(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】眼科装置及び眼科装置のメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20230526BHJP
【FI】
A61B3/10
(21)【出願番号】P 2019060865
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩之
(72)【発明者】
【氏名】山田 弘一
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-016486(JP,A)
【文献】特開2007-185417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学系を介して被検眼を撮影する眼科装置であって、
前記光学系を介して撮影した撮影画像を取得する画像取得部と、
前記撮影画像に基づいて得られた取得データと基準データとの比較に基づいて前記光学系の診断結果を出力するデータ判断部と、
前記診断結果を表示する結果表示部と、を備え
、
前記データ判断部は、前記取得データと前記基準データが入力される学習済みモデルを有し、前記学習済みモデルを用いて前記取得データと前記基準データとの比較からデータ差分を特定し、前記データ差分に基づいて前記診断結果を出力する人工知能処理部を有する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
光学系を介して被検眼を撮影する眼科装置であって、
前記光学系を介して撮影した撮影画像を取得する画像取得部と、
前記撮影画像に基づいて得られた取得データと基準データとの比較に基づいて前記光学系の診断結果を出力するデータ判断部と、
前記診断結果を表示する結果表示部と、
ネットワークを介して前記取得データを前記データ判断部に送信するデータ送信部と、
前記ネットワークを介して前記データ判断部から前記診断結果を受信する結果受信部と、を備え、
前記データ判断部は、前記取得データ及び前記基準データを表示する表示部と、前記診断結果を入力する入力部と、を有する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された眼科装置において、
前記画像取得部は、対物レンズの前に設置されたテスト被写体の撮影画像を取得し、
前記データ判断部は、
前記テスト被写体の撮影画像に基づいて得られた取得データと前記基準データとの比較に基づいて前記光学系の診断結果を出力する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された眼科装置において、
前記データ判断部は、
前記撮影画像の画像データと、前記撮影画像を解析して得られた撮影対象の測定データと、の少なくとも一方を前記取得データとして用いる
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項5】
光学系を介して被検眼を撮影する眼科装置のメンテナンス方法であって、
前記光学系を介して撮影した撮影画像を取得し、
前記撮影画像に基づいて得られた取得データと基準データが入力される学習済みモデルを用いて前記取得データと前記基準データとの比較からデータ差分を特定し、前記データ差分に基づいて前記光学系の診断結果を出力し、
前記診断結果を表示する
ことを特徴とする眼科装置
のメンテナンス方法。
【請求項6】
光学系を介して被検眼を撮影する眼科装置のメンテナンス方法であって、
前記光学系を介して撮影した撮影画像をネットワークを介して取得し、
前記撮影画像に基づいて得られた取得データと基準データを表示部に表示し、前記取得データ及び前記基準データとの比較に基づいて前記光学系の診断結果が入力部によって入力され、
前記ネットワークを介して受信した前記診断結果を表示する
ことを特徴とする眼科装置
のメンテナンス方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載された眼科装置のメンテナンス方法において、
前記撮影画像を予め設定された所定の間隔で定期的に取得し、前記撮影画像を用いて前記診断結果を定期的に出力する
ことを特徴とする眼科装置のメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科装置及び眼科装置のメンテナンス方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、遠隔操作によって被検眼の検査を行う眼科装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、眼科装置では、被検眼を撮影した撮影画像に基づいて被検眼の検査を行うが、被検眼に対向する対物レンズやその他の内蔵レンズにゴミ等の異物や傷が付いていたり、眼科装置に設けた各種の機構の動作不良等が生じていると、被検眼を撮影した撮影画像に影やモヤ、黒点等が映り込んでしまう。そして、撮影画像に影等が映り込んだことで検眼精度が低下するおそれがある。そのため、レンズクリーニングを行ったり、各レンズの傷の有無の判定や絞り調整等のメンテナンスを行う必要がある。しかしながら、従来の眼科装置では、遠隔操作によって被検眼の検査を行うため、眼科装置のメンテナンスに精通したスタッフが眼科装置の傍に付き添っているとは限らなかった。そのため、レンズクリーニング等のメンテナンスを適切に行うことが難しいという問題が生じていた。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、被検眼の撮影に必要な光学系のメンテナンスを適切に行うことができる眼科装置及び眼科装置のメンテナンス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の眼科装置は、光学系を介して被検眼を撮影する眼科装置であって、光学系を介して撮影した撮影画像を取得する画像取得部と、撮影画像に基づいて得られた取得データと基準データとの比較に基づいて光学系の診断結果を出力するデータ判断部と、診断結果を表示する結果表示部と、を備える。そして、データ判断部は、取得データと基準データが入力される学習済みモデルを有し、学習済みモデルを用いて取得データと基準データとの比較からデータ差分を特定し、データ差分に基づいて診断結果を出力する人工知能処理部を有する。
【0007】
また、上記目的を達成するため、本発明の眼科装置のメンテナンス方法は、光学系を介して被検眼を撮影する眼科装置のメンテナンス方法であって、まず、光学系を介して撮影した撮影画像をネットワークを介して取得する。次に、撮影画像に基づいて得られた取得データと基準データを表示部に表示し、取得データと基準データとの比較に基づいて光学系の診断結果が入力部によって入力される。そして、ネットワークを介して受信した診断結果を表示する。
【発明の効果】
【0008】
このように構成された眼科装置及び眼科装置のメンテナンス方法では、撮影画像を取得したら、この撮影画像に基づいて得られた取得データと基準データとを比較して光学系の診断結果を出力し、出力した診断結果を表示する。そのため、眼科装置の使用者は、表示された光学系の診断結果を確認することで、光学系のメンテナンスの有無や、必要なメンテナンスの内容等を把握することができる。よって、眼科装置のメンテナンスに精通したスタッフが眼科装置の傍に付き添っていなくても、対物レンズ等の被検眼の撮影に必要な光学系のメンテナンスを適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の眼科装置のシステム構成図である。
【
図2】実施例1の眼科装置の検眼部の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施例1のサーバ側表示部の表示内容を示す説明図である。
【
図4】実施例1の装置側表示部の表示内容を示す説明図である。
【
図5】実施例1の眼科装置にて実行されるメンテナンス処理を示すフローチャートである。
【
図6】基準データの一例としての標準的な眼底像の画像データである。
【
図8】装置側表示部の表示内容の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の眼科装置及び眼科装置のメンテナンス方法を実施するための形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【0011】
(実施例1)
以下、実施例1の眼科装置100の構成を、
図1に基づいて説明する。
【0012】
眼科装置100は、被検眼E(
図2参照)の撮影や観察、検査(以下、「検眼」という)を行う検眼部10と、管理サーバ102(データ判断部)と、を備え、検眼部10と管理サーバ102とはネットワークNを介して通信可能である。
【0013】
検眼部10は、オートレフラクトメータや眼底カメラ等であり、一か所以上の施設101にそれぞれ一台以上設置されている。この検眼部10は、ユーザによって操作されて検眼したり、ローカルメンテナンススタッフによって設置が行われたりする。ここで、ユーザ及びローカルメンテナンススタッフは、検眼部10を直接操作する使用者であり、検眼部10のメンテナンスに精通していない。つまり、ユーザやローカルメンテナンススタッフは、テスト被写体や被検眼Eを撮影した撮影画像に基づいて得られた取得データに基づいて、検眼部10に設けたレンズや照明絞り等の撮影に必要な光学系の状態を適切に推定することができない。なお、ユーザとは、例えば病院スタッフや眼鏡店の店員等のいわゆる検者を指す。また、ローカルメンテナンススタッフとは、検眼部10の販売代理店の店員等を指す。
【0014】
また、「検眼部10に設けたレンズ」とは、検眼部10が有する撮影手段(後述する受光系11bの撮像素子11e)と被検眼Eとの間に介装されるレンズであり、例えば対物レンズ11c(
図2参照)である。そして、「テスト被写体を撮影した撮影画像に基づいて得られた取得データ」とは、ここでは、テスト被写体の撮影画像の画像データとする。
【0015】
そして、検眼部10では、対物レンズ11c(
図2参照)の前に設置されたテスト被写体或いは被検眼Eを撮影し、撮影画像を取得する。なお、テスト被写体の設置は、検眼部10を直接操作するユーザやローカルメンテナンススタッフによって行われる。そして、この検眼部10は、テスト被写体又は被検眼Eの撮影画像を取得した後、この撮影画像に基づいて取得データを取得し、ネットワークNを介してこの取得データを管理サーバ102に送信する。さらに、この検眼部10では、ネットワークNを介して管理サーバ102から返送された撮影に必要な光学系(後述する検眼系11)の診断結果を受信し、受信した診断結果をユーザやローカルメンテナンススタッフに表示する。この結果、検眼部10では、診断結果を確認したユーザやローカルメンテナンススタッフにより、表示された診断結果に基づいて、必要であれば検眼部10に設けたレンズを含む撮影に必要な光学系(検眼系11)のメンテナンス(例えば、対物レンズ11cのクリーニング等)が行われる。
【0016】
管理サーバ102は、データメモリ103と、AIエンジン104と、サーバ側表示部105(表示部)と、サーバ側入力部106(入力部)と、サーバ側制御部107と、を備えている。この管理サーバ102は、ネットワークNを介して検眼部10から送信された取得データを受信する。また、管理サーバ104は、撮影に必要な光学系(検眼系11)の診断結果を、ネットワークNを介して取得データを送信した検眼部10へ返送する。ここで、管理サーバ102は、上位メンテナンススタッフによって監視されている。上位メンテナンススタッフとは、眼科装置100のメンテナンスに精通しており、テスト被写体又は被検眼Eを撮影した撮影画像に基づいて得られた取得データから、レンズの汚れや傷、照明絞りの位置等の撮影に必要な光学系(検眼系11)の状態を適切に推定することが可能な人を指す。
【0017】
データメモリ103は、テスト被写体又は被検眼Eの撮影画像から得られた取得データと比較するための基準データを記憶している。基準データは、例えば以下に列挙する各種のデータである。
・正常な対物レンズ11cの前にテスト被写体を設置して得られる標準的な正常画像の画像データ
・出荷時に対物レンズ11cの前にテスト被写体を設置して得られた出荷時画像の画像データ
・検眼部10を使用する上で予め登録した登録画像の画像データ
・正常画像を解析して得られたテスト被写体の測定データ(球面度数、円柱度数、円柱軸等)
・標準的(正常)な眼底像の画像データ(
図6参照)
・標準的(正常)な眼底像の画像を解析して得られた測定データ(球面度数、円柱度数、円柱軸等)
なお、眼底像の画像データや測定データは、複数の眼底像を統計処理して生成された画像データや統計データであってもよい。
【0018】
AIエンジン104(人工知能処理部)は、学習済みのAIモデルを有し、ネットワークNを介して検眼部10から送信された取得データと、データメモリ103から読み出した基準データとをAIモデルに入力する。AIモデルでは、取得データと基準データとを比較し、この比較の結果、取得データと基準データとの差異(例えば、画像の大きさ、形状、色の違い等)を抽出する。そして、抽出した差異からデータ差分の種別及び位置を特定する。なお、「データ差分」とは、取得データが画像データである場合には、撮影画像上に生じた現象であり、このときの「データ差分の種別」は、例えば、モヤ、ゴースト、影、フレア、黒点、白点、部分的に明るい等となる。また、「データ差分の位置」とは、モヤ等のデータ差分が生じた画像上の位置である。一方、取得データが測定データである場合には、「データ差分」は、測定データの差異であり、このときの「データ差分の種別」は、測定データの種類(球面度数等)となる。
【0019】
AIエンジン104は、データ差分の種別及び位置を特定したら、AIモデルを用いてデータ差分の種別及び位置に基づき、データ差分の発生原因個所と、データ差分の発生原因を推定する。なお、「データ差分の発生原因個所」とは、例えば、対物レンズ11cや照明用レンズ等のレンズの種類、CCD等である。また、「データ差分の発生原因」は、例えば、レンズに対するゴミや埃の付着、レンズ汚れ、各光学素子の位置ずれ等の装置の故障、機構動作不良、撮影光量又は各種ゲインの設定不備、コントラストが弱い、カメラ設定(ホワイトバランス等)の不備、部品劣化、被検者の頭が動いた、被検者が強度近視、小瞳孔撮影、被検眼涙液状況の不良、瞼のかかり、被検眼の疾患(白内障等)等である。
【0020】
そして、AIエンジン104は、推定した原因個所及び原因を総合的に判断し、検眼部10に設けた撮影に必要な光学系(検眼系11)の診断結果を特定し、出力する。ここで、AIエンジン104から出力される診断結果は、例えば、対物レンズ11cや照明系レンズ、画角補正レンズ等のクリーニング、各種レンズの位置調整、精度確認、機構動作調整、撮影光量や各種ゲインの調整等のメンテナンス指示である。また、この診断結果にメンテナンスの対応者(ユーザ又はローカルメンテナンススタッフが処置するのか、上位メンテナンススタッフが対応するのか、メーカに修理を依頼するのか等)を含めてもよい。
【0021】
サーバ側表示部105は、例えば液晶画面等によって構成され、上位メンテナンススタッフによって目視可能な位置に設けられている。このサーバ側表示部105には、
図3に示すように、データメモリ103から読み出した基準データ(正常画像の画像データ、破線Aで囲む部分)と、検眼部10から送信された取得データ(テスト被写体又は被検眼Eの画像データ、破線Bで囲む部分)と、AIエンジン104から出力された診断結果(メンテナンス指示、破線Cで囲む部分)と、が表示される。なお、
図3に表示した診断結果(破線Cで囲む部分)では、取得データの「2」と番号が振られた箇所についての診断結果を表示している。
【0022】
サーバ側入力部106は、例えばキーボードやマウス等によって構成され、上位メンテナンススタッフによって操作可能な位置に設けられている。このサーバ側入力部106は、サーバ側表示部105に表示された取得データ及び基準データを確認した上位メンテナンススタッフが、AIエンジン104から出力された診断結果が間違っていると判断したとき操作される。このサーバ側入力部106を介して入力された情報によって、AIエンジン104から出力された診断結果が修正される。
【0023】
サーバ側制御部107は、マイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、通信インターフェース等を有し、検眼部10から送信された取得データを受信して、AIエンジン104に入力する。さらに、このサーバ側制御部107は、AIエンジン104から出力された診断結果が、上位メンテナンススタッフによって修正されていないときには、AIエンジン104から出力された診断結果を、そのまま取得データを送信した検眼部10に返送する。また、AIエンジン104の診断結果が上位メンテナンススタッフによって修正されていれば、修正された診断結果を、取得データを送信した検眼部10に返送する。
【0024】
なお、上位メンテナンススタッフによって診断結果が修正された場合には、修正された診断結果と取得データとが関連付けられてAIエンジン104へとフィードバックされる。AIエンジン104が有するAIモデルは、フィードバックされた修正済みの診断結果と、これに関連付けられた取得データと学習することで、機能的な成長を図ることができる。
【0025】
以下、実施例1の検眼部10の構成を、
図2に基づいて説明する。
【0026】
検眼部10は、
図2に示すように、検眼系11と、装置側制御部12(データ送信部、結果受信部)と、装置側表示部13(結果表示部)と、を有し、検眼系11に設けられた対物レンズ11cを介して被検眼Eを撮影する。
【0027】
検眼系11は、被検眼Eの眼特性を検査する光学系であり、検眼部10では、この検眼系11を介して被検眼Eを撮影する。すなわち、検眼系11は撮影に必要な光学系であり、主に投射系11aと、受光系11b(画像取得部)と、対物レンズ11cと、ビームスプリッタ11fと、を有している。
【0028】
投射系11aは、光源11dから被検眼Eの眼底に向けて光束を照射(投光)する光学系であり、光源11dや図示しない集光レンズ等を有する。なお、光源11dは、被検眼Eやテスト被写体を撮影するための照明光源としても用いられる。
【0029】
受光系11bは、被検眼Eからの反射光や、対物レンズ11cの前に設置されたテスト被写体からの反射光を撮像素子11eで受光する光学系であり、撮像素子11eや図示しないリレーレンズ、絞り、結像レンズ等を有する。撮像素子11eは、受光した二次元パターン像の画像情報から被検眼Eの撮影画像や、テスト被写体の撮影画像を取得し、装置側制御部12に出力する。なお、撮像素子11eとしては、エリアCCD等の受光素子を用いることができる。ここで、「テスト被写体」とは、対物レンズ11c等の検眼系11に設けられた各種レンズの状態(ゴミや汚れ、傷の付着状態等)を確認する際に使用される予め決められた被写体である。検眼部10が眼底カメラの場合には、テスト被写体として白い紙等の白色反射物を用いる。また、検眼部10がオートレフラクトメータの場合には、テスト被写体として模型眼を用いる。
【0030】
対物レンズ11cは、検眼系11に設けられたレンズの一つであり、被検眼Eに対向する位置に設けられ、検眼部10の筐体外部に露出している。ビームスプリッタ11fは、対物レンズ11cと投射系11a及び受光系11bとの間に配置されている。このビームスプリッタ11fは、投射系11aからの光束を被検眼Eに導き、被検眼E及びテスト被写体からの反射光を受光系11bの撮像素子11eに導く。
【0031】
装置側制御部12は、マイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、通信インターフェース等を有し、ユーザ等によって操作される図示しない操作部から出力される操作信号に基づいて、検眼系11の各部を制御する。また、この装置側制御部12は、受光系11bにて取得したテスト被写体や被検眼Eの撮影画像に基づいて取得データを取得し、この取得データを、ネットワークNを介して管理サーバ102へと送信する。また、装置側制御部12は、ネットワークNを介して管理サーバ102から返送された検眼系11の診断結果を受信し、受信した診断結果を装置側表示部13に表示させる。さらに、この装置側制御部12は、受光系11bにて取得した被検眼Eの撮影画像を装置側表示部13に表示させたり、被検眼Eの撮影画像に基づいて被検眼Eの屈折力等の検査結果を算出したりする。
【0032】
装置側表示部13は、例えば液晶画面等によって構成され、検眼部10を操作するユーザやローカルメンテナンススタッフによって目視可能な位置に設置されている。この装置側表示部13の表示内容は、装置側制御部12によって制御され、被検眼Eの撮影画像や、被検眼Eの検査結果、検眼系11の診断結果等を表示する。なお、
図4には、装置側表示部13における検眼系11の診断結果の表示例を示す。
図4に示す場合、検眼系11の診断結果であるメンテナンス指示(破線Dで囲む部分)に加え、指示されたメンテナンスの実施手順(破線Eで囲む部分)も装置側表示部13に表示される。
【0033】
以下、眼科装置100にて実行されるメンテナンス処理を、
図5に示すフローチャートに基づいて説明する。なお、
図5に示すフローチャートにおけるステップS1~ステップS3及びステップS10、ステップS11の各処理は検眼部10にて実行される。また、
図5に示すフローチャートにおけるステップS4~ステップS9の各処理は管理サーバ102にて実行される。
【0034】
ステップS1では、テスト被写体を対物レンズ11cの前に設置し、ステップS2へ進む。ここで、テスト被写体の設置は、眼科装置100を直接操作するユーザ又はローカルメンテナンススタッフが必要に応じた適宜のタイミングで行う。
【0035】
ステップS2では、ステップS1でのテスト被写体の設置に続き、受光系11bにて、対物レンズ11cの前に設置されたテスト被写体の撮影画像を取得し、ステップS3へ進む。ここで、撮影画像の取得は、ユーザ等によって検眼部10に設けられた撮影ボタンの押下等の所定の撮影操作が行われたことで実行される。
【0036】
ステップS3では、ステップS2での撮影画像の取得に続き、装置側制御部12にて、取得した撮影画像に基づいて得られた取得データ(ここでは、テスト被写体の撮影画像の画像データ)を管理サーバ102へ送信し、ステップS4へ進む。ここで、取得データの送信は、ユーザ等によって検眼部10に設けられた送信ボタンの押下等の所定の送信操作が行われたことで実行される。
【0037】
ステップS4では、ステップS3での取得データの送信に続き、サーバ側制御部107にて、検眼部10から送信された取得データを受信し、ステップS5へ進む。サーバ側制御部107で受信された取得データは、AIエンジン104のAIモデルに入力される。
【0038】
ステップS5では、ステップS4での取得データの受信に続き、AIエンジン104にて、データメモリ103から基準データを読み出し、ステップS6へ進む。読み出された基準データは、AIエンジン104が有するAIモデルに入力される。
【0039】
ステップS6では、ステップS5での基準データの読み出しに続き、AIエンジン104のAIモデルにて、基準データと取得データとを比較し、データ差分を特定して検眼系11の診断結果を出力し、ステップS7へ進む。ここで、基準データと取得データとの比較は、周知の画像マッチング技術等を用いて行う。
【0040】
ステップS7では、ステップS6での診断結果の出力に続き、サーバ側制御部107にて、基準データと、取得データと、AIエンジン104から出力された検眼系11の診断結果とをサーバ側表示部105に表示させ、ステップS8へ進む。
【0041】
ステップS8では、ステップS7での結果表示に続き、サーバ側制御部107にて、診断結果の修正が行われたか否かを判断し、ステップS9へ進む。ここで、診断結果の修正は、サーバ側表示部105に表示された診断結果を確認した上位メンテナンススタッフが、この診断結果を間違っていると判断したときに行われる。また、この診断結果の修正は、上位メンテナンススタッフがサーバ側入力部106を介して入力した情報によって行われる。
【0042】
ステップS9では、ステップS8での診断結果の修正有無の判断に続き、サーバ側制御部107にて、取得データを送信してきた検眼部10へ検眼系11の診断結果を返送し、ステップS10へ進む。ここで、ステップS8において、AIエンジン104から出力された診断結果が、上位メンテナンススタッフによって修正されたと判断したときには、修正された診断結果が返送される。一方、ステップS8において、AIエンジン104からの診断結果が修正されていないと判断したときには、AIエンジン104から出力された診断結果がそのまま返送される。
【0043】
ステップS10では、ステップS9での診断結果の返送に続き、装置側制御部12にて、管理サーバ102から返送された検眼系11の診断結果を受信し、ステップS11へ進む。
【0044】
ステップS11では、ステップS10での診断結果の受信に続き、装置側制御部12にて、受信した診断結果を装置側表示部13に表示させ、エンドへ進む。
【0045】
以下、検眼部10の検眼系11のメンテナンスの必要性及び課題について説明する。
【0046】
眼科装置100では、一般的に被検眼Eに対して投射系11aから光束を照射し、被検眼Eによって反射された反射光を受光系11bにて受光し、被検眼Eの撮影画像を取得する。そして、この取得した被検眼Eの撮影画像に基づいて、被検眼Eの検査結果を算出する。
【0047】
ここで、例えば対物レンズ11cにゴミや埃等の異物が付着していると、この異物が撮影画像に影やゴースト、黒点、フレア等の現象として映り込んでしまう。また、各光学素子の位置ずれや、機構動作不良、撮影光量や各種のゲインの設定不備、コントラストの弱さ、カメラ設定の不備等によっても、撮影画像に影やゴースト等が映り込む。しかしながら、一枚の撮影画像を見ただけでは、撮影画像に映り込んだ影等が、被検眼Eの病変を原因とするのか、対物レンズ11cに付着した異物や装置の異常等を原因とするのかは判別しにくい。特に、画像上の白点は、単純網膜症の硬性白斑と見分けがつきにくい。また、画像上の黒点は、出血斑と見間違えやすい。すなわち、レンズの汚れや傷等のレンズの不具合や光学素子の位置ずれ等は、検眼結果の精度に影響を生じる可能性もある。そのため、レンズ汚れ等は、検眼前に解消しておきたいという要求がある。
【0048】
これに対し、眼科装置100では、一般的に、対物レンズ11cや、測定窓、周辺ケラト測定用の光源等のクリーニングを行うことを取扱説明書や仕様書等で規定している。また、撮影画像の状態に基づいて、対物レンズ11cのクリーニングや照明系レンズのクリーニング等の対応を行うことも規定している。
【0049】
しかしながら、眼科装置100の検眼部10を実際に操作するのは、ユーザやローカルメンテナンススタッフであり、眼科装置100のメンテナンスに精通していない。つまり、ユーザ等では、撮影画像や、この撮影画像に基づいて得られた測定データからは、対物レンズ11c等のレンズにゴミが付着しているかというようなレンズ状態を適切に判断することができない。また、検眼系11の状態によっては、ユーザ等では対応しきれない調整等のメンテナンスが必要な場合が生じ得る。しかしながら、ユーザ等では、撮影画像や測定データから自身でメンテナンスの対応が可能であるか否も判断することが難しい。このため、眼科装置100の検眼系11のメンテナンスを適切に行うことができず、レンズ汚れ等の検眼系11の不具合を検眼前に解消できないという問題がある。
【0050】
以下、実施例1の眼科装置100及び眼科装置100のメンテナンス方法の作用効果を説明する。
【0051】
実施例1の眼科装置100において、メンテナンス処理を実行するには、まず、
図5に示すフローチャートにおけるステップS1、ステップS2の処理を順に行う。すなわち、検眼部10の対物レンズ11cの前にテスト被写体を設置し、検眼部10の受光系11bによって対物レンズ11cの前に設置されたテスト被写体の撮影画像を取得する。
【0052】
続いて、ステップS3の処理を実行し、検眼部10の装置側制御部12によって、撮影画像に基づいて得られた取得データを管理サーバ102に送信する。
【0053】
取得データが送信されたら、管理サーバ102のサーバ側制御部107は、
図5に示すフローチャートにおけるステップS4の処理を行い、取得データを受信してAIエンジン104のAIモデルに入力する。AIエンジン104は、取得データが入力されたら、ステップS5、ステップS6の処理を順に行う。すなわち、このAIエンジン104では、基準データをデータメモリ103から読み出してAIモデルに入力する。そして、AIモデルにて基準データと取得データとを比較し、データ差分を特定して検眼系11の診断結果(メンテナンス指示)を算出する。
【0054】
検眼系11の診断結果が算出されたら、サーバ側制御部107は、ステップS7、ステップS8、ステップS9の処理を順に行い、
図3に示すように、基準データと取得データ、AIエンジン104から出力された検眼系11の診断結果をサーバ側表示部105に表示させる。そして、診断結果が修正されたと判断したときには、修正された診断結果を検眼部10へ返送する。一方、診断結果が修正されていないと判断したときには、AIエンジン104から出力された診断結果をそのまま検眼部10へ返送する。
【0055】
そして、診断結果が返送されたら、検眼部10の装置側制御部12では、ステップS10、ステップS11の処理を順に行う。つまり、管理サーバ102から返送された診断結果を受信し、
図4に示すように、この診断結果を装置側表示部13によって表示する。
【0056】
これにより、検眼部10を直接操作するユーザやローカルメンテナンススタッフは、装置側表示部13に示された検眼系11のメンテナンス指示である診断結果を確認することで、対物レンズ11cのクリーニングや機構動作の調整等のメンテナンスの要否や、メンテナンスの的確な対応方法、さらに、メンテナンスの対応者(ユーザ又はローカルメンテナンススタッフが処置するのか、上位メンテナンススタッフが対応するのか、メーカに修理を依頼するのか等)を把握することができる。このため、検眼部10のメンテナンスの実施が、管理サーバ102側のAIエンジン104や上位メンテナンススタッフによってサポートされ、検眼部10のメンテナンスに精通していないユーザやローカルメンテナンススタッフであっても、対物レンズ11c等の検眼系11のメンテナンスを適切に行うことができる。これにより、検眼前に予めレンズ汚れ等の検眼系11の不具合を解消することが可能になり、適切な検眼を実施でき、検眼精度の低下の防止を図ることができる。
【0057】
また、この眼科装置100では、ネットワークNを介して検眼部10から取得データを管理サーバ102へと送信し、ネットワークNを介して管理サーバ102から検眼部10へと診断結果が送信される。つまり、眼科装置100のメンテナンスをネットワークNを介して管理サーバ102でサポートできるため、上位メンテナンススタッフを検眼部10の元へ派遣することができなくても、メンテナンスサービスの迅速な対応が可能となる。
【0058】
さらに、管理サーバ102では、受信した取得データと基準データとを比較し、診断結果を出力して返送するだけであり、実際のメンテナンス(レンズクリーニング等)は、可能であれば検眼部10を直接操作するユーザ等が行う。そのため、一台の管理サーバ102によって、多数の検眼系11のメンテナンス状態を監視することが可能となる。また、ユーザ等がメンテナンスを行うことで、メンテナンス費用の削減を図ることもできる。
【0059】
また、実施例1の眼科装置100では、テスト被写体の撮影画像に基づいて得られる取得データとして、撮影画像の画像データを用いる。これにより、撮影画像の見た目を検眼系11の状態の推定パラメータとして用いることができ、検眼系11の状態推定の精度を向上することができる。なお、撮影画像は動画であってもよく、この場合であっても撮影画像の見た目に基づいて、検眼系11の状態を推定することができる。
【0060】
そして、この実施例1の眼科装置100では、管理サーバ102がAIエンジン104を備えている。そして、AIエンジン104は、学習済みのAIモデル(学習済みモデル)を有し、このAIモデルを用いて基準データと取得データであるテスト被写体の撮影データとを比較してデータ差分を特定し、特定したデータ差分に基づいて検眼系11の診断結果を出力する。
【0061】
このため、管理サーバ102における診断結果の出力を人手に頼らずに自動的に行うことができ、人的要員を不要とすることができる。また、基準データと取得データとの比較に基づく診断結果の出力をAIエンジン104で行うことで、判断基準の統一化を図ることができ、診断結果の品質のばらつきを抑制することができる。
【0062】
さらに、この実施例1では、管理サーバ102がサーバ側表示部105と、サーバ側入力部106とを備え、基準データと、取得データと、AIエンジン104から出力された診断結果とを、サーバ側表示部105に表示する。これにより、サーバ側表示部105の表示内容を確認した上位メンテナンススタッフが、AIエンジン104から出力された診断結果を間違っていると判断したときには、サーバ側入力部106を介して診断結果が修正され、この修正された診断結果が返送される。すなわち、上位メンテナンススタッフによって判断された診断結果を、管理サーバ102から検眼部10へと返送することができる。
【0063】
(実施例2)
以下、実施例2の眼科装置200の構成を、
図7に基づいて説明する。なお、実施例1と同様の構成については、実施例1と同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0064】
実施例2の眼科装置200は、検眼系11と、データ判断部20と、装置側制御部12と、装置側表示部13(結果表示部)と、を有し、検眼系11に設けられた対物レンズ11cを介して被検眼Eを検査する。ここで、検眼系11、データ判断部20、装置側制御部12、装置側表示部13は、LANケーブル202を介して相互に接続されると共に、装置筐体201に内蔵されている。
【0065】
データ判断部20は、データメモリ103と、AIエンジン104と、を備えている。ここで、データメモリ103は、実施例1と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0066】
一方、このデータ判断部20のAIエンジン104には、装置側制御部12からテスト被写体の撮影画像に基づいて得られた取得データ(例えば、撮影画像の画像データ)がLANケーブル202を介して入力される。また、AIエンジン104は、取得データが入力されたら、基準データをデータメモリ103から読み出す。そして、このAIエンジン104は、自身が有する学習済みのAIモデルに、装置側制御部12から入力された取得データと、データメモリ103から読み出した基準データとを入力する。AIモデルは、入力された基準データと取得データとを比較し、この比較の結果、基準データと取得データとのデータ差分を特定し、特定したデータ差分に基づいて対物レンズ11cの汚れや各種機構の動作不良等のデータ差分の発生原因を推定する。そして、推定したデータ差分の発生原因に応じて検眼系11の診断結果を特定する。AIモデルにて特定された診断結果は、AIエンジン104から出力され、LANケーブル202を介して装置側制御部12へ入力される。
【0067】
装置側制御部12は、受光系11bの撮像素子11eによって、対物レンズ11cの前に設置されたテスト被写体の撮影画像を取得したら、この撮影画像の画像データを取得する。そして、取得した画像データを取得データとして、LANケーブル202を介してデータ判断部20に入力する。また、この装置側制御部12には、データ判断部20から出力された検眼系11の診断結果が、LANケーブル202を介して入力される。
【0068】
そして、この実施例2の眼科装置200においても、装置側制御部12に入力された検眼系11の診断結果は装置側表示部13に表示され(
図4参照)、眼科装置200を操作するユーザやローカルメンテナンススタッフによって目視可能となっている。
【0069】
以下、実施例2の眼科装置200の作用効果を説明する。
【0070】
すなわち、実施例2の眼科装置200では、まず、検眼系11に設けた対物レンズ11cの前に設置されたテスト被写体を撮影し、テスト被写体の撮影画像を取得する。さらに、この撮影画像の画像データを取得データとして取得する。そして、装置側制御部12からLANケーブル202を介して取得データ(撮影画像の画像データ)をデータ判断部20に入力する。
【0071】
データ判断部20では、装置側制御部12から入力された取得データを、AIエンジン104のAIモデルに入力する。AIエンジン104は、基準データをデータメモリ103から読み出してAIモデルに入力する。そして、AIモデルを用いて基準データと取得データとを比較してデータ差分を特定し、特定したデータ差分に基づいてデータ差分の発生原因を推定し、検眼系11の診断結果(メンテナンス指示)を算出する。
【0072】
検眼系11の診断結果がAIエンジン104によって算出されたら、データ判断部20から検眼系11の診断結果を出力する。この診断結果は、LANケーブル202を介して装置側制御部12に入力され、装置側表示部13に表示される。
【0073】
このように、実施例2の眼科装置200であっても、眼科装置200を直接操作するユーザやローカルメンテナンススタッフは、装置側表示部13に示された検眼系11の診断結果(メンテナンス指示)を確認することで、対物レンズ11c等のレンズクリーニングの要否や、各光学素子の位置ずれ修正、撮影光量や各種ゲインの設定調整等の必要なメンテナンスを把握することができる。このため、眼科装置200のメンテナンスに精通していないユーザやローカルメンテナンススタッフであっても、検眼系11のメンテナンスを適切に行うことができ、検眼前に予めレンズ汚れ等の検眼系11の不具合を解消することが可能になる。
【0074】
また、実施例2の眼科装置200では、データ判断部20と装置側制御部12とがLANケーブル202によって接続され、装置筐体201に内蔵されている。これにより、ネットワークNを介することなく情報の入出力を行うことができる。
【0075】
以上、本発明の眼科装置及び眼科装置のメンテナンス方法を実施例1及び実施例2に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0076】
実施例1及び実施例2では、撮影画像に基づいて得られる取得データとして、テスト被写体の撮影画像の画像データを用いる例を示したが、これに限らない。取得データとして、例えば、撮影画像を解析して得られた測定データを用いてもよい。なお、測定データとは、例えば、模型眼を撮影したリング画像から算出される模型眼の球面度数や円柱度数、円柱軸、屈折率等である。
【0077】
また、上述の実施例1及び実施例2では、予めテスト被写体を対物レンズ11cの前に設置し、このテスト被写体の撮影画像の画像データを取得データとして用いる例を示したが、これに限らない。被検眼Eの撮影画像の画像データや、被検眼Eの撮影画像を解析して得られた測定データを取得データとして用いてもよい。この場合、テスト被写体の設置は不要となる。つまり、検眼系11によって撮影した画像であれば、撮影対象がテスト被写体や被検眼Eのいずれであっても取得データを得ることが可能である。
【0078】
さらに、撮影画像に基づいて得られる取得データとして、「撮影画像の画像データ」と「撮影画像を解析して得られた測定データ」の双方を用いてもよい。画像データ及び測定データを取得データとして用いる場合には、検眼系11の状態を多角的な観点から推定することができ、検眼系状態の推定精度を向上することができる。さらに、このときには、
図8に示すように、装置側表示部13には、撮影画像であるリング画像(破線Fで囲む部分)と、基準データである正常画像の画像データ(破線Gで囲む部分)と、取得データである測定データ(破線Hで囲む部分)と、診断結果であるメンテナンス指示(破線Jで囲む部分)と、を表示してもよい。なお、
図8に示す例では、メンテナンスの対応者も診断結果として表示している。これにより、メンテナンス対応者の切り分けも明確にすることができる。
【0079】
また、実施例1では、管理サーバ102がAIエンジン104を有し、AIエンジン104の有するAIモデルによって検眼系11の診断結果を算出し、AIエンジン104から出力する。そして、このAIエンジン104から出力された診断結果が、上位メンテナンススタッフによって間違っていると判断されたとき、サーバ側入力部106を介して入力された診断結果が返送される例を示した。つまり、実施例1では、基本的にはAIエンジン104によるレンズ状態の推定及びメンテナンス指示が行われ、上位メンテナンススタッフによるレンズ状態の推定やメンテナンス指示は補助的なものであった。
【0080】
しかしながら、これに限らない。例えば、管理サーバ102がサーバ側表示部105と、サーバ側入力部106を備え、サーバ側表示部105に表示された撮影画像の画像データや測定データ等の取得データと基準データを確認した上位メンテナンススタッフによって、サーバ側入力部106を介して診断結果を入力し、この上位メンテナンススタッフが入力した診断結果を返送してもよい。この場合、上位メンテナンススタッフの判断に基づいて入力され診断結果が常に検眼部10へ返送されることになる。
【0081】
このように、管理サーバ102における取得データと基準データとの比較及びこの比較に基づく検眼系11の診断結果の出力は、機械的に行ってもよいし、人的に行ってもよい。いずれにしても、検眼部10を直接操作するユーザやローカルメンテナンススタッフ等の検眼部10のメンテナンスに精通していない人の判断は不要としつつ、適切な検眼系11のメンテナンスを実施することができる。
【0082】
また、実施例1では、検眼部10を直接操作するユーザやローカルメンテナンススタッフによってテスト被写体の設置が適宜行われ、テスト被写体が設置されたときに撮影画像を取得する例を示したが、これに限らない。例えば、テスト被写体を、検眼終了時に測定窓に嵌めるキャップの内側を白くした白色反射物や、検眼終了時にアタッチメントであご受けに取り付けられる模型眼とする。そして、キャップや模型眼が取り付けられたタイミングで自動的に撮影画像を取得するようにし、この撮影画像が予め設定された所定の間隔(例えば、検眼が終了するごと)で管理サーバ102に定期的に送信されるようにしてもよい。
【0083】
これにより、検眼系11のメンテナンスを所定の間隔で行うことができ、メンテナンス間隔が不要に広がってしまうことを防止できる。また、レンズ汚れ等の検眼系11の不具合が発生しても、速やかに発見して解消することが可能となる。さらに、定期的にメンテナンスを行うことで、検眼系11の不具合の発生を事前に防止することもできる。
【0084】
また、実施例1では、診断結果が、検眼系11のメンテナンス指示(例えば、「対物レンズをクリーニングしてください」等)に加え、メンテナンスの実施手順(レンズのクリーニング方法)も表示する例を示した。これにより、メンテナンスの実施手順を把握していなくても、マニュアル等を確認する必要がなく、簡単に検眼系11のメンテナンスを行うことができる。さらに、メンテナンス指示に加えて、ユーザに対するアドバイスや、ローカルメンテナンススタッフへの教育的な指示等を必要に応じて追加してもよい。
【0085】
また、実施例1及び実施例2では、検眼系11に設けたレンズとして対物レンズ11cを示したが、これに限らない。例えば、集光レンズやリレーレンズ、結像レンズ、コリメートレンズ等、投射系11aや受光系11b等の被検眼Eの撮影に必要な光学系に設けたレンズであればよい。
【符号の説明】
【0086】
100 眼科装置
10 検眼部
11 検眼系
11a 投射系
11b 受光系(画像取得部)
11c 対物レンズ
11d 光源
11e 撮像素子
12 装置側制御部(データ送信部、結果受信部)
13 装置側表示部(結果表示部)
100 メンテナンスシステム
102 管理サーバ(データ判断部)
103 データメモリ
104 AIエンジン(人工知能処理部)
105 サーバ側表示部(表示部)
106 サーバ側入力部(入力部)
107 サーバ側制御部
E 被検眼
N ネットワーク