(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20230529BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20230529BHJP
H01M 8/2455 20160101ALI20230529BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M4/96 M
H01M8/2455
(21)【出願番号】P 2021532664
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 JP2019028372
(87)【国際公開番号】W WO2021009929
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】越智 雄大
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-142141(JP,A)
【文献】特開2006-147374(JP,A)
【文献】国際公開第2017/068944(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電極と負極電極とを備え、
前記正極電極及び前記負極電極はそれぞれ、複数の炭素繊維を含む集合体であり、
前記正極電極の目付量に対する前記負極電極の目付量の比率が105%以上であり、
前記正極電極の目付量及び前記負極電極の目付量は、20g/m
2
以上500g/m
2
以下である、
レドックスフロー電池セル。
【請求項2】
前記炭素繊維の平均繊維径が20μm以下である請求項
1に記載のレドックスフロー電池セル。
【請求項3】
請求項1
または請求項
2に記載のレドックスフロー電池セルを複数備える、
セルスタック。
【請求項4】
請求項1
または請求項
2に記載のレドックスフロー電池セル、又は請求項
3に記載のセルスタックを備える、
レドックスフロー電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レドックスフロー電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池の一つに、レドックスフロー電池がある。レドックスフロー電池は、正極電極、負極電極にそれぞれ、正極電解液、負極電解液を供給して充放電を行う。特許文献1は、負極電解液の充電状態(State of Charge,SOC)が75%以上95%以下となるようにレドックスフロー電池を運転することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示のレドックスフロー電池セルは、
正極電極と負極電極とを備え、
前記正極電極及び前記負極電極はそれぞれ、複数の炭素繊維を含む集合体であり、
前記負極電極の目付量が前記正極電極の目付量よりも大きい。
【0005】
本開示のセルスタックは、
本開示のレドックスフロー電池セルを複数備える。
【0006】
本開示のレドックスフロー電池システムは、
本開示のレドックスフロー電池セル、又は本開示のセルスタックを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係るレドックスフロー電池システムの概略を示す構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る電池セル及び実施形態に係るセルスタックの概略を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
レドックスフロー電池において、水素ガスの発生量を低減することが望まれている。
【0009】
レドックスフロー電池では、水溶液からなる電解液、例えば特許文献1に記載されるバナジウム系電解液等が利用されている。負極電解液が水溶液である場合、充電が進んでSOCが高くなると、負極電極を備える負極セルでは、水の電気分解が生じ易い。そのため、負極側では、水素ガスが発生し易い。SOCが100%を超える状態、即ち過充電の状態では、水の電気分解によって水素ガスの発生量が多くなり易い。
【0010】
特許文献1に記載されるように、電解液のSOCを監視して、SOCが所定の範囲となるように充放電運転を行えば、過充電を防止することができる。結果として、水素ガスの発生量が少なくなり易い。しかし、SOCの監視装置、例えば開回路電圧(OCV)を測定する装置が故障する等して、SOCを適切に測定できない場合には、SOCが100%未満の所定の値のときに充電を停止するといった制御が行えない。そのため、水素ガスの発生量が多くなり得る。従って、SOCやOCVを監視しなくても、負極電解液の過充電を防止できること、ひいては水素ガスの発生量を低減できることが望ましい。
【0011】
そこで、本開示は、水素ガスの発生量を低減できるレドックスフロー電池セルを提供することを目的の一つとする。また、本開示は、水素ガスの発生量を低減できるセルスタック、及びレドックスフロー電池システムを提供することを別の目的とする。
【0012】
[本開示の効果]
本開示のレドックスフロー電池セル、本開示のセルスタック、及び本開示のレドックスフロー電池システムは、水素ガスの発生量を低減できる。
【0013】
[本開示の実施の形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係るレドックスフロー電池セルは、
正極電極と負極電極とを備え、
前記正極電極及び前記負極電極はそれぞれ、複数の炭素繊維を含む集合体であり、
前記負極電極の目付量が前記正極電極の目付量よりも大きい。
以下、レドックスフロー電池セルをRF電池セルと呼ぶことがある。
【0014】
本開示のRF電池セルは、以下の理由によって、負極側において水素ガスの発生量を低減できる。特に、本開示のRF電池セルは、充電状態(SOC)や開回路電圧(OCV)を監視しなくても、水素ガスの発生量を低減できる。
【0015】
RF電池に利用される正極電解液は、高い酸化力を有するイオンを含むことがある。以下、高い酸化力を有するイオンを酸化剤イオンと呼ぶことがある。酸化剤イオンとして、例えば上述のバナジウム系電解液では、5価のバナジウムイオンが挙げられる。正極電極が複数の炭素繊維を含む集合体であると、5価のバナジウムイオンといった酸化剤イオンによって酸化される。充電が進むと、正極電解液中に5価のバナジウムイオンといった酸化剤イオンが多くなるため、正極電極の酸化が進み易い。
【0016】
目付量が相対的に小さい正極電極では、充電が進むと、上述の酸化剤イオンによって酸化が進み易い。正極電極の酸化に伴って、正極側では炭酸ガスが発生し易い。従って、炭酸ガスの発生量に基づいて充電を停止すれば、負極電解液が過充電になることを防止できる。即ち、負極側では水素ガスの発生量が低減される。また、このような正極電極における電池反応性の低下に起因する現象を充電停止のトリガーとして利用することで、SOCやOCVを監視しなくても、適切な運転が行える。
【0017】
(2)本開示のRF電池セルの一例として、
前記正極電極の目付量に対する前記負極電極の目付量の比率が105%以上である形態が挙げられる。
【0018】
同じ運転条件で比較すると、上記比率が105%以上である場合は、上記比率が105%未満である場合よりも、充電が進むと、正極側では炭酸ガスの発生量が多くなり易い。従って、炭酸ガスの発生量に基づいて充電を停止すれば、負極電解液が過充電になることをより確実に防止できる。
【0019】
(3)本開示のRF電池セルの一例として、
前記正極電極の目付量及び前記負極電極の目付量は、20g/m2以上500g/m2以下である形態が挙げられる。
【0020】
上記形態は、セル抵抗を実用的な範囲に調整し易い。
【0021】
(4)本開示のRF電池セルの一例として、
前記炭素繊維の平均繊維径が20μm以下である形態が挙げられる。
【0022】
上記形態では、平均繊維径が20μm超である場合に比較して、充電が進むと、正極電極の電池反応性が低下し易い。そのため、充電が進むと、正極側では炭酸ガスの発生量が多くなり易い。従って、炭酸ガスの発生量に基づいて充電を停止すれば、負極電解液が過充電になることをより確実に防止できる。
【0023】
(5)本開示の一態様に係るセルスタックは、
上記(1)から(4)のいずれか一つのRF電池セルを複数備える。
【0024】
本開示のセルスタックは、上述の理由から、SOCやOCVを監視しなくても、負極側において水素ガスの発生量を低減できる。
【0025】
(6)本開示の一態様に係るレドックスフロー電池システムは、
上記(1)から(4)のいずれか一つのRF電池セル、又は上記(5)のセルスタックを備える。
以下、レドックスフロー電池システムをRF電池システムと呼ぶことがある。
【0026】
本開示のRF電池システムは、上述の理由から、SOCやOCVを監視しなくても、負極側において水素ガスの発生量を低減できる。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態のレドックスフロー電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池システムを説明する。図において同一符号は同一名称物を意味する。
【0028】
[実施形態]
図1,
図2を参照して、実施形態のRF電池セル1、実施形態のセルスタック2、実施形態のRF電池システム10について、概要を説明する。その後、実施形態のRF電池セル1に備えられる正極電極13及び負極電極14を詳細に説明する。
【0029】
(概要)
実施形態のRF電池セル1は、正極電極13と負極電極14とを備え、RF電池システム10の主要素に用いられる。RF電池システム10は、電解液循環型の蓄電池の一つであり、正極電極13、負極電極14にそれぞれ正極電解液、負極電解液を供給して、充放電を行う。
【0030】
特に、実施形態のRF電池セル1では、正極電極13及び負極電極14はそれぞれ、複数の炭素繊維を含む集合体である。また、負極電極14の目付量W
4が正極電極13の目付量W
3よりも大きい。つまり、W
3<W
4であり、W
3≠W
4である。RF電池セル1は、目付量W
3,W
4の相違を利用して、負極側における水素ガスの発生量を低減する。なお、
図1,
図2は、正極電極13、負極電極14にクロスハッチングを付して示す。
【0031】
実施形態のセルスタック2は、実施形態のRF電池セル1を複数備える。実施形態のRF電池システム10は、実施形態のRF電池セル1、又は実施形態のセルスタック2を備える。
【0032】
(電池セル)
RF電池セル1は、代表的には、正極電極13と、負極電極14と、隔膜11とを備え、後述のセルフレーム3を用いて構築される。正極電極13及び負極電極14は、電池反応を行う場である。隔膜11は、正極電極13と負極電極14とに挟まれて、両者を隔てる。隔膜11は、例えばイオン交換膜等が挙げられる。
【0033】
セルフレーム3は、双極板15と、枠体30とを備える。双極板15は導電性の板である。双極板15の構成材料は、例えば導電性プラスチック等が挙げられる。枠体30は、
図2に示すように双極板15の周囲に配置される絶縁性の枠板である。枠体30の構成材料は、例えば塩化ビニル樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0034】
枠体30は、
図2の分解図において紙面左側のセルフレーム3に示すように、正極電解液用の給液マニホールド33、排液マニホールド35及びスリットを備える。枠体30の一面は、給液マニホールド33及び給液側のスリットを利用して、双極板15上の正極電極13に正極電解液を供給する。また、枠体30の一面は、排液マニホールド35及び排液側のスリットを利用して、正極電極13からの正極電解液を排出する。枠体30は、
図2の分解図において紙面右側のセルフレーム3に示すように、負極電解液用の給液マニホールド34、排液マニホールド36、及びスリットを備える。枠体30の他面は、上述の正極電極13と同様にして、負極電極14に負極電解液を供給し、負極電極14からの負極電解液を排出する。
【0035】
一つのRF電池セル1を備える単セル電池は、
図2の分解図に示すように、セルフレーム3、正極電極13、隔膜11、負極電極14、セルフレーム3を備え、これらが上記の順に並べられて構築される。複数のRF電池セル1を備える多セル電池は、複数の正極電極13と、複数の負極電極14と、複数の隔膜11と、三以上のセルフレーム3とを備える。多セル電池は、
図1,
図2に示すようにセルフレーム3、正極電極13、隔膜11、負極電極14という順に、これらが積層された積層体を備える。
図1に示すように上記積層体に備えられる各セルフレーム3の双極板15は代表的には正極電極13と負極電極14とに挟まれる。
【0036】
(セルスタック)
多セル電池では、RF電池セル1としてセルスタックと呼ばれる形態が利用される。
図1,
図2に例示するようにセルスタック2は、代表的には、上述の積層体と、一対のエンドプレート21と、複数の締付部材22とを備える。一対のエンドプレート21は、上記積層体を挟む。各締付部材22は、代表的には長ボルトとナットとを備える。複数の締付部材22は、両エンドプレート21間を締め付ける。本例の枠体30はシール材38を備える。上述の締め付けとシール材38とによって、上記積層体が液密に保持される。
【0037】
セルスタック2は、
図2に示すように複数のサブセルスタック20を備えてもよい。サブセルスタック20は、所定数のRF電池セル1の積層体と、この積層体を挟む一対の給排板23とを備える。給排板23には、
図1に示す配管160,170が接続される。
【0038】
(RF電池システム)
RF電池システム10は、RF電池セル1と、RF電池セル1に正極電解液、負極電解液を供給する循環機構とを備える。RF電池システム10に備えられるRF電池セル1は、セルスタック2でもよい。この点は、この項において同様である。
【0039】
RF電池セル1は、代表的には、
図1に示すように、介在機器90を介して、発電部91と負荷92とに接続される。RF電池セル1は、正極電解液及び負極電解液が供給された状態で、発電部91を電力供給源として充電を行い、負荷92を電力提供対象として放電を行う。介在機器90は、例えば交流/直流変換器、変電設備等が挙げられる。発電部91は、例えば太陽光発電機、風力発電機、その他一般の発電所等が挙げられる。負荷92は、例えば電力系統や電力の需要家等が挙げられる。このようなRF電池システム10は、例えば、負荷平準化、瞬低補償や非常用電源、太陽光発電や風力発電といった自然エネルギー発電の出力平滑化等に利用される。
【0040】
〈循環機構〉
循環機構は、タンク16,17と、配管160,170と、ポンプ18,19とを備える。タンク16は正極電解液を貯留する。タンク17は負極電解液を貯留する。配管160は、往路配管161、復路配管162を備える。配管170は、往路配管171、復路配管172を備える。配管160,170は、タンク16,17とRF電池セル1とに接続される。ポンプ18,19はそれぞれ、往路配管161,171に接続される。ポンプ18,19によって、タンク16からの正極電解液、タンク17からの負極電解液は、往路配管161,171を経て、RF電池セル1の正極電極13,負極電極14に供給される。正極電極13からの正極電解液、負極電極14からの負極電解液は、復路配管162,172を経てタンク16,17に戻される。
図1の黒矢印は、電解液の流れを示す。
【0041】
(電解液)
電解液は、活物質として機能するイオン、即ち活物質イオンを含む溶液が挙げられる。RF電池システム10に利用される代表的な電解液は、活物質イオンと、酸とを含む水溶液が挙げられる。正極活物質イオンの一例として、バナジウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン等が挙げられる。負極活物質イオンの一例として、バナジウムイオン、チタンイオン、クロムイオン等が挙げられる。バナジウム系電解液では、正極活物質イオン及び負極活物質イオンがいずれもバナジウムイオンであり、バナジウムイオンの価数が異なる。
図1は、正極活物質イオン、負極活物質イオンとして、価数が異なるバナジウムイオンを例示する。
【0042】
RF電池セル1、セルスタック2、RF電池システム10において、基本構成や構成材料、電解液の組成等は、公知のものを利用してもよい。
【0043】
(電極)
実施形態のRF電池セル1に備えられる正極電極13、負極電極14には、複数の炭素繊維を含む集合体が利用される。以下、複数の炭素繊維を含む集合体を繊維集合体と呼ぶことがある。繊維集合体は、例えば、カーボンフェルト、カーボンクロス、カーボンペーパー等が挙げられる。
【0044】
〈目付量〉
正極電極13及び負極電極14はいずれも、上述の繊維集合体であるが、繊維集合体の目付量が異なる。ここでの繊維集合体の目付量とは、繊維集合体における単位面積当たりの質量であり、ここでは1平方メートルあたりのグラム(g/m2)である。
【0045】
《目付量比率》
定量的には、正極電極13の目付量W3に対する負極電極14の目付量W4の比率[(W4/W3)×100]が100%超であり、W3<W4である。以下、上記比率を目付量比率と呼ぶ。
【0046】
正極電極13の目付量W3が相対的に小さいことで、充電が進むと、正極電極13の電池反応性が負極電極14の電池反応性よりも低下し易い。
【0047】
具体的には、RF電池セル1を充電運転すると、充電が進むにつれて、負極電極14を備える負極セルでは、電解液がバナジウム系電解液のように水溶液であれば、水の電気分解が生じ易い。一方、正極電極13を備える正極セルでは、充電が進むにつれて、充電イオン、例えばバナジウム系電解液では5価のバナジウムイオンが増える。目付量が相対的に少ない正極電極13では、目付量が負極電極14と同じである場合に比較して、5価のバナジウムイオンといった酸化剤イオンが相対的に多いといえる。そのため、目付量が相対的に少ない正極電極13では、酸化が進み易い。正極電極13の酸化に伴って、正極側では炭酸ガスが生じる。
【0048】
従って、炭酸ガスの発生量に基づけば、負極電解液が過充電になる前に充電を停止することができる。そのため、負極電解液において水の電気分解が生じ難い。ひいては、負極側において水素ガスの発生量が低減される。
【0049】
上述の目付量比率が大きいほど、水素ガスの発生量が低減され易い。目付量比率は、例えば105%以上が挙げられる。
【0050】
同じ運転条件で比較すると、目付量比率が105%以上である場合は、目付量比率が100%超105%未満である場合に比較して、充電が進むと、炭酸ガスの発生量が多くなり易い。従って、炭酸ガスの発生量に基づいて充電を停止すれば、負極電解液の過充電がより確実に防止される。その結果、水素ガスの発生量が少なくなり易い。
【0051】
上述の目付量比率が110%以上、更に115%以上、120%以上であれば、水の電気分解が生じ難い、又は実質的に生じない範囲で充電を停止することができる。そのため、水素ガスの発生量がより一層少なくなり易い。
【0052】
上述の目付量比率は、例えば190%以下であると、充電が進んでも、炭酸ガスの発生量が許容される範囲となり易いと考えられる。目付量比率が185%以下、更に180%以下であれば、炭酸ガスの発生量が更に少なくなり易い。また、電池容量が極端に低くなることが防止される。
【0053】
《絶対値》
正極電極13の目付量W3及び負極電極14の目付量W4は、例えば20g/m2以上500g/m2以下が挙げられる。
【0054】
目付量W3,W4がいずれも20g/m2以上であれば、炭素繊維の充填量が少な過ぎず、正極電極13及び負極電極14が電池反応場として適切に機能できる。そのため、セル抵抗が大き過ぎず、利用し易いRF電池セル1とすることができる。目付量W3,W4が多いほど、正極電極13及び負極電極14は電池反応性に優れる。そのため、セル抵抗が小さいRF電池セル1とすることができる。
【0055】
目付量W3,W4がいずれも500g/m2以下であれば、炭素繊維の充填量が多過ぎず、電解液が流れ易い。電解液が供給され易いことで、正極電極13及び負極電極14は、電池反応を良好に行える。この点で、セル抵抗が小さいRF電池セル1とすることができる。
【0056】
以上のことから、上述の目付量比率が100%超を満たすと共に、目付量W3,W4が20g/m2以上500g/m2以下の範囲を満たすRF電池セル1は、セル抵抗を実用的な範囲に調整し易い。
【0057】
目付量W3,W4がいずれも、50g/m2以上、更に60g/m2以上、100g/m2以上であれば、電池反応性が高められる。目付量W3,W4がいずれも490g/m2以下、更に480g/m2以下、470g/m2以下であれば、電解液の流通性に優れ、電解液が正極電極13及び負極電極14に良好に供給される。
【0058】
上述の目付量比率が100%超を満たすと共に、目付量W3,W4が50g/m2以上490g/m2以下、更に100g/m2以上470g/m2以下であれば、RF電池セル1は電池反応性及び電解液の流通性に優れる。特に、上述の目付量比率が100%超を満たすと共に、目付量W3,W4が50g/m2以上200g/m2以下であれば、RF電池セル1は、電池反応性に優れつつ、電解液の流通性により優れて、セル抵抗も小さくなり易い。上述の目付量比率が100%超を満たすと共に、目付量W3,W4が例えば300g/m2以上450g/m2以下であれば、電池反応性に優れる。
【0059】
〈繊維径〉
正極電極13及び負極電極14を構成する繊維集合体では、一般に、炭素繊維の平均繊維径が小さいほど、セル抵抗が小さくなり易い。この理由は、以下の通りである。目付量が一定の場合、平均繊維径が細いほど、繊維集合体に含まれる炭素繊維の数が多くなり易い。炭素繊維の数が多いほど、繊維集合体における炭素繊維の合計表面積が大きくなり易い。繊維集合体の表面積が大きいほど、電池反応性が高くなり易い。その結果、電池反応を良好に行えるため、セル抵抗が小さくなり易い。セル抵抗の低減の観点から、例えば、平均繊維径は20μm以下が挙げられる。
【0060】
一方、正極電極13を構成する繊維集合体において、炭素繊維の平均繊維径が20μm以下であると、20μm超である場合に比較して、充電が進むと電池反応性が低下し易い。この理由の一つとして、正極電極13では、酸化されて炭素成分が減ることが考えられる。目付量の相違に加えて繊維径によっても、正極電極13の電池反応性が低くなり易いことで、充電が進むと、炭酸ガスの発生量が多くなり易い。従って、炭酸ガスの発生量に基づいて充電を停止すれば、負極電解液の過充電がより確実に防止される。
【0061】
平均繊維径が例えば18μm以下、更に15μm以下であれば、セル抵抗が小さいRF電池セル1とすることができつつ、負極電解液の過充電が防止され易い。平均繊維径が例えば1μm以上20μm以下であれば、繊維集合体は電池反応性に優れつつ、機械的強度にも優れる。
【0062】
平均繊維径は、以下のように求める。繊維集合体について、厚さ方向に平行な平面で切断した断面をとる。一つの断面において、炭素繊維の断面積と等しい面積を有する円の直径をこの炭素繊維の繊維径とする。一つの断面において、5視野以上とり、各視野から3以上の炭素繊維の繊維径を測定する。測定した15以上の繊維径の平均を平均繊維径とする。
【0063】
〈その他〉
正極電極13及び負極電極14において平面積、厚さは、上述の目付量比率を満たす範囲で適宜選択できる。正極電極13及び負極電極14の平面形状は適宜選択できる。代表的な平面形状として、
図2に例示する長方形が挙げられる。
【0064】
(主な作用効果)
実施形態のRF電池セル1は、負極電極14の目付量W4が正極電極13の目付量W3よりも大きいため、正極電極13の電池反応性と負極電極14の電池反応性との差に基づく現象を運転制御に利用できる。上記現象、例えば正極電極13の酸化に起因する炭酸ガスの発生に基づいて充電を停止すれば、SOCやOCVを測定しなくても、負極電解液が過充電になることを防止することができる。ひいては、負極側において水素ガスの発生量が低減される。
【0065】
実施形態のセルスタック2及び実施形態のRF電池システム10は、実施形態のRF電池セル1を備える。そのため、上述のように炭酸ガスの発生に基づいて充電を停止すれば、SOCやOCVを測定しなくても、負極側において水素ガスの発生量が低減される。
【0066】
[試験例1]
正極電極の目付量と負極電極の目付量との組み合わせを種々変更してRF電池セルを構築して充放電を行い、目付量と水素ガスの発生量との関係を調べた。
【0067】
ここでは、正極電極及び負極電極はいずれも、炭素繊維の平均繊維径が20μm以下であるカーボンフェルトであって、表1に示す目付量(g/m2)を満たす。また、各試料における目付量比率(%)を表1に示す。目付量比率(%)は、正極電極の目付量を100%とするときの負極電極の目付量の割合であり、(負極電極の目付量/正極電極の目付量)×100で求める。
【0068】
各試料のRF電池セルは、目付量が異なる点を除いて、実質的に同様の仕様を備える単セル電池である。上記仕様は、単セル電池の構造や、単セル電池を構成する部材の大きさ、例えば電極の平面積等である。目付量が異なるため、各試料のセル抵抗率の初期値が異なる。各試料のセル抵抗率の初期値について、試料No.100のセル抵抗率の初期値を基準としたときの相対値を表1に示す。ここでのセル抵抗率(Ω・cm2)の初期値は、各試料の単セル電池を用いて、以下の条件で充放電を行って求める。
【0069】
(充放電の条件)
予め設定した所定の切替電圧に達したら、充電と放電とを切り替えるという条件で3サイクルの充放電を行う。充放電は、電流密度を90mA/cm2とする定電流で行う。使用する電解液は、バナジウム系電解液、即ち硫酸バナジウム水溶液である。この電解液におけるバナジウムイオン濃度は2mol/Lである。
【0070】
1サイクル目における平均電圧及び平均電流を求め、更に抵抗値=(平均電圧/平均電流)を求める。セル抵抗率の初期値は、上記抵抗値と電極の平面積との積によって算出される値とする。
【0071】
上述の条件で3サイクルの充放電を終了するまでに正極側で発生した炭酸ガスの量、及び負極側で発生した水素ガスの量をそれぞれ調べ、結果を表1に示す。炭酸ガスの発生量は、正極電解液を貯留するタンク内に存在する気相の体積に対する割合(体積ppm)である。水素ガスの発生量は、負極電解液を貯留するタンク内に存在する気相の体積に対する割合(体積ppm)である。炭酸ガスの発生量、水素ガスの発生量はいずれも、ガスクロマトグラフィー法によって測定する。
【0072】
上述の条件で3サイクルの充放電を終了した後、各試料のセル抵抗率を調べた。このセル抵抗率は、3サイクル目における平均電圧及び平均電流を求め、更に抵抗値=(平均電圧/平均電流)と電極の平面積との積によって算出される値とする。3サイクル目のセル抵抗率において、上述のセル抵抗率の初期値に対する増加量を調べ、結果を表1に示す。このセル抵抗の増加量は、(3サイクル目のセル抵抗率/セル抵抗率の初期値)によって算出する。
【0073】
【0074】
表1に示すように、目付量の相違によって、負極側における水素ガスの発生量が異なることが分かる。詳しくは、正極電極の目付量と負極電極の目付量とが等しい、即ち目付量比率が100%である試料No.100では、水素ガスの発生量が700体積ppm程度である。これに対し、負極電極の目付量が正極電極の目付量よりも大きい、即ち目付量比率が100%超である試料No.1~No.7では、水素ガスの発生量が30体積ppm以下であり、試料No.100よりも少ない。このことから、試料No.1~No.7では、試料No.100に比較して、充電終了時に水の電気分解が生じ難いといえる。以下、試料No.1~No.7を特定試料群と呼ぶことがある。
【0075】
また、特定試料群の電池セルでは、炭酸ガスの発生量が試料No.100よりも多い。この理由は、以下のように考えられる。特定試料群の正極セルでは、充電が進むと、5価のバナジウムイオンによって正極電極の酸化が進み易い。正極電極の酸化に伴い、炭酸ガス、即ち二酸化炭素ガスの発生量が多くなる。ここでは、炭素繊維の平均繊維径が20μm以下であることからも、炭酸ガスの発生量が多くなり易かったと考えられる。
【0076】
更に、特定試料群の電池セルでは、セル抵抗の増加量が試料No.100よりも大きい。この理由の一つとして、充電が進むと、上述のように正極電極の酸化が進む等して、電池反応が良好に行えないと考えられる。
【0077】
これらのことから、目付量比率が100%超であるRF電池セルを運転する際正極側における炭酸ガスの発生量に基づいて充電を停止すれば、負極側における水素ガスの発生量が少なくなり易いといえる。また、充電停止のトリガーがSOC、OCV以外のパラメータである。そのため、SOC、OCVが測定できない場合でも、水素ガスの発生量が多くなることを防止できる。
【0078】
この試験は、切替電圧を一定として充放電を行っている。切替電圧は、電解液の開回路電圧(OCV)と、電流×セル抵抗との和で表される。そのため、切替電圧が一定であれば、セル抵抗が増大すると、OCVが相対的に低くなる。OCVが低下すれば、SOCも低下する。即ち、負極側では水素ガスの発生量が少なくなる。特定試料群では、試料番号が大きいほど、セル抵抗の増加量が大きい傾向にあり、水素ガスの発生量が少ないといえる。従って、過充電のリスクが低減される。この試験では、セル抵抗率を調べたが、セル抵抗の増加量が大きい場合、炭酸ガスの発生量が多い。このことから、炭酸ガスの発生量は充電停止のトリガーに利用できるといえる。
【0079】
その他、この試験から以下のことがいえる。
特定試料群と試料No.101,No.102とを比較する。この比較から、目付量比率が103%超、特に105%以上であると、水素ガスの発生量が少なくなり易いといえる。また、特定試料群では、試料No.101,No.102よりも炭酸ガスの発生量が多く、セル抵抗の増加量も大きい。このことから、目付量比率が105%以上であれば、炭酸ガスの発生量に基づいて充電を停止することで、水素ガスの発生量を効果的に低減できると期待される。また、炭酸ガスの発生量及び正極電極の酸化劣化を鑑みれば、目付量比率は190%以下が好ましいと考えられる。
【0080】
試料No.103,No.104と試料No.100とを比較する。試料No.103,No.104の水素ガスの発生量は、試料No.100の水素ガスの発生量よりも少ない。この比較から、上述のように目付量比率が100%超、更に105%以上あれば、水素の発生量が低減されることが分かる。
【0081】
更に、特定試料群と試料No.103,No.104とを比較する。この比較から、正極電極及び負極電極について、目付量比率が100%超であり、かつ目付量が18g/m2超600g/m2未満、特に20g/m2以上500g/m2以下であれば、水素ガスの発生量が更に少なくなり易い上に、セル抵抗率の初期値が小さくなり易い。また、炭酸ガスの発生量が多くなり易いため、充電停止のトリガーに利用し易い。
【0082】
なお、この試験では、単セル電池を用いたが、多セル電池も同様の傾向を示す。
【0083】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、試験例1において、正極電極の目付量及び負極電極の目付量、電解液の組成、セル数等を変更可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 レドックスフロー電池セル(RF電池セル)
10 レドックスフロー電池システム(RF電池システム)
11 隔膜、13 正極電極、14 負極電極、15 双極板
16,17 タンク、18,19 ポンプ
2 セルスタック
20 サブセルスタック、21 エンドプレート、22 締付部材
23 給排板
3 セルフレーム
30 枠体、33,34 給液マニホールド、35,36 排液マニホールド
38 シール材
90 介在機器、91 発電部、92 負荷
160,170 配管、161,171 往路配管、162,172 復路配管