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特許7286264布及びその製造方法並びに連続繊維強化樹脂複合材料
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  • 特許-布及びその製造方法並びに連続繊維強化樹脂複合材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】布及びその製造方法並びに連続繊維強化樹脂複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20230529BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
D03D1/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017047486
(22)【出願日】2017-03-13
(65)【公開番号】P2018150452
(43)【公開日】2018-09-27
【審査請求日】2019-11-27
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 悠介
(72)【発明者】
【氏名】秋山 努
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】平塚 政宏
【審判官】植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-226850(JP,A)
【文献】特開2014-173196(JP,A)
【文献】特開2013-91870(JP,A)
【文献】特開2012-6331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16,15/08-15/14
C08J 5/04- 5/10, 5/24
D03D 1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも連続強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む布であって、前記連続強化繊維は経糸と緯糸とから構成され、前記熱可塑性樹脂が2種類以上であり、前記連続強化繊維の糸束の隙間に前記熱可塑性樹脂が含浸し、かつ前記経糸と前記緯糸とにより形成される交点が前記熱可塑性樹脂で固定されている布であって、前記含浸している熱可塑性樹脂および前記固定している熱可塑性樹脂が熱可塑性樹脂エマルジョンまたは微粒子状の熱可塑性樹脂の形態であり、前記連続強化繊維の経糸と緯糸との交点において、前記熱可塑性樹脂が塊状で固化している状態であって、交点においてのみ自由度のない状態である、布。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂である請求項1記載の布。
【請求項3】
前記連続強化繊維がガラス繊維、炭素繊維又は植物繊維である請求項1又は2記載の布。
【請求項4】
前記布が織物である請求項1~3いずれか1項記載の布。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が少なくとも熱可塑性樹脂繊維を含む請求項1~4いずれか1項記載の布。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂繊維の融点よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂を含む請求項5記載の布。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂繊維と前記連続強化繊維とが混繊されている請求項5又は6記載の布。
【請求項8】
請求項1~7いずれか1項記載の布の製造方法であって、前記経糸と緯糸とから構成される連続強化繊維を、熱可塑性樹脂エマルジョンに浸漬させる工程を含む布の製造方法であって、前記連続強化繊維が布を構成している布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布及びその製造方法並びに連続繊維強化樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機械や自動車等の構造部品、圧力容器、及び管状の構造物等には、樹脂材料にガラス繊維等の強化材が添加された複合材料成形体が使用されている。特に強度の観点から強化繊維が連続繊維であり、成形サイクルの観点、リサイクル性の観点から、樹脂が熱可塑性樹脂である連続繊維強化樹脂複合材料(成形体)が望まれている。この複合材料成形体を構成する材料としては、連続強化繊維と熱可塑性樹脂繊維が連続して均一に混じり合った複合糸、及びこの複合糸からなる布が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、連続強化繊維に熱可塑性エマルジョン樹脂を添加し、含浸性を向上させた複合糸も提案されている(たとえば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-98669号公報
【文献】特開2015-101793号公報
【文献】特開2013-189634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら連続繊維強化樹脂複合材料の需要が高まるにつれ、より強度が要求される箇所への連続繊維強化樹脂複合材料の利用が求められており、従来知られている布から構成される連続繊維強化樹脂複合材料よりも、更なる高強度を有するものが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上述した従来技術の課題を解決するべく鋭意検討した結果、布を構成する連続強化繊維の糸束の隙間に熱可塑性樹脂を予め含浸させることで、成形後含浸が良好な成形体が得られ、また布に含まれる連続強化繊維を構成する経糸と緯糸とにより形成される交点が熱可塑性樹脂で固定されていることで、成形後、連続強化繊維の乱れが小さくなるとともに、成形後に連続繊維間への熱可塑性樹脂の含浸が非常に良好になることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明の布は、少なくとも連続強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む布であって、連続強化繊維は経糸と緯糸とから構成され、連続強化繊維の糸束の隙間に熱可塑性樹脂が含浸し、かつ経糸と緯糸とにより形成される交点が熱可塑性樹脂で固定されているものである。
【0007】
熱可塑性樹脂はポリアミド樹脂であることが好ましい。
連続強化繊維はガラス繊維、炭素繊維又は植物繊維であることが好ましい。
本発明の布は織物であることが好ましい。
【0008】
熱可塑性樹脂は2種類以上であることが好ましい。
熱可塑性樹脂は少なくとも熱可塑性樹脂繊維を含むことが好ましい。
熱可塑性樹脂が2種類以上であって熱可塑性樹脂繊維を含む場合、熱可塑性樹脂繊維の融点よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維とは混繊されていることが好ましい。
【0009】
本発明の連続繊維強化樹脂複合材料は、少なくとも連続強化繊維と熱可塑性樹脂とを含み、連続強化繊維に熱可塑性樹脂が含浸している連続繊維強化樹脂複合材料であって、
連続強化繊維の長手方向の任意の直線長さをL、長さLにおける強化繊維束一本の長さをl、強化繊維乱れ度をl/Lとしたとき、l/L≦1.2であり、
連続繊維強化樹脂複合材料における熱可塑性樹脂の未含浸率が2%以下である。
【0010】
本発明の布の製造方法は、上記本発明の布の製造方法であって、経糸と緯糸とから構成される連続強化繊維を、熱可塑性樹脂エマルジョンに浸漬させる工程を含むものである。
本発明の布の製造方法において、連続強化繊維は布を構成していることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形後に、連続強化繊維への熱可塑性樹脂の含浸性に優れ、かつ繊維の乱れが少なく、更に繊維の脱離やほつれの少ない、取扱い性の良い布を提供することができる。また、本発明の布を用いることにより、強度に優れた連続繊維強化樹脂複合材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の強化繊維乱れ度を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0014】
<布>
本発明の布は少なくとも連続強化繊維と熱可塑性樹脂から構成されるものであり、連続強化繊維は経糸と緯糸とから構成されるものである。布の形態としては、織物、編み物、レース、フィルム等のものの中から適宜、選択することができる。連続強化繊維の屈曲が少なく強度が出やすいことから、織物又は編み物が好ましい。
織物の織り方は特に限定されず、平織、綾織、朱子織、綟り織、紗等が挙げられる。
本発明の連続繊維強化樹脂複合材料の強度の観点から、連続強化繊維のクリンプ率が低くなる綾織がより好ましい。
【0015】
これらの布を得る方法は特に限定されず、用途、目的に応じて選定することができる。
例えば、織物は、シャトル織機、レピア織機、エアジェット織機、ウォータージェット織機等の製織機を用い、少なくとも一部に複合糸を含んでいればよい。例えば、複合糸を含む繊維を配列させた経糸に、緯糸を打ち込むことによって得る方法が好ましい方法として挙げられる。
編物は、丸編み機、横編み機、トリコット編み機、ラッシェル編み機等の編み機を用い、少なくとも一部に複合糸を含む繊維を編成することによって得られる。
その他の布の形態等については、適宜特許文献2(特開2015-101793号公報)に記載の方法を用いることができる。
【0016】
布を構成する糸は連続強化繊維のみからなってもよいし、連続強化繊維以外の繊維、繊維への付着物等を含んでもよい。連続強化繊維以外の繊維としては、例えば熱可塑性樹脂の繊維があげられ、両者が引き揃えられてなるものでもよいし、連続強化繊維と熱可塑性樹脂の繊維が混繊されたものであってもよい。布作製時の糸の取扱い易さの観点から連続強化繊維と熱可塑性樹脂の繊維が混繊されたものが好ましい。繊維への付着物の形態としては、熱可塑性樹脂を含んでいてもよく、複数の連続強化繊維が集まってできる束の周囲を熱可塑性樹脂により被覆している形態は好ましく用いられる。
【0017】
連続強化繊維の糸束(以下、連続強化繊維束ともいう)の隙間には熱可塑性樹脂が含浸していることが必須である。本発明において連続強化繊維の糸束の隙間に熱可塑性樹脂が含浸している状態とは、連続強化繊維束の隙間の50%以上に熱可塑性樹脂が含浸していることを言う。含浸率としては50~99%であることが好ましく、60~97%であることがより好ましく、70~95%であることが最も好ましい。布の時点で含浸していることにより、短時間で完全に含浸された成形体が得られるだけでなく、強化繊維と熱可塑性樹脂の良好な界面を形成するため強度に優れた成形体が得られる。なお、含浸率が高すぎると布の取り扱い性に劣る場合がある。熱可塑性樹脂の含浸率は、布をはさみによりカットし、露出した断面をマイクロスコープにより観察し、画像処理によって解析することで求めることができる。測定は任意の点を20点測定し、その中央値を含浸率とする。
【0018】
布に含まれる連続強化繊維を構成する経糸と緯糸との交点が熱可塑性樹脂により固定されると、糸同士が固定されて、成形時に糸間のずれが起こりにくく、成形体の連続強化繊維の乱れが小さくなるので、外観、強度の向上の観点から好ましい。また、経糸と緯糸との交点に熱可塑性樹脂が存在すると、成形時の樹脂の連続強化繊維への含浸性が非常によくなるため、成形体の強度、外観の観点から、必須である。ここで、交点とは、連続強化繊維を構成する経糸と緯糸とが交差する点である。熱可塑性樹脂による交点の固定とは、連続強化繊維の経糸と緯糸との交点において、熱可塑性樹脂が塊状で固化している状態であって、交点においてのみ自由度のない状態を意味する。
【0019】
布に含まれる連続強化繊維を構成する経糸と緯糸との交点を固定している樹脂はSEM(走査型電子顕微鏡、Scanning Electron Microscope)観察により確認することができる。熱可塑性樹脂により固定されている交点の数が多いほど好ましいが、多すぎると、布の形態追従性が悪くなる傾向があるため、布を構成する交点のうち、5~95%の交点が固定されていることが好ましく、20~90%が固定されていることがより好ましく、30~80%が固定されていることが更に好ましい。
【0020】
連続強化繊維と熱可塑性樹脂との体積比率は、成形体の強度の観点から、10:90~80:20であることが好ましく、20:80~70:30であることがより好ましく、30:70~60:40であることが更に好ましく、35:65~50:50であることが最も好ましい。
【0021】
<連続強化繊維>
連続強化繊維は、通常の連続繊維強化樹脂複合材料に使用されるものを用いることができる。
連続強化繊維としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、植物繊維、アラミド繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリベンザゾール系繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、金属繊維、セラミックス繊維等が挙げられる。
機械的特性、熱的特性、汎用性の観点から、ガラス繊維、炭素繊維、植物繊維、アラミド繊維が好ましく、生産性の面からは、ガラス繊維が好ましい。
【0022】
連続強化繊維として、ガラス繊維を選択する場合、集束剤を用いてもよく、集束剤は、シランカップリング剤、潤滑剤、及び結束剤からなることが好ましい。
【0023】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤は、通常、ガラス繊維の表面処理剤として用いられ、界面接着強度向上に寄与する。
シランカップリング剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン類;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン及びγ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;エポキシシラン類;ビニルシラン類等が挙げられる。
【0024】
<潤滑剤>
潤滑剤は、ガラス繊維の開繊性向上に寄与する。
潤滑剤としては、目的に応じた通常の液体又は固体の任意の潤滑材料が使用可能であり、以下に限定されるものではないが、例えば、カルナウバワックスやラノリンワックス等の動植物系又は鉱物系のワックス;脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、芳香族系エステル、芳香族系エーテル等の界面活性剤等が挙げられる。
【0025】
<結束剤>
結束剤は、ガラス繊維の集束性向上及び界面接着強度向上に寄与する。
結束剤としては、目的に応じたポリマー、熱可塑性樹脂が使用可能である。
結束剤としてのポリマーは、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩等が挙げられる。また、例えば、m-キシリレンジイソシアナート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)及びイソホロンジイソシアナート等のイソシアネートと、ポリエステル系やポリエーテル系のジオールとから合成されるポリウレタン系樹脂も好適に使用される。
【0026】
アクリル酸のホモポリマーとしては、重量平均分子量1,000~90,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~25,000である。
アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマーを構成する共重合性モノマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸基及び/又はカルボキシル基を有するモノマーのうち、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びメサコン酸よりなる群から選択される1種以上が挙げられる(但し、アクリル酸のみの場合を除く)。共重合性モノマーとして、エステル系モノマーを1種以上有することが好ましい。
アクリル酸のホモポリマー及びコポリマーの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩やグリシン塩等が挙げられる。中和度は、他の併用薬剤(シランカップリング剤等)との混合溶液の安定性向上や、アミン臭低減の観点から、20~90%とすることが好ましく、40~60%とすることがより好ましい。
塩を形成するアクリル酸のポリマーの重量平均分子量は、特に制限されないが、3,000~50,000の範囲が好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から、3,000以上が好ましく、複合成形体とした際の特性向上の観点から50,000以下が好ましい。
【0027】
結束剤として用いられる熱可塑性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性フッ素系樹脂、及びこれらを変性させた変性熱可塑性樹脂等が挙げられる。結束剤として用いられる熱可塑性樹脂は、連続強化繊維の周囲を被覆する樹脂と同種の熱可塑性樹脂及び/又は変性熱可塑性樹脂であると、複合成形体となった後、ガラス繊維と熱可塑性樹脂の接着性が向上し、好ましい。
【0028】
更に、一層、連続強化繊維とそれを被覆する熱可塑性樹脂の接着性を向上させ、集束剤を水分散体としてガラス繊維に付着させる場合において、乳化剤成分の比率を低減、あるいは乳化剤不要とできる等の観点から、結束剤として用いられる熱可塑性樹脂としては、変性熱可塑性樹脂が好ましい。
ここで、変性熱可塑性樹脂とは、熱可塑性樹脂の主鎖を形成し得るモノマー成分以外に、その熱可塑性樹脂の性状を変化させる目的で、異なるモノマー成分を共重合させ、親水性、結晶性、熱力学特性等を改質したものを意味する。
結束剤として用いられる変性熱可塑性樹脂は、以下に限定されるものではないが、例えば、変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド系樹脂、変性ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0029】
結束剤としての変性ポリオレフィン系樹脂とは、エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマーと不飽和カルボン酸等のオレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体であり、公知の方法で製造できる。オレフィン系モノマーと不飽和カルボン酸とを共重合させたランダム共重合体でもよいし、オレフィンに不飽和カルボン酸をグラフトしたグラフト共重合体でもよい。
【0030】
オレフィン系モノマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等が挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられ、これらは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
オレフィン系モノマーと、当該オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合比率としては、共重合の合計質量を100質量%として、オレフィン系モノマー60~95質量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー5~40質量%であることが好ましく、オレフィン系モノマー70~85質量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー15~30質量%であることがより好ましい。オレフィン系モノマーが60質量%以上であれば、マトリックスとの親和性が良好であり、また、オレフィン系モノマーの質量%が95質量%以下であれば、変性ポリオレフィン系樹脂の水分散性が良好で、連続強化繊維への均一付与が行いやすい。
【0032】
結束剤として用いられる変性ポリオレフィン系樹脂は、共重合により導入したカルボキシル基等の変性基が、塩基性化合物で中和されていてもよい。塩基性化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ類;アンモニア;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアミン類が挙げられる。結束剤として用いられる変性ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、5,000~200,000が好ましく、50,000~150,000がより好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から5,000以上が好ましく、水分散性とする場合の乳化安定性の観点から200,000以下が好ましい。
【0033】
結束剤として用いられる変性ポリアミド系樹脂とは、分子鎖中にポリアルキレンオキサイド鎖や3級アミン成分等の親水基を導入した変性ポリアミド化合物であり、公知の方法で製造できる。
分子鎖中にポリアルキレンオキサイド鎖を導入する場合は、例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等の一部又は全部をジアミン又はジカルボン酸に変性したものを共重合して製造される。3級アミン成分を導入する場合は、例えばアミノエチルピペラジン、ビスアミノプロピルピペラジン、α-ジメチルアミノε-カプロラクタム等を共重合して製造される。
【0034】
結束剤として用いられる変性ポリエステル系樹脂とは、ポリカルボン酸又はその無水物とポリオールとの共重合体で、かつ末端を含む分子骨格中に親水基を有する樹脂であり、公知の方法で製造できる。
親水基としては、例えば、ポリアルキレンオキサイド基、スルホン酸塩、カルボキシル基、これらの中和塩等が挙げられる。ポリカルボン酸又はその無水物としては、芳香族ジカルボン酸、スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3官能以上のポリカルボン酸等が挙げられる。
【0035】
芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、無水フタル酸等が挙げられる。
スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スルホテレフタル酸塩、5-スルホイソフタル酸塩、5-スルホオルトフタル酸塩等が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸又は脂環式ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
3官能以上のポリカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
これらの中で、変性ポリエステル系樹脂の耐熱性を向上させる観点から、全ポリカルボン酸成分の40~99モル%が芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。また、変性ポリエステル系樹脂を水分散液とする場合の乳化安定性の観点から、全ポリカルボン酸成分の1~10モル%がスルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。
【0036】
変性ポリエステル系樹脂を構成するポリオールとしては、ジオール、3官能以上のポリオール等が挙げられる。
ジオールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA又はそのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。3官能以上のポリオールとしては、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0037】
変性ポリエステル系樹脂を構成するポリカルボン酸又はその無水物とポリオールとの共重合比率としては、共重合成分の合計質量を100質量%として、ポリカルボン酸又はその無水物40~60質量%、ポリオール40~60質量%であることが好ましく、ポリカルボン酸又はその無水物45~55質量%、ポリオール45~55質量%がより好ましい。
変性ポリエステル系樹脂の重量平均分子量としては、3,000~100,000が好ましく、10,000~30,000がより好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から3,000以上が好ましく、水分散性とする場合の乳化安定性の観点から100,000以下が好ましい。
【0038】
結束剤として用いる、ポリマー、熱可塑性樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
結束剤の全量を100質量%として、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩より選択された1種以上のポリマーを50質量%以上、60質量%以上用いることがより好ましい。
【0039】
<ガラス繊維用の集束剤の組成>
連続強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、当該ガラス繊維の集束剤においては、それぞれ、シランカップリング剤を0.1~2質量%、潤滑剤を0.01~1質量%、結束剤を1~25質量%を含有することが好ましく、これらの成分を水で希釈し、全質量を100質量%に調整することが好ましい。
ガラス繊維用の集束剤におけるシランカップリング剤の配合量は、ガラス繊維の集束性向上及び界面接着強度向上と複合成形体の機械的強度向上との観点から、0.1~2質量%が好ましく、より好ましくは0.1~1質量%、更に好ましくは0.2~0.5質量%である。
【0040】
ガラス繊維用の集束剤における潤滑剤の配合量は、充分な潤滑性を与えるという観点、及びエアスプライサーによる繋ぎ糸の引張り破断強度向上と混繊工程における開繊性向上の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上であり、界面接着強度向上と複合成形体の機械的強度向上の観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
ガラス繊維用の集束剤における結束剤の配合量は、ガラス繊維の集束性制御及び界面接着強度向上と複合成形体の機械的強度向上との観点から、好ましくは1~25質量%、より好ましくは3~15質量%、更に好ましくは3~10質量%である。
【0041】
<ガラス繊維用の集束剤の使用態様>
ガラス繊維用の集束剤は、使用態様に応じて、水溶液、コロイダルディスパージョンの形態、乳化剤を用いたエマルジョンの形態等、いずれの形態に調整してもよいが、集束剤の分散安定性向上、耐熱性向上の観点から、水溶液の形態とすることが好ましい。
本発明の布及び連続繊維強化樹脂複合材料を構成する連続強化繊維としてのガラス繊維は、上述した集束剤を、公知のガラス繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーター等の公知の方法を用いて、ガラス繊維に付与して製造したガラス繊維を乾燥することによって連続的に得られる。
集束剤は、ガラス繊維100質量%に対し、シランカップリング剤、潤滑剤及び結束剤の合計質量として、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.2~2質量%、更に好ましくは0.2~1質量%付与する。
ガラス繊維の集束性制御と界面接着強度向上の観点から、集束剤の付与量が、ガラス繊維100質量%に対し、シランカップリング剤、潤滑剤及び結束剤の合計質量として0.1質量%以上であることが好ましく、エアスプライサーによる繋ぎ糸の引張り破断強度向上と混繊工程における開繊性向上の観点から3質量%以下であることが好ましい。
【0042】
なお、連続強化繊維として、炭素繊維を選択した場合には、集束剤は、潤滑剤、結束剤からなることが好ましい。集束剤、潤滑剤、結束剤の種類については、特に制限はなく公知の物が使用できる。具体的材料としては、特開2015-101794号公報に記載されている材料を使用できる。
【0043】
その他の連続強化繊維を用いる場合、連続強化繊維の特性に応じ、ガラス繊維、炭素繊維に用いる集束剤の種類、付与量を適宜選択すればよく、炭素繊維に用いる集束剤に準じた集束剤の種類、付与量とすることが好ましい。
【0044】
<連続強化繊維の形状>
連続強化繊維は複数本の強化繊維からなるマルチフィラメントであり、単糸数は、混繊工程における開繊性、及び取扱い性の観点から30~15,000本であることが好ましい。連続強化繊維の単糸径は、強度の観点、及び、取り扱い性の観点から2~30μmであることが好ましく、4~25μmであることがより好ましく、6~20μmであることが更に好ましく、8~15μmであることが最も好ましい。
【0045】
連続強化繊維の単糸径R(μm)と密度D(g/cm3)の積RDは、複合糸の取り扱い性と成形体の強度の観点から、好ましくは5~100μm・g/cm3、より好ましくは10~50μm・g/cm3、更に好ましくは15~45μm・g/cm3、より更に好ましくは20~45μm・g/cm3である。積RDが所定の範囲であると、特に、連続強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を混繊する場合には、連続強化繊維の損傷を抑え、連続強化繊維が開繊し易くなり、両繊維が連続して均一に混じり合いやすいため好ましい。
【0046】
密度Dは比重計により測定することができる。一方、単糸径(μm)は、密度(g/cm3)と繊度(dtex)、単糸数(本)から、以下の式で算出することができる。
【数1】
【0047】
連続強化繊維の積RDを所定の範囲とするには、市販で入手可能な連続強化繊維について、連続強化繊維の有する密度に応じて、繊度(dtex)及び単糸数(本)を適宜選択すればよい。例えば、連続強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、密度が約2.5g/cm3であるから、単糸径が2~40μmのものを選べばよい。具体的には、ガラス繊維の単糸径が9μmである場合、繊度660dtexで単糸数400本のガラス繊維を選択することにより、積RDは、23となる。また、ガラス繊維の単糸径が17μmである場合、繊度11,500dtexで単糸数2,000本のガラス繊維を選択することにより、積RDは、43となる。連続強化繊維として炭素繊維を用いる場合、密度が約1.8g/cm3であるから、単糸径が2.8~55μmのものを選べばよい。具体的には、炭素繊維の単糸径が7μmである場合、繊度2,000dtexで単糸数3,000本の炭素繊維を選択することにより、積RDは、13となる。連続強化繊維としてアラミド繊維を用いる場合、密度が約1.45g/cm3であるから、単糸径が3.4~68μmのものを選べばよい。具体的には、アラミド繊維の単糸径が12μmである場合、繊度1,670dtexで単糸数1,000本のアラミド繊維を選択することにより、積RDは、17となる。
【0048】
連続強化繊維はどのような形態でも構わないが、ヤーン、ケーキ、DWR(ダイレクトワインドロービング)に巻き取ってあると、樹脂を被覆させる工程での生産性、生産安定性が高まるため好ましい。生産性の観点からはDWRが、生産安定性の観点からはヤーンが最も好ましい。
【0049】
<熱可塑性樹脂>
本発明の布を構成する熱可塑性樹脂は1種類のみを用いてもよいし、複数種を併用しても構わない。耐熱性の観点から2種類以上の熱可塑性樹脂を含んでいることが好ましい。熱可塑性樹脂は少なくとも連続強化繊維の糸束の隙間に含浸されているものと、布に含まれる連続強化繊維を構成する経糸と緯糸との交点を固定しているものがある。それとは別に、繊維形態をしているものや、連続強化繊維束を被覆しているものがあってもよく、樹脂量の調整容易さの観点から繊維形態をしているものを含むことが好ましい。繊維形態の熱可塑性樹脂を含む場合、繊維形態の熱可塑性樹脂の融点よりも低い融点を有している熱可塑性樹脂が、連続強化繊維の糸束の隙間に含浸していることが好ましい。
【0050】
(種類)
熱可塑性樹脂は、従来公知の複合糸に用いるものを使用することができる。
熱可塑性樹脂は、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレン等のポリアセタール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテル系樹脂;ポリエーテルスルフォン;ポリフェニレンサルファイド;熱可塑性ポリエーテルイミド;テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等の熱可塑性フッ素系樹脂;ポリウレタン系樹脂;アクリル系樹脂及びこれらを変性させた変性熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0051】
これらの熱可塑性樹脂の中でも、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、及び熱可塑性フッ素系樹脂が好ましく、ポリオレフィン系樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂が、機械的物性、汎用性の観点からより好ましく、熱的物性の観点を加えるとポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂が更に好ましい。また、繰り返し荷重負荷に対する耐久性の観点からポリアミド系樹脂がより更に好ましい。
【0052】
[ポリエステル系樹脂]
ポリエステル系樹脂とは、主鎖に-CO-O-(エステル)結合を有する高分子化合物を意味する。
ポリエステル系樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ-1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート等が挙げられる。
【0053】
ポリエステル系樹脂は、ホモポリエステルであってもよく、また、共重合ポリエステルであってもよい。
共重合ポリエステルの場合、ホモポリエステルに適宜第3成分を共重合させたものが好ましく、第3成分としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分等が挙げられる。
【0054】
また、バイオマス資源由来の原料を用いたポリエステル系樹脂を用いることもでき、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンスクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0055】
[ポリアミド系樹脂]
ポリアミド系樹脂とは、主鎖に-CO-NH-(アミド)結合を有する高分子化合物を意味する。例えば、脂肪族系ポリアミド、芳香族系ポリアミド、全芳香族系ポリアミド等があげられるが、強化繊維との親和性の観点が高く強化繊維による補強効果が得られやすいという観点から脂肪族系ポリアミドが好ましい。
ポリアミド系樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラクタムの開環重合で得られるポリアミド、ω-アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド、ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド、並びにこれらの共重合体が挙げられる。
ポリアミド系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0056】
ラクタムとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ピロリドン、カプロラクタム、ウンデカンラクタムやドデカラクタムが挙げられる。ω-アミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラクタムの水による開環化合物であるω-アミノ脂肪酸が挙げられる。ラクタム又はω-アミノカルボン酸はそれぞれ2種以上の単量体を併用して縮合させてもよい。
【0057】
ジアミン(単量体)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヘキサメチレンジアミンやペンタメチレンジアミン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2-メチルペンタンジアミンや2-エチルヘキサメチレンジアミン等の分岐型の脂肪族ジアミン;p-フェニレンジアミンやm-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミンやシクロオクタンジアミン等の脂環式ジアミンが挙げられる。
【0058】
ジカルボン酸(単量体)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アジピン酸、ピメリン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸やイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。単量体としてのジアミン及びジカルボン酸はそれぞれ1種単独又は2種以上の併用により縮合させてもよい。
【0059】
ポリアミド系樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド4(ポリα-ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、及びポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、並びにこれらを構成成分として含む共重合ポリアミドが挙げられる。
【0060】
共重合ポリアミドとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンテレフタルアミドの共重合体、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体、並びにヘキサメチレンテレフタルアミド及び2-メチルペンタンジアミンテレフタルアミドの共重合体が挙げられる。
【0061】
(熱可塑性樹脂繊維の形態)
本発明に用いられる熱可塑性樹脂繊維は実質的に無撚りであり、かつ、実質的に無交絡であることが、仮撚工程、混繊工程における開繊性向上の観点から好ましい。実質的に無撚りとは、解舒等に伴う意図しない撚り以外の撚りが入っていない状態を意味し、撚り数が10回/m以下のことである。実質的に無交絡とは、流体交絡等通常の交絡手段による意図的な交絡が取扱い性を維持する最低限の回数である状態を意味し、交絡数が5回/m以下のことである。
熱可塑性樹脂繊維の単糸数は、混繊工程における開繊性、及び取扱い性の観点から30~20,000本であることが好ましい。
【0062】
(混繊糸の製造方法)
連続強化繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混繊する方法は公知の方法を利用できる。例えば、静電気力や流体噴霧による圧力、ローラー等に押し付ける圧力等による外力によって開繊した後、連続強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を開繊したままの状態で合糸及び引き揃える開繊合糸法、流体交絡(インターレース)法が挙げられる。連続強化繊維の損傷が抑制でき、開繊性に優れ、均一に混合可能な流体交絡法が好ましく使用される。流体交絡法としては、例えば、特許文献1に記載されている方法が好ましく使用される。原料となる強化繊維束の太さ、本数を適宜調整し、あわせて製造条件も調整すればよい。
【0063】
<布の製造方法>
本発明の布は、連続強化繊維等からなる布に熱可塑性樹脂を添加することで製造する。なお、本発明の布の製造方法は、以下に限定されるものではなく、種々の方法を適用することができる。
【0064】
(添加する熱可塑性樹脂の形態)
添加する熱可塑性樹脂の形態は、以下に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂エマルジョン、水溶性の熱可塑性樹脂、微粒子状の熱可塑性樹脂がある。熱可塑性樹脂エマルジョン、水溶性の熱可塑性樹脂は、任意の形に賦形させた布に添加し、乾燥させることで、布をその形に保時できるため好ましく、含浸性、取扱いの観点から、熱可塑性樹脂エマルジョンがより好ましい。
熱可塑性樹脂エマルジョンとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂(好ましくは、ポリキシリレンアジパミド、ポリキシリレンセバカミド)、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、及びこれらの共重合体の粉体をノニオン系、カチオン系、アニオン系又はこれらの混合物である界面活性剤を添加して乳化分散したものが挙げられる。
【0065】
(布への熱可塑性樹脂の添加方法)
例えば連続強化繊維が織物、編み物、レース、フィルム又は一方向に引き揃えられた連続強化繊維同士が任意の角度を持って重ねられたものを、好ましくは連続強化繊維と熱可塑性樹脂繊維が混繊された糸からなる織物を、好ましくは熱可塑性樹脂エマルジョンに浸漬する。この時、粒子径の小さい熱可塑性エマルジョン樹脂が連続強化繊維の隙間に含浸する。次いでこの布を乾燥することにより、熱可塑性樹脂が連続強化繊維の経糸と緯糸との交点で固化し、交点の一部が固定される。
【0066】
熱可塑性樹脂エマルジョンの固形分の濃度に特に規定はないが、布における固定される交点の数と、熱可塑性樹脂エマルジョンの取扱い易さの観点から、2%~50%が好ましく、5%~40%がより好ましく、8%~30%が更に好ましい。
【0067】
布への熱可塑性樹脂エマルジョンの浸漬方法としては特に規定はなく、布の上に熱可塑性エマルジョンを塗布してもよいし、多量の熱可塑性エマルジョンに布を漬けても良い。布を連続的に送り出し、エマルジョン漕に浸漬、ローラーにより絞った後、乾燥し、巻き取る方法が生産性の面から好ましい。
【0068】
添加する熱可塑性樹脂の量は特に規定はないが、含浸性、布中の交点の固定数、コストの観点から、布に含まれる連続強化繊維の質量に対して、0.5~100質量%が好ましく、2~80質量%がより好ましく、8~30質量%が更に好ましい。
【0069】
乾燥方法には特に限定がなく熱風乾燥や真空乾燥などを用いることができる。また乾燥温度は、40~100℃が好ましく、50~80℃がより好ましい。
【0070】
<連続繊維強化樹脂複合材料>
本発明の連続繊維強化樹脂複合材料とは、少なくとも連続強化繊維と熱可塑性樹脂から構成される成形体であり、繊維の乱れの少なさ、含浸性、強度の観点から上述した布から構成される成形体であることが好ましい。
【0071】
(繊維乱れ度)
本発明における連続繊維強化樹脂複合材料中の連続強化繊維の乱れ度は1.2以下であることが好ましい。本発明における強化繊維乱れ度は図1に示すように、連続強化繊維の長手方向における任意の箇所の直線長さをL、長さLにおける強化繊維束一本の長さをl(l=l+l+l+l)としたとき、数2のように表される。本発明における連続繊維強化樹脂複合材料中の連続強化繊維の乱れ度の測定は、成形体の写真を、パソコン上で画像解析し、任意の20箇所で長さLとlを求め、平均することで測定することができる。
【数2】
【0072】
連続強化繊維の乱れ度は成形体の強度を高めるという観点から、1~1.1であることが好ましく、1~1.05であることがより好ましく、1~1.03であることが更に好ましい。
【0073】
(未含浸率)
連続繊維強化樹脂複合材料における熱可塑性樹脂の未含浸率は、連続繊維強化樹脂複合材料の断面における、空隙の割合により求める。具体的には連続繊維強化樹脂複合材料を任意の位置で切断し、エポキシ樹脂等に包埋、研磨した後に光学顕微鏡観察を行うことで得られた画像を、解析ソフトにより画像解析することによって計算する。本発明の連続繊維強化樹脂複合材料の未含浸率は、強度、外観の観点から、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.5%以下が更に好ましく、0.1%以下が最も好ましい。
【0074】
<連続繊維強化樹脂複合材料の製造方法>
連続繊維強化樹脂複合材料は、上述した布を構成材料として製造することができる。上述した布は連続強化繊維を構成している経糸と緯糸との交点が固定されており、連続強化繊維の糸束の隙間に樹脂が予め含浸しているため、上述した布を構成材料として連続繊維強化樹脂複合材料を製造することで、繊維乱れが少なく、含浸性に優れ、強度に優れる連続繊維強化樹脂複合材料が得られる。なお、連続繊維強化樹脂複合材料の製造方法は以下に限定されるものではなく、種々の方法を適用することができる。
【0075】
例えば、連続繊維強化樹脂複合材料を構成する基材、好ましくは上述した布を、所望の成形体に合わせて裁断し、目的とする製品の厚みを考慮して必要枚数積層させ、金型形状に合わせてセットする。この時、上述の布を用いることにより、一般的な強化繊維樹脂機材に比べて、繊維の乱れが小さく、未含浸率が小さい連続繊維強化樹脂複合材料を成形することができる。
【0076】
基材の裁断は、1枚ずつ行ってもよいし、所望の枚数を重ねてから行ってもよい。生産性の観点からは、重ねた状態で裁断することが好ましい。裁断する方法は任意の方法でよく、例えば、ウォータージェット、刃プレス機、熱刃プレス機、レーザー、プロッター等があげられる。断面形状にすぐれ、更に、複数を重ねて裁断する際に端面を溶着することで取扱い性がよくなる熱刃プレス機が好ましい。適切な裁断形状は、トライアンドエラーを繰り返すことでも調整できるが、金型の形状にあわせてCAE(computer aided engineering)によるシミュレーションを行うことで設定することが好ましい。
【0077】
基材を金型にセットした後に金型を閉じて圧縮する。そして、連続繊維強化樹脂複合材料を構成する熱可塑性樹脂の融点以上の温度に金型を温調して熱可塑性樹脂を溶融させ賦型する。型締め圧力に特に規定はないが、好ましくは1MPa以上、より好ましくは3MPa以上である。また、ガス抜き等をするために一旦型締めをし、圧縮成形した後に一旦金型の型締め圧力を解除してもよい。
【0078】
連続繊維強化樹脂複合材料の製造工程においては、金型内に基材をセットして金型を閉じ、加圧し、所定の時間後に、更に所定の熱可塑性樹脂組成物を射出充填して成形し、熱可塑性樹脂と、所定の熱可塑性樹脂組成物とを接合させることにより、ハイブリッド成形体を製造してもよい。
【0079】
所定の熱可塑性樹脂組成物を射出充填するタイミングは、両熱可塑性樹脂間の界面強度に大きく影響する。所定の熱可塑性樹脂組成物を射出充填するタイミングは、基材を金型内にセットして金型を閉じた後に金型温度が熱可塑性樹脂の融点、ガラス転移温度以上に昇温してから、30秒以内が好ましい。
【0080】
所定の熱可塑性樹脂組成物を射出充填する時の金型温度は、連続繊維強化樹脂複合材料を構成する熱可塑性樹脂の融点以上又はガラス転移温度以上であることが好ましい。より好ましくは、繊維強化樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂の融点+10℃以上又はガラス転移温度+10℃以上であり、更に好ましくは、融点+20℃以上又はガラス転移温度+20℃以上、更により好ましくは融点+30℃以上又はガラス転移温度+30℃以上である。
【0081】
ハイブリッド成形体において、連続繊維強化樹脂複合材料を構成する熱可塑性樹脂と、射出成形により形成された熱可塑性樹脂組成物の接合部分は、互いに混じり合った凹凸構造となっていることが好ましい。
【0082】
金型温度を射出する熱可塑性樹脂組成物の融点以上とし、射出成形時の樹脂保圧を高く、例えば、1MPa以上とすることは界面強度を高める上で有効である。界面強度を高めるためには、保圧を5MPa以上とすることが好ましく、10MPa以上とすることがより好ましい。
保圧時間を長く、例えば5秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは金型温度が熱可塑性樹脂組成物の融点以下になるまでの間の時間保持することは、界面強度を高める観点から好ましい。
【0083】
(射出成形用の樹脂)
ハイブリッド成形体を製造するために用いる射出成形用の熱可塑性樹脂組成物としては、一般の射出成形に使用される熱可塑性樹脂組成物であれば特に限定されない。
熱可塑性樹脂組成物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、全芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミド系樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン等の一種又は二種以上を混合した樹脂組成物が挙げられる。
【0084】
また、これらの熱可塑性樹脂組成物には、各種充填材が配合されていてもよい。
各種充填材としては、強化繊維と同種の材料の不連続強化材料である短繊維、長繊維材料等が挙げられる。
不連続強化材料にガラス短繊維、長繊維を用いる場合には、本発明の布が具備する強化繊維と同様に集束剤を用いてもよい。
集束剤は、シランカップリング剤、潤滑剤、及び結束剤からなることが好ましい。シランカップリング剤、潤滑剤、結束剤の種類に関しては、前述の強化繊維の集束剤と同様のものが使用できる。
【0085】
射出成形に用いる熱可塑性樹脂組成物は、連続繊維強化樹脂複合材料と射出成形した熱可塑性樹脂組成物部分との界面強度の観点から、連続繊維強化樹脂複合材料を構成する熱可塑性樹脂と類似のものが好ましく、同種類のものがより好ましい。具体的には、連続繊維強化樹脂複合材料を構成する熱可塑性樹脂にポリアミド66繊維を用いた場合には、射出成形用の熱可塑性樹脂組成物の樹脂材料は、ポリアミド66が好ましい。
【0086】
<成形体の用途>
連続繊維強化樹脂複合材料は、航空機、車、建設材料等の構造材料用途に好適に使用することができる。
車用途においては、以下に限定されるものではないが、例えば、シャーシ/フレーム、足回り、駆動系部品、内装部品、外装部品、機能部品、その他部品に使用できる。
【0087】
具体的には、ステアリング軸、マウント、サンルーフ、ステップ、スーフトリム、ドアトリム、トランク、ブートリッド、ボンネット、シートフレーム、シートバック、リトラクター、リタラクター支持ブラケット、クラッチ、ギア、プーリー、カム、アーゲー、弾性ビーム、バッフリング、ランプ、リフレクタ、グレージング、フロントエンドモジュール、バックドアインナー、ブレーキペダル、ハンドル、電装材、吸音材、ドア外装、内装パネル、インパネ、リアゲート、天井ハリ、シート、シート枠組み、ワイパー支柱、EPS(Electric Power Steering)、小型モーター、ヒートシンク、ECU(Engine Control Unit)ボックス、ECUハウジング、ステアリングギアボックスハウジング、プラスチックハウジング、EV(Electric Vehicle)モーター用筐体、ワイヤーハーネス、車載メーター、コンビネーションスイッチ、小型モーター、スプリング、ダンパー、ホイール、ホイールカバー、フレーム、サブフレーム、サイドフレーム、二輪フレーム、燃料タンク、オイルパン、インマニ、プロペラシャフト、駆動用モーター、モノコック、水素タンク、燃料電池の電極、パネル、フロアパネル、外板パネル、ドア、キャビン、ルーフ、フード、バルブ、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブ、可変バルブタイミングユニット、コネクティングロッド、シリンダボア、メンバー(エンジンマウンティング、フロントフロアクロス、フットウェルクロス、シートクロス、インナーサイド、リヤクロス、サスペンション、ピラーリーンフォース、フロントサイド、フロントパネル、アッパー、ダッシュパネルクロス、ステアリング)、トンネル、締結インサート、クラッシュボックス、クラッシュレール、コルゲート、ルーフレール、アッパボディ、サイドレール、ブレーディング、ドアサラウンドアッセンブリー、エアバッグ用部材、ボディーピラー、ダッシュツゥピラーガセット、サスペンジョンタワー、バンパー、ボディーピラーロワー、フロントボディーピラー、レインフォースメント(インパネ、レール、ルーフ、フロントボディーピラー、ルーフレール、ルーフサイドレール、ロッカー、ドアベルトライン、フロントフロアアンダー、フロントボディーピラーアッパー、フロントボディーピラーロワー、センターピラー、センターピラーヒンジ、ドアアウトサイドパネル、)、サイドアウターパネル、フロントドアウインドゥフレーム、MICS(Minimum Intrusion Cabin System)バルク、トルクボックス、ラジエーターサポート、ラジエーターファン、ウォーターポンプ、燃料ポンプ、電子制御スロットルボディ、エンジン制御ECU、スターター、オルタネーター、マニホールド、トランスミッション、クラッチ、ダッシュパネル、ダッシュパネルインシュレータパッド、ドアサイドインパクトプロテクションビーム、バンパービーム、ドアビーム、バルクヘッド、アウタパッド、インナパッド、リヤシートロッド、ドアパネル、ドアトリムボドサブアッセンブリー、エネルギーアブソーバー(バンパー、衝撃吸収)、衝撃吸収体、衝撃吸収ガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、ルーフサイドインナーガーニッシュ、樹脂リブ、サイドレールフロントスペーサー、サイドレールリアスペーサー、シートベルトプリテンショナー、エアバッグセンサー、アーム(サスペンション、ロアー、フードヒンジ)、サスペンションリンク、衝撃吸収ブラケット、フェンダーブラケット、インバーターブラケット、インバーターモジュール、フードインナーパネル、フードパネル、カウルルーバー、カウルトップアウターフロントパネル、カウルトップアウターパネル、フロアサイレンサー、ダンプシート、フードインシュレーター、フェンダーサイドパネルプロテクター、カウルインシュレーター、カウルトップベンチレータールーパー、シリンダーヘッドカバー、タイヤディフレクター、フェンダーサポート、ストラットタワーバー、ミッションセンタートンネル、フロアトンネル、ラジコアサポート、ラゲッジパネル、ラゲッジフロア等の部品として好適に使用することができる。
【実施例
【0088】
以下に本発明の具体的な実施例を示すが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0089】
〔熱可塑性樹脂により固定されている交点の数の割合の測定方法〕
布の表面をマイクロスコープにより観察し、得られた画像から、連続強化繊維を構成している経糸と緯糸との交点の数に対する熱可塑性樹脂により固定されている交点の数の割合を求めた。
【0090】
〔連続強化繊維の糸束の隙間への熱可塑性樹脂の含浸割合の測定〕
布の任意の位置から5断面を切り出し、1断面につき任意の位置4箇所、合計20箇所において、マイクロスコープにより連続強化繊維の糸束の隙間に熱可塑性樹脂が含浸しているかを観察し、連続強化繊維の糸束の隙間のうち、熱可塑性樹脂が占有している割合の中央値が50%未満のものをD、50%以上60%未満のものをC、60%以上70%未満のものをB、70%以上95%以下のものをAとして含浸割合の評価を行った。
【0091】
〔連続強化繊維乱れ度の測定方法〕
成形体の写真を、パソコンに取り込み、ImageJにより画像解析し、図1に示すように成形体の任意の20箇所における連続強化繊維の長手方向の直線長さ(L)中の連続強化繊維の長さlを求めて平均し繊維乱れ度とした。
【0092】
〔未含浸率の測定〕
成形体の断面を切り出し、エポキシ樹脂に包埋し、連続強化繊維が破損しないように注意しながら研磨を行った。マイクロスコープにより観察し、得られた画像から、繊維束、熱可塑性樹脂、空隙のそれぞれの占有面積を求め、全体の面積に対する空隙の面積の割合により算出した。
【0093】
〔布の取扱い性の評価〕
布を10cm×10cmに切断した際に、布から繊維が脱離した本数が4本以下のものをA、5本以上8本以下のものをB、9本以上のものをCとした。
【0094】
〔熱可塑性樹脂繊維〕
ポリアミド樹脂繊維A:レオナ(登録商標)470/144BAU(旭化成せんい(株)製)、繊度470dtex、単糸数144本レオナ(融点265℃)を使用した。
ポリアミド樹脂繊維B:ポリアミド樹脂繊維Aと同様のプロセスで繊度115dtex、単糸数34本(融点265℃)のものを用意した。
【0095】
〔連続強化繊維〕
(ガラス繊維)
下記集束剤aを1.0質量%付着させた、繊度685dtexで単糸数400本のガラス繊維を製造した。巻き取り形態はヤーンであり、平均単糸径は9μmとした。
(集束剤aの組成(固形分換算)):
・シランカップリング剤:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン0.6質量%〔商品名:KBE-903(信越化学工業(株)製)〕
・潤滑剤:ワックス0.1質量%〔商品名:カルナウバワックス((株)加藤洋行製)〕
・結束剤:アクリル酸/マレイン酸共重合体塩5質量%〔商品名:アクアリックTL(日本触媒(株)製)〕
【0096】
(炭素繊維)
ポリビニルピロリドンを2.8質量%付着させた、繊度8000dtexで単糸数12000本の炭素繊維を製造した。
【0097】
〔PA(ポリアミド)布帛〕
レピア織機(織幅2m)を用い、熱可塑性樹脂繊維Aを経糸、緯糸として用いて製織することで製造した。
【0098】
〔織物の製造方法〕
レピア織機(織幅2m)を用い、実施例1~8、10~13、比較例1、2で製造した複合糸を経糸、緯糸として用いて製織を行った。
【0099】
〔ガラスクロスの製造方法〕
レピア織機(織幅2m)を用い、ガラス繊維を経糸、緯糸として用いて製織することで製造した。
【0100】
〔添加する熱可塑性樹脂〕
(ポリアミドエマルジョン)
商品名:セポルジョンPA200、融点120℃(住友精化株式会社)
商品名:セポルジョンNE205、融点140℃(住友精化株式会社)
商品名:Hydrosize PA845、融点153℃(丸芳マイケルマン株式会社)
(水溶性ポリアミド)
商品名:AQナイロン P-70(東レ株式会社)
商品名:AQナイロン P-95(東レ株式会社)
(ポリウレタンエマルジョン)
商品名:ボンディック 1310NE(DIC株式会社)
【0101】
〔熱可塑性樹脂の添加方法〕
実施例1~13、比較例2で製造した布の前駆体を縦19.5cm、横9.5cmに切り出した。これを30質量%に調整した熱可塑性樹脂水溶液10gに浸漬し、その後80℃の熱風循環乾燥機で1時間乾燥した。
【0102】
〔連続繊維強化樹脂複合材料の製造方法〕
(布の圧縮成形工程)
成形機は、最大型締め力50トンの油圧成形機(株式会社ショージ)を使用した。
平板型の連続繊維強化樹脂複合材料(縦200mm、横100mm、肉厚2mm)を得るための金型を準備した。
織物を金型形状に合わせて切断し、所定枚数重ね、金型内に設置した。
成形機内温度を330℃に加熱し、織物を設置した金型を投入し、次いで型締め力5MPaで型締めし、圧縮成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷したのちに金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は274℃であった。
【0103】
(実施例1)
ガラス繊維2束、熱可塑性樹脂繊維A2束を合糸及び引き揃えた後、流体交絡ノズルに実質的に垂直に供給し、下記条件で流体交絡させて、複合糸を得た。
・ガラス繊維はケーキ形態から転がし取りを行った。
・ヒートセット:引き揃える直前に、加熱部1m、240℃のヒーターにより、ポリアミド繊維のヒートセットを行った。
・ポリアミド繊維はヒートセットにより縮むため、オーバーフィード量を調整した。
・強化繊維は伸縮率が小さく糸揺れが起こりやすいため、糸揺れを低減させるように糸道を調整した。
・流体交絡ノズル:京セラ KC-AJI-L(1.5mm径、推進型)
・空気圧:2kg/cm2
・加工速度:100m/分
・室内の雰囲気は25℃、湿度50%に調整した。
・巻き取り部分は乾燥空気を流して、ポリアミドが吸湿するのを防止した。
得られた複合糸で上述の通り織物を製造し、表1に示す通りの熱可塑性樹脂を添加して布を製造した。
【0104】
(実施例2~6、参考例1および2
添加する熱可塑性樹脂を表1に示す通りにした以外は実施例1と同様にして布を得た。
【0105】
(実施例7)
浸漬する熱可塑性樹脂水溶液の濃度を10質量%とした以外は実施例1と同様にして布を得た。
【0106】
(実施例8)
使用する連続強化繊維を炭素繊維とした以外は実施例1と同様にして布を得た。
【0107】
(実施例9)
巻板用巻替え装置(Factory-Automation Electronics Inc.)を用い、アルミ枠(29cm×29cm)にガラス繊維を227m、ピッチ数0.512mmで巻き付けて引き揃えた。引き揃えたガラス繊維2組を互いが直行するように重ね、10質量%に調整した熱可塑性樹脂エマルジョン9.15gを塗布し、80℃の熱風循環乾燥機で1時間乾燥した。その後、引き揃えたガラス繊維を縦19.5cm、横9.5cmにはさみで切り、縦19.5cm、横9.5cmに切ったPA布帛で挟むことで布を製造した。
【0108】
(実施例10)
使用する熱可塑性樹脂を熱可塑性樹脂繊維B(8束)にした以外は実施例1と同様にして布を得た。
【0109】
(参考例
織物をガラスクロスにした以外は実施例1と同様にして布を得た。
【0110】
(実施例12)
縦19.5cm、横9.5cmのガラスクロスに10質量%に調整した熱可塑性樹脂エマルジョン5.23gを塗布し、80℃の熱風循環乾燥機で1時間乾燥した。その後、縦19.5cm、横9.5cmに切ったPA布帛で挟むことで布を製造した。
【0111】
参考例4
ガラス繊維を、30質量%に調整した熱可塑性樹脂エマルジョン2Lに連続的に供給し、80℃の熱風循環乾燥機で1時間乾燥することで、ガラス繊維に熱可塑性樹脂を付着させた。この時熱可塑性樹脂はガラス繊維に対して35質量%の割合で付着した。その後上述の通り製織し、織物とした。得られた織物の異なるガラス繊維の交点を2本撚りにしたポリアミド繊維によりスティッチングして固定し、布を得た。
【0112】
(比較例1)
熱可塑性樹脂を添加しないこと以外は実施例1と同様にして布を得た。
【0113】
(比較例2)
ガラス繊維を、30質量%に調整した熱可塑性樹脂エマルジョン2Lに連続的に供給し、80℃の熱風循環乾燥機で1時間乾燥することで、ガラス繊維に熱可塑性樹脂を付着させた。この時熱可塑性樹脂はガラス繊維に対して35質量%の割合で付着した。その後上述の通り製織し、布を得た。
【0114】
(比較例3)
メタキシリレンアジパミド樹脂(三菱瓦礫化学製、グレードS6001)を30mmφのスクリューを有する単軸押し出し機にて溶融押し出しし、60穴のダイからストランド状に押し出し、ロールに巻き取りながら延伸し、回巻体に巻き取った熱可塑性樹脂繊維束を得た。溶融温度は樹脂の融点+15℃である、252℃とした。メタキシリレンアジパミド樹脂繊維束をガラス繊維と混繊し、得られた混繊糸をPA布帛に1方向に配列し、2本撚りにしたポリアミド繊維により、混繊糸をPA布帛にスティッチングして固定し、布を得た。
【0115】
(比較例4)
巻板用巻替え装置(Factory-Automation Electronics Inc.)を用い、アルミ枠(29cm×29cm)にガラス繊維を227m、ピッチ数0.242mmで巻き付けて引き揃えた。引き揃えたガラス繊維に10質量%に調整した熱可塑性樹脂エマルジョン9.15gを塗布し、80℃の熱風循環乾燥機で1時間乾燥した。その後、引き揃えたガラス繊維を縦19.5cm、横9.5cmにはさみで切り、縦19.5cm、横9.5cmに切ったPA布帛で挟むことで一方向材を製造した。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
表に示すように、本発明の布を用いた成形体は繊維の乱れ度が小さい上、連続強化繊維の糸束の隙間への熱可塑性樹脂の含浸率が非常に高かった。また、繊維の脱離が少なく、取扱い性にも優れていた。一方、比較例1や3のように、布を構成する糸の隙間に樹脂が含浸していないと、含浸率は低く、強度も低かった。また、比較例2のように、連続繊維への予含浸が認められても熱可塑性樹脂により連続繊維の交点が固定されていないと高い含浸率を得られなかった。また、比較例4では実施例9との比較から明らかなように、布に含まれる連続強化繊維を構成する経糸と緯糸との交点の一部が熱可塑性樹脂により、固定されていないと、成形体の繊維の乱れが大きくなり、強度が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の布や連続繊維強化樹脂複合材料は、各種機械や自動車等の構造部品等、高レベルでの機械的物性が要求される材料の補強材として、また、熱可塑性樹脂組成物との複合成形体材料として、産業上の利用可能性を有する。
図1