(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】脂肪性肝疾患の治療薬
(51)【国際特許分類】
A61K 31/381 20060101AFI20230529BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230529BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230529BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
A61K31/381
A61P1/16
A61P43/00 105
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2022543965
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2021030099
(87)【国際公開番号】W WO2022039178
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2020138703
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513001606
【氏名又は名称】EAファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】安藤 綾俊
(72)【発明者】
【氏名】川西 一平
(72)【発明者】
【氏名】白石 征士
(72)【発明者】
【氏名】田中 はるみ
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 友希
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/187533(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0281739(US,A1)
【文献】TOONEN, E.J.M., et al.,Molecular Medicine,2016年,Vol.22,pp.202-214.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/381
A61P 1/16
A61P 43/00
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
で表される化合物又はその医薬上許容可能な塩を含む、
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、及び代謝関連脂肪性肝疾患(MAFLD)からなる群から選択される脂肪性肝疾患の治療薬。
【請求項2】
前記医薬上許容可能な塩が塩酸塩である、請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】
前記脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である、請求項1又は2に記載の治療薬。
【請求項4】
前記脂肪性肝疾患がNAFLDである、請求項3に記載の治療薬。
【請求項5】
前記NAFLDが肝臓の線維化を伴っている、請求項4に記載の治療薬。
【請求項6】
前記NAFLDが肝臓の炎症を伴っている、請求項4に記載の治療薬。
【請求項7】
前記脂肪性肝疾患がNASHである、請求項3に記載の治療薬。
【請求項8】
前記NASHが肝臓の線維化を伴っている、請求項7に記載の治療薬。
【請求項9】
前記NASHが肝臓の炎症を伴っている、請求項7に記載の治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪性肝疾患の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪性肝疾患の1つである非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧等のメタボリックシンドロームにより、肝臓に過剰の脂質が蓄積して生じる肝疾患である。NAFLDのうち特定のポピュレーションにおいては非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に進行し、炎症や肝細胞死等によって肝線維化を形成する。その後、肝硬変を引き起こし、最終的には肝癌や心血管疾患に至ることもある(非特許文献1)。
【0003】
NASHの確定診断は病理診断で行われる。活動性は、脂肪変性、炎症性細胞浸潤、及び風船様腫大をそれぞれ点数化し、これらの合計点であるNAS(NAFLD活動性スコア)に基づいて、分類されている。また、病期は、肝線維化の程度に基づいて分類されており、具体的には、ステージ1は中心静脈周囲の線維化、ステージ2は更に門脈周囲の線維化、ステージ3はBridging fibrosis、ステージ4は肝硬変である。
【0004】
現状のFDAのガイダンス(非特許文献2)によると、臨床試験の第2相以降のエンドポイントは組織学的改善効果、即ちNASの改善又は肝線維化の改善のいずれかを示すことが必要とされている。
【0005】
NASHの治療薬として、PPARγアゴニストであるチアゾリジン系薬剤やビタミンEが推奨されているが、糖尿病治療に伴う間接的な作用であるため、肝硬変や肝癌の発症を防ぐ効果までは証明されておらず、むしろ長期投与による副作用の懸念が大きい。このように、NAFLD及びNASHの治療方法は未だ確立されておらず、そのため、FXRアゴニスト(オベチコール酸、Tropifexor等)、SCD1阻害剤(Aramchol)、ASK1阻害剤(Selonsertib)、PPARα/γアゴニスト(Elafibranor)等の様々な薬剤が開発中であり、新たな治療薬が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hepatology. 2018 Jan;67(1):328-357.
【文献】Noncirrhotic Nonalcoholic Steatohepatitis With Liver Fibrosis: Developing Drugs for Treatment Guidance for Industry
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、脂肪性肝疾患の治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等が鋭意検討した結果、特定の構造を有する化合物が脂肪性肝疾患を治療できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は下記の実施形態を含む。
[1]
下記式(1):
【化1】
で表される化合物又はその医薬上許容可能な塩を含む、脂肪性肝疾患の治療薬。
[2]
前記医薬上許容可能な塩が塩酸塩である、[1]に記載の治療薬。
[3]
前記脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である、[1]又は[2]に記載の治療薬。
[4]
前記脂肪性肝疾患がNAFLDである、[3]に記載の治療薬。
[5]
前記NAFLDが肝臓の線維化を伴っている、[4]に記載の治療薬。
[6]
前記NAFLDが肝臓の炎症を伴っている、[4]に記載の治療薬。
[7]
前記脂肪性肝疾患がNASHである、[3]に記載の治療薬。
[8]
前記NASHが肝臓の線維化を伴っている、[7]に記載の治療薬。
[9]
前記NASHが肝臓の炎症を伴っている、[7]に記載の治療薬。
【0010】
上記実施形態は、下記のように表現することもできる。
[A]
脂肪性肝疾患を治療する方法であって、治療の必要のある患者に治療有効量の上記[1]で定義される式(1)で表される化合物又はその医薬上許容可能な塩を投与することを含む方法。
[B]
脂肪性肝疾患の治療に使用するための、上記[1]で定義される式(1)で表される化合物又はその医薬上許容可能な塩。
[C]
脂肪性肝疾患の治療に使用するための、上記[1]で定義される式(1)で表される化合物又はその医薬上許容可能な塩の使用。
[D]
脂肪性肝疾患の治療薬の製造における、上記[1]で定義される式(1)で表される化合物又はその医薬上許容可能な塩の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、脂肪性肝疾患の治療薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】
図1Aは、投与物質を投与して12週目の血漿中ALTを示す。
【
図1B】
図1Bは、投与物質を投与して18週目の血漿中ALTを示す。
【
図1C】
図1Cは、投与物質を投与して18週目の血漿中ASTを示す。
【
図2】
図2は、投与物質を投与して18週目の血漿中Tchoを示す。
【
図3】
図3は、投与物質を投与して18週目の肝臓中TGを示す。
【
図4】
図4は、投与物質を投与して18週目の肝臓のSirius Red陽性面積率を示す。
【
図5】
図5は、投与物質を投与して18週目の肝臓の免疫染色によるCD68陽性hCLS数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0014】
本発明の一実施形態は、下記式(1):
【化2】
で表される化合物又はその医薬上許容可能な塩を含む、脂肪性肝疾患の治療薬に関する。
【0015】
式(1)で表される化合物又はその医薬上許容可能な塩は、例えば、国際公開第2015/137407号及び国際公開第2015/137408号に記載の合成方法を参考にすることによって、当業者が容易に合成することができる。
【0016】
式(1)で表される化合物の医薬上許容可能な塩は、医薬として使用可能なものであれば特に限定されないが、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、及びフマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、乳酸塩、酢酸塩、パルミチン酸塩等の有機酸塩を挙げることができる。
【0017】
式(1)で表される化合物又はその医薬上許容可能な塩は、水和物等の溶媒和物を形成していてもよい。本明細書において、溶媒和物は、式(1)で表される化合物又はその医薬上許容可能な塩に包含されるものとする。
【0018】
本実施形態の治療薬は、式(1)で表される化合物又はその医薬上許容可能な塩のみを含んでいてもよいし、その他の成分を更に含んでいてもよい。その他の成分としては、剤形等に応じて適宜異なるが、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤、保存剤、着色剤、芳香剤、甘味剤、矯味剤、安定剤、及び粘稠剤を挙げることができる。
【0019】
本実施形態の治療薬は、経口的又は非経口的に投与することができる。経口投与用の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、及び懸濁剤が挙げられる。非経口投与用の剤形としては、例えば、注射剤、注入剤、点滴剤、点眼剤、及び坐剤が挙げられる。
【0020】
本実施形態の治療薬は、脂肪性肝疾患を治療することができる。本明細書における「治療」には、脂肪性肝疾患の発症を予防すること、脂肪性肝疾患の進行を抑制すること、脂肪性肝疾患の症状を軽快させること、脂肪性肝疾患を治癒すること等が含まれる。
【0021】
脂肪性肝疾患の具体例としては、例えば、NAFLD、NASH、代謝関連脂肪性肝疾患(MAFLD)、脂肪肝を挙げることができる。特に限定するものではないが、本実施形態の治療薬は、NAFLD及び/又はNASHを治療するのに好適に使用することができる。
【0022】
本実施形態の治療薬は、脂肪性肝疾患の治療に際して、肝障害(例えば、血漿中ALT及び/又はASTの上昇)、脂質代謝異常(例えば、血漿中総コレステロールの上昇)、肝脂肪化(例えば、肝臓中のトリグリセリドの増加)、肝線維化(例えば、Sirius Red陽性面積率の増加)、及び肝炎症(例えば、hCLS数の増加)からなる群から選択される1種以上の症状を改善することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0024】
本実施例では、高脂肪食・高フルクトース誘発NASHモデル(Fast Food Diet model:FFDモデル)を用いて、試験薬の効果を評価した。FFDモデルについては、BMC Gastroenterol. 2020; 20: 210.及びAm J Physiol Gastrointest Liver Physiol . 2013 Oct 1;305(7):G483-95を参照されたい。
【0025】
<投与物質>
・0.5%(w/v)メチルセルロース溶液(以下「0.5%MC」という。)
・試験薬
試験薬は、上記式(1)で表される化合物の塩酸塩(以下「化合物1」という。)を、0.5%MCに添加し、超音波破砕して調製した。
【0026】
<実験動物>
6週齢のC57BL/6J Jms Slc雄性マウスに、標準餌(D09100304、リサーチダイエット社)又は病態発症用のFFD餌(D09100310N、リサーチダイエット社)を20週間供与した。その後、血漿中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値、体重、及び空腹時血糖値の3項目に基づいて、表1に示すように群分けを行った。
【0027】
<投与方式>
表1に示す用法及び用量にしたがい、各群に投与物質を18週間強制経口投与した。
【表1】
【0028】
<評価方法>
投与12週目に尾静脈採血によってALTを測定した。投与18週目に剖検を実施し、血漿中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、血漿中総コレステロール(Tcho)、及び肝臓中トリグリセリド(TG)を測定した。また、肝臓病理解析によりSirius Red陽性面積率及びHepatic crown-like structure(hCLS)数を測定した。
【0029】
<統計解析>
GraphPad Prism 6(GraphPad Software, Inc.)を用いて統計解析を行った。Normal群とVehicle群については、t検定又はMann-Whitney’s検定を実施した。Vehicle群と化合物1群についてはDunnett型多重検定又はDunn’s型多重検定を実施した。各パラメータの分布に応じて、適切ないずれかの検定法を選択した。全ての検定の有意水準はp=0.05とした。
【0030】
<血漿中ALT及びAST>
図1Aに投与12週目の血漿中ALTを示し、
図1Bに投与18週目の血漿中ALTを示し、
図1Cに投与18週目の血漿中ASTを示す。Vehicle群は、Normal群に対して統計学的に有意な血漿中ALT及びASTの上昇を示した。また、化合物1(60)群は、Vehicle群に対して統計学的に有意な血漿中ALT及びASTの上昇抑制作用を示した。この結果から、化合物1が肝障害を改善することを確認した。
【0031】
<血漿中Tcho>
図2に投与18週目の血漿中Tchoの値を示す。Vehicle群は、Normal群に対して統計学的に有意な血漿中Tchoの上昇を示した。また、化合物1(60)群は、Vehicle群に対して統計学的に有意な血漿中Tchoの上昇抑制作用を示した。この結果から、化合物1が脂質の代謝を改善することを確認した。
【0032】
<肝臓中TG>
肝臓サンプルをリン酸緩衝液でホモジナイズし、メタノールとクロロホルムを加えて一晩抽出した後、さらにクロロホルムと蒸留水を添加した。混合液を遠心分離してクロロホルム層を分取し、溶媒を乾固した。残渣をイソプロパノール/TritonX-100で溶解し、これを測定サンプルとし、トリグリセライド E-テストワコー(富士フィルム和光純薬株式会社)を用いて測定した。
【0033】
図3に投与18週目の肝臓中TGの値を示す。Vehicle群は、Normal群に対して統計学的に有意な肝臓中TGの増加を示した。また、化合物1(30)群及び化合物1(60)群は、Vehicle群に対して統計学的に有意な肝臓中TGの増加抑制作用を示した。この結果から、化合物1が肝臓に対する脂肪化抑制作用を有することを確認した。
【0034】
<Sirius Red陽性面積率>
摘出した肝臓を10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定し、定法に従ってパラフィン包埋し、Sirius Red染色標本を作製した。Sirius Red染色標本を使用し、陽性面積率を算出した。Normal群の陽性面積率を平均してバックグランドとした。
【0035】
図4に投与18週目の肝臓のSirius Red陽性面積率を示す。Vehicle群は、Normal群に対して統計学的に有意な肝臓のSirius Red陽性面積率の増加を示した。また、化合物1(60)群は、Vehicle群に対して統計学的に有意な肝臓のSirius Red陽性面積率の増加抑制作用を示した。この結果から、化合物1が肝臓に対する抗線維化作用を有することを確認した。
【0036】
<hCLS数>
CD68免疫染色標本(ウサギ抗CD68ポリクロ―ナル抗体[ab125212]、abcam社)を作製し、hCLSを計数した。
図5に投与18週目の肝臓免疫染色によるCD68陽性hCLS数を示す。Vehicle群は、Normal群に対して統計学的に有意な肝臓のhCLS数の増加を示した。また、化合物1(10)群及び化合物1(60)群は、Vehicle群に対して統計学的に有意な肝臓のhCLS数の増加抑制作用を示した。この結果から、化合物1が肝臓に対する抗炎症作用を有することを確認した。
【0037】
<病理解析>
肝臓の病理組織の所見を表2に示す。病理学的な解析においても、化合物1が、肝臓の脂肪化や線維化の改善作用を有することを確認した。
【表2】
【0038】
<総合評価>
化合物1は、血漿中ALT/AST/Tcho、及び肝臓中TGの上昇を抑制したことから、脂肪性肝疾患に関わる指標(肝逸脱酵素及び脂質代謝)を有意に改善した。更に、化合物1は、Sirius Red陽性面積率及びhCLS数も有意に抑制し、肝臓の線維化や炎症の指標を改善した。病理組織所見も、これらの改善効果を裏付ける結果を示した。以上の結果から、NASHモデルにおける化合物1の薬効が確認された。