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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】水素供給システム及び水素供給方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 15/00 20060101AFI20230529BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230529BHJP
   H02J 3/28 20060101ALI20230529BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
H02J15/00 G
C25B9/00 A
H02J3/28
H02J3/38 130
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018188295
(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2020058168
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391017849
【氏名又は名称】山梨県
(73)【特許権者】
【識別番号】514105011
【氏名又は名称】株式会社東光高岳
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】外内 裕子
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 真
(72)【発明者】
【氏名】坂本 正樹
(72)【発明者】
【氏名】出原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】足立 眞哉
(72)【発明者】
【氏名】江口 智雄
(72)【発明者】
【氏名】青柳 福雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 哲史
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-249341(JP,A)
【文献】特開2013-044032(JP,A)
【文献】特開2018-023262(JP,A)
【文献】特開2017-163639(JP,A)
【文献】特開2006-161123(JP,A)
【文献】特開2016-187281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00-5/00
H02J 15/00
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電線に接続された配電線と、
再生可能エネルギーによる発電により発電電力を発生する複数の再生可能エネルギー発電装置と、
前記配電線と前記再生可能エネルギー発電装置との間に前記再生可能エネルギー発電装置毎に対応して設けられ、対応する前記再生可能エネルギー発電装置から供給された前記発電電力のうち一部の電力を前記配電線に出力するとともに、残りの電力を用いた水の電気分解によって水素を発生する複数の水電気分解装置と、
前記水素に含まれる水分量を所望の範囲に調整して水素利用設備に供給する調湿装置とを備え、
送電出力の出力変化率の閾値が予め設定され、
前記水電気分解装置は、前記発電電力の送電出力が前記閾値を超えないように、前記再生可能エネルギー発電装置から前記配電線を介して前記送電線に送電される前記発電電力の送電出力を制御する
ことを特徴とする、水素供給システム。
【請求項2】
前記水電気分解装置が、固体高分子膜水電気分解装置である、請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項3】
前記再生可能エネルギー発電装置が、太陽光発電装置である、請求項1又は請求項2に記載の水素供給システム。
【請求項4】
複数の再生可能エネルギー発電装置による再生可能エネルギーを用いた発電によって発電電力を得る工程と、
送電線に接続された配電線と前記再生可能エネルギー発電装置との間に前記再生可能エネルギー発電装置毎に設けられた複数の水電気分解装置が、対応する前記再生可能エネルギー発電装置から供給された前記発電電力のうち一部の電力を前記配電線に出力するとともに、残りの電力を用いた水の電気分解により水素を得る工程と、
前記水素に含まれる水分量を所望の範囲に調整して水素利用設備に供給する工程と、を含み、
送電出力の出力変化率の閾値が予め設定され、
前記水素を得る工程は、前記水電気分解装置が、前記発電電力の送電出力が前記閾値を超えないように、前記再生可能エネルギー発電装置から前記配電線を介して前記送電線に送電される前記発電電力の送電出力を制御する工程を含むことを特徴とする、水素供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素供給システム及び水素供給方法に関し、例えば、再生可能エネルギー発電を用いて水素を供給する水素供給システム及び水素供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーの低炭素化のために、風力及び太陽光などの再生可能エネルギーを用いた発電設備などの導入及び普及が進められている。再生可能エネルギーを用いた発電設備としては、再生可能エネルギーとしての風力によって発電する風力発電機を備えた再生可能エネルギー発電システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の再生可能エネルギー発電システムにおいては、風力発電機で発電した交流電力を電力変換器で直流電力に変換して蓄電装置に蓄電する。そして、必要に応じて蓄電装置から直流電力を放電して電力変換器で交流電力に変換して電力系統に供給することにより、風力発電機によって発電した電力の有効活用が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-93051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、再生可能エネルギー発電は、気候及び天候などにより出力変動が大きく、再生可能エネルギー発電の導入拡大のためには発電出力の安定化が必要である。また、最近では、新規発電所の送電線及び配電線への新規接続が厳しい状況であり、既存の発電所であっても発電出力の制限が生じている。そのため、発電出力が不安定な再生可能エネルギーの導入拡大には、送電系統及び配電系統の安定化が必要となってきており、蓄電池導入などでの対応の検討及び実証試験などが行われている。しかしながら、蓄電池による電力安定化は、コストが高く、発電電力の貯蔵容量の制約があるだけでなく、充放電時の電力ロスもある。
【0005】
また、エネルギー低炭素化の観点から、利用時の排ガスか水蒸気だけである水素についても化石燃料の代替エネルギーとして注目されている。現状では、化石燃料の水蒸気改質より水素が製造されているが、製造時に二酸化炭素が排出されるので、必ずしも低炭素化に貢献しない。また、再生利用可能エネルギーを利用した水の電気分解によって水素を製造することも考えられるが、再生可能エネルギーは発電電力が変動する。このため、変動した発電電力を電気分解装置に供給すると電極の劣化など電気分解装置に過大な機械的負荷がかかる場合がある。このように、従来技術では、再生可能エネルギーの発電電力を用いて効率良く水素を製造し、製造した水素の貯蔵及び利用を図ることは困難であった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、再生可能エネルギーの発電電力により効率良く水素を製造及び供給できる水素供給システム及び水素供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る水素供給システムは、再生可能エネルギーによる発電により発電電力を発生する少なくとも1つの再生可能エネルギー発電装置と、前記少なくとも1つの再生可能エネルギー発電装置から供給された前記発電電力及び前記少なくとも1つの再生可能エネルギー発電装置から配電線に送電された前記発電電力の少なくとも一方を用いた水の電気分解によって水素を発生する少なくとも1つの水電気分解装置と、前記水素に含まれる水分量を所望の範囲に調整して水素利用設備に供給する調湿装置とを備えたことを特徴とする。
【0008】
上記水素供給システムによれば、太陽光発電装置に対応して水電気分解装置を設けるので、太陽光などの再生可能エネルギーのように発電出力が大きく変動する電力であっても、水電気分解装置によって効率良く水素に変換して利用することができる。これにより、連系可能な送電容量以上の発電出力を有する太陽光発電装置を設けた場合であっても、安定した送電電力を事前の予想に基づき確保することが可能となる。この結果、電力網の増強なしに再生可能エネルギーを用いた発電電力を大きく拡大することができ、また送電線を使用せずに水電気分解装置に極めて効率良く電力を供給できるので、再生可能エネルギーの無駄の少ない利用拡大が可能となる。このことについて、電力系統側の視点に立つと、水電気分解装置で変動する発電電力を吸収することにより、電力系統による発電電力の利用率が低い場合であっても、定格出力で接続枠を占有する連系接続容量を解消することも可能となる。さらに、水電気分解装置を設けることにより、日射量及び温度などによって発電出力が変動する太陽光発電装置の発電出力のピークカットが可能となるので、出力が大きな太陽光発電装置を接続しても安定電力を供給することができる。しかも、水分解装置によって得られた水素は、所望の水分量に調整されてボイラー及び燃料電池などの燃料としての水素、製造加工装置で使用される水素及び燃料電池車などにおける水素として利用できる。これにより、これらの各種産業・運輸部門を中心にこれまで用いられていた化石燃料の非化石化を可能とする水素燃料のサプライチェーンの構築が可能となり、より直接的な、地球温暖化対策の推進が可能となる。したがって、再生可能エネルギーの発電電力により効率良く水素を製造及び供給できる水素供給システムを実現できる。
【0009】
上記水素供給システムにおいては、前記水電気分解装置が、固体高分子膜水電気分解装置であることが好ましい。この構成により、太陽光発電装置に対応して固体高分子膜水電気分解装置を設けるので、太陽光などの再生可能エネルギーのように発電出力が大きく変動する電力であっても、水電気分解装置によってより一層効率良く水素に変換して利用することができる。
【0010】
上記水素供給システムにおいては、前記再生可能エネルギー発電装置が、太陽光発電装置であることが好ましい。この構成により、再生可能エネルギーとしての太陽光を用いて効率良く水素を製造及び供給することが可能となる。
【0011】
上記水素供給システムにおいては、予め設定された上限値を超えないように、前記再生可能エネルギー発電装置から送電線に送電される前記発電電力の送電出力を制御することが好ましい。この構成により、送電容量が小さい送電線に大出力の再生可能エネルギー発電装置が接続された場合であっても、再生可能エネルギー発電装置の発電出力を送電電力及び水電気分解による水電解供給電力として有効に活用することが可能となる。
【0012】
上記水素供給システムにおいては、予め設定された出力変化率を超えないように、前記再生可能エネルギー発電装置から送電線に送電される前記発電電力の送電出力を制御することが好ましい。この構成により、日照量の変化、配電線及び送電線の電力系統の系統電圧の変動が大きい場合であっても、これらの系統電圧の変動を緩和することができる。また、電力系統の需給調整対策の負荷の低減も可能となる。
【0013】
上記水素供給システムにおいては、前記水電気分解装置は、予め設定された計画発電量に基づいて、前記再生可能エネルギー発電装置から前記配電線に送電される前記発電電力の送電出力を制御することが好ましい。この構成により、電力の需給計画の精度の向上が可能となり、運用調整対策の負荷を低減することが可能となる。
【0014】
本発明に係る水素供給方法は、少なくとも1つの再生可能エネルギー発電装置による再生可能エネルギーを用いた発電によって発電電力を得る工程と、少なくとも1つの水電気分解装置により前記少なくとも1つの再生可能エネルギー発電装置から供給された前記発電電力及び前記少なくとも1つの再生可能エネルギー発電装置から配電線に送電された前記発電電力の少なくとも一方を用いた水の電気分解により水素を得る工程と、前記水素に含まれる水分量を所望の範囲に調整して水素利用設備に供給する工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
上記水素供給方法によれば、太陽光発電装置からの発電電力を用いて水電気分解装置で水の電気分解をして水素を発生するので、太陽光などの再生可能エネルギーのように発電出力が大きく変動する電力であっても、水電気分解装置によって効率良く水素に変換して利用することができる。これにより、連系可能な送電容量以上の発電出力を有する太陽光発電装置を設けた場合であっても、安定した送電電力を事前の予想に基づき確保することが可能となる。この結果、電力網の増強なしに再生可能エネルギーを用いた発電電力を大きく拡大することができ、また送電線を使用せずに水電気分解装置に極めて効率良く電力を供給できるので、再生可能エネルギーの無駄の少ない利用拡大が可能となる。このことについて、電力系統側の視点に立つと、水電気分解装置で変動する発電電力を吸収することにより、電力系統による発電電力の利用率が低い場合であっても、定格出力で接続枠を占有する連系接続容量を解消することも可能となる。さらに、水電気分解装置により、日射量及び温度などによって発電出力が変動する太陽光発電装置の発電出力のピークカットが可能となるので、出力が大きな太陽光発電装置を用いても安定電力を供給することができる。しかも、水分解装置によって得られた水素は、所望の水分量に調整されてボイラー及び燃料電池などの燃料としての水素、製造加工装置で使用される水素及び燃料電池車などにおける水素として利用できる。これにより、これらの各種産業・運輸部門を中心にこれまで用いられていた化石燃料の非化石化を可能とする水素燃料のサプライチェーンの構築が可能となり、より直接的な、地球温暖化対策の推進が可能となる。したがって、再生可能エネルギーの発電電力により効率良く水素を製造及び供給できる水素供給方法を実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、再生可能エネルギーの発電電力により効率良く水素を製造及び供給できる水素供給システム及び水素供給方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1Aは、本発明の実施の形態に係る水素供給システムの模式図である。
図1B図1Bは、従来の水素供給システムの概略を示す図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る水素供給システムにおける水素利用の概念図である。
図3図3は、本発明の実施の形態に係る水素利用設備の一例を示す図である。
図4図4は、本発明の実施の形態に係る水素供給システムの運転制御の一例を示す図である。
図5図5は、本発明の実施の形態に係る水素供給システムの運転制御の他の例を示す図である。
図6図6は、本発明の実施の形態に係る水素供給システムの運転制御の別の例を示す図である。
図7図7は、本発明の実施の形態に係る太陽光発電装置における時間帯と日照時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
近年、太陽光及び風力などの再生可能エネルギーを用いた再生可能エネルギー発電が脚光を浴びている。再生可能エネルギーとして太陽光を用いた太陽光発電装置は、太陽光発電装置が設置された地域の配電線に接続されることが一般的である。このような太陽光発電装置によれば、各地域の電力網を増強せずに再生可能エネルギーの導入量を増加させることができ、エネルギー自給率向上にもつながる。
【0019】
また、国内エネルギー消費の75%を占める燃料の半分は、業務用及び産業用として各種産業分野で使用されている。このような各種産業分野で用いられる燃料は非化石化が難しく、エネルギーの低炭素化のためにはCOフリー水素への転換が効果的である。
【0020】
本発明者らは、上記事項に鑑みて、再生可能エネルギー発電である太陽光発電によって得られた電力を活用して水素を供給することを着想した。そして、本発明者らは、単に、太陽光発電によって得られた電力を水素に変換して保存するだけでなく、得られた水素を用途に応じて水分含有量を調整して供給することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能である。
【0022】
まず、本実施の形態に係る水素供給システムの概略について説明する。図1Aは、本実施の形態に係る水素供給システムの模式図である。図1Aに示すように、本実施の形態に係る水素供給システム1は、太陽光発電装置12-1~12-nにより得られた発電電力を用いて、水電気分解装置13により水を電気分解して水素を発生し、発生した水素中の水分量を調湿装置14で調整して供給するものである。
【0023】
本実施の形態に係る水素供給システム1は、配電線11に接続された複数の太陽光発電装置12-1~12-n(再生可能エネルギー発電装置)と、配電線11と太陽光発電装置12-1~12-nとの間にそれぞれ設けられた複数の水電気分解装置13-1~13-nと、複数の水電気分解装置13-1~13-nによって製造された水素に含まれる水素を調湿する調湿装置14とを備える。なお、本実施の形態においては、再生可能エネルギー発電装置が太陽光発電装置12-1~12-nである例について説明するが、再生可能エネルギー発電装置としては、例えば、風力発電装置、地熱発電装置、水力発電装置、太陽熱発電装置、地熱発電装置、波力発電装置、潮力発電装置及びバイオマス発電装置、並びに、これらの組み合わせなどの各種発電装置が適用可能である。
【0024】
配電線11は、送電線15に接続されている。配電線11は、太陽光発電装置12-1~12-nで発電された発電電力を送電線15に供給する。送電線15は、配電線11を介して所定の変電所まで送られた電気を各種需要家に供給する。配電線11は、電柱に電線を架線した「架空配電線」であってもよく、電線を地中に埋設した「地中配電線」であってもよい。
【0025】
太陽光発電装置12-1~12-nは、少なくとも1つの太陽電池を備える。太陽電池としては、太陽電池パネルであってもよく、太陽電池フィルムであってもよく、太陽電池パネル及び太陽電池フィルムなどの各種太陽電池を組み合わせて用いてもよい。太陽光発電装置12-1~12-nは、太陽電池が受光した太陽光によって太陽光発電(PV:Photovoltaics)を行う。太陽光発電装置12-1~12-nは、それぞれの太陽光電池で発電した発電電力を、各太陽光発電装置12-1~12-n毎に設けられた水電気分解装置13-1~13-nに供給する。なお、本実施の形態では、水素供給システム1が複数の太陽光発電装置12-1~12-nを備えた例について説明するが、太陽光発電装置は、少なくとも一つ備えていればよい。
【0026】
水電気分解装置13-1~13-nは、太陽光発電装置12-1~12-nから供給された発電電力により水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを製造する。また、水電気分解装置13-1~13-nは、製造した水素を調湿装置14に供給する。水電気分解装置13-1~13-nとしては、例えば、アルカリ水電気分解装置、固体高分子膜水電気分解装置(PEM:Polymer Electrolyte Membrane)などの水を電気分解する各種電気分解装置を用いることが可能である。なお、本実施の形態においては、複数の太陽光発電装置12-1~12-nと送電線15との間に複数の水電気分解装置13-1~13-nをそれぞれ設ける例について説明したが、水電化装置13-1~13-nは、必ずしも全ての太陽光発電装置12-1~12-nと送電線15との間に設ける必要はない。水電気分解装置13-1~13-nは、各太陽光発電装置12-1~12-nの日射量、温度などに応じて送電線15と各太陽光発電12-12-nの間に少なくとも1つ設けられていればよい。この場合、水電気分解装置13-1~13-nは、各太陽光発電装置12-1~12-nに対して配電線11を介して設けられていてもよく、各太陽光発電装置12-1~12-nに対して配電線11を介さずに設けられていてもよい。水電気分解装置13-1~13-nは、各太陽光発電装置12-1~12-nに対して配電線11を介して設けられている場合には、各太陽光発電装置12-1~12-nから配電線11に送電された発電電力を用いて水の電気分解を行う。また、水電気分解装置13-1~13-nは、各太陽光発電装置12-1~12-nに対して配電線11を介さずに設けられている場合には、各太陽光発電装置12-1~12-nから配電線11を介さずに、各太陽光発電装置12-1~12-nから直接供給され又は間接的に供給された発電電力を用いて水の電気分解を行う。
【0027】
本実施の形態においては、水電気分解装置13-1~13-nとしては、太陽光などの再生可能エネルギーを有効利用する観点から、固体高分子膜水電気分解装置を用いることが好ましい。固体高分子膜水電気分解装置によれば、オーバーロード運転が可能となるだけでなく、アルカリ水電気分解装置に対して水素供給圧の圧力変動に強く、また低負荷での運転にも対応できる。また、固体高分子膜水電気分解装置によれば、負荷追従性が高く、多用途に利用できる高品質な水素が得られる。さらに、固体高分子膜水電気分解装置は、整流器装置、スタック及びガス処理装置などからなるユニット構造とすることも可能であり、貨物列車及びトラックなどの輸送用コンテナに収容できる出力1.5MWの固体高分子膜水電気分解装置とすることも可能となる。また、固体高分子膜水電気分解装置は、一般的な蓄電池及びアルカリ水電気分解装置と比較して再生可能エネルギーによる発電出力の急激な変化に対応するために必要な入力要求に対する応答速度が速く、水素発生効率が高いので、ユニット構造でありながらも、大型の設備ではメガソーラ級の太陽光発電装置12-1~12-nにも対応できる。さらに、固体高分子膜水電気分解装置は、入力電力の電流密度に対する応答範囲がアルカリ水電気分解装置に対して約5倍であるだけでなく、再生可能エネルギー発電の電力入力の瞬時の過負荷に対する適応性も高い。また、固体高分子膜水電気分解装置は、極めて水素発生効率が高いことに加え、発生水素の品質が高いためガス処理設備も不要であることも踏まえるとアルカリ水電気分解装置の約10分の1程度の装置サイズで構成することができ、大幅な小型化が可能である。さらに、太陽光発電装置12-1~12-nの発電電力は急激に変化しやすく、このような発電電力の急激な変化に対応するためにも固体高分子膜水電気分解装置が好ましい。
【0028】
また、水電気分解装置13-1~13-nは、エネルギーマネジメントシステム(EMS:Energy Management System)を備える。エネルギーマネジメントシステムは、太陽光発電装置12-1~12-nから水電気分解装置本体への発電電力の供給電力を調整し、水電気分解装置13-1~13-nに過大な負荷がかからないように制御する。また、エネルギーマネジメントシステムは、日射量などによって増減する不安定な部分の発電電力を水電気分解に利用すると共に、電力変動のない安定な部分の発電電力は配電線11及び送電線15を介して系統電力へ送電する。これにより、太陽光発電で得られた発電電力の安定部分のみを電力系統に送電できるので、電力の安定化に寄与するだけでなく、再生可能エネルギーの導入拡大につながることで、エネルギーの低炭素化も実現できる。
【0029】
調湿装置14は、水電気分解装置13-1~13-nから供給された水素に含まれる水分量を所望の範囲に調整して調湿する。また、調湿装置14は、調湿した水素を水素利用設備16に供給する。調湿装置14は、例えば、水素と水とを接触させて増湿操作し、また水素と水分の吸着剤との接触、又は水素と冷却コイルなどの冷却部材との接触及び水分を除湿塔に吸着させることにより、水素の温度を下げる減湿操作をして調湿する。
【0030】
次に、従来の水素供給システムの概略について説明する。図1Bは、従来の水素供給システムの概略を示す図である。図1Bに示すように、従来の水素供給システム100は、配電線101に接続された複数の太陽光発電装置102-1~102-nによって発電した発電電力を、配電線101を介して送電線103に発電電力を送電する。送電線103に送電された太陽光発電装置102-1~102-nの発電電力は、送電線103に接続されたアルカリ水電気分解装置104に供給される。そして、アルカリ水電気分解装置104で発生した水素は水素利用設備105に供給される。
【0031】
このように、従来の水素供給システム100においては、配電線101側に太陽光発電装置102-1~102-nで発電された発電電力を使用する水電気分解装置が設けられていないので、配電線101側に余力が生じることがない。この結果、送電線103側の電力の使用状況及び太陽光発電装置102-1~102-nの発電状況に応じて太陽光発電装置102-1~102-nの発電電力を制限する場合が生じる。これに対して、上記図1Aに示した水素供給システム1によれば、水電気分解装置13-1~13-nが配電線11側に接続されているので、配電線11側の電力状況に余裕が生じる。これにより、太陽光発電装置12-1~12-nの出力を常時最大限に確保して余剰電力を水電気分解装置13-1~13-nに供給することができるので、太陽光発電装置12-1~12-nを効率良く運用することが可能となる。
【0032】
また、図1Bに示した従来の水素供給システム100では、アルカリ水電気分解装置104を用いているので、上述した本実施の形態に係る水素供給システム1のような水の電気分解を効率良く行うこともできない。さらに、アルカリ水電気分解装置104では、水の電気分解後の水素にアルカリ成分が含まれるので、水素利用設備105によってはアルカリ成分に基づく不具合が生じる場合もある。また、従来の水素供給システム100では、アルカリ水電気分解装置104で発生した水素中の水分を調湿できないので、各種水素利用設備105の用途などに適した水素を供給することもできない。これに対して、上記図1Aに示した本実施の形態に係る水素供給システム1においては、例えば、水電気分解装置13-1~13-nとして固体高分子膜水電気分解装置を用いることにより、水の電気分解によって発生した水素にアルカリ成分が含まれることがなく、上述した水素利用設備105における不具合を避けることもできる。そして、上記図1Aに示した水素供給システム1は、水電気分解装置13-1~13-nで発生した水素を調湿装置で調湿するので、水素利用設備16における各種用途に応じてアルカリ成分の含有量が無く、水素利用設備16用途に応じて最適な湿度の水素を供給することが可能となる。
【0033】
図2は、本実施の形態に係る水素供給システム1における水素利用の概念図である。図2に示すように、本実施の形態に係る水素供給システム1から供給される水素ガス(H)は、調湿装置14などに設けられた圧力調整装置によって低圧ガス21及び高圧ガス22に圧力が調整され、例えば、所望都市のLPガス供給エリアA1及び都市ガス供給エリアA2などの水素利用設備16に供給される。低圧ガス21は、例えば、LPガス供給エリアA1内の特定の水素利用設備16との間に設けられた水素ガスパイプラインを介してLPガス供給エリアA1内供給されると共に、既存の都市ガスパイプラインなどを介して都市ガス供給エリアA2に供給される。また、高圧ガス22は、例えば、セミトレーラローダー、水素ボンベ及び水素カードルなどの水素貯蔵装置などの水素輸送設備によってLPガス供給エリアA1内の水素利用設備16に供給される。これにより、水素供給システム1によって製造された水素が、既存のパイプライン又は水素輸送設備などを利用して、水素利用設備16の用途及び立地場所に応じて効率良く供給することが可能となる。なお、ここでの所望都市としては、例えば、太陽光発電装置12-1~12-nが存在する近郊の都市などが挙げられる。また、水素貯蔵装置としては、必ずしも水素ガスを貯蔵するものでなくともよく、水素吸蔵合金などに吸蔵するものであってもよい。
【0034】
図3は、本実施の形態に係る水素利用設備16の一例を示す図である。図3に示すように、本実施の形態に係る水素利用設備16としては、例えば、水素燃料を用いた水素ボイラー31、水素燃料を用いて発電する燃料電池32、水素ガスを用いて製造加工を行う製造装置33、及び水素燃料を用いて走行する燃料電池車及び水素ガス自動車などの運輸装置34が挙げられる。ここで、本実施の形態に係る水素供給システム1においては、調湿装置14によって水素ガス中の水分量及び圧力が調整された水素ガスを供給できるので、各種水素利用装置16に応じた品質の水素を供給することが可能となる。
【0035】
例えば、調湿装置14によって水分量を所定値以内(例えば、5ppm以内)に調整した水素は、圧力を所望の範囲に調整して図2に示した低圧ガス21及び高圧ガス22として図3中の全ての水素利用装置16に供給することが可能である。また、調湿装置14によって水素純度を所定値以上(例えば、5ppm以上所定値以下)に調湿した水素は、例えば、高い水素純度を要求される燃料電池車34などの用途には用いずに水素ボイラー31、燃料電池32及び製造加工装置33などの他の水素利用装置16に低圧ガス21及び高圧ガス22として供給してもよい。また、この場合には、調湿装置14によって圧力を調整せずに低圧ガス21として都市ガスパイプライン又は水素ガスパイプラインを介して他の水素利用装置16に供給してもよい。このように、本実施の形態に係る水素供給システム1は、調湿装置14によって水素の品質を任意に調節し、水素供給対象となる水素利用装置16に応じて任意の品位の水素を供給できるので、燃料電池車34などに高純度の水素を供給できる。しかも、水素ボイラー31、燃料電池32及び製造加工装置33などの必ずしも高純度の水素を必要としない水素利用装置16に対しては、水素の調湿などの生成を軽微にして供給できるので、安価に水素を供給することもできる。
【0036】
次に、本実施の形態に係る水素供給システム1の運転制御について説明をする。図4は、本実施の形態に係る水素供給システム1の運転制御の一例を示す図である。図4に示すように、水素供給システム1は、太陽光発電(PV)装置12-1~12-nのPV発電出力(実線L1参照)、太陽光発電装置12-1~12-nから水電気分解装置13-1~13-nを介して送電線15に発電電力が送電される送電出力(破線L2参照)及び太陽光発電(PV)装置12-1~12-nから水電気分解装置13-1~13-nの水電気分解に発電電力を供給する水電気分解供給電力(一点鎖線L3参照)の観点から水素供給システム1の運転制御を行う。
【0037】
図4に示す例では、送電出力があらかじめ設定された所定の上限値(例えば、定格送電容量:図4では、2.0MW:S1参照)を超えないように、水素供給システム1の制御を行う。これにより、例えば、昼間の日照量が多くなった際に、発電出力が3.0MW近傍となった場合であっても、送電線15に対する送電出力は、2.0MWとなり、残りの発電電力は水電気分解供給電力となる。このような制御により、送電容量が小さい送電線15に大出力の太陽光発電装置12-1~12-nが接続された場合であっても、太陽光発電装置12-1~12-nの発電出力を送電電力及び水電気分解による水電解供給電力として有効に活用することが可能となる。
【0038】
図5は、本実施の形態に係る水素供給システム1の運転制御の他の例を示す図である。図5に示す例では、図4の送電出力の所定値に変えて、送電出力の出力変化率に閾値S2(図5の例では、約0.7MWに設定)を設け、出力変化率が閾値S2を超えないように水素供給システム1の運転制御を行う。この場合には、日照量の変化、配電線11及び送電線15の電力系統の系統電圧の変動が大きい場合であっても、これらの系統電圧の変動を緩和することができる。また、電力系統の需給調整対策の負荷の低減も可能となる。
【0039】
図6は、本実施の形態に係る水素供給システム1の運転制御の別の例を示す図である。図6に示す例では、図4の送電出力の所定値に変えて、所定時間ごとに計画目標値(二点鎖線L4参照)を設け、送電出力が計画目標値と一致するように水素供給システム1の運転制御を行う。計画目標値としては、例えば、気象情報などからあらかじめ設定された所定時間の計画発電量が用いられる。このように制御することにより、電力の需給計画の精度の向上が可能となり、運用調整対策の負荷を低減することが可能となる。
【0040】
また、上述した図4図6に示した運転制御では、バーチャルパワープラント(VPP:Virtual Power Plant)又はデマンドレスポンス(DR:Demand Response)対応装置としての外部からの電力を用いて運転制御を行ってもよい。この場合、水素供給システム1は、例えば、太陽光発電装置12-1~12-nの発電出力が得られない夜間などにおいては、所定出力の電力を外部から調達して水電気分解を行う。これにより、外部の電力を活用して各太陽光発電装置12-1~12-nに対応して設けられた水電気分解装置13-1~13-nを水素の製造に活用できるので、より一層水素供給システム1を有効に活用することが可能となる。
【0041】
以上説明したように、上記実施の形態によれば、図7に示すように、太陽光発電装置12-1~12-nに対応して水電気分解装置13-1~13-nを設けるので、太陽光などの再生可能エネルギーのように発電出力が大きく変動する電力であっても、水電気分解装置によって効率良く水素に変換して利用することができる。これにより、図7に示すように、定格送電容量(S3参照)以上の発電出力(実線L5参照)を有する太陽光発電装置12-1~12-nを設けた場合であっても、安定した送電電力(破線L6参照)を事前の予想に基づき確保することが可能となる。この結果、電力網の増強なしに再生可能エネルギーを用いた発電電力を大きく拡大することができ、また送電線を使用せずに水電気分解供給電力(実線L5と破線L6との差分値)として極めて効率良く利用できるので、再生可能エネルギーの無駄の少ない利用拡大が可能となり、エネルギー自給率の向上が可能となる。しかも、水分解装置によって得られた水素は、所望の水分量に調整されてボイラー及び燃料電池などの燃料としての水素、製造加工装置で使用される水素及び燃料電池車などにおける水素として利用できるので、地球温暖化対策の推進が可能となると共に、各種産業を中心にこれまで用いていた化石燃料の非化石化を可能とする水素燃料のサプライチェーンの構築が可能となり、より直接的な、地球温暖化対策の推進が可能となる。
【0042】
そして、上記実施の形態によれば、太陽電池発電装置12-1~12-nに対応して水電気分解装置13-1~13-nを設けるので、水電気分解装置13-1~13-nで変動する発電電力を吸収することにより、電力系統による発電電力の利用率が低い場合であっても、定格出力で接続枠を占有する連携接続容量を解消することも可能となる。さらに、水電気分解装置13-1~13-nを設けることにより、日射量及び温度などによって発電出力が変動する太陽光発電装置12-1~12-nの発電出力のピークカットが可能となるので、出力が大きな太陽光発電装置12-1~12-nを接続して不安定電力を吸収できる。したがって、再生可能エネルギーの発電電力により効率良く水素を製造及び供給できる水素供給システムを実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、再生可能エネルギーの発電電力により効率良く水素を製造及び供給できる水素供給システム及び水素供給方法を実現できるという効果を有し、例えば、太陽光発電装置などの再生可能エネルギー発電を用いて水素を供給する水素供給システム及び水素供給方法に好適に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1,100 水素供給システム
11 配電線
12-1~12-n 太陽光発電装置
13-1~13-n 水電気分解装置
14 調湿装置
15 送電線
16 水素利用設備
21 低圧ガス
22 高圧ガス
31 ボイラー
32 燃料電池
33 製造加工装置
34 運輸装置
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7