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特許7285727移行用樹脂組成物および移行シート防水構造
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  • 特許-移行用樹脂組成物および移行シート防水構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】移行用樹脂組成物および移行シート防水構造
(51)【国際特許分類】
   E04D 5/06 20060101AFI20230526BHJP
   E04D 5/00 20060101ALI20230526BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20230526BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20230526BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20230526BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
E04D5/06 B
E04D5/00 C
E04G23/02 G
C08J7/04 Z CEV
C08K5/00
C08L27/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019144919
(22)【出願日】2019-08-06
(65)【公開番号】P2021025338
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000223403
【氏名又は名称】住ベシート防水株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】八木 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】牛川 哲文
(72)【発明者】
【氏名】山田 忠治
(72)【発明者】
【氏名】別宮 浩之
(72)【発明者】
【氏名】森本 純平
(72)【発明者】
【氏名】神藤 寿雄
【審査官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-207154(JP,A)
【文献】特開2015-196947(JP,A)
【文献】特開平08-004225(JP,A)
【文献】特開平11-217910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 5/06
E04D 5/00
E04G 23/02
C08J 7/04
C08L 27/06
C08K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床部を有する躯体に対して接合された防水シートに対して、可塑剤を移行させるために用いられ、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含み、前記塩化ビニル系樹脂と前記可塑剤との少なくとも一部が前記溶媒に溶解している移行用樹脂組成物であり、
前記防水シートに塗布した後に乾燥させて、前記防水シートを被覆する移行層を形成することで、当該移行用樹脂組成物に含まれる可塑剤が、前記防水シートに移行するように構成され、
当該移行用樹脂組成物に含まれる塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターをA[(cal/cm31/2]とし、当該移行用樹脂組成物に含まれる溶媒の溶解パラメーターをB[(cal/cm31/2]としたとき、これらの差の絶対値|A-B|は、1.0≦|A-B|≦1.5なる関係を満足し、
前記溶媒は混合溶媒であり、該混合溶媒の組み合わせは、トルエン、酢酸イソブチルのうちの少なくとも1種と、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランのうちの少なくとも1種との組み合わせであることを特徴とする移行用樹脂組成物。
【請求項2】
前記溶解パラメーターAは、9.0(cal/cm31/2以上11.0(cal/cm31/2以下である請求項1に記載の移行用樹脂組成物。
【請求項3】
最低の沸点を有する溶媒の沸点は、60℃以上であり、最高の沸点を有する溶媒の沸点は、125℃以下である請求項1または2に記載の移行用樹脂組成物。
【請求項4】
当該移行用樹脂組成物は、さらに、粘度調整剤を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の移行用樹脂組成物。
【請求項5】
当該移行用樹脂組成物は、クリーム状をなしている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の移行用樹脂組成物。
【請求項6】
当該移行用樹脂組成物は、その粘度が5,500mPa以上9,500mPa以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の移行用樹脂組成物。
【請求項7】
前記躯体は、さらに、前記床部から立設する壁部を有し、前記防水シートは、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有しており、
前記躯体と、前記床部と前記壁部との境界部に、間隙を形成した状態で前記境界部に並んで配置された第1配置部材および第2配置部材と、前記第1配置部材と前記第2配置部材との双方の少なくとも一部を、前記間隙を包含した状態で被覆するように接合された前記防水シートと、を有するシート防水構造において、
当該移行用樹脂組成物は、前記防水シートを被覆する前記移行層を形成するために用いられる請求項1ないし6のいずれか1項に記載の移行用樹脂組成物。
【請求項8】
前記防水シートは、前記間隙に対応した位置に、その劣化に伴う凸部を備えており、前記凸部に対応して、前記移行層が設けられる請求項7に記載の移行用樹脂組成物。
【請求項9】
床部を有する躯体と、該躯体に対して接合された防水シートと、該防水シートを被覆する移行層とを備える移行シート防水構造であって、
前記移行層は、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含み、前記塩化ビニル系樹脂と前記可塑剤との少なくとも一部が前記溶媒に溶解した状態で、前記防水シートに対して、前記可塑剤を移行させるために用いられ、
前記塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターをA[(cal/cm31/2]とし、前記溶媒の溶解パラメーターをB[(cal/cm31/2]としたとき、これらの差の絶対値|A-B|は、1.0≦|A-B|≦1.5なる関係を満足し、
前記溶媒は混合溶媒であり、該混合溶媒の組み合わせは、トルエン、酢酸イソブチルのうちの少なくとも1種と、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランのうちの少なくとも1種との組み合わせであることを特徴とする移行シート防水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移行用樹脂組成物および移行シート防水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の高耐久化が求められるに伴って、多くの建築物の屋上やベランダ等において、樹脂シートを敷設施工したシート防水構造が採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このシート防水構造では、例えば、屋上の床部と、床部の外縁に沿って立設して設けられた壁部との境界部に、この境界部の形状に対応して形成された、塩化ビニル系樹脂で被覆された鋼板(金属板)を配置し、この鋼板の少なくとも一部を、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する防水シートを用いて覆う構成となっており、これにより、屋上の境界部に対して防水が施される。
【0004】
ここで、防水が施工される屋上等の形状は、当然、様々である。そのため、前記鋼板としては、複数の種類の形状のものが予め用意され、実際に施工される屋上等の境界部の形状に合致するものが複数選択される。そして、これら鋼板は、前記境界部にその形状に対応して、隣接するもの同士に間隙が形成されるように並べられ、この状態で防水シートにより覆われる。
【0005】
このような構成のシート防水構造では、施工後に年月を経ると、日光や、雨水(泥水)に晒されることに起因して、防水シートから可塑剤が揮散し、その結果、防水シートの柔軟性が低下する。そのため、防水シートに応力が生じ、これにより、防水シートの防水性が低下する懸念が発生するという問題があった。
【0006】
この防水シートにおける応力の発生は、防水シートからの可塑剤の揮散によるため、例えば、特許文献2、3のように、防水シートに、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する移行用(保全補修用)シートを貼付することが提案されている。
【0007】
このように移行用シートを防水シートに貼付する構成とすることで、移行用シートに含まれる可塑剤を防水シートに移行(拡散)させることができるため、防水シートの柔軟性を優れたものに回復させることができる。その結果、防水シートにおける応力の発生を解消することができる。
【0008】
このように防水シートに、移行用シートを貼付する場合に限らず、防水シートに対して、可塑剤を効率よく移行させることができる、他の形態をなす構成のものの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-70877号公報
【文献】特開平8-207157号公報
【文献】特開2015-196947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、シート防水構造が備える防水シートに対して移行層を形成して、この移行層から効率よく可塑剤を移行させることができる移行用樹脂組成物、および、かかる移行層が形成された移行シート防水構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)~(9)に記載の本発明により達成される。
(1) 床部を有する躯体に対して接合された防水シートに対して、可塑剤を移行させるために用いられ、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含み、前記塩化ビニル系樹脂と前記可塑剤との少なくとも一部が前記溶媒に溶解している移行用樹脂組成物であり、
前記防水シートに塗布した後に乾燥させて、前記防水シートを被覆する移行層を形成することで、当該移行用樹脂組成物に含まれる可塑剤が、前記防水シートに移行するように構成され、
当該移行用樹脂組成物に含まれる塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターをA[(cal/cm31/2]とし、当該移行用樹脂組成物に含まれる溶媒の溶解パラメーターをB[(cal/cm31/2]としたとき、これらの差の絶対値|A-B|は、1.0≦|A-B|≦1.5なる関係を満足し、
前記溶媒は混合溶媒であり、該混合溶媒の組み合わせは、トルエン、酢酸イソブチルのうちの少なくとも1種と、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランのうちの少なくとも1種との組み合わせであることを特徴とする移行用樹脂組成物。
【0012】
(2) 前記溶解パラメーターAは、9.0(cal/cm31/2以上11.0(cal/cm31/2以下である上記(1)に記載の移行用樹脂組成物。
【0013】
(3) 最低の沸点を有する溶媒の沸点は、60℃以上であり、最高の沸点を有する溶媒の沸点は、125℃以下である上記(1)または(2)に記載の移行用樹脂組成物。
【0014】
(4) 当該移行用樹脂組成物は、さらに、粘度調整剤を含む上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の移行用樹脂組成物。
【0015】
(5) 当該移行用樹脂組成物は、クリーム状をなしている上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の移行用樹脂組成物。
【0016】
(6) 当該移行用樹脂組成物は、その粘度が5,500mPa以上9,500mPa以下である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の移行用樹脂組成物。
【0017】
(7) 前記躯体は、さらに、前記床部から立設する壁部を有し、前記防水シートは、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有しており、
前記躯体と、前記床部と前記壁部との境界部に、間隙を形成した状態で前記境界部に並んで配置された第1配置部材および第2配置部材と、前記第1配置部材と前記第2配置部材との双方の少なくとも一部を、前記間隙を包含した状態で被覆するように接合された前記防水シートと、を有するシート防水構造において、
当該移行用樹脂組成物は、前記防水シートを被覆する前記移行層を形成するために用いられる上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の移行用樹脂組成物。
【0018】
(8) 前記防水シートは、前記間隙に対応した位置に、その劣化に伴う凸部を備えており、前記凸部に対応して、前記移行層が設けられる上記(7)に記載の移行用樹脂組成物。
【0019】
(9) 床部を有する躯体と、該躯体に対して接合された防水シートと、該防水シートを被覆する移行層とを備える移行シート防水構造であって、
前記移行層は、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含み、前記塩化ビニル系樹脂と前記可塑剤との少なくとも一部が前記溶媒に溶解した状態で、前記防水シートに対して、前記可塑剤を移行させるために用いられ、
前記塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターをA[(cal/cm31/2]とし、前記溶媒の溶解パラメーターをB[(cal/cm31/2]としたとき、これらの差の絶対値|A-B|は、1.0≦|A-B|≦1.5なる関係を満足し、
前記溶媒は混合溶媒であり、該混合溶媒の組み合わせは、トルエン、酢酸イソブチルのうちの少なくとも1種と、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランのうちの少なくとも1種との組み合わせであることを特徴とする移行シート防水構造。
【発明の効果】
【0020】
本発明の移行用樹脂組成物によれば、シート防水構造が備える、可塑剤が揮散した防水シートに対して、効率よく可塑剤を移行させることができる移行層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】躯体に施工されたシート防水構造が備える防水シートに移行層が形成された移行シート防水構造を部分的に取り出した部分斜視図である。
図2図1に示す移行シート防水構造のA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の移行用樹脂組成物および移行シート防水構造を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】
まず、本発明の移行用樹脂組成物を説明するのに先立って、本発明の移行用樹脂組成物を用いて形成された移行層によりシート防水構造が保全補修された移行シート防水構造(本発明の移行シート防水構造)の一例について説明する。
【0024】
<移行シート防水構造>
図1は、躯体に施工されたシート防水構造が備える防水シートに移行層が形成された移行シート防水構造を部分的に取り出した部分斜視図、図2は、図1に示す移行シート防水構造のA-A線断面図である。なお、以下の説明では、図1図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、図1では、説明の便宜上、シート防水構造の全体を示すことなく、躯体が備える床部と壁部との境界部付近を部分的に図示している。
【0025】
以下では、屋上やベランダのような躯体100(構造体)に施工されたシート防水構造10が移行層1により保全補修された移行シート防水構造500を一例にして説明する。
【0026】
躯体100は、本実施形態では、図1に示すように、床部101と、この床部101の外縁を取り囲むように沿って立設して設けられた壁部102とを有している。
【0027】
シート防水構造10は、この躯体100、すなわち枠体をなす壁部102と、壁部102の底部を構成する床部101に対して施工されるものであり、防水シート20と、配置部材50とを有している。
【0028】
配置部材50は、床部101と壁部102との境界部103に沿って、複数のものが並んで配置され、この状態で、防水シート20は、隣接する配置部材50同士を跨ぐように覆っており、これにより、躯体100の境界部103における防水性が確保される。すなわち、躯体100の境界部103は、日光や雨水に晒されることで、ひび割れ等の亀裂が生じ易い位置であるが、この境界部103が日光や雨水に直接的に晒されることが防止されて、配置部材50および防水シート20が日光や雨水に晒されることになるため、躯体100の境界部103における防水性が確保される。
【0029】
配置部材50は、前述の通り、床部101と壁部102との境界部103付近に配置されるものである。
【0030】
この配置部材50は、表面が樹脂で被覆されている金属板(鋼板)からなり、図1に示すように、底部51と、立ち上がり面52とを有している。
底部51は、床部101を臨む平面視で、4つの辺で囲まれた長方形状をなしている。
【0031】
また、立ち上がり面52は、底部51の縁部、すなわち4つの辺のうちの一方の長辺から立設しており、壁部102を臨む平面視で、底部51が備える長辺と同じ長さを有する長辺を備える、4つの辺で囲まれた長方形状をなしている。
【0032】
これら底部51および立ち上がり面52は、それぞれ、境界部103に配置する際に、床部101および壁部102に対応するように位置設定される。
【0033】
本実施形態では、境界部103に沿うように、上記の構成をなす2つの配置部材50(第1配置部材および第2配置部材)が、間隙55を形成した状態で並んで配置されている。
【0034】
なお、本実施形態では、同一形状をなしている2つの配置部材50が境界部103に配置されているが、防水が施工される躯体100の形状は、当然、様々であることから、配置部材50としては、複数の種類の形状のものが予め用意され、実際に施工される躯体100が備える境界部103の形状に合致するものが複数選択される。そして、これら配置部材50は、前記境界部103にその形状に対応するように、間隙55を形成した状態で並べられる。
【0035】
また、配置部材50は、前述の通り、表面が樹脂で被覆されている金属板で構成される。このように、樹脂で被覆することで、金属板の腐食を確実に防止することができる。
【0036】
金属板としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼板、鉄板のような鋼板、アルミ板、銅板等が挙げられるが、鋼板であるのが好ましい。これにより、配置部材50を優れた強度を有するものとすることができる。
【0037】
また、金属板の厚さは、特に限定されないが、0.1mm以上3mm以下程度であるのが好ましく、0.3mm以上2.5mm以下程度であるのがより好ましい。
【0038】
樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、ポリ塩化ビニルであるのが好ましい。ポリ塩化ビニルは、溶剤溶着性や熱融着性に優れるため、金属板の腐食をより確実に防止することができる。
【0039】
また、樹脂により金属板を被覆する厚さは、特に限定されないが、0.03mm以上2mm以下程度であるのが好ましく、0.1mm以上0.7mm以下程度であるのがより好ましい。
【0040】
防水シート20は、図1に示すように、シート状(板状)をなし、隣接して配置された2つの配置部材50(第1配置部材および第2配置部材)を、これら同士の間に形成された間隙55を包含した状態で覆うものである。
【0041】
これにより、境界部103が日光や雨水に直接的に晒されることが防止されて、配置部材50および防水シート20が日光や雨水に晒されることになるため、躯体100の境界部103における防水性が確保される。
【0042】
このような防水シート20は、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する塩化ビニル系樹脂シートで構成される。このような構成の防水シート20によれば、防水シート20を加熱した状態で貼り合わせることにより、2つの配置部材50を、間隙55を跨いだ状態で防水シート20により覆うことができる。
【0043】
また、防水シート20の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1mm以上5mm以下程度であるのが好ましく、0.3mm以上2mm以下程度であるのがより好ましい。これにより、配置部材50とともに床部101と壁部102とを、防水シート20により確実に覆うことができる。
【0044】
さて、以上のような構成のシート防水構造10では、施工後に年月を経ると、日光や、雨水に晒されることにより、防水シート20から可塑剤が揮散する。そのため、防水シート20の柔軟性が低下することにより、防水シート20に防水シート20の劣化にともなう応力が生じる。
【0045】
ここで、本実施形態のような構成をなすシート防水構造10では、隣接する配置部材50同士の間に間隙55が形成され、防水シート20が配置部材50に接合されていないことに起因して、防水シート20に生じた応力により、防水シート20に、床部101の反対側に向かって突出する半球状をなす凸部25(突出部)が発生し、その結果、この凸部25周辺において、防水シート20の防水性が低下してしまう懸念が発生することがある。
【0046】
したがって、凸部25周辺において、防水シート20に揮散した可塑剤を再度供給することができれば、防水シート20の柔軟性を優れたものに回復させることができる。そのため、防水シート20における応力の発生を解消して、凸部25の高さを低く設定すること、すなわち凸部25に対応する位置での防水シート20の浮き量を低減することができる。
【0047】
そこで、本発明では、図1図2に示すように、可塑剤の揮散が認められる防水シート20に可塑剤を供給することを目的に、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒とを含む移行用樹脂組成物を、防水シート20に塗布した後に乾燥させることで、防水シート20の凸部25を包含する位置に、防水シート20を被覆する移行層1を形成する。
【0048】
上記のようにして、移行用樹脂組成物を用いて、凸部25を包含する位置に対応して防水シート20に移行層1を形成することで、この凸部25を包含する領域に位置する防水シート20に対して効率よく可塑剤を移行させることができる。そのため、防水シート20の柔軟性を回復させることができる。したがって、防水シート20における応力の発生を解消して、凸部25の高さを確実に低く設定すること、すなわち凸部25に対応する位置での防水シート20の浮き量を確実に低減することができる。
【0049】
また、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒とを含む移行用樹脂組成物を、防水シート20に塗布した後に乾燥させると言う比較的簡単な工程で、防水シート20の凸部25を包含する領域に移行層1を形成することができる。
【0050】
<移行用樹脂組成物>
この移行層1の形成に、本発明の移行用樹脂組成物が用いられる。
【0051】
本発明の移行用樹脂組成物は、防水シート20に対して、可塑剤を移行させるために用いられ、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含むものであり、移行用樹脂組成物に含まれる塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーター(SP値)をA[(cal/cm31/2]とし、移行用樹脂組成物に含まれる溶媒の溶解パラメーターをB[(cal/cm31/2]としたとき、これらの差の絶対値|A-B|は、|A-B|≦2.0なる関係を満足する。
【0052】
塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターAと溶媒の溶解パラメーターBとの差の絶対値|A-B|を前記範囲内に設定することにより、塩化ビニル系樹脂を溶媒中に優れた溶解性をもって溶解させることができる。そのため、移行用樹脂組成物を、クリーム状(ペースト状)をなすものとすることができる。したがって、移行用樹脂組成物を、防水シート20に塗布した後に乾燥させると言う比較的簡単な工程で、防水シート20の凸部25を包含する領域に確実に移行層1を形成することができる。そして、この移行層1から、移行用樹脂組成物に含まれる可塑剤を、防水シート20に効率よく移行させることができるため、防水シート20の柔軟性を回復させることができる。
【0053】
なお、本明細書における溶解パラメーター(SP値)は、ハンセン(Hansen)溶解パラメーターを表し、このハンセン(Hansen)溶解パラメーターは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解パラメーターを、分散項δD,極性項δP,および水素結合項δHの3成分に分割し、3次元空間に表したものである。
【0054】
分散項δDは、分散力による効果、極性項δPは、双極子間力による効果、さらに水素結合項δHは、水素結合力による効果を示す。
δD: 分子間の分散力に由来するエネルギー
δP: 分子間の極性力に由来するエネルギー
δH: 分子間の水素結合力に由来するエネルギー
で表すことができる(なお、それぞれの単位はMPa0.5である。)。
【0055】
ヒルデブランド(Hildebrand)のSP値と、ハンセン(Hansen)のHSPの間には、以下に示す関係が認められる。
ヒルデブランドのSP2=δD2+δP2+δH2
【0056】
また、HSPの定義と計算は、Charles M.Hansen著、Hansen Solubility Parameters: A Users Handbook(CRCプレス,2007年)に記載されている。
【0057】
ここで、それぞれ、分散項はファンデルワールス力、極性項はダイポール・モーメント、水素結合項は水、アルコールなどによる作用を反映している。また、HSPによるベクトルが似ているもの同士は溶解性が高いと判断できる。
【0058】
HSP距離(Ra)は、例えば、溶質(塩化ビニル系樹脂)のHSPを(δD,δP,δH)とし、溶媒のHSPを(δD,δP,δH)としたとき、下記の式により算出することができる。
【0059】
HSP距離(Ra)=
{4×(δD-δD+(δP-δP+(δH-δH0.5
【0060】
また、混合溶媒のハンセンのHSPは、混合比率として体積を用いて、下記の式により算出することができる。
【0061】
[δDm,δPm,δHm]=
[(a×(δD+b×δD),(a×(δP+b×δP),(a×(δH+b×δH)]/(a+b)
【0062】
以下、以上のような構成をなす、本発明の移行用樹脂組成物に含まれる各種構成材料について説明する。本発明の移行用樹脂組成物は、前述の通り、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含有する。
【0063】
(a)塩化ビニル系樹脂
塩化ビニル系樹脂は、移行用樹脂組成物を防水シート20に塗布した後に乾燥させた際に、その乾燥物すなわち移行層1を、層状をなすものとするために、移行用樹脂組成物の主材料として、移行用樹脂組成物中に含まれるものである。
【0064】
この塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルを含む重合体、すなわちオリゴマー、プレポリマーおよびポリマーであれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニルの単量重合体、または塩化ビニルと、酢酸ビニル、エチレン、もしくはプロピレン等との共重合体、およびこれらの2種以上の重合体の混合物等が挙げられる。これらのものを塩化ビニル系樹脂として用いることにより、移行用樹脂組成物を用いて形成された移行層1から、移行層1中に含まれる可塑剤を、防水シート20側に確実に移行させることができるようになる。また、塩化ビニル系樹脂は、これらの中でも、特に、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体であることが好ましい。これにより、移行用樹脂組成物における、塩化ビニル系樹脂の溶解性の向上を図ることができるとともに、塩化ビニル系樹脂の高粘度化を図ることができる。さらに、形成される移行層1中での、可塑剤の保持性を向上させることができる。
【0065】
この塩化ビニル系樹脂は、その溶解パラメーターAが9.0(cal/cm31/2以上11.0(cal/cm31/2以下であることが好ましく、9.5(cal/cm31/2以上10.5(cal/cm31/2以下であることがより好ましい。これにより、差の絶対値|A-B|を、|A-B|≦2.0なる関係を満足するものに、比較的容易に設定することができる。
【0066】
また、移行用樹脂組成物における塩化ビニル系樹脂の含有量は、3wt%以上20wt%以下であることが好ましく、5wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。塩化ビニル系樹脂の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行用樹脂組成物を用いて、層状をなす移行層1を、確実に形成することができる。また、移行用樹脂組成物を用いて形成された移行層1から、移行層1中に含まれる可塑剤を、防水シート20側に確実に移行させることができる。
【0067】
(b)可塑剤
可塑剤は、移行用樹脂組成物を防水シート20に塗布した後に乾燥させることで形成された移行層1から、防水シート20に移行させるものとして含有されるものである。
【0068】
この可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、DOP(ジオクチルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)、DIBP(ジイソブチルフタレート)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DHP(ジヘプチルフタレート)のようなフタル酸エステル系可塑剤、DOA(ジ-2-エチルヘキシルアジペート)、DIDA(ジイソデシルアジペート)、DOS(ジ-2-エチルヘキシルセバセート)のような脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、エチレングリコールのベンゾエート類のような芳香族カルボン酸エステル系可塑剤、およびTOTM(トリオクチルトリメリテート)のようなトリメリット酸エステル系可塑剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのものを可塑剤として用いることで、可塑剤が移行層1から防水シート20に移行した際に、低下した防水シート20の柔軟性を確実に再度向上させることができる。
【0069】
この可塑剤は、その溶解パラメーター(SP値)が、8.0(cal/cm31/2以上10.0(cal/cm31/2以下であることが好ましく、8.5(cal/cm31/2以上9.5(cal/cm31/2以下であることがより好ましい。これにより、移行用樹脂組成物において、塩化ビニル系樹脂ばかりでなく可塑剤をも、溶媒中に優れた溶解性をもって溶解させることができる。
【0070】
また、移行用樹脂組成物における可塑剤の含有量は、20wt%以上50wt%以下であることが好ましく、30wt%以上40wt%以下であることがより好ましい。可塑剤の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行用樹脂組成物を用いて形成された移行層1中から防水シート20側に可塑剤を、確実に移行させることができる。
【0071】
(c)溶媒
溶媒は、移行用樹脂組成物に含有し、塩化ビニル系樹脂を溶解することで、移行用樹脂組成物をクリーム状(ペースト状)とするために含有されるものである。
【0072】
この溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n-ヘキサン、トルエン、o-キシレンのような炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノンのようなケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸イソブチルのようなエステル系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)のようなエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、1-プロパノールのようなアルコール系溶媒が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのものを溶媒として用いることで、移行用樹脂組成物中において、塩化ビニル系樹脂を溶解させて、移行用樹脂組成物を、クリーム状(ペースト状)をなすものとし得る。
【0073】
この溶媒は、その溶解パラメーターBが、7.5(cal/cm31/2以上10.5(cal/cm31/2以下であることが好ましく、8.5(cal/cm31/2以上9.5(cal/cm31/2以下であることがより好ましい。これにより、差の絶対値|A-B|を、|A-B|≦2.0なる関係を満足するものに、比較的容易に設定することができ、かつ、移行用樹脂組成物を乾燥させることで得られる移行層1を、防水シート20に対して適度な密着性を発揮するものとして形成することができる。
【0074】
また、溶媒は、混合溶媒であり、最低の沸点を有する溶媒の沸点が好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上であり、最高の沸点を有する溶媒の沸点が好ましくは125℃以下、より好ましくは120℃以下であるものが選択される。これにより、移行用樹脂組成物を乾燥させる前には、移行用樹脂組成物をより確実にクリーム状をなすものとすることができ、かつ、移行用樹脂組成物を乾燥させることで得られる移行層1を、防水シート20に対して優れた密着性を発揮するものとして形成することができる。
【0075】
以上のような溶解パラメーターBおよび混合溶媒の沸点の関係を考慮すると、溶媒の具体的な組み合わせとしては、例えば、トルエン、酢酸イソブチルのうちの少なくとも1種と、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランのうちの少なくとも1種との組み合わせが挙げられ、環境への安全性を考慮すると、テトラヒドロフランと、酢酸イソブチルとの組み合わせが挙げられる。
【0076】
また、移行用樹脂組成物における溶媒の含有量は、20wt%以上50wt%以下であることが好ましく、30wt%以上40wt%以下であることがより好ましい。溶媒の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行用樹脂組成物中に、塩化ビニル系樹脂を溶解させることができる。また、移行用樹脂組成物を用いて、層状をなす移行層1を、確実に形成することができる。
【0077】
(d)粘度調整剤
また、移行用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤および溶媒の他に、さらに、粘度調整剤を含有することが好ましい。
【0078】
移行用樹脂組成物に粘度調整剤が含まれることで、移行用樹脂組成物の粘度を適切な範囲内に設定して、移行用樹脂組成物を、確実にクリーム状をなすものとすることができる。
【0079】
この粘度調整剤としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、炭酸カルシウムであることが好ましい。これにより、移行用樹脂組成物の高粘度化を確実に図ることができる。
【0080】
また、粘度調整剤は、粒子状をなし、その平均粒径が0.5μm以上20μm以下であることが好ましく、0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。平均粒径を前記範囲内に設定することにより、移行用樹脂組成物中における粘度調整剤の分散性の向上を図ることができる。
【0081】
また、移行用樹脂組成物における粘度調整剤の含有量は、5wt%以上20wt%以下であることが好ましく、10wt%以上15wt%以下であることがより好ましい。粘度調整剤の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行用樹脂組成物の粘度を比較的容易に適切な範囲内に設定することができる。
【0082】
さらに、移行用樹脂組成物には、上述した各構成材料の他、安定剤、安定助剤、紫外線吸収剤、着色剤、滑剤等を添加するようにしてもよい。
【0083】
なお、安定剤としては、例えば、グリシン亜鉛等が挙げられ、この場合の安定助剤としては、例えば、リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリキシリル(TXP)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリ-2-エチルヘキシル、リン酸2-エチルヘキシル・ジフェニルのような有機リン酸エステル等が挙げられる。
【0084】
このような移行用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターAと、溶媒の溶解パラメーターBとの差の絶対値|A-B|が、|A-B|≦2.0なる関係を満足すればよいが、0.8≦|A-B|≦1.7なる関係を満足するのが好ましく、1.0≦|A-B|≦1.5なる関係を満足するのがさらに好ましい。これにより、塩化ビニル系樹脂を溶媒中により優れた溶解性をもって溶解させることができるため、移行用樹脂組成物を、より優れたクリーム状をなすものとすることができ、さらに塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターAと溶媒の溶解パラメーターBの差が小さすぎないため、移行層と凸部を備える防水シートを剥離することが可能となる。
【0085】
また、移行用樹脂組成物を、クリーム状をなすものとしたとき、移行用樹脂組成物の粘度は、5,500mPa以上9,500mPa以下であることが好ましく、6,500mPa以上7,500mPa以下であることがより好ましい。これにより、移行用樹脂組成物の防水シート20に対する供給を、比較的容易に実施することが可能となり、防水シート20に形成された凸部25の形状に、防水シート20に供給された移行用樹脂組成物を追従させることができる。そのため、移行用樹脂組成物を乾燥させることにより形成される移行層1をも、凸部25の形状に追従したものとして成膜することができる。
【0086】
さらに、移行用樹脂組成物を乾燥させることにより形成される移行層1は、その厚さが凸部25に対応しない領域において、0.5mm以上2mm以下であることが好ましく、1mm以上2mm以下であることがより好ましい。これにより、凸部25に対応する領域においても、この凸部25により、移行層1が破断されることなく、層状をなすものとして、移行層1を形成することができ、かつ、移行層1中から防水シート20側に可塑剤を、確実に移行させることができる。
【0087】
また、この移行層1は、上記の通り、移行用樹脂組成物を乾燥させることにより形成されるが、その防水シート20に対する密着力は、人の手による引き剥がしにより、比較的容易に剥離し得る程度の大きさに設定される。そのため、移行層1の形成の後に、凸部25に対応する位置において、防水シート20の浮き量が低減されたことを確認した時点で移行層1を引き剥がし、その後、背景技術で説明したような移行用シートを防水シート20に貼付することもできる。換言すれば、移行層1は、移行用シートを貼付する前に、防水シート20の劣化の程度を低減させる応急処置用の補修層であると言うことができる。
【0088】
なお、本実施形態では、2つの配置部材50同士間における間隙55に対応する位置において、防水シート20に形成された凸部25を覆うように移行層1を設けて、移行層1に含まれる可塑剤を防水シート20に移行させることで凸部25の高さを低減する場合について説明したが、移行層1を設ける位置は、この場合に限定されない。具体的には、例えば、凸部25が形成される前に、間隙55に対応する位置の防水シート20に移行層1を形成してもよいし、さらには、配置部材50を覆うことなく床部101を直接被覆している位置の防水シート20に移行層1を形成してもよい。これらの場合についても、移行層1に含まれる可塑剤を防水シート20に移行させ、防水シート20の柔軟性を回復させること、すなわち、防水シート20の劣化を低減させることができる。
【0089】
以上、本発明の移行用樹脂組成物および移行シート防水構造について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0090】
例えば、本発明の移行シート防水構造において、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することができる。
【実施例
【0091】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
なお、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0092】
1.原材料の準備
まず、実施例および比較例の移行用樹脂組成物の調製に用いた原材料を以下に示す。
【0093】
(塩化ビニル系樹脂)
塩化ビニル系樹脂として、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体(東ソー社製、「リューロンベスト952」、SP値:10.4(cal/cm31/2)を用意した。
【0094】
(可塑剤)
可塑剤として、DINP(ジェイプラス社製、SP値:8.9(cal/cm31/2)を用意した。
【0095】
(溶媒)
溶媒として、トルエン(三菱ケミカル社製、沸点:111℃、SP値:8.9(cal/cm31/2)、酢酸エチル(昭和電工社製、沸点:77℃、SP値:9.1(cal/cm31/2)、酢酸イソブチル(KHネオケム社製、沸点:118℃、SP値:8.3(cal/cm31/2)、MEK(丸善石油化学社製、沸点:80℃、SP値:9.3(cal/cm31/2)、THF(三菱ケミカル社製、沸点:66℃、SP値:9.5(cal/cm31/2)を用意した。
【0096】
(粘度調整剤)
粘度調整剤として、炭酸カルシウム(備北粉化工業社製、「ソフトン2200」、平均粒径:1μm)を用意した。
【0097】
(安定剤)
安定剤として、Ca-Zn系液状安定剤(ADEKA社製、「SC-32」)を用意した。
【0098】
(着色剤)
着色剤として、酸化チタン(石原産業社製、「R-680」)、カーボンブラック(三菱ケミカル社製、「三菱カーボンブラック#45」)を用意した。
【0099】
2.移行用樹脂組成物の調製
[実施例1]
まず、塩化ビニル系樹脂としての塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体(9.0wt%)と、可塑剤としてのDINP(36.0wt%)と、粘度調整剤としての炭酸カルシウム(14.0wt%)と、溶媒としてのトルエン(17.0wt%)およびTHF(19.0wt%)と、前記安定剤(4.0wt%)と、前記着色剤(1.0wt%)とを、ミキサーを用いて25℃で均一に混合することで、実施例1の移行用樹脂組成物を調製した。
【0100】
[実施例2~4、比較例1~5]
移行用樹脂組成物に含まれる溶媒の種類、およびその含有量を、表1に示すように変更したこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2~4、比較例1~5の移行用樹脂組成物を調製した。
【0101】
3.移行用樹脂組成物を用いた移行層1の防水シートへの成膜
次に、各実施例および各比較例の移行用樹脂組成物を用いて、それぞれ、凸部25を備える防水シート20に対して、移行層1を成膜した。
【0102】
より詳しくは、直径φ23mm、防水シート20の浮き量4mmの半球状をなす凸部25を有する防水シート20を備える図1に示すようなシート防水構造10を用意し、このシート防水構造10における、防水シート20に対して、各実施例および各比較例の移行用樹脂組成物を塗布した後に乾燥させることで、凸部25に対応するように、防水シート20を被覆する、平均厚さ2mmの移行層1を成膜することで、移行シート防水構造500を得た。
【0103】
なお、防水シート20としては、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して可塑剤が50重量部含まれるものを用いた。また、防水シート20に対する凸部25の形成は、防水シート20に対してブチルテープを貼り付けた後、80℃のオーブンで3日間処理して可塑剤を抽出することにより、可塑剤残存率を70%とすることで実施した。
【0104】
4.評価
各実施例の移行用樹脂組成物を用いて形成された移行層1について、以下の方法を用いて、凸部25における防水シート20の浮き量の低減効果を評価した。
【0105】
<凸部25における防水シート20の浮き量の低減効果>
各実施例の移行用樹脂組成物を用いて、凸部25を備える防水シート20に対して形成された移行層1について、温度80℃で、1週間保管した後に、それぞれ、凸部25における、防水シート20の浮き量を測定し、下記に示す評価基準に基づいて、凸部25における防水シート20の浮き量の低減効果を評価した。その評価結果を表1に示す。
【0106】
[評価基準]
◎:防水シート20の浮き量が3mm未満であり、
明らかな浮き量の低減効果が認められた
○:防水シート20の浮き量が3mm以上4mm未満であり、
浮き量の低減効果が認められた
×:防水シート20の浮き量が4mmであり、浮き量の低減効果が認められなかった
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示すように、各実施例では、差の絶対値|A-B|の大きさが2.0以下に設定され、これにより、移行用樹脂組成物がクリーム状をなしていることから、凸部25が形成された防水シート20に対して移行層1を形成することができた。そして、この移行層1から、防水シート20に対して可塑剤を移行させることができ、その結果、凸部25に対応する位置での防水シート20の浮き量が低減される結果が得られた。
【0109】
これに対して、各比較例では、差の絶対値|A-B|の大きさを2.0以下に設定することができないことに起因して、浮き量の低減効果が認められなかった。
【符号の説明】
【0110】
1 移行層
10 シート防水構造
20 防水シート
25 凸部
50 配置部材
51 底部
52 立ち上がり面
55 間隙
100 躯体
101 床部
102 壁部
103 境界部
500 移行シート防水構造
図1
図2