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特許7286132船舶の波浪応答推定方法及び波浪応答推定プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】船舶の波浪応答推定方法及び波浪応答推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 49/00 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
B63B49/00 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018222003
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020083125
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 正義
(72)【発明者】
【氏名】馬 沖
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-286230(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0255757(US,A1)
【文献】国際公開第2018/163350(WO,A1)
【文献】特開2002-326598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の位置データを含む前記船舶のAISデータに基づいた情報である船舶情報と波浪データを取得し、取得した前記AISデータのうちから必要データのみを取り出すデータクレンジングを行ない、前記位置データに最も近い位置の前記波浪データを探索して前記船舶の遭遇波浪データを求め、前記遭遇波浪データを予め求めた前記船舶の波浪応答関数に適用し、前記船舶の波浪応答を推定することを特徴とする、船舶の波浪応答推定方法。
【請求項2】
前記AISデータと前記波浪データに基づいて、前記船舶の前記遭遇波浪データと操船状況をデータベース化することを特徴とする、請求項1に記載の波浪応答推定方法。
【請求項3】
前記データベース化した前記船舶の前記遭遇波浪データと前記操船状況、及び前記波浪応答に基づいて前記船舶の安全運航に関する指標を求めることを特徴とする、請求項2に記載の波浪応答推定方法。
【請求項4】
船舶の位置データを含む船舶情報と波浪データを取得し、前記位置データに最も近い位置の前記波浪データを探索して前記船舶の遭遇波浪データを求め、前記遭遇波浪データを予め求めた前記船舶の波浪応答関数に適用し、前記船舶の波浪応答を推定し、前記船舶情報と前記波浪データに基づいて、前記波浪応答の履歴を求めることを特徴とする、波浪応答推定方法。
【請求項5】
前記波浪応答の前記履歴に基づいて、前記船舶の疲労健全性を求めることを特徴とする、請求項4に記載の波浪応答推定方法。
【請求項6】
複数の前記船舶について、個別の前記船舶ごとに前記波浪応答を推定することを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の波浪応答推定方法。
【請求項7】
船舶の位置データを含む船舶情報と波浪データを取得し、前記位置データに最も近い位置の前記波浪データを探索して前記船舶の遭遇波浪データを求め、前記遭遇波浪データを予め求めた前記船舶の波浪応答関数に適用し、前記船舶の波浪応答を推定し、複数の前記船舶について、個別の前記船舶ごとに前記波浪応答を推定するとともに、個別の前記船舶ごとに推定した前記波浪応答を統計処理して設計荷重を設定することを特徴とする、波浪応答推定方法。
【請求項8】
前記船舶の運航情報及び/又は設計情報を用いて前記波浪応答の推定精度を向上させることを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の波浪応答推定方法。
【請求項9】
前記波浪応答関数は、前記船舶の船種及び船長に対応した不規則波中応答関数として求めることを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の波浪応答推定方法。
【請求項10】
コンピュータに、
取得した船舶の位置データを含む前記船舶のAISデータに基づいた情報である船舶情報と波浪データを入力するデータ入力ステップと、
取得した前記AISデータのうちから必要なデータのみを取り出すデータクレンジングステップと、
入力された前記位置データに最も近い位置の前記波浪データを探索して前記船舶の遭遇波浪データを求める遭遇波浪データ取得ステップと、
前記遭遇波浪データを予め求めた前記船舶の波浪応答関数に適用する波浪応答関数適用ステップと、
前記波浪応答関数に基づいて前記船舶の波浪応答を推定する波浪応答推定ステップとを実行させることを特徴とする、船舶の波浪応答推定プログラム。
【請求項11】
コンピュータに、
取得した船舶の位置データを含む船舶情報と波浪データを入力するデータ入力ステップと、
入力された前記位置データに最も近い位置の前記波浪データを探索して前記船舶の遭遇波浪データを求める遭遇波浪データ取得ステップと、
前記遭遇波浪データを予め求めた前記船舶の波浪応答関数に適用する波浪応答関数適用ステップと、
前記波浪応答関数に基づいて前記船舶の波浪応答を推定する波浪応答推定ステップを実行させるとともに、
前記遭遇波浪データ取得ステップで前記船舶の時刻毎の前記遭遇波浪データを求め、前記波浪応答推定ステップで前記時刻毎に推定した前記波浪応答を、前記時刻毎の履歴として記憶する波浪応答履歴記録ステップをさらに実行させることを特徴とする、波浪応答推定プログラム。
【請求項12】
前記波浪応答履歴記録ステップで記録された前記波浪応答の前記履歴に基づいて、前記船舶の疲労健全性を求める船舶疲労健全性評価ステップをさらに備えたことを特徴とする、請求項11記載の波浪応答推定プログラム。
【請求項13】
複数の前記船舶のうちから個別の前記船舶を指定し、前記船舶情報のうちから指定された前記船舶の前記船舶情報を選定する船舶指定ステップをさらに備えたことを特徴とする、請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の波浪応答推定プログラム。
【請求項14】
前記波浪応答履歴記録ステップで記録された前記履歴としての前記波浪応答に基づいて、統計的な評価を行なう統計的評価ステップをさらに備えたことを特徴とする、請求項11、請求項12、及び請求項11を引用する請求項13のいずれか1項に記載の波浪応答推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の波浪応答推定方法及び波浪応答推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の設計に当たり、波浪を受けたときの船舶の応答が勘案される。この波浪応答(船体応答)には、例えば、船舶の鉛直方向の加速度、波面に対する相対運動、船体外板に作用する水圧、積荷の慣性力で生じるタンク及びホールド内圧、船体の横断面に作用するせん断力、及び曲げモーメント等が含まれる。例えば従来では、経験的に決められた曲げモーメントが設計荷重(耐荷重上限)として使用されている。
【0003】
また特許文献1では、船体構造の疲労亀裂進展解析が行われる。当該解析は、製造時点における潜在的で検知/完全除去が不可能な微細きず(初期亀裂)を想定し、その微細亀裂が応力(遭遇海象による応力)の繰り返しによって成長伝播していく状態を刻々シミュレーションすることにより、将来の亀裂進展量を推定している。
【0004】
また特許文献2では、船舶の構造荷重を推定しこれを航行支援に利用する運転支援システムが開示される。当該システムは、海波運動を表示する環境検出手段を備える。検出された海波運動に基づいて、直接の波浪起振による船舶の構造荷重が推定される。
【0005】
また特許文献3では、所定時間後に船舶又は海洋構造物が遭遇する個別波による船舶の挙動及び荷重を推定し、船舶の安全又は危険を判断する個別波予測・警報装置が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-78376号公報
【文献】特開2018-509327号公報
【文献】特開2004-338580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、設計者等が経験則に基づいて設計荷重を定めるに当たり、実際の航行環境では船舶がまず受けないような波浪応答に基づいて設計荷重が定められることがある。例えば、設計対象の船舶が航行予定の海域における過去データに基づく最大波高が設計波高に定められる。さらに、機関を常用出力させた船速で、当該設計波高の波を向かい波として、つまり波に対して真正面から船舶を進行させたときの波浪応答(例えば、曲げモーメント)が求められる。さらに求められた曲げモーメントに所定の安全率を掛けて設計荷重が定められる。
【0008】
しかしながら実際の航行では、悪海象に対して減速や荒天避航等の対策が採られるため、船舶が上記のような設計荷重を受けるような状況は極めて稀であり、そのような実際に船舶が受ける可能性が極めて低い波浪応答をベースにした船舶設計プロセスには、合理化の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に対応する船舶の波浪応答推定方法では、船舶の位置データを含む船舶のAISデータに基づいた情報である船舶情報と波浪データを取得し、取得したAISデータのうちから必要データのみを取り出すデータクレンジングを行ない、位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求め、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用し、船舶の波浪応答を推定する。これにより、船舶が実際に遭遇した波浪である、遭遇波浪データに基づいて波浪応答が推定されるので、従来よりも合理的な波浪応答の推定が可能となる。
【0012】
また、AISデータと波浪データに基づいて、船舶の遭遇波浪データと操船状況をデータベース化することが好ましい。
【0013】
また、データベース化した船舶の遭遇波浪データと操船状況、及び波浪応答に基づいて船舶の安全運航に関する指標を求めることが好ましい。
【0014】
また、請求項4に対応する船舶の波浪応答推定方法では、船舶の位置データを含む船舶情報と波浪データを取得し、位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求め、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用し、船舶の波浪応答を推定し、船舶情報と波浪データに基づいて、波浪応答の履歴を求める
【0015】
また、波浪応答の履歴に基づいて、船舶の疲労健全性を求めることが好ましい。
【0016】
また、複数の船舶について、個別の船舶ごとに波浪応答を推定することが好ましい。
【0017】
また、請求項7に対応する船舶の波浪応答推定方法では、船舶の位置データを含む船舶情報と波浪データを取得し、位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求め、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用し、船舶の波浪応答を推定し、複数の船舶について、個別の船舶ごとに波浪応答を推定するとともに、個別の船舶ごとに推定した波浪応答を統計処理して設計荷重を設定する
【0019】
また、船舶の運航情報及び/又は設計情報を用いて波浪応答の推定精度を向上させることが好ましい。
【0020】
また、波浪応答関数は、船舶の船種及び船長に対応した不規則波中応答関数として求めることが好ましい。
【0021】
また、請求項10に対応する船舶の波浪応答推定プログラムでは、コンピュータに、取得した船舶の位置データを含む船舶のAISデータに基づいた情報である船舶情報と波浪データを入力するデータ入力ステップと、取得したAISデータのうちから必要なデータのみを取り出すデータクレンジングステップと、入力された位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求める遭遇波浪データ取得ステップと、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用する波浪応答関数適用ステップと、波浪応答関数に基づいて船舶の波浪応答を推定する波浪応答推定ステップとを実行させる。これにより、遭遇波浪データに基づいて波浪応答が推定されるので、従来よりも合理的な波浪応答の推定が可能となる。
【0023】
また、請求項11に対応する船舶の波浪応答推定プログラムでは、コンピュータに、取得した船舶の位置データを含む船舶情報と波浪データを入力するデータ入力ステップと、入力された位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求める遭遇波浪データ取得ステップと、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用する波浪応答関数適用ステップと、波浪応答関数に基づいて船舶の波浪応答を推定する波浪応答推定ステップとを実行させるとともに、遭遇波浪データ取得ステップで船舶の時刻毎の遭遇波浪データを求め、波浪応答推定ステップで時刻毎に推定した波浪応答を、時刻毎の履歴として記憶する波浪応答履歴記録ステップをさらに実行させる
【0024】
また、波浪応答履歴記録ステップで記録された波浪応答の履歴に基づいて、船舶の疲労健全性を求める船舶疲労健全性評価ステップをさらに備えることが好ましい。
【0025】
また、複数の船舶のうちから個別の船舶を指定し、船舶情報のうちから指定された船舶の船舶情報を選定する船舶指定ステップをさらに備えることが好ましい。
【0026】
また、波浪応答履歴記録ステップで記録された履歴としての波浪応答に基づいて、統計的な評価を行なう統計的評価ステップをさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の船舶の波浪応答推定方法によれば、船舶の位置データを含む船舶のAISデータに基づいた情報である船舶情報と波浪データを取得し、取得したAISデータのうちから必要データのみを取り出すデータクレンジングを行ない、位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求め、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用し、船舶の波浪応答を推定する。これにより、遭遇波浪データに基づいて波浪応答が推定される、言い換えると船舶が遭遇していない波浪データが除かれるので、従来よりも合理的な波浪応答の推定が可能となる。
【0030】
また、AISデータと波浪データに基づいて、船舶の遭遇波浪データと操船状況をデータベース化することで、操船判断や航路設定の妥当性等を検討可能となる。
【0031】
また、データベース化した船舶の遭遇波浪データと操船状況、及び波浪応答に基づいて船舶の安全運航に関する指標を求めることで、安全性の高い運行が可能となる。
【0032】
また、本発明の船舶の波浪応答推定方法によれば、船舶の位置データを含む船舶情報と波浪データを取得し、位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求め、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用し、船舶の波浪応答を推定し、船舶情報と波浪データに基づいて、波浪応答の履歴を求めることで、実際の航路に沿った波浪応答の変化を確認可能となる。
【0033】
また、波浪応答の履歴に基づいて、船舶の疲労健全性を求めることで、検査計画の立案、中古船としての売船価の設定、保険料の設定の精度を高めることができる。
【0034】
また、複数の船舶について、個別の船舶ごとに波浪応答を推定することで、波浪応答を個船ベースで確認可能となる。
【0035】
また、本発明の船舶の波浪応答推定方法によれば、船舶の位置データを含む船舶情報と波浪データを取得し、位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求め、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用し、船舶の波浪応答を推定し、複数の船舶について、個別の船舶ごとに波浪応答を推定するとともに、個別の船舶ごとに推定した波浪応答を統計処理して設計荷重を設定することで、実際の船舶が受けた波浪応答に基づいた設計荷重の設定が可能となる。
【0037】
また、船舶の運航情報及び/又は設計情報を用いて波浪応答を推定することで、船舶の積付やエンジン出力データ等の情報が波浪応答推定に反映されることになり、より精度の高い波浪応答推定が可能となる。
【0038】
また、波浪応答関数は、船舶の船種及び船長に対応した不規則波中応答関数として求めることで、個船ごとの不規則波中応答関数を得ることができる。
【0039】
また、本発明の船舶の波浪応答推定プログラムによれば、コンピュータに、取得した船舶の位置データを含む船舶のAISデータに基づいた情報である船舶情報と波浪データを入力するデータ入力ステップと、取得したAISデータのうちから必要なデータのみを取り出すデータクレンジングステップと、入力された位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求める遭遇波浪データ取得ステップと、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用する波浪応答関数適用ステップと、波浪応答関数に基づいて船舶の波浪応答を推定する波浪応答推定ステップとを実行させる。これにより、遭遇波浪データに基づいて波浪応答が推定されるので、従来よりも合理的な波浪応答の推定が可能となる。
【0041】
また、本発明の船舶の波浪応答推定プログラムによれば、コンピュータに、取得した船舶の位置データを含む船舶情報と波浪データを入力するデータ入力ステップと、入力された位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求める遭遇波浪データ取得ステップと、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用する波浪応答関数適用ステップと、波浪応答関数に基づいて船舶の波浪応答を推定する波浪応答推定ステップとを実行させるとともに、遭遇波浪データ取得ステップで船舶の時刻毎の遭遇波浪データを求め、波浪応答推定ステップで時刻毎に推定した波浪応答を、時刻毎の履歴として記憶する波浪応答履歴記録ステップをさらに実行させることで、実際の航路に沿った波浪応答の変化を確認可能となる。
【0042】
また、波浪応答履歴記録ステップで記録された波浪応答の履歴に基づいて、船舶の疲労健全性を求める船舶疲労健全性評価ステップをさらに備えることで、検査計画の立案、中古船としての売船価の設定、保険料の設定の精度を高めることができる。
【0043】
また、複数の船舶のうちから個別の船舶を指定し、船舶情報のうちから指定された船舶の船舶情報を選定する船舶指定ステップをさらに備えることで、波浪応答を個船ベースで確認可能となる。
【0044】
また、波浪応答履歴記録ステップで記録された履歴としての波浪応答に基づいて、統計的な評価を行なう統計的評価ステップをさらに備えることで、実際の船舶が受けた波浪応答に基づいた設計荷重の設定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本実施形態に係る船舶の波浪応答推定システムを例示するブロック図である。
図2】本実施形態に係る船舶の波浪応答推定フロー(簡易法)を例示するフローチャートである。
図3】本実施形態に係る船舶の波浪応答推定フロー(簡易法)のうち、不規則波中応答関数の探索フローを例示するフローチャートである。
図4】AISデータベースの記憶内容を説明する図である。
図5】波浪データベースの記憶内容を説明する図である。
図6】船舶の遭遇波浪の時刻歴データについて説明する図である。
図7】規則波中応答関数の一例であって、応力周波数応答関数(応力RAO)を船速別(V=Vs、V=0.75Vs)に例示した図である。
図8】規則波中応答関数の一例であって、応力周波数応答関数(応力RAO)を船速別(V=0.5Vs、V=0.25Vs)に例示した図である。
図9】波スペクトルを例示する図である。
図10】不規則波中応答関数である、短期海象中の船体応答特性を例示する図である。
図11】短期海象中の船体応答特性を用いて、遭遇波浪に対する船舶応答を推定するプロセスを例示する図である。
図12】応力振幅の短期分布(レイリー分布)を例示する図である。
図13】遭遇波浪の履歴をディスプレイ上に表示したときの例を示す図である。
図14】船舶応答の履歴をディスプレイ上に表示したときの例を示す図である。
図15】長期予測の例であって、コンテナ船甲板の長手方向応力を例示する図である。
図16】応力範囲の長期頻度分布とS-N線図の関係を例示する図である。
図17】S-N線図を例示する図である。
図18】船舶に加わる縦曲げモーメントに関する長期予測荷重を例示する図である。
図19】IACS(国際船級協会連合)で推奨される北大西洋海域(GWSのエリア8、9、15、16)の波浪発現頻度表を例示する図である。
図20図19と同一海域における、本実施形態に係る遭遇海象の波浪発現頻度表を例示する図である。
図21】船舶の遭遇波浪データの蓄積に伴って作成される波高・波周期の同時確率分布を例示する図である。
図22図21の破線枠を抽出したものであって、波高、波周期、相対波向きの同時確率分布を例示する図である。
図23図22の同時確率分布の所定のセルを拡大したものであって、波高、波周期、相対波向き、船速の同時確率分布を例示する図である。
図24】本実施形態に係る船舶の波浪応答推定フロー(短期海象波スペクトル法)を例示するフローチャートである。
図25】短期海象波スペクトル法を用いた、波浪応答の推定プロセスを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1には、本実施形態に係る船舶の波浪応答推定システムが例示される。当該システムは、記憶装置100、演算装置200、及び表示器300を備える。記憶装置100、演算装置200、表示器300は例えばコンピュータから構成される。
【0047】
記憶装置100は、例えばコンピュータのハードディスクやメモリ等から構成される。記憶装置100は、RAOデータベース110、AISデータベース120、波浪データベース130、及び波浪応答推定データベース140を備える。
【0048】
RAOデータベース110には、船体構造部材のRAO(Response Amplitude Operator、周波数応答特性)が記憶される。後述する図10の不規則波中応答関数と比較して、RAOデータベース110に記憶されたRAOを、規則波中応答関数と呼んでもよい。
【0049】
RAOは規則波中の船体応答の振幅値を、波の周波数あるいは波長ベースで表した関数である。例えばRAOでは、応答振幅を波振幅で除した値あるいは無次元化した値で表される。例えば、船体応力σはσ/hで表され、縦曲げモーメントVBMは、VBM/(ρgL^2Bh)で無次元表記される。なおρは水(海水)密度、gは重力加速度、Lは船長、Bは船幅、hは波振幅を示す。
【0050】
縦曲げモーメントVBMが船長Lや船幅Bで無次元化されることから、RAOは対象船舶の船種や船長さに応じて変化する。また、船速に応じて波浪応答も変化する。そこでRAOデータベース110では船種、船長さ、船速に応じて複数種類のRAOが記憶される。
【0051】
なお、RAOは例えば船長さについては相似則を適用して、任意の船長さの標準船のRAOを船長さに応じて拡張することが可能であることが知られている。そこでRAOデータベースには、船長さに応じたRAOを記憶する代わりに、所定の船長さを有する標準船のRAOのみが記憶されていてもよい。
【0052】
図7図8にはRAOの例が示される。いずれのグラフも横軸に波周波数ωを取り、縦軸に単位波振幅(波振幅1m、波高2m)での応力振幅を示す。船種はポストパナマックスコンテナ船であり、図7図8にて示される応力として、同船の上甲板板長方向応力が示される。
【0053】
なお、図7図8では応力RAOが例示されているが、RAOデータベース110にて記憶されているRAOは、応力RAOに限らない。すなわちRAOデータベース110には、船舶の波浪応答を示す種々のRAOが記憶されている。波浪応答には、船舶の鉛直方向の加速度、波面に対する相対運動、船体に作用する変動圧力、せん断力、及び曲げモーメント等が含まれる。
【0054】
図7上段には、航行速力Vs(Service speed)、つまり、満載航海状態において機関の常用出力に特定のシーマージンを見込んで得られる速度(例えば最高速度)における、応力RAOのグラフが示される。同図下段には、航行速力の75%(V=0.75Vs)における、応力RAOのグラフが示される。
【0055】
また、図7の上段、下段ともに、波向きごとの特性線が示される。具体的には、波に対する船の出会い角χ(向かい角)が0°から360°までの特性線が60°刻みで示される。ここで、波との出会い角χ=180°は、船首方向から波を受ける向かい波を示し、波との出会い角χ=0°は、船尾方向から波を受ける追い波を示す。
【0056】
図8の上段には、図7と同様にして、航行速力Vsの50%(V=0.5Vs)における、応力RAOのグラフが示される。また同図下段には、航行速力Vsの25%(V=0.25Vs)における、応力RAOのグラフが示される。
【0057】
このような応力RAOは、ストリップ法やパネル法等で予測した外力をFEモデルに与えてFE応力解析のシリーズ解析を行うといったシミュレーションにより、予め求めることができる。また、波浪中の模型実験により、応力RAOやその他の波浪応答のRAOを求めることができる。
【0058】
後述するように、本実施形態に係る波浪応答推定プロセスでは、推定対象となる船舶の位置データを含む船舶情報と、その遭遇海象とに対応するRAO(規則波中応答関数)が用いられる。
【0059】
AISデータベース120には、AIS(自動船舶識別装置、Automatic Identification System)データが記憶される。AISデータとして、船舶の位置データを含む種々の船舶情報がAISデータベース120に記憶される。AISデータは大別して、静的情報、動的情報、航海関係情報、安全関係通信文に分けられる。
【0060】
静的情報には、船舶のID(船ID)となる船舶のIMO番号、信号符字及び船名、船舶の長さ(船長)、船舶の幅、船舶の種類(船種)、及び、船舶上の測位システムアンテナ位置が含まれる。
【0061】
動的情報には、位置(緯度、経度)、UTC(Universal Time Coordinated)時刻、航海針路(対地進路)、対地速力、船首方位、回頭率、傾き角、ピッチ、及びロール等が含まれる。
【0062】
航海関係情報には、船舶の喫水、危険な積載物、仕向港、入港予定日(ETA、Estimated Time of Arrival)、及び航海計画等が含まれる。
【0063】
安全関係通信文には、例えば操船支援時等における、航海情報や気象、海象情報または警報を含んだ通信文が含まれる。
【0064】
図4に例示されるように、AISデータベース120には、波浪応答推定を行う海域(評価対象海域)を通過する船舶の、上記のAISデータが、例えば船IDごとに、時系列に記憶される。
【0065】
例えばフィンランドのNapa社において、AISデータを提供するNAPA Fleet Inteligenceと呼ばれるデータ提供サービスが知られており、評価対象海域を航行しAISシステムが搭載された全船舶のAISデータを取得可能となっている。
【0066】
例えばGWS(Global Wave Statistics)のエリア8,9,15,16が評価対象海域とされる。同エリアは、北はグリーンランド南端、東はアイルランド西岸までをカバーする。また、東アジア-スエズ運河-欧州航路の船はポルトガル沖で評価対象海域に入る。
【0067】
波浪応答の推定に当たり、時系列データが用いられる。例えば、上記エリアを航行する全船舶の、2016年9月30日1時を開始時点とし2017年10月1日0時を終了時点とするAISデータが、1時間刻みで取得され、AISデータベース120に記憶される。
【0068】
なお、時系列データの開始時点及び終了時点は上記の例に限らない。例えば船舶の寿命意は一般的に25年とされていることから、評価対象海域における25年間分のAISデータをAISデータベース120に記憶させてもよい。
【0069】
図4にはAISデータベース120に記憶された船舶の位置情報を含む船舶情報の具体例が列挙されている。すなわちAISデータベース120には、船ID、船種、船長さ、時刻、経度、緯度、進路、船速、向かい角等の時系列データが記憶される。
【0070】
図1に戻り、波浪データベース130には、評価対象海域全域の波浪データが記憶される。例えば、一般社団法人日本気象協会の全球波浪推算データベースによれば、経度全周かつ北緯70°~南緯70°の海域において、0.5度(約50km)単位のメッシュごとに、波高、周期、波向、風向、風速のデータが1時間刻みでデータ化される。例えば、上記AISデータと同海域(GWSのエリア8,9,15,16)及び同期間(2016年9月30日1時~2017年10月1日0時)の波浪データが波浪データベース130に記憶される。
【0071】
以下では、上記波浪データの時間刻み(1時間)ごとの海象を短期海象と呼ぶ。短期海象は海洋波(風波)の統計的性質が一定で同じような海面状態が持続する時間における海象の状態を指す。短期海象は、有義波高、平均波周期(または有義波高)、及び場合によって波向きの3種類のデータの組合せで表される。一般に、短期海象の持続時間は1~2時間と考えられており、出会い波で約1000波に相当する。
【0072】
また上記説明中、有義波高とは、ある1点を連続通過するN個の波を観測したとき、高い方から1/3個を取り出して、その平均をとった波高を指す。有義波高は目測での観測波高と近い値であることが知られており、波高を代表する値として一般に用いられる。例えば、有義波高のパラメータとしてHs(significant)が用いられる。また単位としてHs[m]が用いられる。また有義周期とは、ある1点を連続通過するN個の波を観測したとき、高い方から1/3個を取り出して、その平均をとった周期を指す。
【0073】
また上記説明中、平均波周期として、例えばIACS(International Association of Classification Societies、国際船級協会連合)のReccomendation34に基づいて、ゼロアップクロス平均波周期Tz、つまり、波の時刻歴波形がゼロアップクロスする時間間隔の平均値が用いられる。平均波周期Tzの単位として例えば秒[s]が用いられる。
【0074】
図5には波浪データベース130に記憶された波浪データの具体例が列挙されている。すなわち波浪データベース130には、時刻、経度、緯度、有義波高、有義周期、波向き等の時系列データが記憶される。
【0075】
図1に戻り、波浪応答推定データベース140には、演算部220において演算された遭遇波浪に対する船体応答データ(図11参照)が記憶される。これについては後述する。
【0076】
図1を参照し、演算装置200は、入力部210、演算部220、及び分析部230を備える。演算装置200は、例えばコンピュータのCPUであってよい。
【0077】
入力部210には、AISデータベース120から評価対象海域を航行する船舶の位置データを含む船舶情報が入力される。またこれと併せて入力部210には、波浪データベース130から評価対象海域の波浪データが入力される。
【0078】
演算部220は、AISデータベース120に入力された船舶の位置データを含む船舶情報、及び波浪データに加えて、RAOデータベース110から船舶のRAOを取得して、これらに基づいて船舶の遭遇波浪への波浪応答(短期海象波浪応答)を推定する。
【0079】
分析部230は演算部220により演算された、複数船舶の複数期間に亘る短期海象波浪応答を取得して、船舶ごとの操船パターンの分析、作用荷重の統計処理、船舶ごとの疲労被害推定等を行う。このような、作用荷重の統計処理や船舶ごとの疲労被害推定を通して、船舶が受ける波浪応答の長期頻度分布が推定できる。この推定に基づけば、船舶がその生涯で出会う最大波高の推定が可能となり、推定された最大波高に基づいて設計荷重を定める等、合理的な設計荷重を定めることができる。
【0080】
表示器300には、演算部220の演算結果や及び分析部230の分析結果を出力可能となっている。表示器300は例えばコンピュータのディスプレイから構成される。
【0081】
<船舶の波浪応答推定フロー>
図2に、本実施形態に係る船舶の波浪応答推定フローが例示される。また図3には、同フローの一部である、不規則波中応答関数の算出フローが例示される。コンピュータが、図1の記憶装置100、演算装置200、表示器300として機能するような、また、図2及び図3のフローの各ステップを実行可能となるようなプログラムが、同コンピュータに記憶、実行される。
【0082】
例えば当該プログラムが記憶されたCD等の記録媒体をコンピュータが読み取ることで、コンピュータが、図1の記憶装置100、演算装置200、表示器300として機能し、また、図2及び図3のフローの各ステップを実行可能となる。
【0083】
まず、入力部210にAISデータ及び波浪データが入力されるデータ入力ステップ(S100、S200)が実行される。
【0084】
AISデータベース120から、上述した期間における、評価対象海域を航行する複数の船舶(評価対象船舶群)のAISデータが、入力部210に入力される(S100)。上述した通り、AISデータは船舶の位置データを含む船舶情報であって、船ID、船種、船の長さ、船幅、時刻、緯度、経度、針路、速度のデータが含まれる。また例えばAISデータのサンプリング間隔は短期海象の期間を示す1時間とされる。
【0085】
なお、AISデータの入力に際して、取得したAISデータのうちから必要データのみを取り出すデータクレンジングを行ってもよい。例えば評価対象船舶群として抽出される対象は、基本的に評価対象海域を航行する全ての船舶となるが、その中でも、評価対象海域への航行が相対的に短距離の船舶であって、ノイズとして認められる船舶のAISデータが評価対象船舶群から除かれる。また、評価対象海域を航行する他の大多数の船舶とは明らかに航跡の異なる船舶のAISデータも、ノイズとして取得対象から除かれる。
【0086】
評価対象船舶群のそれぞれのAISデータが演算装置200に入力されると、次に、波浪データベース130から波浪データが入力部210を介して演算装置200に入力される(S200)。例えば、上述した期間の、評価対象海域の波浪データが入力部210に入力される。波浪データは、例えば、時刻、経度、緯度、有義波高、有義周期、波向きが含まれる。また例えば波浪データのサンプリング間隔は短期海象の期間を示す1時間とされる。
【0087】
次に、演算部220によって、遭遇波浪データ取得ステップ(S300、S400)が実行される。遭遇波浪ステップでは、評価対象船舶が実際に遭遇した波浪データが、評価対象海域の波浪データから抽出される。
【0088】
概念的には、評価対象海域の波浪データのうち、評価対象船舶のAISデータが重なったものが、遭遇波浪データとなる。演算部220は、評価対象船舶群のうちから演算未処理の任意の船舶(選択船舶)を選択して、そのAISデータ(選択船舶のAISデータ群)を抽出する。さらに演算部220は、選択船舶のAISデータ群のうち、評価対象海域を当該船舶が航行しているときの最も古いAISデータを抽出する。さらに演算部220は、抽出されたAISデータの位置(緯度、経度)に最も近い波浪データを抽出する(S300)。
【0089】
続いて演算部220は、抽出されたAISデータの位置に最も近い波浪データのうち、同AISデータと同時刻の波浪データを抽出して、時刻歴データを求める(S400)。図6には、選択船舶の遭遇波浪の時刻歴データが例示される。時刻歴データは、AISデータと波浪データの各項目が足し合わされたものとなり、例えば、船ID、船種、船長さ、時刻、経度、緯度、有義波高、有義周期、相対波向き(出会い角)、船速等の項目が記録される。この、遭遇波浪データと操船状況とが含まれる、遭遇波浪の時刻歴データは、例えば波浪応答推定データベース140(図1参照)に記録され、データベース化される。
【0090】
次に演算部220は、選択船舶の船種、船の長さに応じた不規則波中応答関数を求める(S500)。このステップS500では、波浪状態がほぼ一定であると考えられる短期海象における波浪応答が予測される。このような波浪応答の推定に当たり、不規則波中応答関数が求められる。
【0091】
図3には、不規則波中応答関数を求めるフローが例示される。図3のフローは、大別して2つのステップに分けられる。最初のステップとして、S510,S520から構成される波浪応答関数適用ステップが実行される。さらに次のステップとして、S530~S550、及び図2のS600までを含めた、波浪応答推定ステップが実行される。
【0092】
波浪応答関数適用ステップ(S510,S520)では、選択船舶に適用される規則波中応答関数が求められる。まず、演算部220はRAOデータベース110を参照して、予め求められた波浪応答関数である標準船の規則波中応答関数を取得する(S510)。図7図8には規則波応答関数である、応力RAOの例が示される。これらについては上述したので、ここでは説明を省略する。
【0093】
次に演算部220は、この、予め定めた標準船の規則波中応答関数を選択船舶に適用する。具体的には、標準船と選択船舶とが相似形状であるとの仮定のもと、標準船の規則波中応答関数を拡張して選択船舶の規則波中応答関数を求める(S520)。さらに演算部220は、波浪応答推定データベース140から波スペクトルSw(ω)を取得する(S530)。
【0094】
図9には、一般商船の疲労評価に使用される波スペクトルが例示される。ここで、波スペクトルSw(ω)は波の周期に応じた波のエネルギーを、波の角周波数ω別に表したものであって、下記数式(1)で表される。
【0095】
【数1】
【0096】
ステップS520にて取得した規則波中応答関数と上記数式(1)の波スペクトルを用いて線形重ね合わせを行うことで、選択船舶に対する不規則波中応答関数が求められる(S540)。この、不規則波中応答関数を積分することで、下記数式(2)のように、長波項(単一波方向)不規則波中での応力の標準偏差Rを求めることができる。
【0097】
【数2】
【0098】
ここで、平方根内の関数S(ω,χ:H,T)について、下記数式(3)が成り立つ。
【0099】
【数3】
【0100】
また、不規則波の方向分散βを考慮した下記数式(4)を用いて、短波長不規則波中の標準偏差Rを求めることができる(S550)。この標準偏差Rは、短期海象を代表する値で短期パラメータとも呼ばれる。
【0101】
【数4】
【0102】
数式(4)から求めた標準偏差Rの応答関数が図10に例示される。横軸は平均波周期Tz[s]を示す。縦軸のパラメータは、順に標準偏差R、水密度ρ(RHO)、重力加速度G、船の長さL、船幅B、及び有義波高Hs(H)を示す。標準偏差R及び有義波高H以外のパラメータは、船舶が定まれば短期海象によって変動しない固定値となる。また、凡例は船舶の波に対する相対出会い角χを示す。つまり図10のグラフでは、有義波高Hs、平均波周期Tz,及び波との出会い角χを入力変数とし、出力として標準偏差Rを得ることができる。
【0103】
例えばステップS400にて求めた遭遇波浪の時刻歴データ(図6参照)の波との出会い角χ、平均波周期Tz、及び有義波高Hsを図10のグラフに適用することで、当該時刻歴データに対応する標準偏差Rが求められる(図11図2S600)。
【0104】
短期パラメータである標準偏差Rが求められれば、短期海象における応答振幅の分布が求められる。一般には、応答振幅の確率分布がレイリー分布で近似できると仮定できることが知られている。レイリー分布に従う確率密度分布p(x)は下記数式(5)に示される。
【0105】
【数5】
【0106】
また、図12にはレイリー分布の一例として、応力振幅(σA)の短期海象の確率分布が示される。この図において、標準偏差R=0.8である。
【0107】
短期海象での応答振幅が、ある値xを超過する確率qは、標準偏差Rを用いて下記数式(6)で与えられる。
【0108】
【数6】
【0109】
一般的に、短期海象1期間(約1時間)中に船舶が出会う波の回数は1000回であることが知られており、このことから、1000回に1回の大波に対応する波浪応答が、ステップS400において求められた遭遇海象に対する波浪応答の最大値(代表値)となる。この1/1000の最大期待値は、レイリー分布においては標準偏差Rの3.87倍になることが知られている。以上のような演算を踏まえて演算部220は、ステップS400にて求めた遭遇波浪の時刻歴データ(図6参照)に対応する波浪応答の値(3.87R)を求める。
【0110】
次に演算部220は、選択船舶における、ステップS400にて求めた遭遇波浪の時刻歴データの次に古いAISデータを取得して、ステップS300まで戻る。このようにして、演算部220は、選択船舶について全ての時刻のAISデータについてステップS300からステップS600までの処理を繰り返し、選択船舶について波浪応答の履歴を求める(S700)。求められた波浪応答の履歴は、波浪応答推定データベース140に記憶される(波浪応答履歴記録ステップ)。
【0111】
選択船舶について、評価対象海域における全航跡の波浪応答が求められると、演算部220は、図13下段に例示されるような遭遇波浪マップを表示器300に表示させる。図13下段を参照して、白抜き丸印(○)で示されるプロットが、それぞれ遭遇波浪データを示している。また周囲の濃淡は、周辺海域の波高分布を示す。このように、遭遇波浪データとその周辺海域の波浪データとを二次元的に表示することで、その船舶の荒天避航の航跡や回避対象の海象を確認することができる。
【0112】
さらに、図13の遭遇波浪マップに波浪応答を反映させた2次元マップ(波浪応答マップ)が図14に例示される。図13と比較して、プロットの大きさが変化しており、このプロットの大きさが波浪応答量(例えば波浪荷重)を示す。つまり、波浪応答マップにより、選択船舶の波浪応答の履歴が示される。演算部220は、遭遇波浪マップの作成に引き続いて波浪応答マップを作成し、表示器300に表示させる。
【0113】
また、選択船舶の、評価対象海域における全航跡の波浪応答が求められると、演算部220は、選択船舶の就航期間中の最大応答(就航期間最大応答)、最悪海象(就航期間最悪海象)、及び疲労被害度を求める(S800)。
【0114】
就航期間最大応答は選択船舶について求められた波浪応答量の最大値がこれに相当する。すなわち上述したように、ステップS600にて短期海象における船舶の波浪応答を求める際に、1000回に1度の割合で生じる波浪、つまり当該短期海象中の最悪海象がベースとなって波浪応答が求められる。これを評価対象海域の全航跡に亘って求めたものが図14の波浪応答マップとなる。したがってこのステップS800では、各航跡におけるそれぞれの短期海象の最悪海象の中でも最も過酷であった海象(最悪海象の中でも特に最悪な海象)における波浪応答が、就航期間最大応答となる。
【0115】
また、就航期間最悪海象は遭遇波浪中、例えば有義波高Hsが最大であったものがこれに相当する。波浪応答量は平均波周期Tz、波との出会い角χ、及び船速に応じて変化するから、波浪応答量の最大値が得られた位置(経度、緯度)と就航期間最悪海象と判定された位置とが同一でない場合もある。
【0116】
なお、就航とは評価対象海域内の航路で船舶が運行されていることを指し、就航期間とは当該航路における運行期間を指す。したがって、上述したように、AISデータ及び波浪データのサンプリング期間を、2016年9月30日1時から2017年10月1日0時に限定すると、2016年9月30日1時よりも前、及び、2017年10月1日0時よりも後の運行期間が除外されることになる。船舶の寿命が一般的に25年であることを考慮すると、就航期間最大応答、就航期間最悪海象、及び後述する疲労被害度の推定に当たり、AISデータ及び波浪データのサンプリング期間は少なくとも25年であることが好適である。
【0117】
選択船舶の就航期間最大応答、及び就航期間最悪海象が求められると、演算部220は、AISデータに保存され、波浪応答がまだ求められていない他の船舶を選択し、再びステップS300まで戻り、当該船舶についても全時刻に亘って波浪応答を求める。
【0118】
ステップS800において、評価対象船舶群に含まれる全ての船舶について、遭遇波浪データ、標準偏差R、波浪応答量、就航期間最大応答、及び就航期間最悪海象が求められると、演算部220はこれらのデータを分析部230に送る。分析部230では、受信した各種データに基づいて、評価対象海域の航行する船舶についての、種々の分析を行う。また上記の各種データは波浪応答推定データベース140にも送られ記憶される。
【0119】
評価対象船舶群の遭遇波浪が求められると、図20に例示されるような、評価対象海域における遭遇波浪の発現頻度表が得られる。図20において、横軸は平均波周期Tzを示し、縦軸は有義波高Hsを示す。またセル中の数値はそのセル横の有義波高Hs及びそのセル上の平均波周期Tzである短期海象の発生確率を指す。
【0120】
上記図20の遭遇波浪発現頻度表を参照して、有義波高Hs、平均波周期Tzの短期海象[Hs,Tz]における波浪応答(例えば応力)の標準偏差Rと,その短期海象[Hs,Tz]の発生確率が分かれば波浪応答の長期超過確率Qを求めることができる。
【0121】
具体的には、長期超過確率Qは、短期の超過確率q及び短期海象の発生確率q(Hs,Tz)を用いて下記数式(7)で表される。
【0122】
【数7】
【0123】
さらに波向き(相対波向き)の確率w(χ)を用いた下記数式(8)を用いることで、波向きを考慮した長期確率分布Qを求めることができる。
【0124】
【数8】
【0125】
図15には、長期超過確率の例が示される。横軸は超過確率Qの対数表示を示し、縦軸は応答振幅の一例として、応力振幅(S/2)を示す。波向きの確率は一様分布(All headings)をしている。
【0126】
一般に船が生涯に出会う波の数は10回に近いことが知られている。したがって、船舶の設計応力を求めるに当たり、図15を参照して、10回に一回(-logQ=8)の大波を受けたときの応力σを船舶の設計応力として定めればよい。例えば相対波向きをAll Headingとしたときに、-logQ=8に対応するσ=185Mpa、またはこれに所定の安全率を掛けた値が、設計応力として定められる。このように、船体応答の推定に基づく船体への作用荷重の統計処理を通じて、適切な、つまり遭遇波浪に基づいた設計荷重を定めることができる(統計的評価ステップ)。
【0127】
上記手順により得られた最大荷重の分布が図18に例示される。横軸は船長さL[m]、縦軸は縦曲げモーメントVBMを水密度ρ(RHO)、重力加速度g、船長さL、及び船幅Bで割って正規化したものである。
【0128】
当該分布を得るに当たり、船速一定(最大航海速力の75%)、一様波向きと仮定した。長期予測に基づく、つまり、10回に一回の大波に基づく最大荷重の分布が、黒塗り丸プロット(●)及びプロット間を繋ぐ実線(Longterm pred. 75%vs,Allheadings,AIS+Hindcast)で示される。
【0129】
また、このAIS+Hindcast曲線より上方にプロットされた、黒塗り三角プロット(▲)及びプロット間を繋ぐ破線(Longterm pred. 75%vs,Allheadings,Hindcast)は、評価対象海域全体、つまり船舶の遭遇海象以外の海象を含む短期海象の中から抽出された最悪海象に基づく最大荷重の分布を示す。両者を比較すれば理解されるように、実際の船舶の遭遇波浪に基づく最大荷重は、評価対象海域全体の短期海象に基づく最大荷重よりも低減される。
【0130】
なお、グラフの下方に点在する白抜き丸プロット(○)は、上述した、AISデータ及び波浪データのサンプリング期間を、2016年9月30日1時から2017年10月1日0時に絞ったときの、個船の最大荷重を示す。いずれも、AIS+Hindcast曲線よりも低い値に収まっており、AIS+Hindcast曲線による設計荷重の妥当性が認められる。
【0131】
また、上述した長期予測を利用して、船舶の疲労被害度の予測が可能になる(船舶疲労健全性評価ステップ)。例えば上記数式(8)を確率分布関数Pに変換すると、下記数式(9)のようになる。
【0132】
【数9】
【0133】
P(x)をxで微分することで、下記数式(10)に示す確率密度関数p(x)が求められる。
【0134】
【数10】
【0135】
p(x)に応答(応力)の繰り返し数の総量N、つまり船舶が生涯出会う波の数(N=10)を乗じることで、応力範囲Δσの長期頻度分布が求まる。図16にはΔσの長期頻度分布の例が塗り潰し正方形プロット(■)で示される。また図16の長期頻度分布は両対数グラフにて示される。
【0136】
この長期頻度分布を用いて、長期予測に基づく疲労被害度の推定が可能となる。波浪応答の一種に含まれる波浪応力の応力範囲Δσと図16にて示されるS-N線図、及び下記数式(11)から、疲労被害度Dを求めることができる。なお、図16において、横軸は頻度(log(N))、縦軸は応力範囲Δσを示す。
【0137】
【数11】
【0138】
数式(11)において、nは応力範囲S(=Δσ)での繰り返し数を示し、Nは応力範囲S(=Δσ)での破断までの繰り返し数を示す。応力範囲Sでの繰り返し数Nは、S-N線図から下記数式(12)で表される。
【0139】
【数12】
【0140】
数式(12)において、Sは応力範囲、Nは破断までの応力繰り返し数、M,KはS-N線図の定数を示す。定数M,Kは、材料や溶接、構造様式等で決まる。一般商船の疲労評価に用いられるS-N線図が図17に示される。同図のB~Wは、対象構造の溶接や構造様式によって使い分けられる。例えば、母材の疲労き裂に対して評価する場合は、B線図、突合せ溶接部の疲労き裂に対して評価する場合はD線図が用いられる。
【0141】
上記疲労被害度の算出法を用いて、例えば一回の航海における船舶の疲労被害度を推定可能となる。例えば数式(11)を参照して、応力繰り返し数nの総数Σnを、一回の航海において船舶が受けた波の総数と考えると、一回の航海において求められた(1期間につき1000回波を受ける)短期海象の数に1000を掛けた値が、応力繰り返し数の総数Σnとなる。さらに図20における遭遇波浪発現頻度分布より、各セルの割合に応じて、応力範囲Δσに応じた応力繰り返し数nが分配される。その結果、一回の航海における疲労被害度Dを求めることができる。
【0142】
また例えばAISデータ及び波浪データのサンプリング期間の開始時点が、所定の船舶の就航開始時点より前である場合に、その船舶が就航開始から受けた波浪応答に基づく疲労被害度を求めることができる。
【0143】
例えば船舶が就航開始から受けた波浪応答に基づく疲労被害度を求め、これを船舶の疲労健全性の指標とする。例えば当該船舶を中古船として売り出す際に、上記疲労健全性に基づいて、売価を適切に設定可能となる。
【0144】
また、上述の演算結果を受けて、船舶の疲労寿命を推定可能となる。疲労寿命Fatigue life[year]は、破断寿命DCRを用いて以下の式で表される。一般にはDCR=1が用いられる。設計寿命は長期予測の統計母数Nに対応し、例えば一般商船では25年(N=10回)とされる。設計寿命と疲労寿命とを比較して疲労評価が行われる。
【0145】
なお上述したように、図20に示されるように、遭遇波浪データを評価対象の全ての船舶について求めることで、評価対象海域における短期海象の、遭遇波浪の波浪発現頻度(遭遇波浪発現頻度)を得ることができる。例えば、この遭遇波浪発現頻度表は、波浪応答推定データベース140(図1参照)に記憶される。
【0146】
一方、図19には、図20の頻度表のベースとなった評価対象海域、つまり上記GWSのエリア8,9,15,16を含む、北大西洋海域の波浪発現頻度(海域全体波浪発現頻度)が表にまとめられる。この表は、IACS Recomendation No.34に基づいて求められる。図20と同様にして縦軸は有義波高Hsを示し、横軸は平均波周期Tzを示す。
【0147】
遭遇波浪を含む海域全体の波浪データをもとにした図19と比較して、船舶が実際に遭遇した波浪データをもとにした図20は、発生確率≠0の有義波高Hs及び平均波周期Tzの最大値が相対的に低くなっている。また、その発生確率の分布も、図19(海域全体波浪発現頻度)と比較して、図20(遭遇波浪発現頻度)では、より低い有義波高に最も発生確率の高いセルが割り振られている。
【0148】
このように、遭遇波浪データに基づく短期海象は、評価対象海域全体の短期海象よりも穏やかなものとなり、荒天避航等の船舶の操船影響が加味されたものと考えられる。後述するように、図20のような、操船影響を加味した波浪発現頻度を用いて波浪応答推定を行うことで、操船影響が加味されない、例えば評価対象海域全体の短期海象に基づいた波浪応答推定を行う場合と比較して、合理的(現実的)な波浪応答推定を行うことができる。
【0149】
また、遭遇波浪データの作成に伴い、図21図23に示す操船・波浪同時確率分布が得られる。これらのデータは、波浪応答推定データベース140(図1参照)に記憶される。また、以下に説明するように、これらの遭遇波浪データと操船状況、波浪応答に基づいて、船舶の安全運航に関する指標を求めることができる。
【0150】
図21には、図20と同様の、遭遇波浪発現頻度表が例示される。なお縦軸は有義波高Hsを示し、横軸は平均波周期Tzを示す。図22には、図21の破線枠で囲まれた部分を抽出した表が例示される。各セルには同時確率分布の円グラフが示される。
【0151】
図23には、図22の破線枠で囲まれたセル、つまり有義波高Hs=16.5、平均波周期Tz=11.5、発生頻度0.2のセルが例示される。円周に付された数字は相対波向きを示す。また円の中心から離れるほど発生頻度が高くなる。さらに円内には複数の特性線が図示される。これはそれぞれ有義波高Hs=16.5[m]、平均波周期Tz=11.5[s]の短期海象に遭遇したときにおける船速を示すものであり、航行速力Vsを基準として、それぞれ0~0.25Vs、0.25~0.5Vs、0.5~0.75Vs、0.75~1Vsの範囲にある船速の発生確率が示されている。
【0152】
図23を参照して、Hs=16.5mもの大波に対して、多くの船舶は低速または停止して波をやり過ごす傾向にあることが理解される。またいずれの船速によっても、相対波向き150°にて当該海象に対処していることが理解される。
【0153】
このように、有義波高Hs及び平均波周期Tzの発生確率に加えて、相対波向き及び船速の確率分布が得られることで、荒天中での実操船を考慮した設計荷重を設定することができる。または、荒天中での実操船の前例を参考とした操船支援等に利用することができる。また、針路上の海象を予測し、安全上最適な船速や針路を船舶に提案することができる。さらに、短期海象に応じた船速、波との出会い角(進路方向)を提案する安全運行マニュアルを作成可能となる。
【0154】
<短期海象波スペクトル法>
図2に例示する波浪応答推定フローでは、船種、船長さに応じた不規則波中応答関数を求める(S500)とともに、当該不規則波中応答関数に基づいて波浪応答を求めていたが、この形態に限らない。例えば、図24に例示するように、短期海象の波スペクトルを利用することにより、遭遇波浪の船体応答を求めてもよい。
【0155】
図24は、図2のS200,S500,S600をS1200,S1500,1600に置き換えたものである。図24のフロー説明に当たり、図2と同一のプロセスについては適宜説明を省略する。ステップS1200において、波浪データベース130には、波浪データとして、時刻、経度、緯度、有義波高、有義周期、波向きに加えて、短期海象波スペクトルが記憶される。
【0156】
図25には短期海象波スペクトルの例が示される。短期海象波スペクトルは、例えば一般社団法人日本気象協会から入手可能となっている。短期海象波スペクトルは、中心からの放射線及び同心円によって領域が区切られた円形状の二次元(極座標系)のグラフである。円周に沿って振られた角度は船舶の波に対する相対向かい角を示す。また中心を通過する縦軸は波の波長[m]を示し横軸は周期[s]を示す。
【0157】
短期海象波スペクトルでは、波浪エネルギーの分布が二次元的に示される。ドットハッチングが密であるほど波浪エネルギーが高いことを示す。
【0158】
この短期海象波スペクトルによれば、実際に船舶が受けた波浪応答を導くことができる。具体的には、図24のステップS1500にて、演算部220は、選択船舶の所定の時刻AISデータと同位置、同時刻の短期海象波スペクトルを取得する(S1500)。さらに、AISデータの針路方向の、短期海象波スペクトル内の波浪エネルギーを求めて、これに応じて波浪応答を求める(S1600)。
【0159】
例えば、図2で示す簡易法では、不規則波中応答関数(図10)及びレイリー分布(図12)に基づいて、短期海象1期間中の最悪海象(1000回に1回の大波)に基づいて波浪応答を求めていたが、この短期海象波スペクトル法では、実際に船舶が遭遇した海象で海面を設定して、不規則海面での時刻歴応答及びこれに基づく波浪応答の分布を求めることができる。
【0160】
<操船支援のための波浪応答推定>
図2図24では、船舶が実際に遭遇した波浪を基にして波浪応答を追算(hindcast)していたが、この形態に限らない。例えば、船舶の計画航路に基づいた予定位置の短期海象予測(forecast)を取得して、操船支援に用いてもよい。
【0161】
例えば、図2のステップS100において、演算部220は、AISデータとして、選択船舶の航路計画に基づき、現位置から先の(例えば一時間後)の予定位置(緯度、経度)を特定する。さらに演算部220は、ステップS400において、現時点から一時間後の波浪データを取得して、選択船舶の遭遇予定波浪の時刻歴データを求める。
【0162】
さらに演算部220は、ステップS600、またはステップS1600(図24)にて遭遇予定波浪に基づく船体応答を求める。演算部220は、この船体応答に基づく予定波浪荷重が許容値(設計荷重)に収まるか否かを判定する。予定波労荷重が許容値を超過する場合、選択船舶に対して荒天避航を促すメッセージを送る。
【0163】
<その他の船舶情報を利用した波浪応答推定>
上述した実施形態では、船舶情報としてAISデータを用いていたが、これに加えて、AISデータには含まれない船舶情報を用いて当該船舶の波浪応答を求めてもよい。
【0164】
例えば、評価対象船舶群の中に、歪みゲージ等が搭載された船舶が含まれる場合は、当該歪みゲージが検出する波浪荷重に伴う応力と、図2図24にて求めた応力の推定値の差に基づいて補完値を算出し、これを上記の応力の推定値に適用してもよい。これにより波浪応答の推定精度が向上する。
【0165】
また、図2図24のステップS800において操船支援や船体の健全性指標を求める際に、船舶の積付(積載)情報やエンジン出力データが加味されてもよい。例えば積載物に危険物が含まれる際には、入港予定日の遵守や燃費低減よりも優先して波浪応答の低い航路を提案するような操船支援を行うことができる。また、エンジン出力データを利用することでエンジンの疲労度を推定でき、中古船の売価をより適正に設定可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明は、船舶が遭遇した波浪環境を推定し、これに基づいて、船舶の設計荷重の合理的設定、安全運航支援やメンテナンスの合理的な基準設定が可能となる。
【符号の説明】
【0167】
100 記憶装置、110 RAOデータベース、120 AISデータベース、130 波浪データベース、140 波浪応答推定データベース、200 演算装置、210 入力部、220 演算部、230 分析部、300 表示器。
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