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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】電極及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20230526BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230526BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230526BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20230526BHJP
   H01G 11/28 20130101ALI20230526BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20230526BHJP
   H01G 11/70 20130101ALI20230526BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20230526BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/66 A
H01M4/13
H01G11/24
H01G11/28
H01G11/68
H01G11/70
H01G11/38
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019545686
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2018036271
(87)【国際公開番号】W WO2019065972
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2017190069
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】辻田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】大杉 勇太
(72)【発明者】
【氏名】田邊 森人
(72)【発明者】
【氏名】向井 寛
(72)【発明者】
【氏名】亘 幸洋
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116810(JP,A)
【文献】国際公開第2018/155281(WO,A1)
【文献】特開2015-153720(JP,A)
【文献】国際公開第2016/086184(WO,A1)
【文献】特開2015-211004(JP,A)
【文献】特開2005-011540(JP,A)
【文献】特開2010-146726(JP,A)
【文献】特開2013-105727(JP,A)
【文献】特開2015-034331(JP,A)
【文献】特開2013-067674(JP,A)
【文献】特表2013-530820(JP,A)
【文献】特開2011-176076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 4/64-4/84
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基材、中間層及び活物質層をこの順に備え、
上記中間層が、導電剤、100℃以上で分解して気体を発生する化合物、及びバインダーを含み、
上記中間層における上記導電剤の含有量に対する上記化合物の含有量が、質量比で2倍以上20倍以下であり、
上記化合物の粒子の形状が棒状である蓄電素子用の電極。
【請求項2】
導電性の基材、中間層及び活物質層をこの順に備え、
上記中間層が、導電剤、化合物、及びバインダーを含み、
上記化合物が、炭酸化合物、炭酸水素化合物、水酸化酸化物、水和物、又は水酸化物(但し、アルカリ金属の水酸化物は除く)であり、
上記中間層における上記導電剤の含有量に対する上記化合物の含有量が、質量比で2倍以上20倍以下であり、
上記化合物の粒子の形状が棒状である蓄電素子用の電極。
【請求項3】
上記中間層における上記化合物の含有量が、30質量%以上90質量%以下である請求項1又は請求項2の電極。
【請求項4】
上記中間層における上記導電剤の含有量が、2質量%以上15質量%以下である請求項1、請求項2又は請求項3の電極。
【請求項5】
上記バインダーが、フッ素樹脂を含む請求項1から請求項4のいずれか1項の電極。
【請求項6】
上記化合物が、800℃以下で分解して気体を発生する物質である請求項1から請求項5のいずれか1項の電極。
【請求項7】
正極である請求項1から請求項6のいずれか1項の電極。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項の電極を備える蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などに多用されている。このような二次電池やキャパシタ等の蓄電素子には、通常予見されない使用などにより発熱、発火等の異常が生じる場合がある。例えば、落下等の衝撃や、製造時に混入した異物などを原因として電極間で短絡が生じ、その結果、発熱が起きることがある。何らかの原因による発熱に伴ってセパレータが溶融し、短絡が生じることもある。
【0003】
このようなことから、安全性を高めるべく、温度上昇に伴って電流が遮断される機能を有する電極や、このような電極を備える蓄電素子が開発されている。上記機能を有する電極としては、所定温度以上で体積膨張を起こす熱膨張粉末を含む活物質層を備える電極(特許文献1)、及び所定温度以上に加熱された場合に蒸発又は分解する有機バインダーを含むアンダーコート層を備える電極(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-31208号公報
【文献】国際公開第2012/005301号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来から、安全性を高める様々な機能が開発されている。しかし、安全性向上の要求はとどまるところを知らず、従来の上記機能にも改善の余地がある。安全性向上のためには多数の手段を開発し、使い分けることや併用することも有効である。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、従来と異なる手段により、安全性が向上された電極、及びこの電極を備える蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、導電性の基材、中間層及び活物質層をこの順に備え、上記中間層が、導電剤、100℃以上で分解して気体を発生する化合物、及びバインダーを含み、上記中間層における上記導電剤の含有量に対する上記化合物の含有量が、質量比で2倍以上20倍以下である蓄電素子用の電極(A)である。
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様は、導電性の基材、中間層及び活物質層をこの順に備え、上記中間層が、導電剤、化合物、及びバインダーを含み、上記化合物が、炭酸化合物、炭酸水素化合物、水酸化酸化物、水和物、又は水酸化物(但し、アルカリ金属の水酸化物は除く)であり、上記中間層における上記導電剤の含有量に対する上記化合物の含有量が、質量比で2倍以上20倍以下である蓄電素子用の電極(B)である。
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様は、当該電極(A)又は電極(B)を備える蓄電素子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来と異なる手段により、安全性が向上された電極、及びこの電極を備える蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を示す外観斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
図3図3は、実験例における炭酸マグネシウムn水和物及び炭酸水素ナトリウムのTG-DTAグラフである。
図4図4は、実験例における無水炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムのTG-DTAグラフである。
図5図5は、評価1の解析結果を示すグラフである。
図6図6は、評価2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様は、導電性の基材、中間層及び活物質層をこの順に備え、上記中間層が、導電剤、100℃以上で分解して気体を発生する化合物(a)、及びバインダーを含み、上記中間層における上記導電剤の含有量に対する上記化合物(a)の含有量が、質量比で2倍以上20倍以下である蓄電素子用の電極(A)である。
【0013】
当該電極(A)は、安全性が向上されている。当該電極(A)において、このような効果が生じる理由は定かではないが、以下が推測される。当該電極(A)においては、例えば短絡により電極が発熱した際、中間層中の化合物(a)が分解して気体が発生する。この発生した気体によって、中間層中の導電剤同士や、基材と活物質層との間の電子伝導経路が分断されるため、基材と活物質層との間の電気抵抗が上昇する。特に、中間層における上記化合物(a)の含有量は、導電剤の含有量に対して質量比で2倍以上であることから、上記分断が生じるための十分な量の気体が発生し、電気抵抗の上昇が可能となる。加えて、この中間層には比較的多量の化合物(a)が含有されているため、化合物(a)の十分なアンカー効果により、バインダーの溶融流出が抑制される。このため、バインダーのPTC(Positive Temperature Coefficient)機能が効果的に発現される。このように、当該電極(A)においては、短絡等による発熱に伴って、電流のシャットダウン機能が働き、更なる発熱を抑えることができるため、安全性が高い。
【0014】
「気体」であるか否かは、分解が生じる温度における大気圧下の状態において判断するものとする。例えば、300℃で分解が生じ、水が発生する場合、この水は気体である。「100℃以上で分解して気体を発生する」とは、100℃以上の所定の温度範囲で分解して気体を発生することを意味し、加熱して100℃に達したときに分解して気体が発生し始めることのみを意味するものではない。換言すれば、上記化合物(a)は、分解して気体を発生し始める温度が実質的に100℃以上の所定の温度である化合物である。例えば、上記化合物(a)は、150℃未満では実質的に気体を発生せず、150℃に達したとき分解して気体を発生するものであってよい。100℃未満の温度において、本発明の効果に影響を与えない範囲で気体が発生されてもよい。
【0015】
本発明の一態様は、導電性の基材、中間層及び活物質層をこの順に備え、上記中間層が、導電剤、化合物(b)、及びバインダーを含み、上記化合物(b)が、炭酸化合物、炭酸水素化合物、水酸化酸化物、水和物、又は水酸化物(但し、アルカリ金属の水酸化物を除く)であり、上記中間層における上記導電剤の含有量に対する上記化合物(b)の含有量が、質量比で2倍以上20倍以下である蓄電素子用の電極(B)である。
【0016】
上記化合物(b)は、通常、加熱に伴って分解し、気体を発生する化合物である。気体を発生しない段階であっても、化合物(b)のアンカー効果により、バインダーの溶融流出が抑制され、PTC機能が効果的に発現される。従って、当該電極(B)も、短絡等による発熱に伴って、電流のシャットダウン機能が働き、更なる発熱を抑えることができるため、安全性が高い。水和物からの結晶水の脱離(脱水)も分解の一種である。
【0017】
上記中間層における上記化合物(a)又は化合物(b)(以下、化合物(a)と化合物(b)とをあわせて、「気体発生化合物」ともいう。)の含有量が、30質量%以上90質量%以下であることが好ましい。上記気体発生化合物の含有量を上記範囲とすることで、通常時には十分な導電性を確保しつつ、発熱時には十分に抵抗を高めることができる。
【0018】
上記中間層における上記導電剤の含有量が、2質量%以上15質量%以下であることが好ましい。上記導電剤の含有量を上記範囲とすることで、通常時には十分な導電性を確保しつつ、発熱時には導電剤間の電子伝導経路が十分に分断され、効果的に抵抗を高めることができる。
【0019】
上記バインダーが、フッ素樹脂を含むことが好ましい。発熱に伴って十分に膨潤し、また、バインダーとして適度な結着性を有するフッ素樹脂を用いることで、発熱時の気体発生の際に、導電剤間や基材と活物質層との間が比較的容易に分離され、シャットダウン機能が効果的に発現される。
【0020】
上記気体発生化合物(化合物(a)又は化合物(b))が、800℃以下で分解して気体を発生する物質であることが好ましい。上記気体発生化合物の熱分解温度が800℃以下であることで、電極が発熱した場合に速やかに上記気体発生化合物が分解して気体を発生するので、発熱時に十分に抵抗を高めることができる。
【0021】
当該電極(A)及び電極(B)は、正極であることが好ましい。一般的に、正極活物質層と負極活物質層の導電性は、正極活物質層の方が低い。基材についても、一般的に、正極基材の方が負極基材よりも導電性が低い。このように一般的に導電性が相対的に低い正極に当該電極を適用することによって、発熱時に導電性が下がるシャットダウン機能がより効果的に発現する。当該電極が正極である場合、中間層の通常時の導電性を正極活物質層の導電性よりも高く設計でき、中間層を設けることによる通常時の導電性の低下が生じ難い。このため、通常時には十分な導電性を確保しつつ、発熱時には十分に抵抗を高めることができる。
【0022】
本発明の一態様は、当該電極(A)又は電極(B)を備える蓄電素子である。当該蓄電素子は、当該電極(A)又は電極(B)を備えるため、安全性が向上されている。
【0023】
以下、本発明の電極の一実施形態としての正極、及び本発明の蓄電素子の一実施形態としての非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」と称することもある)について詳説する。
【0024】
<正極(電極)>
本発明の一実施形態に係る正極は、正極基材と中間層と正極活物質層とをこの順に備える。正極基材は、基材の一例であり、正極活物質層は、活物質層の一例である。正極は、正極基材、中間層及び正極活物質層がこの順に積層されてなる層構造体である。中間層及び正極活物質層は、正極基材の一方の面側にのみ積層されていてもよいし、両面に積層されていてもよい。当該正極は、蓄電素子の正極として用いられる。
【0025】
(正極基材)
正極基材は、導電性を有する基材である。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。正極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0026】
(中間層)
中間層は、正極基材の表面の少なくとも一部を被覆している。中間層は、導電剤、気体発生化合物、及びバインダーを含む。一般的に、中間層は正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する機能を有する層である。本発明の一実施形態の電極が有する中間層においては、上記機能に加えて、発熱時に電流を遮断する機能を有する。
【0027】
中間層に含有される導電剤としては、導電性を有する限り、特に限定されない。導電剤としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、天然又は人造の黒鉛、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤としては、これらの中でも、カーボンブラックが好ましい。導電剤の形状は、通常、粒子状である。「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味する。
【0028】
導電剤の一次粒子径としては、例えば20nm以上1μm以下であることが好ましい。このような粒子径の導電剤を用いることで、気体発生によって導電剤間の電子伝導経路の分断が生じやすく、シャットダウン機能をより高めることができる。粒子径は、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値(D50)を意味する。
【0029】
中間層における導電剤の含有量の下限としては、例えば1質量%であってよく、2質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。中間層における導電剤の含有量が上記下限以上であることにより、通常使用時に十分な導電性を発現することができる。中間層における導電剤の含有量の上限としては、例えば20質量%であってよく、15質量%が好ましく、13質量%がより好ましい。中間層における導電剤の含有量が上記上限以下であることで、気体の発生に伴い導電剤間の電子伝導経路が効果的に分断され、より優れたシャットダウン機能を発現させることができる。
【0030】
気体発生化合物の一態様は、100℃以上で分解して気体を発生する化合物(a)である。このような化合物(a)の具体例としては、炭酸化合物、炭酸水素化合物、水酸化酸化物、水和物、水酸化物、及びその他有機化合物等を挙げることができ、炭酸化合物、炭酸水素化合物、水酸化酸化物、水和物及び水酸化物が好ましく、炭酸化合物、炭酸水素化合物及び水酸化物がより好ましく、炭酸化合物及び水酸化物がさらに好ましく、水酸化物がよりさらに好ましい。
【0031】
気体発生化合物の他の態様としては、炭酸化合物、炭酸水素化合物、水酸化酸化物、水和物及び水酸化物(但し、アルカリ金属の水酸化物は除く)である。これらの化合物(b)は、通常、加熱に伴って分解し、気体を発生する。化合物(b)は、例えば100℃以上で分解する。化合物(b)の中でも、炭酸化合物、炭酸水素化合物及び水酸化物が好ましく、炭酸化合物及び水酸化物がより好ましく、水酸化物がさらに好ましい。
【0032】
気体発生化合物は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
炭酸化合物としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、その他、炭酸アルミニウム等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ土類金属の炭酸塩が好ましく、炭酸マグネシウムがより好ましい。炭酸マグネシウム等は、無水物であってもよく、水和物であってもよい。
【0034】
炭酸水素化合物としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩や、炭酸水素カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸水素塩等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属の炭酸水素塩が好ましく、炭酸水素ナトリウムがより好ましい。
【0035】
水酸化酸化物としては、水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト等)や水酸化酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0036】
水和物としては、硫酸カルシウム二水和物、硫酸銅五水和物、炭酸マグネシウムn水和物等が挙げられる。
【0037】
水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物や、水酸化アルミニウム等の第13族元素の水酸化物等が挙げられる。
【0038】
気体発生化合物の分解する温度の下限は、130℃が好ましく、160℃がより好ましく、200℃がさらに好ましい場合もある。これにより、電極作製後の乾燥工程において、気体発生化合物が分解するおそれが低減できる。気体発生物質の分解する温度の上限は、短絡等の異常時における電池内部の最高到達温度以下であれば特に限定されないが、800℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましく、450℃以下がさらに好ましい。気体発生化合物の分解する温度は、正極活物質が熱逸走する温度よりも低いことが好ましい。正極活物質の熱逸走前に気体発生化合物が分解して気体が発生することで、導電剤同士あるいは正極基材と正極活物質層との間の電子伝導経路の分断が進行し、十分なシャットダウン機能が発現できる。気体発生化合物の形状は、通常時の中間層中において、通常、粒子状である。気体発生化合物は、通常、絶縁性である。
【0039】
気体発生化合物を常温(20℃)から300℃又は500℃まで加熱した場合の、質量減少率の下限としては、3質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、10質量%、20質量%又は30質量%がさらに好ましいこともある。この質量減少率の上限としては、70質量%が好ましく、50質量%、30質量%又は20質量%がより好ましいこともある。質量減少率、すなわち気体の発生量が上記範囲であることで、発熱時における安全性をより高めることができる。
【0040】
気体発生化合物が発生する気体は、難燃性かつ非助燃性であることが好ましい。難燃性かつ非助燃性の気体を発生することにより、発熱に伴う発火の可能性を低減することができ、安全性がより高まる。難燃性かつ非助燃性の気体としては、二酸化炭素、水(水蒸気)、窒素等が挙げられ、これらの中でも、二酸化炭素が好ましい。
【0041】
気体発生化合物は、分解の際に、酸化物等の固体の絶縁性無機物が生じるものであることが好ましい。このような場合、この固体の絶縁性無機物自体も、基材と活物質層との間に存在し、絶縁性の確保に寄与することができる。
【0042】
気体発生化合物のD50粒子径としては、例えば0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。気体発生化合物のBET比表面積としては、例えば1m/g以上10m/g以下であることが好ましい。このような粒子径や比表面積を有する気体発生化合物を用いることで、発熱時により効果的に気体が発生し、効果的に抵抗を高めることができる。
【0043】
「D50粒子径」とは、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値である。D50粒子径は、具体的には以下の方法による測定値とすることができる。測定装置としてレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社の「SALD-2200」)、測定制御ソフトとしてWingSALD-2200を用いて測定する。散乱式の測定モードを採用し、測定対象試料の粒子が分散溶媒中に分散する分散液が循環する湿式セルにレーザー光を照射し、測定試料から散乱光分布を得る。そして、散乱光分布を対数正規分布により近似し、累積度50%にあたる粒子径をD50粒子径とする。なお、上記測定に基づくD50粒子径は、SEM画像から、極端に大きい粒子及び極端に小さい粒子を避けて50個の粒子を抽出して測定する平均粒子径でも代用することができることを確認している。
【0044】
「BET比表面積」は、以下の方法により測定された値である。まず、窒素吸着法を用いた細孔径分布測定を行う。この測定は、Quantachrome社製「autosorb iQ」により行うことができる。得られる吸着等温線のP/P0=0.06~0.3の領域から5点を抽出してBETプロットを行い、その直線のy切片と傾きからBET比表面積を算出する。
【0045】
気体発生化合物の形状は特に限定されないが、棒状であることが好ましい。気体発生化合物が棒状である場合、アンカー効果が高まり、PTC機能を発現するバインダーの溶融流出を十分に抑制することができる。棒状である場合、加熱に伴う分解が生じやすい。「棒状」とは、短径に対する長径の比が2以上の粒子をいい、この比が5以上の粒子であることが好ましい。この比の上限は例えば100であってよい。上記短径及び長径は、電子顕微鏡で観察される1視野において、長径の大きい上位5つの粒子の平均値とする。棒状の気体発生化合物の短径の下限としては、0.01μmが好ましく、0.1μmが好ましい。この短径の上限としては、10μmが好ましく、4μmがより好ましい。
【0046】
中間層における導電剤の含有量に対する気体発生化合物の含有量の下限は、質量比で2倍であり、4倍が好ましく、6倍がより好ましい。導電剤に対する気体発生化合物の含有量を上記下限以上とすることで、導電剤同士あるいは正極基材と正極活物質層との間の電子伝導経路の分断が十分に生じるほどの気体が生じ、十分なシャットダウン機能が発現する。中間層における導電剤の含有量に対する気体発生化合物の含有量の上限は、質量比で20倍であり、16倍が好ましく、12倍がより好ましい。導電剤に対する気体発生化合物の含有量を上記上限以下とすることで、中間層中に十分な量の導電剤を存在させることができ、通常時における良好な導電性を確保することができる。
【0047】
中間層における気体発生化合物の含有量の下限としては、例えば10質量%であってもよく、30質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましい。中間層における気体発生化合物の含有量が上記下限以上であることにより、気体の発生に伴い、導電剤同士あるいは正極基材と正極活物質層との間の電子伝導経路が効果的に分断され、より優れたシャットダウン機能を発現させることができる。中間層における気体発生化合物の含有量が上記下限以上であることにより、アンカー効果が高まり、PTC機能を発現するバインダーの溶融流出を十分に抑制することができる。中間層における気体発生化合物の含有量の上限としては、例えば95質量%であってもよく、90質量%が好ましく、85質量%がより好ましい。中間層における気体発生化合物の含有量を上記上限以下とすることで、通常使用時に良好な導電性と、発熱時における良好なシャットダウン機能とをバランス良く発現することができる。
【0048】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。これらの中でも、良好なPTC機能が発現される観点から、加熱に伴って膨潤する樹脂が好ましく、具体的にはフッ素樹脂が好ましく、PVDFがより好ましい。
【0049】
中間層におけるバインダーの含有量の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。この含有量の上限としては、30質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。中間層におけるバインダーの含有量を上記範囲とすることで、十分な結着性と、発熱時の気体発生の際の導電剤又は層間の電子伝導経路の分断性とをバランス良く発現することができる。
【0050】
中間層には、導電剤、気体発生化合物及びバインダー以外の他の成分がさらに含有されていてもよい。中間層における上記他の成分の含有量の上限としては、例えば20質量%が好ましい。この上限としては、10質量%であってもよく、5質量%であってもよく、1質量%であってもよい。他の成分の含有量を上記上限以下とすることにより、通常使用時における良好な導電性と、異常時におけるシャットダウン機能とをより良好に両立させることができる。
【0051】
中間層の平均厚みとしては、特に限定されないが、下限としては、0.5μmが好ましく、1μmがより好ましく、2μmがさらに好ましい。この平均厚みの上限としては、10μmが好ましく、6μmがより好ましい。中間層の平均厚みを上記下限以上とすることで、シャットダウン機能をより高めることができる。中間層の平均厚みを上記上限以下とすることで、正極の薄膜化を図ることなどができる。中間層の平均厚みとは、導電性の基材、中間層及び活物質層を備えた電極の断面SEM(Scanning Electron Microscope)において、上記中間層の厚みを5点以上測定し平均した値をいう。断面SEMとは、サンプルの切断面を作製し、その断面を走査電子顕微鏡で観察する方法である。
【0052】
(正極活物質層)
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0053】
上記正極活物質としては、例えばLiMO(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα―NaFeO型結晶構造を有するLiCoO,LiNiO,LiMnO,LiNiαCo(1-α),LiNiαMnβCo(1-α-β)等、スピネル型結晶構造を有するLiMn,LiNiαMn(2-α)等)、LiMe(XO(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO,LiMnPO,LiNiPO,LiCoPO,Li(PO,LiMnSiO,LiCoPOF等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
正極活物質層に含有される導電剤及びバインダーは、中間層と同様のものを挙げることができる。
【0055】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0056】
上記フィラーは、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラスなどが挙げられる。
【0057】
(製造方法)
当該正極の製造方法は特に限定されるものではない。例えば、正極基材に中間層形成用ペースト、及び正極活物質層形成用ペーストを順に塗工し、乾燥することにより当該正極を得ることができる。
【0058】
<二次電池(非水電解質蓄電素子)>
本発明の一実施形態に係る二次電池は、正極、負極及び非水電解質を有する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に上記非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。上記ケースとしては、二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属ケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0059】
(正極)
当該二次電池に備わる正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。正極は、上述した本発明の一実施形態に係る正極であることが好ましい。
【0060】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。正極が上述した本発明の一実施形態に係る正極ではない場合は、負極基材と中間層と負極活物質層とをこの順に備える、本発明の一実施形態に係る負極である。
【0061】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができる。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0062】
上記負極における中間層の構成は特に限定されず、例えばバインダー及び導電剤を含有する組成物により形成することができる。負極における中間層は、上述した正極における中間層と同様の組成で形成してもよい。
【0063】
上記負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0064】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素または難黒鉛化性炭素)等の炭素材料などが挙げられる。
【0065】
負極合材(負極活物質層)は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0066】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも多孔質樹脂フィルムが好ましい。多孔質樹脂フィルムの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。これらの樹脂とアラミドやポリイミド等の樹脂とを複合した多孔質樹脂フィルムを用いてもよい。
【0067】
(非水電解質)
上記非水電解質としては、非水電解質二次電池に通常用いられる公知の電解質が使用でき、非水溶媒に電解質塩が溶解されたものを用いることができる。
【0068】
上記非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートなどを挙げることができる。
【0069】
上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができ、リチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。
【0070】
非水電解質として、常温溶融塩(イオン液体)、ポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0071】
(製造方法)
当該二次電池の製造方法は特に限定されるものではない。当該二次電池の製造方法は、例えば、正極を作製する工程、負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を電池容器に収容する工程、並びに上記電池容器に上記非水電解質を注入する工程を備える。注入後、注入口を封止することにより非水電解質二次電池(非水電解質蓄電素子)を得ることができる。当該製造方法によって得られる非水電解質蓄電素子(二次電池)を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0072】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記実施形態においては、正極の中間層が気体発生化合物を含有しているが、正極の中間層が気体発生化合物を含有せず、負極の中間層が気体発生化合物を含有していてもよい。正極の中間層及び負極の中間層の双方が気体発生化合物を含有していてもよい。正極の中間層が気体発生化合物を含有している場合、負極は中間層を有していなくてよい。逆に、負極の中間層が気体発生化合物を含有している場合、正極は中間層を有していなくてもよい。正極又は負極において、活物質層を被覆する被覆層等が設けられていてもよい。
【0073】
上記実施の形態においては、蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)や、電解質が水を含む二次電池などが挙げられる。
【0074】
図1に、本発明に係る蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1(二次電池1)の概略図を示す。同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す二次電池1は、電極体2が電池容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して巻回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。電池容器3内に、非水電解質が注入されている。正極等の各要素の具体的構成等は、上述したとおりである。
【0075】
本発明に係る蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の二次電池1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0076】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
[実験例]
炭酸マグネシウムn水和物(神島化学工業株式会社製「GP30N」、直径500nm長さ7.5~24μmの棒状粒子、BET比表面積22.4m/g)、無水炭酸マグネシウム(神島化学工業株式会社製「合成マグネサイト MSS」、D50粒子径1.2μm、BET比表面積5.63m/g)、水酸化マグネシウム(神島化学工業株式会社製「マグシーズ X-6」、D50粒子径0.9μm、BET比表面積6.73m/g)、及び水酸化アルミニウム(住友化学株式会社製「C-301N」、D50粒子径1.5μm、BET比表面積4m/g)及び炭酸水素ナトリウムについて、TG-DTA分析を行った。炭酸マグネシウムn水和物は、塩基性炭酸マグネシウムの水和物であり、炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムを含有する。得られた炭酸マグネシウムn水和物及び炭酸水素ナトリウムのTG-DTAのグラフを図3に示す。図3中、炭酸水素ナトリウムについては、TGのグラフのみ示している。得られた無水炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムのTG-DTAのグラフを図4に示す。
【0078】
図3に示されるように、炭酸マグネシウムn水和物は250℃近傍及び450℃近傍で質量が減少し、炭酸水素ナトリウムは150℃近傍で質量が減少していることがわかる。炭酸マグネシウムn水和物は、結晶水、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムを含むことから、炭酸マグネシウムn水和物の250℃近傍における質量減少は結晶水脱離によるものであり、450℃近傍における質量減少は炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムの熱分解反応によるものと推測される。これらの温度領域で熱分解が生じ、水及び二酸化炭素が発生しているといえる。図3のグラフからは十分には読み取れないが、上記実験例の結果によれば、炭酸マグネシウムn水和物においては、120℃では約0.3質量%、160℃では約0.8質量%の質量減少が生じた。100℃を超えたあたりから、上記結晶水脱離は開始していると推測される。炭酸水素ナトリウムについても、150℃近傍で二酸化炭素が発生しているといえる。これらの化合物は、100℃以上で分解して気体を発生する化合物であることが確認された。
【0079】
図4に示されるように、無水炭酸マグネシウムは500~600℃付近で、水酸化マグネシウムは300~400℃付近で、水酸化アルミニウムは200~300℃付近で質量が大きく減少していることがわかる。無水炭酸マグネシウムからは、熱分解反応により二酸化炭素が発生し、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムからは、熱分解反応により水(水蒸気)が発生したものと推測される。これらの化合物も、100℃以上で分解して気体を発生する化合物であることが確認された。
【0080】
[実施例1](正極の作製)
正極基材としてのアルミニウム箔(平均厚さ15μm)の表面に、以下の要領で中間層を形成した。アセチレンブラック(AB)、上記炭酸マグネシウムn水和物、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を8:77:15の質量比で秤量した。これらを分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に混ぜ、中間層形成用ペーストを調製した。この中間層形成用ペーストをアルミニウム箔に塗布した。その後、乾燥を行い、平均厚さ8μmの中間層を得た。
【0081】
正極活物質としてのLi(Ni0.82Co0.15Al0.03)O、AB及びPVDFを質量比95:3:2の割合(固形分換算)で含有し、N-メチル-2-ピロリドンを分散媒とする正極活物質形成用ペーストを調製した。この正極活物質層形成用ペーストを中間層の表面に塗布し、ローラープレス機により加圧成形した。その後、乾燥することで分散媒を除去し、実施例1の正極を得た。加圧成形後の中間層の平均厚さは4μmであった。正極には、中間層及び正極活物質層を積層していないタブを設けた。
【0082】
[比較例1]
中間層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の正極を得た。
【0083】
[比較例2]
中間層の材料として、AB、酸化アルミニウム粒子、及びPVDFを8:77:15の質量比で用い、平均厚さ2.5μmの中間層を得たこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の正極を得た。
【0084】
[評価1](釘刺し試験)
実施例1又は比較例1の正極と、負極活物質が黒鉛である負極とで、ポリオレフィン製多孔質樹脂フィルムセパレータを挟むことにより、電極体を作製した。この電極体を、各電極のタブが露出するように、外装体としての金属樹脂複合フィルムに収納し、封止した。これにより、ドライセルを得た。このドライセルに対して、正負極間に4.35Vの電圧を印加しつつ、釘を電極の積層方向に貫通させる釘刺し試験を行った。釘を刺して短絡が生じてから5秒後までの抵抗値Rdzの変化の値を元に、0~0.5秒、0.5~2.0秒及び2.0~5.0秒の範囲における熱発生量を解析した。0~0.5秒で発生し始める熱は、釘刺しの短絡によって生じるもの、0.5~2.0秒で発生し始める熱は、セパレータの溶融現象によるもの、2.0~5.0秒で発生し始める熱は、大電流の放電によるものと推測される。上記解析結果を図4に示す。
【0085】
図4に示されるように、実施例1の正極を用いたドライセルにおいては、釘刺し後の発熱が抑制されていることがわかる。特に、実施例1においては、初期(0~0.5秒後)の発熱が低減され、正極の中間層からの気体の発生による抵抗値の上昇が、発熱の抑制に寄与していると推測される。
【0086】
[評価2](セルの加熱試験)
実施例1又は比較例1の正極と、負極活物質が黒鉛である負極とで、ポリオレフィン製多孔質樹脂フィルムセパレータを挟むことにより、電極体を作製した。この電極体を、各電極のタブが露出するように、外装体としての金属樹脂複合フィルムに収納し、電解液を注入後、封止した。これにより、非水電解質二次電池を得た。
【0087】
得られた各非水電解質二次電池について、充電終止条件を充電電流が1/100Cとなるまでとし、充電終止電圧を4.35Vとして充電した。この後、非水電解質二次電池を固定した状態で、加熱器により加熱して、電圧の変化を測定した。加熱速度は、5℃/分とした。加熱に伴い、短絡が生じ、電圧が低下していった。電圧の経時変化を図5に示す。
【0088】
図5に示されるように、実施例1は、比較例1と比べて、高い電圧が保たれていることがわかる。これは、次のように考えられる。まず、セパレータの収縮による短絡が生じたことにより、非水電解質二次電池内部で発熱が起こる。発熱によって中間層に含まれる炭酸マグネシウムn水和物が分解し、気体が発生する。その結果、正極基材と正極活物質層との間の電気抵抗が上昇し、良好なシャットダウン機能が発現する。すなわち、実施例1の非水電解質二次電池は、比較例1の非水電解質二次電池に比べて安全性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質二次電池などに適用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 非水電解質二次電池
2 電極体
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6