IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-非水電解質二次電池 図1
  • 特許-非水電解質二次電池 図2
  • 特許-非水電解質二次電池 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20230526BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230526BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/13
H01M4/64 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020215016
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022100811
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】堀川 大介
(72)【発明者】
【氏名】進藤 洋平
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-026913(JP,A)
【文献】特開2004-146348(JP,A)
【文献】国際公開第00/042669(WO,A1)
【文献】特開2003-031224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/66
H01M 4/13
H01M 4/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池であって、
前記正極および負極は、集電体と、該集電体の表面に形成された合材層とを備えており、
前記正極および負極の少なくとも一方において、前記集電体は、熱可塑性樹脂で構成された樹脂層と、該樹脂層の両面に備えられた金属箔とを備えており、
前記樹脂層の平均厚みは少なくとも10μmであり、
前記金属箔の前記合材層が形成される表面は粗面化処理されており、
ここで、前記樹脂層と前記金属箔との積層方向の断面SEM像を複数取得したとき、前記金属箔の最も薄い部分の厚みxの平均値X(μm)と、最も厚い部分の厚みyの平均値Y(μm)は、
0.1μm<X<4μm、および、
1.2≦Y/X
を具備する、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記粗面化処理された表面は、前記金属箔の前記合材層が形成される範囲全体にわたって設けられている、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、1気圧下で265℃以下の融点を有する、請求項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、1気圧下で200℃以下の融点を有する、請求項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記負極が備える集電体が、前記樹脂層および前記金属箔を備えており、該金属箔は銅で構成されている、請求項1~の何れか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記正極が備える集電体が、前記樹脂層および前記金属箔を備えており、該金属箔はアルミニウムで構成されている、請求項1~の何れか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記樹脂層は、導電性粒子を含む、請求項1~の何れか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記導電性粒子は、前記樹脂層と接する前記金属箔と同じ金属で構成されている、請求項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記樹脂層は、フィラーを含む、請求項1~の何れか一項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。詳しくは、金属箔間に樹脂層を備える集電体を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
一般的に二次電池に用いる電極には、集電体としての金属箔と、該金属箔の表面に形成された活物質を含む合材層とが備えられている。活物質は充放電に伴い膨張収縮をするため、充放電を繰り返すことにより、活物質を含む合材層が金属箔から剥離することがある。そこで、特許文献1には、リチウムイオン二次電池の電極に用いる複数積層された金属箔であって、かかる金属箔は粗面化した面を有しており、金属箔の粗面化した面同士が当接するように積層した構成の積層金属箔が開示されている。これにより、当接した粗面化された面同士の間に空隙を設けることができるため、弾性率を向上させることができる。そのため、充電時における活物質の体積膨張による金属箔への負荷を緩和し、充放電に伴う合材層の集電体からの剥離を抑制するとともに、電極全体の変形や破断を防ぎ、エネルギー密度を高めながらサイクル特性を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-26913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、二次電池の電極に異物が混入した場合、内部短絡による異常発熱を起こし得る。また、二次電池を過充電する等の誤使用がされた際に異常発熱を起こし得る。正極に一般的に用いられるアルミニウム箔の溶断温度は凡そ660℃であり、負極に一般的に用いられる銅箔の溶断温度は凡そ1100℃であるため、異常発熱時に、凡そ660℃まで電池が昇温する虞がある。そのため、電極に異常発熱が生じた場合に、電流を早期に遮断する機構が備えられていることが望まれる。
【0006】
また他方では、二次電池の高容量化を目指し、電極の金属箔の厚みを減らすことが検討されている。しかしながら、金属箔が薄くなることで金属箔の強度が弱くなるため、充放電に伴う合材層の膨張収縮によって合材層が金属箔から剥離し易くなる。これにより、サイクル特性が低下する課題がある。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、異常発熱時に電極が備える金属箔を破断する機構を備え、かつ、優れたサイクル特性を実現し得る非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明者が鋭意検討を行った結果、樹脂層と、該樹脂層の表面に所定のパラメータを具備するように粗面化処理した金属箔を備えた構成の集電体を用いることにより、優れたサイクル特性を実現し、かつ、異常発熱時に金属箔をより低い温度で破断できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、ここで開示される非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池であって、上記正極および負極は、集電体と、該集電体の表面に形成された合材層とを備えており、上記正極および負極の少なくとも一方において、上記集電体は、樹脂層と、該樹脂層の両面に備えられた金属箔とを備えており、該金属箔の前記合材層が形成される表面は粗面化処理されている。さらに、上記樹脂層と上記金属箔との積層方向の断面SEM像を複数取得したとき、上記金属箔の最も薄い部分の厚みxの平均値X(μm)と、最も厚い部分の厚みyの平均値Y(μm)は、
0.1μm<X<4μm、および、1.2≦Y/X
を具備する。
かかる構成によれば、集電体において、樹脂層が金属箔の溶断温度よりも低い温度で溶融し、樹脂層の体積が増加するため、かかる体積増加による金属箔への圧力によって金属箔を破断させることができる。かかる破断により、電気抵抗が急激に増加するため、電池内部の電流を遮断することができる。また、金属箔には破断の起点となる厚みの薄い部分が設けられている。これにより、内部短絡等の異常発熱によって非水電解質二次電池の温度が上昇したとき、樹脂層の溶融による体積増加によって金属箔が破断し易くなり、電流を遮断することができるため、より安全性の高い非水電解質二次電池を実現することができる。さらに、かかる構成によれば、合材層が金属箔から剥離し難くなるため、優れたサイクル特性を実現することができる。
【0009】
また、ここで開示される非水電解質二次電池の好ましい一態様では、上記粗面化処理された表面は、上記金属箔の上記合材層が形成される範囲全体にわたって設けられている。
かかる構成によれば、より高いレベルの安全性と優れたサイクル特性を実現することができる。
【0010】
また、ここで開示される非水電解質二次電池の好ましい一態様では、上記樹脂層は熱可塑性樹脂で構成されている。また、他の好ましい一態様では、上記熱可塑性樹脂は、1気圧下で265℃以下の融点を有する。さらに、他の好ましい一態様では、上記熱可塑性樹脂は、1気圧下で200℃以下の融点を有する。
かかる構成によれば、異常発熱時に、より低い温度で熱可塑性樹脂が溶融し、樹脂層の体積増加により金属箔の破断させることができるため、より安全性が高い非水電解質二次電池を実現することができる。
【0011】
また、ここで開示される非水電解質二次電池の好ましい一態様では、上記負極が備える集電体が、上記樹脂層および上記金属箔を備えており、該金属箔は銅で構成されている。また、他の好ましい一態様では、上記正極が備える集電体が、上記樹脂層および上記金属箔を備えており、該金属箔はアルミニウムで構成されている。
かかる構成によれば、負極および正極の少なくとも一方において、異常発熱時に金属箔を破断させることができるため、安全性の高い非水電解質二次電池とすることができる。
【0012】
また、ここで開示される非水電解質二次電池の好ましい一態様では、上記樹脂層は、導電性粒子を含む。また、他の好ましい一態様では、上記導電性粒子は、前記樹脂層と接する上記金属箔と同じ金属で構成されている。
かかる構成によれば、電気抵抗をより低減させることができる。
【0013】
また、ここで開示される非水電解質二次電池の好ましい一態様では、上記樹脂層は、フィラーを含む。
かかる構成によれば、特にサイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
図2】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の負極集電体の構成を模式的に示す拡大断面図である。
図3】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の負極集電体の変形例の構成を模式的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、各図における符号Wは「幅方向」を示し、符号Tは「厚み方向」を示す。なお、これらの方向は説明の便宜上定めた方向であり、ここに開示される非水電解質二次電池の設置態様を限定することを意図したものではない。
また、本明細書において数値範囲をA~B(ここでA,Bは任意の数値)と記載している場合は、一般的な解釈と同様であり、A以上B以下を意味するものである。
【0016】
本明細書において「非水電解質二次電池」とは、電荷担体として非水電解質を用い、正負極間の電荷担体の移動に伴って繰り返しの充放電が可能な電池一般をいう。非水電解質二次電池における電解質は、例えば、非水電解液、ゲル状電解質、固体電解質のいずれであってもよい。このような非水電解質二次電池には、一般にリチウムイオン電池やリチウム二次電池等と称される電池の他、リチウムポリマー電池、リチウムイオンキャパシタ等が包含される。以下、ここで開示される非水電解質二次電池の一例として積層電極体をラミネートフィルム製の外装体に収容した非水電解液リチウムイオン二次電池を例に詳細に説明する。
【0017】
図1は、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100の構成を模式的に示す断面図である。図1に示すように、リチウムイオン二次電池100は、外装体10の内部に電極体20と、非水電解液(図示せず)とを収容している。正極集電端子42の一端は外装体10の内部で正極50と電気的に接続されており、負極集電端子44の一端は、外装体10の内部で負極60と電気的に接続されている。また、正極集電端子42および負極集電端子44の他端は外装体10の外部に露出している。
【0018】
外装体10は、ラミネートフィルムによって袋状に形成されている。外装体10は電極体20と非水電解液とを内部に収容する収容空間を有しており、該収容空間の周縁を熱溶着(ヒートシール)することで封止することができる。
ラミネートフィルムを構成する材質には特に制限はなく、典型的には、箔状の金属と樹脂シートが貼り合わされる構成のものが使用され得る。例えば、熱溶着のための無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)の表面に、耐熱性、シール強度、耐衝撃性等を付与する目的で、アルミニウム等の金属層を設け、さらに該金属層の表面にポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアミド(PA)、あるいはナイロン製フィルム等からなる外部樹脂層を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。
【0019】
電極体20は、正極50および負極60の電極シートがセパレータ70を介して絶縁された状態で複数積層されて構成される。正極50および負極60の電極シートは矩形状の幅広面を備えており、該幅広面同士が対向するように積層されている。なお、ここでは電極体20の積層方向は厚み方向Tである。
【0020】
正極50の電極シート(正極シート)は、矩形状の幅広面を有するシート状の正極集電体52と、該正極集電体52の表面に塗工された正極合材層54と、を備えている。正極集電体52の幅方向(図1中のW方向)の片側の縁部には、正極合材層54が形成されていない正極集電体露出部が設けられている。積層された正極シートそれぞれの正極集電体露出部を上記積層方向(図1中T方向)から束状に接合することにより、正極端子接合部56が形成されている。
負極60の電極シート(負極シート)は、矩形状の幅広面を有するシート状の負極集電体62と、該負極集電体62の表面に塗工された負極合材層64と、を備えている。負極集電体62の幅方向(図1中のW方向)の片側の縁部には、負極合材層64が形成されていない負極集電体露出部が設けられている。積層された負極シートそれぞれの負極集電体露出部を上記積層方向(図1中T方向)から束状に接合することにより、負極端子接合部66が形成されている。
【0021】
正極集電端子42は板状の導電部材であり、一端が外装体10の内部で正極端子接合部56と接合されており、他端が外装体10の外部に露出している。正極集電端子42が外装体10を貫通する部分では、厚み方向Tから正極集電端子42を挟むように2枚のラミネートフィルムが重ね合わされており、正極集電端子42の表面にラミネートフィルムが溶着している。なお、かかる溶着の強度を向上させるために、樹脂からなる溶着フィルムを正極集電端子42とラミネートフィルムとの間に介入させてもよい。
負極集電端子44については、一端が負極端子接合部66と接合されていること以外は上述した正極集電端子42と同様の構成であってよい。
【0022】
正極50が備える正極集電体としては、例えばアルミニウム箔を使用することができる。また、ここで開示される構成の集電体であってもよい。かかる構成については後述する。
正極50が備える正極合材層54には正極活物質が含まれる。正極活物質としては、例えば層状構造やスピネル構造等のリチウム複合金属酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5,LiCrMnO、LiFePO等)が挙げられる。また、正極合材層54は、導電助剤、分散剤、バインダ等を含んでいてもよい。導電助材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。分散剤としては、例えばポリビニルアルコール(PVA)等を使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
正極合材層54は、正極活物質と必要に応じて用いられる材料(導電材、バインダ等)とを適当な溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン:NMP)に分散させ、ペースト状(またはスラリー状)の組成物を調製し、該組成物の適当量を正極集電体52の表面に塗工し、乾燥することによって形成することができる。
【0023】
負極60が備える負極集電体としては、例えば銅箔を使用することができる。また、ここで開示される構成の集電体であってもよい。かかる構成については後述する。
負極60が備える負極合材層64は、負極活物質を含んでおり、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料や、Si、SiO等を含むシリコン材料等を使用し得る。また、負極合材層64は、バインダ、増粘剤等をさらに含んでいてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
負極合材層64は、負極活物質と必要に応じて用いられる材料(バインダ等)とを適当な溶媒(例えばイオン交換水)に分散させ、ペースト状(またはスラリー状)の組成物を調製し、該組成物の適当量を負極集電体62の表面に塗工し、乾燥することによって形成することができる。
【0024】
セパレータ70としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられるものと同様の各種微多孔質シートを用いることができ、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る微多孔質樹脂シートが挙げられる。かかる微多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。また、セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)を備えていてもよい。
【0025】
非水電解液は従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には非水溶媒中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。なかでも、カーボネート類、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等を好適に採用し得る。あるいは、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)のようなフッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定されるものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
【0026】
また、上記非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分を含んでいてもよく、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。かかる添加剤としては、具体的には、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等の被膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等の芳香族化合物に代表される過充電時にガスを発生させ得る化合物からなる過充電添加剤;界面活性剤;分散剤;増粘剤;凍結防止剤等が挙げられる。非水電解液全体に対するこれらの添加剤の濃度は、添加剤の種類にもよって異なるが、通常6質量%程度以下(典型的には0.5質量%~4質量%)とすることができる。
【0027】
ここで開示される非水電解質二次電池は、正極および負極の少なくとも一方において、樹脂層と、該樹脂層の両面に備えられた金属箔とを備えた集電体を有する。以下、かかる構成の集電体を負極集電体62に用いた場合を例に説明する。
【0028】
図2は負極集電体62の構成を模式的に示すための拡大断面図である。図2に示すように、負極集電体62は、樹脂層62aと、該樹脂層62aの両面に金属箔62bを備えている。
【0029】
樹脂層62aは、加熱されることにより体積増加を起こす樹脂であればよく、典型的には熱可塑性樹脂によって構成されている。熱可塑性樹脂は融点に達したとき、固体から液体に状態が変化するため、体積が増大する。かかる樹脂層の体積の増大により、金属箔62bに圧力が加わるため、金属箔62bを破断させることできる。そして、金属箔62bが破断されることにより、電気抵抗が急激に増加するため、電池内部の電流を遮断することができる。したがって、異常発熱によって樹脂層62aの融点まで昇温した際に、電池内部の電流を遮断する機構が働き、電池の温度上昇を抑制することができる。
【0030】
樹脂層62aを構成する熱可塑性樹脂は特に限定されるものではないが、1気圧における融点が265℃以下である熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。かかる性質を有するものとしては、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、熱可塑性ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、アクリロニトリル・スチレン(AS)、ポリメチルメタアクリル(PMMA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等が挙げられる。さらに、1気圧における融点が200℃以下である熱可塑性樹脂を用いることがより好ましく、例えば、PVA、PE、PP等を使用することが好ましい。樹脂層62aがより低い融点を有することにより、リチウムイオン二次電池100の内部で内部短絡などにより異常発熱が生じたとき、より低い温度で電池内部の電流を遮断することができる。熱可塑性樹脂は一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。なお、樹脂層の融点は、一般的な示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)によって測定することができる。
【0031】
樹脂層62aは、導電性粒子を含み得る。樹脂層62aが導電性粒子を含むことにより、負極集電体62の導電性が向上するため、電気抵抗をより低減することができ得る。
導電性粒子としては、例えば、カーボン粉末や導電性金属粉末等を用いることができる。カーボン粉末としては種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末、等のカーボン粉末を用いることができる。導電性金属粉末としては、例えば、銅粉末、アルミニウム粉末、ニッケル粉末等を用いることができるが、なかでも金属箔62bを構成する金属と同じ金属で構成されている導電性金属粉末を用いることが好ましい。例えば、金属箔62bが銅箔であった場合、導電性粒子として銅粉末を用いることが好ましい。
導電性粒子の大きさは特に制限されるものではないが、例えば、レーザー回折散乱法に基づく構成粒子の平均粒子径が凡そ10nm~10μmの範囲であって、例えば20nm~5μmの範囲にある粉末状の導電性材料を使用することができる。
なお、導電性粒子は一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0032】
樹脂層62aは、フィラーを含み得る。フィラーの形状は、特に制限されるものではなく、例えば、粒子状、繊維状、板状、フレーク状等であってもよい。
フィラーの平均粒子径は、特に制限されるものではなく、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が例えば0.1μm以上10μm以下であり、0.5μm以上5μm以下であってもよい。
フィラーとしては、例えば、アルミナ(Al)、マグネシア(MgO)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)等の無機酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、マイカ、タルク、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン等の粘土鉱物、ガラス繊維等が挙げられ、これらは、一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0033】
樹脂層62aが設けられる範囲は特に制限されるものではないが、負極集電体露出部を除く範囲全体に設けられることが好ましい。樹脂層62aがより広い範囲に設けられることにより、異常発熱時に、金属箔62bを破断する起点が増加するため、より高い安全性を実現できる。また、負極集電体露出部に樹脂層62bを設けないことより、電極体20が備える複数の負極シートの負極集電体露出部を束状に接合し、負極端子接合部66を形成した際に、より確実にかかる複数の負極シート同士の導通を確保し、かかる複数の負極シートと負極集電端子44とを導通させることができる。
【0034】
樹脂層62aの平均厚みは、異常発熱時の安全性の観点から、凡そ0.1μm以上であればよく、例えば10μm以上であり得る。かかる平均厚みであれば、樹脂層62aが溶融した際に、金属箔62bを破断させる圧力を伴う体積変化が生じるため好ましい。また、特に制限されるものではないが、樹脂層62aの平均厚みは、典型的には80μm以下であって、例えば40μm以下であり得る。異常発熱時の安全性の観点から、樹脂層62aの厚みは大きいほど溶融時の体積変化が大きくなり好ましいが、電池の高容量化の観点からは、集電体の厚みにより電池の高容量化が困難となるため、必要以上の厚みを有することは好ましくない。なお、樹脂層62aの厚みは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)観察などによって測定することができる。
【0035】
金属箔62bは、従来リチウムイオン二次電池の負極集電体に使用される金属箔を用いることができ、例えば、銅箔等を使用することができる。金属箔62bは樹脂層62aの両面に備えられており、金属箔62bの樹脂層62aに面する表面の反対側の表面には負極合材層64が形成される。
【0036】
図2に示すように、金属箔62bの負極合材層が形成される表面は粗面化処理が施された粗面化処理部が設けられており、該粗面化処理部には凹凸が存在している。なお、金属箔62bの樹脂層62a側の表面は平滑であっても粗面化処理されていてもよいが、図2では、かかる表面が平滑である場合を図示している。
【0037】
金属箔62bの厚みは、樹脂層62aと金属箔62bとの積層方向(図2中のT方向)における金属箔62bの断面SEM像に基づいて測定することができ、金属箔62bの最も薄い部分の厚みx(μm)と、最も厚い部分の厚みy(μm)とを測定することができる。また、上記断面SEM像を所定の倍率(典型的には4000倍)で複数(例えば4以上)取得することにより、上記xの平均値X(μm)、上記yの平均値Y(μm)を求めることができる。なお、図2に示すように、上記最も薄い部分の厚みxは典型的には凹部の位置に存在し、上記最も厚い部分の厚みyは、典型的には凸部の位置に存在する。また、本明細書における上記平均値Xは、ここで開示される構成の集電体(ここでは負極集電体62)の樹脂層と金属箔との積層方向における断面SEM像(倍率:4000)を4つの異なる視野で取得し、それぞれの視野で金属箔の最も薄い部分の厚みx(μm)を測定したときのxの平均値のことをいう。また、本明細書における上記平均値Yについても同様であり、上記4つの視野の断面SEM像(倍率:4000)それぞれで金属箔の最も厚い部分の厚みy(μm)を測定したときのyの平均値のことをいう。なお、各視野において、金属箔の最も厚い部分の厚みyが視野内に収まらない場合には、かかる厚みyを測定するために適宜倍率を調整してもよい。
【0038】
上述した断面SEM像に基づく金属箔62bの最も薄い部分の厚みxの平均値Xは、0.1μm<X<4μmを具備することが好ましく、例えば0.11μm≦X≦3.9μmであり得る。上記最も薄い部分の厚みxが位置する部分は、樹脂層62aの溶融に伴う体積変化によって破断し易い部分である。そのため、上記Xが大きすぎると、樹脂層62aの体積変化により破断し難くなるため、かかる範囲を具備することが好ましい。
【0039】
また、上記断面SEM像に基づく金属箔62bの最も厚い部分の厚みyの平均値Yは、上述した0.1μm<X<4μm(もしくは0.11μm≦X≦3.9μm)を具備し、かつ、1.2X≦Y(即ち、1.2≦Y/X)を具備することが好ましい。かかる範囲によれば、負極合材層が金属箔62bから剥離し難くなるため、サイクル特性の劣化を抑制することができる。また、かかる範囲の厚みの差が生じることにより、電子密度の不均一性が生じ得るため、金属箔62b上に形成される負極合材層において、脱溶媒和反応が進み易くなり得る。これにより、電気抵抗を低減することができる。
また、特に制限されるものではないが、電池の高容量化の観点から、上記Yは、概ね、Y≦85X(Y/X≦85)であってよく、例えばY≦1.7X(Y/X≦1.7)であり得る。
【0040】
また、金属箔62bの粗面化処理部の凹凸において、隣り合う凸部間の距離が1μm以下であることが好ましい。かかる範囲によれば、金属箔の厚みの薄い部分と厚い部分との繰り返しが増えるため、上述した電気抵抗低減効果をより高いレベルで実現することができる。なお、「凸部間の距離」とは、断面SEM像において、隣り合う凸部それぞれの最も高い部分間の距離のことを指す。
【0041】
また、金属箔62bの負極合材層側の表面において、上記粗面化処理部が設けられる範囲としては、特に制限されるものではないが、負極合材層が形成される範囲全体にわたって設けられていることが好ましい。これにより、負極合材層の剥離強度の向上効果および電気抵抗低減効果がより高いレベルで発揮される。また、異常発熱時に、金属箔が破断する起点となり得る厚みの小さい部分を広く配置できるため、より安全性の高い非水電解質二次電池を実現することができる。
【0042】
上記粗面化処理部は、公知の粗面化処理方法によって形成することができ、例えば、レーザー照射、エッチング、スパッタリング、イオンプレーティング、PLD(Pulsed Laser Deposition)等を用いることができる。なかでも、薬液を用いたエッチング処理によって形成することが好ましい。かかるエッチング処理であれば、より均一な粗面化処理部を形成することができ、また、粗面化処理部の凸部間の距離をより小さくすることができ、かかる凸部間の距離を、例えば1μm以下とすることができる。
【0043】
以下、負極集電体62の好適な製造方法の一例について説明する。まず、樹脂層62aを構成する樹脂からなる樹脂シートを準備する。次に、金属箔62bに用いる粗面化処理した金属箔を準備し、上記樹脂シートに重ね合わせる。このとき、金属箔の位置を調整することにより、樹脂層が設けられる位置を調整することができ、例えば、負極端子接合部66に樹脂層62bを設けない構造とすることができる。金属箔を樹脂シートに重ね合わせた後、ホットプレスすることにより、樹脂シートの表面が溶融するため、金属箔と樹脂シートとを溶着させることができる。なお、ホットプレスは、例えば、100℃~250℃で1分~30分間で行うことができる。
【0044】
以上、樹脂層62aの両面に金属箔62bを備えており、金属箔62bと樹脂層62aとの界面が平滑である構成の負極集電体62を図2に示し説明したが、ここで開示される負極集電体62の構成はこれに限られない。以下、変形例を図3に示し説明する。
【0045】
(変形例)
図3に示す負極集電体62の変形例は、金属箔62bと樹脂層62aとの界面に凹凸が存在する。即ち、金属箔62bの両面が粗面化処理されている。かかる構成であれば、金属箔62bの最も薄い部分の厚みx(μm)と、最も厚い部分の厚みy(μm)は、図3に示すように、積層方向(図3中のT方向)における金属箔62bが存在する部分の厚みに基づいて測定される。即ち、金属箔62bの最も厚い部分とは、金属箔62bの負極合材層が形成される表面における最も厚みのある凸部の頂点から、金属箔62bの樹脂層62a側の表面における最も厚みのある凸部の頂点までの長さよりも薄くなり得る。
【0046】
以上、負極集電体62を例にここで開示される集電体の構成および製造方法の一例を説明したが、正極集電体64にここで開示される集電体を用いる場合であっても同様の構成であればよく、金属箔を構成する金属箔を例えばアルミニウム箔に変更すれば、他の構成は同様であってよい。また、樹脂層の両面に金属箔を備えた構成を図示して説明したが、樹脂層の片面に金属箔が設けられた構成であってもよい。
【0047】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。例えば、車両に搭載されるモーター用の高出力動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、典型的には自動車、例えばプラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個が電気的に接続された組電池の形態で使用することもできる。
【0048】
以上、一例として積層電極体を備えたラミネート型の非水電解液リチウムイオン二次電池について詳細に説明したが、これは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に記載した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、積層電極体の代わりに、正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して捲回した捲回電極体を備えていてもよい。また、外装体10の代わりに、アルミニウム等の金属材料で構成された電池ケースを用いてもよい。また、電解質として固体電解質を使用する全固体電池や、ポリマー電解質を使用するポリマー電池であってもよい。
【0049】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0050】
[実験1]
<負極集電体の準備>
(例1)
市販されている予め両面が粗面化された集電体用の銅箔を用いた。
(例2~10)
市販されている予め両面が粗面化処理された様々な厚みの集電体用の銅箔を準備した。さらに、かかる銅箔の合材層形成予定の表面に対し、薬液によるエッチング処理を実施したものと、未処理のものとを準備した。そして、上記銅箔を厚さ10μmのポリエチレンテレフタラート(PET)からなる樹脂シートの両面に貼り付け、100℃~250℃で1分~30分間ホットプレスすることにより溶着させた。このようにして、粗面化処理された表面を有する銅箔を樹脂層の両面に備えた負極集電体を作製した。なお、各例でエッチング処理の条件を変更することで、粗面化の程度が異なるようにした。
【0051】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
正極活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM)の粉末と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、分散剤としてポリビニルアルコールを、正極活物質:導電助剤:バインダ:分散剤=90:8:1.8:0.2の質量比となるように準備し、固形分が56質量%となるように分散媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と混合した。このようにして、正極合材形成用ペーストを調製した。
次に、上記正極合材層形成用ペーストを、ダイコータを用いて帯状のアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥させた。そして、乾燥した正極合材層形成用ペーストを備えたアルミニウム箔をプレス処理することにより、正極シートを作製した。
【0052】
シリコン酸化物の粉末と、黒鉛とを80:20の質量比で混合したものを負極活物質として準備した。また、バインダとしてスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を準備した。そして、負極活物質:SBR:CMC=90:5:5の重量比となるように秤量し、固形分率が66質量%となるように分散媒であるイオン交換水と混合した。このようにして負極合材層形成用ペーストを調製した。
次に、上記負極合材層形成用ペーストを、ダイコータを用いて上記準備した各例の集電体の粗面化処理された銅箔上に塗布した。なお、例1では銅箔の片面に上記負極合材形成用ペーストを塗布し、例2~10は樹脂層の両面に張り付けられた銅箔それぞれに塗布した。乾燥させた後、乾燥した負極合材形成用ペーストを備えた負極集電体をプレス処理することにより、負極シートを作製した。
【0053】
また、セパレータシートとしてPP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを用意した。
【0054】
上記作製した正極シートと負極シートとを上記セパレータシートを介して対向させて積層し、積層型電極体を作製した。該積層型電極体に集電端子を取り付け、アルミラミネート型袋に収容した。そして、積層電極体に非水電解液を含浸させ、アルミラミネート袋の開口部を封止し密閉することによって評価用リチウムイオン二次電池を作製した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:3の体積比で混合し、さらにビニレンカーボネート(VC)を2質量%添加した混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0055】
<負極シートの粗面化銅箔の評価>
上記作製した各例の負極シートの銅箔と合材層との積層方向における断面をSEMを用いて4000倍の倍率で観察し、4か所の異なる視野の断面SEM像を得た。得られた断面SEM像それぞれにおいて、銅箔の最小厚みxと、最大厚みyとを測定した。なお、例2~10は樹脂層の両面に銅箔が貼りつけているため、1視野それぞれにおいて、各銅箔の最小厚みおよび最大厚みを測定した。そして、上記4か所の異なる視野の断面SEM像それぞれで得られた上記最小厚みおよび最大厚みの値を用いて、各例の銅箔の最小厚みの平均値X(μm)と、最大厚みの平均値Y(μm)を求めた。その値をそれぞれ「平均最小厚みX(μm)」、「平均最大厚みY(μm)」として表1に示す。
【0056】
<活性化処理と初期容量測定>
上記作製した各評価用リチウムイオン二次電池を25℃の環境下に置いた。初回充電電量は定電流-定電圧方式とし、各評価用リチウムイオン二次電池を1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行い、満充電状態にした。その後、各評価用リチウムイオン二次電池を1/3Cの電流値で3.0Vまで定電流放電した。このときの放電容量を測定して初期容量を求めた。なお、ここで「1C」とは、1時間でSOC(state of charge)を0%から100%まで充電できる電流の大きさのことをいう。
【0057】
<規格化電池抵抗の測定>
上記活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を、3.70Vの開放電圧に調整し、-5℃の温度環境下に置いた。3Cの電流値で8秒間放電し、このときの電圧変化量ΔVを求めた。また、20Cの電流値を求めた。そして、20Cの電流値とΔVとを用いて電池抵抗を算出した。例1の評価用リチウムイオン二次電池の抵抗を1.00とした場合の、各例の評価用リチウムイオン二次電池の抵抗の比を求めた。結果を表1に示す。
【0058】
<容量保持率の測定>
上記活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を3.3Vの開放電圧に調整し、60℃の環境下に置いた。充放電は定電流方式とし、1Cの電流値で4.2Vまで充電し、その後1Cの電流値で3.3Vまで放電した。この充放電を1サイクルとして、200サイクル繰り返した。その後、200サイクル後の放電容量を上記初期容量と同様の方法で測定した。そして、(200サイクル後の放電容量/初期容量)×100の値を算出することにより、容量保持率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0059】
<安全性試験による安全性評価>
上記活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を、1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/10Cになるまで定電圧充電を行い、満充電状態にした。その後、満充電状態になった各評価用リチウムイオン二次電池を25℃の環境下に置いた。次に、各評価用リチウムイオン二次電池の中央付近に直径3mmの鉄製の釘を10mm/secの速度で貫通させた。このときの各評価用リチウムイオン二次電池の外表面温度を熱電対で測定し、最高温度を測定した。このときの最高温度が150℃未満であった場合を「◎」、200℃未満であった場合を「〇」、200℃以上であった場合を「×」として、表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、例1~5は、安全性試験において、電池の外表面の最高温度が200℃以上となった。その一方で例6~10は、安全性試験において、電池の外表面の最高温度が200℃未満となった。これにより、例6~10では、電池の外表面が200℃まで昇温する前に、銅箔が破断され、内部短絡による電流を遮断できることが確かめられた。また、例6~10は、例1~5よりも電地抵抗(電池の内部抵抗)が低く、容量保持率も高かった。これらのことから、樹脂層の両面に粗面化処理された銅箔を備えており、平均最小厚みXが0.1μm<X<4μmを具備し、かつ、1.2≦Y/Xを具備した負極集電体を用いることによって、電気抵抗を低減し、容量保持率を向上させ、さらに、高い安全性を実現できることがわかる。
【0062】
[実験2]
<負極集電体の準備>
(例11)
例8の負極集電体の構成に、該負極集電体の樹脂層に導電性粒子として銅粒子を含むようにした以外は、例8と同様にして負極集電体を作製した。
(例12)
例8の負極集電体の構成に、該負極集電体の樹脂層にフィラーとしてアルミナ(Al)粒子を含むようにした以外は、例8と同様にして負極集電体を作製した。
【0063】
例11および例12の負極集電体を用いて、上記実験1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製した。そして、上記実験1と同様にして断面SEM像による金属箔の厚みの測定、規格化電池抵抗、容量保持率および安全性試験を行った。例8、例11および例12の結果を表2に示す。なお、規格化電池抵抗の値は例1を1.00としたときの相対値を示す(例1の結果は表1参照)。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示すように、例8よりも例11および例12の方が電気抵抗が低く、容量保持率も高かった。したがって、樹脂層に導電性粒子またはフィラーが含まれていることにより、より優れた電気抵抗低減効果と容量保持率を実現できることがわかる。
【0066】
[実験3]
<負極集電体の準備>
(例13)
例8の負極集電体の樹脂層をPET(1気圧における融点:255℃)からポリアミド(PA)に変更した以外は、例8と同様にして負極集電体を作製した。なお、上記ポリアミドの1気圧における融点は265℃のものを使用した。
(例14)
例8の負極集電体の樹脂層をPETからポリビニルアルコール(PVA)に変更した以外は、例8と同様にして負極集電体を作製した。なお、PVAの1気圧における融点は200℃のものを使用した。
(例15)
例8の負極集電体の樹脂層をPETからポリエチレン(PE)に変更した以外は、例8と同様にして負極集電体を作製した。なお、PEの1気圧における融点は130℃のものを使用した。
なお、例13~15において、樹脂層の厚みは10μmとした。
【0067】
例13~15の負極集電体を用いて、上記実験1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製した。そして、上記実験1と同様にして断面SEM像による金属箔の厚みの測定、規格化電池抵抗、容量保持率および安全性試験を行った。例8、例13~15の結果を表3に示す。なお、規格化電池抵抗の値は例1を1.00としたときの相対値を示す(例1の結果は表1参照)。
【0068】
【表3】
【0069】
表3の例8、例13~15に示すように、1気圧における融点が265℃以下の熱可塑性樹脂で構成された樹脂層を備えることにより、安全性試験において、電池の外表面の最高温度が200℃未満となった。したがって、高い安全性を有することがわかる。そのなかでも、例14および例15では、安全性試験において、電池の外表面の最高温度が150℃未満となり、特に高い安全性を示した。したがって、1気圧における融点が200℃以下の熱可塑性樹脂で構成された樹脂層を備えることにより、さらに高い安全性を実現できることがわかる。
【0070】
[実験4]
<負極集電体の準備>
(例16)
例8に用いた予め両面が粗面化処理された銅箔を、片面が粗面化処理されていない銅箔に変更した。そして、かかる銅箔の粗面化処理された面を薬液によるエッチング処理を行い、銅箔の最小厚みの平均値X(μm)と、最大厚みの平均値Y(μm)が例8と同じになるように調整した。次に、銅箔の粗面化処理されていない面をPETからなる厚さ10μmの樹脂シートに接するように貼り付け、100℃~250℃で1分~30分間ホットプレスすることにより溶着させた。これを樹脂シートの両面に行った。このように例16の負極集電体を作製した。
その後、例16の負極集電体を用いて、上記実験1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製した。そして、上記実験1と同様にして断面SEM像による金属箔の厚みの測定、規格化電池抵抗、容量保持率および安全性試験を行った。例8および例16の結果を表4に示す。なお、規格化電池抵抗の値は例1を1.00としたときの相対値を示す(例1の結果は表1参照)。
【0071】
【表4】
【0072】
表4に示すように、金属箔(ここでは銅箔)の樹脂層側の表面は、粗面化処理の有無にかかわらず、電池抵抗低減効果と容量保持率に優れ、高い安全性を有するリチウムイオン二次電池を実現できることがわかる。
【0073】
[実験5]
<正極集電体の準備>
(例17)
市販されている両面が粗面化された集電体用のアルミニウム箔を準備した。かかるアルミニウム箔をPETからなる厚さ10μmの樹脂シートの両面に貼り付け、ホットプレスにより溶着させた。このようにして、粗面化処理された表面を有するアルミニウム箔を樹脂層の両面に備えた正極集電体を作製した。かかる正極集電体を用いて、上記実験1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製した。そして、上記実験1と同様にして断面SEM像による金属箔の厚みの測定、規格化電池抵抗、容量保持率および安全性試験を行った。なお、断面SEM像による金属箔の厚みの測定は、正極集電体が備える金属箔(アルミニウム箔)の厚みの測定に変更した。なお、負極は、例1と同じものを用いた。例1および例17の結果を表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
表5に示すように、金属箔を銅箔からアルミニウム箔に変更した例17であっても、安全性試験の結果が良好であった。また、優れた電気抵抗低減効果および優れた容量保持率を示した。したがって、ここで開示される構成の集電体を備える電極は、正極、負極のどちらにおいても高い安全性と、優れた電気抵抗低減効果および容量保持率を実現できることがわかる。
【0076】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0077】
10 外装体
20 電極体
42 正極集電端子
44 負極集電端子
50 正極
52 正極集電体
54 正極合材層
60 負極
62 負極集電体
62a 樹脂層
62b 金属箔
64 負極合材層
70 セパレータ
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3