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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】糖尿病性潰瘍の治癒促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/28 20060101AFI20230529BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230529BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230529BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20230529BHJP
【FI】
A61K36/28
A61P3/10
A61P17/02
A61K127:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018214836
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020083762
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニヨンサバ フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ナッダ スターミコン
(72)【発明者】
【氏名】中野 信浩
(72)【発明者】
【氏名】ソウ ハク
(72)【発明者】
【氏名】小川 尊資
(72)【発明者】
【氏名】池田 志斈
(72)【発明者】
【氏名】奥村 康
(72)【発明者】
【氏名】小川 秀興
(72)【発明者】
【氏名】スパジャチュラ ボラーラック
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-502382(JP,A)
【文献】特表2013-540788(JP,A)
【文献】Acute toxicity study and wound healing potential of Gynura procumbens leaf extract in rats,Journal of Medicinal Plants Research,2011年,Vol. 5, No. 12,p. 2551-2558
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/28
A61P 3/10
A61P 17/02
A61K 127/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヌラ・プロクンベンスの80~99.5容量%エタノール水溶液抽出物を有効成分とする糖尿病性潰瘍の治癒促進剤。
【請求項2】
皮膚外用剤である請求項記載の糖尿病性潰瘍の治癒促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病性潰瘍の治癒促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の創傷は、外傷、火傷、血液循環不良、感染、外圧、糖尿病などの様々な要因によって皮膚の機能や構造が一時的に損なわれる疾患である。皮膚の創傷は、生体の創傷治癒機転が正常に働けば自然に治癒するものであるが、基礎疾患などの要因により正常な創傷治癒機転が働かず生体が創傷を治癒させることができなければ慢性化し、さらには化膿して生活の質を著しく低下させることになる。
【0003】
皮膚創傷治癒過程は、炎症期、細胞増殖期、成熟期・再構築期の3期に分けられる。炎症期ではまず血餅が形成されて損傷部位が覆われ、好中球やマクロファージなどの免疫細胞が浸潤し損傷を受けた組織や細胞残渣物を除去するとともに細菌を排除して創内が清浄化される。その後、細胞増殖期に移行すると血管新生因子や細胞増殖因子が産生され、血管内皮細胞が増殖して血管が新生されるとともに線維芽細胞が増殖して肉芽組織が形成される。最後に、成熟期・再構築期になると肉芽組織上にケラチノサイトが遊走し、分裂・増殖して表皮が再生され、治癒に至る。
健常者においては、一般的にこれらの創傷治癒過程がスムーズに進行するが、糖尿病患者においては神経障害、末梢血管障害、局所の高血糖状態、患者の活動性低下などの創傷治癒阻害因子により治癒機転が阻害され、創傷治癒が遷延し、糖尿病性潰瘍に代表される難治性の慢性皮膚創傷を生じる。
糖尿病性潰瘍などの難治性の慢性皮膚創傷では、炎症期、細胞増殖期、成熟期・再構築期の状態が混在していることが多く、創傷治癒が遷延する原因の一つとして炎症期が正常に完結していないことが知られている。炎症期が完結しない主な要因は感染や血流低下であることから、血管新生を促し、血流を回復させることは慢性皮膚創傷の治癒において極めて有効である。
【0004】
一方、ギヌラ・プロクンベンス(Gynura procumbens)はキク科サンシチソウ属の多年生草本植物で、西アジアから東南アジアの熱帯に広く分布している。マレーシア及びタイでは食用として栽培されており、また、中国、インドネシア、ベトナム、タイでは薬用植物として解熱、腎臓の不調の緩和、炎症及びリウマチ症状の緩和などに利用されている。日本国内では観葉植物として栽培されている。その他に、日本国内においては、本種の近縁種であるGynura japonica が三七草と呼ばれ、薬用植物として解毒、止血の用途で使用されており、また、Gynura bicolorは水前寺菜や金時草の名で伝統野菜として栽培されている。
近年、ギヌラ・プロクンベンス抽出物の生物学的活性について研究が進んでおり、抗酸化、抗菌、抗炎症、精子の受精能力向上、抗がん、高血圧の抑制、高血糖の抑制、臓器の保護などの作用を有することが報告されている(非特許文献1、2)。また、作用機序は不明ながら、健常ラットの創傷モデルにおいて治癒促進効果が見られることが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
しかしながら、ギヌラ・プロクンベンス抽出物の糖尿病性潰瘍に対する作用は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hui-Li Tan et al., Front Pharmacol 2016: 7, p.52
【文献】Ng HK et al., BMC Complement Altern Med 2013:13 p.188.
【文献】Zahra AA et al., J Med Plant Res 2011;5(12), p.2551-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、糖尿病性潰瘍の治癒促進剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、糖尿病性潰瘍マウスモデルを用いて鋭意検討したところ、ギヌラ・プロクンベンス抽出物が糖尿病性潰瘍の治癒を促すことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔3〕に係るものである。
〔1〕ギヌラ・プロクンベンス又はその抽出物を有効成分とする糖尿病性潰瘍の治癒促進剤。
〔2〕抽出物が、水、アルコール類又はアルコール類-水混合液の抽出物である〔1〕記載の糖尿病性潰瘍の治癒促進剤。
〔3〕皮膚外用剤である〔1〕又は〔2〕記載の糖尿病性潰瘍の治癒促進剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、糖尿病性潰瘍の治癒を促すことによって、糖尿病性潰瘍の改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)の創傷治癒への影響を示す。(左)創傷閉鎖率の推移を示すグラフ。(右)創傷の代表的な写真。(A)健常マウス群、(B)糖尿病マウス群(n=5マウス/群)。** p <0.01、*** p <0.001、**** p <0.0001 vs. Vaseline(Veh)。# p <0.05、## p <0.01 vs. solcoseryl jelly(SJ)。
図2】ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)の創傷皮膚組織におけるANG、EGF、bFGF、TGF-β1及びVEGF-AのmRNA発現量への影響を示す。(A)健常マウス群、(B)糖尿病マウス群(n=5マウス/群)。* p < 0.05、** p <0.01、*** p <0.001、**** p <0.0001 vs. Vaseline(Veh)。# p <0.05 vs. solcoseryl jelly(SJ)。
図3】組織学的及び免疫組織化学的観察の結果を示す。(左)H&E染色像(スケールバー:20μm)、(中央)抗CD31抗体染色像(スケールバー:100μm)、(右)CD31陽性の血管数を示すグラフ。(A)健常マウス群、(B)糖尿病マウス群。** p <0.01、*** p <0.001、**** p <0.0001 vs. Vaseline(Veh)。
図4】創傷部位の肉眼写真を示す。
図5】ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)のヒト臍帯静脈内皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト及びヒト肥満細胞由来LAD2株におけるANG、bFGF、PDGF及びVEGFAのmRNA発現量への影響を示す。* p < 0.05、** p <0.01、*** p <0.001、**** p <0.0001 vs. DMSO(Veh)。
図6】in vitroの創傷治癒アッセイの結果を示す。(左)創傷の代表的な画像、(右)創傷領域の割合の推移を示すグラフ。(C)繊維芽細胞、(D)ケラチノサイト。* p < 0.05 vs. DMSO(Veh)。
図7】ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)の細胞遊走能への影響を示す。(C)繊維芽細胞、(D)ケラチノサイト、(E)ヒト肥満細胞由来LAD2株。* p < 0.05、*** p <0.001、**** p <0.0001 vs. DMSO(Veh)。
図8】ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)の細胞増殖能への影響を示す。(C)繊維芽細胞、(D)ケラチノサイト、(F)ヒト臍帯静脈内皮細胞。* p < 0.05、** p <0.01、**** p <0.0001 vs. Veh。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、ギヌラ・プロクンベンスは、キク科サンシチソウ属のGynura procumbensを指す。ギヌラ・プロクンベンスの使用部位は、特に限定されず、植物全体、葉、茎、花、芽、蕾、果実、根、根茎、種子など又はそれらの組み合わせであり得るが、葉を用いるのが好ましい。
ギヌラ・プロクンベンスは、そのまま、乾燥又はそれらを処理して用いることができる。処理としては、例えば、切断、破砕、磨砕、粉砕などが挙げられる。
【0013】
ギヌラ・プロクンベンス抽出物は、ギヌラ・プロクンベンスから得られる抽出物であり、その形態としては、液状、ペースト状、粉末状などが挙げられる。抽出方法は、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、蒸留、超臨界抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出などのいずれでもよい。
抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれでもよく、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコールなどの多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコールなどのポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテルなどの炭化水素類;トルエンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;超臨界二酸化炭素;ピリジン類;油脂、ワックスなどその他オイル類;並びにこれらの混合物が挙げられる。なかでも、好ましくは水、アルコール類、アルコール類-水混合液であり、より好ましくはエタノール-水混合液である。
アルコール類-水混合液において、アルコール類と水は任意の割合で混合して使用することができるが、アルコール類の濃度(25℃における容量%、以下「%」)は、好ましくは50~99.9%であり、より好ましくは80~99.5%、更に好ましくは90~99%である。
【0014】
抽出溶剤の使用量は、十分な抽出効率が得られる条件であれば特に限定されないが、例
えば、ギヌラ・プロクンベンス(乾燥物)に対して、好ましくは5~60質量倍であり、より好ましくは5~30質量倍である。
抽出条件は、十分な抽出が行える条件であれば特に限定されないが、例えば、抽出期間(時間)は、好ましくは0.5日~30日であり、より好ましくは1日~15日である。抽出温度は、0℃以上、使用する溶媒の沸点以下で実施することが好ましく、より好ましくは室温である。
抽出は、1回又は複数回行うことができる。
【0015】
ギヌラ・プロクンベンス抽出物は、本発明の効果を発揮するものであれば粗精製物であってもよく、公知の分離精製手段により精製したものであってもよい。精製手段としては、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜分離、高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフなどが挙げられる。
得られた抽出液はそのまま、或いは適宜溶剤で希釈した希釈液としてもよく、濃縮エキスや乾燥粉末、ペースト状に調製してもよい。また、凍結乾燥し、用時に溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソームなどのベシクルやマイクロカプセルなどに内包させて用いることもできる。
【0016】
後述する実施例に示すように、ギヌラ・プロクンベンス抽出物は、糖尿病性潰瘍マウスモデルの創傷部位(潰瘍部)における血管新生を誘導し、創傷閉鎖を促進する。ギヌラ・プロクンベンス抽出物は、血管新生や線維芽細胞増殖を促進し、肉芽形成に作用する慢性皮膚創傷薬であるソルコセリルよりも高い効果を示す。また、ギヌラ・プロクンベンス抽出物は、創傷治癒に関与する細胞の細胞遊走及び増殖を活性化する。
従って、ギヌラ・プロクンベンス又はその抽出物は、糖尿病性潰瘍の治癒促進剤となり得、また、糖尿病性潰瘍の治癒を促進するために使用することができる。当該治癒促進作用により糖尿病性潰瘍を治療できる。
本発明において、糖尿病性潰瘍は、糖尿病に起因する皮膚潰瘍である。潰瘍形成部位は、例えば、下肢が挙げられる。
【0017】
本発明の糖尿病性潰瘍の治癒促進剤をヒト又は非ヒト動物用の医薬として用いる場合、経口又は非経口の任意の投与形態で投与することができるが、皮膚外用剤などによる非経口投与形態であるのが好ましい。
剤形としては、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、チック剤、リニメント剤、ローション剤、スプレー剤、外用散剤などが挙げられる。
このような種々の剤形の製剤は、有効成分であるギヌラ・プロクンベンス又はその抽出物、必要に応じて、薬学的に許容される担体、その他の薬効成分と適宜組み合わせて、それぞれ一般的な製造方法により調製することができる。当該薬学的に許容される担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調節剤・緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、矯味・矯臭剤、安定化剤などが挙げられる。
【0018】
上記製剤中のギヌラ・プロクンベンス又はその抽出物の含有量は、その使用形態により異なるが、一般的に皮膚外用剤では、ギヌラ・プロクンベンス抽出物(乾燥物換算)として製剤全質量の0.01質量%以上、更に0.1質量%以上、更に1.0質量%とするのが好ましく、また、95質量%以下、更に80質量%以下、更に50質量%以下とするのが好ましい。
【0019】
上記製剤の投与量は、投与対象者の体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得る。投与の用量、経路、間隔は、当業者によって適宜決定され得るが、例えば、皮膚外用剤では成人(体重約60kg)1日当たりの塗布量は、ギヌラ・プロクンベンス抽出物(乾燥物換算)として、皮膚表面1cm2あたり最大で0.1~0.2gとするのが好ましい。
本発明では斯かる量を1日に1回~複数回に分けて、1日間以上反復・継続して投与するのが好ましい。
本発明の糖尿病性潰瘍の治癒促進剤の投与対象は、糖尿病性潰瘍の治癒が望まれる又は必要とするヒト及び非ヒト動物である。非ヒト動物としては、例えば、類人猿、その他霊長類、マウス、ラット、ハムスター、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコなどの非ヒト哺乳動物が挙げられる。対象の好ましい例として、ヒトが挙げられる。
【実施例
【0020】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0021】
製造例1 ギヌラ・プロクンベンス抽出物の調製
ギヌラ・プロクンベンス(Gynura procumbens)の乾燥葉100gを細断した後、95%エタノール1Lを加え、ときどき撹拌しながら、室温で3日間抽出した。その後、濾過により抽出残渣を分離し、70℃のインキュベーター内で過熱による溶媒除去を行い、抽出液を濃縮した。本濃縮物にワセリンを混合して0.5%ギヌラ・プロクンベンス抽出物とし、動物創傷治癒試験に使用した。
細胞活性化試験では、濾過後の抽出液を40℃で濃縮し、凍結乾燥した後、50mg/mLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解、濾過した抽出液を使用した。
【0022】
実施例1
〔供試動物〕
8週齢のC57BL/6マウス(雄、日本SLC)を健常マウス群と糖尿病マウス群に無作為に群分けした。糖尿病マウス群には、生理食塩水で溶解したストレプトゾトシン(シグマ アルドリッチ ジャパン)0.2mLを100mg/kg腹腔内投与し、投与1週間後、尾静脈より全血を採取し血糖値測定器(アキュチェック、ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて血糖値を測定し、血糖値250mg/dL以上のマウスを糖尿病発症とみなした。
【0023】
〔創傷形成及び処置〕
マウスを2.5%イソフルランで麻酔した後、背部を剃毛し、無菌条件下で円形生検パンチを用いて直径10mmの全層皮膚欠損創を作製した。創傷領域は、バーニヤキャリパーを用いて測定した。
ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)、10%ソルコセリルジェル(SJ)又はワセリン(Veh)を創傷形成直後及び術後48時間毎に完全治癒するまでそれぞれ局所適用した。創傷面は、ハイドロコロイド(Tegaderm)で覆った。
ImageJソフトウェア(NIH)を用いて創傷面積を計算し、以下の式を用いて創傷閉鎖率を算出した。
創傷閉鎖率(%)=〔(創傷形成日の創傷面積 - 測定日の創傷面積)/創傷形成日の創傷面積〕×100
【0024】
〔RNA抽出及びリアルタイムPCR)
創傷形成後2、6及び12日目のマウスの創傷皮膚組織をQIAzol Lysis Reagent(Qiagen)中でホモジナイズした。皮膚組織からRNeasy Plus Universal Miniキット(Qiagen)を用いて全RNAを抽出し、ReverTra Ace qPCR RTキット(東洋紡)を用いて、1μgの全RNAより一本鎖cDNAを合成した。次いで、TaqMan Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)及びStepOne PlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いてリアルタイムPCRを実施し、mRNAを検出した。 プライマー/プローブセットはAssays-on-Demand(Applied iosystems)から入手した。
【0025】
〔組織学的及び免疫組織化学的観察と創傷領域の血管の可視化〕
創傷形成後8日目のマウスの創傷皮膚組織を採取し、ホルマリンにて固定後パラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。
免疫組織化学染色は、内皮細胞のマーカーである抗CD31抗体(Abcam)を用いて行った。 DAKO Envisionキットを使用して抗体を検出し、DAB基質で視覚化し、血管の数を1切片あたり5つの異なる高倍率視野で計数した。 オリンパスVS120バーチャルスライドスキャニングシステムを用いて画像を取得した。
【0026】
さらに、創傷領域の血管を可視化するために、創傷形成後8日目の糖尿病マウスの創傷領域から1.5cm×1.8cmの全層皮膚標本を切除し、リン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄した後、皮膚標本を透明な皿の上に逆さに置き、新生血管について肉眼的観察を行った。
【0027】
〔統計解析〕
統計解析は、ANOVA後のPost hoc test、又はスチューデントのt検定で行った。P値が0.05以下の場合においては統計学的に有意差ありと判定した。結果は、平均±標準偏差として示した。
【0028】
〔結果〕
図1に創傷閉鎖率の推移及び創傷形成日、8日目及び16日目の創傷の代表的な写真を示す。
健常マウス群では、2日目に、ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)又は陽性対照であるソルコセリルジェル(SJ)を塗布した創傷はワセリン(Veh)を塗布した場合の創傷より創傷面積の有意な縮小が認められ、16日目に完全治癒した(図1A)。
一方、糖尿病マウス群では、2日目に、ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)を塗布した創傷はワセリン(Veh)を塗布した場合の創傷より創傷面積の有意な縮小が認められ、22日目に完全治癒した。また、2日目以降、陽性対照であるソルコセリルジェル(SJ)の塗布は、健常マウス群に比して糖尿病マウス群においてワセリン(Veh)塗布と同様に創傷面積縮小の遅延が見られたが、ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)の塗布は、ソルコセリルジェル(SJ)の塗布に比べて、創傷面積の縮小が促進されていた(図1B)。
【0029】
図2に、2日目、6日目及び12日目のマウス創傷皮膚組織におけるアンジオジェニン(angiogenin、ANG)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGF-β1)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)のmRNA発現量を示す。
健常マウス群では、ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)を塗布した皮膚組織において各血管新生増殖因子の高発現を示したが、陽性対照であるソルコセリルジェル(SJ)に対する有意差は見られなかった(図2A)。
一方、糖尿病マウス群では、2日目に、VEGF-Aの発現がソルコセリルジェル(SJ)塗布に対して、ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)塗布で有意に増加し、また、6日目にはEGF及びbFGFの発現が増加する傾向が見られた(図2B)。
【0030】
図3に創傷皮膚組織切片のH&E染色像(左)、抗CD31抗体染色像(中央)及びCD31陽性の血管数(左)を示す。
健常マウス群では、ワセリン(Veh)塗布に比べて、ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)又はソルコセリルジェル(SJ)の塗布によりCD31陽性細胞数の増加が認められた。ソルコセリルジェル(SJ)塗布においてギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)塗布よりもCD31陽性細胞は多く観察された(図3A)。
一方、糖尿病マウス群では、ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)塗布においてソルコセリルジェル(SJ)塗布よりもCD31陽性細胞が多く観察され、多数の新生血管が認められた(図3B)。さらに図4に示すとおり、肉眼的観察においてもワセリン(Veh)又はソルコセリルジェル(SJ)塗布に比べてギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)の塗布によって血管数及びサイズ両方の増加が認められ、糖尿病性潰瘍部におけるギヌラ・プロクンベンス抽出物の血管新生促進が明らかになった。
【0031】
実施例2
〔細胞培養〕
ヒト臍帯静脈内皮細胞、繊維芽細胞及びケラチノサイト(クラボウ)は、
HuMedia EG-2、FibroLife及びHuMedia-KG2でそれぞれ培養した。以下の実験には、サプリメントを含まない培地中でサブコンフルエントの状態の細胞(60~80%)を用いた。
ヒト肥満細胞由来LAD2株は、Stem Pro-34栄養サプリメント(Invitrogen)及び組換え幹細胞因子(Wako)を添加したStem Pro-34無血清基礎培地で培養した。
【0032】
〔血管新生増殖因子の発現〕
ヒト臍帯静脈内皮細胞、繊維芽細胞、ケラチノサイト又はヒト肥満細胞由来LAD2株を、100μg/ mLのギヌラ・プロクンベンス抽出物又は0.1%のDMSOで48時間刺激した。ANG、bFGF、血小板由来増殖因子(PDGF)及びVEGFのmRNA発現をリアルタイムPCRで測定した。各細胞について5点ずつ処理を行いその平均値を用いて評価した。
【0033】
〔統計解析〕
統計解析は、ANOVA後のPost hoc test、又はスチューデントのt検定で行った。P値が0.05以下の場合においては統計学的に有意差ありと判定した。結果は、平均±標準偏差として示した。
【0034】
〔結果〕
図5に示すとおり、ヒト臍帯静脈内皮細胞、繊維芽細胞、ケラチノサイト及びヒト肥満細胞由来LAD2株でのANG、bFGF、PDGF及びVEGFAの発現がギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)により有意に増加した。この結果は上記実施例1の結果を裏付けるものである。
【0035】
実施例3
〔生体外創傷治癒試験〕
インビトロの創傷治癒アッセイは、IncuCyteスクラッチアッセイ(Essen BioScience)により行った。I型コラーゲンをコーティングした96ウェルプレートに繊維芽細胞又はケラチノサイトをそれぞれ0.5×105cells/wellずつ播種し、37℃にて3時間培養した。細胞単分子層にWound Makerツールにより創傷を形成した後、PBSでウェルを洗浄し、細胞切片を取り除いてから、50μg/mLのギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)、10ng/mLのTGF-α又は0.1%のDMSO(Veh)をウェルに添加し、72時間3時間毎に細胞の画像をIncuCyte ZOOMソフトウェアを用いて記録した。各細胞について3点ずつ処理を行いその平均値を用いて評価した。
【0036】
〔細胞遊走試験〕
48ウェルマイクロチャンバー(Neuroprobe)を用いて細胞遊走能を評価した。12.5、25、50又は100μg/mLのギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)、又は0.1%のDMSO(Veh)を下室に加え、コラーゲンでプレコートした8μm孔径のポリビニルピロリドンフリーポリカーボネート膜(Neuro Probe)で仕切られた上室に線維芽細胞(5×103cells/well)、ケラチノサイト(5×103cells/well)、又はヒト肥満細胞由来LAD2株(7.5×103cells/well)を播種し、6時間(線維芽細胞及びケラチノサイト)又は3時間(LAD2株)インキュベーションを行った。反応後、膜に接着した細胞をDiffQuick(Kokusai hiyaku)で固定染色した。遊走した細胞数は、光学顕微鏡下で5つの高倍率視野(HPFs)で計数した(n=3)。
【0037】
〔細胞増殖試験〕
I型コラーゲンをコーティングした96ウェルプレートにヒト臍帯静脈内皮細胞、線維芽細胞又はケラチノサイトをそれぞれ1×104cells/wellずつ播種し、12.5、25又は50μg/mLのギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)、又は10ng/mLのTGF-αを添加し、37℃で48時間培養した。5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)標識及び検出キットIII(Roche Diagnostic)を用いて細胞増殖を評価した。 BrdU取り込みのレベルは、マイクロプレートリーダーを用いて測定した(n=3)。
【0038】
〔統計解析〕
統計解析は、ANOVA後のPost hoc test、又はスチューデントのt検定で行った。P値が0.05以下の場合においては統計学的に有意差ありと判定した。結果は、平均±標準偏差として示した。
【0039】
〔結果〕
図6に12時間後の創傷の代表的な画像及び創傷領域の割合の推移を示す。
ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)添加後、線維芽細胞は創傷の全領域をほぼ完全に覆い(図6C)、また、ケラチノサイトも創傷の全領域を覆った(図6D)。これは、陽性対照であるTGF-αと同等の結果だった。
【0040】
図7に細胞遊走数、図8に細胞増殖を測定したグラフを示す。
ギヌラ・プロクンベンス抽出物(GP)は(C)線維芽細胞、(D)ケラチノサイト及び(E)ヒト肥満細胞由来LAD2株の細胞遊走を活性化し(図7)、さらに(C)線維芽細胞は3倍、(D)ケラチノサイトは2倍、(F)ヒト臍帯静脈内皮細胞は2倍、細胞増殖を上昇させた(図8)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8