(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】紡績糸及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/22 20060101AFI20230529BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20230529BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20230529BHJP
D03D 15/40 20210101ALI20230529BHJP
D01G 15/02 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
D02G3/22
D02G3/36
D02G3/04
D03D15/40
D01G15/02 Z
(21)【出願番号】P 2022557032
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2021037848
(87)【国際公開番号】W WO2022080401
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020172666
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599089332
【氏名又は名称】ユニチカテキスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】福島 直也
(72)【発明者】
【氏名】名本 和広
(72)【発明者】
【氏名】岸本 広大
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-213708(JP,A)
【文献】特開平07-003557(JP,A)
【文献】特開2008-101294(JP,A)
【文献】特開2004-176212(JP,A)
【文献】特開2004-011052(JP,A)
【文献】特開2004-011060(JP,A)
【文献】特開平03-294533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00- 3/48
D03D 1/00-27/18
D01G 1/00-99/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド短繊維を含有する紡績糸であって、
(1)
繊維長が20~80mmであるポリイミド短繊維の含有量が50質量%以上で
あり、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、セルロース系繊維及びポリビニルアルコール系繊維の少なくとも1種の含有量が0~50質量%であるポリイミド系短繊維束を含み、
(2)紡績糸中のポリイミド短繊維の含有量が20質量%以上であ
り、
(3)紡績糸が撚り糸である、
ことを特徴とする紡績糸。
【請求項2】
ポリイミド短繊維を含有する紡績糸であって、糸条長手方向に対して垂直な断面において芯部と鞘部とを有し、鞘部が前記ポリイミド系短繊維束である、請求項1に記載の紡績糸。
【請求項3】
ポリイミド短繊維を含有する紡績糸であって、糸条長手方向に対して垂直な断面において芯部と鞘部とを有し、芯部が前記ポリイミド系短繊維束である、請求項1に記載の紡績糸。
【請求項4】
鞘部がセルロース系繊維を50質量%以上含有する、請求項3に記載の紡績糸。
【請求項5】
糸条長手方向に対して垂直な断面における前記芯部と前記鞘部との面積比が、芯部:鞘部=80:20~20:80である、請求項2~4のいずれかに記載の紡績糸。
【請求項6】
ウースター斑(U%)が13%以下である、請求項1~5のいずれかに記載の紡績糸。
【請求項7】
撚係数Kが3.0~6.0である、請求項1~6のいずれかに記載の紡績糸。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の紡績糸を含む織編物。
【請求項9】
紡績糸を製造する方法であって、以下の(1)及び(2)の工程:
(1)
繊維長が20~80mmであるポリイミド短繊維100質量部及び油剤
として界面活性剤0.05~0.3質量部を含む短繊維原料を用い、混打綿処理により、ポリイミド短繊維を50質量%以上
ならびにポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、セルロース系繊維及びポリビニルアルコール系繊維の少なくとも1種を0~50質量%含有するシート状のラップを得る工程、及び
(2)前記シート状のラップをカーディング処理するに際し、当該カーディング処理後により得られるウエブの静電気発生量を-0.2~+0.2kvの範囲内に調整しながらカードスライバーを得る工程
を含むことを特徴とする紡績糸の製造方法。
【請求項10】
さらに(3)粗紡工程として、前記カードスライバーから得られた複数の練条スライバーを用い、少なくとも1本の練条スライバーを芯用スライバーとし、他の練条スライバーを前記芯部用スライバーに巻付けつつ紡出することによって二層構造を有する粗糸を得る工程を含む、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド短繊維を含む紡績糸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消防服をはじめ、製鉄所又は製鋼所での作業服、溶接作業用作業服等のように、火炎、高熱などに晒される場所で使用される作業服(上衣(トップス)及び下衣(ボトムス)のほか、手袋、靴下等を含む。)などには、アラミド繊維などの耐熱性繊維からなる布帛が使用されている。
【0003】
前記各種作業服では、耐炎性、難燃性、高強力、耐薬品性、耐疲労性(布帛強度、引き裂き強力保持特性)、耐熱性などが求められるので、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、これらの繊維と他繊維との混綿糸又は紡績糸などが用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
上記のようなアラミド繊維と同様に、耐薬品性及び耐熱性に優れる繊維として、ポリイミド繊維が知られている。特許文献3には、ポリイミドのマルチフィラメントを得る製造方法が記載されており、電気絶縁材料、防炎服、タイヤコード、FRPなど各種産業資材用途に使用できることが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、高温応力下、酸性条件下などの厳しい条件下において、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性及び強度のいずれにも優れた濾布として好適に用いられる積層体として、ポリイミドマルチフィラメント糸からなる織物とポリイミドステープルからなるウエブを積層してなる積層体が記載されている。
【0006】
前記したような火炎、高熱などに晒される危険の大きい場面で使用される作業服において、耐熱性、耐薬品性等に優れたポリイミド繊維を使用すると、さらなる性能の向上が期待できる。ところが、ポリイミド繊維は、剛性が強いので柔軟性に劣るという問題点がある。
【0007】
このため、主に衣料用に用いられる各種の織編物において、ポリイミド繊維本来の耐熱性及び耐薬品性を十分に活かすことができる一方で、ソフトな風合いを有する織編物を提供できるような紡績糸は未だ開発されるに至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平1-221537号公報
【文献】特開平4-50340号公報
【文献】特開平1-292120号公報
【文献】特開平9-52308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の主な目的は、ポリイミド短繊維を所定量用い、耐熱性、耐薬品性及び耐摩耗性にも優れるとともに、ソフトな風合いを有する織編物を製造できるポリイミド短繊維含有紡績糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような織編物を得るために、ポリイミド短繊維(ステープルファイバー)を用いた紡績糸を用いて製編織することを検討した。特に、ポリイミド短繊維の含有量が50質量%以上であるポリイミド系短繊維束を含む紡績糸とすることにより、上記目的を達成できるのではないかと考えた。
【0011】
一般に、紡績糸としては、例えば綿花、羊毛、綿花、羊毛、麻などの繊維を紡績加工して得られた糸に加え、化学繊維としてポリエステル、ポリアミド、アクリル等の短繊維を前記の糸とともに使用した紡績糸が広く使用されている。
【0012】
しかしながら、ポリイミド短繊維を用いた紡績糸はほとんど提案されていない。その理由は、ポリイミド繊維は前記の化学繊維とは異なり、剛性が強く、水分、油分の量などが大きく異なることから、通常の紡績工程において使用している短繊維に代えてポリイミド短繊維を使用しても、所望の紡績糸を得ることができないためであると推測される。
【0013】
そこで、本発明者らは、特に以下のような点において、一般的な紡績工程を見直した。紡績糸を製造する工程においては、混打綿機を使って原綿を解きほぐすと同時に、原綿に付着しているゴミを除去し、シート状の「ラップ」を得る。次に、そのシート状のラップをカード工程に供給する。カード工程では、カード機を用いてラップをカーディングして繊維を1本ずつに分離し、平行に引き揃え、小さいゴミ及び短い繊維を取り除く。残った長い繊維をある程度平行状態に揃えてウエブを紡出し、これを集束してカレンダーロールで押圧し、紐状の「カードスライバー」を得る。
【0014】
ポリイミド繊維は剛性が強く、前記のように、水分、油分ともにポリエステル、ポリアミド等の化学繊維とは異なっていることから、ポリイミド短繊維が50質量%以上を占めるステープルファイバー(原綿)を用いて混打綿工程を行うと、得られるシート状のラップは均整度が悪くなる。さらに、カード工程においてラップをカーディングして繊維を1本ずつに分離し、平行状態に引き揃えたウエブを紡出した後、これを集束してカレンダーロールに導入するが、紡出されたウエブが集束されず、巻き上がる現象が生じる。その結果、ウエブがカレンダーロールに導入されず、カードスライバーを得ることができない。また、巻き上がる現象が小さく、ウエブがカレンダーロールに導入された場合であっても、繊維が平行に引き揃えられた均整度の高いカードスライバーを得ることはできない。
【0015】
紡績糸を得る場合には、カードスライバーを得た後、練条工程において、カードスライバーを6~8本合わせ、練条機を用いて6~8倍に引き延ばしながら、繊維を真っすぐにして太さ斑をなくした「練条スライバー」を得る。つまり、練条工程において、次工程の粗紡工程において太さ斑のない粗糸を得るためには、繊維が平行に引き揃えられて延伸が施された、均整度の高い練条スライバーとすることが求められる。この場合、均整度の低いカードスライバーを用いると、均整度の高い練条スライバーを得ることはできなくなり、ひいては太さ斑のない粗糸も得られなくなる。
【0016】
そこで、本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、特に、カード工程において、所定量の油剤を含む短繊維原料を用いたうえで、それを混綿打処理することにより得られたラップをカーディングした後に紡出されるウエブの静電気発生量を±0.2kv以下に調整しながらカーディングを行うことによって、たとえポリイミド短繊維が全質量の50質量%以上を占める場合であっても、均整度の高いカードスライバーを得ることができることを見出し、本発明を完成する至ったものである。
【0017】
すなわち、本発明は、下記の紡績糸及びその製造方法に係るものである。
1. ポリイミド短繊維を含有する紡績糸であって、
(1)ポリイミド短繊維の含有量が50質量%以上であるポリイミド系短繊維束を含み、
(2)紡績糸中のポリイミド短繊維の含有量が20質量%以上である、
ことを特徴とする紡績糸。
2. ポリイミド短繊維を含有する紡績糸であって、糸条長手方向に対して垂直な断面において芯部と鞘部とを有し、鞘部が前記ポリイミド系短繊維束である、前記項1に記載の紡績糸。
3. ポリイミド短繊維を含有する紡績糸であって、糸条長手方向に対して垂直な断面において芯部と鞘部とを有し、芯部が前記ポリイミド系短繊維束である、前記項1に記載の紡績糸。
4. 鞘部がセルロース系繊維を50質量%以上含有する、前記項3に記載の紡績糸。
5. 糸条長手方向に対して垂直な断面における前記芯部と前記鞘部との面積比が、芯部:鞘部=80:20~20:80である、前記項2~4のいずれかに記載の紡績糸。
6. ウースター斑(U%)が13%以下である、前記項1~5のいずれかに記載の紡績糸。
7. 前記項1~6のいずれかに記載の紡績糸を含む織編物。
8. 紡績糸を製造する方法であって、以下の(1)及び(2)の工程:
(1)ポリイミド短繊維100質量部及び油剤0.05~0.3質量部を含む短繊維原料を用い、混打綿処理により、ポリイミド短繊維を50質量%以上含有するシート状のラップを得る工程、及び
(2)前記シート状のラップをカーディング処理するに際し、当該カーディング処理後により得られるウエブの静電気発生量を-0.2~+0.2kvの範囲内に調整しながらカードスライバーを得る工程
を含むことを特徴とする紡績糸の製造方法。
9. さらに(3)粗紡工程として、前記カードスライバーから得られた複数の練条スライバーを用い、少なくとも1本の練条スライバーを芯部用スライバーとし、他の練条スライバーを鞘部用スライバーとして前記芯部用スライバーに巻付けつつ紡出することによって二層構造を有する粗糸を得る工程を含む、前記項8に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐熱性、耐薬品性及び耐摩耗性に優れるとともに、ソフトな風合いが要求される織編物を製造できる紡績糸を提供することができる。特に、本発明の紡績糸は、ポリイミド短繊維の含有量が50質量%以上であるポリイミド系短繊維束を含むものであるため、ポリイミド繊維本来の特性である優れた耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等を有するとともに、得られる織編物にソフトな風合いを付与することができる。
【0019】
また、本発明の紡績糸は、特に、芯部にポリイミド短繊維を含み、かつ、鞘部にセルロース系繊維を含む二層構造を有する場合等においては、優れた耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等を有するとともに、得られる織編物にソフトな風合い及び高い染色性を付与することができる。
【0020】
このため、本発明の紡績糸から得られる織編物は、例えば消防服、製鉄所又は製鋼所での作業服、溶接作業用作業服等のように、火炎又は高熱に晒される危険の大きい用途で使用される作業服、作業手袋などに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の紡績糸を得るためのカード機の一実施態様例を示す模式図である。
【
図2】芯部と鞘部を有する本発明の紡績糸を得るための粗紡機の一実施態様例を示す概略図である。
【
図3】芯部と鞘部を有する本発明の紡績糸を得るための粗紡機の一実施態様例を示す概略図である。
【
図4】本発明の二層構造紡績糸の断面構成例を含む斜視図である。
【
図5】本発明の紡績糸の断面構成例の模式図である。
【符号の説明】
【0022】
41 カレンダーローラー
42 ケンス
43 ドッファー
44 シリンダー
45 フラット
46 テーカーローラー
47 フィードローラー
48 フィードテーブル
49 ラップローラー
51 スライバー
52 ウエブ
53 測定位置
54 ラップ
A バックローラ
B ミドルローラ
C エプロン
D フロントローラ
E フライヤーヘッド
F フライヤー
G 粗糸
S1 芯部用スライバー
S2 鞘部用スライバー
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.紡績糸
本発明の紡績糸は、ポリイミド短繊維を含有する紡績糸であって、
(1)ポリイミド短繊維の含有量が50質量%以上であるポリイミド系短繊維束(以下、単に「短繊維束P」と称することがある。)を含み、
(2)紡績糸中のポリイミド短繊維の含有量が20質量%以上である、
ことを特徴とする。
【0024】
(A)紡績糸の構成
本発明の紡績糸は、短繊維束Pを含むものであれば、その形態、構造等は特に限定されず、例えば短繊維束Pのみからなる単一型(単層型)の紡績糸、短繊維束Pが芯部又は鞘部を形成する芯鞘構造を呈する二層構造紡績糸等のいずれであっても良い。特に、衣料用途に好適なソフトな風合い、染色性、吸水性などの用途に応じた特性を織編物に付与するには、二層構造紡績糸が好ましい。
【0025】
単一型の紡績糸は、ポリイミド短繊維の含有量が50質量%以上である短繊維束Pのみから実質的に構成される紡績糸である。
図5Aのように糸条長手方向に対して垂直な断面において、単層(単相)である紡績糸である。
【0026】
なお、単一型の紡績糸において、短繊維束P中のポリイミド短繊維の含有量が100質量%である場合は、実質的にポリイミド短繊維のみからなる紡績糸が本発明の紡績糸となる。また、単一型の紡績糸において、短繊維束P中にポリイミド短繊維以外の繊維(以下「第2短繊維」と称することがある。)が含まれる場合は、ポリイミド短繊維と第2短繊維とを含む混紡糸が本発明の紡績糸となる。
【0027】
二層構造紡績糸は、芯部又は鞘部が短繊維束Pであるものであり、糸条長手方向に対して垂直な断面において芯部と鞘部とを有する。例えば
図4に示すような紡績糸10が挙げられる。この紡績糸10は、短繊維束Pである芯部11と、その周囲を覆うように形成された鞘部12とから構成されている。紡績糸10の糸条長手方向に対して垂直な断面の模式図を
図5Cに示す。また、本発明は、
図5Cとは芯部及び鞘部が逆の配置を有する構造であっても良い。本発明は、例えば
図5Bの断面図に示すように、短繊維束Pが鞘部12である紡績糸も包含する。本発明の二層構造紡績糸としては、
図5B及び
図5Cで示したように、鞘部12が短繊維束Pであるもの(以下、「紡績糸A」と称することがある。)と、芯部11が短繊維束Pであるもの(以下、「紡績糸B」と称することがある。)の2種類の紡績糸が好ましい。
【0028】
本発明の二層構造紡績糸は、上記した練条工程において得られた均整度の高い複数の練条スライバーを用い、粗紡工程において、少なくとも1本の練条スライバーを芯部用スライバーとし、他の練条スライバーを鞘部用スライバーとして芯部用スライバーに巻付けて鞘部を形成させながら紡出することにより二層構造を有する粗糸を得る工程を含む方法により得られることが好ましい。二層構造紡績糸の詳細な製造方法については後述する。
【0029】
本発明では、紡績糸中におけるポリイミド短繊維の含有量が20質量%以上であり、特に25質量%以上であることが好ましい。従って、例えば30質量%以上に設定したり、あるいは50質量%以上に設定することもできる。これにより、ポリイミド短繊維本来の物性(耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等)をより効果的に発現させることができる。なお、上記の含有量の上限は、例えば90質量%程度とすることができるが、これに限定されない。
【0030】
また、前記のような二層構造紡績糸の場合は、短繊維束Pにポリイミド短繊維が所定量含まれている限り、ポリイミド短繊維は芯部及び鞘部の両方に含まれていても良いし、あるいは短繊維束Pのみに含まれていても良い。
【0031】
(B)短繊維束P
本発明の紡績糸は、前記のように、短繊維束Pを含むことを必須とする。短繊維束Pは、本発明の紡績糸中1本又は2本以上含まれていても良い。なお、本発明において、1本の短繊維束Pは、一般的には粗紡機に導入される直前の1つの練条スライバーから構成されるものである。
図5A~
図5Cでは、いずれも短繊維束Pは1本である。
【0032】
短繊維束P中のポリイミド短繊維は、短繊維として扱われているものであれば限定されないが、通常は繊維長が20~80mmのものであることが好ましい。また、単繊維繊度としては、0.5~10.0dtexの範囲が好ましく、より好ましくは0.8~3.0dtexの範囲が挙げられる。0.5dtex未満であると繊維自体の強力に劣る場合がある。一方、10.0dtexを超えて過度に太くなると、繊維同士の絡みが少なることにより紡績糸の強力がかえって低下しやすくなり、また後工程の加工性、風合い等の品位面に劣る場合がある。
【0033】
短繊維束Pに含まれるポリイミド短繊維は、耐熱性(難燃性)の指標である限界酸素指数(LOI値)が、36~38であるものが好ましい。
【0034】
短繊維束P中に含まれるポリイミド短繊維の含有量は、通常は50質量%以上であり、特に60質量%以上であることが好ましく、その中でも70質量%以上であることがより好ましい。上記含有量の上限は、例えば100質量%とすることができるが、これに限定されない。上記の含有量が50質量%未満の場合は、ポリイミド繊維の本来の物性が得られなくなるおそれがある。
【0035】
ポリイミド短繊維の含有量が100質量%未満の場合は、短繊維束P中にポリイミド短繊維以外の短繊維(以下、ポリイミド短繊維以外の短繊維を「第2短繊維」ともいう。)が含まれることになる。第2短繊維は、1種又は2種以上であっても良い。
【0036】
第2短繊維としては、本発明の効果を妨げない限りは、特に限定されず、合成繊維、半合成繊維又は天然繊維のいずれでも良い。例えば、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、セルロース系繊維、ポリビニルアルコール系繊維等の少なくとも1種を好適に用いることができる。この中でも、染色性及び風合いの見地から、第2短繊維としてセルロース系繊維(セルロース系短繊維)を含むことが好ましい。また、第2短繊維は、難燃性を有するものであることが好ましい。
【0037】
セルロース系繊維としては、特に限定されるものではなく、例えば、綿、麻などの天然セルロース繊維、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維などの再生セルロース繊維のほか、モダール繊維などを用いることができる。特に、難燃性・耐熱性に優れた紡績糸とする観点から、難燃性を具備するセルロース繊維(難燃レーヨン繊維等の難燃セルロース繊維)を含むことが好ましい。難燃性を具備するセルロース繊維としては、例えば、リン化合物を主成分とする難燃剤を繊維内部に含有する再生セルロース繊維があげられる。この再生セルロース繊維は、既存のビスコース法などを準用すれば容易に得ることができる。例えば、紡糸液にかかる難燃剤を添加するなどして公知の湿式紡糸を行えば、容易に難燃性を具備する再生セルロース系繊維を得ることができる。
【0038】
セルロース系繊維は、短繊維として扱われているものであれば限定されないが、通常は繊維長が20~80mmのものであることが好ましい。また、単繊維繊度としては、0.5~6.0dtexの範囲が好ましく、特に1.0~5.0dtexの範囲がより好ましい。0.5dtex未満であると繊維自体の強力に劣る場合がある。一方、6.0dtexを超えて過度に太くなると、繊維同士の絡みが少なくなることにより紡績糸の強力がかえって低下しやすくなるほか、後工程の加工性、風合い等が低下する場合がある。
【0039】
短繊維束P中に第2短繊維を含む場合の実施形態としては、例えばポリイミド短繊維60~100質量%、第2短繊維が0~40質量%である組成が挙げられる。さらに、第2短繊維中に占めるセルロース系繊維の割合は、例えば90~100質量%程度とすることができるが、これに限定されない。
【0040】
(C)短繊維束P以外の短繊維束
本発明の紡績糸は、短繊維束Pを含むものであるが、前記のような二層構造紡績糸である場合は、短繊維束P以外の短繊維束(以下「短繊維束Q」ともいう。)の1種又は2種以上が含まれることになる。
【0041】
短繊維束Qを構成する繊維の種類としては、前記短繊維束Pで採用されているポリイミド短繊維及び第2短繊維と同様のものを用いることができ、これらの1種又は2種以上を適宜採用することができる。特に、本発明の紡績糸では、短繊維束Qとして、セルロース系繊維を50質量%以上(好ましくは60質量%以上)含むものを好適に採用することができる。これにより、紡績糸に所望の特性をより確実に付与することができる。
【0042】
短繊維束Qの実施形態としては、例えば第2短繊維が60~100質量%、ポリイミド短繊維が0~40質量%である組成が挙げられる。本発明において、第2短繊維中に占めるセルロース系繊維の割合は、例えば85~100質量%程度とすることができるが、これに限定されない。
【0043】
(D)本発明の紡績糸の特性
本発明の紡績糸は、短繊維束Pを含む。そして、短繊維束Pを有していながらも、後述する製造方法を採用することによって、太さ斑のない(ウースター斑(U%)が小さい)紡績糸とすることができる。このような紡績糸であることにより、得られる織編物はソフトな風合いを有するとともに品位が向上し、幅広い衣料用途に使用できる織編物を得ることができる。かかる観点から、本発明の紡績糸においては、ウースター斑(U%)が13%以下であることが好ましく、特に12%以下であることがより好ましい。なお、ウースター斑(U%)の下限値は、例えば8%程度とすることができるが、これに限定されない。
【0044】
本発明の紡績糸は、耐熱性(難燃性)の指標である限界酸素指数(LOI値)が25以上であるものが好ましく、中でも26~41であるものがより好ましい。
【0045】
摩耗強さ(日本産業規格 JIS L1095の9.10.1 A法の標準時に従って測定する、往復摩擦回数の平均値で示すもの)は、350以上であることが好ましい。JIS L1095の9.10 摩耗強さ 9.10.1 A法、A法は、次の手順による。 a) 標準時 直径7.6cmの金属円筒にJIS R 6253に規定するCw-C-P1 000の研磨紙を巻き、これに箇条7によって調整した試料を
図5に示すように0.00265N/texの荷重を加えた状態で接触させる。次に金属円筒を130回/分の往復速度で10cm間の距離を往復運動させ、試料が摩耗によって切断するまでの往復摩擦回数を測定する。試験回数は30回とし、摩耗強さは、摩擦回数の平均値及び変動率を小数点以下1けたに丸めて表す。荷重が異なる場合は、その荷重及び試験回数を増した場合は,その試験回数を試験報告書に付記する。
【0046】
<紡績糸の実施形態>
本発明の紡績糸は、特に衣料用途に好適なソフトな風合い、染色性、吸水性などの特性を得られる織編物に付与するには、中でも、以下に説明するような二層構造紡績糸とすることが好ましい。従って、好ましい実施形態として二層構造紡績糸(特に前記の紡績糸A,B)をより具体的に説明する。
【0047】
紡績糸A
紡績糸Aは、例えば
図5Bに示すように、鞘部12として配置された短繊維束Pと、その鞘部12の空間に芯部11として配置された短繊維束Qとから構成されている。
【0048】
鞘部は、ポリイミド短繊維の含有量が50質量%以上であるポリイミド系短繊維束(短繊維束P)である。中でも、鞘部の短繊維束Pは、ポリイミド短繊維を60質量%以上含むものが好ましく、さらにはポリイミド短繊維を70質量%以上含むものがより好ましい。
【0049】
鞘部に含まれるポリイミド短繊維以外の第2短繊維としては、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等に優れるものが好ましい。例えば、難燃レーヨン繊維、難燃モダール繊維、難燃ビニロン繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃アクリル繊維、アラミド繊維等が挙げられる。これらの繊維は複数種類含まれていてもよい。また、これらは、芯部の第2短繊維としても使用できる。
【0050】
芯部は、第2短繊維を60質量%以上含む短繊維束Qである。第2短繊維としては、セルロース系繊維を含むことが好ましい。セルロース系繊維は、芯部中に60質量%以上含むものが好ましい。
【0051】
芯部に含まれるセルロース系繊維以外の第2短繊維としては、二層構造紡績糸の機械的特性値、セルロース系繊維によるソフトな風合いの付与効果を妨げないものが好ましく、例えばアクリル繊維、ポリエステル繊維等を用いることができる。
【0052】
紡績糸A全体におけるポリイミド短繊維の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、中でも25質量%以上であることがより好ましい。
【0053】
紡績糸A全体における第2短繊維の含有量は、20~80質量%であることが好ましく、中でも25~75質量%であることがより好ましい。
【0054】
紡績糸Aを構成する第2短繊維の含有量が20質量%未満である場合、あるいは芯部の第2短繊維の割合が50質量%未満である場合は、第2短繊維が有する特性を付与することが困難となる。芯部の第2短繊維としては、上記したようにセルロース系繊維を含むことが好ましく、芯部のセルロース系繊維の割合は60質量%以上、中でも80質量%以上、さらには90質量%以上であることが好ましい。第2短繊維としてセルロース系繊維を使用すると、得られる織編物にソフトな風合い又は吸水性を付与することが可能となり、衣料用途に好適に使用することができる。
【0055】
このような二層構造紡績糸としては、例えば鞘部用スライバーとしてポリイミド短繊維を50質量%以上含有する練条スライバーを用い、芯部用スライバーとしてセルロース系繊維を50質量%以上(特に60質量%以上)含有する練条スライバーを用いて、二層構造紡績糸としたものが好ましい。
【0056】
紡績糸Aは、上記のような構成とすることにより、ポリイミド短繊維が繊維表面に多く露出しているため、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等に優れるものとなる。第2短繊維が、芯部中に比較的多く含まれるため、第2短繊維の有する性能を併せて持つ繊維とすることができる。例えば、セルロース系繊維の場合であれば、ソフトな風合い、吸水性等に優れるものとなる。
【0057】
紡績糸Aは、耐熱性(難燃性)の指標である限界酸素指数(LOI値)が、36以上であるものが好ましく、中でも37以上であるものがより好ましい。また、摩耗強さ(JIS L1095の9.10.1 A法の標準時に従って測定する、往復摩耗回数の平均値で示すもの)が3000以上であることが好ましく、中でも3500以上であることがより好ましい。
【0058】
紡績糸Aにおける、糸条長手方向に対して垂直な断面における芯部と鞘部の面積比は、芯部:鞘部=80:20~20:80であることが好ましく、中でも芯部:鞘部=60:40~20:80であることが好ましい。
【0059】
なお、本発明の二層構造紡績糸における前記の芯部と鞘部との面積比は、二層構造紡績糸の長手方向に対して垂直に切断した断面を光学顕微鏡で写真撮影し、断面写真より面積比を測定することができる。
【0060】
紡績糸Aの構成の実施形態の一例としては、芯部はポリイミド短繊維0~40質量%であり、第2短繊維が60~100質量%である組成であり、鞘部はポリイミド短繊維90~100質量%であり、第2短繊維が0~10質量%である組成が挙げられる。この場合、第2短繊維の組成例としては、セルロース系繊維が90~100質量%であり、アクリル繊維、ポリエステル繊維及びポリビニルアルコール系繊維等の少なくとも1種が0~10質量%とすることができる。
【0061】
紡績糸B
紡績糸Bは、例えば
図5Cに示すように、鞘部12として配置された短繊維束Qと、その鞘部12の空間に芯部11として配置された短繊維束Pとから構成されている。
【0062】
紡績糸Bは、芯部がポリイミド短繊維の含有量が50質量%以上であるポリイミド系短繊維束(短繊維束P)である。中でも、芯部の短繊維束Pは、ポリイミド短繊維を60質量%以上含むものが好ましく、さらにはポリイミド短繊維を70質量%以上含むものがより好ましい。
【0063】
芯部に含まれる第2短繊維としては、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等に優れるものが好ましく、例えば難燃レーヨン繊維、難燃モダール繊維、難燃ビニロン繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃アクリル繊維等の少なくとも1種が挙げられる。これらは、鞘部における第2短繊維としても使用することができる。
【0064】
また、芯部に含まれる第2短繊維は、鞘部に含まれる第2短繊維と同じ種類の繊維が含まれていることが好ましい。
【0065】
鞘部は、第2短繊維を60質量%以上(好ましくは80質量%以上、より好ましくは90~100質量%以上)含む短繊維束Qである。
【0066】
鞘部に含まれる第2短繊維として、セルロース系繊維を用いることが好ましく、鞘部中にセルロース系繊維を50質量%以上含むものが好ましく、中でも60質量%以上含むことがより好ましく、さらには90質量%以上含むものが最も好ましい。従って、前記含有量を90~100質量%と設定することもできる。特に、第2短繊維としてセルロース系繊維を使用することにより、得られる織編物にソフトな風合い又は吸水性を付与することが可能となり、衣料用途に好適に使用することができる。
【0067】
鞘部の第2短繊維としては、上記したようにセルロース系繊維を含むことが好ましいが、セルロース系繊維以外の第2短繊維としては、二層構造紡績糸の機械的特性あるいはセルロース系繊維によるソフトな風合い又は染色性の付与効果を妨げない範囲で用いることが好ましい。例えば、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維等の少なくとも1種を好適に用いることもできる。
【0068】
そして、紡績糸B全体におけるポリイミド短繊維の含有量は、通常20質量%以上であることが好ましく、中でも25質量%以上であることがより好ましい。
【0069】
さらには、紡績糸B全体における第2短繊維の含有量は、通常20~80質量%であることが好ましく、中でも25~75質量%であることがより好ましい。
【0070】
紡績糸Bを構成する第2短繊維の含有量が20質量%未満である場合、あるいは鞘部中の第2短繊維の割合が60質量%未満である場合は、第2短繊維を繊維表面に用いることで得ることができる特性(例えば、ソフトな風合い、染色性、吸水性等)を十分に付与することができず、特に一般衣料用途に広く使用することが困難となることがある。
【0071】
このような二層構造紡績糸としては、鞘部用スライバーとしてセルロース系繊維を50質量%以上(特に60質量%以上)含有する練条スライバーを用い、芯部用スライバーとしてポリイミド短繊維を50質量%以上含有する練条スライバーを用いて、二層構造紡績糸としたものが好ましい。
【0072】
紡績糸Bは、上記のような構成とすることにより、ポリイミド短繊維が繊維表面に露出することがないため、ポリイミド繊維の剛性又は染色性に劣る性質をカバーしつつ、紡績糸としては、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等に優れる性能を付与することができる。特に、鞘部にセルロース系繊維を50質量%以上含むことにより、染色性又はソフトな風合いに優れた紡績糸とすることができる。
【0073】
紡績糸Bは、上記のような特性値として、耐熱性(難燃性)の指標である限界酸素指数(LOI値)が、26以上であるものが好ましい。また、摩耗強さ(JIS L1095の9.10.1 A法の標準時に従って測定する、往復摩耗回数の平均値で示すもの)が350以上であることが好ましく、中でも450以上であることがより好ましい。
【0074】
紡績糸Bにおける、糸条長手方向に対して垂直な断面における芯部と鞘部の面積比は、芯部:鞘部=80:20~20:80であることが好ましく、中でも芯部:鞘部=60:40~30:70であることがより好ましい。この面積比は、紡績糸Aで説明した方法と同様にして測定できる。
【0075】
紡績糸Bの構成の実施形態の一例としては、芯部はポリイミド短繊維60~80質量%であり、第2短繊維が20~40質量%である組成を有し、鞘部はポリイミド短繊維0~10質量%であり、第2短繊維が90~100質量%である組成を有するものが挙げられる。この場合、第2短繊維の組成例としては、セルロース系繊維が90~100質量%であり、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール系繊維等の少なくとも1種が0~10質量%とすることができる。
【0076】
本発明の二層構造紡績糸は、前記したように、少なくとも1本の練条スライバーを芯部用スライバーとし、鞘部用スライバーとして他の練条スライバーを前記芯部用スライバーに巻付けつつ紡出する工程を含む方法により、芯部と鞘部を有する二層構造の粗糸とする工程を経て得られるものが好ましい。この場合が、上記工程において、芯部を複数有する二層構造紡績糸とすることもできる。つまり、本発明の二層構造紡績糸は、芯部を2個以上有するものであってもよい。
【0077】
なお、
図2~
図3の装置を用いることにより芯部(短繊維束P又は短繊維束Q)が1個の二層構造紡績糸を製造することができる。例えば、芯部が2~4個のものを製造するには、芯部を構成する練条スライバーを2~4本供給し、鞘部を構成する練条スライバーで巻き付けることにより製造することができる。
【0078】
2.紡績糸の製造方法
本発明の紡績糸は、例えば、以下の(1)及び(2)の工程:
(1)ポリイミド短繊維100質量部及び油剤0.05~0.3質量部を含む短繊維原料を用い、混打綿処理により、ポリイミド短繊維を50質量%以上含有するシート状のラップを得る工程(混打綿工程)、及び
(2)前記シート状のラップをカーディング処理するに際し、当該カーディング処理後により得られるウエブの静電気発生量を-0.2~+0.2kvの範囲内に調整しながらカードスライバーを得る工程(カード工程)
を含むことを特徴とする紡績糸の製造方法によって好適に製造することができる。
【0079】
混打綿工程では、ポリイミド短繊維100質量部及び油剤0.05~0.3質量部を含む短繊維原料を用い、混打綿処理により、ポリイミド短繊維を50質量%以上含有するシート状のラップを得る。
【0080】
混打綿工程において、ポリイミド短繊維100質量部及び油剤0.05~0.3質量部を含む短繊維原料を用いる。すなわち、短繊維原料(出発材料)として、油剤の種類、付着量をコントロールして繊維表面に油剤を付与した表面処理ポリイミド短繊維を用いて、シート状のラップを得る。そして、カード工程において、カード工程付近の雰囲気温度、湿度等を調整することにより、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量を±0.2kv以下に調整しながらカード工程を行い、カードスライバーを得る。
【0081】
油剤としては、市販されている紡績用の繊維油剤を使用することができ、特に合成繊維の紡績時に使用される繊維油剤が好ましい。その中でも界面活性剤を使用することが好ましく、さらには非イオン界面活性剤を使用することが好ましい。非イオン界面活性剤は、エステル型、エーテル型、エステル・エーテル型等のいずれであっても良い。特に、本発明では、エーテル型(特にポリオキシエチレン・アルキルエーテル系)が好ましい。このような界面活性剤としては、市販品を使用することもできる。例えば、松本油脂製薬社製「マーポテロンLE」等を好適に使用することができる。
【0082】
油剤は、ポリイミド短繊維の繊維質量に対して、0.05~0.3質量%付与することが好ましく、特に0.08~0.2質量%付与することがより好ましい。この範囲内に設定することによって、カード工程におけるウエブの静電気発生量をより確実にコントロールすることができる。
【0083】
油剤をポリイミド短繊維に付与する方法は、特に限定されず、例えば油剤を濃度1.0~5.0%程度に希釈した希釈液を調製し、ポリイミド短繊維の原綿の繊維表面にスプレーにて均一に吹き付けることにより給油する方法を好適に採用することができる。油剤をポリイミド短繊維に付与するタイミングは、限定的ではないが、少なくとも混打綿処理に供する前に実施することが望ましい。
【0084】
混打綿処理の条件等は、原綿であるポリイミド短繊維を解きほぐすことによりシート状のラップが得られる限りは特に限定されず、例えば公知又は市販の混打綿機を用い、その装置の使用条件の範囲内に従って実施することもできる。
【0085】
カード工程では、前記シート状のラップをカーディング処理するに際し、当該カーディング処理後により得られるウエブの静電気発生量を-0.2~+0.2kvの範囲内に調整しながらカードスライバーを得る。すなわち、カード工程で得られるウエブの電気発生量を-0.2~+0.2kvの範囲内になるようにカーディング処理を実施する。本発明の紡績糸の製造方法において、特に重要な工程の一つは、混打綿機で得られたラップからスライバーを得るカード工程である。
【0086】
本発明では、ポリイミド短繊維が50質量%以上を占めるカードスライバーを得ることが必要である。ポリイミド繊維の特性を考慮しながら、様々な検討をした結果、カード機でカーディング処理された後に紡出されるウエブの静電気発生量を±0.2kv以下に調整しながらカード工程を行うことによって、短繊維束P中のポリイミド短繊維が50質量%以上を占める場合であっても、均整度の高いカードスライバーが得られることを見出した。
【0087】
ここで、
図1を用いてカード工程について説明する。まずは原綿であるポリイミド短繊維を混打綿機を使って解きほぐすと同時に、原綿に付着しているゴミを除去し、シート状のラップ54を得る。このラップを複数のローラを経て、カード機に導入する。なお、原綿としてポリイミド短繊維と第2短繊維を用いる場合であっても、同様に行う。
【0088】
次に、カード機においてラップをカーディング処理して繊維を1本ずつに分離し、平行状態に引き揃えたウエブを紡出する。そして、これを集束してカレンダーロールに導入する。この際のウエブ52の静電気発生量は、
図1に示す測定位置53にて計測することが好ましい。
【0089】
カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、ウエブの直上(ウエブより25mm上部)でシムコジャパン社製「Simco-Ion 静電気測定器ELECTROSTATIC FIELDMETER FMX-003」を用いて測定する。
【0090】
静電気発生量が上記範囲外であると、ラップをカード工程においてカーディング処理した後に紡出されるウエブの巻き上がりが生じ、カレンダーロールに導入することができない。また、たとえカレンダーロールに導入することができたとしても、均整度の高い紐状のカードスライバーを得ることができない。
【0091】
カード機から紡出されるウエブの静電気発生量を上記のような範囲のものにするには、例えばカード工程付近の雰囲気温度又は湿度を調整することにより、ウエブの静電気発生量をコントロールすることが可能である。特に、雰囲気温度としては、通常15~45℃の範囲内とすることが好ましい。また、湿度としては、通常45~75%の範囲内とすることが好ましい。
【0092】
併せて、前記の通り、混打綿工程に供給するポリイミド短繊維として、繊維質量に対して0.05~0.3質量%の油剤が付与されたポリイミド短繊維を用いることにより、カード工程におけるウエブの静電気発生量をより確実にコントロールすることが可能となる。
【0093】
このように、例えば混打綿工程におけるポリイミド短繊維への油剤の付与量、カード工程におけるウエブの静電気発生量等を適切な値に調整することにより、繊維の1本ずつが平行状態に引き揃えられた均整度の高いカードスライバーを得ることができる。
【0094】
さらに、太さ斑がなく、品位の高い紡績糸を得るためには、カード工程の後、カードスライバーから更に細かく短い繊維を取り除き、櫛(くし)で梳(す)かすように繊維を平行にするコーミング工程を経ることが好ましい。コーミング工程は、コーマ機を使用して行うものであり、スライバーにおける繊維の平行度、均整度をより向上させることができる。これによって、太さ斑がより少なく、より品位の高い紡績糸を得ることができる。
【0095】
上記の製造方法においては、ポリイミド短繊維を50質量%以上含有するスライバーを得る方法を示しているが、第2繊維(セルロース系繊維等)を50質量%以上(特に60質量%以上)含有するスライバーを得る場合には、公知の方法により製造することもできる。
【0096】
前記で得られたカードスライバーは、練条工程においてカードスライバーを複数本合わせて延伸を行うことにより、太さ斑のない練条スライバーを得ることができる。これにより、太さ斑のない品位の高い紡績糸を得ることができる。練条工程は、公知の練条工程における条件等に従って実施することができる。
【0097】
上記のようにして得られた練条スライバーを用いて二層構造紡績糸を製造する場合は、さらに複数の練条スライバーを用い、少なくとも1本の練条スライバーを芯部用スライバーとし、他の練条スライバーを鞘部用スライバーとして前記芯部用スライバーに巻付けつつ紡出することによって二層構造を有する粗糸を得る工程(粗紡工程)を行う。
【0098】
より具体的には、ポリイミド短繊維を50質量%以上含有する練条スライバー(スライバーS1)と第2繊維を50質量%以上含有する練条スライバー(スライバーS2)をそれぞれ得た後、製法例1により本発明の二層構造紡績糸(紡績糸Aの場合を例示)を得ることができる。
【0099】
製法例1:スライバーS1と、スライバーS2とを用意し、スライバーS1を芯部とし、スライバーS2をスライバーS1に巻き付けて鞘部を形成するように粗紡した後、精紡することにより、本発明の二層構造紡績糸を得ることができる。
【0100】
なお、下記に示す製法例2により本発明の二層構造紡績糸(紡績糸Aの場合を例示)を得ることもできる。
【0101】
製法例2:スライバーS1とスライバーS2をそれぞれ粗紡機に供給して粗糸(粗糸S1、粗糸S2)とした後、粗糸S1を芯部とし、粗糸S2を粗糸S1に巻き付けて鞘部を形成するように精紡することにより、本発明の二層構造紡績糸を得ることができる。
【0102】
以下、製法例1により紡績糸Aを製造する方法について、図面を用いて説明する。
図2(概略図)及び
図3(概略図)に示す構造の粗紡機を用いて、
図3に示すようにスライバーS1とスライバーS2を供給し、
図3におけるドラフト方向に対するスライバーS1のフライヤーヘッドへの進行角度θを60°とし、スライバーS1にスライバーS2を巻き付けて、フライヤーによる仮撚り効果を与えながら巻き取ることで、スライバーS1が芯部、スライバーS2が鞘部となる二層構造糸(粗糸)を形成することができる。
【0103】
なお、製法例1により紡績糸Bを製造する場合には、スライバーS1とスライバーS2を入れ替えて供給することにより、スライバーS2が芯部、スライバーS1が鞘部となる二層構造糸(粗糸)を形成することができる。ここで初めて「撚り」をかけてボビンに「粗糸」を巻き取る。
【0104】
これらの粗紡工程の撚数は、限定的ではないが、次工程の精紡工程の延伸不良を起こさない程度で設定することが好ましい。例えば、撚係数を0.4~1.5程度に調整することができる。ここで、芯部となるスライバーと、鞘部となるスライバーとの質量比率は、(芯部):(鞘部)=20:80~80:20となるように調整することが好ましく、特に繊維の比重、強力、捲縮等の様々な要因を考慮した配分とすることが好ましい。
【0105】
粗紡工程で作製された粗糸は、さらに精紡工程に供することができる。この工程では、粗糸を撚りながら伸ばし、所定の強度のある紡績糸を得ることができる。
【0106】
精紡工程の撚り数は、特に限定されないが、物性(強力・毛羽等)又は風合いの観点から、撚係数Kは3.0~6.0の範囲内であることが好ましく、特に3.4~5.0の範囲内であることがより好ましい。撚係数Kが3.0未満のような甘撚では、糸の素抜けの発生原因になったり、織編物にした際の物性(特にピリング)が悪化する場合がある。逆に、撚係数Kを上げると、一定の強力の向上、シャリ感の良化が達成できるが、6.0を超えると、生産性の悪化、風合い硬化、あるいは継ぎ目不良、スナール等の欠点につながりやすい場合がある。
【0107】
なお、撚係数Kは、以下の式で求められる。
撚係数(K)=撚数(回数/2.54cm)/√(英式綿番手)
【0108】
3.織編物
本発明の織編物は、上記したような本発明の紡績糸を含むものである。本発明の織編物における本発明の紡績糸の含有割合は60質量%以上が好ましく、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等をより重要視する場合には、80質量%以上であることがより好ましく、さらには100質量%であることが最も好ましい。
【0109】
また、本発明の織編物において、高い耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等が要求される用途に使用する場合には、ポリイミド短繊維が繊維表面となるように、鞘部にポリイミド短繊維を配した二層構造紡績糸(紡績糸A)を用いることが好ましい。一方、ソフトな風合い又は染色性を重要視する場合には、芯部にポリイミド繊維を配し、第2短繊維が繊維表面となるように配した二層構造紡績糸(紡績糸B)を用いることが好ましい。
【0110】
そして、それぞれの使用目的、用途等に応じて、織編物の組織、目付等を適宜選択すればよい。
【0111】
耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等を重要視する織物の場合、平織、紗織(ツイル)、二重織、リップストップ等の組織が好ましい。これらの組織は、糸の浮きが少ないので、通気しにくく、熱又は炎の通過を防ぐことができる。また、軽すぎる(薄すぎる)とこれらの性能に乏しくなり、重すぎる(厚すぎる)と快適性が損なわれる。
【0112】
よって、本発明の織編物の目付は、限定的ではないが、通常100~500g/m2の範囲とすることが好ましい。また、防炎衣料としては、特に250~350g/m2の範囲とすることが好ましい。
【0113】
また、本発明の紡績糸として、単一型の紡績糸又は紡績糸Aの少なくともいずれかを経糸及び緯糸に用いて得られた織物は、耐熱性に優れることを示す指標として、燃焼性、熱伝達性に優れ、かつ、摩耗強力にも優れるものとなる。
【0114】
本発明の紡績糸又は織編物については、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の加工(例えば、カレンダ加工、起毛加工、吸水加工、撥水加工、制電加工、防縮加工、抗菌加工、消臭加工など)が施されていてもよい。
【実施例】
【0115】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより詳細に説明する。なお、それぞれの物性の測定方法又は評価方法は以下の通りである。
【0116】
〔紡績糸の特性値〕
<限界酸素指数(LOI値)>
得られた紡績糸を用い、JIS L1091のE法に従って測定した。
<摩耗強さ>
得られた紡績糸を用い、JIS L1095の9.10.1 A法の標準時に従って、初荷重を11gとし、研磨紙P1000を使用して測定した。試験回数は30回とし、摩耗強さは、摩擦回数の平均値で示す。
<ウースター斑(U%)>
紡績糸の均整度を表すのにkeisokki社製のEVENNESS TESTER(MODEL:KET-80 V/B)を用いて、得られた紡績糸の太さ斑をU%(糸の単位長さ当たり質量の平均標準偏差)で評価した。U%の値が小さいほど糸の太細がない均整度の高い紡績糸であり、高品質な織・編物を得ることができる。
【0117】
〔織物の特性値及び評価〕
<燃焼性>
得られた織物を用い、JIS L1091のA-4法による残炎時間、残じん時間、及び燃焼長さにより評価した。
<熱伝達性>
得られた織物を用い、JIS T8020のB法に基づき、試験片を自立形フレーム(試験片ホルダ)に固定し、一定レベルの放射熱に暴露する。熱量計の温度が12℃上昇するのに要した時間(t12)及び24℃上昇するのに要した時間(t24)により評価した。
<摩耗強力>
得られた織物を用い、JIS L 1096:2010のA法(ユニバーサル型法)のA-1法(平面法)で押圧荷重:4.45Nでの布帛の破壊までの回数により評価した。
<風合い> 得られた織物を用い、ソフトな風合いの有無をパネリストによる手触りにより、以下の3段階で評価した。
○;手触りが滑らかであり、衣料用途に使用可能な優れた柔らかさを有している。
△;柔らかさを有してはいるがごわつき感がある。
×;柔らかさを有しておらず、衣料用途に使用することが不適である。
<染色性>
実施例及び比較例にて得られた織物を用い、パネリストによる目視にて以下の2段階で評価した。
○;所望の色に染色されている。
×;所望の色に染色されていない(色が薄い)。
【0118】
〔使用した繊維〕
以下の実施例及び比較例で使用した繊維を以下に示す。
(a)ポリイミド短繊維;JIANGSU AOSHEN HI-TECH NEW MATERIALS CO.LTD製、1.67dtex×38mm、LOI値38
(b)難燃レーヨン繊維;オーミケンシ社製「NEXT-FR」、1.40dtex×38mm、LOI値29
(c)難燃ビニロン繊維;クラレ社製「T18」、1.70dtex×38mm、LOI値32
(d)難燃アクリル繊維;KANEKA社製、1.70dtex×38mm、LOI値32
(e)アラミド繊維;Kermel社製のメタ系アラミド繊維、1.70dtex×51mm、LOI値33
【0119】
実施例1
(スライバーS1)
ポリイミド短繊維62.5質量%と難燃レーヨン繊維37.5質量%を混用し、混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入する前に、ポリイミド短繊維に油剤として、ポリオキシエチレン・アルキルエーテル系非イオン型界面活性剤「マーポテロンLE」(松本油脂製薬社製)を0.1質量%の付着量となるように付与した。
そして、カード工程付近の雰囲気温度と湿度を、温度25~27℃、湿度58~60%に保ち、混打綿工程で得られたラップを
図1に示すようなカード機に投入し、カード機内で梳綿工程を経た後、ウエブを紡出した。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、-0.05~-0.01kvであった。
カード機から紡出されるウエブは良好に集束され、カレンダーロールで押圧されて均整度の高いカードスライバーが得られた。
次に、カードスライバーをコーマ機に導入し、カードスライバーから更に細かく短い繊維を取り除き、繊維の平行度と均整度を上げるためのコーミング工程を経た。
得られたコーマスライバーを練条工程において、8本合わせて、8.94倍に延伸を行い、スライバーS1を得た。
(スライバーS2)
難燃レーヨン繊維のみを用いて、混打綿工程、カード工程、練条工程を経て、スライバーS2を得た。
芯部用スライバーとしてスライバーS1を、鞘部用スライバーとしてスライバーS2をそれぞれ用意した。
図1(概略断面図)及び
図2(概略断面図)に示す構造の粗紡機を用いて、芯部用スライバーS1と鞘部用スライバーS2を供給し、延伸後の各スライバーの質量比をS1:S2=40:60となるようにし、
図2におけるドラフト方向に対する芯部用スライバーS1のフライヤーヘッドへの進行角度θを60°として、粗糸質量240gr/30yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)、撚り数を0.977回/2.54cmとした粗糸を得た。
この粗糸を精紡機のトランペット(ガイド)に通し、バックローラ、エプロン、フロントローラの順を経て、30.95倍の延伸を行った後、撚り数20.8回/2.54cmでZ方向に撚りをかけ、30番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸(紡績糸B)を得た。この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて二層構造紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。
この二層構造紡績糸の双糸を使用し、エアジェット織機により、経密度67本/2.54cm、緯密度66本/2.54cmである、2/1右綾の生機を得た。下記の糊抜き条件で糊抜きを行った後に、下記の染色条件で反応染色させて織物を作製した。
(糊抜き条件)
酵素糊抜きとしてのビオテックス5g/L、サンモールFL1g/Lを用い、浴比1:50で、60℃×90分の条件下で実施した。
(染色条件)
反応染料「Remazol Brill B Blue 3%(owf)」に、芒硝20g/L、苛性ソーダ30g/Lmを添加し、これに糊抜き後の織物を浸漬し、60℃×60分の条件で染色した。次いで、ソーピング(「リポトールRK-5」 1g/Lを使用し、90℃×10分の条件で実施)後に、フィックス(チェールカットCF-2 2%(owf)を使用し、60℃×10分の条件で実施)した。次いで、「リケンレジンM-3」を0.5質量%、ACX(触媒)を0.05質量%、残部を水として付与し、175℃×90秒で、テンターで処理して仕上げした。
【0120】
実施例2
(スライバーS1)
ポリイミド短繊維80質量%と難燃レーヨン繊維20質量%を混用し、混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維には、あらかじめ実施例1と同様の油剤を繊維全量に対して0.2質量%の割合で付与した。
そして、カード工程、コーミング工程、練条工程を実施例1と同様の条件で行い、スライバーS1を得た。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、-0.05~-0.01kvであった。
(スライバーS2)
実施例1と同様のものを用いた。
芯部用スライバーとしてスライバーS1を、鞘部用スライバーとしてスライバーS2をそれぞれ用意した。実施例1と同様の方法で紡績を行い、30番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸(紡績糸B)を得た。この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて二層構造紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0121】
実施例3
(スライバーS1)
ポリイミド繊維62.5質量%と難燃レーヨン繊維37.5質量%を混用し、混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維には、あらかじめ実施例1と同様の油剤を繊維全量に対して0.05質量%の割合で付与した。そして、カード工程、コーミング工程、練条工程を実施例1と同様の条件で行い、スライバーS1を得た。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、-0.20~-0.10kvであった。
(スライバーS2)
実施例1と同様のものを用いた。
芯部用スライバーとしてスライバーS1を、鞘部用スライバーとしてスライバーS2を用意した。実施例1と同様の方法で紡績を行い、30番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸(紡績糸B)を得た。この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて二層構造紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0122】
実施例4
(スライバーS1)
ポリイミド繊維62.5質量%と難燃ビニロン繊維37.5質量%を混用し、混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維には、あらかじめ実施例1と同様の油剤を繊維全量に対して0.1質量%の割合で付与した。
そして、カード工程、コーミング工程、練条工程を実施例1と同様の条件で行い、スライバーS1を得た。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、-0.05~-0.01kvであった。
(スライバーS2)
難燃ビニロン繊維のみを用いて、混打綿工程、カード工程、練条工程を経て、スライバーS2を得た。
芯部用スライバーとしてスライバーS1を、鞘部用スライバーとしてスライバーS2をそれぞれ用意した。
図1(概略断面図)及び
図2(概略断面図)に示す構造の粗紡機を用いて、芯部用スライバーS1と鞘部用スライバーS2を供給し、延伸後の各スライバーの質量比をS1:S2=40:60とし、
図2におけるドラフト方向に対する芯部用スライバーS1のフライヤーヘッドへの進行角度θを60°として、粗糸質量240gr/30yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)、撚り数を0.758回/2.54cmとした粗糸を得た。この粗糸を用いた以外は、実施例1同様の条件で紡績を行い、30番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸(紡績糸B)を得た。この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて二層構造紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0123】
実施例5
(スライバーS1)
ポリイミド繊維62.5質量%と難燃アクリル繊維37.5質量%を混用し、混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維には、あらかじめ実施例1と同様の油剤を繊維全量に対して0.2質量%の割合で付与した。 そして、カード工程、コーミング工程、練条工程を実施例1と同様の条件で行い、スライバーS1を得た。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、-0.10~-0.05kvであった。
(スライバーS2)
難燃アクリル繊維のみを用いて、混打綿工程、カード工程、練条工程を経て、スライバーS2を得た。
芯部用スライバーとしてスライバーS1を、鞘部用スライバーとして、スライバーS2をそれぞれ用意した。
図1(概略断面図)及び
図2(概略断面図)に示す構造の粗紡機を用いて、芯部用スライバーS1と鞘部用スライバーS2を供給し、延伸後の各スライバーの質量比をS1:S2=40:60とし、
図2におけるドラフト方向に対する芯部用スライバーS1のフライヤーヘッドへの進行角度θを60°として、粗糸質量240gr/30yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)、撚り数を0.709回/2.54cmとした粗糸を得た。この粗糸を用いた以外は、実施例1同様の条件で紡績を行い、30番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸(紡績糸B)を得た。この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて二層構造紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0124】
実施例6
(スライバーS1)
ポリイミド繊維37.5質量%と難燃レーヨン繊維62.5質量%を混用し、混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維には、あらかじめ実施例1と同様の油剤を繊維全量に対して0.1質量%の割合で付与した。
そして、カード工程、コーミング工程、練条工程を実施例1と同様の条件で行い、スライバーS1を得た。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、-0.05~-0.01kvであった。
(スライバーS2)
ポリイミド繊維100質量%を用い、混打綿機へ投入することによりシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維には、あらかじめ実施例1と同様の油剤を繊維全量に対して0.2質量%の割合で付与した。
そして、カード工程、コーミング工程、練条工程を実施例1と同様の条件で行い、スライバーS2を得た。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、0kvであった。
芯部用スライバーとしてスライバーS1を、鞘部用スライバーとしてスライバーS2を用意した。
図1(概略断面図)及び
図2(概略断面図)に示す構造の粗紡機を用いて、芯部用スライバーS1と鞘部用スライバーS2を供給し、延伸後の各スライバーの質量比をS1:S2=40:60とし、
図2におけるドラフト方向に対する芯部用スライバーS1のフライヤーヘッドへの進行角度θを60°として、粗糸質量240gr/30yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)、撚り数を0.659回/2.54cmとした粗糸を得た。 この粗糸を用いた以外は、実施例1同様の条件で紡績を行い、30番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸(紡績糸A)を得た。この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて二層構造紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0125】
実施例7
(スライバーS1)
実施例1で使用したスライバーS2(難燃レーヨン繊維100%)を用いた。
(スライバーS2)
実施例6で使用したスライバーS2(ポリイミド短繊維100%)を用いた。
芯部用スライバーとして、スライバーS1を、鞘部用スライバーとしてスライバーS2を用意した。延伸後の各スライバーの質量比をS1:S2=20:80とした以外は、実施例6と同様にして紡績を行い、30番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸(紡績糸A)を得た。
この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて二層構造紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0126】
実施例8
ポリイミド繊維100質量%を用い、混打綿機へ投入することによりシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維には、あらかじめ実施例1と同様の油剤を繊維全量に対して0.1質量%の割合で付与した。
そして、カード工程、コーミング工程、練条工程を実施例1と同様の条件で行い、カードスライバーを得た。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、-0.10~-0.05kvであった。
このカードスライバーを、練条工程で8本引き揃え、7.5倍に延伸し、スライバーSを得た後、スライバー質量340gr/6yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)の条件で粗紡機に供給した。粗紡機において、供給されたスライバーSを延伸し(7.08倍)、撚り数を0.728回/インチ、粗糸質量を240gr/30yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)とした粗糸を得た。この粗糸を実施例1と同様にして精紡機に供し、30番手(英式綿番手)の紡績糸を得た。この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0127】
実施例9
(スライバーS1)
実施例1のスライバーS1の製造において、カードスライバーを得た後、コーミング工程を経ずに練条工程に供した以外は、実施例1と同様にしてスライバーS1を得た。
(スライバーS2)
実施例1のスライバーS2と同様のものを用いた。
芯部用スライバーとしてスライバーS1を、鞘部用スライバーとしてスライバーS2をそれぞれ用意し、実施例1と同様にして30番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸(紡績糸B)を得た。
そして、この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて二層構造紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0128】
実施例10
(スライバーS1)
実施例1のスライバーS2(難燃レーヨン繊維100%)を用いた。
(スライバーS2)
実施例6のスライバーS1の製造において、カードスライバーを得た後、コーミング工程を経ずに練条工程に供した以外は、実施例6と同様にしてスライバーS2(ポリイミド短繊維100%)を得た。
芯部用スライバーとしてスライバーS1を、鞘部用スライバーとしてスライバーS2をそれぞれ用意し、延伸後の各スライバーの質量比をS1:S2=20:80とした以外は、実施例7と同様にして紡績を行い、30番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸(紡績糸A)を得た。
この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて二層構造紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0129】
比較例1
(スライバーS1)
ポリイミド繊維62.5質量%と難燃レーヨン繊維37.5質量%を混用し、混打綿機へ投入し、シート状のラップを得たが、このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維にあらかじめ油剤の付与を行わなかった。
そして、カード工程付近の雰囲気温度と湿度を実施例1と同様の条件とし、混打綿工程で得られたラップをカード機に投入した。
このため、カード機ドッファー部分から櫛削られた繊維がシート状(ウエブ)になる際に、ウエブ両端部が静電気により巻き上がり、集束不良(切断、折り重なることによる斑)が発生し、カードスライバーを得ることができなかった。対策として、湿度を70~90%(噴霧器使用)程度にしても同様の現象が発生し、改善できなかった。
なお、このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、-2.0~-1.5kVであった。
【0130】
比較例2
(スライバーS1)
ポリイミド繊維80質量%と難燃レーヨン繊維20質量%を混用し、混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維には、あらかじめ実施例1と同様の油剤を繊維全量に対して0.02質量%の割合で付与した。そして、カード工程付近の雰囲気温度と湿度を実施例1と同様の条件とし、混打綿工程で得られたラップをカード機に投入した。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、-0.50~-0.30kVであった。
このため、比較例1と同様にカード機においてウエブの集束不良が発生し、カードスライバーを得ることができなかった。
【0131】
比較例3
(スライバーS1)
ポリイミド繊維62.5質量%と難燃レーヨン繊維37.5質量%を混用し、混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維には、あらかじめ実施例1と同様の油剤を繊維全量に対して0.4質量%の割合で付与した。
そして、カード工程付近の雰囲気温度と湿度を実施例1と同じ条件とし、混打綿工程で得られたラップをカード機に投入し、カードスライバーを得た。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、0.00kVであり、カードスライバーを得ることができた。
得られたカードスライバーを練条工程に供したところ、通過綿量約20kg程度から、トップローラ(ゴム製)へ繊維の巻き上がりが多発し、運転不良が度々発生した。トップローラ表面を観察すると、油剤影響で変色、粘着性があり、通過する繊維へ影響を与えていた。このため、練条スライバーを得ることができなかった。
【0132】
比較例4
(スライバーS1)
実施例1で使用したスライバーS2(難燃レーヨン繊維100%)を用いた。
(スライバーS2)
ポリイミド繊維40.0質量%と難燃レーヨン繊維60.0質量%を混用し、混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維には、あらかじめ実施例1と同様の油剤を繊維全量に対して0.1質量%の割合で付与した。
そして、カード工程、コーミング工程、練条工程を実施例1と同様の条件で行い、スライバーS2を得た。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、-0.03~0.00kvであった。
芯部用スライバーとしてスライバーS1を、鞘部用スライバーとしてスライバーS2をそれぞれ用意した。
図1(概略断面図)及び
図2(概略断面図)に示す構造の粗紡機を用いて、芯部用のスライバーS1と鞘部用のスライバーS2を供給し、延伸後の各スライバーの質量比をS1:S2=60:40とし、
図2におけるドラフト方向に対する芯部用のスライバーS1のフライヤーヘッドへの進行角度θを60°として、粗糸質量240gr/30yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)、撚り数を0.984回/2.54cmとした粗糸を得た。
この粗糸を用いた以外は、実施例1同様の条件で紡績を行い、30番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸(紡績糸A)を得た。
この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて二層構造紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0133】
比較例5
(スライバーS1)
アラミド繊維62.5質量%と難燃レーヨン繊維37.5質量%を混用し、油剤の付与を行うことなく混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。それ以外は実施例1と同様の条件で、混打綿工程で得られたラップをカード機に投入し、カードスライバーを得た。
(スライバーS2)
実施例1で使用したスライバーS2を用いた。
芯部用スライバーとしてスライバーS1を、鞘部用スライバーとしてスライバーS2をそれぞれ用意し、実施例1と同様の方法で紡績を行い、30番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸を得た。
この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて二層構造紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0134】
比較例6
アラミド繊維100質量%を用い、混打綿機、カード機に投入し、カードスライバーを得た。それ以外は実施例1と同様の条件で、混打綿工程で得られたラップをカード機に投入し、カードスライバーを得た。
このカードスライバーを練条工程において、8本引き揃え、7.5倍に延伸し、スライバーSを得た後、スライバー質量340gr/6yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)の条件で粗紡機に供給した。粗紡機において、供給されたスライバーSを延伸し(7.08倍)、撚り数を0.728回/インチ、粗糸質量を240gr/30yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)とした粗糸を得た。
この粗糸を実施例1と同様にして精紡機に供し、30番手(英式綿番手)の紡績糸を得た。この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0135】
比較例7
ポリイミド繊維25質量%と難燃レーヨン繊維75質量%を混用し、混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。このとき、混打綿機に投入するポリイミド短繊維には、あらかじめ実施例1と同様の油剤を繊維全量に対して0.05質量%の割合で付与した。
そして、実施例1と同様にしてカード工程を経て、カードスライバーを得た。このとき、カード機から紡出されるウエブの静電気発生量は、-0.05~-0.01kvであった。
このカードスライバーを、練条工程で8本引き揃え、7.5倍に延伸を行い、スライバーSを得た後、スライバー質量340gr/6yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)の条件で粗紡機に供給した。粗紡機において、供給されたスライバーSを延伸し(7.08倍)、撚り数を0.977回/2.54cm、粗糸質量を240gr/30yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)とした粗糸を得た。この粗糸を実施例1と同様にして精紡機に供し、30番手(英式綿番手)の紡績糸を得た。この糸を2本合糸し、S方向に16回/2.54cmの撚りをかけて紡績糸(30/2番手)の双糸を得た。得られた双糸を用いた以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0136】
試験例1
実施例及び比較例で得られた紡績糸及び織物について、上記の測定方法及び評価方法に従って測定又は評価した。その結果を表2~表3に示す。また、表1には、各紡績糸及び織物の製造条件及び構成を示す。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
これらの結果からも明らかなように、実施例1~8で得られた紡績糸は、ポリイミド繊維の優れた特性である、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性に優れた特性を有するとともに、得られる織編物にソフトな風合いを付与することができるものであった。
その中でも、実施例1~5で得られた紡績糸より得られた織物は、ソフトな風合いに加えて染色性にも優れていた。また、実施例6~8で得られた紡績糸は、耐熱性と摩耗強度に特に優れているため、得られた織物はこれらの性能が十分に付与されたものであった。