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特許7285976ハクサイの高密度遺伝子地図に基づいた根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ品種を区別するための分子マーカー及びその用途
<図1>
  • 特許-ハクサイの高密度遺伝子地図に基づいた根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ品種を区別するための分子マーカー及びその用途 図1
  • 特許-ハクサイの高密度遺伝子地図に基づいた根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ品種を区別するための分子マーカー及びその用途 図2
  • 特許-ハクサイの高密度遺伝子地図に基づいた根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ品種を区別するための分子マーカー及びその用途 図3
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  • 特許-ハクサイの高密度遺伝子地図に基づいた根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ品種を区別するための分子マーカー及びその用途 図6
  • 特許-ハクサイの高密度遺伝子地図に基づいた根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ品種を区別するための分子マーカー及びその用途 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】ハクサイの高密度遺伝子地図に基づいた根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ品種を区別するための分子マーカー及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6883 20180101AFI20230526BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20230526BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20230526BHJP
   A01H 1/00 20060101ALN20230526BHJP
   A01H 6/20 20180101ALN20230526BHJP
【FI】
C12Q1/6883 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12N5/10
A01H1/00 A
A01H6/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022006431
(22)【出願日】2022-01-19
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0192095
(32)【優先日】2021-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517142668
【氏名又は名称】ザ インダストリー アンド アカデミック コオペレーション イン チュンナム ナショナル ユニバーシティー(アイエーシー)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ピョ・イム
(72)【発明者】
【氏名】ス・リュン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】サン・ホン・オ
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2116428(KR,B1)
【文献】特開2012-065567(JP,A)
【文献】特開2005-176619(JP,A)
【文献】国際公開第2022/164752(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/136239(WO,A1)
【文献】CHOI, R., et al.,"Quantitative trait locus mapping of clubroot resistance and Plasmodiophora brassicae pathotype Banglim-specific marker development in Brassica rapa.",INTERNATIONAL JOURNAL OF MOLECULAR SCIENCES,2020年06月10日,Vol.21,4157 (15 pages),DOI: 10.3390/ijms21114157
【文献】KATO, T., et al.,"Fine mapping of the clubroot resistance gene CRb and development of useful selectable marker in Brassica rapa.",BREEDING SCIENCE,2013年,Vol.63,pp.116-124,DOI: 10.1270/jsbbs.63.116
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
A01H 1/00
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号2の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーのプライマーセット;配列番号3の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号4の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーのプライマーセット;配列番号5の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号6の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーのプライマーセット;配列番号7の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号8の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーのプライマーセット;及び配列番号9の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号10の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーのプライマーセット;からなる群から選択された1つ以上のプライマーセットを含む、根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ個体を判別するためのプライマーセット組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のプライマーセット組成物を含む、根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ個体を判別するためのキット。
【請求項3】
ハクサイ試料からゲノムDNAを分離する段階と、
前記分離されたゲノムDNAを鋳型とし、請求項1に記載のプライマーセット組成物を用いて増幅反応を行って標的配列を増幅する段階と、
前記増幅段階の産物を検出する段階と、を含む、根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ個体を判別する方法。
【請求項4】
前記増幅段階の産物の検出は、DNAチップ、ゲル電気泳動、放射線測定、蛍光測定またはリン光測定を通じて行われる、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハクサイの高密度遺伝子地図に基づいた根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ品種を区別するための分子マーカー及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
根こぶ病(clubroot)は、根こぶ病菌(Plasmodiophorabrassicae)によって感染される土壌病であって、アブラナ科作物に大きな被害を与える。根こぶ病菌(P.brassicae)は、人工培地では栽培されない活物寄生菌であって、ハクサイだけではなく、キャベツ、大根、ブロッコリーなどほとんどのハクサイ科作物で発生しており、全世界的に大きな被害を与えている。根こぶ病菌は、病んだ組織(根こぶ)に数多くの休眠胞子を形成し、劣悪な環境で生存するか、越冬することになるが、該休眠胞子は、土壌において長くは、15年間生存可能なので、根こぶ病は、防除するのに非常に困難な土壌病である。
【0003】
韓国では、1928年京畿道で初めてハクサイ根こぶ病の発生が報告されており、毎年ハクサイの30~70%が被害を受けている。ハクサイ品種のほとんどは、ハクサイ根こぶ病菌のレース(race)特異的抵抗性を有しており、多数の種子会社は、ハクサイ根こぶ病菌の全てのレースに抵抗性を有する品種の開発に集中している。
【0004】
分子遺伝学的方法に基づいた染色体地図は、分子マーカーの位置と組換えの比率に基づいた遺伝子間の相対的な距離を決定可能にした。さらに、分子遺伝学的地図の構成は、地図基盤の遺伝子クローニング(map-based gene cloning), QTL(Quantitative Trait Loci)の発見を可能にし、MAS(Marker Assisted Selection)の位置を予測可能にした。
【0005】
一方、韓国登録特許第1560736号には、ハクサイ根こぶ病菌(Plasmodiophora brassicae)のTSA遺伝子に基づいた「ハクサイ根こぶ病診断用プライマー及びその用途」が開示されており、韓国登録特許第1815220号には、根こぶ病菌に対する4種の表現型のハクサイ品種を用いてハクサイ根こぶ病菌(Plasmodiophora brassicae)のレースを判別する方法に関する「ハクサイ根こぶ病菌のレースを判別する新規な方法」が開示されているが、本発明のハクサイの高密度遺伝子地図に基づいた根こぶ病バンリム菌株特異的抵抗性または感受性ハクサイ品種を区別するための分子マーカー及びその用途については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国登録特許第1560736号
【文献】韓国登録特許第1815220号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような要求によって導出されたものであって、本発明者は、ハクサイ根こぶ病菌バンリム(Banglim)病原型(pathotype)に対して抵抗性を示す09CR500系統と感受性を示す09CR501系統とを用いて、ハクサイ8番染色体上に存在するハクサイ根こぶ病抵抗性関連量的形質遺伝子座(QTL; PbBrA08Banglim)を確認した後、前記PbBrA08BanglimQTL領域に対して精密遺伝子地図作成(Fine-mapping)を行い、09CR.11390652と09CR.11755754マーカーとの間で根こぶ病抵抗性に係わる候補遺伝子(ORF1、ORF2及びORF3)を確認した。また、前記ORF2遺伝子上に存在する5個のマーカーを開発し、前記開発されたマーカーが根こぶ病に対する抵抗性または感受性ハクサイ系統を正確に区別可能であるということを確認することで、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明は、配列番号1及び2のオリゴヌクレオチドプライマーセット;配列番号3及び4のオリゴヌクレオチドプライマーセット;配列番号5及び6のオリゴヌクレオチドプライマーセット;配列番号7及び8のオリゴヌクレオチドプライマーセット;及び配列番号9及び10のオリゴヌクレオチドプライマーセット;からなる群から選択された1つ以上のプライマーセットを含む、根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ個体を判別するためのプライマーセット組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記プライマーセット組成物を含む、根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ個体を判別するためのキットを提供する。
【0010】
また、本発明は、ハクサイ試料からゲノムDNAを分離する段階;前記分離されたゲノムDNAを鋳型とし、前記プライマーセット組成物を用いて増幅反応を行って標的配列を増幅する段階;及び前記増幅段階の産物を検出する段階;を含む、根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ個体を判別する方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、配列番号57の塩基配列からなる根こぶ病に対する植物体の抵抗性を増加させるハクサイ由来のORF2遺伝子を提供する。
【0012】
また、本発明は、配列番号57の塩基配列からなるハクサイ由来のORF2遺伝子を含む組換えベクターで植物細胞を形質転換させる段階;及び前記形質転換された植物細胞から形質転換植物を再分化する段階;を含む、根こぶ病に対する抵抗性が増加した形質転換植物体の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、配列番号57の塩基配列からなるハクサイ由来のORF2遺伝子を含む組換えベクターで植物細胞を形質転換させる段階を含む、植物体の根こぶ病抵抗性を増加させる方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、配列番号57の塩基配列からなるハクサイ由来のORF2遺伝子を含む植物体の根こぶ病抵抗性を増加させるための組成物を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の分子マーカーは、ハクサイ根こぶ病に対する抵抗性または感受性を示すハクサイ個体を正確に判別することができるので、ハクサイ根こぶ病に対して抵抗性を有するハクサイ品種を早期に選別して育成することができ、育種にかかる時間、費用及び努力を節減するのに非常に有用であると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ハクサイ根こぶ病の発病度(Disease Index)等級を示す。0:無症状、1:側根(lateral root)に限ったやや膨らんだ部分発生、2:側根に少数の小さな球状のこぶ発生、3:側根にいくつかの小さなこぶ発生、4:側根の大きなこぶ及び主根(main root)の小さな膨らみ発生、5:主根に大きなこぶ発生、6:根全般に深刻なこぶ発生及び根形態の変形。
図2】Aは、以前に報告されたハクサイ(Brassica rapa)関連地図の関連グループA08でハクサイ根こぶ病抵抗性に係わるPbBrA08Banglim QTLと前記QTLに存在するマーカー(09CR.11755754及び09CR.11390652)の位置を示し、Bは、PbBrA08Banglim QTLを対象にして精密遺伝子地図作成(Fine-mapping)を遂行した結果である。
図3】ハクサイ根こぶ病抵抗性関連PbBrA08Banglim QTLのFine-mappingを遂行した結果である。Pは、ハクサイ根こぶ病抵抗性対立遺伝子を同型として有していることを意味し、Pは、ハクサイ根こぶ病感受性対立遺伝子を同型として有していることを意味し、Fは、異型接合(抵抗性)を意味する。
図4】PbBrA08Banglim QTLのFine-mappingを遂行した後(A)、根こぶ病抵抗性に係わる候補遺伝子ORF1、ORF2、ORF3の位置を示した図面である(B及びC)。
図5】ハクサイ根こぶ病バンリム菌株に対して抵抗性を示す09CR500系統と感受性を示す09CR501系統の葉(leaf)と根(root)組織における根こぶ病抵抗性関連候補遺伝子ORF2及びORF3の発現レベルを確認した結果である。
図6】Aは、ハクサイ根こぶ病抵抗性関連候補遺伝子ORF2で開発されたSH_852、SH_866、SH_868、SH_820、及びSH_870マーカーの位置を示す図面であり、Bは、前記マーカーを用いても両親系統である09CR500(抵抗性)と09CR501(感受性)、それらのF1個体(抵抗性)及びChiifu(感受性)を対象にしてPCRを遂行した結果である。Aにおいて、(a)は、全体ORF2遺伝子を意味し、(b)は、ORF2遺伝子のCDS(coding sequence)領域を意味し、(c)は、マーカーのPCR増幅領域を意味する。
図7】SH_866マーカーの汎用性検定を遂行した結果である。Aは、根こぶ病バンリム病原型に対する表現型を分析した結果であり、縦軸は、疾病指数(Disease Index, DI)を意味し、横軸は、サンプルIDを意味する。Bは、PbBrA08Banglim 遺伝子座が存在する遺伝子型を示したものであって、白色と黒色は、マーカーの遺伝子型がそれぞれ抵抗性と感受性であることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の目的を達成するために、本発明は、配列番号1及び2のオリゴヌクレオチドプライマーセット;配列番号3及び4のオリゴヌクレオチドプライマーセット;配列番号5及び6のオリゴヌクレオチドプライマーセット;配列番号7及び8のオリゴヌクレオチドプライマーセット;及び配列番号9及び10のオリゴヌクレオチドプライマーセット;からなる群から選択された1つ以上のプライマーセットを含む、根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ個体を判別するためのプライマーセット組成物を提供する。
【0018】
本発明のプライマーセットは、望ましくは、前記5個のプライマーセットからなる群から選択される1つ以上のプライマーセットを含み、5個のプライマーセットを同時に利用すれば、根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ個体をさらに効率的に区別することができる。
【0019】
前記プライマーは、各プライマーの配列長によって、配列番号1ないし10の配列内の16個以上、17個以上、18個以上、19個以上の連続ヌクレオチドの切片からなるオリゴヌクレオチドを含んでもよい。例えば、配列番号1のプライマー(20個オリゴヌクレオチド)は、配列番号1の配列内の16個以上、17個以上、18個以上、19個以上の連続ヌクレオチドの切片からなるオリゴヌクレオチドを含んでもよい。また、前記プライマーは、配列番号1ないし10の塩基配列の付加、欠失または置換された配列も含みうる。
【0020】
本発明において、「プライマー」は、複製しようとする核酸鎖に相補的な単一鎖オリゴヌクレオチド配列を言い、プライマー延長産物の合成のための開始点として作用する。前記プライマーの長さ及び配列は、延長産物の合成を開始するように許容せねばならない。プライマーの具体的な長さ及び配列は、要求されるDNAまたはRNA標的の複合度(complexity)だけではなく、温度及びイオン強度のようなプライマー利用条件に依存するであろう。
【0021】
本発明において、プライマーとして用いられたオリゴヌクレオチドは、さらにヌクレオチド類似体(analogue)、例えば、ホスホロチオエート(phosphorothioate)、アルキルホスホロチオエートまたはペプチド核酸(peptidenucleicacid)を含むか、または挿入物質(intercalatingagent)を含む。
【0022】
本発明において、前記根こぶ病は、プラスモディフォラ・ブラシカ(Plasmodiophora brassicae)病源菌によって発病したものでもあり、望ましくは、ローカル病源菌バンリム(Banglim)によって発病したハクサイ根こぶ病でもあるが、特にそれに制限されない。
【0023】
また、本発明は、前記プライマーセット組成物を含む、根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ個体を判別するためのキットを提供する。
【0024】
本発明の一具現例において、前記キットは、増幅反応を行うための試薬をさらに含み、前記増幅反応を行うための試薬は、DNAポリメラーゼ、dNTPs、及びバッファを含んでもよいが、それらに制限されない。
【0025】
本発明の一具現例において、前記キットは、最適の反応遂行条件を記載した使用者案内書をさらに含んでもよい。案内は、キットの使用方法、例えば、逆転写緩衝液及びPCR緩衝液製造方法、提示される反応条件などを説明する印刷物である。案内は、パンフレットまたはチラシ形態の案内パンフレット、キットに付着されたラベル、及びキットを含むパッケージの表面上に説明を含む。また、案内は、インターネットのように電気媒体を介して公開されるか、提供される情報を含む。
【0026】
また、本発明は、ハクサイ試料からゲノムDNAを分離する段階;前記分離されたゲノムDNAを鋳型として、前記プライマーセット組成物を用いて増幅反応を行って標的配列を増幅する段階;及び、前記増幅段階の産物を検出する段階;を含む、根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ個体を判別する方法を提供する。
【0027】
本発明の一具現例による方法において、前記プライマーセット組成物は、前述した通りである。
【0028】
本発明の方法は、ハクサイ試料からゲノムDNAを分離する段階を含む。前記ゲノムDNAを分離する方法は、当業界に公知された方法を利用し、例えば、CTAB方法を利用し、Wizard prepキット(Promega社)を利用することもできる。前記分離されたゲノムDNAを鋳型とし、本発明の一実施例によるオリゴヌクレオチドプライマーセットを用いて増幅反応を行って標的配列を増幅することができる。
【0029】
本発明の一具現例において、前記増幅された標的配列は、検出可能な標識物質で標識されうる。前記標識物質は、蛍光、リン光または放射線を発する物質でもあるが、それらに制限されない。望ましくは、前記標識物質は、Cy-5またはCy-3である。標的配列の増幅時、プライマーの5’-末端にCy-5またはCy-3を標識してPCRを遂行すれば、標的配列が検出可能な蛍光標識物質によって標識されうる。また、放射性物質を用いた標識は、PCR遂行時、32Pまたは35Sのような放射性同位元素をPCR反応液に添加すれば、増幅産物が合成されながら、放射線が増幅産物に混入されて増幅産物が放射線によって標識されうる。標的配列を増幅するために用いられたオリゴヌクレオチドプライマーセットは、前述した通りである。
【0030】
本発明の一具現例において、前記根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ個体を区別する方法は、前記増幅段階の産物を検出する段階を含み、前記増幅段階産物の検出は、DNAチップ、ゲル電気泳動、毛細管電気泳動、放射線測定、蛍光測定またはリン光測定を通じて行われるが、それらに制限されない。増幅産物を検出する方法の1つとして、毛細管電気泳動を行うことができる。毛細管電気泳動は、例えば、ABi Sequencerを利用することができる。また、ゲル電気泳動を行い、ゲル電気泳動は、増幅産物の大きさによってアガロースゲル電気泳動または、アクリルアミドゲル電気泳動を利用することができる。また、蛍光測定方法は、プライマーの5’-末端にCy-5またはCy-3を標識してPCRを遂行すれば、標的配列が検出可能な蛍光標識物質によって標識され、このように標識された蛍光は、蛍光測定器を用いて測定することができる。また、放射線測定方法は、PCR遂行時、32Pまたは35Sのような放射性同位元素をPCR反応液に添加して増幅産物を標識した後、放射線測定器、例えば、ガイガー計数器(Geiger counter)または液体シンチレーション計数器(liquid scintillation counter)を用いて放射線を測定することができる。
【0031】
また、本発明の一具現例による方法において、前記配列番号1及び2のプライマーセット(SH_852マーカー)を用いてPCRを遂行した場合、2,305bp、配列番号3及び4のプライマーセット(SH_866マーカー)を用いてPCRを遂行した場合、390bp、配列番号5及び6のプライマーセット(SH_868マーカー)を用いてPCRを遂行した場合、275bp、配列番号7及び8のプライマーセット(SH_820マーカー)を用いてPCRを遂行した場合、514bp、配列番号9及び10のプライマーセット(SH_870マーカー)を用いてPCRを遂行した場合、242bpサイズの単一バンドを示せば、根こぶ病抵抗性ハクサイ個体と判別し、単一バンドが検出されなければ、根こぶ病感受性ハクサイ個体と判別することができる。
【0032】
また、本発明は、配列番号57の塩基配列からなる根こぶ病に対する植物体の抵抗性を増加させるハクサイ由来のORF2遺伝子を提供する。
【0033】
本発明による根こぶ病に対する植物体の抵抗性を増加させる配列番号57の塩基配列からなるORF2遺伝子は、ハクサイ根こぶ病バンリム菌株によって発病する根こぶ病に対する抵抗性QTLであるPbBrA08Banglim 領域で明らかになった遺伝子であって、プラスモディフォラ・ブラシカ(Plasmodiophora brassicae)のバンリム(Banglim)病原型に対して抵抗性を示すハクサイ09CR500個体から分離され、ハクサイ参照遺伝子(Chiifu)とプラスモディフォラ・ブラシカのバンリム病原型に対して感受性を示すハクサイ09CR501個体と塩基配列上に変異を示すことが特徴である。
【0034】
前記塩基配列の相同体が本発明の範囲内に含まれる。具体的に、前記遺伝子は、配列番号57の塩基配列とそれぞれ70%以上、さらに望ましくは、80%以上、さらに望ましくは、90%以上、最も望ましくは、95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含んでもよい。ポリヌクレオチドに係わる「配列相同性の%」は、2つの好適に配列された配列と比較領域とを比較することで確認され、比較領域におけるポリヌクレオチド配列の一部は、2つの配列の最適配列に係わる参照配列(追加または削除を含まない)に比べて、追加または削除(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。
【0035】
また、本発明は、前記ハクサイ由来のORF2遺伝子を含む組換えベクターを提供する。
【0036】
用語「組換え」は、細胞が異種の核酸を複製するか、前記核酸を発現するか、またはペプチド、異種のペプチドまたは異種の核酸によって暗号化されたタンパク質を発現する細胞を指称するものである。組換え細胞は、前記細胞の天然形態では発見されない遺伝子または遺伝子切片を、センスまたは、アンチセンス形態のうち、1つとして発現することができる。また、組換え細胞は、天然状態の細胞で発見される遺伝子を発現することができるが、前記遺伝子は、変形されたものであって、人為的な手段によって細胞内に再び取り込まれたものである。
【0037】
用語「ベクター」は、細胞内に伝達するDNA断片(ら)、核酸分子を指称するときに使用される。ベクターは、DNAを複製させ、宿主細胞から独立して再生産されうる。用語「伝達体」は、よく「ベクター」と互換して使用される。用語「発現ベクター」は、目的したコーディング配列と、特定宿主生物で作動可能に連結されたコーディング配列を発現するのに必須な適正核酸配列を含む組換えDNA分子を意味する。
【0038】
本発明のベクターは、典型的にクローニングまたは発現のためのベクターとして構築されうる。また、本発明のベクターは、原核細胞または真核細胞を宿主として構築されうる。例えば、本発明のベクターが発現ベクターであり、原核細胞を宿主とする場合には、転写を進行させうる強力なプローモーター(例えば、pLλプローモーター、trpプローモーター、lacプローモーター、T7プローモーター、tacプローモーターなど)、解読の開始のためのリポソーム結合部位及び転写/解読終結配列を含むことが一般的である。宿主細胞として大膓菌(Escherichia coli)が用いられる場合、E.coliトリプトファン生合成経路のプローモーター及びオペレーター部位、そして、ファージλの左向きプローモーター(pLλプローモーター)が調節部位として利用されうる。
【0039】
一方、本発明に用いられるベクターは、当業界でよく使用されるプラスミド(例えば、pSC101、ColE1、pBR322、pUC8/9、pHC79、pGEXシリーズ、pETシリーズ及びpUC19など)、ファージ(例えば、λgt4-λB、λ-Charon、λΔz1及びM13など)、またはウイルス(例えば、SV40など)を操作して作製されうる。
【0040】
一方、本発明のベクターが発現ベクターであり、真核細胞を宿主とする場合には、哺乳動物細胞のゲノムに由来のプローモーター(例えば、メタロチオニンプローモーター)または哺乳動物ウイルスに由来のプローモーター(例えば、アデノウイルス後期プローモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプローモーター、SV40プローモーター、サイトメガロウイルスプローモーター及びHSVのtkプローモーター)が用いられ、転写終結配列としてポリアデニル化配列を一般的に有する。
【0041】
本発明の組換えベクターは、望ましくは、植物発現ベクターである。
【0042】
植物発現ベクターの望ましい例は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のような適当な宿主に存在するとき、それ自体の一部、いわゆる、T-領域を植物細胞に転移させうるTi-プラスミドベクターである。他の類型のTi-プラスミドベクター(EP 0 116 718 B1号参照)は、現在植物細胞、または雑種DNAを植物のゲノム内に適当に挿入させる新たな植物が生産されうる原形質体であって、雑種DNA配列を転移させるのに用いられている。Ti-プラスミドベクターの特に望ましい形態は、EP 0 120 516 B1号及び米国特許第4,940,838号に請求されたような、いわゆるバイナリー(binary)ベクターである。本発明による遺伝子を植物宿主に導入させるのに用いられる他の適したベクターは、二本鎖植物ウイルス(例えば、CaMV)、及び単一鎖ウイルス、ゲミニウイルスなどに由来することができるようなウイルスベクター、例えば、非完全性植物ウイルスベクターから選択されうる。そのようなベクターの使用は、特に植物宿主を適当に形質転換することが困難であるときに有利である。
【0043】
発現ベクターは、望ましくは、1つ以上の選択性マーカーを含む。前記マーカーは、通常、化学的な方法として選択されうる特性を有する核酸配列であって、形質転換された細胞を非形質転換細胞から区別可能な全ての遺伝子がそれに該当する。その例としては、グリホサート(glyphosate)またはホスフィノスリシン(phosphinothricin)のような除草剤抵抗性遺伝子、カナマイシン、G418、ブレオマイシン(Bleomycin)、ハイグロマイシン(hygromycin)、クロラムフェニコール(chloramphenicol)のような抗生剤耐性遺伝子があるが、それに限定されるものではない。
【0044】
本発明による植物発現ベクターにおいて、プローモーターは、CaMV 35S、アクチン、ユビキチン、pEMU、MASまたはヒストンプローモーターでもあるが、それらに制限されない。「プローモーター」という用語は、構造遺伝子からのDNAアップストリームの領域を意味し、転写を開始するためにRNAポリメラーゼが結合するDNA分子を言う。「植物プローモーター」という植物細胞において転写を開始することができるプローモーターである。「構成的(constitutive)プローモーター」は、ほとんどの環境条件及び発達状態または細胞分化下で活性があるプローモーターである。形質転換体の選択が各種段階で各種組織によってもなされるので、構成的プローモーターが本発明において望ましい。したがって、構成的プローモーターは、選択可能性を制限しない。
【0045】
本発明による植物発現ベクターにおいて、ターミネーターは、通常のターミネーターを使用し、その例としては、ノパリン合成酵素(nopaline synthase, NOS)、イネα-アミラーゼRAmy1 Aターミネーター、ファセオリン(phaseoline)ターミネーター、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのオクトピン(Octopine)遺伝子のターミネーターなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0046】
また、本発明は、本発明の前記組換えベクターに形質転換された宿主細胞を提供する。
【0047】
本発明のベクターを安定し、かつ連続してクローニング及び発現させうる宿主細胞は、微細潮流、微生物などを含む当業界に公知されたいかなる宿主細胞も利用することができ、例えば、E. coli JM109, E. coli BL21, E. coli RR1, E. coli LE392, E. coli B, E. coli X 1776, E. coli W3110、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・チューリンジエンシス(B. thuringiensis)のようなバチルス属菌株、そして、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア・マルセッセンス(Serratiamarcescens)及び多様なシュードモナス種のような腸内菌と菌株などがある。
【0048】
また、本発明のベクターを真核細胞に形質転換させる場合には、宿主細胞として、酵母(例えば、Saccharomyce cerevisiae)、昆虫細胞、ヒト細胞(例えば、CHO細胞株(Chinese hamster ovary)、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、3T3、RIN及びMDCK細胞株)及び植物細胞などが用いられ、望ましくは、植物細胞である。
【0049】
本発明のベクターを宿主細胞内に運搬する方法は、宿主細胞が原核細胞である場合、CaCl2方法、ハナハン方法(Hanahan,D.,J.Mol.Biol.,166:557-580(1983))及び電気穿孔方法などによって実施されうる。また、宿主細胞が真核細胞である場合には、微細注入法、リン酸カルシウム沈澱法、電気穿孔法、リポソーム-媒介形質感染法、DEAE-デキストラン処理法、及び遺伝子ボンバードメントなどによってベクターを宿主細胞内に注入することができる。
【0050】
また、本発明は、配列番号57の塩基配列からなるハクサイ由来のORF2遺伝子を含む組換えベクターで植物細胞を形質転換させる段階;及び、前記形質転換された植物細胞から形質転換植物を再分化する段階;を含む、根こぶ病に対する抵抗性が増加した形質転換植物体の製造方法を提供する。
【0051】
植物の形質転換は、DNAを植物に転移させる任意の方法を意味する。そのような形質転換方法は、必ずしも再生及び(または)組織培養期間を有する必要はない。現在は、植物種の形質転換は、双子葉植物だけではなく、単子葉植物をいずれも含む植物種について一般的である。原則的に、任意の形質転換方法は、本発明による雑種DNAを適当な先祖細胞に導入させるのに用いられる。方法は、原形質体に対するカルシウム/ポリエチレングリコール方法、原形質体の電気穿孔法、植物要素への顕微注入法、各種植物要素の(DNAまたはRNA-コーティングされた)粒子衝撃法、植物の浸潤または成熟花粉または小胞子の形質転換によるアグロバクテリウム・ツメファシエンス媒介された遺伝子転移において(非完全性)ウイルスによる感染などから適当に選択されうる。本発明による望ましい方法は、アグロバクテリウム媒介されたDNA伝達を含む。特に望ましくは、EP A 120 516号及び米国特許第4,940,838号に記載されたような、いわゆるバイナリーベクター技術を利用するものである。
【0052】
本発明の方法は、本発明による組換えベクターによって植物細胞を形質転換する段階を含むが、前記形質転換は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(A.tumefiaciens)によって媒介されうる。また、本発明の方法は、前記形質転換された植物細胞から形質転換植物を再分化する段階を含む。形質転換植物細胞から形質転換植物を再分化する方法は、当業界に公知された任意の方法を利用することができる。
【0053】
植物の形質転換に用いられる「植物細胞」は、いかなる植物細胞にもなる。植物細胞は培養細胞、培養組織、培養器官または全体植物、望ましくは、培養細胞、培養組織または培養器官及びさらに望ましくは、培養細胞のいかなる形態にもなる。「植物組織」は、分化された、または未分化された植物の組織、例えば、その限りではないが、実、茎、葉、花粉、種子、癌組織及び培養に用いられる多様な形態の細胞、すなわち、単一細胞、原形質体(protoplast)、芽及びカルス組織を含む。植物組織は、インプランタ(inplanta)や器官培養、組織培養または細胞培養状態でもある。
【0054】
本発明の一具現例において、前記植物体は、アブラナ科(Cruciferae)植物体でもあり、望ましくは、ハクサイ、ブロッコリー、キャベツ、大根、芥子菜、若大根、冬菜、ハクサイ、チョンガー大根、チンゲン菜、アブラナ、カリフラワー、ケール(サム(ssam)ケール、青汁用ケール)、赤大根などでもあり、最も望ましくは、ハクサイでもあるが、それらに制限されない。
【0055】
また、本発明は、配列番号57の塩基配列からなるハクサイ由来のORF2遺伝子を含む組換えベクターによって植物細胞を形質転換させる段階を含む、植物体の根こぶ病抵抗性を増加させる方法を提供する。
【0056】
また、本発明は、配列番号57の塩基配列からなるハクサイ由来のORF2遺伝子を含む、植物体の根こぶ病抵抗性を増加させるための組成物を提供する。本発明の組成物は、有効成分として配列番号57の塩基配列からなるハクサイ由来のORF2遺伝子または前記遺伝子を含む組換えベクターを含み、前記遺伝子または前記遺伝子を含む組換えベクターによって植物細胞を形質転換させることで、根こぶ病に対する植物体の抵抗性を増加させうる。
【0057】
以下、本発明の実施例を通じて詳細に説明する。下記特定の例示及び実施例は、発明の一部具現例を含むものであって、全ての具現例を含んでいないという点に留意せねばならない。本明細書によって開示される発明の内容は、ここで説明される特定の実施例に制限されず、本発明が属する技術分野において通常の技術者が多様に具現可能であるということは自明である。したがって、本明細書に開示された発明の内容は、ここに記載された特定の実施例に制限されず、これについての変形及び他の具現例も特許請求の範囲内に含まれると理解されねばならない。
【0058】
材料及び方法
1.植物材料及び表現型の分析
先行研究(Int. J. Mol. Sci., 2020, 21, 4157)において、ハクサイ根こぶ病バンリムに対して抵抗性を示す09CR500及び感受性を示す09CR501個体(バイオブリーディング育種会社提供)を用いてハクサイ根こぶ病抵抗性関連QTL領域(PbBrA08Banglim ;関連地図のA08上の207,889~13,590,812bp)を確認した。前記QTL領域のFine-mappingのための組換え植物体の選別のために2,986 F2植物体を2つの抵抗性形質関連マーカー(InDelマーカーである09CR.11755754とSNPマーカーである09CR.11390652)を活用して遺伝型分析(genotyping)と表現型評価を遂行した。InDelマーカーである09CR.11755754とSNPマーカーである09CR.11390652との間で組換えが確認された総22個の組換え植物体がFine-mappingのために選択された。
【0059】
マーカーを開発した後実用化のための汎用性検定(validation)のために188個Brassica core-collection系統(表1)を活用した。全ての植物体は、忠南大学校温室で栽培及び試験された。
【0060】
【表1】
【0061】
2.ハクサイ根こぶ病菌接種及び症状評価
ハクサイ根こぶ病菌バンリム(Banglim)は、種子会社バイオブリーディング(BioBreeding Co.、韓国)が、深刻な根こぶ病が発生した国内地域(江原道平昌郡芳林面)で収集したローカル病源菌であり、バンリム病源菌の独特の病原性を維持するために、病源菌をハクサイに持続的に感染させた。
【0062】
具体的に、バンリム病原体の胞子懸濁液(2×106胞子/ml)を準備した後、胞子懸濁液5mlを灌漑方法(土壌注入)によって2週苗に接種し、ハクサイ根こぶ病症状は、接種後6週目に評価した。こぶ(club)形成の程度に対する評価基準は、図1に示された総7個の尺度(scale)に分類され、植物体の平均尺度が2以下である場合に抵抗性と評価した。
【0063】
QTL(Quantitative trait locus)を分析するために尺度を疾病指数(発病度、Disease Index)に変換し、疾病指数は、次のような計算式によって計算された。
疾病指数=[(n1+2n2+ … +6n6)/NT×6]×100.
からnまでは、各尺度別に症状がある植物の数を示し、Nは、テストに使用された総植物の数を意味する
【0064】
2.マーカー開発及び遺伝型分析
Illumina Genome Analyzer-IIxシステムとpaired-ends方式を用いて30倍Illumina sequence coverageで09CR500(抵抗性)ゲノムシーケンシグを遂行した後、CLC Genomic Workbench v12.0.2(CLC bio、米国)を使用して参照アセンブリーを生成し、参照アセンブリー(B. rapa_sequence_v3.0)とPbBrA08Banglim 遺伝子座の隣接マーカー間のマップ飽和は、CLC Genomic Workbench v12.0.2マニュアルによって遂行された。
【0065】
HRMプライマーは、次のような媒介変数があるCLC genomic workbench 12.0を使用して設計された(表2)。primer product size range=80~200, primer GC clamp=2, 1, or undefined, primer max diff TM=3 or 4, primer min GC=30, primer max GC=60, primer product optimal TM=60, primer self any=4 or 5, primer max size=25 or undefined.
また、PCRは、94℃ 4分→[94℃ 20秒、55~60℃ 20秒、72℃ 20秒](45回反復)→72℃ 7分の条件で遂行し、PCR増幅産物は、LightScanner system(Idaho Technologies、米国)を通じて分析した。
【0066】
【表2】
【0067】
3.ハクサイ根こぶ病抵抗性関連候補遺伝子探索
PbBrA08Banglim のFine-mappingを通じて狭められた領域において候補遺伝子を予測するために、ブラシカデータベース(Brassica database, BRAD)バージョン3.0(http://brassicadb.org/brad/)を使用し、FGENESH(http://softberry.com; Salamov and Solovyev, 2000)を通じて優勢な候補遺伝子の位置を予測した。そして、候補遺伝子のドメインは、Pfamデータベースを基盤に、CLC genomic workbench 12.0.2(CLC bio、デンマーク)を通じる参照遺伝子(Chiifu)の配列分析を通じて確認した。
【0068】
4.PCR分析
RT-PCR(reverse transcription PCR)及びqRT-PCR(quantitative real-time PCR)分析のために、総RNAは、2つの両親系統(09CR500及び09CR501)にハクサイ根こぶ病菌「バンリム(Banglim)」を接種し、1.5時間、3時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、1週及び2週後に、葉及び根試料を回収した後、RNeasy plant Mini Kit(QIAGEN Inc、米国)を使用して抽出した。1 μg total RNAは、oligo-(dT)プライマーとTOPscript(商標)逆転写酵素(Enzynomics Co.,韓国)を使用してcDNAを合成した。前記cDNAを鋳型とし、遺伝子特異的プライマーセット(表3)とSYBR Green Supermixを使用してqRT-PCR分析(CFX96(商標) Real-Time System, Bio-Rad Co.、米国)を遂行した。相対的な遺伝子発現レベルは、2-△△Ctの方法で算出し、全ての実験は、3回反復遂行した。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例1.ハクサイ根こぶ病の分離パターン(segregation pattern)分析
PbBrA08Banglimの遺伝を確認するために、2,986個のF植物体をプラスモディフォラ・ブラシカ(P.brassicae)のバンリム病原型によってテストした。2つの両親系統のうち、09CR500は、バンリムに対して抵抗性を示し、09CR501は、バンリムに対して感受性を示し、F植物体のうち、抵抗性及び感受性植物の数は、それぞれ2,076個、910個であることを確認した(表4)。また、Fに含まれた188個Brassica core-collection系統のうち、9個系統は、バンリム病原型に対して抵抗性を示し、残りの179個系統は、感受性を示した(保持結果未提示)。
【0071】
【表4】
【0072】
実施例2.PbBrA08Banglim QTL関連マーカー開発
ハクサイ根こぶ病バンリムに対して抵抗性を示す09CR500及び感受性を示す09CR501個体(バイオブリーディング育種会社提供)を用いてハクサイ根こぶ病抵抗性関連QTL領域(PbBrA08Banglim ;関連地図のA08上の207,889~13,590,812 bp)を確認(図2A)した後、前記PbBrA08BanglimQTL領域に存在する09CR.11755754(physical position: 11,755,630)と09CR.11390652(physical position: 11,390,629)マーカーの隣接領域(flanking region)に対する遺伝子地図を飽和させるために、09CR500とChiifuとの間の変異を確認した。
その結果、09CR.11755754と09CR.11390652マーカー間の領域において3,186個の単一ヌクレオチド変異体(SNV)、210個の多重ヌクレオチド変異体(MNV)、364個の欠失(deletion)、418個の挿入(insertion)及び26個の置換(substitution)、総4,204個の変異を確認した(表5)。
【0073】
【表5】
【0074】
以後、HRM分析のために94個のInDelマーカーを増幅することができるプライマーセットをデザインした。94個のプライマーセットのうち、41個(43.6%)のプライマーセットが予測された配列を増幅し、2つの両親系統とそれらのF1個体においても多形成が示されたことを確認した(表6)。以後、前記41個InDelマーカーのうち、26個マーカー(表2)を選択して実験を進めた(図2B)。
【0075】
【表6】
【0076】
実施例3.PbBrA08Banglim QTLのFine-mapping分析
PbBrA08BanglimQTL領域においてバンリム根こぶ病抵抗性に対して最も有意味なマーカーを選抜するために、PbBrA08Banglim のFine-mappingを遂行した。まず、特定マーカー(InDelマーカーである09CR.11755754とSNPマーカーである09CR.11390652)の遺伝型分析結果を基盤に、総22個の組換え植物体(F)を選抜した(図3)。前記選発された22個の組換え植物体を新たに開発されたマーカー(表2)を使用して遺伝型分析を遂行し、新たに開発されたマーカーを活用した遺伝型分析結果を基盤に、22個の組換え植物体は、16個のクループ(G1-G16)に区分された。各遺伝型によって16個のグループ(G1~G16)に分けられる22個の組換え植物体に基づいて標的地域の範囲を決定した。
【0077】
具体的に、図3のあるマーカー位置においてP及びF遺伝型である場合、抵抗性を示し、P遺伝型である場合、感受性を示すと予測することができる。また、図3の最も左側に記載された表現型(phenotype)は、病理検定結果であって、0は、根こぶ病に対する抵抗性を意味し、数字が大きくなるほど感受性であることを意味し、6は、完全な感受性であることを意味する。したがって、Fine-mappingを通じて病理検定結果を説明することができる遺伝型を示すマーカーを探すことができる。
【0078】
根こぶ病抵抗性の表現型を示すG1とG6~G16を見れば、09CR.11390652マーカーから09CR.11755754マーカーに行くほど徐々に小くなる09CR500ゲノムの断片を含んでおり、PbBrA08BanglimQTL領域が、09CR.11390652マーカーからSH_930マーカーとの間に狭められた。
【0079】
また、根こぶ病感受性の表現型を示すG2~G5を見れば、09CR.11390652マーカーとSH_922マーカーとの間に09CR500ゲノムの断片を含んでいるので、PbBrA08BanglimQTL領域が、09CR.11390652マーカーとSH_922マーカーとの間に位置するものではないということが分かった。
【0080】
前記Fine-mapping分析を通じてPbBrA08Banglim QTLは、SH_852とSH_930との間の領域に狭められ、前記狭められた領域にSH_852、SH_866、SH_868、SH_820、SH_870及びSH_930マーカーが含まれているということが分かった。
【0081】
実施例4.候補遺伝子の予測及び発現レベル分析
Fine-mapping結果において表現型を最もよく説明するSH_924を活用し、抵抗性系統において、その近傍のゲノム断片の構造を調べるために、CLC genomic workbenchを使用して09CR500のリシーケンシグデータを使用してBLASTN分析を遂行した結果、scaffold14322がBraA08g013480.3C遺伝子と相同性とが優れることを確認した(表7)。
【0082】
【表7】
【0083】
前記scaffold14322(21,498 bp)の1,518~3,183 bp領域は、BraA08g013480.3C遺伝子の2番目及び3番目エクソンと重畳しており、これは、09CR500にPbBrA08Banglimが含まれた21kb以上の挿入があることを意味する。
【0084】
また、FGENSHプログラム(http://linux1.softberry.com/berry.phtml)を通じてscaffold14322に存在するハクサイ根こぶ病抵抗性関連候補遺伝子3個を予測し、前記遺伝子をそれぞれORF1、ORF2及びORF3と名付けた。ORF1及びORF3遺伝子は、Nodulin-likeタンパク質を、ORF2遺伝子は、疾病抵抗性に係わるTIR-NBS-LRRドメインをコーディングすると予想された(図4及び表8)。
【0085】
【表8】
【0086】
前記3個の遺伝子のうち、ORF1(BraA08g013480.3C)遺伝子の2番目及び3番目エクソン部分は、参照遺伝子(Chiffu)と一部重畳しているが、ORF2遺伝子は、Chiifuと重畳する部分がなかった。
【0087】
ORF2遺伝子は、大きさが6,808 bp(mRNA:4,598 bp)であり、7個のエクソンで構成されると予測されており、ORF3遺伝子は、大きさが1,319 bp(mRNA:366 bp)であり、3個のエクソンで構成されると予測された。
【0088】
また、ハクサイ根こぶ病バンリム菌株の接種前・後に、2つの両親系統の根と葉組織において、ORF2及びORF3遺伝子の発現レベルをPCRによって分析した結果、09CR501(感受性)に比べて、09CR500(抵抗性)でORF2及びORF3遺伝子の発現レベルが顕著に増加したということを確認した(図5)。その中で、ORF2遺伝子の構造は、植物病抵抗性に関与すると報告されたTIR-NBS-LRR構造を有していた。
【0089】
ハクサイの植物病源菌に対して完全な耐性を与えるCR遺伝子(CRa, Crr1a)がTIR-NBS-LRRをコーディングすると知られており、NBS-LRR類型の植物病抵抗性遺伝子は、多様な植物病原体による感染に対する抵抗性調節に関与すると知られており、本発明では、バンリム病原型によって発病された根こぶ病の抵抗性に対する潜在的な候補遺伝子としてORF2遺伝子を最終選抜した。
【0090】
実施例5.分子マーカー開発及び根こぶ病抵抗性判別能分析
PbBrA08Banglim QTLを対象にしてFine-mappingを遂行し、根こぶ病抵抗性に対して最も有意味なマーカーとしてSH_852、SH_866、SH_868、SH_820、SH_870及びSH_930マーカーを選抜し、その中、SH_852、SH_866、SH_868、SH_820及びSH_870マーカーは、ORF2のTIR-NBS-LRRドメインをターゲットとして作製され(図6A)、SH_930マーカーは、ORF3をターゲットとして作製された。
【0091】
以後、根こぶ病の抵抗性に対する潜在的な遺伝子として最終選発されたORF2遺伝子を標的とするSH_852、SH_866、SH_868、SH_820及びSH_870マーカー(表2)をそれぞれ用いてハクサイ根こぶ病に対する抵抗性個体(R、09CR500)、感受性個体(S、09CR501;及びChiifu)及び抵抗性を示す異型接合体(H、09CRF1)を対象にしてPCRを遂行した。従来の先行研究において、ハクサイ根こぶ病菌のバンリム病原型に対する抵抗性形質は、遺伝分析を通じて単因子優性として作用するので、F植物体は、根こぶ病に対して抵抗性を示す。
【0092】
PCR結果、抵抗性個体(R及びH)でのみバンドが検出され、感受性個体(S及びChiifu)では、バンドが検出されていないということを確認した(図6B)。これを通じて、本発明の分子マーカーがハクサイ根こぶ病に対する抵抗性または感受性ハクサイ個体を正確に区別可能であるということを分かった。
【0093】
また、前記5個のマーカーのうち、SH_866マーカーの実用化のための汎用性検定(validation)のために187個のBrassica core-collection系統(表1)を活用した。検定結果、9個の系統のみ抵抗性を示しており、一方、残り178個の植物は、2個の中間抵抗性系統(DI:13及び25)を含んで感受性を示した(図7)。
【0094】
187個のBrassica core-collection系統の遺伝子型評価結果、7個の抵抗性系統が表現型及び遺伝子型データと一致した。178個の感受性系統のうち、CSR_098(DI:25)及びCSR_045(DI:37.5)を除外し、177個系統の表現型が感受性遺伝子型によって一致した。すなわち、本発明のSH_866マーカーは、表現型と遺伝子型が約98.4%と一致し、根こぶ病に対する抵抗性及び感受性系統を正確に区分することができる(表9)。
【0095】
【表9】
【要約】
【課題】ハクサイの高密度遺伝子地図に基づいた根こぶ病抵抗性または感受性ハクサイ品種を区別するための分子マーカー及びその用途を提供する。
【解決手段】本発明の分子マーカーは、ハクサイ根こぶ病に対する抵抗性または感受性を示すハクサイ個体を正確に判別することができるので、ハクサイ根こぶ病に対して抵抗性を有するハクサイ品種を早期に選別して育成することができ、育種にかかる時間、費用及び努力を節減するのに非常に有用に活用されうる。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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