(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】学習装置、学習方法、および測定装置
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20230526BHJP
G06N 3/09 20230101ALI20230526BHJP
A61B 5/352 20210101ALI20230526BHJP
A61B 5/346 20210101ALI20230526BHJP
【FI】
G06N20/00 130
G06N3/09
A61B5/352
A61B5/346
(21)【出願番号】P 2019208016
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【氏名又は名称】大山 夏子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆吾
(72)【発明者】
【氏名】河村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】名和 佑記
(72)【発明者】
【氏名】大竹 稔
(72)【発明者】
【氏名】廣田 哲也
【審査官】平井 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-102838(JP,A)
【文献】国際公開第2018/199031(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110037691(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 20/00-20
G06N 3/00- 3/126
A61B 5/352
A61B 5/346
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方式により取得され、時間の進行に沿って周期的に観察され得る反復区間と対応する時間長を有する第1のセンサデータを学習データとし、
前記第1の方式と比較してノイズの影響が少ない第2の方式により、前記第1のセンサデータに係る前記時間長の開始時点から規定の時間が経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて、
前記反復区間において観察の対象とする対象特徴点に係る出力を学習する学習部、
を備え、
前記規定の時間は、前記反復区間の開始時点から前記対象特徴点が出現すると予想される時点までの時間長に基づいて設定される、
学習装置。
【請求項2】
前記反復区間は、出現に関し前記対象特徴点と時間軸における規則性を有する、少なくとも一つの他の特徴点を含む、
請求項1に記載の学習装置。
【請求項3】
前記第1のセンサデータおよび前記第2のセンサデータは、被験者の心臓の活動を記録した心電波形である、
請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の学習装置。
【請求項4】
前記反復区間は、P波の開始時点からT波の終了時点までの区間である、
請求項3に記載の学習装置。
【請求項5】
前記対象特徴点は、R波であり、
前記学習部は、前記第1のセンサデータに係る前記時間長の開始時点から、P波の開始時点からR波が出現すると予想される時点までの時間長が経過した時点において取得された前記第2のセンサデータに基づく教師データを用いて、R波に係る出力を学習する、
請求項4に記載の学習装置。
【請求項6】
前記学習部は、前記第2のセンサデータにおけるR波の存在確率を示す存在確率データを教師データとして、第1のセンサデータにおけるR波の存在確率に係る出力を学習する、
請求項5に記載の学習装置。
【請求項7】
前記第1の方式は、前記被験者と接触することが予想される少なくとも2つの電極を用いて心電波形を取得する方式であり、
前記第2の方式は、前記被験者の皮膚に装着された少なくとも3つの電極を用いて心電波形を取得する方式である、
請求項3から請求項6までのいずれか一項に記載の学習装置。
【請求項8】
前記被験者は、移動体を運転する運転手である、
請求項3から請求項7までのいずれか一項に記載の学習装置。
【請求項9】
第1の方式により取得され、時間の進行に沿って周期的に観察され得る反復区間と対応する時間長を有する第1のセンサデータを学習データとし、
前記第1の方式と比較してノイズの影響が少ない第2の方式により、前記第1のセンサデータに係る前記時間長の開始時点から規定の時間が経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて、
前記反復区間において観察の対象とする対象特徴点に係る出力を学習すること、
を含み、
前記規定の時間は、前記反復区間の開始時点から前記対象特徴点が出現すると予想される時点までの時間長に基づいて設定される、
学習方法。
【請求項10】
第1の方式により取得された第1のセンサデータを入力として、第1のセンサデータにおいて観察の対象とする対象特徴点に係る測定を行う測定部、
を備え、
前記測定部は、時間の進行に沿って周期的に観察され得る反復区間と対応する時間長を有する前記第1のセンサデータを学習データとし、前記第1の方式と比較してノイズの影響が少ない第2の方式により、前記第1のセンサデータに係る前記時間長の開始時点から規定の時間が経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて、前記反復区間における前記対象特徴点に係る出力を学習した学習済みモデルを用いて、前記対象特徴点に係る測定を行い、
前記規定の時間は、前記反復区間の開始時点から前記対象特徴点が出現すると予想される時点までの時間長に基づいて設定される、
測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習装置、学習方法、および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機械学習技術を用いて判別や推定等を行う技術が開発されている。例えば、特許文献1には、時系列データの将来値を予測するための学習に関する技術が開示されている。当該技術によれば、時系列に取得されるデータが将来における任意の時点においてどのような値を示すのかを予測することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、学習における教師データとして、予測時間先での将来値を用いている。この場合、将来値以降における時系列データの推移等の特徴を反映した学習を行うことが困難である。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、時系列データにおける特徴点間の関係をより効果的に学習することが可能な仕組みを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、第1の方式により取得され、時間の進行に沿って周期的に観察され得る反復区間と対応する時間長を有する第1のセンサデータを学習データとし、前記第1の方式と比較してノイズの影響が少ない第2の方式により、前記第1のセンサデータに係る前記時間長の開始時点から規定の時間が経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて、前記反復区間において観察の対象とする対象特徴点に係る出力を学習する学習部、を備え、前記規定の時間は、前記反復区間の開始時点から前記対象特徴点が出現すると予想される時点までの時間長に基づいて設定される、学習装置が提供される。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、第1の方式により取得され、時間の進行に沿って周期的に観察され得る反復区間と対応する時間長を有する第1のセンサデータを学習データとし、前記第1の方式と比較してノイズの影響が少ない第2の方式により、前記第1のセンサデータに係る前記時間長の開始時点から規定の時間が経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて、前記反復区間において観察の対象とする対象特徴点に係る出力を学習すること、を含み、前記規定の時間は、前記反復区間の開始時点から前記対象特徴点が出現すると予想される時点までの時間長に基づいて設定される、学習方法が提供される。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、第1の方式により取得された第1のセンサデータを入力として、第1のセンサデータにおいて観察の対象とする対象特徴点に係る測定を行う測定部、を備え、前記測定部は、時間の進行に沿って周期的に観察され得る反復区間と対応する時間長を有する前記第1のセンサデータを学習データとし、前記第1の方式と比較してノイズの影響が少ない第2の方式により、前記第1のセンサデータに係る前記時間長の開始時点から規定の時間が経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて、前記反復区間における前記対象特徴点に係る出力を学習した学習済みモデルを用いて、前記対象特徴点に係る測定を行い、前記規定の時間は、前記反復区間の開始時点から前記対象特徴点が出現すると予想される時点までの時間長に基づいて設定される、測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、時系列データにおける特徴点間の関係をより効果的に学習することが可能な仕組みが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る学習装置10の機能構成例を示す図である。
【
図2】同実施形態に係る測定装置20の機能構成例を示す図である。
【
図3】一周期における一般的な心電波形の例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る学習データと教師データの対応例を示す図である。
【
図5】同実施形態に係る測定部220による対象特徴点の測定イメージを示す図である。
【
図6】同実施形態に係る測定部220による対象特徴点の測定イメージを示す図である。
【
図7】同実施形態に係る学習済みモデルを用いたR波の検出精度を表す図である。
【
図8】同実施形態に係る学習フェーズの流れを示すフローチャートである。
【
図9】同実施形態に係る測定フェーズの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
<構成例>
(学習装置10)
本実施形態に係る学習装置10は、異なる2つの方式により時間軸において同期して取得された同一種のセンサデータを入力とした教師あり学習を行う装置であってよい。ここで、教師あり学習とは、入力データ(学習データ)と当該入力データに対する正解データ(教師データ)のセットをコンピュータに与え、コンピュータに両者の対応を学習させる手法を指す。
図1は、本実施形態に係る学習装置10の機能構成例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る学習装置10は、学習部110および記憶部120を備えてもよい。
【0013】
本実施形態に係る学習部110は、第1の方式により取得され、時間の進行に沿って周期的に観察され得る反復区間と対応する時間長を有する第1のセンサデータを学習データとし、第1の方式と比較してノイズの影響が少ない第2の方式により、第1のセンサデータに係る上記時間長の開始時点から規定の時間が経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて、上記反復区間において観察の対象とする対象特徴点に係る出力を学習する、ことを特徴の一つとする。また、上記の規定の時間は、反復区間の開始時点から対象特徴点が出現すると予想される時点までの時間長に基づいて設定されてよい。係る構成によれば、上記対象特徴点以降におけるデータ推移等の特徴を学習し、より高精度な学習済みモデルを構築することが可能となる。
【0014】
本実施形態に係る学習部110は、教師あり学習を実現可能な任意の機械学習手法を用いて上記のような学習を行ってよい。学習部110は、例えば、ニューラルネットワーク、SVM(Support Vector Machine)などのアルゴリズムを用いて学習を行う。
【0015】
学習部110の機能は、例えば、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサによって実現される。本実施形態に係る学習部110が有する機能の詳細については別途詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る記憶部120は、学習装置10の動作に係る各種の情報を記憶する。記憶部120は、例えば、学習部110の学習に用いられる第1のセンサデータおよび第2センサデータ、各種のパラメータ等を記憶する。
【0017】
以上、本実施形態に係る学習装置10の機能構成例について述べた。なお、
図1を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る学習装置10の構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る学習装置10は、例えば、操作者による操作を受け付ける操作部や、各種のデータを出力するための出力部等をさらに備えてもよい。本実施形態に係る学習装置10の構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形され得る。
【0018】
続いて、本実施形態に係る測定装置20の機能構成例について述べる。本実施形態に係る測定装置20は、学習装置10が構築した学習済みモデルを用いて時間の進行に沿って取得されるセンサデータにおいて観察の対象とする対象特徴点に係る測定を実施する装置であってよい。
図2は、本実施形態に係る測定装置20の機能構成例を示す図である。
図2に示すように、本実施形態に係る測定装置20は、取得部210および測定部220を備えてもよい。
【0019】
本実施形態に係る取得部210は、時間の進行に沿って第1のセンサデータを取得するための構成である。このために、本実施形態に係る取得部210は、取得する第1のセンサデータの特性に応じた各種のセンサを備える。
【0020】
本実施形態に係る測定部220は、取得部210が取得した第1のセンサデータを入力として、第1のセンタデータにおいて観察の対象とする対象特徴点に係る測定を行う。この際、本実施形態に係る測定部220は、学習部110による学習により構築された学習済みモデルを用いて対象特徴点に係る出力を行う。すなわち、本実施形態に係る測定部220は、時間の進行に沿って周期的に観察され得る反復区間と対応する時間長を有する第1のセンサデータを学習データとし、第1のセンサデータに係る時間長の開始時点から規定の時間が経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて、上記反復区間における対象特徴点に係る出力を学習した学習済みモデルを用いて、対象特徴点に係る測定を行う、ことを特徴の一つとする。
【0021】
上記の構成によれば、第1のセンサデータからノイズの影響を効率的に排除したうえで、対象特徴点に係る測定を高精度に行うことが可能となる。なお、本実施形態に係る測定部220の機能は、各種のプロセッサにより実現される。
【0022】
以上、本実施形態に係る測定装置20の機能構成例について述べた。なお、
図2を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る測定装置20の機能構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る測定装置20は、操作部や出力部、測定した対象特徴点に係る解析を行う解析部、解析結果に基づいて各種の報知を行う報知部等をさらに備えてもよい。本実施形態に係る測定装置20の構成は、測定対象とする対象特徴点の特性や活用用途等に応じて柔軟に変形され得る。
【0023】
<詳細>
次に、本実施形態に係るセンサデータについて具体例を挙げながら説明する。近年では、様々な種別のセンサデータを取得する装置が開発されている。また、同一種のセンサデータを取得する場合であっても、複数の方式が存在する場合がある。上記のようなセンサデータには、被験者の生命兆候を示すバイタルデータが含まれる。ここでは、バイタルデータの一例として、被験者の心臓の活動により生じる電圧の変化を心電波形として取得する場合を想定する。
【0024】
心電波形を取得する方式としては、被験者の皮膚に複数の電極を直接装着し、当該複数の電極により電圧の変化を記録する、例えば3点誘導法や標準12誘導法等の方式が挙げられる。係る方式によれば、ノイズの影響が少ない高精度の心電波形を得ることができる。一方、係る方式は、被験者の行動を制限する場合も多く、また皮膚に電極を直接装着するために、被験者に煩わしさを感じさせる場合もある。
【0025】
また、心電波形を取得する他の方式としては、被験者と接触することが予想される複数の箇所に電極を設置し、複数の当該電極に被験者が接触した際に得られた電圧の変化を記録する方式が挙げられる。このような方式は、例えば、装置の操作を行う被験者の心電波形を取得したい場合等に用いられる。一例としては、車両等の移動体を運転する運転手が、運転中に接触することが予想されるステアリングや運転席の座席等に電極を配置し、当該運転手の心電図を取得する技術が知られている。係る技術によれば、運転手の皮膚に電極を直接貼り付ける必要がないため、運転手に意識させることなく心電波形を取得することが可能である。一方、この場合、運転行動に伴う運転手の体動や、車両の振動等によりノイズが生じやすく、取得される心電波形の精度が低下する可能性がある。
【0026】
このように、センサデータを取得するための複数の方式には、それぞれに利点がある一方で、取得されるセンサデータの精度に差が生じるケースも存在する。このため、ある方式が有する利点を活かしながら、同時にセンサデータの取得精度を向上させる技術が求められている。
【0027】
上記の点を解決するために、本実施形態に係る学習部110は、第1の方式により得られた第1のセンサデータを学習データとし、第1の方式と比較してノイズの影響が少ない第2の方式により、第1のセンサデータと時間軸において同期して取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて学習を行う。これによれば、第1のセンサデータからノイズの影響を効率的に排除したうえで、対象特徴点に係る測定を高精度に行うことが可能となる。
【0028】
一方、この際、第1のセンサデータが有する時間長の末尾に対応する第2のセンサデータや、末尾以降に取得された第2のセンサデータを教師データとして用いた場合、当該教師データ以降におけるデータ推移等の情報を学習部110に学習させることが困難となる。
【0029】
上記の点に鑑み、本実施形態に係る学習部110は、時間の進行に沿って周期的に観察され得る反復区間と対応する時間長を有する第1のセンサデータを学習データとしてよい。また、本実施形態に係る学習部110は、上記時間長の開始時点から規定の時間が経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて学習を行ってよい。ここで、上記規定の時間は、反復区間の開始時点から対象特徴点が出現すると予想される時点までの時間長に基づいて設定されてよい。これによれば、教師データ前後の情報を用いた学習を行うことができ、より高精度な学習済みモデルを構築することが可能となる。
【0030】
さらには、上記の反復区間は、出現に関し、対象特徴点と時間軸における規則性を有する少なくとも一つの他の特徴点を含んでもよい。この場合、反復区間における対象特徴点と他の特徴点との時間軸における規則性を学習することで、対象特徴点に係る測定をより高精度に行うことが可能な学習済みモデルを構築することができる。
【0031】
以下では、本実施形態に係る第1のセンサデータおよび第2のセンサデータが、それぞれ被験者の心臓の活動を記録した心電波形である場合を一例として説明する。すなわち、本実施形態に係る第1のセンサデータは、第1の方式により被験者から取得された第1の心電波形であってもよい。また、第2のセンサデータは、第2の方式により同被験者から取得された第2の心電波形であってもよい。
【0032】
また、この場合、上記の第1の方式は、被験者と接触することが予想される少なくとも2つの電極を用いて心電波形を取得する方式であり、上記の第2の方式は、被験者の皮膚に直接装着された少なくとも3つの電極を用いて心電波形を取得する方式(例えば、3点誘導法)であってもよい。
【0033】
例えば、被験者が車両等の移動体を運転する運転手である場合、上記の第1の方式において用いられる2つの電極は、被験者が着座する座席と、被験者が操作する被操作装置(例えば、ステアリング)とに設けられてもよい。
【0034】
上記のような構成によれば、運転手に煩わしさを感じさせない等の第2の方式が有する利点をそのままに、かつ運転手の体動や車両の振動等により生じるノイズを排除した高精度のデータを取得することが可能となる。
【0035】
ここで、一般的な心電波形における特徴点(特徴波形)について説明する。
図3は、一周期における一般的な心電波形の例を示す図である。なお、
図3においては、横軸において時間の経過が、縦軸において電圧の変化が示されている。
図3に示すように、一般的な心電波形には、特徴的な形状を示す複数の特徴波形が観察され得る。特徴波形の一例としては、P波、Q波、R波、S波、QRS波(Q波、R波、およびS波から形成される)T波、およびU波等が挙げられる。また、上記の各特徴波形は、時間軸において上記に列挙した順序で出現するという規則性を有する。
【0036】
このうち、例えば、R波は、心拍変動(揺らぎ)の指標として重要な特徴波形である。ある周期におけるR波と次周期におけるR波の間隔(RRI:R-R Interval)は、心拍の周期を算出するために用いられる。また、RRIにはストレスや疲労により揺らぎが生じることも知られており、被験者の身体的負担や心理的負担を検出する際にも有効な生理指標となる。その他、例えば、一周期におけるQ波とT波の間隔であるQTI(Q-T Interval)は、心室の興奮の始まりから興奮が消退するまでの時間を示しており、不整脈の検出等に重要な生理指標である。
【0037】
このように、心電波形の一周期には、生理指標の取得に有用となる複数の特徴波形が含まれる。このことから、本実施形態に係る学習では、一周期全体を反復区間として設定し、取得したい任意の生理指標に応じた特徴波形を対象特徴点としてもよい。
【0038】
一方で、心電波形の一周期には、生理指標の取得に有用な特徴波形が集中している区間が存在する。
図3に示すように、P波、Q波、R波、S波、およびT波は、およそ700ms前後の時間長において連続的に観察され得る。このため、本実施形態に係る学習では、P波の開始時点からT波の終了時点までの区間を反復区間として設定してもよい。これによれば、反復区間内におけるP波、Q波、R波、S波、およびT波間の時間軸における規則性をより精度高く学習することが可能となる。
【0039】
また、例えば、上記の反復区間において、R波は、P波の開始時点からおよそ250ms前後の時点において観察され得る。このことから、R波を対象特徴点とする場合、本実施形態に係る学習部110は、第1のセンサデータに係る時間長(700ms)の開始時点から、P波の開始時点からR波が出現すると予想される時間長(250ms)が経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて、R波に係る出力を学習してもよい。
【0040】
図4は、本実施形態に係る学習データと教師データの対応例を示す図である。
図4の上段には被験者から取得された第1のセンサデータ(第1の心臓波形)が示されている。また、
図4の下段には、同被験者から第1のセンサデータと同期間に取得された第2のセンサデータ(第2の心臓波形)が示されている。
【0041】
この場合、例えば、学習部110は、P波の開始時点からT波の終了時点までの700msの区間と対応する時間長d1において取得された第1のセンサデータを1系列目の学習データとし、また、時間長d1の開始時点から250msが経過した時点における時刻t1において取得された第2のセンサデータを教師データとして学習を行ってもよい。
【0042】
同様に、学習部110は、時間長d2において取得された第1のセンサデータを2系列目の学習データとし、また、時間長d2の開始時点から250msが経過した時点における時刻t2において取得された第2のセンサデータを教師データとして学習を行ってもよい。
【0043】
また、同様に、学習部110は、時間長d3において取得された第1のセンサデータを3系列目の学習データとし、また、時間長d3の開始時点から250msが経過した時点における時刻t3において取得された第2のセンサデータを教師データとして学習を行ってもよい。
【0044】
上記のようなデータセットによれば、R波と、反復期間内に含まれる他の特徴波形との間の時間軸における規則性を効果的に学習することが可能となる。また、本実施形態に係る測定部220は、上記のようなデータセットを用いた学習により構築された学習済みモデルを用いて、R波に係る測定を高精度に行うことができる。
図5は、本実施形態に係る測定部220による対象特徴点の測定イメージを示す図である。
【0045】
図5に示すように、本実施形態に係る測定部220は、
図4に例示したデータセットを用いて構築された学習済みモデルに第1のセンサデータ(第1の心臓波形)を入力することで、第1のセンサデータからノイズが除去された第3のセンサデータ(第3の心臓波形)を出力することができる。これによれば、ノイズにより第1のセンサデータからR波を直接測定することが困難な場合であっても、第3のセンサデータに基づいて、R波の測定を精度高く行うことが可能となる。
【0046】
また、上記では、学習部110が、第2のセンサデータそのもの(例えば、第2の心臓波形の電圧値)を教師データとして用いた学習を行う場合を述べたが、本実施形態に係る学習部110は、第2のセンサデータにおける対象特徴点の存在確率を示す存在確率データを教師データとして、第1のセンサデータにおける対象特徴点の存在確率に係る出力を学習してもよい。
【0047】
例えば、
図4に示す一例の場合、学習部110は、時間長d1において取得された第1のセンサデータ(学習データ)に対し、時刻t1において取得された第2のセンサデータに基づいて生成されたR波の存在確率データを教師データとする学習を行う。存在確率データがR波の存在確率を0(存在しない)または1(存在する)の2値で表す場合、時刻t1にはR波が存在することから、時刻t1におけるR波の存在確率データは1となる。一方、時刻t2および時刻t3にはR波が存在していない。このため、時刻t2および時刻t3におけるR波の存在確率データは0となる。
【0048】
上記のような存在確率データを教師データとして学習を行った場合、本実施形態に係る測定部220は、
図6に示すように、学習済みモデルに第1のセンサデータ(第1の心臓波形)を入力することで、R波の存在確率データを直接出力することができる。このように、本実施形態に係る学習においては、測定部220に出力させたいデータ形式に応じた教師データが用いられてよい。なお、上記では、存在確率データが0または1の2値をとる場合を例示したが、本実施形態に係る存在確率データは、3値以上をとってもよい。
【0049】
ここで、本実施形態に係る学習により構築される学習済みモデルを用いたR波の検出精度に関し検証を行った結果を示す。
図7は、本実施形態に係る学習済みモデルを用いたR波の検出精度を表す図である。なお、
図7は、学習データ(第1のセンサデータ)の時間長を500ms、600ms、700ms、800msとした場合においてそれぞれ構築された学習済みモデルを用いたR波の検出精度を示している。なお、いずれの場合においても、学習データに係る時間長の開始時点から250msが経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いて学習を行った。
【0050】
その結果、
図7に示すように、700msの学習データを用いた学習を行った場合に構築される学習済みモデルが最も精度高くR波を検出することができた。当該検証結果は、学習データの時間長を対象特徴点と他の特徴点との時間軸における規則性に則って設定することにより、より効果的な学習が行われることを示している。
【0051】
一方で、700msという時間長の設定はあくまで一例である。学習データの最適な時間長は、学習データとして用いる第1のセンサデータの統計的特徴に基づいて変化することが想定される。例えば、ある条件において取得された第1のセンサデータにおいて、P波の開始時点からT波の終了時点までの時間長の平均が650msである場合、学習データの時間長は650msと設定されてもよい。なお、教師データの時間長についても同様である。例えば、取得された第1のセンサデータおよび第2のセンサデータにおいて、P波の開始時点からR波までの時間長の平均が300msである場合、学習データに係る時間長の開始時点から300msが経過した時点において取得された第2のセンサデータに基づく教師データが用いられてよい。
【0052】
<学習フェーズおよび測定フェーズの流れ>
次に、本実施形態に係る学習装置10を用いた学習を行う学習フェーズ、および測定装置20を用いた測定を行う測定フェーズの流れについて説明する。
図8は、本実施形態に係る学習フェーズの流れを示すフローチャートである。
【0053】
図8に示すように、本実施形態に係る学習フェーズにおいては、まず、第1のセンサデータおよび第2のセンサデータの取得が行われる(S102)。この際、第1のセンサデータおよび第2のセンサデータは、時間軸における同期が可能なようにタイムスタンプ等の情報と共に取得されてよい。また、第1のセンサデータおよび第2のセンサデータは、学習装置10とは別途の装置により取得されてもよい。取得された第1のセンサデータおよび第2のセンサデータは、学習装置10の記憶部120に記憶される。
【0054】
次に、必要に応じて第1のセンサデータおよび第2のセンサデータの加工が行われる(S104)。例えば、教師データとして、対象特徴点に係る存在確率データを用いる場合、ステップS104では、ステップS102において取得された第2のセンサデータを存在確率データに変換する処理が行われてよい。また、第1のセンサデータや第2のセンサデータに含まれるノイズを軽減するための各種のフィルタ処理等が行われてもよい。なお、上記のような加工は学習装置10とは別途の装置により実行されてもよい。
【0055】
次に、学習部110は、反復区間と対応する時間長を有する第1のセンサデータを学習データとし、上記時間長の開始時点から規定の時間が経過した時点に取得された第2のセンサデータに基づく教師データを用いた学習を行う(S106)。この際、学習部110は、第2のセンサデータそのもの(あるいはフィルタ処理が施された第2のセンサデータ)を教師データとして用いてもよいし、ステップS104において生成された存在確率データを教師データとしてもよい。
【0056】
以上、本実施形態に係る学習フェーズの流れについて説明した。続いて、本実施形態に係る測定フェーズの流れについて説明する。
図9は、本実施形態に係る測定フェーズの流れを示すフローチャートである。
【0057】
図9に示すように、本実施形態に係る測定フェーズにおいては、まず、取得部210が第1の方式により第1のセンサデータを取得する(S202)。取得部210は、例えば、車両のスタリングと座席に配置した複数の電極により運転手の心電波形を第1のセンサデータとして取得してもよい。
【0058】
次に、測定部220は、ステップS202において取得された第1のセンサデータを学習済みモデルに入力し、第1のセンサデータに含まれる対象特徴点に係る測定を行う(S204)。学習フェーズにおいて第2のセンサデータを教師データとして学習を行った場合、測定部220は、第1のセンサデータからノイズが除去された第3のセンサデータを出力し、対象特徴点の測定を行う。一方、学習フェーズにおいて存在確率データを教師データとして学習を行った場合、測定部220は、対象特徴点の存在確率を示す存在確率データを出力し、対象特徴点の測定を行う。
【0059】
次に、必要に応じて、ステップS204において測定された対象特徴点に基づく各種の動作が実行される(S206)。例えば、対象特徴点がR波である場合、上記の動作は、RRIに基づく報知等であってもよい。上記の動作は、測定装置20とは別途の装置により実行されてもよい。
【0060】
<補足>
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0061】
例えば、上記の実施形態では、学習部110が被験者の心臓の活動に係る測定を学習する場合を主な例として述べた。一方、学習部110による学習の対象は、上記のようなバイタルデータの測定に限定されない。学習部110は、例えば、任意の装置の稼働状況を示す各種のデータを測定することも可能である。
【0062】
また、上記の実施形態では、心電波形を取得する第1の方式として、被験者が接触することが予想される箇所に電極を配置する方式を、第2の方式として、被験者の皮膚に電極を直接する方式を例に挙げた。一方、本技術における第1の方式および第2の方式は、ノイズの影響の受けやすさに差がある任意の異なる方式であってよい。例えば、心拍を取得する場合、第1の方式は、ドップラーセンサを用いた非接触方式であってもよい。この場合、第2の方式は、当該非接触方式よりもノイズの影響が少ない任意の方式であってよい。例えば、上記の場合における第2の方式は、上述した被験者の皮膚に電極を装着する接触方式であり得る。このように、本技術における第1の方式は、上記の実施形態において例示した方式に限定されず、適宜選択されてよい。さらには、被験者と接触することが予想される少なくとも2つの電極を用いて心電波形を取得する接触方式が、ドップラーセンサ等を用いた非接触方式よりもノイズの影響が少ない場合においては、当該非接触方式を第1の方式とし、当該接触方式を第2の方式とすることも可能である。
【0063】
また、本明細書において説明した各装置による一連の処理は、ソフトウェア、ハードウェア、及びソフトウェアとハードウェアとの組合せのいずれを用いて実現されてもよい。ソフトウェアを構成するプログラムは、例えば、各装置の内部又は外部に設けられる記録媒体(非一時的な媒体:non-transitory media)に予め格納される。そして、各プログラムは、例えば、コンピュータによる実行時にRAMに読み込まれ、CPUなどのプロセッサにより実行される。上記記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等である。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10:学習装置、110:学習部、120:記憶部、20:測定装置、210:取得部、220:測定部