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特許7285767細胞システムおよび細胞を保存するための方法
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  • 特許-細胞システムおよび細胞を保存するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】細胞システムおよび細胞を保存するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20230526BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20230526BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20230526BHJP
   C08B 15/02 20060101ALN20230526BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N1/04
C12M3/00 A
C08B15/02
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019225414
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2020103281
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】18397536.6
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ヌオッポネン
(72)【発明者】
【氏名】ジェーン・スペンサー-フライ
(72)【発明者】
【氏名】カレン・クープマン
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-512632(JP,A)
【文献】MRS Communications, 2017, Vol. 7, No. 3,pp. 458-465
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞保存培地中にナノフィブリル状セルロースを含むヒドロゲル中に、真核非胚性幹細胞を未分化状態および休止状態で含む細胞保存または細胞送達組成物であって、細胞保存または細胞送達組成物が1~25℃の範囲の温度である、細胞保存または細胞送達組成物
【請求項2】
前記細胞保存培地が、両性イオン緩衝剤を含む、請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物
【請求項3】
前記細胞保存培地が、1つまたは複数の浸透圧剤を含む、請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物
【請求項4】
前記ナノフィブリル状セルロースが、個別の本体である、請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物
【請求項5】
前記ナノフィブリル状セルロースは、水中に分散されたときに、20℃±1℃の水性培地において0.5重量%(w/w)の稠度で回転式レオメーターによって決定される降伏応力が1~50Paの範囲を示し、および/またはフィブリルの平均直径が200nm以下である、請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物
【請求項6】
前記ヒドロゲルにおける前記ナノフィブリル状セルロースの濃度が、0.1~10%(w/w)の範囲である、請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物
【請求項7】
前記ナノフィブリル状セルロースが、アニオン変性ナノフィブリル状セルロース、カチオン変性ナノフィブリル状セルロース、非変性ナノフィブリル状セルロース、および酸化ナノフィブリル状セルロースから選択される、請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物
【請求項8】
前記真核非胚性幹細胞が哺乳動物非胚性幹細胞である、請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物
【請求項9】
前記ヒドロゲル中の前記ナノフィブリル状セルロースの濃度が、0.5~1.5%(w/w)の範囲である、請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物
【請求項10】
真核非胚性幹細胞を保存するための方法であって、
- 真核非胚性幹細胞を提供すること、
- ナノフィブリル状セルロースを提供すること、
- 細胞保存培地を提供すること、
- 前記細胞、前記ナノフィブリル状セルロースおよび前記細胞保存培地を合わせること、および
細胞保存または細胞送達組成物を、1~25℃の範囲の温度で保存し、請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物を形成すること
を含む、方法。
【請求項11】
15~25℃の範囲の温度で前記細胞保存または細胞送達組成物を保存することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞保存または細胞送達組成物中で前記細胞を、少なくとも24時間保存することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
真核非胚性幹細胞を提供するための方法であって、
- 請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物を提供すること、
- 前記ヒドロゲルから前記細胞を放出して、前記細胞を提供すること
を含む、方法。
【請求項14】
1つまたは複数のセルラーゼを用いて、前記ヒドロゲルを酵素的に消化することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
細胞を輸送するための、請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物の使用であって、
請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物を提供することと、
細胞保存または細胞送達組成物中の細胞を輸送することを含む、使用。
【請求項16】
治療法において使用するための、請求項1に記載の前記細胞保存または細胞送達組成物であって、
請求項1に記載の細胞保存または細胞送達組成物を提供することと、
治療を必要とする患者に細胞保存または細胞送達組成物からの細胞を投与することを含む、治療法において使用するための細胞システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
出願の分野
本出願は、細胞を保存するためのナノフィブリル状セルロースを含む細胞システムに関する。本出願はまた、低温で細胞を保存するための方法に関する。本出願はまた、細胞システムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
幹細胞、例えば、ヒト胚性幹細胞(hESC)またはヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)は、体内で多くのタイプの細胞に分化することができる自己再生多能性細胞である。これらは、例えば細胞療法、薬物研究および組織工学に関して大いに有望である。更に将来は、ヒト人工多能性幹細胞、複能性細胞および他の未分化細胞を増殖し、特定の系譜に分化するようになり、その結果、治療的目的で人体に移植することができる分化細胞または組織が開発されることが想定される。ヒト多能性幹細胞およびそこから誘導され得る分化細胞は、ヒト細胞系および発生系を研究するための強力な科学的ツールでもある。
【0003】
細胞ベースの治療法の医学的用途は、急速に増加している。それゆえに、細胞療法製品を製造場所から使用場所まで保存し、輸送することを可能にする系(システム)を開発することが望まれる。細胞を凍結解凍すると、細胞が損傷し、生存可能な細胞の量が低下していることがあり、時間がかかり、複雑で高価である。短時間、例えば輸送中に、細胞を保存するためのより単純で安価な方法が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
概要
本発明において、細胞、特に幹細胞を、ナノフィブリル状セルロースヒドロゲル中で、数日間低温で保存できることが見出された。これを使用して細胞を安定化し、輸送することができる。本明細書において、ナノフィブリル状セルロースヒドロゲルを、細胞のためのマトリックスとしてどのように使用するかが開示される。マトリックスは、細胞のための支持を提供するが、細胞保護特性、すなわち細胞が依然として安定な、生存可能なままの条件も提供する。
【0005】
一般的に低温保存は、有害効果、例えば、低酸素ストレス、虚血再灌流損傷、膜電位(レドックスバランス)の破壊、細胞イオンアンバランス、例えば、Na、Ca2+、およびFe2+ホメオスタシスの撹乱、活性酸素種の生成、細胞骨格の崩壊、および超微細構造の損傷を細胞に誘導することがある。特に低温保存間隔が長いと、ネクローシスまたはアポトーシス細胞死経路の活性化が生じることがある。この開示で提示する溶液は、これらの負の効果を阻止または軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、0~25℃の範囲の温度で細胞保存培地中にナノフィブリル状セルロースを含むヒドロゲル中に、真核細胞を含む細胞システムを提供する。
【0007】
本開示は、真核細胞を保存するための方法であって、
- 真核細胞を提供すること、
- ナノフィブリル状セルロースを提供すること、
- 細胞保存培地を提供すること、
- 細胞、ナノフィブリル状セルロースおよび細胞保存培地を合わせ、細胞システムを形成すること、および
- 細胞システムを、0~25℃の範囲の温度で保存すること
を含む、方法も提供する。
【0008】
細胞を保存および/または輸送するために使用する温度は低温であり、そのような温度としては、室内温度を挙げることができる。本明細書において使用する低温は、体温または細胞を培養するために使用される温度よりも低い温度を指していてもよい。低温は、37℃未満、または30℃以下、または25℃以下の温度、または更に低い温度を指していてもよい。しかし0℃未満の温度は必要ではなく、これにより凍結によって細胞にダメージを与えるのを阻止する。凍結を行わないため、本プロセスは単純であり、特定の凍結装置、解凍、または例えば液体窒素の使用を必要としない。凍結保護物質または凍結乾燥保護物質も必要としない。細胞および材料は、乾燥、例えば凍結乾燥されず、したがってこれらは再水和する必要がない。低温を使用する場合、細胞は依然として生存可能なままであり、マトリックスから放出した後に、または例えば品質管理試験を可能にするためにすでにマトリックスへ結合されている場合は直ちに使用してもよい。細胞は休止状態に入ってもよく、このことが、細胞システム中でのそれらの維持、特に所望の状態でのそれらの維持を助ける。
【0009】
本開示は、真核細胞を提供するための方法であって、
- 細胞システムを提供すること、および
- 例えば、ヒドロゲルを酵素的に消化することによって、またはヒドロゲルを希釈することによって、ヒドロゲルから細胞を抽出し、細胞を提供すること
を含む、方法も提供する。
【0010】
主な実施形態は、独立請求項において特徴付けられる。さまざまな実施形態が従属請求項において開示される。特許請求の範囲および明細書で挙げられる実施形態および例は、特に明記されない限り相互に自由に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0011】
形成される細胞システムは、スケーラブルな、再現性のある、費用効果的な細胞保存システムを得ることを可能にし、そこから細胞を容易に放出および収集することができる。
【0012】
形成される細胞システムは、細胞を未分化状態で保存するための、すなわち細胞、特に幹細胞の自発的または誘導的分化を阻止するための組成物を提供することも可能にする。また、細胞増殖は、休止してもよく、実質的に低下してもよい。例えば、多能性または複能性状態の幹細胞を維持するには、保存条件、材料および細胞の取扱いに慎重なコントロールが要求されかつ必要とされる。
【0013】
ナノフィブリル状セルロースヒドロゲルは、非毒性、生体適合性、また生分解性である親水性マトリックスを提供する。マトリックスは、例えば、セルラーゼを添加することによって酵素的に分解することができる。一方、ヒドロゲルは生理学的条件で安定であり、追加の薬剤を使用することによって架橋する必要がない。ヒドロゲルを希釈し、例えば、もはやゲル状態ではない分散体を得ることも可能であり、これにより、例えば遠心分離またはろ過によって細胞を放出および収集することが可能となる。細胞に影響を与えることがある反応性薬剤の使用は回避することができる。細胞、特に魅力的なおよび/または高感度の細胞を、保護ナノフィブリル状セルロースヒドロゲル中で保存および輸送し、回収し、生存可能な細胞を得ることができる。
【0014】
ヒドロゲルを酵素的に消化することができるという特徴は、特に幹細胞の場合は有利である。細胞系が休止する場合、その生物時計は停止し、凍結する場合も同様である。したがって、支持NFCマトリックスを輸送後に除去することができる、完全に新世代の「水を添加するだけ」の細胞製品を提供することができる。研究では、典型的には現在代替手段がない多数の手作業が必要とされるため、これは細胞研究を促進することができる。また、すぐに使用可能なの細胞システムを輸送および保存することは、複雑な冷却系を必要としないため、より手頃である。例えば、3D培養された細胞スフェロイド製品は、最初に播種し、成長させることを必要とせず、研究者が直接利用しやすいようにすることができる。例えば、特に低酸素を考慮する場合、3Dスフェロイドは実際の腫瘍をよりよく模倣するため、近い将来その利用が増加する可能性が高いと予想される。その後、細胞製品の臨床応用をより本格的な様式で考慮することができる。
【0015】
ナノフィブリル状セルロースを含むヒドロゲルのある特定の有利な特性としては、可撓性、弾性および再成形性(remouldability)がある。ヒドロゲルは大量の水を含有するため、優れた浸透性も示すことがある。実施形態のヒドロゲルは、高い水分保持能力および分子拡散特性速度も提供する。
【0016】
本明細書において記載されるヒドロゲルは、医療および科学用途において有用であり、ナノフィブリル状セルロースを含む材料を生物と接触させる。本明細書において記載されるナノフィブリル状セルロースを含有する製品は、生物との生体適合性が高く、いくつかの有利な効果を提供する。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、非常に大きい比表面積を、したがって高い水分保持能力を有する極めて親水性のナノフィブリル状セルロースを含むヒドロゲルは、細胞および/または組織に対して適用するときに、細胞および/または組織とナノフィブリル状セルロースを含むヒドロゲルとの間に良好な湿潤環境を提供すると考えられている。ナノフィブリル状セルロース中の大量の遊離ヒドロキシル基は、ナノフィブリル状セルロースと水分子との間に水素結合を形成し、ナノフィブリル状セルロースのゲル形成および高い水分保持能力を可能にする。ナノフィブリル状セルロースヒドロゲル中の大量の水分のために、水のみが細胞または組織と接触するはずであり、必要に応じて流体および/または薬剤の移動も可能にする。
【0017】
細胞のためのマトリックスとして使用されるナノフィブリル状セルロースは、細胞を保護し、それらが負荷条件下で、例えば栄養分が利用できないときに、それらの生存を維持する助けとなる環境を提供する。ナノフィブリル状セルロース材料の1つの利点は、セルロースナノ繊維のフィブリル状ネットワークの寸法が、コラーゲンナノ繊維の天然のECMネットワークに非常に近いことである。更に、セルロースナノ繊維は、非動物性材料であり、そのため疾患に感染するリスクはない。現在のところ、市販品の大部分は、動物から単離される。本材料では、細胞のための透明な多孔質のマトリックスを得ることは可能であり、材料の取扱いは、代替のものと比較して容易である。セルロースナノ繊維は、ごくわずかな蛍光バックグラウンドを有する。セルロースナノ繊維ヒドロゲルは、最適な弾性、剛性、せん断応力、機械的接着および多孔率を有し、3Dおよび2D細胞保存マトリックスとして使用される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】最適化されたGrowdaseプロトコールを使用し、0.4%ゲル中、室内または冷蔵条件で最大7日間休止され、回収された(2時間、1300μg/mg)MSCを示すグラフである。細胞生存率(a)および回収率(b)を算出した。N=3。
図2】室内(A)または冷蔵(Ch)条件で最大72時間休止され、その後、組織培養プラスチック上にプレーティングされたMSCを示すグラフであり、試験が行われる3継代にわたって増殖するための能力を保持する。対照(Co)は、標準培養条件の通り維持された細胞である。
図3a】0.4%Growdex中、室内温度においてさまざまな細胞密度で24時間休止され、次いで24時間消化された(300μg/mg Growdase)MSCの代表的な画像を示す図である。
図3b】0.9%Growdex中、室内温度においてさまざまな細胞密度で24時間休止され、次いで24時間消化された(300μg/mg Growdase)MSCの代表的な画像を示す図である。
図4】Presto Blueによって評価されたときの、酵素に曝露されたMSCの生存率を示すグラフであり、細胞が、膜の完全性だけではなく、代謝機能を保持できたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
この明細書において、百分率の値は、別段指示がない限り、重量(w/w)に基づく。任意の数値範囲が提供される場合、範囲には上限値および下限値も含まれる。「含む」というオープンな用語は、「からなる」というクローズドな用語も1つの選択肢として含む。
【0020】
本明細書において記載される材料および製品は、医療用および/または科学材料ならびに製品、例えば、生命科学材料および製品であってもよく、本明細書において記載されるような生細胞および/または生物活性材料もしくは物質に関与する方法および用途において使用してもよい。材料または製品は、細胞培養、細胞保存および/または細胞輸送の材料または製品であってもよく、細胞を培養する、保存する、維持する、輸送する、提供する、変性させる、試験する、および/または医療または科学目的で、または他の関連する適用可能な方法において使用する方法において使用してもよい。
【0021】
本明細書において開示される方法および製品において、特定の細胞が提供され、ナノフィブリル状セルロース材料と組み合わされる。材料または製品を使用し、本明細書において記載される細胞システムを形成してもよい。最終製品は、細胞を含有していてもよく、したがって、細胞システムが形成される。細胞システムは、ナノフィブリル状セルロースを含むヒドロゲル中に真核細胞を含んでいてもよいが、同様に他の細胞を適用してもよい。ヒドロゲルは、さまざまな形態であってもよく、例えば、連続であってもよいし、部分的または完全に不連続であってもよく、例えば、不連続な形態の複数のビーズまたは類似の実体を含み、その実体は、分離であっても、相互連結していてもよい。しかし、実体の構造は均質である。ヒドロゲル中のナノフィブリル状セルロースの濃度は、0.1~10%、例えば、0.2~5%(w/w)、0.4~2%(w/w)、または0.8~1.5%(w/w)の範囲であってもよい。
【0022】
本開示は、真核細胞を保存するための方法、ならびに所望の状態で、例えば未分化状態および/または休止状態で細胞を維持するための方法、および細胞を輸送または移動するための方法、および細胞を提供するための方法も提供する。
【0023】
細胞
本方法および製品において、細胞が提供される。細胞は、原核細胞、例えば細菌性細胞であってもよく、またはこれらは、真核細胞であってもよい。真核細胞は、植物細胞、酵母細胞または動物細胞であってもよい。真核細胞の例としては、移植可能な細胞、例えば幹細胞がある。細胞は、動物細胞またはヒト細胞であってもよい。
【0024】
細胞の特定の例としては、幹細胞、未分化細胞、前駆細胞、ならびに完全分化細胞およびこれらの組合せがある。いくつかの例において、細胞は、角膜実質細胞、角化細胞、線維芽細胞、上皮細胞およびこれらの組合せからなる群から選択されるタイプの細胞を含む。いくつかの例において、細胞は、幹細胞、始原細胞、前駆細胞、結合組織細胞、上皮細胞、筋細胞、神経細胞、内皮細胞、線維芽細胞、角化細胞、平滑筋細胞、間質細胞、間葉細胞、免疫細胞、造血細胞、樹状細胞、毛髪毛包細胞およびこれらの組合せからなる群から選択される。細胞は、腫瘍または癌細胞、遺伝子改変細胞、例えば、トランスジェニック細胞、シスジェニック細胞またはノックアウト細胞、または病原細胞であってもよい。このような細胞を、例えば薬物研究のためにまたは治療法において使用してもよい。特に幹細胞は、治療的用途において使用してもよく、例えば、患者に提供してもよい。
【0025】
1つの実施形態において、細胞は、真核細胞、例えば哺乳動物細胞である。哺乳動物細胞の例としては、ヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、ウサギ細胞、サル細胞、ブタ細胞、ウシ細胞、ニワトリ細胞などがある。本方法および製品の利点は、哺乳動物細胞の保存に関してほぼ実証済みではあるが、方法および製品を使用して、他の細胞、例えば、非哺乳動物真核細胞、酵母細胞、または原核細胞も保存してもよいことに留意されたい。
【0026】
1つの実施形態において、細胞は、幹細胞、例えば、全能性、多能性、複能性、少能性または単能性幹細胞である。幹細胞は、細胞分裂を通してそれ自体を再生することができる細胞であり、多系譜細胞へ分化することができる。これらの細胞は、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、および組織特異的または体性幹細胞とも称される成体幹細胞として分類されることがある。幹細胞は、ヒト幹細胞であってもよく、これは非胚起源のもの、例えば成体幹細胞であり得る。これらは、分化後に身体のいたるところに認められる未分化細胞である。これらは、例えば器官再生を担い、多能性または複能性状態へ分裂し、分化細胞系譜へ分化することができる。幹細胞は、例えば、Cell Stem Cell.2008年2月7日;2巻(2号):113~7頁に記載されているような、胚を破壊することなく生成されるヒト胚性幹細胞株であってもよい。幹細胞は、自己成体幹細胞源、例えば骨髄、脂肪組織、または血液から得てもよい。
【0027】
幹細胞の例としては、間葉系幹細胞(MSC)、多能性成体前駆細胞(multipotent adult progenitor cells:MAPC(登録商標))、人工多能性幹細胞(iPS)、および造血幹細胞がある。
【0028】
ヒト幹細胞の場合、細胞は、非胚細胞、またはhESCなどの細胞であってもよく、これらは胚を破壊せずに誘導することができる。ヒト胚性幹細胞の場合、細胞は、寄託細胞株由来であってもよく、未受精卵、すなわち「単為発生」卵から、または単為生殖活性化卵子からヒト胚を破壊しないように作製されてもよい。
【0029】
1つの実施形態において細胞は間葉系幹細胞(MSC)である。間葉系幹細胞(MSC)は、成体幹細胞であり、これはヒトおよび動物源から、例えば哺乳動物から単離することができる。間葉系幹細胞は複能性間質細胞であり、これは、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞および脂肪細胞を含むさまざまなタイプの細胞へ分化することができる。間葉自体は胚結合組織であり、これは中胚葉から誘導され、造血および結合組織へ分化する。しかし間葉系幹細胞は、造血細胞へ分化しない。間葉系幹細胞および骨髄間質細胞という用語は、長年互換的に使用されてきているが、どちらの用語も十分な説明になっていない。間質細胞は結合組織細胞であり、これは、組織の機能細胞が存在する支持的構造を形成する。これは、MSCの1つの機能に関しては正確に説明しているが、その用語は、比較的最近発見された組織の修復におけるMSCの役割を伝えることができない。その用語は、他の非骨髄組織、例えば、胎盤、臍帯血、脂肪組織、成体筋、角膜基質または脱落乳歯の歯髄から誘導される複能性細胞を包含する。細胞は、器官全体を再構成する能力は有さない。
【0030】
国際細胞治療学会(International Society for Cellular Therapy)は、MSCを定義するための最低限の基準を提案している。これらの細胞は(a)プラスチック接着を示すべきであり、(b)細胞表面マーカーの特定のセット、すなわち分化クラスター(CD)73、D90、CD105を有し、CD14、CD34、CD45およびヒト白血球抗原-DR(HLA-DR)の発現が欠如し、(c)脂肪細胞、軟骨細胞および骨芽細胞へin vitroで分化するための能力を有する。これらの特徴は、全てのMSCに有効であるが、さまざまな組織起源から単離されたMSCにおいてわずかな違いが存在する。MSCは、胎児組織だけではなく多くの成体組織にもほぼ例外なく存在する。MSCの有効な母集団が、骨髄から報告されている。MSCの特徴を示す細胞が、脂肪組織、羊水、羊膜、歯の組織、子宮内膜、肢芽、月経血、末梢血、胎盤および胎膜、唾液腺、皮膚および包皮、羊膜下臍帯内膜(sub-amniotic umbilical cord lining membrane)、滑液およびホウォートンゼリーから単離されている。
【0031】
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)は、極めて高度の塑性を示し、実質的に全ての器官に認められ、高密度で骨髄に認められる。hMSCは、間葉細胞のための再生可能な源としての役割を果たし、適切に刺激したときにin vitroで、移植後にin vivoで、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、骨格筋および心筋細胞、内皮細胞、ならびに神経を含むいくつかの細胞系譜へ分化する多能性能を有する。
【0032】
1つの例において、細胞は多能性成体前駆細胞(MAPC)であり、これは、骨髄、筋肉および脳から収集することができる原始細胞母集団から誘導される。MAPCは、間葉系幹細胞よりも原始的な細胞母集団であり、これらは胚性幹細胞特徴を模擬するが、細胞療法において成体幹細胞の潜在力を依然として保持する。In vitroで、MAPCは、脂質、骨、神経、肝、造血、筋、軟骨、上皮、および内皮系譜への圧倒的な分化能を実証した。MAPCの重要な特徴は、これらが、その表現型を失うことなくin vitroで優れた増殖能を示すことである。MAPCを使用して、さまざまな疾患、例えば、虚血性脳卒中、移植片対宿主疾患、急性心筋梗塞、臓器移植、骨修復および骨髄異形成を処理してもよい。MAPCはまた、骨形成を強化し、血管新生を促進し、免疫調節効果を有する。
【0033】
人工多能性幹細胞(iPS)はある種の多能性幹細胞であり、これは、成体細胞から直接生成することができる。これらは実際には無限に増殖することができ、神経、心臓、膵臓および肝臓細胞を含むあらゆる他のタイプの細胞を体内にもたらすことができる。人工多能性幹細胞は、成体組織から直接誘導することができ、これらは、患者に合った様式で作製することができ、そのため、免疫拒絶のリスクを伴わずに移植を行うことができる。ヒト人工多能性幹細胞は特に興味深く、これらは、例えば、ヒト線維芽細胞、角化細胞、末梢血細胞、腎上皮細胞または他の好適なタイプの細胞から生成することができる。
【0034】
造血幹細胞(HSC)は、血液幹細胞とも称され、白血球、赤血球、および血小板を含む全てのタイプの血液細胞へ発達することができる細胞である。造血幹細胞は、末梢血および骨髄で認められる。HSCは、血液細胞の骨髄系譜とリンパ系譜との両方をもたらす。骨髄系譜とリンパ系譜の両方が樹状細胞形成に関与する。骨髄細胞としては、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、および巨核球から血小板がある。リンパ系細胞としては、T細胞、B細胞、およびナチュラルキラー細胞がある。造血幹細胞移植は、癌および他の免疫系障害の処理において使用することができる。
【0035】
一般的に、細胞はヒドロゲル中で培養してもよく、その中で保存してもよい。細胞は、動物またはヒト用薬剤(animal or human based agents)または細胞外由来の培地を含まないヒドロゲル上でまたはその中で維持および増殖することができる。細胞は、ヒドロゲル上でまたはその中で均一に分散させてもよい。
【0036】
最初に、細胞を、個別の培養物としてプレ培養し、回収し、新しい培地へ移してもよく、その培地は、培養培地と同じであっても、異なっていてもよい。細胞懸濁液が得られる。このまたは他の細胞懸濁液をナノフィブリル状セルロース、例えばナノフィブリル状セルロースを含むヒドロゲルと合わせるおよび/または混合し、細胞システムを得てもよく、形成してもよい。細胞が細胞システム中で培養される場合、細胞培養物が形成される。細胞システムまたは培養物は、2D系または培養物であってもよく、3D系または培養物であってもよい。2D系または培養物は、膜中でのおよび/または層としての系または培養物を指す。3D系または培養物は、ナノフィブリル状セルロース中の系または培養物を指し、細胞は、3次元方向全てにおいて成長および/または相互作用することが可能になる。NFCヒドロゲルマトリックスは、天然の細胞外マトリックス構造を模倣し、栄養分、気体などを効率的に輸送する。1つの例において、細胞システムは3D細胞系である。
【0037】
ナノフィブリル状セルロース
細胞システムを形成するための出発材料は、ナノフィブリル状セルロースであり、ナノセルロースとも称され、これは、セルロース原材料由来の、単離されたセルロースフィブリルまたはフィブリル束を指す。ナノフィブリル状セルロースは、天然に豊富にある天然ポリマーをベースとする。ナノフィブリル状セルロースは、水中に粘性ヒドロゲルを形成する能力を有する。ナノフィブリル状セルロース製造技術は、繊維状原材料を分解し、例えばパルプ繊維の水性分散体を粉砕し、ナノフィブリル化セルロースを得ることに基づいていてもよい。粉砕または均質化プロセスの後、得られたナノフィブリル状セルロース材料は、希釈粘弾性ヒドロゲルである。
【0038】
得られた材料は、比較的低濃度で通常存在し、分解状態のため、水中に均質に分布する。出発材料は、0.2~10%(w/w)、例えば0.2~5%(w/w)の濃度の水性ゲルであってもよい。ナノフィブリル状セルロースは、繊維状原材料を分解して直接得てもよい。
【0039】
そのナノスケール構造のため、ナノフィブリル状セルロースは、従来のセルロースでは提供することができない機能性を可能にする独特の特性を有する。しかし、ナノスケール構造のため、ナノフィブリル状セルロースは扱いが難しい材料でもある。例えば、ナノフィブリル状セルロースの脱水または取扱いが困難なことがある。
【0040】
ナノフィブリル状セルロースは、植物由来のセルロース原材料から調製してもよく、またはそれは、ある特定の細菌発酵プロセス由来であってもよい。ナノフィブリル状セルロースは、植物材料から好ましくは作製される。原材料は、セルロースを含有する任意の植物材料がベースであってもよい。1つの例において、フィブリルは、非実質植物材料から得られる。そのような場合において、フィブリルは、二次細胞壁から得てもよい。そのようなセルロースフィブリルの1つの豊富な源は、木質繊維である。ナノフィブリル状セルロースは、木材由来の繊維原材料を均質化することによって製造してもよく、その材料は、化学パルプであってもよい。セルロース繊維は分解され、わずか数ナノメートルの平均直径を有し、大抵の場合200nm以下であってもよいフィブリルを生成し、水中にフィブリルの分散体が得られる。二次細胞壁由来のフィブリルは、実質的に結晶質であり、少なくとも55%の結晶化度を有する。このようなフィブリルは、一次細胞壁由来のフィブリルと異なる特性を有していてもよく、例えば、二次細胞壁由来のフィブリルの脱水はより困難な場合がある。一般的に、一次細胞壁、例えば、テンサイ、ジャガイモ塊茎およびバナナ花軸由来のセルロース源では、マイクロフィブリルは、木材由来のフィブリルよりも繊維マトリックスから容易に遊離され、分解に必要なエネルギーは少ない。しかし、これらの材料は依然としてやや不均質であり、大きなフィブリル束からなる。
【0041】
非木質材料は、農業残渣、草または他の植物物質、例えば、綿、コーン、小麦、オート麦、ライ麦、大麦、コメ、亜麻、麻、マニラ麻、サイザル麻、黄麻、ラミー、ケナフ、バガス、竹またはアシ由来の、わら、葉、樹皮、種子、外皮、花、野菜または果物に由来してもよい。セルロース原材料は、セルロース産生微生物から誘導してもよい。微生物は、アセトバクター(Acetobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、リゾビウム(Rhizobium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属またはアルカリゲネス(Alcaligenes)属のもの、好ましくはアセトバクター属のもの、より好ましくはアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinumor)種またはアセトバクター・パスツリアナス(Acetobacter pasteurianus)種のものとすることができる。
【0042】
木質セルロースから得られるナノフィブリル状セルロースは、本明細書において記載される医療用または科学製品に好ましいことが見出された。木質セルロースは大量に入手可能であり、木質セルロースのために開発された調製法は、製品に好適なナノフィブリル状材料を製造することを可能にする。植物繊維、特に木質繊維をフィブリル化することによって得られたナノフィブリル状セルロースは、微生物から得られるナノフィブリル状セルロースと構造的に異なり、異なる特性を有する。例えば、細菌セルロースと比較して、ナノフィブリル化木質セルロースは、均質で、より多孔質のルーズな材料であり、それが、生細胞に関与する用途において有利である。細菌セルロースは、植物セルロースと同様のフィブリル化を行わずにそのままで通常使用され、したがって材料が異なる。細菌セルロースは高密度材料であり、これは、小さいスフェロイドを容易に形成し、したがって、材料の構造は不連続であり、生細胞に関連する用途においてそのような材料を使用することは望ましくない。
【0043】
木材は、針葉樹木、例えば、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ベイマツまたはドクニンジン由来であっても、広葉樹木、例えば、カバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリ、オーク、ブナノキまたはアカシア由来であっても、針葉樹および広葉樹の混合物由来であってもよい。1つの例において、ナノフィブリル状セルロースは、木材パルプから得られる。ナノフィブリル状セルロースは、広葉樹パルプから得てもよい。1つの例において、広葉樹はカバノキである。ナノフィブリル状セルロースは、針葉樹パルプから得てもよい。1つの例において、前記木材パルプは化学パルプである。化学パルプが、製品にとって望ましい場合がある。化学パルプは純粋な材料であり、さまざまな用途で使用してもよい。例えば、化学パルプは、機械パルプに存在するピッチおよび樹脂酸が無く、より滅菌されている、または容易に滅菌することができる。更に、化学パルプはより可撓性があり、例えば、医療用材料、膜、パッチ、包帯、および他の材料に有利な特性を提供し、これらは生存組織に適用してもよい。
【0044】
本明細書において使用する「ナノフィブリル状セルロース」という用語は、セルロースベースの繊維原材料から分離されるセルロースフィブリルおよび/またはフィブリル束を指す。これらのフィブリルは、高いアスペクト比(長さ/直径)によって特徴付けられる。ナノフィブリル状セルロースの平均長(粒子、例えば、フィブリルまたはフィブリル束の長さの中央値)は、1μmを超えてもよく、大抵の場合、50μm以下である。エレメンタリーフィブリルが互いに完全に分離していない場合、絡み合ったフィブリルは、例えば、1~100μm、1~50μm、または1~20μmの範囲の平均合計長を有していてもよい。しかし、ナノフィブリル状材料が高度にフィブリル化される場合、エレメンタリーフィブリルは、完全にまたはほぼ完全に分離されていてもよく、平均フィブリル長は、短く、例えば1~10μmまたは1~5μmの範囲である。これは、例えば、化学的に、酵素的にまたは機械的に短縮または消化されていない、特に天然グレードのフィブリルに適用される。しかし、強力に誘導されたナノフィブリル状セルロースは、短い平均フィブリル長、例えば、0.3~50μm、例えば、0.3~20μm、例えば、0.5~10μmまたは1~10μmの範囲を有していてもよい。特に短縮されたフィブリル、特に酵素的にもしくは化学的に消化されたフィブリル、または機械的に処理された材料は、1μm未満、例えば0.1~1μm、0.2~0.8μmまたは0.4~0.6μmの平均フィブリル長を有していてもよい。フィブリル長および/または直径は、例えば、CRYO-TEM、SEMまたはAFM画像を使用して顕微鏡で推定してもよい。
【0045】
ナノフィブリル状セルロースの平均直径(幅)は、高度にフィブリル化された材料に関しては、1μm未満、または500nm以下、例えば1~500nmの範囲、しかし好ましくは200nm以下、更に100nm以下または50nm以下、例えば1~200nm、2~200nm、2~100nm、または2~50nm、更に2~20の範囲である。本明細書において開示される直径は、フィブリルおよび/またはフィブリル束を指していてもよい。最も小さいフィブリルは、エレメンタリーフィブリルのスケールであり、平均直径は、典型的には、2~12nmの範囲である。フィブリルの寸法およびサイズ分布は、精製方法および効率による。高度に精製された天然ナノフィブリル状セルロースの場合、フィブリルの平均直径は、2~200nmまたは5~100nmの範囲、例えば10~50nmの範囲であってもよい。ナノフィブリル状セルロースは、大きな比表面積、および水素結合を形成するための強力な能力によって特徴付けられる。水性分散体では、ナノフィブリル状セルロースは、典型的には、軽いまたは混濁したゲル様材料として見える。繊維原材料に応じて、植物、特に木材から得られるナノフィブリル状セルロースは、少量の他の植物構成成分、特に木質構成成分、例えばヘミセルロースまたはリグニンも含んでいてもよい。その量は、植物源に依存する。
【0046】
一般的に、セルロースナノ材料は、セルロースナノ材料に関する標準用語を提供するTAPPIW13021に従ってカテゴリーに分類してもよい。これらの材料全てがナノフィブリル状セルロースではない。2つの主なカテゴリーは、「ナノ物体(nano objects)」および「ナノ構造材料」である。ナノ構造材料としては、直径10~12μmおよび長さ:直径比(L/D)<2を有する「セルロース微結晶」(ときとしてCMCと称される)、ならびに直径10~100nmおよび長さ0.5~50μmを有する「セルロースマイクロフィブリル」がある。ナノ物体としては、直径3~10nmおよびL/D>5を有する「セルロースナノ結晶」(CNC)に分類することができる「セルロースナノ繊維」、ならびに直径5~30nmおよびL/D>50を有する「セルロースナノフィブリル」(CNFまたはNFC)がある。
【0047】
さまざまなグレードのナノフィブリル状セルロースを、主に3つの特性、(i)サイズ分布、長さおよび直径、(ii)化学的組成、および(iii)レオロジー特性に基づいて分類することができる。グレードを十分に説明するために、特性を同時に使用してもよい。さまざまなグレードの例としては、天然(または非変性)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFCおよびカチオン化NFCがある。これらの主なグレードの範囲内で、サブグレード、例えば、極めて良好なフィブリル化対中等度のフィブリル化、高度の置換対低度の置換、低粘度対高粘度なども存在する。フィブリル化技術および化学的プレ変性は、フィブリルサイズ分布に影響を与える。典型的には、非イオングレードは、平均フィブリル直径(例えば、10~100nm、または10~50nmの範囲)が広いが、化学的変性グレードは、はるかに狭い(例えば、2~20nmの範囲)。変性グレードに関してはまた、分布がより狭い。ある特定の変性、特にTEMPO酸化でより短いフィブリルが得られる。
【0048】
原材料源、例えば、広葉樹対針葉樹パルプに応じて、さまざまなポリサッカライド(多糖)組成物が最終ナノフィブリル状セルロース製品中に存在する。一般的に、非イオングレードは、漂白されたカバノキパルプから調製され、高いキシレン含有量(25重量%)が得られる。変性グレードは、広葉樹または針葉樹のいずれかのパルプから調製される。これらの変性グレードでは、セルロースドメインとともに、ヘミセルロースも変性されている。最も確かなことには、変性は均質ではなく、すなわち、一部の部分が他のものよりも変性されている。したがって、変性製品がさまざまなポリサッカライド構造の混合物であるため、詳細な化学分析は通常不可能である。
【0049】
水性環境では、セルロースナノ繊維の分散体は、粘弾性ヒドロゲルネットワークを形成する。ゲルは、例えば、分散および水和された絡み合ったフィブリルによって0.05~0.2%(w/w)の比較的低濃度ですでに形成される。NFCヒドロゲルの粘弾性は、例えば動的振動レオロジー測定を用いて特徴付けてもよい。
【0050】
ナノフィブリル状セルロースヒドロゲルは、特徴的なレオロジー特性を示す。例えば、これらは、せん断減粘性(shear-thinning)または疑塑性材料であり、このことは、その粘度が、材料が変形される速度(または力)に依存することを意味する。回転式レオメーターで粘度を測定した場合、せん断減粘性挙動は、せん断速度が増加するにつれ、粘度における減少として認められる。ヒドロゲルは塑性挙動を示し、このことは、材料が直ちに流れ始める前にある特定のせん断応力(力)が必要であることを意味する。この臨界せん断応力は、降伏応力と称されることが多い。降伏応力は、応力制御レオメーターを用いて測定された定常状態の流動曲線から判定することができる。粘度が、適用されたせん断応力の関数としてプロットされる場合、臨界せん断応力を超えた後に、粘度において劇的な減少が認められる。ゼロせん断粘度および降伏応力は、材料の懸濁力を説明するために最も重要なレオロジーパラメーターである。これらの2つのパラメーターは、さまざまなグレードを十分明確に分け、したがってグレードの分類を可能にする。
【0051】
フィブリルまたはフィブリル束の寸法は、例えば原材料、分解方法および分解を行う回数に依存する。セルロース原材料の機械的分解は、任意の好適な装置、例えば、精製機、グラインダー、分散機、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦グラインダー、ピンミル、ローター-ローターディスパゲーター(rotor-rotor dispergator)、超音波粉砕機、フルイダイザー、例えば、マイクロフルイダイザー、マクロフルイダイザーまたはフルイダイザー型ホモジナイザーを用いて行ってもよい。分解処理は、水が十分に存在し、繊維間の結合が形成されるのを阻止する条件で行う。
【0052】
1つの例において、分解は、少なくとも1つのローター、ブレードまたは類似の可動機械部材を有する分散機、例えば、少なくとも2つのローターを有するローター-ローターディスパゲーターを使用することによって行われる。分散機では、ブレードが、半径(回転軸までの距離)によって決定される回転速度および周速で反対方向に回転した場合に、分散体中の繊維材料は、反対方向からそれを打つローターのブレードまたはリブによって繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は、半径方向で外側に移動するため、反対方向から高い周速で次々と来るブレードの広い面、すなわちリブへ衝突し、言い換えると、反対方向から複数の連続的な衝撃を受ける。また、ブレードの広い面の端部、すなわちリブにおいて、その端部が、次のローターブレードの反対側の端部とともにブレードギャップを形成し、せん断力が生じ、それが繊維を分解し、フィブリルを剥離する一因となる。衝撃頻度は、ローターの回転速度、ローターの数、各ローターにおけるブレードの数、およびデバイスを介した分散体の流速によって決定される。
【0053】
ローター-ローターディスパゲーターでは、さまざまな逆回転ローターの効果によって、材料が、せん断および衝撃力を繰り返し受けるような方法で、繊維材料を、逆回転ローターを介してローターの回転軸に対し半径方向で外側に導入し、それによって同時にフィブリル化する。ローター-ローターディスパゲーターの1つの例はAtrexデバイスである。
【0054】
分解に好適なデバイスの別の例は、ピンミル、例えばマルチペリフェラルピンミル(multi-peripheral pin mill)である。そのようなデバイスの1つの例としては、ハウジングおよびその中に衝突面を備えた第1のローター;第1のローターと同心の衝突面を備えた第2のローターであって、第1のローターと反対方向に回転するように配置されている第2のローター;または第1のローターと同心の衝突面を備えたステータがある。デバイスは、ハウジングにあり、ローター、またはローターおよびステータの中心に向かって開口する供給オリフィス、ならびにハウジング壁上にあり、最も外側のローターまたはステータの周辺に向かって開口する排出オリフィスを備えている。
【0055】
1つの例において、分解は、ホモジナイザーを使用することによって行われる。ホモジナイザーでは、圧力の効果によって繊維材料が均質化される。繊維材料分散体のナノフィブリル状セルロースへの均質化は、分散体を強制的に貫流することで生じ、これによって材料がフィブリルへ分解する。繊維材料分散体は、所与の圧力で狭い貫流ギャップを介して通過し、分散体の直線速度が増加すると、分散体に対してせん断力および撃力が生じ、フィブリルが繊維材料から取り出される。繊維フラグメントは、フィブリル化ステップにおいてフィブリルへ分解する。
【0056】
本明細書において使用する「フィブリル化」という用語は、粒子に適用される操作によって繊維材料を機械的に分解し、セルロースフィブリルが、繊維または繊維フラグメントからはがれることを一般的に指す。操作は、さまざまな効果、例えば、粉砕、破砕もしくはせん断、またはこれらの組合せ、または粒子サイズを減少させる他の同様の作用に基づいていてもよい。「分解」または「分解処理」という表現は、「フィブリル化」と互換的に使用してもよい。
【0057】
フィブリル化が行われた繊維材料分散体は、繊維材料および水の混合物であり、本明細書において「パルプ」とも称される。繊維材料分散体は、繊維全体、そこから分離される部分(フラグメント)、フィブリル束、または水と混合されたフィブリルを一般的に指していてもよく、典型的には、水性繊維材料分散体はそのような要素の混合物であり、構成成分間の比は、加工の程度または処理段階に、例えば、繊維材料の同じバッチの処理を通して行われるまたは「通過する」回数に依存する。
【0058】
ナノフィブリル状セルロースを特徴付ける1つの方法は、前記ナノフィブリル状セルロースを含む水溶液の粘度を使用することである。粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度またはゼロずり粘度であってもよい。本明細書において記載される特定の粘度は、ナノフィブリル状セルロースと非ナノフィブリル状セルロースを区別する。
【0059】
1つの例において、ナノフィブリル状セルロースの見かけの粘度は、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド粘度)または他の相当する装置を用いて測定する。好適には、ベーンスピンドル(vane spindle)(73番)を使用する。見かけの粘度を測定するのに入手可能な市販のブルックフィールド粘度計がいくつかあるが、これらは全て同じ原理に基づいている。好適には、RVDVスプリング(ブルックフィールドRVDV-III)が装置で使用される。ナノフィブリル状セルロースのサンプルを、水中0.8重量%の濃度に希釈し、10分間混合する。希釈したサンプル全体を250mlのビーカーへ添加し、温度を20℃±1℃に調整し、必要に応じて加熱し、混合する。低回転速度10rpmを使用する。一般的に、ブルックフィールド粘度は、20℃±1℃、0.8%(w/w)の稠度および10rpmで測定してもよい。
【0060】
方法において出発材料として提供されるナノフィブリル状セルロースは、水溶液中で生じる粘度によって特徴付けられてもよい。粘度は、例えば、ナノフィブリル状セルロースのフィブリル化の程度を説明する。1つの例において、ナノフィブリル状セルロースは、水中に分散されたときに、20℃±1℃、稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定すると、少なくとも2000mPa・s、例えば少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。1つの例において、ナノフィブリル状セルロースは、水中に分散されたときに、20℃±1℃、稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定すると、少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。1つの例において、ナノフィブリル状セルロースは、水中に分散されたときに、20℃±1℃、稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定すると、少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。水中に分散されたときの前記ナノフィブリル状セルロースのブルックフィールド粘度の範囲の例としては、20℃±1℃、稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定すると、2000~20000mPa・s、3000~20000mPa・s、10000~20000mPa・s、15000~20000mPa・s、2000~25000mPa・s、3000~25000mPa・s、10000~25000mPa・s、15000~25000mPa・s、2000~30000mPa・s、3000~30000mPa・s、10000~30000mPa・s、および15000~30000mPa・sがある。
【0061】
ナノフィブリル状セルロースは、非変性ナノフィブリル状セルロースであってもよく、またはそれを含んでもよい。非変性ナノフィブリル状セルロースの排水は、例えば、アニオン性グレードよりも著しく速い。非変性ナノフィブリル状セルロースは、稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定すると、2000~10000mPa・sの範囲のブルックフィールド粘度を一般的に有する。しかし、本方法では、非変性ナノフィブリル状セルロースは、多価イオンとの架橋に必要な遊離カルボキシル基の含有量が少ないために、効率的に架橋されていない。ナノフィブリル状セルロースは、好適なカルボン酸含有量、例えば0.6~1.4mmol COOH/gの範囲、例えば、0.7~1.2mmol COOH/gの範囲、または0.7~1.0mmol COOH/gまたは0.8~1.2mmol COOH/gの範囲を有することが好ましく、これらは伝導率滴定によって決定される。
【0062】
崩壊される繊維状セルロース原材料は、変性繊維状原材料であってもよい。変性繊維状原材料とは、セルロースナノフィブリルがより容易に繊維原材料から取り外し可能になるように処理によって繊維が影響を受けている原材料を意味する。変性は、液体中の懸濁液として存在する繊維状セルロース原材料、すなわちパルプへ通常行われる。
【0063】
繊維への変性処理は、化学的、酵素的または物理的であってもよい。化学的変性では、セルロース分子の化学構造が化学反応(セルロースの「誘導体化」)によって変化し、好ましくは、セルロース分子の長さに影響を与えないが、官能基がポリマーのβ-D-グルコピラノース単位へ付加される。セルロースの化学的変性は、ある特定の変換度で行われ、それは反応物の添加量および反応条件に依存し、一般に完全ではなく、そのためセルロースはフィブリルとして固体形態のままであり、水中で溶解しないことになる。物理的変性では、アニオン性、カチオン性、または非イオン性物質またはこれらの任意の組合せは、セルロース表面上に物理的に吸着される。
【0064】
繊維中のセルロースは、変性後に、特にイオン的に帯電されてもよい。セルロースのイオン電荷は、繊維の内部結合を弱め、その後ナノフィブリル状セルロースへの分解を促進することになる。イオン電荷は、セルロースの化学的または物理的変性によって達成してもよい。繊維は、出発原材料と比較して、変性後に高いアニオン性またはカチオン性電荷を有していてもよい。アニオン性電荷を作製するために最も一般的に使用される化学的変性法は、酸化であり、ヒドロキシル基が、アルデヒドおよびカルボキシル基へ酸化され、スルホン化およびカルボキシメチル化される。ナノフィブリル状セルロースと生物活性分子との間の共有結合の形成に寄与するカルボキシル基などの基を導入する化学変性が望ましいことがある。そして、カチオン性電荷は、カチオン性基、例えば第四級アンモニウム基がセルロースへ結合することによるカチオン化によって化学的に生成されてもよい。
【0065】
ナノフィブリル状セルロースは、化学変性ナノフィブリル状セルロース、例えばアニオン変性ナノフィブリル状セルロースまたはカチオン変性ナノフィブリル状セルロースを含んでいてもよい。1つの例において、ナノフィブリル状セルロースはアニオン変性ナノフィブリル状セルロースである。1つの例において、アニオン変性ナノフィブリル状セルロースは酸化ナノフィブリル状セルロースである。1つの例において、アニオン変性ナノフィブリル状セルロースはスルホン化ナノフィブリル状セルロースである。1つの例において、アニオン変性ナノフィブリル状セルロースはカルボキシメチル化ナノフィブリル状セルロースである。セルロースのアニオン性変性を用いて得られた材料は、アニオン性セルロースと称してもよく、これは、非変性材料と比較して、カルボキシル基などのアニオン性基の量または割合が、変性によって増加した材料を指す。カルボキシル基の代わりにまたはそれに加えて、他のアニオン性基、例えばリン酸基または硫酸基をセルロースへ導入することも可能である。これらの基の含有量は、本明細書においてカルボン酸に関して開示されるものと同じ範囲であってもよい。
【0066】
セルロースは、酸化されていてもよい。セルロースの酸化では、セルロースの第一級ヒドロキシル基を、複素環式ニトロキシル化合物、例えば「TEMPO」と一般的に称される2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシフリーラジカルによって触媒的に、例えばN-オキシル介在性触媒酸化を介して酸化されてもよい。セルロースβ-D-グルコピラノース単位の第一級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)が、カルボキシル基へ選択的に酸化される。いくつかのアルデヒド基も第一級ヒドロキシル基から形成される。低度の酸化は、十分なフィブリル化を効率的にすることができず、高度の酸化は、機械的破壊処理の後にセルロースの分解をもたらすという発見に関しては、セルロースは、酸化セルロース中、0.5~2.0mmol COOH/gパルプ、0.6~1.4mmol COOH/gパルプ、または0.8~1.2mmol COOH/gパルプ、好ましくは1.0~1.2mmol COOH/gまでのパルプの範囲のカルボン酸含有量を有するレベルへ酸化してもよく、これらは伝導率滴定によって決定される。そうして得られた酸化セルロースの繊維が水中で分解される場合、例えば、幅3~5nmであってもよい個々のセルロースフィブリルの安定な透明分散体が得られる。出発培地として酸化パルプを用い、ナノフィブリル状セルロースを得ることが可能であり、稠度0.8%(w/w)で測定されるブルックフィールド粘度は、少なくとも10000mPa・s、例えば、10000~30000mPa・sの範囲である。
【0067】
この開示において、触媒「TEMPO」を述べる場合はいつでも、セルロース中のC6炭素のヒドロキシル基の酸化を選択的に触媒することができる任意のTEMPO誘導体または任意の複素環式ニトロキシルラジカルへも、「TEMPO」が関与する全ての測定および操作が等しくかつ同様に適用されることは明白である。
【0068】
本明細書において開示されるナノフィブリル状セルロースの変性は、本明細書において記載される他のグレードのフィブリル状セルロースに適用してもよい。例えば、高度に精製されたセルロースまたはマイクロフィブリル状セルロースも、同様に化学的または酵素的に変性されていてもよい。しかし、例えば材料の最終的なフィブリル化の程度において違いが存在する。
【0069】
1つの例において、そのような化学変性ナノフィブリル状セルロースは、水中に分散されたときに、20℃±1℃、稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定すると、少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。1つの例において、そのような化学変性ナノフィブリル状セルロースは、水中に分散されたときに、20℃±1℃、稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定すると、少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。1つの例において、そのような化学変性ナノフィブリル状セルロースは、水中に分散されたときに、稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定すると、少なくとも18000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。使用されるアニオン性ナノフィブリル状セルロースの例は、13000~15000mPa・sまたは18000~20000mPa・s、または更に最大25000mPa・sの範囲のブルックフィールド粘度を有し、これらはフィブリル化の程度に依存する。
【0070】
1つの例において、ナノフィブリル状セルロースはTEMPO酸化ナノフィブリル状セルロースである。それは、低濃度において高粘度、例えば稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定すると、少なくとも20000mPa・s、更に少なくとも25000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。1つの例において、TEMPO酸化ナノフィブリル状セルロースのブルックフィールド粘度は、20℃±1℃、稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定すると、20000~30000mPa・s、例えば25000~30000mPa・sの範囲である。
【0071】
1つの例において、ナノフィブリル状セルロースは、化学的未変性ナノフィブリル状セルロースを含む。1つの例において、そのような化学的未変性ナノフィブリル状セルロースは、水中に分散されたときに、20℃±1℃、稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定すると、少なくとも2000mPa・s、または少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。
【0072】
ナノフィブリル状セルロースはまた、平均直径(すなわち幅)によって、または、粘度、例えばブルックフィールド粘度もしくはゼロせん断粘度とともに平均直径によっても特徴付けることができる。1つの例において、本明細書において記載される製品に使用するために好適なナノフィブリル状セルロースは、フィブリルの平均直径が1~200nm、または1~100nmの範囲である。1つの例において、前記ナノフィブリル状セルロースは、フィブリルの平均直径が1~50nm、例えば2~20nmまたは5~30nmの範囲である。1つの例において、前記ナノフィブリル状セルロースは、例えばTEMPO酸化ナノフィブリル状セルロースの場合は、フィブリルの平均直径が2~15nmの範囲である。
【0073】
フィブリルの直径は、いくつかの技術を用いて、例えば顕微鏡によって決定してもよい。フィブリルの厚さおよび幅分布は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、例えば極低温透過電子顕微鏡(cryo-TEM)、または原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の分析によって測定してもよい。一般的に、AFMおよびTEMは、狭いフィブリル直径分布を有するナノフィブリル状セルロースグレードに最適である。
【0074】
1つの例において、ナノフィブリル状セルロース分散体のレオメーター粘度は、直径30mmを有する円筒状サンプルカップ中に狭い間隙の羽根構造(直径28mm、長さ42mm)を備えた応力制御回転レオメーター(AR-G2、TA Instruments、UK)を用いて22℃で測定する。サンプルをレオメーターへ入れた後、これらを5分間静止させてから測定を開始する。定常状態粘度は、徐々に増加するせん断応力(適用されたトルクに比例する)を用いて測定し、せん断速度(角速度に比例する)を測定する。一定のずり速度に到達した後にまたは2分の最大時間後に、ある特定のせん断応力において報告される粘度(=せん断応力/せん断速度)を記録する。測定は、1000s-1のせん断速度を超えたときに中止する。この方法は、ゼロせん断粘度を決定するために使用してもよい。
【0075】
1つの例において、ナノフィブリル状セルロースは、水中に分散されたときに、1000~100000Pa・sの範囲の、例えば5000~50000Pa・sの範囲のゼロせん断粘度(小さいせん断応力において「プラトー」な一定の粘度)、および20℃±1℃の水性培地において0.5重量%(w/w)の稠度で回転レオメーターによって決定される1~50Paの範囲、例えば3~15Paの範囲の降伏応力(せん断低粘稠化が始まるせん断応力)を提供する。このようなナノフィブリル状セルロースも、フィブリルの平均直径は200nm以下、例えば1~200nmの範囲であってもよい。
【0076】
濁度は、肉眼で一般的に見ることができる個々の粒子(懸濁されているまたは溶解されている全ての固形物)によって引き起こされる流体の濁りまたはかすみである。濁度を測定するいくつかの実用的な方法があり、最も直接的なものは、それを水のサンプル柱に通したときの光の減衰(すなわち、強度の減少)の測定である。代わりに使用されるジャクソンキャンドル法(単位:ジャクソン濁度単位またはJTU)は、真逆の測定であって、それを通して見るロウソクの炎が完全に見えなくなるために実質的に必要な水柱の長さの測定である。
【0077】
濁度は、光学濁度測定器を使用して定量的に測定してもよい。定量的な濁度の測定に利用可能ないくつかの市販の濁度計がある。この場合は、比濁法に基づいた方法を使用する。較正された比濁計による懸濁度の単位は、比濁法濁度単位(NTU)と称される。測定装置(濁度計)を較正し、標準較正サンプルを用いて制御し、続いて希釈したNFCサンプルの懸濁度を測定する。
【0078】
1つの懸濁度測定法では、ナノフィブリル状セルロースサンプルを、前記ナノフィブリル状セルロースのゲル化点を下回る濃度へ水で希釈し、希釈したサンプルの懸濁度を測定する。前記濃度は、ナノフィブリル状セルロースサンプルの懸濁度を測定する場合、0.1%である。50mlの測定容器を備えたHACH P2100濁度計を使用して、懸濁度を測定する。ナノフィブリル状セルロースサンプルの乾燥物質を決定し、乾燥物質として算出するサンプル0.5gを測定容器に入れ、これを水道水で500gへ満たし、約30秒間振とうすることによって激しく混合する。直ちに水性混合物を5つの測定容器へ分け、これらを濁度計へ挿入する。測定は、各容器に対して3回行う。平均値および標準偏差を得られた結果から算出し、最終的な結果がNTU単位として得られる。
【0079】
ナノフィブリル状セルロースを特徴付ける1つの方法は、粘度と懸濁度の両方を定義することである。小さいフィブリルは、光を十分に散乱しないために、低い濁度は、フィブリルのサイズが小さいこと、例えば直径が小さいことを指す。一般的にフィブリル化の程度が増加するにつれ、粘度が増加し、同時に濁度は減少する。しかし、これが生じるのはある特定の点までである。フィブリル化が更に継続される場合、フィブリルは最終的に切断され始め、強力なネットワークをこれ以上形成することができなくなる。その結果、この点の後は、懸濁度と粘度の両方が減少し始める。
【0080】
1つの例において、アニオン性ナノフィブリル状セルロースの濁度は、水性培地において稠度0.1%(w/w)で測定し、比濁法によって測定すると、90NTUよりも低く、例えば、3~90NTU、例えば5~60、例えば、8~40である。1つの例において、天然ナノフィブリル状の濁度は、水性培地において20℃±1℃、稠度0.1%(w/w)で測定し、比濁法によって測定すると、200NTUを更に超えてもよく、例えば、10~220NTU、例えば20~200、例えば、50~200であってもよい。ナノフィブリル状セルロースを特徴付けるために、これらの範囲は、ナノフィブリル状セルロースの粘度範囲、例えば水中に分散されたときに、20℃±1℃、稠度0.8%(w/w)および10rpmで測定される少なくとも2000mPa・s、少なくとも3000mPa・s、少なくとも5000mPa・s、少なくとも10000mPa・sなど、例えば、少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供するナノフィブリル状セルロースと組み合わせてもよい。
【0081】
製造プロセスを強化するまたは製品の特性を改善もしくは調整するための補助剤が、ナノフィブリル状セルロース分散体に含まれていてもよい。このような補助剤は、分散体の液体相中に溶解性であってもよく、それはエマルションを形成してもよく、またはそれは固体であってもよい。補助剤は、ナノフィブリル状セルロース分散体の製造中に原材料へすでに添加されていてもよく、またはこれらは、形成されたナノフィブリル状セルロース分散体またはゲルへ添加してもよい。補助剤はまた、例えば、含浸、噴霧、ディッピング、浸漬などの方法によって最終製品へ添加してもよい。補助剤は、ナノフィブリル状セルロースへ通常は共有結合しておらず、そのためそれがナノセルロースマトリックスから放出される場合がある。制御されたおよび/または持続されたそのような補助剤の放出は、NFCをマトリックスとして使用する場合に得られることがある。補助剤の例は、治療的(薬学的)および化粧料用薬剤、ならびに製品の特性または活性剤の特性に影響を与える他の薬剤、例えば緩衝液、界面活性剤、可塑剤、乳化剤などを含む。1つの例において分散体は、1つまたは複数の塩を含有し、これらは、最終製品の特性を強化するためにまたは製造プロセスにおいて製品から水分の除去を促進するために添加してもよい。塩の1つの例は塩化ナトリウムである。塩は、分散体中に乾燥物質が0.01~1.0%(w/w)の範囲の量で含まれていてもよい。最終製品はまた、塩化ナトリウム溶液に、例えば約0.9%の塩化ナトリウムの水溶液に、ディップしても、漬けてもよい。最終製品における所望の塩化ナトリウム含有量は、湿潤製品の体積の0.5~1%の範囲、例えば約0.9%であってもよい。塩、緩衝液などの薬剤を、生理学的条件を得るために提供されてもよい。
【0082】
ナノフィブリル状セルロース材料は、細胞が連結することになるヒドロゲルとして提供してもよい。ヒドロゲルは、本明細書において記載されるいずれの形態で存在していてもよい。
【0083】
ヒドロゲル
ナノフィブリル状セルロースは、完全に脱水されていない場合、水分含有量は80~99.9%(w/w)、または50~99.8%(w/w)の範囲であってもよい。ナノフィブリル状セルロースが、ゲルとして存在する場合、水分含有量は90~99.8%(w/w)の範囲であってもよい。ゲルは、ヒドロゲルと称されることもある。
【0084】
ナノフィブリル状セルロースは、ゲル形態として、より詳細には医療用ヒドロゲルとして提供されてもよい。ゲルは、鋳造可能であってもよく、それは、結合する標的上、例えば細胞培養プレート、マルチウェルプレート、バイアルまたは他の容器へ適用または形成されてもよい。標的はまた、ヒドロゲルに含まれるまたはカプセル化される細胞、例えば幹細胞を使用することによる治療法を必要とする個体であってもよい。
【0085】
1つの例は、そのようなヒドロゲルを調製する方法であって、
- パルプを提供すること、
- ナノフィブリル状セルロースが得られるまでパルプを崩壊すること、
- ナノフィブリル状セルロースをヒドロゲルへ形成すること
を含む、方法を提供する。
【0086】
ナノフィブリル状セルロースは、所望のフィブリル化の程度にフィブリル化されてもよく、所望の水含有量へ調整されてもよく、そうでなければ変性されてもよく、本明細書において記載される所望の特性を有するゲルを形成するようになる。1つの例において、ヒドロゲル中のナノフィブリル状セルロースはアニオン変性ナノフィブリル状セルロースである。
【0087】
医療用または科学的ヒドロゲルとして使用されるヒドロゲルは、均質される必要がある。そのため、ヒドロゲルを調製する方法は、ナノフィブリル状セルロースを含むヒドロゲルを均質化することを含んでもよく、好ましくは均質化デバイス、例えば本明細書において記載されるものが用いられる。この好ましい非フィブリル化均質化ステップを用いて、ゲルから不連続の領域を除去することが可能である。応用するためにより優れた特性を有する均質なゲルが得られる。ヒドロゲルは、例えば、熱および/もしくは放射線を使用することによって、ならびに/または滅菌剤、例えば抗菌薬を添加することによって更に滅菌されてもよい。
【0088】
細胞システムを調製するために提供されるナノフィブリル状セルロースは、初期水分含有量が80~99.9%(w/w)、または50~99.8%(w/w)、例えば90~99.8%(w/w)であってもよい。材料は、ゲル形態であっても、なくてもよい。更に脱水された材料が提供されてもよく、これは保存を容易にし、そのような材料は、通常再水和してから使用する必要がある。水または細胞保存培地が添加されてもよい。
【0089】
細胞システム
細胞システムは、細胞と、ナノフィブリル状セルロース、例えばナノフィブリル状セルロースを含むヒドロゲルと、組み合わせることによって形成してもよい。細胞は、ヒドロゲル中に含まれてもよく、カプセル化されてもよく、両用語は互換的に使用してもよい。細胞は、懸濁液として提供してもよく、ナノフィブリル状セルロースと合わせ、細胞を含むヒドロゲルを形成してもよい。
【0090】
ヒドロゲルは、細胞保存材料とも称されることがある。細胞システムは、細胞と、好適な形態のナノフィブリル状セルロースを含有するマトリックスとを含む実体を指し、細胞システムは、保存されてもよく、および/または第1の位置から第2の位置へ移動されてもよい。細胞システムは、容器および/または包装中に含まれていてもよい。例えば、細胞システムは、バイアル、プレート、マルチウェルプレート、試験管、ボトルまたは他の好適な容器中に適用または提供されてもよい。容器は、密閉、例えば、シーリング膜で覆われても、プラスチックバッグ、包装材料などで包装されてもよい。特に任意の光感受性薬剤が細胞保存培地中で使用される場合、細胞システムは、密閉または包装を用いて光から保護されてもよい。細胞システムは、液体細胞保存培地を含有する。一般的に、ナノフィブリル状セルロースは、大量の液体を含有し、液体培地中に更に懸濁された個別の実体としてマトリックスを提供することが可能である。
【0091】
さまざまな細胞システム材料が調製および提供されてもよい。これらの材料は、さまざまな方法でさまざまなタイプの細胞を保存、輸送および提供するために使用してもよい。細胞を保存すると、特に細胞が発売の承認待ちの場合の品質コントロールも可能になる。
【0092】
細胞システムは、細胞保存培地を含み、これは休止培地とも称されることがあり、細胞培養培地とは異なる場合がある。細胞保存培地は、1つまたは複数の緩衝剤を含む。1つの実施形態において、細胞保存培地は、両性イオン緩衝剤、例えば4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)を含み、これは試験において有利であることが認められた。緩衝剤は、好ましくはpK値が6~8の範囲であるはずである。
【0093】
細胞は、NFCヒドロゲル中で、長時間、例えば、2~7日間または更に最長14日または21日間保存および/または制御することができる。細胞システムは、本明細書において開示されるような低温で提供されてもよい。
【0094】
好ましくは、細胞システムは、温度が0~30℃、例えば0~25℃の範囲で提供される。細胞システムを形成する場合、ナノフィブリル状セルロース材料は、所望の温度のヒドロゲルおよび/または分散体の形態で提供されてもよく、および/または懸濁液として存在することがある細胞は、所望の温度で提供されてもよい。細胞システムを調製する方法は、ナノフィブリル状セルロースヒドロゲルおよび/または分散体を所望の温度へ冷却すること、および/または細胞懸濁液を所望の温度へ冷却することを含んでいてもよい。方法はまた、形成された細胞システムを所望の温度へ冷却することを含んでいてもよい。
【0095】
温度は、細胞が凍結しないような方法で、好ましくは少なくとも0℃、1℃または2℃で、例えば1~25℃または2~25℃の範囲で選択される。更に、特に感受性が高い細胞、例えば未分化状態で維持する必要がある幹細胞の場合は、高すぎる温度も回避するべきである。冷蔵温度、例えば1~10℃の範囲、例えば約4℃を使用してもよい。しかし、細胞が郵便配達などによって輸送される場合において、そのような温度を維持することが困難なことがある。細胞は、更に幹細胞は、依然として環境温度、例えば最大25℃の室温でさえ生存可能なままであることが見出された。1つの実施形態において、温度は、10~25℃、または15~25℃、例えば18~23℃の範囲である。保存および輸送の間、所望の温度は、独立した包装、例えば発泡スチロールパッケージを単に使用することによって、好ましくは氷を含む包装によって、または冷蔵ボックスなどを使用することによって維持することができる。保存の間、細胞システムは、冷蔵庫でまたは室温でさえも保存してもよい。
【0096】
本開示は、ナノフィブリル状セルロース製品を含む細胞保存または細胞送達組成物、材料またはマトリックスを、例えば湿潤状態のヒドロゲル、立体物または膜の形態で提供する。細胞保存材料は、第1の水分含有量で提供されてもよく、水性液体を材料へ添加し、第2の水分含有量を得てもよい。湿潤状態は、第1のまたは第2の水分含有量を指していてもよい。第2の水分含有量は、例えば、細胞を保存または送達する間の細胞システムの水分含有量であってもよい。第1の水分含有量は、本明細書において記載される製品または材料の水分含有量、例えば20%を下回る水分含有量であってもよい。第2の水分含有量は、90%以上、例えば95%以上、98%以上、または99%以上の水分含有量であってもよく、これは、ヒドロゲルとして考えてもよい。添加する水性液体は、細胞保存培地であってもよい。細胞培養培地は、細胞培養において使用される水性培地である。細胞保存培地は、好ましくは細胞培養培地と異なる。細胞が細胞保存材料に、すなわちヒドロゲルに適用される場合、細胞培養培地は、細胞保存培地に交換してもよい。細胞保存材料は、細胞保存培地をすでに含有していてもよく、より詳細には、ヒドロゲルは、細胞保存培地をベースとしてもよい。細胞は、細胞保存培地で洗浄してから、細胞保存材料へ適用してもよい。細胞は、ヒドロゲル中で培養してもよく、細胞はヒドロゲル中に存在する間、細胞培養培地は細胞保存培地に交換される。これは、例えば、細胞保存培地中でヒドロゲルを浸漬することによって行ってもよい。
【0097】
細胞保存培地は、細胞培養培地中に通常含まれる薬剤、例えば血清またはその構成成分を含有していても、いなくてもよい。細胞保存培地は、イオンおよび浸透圧バランスを維持すること、アシドーシスを阻害すること、および/または低温での細胞膨潤を阻止することを目的とする。これらの特徴は、細胞ホメオスタシスの維持を促進し、これは保存製剤として培養培地のみを使用する場合、達成することができない。細胞保存培地の1つの例は、緩衝溶液、特に緩衝塩溶液、例えば等張緩衝液、例えばリン酸緩衝生理食塩水である。単純なものでは、細胞保存培地は、1つまたは複数の緩衝剤のみを含み、任意選択で1つまたは複数の塩も含有する。細胞保存培地は、1つまたは複数の浸透圧/膠質安定化剤、フリーラジカル捕捉剤/抗酸化物質、イオンキレート剤、膜安定化剤および/またはエネルギー基質も含有していてもよい。
【0098】
細胞保存培地は、可能な緩衝剤に加えて、任意の有機分子、例えば栄養分、血清または生物学的活性剤を含有していても、いなくてもよい。細胞保存培地は、タンパク質および/または無血清培地、例えば動物またはヒト無血清培地であってもよい。
【0099】
緩衝溶液は、弱酸およびその共役塩基、またはその逆の混合物を含む水溶液である。緩衝溶液を使用し、pHを実質的にまたはほぼ一定な値で維持してもよい。細胞保存培地のpHは、6~8、例えば7.0~7.7の範囲であってもよい。特に幹細胞は、およそ7.4、例えば7.2~7.6のpH範囲を必要とすることがある。
【0100】
生物学的用途において有用である緩衝剤の例としては、TAPS([トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパンスルホン酸)、ビシン(2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)酢酸)、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)または、(2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール)、トリシン(3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、TAPSO(3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、TES(2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸)、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸))、カコジル酸(ジメチルアルシン酸)、およびMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)がある。
【0101】
一般的な緩衝液の1つの具体例は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)であり、これは通常pH7.4を有する。それは、リン酸水素二ナトリウム、塩化ナトリウム、ならびに一部の製剤では塩化カリウムおよびリン酸二水素カリウムを含有する水性塩溶液である。溶液の浸透圧濃度およびイオン濃度はヒト身体のものと一致し、そのため等張である。
【0102】
一般的に、細胞保存培地は、1つまたは複数の緩衝剤を含む。1つの実施形態において、細胞保存培地は両性イオン緩衝剤、例えば4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)を含み、これは試験において有利であることが認められた。緩衝剤は、好ましくはpK値が6~8の範囲であるはずである。細胞保存培地中の緩衝剤の含有量は、100mM未満、例えば10~50mM、または20~30mM、例えば、20~25mMであってもよい。
【0103】
両性イオン緩衝剤の別の例としては、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、2-[(2-ヒドロキシ-1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル)アミノ]エタンスルホン酸(TES)、およびN-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)がある。
【0104】
細胞保存培地は、1つまたは複数の浸透圧剤を含有していてもよく、浸透圧安定化剤とも称され、これは、培地の浸透圧または浸透圧濃度(osmolarity)を調整するために、好ましくは等張溶液を提供するために、および/または所望の浸透圧を得るために使用する。浸透圧剤の例としては、グルコース、グルコース系ポリマー、デンプン、デキストラン、ゼラチン、アルブミン、アミノ酸、例えばグルタミン、ポリペプチド、オリゴペプチド、ジペプチド(例えばウルトラグルタミン)、グリセロール、またはこれらの組合せ、例えばグルコース系ポリマーおよびアミノ酸、またはアミノ酸およびグリセロールがある。これらの薬剤はまた、エネルギー基質として作用することもある。浸透圧剤は、0.5~2%(w/w)、例えば1~1.5%(w/w)の範囲の濃度で提供してもよい。またイオン化合物、例えば塩、例えば塩化ナトリウムは、浸透圧剤として提供してもよい。培地の浸透圧は、250~350mOsm/kg、例えば260~320mOsm/kgの範囲であってもよい。細胞保存培地は、膠質安定化剤とも称される1つまたは複数の膠質剤を含んでいてもよい。膠質圧、またはコロイド浸透圧は、タンパク質による浸透圧の形態である。
【0105】
細胞保存培地は、1つもしくは複数のキレート化剤、例えばエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ビタミンE、ウルトラグルタミン、重炭酸ナトリウム、および/または1つもしくは複数のプロテアーゼ阻害剤も含んでいてもよい。
【0106】
細胞保存培地は、他の成分、例えば必須培地、例えば、最小必須培地(MEM)なども含有していてもよい。このような必須培地または最小必須培地は、合成物質であってもよく、アミノ酸、塩、グルコースおよびビタミン、更に例えば、ピルビン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムおよび/またはグルタミンを含有していてもよい。例えば、イーグル最小必須培地(EMEM)は、アミノ酸、塩(塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、およびリン酸二水素ナトリウム)、グルコース、およびビタミン(葉酸、ニコチンアミド、リボフラビン、B12)を含有する。最小必須培地の別の例としては、DMEM、α-MEM、およびGMEMがある。ダルベッコ変性イーグル培地(DMEM)は、アミノ酸(アルギニン、シスチン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン)、無機塩(CaCl、Fe(NO3・9HO、KCl、NaHCO、NaHPO4・O)、ビタミン(コリン、葉酸、ミオイノシトール、ニコチンアミド、パントテン酸、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン)、グルコースおよびピルビン酸ナトリウムを含有していてもよい。細胞保存培地の1つの例は、MEM、例えばDMEM、およびHEPESを含有する。細胞保存培地の1つの例は、MEM、例えばDMEM、重炭酸ナトリウム、HEPES、およびウルトラグルタミンを含有する。細胞保存培地の1つの例は、MEM、例えばDMEM、重炭酸ナトリウム、HEPES、胎児ウシ血清(FBS)およびウルトラグルタミンを含有する。
【0107】
本開示は、真核細胞を保存するための方法であって、
- 真核細胞を提供すること、
- ナノフィブリル状セルロース、例えばナノフィブリル状セルロースを含み、ナノフィブリル状セルロースが第1の濃度で存在してもよいヒドロゲルを提供すること、
- 細胞およびナノフィブリル状セルロースを合わせ、ナノフィブリル状セルロースが第2の濃度で存在するヒドロゲルを含んでいてもよい細胞システムを形成すること、および
- 細胞システムを0~25℃の範囲の温度で保存すること
を含む、方法を提供する。細胞保存培地は、細胞システム中に含まれる。細胞システムは、本明細書において記載される任意の細胞システムであってもよい。
【0108】
第1および第2の濃度はまた、濃度(consistency)として示してもよく、これはナノフィブリル状セルロースの濃度または稠度を指し、実質的に同じであっても、異なっていてもよい。例えば、細胞を懸濁液として提供する場合、第2の濃度は、第1の濃度よりも低くてもよい。第1の濃度は、例えば、0.1~20%(w/w)、例えば0.1~10%(w/w)、0.1~5%(w/w)、または0.1~2.0%(w/w)の範囲であってもよい。
【0109】
懸濁液中のまたは類似の水性製剤中の細胞とヒドロゲルとを合わせる場合、ヒドロゲルは、0.1~10%(w/w)、例えば0.2~5%(w/w)、0.4~2%(w/w)の範囲であってもよい所望の第2の濃度が得られるような第1の濃度で提供してもよい。0.7%(w/w)を超える、例えば0.8~1.5%(w/w)の範囲の濃度は、幹細胞の生存率を高める。多くの場合、0.5~1.5%(w/w)の範囲の濃度が好適である。
【0110】
細胞は、哺乳動物細胞、例えばヒトまたは動物細胞であってもよい。細胞は、幹細胞、例えばヒトまたは動物幹細胞であってもよい。幹細胞は、非胚性幹細胞、例えば間葉系幹細胞、または他の幹細胞株、例えば胚を破壊することなく生成されるヒト胚性幹細胞株であってもよい。
【0111】
細胞システムは、さまざまな細胞を、例えば、細胞10万~1000万個/mlゲル、例えば細胞50万~500万個/mlまたは細胞100万~1000万個/ml、例えば、細胞100万~300万個/mlの範囲で含んでいてもよい。ゲル濃度は、本明細書において記載される任意の濃度、例えば0.1~10%、例えば0.2~5%(w/w)、0.4~2%(w/w)、または0.8~1.5%(w/w)であってもよい。
【0112】
方法は、細胞システムを、1~25℃の範囲の温度、例えば冷蔵庫内で得ることができる1~10℃で、または室内温度とすることができる15~25℃、例えば13~23℃または18~20℃で保存することを含んでいてもよい。細胞はまた、大気条件で、例えば大気圧で、大気COまたはOの濃度で保存してもよい。
【0113】
方法は、細胞を細胞システム中に少なくとも24時間、または少なくとも56または72時間、例えば24~52、24~72または24~168時間、更に1~21日間、例えば1~14日間または1~7日間保存することを含んでいてもよい。このような保存は、短期保存として分類されてもよく、例えば、細胞を他の場所へ輸送する必要がある場合に、または細胞の使用において、例えば週末または他の休日の間に休止がある場合に好適である。保存は、品質管理を可能にしてから輸送および/または発売するために必要な場合もある。
【0114】
水性細胞保存培地を提供してもよく、細胞およびナノフィブリル状セルロースは、細胞保存培地と合わせてもよい。1つの実施形態において、方法は、両性イオン緩衝剤、例えば4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸を含む細胞保存培地を提供すること、および細胞およびナノフィブリル状セルロースを細胞保存培地と合わせることを含む。
【0115】
本開示は、真核細胞を提供するための方法であって、
- 本明細書において記載される細胞システムを提供すること、
- 例えば、ヒドロゲルを酵素的に消化することによってまたはヒドロゲルを希釈することによって、ヒドロゲルから細胞を放出して、細胞を提供すること
を含む、方法を提供する。
【0116】
方法は、1つまたは複数のセルラーゼを用いて酵素的に、好ましくは500~1500μg酵素/mgゲル、より好ましくは1000~1300μg/mgの用量を、例えば、1~4時間、好ましくは1.5~2.5時間使用することによって、ヒドロゲルを消化することを含んでいてもよい。低用量をまた、例えば、300μg/mgからの範囲、例えば300~1500μg/mgまたは300~1000μg/mgの範囲で使用してもよい。しかし、低用量の酵素を使用すると、更なる時間が必要になる場合があり、これは細胞の生存率を低下させることがある。
【0117】
1つの例は、細胞保存または細胞送達材料を調製するための方法であって、その方法が、脱水材料であってもよいナノフィブリル状セルロース材料を提供すること、および水性液体、例えば細胞保存培地と混合することを含む、方法を提供する。材料を含む混合物が得られる。混合物は、1つまたは複数の補助剤、例えば塩、pH調整剤などと更に合わせ、および/または混合してもよい。
【0118】
1つの例は、第1および第2の容器を含むキットであって、第1の容器が、ナノフィブリル状セルロース、または脱水和形態、例えば乾燥粉末、濃縮顆粒、もしくは濃縮ヒドロゲル本体としてのナノフィブリル状セルロースを含み、第2の容器がセルラーゼを含むキットを提供する。
【0119】
1つの例は、細胞をするための3次元の不連続な実体であって、水性培地と、水性培地中に懸濁されたナノフィブリル状セルロース製品を含むヒドロゲル本体とを含む実体を提供する。水性培地は、細胞保存培地であってもよい。1つの例において、ヒドロゲル本体は相互連結している。ヒドロゲル本体は、水分含有量が1~90%、より詳細には1~50%、または1~20%の範囲であってもよい。材料が高度に脱水される場合、水分含有量が0~20%、0~10%または1~10%の範囲であってもよく、ヒドロゲル本体の代わりに、材料がナノフィブリル状セルロース本体として提供されてもよい。
【0120】
3次元の不連続な実体は、第1の水性培地中のナノフィブリル状セルロース製品を提供し、ヒドロゲルを得、前記ヒドロゲルを第2の水性培地と混合し、第2の水性培地中のヒドロゲル本体の懸濁液を得るステップを含む方法によって入手可能である。第1および第2の水性培地は、同じタイプの培地のものとすることができるが、これらは、異なる場合もあり、例えば、第1の培地は例えば細胞保存培地であり、第2の培地は細胞培養培地である。3次元の不連続な実体は、濃縮ヒドロゲルまたは乾燥セルロースナノフィブリルを造粒することによって、濃縮セルロースナノフィブリルヒドロゲルからまたは乾燥セルロースナノフィブリルから作製し、顆粒を得、水性培地中に顆粒を水和し、水和顆粒を混合し、水性培地を任意選択で添加し、ヒドロゲル本体の懸濁液を得ることもできる。ヒドロゲルの不連続な構造は、例えば簡易顕微鏡分析または降伏応力の判定によって、匹敵するNFC濃度を有する均質ヒドロゲルと比較することによって検証することができる。
【0121】
不連続なゲル構造は、濃縮(例えば10~30%w/w)セルロースナノ繊維製品から、または更に乾燥セルロースナノ繊維製品からも作製することができる。乾燥または濃縮材料を使用する場合、サンプルを、適切なサイズ(例えば0.1~2mm)へ最初に造粒し、水中または細胞培養培地中で水和し、次いで適切な方法を使用して連続的なまたは不連続な形態のいずれかへ活性化する。平均直径2~20マイクロメートルの範囲である噴霧乾燥粒子も出発材料として使用することができる。これらの種類の不連続なゲルにおける制御された多孔率は、粒子サイズおよび総濃度、すなわち膨潤ゲルドメインまたはゲル本体間の距離に依存する。
【0122】
本明細書において記載される製品を、製品のうちの1つまたは複数を含む包装で包装したまま提供してもよい。製品は、密閉包装で包装してもよく、例えば製品が乾燥したままで、またはある特定の水分含有量で提供される場合、例えば汚染から守り、水分含有量を維持する。乾燥または脱水したままで提供される製品を使用する場合、それは、所望の水分含有量へ湿らせてから使用してもよい。
【0123】
1つの例において、3次元の不連続な実体の総体積と比較して、ヒドロゲル本体の総体積は、10~99%(v/v)、例えば50~95%(v/v)の範囲である。
【0124】
3次元の不連続な実体の降伏応力は、同じ条件下で相当する連続的なヒドロゲルの降伏応力よりも低く、例えば、同じ条件下で相当する連続的なヒドロゲルの降伏応力の1~95%である。
【0125】
1つの例は、不連続な3次元実体およびそれを製造するための方法を提供し、細胞を保存するための3次元の不連続な実体を製造するための方法は、
- i)均質なヒドロゲル;
ii)均質なヒドロゲルと水性培地との組合せ;および/または
iii)水性培地中で水和された、脱水和ゲル体または乾式造粒ナノフィブリル状セルロース製品
の形態のナノフィブリル状セルロース製品を提供すること;および
- ヒドロゲルの均質な構造を機械的に破壊し、3次元の不連続な実体としてヒドロゲル本体の懸濁液を得るのに有利な条件で混合すること
を含む。
【0126】
1つの例は、細胞保存マトリックスを提供する。1つの例は、細胞システムおよび細胞システムを調製する方法であって、本明細書において開示される細胞保存材料を提供し、細胞を提供し、水性細胞保存培地を提供し、これらを混合し、細胞システムを得ることを含む方法を提供する。
【0127】
1つの例は、細胞を保存するための物品および物品の使用を提供し、物品は、
- 表面を有する基質;
- 水性培地と、水性培地中に懸濁されたナノフィブリル状セルロース製品を含むヒドロゲル本体と、を含む3次元の不連続な実体、または水性培地と、水性培地中に懸濁されたナノフィブリル状セルロース製品を含むヒドロゲル本体と、を脱水和形態として含む3次元の不連続な実体を含む。3次元の不連続な実体を含む物品は、細胞を保存するための好適な任意の物品、例えば細胞培養ボトル、プレートおよびディッシュ、マルチウェル培養プレート、マイクロタイタープレート、ハイスループットプレートなどであってもよい。
【0128】
3次元の不連続な実体を含むゲル本体の体積率は、3次元の不連続な実体の総体積の50%から99%の間でさまざまであってもよく、その結果、局所的なCNF濃度は、実体全体のものより高くても、低くてもよい。ゲル本体の体積率は、例えば顕微鏡で検査することによってまたは沈降分析によって、定性的に容易に判定することができる。
【0129】
1つの例は、第1および第2の容器を含むキットであって、第1の容器が、3次元の不連続な実体、または脱水和形態、例えば乾燥粉末、濃縮顆粒、もしくは濃縮ヒドロゲル本体としての3次元の不連続な実体を含み、第2の容器がセルラーゼを含むキットを提供する。
【0130】
「3次元の不連続な実体」という用語は、3次元の不連続な構造を有するシステムを指す。前記実体は、水性培地と、水性培地中に懸濁されたセルロースナノフィブリルおよび/またはこれらの誘導体を含むヒドロゲル本体とを含む。
【0131】
「不連続な」は、実体の不均質な構造を、または実体内の物理的な連続性の遮断、例えば、ヒドロゲル本体による水性培地内の遮断、または水性培地によるヒドロゲル本体内のおよび/またはヒドロゲル本体間の遮断を指す。一般的に、不連続な材料は、複数の個別の本体、ドメイン、顆粒、粒子などを含み、複数の一部個別のものを含んでいてもよく、実質的に球状、楕円状など、または不均一な形状であってもよい。複数の本体、ドメイン、顆粒、粒子などはまた、不連続な材料中で部分的に相互連結していてもよい。不連続は、実質的に均質ではない材料を指す。例えば、ヒドロゲルのブロックまたは膜は不連続ではないが、液体培地中に懸濁された複数のビーズ、球状などの個別の本体は、たとえ本体の一部が互いに結合していたとしても不連続な実体を形成する。1つの実施形態において、ナノフィブリル状セルロースは、個別の本体の形態であり、これはヒドロゲル本体、例えばビーズであってもよい。
【0132】
「ヒドロゲル本体」および「ヒドロゲルドメイン」は、好ましくは連続的な内部構造を有する、ヒドロゲルのアリコート、分割物、ドメイン、画分、一部または一定量を指す。ヒドロゲル本体は、輪郭がはっきりした、明確な、対称または非対称の形状を有していてもよい。
【0133】
「懸濁された」または「懸濁液」は、3次元の不連続な実体またはヒドロゲル本体の文脈において使用する場合、水性培地およびヒドロゲルの不均質な混合物を指し、ヒドロゲルは、個別のおよび/または相互連結したヒドロゲル本体として存在していてもよい。
【0134】
「相互連結した」および「相互連結」は、ヒドロゲル本体の文脈において使用する場合、ヒドロゲル本体が互いに接触している系を指す。接触は、ヒドロゲル本体間の直接的な連結であってもよく、またはヒドロゲル本体は、緩く連結していてもよい。ヒドロゲルの均質な構造が例えば混合することによって破壊される場合、結果として生じる不連続な構造は、ヒドロゲル本体のさまざまなサイズおよび形態によって特徴付けられる。得られた系は、相互連結したゲル本体間に水性キャビティを含有していてもよく、または緩く連結したヒドロゲル本体は、水性培地に「浮き」、互いに接触していてもよい。ヒドロゲル本体は、例えば系に存在する細胞または他の構成成分を介して間接的に連結していてもよい。
【0135】
「脱水和」または「脱水」形態は、必ずしも全てではないが、一部の水が当該材料から除去されている材料の形態を指す。したがって、脱水という用語は、例えば、濃縮スラリー、顆粒、フレーク、および粉末を包含する。脱水和材料は、水分含有量が0~90%(w/w)、例えば0~80%(w/w)、0~50%(w/w)、1~50%(w/w)、1~40%(w/w)、1~30%(w/w)、1~20%(w/w)、10~50%(w/w)、10~40%(w/w)、10~30%(w/w)、または1~10%(w/w)であってもよい。
【0136】
「キット」という用語は、それを使用して細胞を保存するための3次元の不連続な実体もしくは物品の方法、アッセイ、または操作を容易にする物品または容器の組合せを指す。キットは、どのようにキットを使用するかを記載している取扱説明書(例えば、本発明の方法を記載している取扱説明書)、カートリッジ、ミキシングステーション、化学試薬、ならびに他の構成成分を含有していてもよい。キットの構成成分は、輸送、保存、または使用のために1つの容器(例えばボックス、包装材料など)内に一緒に包装されていても、2つ以上の容器内に包装されていてもよい。
【0137】
細胞の使用
細胞システムに含まれる細胞を使用場所へ輸送し、提供し、使用してもよい。第1の場所で細胞を調製し、培養し、および/または提供し、本明細書において記載される細胞システム中で細胞を保存し、細胞システム中の細胞を第2の場所へ輸送することが可能であり、そこで細胞を使用、研究、試験、発売、投与、または他の利用がされてもよい。
【0138】
本開示は、真核細胞を提供するための方法であって、
- 本明細書において記載される細胞システムを提供すること、および
- ヒドロゲルから細胞を放出して、細胞を提供すること
を含む、方法を提供する。
【0139】
1つの例は、細胞を輸送するための方法であって、細胞システムを提供すること、および本明細書において開示する細胞システム中の細胞を輸送することを含む方法を提供する。
【0140】
細胞は、任意の好適な方法を使用することによってヒドロゲルから放出してもよい。1つの実施形態において、細胞は、ヒドロゲルを酵素的に消化することによって放出される。1つの実施形態において、細胞は、ヒドロゲルを希釈することによって放出される。1つの例において、細胞は、例えばろ過材に通して、ヒドロゲルを遠心分離することによって放出される。1つの実施形態において細胞は、ヒドロゲルをろ過することによって放出される。これらの方法の組合せを使用してもよく、例えば、ヒドロゲルを、最初に酵素的に消化し、ゲル構造を弱め、次いでゲルを遠心分離および/またはろ過してもよい。ヒドロゲルは、ナノフィブリル状材料がもはやヒドロゲルとして存在しない、またはヒドロゲルの粘度が実質的に低い濃度へ希釈してもよく、細胞は材料中にこれ以上強力に保持されず、容易に放出され、例えば、遠心分離および/またはろ過することによって回収することができるようになる。細胞保存培地または他の好適な水性培地を使用して、ヒドロゲルを希釈してもよい。ナノフィブリル状セルロースは、0.1%(w/w)未満、0.05%(w/w)未満、0.03%(w/w)未満、0.01%(w/w)未満の濃度へ希釈してもよく、材料はもはやゲル形態ではなく、少なくとも強力なゲル形態ではない。
【0141】
セルロースナノ繊維の除去は、例えば、1つまたは複数の酵素、例えばセルロース分子ならびにその中の他の木材由来の構成成分、例えばヘミセルロースを部分的または全体的に分解するために必要ないくつかのまたは全ての酵素を含む酵素混合物を用いて行ってもよい。酵素の例としては、エキソセルラーゼ、例えばエキソグルカナーゼ、およびエンドセルラーゼ、例えばエンドグルカナーゼがある。更なる例としては、当該NFC用に設計された酵素混合物および市販されているセルラーゼ-ヘミセルラーゼ調製物がある。混合物の組成は、そのNFCを製造するために使用する原材料の化学組成によって変わる場合がある。例えば、カバノキパルプを、NFCを製造するために使用する場合、混合物は、少なくとも完全なままのエンド-およびエキソセルラーゼまたはこれらの一部、エンドキシラナーゼならびに13-D-グリコシダーゼおよび13-D-キシロシダーゼを含む。針葉樹由来NFCの加水分解に関しては、混合物は、少なくともエンドマンナナーゼおよび13-D-マンノシダーゼを補充することを必要とする。精製した酵素構成成分からプールされる設計された混合物の利点は、これらが、追加のタンパク質または他の望ましくない構成成分、例えば活性副産物、培養有機体由来位の残屑、または培養ブロス由来の残渣を含まず、これは市販の酵素調製物に多くの場合当てはまる。特に有害なのは、調製物がプロテアーゼを含む場合であり、これは、細胞表面を攻撃する場合がある。植物性材料の完全な加水分解に指定される市販の酵素混合物も、NFCの加水分解において、より好ましくは少なくとも粗製物を精製するステップ後に、例えばゲルろ過または透析後に使用することができる。酵素調製物、設計されたまたは市販のいずれかの混合物にかかわらず、構成成分は、例えばpH、温度およびイオン強度の点でこれらがNFCを最適に加水分解できるように選択される。市販の調製物が利用可能であり、これらは、酸性pH値(pH3.5~5)または塩基性pH値(pH6~8)のいずれかで、室温から最大60~80℃までの温度で作用する。細胞は37℃で成長することが非常に多く、これは大部分のセルラーゼおよびヘミセルラーゼに最適な温度である。細胞株をまた遺伝子操作し、必要とされる酵素タンパク質を保存システム中に生成してもよい。
【0142】
1つの例は、ナノフィブリル状セルロース製品を細胞システムから取り出すための方法であって、
- 細胞システム、例えば細胞を含む細胞保存材料を提供すること、
- 前記細胞システムを、水性または非水性液体で希釈すること、
- 任意選択で、細胞システムを遠心し、細胞および細胞凝集体を沈殿させること、
- ナノフィブリル状セルロース製品を、例えばデカンテーションによって取り出すことを含む方法を提供する。
【0143】
1つの例は、ナノフィブリル状セルロース製品を細胞システムから取り出すための方法であって、
- 細胞システムを提供すること、
- 細胞システムを、ナノフィブリル状セルロース材料を分解することができる酵素と接触させること、
- 任意選択で、細胞システムを遠心し、細胞および細胞凝集体を沈殿させること、
- 例えば、デカンテーションによってナノフィブリル状セルロース製品を取り出すことを含む、方法を提供する。好ましくは、取り出すことになるナノフィブリル状セルロース製品を、酵素的に分解し、少なくとも部分的に、好ましくは大部分が分解されたナノフィブリル状セルロース製品を得る。
【0144】
細胞システムから放出される細胞を回収し、使用してもよい。細胞の使用は、医療用使用であってもよく、例えば、治療を必要とする患者に細胞を投与することを含む治療法において、細胞を使用してもよい。使用はまた、科学、研究または試験使用であってもよい。細胞は、例えば、試験系および/または細胞培養物へ適用してもよい。さまざまな使用で、さまざまな培地が必要となる場合がある。例えば、無血清培地、例えば胎児ウシ血清(FBS)不含培地を、治療用途の細胞のために使用してもよい。
【0145】
特に幹細胞を、治療法において、例えば細胞ベースの療法において使用してもよい。治療法は、幹細胞移植を含んでいてもよい。細胞は、薬剤、例えば創傷治癒および組織再生を促進することがあるパラクリン因子を放出するために提供してもよく、または標的において所望の細胞へ分化するために細胞を提供してもよい。保存の間、細胞は未分化状態で維持され、放出されて、患者であり得る標的へ適用する場合、細胞は、分化を開始し、および/または分化するよう調整される。更に薬剤を提供し、このプロセスを開始してもよい。
【0146】
本出願は、細胞を含む医療用製品であって、標的または対象、例えば患者、または状態に罹患した個人、ヒトもしくは動物の皮膚または他の組織に適用してもよい製品を提供する。医療用製品は、ゲル、パッチ、硬膏、包帯などとして提供してもよく、これらは創傷、または損傷した領域、または処理を必要とする領域もしくは標的へ適用してもよい。このような製品は、他の材料、例えば1つまたは複数のガーゼなどの補強材料も含んでいてもよい。
【0147】
医療用製品は、1層のみのナノフィブリル状セルロースを含有していてもよく、またはこれらは、ナノフィブリル状セルロース層および/または他の層であってもよい1つもしくは複数の追加の層を含有していてもよい。ナノフィブリル状セルロースは、ガーゼ、例えば不織布中に組み込んでもよい。1つの実施形態において、医療用製品は、ガーゼ、例えば不織布を含む。ガーゼは、本明細書において記載される任意の好適な様式で、製品中に含んでいても、組み込んでもよい。組合せの水分含有量は、すでに検討したものと同じ範囲であってもよい。1つの例において、層中のナノフィブリル状セルロースは、特にガーゼに組み込む場合、80~99.9%(w/w)、または50~99.8%(w/w)の範囲、例えば90~99.8%(w/w)の範囲の水分含有量を有していてもよい。
【0148】
幹細胞を使用してもよい治療法は、さまざまであり、例えば、組織再生、循環器疾患の治療、脳疾患の治療、例えばパーキンソンおよびアルツハイマー疾患の治療、例えばI型糖尿病における細胞欠乏療法、血液疾患の治療、例えば白血病、鎌状赤血球貧血、ならびに他の免疫欠乏症問題を治療するための造血幹細胞の提供を含む。
【0149】
本開示は、本明細書において開示されるナノフィブリル状セルロースマトリックスおよび細胞システムの、本明細書において開示される方法のための使用も提供する。
【0150】
1つの実施形態は、本明細書において開示される細胞システムの、細胞を輸送、提供、送達および/または投与するための使用を提供する。1つの例は、本明細書において開示される細胞保存材料または細胞システムの、細胞を保存するための使用を提供する。1つの例は、本明細書において開示される細胞保存材料または細胞システムの、細胞の品質をコントロールするための使用を提供する。
【0151】
本開示は、治療法、例えば本明細書において開示される方法において、例えば、細胞を投与することを含む治療法において使用するための、本明細書において開示される細胞システムを提供する。
【実施例
【0152】
実施例
細胞システムの調製
保存前:
保存前に、ヒト間葉系幹細胞(MSC)を通常の方法でFBS含有培地中の組織培養プラスチック上で培養し、Rafiqら、「A quantitative approach for understanding small-scale human mesenchymal stem cell culture-implications for large-scale bioprocess development」、Biotechnology Journal,Special Issue:Stem cell engineering,2013年4月、459~471頁(https://doi.org/10.1002/biot.201200197)で開示されるプロトコールに従ってトリプシン/EDTAを使用して継代した。
【0153】
保存に関して:
使用するプレートは、超低接着性(ULA)ウェルプレート、典型的には、24ウェルプレートであった。
【0154】
使用する温度:
冷蔵:4℃(3~6℃の範囲)。通常の実験室用冷蔵庫、プレートは、プラスチックボックス内部で保存され、そのため大気コントロールされていなかった。
【0155】
室内:18~22℃。保存棚において、この場合もプラスチックボックス内部で保存し、そのため大気コントロールされていなかった。
【0156】
37℃:5%COの、加湿された標準組織培養インキュベーターにおいて対照として使用した。
【0157】
使用した休止培地:
10×DMEM 50ml
蒸留/滅菌水 425ml
7.5%重炭酸ナトリウム溶液 14.75ml
1M HEPES溶液 12.5ml
FBS 55ml
ウルトラグルタミン 5.5ml
これを滅菌ろ過し、冷蔵庫内で保存した。
【0158】
ナノフィブリル状セルロース(Growdex(登録商標))およびセルラーゼ調製物(Growdase(登録商標))はUPMによって提供された。UPMの取扱説明書通りに、Growdexを休止培地で希釈することによって、必要なゲル濃度に達するまで調製した。試験する濃度の範囲は、セルラーゼを使用した回収に影響を与える0.4~0.9%(w/w)の範囲であった。
【0159】
細胞:hMSC(供給元 Lonza、骨髄由来単核細胞)を使用した。播種密度の範囲を試験した。
【0160】
細胞とともにGrowdexを播種する。細胞100万個/mlを、希釈したヒドロゲル(0.8%ゲル)へ播種する。全ての操作を生物学的安全キャビネット中、室内温度で行った。1×10×0.380=1ウェル当たり細胞3.8×10個。
【0161】
0.8%Growdexと混合する細胞の全量=6ウェル×細胞3.8×10個=細胞2.28×10個。
【0162】
Growdex培地2.28ml中に細胞2.28×10個を再懸濁した。
プレート:24ウェルULAプレートにおいて、380μlの細胞/Growdexを、3つのウェルそれぞれに適用した。各ウェルに培地を追加し、1mlとし、適切な保存条件へ移動した(冷凍とは異なり、この冷却プロセスは制御しなかった)。
【0163】
細胞回収:
ヒドロゲルを、UPMが提供するプロトコール(Growdase(登録商標)を使用するための取扱説明書)の通りに消化した。酵素を適切な濃度へ希釈し、ヒドロゲル上に添加し、静的条件下、37℃でインキュベートの間放置した。さまざまな濃度の酵素およびさまざまな時間を試験した。一度細胞を回収し、洗浄し、これらを通常の培養培地で希釈してから通常の組織培養プレートへ播種して、更に分析した。室内/冷蔵温度から37℃へ移された細胞は、回収操作中は制御されなかった。
【0164】
細胞システムの評価
試験を行い、細胞システムが、室内および冷蔵条件で間葉系幹細胞(MSC)を長期間(例えば1週間以上)保存および輸送するのを支持して、臨床的に適切なタイプの細胞を保存および輸送するための低温保存に代わるものを提供できるかどうかを調べた。
【0165】
GrowDexヒドロゲルが、MSCの低温保存を支持するかどうかを、室内または冷蔵のいずれかの条件下で試験した。GrowDexは、冷蔵または室内温度で細胞を保存するために好適なヒドロゲル構造であることが見出された。
【0166】
MSCは、GrowDex中、室内(約18~20℃)および冷蔵温度で少なくとも最大72時間保存することができる。ゲルから回収した細胞は、約90%または約70%の生存率を室内および冷蔵温度で72時間保存後にそれぞれ示し(図1)、再プレーティングしたところ、増殖する能力を保持していた(図2)。しかし、全体の回収率(生存細胞密度/最初の播種密度%)は約50%であり、試験を7日に延長した場合は、冷蔵条件下で20%にまで低下した。
【0167】
プロトコールの成功に対する細胞密度の影響も試験した。GrowDexは、臨床またはシードトレインバイオリアクター播種用に十分に高密度で細胞を保存することができることが見出された。
【0168】
最初の実験は、GrowDexが、96ウェルプレートの1ウェル当たり最大細胞3×10個で少なくとも24時間細胞を支持できたが、これはゲル剛性に依存したことを示した(表1)。これは、MSCが堅いゲルを好むことを示した。
【0169】
【表1】
【0170】
細胞生存率に対する細胞回収期間の影響を試験した。焦点は依然としてゲル消化期間に当てたままである。0.4~0.9%のゲルを用いた最初の操作では、低い細胞生存率(85%未満)および回収率(15%未満と低い)が得られ、ゲルを消化するには長時間(24時間、300μg/mg Growdase)の消化が必要であった。回収した細胞は、通常の組織培養プラスチック上で成長できたが、いくつかは、予想通された均質な単層というよりはむしろ、まるで外植片のようにコロニーから成長したように見え、これはおそらく24時間の最後で、特に高いゲル濃度で認められる細胞凝集の結果であったことが判明した(図3)。
【0171】
図3は、0.4%(a)および0.9%(b)GrowDex中、さまざまな細胞密度において室内温度で24時間休止し、次いでGrowdase 300μg/mgを用いて24時間消化したMSCの画像を示す。
【0172】
高いGrowdase濃度および短い消化時間を使用した実験は、高い回収率で生存可能な細胞をもたらし(表2)、細胞はより均質な単層へ成長した。全ての結果は類似しており、費用または時間がキードライバーであったかどうかに依存し、500~1300μg/mg(mg/g)Growdaseを用いた2時間または4時間のいずれかの消化が可能であることを示す。図4は、細胞生存率が、高い酵素濃度によって影響を受けなかったことを示す。
【0173】
【表2】
【0174】
MSCは、GrowDex中、室内(約18~20℃)および冷蔵温度で最大72時間保存することができる。ゲルから回収した細胞は、室内および冷蔵温度でそれぞれ72時間保存後、約90%または約70%の生存率を示し、再プレーティングしたところ、増殖するための能力を保持していた。
図1
図2
図3a
図3b
図4