(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0587 20100101AFI20230526BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230526BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M10/0566
(21)【出願番号】P 2021033412
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】北條 隆行
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-164942(JP,A)
【文献】特開2010-049909(JP,A)
【文献】特開2018-147574(JP,A)
【文献】特開2009-245683(JP,A)
【文献】特開2012-160273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺なシート状の正極集電体および該正極集電体の表面に形成された正極活物質層を有する正極シートと、長尺なシート状の負極集電体および該負極集電体の表面に形成された負極活物質層を有する負極シートとが、セパレータを介在させつつ長手方向に捲回された捲回電極体、および、
非水電解液、
を備える二次電池であって、
前記正極シートの前記長手方向の少なくとも一方の端部には、
前記端部を覆い、かつ、前記正極活物質層の上に貼り付けられた絶縁テープと、
前記絶縁テープの縁に沿って前記正極活物質層上に設けられた、電池反応に対して不活性な塗膜と、
が設けられており、
ここで、前記塗膜の厚みは、前記絶縁テープの縁から遠ざかるにつれて小さくなっている、二次電池。
【請求項2】
前記絶縁テープと前記塗膜とを、前記正極シートの前記長手方向の両端に備える、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記塗膜として、無機フィラーと樹脂バインダとを含むフィラー層、および/または、樹脂バインダから構成される樹脂層を備える、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記樹脂バインダは、アクリル樹脂およびハロゲン化ビニル樹脂からなる群から選択された少なくとも一種の樹脂材料によって構成されている、請求項
3に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特開2019-164942号公報には、非水電解質二次電池に関し、正極板の端部に絶縁テープを貼り付けた形態が開示されている。同公報では、絶縁テープは、基材と基材上に設けられた粘着層とを有し、かつ、基材上に粘着層が形成されていない非粘着領域を有している。また、基材の非粘着領域の端部の近傍に位置する正極合剤層に、リチウムイオンの放出が抑制されているリチウム放出抑制部を設けられている。リチウム放出抑制部は、例えば、正極合剤層の充填密度を局部的に高くした部分とすることができる。具体的には、正極板の製造する際に正極合剤層を圧延する工程において、リチウム放出抑制部となる正極合剤層の部分に対する押圧力を他の部分よりも大きくするか、または、圧延する回数を他の部分よりも多くすることによって、正極合剤層の充填密度を局部的に高くすることができる。このように充填密度を局部的に高くすることでリチウム放出抑制部に含まれる隙間が小さくなって、電解液が内部に浸入しにくくなる。そうすると、リチウムイオンの放出がされにくくなり、その結果、リチウム放出抑制部に対向する負極合剤層の位置でリチウムの金属析出が抑制される、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、正極シートの、捲回電極体の捲回方向の終端部に絶縁テープが貼り付けられた二次電池について、対向する負極活物質層上で金属リチウムの析出が抑制されることが望ましい。ここでは、上述した公報とは異なる、新しい方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここに開示される二次電池は、長尺なシート状の正極集電体および該正極集電体の表面に形成された正極活物質層を有する正極シートと、長尺なシート状の負極集電体および該負極集電体の表面に形成された負極活物質層を有する負極シートとが、セパレータを介在させつつ長手方向に捲回された捲回電極体、および、非水電解液、を備える。当該二次電池は、上記正極シートの上記長手方向の少なくとも一方の端部には、上記端部を覆い、かつ、上記正極活物質層の上に貼り付けられた絶縁テープと、上記絶縁テープの縁に沿って上記正極活物質層上に設けられた、電池反応に対して不活性な塗膜と、が設けられている。ここで、上記塗膜の厚みは、上記絶縁テープの縁から遠ざかるにつれて小さくなっている。
【0006】
上記二次電池が備える正極シートには、シート長手方向の少なくとも一方の端部に絶縁テープが貼り付けられており、該絶縁テープに沿った塗膜が設けられている。塗膜の厚みは、当該絶縁テープの縁から遠ざかるにつれて小さくなっている。これによって、対向する負極活物質層における金属リチウムの析出を抑制することができる。
【0007】
ここに開示される二次電池の好適な一態様では、上記絶縁テープと上記塗膜とを、上記正極シートの上記長手方向の両端に備える。かかる構成によると、ここで開示される技術の効果をよりよく実現することができる。
【0008】
ここに開示される二次電池の好適な他の一態様では、上記塗膜として、無機フィラーと樹脂バインダとを含むフィラー層、および/または、樹脂バインダから構成される樹脂層を備える。ここで開示される技術の効果は、塗膜としてフィラー層および/または樹脂層を備える二次電池において好適に実現され得る。
【0009】
ここに開示される二次電池の好適な他の一態様では、上記樹脂バインダは、アクリル樹脂およびハロゲン化ビニル樹脂からなる群から選択された少なくとも一種の樹脂材料によって構成されている。かかる構成によると、ここで開示される技術の効果が適切に実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る二次電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】一実施形態に係る二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【
図3】一実施形態に係る二次電池に用いられる正極シートの平面図である。
【
図4】一実施形態に係る二次電池に用いられる捲回電極体の積層構造を模式的に示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながらここに開示される技術の一実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。すなわち、ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0012】
なお、以下の説明で参照する図面では、同じ作用を奏する部材・部位に同じ符号を付している。さらに、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。そして、各図における符号Xは電極体20の「幅方向」を示し、符号Yは電極体20における正極シート50(負極シート60)の「長手方向」を示し、符号Zはシートの「積層方向」を示すものとする。ただし、これらの方向は、説明の便宜上定めたものであり、使用中や製造中の二次電池の設置態様を限定することを意図したものではない。また、本明細書において数値範囲を示す「A~B」の表記は、「A以上B以下」という意味と共に、「Aを上回り、かつ、Bを下回る」という意味も包含する。
【0013】
また、本明細書における「二次電池」とは、電解質を介して一対の電極(正極と負極)の間で電荷担体が移動することによって充放電反応が生じる蓄電デバイス一般をいう。かかる二次電池は、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池の他に、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなども包含する。また、本明細書における「活物質」は、電池反応を担う物質、具体的には、電荷担体となる化学種(リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出可能な化合物をいう。以下、扁平角形のリチウムイオン二次電池を例にして、ここで開示される技術の一実施形態を詳細に説明するが、ここで開示される技術をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。
【0014】
以下、
図1~4を参照しつつ、ここで開示される二次電池の構造について詳細に説明する。
図1は、一実施形態に係る二次電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
図2は、一実施形態に係る二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
図3は、一実施形態に係る二次電池に用いられる正極シートの平面図である。
図4は、一実施形態に係る二次電池に用いられる捲回電極体の積層構造を模式的に示す要部拡大断面図である。
【0015】
二次電池100は、
図1に示すように、扁平形状の捲回電極体20(以下、単に「電極体20」ともいう。)と非水電解液80とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。
【0016】
電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に、該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解液80を注入するための注入口(図示なし)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0017】
非水電解液80は、典型的には、非水溶媒および支持塩を含有する。非水溶媒および支持塩としては、この種の二次電池(ここではリチウムイオン二次電池)の電解液に用いられる各種の溶媒を特に制限なく使用することができる。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等のカーボネート類が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0018】
支持塩としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4等のリチウム塩(好ましくはLiPF
6)を用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下とするとよい。また、非水電解液80は、必要に応じて、ホウ素(B)原子および/またはリン(P)原子を含むオキサラト錯体化合物(例えば、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB))やジフルオロリン酸リチウム等の被膜形成剤;増粘剤;分散剤;等の従来公知の添加剤を含有してもよい。なお、
図1における非水電解液80の量は、電池ケース30内に注入される非水電解液80の量を厳密に示すものではない。
【0019】
電極体20は、
図1,2に示すように、長尺なシート状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向Yに沿って正極活物質層54が形成された正極シート50と、長尺なシート状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向Yに沿って負極活物質層64が形成された負極シート60とが、2枚の長尺なシート状のセパレータ70を介して重ね合わされて長手方向に回された形態を有する。なお、電極体20の捲回軸方向(即ち、上記長手方向に直交するシート幅方向X)の両端から外方にはみ出すように設けられた正極活物質層非形成部分52a(即ち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)と負極活物質層非形成部分62a(即ち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)には、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0020】
負極シート60を構成する負極集電体62としては、例えば銅箔等が挙げられる。負極活物質層64は、少なくとも負極活物質を含有する。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用でき、黒鉛が好ましい。負極活物質層64は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0021】
セパレータシート70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータシート70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0022】
正極シート50を構成する正極集電体52としては、例えばアルミニウム箔等が挙げられる。正極活物質層54は、少なくとも正極活物質を含有する。正極活物質としては、例えばリチウム遷移金属酸化物(例、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等)、リチウム遷移金属リン酸化合物(例、LiFePO4等)等が挙げられる。正極活物質層54は、活物質以外の成分、例えば導電材やバインダ等を含み得る。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0023】
図2,3に示すように、正極シート50の長手方向Yの少なくとも一方の端部には、絶縁テープ56と、塗膜58とが設けられている。正極シート50の長手方向Yの一方の端部は、正極シート50の巻き始めとなる第1端部521であり、電極体20の最も内側に位置する。第1端部521とは異なる他方の端部は、正極シート50の巻き終わりとなる第2端部522であり、第1端部521よりも外側に位置する。第1端部521および第2端部522は、いずれも、正極シート50の、電極体20の捲回方向の終端部である。
【0024】
本実施形態では、
図3に示すように、絶縁テープ56および塗膜58が第1端部521および第2端部522の両方に設けられているが、これに限定されず、第1端部521および第2端部522のいずれか少なくとも一方に設けられていればよい。以下、第1端部521に絶縁テープ56および塗膜58が設けられている場合について詳細に説明するが、第2端部522に設けられる場合についても基本的には同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0025】
図4に示すように、絶縁テープ56は、例えば、基材56aと、該基材の表面(典型的には、片面)に設けられた接着剤層56bを備えている。基材としては、特に限定するものではないが、絶縁性を有する種々の樹脂基材が挙げられる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル;ポリ塩化ビニル(PVC);ポリカーボネート(PC);ポリテトラフルオロエチレン(PTFE);ポリアミド(PA);ポリイミド(PI);ポリフェニレンサルファイド(PPS);等が挙げられる。接着剤層の構成材料としては、特に限定するものではないが、種々のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ゴム、シリコーン樹脂等の合成樹脂材料が挙げられる。
【0026】
絶縁テープ56は、第1端部521を覆い、かつ、正極活物質層54の上に貼り付けられている。ここで、「第1端部521を覆う」とは、第1端部521の全てを被覆して第1端部521を外部に露出させないことのみを意味するものではなく、第1端部521の断面積の少なくとも70%(例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上)を外部に露出させないことをも包含する。
【0027】
図3,4に示すように、絶縁テープ56は、正極シート50と対向する第1領域561と、正極シート50と対向しない第2領域562とを有している。第1領域561は、正極集電体52および正極活物質層54と対向しており、接着剤層56bを介して、これらに貼り付けられている。第2領域562では、積層方向Zにおいて、絶縁テープ56同士が対向している。即ち、第2領域562では、同方向において、基材56a同士が接着剤層56bを介して対向している。第1領域561および第2領域の幅は、いずれも特に限定されない。これらの幅は、絶縁テープ56を正極シート50(即ち、正極集電体52および正極活物質層54)上に適切に保持できる程度の幅に設定され得る。
【0028】
絶縁テープ56の厚みD2は、正極シート50の第1端部521に存在するバリを被覆し、バリによる短絡発生を防止できる程度の厚みに設定され得る。例えば、絶縁テープ56の厚みD2は、正極シート50の厚みの0.1倍~1倍に設定され得る。一例として、正極シート50の厚みが50μm~150μm(例えば100μm程度)、セパレータの厚みが10μm~30μm(例えば20μm程度)であるとき、絶縁テープ56の厚みD2を30μm~50μm(例えば40μm程度)とすることができる。
【0029】
絶縁テープ56を正極シート50に貼り付ける方法は、特に限定されない。例えば、2枚の絶縁テープ56を用意して、積層方向Zにおいて正極シート50を挟み込むようにして貼り付けてよい。あるいは、1枚の絶縁テープ56を用意して、これを折り曲げて、同方向において正極シート50を挟み込むようにして貼り付けてよい。
【0030】
ところで、二次電池(ここでは、リチウムイオン二次電池)の初期充電時に、負極活物質層上に、非水電解液に添加される被膜形成用の添加剤(被膜形成剤)に起因した被膜が形成される。上記被膜には、被膜形成剤に起因して、ホウ素(B)やリン(P)が含まれ得る。上記被膜は、イオン伝導性を持つ一方で、電子伝導性を持たない。上記被膜が形成されていることによって、負極活物質のLiイオンの挿入脱離をスムーズにするとともに電解液の過剰分解が抑制される。
図4に示された形態では、正極シート50の長手方向Yの第1端部521を覆うように正極活物質層54に絶縁テープ56が張り付けられている。この場合、正極活物質層54の絶縁テープ対向領域541の近傍である絶縁テープ非対向領域542では、正極シート50と負極シート60との極間距離W1は、他の部位よりも絶縁テープ56の厚みの分、増加する。なお、図中の符号W2は、上記絶縁テープ非対向領域542における極間距離を示している。
【0031】
つまり、絶縁テープ56によって生じた極間距離の差(W2-W1)の分、正極シート50と負極シート60との極間距離W1、つまり、正極シート50と負極シート60との間隙が広がる。その結果、上記絶縁テープ非対向領域542に対向する負極活物質層64上では局所的に上記被膜が過形成される。被膜が過形成される理由は、絶縁テープ非対向領域542における正極シート50と負極シート60との隙間が広くなった部位に、より多くの非水電解液が流入するためと、本発明者は推察している。この結果、負極活物質層64において被膜の形成ムラが発生し得る。上記被膜の過形成部位は他の領域よりも抵抗が高い領域(高抵抗領域)となり、局所的に正極電位が上昇し得る。そのため、正極活物質が溶出して、正極活物質層54に絶縁テープ56が貼り付けられた部位の近傍に対向する負極活物質層64の表面に正極活物質由来の金属が析出する。さらに当該析出部位では、金属リチウムが析出しやすくなる。このため、正極活物質層54に絶縁テープ56が張り付けられた部位の近傍に対向する負極活物質層64の表面に、負極活物質層64の表面に金属リチウムが析出する事象が生じ得る。発明者は、このように正極活物質層54に絶縁テープ56が貼り付けられたことに起因して金属リチウムが析出する事象が生じることを推察している。
【0032】
ここで開示された二次電池100では、
図3,4に示すように、絶縁テープ56の縁に沿って正極活物質層54上に塗膜58が設けられている。この実施形態では、塗膜58は、絶縁テープ56に密着するように設けられている。また、正極シート50の幅方向Xにおいて、塗膜58は、正極活物質層54の一方の端部から他方の端部まで、連続的に設けられている。また、塗膜58は、正極活物質層54上にのみ設けられており、正極集電体52上に設けられていない。
【0033】
図4に示すように、塗膜58の厚みD1は、絶縁テープ56の縁から遠ざかるにつれて小さくなっている。ここで、厚みD1は、電極体20の積層構造を示す断面視において、正極活物質層54の表面から塗膜58の上端までの距離である。塗膜58の厚みD1は、絶縁テープ56の縁から正極シート50の長手方向Yの中心に近づくにつれて、徐々に(なだらかに)小さくなるように設けられている。特に限定するものではないが、即ち、塗膜58の厚みD1の最大値は、正極活物質層54の形成面における絶縁テープ56の厚みD2と同じであってよい。即ち、塗膜58は、絶縁テープ56の上に存在しないように設けられ得る。
【0034】
塗膜58の形成幅L1は、絶縁テープ56の厚みD2をなだらかに吸収し、ここで開示される技術の効果を実現するように適宜設定することができる。例えば、塗膜58の形成幅L1は、絶縁テープの厚みD2の25倍~75倍程度とすることができる。一例として、正極シート50の厚みが100μm、セパレータの厚みが20μm、絶縁テープ56の厚みD2が40μmであるとき、塗膜の形成幅L1を1mm~3mm(例えば1.5mm程度)に設定するとよい。
【0035】
塗膜58は、電池反応に対して不活性である。ここで、「電池反応に対して不活性」とは、活物質としての機能を有さないことをいう。塗膜58は、少なくとも樹脂バインダを含み得る。これによって、塗膜58を形成するためのスラリーに、塗膜58を設けるために適切な粘性を付与することができる。一例として、塗膜58は、樹脂バインダから構成される樹脂層である。樹脂バインダとしては、絶縁性を有する樹脂を特に制限なく使用することができる。その具体例としては、アクリル樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂;ポリエチレンオキサイド(PEO)等のポリアルキレンオキサイド;スチレンブタジエンラバー(SBR);ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有樹脂;等が挙げられる。
【0036】
なお、塗膜58が樹脂層である場合、樹脂バインダからなる樹脂層であることが好ましいが、樹脂材料以外の不可避的不純物を含み得る。ここで、樹脂材料以外の不可避的不純物とは、樹脂層を構成する樹脂材料に含まれない種々の元素をいう。塗膜58における不純物の質量割合は、例えば2質量%未満であり、1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%未満であることがより好ましく、0質量%に近いほどよい。
【0037】
あるいは、塗膜58は、無機フィラーと樹脂バインダとを含むフィラー層であってよい。無機フィラーとしては、例えば絶縁性や耐熱性を有するものが使用される。かかる態様において、フィラー層は、「絶縁層」あるいは「耐熱層」と称されることがある。無機フィラーとしては、例えば、アルミナ(Al2O3)、マグネシア(MgO)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)等の酸化物;窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(SiN)等の窒化物;水酸化カルシウム(CaOH2)、水酸化マグネシウム(MgOH2)、水酸化アルミニウム(Al2OH3)等の水酸化物、マイカ、タルク、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン等の粘土鉱物;ガラス繊維;等が挙げられ、これらを単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、無機フィラーの形状は、特に限定されず、粒子状、繊維状、板状、フレーク状等であり得る。無機フィラーの平均粒子径は、特に限定されず、例えば0.1μm以上10μm以下(好ましくは0.5μm以上5μm以下)であり得る。無機フィラーの平均粒子径は、例えば、レーザ回折散乱法により求めることができる。樹脂バインダとしては、上述の樹脂バインダを使用することができる。
【0038】
なお、絶縁テープ56および塗膜58を第1端部521および第2端部522の両方に設ける態様において、両端における塗膜58の種類は同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、第1端部521および第2端部522の両方をフィラー層としてもよく、樹脂層としてもよい。あるいは、第1端部521をフィラー層、および第2端部522を樹脂層としてもよい。両端部におけるテープ56の種類や寸法関係等についても同様である。
【0039】
ここで開示される二次電池では、
図4に示すように、絶縁テープ56の縁に沿った電池反応に対して不活性な塗膜58が、正極活物質層54上に設けられている。塗膜58は、絶縁テープ56によって正極シート50と負極シート60との間で極間距離が広くなった部位の間隙を埋める。この結果、負極活物質層64において被膜の形成ムラが抑制され、負極活物質層64上の金属リチウムの析出量が抑制される。
【0040】
ここで開示される技術の一態様において、塗膜58はフィラー層であってもよい。塗膜58がフィラー層であれば、電解液が含浸する。このため、フィラー層を介した正負極間のリチウムイオンの移動は可能である。フィラー層(塗膜58)と対向する負極活物質層64に、リチウムイオンを供給することができ、当該フィラー層(塗膜58)と対向する負極活物質層64も電池反応に寄与し得る。また、正極活物質層54の上に塗膜58が形成された部位から正極活物質が溶出することが抑制されるので、負極活物質層64上の金属リチウムの析出が抑制される。また、他の一態様において、塗膜58は樹脂層であり得る。この場合、正極活物質層54の上に塗膜58が形成された部位から正極活物質が溶出することが抑制されるので、負極活物質層64上の金属リチウムの析出がより確実に抑制され得る。
【0041】
なお、特に限定するものではないが、負極活物質層64における被膜の分布状態は、例えば、レーザアブレーションICP質量分析(LA-ICP-MS)により調べることができる。例えば、負極活物質層に形成された被膜に含まれる元素(例えば、ホウ素(B)、リン(P)等)について、負極活物質層をライン分析することによって被膜の分布状態を分析することができる。LA-ICP-MS装置としては、例えばNEW WAVE RESERCH社製のUP213等、従来公知の装置を使用してよい。
【0042】
二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。また、二次電池100は、小型電力貯蔵装置等の蓄電池として使用することができる。二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【実施例】
【0043】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を下記実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0044】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
下記のとおり、例1~3に係る評価用二次電池を作製した。
-例1-
正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(LNCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、LNCM:AB:PVdF=87:10:3の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極活物質層形成用スラリーを調製した。また、アクリル樹脂を、固形分率が35%となるように水に分散させて、塗膜形成用スラリーを調製した。この正極活物質形成用スラリーを長尺なシート状のアルミニウム箔の両面に塗布した。その後、これを乾燥して正極活物質層を形成し、ロールプレスした。そして、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を所望のサイズにカットして、正極シートを作製した。
【0045】
この正極シートの両端部(即ち、カット部分)に、絶縁テープを正極活物質の上に貼り付け、さらに、該絶縁テープで上記両端部を覆った。次いで、シリンジを用いて、上記塗膜形成用スラリーを絶縁テープに沿うように滴下し、乾燥して塗膜(アクリル樹脂層)を形成した。
【0046】
負極活物質としての黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比でイオン交換水と混合して、負極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、長尺なシート状の銅箔の両面に塗布した。その後、これを乾燥して負極活物質層を形成し、ロールプレスした。そして、負極活物質層が形成された銅箔を所望のサイズにカットして、負極シートを作製した。
【0047】
セパレータシートとして、PP/PE/PPの三層構造の多孔質ポリオレフィンシートを用意した。
【0048】
上記で作製した正極シートと、負極シートと、2枚の上記用意したセパレータシートとを積層し、捲回した後、側面方向から押圧して拉げさせることによって扁平形状の捲回電 極体を作製した。次に、捲回電極体に正極端子および負極端子を接続し、電解液注入口を有する角型の電池ケースに収容した。続いて、電池ケースの電解液注入口から非水電解質を注入し、当該注入口を気密に封止した。なお、非水電解質には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とをEC:EMC:DMC=3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1.1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。このようにして評価用二次電池を作製した。
【0049】
-例2-
塗膜形成用スラリーとして、N-メチルピロリドン(NMP)中に質量割合が5質量%となるようにポリフッ化ビニリデン(PVDF)を溶解させたものを用意し、これを使用した。それ以外は例1と同様の材料および手順を用いて、例2に係る評価用二次電池を作製した。
【0050】
-例3-
塗膜形成を行わなかった以外は例1と同様の材料および手順を用いて、例3に係る評価用二次電池を作製した。
【0051】
<金属リチウム析出評価>
上記試験用二次電池を、所定条件の下で活性化処理を行い、初期容量を取得した。かかる初期容量は、4Ahであった。上記試験用二次電池に対して、さらにエージング処理を行った。これをSOC80%に調整した後、0℃の環境下に置いた。この二次電池に対し、10秒間の20Cでの定電流充電および20秒間の10Cでの定電流放電を1サイクルとする充放電サイクルを、1000サイクル繰り返した。なお、充電と放電との間に、3分間の休止時間を設けた。その後、試験用二次電池を解体し、負極を取り出し、正極シートに設けられた絶縁テープと対向する負極活物質層の端部の一部を切り出し、金属リチウム析出の有無を目視で確認するとともに、電子スピン共鳴法(ESR)による分析を行った。そして、3445G付近のピーク強度から析出したリチウム量を定量した。結果を表1に示す。なお、表1の「Li析出」欄における「なし」は、ESRの分析によっても金属リチウムが検出されなかったことを示している。
【0052】
【0053】
表1に示すように、正極の長手方向の端部に張り付けられた絶縁テープに沿って塗膜が形成された例1,2に係る評価用二次電池では、充放電サイクル後の金属リチウムの析出が抑制されていた。一方、上記塗膜が形成されていない例3に係る評価用二次電池では、充放電サイクル後に、負極において金属リチウムの析出が観察された。
【0054】
以上のことから、長尺なシート状の正極集電体および該正極集電体の表面に形成された正極活物質層を有する正極と、長尺なシート状の負極集電体および該負極集電体の表面に形成された負極活物質層を有する負極とが、セパレータを介在させつつ長手方向に捲回された捲回電極体、および、非水電解液、を備え、正極の長手方向の少なくとも一方の端部を覆い、かつ、正極活物質層の上に貼り付けられた絶縁テープと、絶縁テープの縁に沿って正極活物質層上に設けられた、電池反応に対して不活性な塗膜と、を備えており、ここで、塗膜の厚みは、絶縁テープの縁から遠ざかるにつれて小さくなっている、構成の二次電池では、負極活物質上の金属リチウムの析出が抑制されていることが確認された。
【0055】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される技術には上記の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、ここで開示される技術は、ナトリウムイオン二次電池にも適用することができる。
【0056】
上記実施形態では、図に示すように、塗膜58と絶縁テープ56とが密着している。塗膜58は、正極活物質層54の幅方向Xにおける一方の端部から他方の端部まで、連続的に設けられている。塗膜58が正極活物質層54上にのみ設けられている。しかし、ここで開示される技術は、これらに限定されない。即ち、ここで開示される技術の効果を実現し得る限り、塗膜58と絶縁テープ56との間には微小な隙間があってもよい。ここで開示される技術の効果を実現し得る限り、塗膜58の形成は連続的でなくてよい。正極活物質層54上であって絶縁テープ56の縁に沿う領域に、部分的に塗膜58の非形成領域があってよい。塗膜58は、正極集電体52(正極活物質層非形成部分52a)に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0057】
20 捲回電極体
30 電池ケース
42 正極端子
44 負極端子
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
54 正極活物質層
56 絶縁テープ
58 塗膜
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
64 負極活物質層
70 セパレータ
80 非水電解液
100 二次電池