(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】ガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/08 20060101AFI20230526BHJP
【FI】
F16J15/08 H
F16J15/08 M
(21)【出願番号】P 2021530561
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2020023924
(87)【国際公開番号】W WO2021005995
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019127758
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】今井 勝磨
(72)【発明者】
【氏名】大澤 浪益
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-038012(JP,A)
【文献】特開2007-100895(JP,A)
【文献】特開2006-125436(JP,A)
【文献】特開2003-042295(JP,A)
【文献】特開平09-292027(JP,A)
【文献】特開平08-035560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封対象の接合部の間に設けられるガスケットであって、
金属板により形成されている基板と、
前記基板に形成されている開口部と、
前記基板における外周縁部と前記開口部との間の領域に複数設けられていて、前記基板を前記接合部の間に取り付けるための締付部材が挿通される挿通孔と、
前記基板の端部側に設けられている前記挿通孔の外周部分に前記基板から厚み方向凸状に形成されてい
て、前記密封対象の、前記締付部材による締付時の変形を抑制する変形抑制ビード部と、
を備え、
前記変形抑制ビード部は、
前記挿通孔の外周部分において円弧状に形成され、その
円弧の中心が前記挿通孔の中心と前記基板の面方向において異なる位置に設けられてい
ることにより前記円弧状の一部が前記挿通孔によって切断除去されたような形状をしているガスケット。
【請求項2】
前記変形抑制ビード部は、前記基板の長手方向及び短手方向の両端側に設けられている前記挿通孔の外周部分に設けられている、
請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
前記変形抑制ビード部は、その長さを調整することにより生じる弾性力が調整可能である、
請求項1または2に記載のガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関のエンジンにおいて、密封対象の一例であるシリンダブロックとシリンダヘッドとの接合部の間に介在させるガスケットが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリンダヘッドは、ボルトなどの締付部材を用いてシリンダヘッドに取り付けられる際に、締付部材の締付力によって変形する。気筒が直列に配列されている多気筒エンジンにおいて、締付力によるシリンダヘッドの変形量は、シリンダブロックにおける気筒の配列方向において中心側の変形量が両端部の変形量よりも大きくなってしまう。この場合において、シリンダヘッドには撓みが発生していた。エンジンにおいて、締付力によりシリンダヘッドに撓みなどの変形が生じることは、上記接合部のシール性の低下、フリクションの増大などの不具合の要因となっていた。
【0005】
ここで、締付力によるシリンダヘッドの変形を抑制するための技術として、シリンダブロックとシリンダヘッドとの接合部の間にガスケットとともにシム部材を介在させることが知られていた。しかしながら、このような技術では、シリンダヘッドの変形を抑制するために、ガスケットに加えてシム部材を必要とするため、コストの上昇を招き、エンジン生産時におけるシム部材の配置に技術を要していた。
【0006】
また、特許文献1は、締付力によるシリンダヘッドの変形を抑制するための技術として、両端部側の気筒の外側にビード部を設けていた。しかし、特許文献1の技術は、ビード部を設ける位置に制約があるため、特にオープンデッキ型のエンジンに用いることが難しかった。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構造で密封対象の変形を抑制するガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るガスケットは、密封対象の接合部の間に設けられ、金属板により形成されている基板と、前記基板に形成されている開口部と、前記基板における外周縁部と前記開口部との間の領域に複数設けられていて、前記基板を前記接合部の間に取り付けるための締付部材が挿通される挿通孔と、前記挿通孔の外周部分に設けられていて、前記基板の厚み方向凸状に形成されている変形抑制ビード部と、を備える。
【0009】
本発明の一態様に係るガスケットにおいて、前記変形抑制ビード部は、前記挿通孔の外周部分において円弧状に形成されている。
【0010】
本発明の一態様に係るガスケットにおいて、前記変形抑制ビード部は、弧の中心が前記挿通孔の中心と前記基板の面方向において異なる位置に設けられている。
【0011】
本発明の一態様に係るガスケットにおいて、前記変形抑制ビード部は、前記基板の長手方向及び短手方向の両端側に設けられている前記挿通孔の外周部分に設けられている。
【0012】
本発明の一態様に係るガスケットにおいて、前記変形抑制ビード部は、弧長を調整することにより生じる弾性力が調整可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るガスケットによれば、簡易な構造で密封対象の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係るガスケットの概略構成を示すための平面図である。
【
図2】
図1に示すガスケットが装着されているエンジンを示す側面図である。
【
図3】
図1に示すガスケットの挿通孔及び変形抑制ビード部を示すための拡大平面図である。
【
図4】
図3に示す挿通孔及び変形抑制ビード部のB-B断面図である。
【
図5】
図1に示すガスケットの挿通孔及び変形抑制ビード部の変形例を示すための拡大平面図である。
【
図6】
図5に示す挿通孔及び変形抑制ビード部のC-C断面図である。
【
図7】参考例に係るガスケットの概略構成を示すための平面図である。
【
図8】
図7に示すガスケットが装着されているエンジンを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係るガスケット10の概略構成を示すための平面図である。
図2は、ガスケット10が装着されているエンジン100を示す側面図である。
【0017】
以下、説明の便宜上、
図2に示すエンジン100のシリンダブロック110とシリンダヘッド120の積層方向をz軸方向とする。z軸方向は、ガスケット10の厚み方向でもある。また、z軸方向に垂直な方向であり、エンジン100の気筒の配列方向であるシリンダブロック110及びシリンダヘッド120の長手方向をx軸方向とする。さらに、z軸方向及びx軸方向に垂直な方向であり、シリンダブロック110及びシリンダヘッド120の短手方向をy軸方向とする。x軸方向及びy軸方向は、ガスケット10の面方向でもある。以下の説明において、
図2に示すようにシリンダヘッド120と面する側をガスケット10の上側とし、上側面の反対側の面でありシリンダブロック110と面する側をガスケット10の下側とする。また、以下の説明において、
図1に示すようにx軸方向またはy軸方向においてガスケット10の中心から離れる側を外側、ガスケット10の中心に向かう側を内側とする。以下の説明において、各部材の位置関係や方向を上側又は下側として説明するときは、あくまで図面における位置関係や方向を示し、実際の車両等に組み込まれたときの位置関係や方向を示すものではない。
【0018】
図2に示すように、ガスケット10は、例えば、密封対象である内燃機関のエンジン100のシリンダブロック110及びシリンダヘッド120の空間である接合部130のような種々の2部材間の隙間を密封する役割を担っている。なお、ガスケット10が適用される対象は、上記に限られない。ガスケット10が適用される対象は、例えば、排気マニホールド及び排気管の接合部、電装ユニット(モーター、インバータ、コンバータ、PCUなど)等であってもよい。
【0019】
図1及び
図2に示すように、ガスケット10は、密封対象の一例としてのシリンダブロック110とシリンダヘッド120との接合部130の間に設けられ、金属板により形成されている基板11と、基板11に形成されている開口部12とを備える。また、ガスケット10は、基板11における外周縁部111と開口部12との間の領域に複数設けられていて、基板11を接合部130の間に取り付けるための締付部材としてのボルト140が挿通される挿通孔13とを備える。さらに、ガスケット10は、挿通孔13の外周部分に設けられていて、基板11から厚み方向凸状に形成されている変形抑制ビード部14、を備える。以下、ガスケット10の構成について、具体的に説明する。
【0020】
図1に示すように、ガスケット10において、基板11は、外周縁部111の形状、すなわち外形が、長方形状または略長方形状に形成されている。基板11は、開口部12、挿通孔13、変形抑制ビード部14を有する。
【0021】
開口部12は、基板11において、エンジン100の気筒の数、位置、及び形状に対応して、例えば丸孔形状に形成されている。開口部12は、基板11において、x軸方向に例えば4個配列されて形成されている。ガスケット10において、開口部12の数、位置、及び形状は限定されない。
【0022】
挿通孔13は、基板11における開口部12の外周側であり外周縁部111との間の領域に、複数、例えば10個設けられている。挿通孔13は、具体的には、基板11における上記領域で、基板11の長手方向(x軸方向)及び短手方向(y軸方向)の四隅に設けられている端部挿通孔131から、基板11の長手方向の両側の外周縁部111aに沿って設けられている。挿通孔13は、それぞれ所定の距離を隔てて設けられている。挿通孔13は、エンジン100において、
図2に示すように、シリンダブロック110とシリンダヘッド120とを締結するボルト140を挿通するために設けられている。
【0023】
ガスケット10において、開口部12及び挿通孔13は、金属板により形成されている基板11を打ち抜くことで形成される。
【0024】
図3は、ガスケット10の挿通孔13及び変形抑制ビード部14を示すための拡大平面図である。また、
図4は、挿通孔13及び変形抑制ビード部14のB-B断面図である。
【0025】
図1及び
図3に示すように、変形抑制ビード部14は、基板11に設けられている複数の挿通孔13の外側に設けられている。変形抑制ビード14は、複数の挿通孔13の外周部分に設けられている。変形抑制ビード部14は、具体的には、複数の挿通孔13のうち、基板11の四隅にある端部挿通孔131の外周部分に設けられている。端部挿通孔131は、基板11の長手方向及び短手方向の両端部に設けられている。変形抑制ビード部14は、その中心が、基板11において例えば、挿通孔13の中心を示す軸線Aと同心である。変形抑制ビード14は、軸線Aと同心の位置に、異径の円弧状または略円弧状に形成されている。
【0026】
変形抑制ビード部14は、
図4に示すように、ガスケット10の厚み方向、例えばz軸方向上側に向かって凸状に形成されている。変形抑制ビード部14は、ガスケット10の基板11における所望の位置をプレス加工することで形成することができる。なお、変形抑制ビード部14の径の寸法、厚みtの寸法、面方向における幅wの寸法は、特に限定されない。
【0027】
図5は、ガスケット10の挿通孔13及び変形抑制ビード部14Aの変形例を示すための拡大平面図である。また、
図6は、挿通孔13及び変形抑制ビード部14AのC-C断面図である。
【0028】
図5及び
図6に示す変形例のように、ガスケット10において、変形抑制ビード部14Aは、円弧状に形成されていた上述の変形抑制ビード部14には限定されない。ガスケット10において、変形抑制ビード部14Aは、例えば、中心が基板11において挿通孔13の軸線Aと異心の軸線A1を中心とした弧状に形成されていてもよい。
【0029】
次に、変形抑制ビード部14を備えるガスケット10の作用について説明する。
【0030】
図7は、参考例に係るガスケット20の概略構成を示すための平面図である。また、
図8は、ガスケット20が装着されているエンジン200を示す側面図である。
図7及び
図8に示す参考例のガスケット20は、基板21の長手方向及び短手方向の両端部に設けられている端部挿通孔231の外周部分に変形抑制ビード部14が設けられていない点のみガスケット10と相違する。また、参考例のエンジン200は、シリンダブロック110とシリンダヘッド120との間の接合部130に介在させているのがガスケット20である点のみ、エンジン100と相違する。
【0031】
図8に示すように、気筒が直列に配列されている多気筒のエンジン200において、締付力によるシリンダヘッド120の変形量は、シリンダブロック110における気筒の配列方向において中心側の変形量が両端部の変形量の方よりも大きい。エンジン200では、シリンダヘッド120に撓みが発生している。このため、エンジン200の長手方向中央部のシリンダブロック110とシリンダヘッド120との間には、隙間hが生じている。
【0032】
一方、以上説明したように、変形抑制ビード部14は、弾性体としての金属板である基板11において、プレス加工により厚み方向に突出して形成されている。このため、変形抑制ビード部14は、ガスケット10を密封対象であるエンジン100のシリンダブロック110とシリンダヘッド120との間の接合部130に介在させる。変形抑制ビード14は、ボルト140によりシリンダブロック110とシリンダヘッド120とを締め付けた際に、突出している方向(z軸方向上側)に向かって
図2の矢印Dに示す弾性力を発揮する。そして、ガスケット10は、変形抑制ビード部14が弾性力Dを発揮することで、シリンダヘッド120の変形量を抑制し、シリンダヘッド120の撓みを抑制することができる。
【0033】
以上説明したように、変形抑制ビード部14は、基板11の長手方向及び短手方向の両端側に設けられている端部挿通孔131の外周部分に設けられている。ここで、変形抑制ビード部14Aのように、弧の中心を示す軸線A1が挿通孔13の中心を示す軸線Aと基板11の面方向において異なる位置に設けられていてもよい。
【0034】
上述のように、変形抑制ビード部14,14Aは、弾性体である基板11において、厚み方向に突出させることで上側に弾性力Dを発揮している。つまり、変形抑制ビード部14,14Aは、その弧の長さにより弾性力Dを発揮する部分の長さ、すなわち、弾性力Dの大きさを設定することができる。このため、変形抑制ビード部14,14Aは、弧の長さ(弧長)弧長を調整することにより、シリンダヘッド120の変形を抑制するための所望の弾性力を発揮することができるように調整可能としている。
【0035】
従って、ガスケット10によれば、基板11の長手方向及び短手方向の両端部に設けられている端部挿通孔131の外周部分に変形抑制ビード部14を備えることにより、シリンダヘッド120が設けられている上側に向かって弾性力を発揮する。ガスケット10によれば、変形抑制ビード14が上側に向かって弾性力を発揮することで、簡易な構造で密封対象であるシリンダヘッドの変形を抑制することができる。
【0036】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。また、例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0037】
10,20…ガスケット、11,21…基板、12…開口部、13…挿通孔、14,14A…変形抑制ビード部、100…エンジン、110…シリンダブロック、111…外周縁部、111a…外周縁部、120…シリンダヘッド、130…接合部、131…端部挿通孔、140…ボルト