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特許7285709塩化ビニル系樹脂組成物およびその成形物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂組成物およびその成形物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20230526BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230526BHJP
   E06B 1/26 20060101ALI20230526BHJP
   E06B 3/20 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K3/34
E06B1/26
E06B3/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019122011
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021008541
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 嵩人
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-265925(JP,A)
【文献】特開平08-231800(JP,A)
【文献】特開昭63-254164(JP,A)
【文献】特開2020-006529(JP,A)
【文献】特開平10-095608(JP,A)
【文献】特開2005-298762(JP,A)
【文献】特開2019-196484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/06
C08K 3/34
E06B 1/26
E06B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塩化ビニル系樹脂と、
(B)ネフェリンサイアナイトと、
を含んでなり、
前記(B)ネフェリンサイアナイトは、アスペクト比が2以下の粒子形状を有し、前記(A)塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、5~40質量部含まれ、
線膨張係数が5×10-5/℃未満であることを特徴とする、塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)ネフェリンサイアナイトは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定された個数基準の累積度数分布曲線において、累積度数が50%の値(D50)が3~10μmの粒子径を有する、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物からなる成形物。
【請求項4】
押出成形により得られる、請求項3に記載の成形物。
【請求項5】
建材に使用される、請求項3または4に記載の成形物。
【請求項6】
前記建材がサッシである、請求項5に記載の成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂組成物に関し、より詳細には、サッシ等の建材に好適に使用できる塩化ビニル系樹脂組成物およびその成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物躯体の開口部に取付けられるサッシは、地域ごとに使い分けがなされている。樹脂は金属に比べて断熱性が高いため、樹脂製のサッシは寒冷地域に好ましく適用されるが、断熱性をそれほど必要としない地域向けには、全てアルミなどの金属材からなる金属製サッシが用いられている。近年、窓枠やサッシ等の建材には、外観や意匠性がより一層重要視されるようになってきており、金属製サッシよりも意匠性を付与し易い樹脂製サッシが注目されている。そのため、断熱性をそれほど必要としない地域においても、樹脂製サッシの希求がある。
【0003】
樹脂製サッシには、機械的強度、耐候性、断熱性等に優れる硬質塩化ビニル樹脂が使用されている。一方、硬質塩化ビニル樹脂は、その線膨張率が8×10-5/℃程度と大きいため、寒暖差が大きい地域では、寸法安定性等が優れる金属製サッシを使用せざるを得ず、寸法安定性の問題が樹脂製サッシの普及を拒む一因となっている。
【0004】
ところで、樹脂の線膨張係数を下げる一般的な手段として、充填剤(フィラー)を添加することが知られている。例えば、雨樋などの建材に使用される硬質塩化ビニル樹脂においては、タルクや炭酸カルシウム等の無機充填剤を添加することで線膨張係数を低減することが行われている。しかしながら、無機充填剤の添加量の増加にともない線膨張係数は減少するものの、耐衝撃性等の樹脂物性が低下するといった問題があった。
【0005】
上記のような問題に対して、例えば特許文献1、2等には、アスペクト比が高い粒子形状を有する無機充填剤を使用することで、耐衝撃性を維持しながら線膨張係数を低減した塩化ビニル系樹脂が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-43774号
【文献】特開2009-97175号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2等において提案されているように、特定の無機充填剤を使用することで耐衝撃性を維持しながら線膨張係数を低減できるものの、無機充填剤の添加によって加工適性が悪化して成形物の外観に影響を与える場合がある。特に、建材のなかでもサッシ等は外観や意匠性が重要視されており、加工適性の悪化による成形物表面の肌荒れ等が問題となる。
【0008】
したがって、本発明の目的は、線膨張係数が低く、耐衝撃性に優れ、かつ表面が滑らかで肌荒れのない成形物が得られる塩化ビニル系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、塩化ビニル系樹脂に特定のアルミノケイ酸塩を添加することにより、線膨張係数が低く、耐衝撃性に優れ、かつ表面が滑らかで肌荒れのない成形物が得られるとの知見を得た。本発明は係る知見によるものである。
【0010】
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1](A)塩化ビニル系樹脂と、
(B)ネフェリンサイアナイトと、
を含んでなり、
前記(B)ネフェリンサイアナイトは、前記(A)塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、5~40質量部含まれ、
線膨張係数が5×10-5/℃未満であることを特徴とする、塩化ビニル系樹脂組成物。
[2]前記(B)ネフェリンサイアナイトは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定された個数基準の累積度数分布曲線において、累積度数が50%の値(D50)が3~10μmの粒子径を有する、[1]の塩化ビニル系樹脂組成物。
[3][1]または[2]の塩化ビニル系樹脂組成物からなる成形物。
[4]押出成形により得られる、[3]の成形物。
[5]建材に使用される、[3]または[4]の成形物。
[6]前記建材がサッシである、[5]の成形物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塩化ビニル系樹脂にアルミノケイ酸塩の一種であるネフェリンサイアナイトを所定量添加することにより、線膨張係数が低く、耐衝撃性に優れ、かつ表面が滑らかで肌荒れのない塩化ビニル系樹脂成形物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、(A)塩化ビニル系樹脂と、(B)ネフェリンサイアナイトとを必須成分として含む。以下、本発明による塩化ビニル系樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0013】
<(A)塩化ビニル系樹脂>
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物に使用される(A)塩化ビニル系樹脂は、-CH-CHCl-で表される基を有する全ての重合体を指し、塩化ビニルの単独重合体;塩化ビニルモノマーと、該塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有する他のモノマーとの共重合体;ポリ塩化ビニル系樹脂以外の重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられる。前記ポリ塩化ビニル系樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、ポリ塩化ビニル系樹脂はさらに塩素化されてもよい。ポリ塩化ビニル系樹脂の塩素化方法としては、例えば、熱塩素化方法、光塩素化方法等が挙げられる。
【0014】
塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有する他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα-オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル類;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミド類等が挙げられる。前記他のモノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
塩化ビニルモノマーをグラフト共重合する重合体としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート-一酸化炭素共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。これらの重合体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明においては、耐衝撃性を向上させる観点から、上記した(メタ)アクリレートモノマーがグラフト重合したものを好適に使用することができる。塩化ビニル系グラフト共重合体を構成する(メタ)アクリレートは、耐衝撃性を向上させるものであれば特に限定されないが、耐衝撃性改善の面から、その単独重合体のガラス転移温度が-140℃~0℃未満である(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマーと多官能性モノマーとからなるアクリル系共重合体が好ましい。なお、(メタ)アクリレートはアクリレートまたはメタクリレートを意味する。このような(メタ)アクリレートとしては、例えば、n-ブチルアクリレート(Tg:-4℃、以下かっこ内に温度のみを示す)、n-ヘキシルアクリレート(-57℃)、2-エチルヘキシルアクリレート(-85℃)、n-オクチルアクリレート(-85℃)、n-ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート(-85℃)、n-デシルアクリレート(-70℃)、ラウリルアクリレート、ラウリルメタアクリレート(-65℃)、エチルアクリレート(-24℃)、n-プロピルアクリレート(-37℃)、n-ブチルアクリレート(-54℃)、イソブチルアクリレート(-24℃)、sec-ブチルアクリレート(-21℃)、n-ヘキシルアクリレート(-57℃)、n-オクチルメタクリレート(-25℃)、イソオクチルアクリレート(-45℃)、n-ノニルメタクリレート(-35℃)、n-デシルメタクリレート(-45℃)等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
上記した(メタ)アクリレートモノマーがグラフト重合した塩化ビニル系樹脂は、混合モノマー、乳化分散剤等を含む乳化モノマー液を予め調製し、次いで、乳化モノマー液を塩化ビニル系モノマーと混合して重合させることにより得ることができる。グラフト重合させる方法としては、特に限定されず、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法等が挙げられ、これらの中では、懸濁重合法が好ましい。
【0018】
また、ポリ塩化ビニル系樹脂は架橋されていてもよい。ポリ塩化ビニル系樹脂の架橋方法としては、例えば、架橋剤及び過酸化物を添加する方法、電子線を照射する方法、水架橋性材料を使用する方法等が挙げられる。
【0019】
ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、成形物の機械的強度および成形性の観点から、400~1600以下であることが好ましく、600~1400であることがより好ましい。なお、平均重合度は、ポリ塩化ビニル系樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、濾過により不溶成分を除去した後、濾液中のTHFを乾燥除去して得た樹脂を試料とし、JIS K-6721「塩化ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定した平均重合度である。
【0020】
本発明における(A)塩化ビニル系樹脂として、市販されているものを使用してもよく、例えば、新第一塩ビ株式会社のポリ塩化ビニル「ZEST 1000Z」(平均重合度1000)、信越化学株式会社のポリ塩化ビニル「TK-800」(平均重合度800)、「TK-1000」(平均重合度1000)等を使用することができる。
【0021】
<(B)ネフェリンサイアナイト>
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、充填剤として(B)ネフェリンサイアナイトを含む。成形物の線膨張係数を低減するために、従来からタルクや炭酸カルシウム等の無機充填剤を塩化ビニル系樹脂に添加することは行われていたが、無機充填剤の添加量が多くなると成形物の耐衝撃性が低下する傾向にある。また、線膨張係数を低減しながら耐衝撃性を維持できる充填剤として、βメタ珪酸カルシウムを主成分とするワラスナイトが知られているが、当該充填剤であっても、その添加量が多くなると加工適性に影響を与え、得られた成形物の表面が、いわゆる肌荒れを起こすことがあった。特に高い意匠性が必要とされる樹脂サッシや窓枠等の成形品を得るための異形押出成形では、より高い成形温度が必要とされるため、上記した充填剤では、線膨張係数が低く、耐衝撃性に優れ、かつ表面が滑らかで肌荒れのない成形物を得ることが困難であった。本発明においては、ネフェリンサイアナイトを充填剤として使用することで、線膨張係数が低く、耐衝撃性に優れ、かつ表面が滑らかで肌荒れのない成形物が得られることを見出したものである。
【0022】
ネフェリンサイアナイト(霞石閃長岩)は、粉末状の岩石であり、ナトリウム-カリウム-アルミノケイ酸塩の形態の微細粒子シリカ欠乏ケイ酸塩を構成する。ネフェリンサイアナイトは、ナトリウム長石、カリウム長石、および、霞石の混合物(55%のナトリウム長石、20%のカリウム長石、および25%の霞石)から構成された自然発生岩であり、化学組成は(Na、K)AlSiOで表される化合物である。
【0023】
ネフェリンサイアナイトは上記したように微粒子の形態にあるが、樹脂への分散性等の成形性や加工適性の観点からは、粒子径として、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定された個数基準の累積度数分布曲線において、累積度数が50%の値(D50)が3~10μmであることが好ましい。なお、累積度数分布曲線は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(SALD-2100、島津製作所株式会社製)用いて測定することができる。
【0024】
また、衝撃強度維持の観点からは、ネフェリンサイアナイトの粒子径は、上記累積度数分布曲線において、累積度数が90%の値(D90)が20μm以下であることが好ましく、より好ましくは15μmである。なお、ネフェリンサイアナイトの粒子径を上記範囲に調整するには、原料を粉砕(解砕)する際の粉砕条件によって適宜調整することができる。なお、粉砕時間が短いと被粉砕物の粒径は大きく、粉砕時間が長いと粒径は小さくなる傾向がある。
【0025】
ネフェリンサイアナイトの粒子形状は、そのアスペクト比が2以下であることが好ましく、より好ましくはアスペクト比が1に近いものを使用する。なお、アスペクト比とは粒子の長径を短径で除した数値であり、真球に近いほど1に近くなる。ネフェリンサイアナイト粒子のアスペクト比は、例えば電子顕微鏡観察を行い、ランダムに100個の粒子を選択し、各粒子の長径と短径とからアスペクト比を算出し、それらの平均値をいうものとする。
【0026】
上記したような形状のネフェリンサイアナイトは、市販のものを使用してもよく、例えば東洋ファインケミカル株式会社製の商品名「ネスパー」(D50=5.2μm、D90=11.8μm、アスペクト比1)等を使用することができる。
【0027】
(B)ネフェリンサイアナイトは、(A)塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、5~40質量部含まれる。5質量%未満では、成形物の肌荒れ等の加工適性は優れるものの、線膨張係数の低減効果が不十分となる。一方、40質量部を超えると耐衝撃性が悪化する。(B)ネフェリンサイアナイトの好ましい配合量は、10~30質量部である。
【0028】
<その他の成分>
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、必要に応じて熱安定剤、安定化助剤、滑剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、着色剤、充填剤等を添加してもよい。
【0029】
熱安定剤としては、特に限定されず、例えば、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫安定剤、ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤、カルシウム-亜鉛系安定剤、バリウム-亜鉛系安定剤、バリウム-カドミウム系安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
安定化助剤としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ豆油エポキシ化テトラヒドロフタレート、エポキシ化ポリブタジエン、リン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
滑剤としては、特に限定されず、例えば、モンタン酸ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸ブチル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
加工助剤としては、特に限定されず、例えば、重量平均分子量10万~200万のアルキルアクリレート/アルキルメタクリレート共重合体であるアクリル系加工助剤が挙げられ、具体例としては、n-ブチルアクリレート/メチルメタクリレート共重合体、2-エチルヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
酸化防止剤としては、特に限定されず、例えば、フェノール系抗酸化剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
光安定剤としては、特に限定されず、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアン化物系等の無機顔料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明においては、充填剤として(B)ネフェリンサイアナイトを必須成分として含むが、本発明の効果を損なわない範囲において、他の従来の充填剤が含まれていてもよく、例えば、炭酸カルシウム、タルク等が含まれていてもよい。
【0037】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、上記成分(A)、上記成分(B)および所望に応じて用いる任意成分を、任意の溶融混練機(例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ミキサーおよび各種のニーダー等)を使用して溶融混練することにより得ることができる。得られた塩化ビニル系樹脂組成物(コンパウンド)は、線膨張係数が5×10-5/℃未満であり寸法安定性に優れるため、後述するようなサッシ等の建材用途に好適に使用することができる。なお、本発明において、線膨張係数は、JIS K 7197(プラスチックの線膨張係数試験方法)に準拠して、測定温度範囲0~50℃、昇温速度5℃/分の測定条件にて測定された値を意味する。
【0038】
<成形物>
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物から所望の成形物を得ることができる。成形物を得る方法としては特に制限されるものではなく、従来公知の方法である押出成形法、射出成形法、カレンダー成形法、プレス成形法等を適用できる。特に、押出成形法により成形物を得ることが好ましい。押出成形法の中でも、高い意匠性が必要とされる樹脂サッシや窓枠等の成形品を得るための異形押出成形法は、高い成形温度が必要とされるが、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物によれば、線膨張係数が低く、耐衝撃性に優れ、かつ表面が滑らかで肌荒れのない成形物が得られる。
【実施例
【0039】
次に本発明の実施形態について以下の実施例を参照して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
本明細書において、線膨張係数、シャルピー衝撃強度、加工適性、外観は、以下の方法によって評価した。
【0041】
<線膨張係数>
JIS K 7197(プラスチックの線膨張係数試験方法)に準拠して、厚み4mmのテープ形状押出成形物を、測定温度範囲0~50℃、昇温速度5℃/分の測定条件にて測定した。
【0042】
<シャルピー衝撃強度>
JIS K 7111に準拠して、厚み4mmのテープ形状押出成形物に2mmノッチを施したサンプルを準備し、23℃におけるシャルピー衝撃強度を測定した。
【0043】
<加工適性(コンパウンド成形時)>
表1に示す組成に従って下記の各原料混合し、PLASTIC EXTRUDER(ナカタニ機械株式会社製 スクリュー径20mm)を用いて、スクリュー温度150~170℃、ダイス温度180℃の条件でコンパウンド成形を行い、押出負荷(A)の計測を行った。
【0044】
<加工適性(押出成形時)>
上記のコンパウンド成形により得られたコンパウンド組成物を用いて、混練・押出成形評価試験装置(東洋精機株式会社製 ラボプラストミル30ml)により、予熱時間2min、試験温度170℃、試験回転速度30rpmの条件で混練したときのゲル化時間とトルク負荷(N・m)の計測を行った。
【0045】
<外観>
厚み4mmのテープ形状押出成型物の外観を目視観察し、以下の基準で評価した。
○:成形物の表面が滑らかで肌荒れが認められない。
△:成形物の表面に若干の肌荒れが認められる。
×:成形物の表面に肌荒れが認められる。
【0046】
使用した材料は以下の通りである。
【0047】
成分(A)
TK-1000(ポリ塩化ビニル、平均重合度1000、信越化学工業株式会社)
成分(B)
(B-1):ネスパー(ネフェリンサイアナイト粒子、粒子径D50=5.2μm、D90=11.8μm、アスペクト比1、東洋ファインケミカル株式会社製)
(B-2):KK600(重炭酸カルシウム粒子、粒子径D50=4.0μm、アスペクト比1、清水工業株式会社製)
(B-3):MS-Z(タルク粒子、粒子径D50=15μm、アスペクト比8、日本タルク株式会社製)
(B-4):AB-25S(白雲母、粒子径D50=24μm、アスペクト比80、山口雲母工業所株式会社製)
その他の成分
RX-210(Ca/Zn系安定剤、アデカスタブ RX-210、株式会社ADEKA製)
【0048】
表1に示す組成に従って上記した各原料を混合し、単軸押出機と平板型のダイスを用いて、ダイ出口樹脂温度180℃の条件で、一時混錬した樹脂組成物を、幅20mm、厚み4mmのテープの形状となるように押出成形を行い、成形物を得た。得られた成形物について、上記した線膨張係数、シャルピー衝撃強度、外観の評価を行った。評価結果は表1に示すとおりであった。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の評価結果からも明らかなように、充填剤を含まない塩化ビニル系樹脂組成物(例4)は、耐衝撃性や加工適性は良好であるものの、線膨張係数が7.8×10-5/℃と大きい。また、従来の充填剤を添加した塩化ビニル系樹脂組成物(例6~8)では、線膨張係数と耐衝撃性とがある程度は両立できるものの、加工適性が不十分であり、特にタルク(例7)や雲母(例8)を使用したものでは外観に肌荒れが認められる。これに対し、ネフェリンサイアナイトを特定量で含む塩化ビニル系樹脂組成物(例2、例3)では、線膨張係数が低く、耐衝撃性に優れ、かつ表面が滑らかで肌荒れのない成形物が得られることがわかる。