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特許7285659配管施工冶具及び配管施工冶具を用いた配管敷設方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】配管施工冶具及び配管施工冶具を用いた配管敷設方法
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/122 20060101AFI20230526BHJP
   F16L 5/00 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
E03C1/122 Z
F16L5/00 X
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019041893
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2020143530
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 秀司
(72)【発明者】
【氏名】日高 徳雄
(72)【発明者】
【氏名】井上 政広
(72)【発明者】
【氏名】久保 勝之
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-97115(JP,A)
【文献】特開2010-139026(JP,A)
【文献】実開昭63-182383(JP,U)
【文献】特開2005-97896(JP,A)
【文献】特開2016-216910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/122
F16L 5/00
E04B 2/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の一方の区画と他方の区画との間を延びる配管が差し込まれる貫通穴がそれぞれ設けられ互いに対向する一対の側壁を有し、周囲に配置される壁部材と共に、前記一対の側壁の並列方向に沿って前記一方の区画と前記他方の区画とを隔てる仕切り壁をなす筐体と、
前記筐体の内部空間に連通し前記内部空間に充填される流体物を注入するための注入口と、
を備え
前記側壁の下部に、第1の止水材を配置するための凹部が、前記側壁の壁面と前記筐体が設置される床面との境界部分の全体に亘って設けられている配管施工冶具。
【請求項2】
前記注入口は、前記筐体の上側に開口する、
請求項1に記載の配管施工冶具。
【請求項3】
前記筐体の上部に、前記筐体の上に載置される前記壁部材を下から支持する蓋部が設けられ、
前記一対の側壁の並列方向に沿った前記蓋部の幅は、前記壁部材の厚み以上である、
請求項1又は2に記載の配管施工冶具。
【請求項4】
請求項1からのいずれか一項に記載の配管施工冶具を用いた配管敷設方法であって、
前記筐体を床面の上に設置する工程と、
設置した前記筐体の周囲に前記壁部材を配置する工程と、
を含む配管敷設方法。
【請求項5】
前記筐体は前記床面に接する下面と、厚み方向に貫通し前記筐体を前記床面に固定する固定部材が差し込まれる挿通穴とを有する板状の底部を備え、
前記筐体を設置する工程は、前記底部の前記下面における前記挿通穴の周囲に第2の止水材を配置する処理を含み、
前記第2の止水材を配置する処理において、前記下面の外縁における前記一方の区画に面する領域の一部と前記挿通穴との間に前記第2の止水材が配置されない非配置領域を部分的に形成する、
請求項に記載の配管敷設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管施工冶具及びこの配管施工冶具を用いた配管敷設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、集合住宅等の建物において、住戸とメーターボックスとを隔てる壁に貫通穴を設け、貫通穴を介して壁に配管を貫通配置する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-216910号公報
【発明の概要】
【0004】
しかし、建物の施工現場に予め立てられた壁に対し、壁の厚み方向に沿って壁面を穿孔して貫通穴を形成する場合、壁面によって視界が制限される等、作業条件が厳しい。そのため、形成した貫通穴の位置が所望の設計位置からずれる、或いは、位置ずれが生じた貫通穴を修正する作業が発生する等、作業の負担が大きくなるという問題が生じていた。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した問題に着目して為されたものであって、施工現場で配管を壁に貫通させる作業の負担を抑え、当該作業を容易にすることができる配管施工冶具及びこの配管施工冶具を用いた配管敷設方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る配管施工冶具は、建物の一方の区画と他方の区画との間を延びる配管が差し込まれる貫通穴がそれぞれ設けられ互いに対向する一対の側壁を有し、周囲に配置される壁部材と共に、前記一対の側壁の並列方向に沿って一方の区画と他方の区画とを隔てる仕切り壁をなす筐体と、前記筐体の内部空間に連通し前記内部空間に充填される流体物を注入するための注入口と、を備える。
【0007】
第1の態様に係る配管施工冶具では、筐体が中空であることから比較的軽量のため、配管施工冶具を施工現場へ容易に搬入可能である。また、筐体へ配管を差し込んだ後、注入口を介して流体物が注入されることによって内部空間が充填されるので、仕切り壁が中実となって強度が高められる。このとき、配管が差し込まれる貫通穴が、予め設定された貫通高さの位置に設けられているため、施工現場で仕切り壁に貫通穴を開ける必要がなくなる。
【0008】
本発明の第2の態様では、第1の態様に係る配管施工冶具において、前記注入口は、前記筐体の上側に開口する。
【0009】
第2の態様に係る配管施工冶具では、流体物を注入する注入口が、筐体の上側に開口して設けられている。ここで、筐体が床面上に設置されると、筐体は、作業者の手元より低い位置に配置される場合が多い。注入口が筐体の上側に開口することによって、注入口が作業者の手元に近接するので、施工現場での流体物の注入が容易になる。
【0010】
本発明の第3の態様では、第1の態様又は第2の態様に係る配管施工冶具において、前記筐体の上部に、前記筐体の上に載置される前記壁部材を下から支持する蓋部が設けられ、前記一対の側壁の並列方向に沿った前記蓋部の幅は、前記壁部材の厚み以上である。
【0011】
第3の態様に係る配管施工冶具では、筐体の蓋部の幅が、壁部材の厚み以上の値に設定されている。そのため、壁部材の厚み方向全体において、壁部材の下面を蓋部の上面に支持させることが可能になるので、厚み方向に沿った壁部材の安定性が高まる。
【0012】
本発明の第4の態様では、第1から第3の何れか一態様に係る配管施工冶具において、前記側壁の下部に、第1の止水材を配置するための凹部が、前記側壁の壁面と前記筐体が設置される床面との境界部分の全体に亘って設けられている。
【0013】
第4の態様に係る配管施工冶具では、止水材を配置するための空間としての凹部が側壁の外壁面と床面との境界部分の全体に亘って確保されているので、境界部分の止水性を高めることができる。また、止水材が面する区画側への止水材のはみ出しが抑制されるので、仕切り壁の壁面の美観が向上する。
【0014】
本発明の第5の態様に係る配管敷設方法は、第1から第4の何れか一態様に係る配管施工冶具を用いた配管敷設方法であって、前記筐体を床面の上に設置する工程と、設置した前記筐体の周囲に前記壁部材を配置する工程と、を含む。
【0015】
第5の態様に係る配管敷設方法では、配管が差し込まれる貫通穴が、予め設定された貫通高さの位置に設けられているため、施工現場で仕切り壁に貫通穴を開ける必要がなくなる。
【0016】
本発明の第6の態様に係る配管敷設方法は、第5の態様に係る配管敷設方法において、前記筐体は前記床面に接する下面と、厚み方向に貫通し前記筐体を前記床面に固定する固定部材が差し込まれる挿通穴とを有する板状の底部を備え、前記筐体を設置する工程は、前記底部の前記下面における前記挿通穴の周囲に第2の止水材を配置する処理を含み、前記第2の止水材を配置する処理において、前記下面の外縁における前記一方の区画に面する領域の一部と前記挿通穴との間に前記第2の止水材が配置されない非配置領域を部分的に形成する。
【0017】
第6の態様に係る配管敷設方法では、筐体の底部の下面の挿通穴の周囲に第2の止水材を配置する際、第2の止水材が配置されない非配置領域が部分的に形成される。ここで、モルタル等の流体物を、床面上に設置された筐体の内部空間に注入すると、流体物の水分が挿通穴を介して筐体の底部と床面との空隙に流出する場合がある。非配置領域が、流出した水分の外部への排出経路として機能することによって、水分が、配管施工冶具の底面に溜まることなく効率的に排出される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る配管施工冶具及び配管敷設方法によれば、施工現場で配管を壁に貫通させる作業の負担を抑え、当該作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る配管施工冶具の構成の概略を斜め上から見て模式的に説明する斜視図である。
図2】本実施形態に係る配管施工冶具の構成の概略を模式的に説明する平面図である。
図3】配管施工冶具によって構成された仕切り壁を、一部を断面して模式的に説明する平面図である。
図4】配管施工冶具によって構成された仕切り壁を、図3中の4-4線の位置で部分的に断面して示す側面図である。
図5】本実施形態に係る配管施工冶具を用いた配管敷設方法において、第2の止水材が配置された配管施工冶具の下面の構成の概略を斜め下から見て模式的に説明する斜視図である。
図6】本実施形態に係る配管敷設方法を模式的に説明する断面図である(その1)。
図7】本実施形態に係る配管敷設方法を模式的に説明する断面図である(その2)。
図8】本実施形態に係る配管敷設方法を模式的に説明する断面図である(その3)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0021】
<配管施工冶具の構造>
図1に示すように、本実施形態に係る配管施工冶具10は、直方体状の筐体10Aを備える。筐体10Aは、4枚の側壁12,14,16,18と、蓋部20と、底部22とを有する。また、筐体10Aには、貫通穴12A,14A、凹部12B、注入口24、及び挿通穴22A,22Bが設けられている。
【0022】
筐体10Aは、鋼板等の金属板に折り曲げ加工や溶接加工等を施すことによって、全体が一体的に作製されている。本実施形態では、筐体10Aの側壁12,14,16,18、蓋部20、及び底部22の厚みは、いずれも2mm程度である。また、図2に示すように、筐体10Aの上面は、平面視で矩形状である。上面の矩形の長辺の長さは約185mm、また、短辺の長さは約110mmである。また、図1に示した筐体10Aの下面から上面までの高さは、約85mmである。尚、本発明における筐体10Aの材質及び各寸法の値は、これに限定されるものではなく、所望の仕様に応じて適宜変更できる。
【0023】
図1に示すように、右手前側に位置する側壁12と左奥側に位置する側壁14とは、水平方向に間隔を空けて正対している。側壁12,14は、本発明における「一対の側壁」に対応する。図1中の右手前側の側壁12は、下部の外壁面が上部の外壁面よりも筐体10Aの内側に一定距離後退して位置するように、折り曲げられている。そのため、側壁12の外壁面は、側壁12の隣の側壁18の主面に直交する方向から見て、Z字状である。貫通穴12Aは、円形状であって、側壁12の上部の中央に設けられている。また、貫通穴14Aは、円形状であって、図1中の左奥側の側壁14の中央に設けられている。
【0024】
また、図2に示すように、貫通穴12A,14Aのそれぞれの円の中心は、水平に延びる軸線A上で同じ高さに位置している。尚、本発明では、貫通穴12A,14Aの円の中心が必ずしも同じ高さに限定されない。例えば、排水の上流側の貫通穴より、下流側の貫通穴の方を低くして、傾斜配管に対応させることもできる。
【0025】
貫通穴12A,14Aは、ほぼ同径であり、貫通穴12A,14Aには配管32(図4参照)が差し込まれる。図1に示した本実施形態では、貫通穴12A,14Aの円の径は、約35mmであり、差し込まれる配管32の径は、約34mmである。尚、本発明においては、貫通穴12A,14Aの径は、配管32が貫通穴12A,14Aに嵌め合わされ支持された状態が実現できるように、配管32の外径や材質に応じて決定される。
【0026】
また、本実施形態では、貫通穴12A,14Aの円の中心の高さ位置は、床面から約60mmである。一方、本発明においては、貫通穴12A,14Aの高さ位置は、適宜設定できる。例えば、配管32が床面42(図4参照)に接した状態で筐体10を貫通してもよい。
【0027】
但し、貫通穴12A,14Aの高さ位置は、床面42から120mm以下の範囲内であることが好ましい。上限値が120mmに設定されているのは、作業者が壁に貫通穴を穿孔する場合、経験則によって120mm程度以下の高さ位置での作業において、貫通穴の位置ずれ(芯ずれ)が多く発生するためである。
【0028】
凹部12Bは、図1中の右手前側の側壁12の下部に、直方体状の空間として形成されている。凹部12Bは、側壁12の下部に、水平方向全体に亘って一定の高さを有する。筐体10Aが床面42上に設置された場合、凹部12Bは、側壁12の壁面と床面42との境界部分に位置する。凹部12Bの内側に、第1の止水材が配置されることによって、筐体10Aと床面42との境界部分の全体に亘って止水処理が施される。第1の止水材としては、ウレタン系、水膨張性ゴム系等の公知の止水材を採用できる。尚、本実施形態では、止水性を高めるために凹部12Bが設けられているが、本発明では、凹部12Bは必須ではない。
【0029】
蓋部20は、板状であって平坦な上面を有する。蓋部20は、図2に示すように平面視で、筐体10Aの上面の矩形の領域のうち右側の貫通穴12A寄りに配置されている。換言すると、蓋部20は、筐体10Aの内部空間の上部を部分的に覆うように筐体10Aの上部に設けられている。蓋部20の上面は、筐体10Aの上面の一部をなす。
【0030】
蓋部20の幅Wは、一対の側壁12,14の並列方向、換言すると、図3及び図4中に示す第1の壁部材28の厚み方向に沿って測って得られる。第1の壁部材28は、蓋部20の上面に載置される。尚、第1の壁部材28の横幅(図3中の左右方向の長さ)は、配管施工冶具10の左右方向の長さとほぼ同じである。本実施形態における蓋部20の幅Wと第1の壁部材28の厚みは同じ値である。
【0031】
尚、本発明においては、蓋部20の幅Wは、第1の壁部材28の最大の厚み以上に設定される。すなわち、例えば、第1の壁部材28が直方体状でなく第1の壁部材28の厚みが壁面に沿って一様でない場合であっても、第1の壁部材28の下面全体が蓋部20の上面に対向して支持されるように、蓋部20の上面の幅Wが設定される。
【0032】
注入口24は、図2中で筐体10Aの蓋部20の左側に配置されている。注入口24は、図1に示すように、筐体10Aの上側に開口しており、筐体10Aの内部空間の上部を部分的に露出させる。注入口24は、内部空間に連通している。注入口24を介して、筐体10Aの内部空間に、モルタルやコンクリート等の流体物が注入されて充填される。
【0033】
本実施形態では、注入口24の平面視での開口形状は矩形状であるが、本発明においてはこれに限定されず、円形、楕円形、多角形等、適宜変更できる。また、注入口24の平面視での開口寸法についても、同様に、流体物の注入装置の注入口の形状や寸法等に応じて適宜設定できる。
【0034】
また、本実施形態では、注入口24を覆う部材は設けられていなかったが、本発明においては、例えば蓋状の部材が注入口24を覆うように設けられてもよい。そして、流体物の注入前の時点で蓋状の部材によって注入口24が遮蔽され、注入口24が、外形上、明確に視認されなくてもよい。例えば、筐体10Aが現場に搬入された後、蓋状の部材が筐体10Aから取り外される、又は切り取られることによって、注入口24が露出されてもよい。また、蓋状の部材が、筐体10Aの側壁の上部にヒンジ等によって回転自在に固定され、注入口24が遮蔽された状態と注入口24が開口された状態とが切り替わるように構成されてもよい。このように流体物の注入前の時点で、注入口24が、外形上、明確に視認されない場合であっても、流体物の注入時点で注入口24が露出されればよい。
【0035】
また、本発明においては、注入口24は、内部空間に注入され充填される流体物の上面以上の高さ位置に設けられればよい。但し、本実施形態のように、注入口24と蓋部20とをほぼ同じ高さ位置に配置すれば、配管施工冶具10の構造が簡易になるため、配管施工冶具10の作製が容易になる。
【0036】
底部22は、図1に示すように、板状であって、厚み方向に貫通する2個の挿通穴22A,22Bを有する。挿通穴22A,22Bの形状は、長孔であって、挿通穴22A,22Bにはアンカーボルト等の固定部材が挿通される。尚、本発明においては、挿通穴22A,22Bの形状は、長孔に限定されず、円形、正方形等、適宜変更できる。また、筐体10が床面42上に固定できれば、挿通穴22A,22Bが設けられなくてもよい。
【0037】
図2に示すように、挿通穴22A,22Bは、注入口24の開口領域の内側に外縁の全体が含まれるように、いずれも配置されている。換言すると、挿通穴22A,22Bは、筐体10Aの上部の開口領域の直下の領域に配置されている。挿通穴22A,22Bが開口領域の直下の領域に配置されることによって、施工者が、注入口24に手を差し込んで床面42に筐体10Aを固定する際、作業負担を軽減できる。
【0038】
<仕切り壁の構造>
図3に示すように、本実施形態に係る配管施工冶具10の筐体10Aは、第1の壁部材28及び第2の壁部材30と共に仕切り壁(10,28,30)をなす。仕切り壁(10,28,30)は、筐体10Aの一対の側壁12,14の並列方向に沿って、集合住宅の住戸LSとメーターボックスMBとを隔てて設置されている。
【0039】
図3に示すように、配管32が貫通した筐体10Aの内部空間には、硬化したモルタル等の充填物40が充填されている。充填物40によって、配管32が保護されると共に、仕切り壁(10,28,30)としての配管施工冶具10の強度が向上する。
【0040】
配管施工冶具10の筐体10Aは、床面42の上で、図3中、柱型26の右側に柱型26に隣接して配置されている。また、図4に示すように、筐体10Aは、アンカーボルト等の固定部材42A,42Bによって、床面42上に固定されている。固定部材42A,42Bは、底部22の挿通穴22A,22Bと床の固定穴52A,52Bとに同時に差し込まれている。固定穴52A,52Bは、床面42から掘られて形成されている。凹部12Bには、ポリウレタン系の第1の止水材44Aが配置されている。
【0041】
第1の壁部材28は、筐体10Aの蓋部20の上面に立てて載置されている。すなわち蓋部20は第1の壁部材28を下から支持している。第1の壁部材28は、直方体状であり、例えば軽量気泡コンクリート(ALC)板等である。第1の壁部材28の下面(直方体の底面)と蓋部20の上面とは、ほぼ同じ矩形状であって、互いに対向している。蓋部20の平坦な上面に第1の壁部材28が載置されることによって、配管施工冶具10と第1の壁部材28との一体性が高められる。
【0042】
また、第2の壁部材30は、第1の壁部材28と同様に、ALC板等である。第2の壁部材30は、図3に示すように、筐体10Aの右側の側壁16に隣接して設けられている。第1の壁部材28及び第2の壁部材30は、筐体10Aの周囲で筐体10Aにそれぞれ隣接し、メーターボックスMB側のそれぞれの壁面が揃えられている。柱型26,筐体10A、第1の壁部材28及び第2の壁部材30のそれぞれの間には、ロックウール等の耐火目地材を介在させることができる。
【0043】
本実施形態における住戸LSは、本発明における「一方の区画」に対応する。また、本実施形態におけるメーターボックスMBは、本発明における「他方の区画」に対応する。この住戸LSが設けられた階層には、他にも複数の住戸が設けられている。また、このように複数の住戸が設けられた階層が複数、集合住宅に設けられている。
【0044】
また、集合住宅にはサイホン排水システムが適用され、それぞれの住戸LSの洗面所や浴室等の水廻り器具の排水口には、横引き管34の一端がそれぞれ接続されている。横引き管34は、フレキシブルホース等の可撓性配管である。横引き管34は住戸LSの水廻り器具と同じ階層の床下にほぼ水平に設置されるため、床下空間の省スペース化が促進される。
【0045】
横引き管34の他端は、配管32に差し込まれている。本実施形態では、配管32は、横引き管34を保護する鞘管である。配管32は、筐体10Aに差し込まれ、住戸LSとメーターボックスMBとの間を延びている。横引き管34は、配管32を介して仕切り壁(10,28,30)を貫通し、横引き管34の他端は、メーターボックスMB側の配管32の端部から突出している。突出した横引き管34の他端は、管継手36を介して竪管38の一端に連結されている。尚、本発明では、配管32は鞘管に限定されず、例えば上下水が流れる配管や工業用の各種の流体を流れる配管等、各種の配管を採用できる。
【0046】
竪管38は、図4に示すように、床面42に設けられた貫通穴に差し込まれ、配管施工冶具10が配置されている階層より下の階層において、サイホン排水システムの排水立て管に連結する。排水立て管は、図示を省略するが、集合住宅の上下方向の複数の階層を貫いて延びている。排水立て管には、複数の住戸の水廻り設備から延びる横引き管34に連結されたそれぞれの竪管が連結する。
【0047】
<配管敷設方法>
次に、本実施形態に係る配管施工冶具10を用いた配管敷設方法を説明する。まず、図1に示した配管施工冶具10を用意し、筐体10Aを床面42の上に設置する。設置の際、図5に示すように、配管施工冶具10の底部22の下面の挿通穴22A,22Bの周囲に第2の止水材44Bを配置する。第2の止水材44Bとしては、例えば、水膨張性ゴム等の止水材を採用できる。
【0048】
第2の止水材44Bは、平面視で、U字状に配置される。U字の配置パターンは、矩形状の下面の外縁のうち、2本の長辺と図5中で左側の1本の短辺とに沿って形成されている。また、U字の開口部として、第2の止水材44Bが配置されない非配置領域48が、外縁の図5中で右側の短辺に沿って部分的に形成されている。非配置領域48は、一対の側壁12,14の並列方向に沿って凹部12Bと反対側に位置する。すなわち図5中に示した非配置領域48は、メーターボックスMBの反対側である、住戸LS側に面している。
【0049】
尚、本発明においては、第2の止水材44Bの配置パターンは、図5中に例示した形状に限定されない。例えば、図5中のU字の配置パターンに加え、更に、底部22の下面の矩形における住戸LS側の短辺の両端寄りの部分に、第2の止水材44Bをそれぞれ部分的に追加して配置し、短辺の中央に非配置領域48を形成してもよい。すなわち、第2の止水材44Bの配置パターンが、平面視でC字状であってもよい。また、U字の配置パターンにおいて、矩形の2本の長辺に沿って延びる部分が、図5中のものより短くてもよい。但し、底部22の下面の外縁のうち、メーターボックスMB側(図5中の左側)に面する短辺に沿った部分については、止水の必要性が高い。そのため、第2の止水材44Bの配置パターンは、矩形のメーターボックスMB側の短辺に沿って延びる帯状部分を底として含み、加えて、底の帯の両端からそれぞれ長辺に沿って延びる部分を少なくとも含むことが好ましい。また、第2の止水材44Bの配置パターンに応じて、非配置領域48の位置も適宜変更される。
【0050】
次に、図6に示すように、筐体10の底部22の挿通穴22A,22Bと床の固定穴52A,52Bとを重ね合わせる。そして、筐体10Aの注入口24に手を差し込んで、重なり合った挿通穴22A,22Bと固定穴52A,52Bとに固定部材42A,42Bを差し込んで、筐体10Aを床面42上に固定する。固定によって、底部22の下面が床面42と接する。本実施形態では、挿通穴22A,22Bの長孔の開口部分が、固定部材42A,42Bの上部によってすべて遮蔽されない。そのため、挿通穴22A,22Bの位置に、筐体10の内部空間と床面42の一部とが連通する隙間が生じている。
【0051】
次に、図7に示すように、第1の壁部材28を筐体10Aの蓋部20の上に載置する。また、図示を省略するが、第2の壁部材30を筐体10Aの側壁16に隣接させて配置する。換言すると、床面42上における第1の壁部材28は、筐体10Aの蓋部20の上面を介して位置決めされる。また、床面42上における第2の壁部材30は、側壁16の外壁面を介して位置決めされる。このように、筐体10Aの周囲に第1の壁部材28及び第2の壁部材30が配置されることによって、仕切り壁(10,26,28)が構成される。
【0052】
次に、図8に示すように、貫通穴12A,14Aに配管32を差し込んで、筐体10によって配管32を水平に支持する。そして、筐体10の注入口24にモルタル等の流体物40Aを所定の注入装置によって内部空間に注入して充填する。尚、図4中には、この流体物40Aが固化して形成された充填物40が例示されている。
【0053】
ここで、本実施形態では、筐体10の内部空間と床面42の一部とが連通する隙間が生じている。そして、筐体10Aの底部22の下面と床面42との接合界面には、面の粗さや反り等に起因した僅かな空隙が存在する。そのため、内部空間に注入された固化前の流体物40Aは、挿通穴22A,22Bの位置における隙間を介して、底部22の下面と床面42との空隙に流出する。このとき、図5に示したように、筐体10Aの底部22の下面には第2の止水材44Bが配置されない非配置領域48が設けられている。そのため、空隙に流出した流体物40Aに含まれる水分が、非配置領域48を経由して、時間の経過に伴って徐々に外部に排出される。
【0054】
その後、図4に示したように、横引き管34を配管32の内側に差し込み、管継手36を介して横引き管34を竪管38に連結する。そして、第1の止水材44Aを筐体10の凹部12Bに充填する。尚、柱型26,筐体10A、第1の壁部材28及び第2の壁部材30のそれぞれの目地間にも止水材が適宜配置される。以上の工程によって、本実施形態に係る配管施工冶具10を用いた配管敷設方法が実現され、仕切り壁(10,26,28)にサイホン排水管を貫通させる作業が完了する。
【0055】
<比較例>
一方、配管施工冶具10を用いることなく、施工現場で仕切り壁を穿孔して貫通穴を設ける比較例に係る配管敷設方法を検討する。比較例の場合、穿孔作業中の作業者の視界は、コンクリートの壁面によって制限される。また、穿孔作業中、ドリル等の穿孔装置を重力に抗してほぼ水平に支持する必要も生じる。そのため、作業負担が大きくなり、結果、穿孔後の貫通穴の位置ずれも生じ易くなる。
【0056】
貫通穴が位置ずれすると、配管を設計とおり差し込めない場合が生じる。また、仮に差し込めたとしても、例えば、排水の上流から下流に向かって配管の高さ位置が上昇するような、配管の逆勾配状態が形成されると、排水性能に大きな支障が生じる。そのため、位置ずれの修正作業が施工現場で必要となるが、作業員の負担が大きくなると共に、全体の作業スケジュールへも影響が生じる。また、穿孔作業に伴う衝撃や振動によって貫通穴を起点としたクラックが生じる場合もあり、クラックを補修する作業も必要になる。これに対し、本実施形態に係る配管施工冶具10を使用した配管敷設方法の場合、比較例の場合のような貫通穴の位置ずれが全く生じなかった。
【0057】
(作用効果)
本実施形態に係る配管施工冶具10によれば、筐体10Aが中空であることから比較的軽量のため、配管施工冶具10を施工現場へ容易に搬入できる。また、筐体10Aへ配管32を差し込んだ後、注入口24を介して流体物40Aが注入されることによって内部空間が充填されるので、仕切り壁(10,26,28)が中実となって強度が高められる。このとき、配管32が差し込まれる貫通穴12A,14Aが、予め設定された貫通高さの位置に設けられているため、施工現場で壁に貫通穴を開ける必要がなくなる。そのため、施工現場で配管32を壁に貫通させる作業の負担を抑え、かつ、配管32の貫通位置の精度を高めて、当該作業を容易にすることができる。また、貫通穴を起点としたクラックの発生を防止できる。
【0058】
また、本実施形態に係る配管施工冶具10は、サイホン排水システムの横引き管34を壁に貫通させる場合に適用されている。横引き管34は、比較的低い位置で水平に壁を貫通する。壁の低い位置に水平に貫通穴を開けるのは、負担が非常に大きいため、こうした貫通作業を省略できる本実施形態に係る配管施工冶具10は、サイホン排水システムの横引き管34を仕切り壁に貫通させる施工において、特に有利である。
【0059】
また、本実施形態に係る配管施工冶具10では、流体物40Aを注入する注入口24が、筐体10Aの上側に開口して設けられている。ここで、筐体10Aが床面42上に設置されると、筐体10Aは、作業者の手元より低い位置に配置される場合が多い。注入口24が筐体10Aの上側に開口して設けられることによって、注入口24が作業者の手元に近接するので、施工現場での流体物40Aの注入が容易になる。
【0060】
また、本実施形態に係る配管施工冶具10では、筐体10Aの蓋部20の、一対の側壁12,14の並列方向に沿って測った幅W、換言すると第1の壁部材28の厚み方向に沿って測った幅Wが、第1の壁部材28の厚みと同じ値に設定されている。そのため、第1の壁部材28の下面を第1の壁部材28の厚み方向全体に亘って蓋部20の上面によって支持させることが可能になる。
【0061】
ここで、第1の壁部材28は、上下方向において、筐体10Aの蓋部20によって下側から支持されている。また、第1の壁部材28は、一対の側壁12,14の並列方向に直交する左右方向において、柱型26と第2の壁部材30とに挟まれている。しかし、第1の壁部材28は、第1の壁部材28の厚み方向(奥行方向)において、他の部材と接触していない。本実施形態では、第1の壁部材28の下面を第1の壁部材28の厚み方向全体に亘って蓋部20の上面によって支持させることによって、厚み方向に沿った第1の壁部材28の安定性が高まる。
【0062】
また、本実施形態に係る配管施工冶具10では、凹部12Bが、側壁12の下部に、側壁12の壁面と床面42との境界部分の全体に亘って設けられている。第1の止水材44Aを配置するための空間としての凹部12Bが側壁12の外壁面と床面42との境界部分の全体に亘って確保されているので、境界部分の止水性を高めることができる。また、第1の止水材44Aが面するメーターボックスMB側への第1の止水材44Aのはみ出しが抑制されるので、仕切り壁(10,26,28)の壁面の美観が向上する。
【0063】
また、本実施形態に係る配管敷設方法では、上記した配管施工冶具10を用いて、施工現場で配管32を仕切り壁(10,26,28)に貫通させるため、貫通作業の負担を抑えて容易に施工できる。
【0064】
また、本実施形態に係る配管敷設方法では、筐体10Aの底部22の下面の挿通穴22A,22Bの周囲に第2の止水材44Bを配置する際、第2の止水材44Bが配置されない非配置領域48が部分的に形成される。この非配置領域48は、住戸LS側の外縁と挿通穴22A,22Bとの間に設けられる。ここで、モルタル等の流体物40Aを、床面42上に設置された筐体10の内部空間に注入すると、流体物40Aの水分が挿通穴22A,22Bを介して筐体10Aの底部22と床面42との空隙に流出する。しかし、本実施形態では、非配置領域48が、流出した水分の外部への排出経路として機能することによって、水分が、配管施工冶具の底面に溜まることなく効率的に排出される。
【0065】
<その他の実施形態>
本発明は上記の開示した実施の形態によって説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。本開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになると考えられるべきである。
【0066】
例えば、本実施形態では、筐体10に一組の貫通穴12A,14Aが設けられた場合が例示された。しかし、本発明ではこれに限定されず、二組以上の複数組の貫通穴が設けられてもよい。すなわち、例えば、一対の側壁12,14のそれぞれに、5個、10個等、複数の貫通穴が左右に並べて配置されてもよい。筐体に複数組の貫通穴が設けられることによって、複数の配管が仕切り壁に局所的に集約して貫通する場合に対応できる。複数の配管の本数に応じて複数の筐体10を用意したり設置したりする手間が省けるため、仕切り壁に配管を貫通させる際の作業効率が向上する。
【0067】
また、本実施形態では、配管が敷設される建物として集合住宅が例示されていたが、建物はこれに限定されない。他にも例えば戸建住宅、公共施設、商業用ビル等、各種の建物において本発明は適用できる。以上のとおり本発明は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むとともに、本発明の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0068】
10…配管施工冶具、10A…筐体、12,14,16,18…側壁、
12A,14A…貫通穴、12B…凹部、20…蓋部、22…底部、
22A,22B…挿通穴、24…注入口、28…第1の壁部材、30…第2の壁部材
32…配管、40A…流体物、42…床面、42A,42B…固定部材、
44A…第1の止水材、44B…第2の止水材、48…非配置領域、LS…住戸
MB…メーターボックス、W…幅
図1
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図8