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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】放射線量計と動作方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/02 20060101AFI20230526BHJP
   G01T 1/24 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
G01T1/02 B
G01T1/24
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020501124
(86)(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 IL2018050849
(87)【国際公開番号】W WO2019043684
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】62/551,808
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/846,219
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520007271
【氏名又は名称】ローテム アイエヌディー.エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(74)【復代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギンズブルグ,ディミトリー
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09213112(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0024640(US,A1)
【文献】特開2012-039078(JP,A)
【文献】特表2005-512028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/02
G01T 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッシブ放射線センサを備えた放射線量計であって、前記放射線量計は、
(a)第1の電圧まで充電されるように構成された放射線感受性要素(以降、RSE)であって、入射放射線と第1の電圧保持損失に応答する、RSE、
(b)第2の電圧まで充電されるように構成された放射線非感受性要素(以降、RIE)であって、第2の電圧保持損失に応答する、RIE、
および、
(c)外部リーダーとの通信を可能にするために、前記RSEと前記RIEの両方に関連付けられるセンサインターフェースであって、
前記第1の電圧保持損失が、動作温度範囲にわたって前記第2の電圧保持損失に比例する、センサインターフェース、を備え、
電力源、デジタルシグナルプロセッサー、および、リーダーインターフェースをさらに含む、リーダーを備え、
前記センサと前記リーダーとの間で電気信号と電力を伝達することによって前記センサの動作モードを切り替えるように構成された切り替え可能なチャネルを含む、放射線量計。
【請求項2】
前記センサが1つ以上の追加のRSEを含む、請求項1に記載の放射線量計。
【請求項3】
前記RSEと前記RIEが浮遊ゲートMOSFETを含む、請求項1に記載の放射線量計。
【請求項4】
前記動作温度範囲が-40℃~+60℃である、請求項1に記載の放射線量計。
【請求項5】
入射放射線に対する前記RSEの電圧応答は、入射放射線粒子エネルギーの動作範囲にわたって実質的に均一である、請求項1に記載の放射線量計。
【請求項6】
入射放射線粒子エネルギーの前記動作範囲は、20キロ電子ボルトから3メガ電子ボルトまでである、請求項5に記載の放射線量計。
【請求項7】
前記デジタルシグナルプロセッサーは、電圧保持損失を補正された電圧降下を計算するように構成される、請求項に記載の放射線量計。
【請求項8】
前記デジタルシグナルプロセッサーは、電圧保持損失を補正された電圧降下を、吸収された放射線の量に関連づけるあらかじめ決められた較正曲線を含む、請求項に記載の放射線量計。
【請求項9】
前記電気信号は前記RSEと前記RIEの電圧を含む、請求項に記載の放射線量計。
【請求項10】
前記切り替え可能なチャネルは、少なくとも1つの電気機械式継電器を含む、請求項に記載の放射線量計。
【請求項11】
前記切り替え可能なチャネルは、無線通信リンクを含む、請求項に記載の放射線量計。
【請求項12】
前記切り替え可能なチャネルは、ユニバーサルシリアルバスを含む、請求項に記載の放射線量計。
【請求項13】
前記切り替え可能なチャネルはクレードルを含む、請求項に記載の放射線量計。
【請求項14】
前記センサ、前記リーダー、および、前記切り替え可能なチャネルは、単一のユニットへ一体化される、請求項に記載の放射線量計。
【請求項15】
放射線量計を動作させる方法であって、前記方法は、
(a)少なくとも1つの放射線感受性要素(以降、RSE)、放射線非感受性要素(以降、RIE)、および、前記少なくとも1つのRSEと前記RIEに関連付けられるセンサインターフェースを有するセンサを提供する工程、
(b)電力源、デジタルシグナルプロセッサー、およびリーダーインターフェースを含むリーダーを提供する工程、
(c)前記リーダーおよび前記センサと通信する切り替え可能なチャネルを提供する工程であって、前記切り替え可能なチャネルは、前記センサの動作モードを切り替えるように構成される、工程、
(d)前記リーダーと前記センサとの間の電気信号と電力の伝達を有効にする工程、
(e)前記少なくとも1つのRSEと前記RIEを事前に充電する工程、
(f)構成要素が前記少なくとも1つのRSEの電圧に対応する、暴露前のセンサベクトルVs1を測定する工程、
(g)前記RIEの電圧に対応する暴露前の基準値Vr1を測定する工程、
(h)前記リーダーと前記センサとの間の電気信号と電力の伝達を無効にする工程、
(i)ある時間間隔にわたって入射放射線に前記センサを暴露する工程、
(j)前記センサと前記リーダーとの間の電気信号と電力の伝達を再度有効にする工程、
(k)構成要素が前記少なくとも1つのRSEの電圧に対応する、暴露後のセンサベクトルVs2を測定する工程、
(l)前記RIEの電圧に対応する暴露後の基準値Vr2を測定する工程、
(m)Vs1-Vs2と等しいセンサ電圧降下ベクトルVs12を計算する工程、
(n)Vr1-Vr2と等しい基準電圧降下値Vr12を計算する工程、
(o)電圧保持損失を補正されたセンサ電圧降下ベクトルVs12’を計算する工程、
および、
(p)前記Vs12’を放射線吸収測定ベクトルMgrayに変換する工程、
を含む、方法。
【請求項16】
個人の放射線量測定値Msievertを計算するための追加の工程(q)を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
放射線吸収測定ベクトルの時系列を決定するために、工程(d)~(p)が繰り返される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
個人の放射線量測定値の時系列を決定するために、工程(d)~(q)が繰り返される、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線量計、具体的には、パッシブ放射線センサを有し、電源を使用することなく、かつ、外部記録機構を利用することなく、吸収された放射線量の記録を取ることができる、放射線量計に関する。
【0002】
放射線量計は、医療用X線および核イメージング施設、原子力発電所、核使用済核燃料廃棄、国土安全保障放射線モニタリング、および食品照射システムを含む、様々な産業へ幅広く応用されている。
【0003】
「Single -poly floating gate solid state direct radiation sensor using STI dielectric and isolated Pwells」という名称の米国特許出願公報US2015/0162369 A1は、浮遊ゲートMOSFET(すなわち、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)技術を利用するパッシブ放射線センサを開示する。こうしたセンサでは、あらかじめ充電されたトランジスタのゲート電圧は、センサによって吸収された放射線に応答して減少する。あらかじめ決められた較正曲線によって、測定されたゲート電圧の減少は、放射線吸収に変換され得、グレイの物理単位で表現され、1グレイは、暴露された塊1キログラム当たりの吸収された放射エネルギー1ジュールに等しい。いくつかの用途では、放射線吸収はシーベルトの単位で表現される個人線量当量に変換され得、これは、様々な種類のイオン化放射能と様々な入射粒子エネルギーの相対的な健康効果を説明するものである。1シーベルトは、1グレイの高浸透X線として生体組織に同じ効果を与えるのに必要とされる放射線吸収の量と当量である。
【0004】
浮遊ゲートMOSFET放射線センサは、入射放射線のない状態に生じてMOSFETのゲート電圧を減少させる、熱応力などの様々な性質のメカニズムに起因して、電荷の損失あるいは利得を受けることがある。「電圧保持損失(voltage retention loss)」として知られているこの現象は、動作中のセンサの温度などの様々な周囲の因子と同様に回路設計にも依存する。電圧保持損失は、もし補償されなければ、放射線吸収の偽の読み取りを引き起こす。
【0005】
電圧保持損失の効果を説明するための様々な方法が文献で報告されている。例えば、Tarrに対して2001年1月9日に発行された米国特許第6,172,368号は、好ましくは反対の極性の電荷を有し、および、2つのトランジスタの閾値電圧間の差を測定する、2つの放射線感受性浮遊ゲートトランジスタの使用を開示する。このアプローチに伴う1つの難点は、両方のトランジスタが、広範囲な入射粒子エネルギーにわたって吸収された放射線に対してその感度で一致しなければならないことと、広範囲な周囲温度にわたってその電圧保持損失で一致しなければならないということである。これは実際には達成するのが難しい。
【発明の概要】
【0006】
本発明は放射線量計と動作方法である。本発明の線量計は、パッシブ放射線センサおよびリーダーを利用することにより、上記の制限や困難を克服し、パッシブ放射線センサは、放射線非感受性要素(以降、RIEと呼ばれる)と一緒に、1つ以上の放射線感受性要素(以降、RSEと呼ばれる)からなる。好ましい実施形態において、RSEおよびRIEの電圧保持損失は、周囲温度の動作範囲にわたって一致する。
【0007】
本発明の線量計は、多くのタイプのイオン化放射能および一連の入射粒子エネルギーに使用されてもよい。例えば、電離放射線は、制動放射によって生成されたX線、あるいはα粒子、β粒子、およびγ光子などの放射性崩壊によって生成された粒子であり得る。典型的には、入射粒子エネルギーは広い範囲;例えば、20キロ電子ボルト(KeV)~3メガ電子ボルト(MeV)に及ぶことがあり得る。
【0008】
本発明の線量計では、パッシブ放射線センサの電圧を読み取る行為はそれらを変更しない。したがって、1回の暴露時間間隔に吸収された放射線量が小さい場合には、1回の事前充電動作の後にセンサを何度も読み取ることが可能である。
【0009】
本発明の放射線量計はパッシブ放射線センサを備え、これは、(a)第1の電圧まで充電されるように構成されたRSEであって、入射放射線と第1の電圧保持損失に応答する、RSE;(b)第2の電圧まで充電されるように構成されたRIEであって、第2の電圧保持損失に応答する、RIE;および、(c)外部リーダーとの通信を有効にするために、RSEとRIEの両方に関連付けられるセンサインターフェースであって、第1の電圧保持損失が、動作温度の範囲にわたって第2の電圧保持損失に比例する、センサインターフェース、を備える。
【0010】
線量計のある好ましい実施の1つの特徴に従って、センサは1つ以上のさらなるRSEを有する。
【0011】
線量計のある好ましい実施の1つの特徴に従って、RSEとRIEは浮遊ゲートMOSFETを含む。
【0012】
線量計のある好ましい実施の別の特徴に従って、動作温度の範囲は-40℃~+60℃である。
【0013】
線量計のある好ましい実施の別の特徴に従って、入射放射線に対する第1の電圧の応答は、入射放射線粒子エネルギーの範囲にわたって実質的に均一である。上記範囲は、例えば、20キロ電子ボルト~3メガ電子ボルトであり得る。
【0014】
線量計のある好ましい実施の1つの特徴に従って、線量計は、電力源、デジタルシグナルプロセッサー、およびリーダーインターフェースを備えるリーダーを含む。デジタルシグナルプロセッサーは、電圧保持損失を補正された電圧降下を計算するように構成され得、それは、吸収された放射線の量に電圧保持損失を補正された電圧降下を関連づけるあらかじめ決められた較正曲線を含み得る。
【0015】
線量計のある好ましい実施の1つの特徴に従って、線量計は、センサとリーダーとの間の電気信号と電力を伝達するように構成される切り替え可能なチャネルを備える。電気信号はRSEとRIEの電圧を含み得る。切り替え可能なチャネルは、1つ以上の電気機械式継電器、無線通信リンク、および/または、ユニバーサルシリアルバスを有し得る。切り替え可能なチャネルはさらにクレードルを有し得る。さらに、切り替え可能なチャネルは、リーダーとセンサと一緒に、単一ユニットへ一体化され得る。
【0016】
本発明の動作方法は以下の工程を含む:(a)少なくとも1つのRSE、RIE、および、RSEとRIEに関連付けられるセンサインターフェースを備えるセンサを提供する工程;(b)電力源、デジタルシグナルプロセッサー、およびリーダーインターフェースを有するリーダーを提供する工程;(c)リーダーとセンサと通信する切り替え可能なチャネルを提供する工程;(d)リーダーとセンサとの間の電気信号と電力の伝達を有効にする工程;(e)RSEとRIEをあらかじめ充電する工程;(f)構成要素がRSEの電圧に対応する、暴露前のセンサベクトルVs1を測定する工程;(g)RIEの電圧に対応する暴露前の基準値Vr1を測定する工程;(h)リーダーとセンサとの間の電気信号と電力の伝達を無効にする工程;(i)ある時間間隔にわたって入射放射線にセンサを暴露する工程;(j)センサとリーダーとの間の電気信号と電力の伝達を再度有効にする工程;(k)構成要素がRSEの電圧に対応する、暴露後のセンサベクトルVs2を測定する工程;(l)RIEの電圧に対応する暴露後の基準値Vr2を測定する工程;(m)Vs1-Vs2と等しいセンサ電圧降下ベクトルVs12を計算する工程;(n)Vr1-Vr2と等しい基準電圧降下値Vr12を計算する工程;(o)電圧保持損失を補正されたセンサ電圧降下ベクトルVs12’を計算する工程;および、(p)Vs12’を放射線吸収測定ベクトルMgrayに変換する工程。
【0017】
方法の特定の好ましい実施の1つの特徴に従って、追加の工程(q)は個人の放射線量測定値Msievertを計算する。
【0018】
方法の特定の好ましい実施の別の特徴に従って、工程(d)~(p)は、放射線吸収測定ベクトルの時系列を決定するために繰り返される。
【0019】
方法の特定の好ましい実施のさらに別の特徴に従って、工程(d)~(q)は、個人の放射線量測定の時間系列を決定するために繰り返される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明は、添付の図面を参照してほんの一例として本明細書に記載される。
図1】本発明の実施形態に係る例示的な放射線線量測定システムのブロック図である。
図2】入射粒子エネルギーに対する放射線感受性の依存を制御するために、金属層を有する第1の例示的なRSEの図である。
図3】入射粒子エネルギーに対する放射線感受性の依存を制御するために、可変のゲート酸化膜厚さを有する第2の例示的なRSEの図である。
図4】2つの例示的なRSEと単一基板に取り付けられた1つの例示的なRIEの図である。
図5】RSEの動作モードを変えるための例示的な切り替えマトリックスを示す。
図6】入射放射線のない状態で、周囲温度の2つの値での時間の関数として、例示的なRSEと例示的なRIEの電圧を示すグラフである。
図7】3つの入射放射線照射線量率での時間の関数として、例示的なRSEと例示的なRIEの電圧を示すグラフである。
図8】例示的な較正曲線を示すグラフである。
図9図1の放射線量計のための例示的な動作方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は放射線量計と動作方法である。本発明の原則は図面と付随の記載を参照することでよりよく理解され得る。
【0022】
ここで図面を参照すると、図1は、本発明にかかる放射線量計(100)の例示的な実施形態のブロック図である。システム(100)は、切り替えチャネル(270)を介してリーダー(300)と通信するセンサ(200)からなる。
【0023】
センサ(200)は、2つのRSE(220および240)、RIE(230)、およびセンサインターフェース(210)からなる。好ましい実施形態において、RSE(220)は、100KeVを下回る運動エネルギーを有するX線などの低エネルギーの入射粒子に対して高感度を有するように設計され;および、RSE(240)は、100KeVよりも上の運動エネルギーを有するX線あるいはガンマ線などの高エネルギーの入射粒子に対して高感度を有するように設計される。
【0024】
図1では、センサ(200)は、明瞭さと提示の効率性のために、2つのRSEからなるものとして示されている。簡易な線量測定応用では、センサ(200)は、1つのRSEのみからなり得、複雑な線量測定応用では、センサ(200)は3つ以上のRSEのアレイからなり得る。実際に、非常に高い放射線感受性を達成するためには、センサ(200)は数千のRSEあるいはRSE「マイクロセル」のアレイを有し得る。そのような場合には、較正手順は、図6に伴う以下の記載において説明されるように、動作温度範囲にわたって、すべてのRSEの保持損失をRIEの保持損失に一致させる必要がある。較正手順は、典型的には任意の残りの一致誤差を、所望の感度のレベル未満であるレベルにまで減らさなければならない。
【0025】
接続時、切り替えチャネル(270)はセンサ(200)とリーダー(300)との間の電気信号の伝達、およびリーダー(300)からセンサ(200)までの電力の伝達を許可する。切り替えチャネル(270)の接続が断たれると、センサ(200)はパッシブ放射線センサとして働き、すなわち、それは電力を必要とすることなく作動する。
【0026】
切り替えチャネル(270)は様々な方法で実装され得る。例えば、それは1セットの電気機械式継電器からなり得、それは、電力の切り替え中に生じ得る制御されない電圧サージからの保護を与える。あるいは、切り替えチャネル(270)は、機械的に取り付けあるいは取り外しされる、センサとリーダーを接続するユニバーサルシリアルバスケーブルであり得る。さらに別の代替手段は無線の切り替えチャネルである。例えば、RF識別(RFID)デバイスの分野の当業者に知られているように、データの通信、およびリーダーからセンサまでの電力の提供は、高周波(RF)信号によって実行され得る。
【0027】
センサ(200)は、例えば、RFIDによって外部ネットワークインターフェースへのセンサの固有の識別を可能にするために、リアルタイムクロック(RTC)と関連する電源を随意に含み得る。随意のRTCは、線量測定の正確な時間タグ付け(time-tagging)と、その時間変化率または線量率の計算も可能にすることになる。
【0028】
リーダー(300)は、センサからの電気信号を受け取るリーダーインターフェース(310)、AD変換器(ADC)(320)、デジタルシグナルプロセッサー(DSP)(330)、リーダーインターフェースコントローラー(340)、システム(100)の外部にあるものとして示された電源(410)を介して電力を受け取る電圧源(350)、および、汎用コンピューターあるいはディスプレイ端末などの外部周辺機器間の2ウェイのデータチャネル(420)を介してデータが流れることを可能にする周辺インターフェース(360)から優先的になる。リーダー(300)は、好ましくはDSP(330)に隣接するか、あるいは、DSP(330)内で一体化される、不揮発性フラッシュメモリなどのローカルデータストレージを随意に含むこともある。
【0029】
センサ(200)およびリーダー(300)により必要とされる印加電圧はすべて、安定化したDC-DC電圧源(350)によって好ましくは供給され、リーダーインターフェースコントローラー(340)内で一体化されることもあれば、あるいは、リーダーインターフェースコントローラー(340)とリーダーインターフェース(310)との間に置かれることもある。
【0030】
図1のブロック図において、センサ(200)、切り替えチャネル(270)、およびリーダー(300)中の要素の一部あるいはすべては、「システム・オン・チップ」あるいは特定用途向け集積回路(ASIC)などの単一ユニットへ一体化され得る。さらに、電源(410)は、システム(100)内に取り込まれ得、この場合、システム(100)はアクティブ電子線量計である。高レベルの統合の利点の1つは、それにより、毎秒数百回あるいは数千回などの非常に速い速度でのセンサ(200)の読み取りが容易になることである。そのような高速での読み取り速度で、電圧保持損失は、多くの連続測定にわたって本質的に一定であり、図9を伴う記載で以下に説明されるように、電圧保持損失を補正するために必要とされる計算の量を減らすために使用され得るという事実である。
【0031】
図2は、入射粒子のタイプとエネルギーに対する放射線感受性の依存を制御するために、金属層を有する第1の例示的なRSEの図である。主なMOSFET構成要素--供給源(510)、シャロートレンチアイソレーション(STI)誘電体(520)、ドレイン(530)、n-ウェル(NW)(525)、ディープn-ウェル(DNW)(535)、基板(SUB)(540)、浮遊ゲート(FG)(550)、酸化物(560)、コントロールゲート(CG)電極(570)--は、MOSFET技術の当業者には既知である。RSEでは、STI誘電体(520)の厚さは典型的には約3500オングストロームである。
【0032】
RSEの放射線感受性は、電子正孔対を形成してFG電圧を放出する、RSEに当たる入射粒子(光子を含む)の割合によって支配される。図2では、金属層M1とM2は入射粒子の吸収度を制御するために使用される。金属層は、図2に示されるように、酸化物(560)の領域の外に配置され得るか、あるいは、FG(550)とCG(570)との間で酸化物(560)の領域の内部に配置され得る。
【0033】
金属層の数およびその位置、材料組成、ならびに厚さは、一連の粒子タイプと粒子エネルギーについて、金属層に吸収される入射粒子の割合を制御するために、変動し得る設計パラメータである。
【0034】
一般的に、金属層への入射粒子の透過深度は、粒子エネルギーとともに増加し、金属層の原子番号(Z)とともに減少する。一例として、金属層M1はアルミニウムからなり得(Z=13)、金属層M2は銅からなり得る(Z=29)。
【0035】
図3は、第2の例示的なRSEの図であり、放射線感受性は酸化物(560)の厚さ「d」によって制御される。図3内の類似の参照番号は図2と同じ意味を持つ。図2の金属層に類似するやり方で、厚い酸化物層は、入射放射線の粒子の一部を吸収し、したがって、FG(570)の近くの電子正孔対の形成を制御し、ゆえに、入射放射線に応答してRSE電圧降下の大きさを制御する。
【0036】
図2の金属層の適切な設計および/または図3の酸化物の厚さ「d」によって、RSEの電圧応答を一連の入射粒子エネルギーの範囲に渡って実質的に均一にすることが可能であり、その結果、測定された電圧降下は入社粒子エネルギーではなく吸収された放射線量に依存する。この特性は放射線線量測定の分野の当業者によって「エネルギー平坦化(energy flattening)」と呼ばれる。
【0037】
RIEでは、MOSFET構造は、MOSFET構成要素の寸法と組成が異なる以外は、図2および3に示されるものに類似する。例えば、RIEでは、STI誘電体(520)は、厚さが約70~100オングストロームの薄いゲート酸化膜層と取り替えられる。さらに、FG(520)の幅はRIEではより小さく、RSE静電容量のわずか約10分の1のRIE静電容量をもたらす。
【0038】
図4は、2つの例示的なRSEと単一基板に取り付けられた1つの例示的なRIEの図である。同じ参照番号が図1-3のように使用される。基板(540)はRSE(220および240)ならびにRIE(230)に共通である。RIE(230)では、ゲート酸化膜(520-1)、NW(525-1)、DNW(530-1)、および浮遊ゲート(550-1)は、RSE(220および240)の対応する構造と比較して、サイズが縮小されている。
【0039】
図5は、リーダーによって生成され、切り替えチャネル(270)に通信される電圧によってセンサの動作モードを変更するための例示的な切り替えマトリックスである。切り替えマトリックスの要素は、切り替えチャネル(270)を介してセンサRSEおよびRIEの接点に適用された電圧レベル(ボルトVで)を表す。典型的には、センサの動作モードを変更するために必要とされる電圧レベルは、数ミリ秒間存続する。切り替えマトリックスおよび切り替えチャネル(270)の重要な機能の1つは、静電放電(ESD)による損傷や意図的ではない充電からセンサを防御することである。
【0040】
放電、事前充電、および、読み取りモードにおいて、リーダーは、切り替えチャネルを介してセンサへ電力を供給する。いったんセンサがアイドルモードに入ると、センサはもはやリーダーの電力を必要とせず、切り替えチャネルの接続が断たれることがある。センサは、パッシブに、かつ、リーダーから離れた距離で動作し続ける。
【0041】
放射線曝露の前に、および、接続された切り替えチャネルにより、RSEとRIEの浮遊ゲートは、放電モード、その後に、事前充電モードを実行することにより、初期の所望の電圧レベルまで充電される。放電モードにおいて、充電はゲート酸化膜を通ってFGから基板まで流れて、FGキャパシタを効果的に有効に放出する。事前充電モードにおいて、印加電圧はゲート酸化膜を介してトンネル電流を生成し、FGへ電荷を注入する。数ミリ秒後、FGコンデンサーは所望の初期電圧に達する。この時点で、センサはアイドルモードに切り替えられ得、切り替えチャネルは接続が断たれ得る。
【0042】
アイドルモードの間、センサは入射放射線に晒される。イオン化放射能の効果はFG制御コンデンサーを放出することであり、その静電容量は、センサ中の他のすべてのコンデンサーよりもおよそ10倍以上大きい。周知のコンデンサー型分圧器関係に基づいて、CGに印加された電圧の約90%はFGに伝達される。イオン化放射能によるFGの放電は、主として大きな制御コンデンサーの領域で生じる。吸収された放射線量が増大するにつれて、FGコンデンサーは漸進的に放出され、FG電圧は低下する。
【0043】
経過時間間隔の後、切り替えチャネルはセンサ(200)を読み取りモードに置くために再接続される。このモードにおいて、RSEとRIEの各々について、トンネルゲート(TG)と基板(SUB)の接点は短絡され、CGとDNWの接点は接触が短絡される。参照電圧(Vg)はCG電極に供給され、ドレイン電圧(Vd)はNMOSドレイン(ND)電極から得られ、切り替えチャネル(270)を超えてアナログ方式でリーダー(300)に渡される。リーダーでは、VdはADC(320)によってデジタル値に変換され、DSP(330)で処理される。結果は、RSEとRIEの各々に関する残りのドレイン電圧の計算値である。
【0044】
センサ電圧を読み取る行為は電圧を変えない。したがって、1回の暴露時間間隔に吸収された放射線量が小さい場合には、1回の事前充電動作の後にセンサを何度も読み取ることが可能である。
【0045】
図6は、一連の動作温度にわたってRIEの電圧保持損失へRSEの電圧保持損失を一致させる原則を例証する。グラフは、入射放射線のない状態での時間の関数としての例示的なRSEと例示的なRIEの電圧を示す。時間が経つにつれて、動作温度はT1からTからT2へと変化し、このとき、T1<T<T2である。
【0046】
放射線曝露の前に、RSEとRIEは事前に充電され、その電圧はリーダーに記録される。これらの初期電圧はそれぞれVs1とVr1によって表示される。測定時間間隔の終わりに、リーダーは対応する最終電圧Vs2とVr2を測定・記録する。RSEとRIEの電圧保持損失が一致するか、あるいは、互いに対してより一般的に比例する場合、RSE電圧降下(Vs12=Vs1-Vs2)はRIE電圧降下(Vr22=Vr2-Vr2)とほぼ等しい。これは、RSE電圧の時間変化率あるいは勾配が、T1からT2までの動作温度の範囲にわたってRIE電圧のそれと同じであるという事実の結果である。
【0047】
図7は、入射放射線に晒されるときの、時間の関数として、例示的なRSEと例示的なRIEの電圧を示すグラフである。放射線曝露率は時間t1で0からE1まで増加し、時間t2でE1からE2まで再度増加する。実線で標識されたRIEの勾配は全体を通して同じである。なぜなら、RIEは入射放射線に対して反応しないからである。E=0の場合、点線で標識されたRSEの勾配は当初、RIEの勾配と同じである。しかしながら、放射線曝露率が0よりも増加するにつれ、RSE勾配はより険しくなる。急勾配は放射線に対するRSEの感度を示すものである。
【0048】
測定時間間隔の最後に、リーダーは最終電圧Vs2とVr2を測定・記録し、先に述べたように、RSE電圧降下(Vs12=Vs1-Vs2)とRIE電圧降下(Vr12=Vr1-Vr2)を計算する。入射放射線のみに起因する電圧保持損失に対して補正された電圧降下は、Vs12’=Vs12-Vr12から与えられる。
【0049】
典型的にはDSPに保存されるあらかじめ決められた較正曲線は、Vs12’を、Mgrayによって表示される吸収された放射線の測定値に変換するために使用される。図8は例示的な較正曲線を示す。図では、曲線(810)は、水平軸上のMgrayと垂直軸上のVs12との間の関数関係を示す。点(820)は曲線上のサンプル測定点を示す。
【0050】
測定エラーの効果は線分(830および840)によって例証される。リーダーによって行われた物理的な電圧測定は一般的に精度に限界がある。その結果、Vs12’の計算値は実際に、複数の値の分布がある確率変数である。この分布は、線分(830)によって例証される幅の間隔ΔVにわたって伸び、例えば、Vs12’の計算値から±1の標準偏差に対応し得る。一点鎖線で示されるグラフ構造によって、無作為な値Mgrayについて、関連付けられる幅の間隔ΔMおよび線分(840)として決定することができる。ΔVとΔMの例示的な値は10マイクロボルトおよび100マイクログレイである。
【0051】
図9図1の放射線線量測定システムのための例示的な動作(900)の方法を示すフローチャートである。フローチャートでは、センサ電圧Vs1とVs2、および、吸収された放射線測定値Mgrayは、その大きさがセンサ中のRSEの数と等しいベクトルである。工程(910)-(980)は自明である。工程(990)では、電圧保持損失を補正されたセンサ電圧降下ベクトルVs12’は、放射線吸収測定ベクトルMgrayに変換される。その後、Mgrayは、リーダー(300)内部のローカルデータストレージに保存され得、および/または、周辺インターフェース(360)を介して外部周辺機器に渡され得る。
【0052】
工程(995)において、センサ電圧は、放射線測定を継続するためにRIEおよびRSEの各々に十分な充電が残っているかどうかを確かめるために、カットオフ値と照合される。センサ電圧がすべてカットオフよりも上である場合、「はい」の経路が選択される。センサ電圧のいずれかがカットオフ未満である場合、「いいえ」の経路が選択され、センサは事前に充電される。
【0053】
典型的には、複数のRSEを備えるセンサは、入射粒子エネルギーの複数の異なる帯域をカバーするように設計されている。NはRSEの数を示し、E(n)(n=1、2…N)は、n番目のRSEのエネルギー選択性に対応するエネルギー帯の中心を表示する。エネルギー荷重関数W(E)を使用して、個人線量当量が計算され得る:
【0054】
【数1】
式中、総和Σはn=1、2、...Nにわたっている。したがって、工程(990)は、Msievertを計算すること、リーダー(300)の内部のローカルデータストレージにその値を保存すること、および/または、周辺インターフェース(360)を介して外部の周辺機器にその値を伝えることを随意に含み得る。
【0055】
エネルギー荷重関数W(E)の推奨事項は、放射線線量測定の分野での従事者の使用に関する国際放射線防護委員会によって公開されている。
【0056】
上記の記載が例として機能するようにのみ意図され、他の多くの実施形態が、添付の請求項において定義されるように本発明の範囲内で可能であることが認識されるだろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9