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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】均し機能付き刻印装置および刻印方法
(51)【国際特許分類】
   B41K 3/36 20060101AFI20230526BHJP
   B44B 5/00 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
B41K3/36 D
B44B5/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019156827
(22)【出願日】2019-08-29
(65)【公開番号】P2021030693
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】502134292
【氏名又は名称】ベクトル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 信行
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】独国特許発明第000010354258(DE,B3)
【文献】特表2009-538750(JP,A)
【文献】特開2013-233654(JP,A)
【文献】実開平03-057430(JP,U)
【文献】特開2017-209827(JP,A)
【文献】特開2003-231150(JP,A)
【文献】特開平10-264161(JP,A)
【文献】米国特許第04883291(US,A)
【文献】国際公開第2005/050534(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41K 3/36
B44B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーと、該シリンダーの内部に収容された円筒状の電磁コイルと、この電磁コイルによって形成された磁界により電磁コイル内側の移動空間に沿って駆動される鉄心と、前記シリンダーの先端部に設けられた軸受部と、前記鉄心の先端部に取り付けられて前記軸受部を挿通したスタイラスを有する刻印機が複数、1つのベースに一体的に取り付けられ、
前記複数の刻印機のうち、少なくとも1つの刻印機のスタイラスが先端に平坦部を有する均し機能用スタイラスであり、他の少なくとも1つの刻印機のスタイラスが先端に尖塔部を有する刻印用スタイラスであり、前記均し機能用スタイラスを有する刻印機と前記刻印用スタイラスを有する刻印機が個別に駆動自在とされ
前記均し機能用スタイラスを備えた刻印機が、前記刻印用スタイラスを備えた刻印機による刻印に刻印ミスを生じた後、前記刻印ミスを生じたワークの刻印面を均して刻印を消去する機能を有し、前記消去後に前記刻印用スタイラスを備えた刻印機が、前記ワークの刻印消去部分に再刻印する機能を有することを特徴とする均し機能付き刻印機。
【請求項2】
前記均し機能用スタイラスを備えた刻印機と、前記刻印用スタイラスを備えた刻印機を一体化したベースが3次元移動可能に支持されたことを特徴とする請求項1に記載の均し機能付き刻印機。
【請求項3】
前記均し機能用スタイラスによりワークの未刻印面を均して均し加工領域を形成した後、前記刻印用スタイラスを備えた刻印機により前記均し加工領域に刻印する機能を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の均し機能付き刻印機。
【請求項4】
シリンダーと、該シリンダーの内部に収容された円筒状の電磁コイルと、この電磁コイルによって形成された磁界により電磁コイル内側の移動空間に沿って駆動される鉄心と、前記シリンダーの先端部に設けられた軸受部と、前記鉄心の先端部に取り付けられて前記軸受部を挿通したスタイラスを有する刻印機が複数、1つのベースに一体的に取り付けられ、
前記複数の刻印機のうち、少なくとも1つの刻印機のスタイラスが先端に平坦部を有する均し機能用スタイラスであり、他の少なくとも1つの刻印機のスタイラスが先端に尖塔部を有する刻印用スタイラスであり、前記均し機能用スタイラスを有する刻印機と前記刻印用スタイラスを有する刻印機が個別に駆動自在とされた均し機能付き刻印機を用いて行う刻印方法であって、
刻印用スタイラスを用いて金属製ワークの刻印面に刻印し、該刻印の一部に刻印ミスを生じた場合、前記ワークの刻印面において前記刻印ミスの部分に前記均し機能用スタイラスを打ち付けて刻印面を均して刻印を消去し、刻印を消去した部分に対し前記刻印用スタイラスを用いて再刻印することを特徴とする刻印方法。
【請求項5】
請求項4に記載の刻印方法において、金属製ワークの刻印面に対し、前記均し用スタイラスを打ち付けて前記刻印面に均し加工領域を形成し、この均し加工領域に対し前記刻印用スタイラスを用いて刻印することを特徴とする刻印方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均し機能付き刻印装置および刻印方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や建設機械などの自動化された工場において、ロット番号等の英数字や合いマークの刻印を行うためにマーキング装置が使用されている。例えば下記の特許文献1には、往復運動するピストンと、このピストンの往復運動に追従して先端部でワーク表面を打刻するスタイラスを備えた刻印機が開示されている。
【0003】
特許文献1には、シリンダーと、シリンダー内で往復運動するピストンと、ピストンを基端側に付勢する弾性部材と、このピストンの往復運動に追従して先端部でワークの表面を打刻するスタイラスを備えたマーキング装置が開示されている。
このマーキング装置を用いて金属やプラスチックからなるワークの表面に印字を行うには、ピストンおよびスタイラスを振動させてワーク表面の規定位置に点打刻を行い、このスタイラスを振動ペンごと移動させながら必要な位置毎に打刻を繰り返す。この操作により、ワークの表面の必要な位置に文字、数字、記号などをマーキングすることができる。 また、スタイラスを一ヵ所で振動させるとその部分にドットが形成されるので、そのドットを所定のパターンになるように複数形成することにより、いわゆる二次元コードを形成することができる。
【0004】
図9は、従来の一般的な電磁式刻印機Dの一例を示すが、シリンダー100の内周部に駆動用の電磁コイル101が設けられ、この電磁コイル101によって円柱状の鉄心102が駆動される。電磁コイル101の内側に筒状の軸受け103が設置され、軸受け103の内側に摺動自在に鉄心102が支持されている。
シリンダー100の先端側に軸受け部材105が設けられ、鉄心102の先端側にロッド状のスタイラス106が取り付けられ、スタイラス106の先端部が軸受け部材105の先方に突出されている。このスタイラス106の先端部がワーク107に対向され、ワーク107の表面に打刻できるようになっている。
【0005】
鉄心102は駆動回路108に接続され、駆動回路108からの制御信号によって鉄心102への通電が制御される。
シリンダー100の先端側にはスタイラス106に戻り力を作用させるための圧縮ばね110が収容され、圧縮ばね110により鉄心102に対しスタイラス106を従属動作させることでスタイラス106を往復駆動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-99798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図9に示す刻印機Dを数値制御可能な3軸(XYZ軸)ステージ機構で支持し、スタイラス106による打刻位置を移動することにより、図10に示すワーク107の表面に複数の凹部108を形成し、凹部108の集合により文字あるいは二次元コードなどの図柄を刻印することができる。
ところで、図9図10に示す従来の刻印機Dは多数の文字や二次元コードなどをワークに連続的に刻印するが、ワーク107が金属製の鋳物などからなり、鋳肌表面の粗さに応じ表面に多数の凹凸が存在する場合、刻印により形成した凹部108を読み取り装置が十分に読み込みできず、読み込みエラーを生じる場合があった。
また、刻印機Dで刻印した内容にミスを生じた場合、文字あるいは二次元バーコードなどの刻印内容を修正する必要を生じるが、従来の刻印機Dは一度形成した刻印内容を修正する機能は有していなかった。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みなされたものであり、刻印面が凹凸の大きな粗面であっても、支障なく読み取り判別可能な明確な刻印ができるとともに、一度刻印した内容に刻印ミスを生じていた場合、刻印内容の打ち直しが可能な刻印装置および刻印方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
(1)本発明に係る刻印装置は、シリンダーと、該シリンダーの内部に収容された円筒状の電磁コイルと、この電磁コイルによって形成された磁界により電磁コイル内側の移動空間に沿って駆動される鉄心と、前記シリンダーの先端部に設けられた軸受部と、前記鉄心の先端部に取り付けられて前記軸受部を挿通したスタイラスを有する刻印機が複数、1つのベースに一体的に取り付けられ、前記複数の刻印機のうち、少なくとも1つの刻印機のスタイラスが先端に平坦部を有する均し機能用スタイラスであり、他の少なくとも1つの刻印機のスタイラスが先端に尖塔部を有する刻印用スタイラスであり、前記均し機能用スタイラスを有する刻印機と前記刻印用スタイラスを有する刻印機が個別に駆動自在とされ、前記均し機能用スタイラスを備えた刻印機が、前記刻印用スタイラスを備えた刻印機による刻印に刻印ミスを生じた後、前記刻印ミスを生じたワークの刻印面を均して刻印を消去する機能を有し、前記消去後に前記刻印用スタイラスを備えた刻印機が、前記ワークの刻印消去部分に再刻印する機能を有することを特徴とする。
【0010】
個別駆動自在であり、均し機能用スタイラスを備えた刻印機と刻印用スタイラスを備えた刻印機を有するので、均し機能用スタイラスを備えた刻印機でワークの表面を均して刻印面を平坦化した後、刻印用スタイラスを備えた刻印機で目的の刻印ができる。仮に、ワークが金属の鋳造品などのように表面に多数の凹凸が存在し、表面が粗いワークであっても、刻印面を平坦化して滑らかとした上に刻印ができる。このため、鮮明な刻印を形成可能であり、読み取り装置で読み取りミスを引き起こすことのない正確な読み取りができる刻印を形成できる効果がある。
また、刻印用スタイラスを備えた刻印機が刻印ミスを起こした場合、刻印ミスの部分を均し機能用スタイラスで均し、再度の刻印ができる。この機能は、金属製ワークなどのように塑性変形により、刻印面の平坦化が可能なワークに好適であり、刻印ミスを生じたとして再刻印が可能となる。
【0011】
(2)本発明に係る刻印機において、前記均し機能用スタイラスを備えた刻印機と、前記刻印用スタイラスを備えた刻印機を一体化したベースが3次元移動可能に支持されたことが好ましい。
【0012】
(3)本発明に係る刻印機において、前記均し機能用スタイラスによりワークの未刻印面を均した後、前記刻印用スタイラスを備えた刻印機により刻印する機能を有することが好ましい。
均し機能用スタイラスによる均し動作後、刻印用スタイラスを備えた刻印機による刻印ができる。仮に、表面に多数の凹凸があって表面が粗面のワークであっても、刻印面を平坦化して滑らかとした上に刻印ができる。このため、鮮明な刻印が可能であり、読み取り装置で読み取り誤差を引き起こすことのない正確な読み取りができる刻印をワークに形成できる効果がある。
【0013】
(4)シリンダーと、該シリンダーの内部に収容された円筒状の電磁コイルと、この電磁コイルによって形成された磁界により電磁コイル内側の移動空間に沿って駆動される鉄心と、前記シリンダーの先端部に設けられた軸受部と、前記鉄心の先端部に取り付けられて前記軸受部を挿通したスタイラスを有する刻印機が複数、1つのベースに一体的に取り付けられ、前記複数の刻印機のうち、少なくとも1つの刻印機のスタイラスが先端に平坦部を有する均し機能用スタイラスであり、他の少なくとも1つの刻印機のスタイラスが先端に尖塔部を有する刻印用スタイラスであり、前記均し機能用スタイラスを有する刻印機と前記刻印用スタイラスを有する刻印機が個別に駆動自在とされた均し機能付き刻印機を用いて行う刻印方法であって、刻印用スタイラスを用いて金属製ワークの刻印面に刻印し、該刻印の一部に刻印ミスを生じた場合、前記ワークの刻印面において前記刻印ミスの部分に前記均し機能用スタイラスを打ち付けて刻印面を均して刻印を消去し、刻印を消去した部分に対し前記刻印用スタイラスを用いて再刻印することを特徴とする。
(5)先の(4)に記載の刻印方法であって、金属製ワークの刻印面に対し、前記均し用スタイラスを打ち付けて前記刻印面に均し加工領域を形成し、この均し加工領域に対し前記刻印用スタイラスを用いて刻印することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、均し機能用スタイラスを備えた刻印機と刻印用スタイラスを備えた刻印機を有するので、均し機能用スタイラスを備えた刻印機でワークの表面を均して刻印面を平坦化した後、刻印用スタイラスを備えた刻印機で目的の刻印ができる。
仮に、表面に多数の凹凸があって表面が粗面のワークであっても、刻印面を平坦化して滑らかとした上に刻印ができる。このため、鮮明な刻印が可能であり、読み取り装置で読み取り誤差を引き起こすことのない正確な読み取りができる刻印をワークに形成できる効果がある。
また、刻印ミスを起こした場合、刻印ミスの部分を均し機能用スタイラスで均し、刻印用スタイラスで再度の刻印ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る刻印装置の概要を示す説明図。
図2】同刻印装置の内部構造と駆動系の一例を示す図。
図3】同刻印装置により刻印面を均した後に刻印する場合について、段階的に示す説明図であり、(a)は均し機能用スタイラスの駆動について示す図、(b)は均し機能用スタイラスにより均し動作を行っている状態を示す図、(c)は刻印用スタイラスにより刻印を行っている状態を示す図。
図4】同刻印機の駆動について刻印ミスを生じた後の動作を段階的に示す説明図であり、(a)は刻印用スタイラスの駆動について示す図、(b)は均し機能用スタイラスにより均し動作を行っている状態を示す図、(c)は刻印用スタイラスにより再度刻印を行っている状態を示す図。
図5】第1実施形態の刻印機を用いて鋳造品のワークに対し均し後に刻印した状態を拡大して示す写真。
図6】従来の刻印機を用いて粗い刻印面を有する鋳造品のワークに対し刻印した場合のワーク刻印面を拡大して示す写真。
図7】第1実施形態の刻印装置を用いて鋳造品のワークに対し均した部分と均していない部分をそれぞれ拡大して示すデジタルマイクロスコープ撮影画像。
図8】第1実施形態の刻印装置を用いてワークに対する刻印部分を修正した状態を示すもので、(a)は刻印ミスをした文字を示す拡大写真、(b)は刻印部分をならした状態を示す拡大写真、(c)は再刻印後の状態を示す拡大写真。
図9】従来の刻印機の一例を示す構成図。
図10】従来の刻印機によりワークに対し刻印を行っている状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る第1実施形態の刻印機について、図面を適宜参照しながら説明する。
図1図2は第1実施形態の均し機能付き刻印装置を示すもので、この実施形態の刻印装置Aは、図示略の3軸ステージ機構などの駆動機構により全体を水平方向のX軸方向とY軸方向に移動自在に、かつ、鉛直方向のZ軸方向に沿って移動自在に支持されている。
3軸ステージ機構はX軸とY軸とZ軸のそれぞれの軸に沿って移動自在にステージが設けられ、それらの各軸のステージを支持する支柱や支持体、アクチュエーターなどを備えて構成される公知の駆動機構である。
各軸をスクリュウ軸としてスクリュウ軸に沿ってステージが移動される機構、各軸に取り付けられたリニアアクチュエーターによってステージが移動される機構など公知の種々の機構があるが、本実施形態では刻印機AをX軸方向とY軸方向とZ軸方向に3軸移動できる構造であれば、公知の範囲でいずれの構造の3軸ステージ機構を用いても良い。
XYZ軸に沿う方向に刻印機Aを移動するステージ機構は、XYZ軸に沿う方向それぞれ設けられた案内レールに刻印機を支持するステージ(架台)を備え、各ステージを案内レールに沿って移動自在に支持した一般的な3軸ステージ機構を広く採用することができる。具体的には、3軸ステージ機構によりベース1が支持され、このベース1の下面側に左右に隣接するように刻印用の刻印機A1と均し用の刻印機A2が取り付けられている。
【0017】
図1図2に示す第1実施形態の構成において、刻印機A1はベース1の下面側に下向きに円筒状のシリンダー2を有し、その下端部に刻印用のピン型のスタイラス3が着脱自在に取り付けられている。
シリンダー2の上端部にベース1が一体化され、シリンダー2の上部側が閉じられるとともに、下端部には小径部からなる軸受部6が形成されている。軸受部6の内部に厚肉筒型の軸受け部材7が設けられ、この軸受け部材7の貫通孔7aを通過して下方に突出するようにスタイラス3が設けられている。
【0018】
シリンダー2の内周部に筒型の電磁コイル8が設置され、この電磁コイル8の内周面に軸受筒9が装着されている。シリンダー2の上端部には天井壁10が形成されているが、天井壁10には電磁コイル8の内径と同一径の透孔10aが形成されていて、この透孔10aの位置まで軸受筒9の上端部が延在されている。
【0019】
天井壁10の上方に矩形ブロック状のベース1が装着されている。このベース1の底部側に電磁コイル8の内径と同一程度の内径を有する凹部12が形成され、軸受筒9に挿通された円柱状の鉄心13がこの凹部12に達するように収容されている。凹部12の内上部にはOリングなどの弾性を有するクッション部材15が収容されている。
ベース1には、凹部12の内側面に開口部16を有し、ケース部材15の周縁部下面に開口部17を有する上部通気孔18が形成されている。この上部通気孔18は凹部12の周囲を囲むようにケース部材15の底部側に複数、例えば4つ形成されている。上部通気孔18の開口部17は、ケース部材5の周縁部下面に開口されているが、この開口位置はシリンダー2の周壁より若干外側に配置されている。
【0020】
鉄心13の下端部には取付部20を介しスタイラス3が取り付けられ、スタイラス3の周囲にコイル型のばね部材21が巻装されている。このばね部材21は、圧縮コイルばねからなり、鉄心13が下降してスタイラス3を下方に所定長さ押し出した場合に軸受部材7に当接して縮小し、鉄心13に反力を与える。電磁コイル8からの電磁力により鉄心13が下降し、次いで電磁コイル8からの電磁力が解消された場合、ばね部材21の反発力により鉄心13は上方に押し戻され元の位置に復帰する。
スタイラス3の先端部3aは円錐形状に加工されている。スタイラス3は鉄心13に対し取付部20を介し着脱自在に取り付けられ、スタイラス3の先端部が摩耗した場合にスタイラス3を単独で交換できるように構成されている。スタイラス3は取付部20を介しばね部材21により取付部20を鉄心13に押し当てられ、必要に応じて交換できるようになっている。
【0021】
前記軸受部6の周壁においてその周回りの複数位置に下部通気孔22が形成されている。本実施形態において、下部通気孔22は周壁の周回りに等間隔で4つ設けられている。軸受部6において下部通気孔22はシリンダー2に近い部分に形成されている。
下部通気孔22において、軸受部6の内部側の開口部22aの形成位置が低く、軸受部6の外部側の開口部22bの形成位置が高く形成されている。即ち、下部通気孔22は斜め上向きに、換言すると、外側開口部22bはその上方のシリンダー2に向くように形成されている。
【0022】
刻印機A1において電磁コイル8に対し配線24を介し駆動回路25Aと制御回路25Bが接続されている。駆動回路25Aから電磁コイル8に通電することで磁界を発生させることができ、この磁界発生により鉄心13を軸受筒9に沿って所定距離下降させることができる。
鉄心13が下降することでスタイラス3も下降する。鉄心13が下降するとばね部材21を圧縮するので鉄心13に反力が作用する。ここで駆動回路25Aから電磁コイル8への通電を停止すると、ばね部材21の反力により鉄心13は元の位置に戻り、スタイラス3も元の位置に戻る。駆動回路25Aから、例えば矩形波を印加するとスタイラス3は上下に所定距離間欠的に移動するので、先のバネ部材21の作用も相俟ってスタイラス3を上下方向に振動させることができる。
【0023】
なお、図1図2ではワークWの被刻印面が単純な平面形状として描かれているが、ワークは機械部品であれば種々の形状の立体形であるので、平面に限らず、円周面や凹凸を有する立体面であるが、説明の簡略化のために図では平面状に描いている。例えば、ワークがコンロッドやピストンなどの機械部品であれば被刻印面は円周面や曲面となる場合がある。
【0024】
刻印機A1はスタイラス3の先端部3aをその下方に設置されたワークWの被刻印面に打ち付けることにより100μφ程度のドット形状をワークWに打刻することができ、3軸ステージ機構によってワークの被刻印面に対するドット形状の打刻位置を順次変更することで文字や二次元コードなどの刻印ができるようになっている。一例として図1などに示すように打刻したドットの集合体として、アルファベットの文字を刻印することができる。
【0025】
一方、均し機能を有する刻印機A2は、先端に平坦部5aを有する均し機能用スタイラス5を有している点が刻印機A1と異なる。その他の構成において、刻印機A1と刻印機A2は同等の構成であるので、同一構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明を略する。
先のスタイラス3は、超硬合金や工具鋼などのように硬質であり、耐摩耗性に優れた金属材料からなるが、スタイラス5も同様に超硬合金や工具鋼などのように硬質であり、耐摩耗性に優れた金属材料からなる。ただし、スタイラス5は先端に平坦部5aを有するので、このスタイラス5によって刻印面の均し作業を行うことができる。
【0026】
刻印機A2の電磁コイル8に対し配線26を介し駆動回路25Dと制御回路25Bが接続されている。制御回路25Bの命令により駆動回路25Dから電磁コイル8に通電することで磁界を発生させることができ、この磁界発生により鉄心13を軸受筒9に沿って所定距離下降させることができる。
鉄心13が下降することでスタイラス5も下降する。鉄心13が下降するとばね部材21を圧縮するので鉄心13に反力が作用する。ここで駆動回路25Dから電磁コイル8への通電を停止すると、ばね部材21の反力により鉄心13は元の位置に戻り、スタイラス5も元の位置に戻る。駆動回路25Dから、例えば矩形波を印加するとスタイラス5は上下に所定距離間欠的に移動するので、ばね部材21の作用も相俟ってスタイラス5を上下方向に振動させることができる。
【0027】
<刻印面の均し機能>
刻印機A1によってワークWの刻印面に刻印する場合、ワークWが鋳造品などのように表面に微小凹凸が存在する表面の粗いワークである場合、図3(a)、(b)に示すように最初に刻印機A2を用いてワークWの刻印面にスタイラス5の平坦部5aを打ち付けてワークWの刻印するべき領域に図3(b)に示すように凹凸の少ない平面状の均し加工領域W1を形成する。
均し加工領域W1を形成後、3軸ステージ機構により図3(c)に示すように刻印機A1を均し加工領域W1の上方に移動させ、制御回路25からの指令に応じ駆動回路25Aから駆動信号を刻印機A1の電磁コイル8に送ることでスタイラス3を振動させ、ドットを複数打刻することにより、文字や二次元コードなどの情報を均し加工領域W1に形成することができる。
なお、スタイラス5の平坦部5aによって均し加工領域W1を形成すると、ワークWが金属からなる場合、均し加工領域W1は表面の硬度が向上する。硬度を向上させた均し加工域W1にスタイラス3により打刻を行ってドットを形成すると、刻印された文字や二次元コードは型崩れのない綺麗なドットからなる鮮明な文字や二次元コードを形成することができる。
【0028】
図4は、刻印機A1と刻印機A2を用いて刻印する場合、刻印ミスを生じた場合に打ち直しを行う例について示す説明図である。
図4(a)に示すようにワークWの刻印面に打刻を行って文字などの情報を打刻した後、描いた情報に誤りが見つかった場合、該当打刻領域に対し、図4(b)に示すように打刻機A2のスタイラス5の平坦部5aを打ち付けて打刻領域を均し、該当打刻情報を消去する。
次に、情報を消去した打刻領域に対し、打刻機A1のスタイラス3を用いて再度正確な情報に基づき打刻を行って必要な情報を打刻することができる。
【実施例
【0029】
図2に示す構成であり、シリンダー2の内壁部に274回巻きコイルを有する電磁コイル8を備え、JIS規定SUM23からなる円柱状の鉄心13を用いた刻印機A1、A2を有する刻印装置を作製した。シリンダー2の内部で鉄心を上下方向に5mm振動させ、刻印機のスタイラス3による刻印を行った。刻印機の駆動条件として、24.5A/4.3ms通電ON、130ms通電OFFの条件とし、一方の刻印機の鉄心下端に超硬合金製の先端に尖塔部を有するピン形状の刻印用スタイラス3を取り付け、他方の刻印機には先端に平坦部を有する超硬合金製の円柱状の均し機能用スタイラス5を取り付けた。
【0030】
アルミニウム合金製鋳物のワークを用い、ワーク表面に均し機能用スタイラス5で均し加工領域を形成し、その均し加工領域に刻印用スタイラス3で刻印した結果を図5に一例として示す。
【0031】
図5は刻印機A2のスタイラス5を用いてワークに作成した均し加工領域に刻印機A1のスタイラス3を用いて内径0.65mmのドットからなる二次元コードを打刻した状態の一例を示す。また、図6はワークに均し加工を行うことなく直接刻印機A1を用いて刻印領域に二次元コードを打刻した状態の一例を示す。
図5図6に用いたワークは、アルミニウム合金の鋳造品であり、この鋳造品の鋳肌面に形成したドッドの集合体からなる二次元コードを示している。図5図6に示す刻印範囲は縦横13mm×13mm、ドットは約0.65mm径の穴であり、前記サイズの刻印範囲に16ドット×16ドットの打刻点を形成している。
図6に示すように鋳造品の鋳肌面が粗い場合、読み取り装置による二次元コードの読み取りに支障を来すことがあるが、図5に示すように均し加工領域W1に形成した二次元コードであるならば、十分に鮮明であり、読み取り装置が読み取りエラーなどを生じることはない。
【0032】
図7(a)は、図5に示す均し加工を行った領域と均し加工を行っていない領域の境界領域について、デジタルマイクロスコープで撮影した結果を示す。
図7(a)の横軸において0.0μm~1000μm近傍がアルミニウム合金鋳造品の鋳肌領域を示し、横軸において1000μm近傍~1786.2μm近傍が均し加工領域を示す。図7(b)に図7(a)の縦軸1000.0μmを示すラインに沿って測定した各部の深さを示すが、均し加工領域ではアルミニウム合金鋳物の表面を平坦な面に均すことができていることが明らかである。
【0033】
図8(a)はアルミニウム合金(A5052)の板材からなるの刻印面に対し、打刻機A1により内径0.65mmのドットを打刻してAの文字を描いた状態の一例を示す。
図8(b)はAの文字を打刻した情報が間違っていた場合、打刻機A2のスタイラス5による打刻を行って、刻印領域の表面を均し、刻印領域の情報を消去した状態の一例を示す。
図8(c)は情報を消去した刻印領域に対し、再度打刻機A1のスタイラス3によるドットの打刻を行ってCの文字を描いた状態の一例を示す。
打刻機A1のスタイラス3と打刻機A2のスタイラス5を用いて図8(a)~(c)に示すように打刻と消去と再打刻を行うことによって打刻ミスを生じた場合であっても、打刻情報の修正、打ち直しができることが明らかである。
【符号の説明】
【0034】
A1、A2…刻印機、2…シリンダー、3…刻印用スタイラス、5…均し機能用スタイラス、5a…平坦部、6…軸受部、7…軸受部材、8…電磁コイル、9…軸受筒、
12…凹部、13…鉄心、15…クッション部材、16、17…開口部、
18…上部通気孔、21…ばね部材、22…下部通気孔、25…駆動回路、
30…空気供給孔、31…空気供給源、34…凹部、35…スタイラスホルダ、
36…下部通気孔、36a、36b…開口部、38…通気溝、39…上部通気孔、
W…ワーク。
図1
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