(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】吹付コンクリート
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20230529BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20230529BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20230529BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20230529BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B22/10
C04B22/14 A
C04B22/14 B
E21D11/10 D
(21)【出願番号】P 2019231502
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】羽根井 誉久
(72)【発明者】
【氏名】杉山 彰徳
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-210167(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182170(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ベースコンクリート(A)、下記急結材(B)を含み、
前記急結材(B)の含有量が前記ベースコンクリート(A)中のセメント100質量部に対して7~14質量部である吹付コンクリート。
ベースコンクリート(A):セメント100質量部、ブレーン比表面積3500~16000cm
2/gの硫酸カルシウム7~16質量部(無水物換算)、骨材及び水を含むベースコンクリート。
急結材(B):急結材(B)全質量を基準として、化学成分としてのCaOとAl
2O
3の含有モル比(CaO/Al
2O
3)が1.8~2.7のカルシウムアルミネートを68~87質量%、アルカリ土類金属硫酸塩を無水物換算で5~17質量%、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属炭酸塩を含み、前記アルカリ金属硫酸塩及び前記アルカリ金属炭酸塩が質量比(アルカリ金属硫酸塩の質量/アルカリ金属炭酸塩の質量、無水物換算)で1.2~8.5である急結材。
【請求項2】
前記急結材(B)が硫酸アルミニウムを更に含む、請求項1に記載の吹付コンクリート。
【請求項3】
前記ベースコンクリート(A)において、前記セメント100質量部に対し、前記骨材が280~600質量部、前記水が38~58質量部である、請求項1又は2に記載の吹付コンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル、採掘抗、地下空間等の建設では、掘削面の崩壊防止、地山補強等の観点から吹付コンクリートが施工されている。吹付コンクリートの施工として、粉塵やリバウンド(跳ね返り)が比較的少ない湿式吹付工法が挙げられる。湿式吹付工法は、セメントと骨材と必要に応じて混和成分とを配合したものに水を加えて混練したベースコンクリートに、吹付直前に急結成分とその助剤等からなる液体又は粉体の急結材を添加して急結性を付与し、吹付施工時の付着性を担保している。粉体急結材は液体急結材よりも高い強度を得るのに適している。かかる急結材は、コンクリート輸送管に接続したY字状又はト字状の三方管を介して、圧送中のベースコンクリートに添加され、添加後は吹付け用ノズルまでの移動の短時間に混合がなされ、ノズル端から吹付コンクリートとして吹き出される。
【0003】
吹き付け付着後のコンクリートとしては、用途や目的により、例えば材齢28日での一軸圧縮強度が120N/mm2以上という高強度コンクリートを必要とするケースがある。一般的に、高強度コンクリートを得るには含水量を低くする方策がとられる。しかしながら、上述したような湿式吹付工法では、含水量を下げると、ベースコンクリートの圧送性が極端に悪化し、急結材との混合性も低下するため、安定した吹付量で均質な吹付コンクリートを得るのが困難になる。減水剤類の配合により低水量でも流動性が高められるが、湿式吹付工法に適した圧送性や混合性を得るには、多量の減水剤類を必要とする。減水剤量の増加は凝結を遅延させ、急結性が阻害される。吹付コンクリートの強度を向上させるための方法としては、例えば、シリカフュームやフライアッシュ等のポゾラン反応性物質をベースコンクリートに配合するもの(特許文献1)、アルカリ金属硫酸塩をカルシウムアルミネート類と硫酸アルミニウムの混合物に加えた急結材を用いるもの(特許文献2)、ブレーン比表面積の大きい反応性の高い無水石膏をベースコンクリートに用いるもの(特許文献3)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-177279号公報
【文献】特開2002-053357号公報
【文献】特開2017-105672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の高強度タイプの吹付コンクリートでは、初期の強度発現性を高めようとすると長期の強度が伸びにくかったり、反応性を高めすぎて凝結してしまい施工性が悪化したり、各種性能のコントロールが困難なものだった。
【0006】
したがって、本発明は、急結性に優れ、且つ、初期及び長期の強度発現性にも優れる吹付コンクリートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ベースコンクリート中の硫酸カルシウムの比表面積、急結材中のカルシウムアルミネートの化学成分の割合、各種材料の配合割合を調整することで、急結性に優れ、且つ、初期及び長期の強度発現性にも優れる吹付コンクリートが得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[3]で示される。
[1]下記ベースコンクリート(A)、下記急結材(B)を含み、急結材(B)の含有量がベースコンクリート(A)中のセメント100質量部に対して7~14質量部である吹付コンクリート。
ベースコンクリート(A):セメント100質量部、ブレーン比表面積3500~16000cm2/gの硫酸カルシウム7~16質量部(無水物換算)、骨材及び水を含むベースコンクリート。
急結材(B):急結材(B)全質量を基準として、化学成分としてのCaOとAl2O3の含有モル比(CaO/Al2O3)が1.8~2.7のカルシウムアルミネートを68~87質量%、アルカリ土類金属硫酸塩を無水物換算で5~17質量%、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属炭酸塩を含み、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属炭酸塩が質量比(アルカリ金属硫酸塩の質量/アルカリ金属炭酸塩の質量、無水物換算)で1.2~8.5である急結材。
[2]急結材(B)が硫酸アルミニウムを更に含む、[1]の吹付コンクリート。
[3]ベースコンクリート(A)において、セメント100質量部に対し、骨材が280~600質量部、水が38~58質量部である、[1]又は[2]の吹付コンクリート。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、急結性に優れ、且つ、初期及び長期の強度発現性にも優れる吹付コンクリートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態の吹付コンクリートは、ベースコンクリート(A)及び急結材(B)を含む。
【0012】
<ベースコンクリート(A)>
本実施形態に係るベースコンクリートは、セメント、ブレーン比表面積3500~16000cm2/gの硫酸カルシウム、骨材及び水を含む。
【0013】
セメントは、ポルトランドセメントが好ましく、ポルトランドセメントは何れの種類のものでもよく、例えば、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩の各種ポルトランドセメントが挙げられる。セメントとしては、ポルトランドセメントを含む例えば高炉セメントやフライアッシュセメント等の混合セメントも使用できる。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。ポルトランドセメントを使用する場合の粒度は特に限定されず、例えば、JIS規格(JIS R 5210:2019)の2500cm2/g以上のものが挙げられる。
【0014】
硫酸カルシウムは、粉末度がブレーン比表面積3500~16000cm2/gである。硫酸カルシウムの粉末度が上記範囲外であると、反応性が低く、初期強度発現性に優れないおそれや、逆に反応性が高すぎてセメントの水和反応が阻害されるおそれがある。初期及び長期の強度発現性に優れやすいという観点から、硫酸カルシウムの粉末度は、ブレーン比表面積で5000~13000cm2/gが好ましく、8000~11000cm2/gがより好ましい。硫酸カルシウムとしては、特に限定されるものではなくいずれのものも使用することができ、反応性に優れることから無水物であることが好ましい。
【0015】
硫酸カルシウムの含有量は、ベースコンクリート中のセメント100質量部に対して、無水物換算で7~16質量部である。硫酸カルシウムの含有量が上記範囲外であると、長期の強度発現性が優れないおそれや、凝結遅延等を引き起こす可能性がある。初期及び長期の強度発現性を両立しやすいという観点から、硫酸カルシウムの含有量は、セメント100質量部に対して、無水物換算で8~15質量部であることが好ましく、9~14質量部であることがより好ましい。
【0016】
骨材は、細骨材及び粗骨材が挙げられる。細骨材は、モルタルやコンクリートに使用できる細骨材なら特に限定されない。粗骨材はコンクリートに使用できる粗骨材なら特に限定されない。細骨材及び粗骨材とも、所定の骨材強度が確保し易く、他の含有成分との比重差が少ないため材料分離が生じ難いことから、表乾密度が2.3~2.9g/cm3の骨材を使用することが好ましい。このような骨材の具体例としては、細骨材は、珪砂や石灰石砂等の天然骨材、安山岩、砂岩、玄武岩等の砕砂等が挙げられ、粗骨材は、珪石、石灰石、安山岩、砂岩、玄武岩等の砕石や砂利が挙げられる。骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0017】
骨材の含有量は特に限定されるものではなく、施工時におけるコンクリート圧送性に優れやすいという観点から、セメント含有量100質量部に対し、細骨材及び粗骨材の合計が280~600質量部であることが好ましく、300~580質量部であることがより好ましく、320~510質量部であることが更に好ましい。細骨材及び粗骨材を併用する場合、細骨材率(全骨材中の細骨材の質量割合)は54~69質量%であることが好ましく、55~65質量%であることがより好ましく、56~63質量%であることが更に好ましい。
【0018】
ベースコンクリートは、使用する目的、場所等の要因に応じて水の量を適宜調整することができる。水の含有量は、セメント100質量部に対して38~58質量部であることが好ましく、40~55質量部であることがより好ましく、42~53質量部であることが更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、強度発現性に優れる傾向となる。
【0019】
ベースコンクリートは減水剤を含んでもよい。減水剤は、分散剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤、流動化剤を含む。このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤、アクリル系減水剤が挙げられる。これらの中では、ポリカルボン酸系減水剤が好ましい。減水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。減水剤の含有量は、水量を抑制しながらも流動性を確保しやすいという観点から、セメント100質量部に対して、固形分換算で0.3~2質量部であることが好ましく、0.4~1.8質量部であることがより好ましい。
【0020】
ベースコンクリートは増粘剤を含んでもよい。増粘剤はモルタルやコンクリートに使用できる増粘剤であれば特に限定されず、溶性のセルロース誘導体を有効成分とするものが好ましい。増粘剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。増粘剤の含有量は、吹付時の粉塵の発生を抑制しやすいという観点から、セメント含有量100質量部に対し、固形分換算で0.03~0.15質量部であることが好ましく、0.06~0.10質量部であることがより好ましい。
【0021】
本実施形態に係るベースコンクリートは、上記以外の成分も、本発明の効果を阻害しない範囲で含有することができる。含有可能な成分として、短繊維、ポゾラン反応性物質等が挙げられる。
【0022】
ベースコンクリートは、上記の各成分を混合して製造される。混合方法は特に制限されるものではなく、例えば、傾動ミキサ、パン型ミキサ、2軸ミキサ、グラウトミキサ、ホバートミキサ、オムニミキサなど汎用的なミキサを用いることができる。
【0023】
<急結剤(B)>
本実施形態に係る急結剤は、化学成分としてのCaOとAl2O3の含有モル比(CaO/Al2O3)が1.8~2.7のカルシウムアルミネート、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属炭酸塩を含む。
【0024】
カルシウムアルミネートは、CaOとAl2O3を主要化学成分とする無機水和活性物質であり、CaOとAl2O3の含有モル比(CaO/Al2O3)が1.8~2.7である。CaOとAl2O3の含有モル比が上記範囲外であると、急結性と施工性の両立が困難となる。CaOとAl2O3の含有モル比は、より優れた急結性が得られやすいという観点から、1.9~2.65であることが好ましく、2.0~2.6であることがより好ましい。カルシウムアルミネートには、原料由来のCaOとAl2O3以外の不純物等の異成分も、その存在形態に拘わらず、本発明の効果を阻害させない範囲で含んでもよい。
【0025】
カルシウムアルミネートは結晶質、非晶質、又はその混合物のいずれも用いることができる。カルシウムアルミネートは、より優れた急結性が得られやすいという観点から、非晶質化の度合いであるガラス化率が60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。カルシウムアルミネートの粉末度は特に制限されないが、コンクリートへの急結材に使用したときに適度な反応活性が得られやすいことから、混和対象となる水硬性組成物中のセメントと同程度かそれ以上の粉末度であることが好ましく、例えば、ブレーン比表面積3000~6500cm2/gの粉末度が挙げられる。
【0026】
カルシウムアルミネートの含有率は、急結材全質量を基準として、68~87質量%である。カルシウムアルミネートの含有率が上記範囲外であると、急結性と混合性の両立が困難になり、強度発現性も優れない。カルシウムアルミネートの含有率は、急結性、混合性、強度発現性に優れやすいという観点から、急結材全質量を基準として70~85質量%であることが好ましく、72~83質量%であることがより好ましい。
【0027】
カルシウムアルミネートは、例えば、CaO源となる原料及びAl2O3源となる原料を、目的とする化学成分としてのCaOとAl2O3の含有モル比が得られるように配合した原料混合物を、溶融するまで加熱することで得られる。また、製造時の加熱後の冷却過程の違いにより、冷却後のカルシウムアルミネートの構造状態に様々な差異が生じるため、冷却速度等の冷却条件に応じて、非晶質化の度合であるガラス化率を調整できる。
【0028】
アルカリ土類金属の硫酸塩は、特に限定されるものではなくいずれのものも使用することができ、反応性に優れることから無水物であることが好ましい。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム等が挙げられ、中でもカルシウムが好ましい。アルカリ土類金属の硫酸塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。アルカリ土類金属の硫酸塩の粒径や粒度も特に制限されるものではなく、例えば、ブレーン比表面積が4000~6500cm2/g程度のものが挙げられる。アルカリ土類金属の硫酸塩の含有量は、急結剤全質量に対して、無水物換算で5~17質量%である。アルカリ土類金属の硫酸塩の含有量が上記範囲外であると、長期の強度発現性を十分に確保できないおそれがある。初期及び長期の強度発現性を確保しやすいという観点から、アルカリ土類金属の硫酸塩の含有量は、急結剤全質量に対して、無水物換算で6~16質量%であることが好ましく、6.5~15質量%であることがより好ましい。
【0029】
アルカリ金属の硫酸塩は、特に限定されるものではなくいずれのものも使用することができ、反応性に優れることから無水物であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、中でもナトリウムが好ましい。アルカリ金属の硫酸塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。アルカリ金属の硫酸塩の含有量は、結合材全質量に対して、無水物換算で3~15質量%であることが好ましく、4~12質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることが更に好ましい。アルカリ金属の硫酸塩の含有量が上記範囲内であれば、急結性及び強度発現性に優れやすい。
【0030】
アルカリ金属の炭酸塩は特に限定されるものではなくいずれのものも使用することができ、反応性に優れることから無水物であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、中でもナトリウムが好ましい。アルカリ金属の炭酸塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。アルカリ金属の炭酸塩の粒度は特に限定されず、例えば、ブレーン比表面積で概ね3000~6500cm2/gで最大粒径1mm以下の粉体の粉体を用いることができる。アルカリ金属の炭酸塩の含有量は、急結剤全質量に対して、無水物換算で0.3~10質量%であることが好ましく、0.5~8質量%であることがより好ましく、1~7質量%であることが更に好ましい。アルカリ金属の炭酸塩の含有量が上記範囲内であれば、初期の強度発現性が更に向上する。
【0031】
本実施形態に係る急結材において、アルカリ金属の硫酸塩及びアルカリ金属の炭酸塩の質量比([アルカリ金属の硫酸塩の質量]/[アルカリ金属の炭酸塩の質量])は、無水物換算で1.2~8.5である。アルカリ金属の硫酸塩及びアルカリ金属の炭酸塩の質量比が上記範囲外であると、急結性に優れず、初期の強度発現性も優れない傾向にある。急結性を確保しつつ、初期及び長期の強度発現性を確保しやすいという観点から、アルカリ金属の硫酸塩及びアルカリ金属の炭酸塩の質量比は、1.5~8であることが好ましく、1.7~7.5であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態に係る急結材は硫酸アルミニウムを含んでもよい。硫酸アルミニウムはいずれの形態でもよく、例えば、16水和物、無水物等が挙げられ、中でも16水和物が好ましい。硫酸アルミニウムの含有量は、急結剤全質量に対して、無水物換算で0~10質量部であることが好ましく、0.5~9質量部であることがより好ましく、1~8質量部であることが更に好ましい。硫酸アルミニウムの含有量が上記範囲内であれば、低温環境下で急結性を高めた場合であっても長期の強度発現性を確保しやすい。
【0033】
本実施形態に係る急結材は、上記の各成分を混合して製造される。混合方法は特に制限されるものではなく、例えば、傾動ミキサ、パン型ミキサ、2軸ミキサ、グラウトミキサ、ホバートミキサ、オムニミキサ等の汎用的なミキサを用いることができる。
【0034】
吹付コンクリートは、例えば、ベースコンクリートを作製し、これを吹付ノズルの先端まで圧送した後、吹付ノズルの先端でベースコンクリート及び急結材を混合して吹付ける湿式吹付工法により製造することができる。
【0035】
本実施形態の吹付コンクリートは、初期の強度発現性に優れるだけでなく、長期における強度発現性にも優れたものである。したがって、通常のトンネル壁面や斜面への吹付けだけでなく、脆弱な岩盤や変位の著しい箇所等の初期の強度発現性が求められる環境下での施工にも適用できる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
[カルシウムアルミネートの作製]
市販の工業用薬品のCaCO3とAl2O3を用い、CaO及びAl2O3の含有モル比(CaO/Al2O3、C/A比)の値が以下に表すカルシウムアルミネートが得られるように秤量配合し、ヘンシェル型混合機で原料調合物を作製した。この原料調合物を電気炉中で、約1600℃±50℃にて60分間加熱した。一部のものを除き、加熱時間経過後は加熱物を直ちに炉外に取り出した。取り出した加熱物の表面に冷却用の窒素ガスを最大流速約30mL/秒で吹付けて急冷し、冷却物を得た。冷却物のガラス化率については、窒素ガスの流速を最大値よりも落として吹付けることで調整した。各冷却物は、全鋼製のボールミルで粉砕し、分級装置にかけてブレーン比表面積約5400cm2/gに整粒した。カルシウムアルミネートのガラス化率は、粉末エックス線回折装置を用い、質量がM1のカルシウムアルミネートクリンカに含まれる各鉱物の質量を内部標準法等で定量し、定量できた含有鉱物相の総和質量;M2を算出し、残部が純ガラス相と見なし、次式でガラス化率を算出した。
ガラス化率(質量%)={1-(M2/M1)}×100
【0038】
[材料]
・急結材
カルシウムアルミネート:CaO/Al2O3が2.0~3.0、ガラス化率99%以上、ブレーン比表面積5400cm2/g
硫酸ナトリウム試薬(無水芒硝)
硫酸カルシウム試薬(無水石膏、ブレーン7600cm2/g)
硫酸アルミニウム試薬(16水和物)
炭酸ナトリウム試薬
・ベースコンクリート
セメント:普通ポルトランドセメント、ブレーン比表面積3200cm2/g、密度3.15g/cm3
硫酸カルシウム試薬(無水石膏、ブレーン10500cm2/g、市販品を粉砕・分級したもの)
細骨材:石灰石細骨材(表乾密度;2.65g/cm3、中心粒径;0.6mm)
粗骨材:砕石(表乾密度;2.74g/cm3、粒径5~15mm)
減水剤:ポリカルボン酸系減水剤
【0039】
[急結材の作製]
各材料を表1に示す割合として配合し、ヘンシェルミキサで1分間混合した。
【0040】
【0041】
[ベースコンクリートの作製]
セメント100質量部に対して細骨材265質量部、粗骨材182質量部、無水石膏12質量部、減水剤0.8質量部(固形分換算)を混合し、次いで水45質量部を加えてコンクリートミキサで2分間混合し、ベースコンクリートを作製した。
【0042】
[吹付コンクリートの作製]
ベースコンクリートを混練後直ちに供給用タンクに入れ、そこから長さ約10m、内径6cmの樹脂製ホースを介して吹付装置へポンプ圧送した。吹付装置は、ベースコンクリートが圧送される内径2インチの圧送管と、その側面に約30度の傾斜角で連通するベースコンクリートに添加物(急結材)を供給添加するための円筒状側管と、吹付コンクリートを吹き付ける内径(先端孔径)2インチの噴射用ノズルとを基本構成とする市販品である。ここで、添加物供給用の側管は、圧送管本管と噴射用ノズルとの間に鋼製ト字状管(三方管)を介すことで形成させた。ト字状管の直線上に位置する二方の管口に圧送管本管と噴射用ノズルがそれぞれ接続され、残りの管口に、別送される急結性混和材の供給管が接続される構造とした。ト字状管内でのベースコンクリートへの急結材の添加位置(ベースコンクリートと急結材の合流地点)から噴射用ノズル孔端までの距離の間に、ベースコンクリートと急結材の混合がなされ、その距離(以下、混合距離と称す。)は1.5mとした。急結材は圧搾空気により所定量を空気圧送し、これを吹付装置内で圧送中のベースコンクリートに添加し、添加されたコンクリートは所定の混合距離を進む間に混合され、吹付コンクリートを作製した。
急結材の添加量はベースコンクリート中のセメント100質量部に対して9質量部添加した。
【0043】
[急結性の評価]
ベースコンクリートの配合において、それぞれ含有する粗骨材と細骨材の合計含有量に相当する量を全て細骨材の含有量にし、粗骨材を含まず、また他の成分とその含有量は変更せずに、モルタル配合に変更したベースモルタルをベースコンクリートと同様の手順で作製した。得られたベースモルタルに急結材を表1に示す割合で添加し、高速ミキサで5秒間混合し、モルタル混練物を作製した。
急結材添加から、30秒経過後、60秒経過後及び180秒経過後のモルタル混練物のプロクター貫入抵抗値を測定し、急結性を評価した。プロクター貫入抵抗の測定方法は、土木学会コンクリート標準示方書「吹付コンクリート用急結材品質規格」附属書「急結材を添加したモルタルの貫入抵抗による瞬結時間測定方法」に準拠し、断面積0.125cm2のプロクター針を使用した。この貫入抵抗値の測定結果を表2に示す。また、表中「>16(N/mm2)」の記載はプロクター針の打込みはできたが、今回の使用機材の測定限界(最大16N/mm2)を超えたものである。
実施例1~9及び比較例1~6については20℃、実施例10~12については10℃において測定を行った。
【0044】
[吹付コンクリートの強度発現性の評価]
混合距離を1.5mにし、作製した吹付コンクリートを、作製後直ちに、内寸30×40×20cmの成形用型枠内に吹き付け、型枠内を満たすようにした。これを20℃(±1℃)恒温庫に入れ所定時間経過後、型枠内の硬化コンクリートからコアドリルによって直径5cm、高さ10cmの円柱状供試体を採取し、材齢28日にした供試体を得た。この材齢28日供試体の一軸圧縮強度をアムスラー式圧縮強度試験機で測定した。また、土木学会規準JSCE-G561に規定するプルアウト試験用型枠と埋込具を使用し、同様に作製した吹付コンクリートを、JSCE-G561に準拠したプルアウト試験に供した。当該試験により材齢15分及び1日の吹付コンクリートの圧縮強度を測定した。各供試体の強度測定の結果を表2に示す。
実施例1~9及び比較例1~6については20℃、実施例10~12については10℃において測定を行った。
【0045】
【0046】
表2の結果から、実施例の吹付コンクリートは十分な急結性を有し、且つ材齢15分における初期の強度発現性及び材齢28日における長期の強度発現性も優れていることが示された。また実施例10~12の結果から、低温時においても十分な初期強度発現性が示された。