(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】鉄道車両用緩衝装置における引張棒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B61G 11/08 20060101AFI20230526BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
B61G11/08
F16F7/00 F
(21)【出願番号】P 2019142028
(22)【出願日】2019-08-01
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508204618
【氏名又は名称】フォイト・パテント・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】谷本 基弘
(72)【発明者】
【氏名】石原 良徳
(72)【発明者】
【氏名】谷村 尚美
(72)【発明者】
【氏名】白井 莉奈
(72)【発明者】
【氏名】アーサー コンテツキー
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/120675(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/049340(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61G 11/08
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両同士を連結する連結装置の連結器に、車両の高さ方向と幅方向への傾きを吸収可能なピン継手を介して結合され
る引張棒であって、前記引張棒の後端側に、横断面が角丸長方形で所定間隔に鍔部が形成された取り付け部を有するとともに、前記引張棒の先端側に、横断面が前記取り付け部の横断面と方向が一致する直線部を有する角丸長方形である、前記ピン継手への挿入部を有する前記引張棒と、
前記鍔部間に配置され
るゴム部品と、
このゴム部品を収容する凹部を形成した上枠及び下枠
と、
を有する緩衝装置における前記引張棒の製造方法
において、
前記挿入部と前記取り付け部の鍛造又は成型加工を同時に行うことを特徴とする鉄道車両用緩衝装置における引張棒の製造方法。
【請求項2】
前記挿入部と前記取り付け部の鍛造又は成型加工時に、前記ピン継手のピンの挿入孔の仮孔を同時に鍛造又は成型加工することを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用緩衝装置における引張棒の製造方法。
【請求項3】
前記鍛造又は前記成型加工は、前記挿入部と前記取り付け部の横断面が角丸長方形となるように、角丸長方形の短辺と平行な方向に行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両用緩衝装置における引張棒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両同士を連結する連結装置の連結器にピン継手を介して結合され、車両間で発生する衝撃を緩和する緩衝装置を構成する引張棒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両同士は連結装置で連結されている。この連結装置は、連結器と緩衝装置を、継手を介して結合した構成である(例えば特許文献1の段落0002を参照。)。
【0003】
前記緩衝装置は、車両同士の連結時、発車時や停車時、加減速時に車両間で発生する衝撃を緩和するためのものである。この緩衝装置は、例えば
図4に示すように、上枠1aと下枠1bの前後端部を結合枠1ca,1cbで結合した緩衝器枠1を有している。
【0004】
そして、前記上枠1a、下枠1b、結合枠1ca,1cbで形成された空間1eを緩衝器受1dで車両の前後方向に仕切っている。この緩衝器受1dは、車体の床面下部に設けられた中はり6に取り付けた伴板守7に形成された縦溝7aに嵌め合わされ、車両の前後方向への移動は拘束する一方、緩衝装置を車体に組み付けるため、上下方向の移動は許容するようになされている。
【0005】
また、第1の伴板2aを車体端部側の前記結合枠1caと接するように設ける一方、第2の伴板2bを車体中央部側の前記結合枠1cbと接するように設けている。そして、第1の伴板2aと緩衝器受1dの間、及び緩衝器受1dと第2の伴板2bの間にゴム緩衝器3a,3bを設けている(例えば特許文献2の
図1、
図2を参照。)。なお、このゴム緩衝器3a,3bは、例えば鋼板に接着したゴム板を積層した構成である。
【0006】
図4に示すゴム緩衝装置の場合、連結装置とピン継手5を介して連結された緩衝器枠1が車両の前後方向に移動する。そして、前記移動により、第1の伴板2aと緩衝器受1d間のゴム緩衝器3aが圧縮(又は復元)する一方、緩衝器受1dと第2の伴板2bの間のゴム緩衝器3bが復元(又は圧縮)して衝撃を緩和する。
【0007】
一方、横断面が角丸長方形の取り付け部4aの外周に所定間隔で鍔部4bを形成し、これら鍔部4b間の前記取り付け部4aの外周に、環状のゴム部品4cを配置した引張棒4dを有するゴム緩衝器4がある(
図5参照)。但し、このゴム緩衝器4を有する緩衝装置は、前記引張棒4dの先端部とピン継手5はフランジ軸継手を介して連結する構成である。なお、
図5中の4fa,4gaは上枠4f、下枠4gの後端に形成されたフランジ部で、これらフランジ部4fa,4gaで車体側にボルト4hで取り付ける。また、4iは上枠4fと下枠4gを一体化するボルトである。
【0008】
前記ゴム緩衝器4を有する緩衝装置は、前記引張棒4dが上枠4f及び下枠4gの先端側から出入りする際のゴム部品4cのせん断変形により衝撃を緩和する構成である。このゴム緩衝器4を有する緩衝装置の場合、フランジ軸継手の長さ分だけ車体との連結部の長さが長くなって、広い設置面積が必要になる。
【0009】
そこで、車体との連結部の長さを短くするために、前記ゴム緩衝器4を有する緩衝装置を、前記ゴム緩衝器3a,3bと同様に、車両の高さ方向と幅方向への傾きを吸収可能なピン継手5に直結できるように変更した緩衝装置を
図6に示す。
図6に示す緩衝装置は、引張棒4dの先端に、ピン継手5に設けた孔5bと合致する孔4eaを有する二又部4eを形成し、これら孔5bと4eaにピン5aを挿入して両者を連結する構成である。
【0010】
前記引張棒4dには、大きな前後荷重が作用するため、欠陥が懸念される鋳造品ではなく、鍛造で製作することが望ましい。よって、前記ゴム緩衝器4の前記取り付け部4aや鍔部4bを有する引張棒4dは鍛造成形によって製造されるが、
図6に示した緩衝装置の場合、前記引張棒4dの二又部4eを前記取り付け部4aや鍔部4bの鍛造成形と同時に行うことが難しい。従って、取り付け部4a及び鍔部4bを鍛造成形した後に、二又部4eの鍛造又は加工成形を行うことになるので、引張棒4dの製造に時間を要することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2012-166726号公報
【文献】特開2011-225094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、鍔部間の取り付け部の外周にゴム部品を配置した引張棒を有する緩衝装置を、ピン継手との連結が可能なように変更する場合、引張棒の製造に時間を要するという点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、鍔部間の取り付け部の外周にゴム部品を配置した引張棒を有する緩衝装置を、ピン継手との連結が可能なように変更する場合に、引張棒の製造に要する時間の短縮を目的としてなされたものである。
【0014】
前記目的を達成するため、
本発明は、鉄道車両同士を連結する連結装置の連結器に、車両の高さ方向と幅方向への傾きを吸収可能なピン継手を介して結合され、
前記ピン継手への挿入部を先端側に有する引張棒と、この引張棒の後端側に形成した取り付け部に配置される適数のゴム部品と、このゴム部品を収容する凹部を形成した上枠及び下枠を有する緩衝装置における前記引張棒の製造方法であって、
前記挿入部と前記取り付け部の鍛造又は成型加工を同時に行うことを最も主要な特徴としている。
【0015】
上記本発明は、ピン継手と連結する引張棒の部分を、取り付け部の横断面と方向が一致する直線部を有する角丸長方形の挿入部とすることで、当該挿入部と前記取り付け部の鍛造又は成型加工を同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、ピン継手と連結する引張棒の部分を、取り付け部の横断面と方向が一致する直線部を有する角丸長方形の挿入部とし、当該挿入部と前記取り付け部を同時に鍛造又は成型加工することで、引張棒の製造に要する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明方法によって製造する引張棒を備えた鉄道車両用緩衝装置を説明する斜視図である。
【
図4】鋼板に接着したゴム板を積層した構成のゴム緩衝器を有する鉄道車両用緩衝装置を説明する斜視図である。
【
図5】横断面が角丸長方形の取り付け部の外周に鍔部を所定間隔で形成し、これら鍔部間の取り付け部の外周部に、環状のゴム部品を配置した構成のゴム緩衝器の要部を説明する分解斜視図である。
【
図6】
図5のゴム緩衝器を車両の高さ方向と幅方向への傾きを吸収可能なピン継手と連結可能に変更した鉄道車両用緩衝装置を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、取り付け部に形成した鍔部間にゴム部品を配置した引張棒を有する緩衝装置を、ピン継手との連結が可能なように変更する場合に、引張棒の製造に要する時間の短縮を目的とするものである。
【0019】
そして、前記目的を、ピン継手と連結する引張棒の部分を、取り付け部の横断面と方向が一致する直線部を有する角丸長方形の挿入部とし、当該挿入部と前記取り付け部の鍛造又は成型加工を同時に行うことを実現した。
【実施例】
【0020】
以下、本発明方法によって製造する引張棒を備えた鉄道車両用緩衝装置について説明した後、当該引張棒の製造方法を、
図1及び
図2を用いて説明する。
【0021】
11は鉄道車両同士を連結する連結装置の連結器に、車両の高さ方向と幅方向への傾きを吸収可能なピン継手21を介して結合する緩衝装置である。この緩衝装置11は、引張棒12と、ゴム部品13と、前記引張棒12の後端側と前記ゴム部品13を収容する上枠14及び下枠15を有している。また、前記ピン継手21は、
図6に示したピン継手5と異なり、緩衝装置11との連結側は二又状に形成されている。
【0022】
前記引張棒12は、先端側に前記ピン継手21の二股部21bに挿入する挿入部12aを、後端側に前記ゴム部品13の取り付け部12bを有している。
【0023】
そして、本発明では、前記取り付け部12bは、横断面を角丸長方形に形成するとともに、その外周には例えば4つの鍔部12cを所定間隔で形成し、これら鍔部12cの間に前記ゴム部品13を取り付けている。
【0024】
一方、前記挿入部12aは、その横断面が前記取り付け部12bの横断面と方向が一致する直線部を有する角丸長方形に形成し、先端部分の前記直線部に前記ピン継手21の二股部21bに形成した挿入孔21baと一致する挿入孔12dを設けている。
【0025】
また、前記ゴム部品13は、前記鍔部12c間の前記取り付け部12bの外周に配置可能なように、例えば内外周が角丸長方形状の環状に形成したものを、上下2等分に分割した形状である。
【0026】
但し、前記取り付け部12bの外周に取り付けることが可能であれば、ゴム部品13は必ずしも上下2等分に分割する必要はない。
【0027】
また、作用する荷重とゴム部品13の変位とが、例えば
図3に示すような略線形の関係となるのであれば、ゴム部品13の外周の形状は角丸長方形以外の形状でもよい。
【0028】
また、前記上枠14及び下枠15には、前記ゴム部品13を収容可能な凹部14a及び15aがそれぞれ形成され、これら上枠14と下枠15は締結ボルト16によって一体とされる。
【0029】
上記緩衝装置11では、前記引張棒12を製造する場合、例えば、取り付け部12bの横断面形状を角丸長方形としつつ所定の間隔で鍔部12cを形成する鍛造と、前記挿入部12aの横断面形状を角丸長方形とする鍛造を同時に行うことができる。この場合、前記鍛造の方向は、角丸長方形の短辺と平行な方向である。
【0030】
前記鍛造に際し、取り付け部12bは、角丸長方形の長辺側の直線部分を鍛造することにより、鍛造しない部分(あるいは鍛造量の少ない部分)は鍔部12cとなる。なお、この鍔部12cの車両前後方向の両側壁には抜け勾配が形成されることは言うまでもない(
図2を参照)。これが本発明の引張棒12の製造方法である。
【0031】
そして、引張棒12の前記鍛造が終了した後は、挿入部12aの先端部分の角丸長方形の直線部を貫通するように、ピン継手21のピン21aを挿入する挿入孔12dを形成する。
【0032】
上記本発明方法によれば、引張棒12を例えば鍛造によって製造する際に、取り付け部12bの鍛造と挿入部12aの鍛造を同時に行うので、引張棒12の製造に要する時間を短縮できて、加工コストを低減することができる。
【0033】
また、前記挿入孔12dを形成する際、前記挿入部12aと取り付け部12bの鍛造時に、仮孔を同時に形成しておけば、挿入孔12dの形成時における位置決めに要する時間の短縮が図れる。
【0034】
本発明方法によって製造した引張棒12を備えた上記緩衝装置11は、上枠14の凹部14aと下枠15の凹部15aに2分割したゴム部品13を挿入した後(
図2の矢印イ)、当該上枠14に引張棒12をセットする(
図2の矢印ロ)。その後、当該上枠14に前記下枠15をセットし(
図2の矢印ハ)、締付ボルト16をトルクレンチで締付けることで組み立てが完了する。
【0035】
また、車体への取り付けも、上記緩衝装置11を車体の床面下部の中はり6に取り付けた伴板守31の間に挿入した後、下枠受け32で支持してボルトで締結するだけで行える。なお、上記緩衝装置11を車体から取り外す際は、前記取り付け作業と逆の操作をする。
図1中の33は中はり6に取り付けた上枠受けである。
【0036】
このように、本発明方法によって製造した引張棒12を備えた上記緩衝装置11は、特許文献1の緩衝装置に比べて、組み立てや車体への取り付け・車体からの取り外しが容易で、これらに要する時間を短縮することができるなど、メンテナンス性の向上が図れる。
【0037】
また、
図4に示したゴム緩衝器3a,3bのようにゴム板と鋼板との接着がないので環境にやさしいという効果も有する。
【0038】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0039】
例えば、
図2では、本発明方法によって製造する引張棒12の前記挿入部12aの角丸長方形状の厚さ(角丸長方形の直線部間の間隔)を前記取り付け部12bの角丸長方形状の厚さよりも厚く示している。しかしながら、挿入部12aの強度上に問題がなければ、取り付け部12bの角丸長方形状の厚さと同じ厚さとしてもよい。
【0040】
また、実施例では、本発明方法によって製造する引張棒12の取り付け部12bの外周に4つの鍔部12cを形成し、3つのゴム部品13を配置している。しかしながら、所定の緩衝特性が得られるのであれば、鍔部12cの数、すなわちゴム部品13の数は実施例と異なってもよい。
【0041】
また、実施例では、鍛造によって引張棒12を製造しているが、同様の形状に成形できるものであれば他の成型加工によって引張棒12を製造してもよい。
【符号の説明】
【0042】
11 緩衝装置
12 引張棒
12a 挿入部
12b 取り付け部
12d 挿入孔
13 ゴム部品
14 上枠
14a 凹部
15 下枠
15a 凹部
21 ピン継手
21a ピン
21ba 挿入孔