化管吸収後に観察される初回通過代謝が回避される。この剤形は、口腔ウエハとも記載される。
【0007】
このシステムの原理は、さらに、イデベノンの類似体(例えば、可逆的に還元可能なキノン環と親油性側鎖とを有する他のベンゾキノンまたはキノン)にも適用可能である。用語「ユビキノン類似体」は、本明細書で使用するとき、天然のユビキノン(コエンザイムQ-n)、ならびに、可逆的に還元可能なキノン環と親油性側鎖とを有するその構造類似体(例えば、イデベノンおよびデシルユビキノン)を包含する。
【0008】
前記目的は、特にイデベノンを含有する薄いフィルム製剤(口腔ウエハ)の使用によって達成された。驚くべきことに、ウエハA(30mg含有)、ウエハB(固溶体として15mg含有)で口腔粘膜投与した後のイデベノンの血漿レベルは、同じビーグル犬(n=3)に経口投与(マイクロエマルジョンとして300mg/kg)した場合と比較して、顕著に高いことが示された(図面を参照)。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】雌のビーグル犬に、様々な例示的製剤(経口および薄いウエハ)を単回投与した後の、遊離イデベノンの平均血漿中濃度を時間経過に対してグラフで図示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、有効量の一般構造式(I)の活性成分(式中、R1は、低級アルキル基であり、R2は、水素原子、または置換されていてもよいアルキルもしくはアルケニル基であり、R3およびR4は、それぞれ独立して低級アルキル基もしくは低級アルコキシ基を意味する、または一緒になってブタジエニレン基を意味する)を含む経粘膜製剤を意味する。
【0011】
【0012】
上記の一般式(I)に関し、低級アルキル基R1は、1~4個の炭素原子を有する低級アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどである。置換されていないまたは置換されているアルキル基R2のアルキル基部分としては、1~22個の炭素原子の非環式炭化水素残基、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、ペンタデシル、ヘプタデシル、エイコシル、ドコシルなどが挙げられる。中でも、8~13個の炭素原子を有するアルキルが好ましい。
【0013】
置換されていないまたは置換されているアルケニル基R2のアルケニル部分としては、2~15個の炭素原子を有する非環式炭化水素残基、例えば、エテニル、1-プロペニル、3-メチル-2-ブテニル、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニルなどであり、ここで、二重結合の数は、一般的に1~3の範囲であり、これらの二重結合は共役していてもよい。アルキル基およびアルケニル基R2の置換基の例としては、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシカルボニル(例えば、C1~4アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロピオニルオキシカルボニル、ブトキシカルボニルなど)、アリール(例えば、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、インダニルなど)、複素環基(例えば、2-ピリジル、3-ピリジル、2-チエニル、3-チエニルなど)およびハロゲン(例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素)が挙げられる。置換基がそのようなアリール基または複素環基である場合、置換基は、環構造の場合に応じた位置で1つまたはそれ以上の置換基によって核置換(nuclearly substituted)されていてもよい。上述の置換基としては、限定されないが、置換されていないC1~4アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)、ヒドロキシ、カルボキシ、およびC2~5アルコキシカルボニル(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニルなど)が挙げられる。アルキル基またはアルケニル基R2上の置換基の位置は、場合により選択し得るが、好ましくは、1位またはω位である。R3とR4によって表わされる低級アルキル基は、C1~6アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、i-プロピル、ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、アミル、ヘキシルなど、好ましくはC1~3アルキル基であり得る。これらの低級アルキル基は、置換基、例えば、ヒドロキシ、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素およびヨウ素)、ニトロ、トリフルオロメチル、カルボキシ、C2~5アルコキシカルボニル(例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、3-ピリジル、1-イミダゾリル、5-チアゾリルなどを有し得る。R3とR4によって表わされる低級アルコキシ基は、C1~3アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、i-プロポキシなど)であり得る。R3とR4がブタジエニレン基を意味する場合、それらは、R3とR4にそれぞれ結合している炭素原子と一緒にベンゼン環を構成し、そのように構成されたベンゼン環は、場合に応じた位置に1~3個の置換基を有してもよく、置換基としては、特に、低級(C1~3)アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピルなど)、低級(C1~3)アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシなど)、ヒドロキシ、ニトロ、およびハロゲンが挙げられる。
【0014】
本発明は、キノンまたはベンゾキノン、特にイデベノン(国際一般的名称(INN):
イデベノン;化学名:2-(10-ヒドロキシデシル)-5,6-ジメトキシ-3-メチル-2,5-シクロヘキサジエン-1,4-ジオン;化学情報検索サービス機関(CAS)登録番号:58186-27-9)およびそれらの類似体の、口腔粘膜に付着したとき、粘膜もしくは部分的に口腔内の唾液中へ活性成分を直接放出する、好ましくは薄いフィルム製剤(口腔ウエハとも称する)の製造のための、および、ヒトもしくは動物への経粘膜投与のために使用される、使用に関する。このようなシステムにより、経口経路での投与と比較して、化合物の非常に高い血漿レベルが得られる。活性成分のイデベノンと添加剤および添加剤とを含む薄いフィルム(口腔ウエハ)製剤としての薬学的に活性な成分のための好適な経粘膜投与システムならびにこの種の製剤に用いるのに適した製造プロセスを、本明細書でさらに記載する。
【0015】
イデベノンは、次の化学構造式(II)を有する:
【化2】
【0016】
キノンファミリーの一員であるイデベノンは、コエンザイムQ10の合成類似体として商業的に広められ、多くの疾患および/または状態を処置するために適切なものであることが示されてきた。さらに、例えば、フリードライヒ運動失調のような神経筋疾患またはアルツハイマー病などの神経疾患の処置におけるイデベノンの効能の検討が、様々な医学的研究の対象とされてきた。また、イデベノンは、しわを処置するために局所適用でも使用されてきた。このように、イデベノンは、毒性学的に安全とみなすことができ、このことは、イデベノンが、医薬の薬学的活性成分として使用し得ることを意味している。イデベノンの毒性学上の安全性は、536人の患者に360mg以内のイデベノンを1日3回処置して行った臨床試験で確認されている。プラセボを投与した対照群と比較して、処置による有害事象は、いくつかの胃腸管の炎症と整形外科的事象のわずかな増加とが観察されたのみであった(L.J.Thal,M.Grundman,J.Berg,K.Ernstrom,R.Margolin,E.Pfeiffer,M.F.Weiner,E.Zamrini,R.G.Thomas,Neurology 61(2003),1498-1502)。
【0017】
従来の経口投与および胃腸管吸収後においてはイデベノンが初めて肝臓を通過する間に、急速に代謝されることが観察されている。主な代謝産物は、グルクロネートおよびスルフェートなどのイデベノンの抱合体、ならびに親化合物の側鎖が酸化された誘導体である。イデベノンの代謝産物は薬理学的に顕著な活性を有さず、速やかに排泄される。この強力な初回通過代謝のために、イデベノンを経口投与する場合には、薬理学的に活性な血漿レベルに到達させるために、化合物を高用量で投与する必要がある。このような高用量では、臨床応用において頻繁に観察される下痢および胃腸(GI)管障害などの望ましくない影響が生じる。
【0018】
驚くべきことに、好適な薄いフィルム製剤(口腔ウエハ)を使用することにより、経口投与と比べて20分の1の用量であっても、5倍を超えるAUC(用量標準化レベルでは100倍を超えるAUC)を達成し得ることが見出された(表4参照)。さらに、これにより、薬理学的に活性な分子の、経口投与経路を介して達成され得る血漿レベルよりもは
るかに高い血漿レベルを達成させる可能性が開かれる。
【0019】
本システムおよび経粘膜投与経路を使用することによって、イデベノンの従来の経口投与後に観察される強力な初回通過代謝が、非常に効果的に回避され得る。薄いフィルム製剤(口腔ウエハ)を使用することによって、イデベノンの強い初回通過代謝が回避されることから、以下のことが可能になる;
a)投与に必要な用量を大幅に低減させながら、同様に高い活性成分の血漿レベルが得られる。活性成分の曝露量が少ないことは、有害な副作用のリスクを低減することに関係すると一般に考えられており、また患者のコンプライアンスの改善につながるという医学的利点が提供される。イデベノンでの特定のケースでは、記述した胃腸での副作用が回避され得る。
b)胃腸経路を介して活性成分が吸収される経口製剤で達成されるレベルと比較して、非常に高い血漿レベル。血漿レベルが高いことにより、例えば、血液脳関門を通過するためには高用量を必要とする神経筋疾患分野のさらなる適応症に、イデベノンの使用を拡張し得る。
c)フィルム製剤(口腔ウエハ)は薄く、取扱いが容易であり、1単位でいくつかの大きな錠剤の嚥下に代わり得ることから、患者の利便性が増加する。
d)嚥下障害を有する患者(例えば、ある種の神経筋疾患を有する患者または8歳未満の小児患者)への薄いフィルム製剤(口腔ウエハ)の投与により、服薬遵守および使用の利便性が増加する。
【0020】
本発明において、「薄いフィルム製剤」または「口腔ウエハ」は、患者への口腔粘膜に適用および/または投与され、粘膜を通して活性成分が体内に吸収されることを意図している製剤を意味する。本発明によれば、そのような製剤は、イデベノン含有医薬を特定の経路で投与するための基礎を構成する。口腔粘膜には、口内全体の粘膜および口腔に結合している粘膜が含まれ、例えば、限定されないが、舌下、頬側、歯肉、舌、ならびに、食道粘膜が挙げられる。システムは、好ましくは、単層構造または二重層構造を有する。
【0021】
本発明の根本にある目的は、患者の口内で溶解する経粘膜投与システムであって、少なくとも1つのキノン0.01~80質量%、好ましくは2~70質量%と、担体材料20~99.99質量%、好ましくは30~98質量%とを含むシステムにより達成される。適切な担体材料は、特に、セルロースおよびその誘導体、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピル-セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアルコール、例えば、ポリビニルアルコール(PVA);ポリ-N-ビニルピロリドン、ビニルピロリドン-ビニル酢酸塩共重合体;デンプン;デンプン誘導体;ゼラチン;ゼラチン誘導体;ソルプラス(Soluplus)(ポリビニルカプロラクタム-ポリビニルアセテート-ポリエチレングリコールグラフト共重合体);コリコート(Kollicoat)(ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体)およびそれらの組み合わせである。投与システムは、システム内に含有するキノンを、高いバイオアベイラビリティーで放出する。好ましくは、システムは、透過促進剤の添加を要することなく、高いバイオアベイラビリティーを達成することができる。
【0022】
活性成分の懸濁液を含有する投与システムは、キノン(特に1,4-ベンゾキノン)30~60質量%、特に好ましくは40~50質量%と、担体材料(特にポリアルコールおよび/またはセルロース誘導体)40~70質量%、好ましくは50~60質量%とを含むことが好ましい。活性成分は微粒子化されていることが好ましい。微粒子化は、100μm未満、特に好ましくは10μm未満のサイズの粒径に縮小することを含む。
【0023】
活性成分の非晶質形(または非晶質組成物)を含有する投与システムは、キノン(特に
1,4-ベンゾキノン)3~20質量%、特に好ましくは5~10質量%と、担体材料(特に適切に置換されている炭水化物または他の水溶性ポリマー)80~97質量%、好ましくは90~95質量%とを含むことが好ましい。
【0024】
エマルジョンの活性成分を含有する投与システムは、キノン(特に1,4-ベンゾキノン)3~50質量%、特に好ましくは5~30質量%と、担体材料(特にセルロース誘導体)50~97質量%、好ましくは79~95質量%とを含むことが好ましい。
【0025】
特に好ましい投与システムは、イデベノン、イデベノン類似体、ユビキノンまたはユビキノン類似体から成る1,4-ベンゾキノン50質量%と、ポリビニルアルコール(PVA)40質量%と、カルボキシメチルセルロースナトリウム担体材料10質量%とを含む。
【0026】
また別の特に好ましい投与システムは、イデベノン、イデベノン類似体、ユビキノンまたはユビキノン類似体から成る1,4-ベンゾキノン10質量%と、HPMC担体材料90質量%とを含む。
【0027】
本発明において、口内で溶解する投与システムは、フィルム形態であることが好ましい。フィルム形態のこのような投与システムは「ストリップ」または「ウエハ」とも称される。フィルム形態の本発明の投与システムは、特定の実施形態において、粘膜付着性を有するように設計することができる。このことは、患者の粘膜に付着する特性を有すること、特に、適用後に投与システムが粘膜から分離し難いもしくは分離されない様式で粘膜に付着する特性を有することを意味する。
【0028】
本発明において、フィルム投与システムは、表面積対質量比が高いことが好ましい。また投与システムは、唾液中でゲル様に均質化していることまたは嚥下時に口腔内でゲル様の均質性を形成することが好ましい。
【0029】
本発明のフィルム形態の投与システムは、1~10cm2、好ましくは2~8cm2、特に好ましくは5~7cm2の面積を有する。さらには、50~250g/m2、好ましくは100~150g/m2の、面積あたりの質量を有する。この面積あたりの質量は、厚さが40~300μm、好ましくは、50~100μmであることにほぼ相関する。
【0030】
投与システムは、患者の口内において、30分未満、特に15分未満で溶解することが好ましい。キノンが経粘膜的に投与システムから血流に導入されることにより、血液中のキノン濃度が急速に上昇する。このケースでは、キノンは、好ましくは投与後60分未満、特に好ましくは5~30分の間で最大血中濃度に到達する。
【0031】
本投与システムによれば、比較的高いバイオアベイラビリティー(活性成分の血液中濃度のAUCで測定したときに、錠剤形態(または模擬錠剤形態)のキノンの場合と比較して、投与量調整した値で少なくとも5倍(500%)、好ましくは少なくとも10倍(1000%)高いバイオアベイラビリティー)を達成することができる。バイオアベイラビリティーの増加は、20倍(2000%)より大きいことが、特に好ましい。
【0032】
フィルム形態の投与システムは、担体材料とキノンに加えて、さらなる物質、例えば芳香剤、着色剤、甘味料、充填剤、可塑剤、界面活性物質、液体(好ましくは親油性)添加剤(キノンを溶解でき、好ましくは疎水性の担体材料に第2の相を形成することができる添加剤)、可溶化剤、pH安定剤、崩壊剤、溶解促進剤、吸収促進剤、および/または浸透促進剤を含んでもよい。
【0033】
本発明によるキノンは、1,4-ヒドロキノンおよび関連化合物であってもよい。好ましい1,4-ヒドロキノンは、イデベノン、イデベノン類似体、およびユビキノンならびにそれらの関連化合物である。用語「ユビキノンおよびその関連化合物」は、本明細書で使用するとき、天然のユビキノン(コエンザイムQ-n)ならびに可逆的に還元可能なキノンと親油性側鎖とを有するその構造的類似体を包含する。
【0034】
本発明による1,4-ヒドロキノンおよび関連化合物を含む経粘膜投与システムは、様々な疾患および/または状態、例えばミトコンドリア疾患、神経筋疾患または神経系疾患、に罹患している患者の処置に使用することができる。処置される疾患の例としては、限定されないが、フリードライヒ運動失調、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー筋ジストロフィー、アルツハイマー病、レーバー遺伝性視神経症(Leber’s Hereditary Optic Neuropathy)、MELAS(mitochondrial myopathy,encephalopathy,lactic acidosis with stroke-like episode(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群))、パーキンソン病およびミトコンドリア性筋障害が挙げられる。さらに、1,4-ベンゾキノン、コエンザイムQ10またはCoQ10は、冠動脈性心疾患、赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群(Myoclonic epilepsy and ragged-red fibers)、カーンズ-セイヤ症候群、進行性外眼筋麻痺、糖尿病および難聴、リー症候群、亜急性硬化性脳症、NARP(Neuropathy,ataxia,retinitis pigmentosa,and ptosis(神経障害、運動失調、色素性網膜炎および下垂症))、筋神経胃腸管性脳症、片頭痛、癌、高血圧症、加齢黄斑変性症、アルツハイマー病、アントラサイクリン化学療法心臓毒性、喘息、および他に多くの疾患の処置に有効であり得る予備的証拠がある。別の特定の適用は、1,4-ベンゾキノンと、スタチンおよびβ遮断薬との患者への共投与である。
【0035】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、ミトコンドリア性疾患、好ましくは、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、常染色体優性視神経萎縮症(DOA)、黄斑変性、緑内障、網膜症、白内障、視神経乳頭ドルーゼン(optic disc drusen、ODD)、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS)、赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群(MERRF)、筋神経胃腸管性脳症(MNGIE)、カーンズ-セイヤ症候群、CoQ10欠乏症およびミトコンドリア複合体欠失(1-5,CPEO)から成る群から選択されるミトコンドリア性疾患;
神経変性疾患、好ましくは、フリードライヒ運動失調(FRDA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、脳卒中/再灌流障害および認知症から成る群から選択される神経変性疾患;
神経筋疾患、好ましくは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢帯筋異栄養症(Limb-Girdle muscular dystrophy、LGMD)、X連鎖性拡張型心筋症(X-linked dilated cardiomyopathy、XLDCM)、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PKAN)、脊髄筋萎縮症(SMA)、多発性硬化症、再発寛解型多発性硬化症(relapsing remitting multiple sclerosis、RR-MS)、一次進行性多発性硬化症(primary progressive
multiple sclerosis、PP-MS)、二次進行性多発性硬化症(secondary progressive multiple sclerose、SP-MS)、クーゲルバーグ-ヴェランダー病、およびウェルドニッヒ-ホフマン病から成る群から選択される神経筋疾患;
精神疾患、好ましくは、統合失調症、大鬱病性障害、双極性障害および癲癇から成る群から選択される精神疾患;
代謝性障害、好ましくは、加齢関連身体機能低下、肥満、体重過多、II型糖尿病、およびメタボリック症候群から成る群から選択される代謝性障害;
癌;多発性硬化症;または
免役機能不全、好ましくは、関節炎、乾癬および慢性関節リウマチから成る群から選択される免疫機能不全
の処置に使用される。
【0036】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、ミトコンドリア性疾患の処置に使用される。好ましくは、ミトコンドリア性疾患は、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、常染色体優性視神経萎縮症(DOA)、黄斑変性、緑内障、網膜症、白内障、視神経乳頭ドルーゼン(ODD)、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS)、赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群(MERRF)、筋神経胃腸管性脳症(MNGIE)、カーンズ-セイヤ症候群、CoQ10欠乏症およびミトコンドリア複合体欠失(1-5,CPEO)から成る群から選択される。
【0037】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、レーバー遺伝的性視神経症(LHON)の処置に使用される。
【0038】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、薄いフィルムの薬物送達システムは、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS)の処置に使用される。
【0039】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、神経変性疾患の処置に使用される。好ましくは、神経変性疾患は、フリードライヒ運動失調(FRDA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、脳卒中/再灌流障害、および認知症から成る群から選択される。
【0040】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、神経筋疾患の処置に使用される。好ましくは、神経筋疾患は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢帯筋異栄養症(LGMD)、X連鎖性拡張型心筋症(XLDCM)、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PKAN)、脊髄筋萎縮症(SMA)、多発性硬化症および一次進行性多発性硬化症(PP-MS)、クーゲルバーグ-ヴェランダー病、およびウェルドニッヒ-ホフマン病から成る群から選択される。
【0041】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の処置に使用される。
【0042】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、一次進行性多発性硬化症(PP-MS)の処置に使用される。
【0043】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、精神疾患の処置に使用される。好ましくは、精神疾患は、統合失調症、大鬱病性障害、双極性障害、および癲癇から成る群から選択される。
【0044】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、代謝性障害の処置に使用される。好ましくは、代謝性障害は、加齢関連身体機能低下、肥満、体重過多、II型糖尿病、およびメタボリック症候群から成る群から選
択される。
【0045】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、癌の処置に使用される。
【0046】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、多発性硬化症の処置に使用される。
【0047】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、一次進行性多発性硬化症、再発寛解型多発性硬化症、および二次進行性多発性硬化症の処置に使用され、より好ましくは一次進行性多発性硬化症の処置に使用される。
【0048】
上記または下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、投与システムは、免疫機能不全の処置に使用される。好ましくは、免疫機能不全は、関節炎、乾癬および慢性関節リウマチから成る群から選択される。
【0049】
従来の経口投与経路と胃腸管での吸収を経るイデベノン製剤の有効量と比較すると、本出願で記載された製剤の有効量は顕著に少ないと予想される。一方で、この製剤を用いた場合、実際の適用量に応じて血漿レベルが顕著に高くなり、患者において達成され得る臨床的効能が増加する可能性があると予想される。さらに、血漿レベルが高いことから、イデベノンの使用を、例えば患者の血液脳関門を通過するために高いは薬物濃度を必要とする神経筋疾患分野におけるさらなる適応症に拡大させることができる。
【0050】
薄いフィルム製剤(口腔ウエハ)によって投与される活性成分の適切な用量は、0.01mg/kg/日~60mg/kg/日である。好ましくは、例えば、イデベノンは、0.01mg/kg/日~20mg/kg/日の用量、より好ましくは0.01mg/kg/日~10mg/kg/日の用量、より一層好ましくは0.01mg/kg/日から5mg/kg/日未満の用量で投与される。最も好ましくは、活性成分イデベノンの用量は、0.1mg/kg/日~4mg/kg/日である。研究により、驚くべきことに、口腔粘膜を介して適用される場合、そのような低用量でイデベノンの必要血漿レベルが達成されることが示された。必要とされる用量は、当業者によって容易に確認され得る。
【0051】
好ましい実施形態において、イデベノンは、第2の治療薬と組み合わせて投与することができる。第2の治療薬は、好ましくは、炎症および筋衰弱の処置のためにDMD患者で通常使用されているグルココルチコステロイド(例えば、6a-メチルプレドニゾロン-21コハク酸ナトリウム(SOLUMEDROL(登録商標))またはデフラザコート(deflazacort)(CALCORT(登録商標))から選択される。また同様に、イデベノンを、DMD関連心筋症の処置でDMD患者に使用されている任意の医薬、例えば、ACE阻害剤、βブロッカー、および利尿薬、ならびにHMG-CoAリダクターゼ阻害剤と組み合わせて投与することもできる。
【0052】
さらに好ましい実施形態において、イデベノンは、さらなる治療薬と組み合わせて投与することができる。さらなる治療薬は、好ましくは、エリスロポエチン、ビタミンE、ビタミンC、またはミトキノンである(MitoQ;K.M.Taylor、R.Smith、WO05019232A1)。
【0053】
疾患の症候を処置または予防するために、イデベノンおよび他の治療薬を同時に、別個に、または連続的に投与することができる。治療薬は、単一の投薬剤型として提供されてもよく、またはそれぞれが少なくとも1つの活性成分を含む別個の製剤として提供されて
もよい。
【0054】
以下の実施例は、本発明を説明するものであり、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0055】
〔実施例1〕
112gのPVAを720mLの水に添加し、完全に溶解するまで撹拌した。適切であれば、加熱して溶解を促進させた。冷却後、140gのイデベノンを均一に分散させた。その後、28gのCMCを添加し、完全に溶解するまで、混合物を撹拌した。混合物を、脱気し、コーティングした後、乾燥させた。50~150μmの厚さの薄い不透明なフィルムを作製した。サンプルを適当な大きさに切断することによって、30mgのイデベノンを含有する不透明なウエハを得た。
【0056】
〔実施例2〕
28gのイデベノンを720mLの75:25のメタノール:水に添加し、活性成分が完全に溶解するまで撹拌した。250gのHPMCを加え、完全に溶解するまで撹拌した。混合物を脱気させ、コーティングした後、乾燥させた。厚さ100~300μmの薄い透明なフィルムを作製した。サンプルを適当な大きさに切断することによって、15mgのイデベノンを含有する透明なウエハを得た。
【0057】
実施例1の乾燥されたシステムでは、ベンゾキノンが、担体材料に懸濁した分離相中の粒子として含まれているのに対し、実施例2では、ベンゾキノンは、担体材料中に単分子分散された形態で含まれていることに留意されたい。
【0058】
実験データ:
イデベノンの口腔粘膜送達後の薬物動態学的データ
口腔粘膜経路を介して投与される2つの異なる薄いフィルム製剤(口腔ウエハ)を適用後、イデベノンの血漿レベルを調べ、経口経路(胃管栄養)によりイデベノンをマイクロエマルジョンで投与した場合に得られるプロファイルと比較した。この研究で使用した用量は、30mgの口腔粘膜(口腔ウエハA、懸濁液型)、15mgの口腔粘膜(口腔ウエハB、固溶体型)、および300mgの経口(経口胃管栄養によって投与されるTPGS/Miglyolマイクロエマルジョン)であった。研究は、3元交差試験であり、各投与間で1週間の休薬(wash-out)を設けた。製剤は、絶食条件下の雌のビーグル犬に投与した。遊離の(抱合していない)イデベノン、およびその全代謝産物(全イデベノン、全QS10、全QS6および全QS4)の薬物動態学的曝露を製剤ごとに測定した。
【0059】
投与後6時間かにわたりいくつかの時点で血液サンプルを採取した。血漿中のイデベノン濃度をHPLC-MS/MSによって測定し、薬物動態学的パラメータを計算した。
【0060】
イデベノンは、HPLC-MS/MSによって分離し、定量した。HPLCについては、SYNERGI(商標)4μMAX-RP(50×2mm)カラム(Phenomenex、Schlieren、スイス)を使用した。カラム温度:50℃、移動相A:水+30mM NH4OAc;移動相B:MeOH/H2O 100/3(v/v)+30mM NH4OAc、勾配溶出(表4)。流量:250μl/minおよび400μl/min。
【0061】
一旦分離したら、イデベノンを、ESI-MS/MS(API 4000、Perkin-Elmer-Europe BV、Rotkreuz、スイス)によって、ポジティブモードで定量した。
【0062】
【0063】
0.01分から3.75分まで、直線濃度勾配を使用した。
【0064】
イデベノン抱合体(例えばグルクロン酸抱合体および硫酸抱合体)は、R.Artuch、C.Colome、M.A.Vilaseca、A.Aracil.、M.Pineda、J. Neurosci.Meth.115(2002)、63-66に記載されているように、酸加水分解後に定量した。
【0065】
薬物動態学分析には、最大血漿中濃度(Cmax)、最大血漿中濃度が観察されるまでの時間(Tmax)、および血漿中濃度対時間曲線の0時間から360分までの曲線下面積(AUC0-360分)を含めた。経口投与と比較した舌下投与後のイデベノンの相対的なバイオアベイラビリティーを、標準化した(1mg/kg)AUC値により、それぞれのイヌについて計算した。代謝産物のAUC比率も計算した。さらに、1mg/kgの用量で標準化したCmax比率も計算した。結果を下記表2に示す。
【0066】
【0067】
表2に示されるように、口腔粘膜経路を介して投与されるイデベノンの2つのウエハ製剤(実施例1および2によって製造)は、従来の経口投与と比較して明らかに高いイデベノン血漿レベルをもたらした。両方の薄フィルム製剤(口腔ウエハ)において、CmaxおよびAUC0-360はいずれも、経口投与製剤より優れていた。ウエハA(ポリマーマトリックスに懸濁化した微粒子として30mgのイデベノンを含有)とウエハB(固溶体、すなわち分子的に分散させた状態で、わずか15mgを含有)との間にも顕著な差異があった。明らかに、ウエハBの方が、非常に効率よく溶解が行なわれ、より良好に吸収されている。
【0068】
図1は、雌のビーグル犬に、様々な製剤(経口および薄いウエハ)を単回投与した後の、時間経過に対する遊離イデベノンの平均血漿中濃度を図示している。
【0069】
図1に示されるように、ウエハB(15mg、固溶体型ウエハ)は、他の処置手段と比較して、最も高いC
maxと最大のAUCを示した。ウエハA(30mg、懸濁液型ウエハ)は、経口経路型(300mg、マイクロ懸濁液)と比較して、より高いC
maxと、より大きなAUCを示した。
【0070】
【0071】
上記表3に示されるように、口腔粘膜経路を介して投与されるイデベノンの2種のウエハ製剤(実施例1および2に従って製造)を経口投与製剤と比較したときに得られる曝露の増加の規模は、差異を用量あたりで標準化することにより一層明らかとなった。
【0072】
【0073】
表4に示されるように、用量を標準化した値に基づいて比較すると、ウエハAでは、用量を標準化した後のレベルで、経口製剤の場合と比較してAUCが26倍高く(33倍のCmax)、ウエハBでは、経口投与と比較してAUCが121倍高くなった(144倍のCmax)。固溶体ウエハBは、懸濁液型ウエハAと比較して4倍を超える高いイデベノンの曝露をもたらした。
【0074】
まとめると、以下のように結論づけることができる:
・固溶体技術に基づく薄いフィルム製剤(口腔ウエハ)によるイデベノンの口腔粘膜投与により、イデベノンの相対的バイオアベイラビリティーが、経口投与に対して約100
倍大きくなり、顕著に改善される。バイオアベイラビリティーが増加した主な理由は、初回腸肝循環が迂回されたためである。
・特に、このウエハからのイデベノンの吸収が、イデベノンの胃管栄養による経口投与と比較して増加しているという証拠がある。
・微粒子懸濁技術に基づくウエハも、より程度は少ないが、イデベノンの相対的バイオアベイラビリティーを改善する。
・イデベノンの代謝スペクトルは、胃管栄養による経口投与後と口腔粘膜適用後とで同程度である。
・口腔ウエハ製剤により、経口経路を介して投与される製剤を上回る以下の利点が得られる:
・用量の顕著な減少(副作用の低減)
・より高い血漿レベルが達成可能
・患者の利便性の増加
・嚥下困難な患者へ投与可能
・本発明のシステムは、さらにポリマーマトリックスを含むことができ、該ポリマーマトリックスに、薬学的活性成分を、懸濁液、微粒子懸濁液、エマルジョン、マイクロもしくはナノエマルジョン、または溶解されたおよび/もしくは分子分散された形態で組み込むことができる。