(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】樹脂構造体及び樹脂構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20200101AFI20230529BHJP
D06M 11/74 20060101ALI20230529BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20230529BHJP
C23C 18/42 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
C08J7/04 Z CFG
D06M11/74
D06M11/83
C23C18/42
(21)【出願番号】P 2019049831
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2018075054
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593021286
【氏名又は名称】ミツフジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】三寺 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】木内 智
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-101401(JP,A)
【文献】特開2010-192702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04
D06M 11/74
D06M 11/83
C23C 18/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性官能基を修飾されたカーボンナノチューブを分散した分散液を用い、ポリイミド合成樹脂またはポリアミド合成樹脂を酸性浴してカーボンナノチューブを結合させた合成樹脂
は、少なくとも表面の一部が銀で被覆されている樹脂構造体。
【請求項2】
前記酸性官能基は、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の
樹脂構造体。
【請求項3】
カーボンナノチューブを結合させた合成樹脂を製造する方法であって、
酸性官能基を修飾されたカーボンナノチューブを分散した分散液を得るステップと、
前記分散液へ、ポリイミド合成樹脂またはポリアミド合成樹脂を浸すステップと、
前記ポリイミド合成樹脂または前記ポリアミド合成樹脂を前記分散液へ浸した後に酸性浴
して、カーボンナノチューブを結合させた合成樹脂を製造するステップと、
前記カーボンナノチューブを結合させた合成樹脂に対し、少なくとも表面の一部を銀で被覆するステップと、
を有する樹脂構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを結合させた合成樹脂と、この合成樹脂に銀メッキを施した樹脂構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、繊維にカーボンナノチューブ(CNT)を結合させた繊維が知られている。この繊維は、CNTを水に分散したCNT分散液を用い、染め物の技術を使ってCNTを繊維へ結合させて得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-47096号公報
【文献】特開2011-58153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CNTは疎水性なので、ポリイミド合成繊維またはポリアミド合成繊維と結合しにくい、という課題がある。
【0005】
本発明の目的の1つは、ポリイミド合成樹脂またはポリアミド合成樹脂へ、従来手法と比べて容易にCNTを結合させた合成樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、酸性官能基を修飾されたカーボンナノチューブ(CNT)を分散した分散液を用い、ポリイミド合成樹脂またはポリアミド合成樹脂を酸性浴してCNTを結合させた合成樹脂である。
【0007】
本発明の別の一態様は、前記カーボンナノチューブを結合させた合成樹脂は、少なくとも表面の一部が導電性物質で被覆されている樹脂構造体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ポリイミド合成樹脂またはポリアミド合成樹脂へ、従来手法と比べて容易にCNTを結合させて得られる合成樹脂を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ナイロンを酸性浴し、CNTを結合させた合成繊維である。
【
図2】CNTを結合させたナイロンへ、銀メッキを施した繊維構造体である。
【
図3】CNTを結合させたナイロン、およびこのナイロンに銀メッキを施した繊維構造体を作成する手順である。
【
図4】試験結果で得られた抵抗率(Ω/cm)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は合成繊維10であり、ナイロン11にカーボンナノチューブ(CNT)12を結合させて得られる2層の構成からなる。なお、繊維は樹脂の一形態である。樹脂の形態としては、たとえば繊維、板がある。この発明の実施形態では、樹脂の一形態として繊維を例にとって説明する。
【0011】
CNT12は疎水性なので、ナイロン11と結合するのは難しい。この問題を解決するため、本実施形態の合成繊維10は、ナイロン11を、カルボキシル基(COOH)で修飾されたCNT12を水に分散した不図示のCNT分散液へ浸し、染色する。染色するとは、この場合、酸性浴を行うことである。CNT12は酸性官能基であるカルボキシル基で修飾されているので、ナイロン11をCNT分散液へ入れ、酸性浴することで、CNT12とナイロン11は結合する。染色は、硫酸・ギ酸・酢酸等を用いた酸性浴を行う。
【0012】
CNT12はカルボキシル基を持ち親水性を有するので、水へ均一に分散しやすく、この結果、CNT12はナイロン11へ均一に結合しやすい。CNT12はカルボキシル基を有するので、NH2を持つナイロン11と化学結合しやすい。この結果、ナイロン11は、従来技術に比べて容易にCNT12と結合できる。
【0013】
ナイロン11は、CNT12が有するカルボキシル基と結合するNH2を持っていればよく、ポリイミド合成繊維やポリアミド合成繊維を適用できる。
【0014】
CNT12は、NH2と反応する極性基で修飾されていればよく、酸性官能基で修飾されればよい。酸性官能基は、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸のいずれかだと好ましい。本実施形態では、合成繊維10へ銀メッキすることを予定しているので、硫化銀が生じるスルホン酸を使う可能性は小さい。だが、合成繊維10へ他の導電性物質を被覆するなら、スルホン酸を使ってもよい。水酸基は出願時点において、他の酸性官能基と比べて価格が高いため使う可能性は小さいが、価格が下がった場合は使う可能性が出てくる。以上より、本実施形態では、カルボキシル基を使っている。
【0015】
図2は繊維構造体30であり、
図1の合成繊維10の少なくとも表面の一部が導電性物質33で被覆されており、3層の構成からなる。合成繊維10の表面すべてが導電性物質33で被覆されていてもよい。符号31はナイロンであり、ポリイミド合成繊維やポリアミド合成繊維を適用できる。符号32はカルボキシル基で修飾されたCNTである。CNT32を修飾する物質は酸性官能基であればよく、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸のいずれかだと好ましい。
【0016】
導電性物質33は、銀、ニッケル、銅、金などの金属を挙げられるが、導電性を有する物質であればよく、金属に限定されない。銀は導電性に優れ、電磁波シールド、抗菌、防臭、保温、断熱、制電といった効果を有するため、銀を被覆した繊維構造体30は、様々な製品へ幅広く適用できる。導電性物質33を合成繊維10へ被覆する手法の一例として、メッキがある。
【0017】
図2の実施形態で得られる繊維構造体30は、本特許出願人が保有する、ナイロンへ銀メッキした製品:AGposs(登録商標)に対して、以下の技術的優位性を持つ。
【0018】
(1)物理的な耐久性が高まる。
AGpossは、表面が滑らかなナイロンへ銀メッキするため、銀が剥がれる恐れが高まる。一方、繊維構造体30は、表面が滑らかではないCNTを有する合成繊維10に銀メッキするため、銀とCNTが結合する表面積が大きくなる。この結果、繊維構造体30において銀メッキが結合する強度は、AGpossより大きくなる。合成繊維10は、CNT層を持つので、メッキしやすい下地を有するといえる。
【0019】
(2)化学的な安定性が高まる。
AGpossは、ナイロン層と銀層の2層から構成される。一方、繊維構造体30は、ナイロン層・CNT層・銀層の3層から構成される。繊維構造体30は、もっとも外側の銀層が有する電荷が、内側のCNT層へ引き寄せられる。このため、繊維構造体30のもっとも外側に位置する銀層は化学的な活性度が弱まり、AGpossと比べて化学的な安定性が高くなる。
【0020】
(3)安定した導電性を得られる。
AGpossは、ナイロン層と銀層の2層から構成される。AGpossの場合は、銀層に欠陥が生じたらこの部分の導電性が落ち、導電性が不安定になる。一方、繊維構造体30は、ナイロン層・CNT層・銀層の3層から構成される。繊維構造体30は、もっとも外側の銀層に欠陥が生じても、下層のCNT層が導電性を有するため、AGpossと比べて安定した導電性を得やすい。
【0021】
(4)銀の使用量を減らせる。
繊維構造体30は、ナイロン層・CNT層・銀層の3層から構成される。繊維構造体30は、CNT層が導電性を持つ。下層のCNT層が導電性を持つ分だけ、繊維構造体30の銀層を薄くでき、すなわち銀の使用量を減らせるため、AGpossと比べて所定の導電性を確保するのに必要な銀の使用量を減らせる。
【0022】
図3は、CNTを結合させたナイロン、およびこのナイロンに銀メッキを施した繊維構造体を作成する手順である。
【0023】
ステップS1~ステップS4は、CNTを結合させた合成繊維を製造する工程である。
【0024】
ステップS1は、カルボキシル基を修飾されたCNTを、水で分散した分散液を得る工程である。カルボキシル基を修飾されたCNTは、SIGMA-ARDLICH社の製品番号:755125-1Gを使った。カルボキシル基のかわりに、スルホン酸や水酸基といった酸性官能基を使うことができる。
【0025】
ステップS2は、ナイロンを、ステップS1で得た分散液へ浸す工程である。ステップS2では、ナイロンを用いたが、ポリイミド合成繊維やポリアミド合成繊維を代わりに用いることができる。
【0026】
ステップS3は、ステップS2で得た、ナイロンを浸した分散液へ、硫酸・ギ酸・酢酸等を投入し、酸性浴を行う工程である。
【0027】
ステップS4は、ステップS3で得た生産物であり、CNTを結合させた合成繊維を得る工程である。
【0028】
ステップS5は、ステップS4で得た合成繊維に銀メッキを施し、繊維構造体を得る工程である。銀メッキを施す方法としては、無電解メッキ法を適用できる。
【0029】
図4は、試験結果で得られた抵抗率(Ω/cm)を示す図である。被検体としては、3種類の繊維構造体30と、比較用に1種類の合成繊維とを用いた。3種類の繊維構造体30は、3回連続して作製したものであり、個体差を見るために3種類用意した。ここでは、繊維構造体30(1)、(2)、(3)として区別する。
【0030】
試験方法は、ISOで定義されている5つの試験方法と、JISで定義されている摩耗強さ試験であるJIS L 1096 E法(マーチンデール)を50回、100回、200回、500回、1000回、2000回、5000回、10000回、20000回の9種類の回数で行った。
【0031】
なお、ISO試験において斜線を引いてあるところは、試験を行わなかったことを示す。また、JIS試験における空欄も試験を行わなかったことを示す。
【0032】
JIS試験の結果、繊維構造体30(1)、(2)、(3)は、繊維構造体30(2)の塩素漂白試験を除いて比較用合成繊維に比べて抵抗率の変化が少ないことが分かった。
【0033】
また、ISO試験の結果、繊維構造体30(1)、(2)、(3)は、繊維構造体30(2)の塩素漂白試験を除いて、比較用合成繊維に比べて抵抗率の変化(増大)が少ないことが分かった。
【0034】
JIS試験では、主に化学的性質を長期にわたって保持できることが確認でき、ISO試験では、主に物理的性質を長期にわたって保持できることが確認できた。
【0035】
以上より、CNTの下地を施した繊維構造体30の効果を確認することができた。
【0036】
以上、本発明の例示的な実施の形態のカーボンナノチューブを結合させた合成樹脂、この合成樹脂に銀メッキを施した樹脂構造体について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 合成繊維
11 ナイロン
12 CNT
30 繊維構造体
31 ナイロン
32 CNT
33 導電性物質