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特許7285881フィルム巻回体、及び、フィルム巻回体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】フィルム巻回体、及び、フィルム巻回体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 18/28 20060101AFI20230526BHJP
【FI】
B65H18/28
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021090343
(22)【出願日】2021-05-28
(65)【公開番号】P2022182656
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 丈志
(72)【発明者】
【氏名】上地 将人
(72)【発明者】
【氏名】山本 省吾
(72)【発明者】
【氏名】前田 恵太
(72)【発明者】
【氏名】秦 紀明
(72)【発明者】
【氏名】品川 雅
(72)【発明者】
【氏名】灰田 信幸
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189051(JP,A)
【文献】特開2012-118238(JP,A)
【文献】特開2009-040964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 18/00- 18/28
G02B 5/30
B29C 53/00- 53/84
B29C 57/00- 59/18
B23K 26/00- 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻回された樹脂フィルムを備えたフィルム巻回体であって、
前記樹脂フィルムは、前記樹脂フィルムの幅方向の両端にナーリング部を有し、
前記ナーリング部は、相互に間隔を空けて規則的に配列された複数の単位ナールを備えており、
それぞれの前記単位ナールは、
前記樹脂フィルムの上面に形成され、上方に向かって突出する円周状の第1の凸部と、
前記樹脂フィルムの下面に形成され、下方に向かって突出する円周状の第2の凸部と、を含み、
平面視において、第2の凸部は、前記第1の凸部よりも内側に配置されていると共に、前記第1の凸部と同心円状に配置されているフィルム巻回体。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルム巻回体であって、
前記第2の凸部は、前記第1の凸部の高さよりも低い高さを有するフィルム巻回体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフィルム巻回体であって、
前記第1の凸部は、前記樹脂フィルムの上面に一重の円形形状を形成し、
前記第2の凸部は、前記樹脂フィルムの下面に一重の円形形状を形成しているフィルム巻回体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム巻回体であって、
前記樹脂フィルムの厚みは、20μm~50μmであり、
前記ナーリング部は、前記樹脂フィルムの縁部から2mm~30mmの範囲内に配置され、
前記ナーリング部における単位ナールの数密度は、8個/cm~100個/cmであり、
前記第1の凸部の直径は、40μmより大きく1500μm以下であり、
前記第2の凸部の直径は、40μm以上1500μm未満であり、
前記第1の凸部の高さは、4μm~6μmであり、
前記第1の凸部の高さの標準偏差は、3μm以下であり、
前記第2の凸部の高さは、2μm~4μmであり、
前記第2の凸部の高さの標準偏差は、2μm以下であるフィルム巻回体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のフィルム巻回体の製造方法であって、
樹脂フィルムの幅方向の両端に前記ナーリング部を形成する第1の工程と、
前記樹脂フィルムを巻回する第2の工程と、を備え、
前記第1の工程は、前記樹脂フィルムにレーザ光を照射し、前記レーザ光が円周状の走査経路に沿って走査することで、前記単位ナールを形成することを含むフィルム巻回体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のフィルム巻回体の製造方法であって、
前記レーザ光のスポット径は、前記走査経路の直径以上の大きさを有するフィルム巻回体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のフィルム巻回体の製造方法であって、
前記レーザ光の照射出力は、3W~30Wであり、
前記レーザ光の照射パルスは、5kHz~20kHzであり、
前記レーザ光のスポット径は、20μm~1000μmであり、
前記レーザ光の走査速度は、500mm/sec~10000mm/secであり、
前記レーザ光の走査経路の直径は、20μm~500μmであるフィルム巻回体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナーリング部を両端に有すると共に巻回された樹脂フィルムを備えたフィルム巻回体、及び、そのフィルム巻回体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光板の透明保護フィルム等に用いられる樹脂フィルムは、一般的に、溶融押出成形法等によって長尺のフィルムとして製造された後、ロール状に巻き取られてフィルム巻回体(フィルムロール)として保管及び輸送される。このフィルム巻回体の巻取りや輸送時に、巻きズレが発生してフィルム巻回体がテレスコープ状になってしまう場合がある。
【0003】
この巻きズレの発生を抑制するために、樹脂フィルムの端部にナーリング加工を施すことで、フィルム巻回体において樹脂フィルムの間に空気層を確保している。こうしたナーリング加工の一つとして、樹脂フィルムに向かってレーザ光を照射して、当該樹脂フィルムの表面を局所的に熱溶融させ又はアブレーションすることで、樹脂フィルムに凸部を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-021323号公報
【文献】特開2017-047978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のレーザ照射によって形成された凸部が低すぎると、樹脂フィルム間の空気層が狭くなり樹脂フィルム同士が接触してゲージバンドが発生してしまう。一方、当該凸部が高すぎると、樹脂フィルム間の空気層が広くなり、クニック欠点の原因となる座屈変形が経時的に発生してしまう。すなわち、上記のレーザ照射によって形成された凸部の高さがばらつくことで、ゲージバンドや座屈変形等の巻欠点がフィルム巻回体に発生してしまう場合がある、という問題がある。
【0006】
また、上記の凸部は樹脂フィルムの上面のみに形成されている。そのため、樹脂フィルムの巻取りの際に張力やタッチロールの押圧力が変動して強くなると、凸部が潰れて所定の高さを維持できなくなり、樹脂フィルム同士が接触してゲージバンドが発生してしまう場合がある、という問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、巻欠点の発生を抑制することができるフィルム巻回体、及び、そのフィルム巻回体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、円周状の凸部を樹脂フィルムの両面に形成することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、巻回された樹脂フィルムを備えたフィルム巻回体であって、前記樹脂フィルムは、前記樹脂フィルムの幅方向の両端にナーリング部を有し、前記ナーリング部は、相互に間隔を空けて規則的に配列された複数の単位ナールを備えており、それぞれの前記単位ナールは、前記樹脂フィルムの上面に形成され、上方に向かって突出する円周状の第1の凸部と、前記樹脂フィルムの下面に形成され、下方に向かって突出する円周状の第2の凸部と、を含み、平面視において、第2の凸部は、前記第1の凸部よりも内側に配置されていると共に、前記第1の凸部と同心円状に配置されているフィルム巻回体が提供される。
【0010】
また、本発明のフィルム巻回体において、前記第2の凸部は、前記第1の凸部の高さよりも低い高さを有していてもよい。
【0011】
また、本発明のフィルム巻回体において、前記第1の凸部は、前記樹脂フィルムの上面に一重の円形形状を形成し、前記第2の凸部は、前記樹脂フィルムの下面に一重の円形形状を形成していてもよい。
【0012】
また、本発明のフィルム巻回体において、前記樹脂フィルムの厚みは、20μm~50μmであり、前記ナーリング部は、前記樹脂フィルムの縁部から2mm~30mmの範囲内に配置され、前記ナーリング部における単位ナールの数密度は、8個/cm~100個/cmであり、前記第1の凸部の直径は、40μmより大きく1500μm以下であり、前記第2の凸部の直径は、40μm以上1500μm未満であり、前記第1の凸部の高さは、4μm~6μmであり、前記第1の凸部の高さの標準偏差は、3μm以下であり、前記第2の凸部の高さは、2μm~4μmであり、前記第2の凸部の高さの標準偏差は、2μm以下であってもよい。
【0013】
また、本発明によれば、上記のフィルム巻回体の製造方法であって、樹脂フィルムの幅方向の両端に前記ナーリング部を形成する第1の工程と、前記樹脂フィルムを巻回する第2の工程と、を備え、前記第1の工程は、前記樹脂フィルムにレーザ光を照射し、前記レーザ光が円周状の走査経路に沿って走査することで、前記単位ナールを形成することを含むフィルム巻回体の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明のフィルム巻回体の製造方法において、前記レーザ光のスポット径は、前記走査経路の直径以上の大きさを有していてもよい。
【0015】
また、本発明のフィルム巻回体の製造方法において、前記レーザ光の照射出力は、3W~30Wであり、前記レーザ光の照射パルスは、5kHz~20kHzであり、前記レーザ光のスポット径は、20μm~1000μmであり、前記レーザ光の走査速度は、500mm/sec~10000mm/secであり、前記レーザ光の走査経路の直径は、20μm~500μmであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂フィルムに形成された第1及び第2の凸部が円周形状をそれぞれ有しているので、レーザ照射により単位ナールを形成する際に、レーザ光の照射量が局所的に変動する箇所がない。このため、単位ナールの高さばらつきを低減することができ、フィルム巻回体における巻欠点の発生を抑制することができる。
【0017】
また、本発明によれば、樹脂フィルムの上下両面に第1及び第2の凸部が形成されているので、巻き重ねられた樹脂フィルムの間に多くの接点が介在している。このため、樹脂フィルムの巻取りの際に張力やタッチロールの押圧力が変動して強くなった場合であっても、第1及び第2の凸部が潰れて低くなってしまうのを抑制することができ、フィルム巻回体における巻欠点の発生を抑制することができる。
【0018】
しかも、本発明によれば、平面視において、第2の凸部が第1の凸部よりも内側に配置されていると共に、当該第2の凸部が第1の凸部と同心円状に配置されており、第1の凸部の裏側に当該第1の凸部と重なるように第2の凸部が配置されている。このため、樹脂フィルムの巻取りの際に張力やタッチロールの押圧力が変動して強くなり、第1又は第2の凸部の一方が押し込まれた場合であっても、第2又は第1の凸部の他方がその押し込みに対して抵抗するので、第1及び第2の凸部が潰れて低くなってしまうのを一層抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態におけるフィルム巻回体を示す斜視図である。
図2図2は、本発明の実施形態におけるフィルム巻回体の樹脂フィルムを示す平面図であり、図1のII部の拡大図である。
図3図3(a)は、本発明の実施形態における単位ナールを示す平面図であり、図2のIIIA部の拡大図であり、図3(b)は、本発明の実施形態における単位ナールを示す断面図であり、図3(a)のIIIB-IIIB線に沿った断面図である。
図4図4は、本発明の実施形態におけるフィルム巻回体の製造工程を示す斜視図である。
図5図5(a)及び図5(b)は、本発明の実施形態におけるレーザ光のスポット径と走査パターンの半径との関係を示す図であり、図5(a)は、平面図であり、図5(b)は、図5(a)のVB-VB線に沿った断面図である。
図6図6(a)は、本発明の実施形態におけるフィルム巻回体の樹脂フィルムの積層部を示す断面図であり、図6(b)は、比較例におけるフィルム巻回体の樹脂フィルムの積層部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は本実施形態におけるフィルム巻回体1を示す斜視図である。図2は本実施形態におけるフィルム巻回体1の樹脂フィルム20を示す平面図であり、図1のII部の拡大図である。
【0022】
本実施形態におけるフィルム巻回体1は、図1に示すように、円柱状の巻き芯10と、当該巻き芯10に巻回された樹脂フィルム20と、を備えている。このフィルム巻回体1は、後述するように、巻き芯10を中心として長尺の樹脂フィルム20を巻き重ねることで形成されており、巻回された樹脂フィルム20はフィルム巻回体1において積層部(図6(a)参照)を構成している。
【0023】
このフィルム巻回体1は、最終製品とする前に樹脂フィルム20を一時的に巻き取ることで得られる中間製品ロールである。そして、この中間製品ロールから樹脂フィルム20を巻き出してスリット加工等の必要な加工を施すことで、最終製品が製造される。
【0024】
このフィルム巻回体1の樹脂フィルム20の用途としては、特に限定されないが、例えば、液晶表示装置等の画像表示装置用の光学フィルムを例示することができ、より具体的には、透明保護フィルム、偏光フィルム、輝度向上フィルム、光拡散フィルム、集光フィルム、及び、反射フィルム等を例示することができる。特に、本実施形態の樹脂フィルム20は、偏光板を構成するために偏光子に積層される透明保護フィルムとして用いることが好ましい。
【0025】
この樹脂フィルム20は、特に限定されないが、後述のレーザ加工により樹脂フィルム20の両面に凸部41,42を同時に形成することから、20μm~50μmの厚さT図3(b)参照)を有していることが好ましい(20μm≦T≦50μm)。また、この樹脂フィルム20は、特に限定されないが、300mm~2500mmの幅Wを有している(300mm≦W≦2500mm)。
【0026】
この樹脂フィルム20は、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、及び、等方性などに優れた熱可塑性樹脂から構成されている。この樹脂フィルム20を構成する熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、特許第5578759号に記載されているような樹脂を例示することができ、例えば、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、及び、ポリビニルアルコール樹脂、並びに、これらの混合物を挙げることができる。特に、樹脂フィルム20を偏光板用の透明保護フィルムとして用いる場合には、樹脂フィルム20を(メタ)アクリル樹脂で構成することが好ましい。
【0027】
この樹脂フィルム20の製法としては、特に限定されないが、溶融押出成形法、キャスティング法、及び、カレンダー法等の公知の製法を採用することができる。溶融押出成形法としてTダイキャスト法及びインフレーション法が挙げられるが、生産性等の観点からTダイキャスト法を用いて樹脂フィルム20を製造することが好ましい。
【0028】
本実施形態の樹脂フィルム20は、当該樹脂フィルム20の幅方向に両端にナーリング部31,32を備えている。それぞれのナーリング部31,32は、後述するレーザ加工により形成された複数の単位ナール40から構成されている。
【0029】
一方のナーリング部31は、樹脂フィルム20の一方の端部20aに沿って延在している帯状の領域である。より具体的には、図2に示すように、このナーリング部31は、第1の仮想直線VLと第2の仮想直線VLによって規定される帯状の領域である。ここで、第1の仮想直線VLは、樹脂フィルム20の幅方向において一方の端部20aから最も近くに位置する単位ナール40の外周上を通過し、且つ、当該端部20aに平行に延在する仮想上の直線である。また、第2の仮想直線VLは、樹脂フィルム20の幅方向において一方の端部20aから最も遠くに位置する単位ナール40の外周上を通過し、且つ、当該端部20aに平行に延在する仮想上の直線である。
【0030】
他方のナーリング部32は、樹脂フィルム20の他方の端部20bに沿って帯状に延在している領域である。より具体的には、特に図示しないが、このナーリング部32も、第3の仮想直線と第4の仮想直線によって規定される帯状の領域である。ここで、第3の仮想直線は、樹脂フィルム20の幅方向において他方の端部20bから最も近くに位置する単位ナール40の外周上を通過し、且つ、当該端部20bに平行に延在する仮想上の直線である。また、第4の仮想直線は、樹脂フィルム20の幅方向において当該端部20bから最も遠くに位置する単位ナール40の外周上を通過し、且つ、当該端部20aに平行に延在する仮想上の直線である。
【0031】
一方のナーリング部31は、樹脂フィルム20の一方の端部20aから所定の範囲内に設けられている。同様に、他方のナーリング部32も、樹脂フィルム20の他方の端部20bから所定の範囲内に設けられている。この所定範囲は、2mm以上であることが好ましく、30mm以下であることが好ましい。ナーリング部31,32の幅が狭すぎるとその効果を十分に発揮し得ない場合があり、ナーリング部31,32の幅が広すぎると樹脂フィルム20の歩留まりが低下してしまう場合がある。
【0032】
図3(a)は本実施形態における単位ナール40を示す平面図であり、図2のIIIA部の拡大図である。図3(b)は本実施形態における単位ナール40を示す断面図であり、図3(a)のIIIB-IIIB線に沿った断面図である。
【0033】
それぞれの単位ナール40は、後述するように、樹脂フィルム20の上面21にレーザ光121を照射することで、当該樹脂フィルム20を局所的に熱溶融させ又はアブレーションすることで形成されている。このため、図3(a)及び図3(b)に示すように、それぞれの単位ナール40は、樹脂フィルム20の上面21に形成された上側凸部41を含んでいる。この上側凸部41は、樹脂フィルム20の上面21において周囲よりも上方に向かって突出していると共に、平面視において一重の円周状(円環状)の形状を有しており、当該上側凸部41の内側には、円形状の窪んだ上側凹部411のみが存在している。
【0034】
なお、図3(a)に示す例では、上側凸部41の円周形状が真円であるが、当該上側凸部41の円周形状は、特にこれに限定されない。すなわち、この上側凸部41の円周形状には、角を有しない丸い環状形状であって、長径に対する短径の比率が80%以上の形状であれば、真円の他に、楕円、長円(半円同士を一対の直線で接続した形状)、及び、角を丸めた多角形等も含まれる。
【0035】
また、本実施形態では、後述のようにレーザ光を隙間なく円周状に走査させることで単位ナール40を形成するので、それぞれの単位ナール40は、樹脂フィルム20の下面22に形成された下側凸部42を含んでいる。この下側凸部42は、樹脂フィルム20の下面22において周囲よりも下方に向かって突出していると共に、平面視において一重の円周状(円環状)の形状を有しており、当該下側凸部42の内側には、円形状の窪んだ下側凹部421のみが存在している。
【0036】
なお、図3(a)に示す例では、下側凸部42の円周形状が真円であるが、当該下側凸部42の円周形状は、特にこれに限定されない。すなわち、この下側凸部42の円周形状には、角を有しない丸い環状形状であって、長径に対する短径の比率が80%以上の形状であれば、真円の他に、楕円、長円(半円同士を一対の直線で接続した形状)、及び、角を丸めた多角形等も含まれる。
【0037】
また、この下側凸部42は、平面視において、上側凸部41よりも内側に配置されていると共に、当該上側凸部41と同心円状に配置されている。すなわち、下側凸部42は、上側凸部41の裏側に当該上側凸部41と重なるように配置されている。
【0038】
上側凸部41の高さHは、特に限定されないが、4μm~6μmであることが好ましく(4μm≦H≦6μm)、当該上側凸部41の高さHの標準偏差σは、3μm以下であることが好ましい(σ≦3μm)。上側凸部41の高さHが上記の範囲内にあると共に、当該上側凸部41の高さHの標準偏差σが上記の上限値以下であることで、上側凸部41の高さHのばらつきを抑制することができ、ゲージバンドや座屈変形等の巻欠点の発生を抑制することができる。
【0039】
これに対し、下側凸部42の高さHは、特に限定さないが、2μm~4μmであることが好ましく(2μm≦H≦4μm)、当該下側凸部42の高さHの標準偏差σは、2μm以下であることが好ましい(σ≦2μm)。下側凸部42の高さHが上記の範囲内にあると共に、当該下側凸部42の高さHの標準偏差σが上記の上限値以下であることで、下側凸部42の高さHのばらつきを抑制することができ、ゲージバンドや座屈変形等の巻欠点の発生を抑制することができる。
【0040】
本実施形態では、下側凸部42の高さHが、上側凸部41の高さHよりも低くなっている(H<H)。このため、樹脂フィルム20の巻取りの際に張力やタッチロール110の押圧力が変動して強くなり、上側凸部41が押し込まれた場合であっても、下側凸部42の高さHでその押し込みに対して抵抗するので、上側凸部41が下側凸部42の高さ以上に潰れてしまうのを抑制することができる。
【0041】
ここで、上側凸部41の高さHは、上側基準面からの高さである。この上側基準面は、樹脂フィルム20の上面21において、測定対象である上側凸部41の中心をその中心とすると共に、当該上側凸部41の中心と他の上側凸部41の中心との間の中点を通過する仮想円周の平均の高さである。ここで、他の上側凸部41は、樹脂フィルム20の上面21において、測定対象である上側凸部41の最も近くに位置している上側凸部41である。
【0042】
同様に、下側凸部42の高さHは、下側基準面からの高さである。この下側基準面は、樹脂フィルム20の下面22において、測定対象である下側凸部42の中心をその中心とすると共に、当該下側凸部42の中心と他の下側凸部42の中心との間の中点を通過する仮想円周の平均の高さである。ここで、他の下側凸部42は、樹脂フィルム20の下面22において、測定対象である下側凸部42の最も近くに位置している下側凸部42である。
【0043】
この上側及び下側凸部41,42の高さH,Hは、光干渉方式の光学測定器(例えば、株式会社キーエンス製:WI-5000)を用いて測定することが好ましい。こうした非接触方式の測定器を用いることで、測定時に上側及び下側凸部41,42が潰れてしまうのを回避することができる。
【0044】
また、上側凸部41の高さHの標準偏差σは、特に限定されないが、樹脂フィルム20の上面21において当該樹脂フィルム20の長手方向に沿って50mmの範囲内に存在する全ての上側凸部41の高さHを測定することで算出してもよい。同様に、下側凸部42の高さHの標準偏差σも、特に限定されないが、樹脂フィルム20の下面22において当該樹脂フィルム20の長手方向に沿って50mmの範囲内に存在する全ての下側凸部42の高さHを測定することで算出してもよい。
【0045】
上側凸部41の直径Dは、特に限定されないが、40μmより大きく1500μm以下であることが好ましい(40μm<D≦1500μm)。下側凸部42の直径Dは、特に限定されないが、40μm以上1500μm未満であることが好ましい(40μm≦D<1500μm)。上側及び下側凸部41,42の直径D,Dが上記の範囲外にある場合には、ナーリング部31,32がその効果を十分に発揮し得ない場合がある。
【0046】
なお、上側凸部41の直径Dは、図3(a)及び図3(b)に示すように、当該上側凸部41の径方向において最も高い点を周方向に連ねて構成される円周状の稜線RLの直径である。同様に、下側凸部42の直径Dは、当該下側凸部42の径方向において最も高い点を周方向に連ねて構成される円周状の稜線RLの直径である。
【0047】
一方のナーリング部31は、図2に示すように、以上に説明した複数の単位ナール40を相互に間隔を空けて規則的に配列することで構成されている。具体的には、このナーリング部31において、樹脂フィルム20の幅方向に沿って4つの単位ナール40が第1のピッチPで等間隔に並べられることで、一つの単位ナール列45が形成されている。そして、複数の単位ナール列45が樹脂フィルム20の長手方向に沿って第2のピッチPで等間隔に並べられている。樹脂フィルム20の長手方向に沿って相互に隣り合う単位ナール列45同士は、樹脂フィルム20の幅方向において、第1のピッチPの半分に相当する第3のピッチP分ずれて配置されており、複数の単位ナール列45は互い違いに配置されている。すなわち、本実施形態では、複数の単位ナール40が千鳥状に配置されることで、一方のナーリング部31が構成されている。
【0048】
特に図示しないが、他方のナーリング部32も、上述の一方のナーリング部31と同様に、複数の単位ナール40を相互に間隔を空けて規則的に配列することで形成されている。具体的には、本実施形態では、複数の単位ナール40が千鳥状に配置されることで、他方のナーリング部32が構成されている。
【0049】
ナーリング部31,32における単位ナール40の数密度NDは、特に限定されないが、8個/cm~100個/cmであることが好ましい(8個/cm≦ND≦100個/cm)。単位ナール40の数密度NDが上記の下限値よりも小さいと、ナーリング部31,32の効果を十分に発揮し得ない場合がある。一方で、単位ナール40の数密度NDが上記の上限値を超えていると、ナーリング部31,32で樹脂フィルム20の破断が発生しやすくなる場合がある。
【0050】
なお、ナーリング部31,32を構成する単位ナール40の数は、特に上記に限定されない。また、ナーリング部31,32における単位ナール40の配置も、複数の単位ナール40が相互に間隔を空けて規則的に配列されているのであれば、特に上記に限定されない。例えば、複数の単位ナール40を格子状(マトリクス状)に配置することでナーリング部31,32を構成してもよい。
【0051】
次に、以上に説明したフィルム巻回体1の製造方法について、図4図6(b)を参照しながら説明する。
【0052】
図4は本実施形態におけるフィルム巻回体1の製造工程を示す斜視図である。図5(a)及び図5(b)は本実施形態におけるレーザ光121のスポット径SDと走査パターン123の半径PDとの関係を示す図であり、図5(a)は平面図であり、図5(b)は図5(a)のVB-VB線に沿った断面図である。図6(a)は本実施形態におけるフィルム巻回体1の樹脂フィルム20の積層部を示す断面図であり、図6(b)は比較例におけるフィルム巻回体1’の樹脂フィルム20’の積層部を示す断面図である。
【0053】
上述したフィルム巻回体1は、樹脂フィルム20の幅方向の両端20a.20bにナーリング部31,32を形成するナーリング工程と、ナーリング部31,32が形成された樹脂フィルム20を巻回する巻回工程と、を備えた製造方法によって製造される。なお、Tダイキャスト法等を用いて樹脂フィルム20をフィルム状に成形した成形工程からナーリング工程に当該樹脂フィルム20が連続的に供給されてもよい。
【0054】
具体的には、図4に示すように、巻取装置(不図示)により巻き芯10を回転させて、長尺の樹脂フィルム20を当該樹脂フィルム20の長手方向に沿って連続的に搬送し、タッチロール110によって押さえ付けながら樹脂フィルム20を巻き芯10に巻き付ける。また、樹脂フィルム20がタッチロール110に接触する前に、レーザ照射装置120によって樹脂フィルム20の上面21に向かってレーザ光121を照射することで、当該樹脂フィルム20の幅方向の両端20a.20bにナーリング部31,32を形成する。
【0055】
なお、本実施形態では、樹脂フィルム20をタッチロール110に向かって搬送しながら、当該樹脂フィルム20に対してレーザ光121を照射して単位ナール40を形成するが、特にこれに限定されない。例えば、レーザ光121を照射して単位ナール40を形成するために、その都度、樹脂フィルム20の搬送を停止させてもよい。
【0056】
本実施形態では、ナーリング工程において、レーザ照射装置120によってレーザ光121の円形のスポット122を照射すると共に、当該レーザ光121を円周状の走査経路123に沿って走査することで、上述した上側及び下側凸部41,42を含む単位ナール40を形成する。なお、レーザ光の走査は、ガルバノスキャンやXYステージスキャン等による方法を用いることができる。
【0057】
このように、本実施形態では、樹脂フィルム20に形成された上側及び下側凸部41,42が角部や端部を持たない円周形状を有しており、レーザ光121の走査経路123が円周状であるので、レーザ光121の照射量が局所的に変動してしまう箇所がない。このため、単位ナール40の高さばらつきを低減することができ、フィルム巻回体2への巻欠点の発生を抑制することができる。特に、(メタ)アクリル樹脂からなるフィルムは残留応力により経時的に変形しやすいため、樹脂フィルム20を(メタ)アクリル樹脂で構成する場合には特に有効である。
【0058】
このナーリング工程において、図5(a)及び図5(b)に示すように、レーザ光121のスポット122は真円形状を有していることが好ましく、当該レーザ光121のスポット径SDは、20μm~1000μmであることが好ましい(20μm≦SD≦1000μm)。これに対し、レーザ光121の走査経路123も真円形状を有していることが好ましく、当該走査経路123の直径PDも、20μm~500μmであることが好ましい(20μm≦PD≦500μm)。また、レーザ照射装置120によるレーザ光121の走査速度は、500mm/sec~10000mm/secであることが好ましい。なお、レーザ光121の走査経路123の直径PDとは、樹脂フィルム20の上面21において移動するレーザ光121のスポット122の中心LCの軌跡の直径を意味する。
【0059】
なお、図5(a)に示す例では、レーザ光121の走査経路123の円周形状が真円であるが、当該走査経路123の円周形状は、特にこれに限定されない。すなわち、この走査経路123の円周形状には、角を有しない丸い環状形状であって、長径に対する短径の比率が80%以上の形状であれば、真円の他に、楕円、長円(半円同士を一対の直線で接続した形状)、及び、角を丸めた多角形等も含まれる。
【0060】
このように、本実施形態では、レーザ光121のスポット径SDが走査経路123の直径PD以上の大きさを有している(SD≧PD)。このため、図5(a)及び図5(b)に示すように、走査経路123に沿って移動するレーザ光121のスポット122の軌跡が当該走査経路123の中心部において重複し或いは接触しており、レーザ光121を隙間なく円周状に走査させることができる。このように、当該レーザ光121の軌跡が隙間を有しない円形形状となるので、樹脂フィルム20の上面21においてレーザ光121を集中させることができる。なお、本実施形態では、走査経路123に沿ってレーザ光121のスポット122を一周だけ移動させているが、特にこれに限定されず、レーザ光121のスポット122を走査経路123に沿って複数周移動させてもよい。
【0061】
このようにレーザ光121のスポット径SDを走査経路123の直径PD以上にして樹脂フィルム20の上面21においてレーザ光121を集中させることで、図5(b)に示すように、樹脂フィルム20の上下両面21,22において、レーザ光121が照射された箇所の樹脂材料が流動化して外側に押し出される。これにより、内側に上側凹部411を有する上側凸部41が樹脂フィルム20の上面21に形成されると同時に、内側に下側凹部421を有する下側凸部42が樹脂フィルム20の下面22に形成される。すなわち、樹脂フィルム20の上面21へのレーザ光121の一度の照射により、上側凸部41と下側凸部42とを同時に形成することができる。また、流動化した上側及び下側凹部411,421の部分の樹脂材料を外周側に寄せることができるので、上側及び下側凸部41,42の高さを効率的に得ることができる。
【0062】
この際、レーザ光121が樹脂フィルム20の上面21に照射されるため、下側凸部42が上側凸部41よりも内側に配置されると共に、下側凸部42の高さHが上側凸部41の高さHよりも低くなる(H<H)。また、レーザ照射により上側及び下側凸部41,42を同時に形成するので、下側凸部42が上側凸部41と同心円状に配置されている。すなわち、上側凸部41と下側凸部42とが一度のレーザ照射により同時に形成されるため、平面視における上側凸部41と下側凸部42の位置関係が高い精度で規定される。
【0063】
レーザ光121の具体例としては、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、及び、XeClエキシマレーザ等のエキシマレーザ、YAGレーザ、YLFレーザ、YVOレーザ、及び、チタンサファイアレーザ等の固体レーザ、半導体レーザ、ファイバーレーザ、並びに、炭酸ガスレーザ等を用いることができる。高出力による生産性向上の観点から、レーザ光121として炭酸ガスレーザを用いることが好ましい。
【0064】
また、レーザ照射装置120によるレーザ光121の照射出力は、3W~30Wであることが好ましい。さらに、レーザ照射装置120によるレーザ光121の照射パルスは、5kHz~20kHzであることが好ましい。
【0065】
そして、ナーリング部31,32が形成された樹脂フィルム20は、その長手方向に搬送されて、タッチロール110により押し付けられながら巻回される。なお、タッチロール110に代えて或いはタッチロール110に加えて、樹脂フィルム20を押し付けないニアロールを用いてもよい。或いは、タッチロール110及びニアロールを用いずに樹脂フィルム20を巻回してもよい。
【0066】
この際、図6(b)に示すように、下側凸部を備えていない比較例のフィルム巻回体1’では、樹脂フィルム20’の巻取りの際に張力やタッチロールの押圧力が変動して強くなると、上側凸部41’が潰れて所定の高さを維持できなくなり、樹脂フィルム20’同士が接触してゲージバンドが発生してしまう場合がある。
【0067】
これに対し、本実施形態では、図6(a)に示すように、樹脂フィルム20の上面21に上側凸部41が形成されていることに加えて、当該樹脂フィルム20の下面22にも下側凸部42が形成されており、巻き重ねられた樹脂フィルムの間に多くの接点が介在している。このため、樹脂フィルム20の巻取りの際に張力やタッチロール110の押圧力が変動して強くなった場合であっても、上側及び下側凸部41,42が潰れて低くなってしまうのを抑制することができるので、フィルム巻回体1への巻欠点の発生を抑制することができる。
【0068】
さらに、本実施形態では、平面視において、下側凸部42が上側凸部41よりも内側に配置されていると共に、当該下側凸部42が上側凸部41と同心円状に配置されており、上側凸部41の裏側に当該上側凸部41と重なるように下側凸部42が配置されている。このため、樹脂フィルム20の巻取りの際に張力やタッチロール110の押圧力が変動して強くなり、上側凸部41が押し込まれた場合であっても、下側凸部42がその押し込みに対して抵抗するので、上側及び下側凸部41,42が潰れて低くなってしまうのを一層抑制することができる。
【0069】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0070】
1…フィルム巻回体
10…巻き芯
20……樹脂フィルム
21…上面
22…下面
31,32…ナーリング部
40…単位ナール
41…上側凸部
411…上側凹部
42…下側凸部
421…下側凹部
45…単位ナール列
110…タッチロール
120…レーザ照射装置
121…レーザ光
122…スポット
123…走査経路
図1
図2
図3
図4
図5
図6