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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】ポリマーセラミックス複合電解質膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20230529BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230529BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20230529BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20230529BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20230529BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/0565
H01M10/0585
H01B1/06 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019029487
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020136125
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝 正坤
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】武 志俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 曉弘
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-191766(JP,A)
【文献】特開2011-089059(JP,A)
【文献】特開2017-117672(JP,A)
【文献】特開2017-199668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/056
H01M 10/052
H01M 10/054
H01M 10/0565
H01M 10/0585
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層の一方面上にカソード側高分子電解質被覆層を有しており、
前記電解質層は、イオン伝導性高分子及び無機電解質を含有し、
前記カソード側高分子電解質被覆層は、イオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含有し、
前記電解質層におけるイオン伝導性高分子が、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、及びフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン-クロロフルオロエチレン三元共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記電解質層における前記イオン伝導性高分子の含有量が、前記電解質層の総量を100質量%として、80~99質量%である、ポリマーセラミックス複合電解質膜。
【請求項2】
前記電解質層の前記一方面とは他方面上にアノード側高分子電解質被覆層を有しており、前記アノード側高分子電解質被覆層は、イオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含有する、請求項1に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
【請求項3】
前記アノード側高分子電解質被覆層の総量を100質量%として、前記アルカリ金属塩の含有量が10~80質量%である、請求項2に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
【請求項4】
前記カソード側高分子電解質被覆層及びアノード側高分子電解質被覆層におけるイオン伝導性高分子が、ポリエチレンオキシド、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル及びこれらの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2又は3に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
【請求項5】
前記カソード側高分子電解質被覆層及びアノード側高分子電解質被覆層におけるアルカリ金属塩が、LiPF6、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、リチウムビス(オキサレート)ボラート、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボラート、NaClO4及びNaBF4よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2~4のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
【請求項6】
前記電解質層の総量を100質量%として、前記無機電解質の含有量が1~90質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
【請求項7】
前記カソード側高分子電解質被覆層の総量を100質量%として、前記アルカリ金属塩の含有量が10~80質量%である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
【請求項8】
前記電解質層における無機電解質が、ペロブスカイト型Li-La-Ti複合酸化物、NASICON型Li-Al-Ti複合リン酸塩、ガーネット型Li-La-Zr複合酸化物、ガーネット型Li-La-Zr-Ta複合酸化物、Li10GeP2S12、xLi2S-(1- x)P2S5(0.5≦x≦1)、Na3Zr2Si2PO12、Na11Sn2PS12、及びNa3PSe4よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜を備える、全固体二次電池。
【請求項10】
請求項2~5のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜を備える全固体二次電池であって、
前記カソード側高分子電解質被覆層の上にカソードを備え、且つ、前記アノード側高分子電解質被覆層の上にアノードを備える、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーセラミックス複合電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
既存のリチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池等の二次電池の電解液には、通常、可燃性の有機溶媒を用いているために安全性に対する致命的な不安を抱えている。そこで、このような電解液を、難燃性のイオン導電性固体ポリマー電解質に置き換え、二次電池を全固体化することで高い安全性が期待される。
【0003】
この際、高い動作電位及び比容量を有するカソード活物質を使用することは、高エネルギー密度の全固体リチウム電池(ASSLB)を製作する上での鍵となるが、カソード活物質は固体電解質との密接な結合も重要である。最近の報告(例えば、非特許文献1参照)によると、柔軟性がある固体ポリマー電解質膜(SPE)は電極材料との密接な結合に実現が容易で、固体ポリマー電解質の製造も簡単である。
【0004】
ところが、従来の固体ポリマー電解質膜ではイオン伝導率は十分とは言えず、さらなる向上が求められている。一方、リチウムイオン、ナトリウムイオン等の移動はカソード及びアノードの両電極と電解質膜との界面において起こるが、電極と固体ポリマー電解質膜との界面は固体-固体界面であり、その界面移動速度は従来の電解液を使用した非水系二次電池と比較して遅く、全固体二次電池は通常60~90℃程度に昇温する必要があった。したがって、低温で高いイオン伝導率を示す固体ポリマー電解質膜を開発する必要がある。
【0005】
ところで、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)は、高いイオン伝導度があるために、固体ポリマー電解質膜のホスト材料として広く使用されているが、高い機械的強度を有するため、大きい界面インピーダンス及び界面接合性の悪さが問題となっている(例えば、非特許文献2参照)。この問題を解決するために、電解質膜及び電極の界面に液体電解質を加える方法が挙げられる。しかしながら、液体電解質の漏れ及び可燃性の問題は、安全性の問題を引き起こし得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Adv. Mater. 2018, 1805574
【文献】Nano Energy 2018, 45, 413-419
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明は、低温でもイオン伝導率が高く、高い電気化学的安定性を有し、全固体二次電池を製造した際に放電容量、サイクル特性及びレート特性に優れた電解質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、イオン伝導性高分子及び無機電解質を含有する電解質層の一方面上に、イオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含有するカソード側高分子電解質被覆層を有することで、上記課題を解決できることを見出した。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0009】
項1.電解質層の一方面上にカソード側高分子電解質被覆層を有しており、
前記電解質層は、イオン伝導性高分子及び無機電解質を含有し、且つ、
前記カソード側高分子電解質被覆層は、イオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含有する、ポリマーセラミックス複合電解質膜。
項2.前記電解質層の前記一方面とは他方面上にアノード側高分子電解質被覆層を有しており、
前記アノード側高分子電解質被覆層は、イオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含有する、項1に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
項3.前記電解質層の総量を100質量%として、前記無機電解質の含有量が1~90質量%である、項1又は2に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
項4.前記カソード側高分子電解質被覆層の総量を100質量%として、前記アルカリ金属塩の含有量が10~80質量%である、項1~3のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
項5.前記アノード側高分子電解質被覆層の総量を100質量%として、前記アルカリ金属塩の含有量が10~80質量%である、項2~4のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
項6.前記電解質層におけるイオン伝導性高分子が、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、及びフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン-クロロフルオロエチレン三元共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~5のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
項7.前記電解質層における無機電解質が、ペロブスカイト型Li-La-Ti複合酸化物、NASICON型Li-Al-Ti複合リン酸塩、ガーネット型Li-La-Zr複合酸化物、ガーネット型Li-La-Zr-Ta複合酸化物、Li10GeP2S12、xLi2S-(1- x)P2S5(0.5≦x≦1)、Na3Zr2Si2PO12、Na11Sn2PS12、及びNa3PSe4よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~6のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
項8.前記カソード側高分子電解質被覆層及びアノード側高分子電解質被覆層におけるイオン伝導性高分子が、ポリエチレンオキシド、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル及びこれらの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~7のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
項9.前記カソード側高分子電解質被覆層及びアノード側高分子電解質被覆層におけるアルカリ金属塩が、LiPF6、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、リチウムビス(オキサレート)ボラート、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボラート、NaClO4及びNaBF4よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~8のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜。
項10.項1~9のいずれか1項に記載のポリマーセラミックス複合電解質膜を備える、全固体二次電池。
項11.前記カソード側高分子電解質被覆層の上にカソードを備え、且つ、前記アノード側高分子電解質被覆層の上にアノードを備える、項10に記載の全固体二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温でもイオン伝導率が高く、高い電気化学的安定性を有し、全固体二次電池を製造した際に放電容量、サイクル特性及びレート特性に優れた電解質膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2で得られた三重層電解質膜の傾き面SEM像及び断面の模式図を示す。
図2】実施例1、実施例2及び比較例1で得られた電解質膜のイオン伝導率の結果を示す。
図3】非特許文献1(Adv. Mater. 2018, 1805574)に記載されているイオン伝導率のグラフである。
図4】リチウムイオン移動速度(実施例2;左図)及び電気化学的安定性(実施例2及び比較例1;右図)の結果である。
図5】実施例で充放電試験に用いた全固体リチウム二次電池セルの概略図を示す。
図6】実施例2で得られた三重層電解質膜を用い、正極活物質としてLiFePO4を用いた全固体リチウム二次電池の速度性能(レート特性)及びサイクル特性の結果を示す。左図は充放電電流を0.02~1.0Cで変化させた場合の充放電の安定性(レート特性)、右図は充放電電流を0.2Cで固定した場合の充放電の安定性(サイクル特性)を示している。
図7】実施例2で得られた三重層電解質膜を用い、正極活物質としてLiCoO2(左図)又はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(右図)を用いた全固体リチウム二次電池の充放電曲線及びサイクル特性の結果を示す。充放電電流を0.1Cで固定した場合の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0013】
また、本明細書において、「全固体二次電池」は、固体電解質膜を備える二次電池を意味しており、全固体リチウムイオン二次電池、全固体ナトリウムイオン二次電池等が包含される。この「全固体二次電池」には、リチウム金属をアノードとする全固体リチウム二次電池、ナトリウム金属をアノードとする全固体ナトリウム二次電池等も包含する概念である。
【0014】
1.ポリマーセラミックス複合電解質膜
本発明のポリマーセラミックス複合電解質膜は、電解質層の一方面上にカソード側高分子電解質被覆層を有しており、前記電解質層は、イオン伝導性高分子及び無機電解質を含有し、且つ、前記カソード側高分子電解質被覆層は、イオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含有する。
【0015】
本発明では、固体電解質層のカソード側と接触する面にイオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含有するカソード側高分子電解質被覆層を備えることによって、低い界面インピーダンスと優れた界面相溶性を達成することができ、低温でもイオン伝導率が高く、高い電気化学的安定性を有し、全固体二次電池を製造した際に放電容量、サイクル特性及びレート特性に優れた電解質膜を得ることができる。
【0016】
このことは、電解質層中に無機電解質を含まない場合は、カソード側高分子電解質被覆層を形成してもイオン伝導率はあまり向上しなかったことを考慮すれば予想外の結果である。
【0017】
また、電解質層の前記一方面とは他方面上に、イオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含有するアノード側高分子電解質被覆層を有する場合には、アノードがデンドライトフリーとなり、電荷担体であるアルカリ金属イオンの高速輸送もさらにしやすく、高電圧でもより優れた充放電性能及びサイクル安定性を示すことができる。
【0018】
(1-1)電解質層
電解質層は、イオン伝導性高分子及び無機電解質を含有する。
【0019】
イオン伝導性高分子(電解質層)
本発明において、電解質層中に含まれるイオン伝導性高分子としては、特に制限されるわけではないが、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体(PVDF-TrFE)、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン-クロロフルオロエチレン三元共重合体(PVDF-TrFE-CFE)等が好ましい。これらのイオン伝導性高分子は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0020】
このようなイオン伝導性高分子の含有量は、特に制限されるわけではないが、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、電解質層の総量を100質量%として、80~99質量%が好ましく、95~99質量%がより好ましい。複数種のイオン伝導性高分子を使用する場合は、その合計量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0021】
無機電解質
本発明において、無機電解質としては、特に制限されるわけではないが、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、ペロブスカイト型Li-La-Ti複合酸化物(Li3xLa2/3-xTiO3(0<x<1)等)、NASICON型Li-Al-Ti複合リン酸塩(Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0<x<1)等)、ガーネット型Li-La-Zr複合酸化物(Li7La3Zr2O12等)、ガーネット型Li-La-Zr-Ta複合酸化物(Li6.4La3Zr1.4Ta0.6O12等)、Li10GeP2S12、xLi2S-(1- x)P2S5(0.5≦x≦1)、Na3Zr2Si2PO12、Na11Sn2PS12、Na3PSe4等が好ましい。このような構成を採用することにより、イオン伝導率をより高くすることができるとともに、安定な界面層が形成されてリチウムデンドライトの生成をより効果的に抑制でき放電容量及びサイクル特性をより向上させることができる。特に、後述のカソード側高分子電解質被覆層及び必要に応じてアノード側高分子電解質被覆層を備えることによるイオン伝導率の改善効果を特に大きくすることができる。これらの無機電解質は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0022】
このような無機電解質の含有量は、特に制限されるわけではないが、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、電解質層の総量を100質量%として、10~50質量%が好ましく、12~20質量%がより好ましい。複数種の無機電解質を使用する場合は、その合計量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0023】
このような電解質層の厚みは特に制限されず、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、50~200μmが好ましく、90~110μmがより好ましい。
【0024】
(1-2)カソード側高分子電解質被覆層
カソード側高分子電解質被覆層は、イオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含有する。このような構成のカソード側高分子電解質被覆層を形成することで、低い界面インピーダンスと優れた界面相溶性を達成することができ、低温でもイオン伝導率が高く、高い電気化学的安定性を有し、全固体二次電池を製造した際に放電容量、サイクル特性及びレート特性に優れた電解質膜を得ることができる。
【0025】
イオン伝導性高分子(カソード側高分子電解質被覆層)
本発明において、カソード側高分子電解質被覆層中に含まれるイオン伝導性高分子としては、特に制限されるわけではないが、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDMA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、これらの共重合体等が好ましい。このようなイオン伝導性高分子は、電解質層中の無機電解質と組合せることで、結晶化が特に抑制されてリチウムイオンの移動が促進されイオン伝導率を高くすることができるとともに、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性及びレート特性を向上させることができる。これらのイオン伝導性高分子は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0026】
このようなイオン伝導性高分子の含有量は、特に制限されるわけではないが、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、カソード側高分子電解質被覆層の総量を100質量%として、20~90質量%が好ましく、40~60質量%がより好ましい。複数種のイオン伝導性高分子を使用する場合は、その合計量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0027】
アルカリ金属塩
本発明において、アルカリ金属塩としては、特に制限されるわけではないが、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、LiPF6、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、リチウムビス(オキサレート)ボラート(LiBOB)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボラート(LiODFB)等のリチウム塩;NaClO4、NaBF4等のナトリウム塩が好ましい。本発明のポリマーセラミックス複合電解質膜を全固体リチウムイオン二次電池に使用する場合はリチウム塩が好ましく、全固体ナトリウムイオン二次電池に使用する場合はナトリウム塩が好ましい。このようなアルカリ金属塩は、アルカリ金属イオンの移動が促進されることで電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度を高くすることができる。これらのアルカリ金属塩は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0028】
このようなアルカリ金属塩の含有量は、特に制限されるわけではないが、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、カソード側高分子電解質被覆層の総量を100質量%として、10~80質量%が好ましく、40~60質量%がより好ましい。複数種のアルカリ金属塩を使用する場合は、その合計量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0029】
このようなカソード側高分子電解質被覆層の厚みは特に制限されず、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、1~10μmが好ましく、2~6μmがより好ましい。
【0030】
(1-3)アノード側高分子電解質被覆層
アノード側高分子電解質被覆層は、イオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含有する。このような構成のアノード側高分子電解質被覆層を形成することで、アノードがデンドライトフリーとなり、電荷担体であるアルカリ金属イオンの高速輸送もさらにしやすく、高電圧でもより優れた充放電性能及びサイクル安定性を示すことができる。
【0031】
アノード側高分子電解質被覆層におけるイオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩は、上記したカソード側高分子電解質被覆層におけるイオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩と同様とすることができる。好ましい種類及び含有量も同様である。
【0032】
このようなアノード側高分子電解質被覆層の厚みは特に制限されず、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、1~10μmが好ましく、2~6μmがより好ましい。
【0033】
上記のような構成を有する本発明のポリマーセラミックス複合電解質膜の総厚み(電解質層、カソード側高分子電解質被覆層原料物質及びアノード側高分子電解質被覆層の総厚み)は、特に制限されず、イオン伝導率、電極とポリマーセラミックス複合電解質膜との界面のアルカリ金属イオンの移動速度、電気化学的安定性、放電容量、サイクル特性、レート特性等の観点から、50~200μmが好ましく、90~110μmがより好ましい。
【0034】
2.ポリマーセラミックス複合電解質膜の製造方法
本発明のポリマーセラミックス複合電解質膜は、例えば、イオン伝導性高分子及び無機電解質を含む電解質層原料物質を混合した後に基材上に塗布し、加熱して電解質層を得た後に、電解質層の一方面にイオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含むカソード側高分子電解質被覆層原料物質を混合した後に塗布し、加熱してカソード側高分子電解質被覆層を形成することで得ることができる。この後、必要に応じて、電解質層のカソード側電解質被覆層が形成されているのとは反対面にイオン伝導性高分子及びアルカリ金属塩を含むアノード側高分子電解質被覆層原料物質を混合した後に塗布し、加熱してアノード側高分子電解質被覆層を形成することもできる。
【0035】
原料物質における各成分の含有量は限定されず、最終的に得ようとするポリマーセラミックス複合電解質膜の組成に応じて適宜選択することができる。
【0036】
電解質層原料物質、カソード側高分子電解質被覆層原料物質及びアノード側高分子電解質被覆層原料物質の混合方法は特に制限されず、乳鉢混合、メカニカルミリング処理(ボールミル混合、振動ミル混合等)、各成分を溶媒中に分散させた後に混合する方法、各成分を溶媒中で一度に分散させて混合する方法等を採用することができる。
【0037】
混合雰囲気は水分を含まない雰囲気であれば特に制限されず、例えば、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性雰囲気等を採用することができる。
【0038】
混合時間は特に制限されず、各成分を十分に混合させることができる時間とすることができ、いずれの場合も、1~36時間(特に2~24時間) が好ましい。また、混合を行う温度は特に制限されず、電解質層を形成する場合は0~50℃(例えば室温)が好ましく、カソード側高分子電解質被覆層原料物質及びアノード側高分子電解質被覆層を形成する場合は20~80℃(特に30~70℃)が好ましい。
【0039】
本発明では、電解質層、カソード側高分子電解質被覆層原料物質及びアノード側高分子電解質被覆層のいずれを形成する場合も、このようにして混合を行った後、乾燥(加熱)することが好ましい。これにより、結晶性をより高めることでイオン伝導率をより高めることができる。
【0040】
乾燥方法は特に制限されず、常法にしたがって行うことができる。例えば、大気圧を0MPaとしたゲージ圧表記で-0.06~-0.1MPa(特に-0.08~-0.1MPa)の減圧又は真空下において、いずれの場合も、40~80℃(特に50~70℃)で1~48時間(特に2~36時間)乾燥することができる。
【0041】
乾燥後は、薄膜状を維持するため、加圧することが好ましい。
【0042】
加圧方法は特に制限されず、常法にしたがって行うことができる。例えば、1~30MPa(特に5~20MPa)において、1~10分(特に2~5分)加圧することができる。
【0043】
3.全固体リチウムイオン二次電池
本発明のポリマーセラミックス複合電解質膜を用いる全固体二次電池(全固体リチウムイオン二次電池、全固体ナトリウムイオン二次電池等)は、公知の手法により製造することができる。 本発明の全固体二次電池は、本発明のポリマーセラミックス複合電解質膜を備えるものであるが、例えば、カソード集電箔、カソード、本発明のポリマーセラミックス複合電解質膜、アノード及びアノード集電箔をこの順に備える(積層した)全固体二次電池とすることができる。
【0044】
カソード集電箔としては、特に制限はなく、様々な金属、合金、炭素材料等を使用することができ、例えば、金、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、これらの合金、炭素材料等が挙げられる。
【0045】
カソード集電箔の厚みは、特に制限はなく、全固体二次電池として成型できる範囲において、よりコンパクトにすることでエネルギー密度を担保する観点から、1~100μmが好ましい。
【0046】
カソードを構成する正極活物質としては、例えば、LiFePO4、LiCoO2、LiNixMnyCozO2(x+y+z=1)、LiNixCoyAlzO2(x+y+z=1)、LiMn2O4、LiMPO4(M: Co及びNiの少なくとも1種)、Li2FePO4F、V2O5、LixV3O8(0.1≦x≦5)、LixVOPO4(0.1≦x≦5)、Li4Ti5O12、LiFeMO4(M: Mn及びSiの少なくとも1種)等のリチウム含有酸化物;S;Se;SeS2;Na3V2(PO4)3、Na2MnP2O7、NaFePO4、Na3MnZr(PO4)3等のナトリウム含有酸化物が挙げられる。なお、本発明の全固体二次電池を全固体リチウムイオン二次電池とする場合はリチウム含有酸化物、S、Se、SeS2等を使用することが好ましく、本発明の全固体二次電池を全固体ナトリウムイオン二次電池とする場合はナトリウム含有酸化物とすることが好ましい。
【0047】
一般に、正極活物質は、電子伝導度の低い材料が多いことから、カソード中に固体電解質、導電助剤等を含ませていてもよい。また、上記正極活物質が導電助剤で覆われていてもよい。
【0048】
固体電解質としては、特に制限されるわけではないが、上記した無機電解質を採用することができる。カソード中に固体電解質を含んでいる場合、固体電解質の含有量は、全固体二次電池全体のエネルギー密度等の観点から、カソードの総量を100質量%として、1~60質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましい。
【0049】
導電助剤としては、例えば、黒鉛;カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等);表面に非晶質炭素を生成させた炭素材料等の非晶質炭素材料;繊維状炭素(気相成長炭素繊維、ピッチを紡糸した後に炭化処理して得られる炭素繊維等);カーボンナノチューブ(各種の多層又は単層のカーボンナノチューブ)等の1種又は2種以上を用いることができる。カソード中に導電助剤を含んでいる場合、導電助剤の含有量は、全固体二次電池全体のエネルギー密度等の観点から、カソードの総量を100質量%として、0.1~20質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0050】
カソードは、上記成分以外にも、バインダー(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、金属微粒子等の各種添加材を含むこともできる。この場合、添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲が好ましく、具体的には、カソードの総量を100質量%として、0~10質量%が好ましく、0.1~5.0質量%がより好ましい。
【0051】
カソードの厚みは、特に制限はなく、全固体二次電池として成型できる範囲において、よりコンパクトにすることでエネルギー密度を担保する観点から、5~1000μmが好ましく、10~100μmがより好ましい。
【0052】
アノードを構成する負極活物質としては、リチウム金属、リチウム貯蔵炭素物質、リチウム合金(Li-Al合金、Li-In合金、Li-Sn合金等)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12等)、シリコン、シリコン含有化合物(SiO、SiC等)、ナシコン型構造の結晶を含む物質(Li1+x+yMxE2-xSiyP3-yO12; 0≦x≦0.4, 0<y≦0.6, MはAl及び/又はGaを示す。EはTi,Ge及びZrの少なくとも1種を示す。)、黒鉛及び他の炭素材料、ナトリウム金属等が挙げられ、全固体二次電池全体のエネルギー密度等の観点からはリチウム金属又はナトリウム金属(全固体リチウムイオン二次電池の場合はリチウム金属、全固体ナトリウムイオン二次電池の場合はナトリウム金属)が好ましく、全固体二次電池全体の安全性等の観点からはリチウムチタン酸化物が好ましい。
【0053】
負極活物質として、電子伝導度の低い材料を使用する場合には、アノード中に導電助剤等を含ませていてもよい。また、上記負極活物質が導電助剤で覆われていてもよい。
【0054】
導電助剤としては、例えば、黒鉛;カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等);表面に非晶質炭素を生成させた炭素材料等の非晶質炭素材料;繊維状炭素(気相成長炭素繊維、ピッチを紡糸した後に炭化処理して得られる炭素繊維等);カーボンナノチューブ(各種の多層又は単層のカーボンナノチューブ)等の1種又は2種以上を用いることができる。アノード中に導電助剤を含んでいる場合、導電助剤の含有量は、全固体二次電池全体のエネルギー密度等の観点から、アノードの総量を100質量%として、0.1~20質量%が好ましく、0.1~5.0質量%がより好ましい。
【0055】
アノードは、上記成分以外にも、バインダー(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、金属微粒子等の各種添加材を含むこともできる。この場合、添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲が好ましく、具体的には、アノードの総量を100質量%として、0~10質量%が好ましく、0.1~5.0質量%がより好ましい。
【0056】
アノードの厚みは、特に制限はなく、全固体二次電池として成型できる範囲において、よりコンパクトにすることでエネルギー密度を担保する観点から、1~1000μmが好ましく、5~200μmがより好ましい。
【0057】
アノード集電箔としては、特に制限はなく、様々な金属、合金、炭素材料等を使用することができる。このようなアノード集電箔としては、例えば、金、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、これらの合金、炭素材料等が挙げられる。
【0058】
アノード集電箔の厚みは、特に制限はなく、全固体二次電池として成型できる範囲において、よりコンパクトにすることでエネルギー密度を担保する観点から、1~100μmが好ましい。
【0059】
さらに、必要に応じてその他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、全固体二次電池を組立てることができる。
【実施例
【0060】
以下、実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にするが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
試薬、機器及び実験条件
フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP):Mw400000、Tm135~140℃(Sigma-Aldrich製)
Li6.4La3Zr1.4Ta0.6O12(LLZTO):(株)豊島製作所製(平均粒子径5.6μm)
ポリエチレンオキシド(PEO8):Mw600000、Tm65℃(Sigma-Aldrich製)
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI):富士フイルム和光純薬(株)製
LiFePO4:宝泉(株)製
LiCoO2:宝泉(株)製
LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2:宝泉(株)製
アルミニウム箔:(株)ニラコ製
リチウム金属箔:本庄ケミカル(株)製(直径12mm、厚さ0.1mm)
銅箔:(株)ニラコ製
【0062】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察及びエネルギー分散型X線(EDX)分析には、(株)日立ハイテクノロジーズ製のSU8010を使用した。電池試験システムとしては、北斗電工(株)製のSD8分析システムを使用した。グローブボックスは(株)美和製作所製のものを使用し、アルゴンガスを充填してアルゴンガス雰囲気としつつ、H2O及びO2の濃度は0.1ppm以下に調整し、全ての処理をグローブボックス中で行った。
【0063】
製造例1:電解質層(PVDF-HFP-15%LLZTO)
溶液キャスティング法により電解質層を調製した。まず、PVDF-HFPペレットを混合溶媒(N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc): アセトン= 1: 2(体積比))に溶解させ、50℃で12時間攪拌し、PVDF-HFP濃度が20質量%である均一溶液を作製した。そして、Li6.4La3Zr1.4Ta0.6O12(LLZTO)粉末を、PVDF-HFPペレット及びLLZTOの総量を100質量%としてLLZTOの含有量が15質量%になるように加え、室温で12時間撹拌し続けた。その後、得られた粘稠溶液を、きれいなガラス板上にフィルムアプリケータで厚さ100μmに広げた後、60℃で12時間真空乾燥した。均一な膜を直径12mmの円形に打ち抜き、次いでさらなる測定のために10MPaで3分間コールドプレスした。この結果、直径12mm、厚さ80μmの電解質層を得た。
【0064】
電気化学試験のために、得られた電解質層を2つのステンレス鋼ブロッキング電極間に挟んだ。この際、電解質層の厚さは100μmであり、イオン伝導率は、5mVのAC振幅、23~100℃の温度範囲且つ105~0.1Hzの周波数範囲で、プリンストンの電気化学ステーションVersaSTAT4で電気化学インピーダンス分光法により測定した。
【0065】
実施例1:カソード側被覆層/電解質層(二重層電解質膜)
製造例1で得た電解質層の上に、PEO8-LiTFSIフィルム(カソード側高分子電解質被覆層)を以下のように調製した。ポリエチレンオキシド-リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PEO8-LiTFSI)粉末(PEO: LiTFSI= 8: 1(モル比))を混合溶媒(N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc): アセトン= 1: 2(体積比))に溶解し、PEO8濃度10質量%の混合溶液を得た。その後、得られた混合溶液を50℃で6時間攪拌し、きれいなガラス板上にフィルムアプリケータで厚さ10μmに広げた。その後、得られたPEO8-LiTFSIフィルムの上に、製造例1で得られたPVDF-HFP-15%LLZTO混合溶液をフィルムアプリケータによって厚さ80μmに広げ、二重層PEO8-LiTFSI/PVDF-HFP-15%LLZTO膜を得た後、60℃で24時間真空乾燥した。得られたPEO8-LiTFSI/PVDF-HFP-15%LLZTO膜を直径12mmの円形に打ち抜き、次いでさらなる測定のために10MPaで3分間コールドプレスした。この結果、直径12mm、厚さ80μmの電解質層の上に、直径12mm、厚さ10μmのカソード側高分子電解質被覆層を有する二重層電解質膜を得た。
【0066】
電気化学試験のために、得られた二重層電解質膜を2つのステンレス鋼ブロッキング電極間に挟んだ。この際、電解質層の厚さは90μmであり、イオン伝導率は、5mVのAC振幅、23~100℃の温度範囲且つ105~0.1Hzの周波数範囲で、プリンストンの電気化学ステーションVersaSTAT4で電気化学インピーダンス分光法により測定した。
【0067】
実施例2:カソード側被覆層/電解質層/アノード側被覆層(三重層電解質膜)
製造例1で得た電解質層の両面上に、PEO8-LiTFSIフィルム(カソード側高分子電解質被覆層及びアノード側高分子電解質被覆層)を以下のように調製した。ポリエチレンオキシド-リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PEO8-LiTFSI)粉末(PEO: LiTFSI= 8: 1(モル比))を混合溶媒(N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc): アセトン= 1: 2(体積比))に溶解し、PEO8濃度10質量%の混合溶液を得た。その後、得られた混合溶液を50℃で6時間攪拌し、きれいなガラス板上にフィルムアプリケータで厚さ10μmに広げた。その後、得られたPEO8-LiTFSIフィルムの上に、製造例1で得られたPVDF-HFP-15%LLZTO混合溶液をフィルムアプリケータによって厚さ80μmに広げ、二重層PEO8-LiTFSI/PVDF-HFP-15%LLZTO膜を得た後、40℃で1時間真空乾燥した。その後、得られた二重層PEO8-LiTFSI/PVDF-HFP-15%LLZTOゲル膜のPVDF-HFP-15%LLZTO膜の上に、上記したPEO8-LiTFSI混合溶液を再び厚さ10μmに広げ、60℃で24時間真空乾燥した。得られたPEO8-LiTFSI/PVDF-HFP-15%LLZTO/PEO8-LiTFSI膜を直径12mmの円形に打ち抜き、次いでさらなる測定のために10MPaで3分間コールドプレスした。この結果、直径12mm、厚さ10μmのアノード側高分子電解質被覆層、直径12mm、厚さ80μmの電解質層、及び直径12mm、厚さ10μmのカソード側高分子電解質被覆層を順に有する三重層電解質膜を得た。
【0068】
得られた三重層電解質膜の傾き面SEM像及び断面の模式図を図1に示す。この結果、PVDF-HFP-15%LLZTO電解質層の両面に、PEO8-LiTFSI高分子電解質被覆層が形成されていることが理解できる。
【0069】
電気化学試験のために、得られた三重層電解質膜を2つのステンレス鋼ブロッキング電極間に挟んだ。この際、電解質層の厚さは100μmであり、イオン伝導率は、5mVのAC振幅、23~100℃の温度範囲且つ105~0.1Hzの周波数範囲で、プリンストンの電気化学ステーションVersaSTAT4で電気化学インピーダンス分光法により測定した。
【0070】
得られた三重層電解質膜の電気化学的安定性ウインドウは、作用電極としてステンレス鋼板、対電極としてリチウム金属を用いて、走査速度1mV/sで、電位範囲2.0~6.5Vにおける線形掃引ボルタンメトリーにより評価した。
【0071】
得られた三重層電解質膜のリチウムイオン移動数(リチウムイオンの移動速度)については、ACインピーダンス測定に関連する10mVのDC分極電圧を有する対称リチウム、三重層電解質膜及びリチウムをこの順に備えるセルを用いて測定した。リチウム電極の厚みは、いずれも0.1mmとした。初期(I0)及び定常(Iss)電流は、直流分極試験により評価した。試験前及び試験後のインターフェースインピーダンスをそれぞれ10MHz~0.01Hzの周波数でACインピーダンス測定からR0及びRssを得た。
【0072】
イオン伝導率
実施例1、実施例2及び比較例1で得られた電解質膜のイオン伝導率を図2に示す。
【0073】
比較例1、実施例1及び実施例2で得られた電解質膜のイオン伝導率は、30℃でそれぞれ2.90×10-6S/cm、7.22×10-5S/cm、2.29×10-4S/cmであり、PEO8-LiTFSI層を形成するほどイオン伝導率が劇的に向上することが理解できる。この増強は、PEO8-LiTFSI層が、PVDF-HFP-15% LLZTO層との優れた界面適合性を有し、そして界面インピーダンスを低減させることによって説明され得る。
【0074】
なお、非特許文献1(Adv. Mater. 2018, 1805574)に記載されているイオン伝導率のグラフを図3に示す。図3からは、電解質層がPMA-LiTFSI層である、つまり、無機電解質を含んでいない場合は、その表面にPEO8-LiTFSI層を形成しても、イオン伝導率に大差はないことが理解できる。この知見からすれば、本発明のように、電解質層が無機電解質を含んでいる場合に、特定の高分子電解質被覆層を形成することでイオン伝導率が劇的に向上することは予想外の結果である。
【0075】
リチウムイオン移動速度及び電気化学的安定性
リチウムイオン移動速度(実施例2)及び電気化学的安定性(実施例2及び比較例1)の結果を図4に示す。この結果、実施例2で得られた三重層電解質膜は、液体電解質(tLi+: 0.22;PNAS, 2017, 114(42), 11069-11074.参照)よりも高いリチウムイオン移動数(tLi+: 0.51)を有していた。また、実施例2で得られた三重層電解質膜は、比較例1で得られた電解質層(4.3V)よりも広い電気化学安定性ウィンドウ(5.2V)を有していた。主な理由は、LLZTO粒子の均一な分布が高速イオン輸送及び電気化学的安定性の向上に有利であり、PEO8-LiTFSI層もオーム分極を減少させることができることに起因するものと思われる。
【0076】
全固体リチウム二次電池の製造
実施例2で得られた三重層電解質膜を用いて、充放電試験用の全固体リチウム二次電池セルを図5のように作製した。
【0077】
アノード集電箔としては銅フォイル(厚み0.01mm)を用い、アノードとしてはリチウム金属(厚み0.1mm)を用いた。一方、カソード集電箔としてはアルミフォイル(厚み0.01mm)を用い、カソードとしては市販の正極活物質LiFePO4、LiCoO2又はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2電極板(Hohsen Corp., Japan (Capacity: 1.5 mAh cm-2、厚み0.05mm)を使用した。
【0078】
銅フォイルの上に、リチウム金属、実施例2で得られた三重層電解質膜、用意したカソード及びアルミフォイルをこの順に積層し、手動プレスを用い、総厚みが0.25mmの全固体リチウム二次電池セルを得た。
【0079】
充放電試験
正極活物質としてLiFePO4として作製した全固体リチウム二次電池セルを用いて、40℃で充放電試験を行った。
【0080】
まず、カットオフ電圧(2.9~3.8V)で制御し、0.02Cに相当する充放電電流で10サイクル、次いで0.1Cに相当する充放電電流で10サイクル、次いで0.2Cに相当する充放電電流で10サイクル、次いで0.5Cに相当する充放電電流で10サイクル、次いで0.8Cに相当する充放電電流で10サイクル、次いで1.0Cに相当する充放電電流で10サイクル、次いで0.1Cに相当する充放電電流で40サイクル充放電試験を行い、全固体リチウム二次電池の速度性能を評価した。結果を図6(A)に示す。実施例2で得られた三重層電解質膜を用いた全固体リチウム二次電池は優れたレート性能を発揮し、放電サイクルは100サイクルで0.1 Cに戻った後も初期放電容量の92.54%保持していた。ほぼ同じ電流密度(0.2mA/cm2)の下、放電容量(138.27mAh/g)は、非特許文献2(Nano Energy 2018, 45, 413-419)の報告(113mAh/g)よりも著しく高かった。
【0081】
次に、カットオフ電圧(2.9~3.8V)で制御し、0.2Cに相当する充放電電流で40サイクル充放電試験を行いサイクル特性の評価を行った。結果を図6(B)に示す。この結果、40サイクル後に98.1%の良好な容量保持率を示した。
【0082】
これらの結果は、実施例2で得られた三重層電解質膜が安定な電解質-アノード界面、及びより低い界面インピーダンスに寄与し得ることを意味する。
【0083】
正極活物質としてLiCoO2として作製した全固体リチウム二次電池セルを用いて、40℃で充放電試験を行った。
【0084】
カットオフ電圧(2.5~4.2V)で制御し、0.1Cに相当する充放電電流で60サイクル充放電試験を行いサイクル特性の評価を行った。結果を図7(左図)に示す。
【0085】
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2として作製した全固体リチウム二次電池セルを用いて、40℃で充放電試験を行った。
【0086】
カットオフ電圧(3.0~4.2V)で制御し、0.1Cに相当する充放電電流で80サイクル充放電試験を行いサイクル特性の評価を行った。結果を図7(右図)に示す。
【0087】
この結果、実施例2で得られた三重層電解質膜を備えた全固体型リチウム二次電池は、高電圧安定性(4.0V以上)と優れたサイクル安定性を実現した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7