(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】創傷ドレッシング器具、アセンブリおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61F 13/02 20060101AFI20230529BHJP
A61F 13/00 20060101ALI20230529BHJP
A61L 15/40 20060101ALI20230529BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20230529BHJP
A61L 26/00 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
A61F13/02 340
A61F13/00 305
A61L15/40
A61L15/44
A61L26/00
(21)【出願番号】P 2020516719
(86)(22)【出願日】2018-09-17
(86)【国際出願番号】 IL2018051049
(87)【国際公開番号】W WO2019058373
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-08
(32)【優先日】2017-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(73)【特許権者】
【識別番号】517114528
【氏名又は名称】レッドドレス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】クシュニール,アロン
(72)【発明者】
【氏名】クシュニール,イガル
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0089551(US,A1)
【文献】特表2012-515602(JP,A)
【文献】国際公開第2010/055622(WO,A1)
【文献】特表平5-508565(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0132820(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/00-13/02
A61L15/16-15/64、26/00
A61M27/00、35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に液密に取り付けられるように構成された縁部により囲まれた凹状の壁によって画定されたキャビティを含む血餅成型器であって、前記縁部が皮膚に取り付けられたら前記キャビティ内に血液を導入するために、前記血餅成型器の凹状の壁は、(i)穴開け可能であって血液を前記キャビティに導入するのに適した部分と、(ii)前記血液を前記キャビティに導入するのに適したポートとのうち一方を含む、血餅成型器と、
創傷の上に固定された後で血液を前記キャビティに導入して、
前記キャビティ内において、前記血液が創傷と接触し
、創傷の上で凝固
し、血餅を形成するようにする器具と、
前記血液の前記キャビティへの導入の前または後に、前記血液と混合される血液凝固開始剤と、
を具えることを特徴とする創傷ドレッシングアセンブリ。
【請求項2】
請求項1に記載の創傷ドレッシングアセンブリにおいて、前記器具は、
前記縁部に取り外し可能に固定され、前記キャビティを封止するクロージャを含むことを特徴とする創傷ドレッシングアセンブリ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の創傷ドレッシングアセンブリにおいて、前記血餅成型器は、前記縁部に取り外し可能に固定され、成型空間を封止す
るクロージャを含むことを特徴とする創傷ドレッシングアセンブリ。
【請求項4】
請求項3に記載の創傷ドレッシングアセンブリにおいて、前記クロージャは、フィルムの形態であることを特徴とする創傷ドレッシングアセンブリ。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の創傷ドレッシングアセンブリにおいて、前記縁部は皮膚にくっつけるための接着剤を有することを特徴とする創傷ドレッシングアセンブリ。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の創傷ドレッシングアセンブリにおいて、形成された血餅内で一体化するように構成された足場マトリックスを具えることを特徴とする創傷ドレッシングアセンブリ。
【請求項7】
請求項
6に記載の創傷ドレッシングアセンブリにおいて、前記足場マトリックスは、前記キャビティ内に含まれることを特徴とする創傷ドレッシングアセンブリ。
【請求項8】
請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の創傷ドレッシングアセンブリにおいて、
前記壁に穴を開けて、血液を前記キャビティに注入する注射器および針と、
前記血餅の上に固定するドレッシング材とのうち一方または両方を具えることを特徴とする創傷ドレッシングアセンブリ。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の創傷ドレッシングアセンブリにおいて、前記
血液凝固開始剤は、
血液と混合、または創傷の上に直接適用するのに適した粉末、顆粒、または溶液の形態であり、
前記キャビティ内に事前にあり、
前記キャビティ内に含まれ、または前記取り付けの前に前記創傷の上に載せることを意図した足場マトリックスに組み込まれることを特徴とする創傷ドレッシングアセンブリ。
【請求項10】
請求項1乃至
9のいずれか一項に記載の創傷ドレッシングアセンブリにおいて、前記キャビティの壁は、
前記血液をエンクロージャに導入中に過剰な圧力を除去するための、事前に封止された通気孔と、
血液を成型空間に導入するためのポートのうち一方または両方を具えることを特徴とする創傷ドレッシングアセンブリ。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の創傷ドレッシングアセンブリにおいて、前記壁の少なくとも一部が透明であることを特徴とする創傷ドレッシングアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、創傷治療の分野にあり、創傷ドレッシング器具、アセンブリ、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性創傷および皮膚潰瘍は深刻な病状であり、効果的な創傷治療アプローチが、医療ニーズとして認識されている。
【0003】
米国特許第9,180,142号は創傷治療法を開示し、そこでは、血液を凝固させ、形成された血餅がドレッシング材により創傷の上に適用される。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、血餅の使用による創傷治療に関する。本開示により具体的に提供されるのは、血餅を形成するための創傷ドレッシング器具およびアセンブリ(例えば、現在開示されている創傷治療に用いられる部品のキットの形態)、血餅を含む創傷ドレッシングを調製する方法、およびそれを用いた創傷手当方法である。
【0005】
本開示に従って形成および使用される血餅は通常、本開示の教示により創傷が手当される同じ対象の血液から形成され、血液採取の医療行為で認められる任意の方法で対象から採取される。しかし、別のソースから血液、例えば、血液バンクから得られる血液を使用することも、本開示に従って想定される。
【0006】
この開示により3つの態様が提供される。第1に創傷ドレッシング器具に関し、第2に、例えば、当該器具を構成要素の1つとして含む部品のキットの形態のアセンブリに関し、第3は、創傷手当方法および使用に関し、そこでは前記器具が重要な構成要素である。
【0007】
3つの態様は全て、創傷手当処置の一部として、血餅を、創傷の上でその場(in situ)で形成することを中心とする。言い換えると、まだ液体状態にある血液を創傷と接触させ、手当てをする創傷と少なくとも部分的に接触させながら血液を凝固させる。以下の説明において、3つの態様の全てが「創傷手当処置」という用語に包含される。
【0008】
この方法は、本明細書に開示される種類の器具を創傷の上に固定することを含み、器具は、創傷とともに密封空間を画定し、その空間は創傷の上で血液を凝固させる型(ギプス)として機能する。この空間は、本明細書では「成型空間」と呼ばれる。
【0009】
器具は、皮膚に液密に取り付けられるように構成された縁部により囲まれたキャビティまたはくぼみを含む。キャビティまたはくぼみは、概ね凹状、多角形または他の任意の適切な形状であり得る壁を有してもよい。いくつかの実施形態において、キャビティは浅く、すなわち、壁によって限定された全体の面積よりも相対的に小さい深さを有する。
【0010】
縁部は通常、皮膚に接触したときに狭い平らな表面を形成し、皮膚に液密に取り付けられるように比較的平らかつ滑らかなものとする。本開示の実施形態によると、縁部は、確実に皮膚に液密に取り付けられる接着剤を担持し得る。
【0011】
更に、いくつかの実施形態において、接着剤は、取り付け前に、皮膚または縁部に適用されてもよい。時には、この実施形態によれば、縁部の少なくとも一部は、皮膚に固定する前に、接着剤が塗布される粗い表面を有し得る。本開示の他の実施形態によれば、両面接着ストリップを縁部または皮膚に取り付けて、取り付け手段として使用することも可能である。更に、別の実施形態によれば、取り付けは、血餅形成プロセス全体においてしっかりと結合するよう、器具の縁部および周囲の皮膚部分の上に取り付けられた粘着テープを用いてもよい。
【0012】
他の実施形態によれば、縁部を皮膚に取り付けることは、成型空間内に真空を形成することにより、手で器具(したがって縁部)に力を加えることにより、弾性バンド、粘着テープ、または器具を皮膚にしっかりと押し付ける他の手段を用いることにより行われてもよい。
【0013】
縁部の間に閉じ込められた創傷の表面積は、異なる形状およびサイズの創傷に合わせた異なる形状およびサイズを有し得る。したがって、創傷手当処置はまた、創傷の境界を取り囲む皮膚部分に縁部を載せるように適切な形状およびサイズの器具の選択をも含み得る。いくつかの実施形態において、器具は、所望の形状および縁部間に囲まれた創傷面積への成形および/または伸長が可能なように伸縮自在または柔軟である。
【0014】
器具はまた、縁部に取り外し可能に取り付けられ、使用までキャビティを封止するクロージャを含んでもよい。クロージャは、キャビティの無菌状態を維持するため、およびキャビティ内の凝固開始剤および/または足場マトリックス等の構成要素を保持するために有用であり得る。クロージャは、例えば、プラスチック、ホイル、それらの組み合わせなどで作られたフィルムであってよく、皮膚に固定する前にキャビティ(縁部)の開口部から剥がされる。
【0015】
本明細書に開示される創傷手当処置によると、縁部が創傷を取り囲む皮膚部分にしっかりと固定されると、成型空間が形成され、その空間は、上記のとおり、創傷の表面とキャビティの壁との間に画定される。次に、血液、通常は全血を成型空間に導入し、成型空間内で凝固させて創傷の上に血餅を形成することができる。血餅は、一定期間、創傷の上に維持される。この期間は様々であってよく、通常は数時間、数日または数週間で、例えば、1日、2~6日、1週間、2~4週間、場合によってはさらに長く、上記期間の間の任意の期間であってもよい。いくつかの実施形態において、血餅は、数週間から数ヶ月の治癒プロセス全体にわたり創傷の上で維持され得る。いくつかの実施形態において、創傷治療は定期的なリフレッシュ処置を含み、その処置は、既存の血餅を創傷から取り外すことと、その後、上記の方法で創傷の上に新しい血餅を形成することとを含む。創傷の上の血餅形成からリフレッシュ処置の実施までの期間は、例えば、1日、2~6日、1週間、2~4週間等で、ならびに上記期間の間の任意の期間であってもよい。全体の創傷治癒処置は、何回かの連続したリフレッシュ処置を含んでもよい。
【0016】
器具の壁は、さまざまな素材で作成することができる。通常は、血液導入および血餅形成が観察できるよう、壁またはその一部は透明である。
【0017】
血液の導入は、一実施形態によれば、針で壁に穴をあけ、次に針を通して成型空間に血液を注入することを含む。任意選択的に、この導入の前に、隣接するまたは異なる位置の壁に第2の穴があけられ、それにより通気孔が形成されて、血液導入中の過剰な圧力を解放することができる。他の実施形態によれば、壁は、血液導入前に事前に封止および開放される通気弁、および/または血液を成型空間に導入するためのポートを備えてもよい。
【0018】
一実施形態によれば、器具は、血餅が形成された後に取り外される。取り外しを容易にするため、例えば、形成された血餅の完全性を損なうことなく、壁は、好ましくは血餅がくっつかない材料で作られるか、またはその材料で被覆される。別の実施形態によれば、器具またはその一部は、血餅が形成された後、その場(in situ)に留まり、創傷ドレッシングの一部として機能する。
【0019】
血餅形成後に器具が取り外される場合、ドレッシング材、例えばガーゼ、プラスタまたは包帯を血餅の上に取り付けて、血餅を保護し所定の位置に固定させてもよい。いくつかの実施形態によれば、創傷手当処置は、形成される血餅と一体化するように、血液を凝固させる前に血液と組み合わされ接触される足場マトリックスを使用してもよい。足場マトリックスは、血餅を支持し、血餅の構造的完全性の維持を補助する。足場マトリックスは、一実施形態によれば、器具を皮膚に固定する前に創傷の上に取り付けられる独立した要素であってもよく、別の実施形態によれば、足場マトリックスは、キャビティ内に含まれてもよく、例えば、事前に含まれる、または器具を創傷に固定する前にキャビティに導入される。足場マトリックスは、例えば、2次元または3次元マトリックスであってもよく、多孔性材料であってもよく、網状構造物を有してもよく、プラスチック等の高分子材料から作られてもよく、天然または合成繊維から作られてもよく、または織布または不織布、例えば、ガーゼから作られてもよい。
【0020】
制御された凝固を確実にするために、凝固開始剤の1つまたは組み合わせ、すなわち血液凝固を促進/活性化する1つ以上の(合成または自然に存在する)物質に血液を接触させてもよい。いくつかの実施形態において、凝固開始剤はカオリンである。凝固開始剤を使用する場合、血液の凝固は、例えば、成型空間に導入する直前に血液をカオリンと混合することを含み得る。あるいは、凝固開始剤は、キャビティ内に事前に存在してもよく、例えば、壁に取り付けられるか、足場マトリックスに組み込まれるか、キャビティ内に配置されるか、または事前にキャビティ内に含まれる、更に、血液導入前または後に(例えば、注入により)成型空間に別々に導入されてもよい。更に、または代替的に、凝固開始剤は、器具を創傷の上に固定する前に、創傷の上に取り付けられた足場マトリックスに組み込まれてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態において、凝固開始剤は、例えば、粉末、顆粒、または液体として別々の容器に独立して保存され、続いて、成型空間に導入する際に血液と混合され、または、血液を導入する前または後に足場マトリックスに適用される。更なる別の代替案によれば、創傷治療処置の第1のステップとして、凝固開始剤を創傷に直接適用してもよい。
【0022】
本開示の創傷ドレッシングアセンブリまたはキットは、上記で特定された種類の凝血成型器を含む。更に、いくつかの実施形態によれば、アセンブリまたはキットは、血餅を創傷の上でその場(in situ)で形成するのに必要な他の要素または器具、例えば、血液をキャビティに導入するための注射器を含んでもよい。アセンブリまたはキットはまた、創傷の上に形成された血餅に適用するドレッシング材を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本明細書に開示される主題をよりよく理解し、実際にどのように実行されるかを例示するために、添付図面を参照しながら、実施形態を非限定的な例としてのみ説明する。
【
図1】
図1は、本開示の実施形態による創傷ドレッシング器具を示す。
【
図2】
図2は、クロージャを取り外して皮膚に適用した後の創傷ドレッシング器具を示す。
【
図3】
図3Aおよび3Bはそれぞれ、血液を成型空間に導入する2つのステップを示す。
【
図4】
図4は、血液がまだ液体形態であり、器具が粘着テープにより皮膚に固定されている状態の、創傷ドレッシング器具を示す。
【
図5】
図5は、取り外しの前に器具が部分的に破壊された状態の血餅を示す。
【
図6】
図6は、血餅形成後であって器具が取り外された後の皮膚の上の血餅を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付図面に示した実施形態を参照して、本発明を以下に説明する。これらの図面は、創傷がない皮膚の上で行われた試験による写真であり、本開示の創傷手当方法を説明する。
【0025】
図1に示される器具100は、概ね平坦な縁部106の間に画定されるキャビティ104を形成する、概ね凹状の壁102を含む。縁部の間に画成された開口部は、縁部106に取り付けられたラミネート/フィルムである取り外し可能なクロージャ108によって封止されている。クロージャ108が取り外された後、器具100は皮膚の上に載せられ、クロージャが取り外された後に残った接着剤で器具が皮膚にくっつく。被験者の皮膚に固定された器具100が
図2に示されている。
【0026】
図1にはまた、キャビティ内に配置された足場マトリックス112が示され、足場マトリックスは、凝固開始剤110を保持する。
【0027】
図3A乃至3Bには、通常は全血である血液を成型空間に導入するステップが示される。具体的には、被験者から採取された、または代替的に血液バンクから得られた血液は、針120を用いて、壁102と、その下の皮膚または創傷の部分との間に形成された成型空間に注入される。この非限定的な実施形態によると、成型空間に導入されると、血液は、キャビティ内に事前にある凝固開始剤110と混合される。針120は、最初に器具の壁に穴を開け、次に、注射器(図示せず)に含まれる血液を注入する。
【0028】
他のいくつかの実施形態において、血液は、別の容器(図示せず)に提供されるカオリン等の凝固開始剤と事前に混合されるか、または凝固開始剤は、血液導入の前、間、または後のいずれかで成型空間に別々に導入される。
【0029】
図1乃至3Bにも見られるように、器具の壁は透明であり、血液導入およびその後の凝結を観察することができる。
【0030】
次に、血液を成型空間内に保持した状態で、少なくとも血液が凝固するまで器具を皮膚に取り付けたままにする。そのような時間は、数日から1週間以上の範囲であり得る。
図4に見られるように、器具は、接着ストリップ130を使用することにより皮膚に固定され得る。
【0031】
しばらくすると、
図5に見られるように、血餅が形成され、器具の壁を切り取ることが可能である。そして、取り外した後、
図6に見られるように、血餅140が皮膚の上に残る。処置が創傷の上で行われる場合、血餅は創傷を覆い、ガーゼまたは包帯等の従来のドレッシング材であり得るドレッシング材が、創傷を保護して血餅を所定の位置に固定するため、血餅の上に適用される。