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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】電磁波吸収シート、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20230529BHJP
   D21H 13/26 20060101ALI20230529BHJP
   D21H 13/50 20060101ALI20230529BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
H05K9/00 M
D21H13/26
D21H13/50
H01F1/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018067164
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019179797
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】596001379
【氏名又は名称】デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 新二
(72)【発明者】
【氏名】藤森 竜士
(72)【発明者】
【氏名】浮ヶ谷 孝一
(72)【発明者】
【氏名】田中 康紀
【合議体】
【審判長】▲吉▼田 耕一
【審判官】野崎 大進
【審判官】富澤 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-44709(JP,A)
【文献】特開2012-84577(JP,A)
【文献】特開2001-156487(JP,A)
【文献】特開2006-205524(JP,A)
【文献】特開2016-111257(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137631(WO,A1)
【文献】特表2008-542557(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033697(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
D21H 13/26
D21H 13/50
H01F 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性短繊維と、絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子と、アラミドファイブリッドと、を含む電磁波吸収シートであって、
導電性短繊維の含有量が、シート全重量の3wt%~20wt%であり、
絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子の含有量が、シート全重量の70wt%~90wt%である、電磁波吸収シート
【請求項2】
一方向に特に大きい電波吸収性を示す請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項3】
周波数範囲が6~20GHzの電磁波の少なくとも一方向の電磁波吸収率が99%以上である、請求項1または2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項4】
300℃で30分間熱処理した後の周波数5GHzでの電磁波吸収率の熱処理前に対する少なくとも一方向の変化率が10%以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項5】
300℃で30分間熱処理した後の周波数5GHzでの電磁波吸収率の熱処理前に対する少なくとも一方向の変化率が1%以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項6】
湿式抄造法により、導電性短繊維と、絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子と、アラミドファイブリッドと、を含むシートを作製することを含む請求項1~5のいずれかに記載の電磁波吸収シートの製造方法。
【請求項7】
導電性短繊維と絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子を含むシートを一方に移動させると同時に、低空隙率化する、請求項6に記載の電磁波吸収シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の電磁波吸収シートを装着した電気・電子回路。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の電磁波吸収シートを装着したケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収シートに関する。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会の発展、マルチメディア社会の到来により、電子機器から発生する電磁波が他の機器に対して、また人体に対して悪影響を及ぼす電磁波障害が、大きな社会問題となりつつある。電磁波環境がますます悪化していく中、それぞれに対応した電磁波を吸収するさまざまな電磁波吸収シートが提供されている(特開2004-140335号公報参照)。例えば、電磁波吸収は、フェライト等を用いた電磁波吸収体、カーボンブラック等を用いた電磁波吸収体などが提案されている。
しかしながら、これら電磁波吸収体は特定の吸収波長域のみで吸収するに過ぎず、幅広い波長域に対応することができない。例えば、フェライト等を用いた電磁波吸収体は数GHzの帯域を吸収するが、数十GHzの帯域では吸収できない。一方、カーボンブラック等を用いた電磁波吸収体は、数十GHzでの吸収は可能であるが、数GHzの帯域における吸収には向いているとは言い難い。実際、電磁波吸収体は所望の吸収周波数やその周波数における最大吸収量等の条件を満たすために、複数の種類の電波吸収体から、適宜選定する方法などが用いられており、実用に供することは困難である。
また、高効率及び大容量が要求される発電機、モータ、インバータ、コンバータ、プリント基板、ケーブルなどの高周波機器の小型化、軽量化が進み、高周波大電流が流れることによる導線の発熱に耐えうる耐熱性の高い電磁波吸収材料が求められている。特に高電圧が付加されるインバータ、モータなどの電気・電子機器においては、機器の温度上昇も大きくなるため、耐熱性の高い材料が求められる。
また、高周波機器の小型化、軽量化が進み、特に電磁波発生源の近傍では特定の方向性を持って輻射する電磁波が多くなり、小型、軽量で強い電磁波吸収性を示す電磁波吸収シートが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-140335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高周波数で広範囲の電磁波を吸収することのできる耐熱性が高い、より軽量の電磁波吸収シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、導電性短繊維と絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子を含む電磁波吸収シートにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の一実施形態は、導電性短繊維と絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子を含む電磁波吸収シートである。好ましくは、電磁波吸収シートは、一方向に特に大きい電波吸収性を示す。また好ましくは、電磁波吸収シートは、周波数範囲が6~20GHzの電磁波の少なくとも一方向の電磁波吸収率が99%以上である。また好ましくは、電磁波吸収シートは、300℃で30分間熱処理した後の周波数5GHzでの電磁波吸収率の熱処理前に対する少なくとも一方向の変化率が10%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
さらには、湿式抄造法により導電性短繊維と絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子を含むシートを作製することを含む電磁波吸収シートの製造方法である。好ましくは、電磁波吸収シートの製造方法は、導電性短繊維と絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子を含むシートを一方に移動させると同時に、低空隙率化することを含む。
さらには、前記電磁波吸収シートを装着した電気・電子回路である。
さらには、前記電磁波吸収シートを装着したケーブルである。
以下、本発明について詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(導電性短繊維)
本発明で用いる導電性短繊維としては、約10-1Ω・cm以下の体積抵抗率を持つ導体から、約10-1~108Ω・cmの体積抵抗率を持つ半導体まで、広範囲にわたる導電性を有する繊維物で繊維径と繊維長の関係が下式で表される導電性短繊維が挙げられる。

100 ≦ 繊維長/繊維径 ≦ 20000

このような導電性短繊維としては、例えば金属繊維、炭素繊維、などの均質な導電性を有する材料、あるいは金属めっき繊維、金属粉末混合繊維、カーボンブラック混合繊維など、導電材料と非導電材料とが混合されて全体として導電性を示す材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この中で、本発明においては炭素繊維を使用することが好ましい。本発明で用いる炭素繊維は、繊維状有機物を不活性雰囲気にて高温焼成して炭化したものが好ましい。一般に炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を焼成したものと、ピッチを紡糸した後に焼成したものに大別されるが、これ以外にもレーヨンやフェノールなどの樹脂を紡糸後、焼成して製造するものもあり、これらも本発明において使用することができる。焼成に先立ち酸素等を使用して酸化架橋処理を行い、焼成時の融断を防止することも可能である。
本発明で用いる導電性短繊維の繊維長は1mm~20mmの範囲から選ばれる。
導電性短繊維の選択においては、導電性が高く、かつ、後述の湿式抄造法において良好な分散を示す材料を使用することがより好ましい。また、一方向に沿って低空隙率化されるときに、導電性短繊維が変形、切断されることにより、インダクタが形成され、高周波数で広範囲の電磁波を吸収する電磁波吸収シートを得ることが可能となる。
電磁波吸収シートにおける導電性短繊維の含有量は、好ましくはシート全重量の1wt%~40wt%であり、より好ましくは3wt%~20wt%である。
【0007】
(絶縁材料)
本発明において絶縁材料とは、体積抵抗率が1×107Ω・cm以上である材料であり、軟磁性体粒子を被覆し、軟磁性体粒子が互いに接触することを防ぐことができるものであれば、特に制限はないが、耐熱性の高い無機物が好ましく、特に強度的にも優れたセラミックが軟磁性体粒子の被覆には特開2012-84577に記載のあるように、好適であると考えられる。
また、後述する抄紙によりシートを形成するために、さらに、被覆する絶縁材料として、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッド(以下アラミドファイブリッド)、及び/または短繊維(以下アラミド短繊維)が、良好な成型加工性、難燃性、耐熱性などの特性を備えている点で好ましく用いられる。特にポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッドはそのフィルム状微小粒子の形態から、他の物質との接触面積が増大されるという点で好ましく用いられる。
絶縁材料による軟磁性体粒子の被覆は、軟磁性体粒子が互いに接触することを防ぐことができる限り、軟磁性体粒子の一部を被覆するものであってもよい。
【0008】
(軟磁性体粒子)
本発明の軟磁性体粒子の原料として、鉄、ニッケル及びコバルトから選ばれる少なくとも一種の金属、又はその分散体を形成した際に比誘電率が大きな値をとる、鉄、ニッケル及びコバルトから選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物などが使用可能である。また、前記原料は、鉄、ニッケル及びコバルトから選ばれる少なくとも一種の元素を少なくとも一種含む合金であってもよい。さらに、前記原料は、結晶質であってもアモルファスであってもよい。なお、軟磁性体とは、磁化や減磁が比較的容易にできる磁性体のことをいう。金属軟磁性体の製造方法については特に限定されず、還元法、カルボニル法、電解法等によって金属単体が製造され、さらに適宜必要な方法で合金化される。また、金属軟磁性体粒子の造粒方法も限定されず、機械粉砕法、浴湯粉化法、還元法、電解法、気相法などが例示される。また、粉体の形状は球状や塊状、柱状、針状、板状、鱗片状などでもよく、造粒後の後工程によって形状を変化させてもよい。
【0009】
(絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子)
本発明の絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子とは軟磁性体粒子が互いに接触する場合があるため、軟磁性体粒子を絶縁材料で被覆して絶縁性を確保した粒子である。被覆の方法には溶射法や、CVD、PVD等のいわゆるドライコーティング法や、ゾルを塗布し、焼付する湿式法がある。また、軟磁性体粒子と絶縁材料の複合粉末に窒化処理、炭化処理、酸化処理等を施すことにより絶縁性を確保した粒子を作製することできるがこれらに限定されるものではない。また、さらに絶縁性を強化するために、前記アラミドファイブリッド及び/またはアラミド短繊維と後述する抄紙法により混合することが好ましい。
電磁波吸収シートにおける絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子の含有量は、好ましくはシート全重量の50wt%~90wt%であり、より好ましくは70wt%~80wt%である。
【0010】
(電磁波吸収シート)
本発明の電磁波吸収シートは、一般に、前述した導電性短繊維と絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子を混合した後シート化する方法により製造することができる。具体的には、シート化には、例えば、導電性短繊維、絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子、上記のアラミドファイブリッド及び短繊維を乾式でブレンドした後に、気流を利用してシートを形成する方法、導電性短繊維、絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子、上記のアラミドファイブリッド及びアラミド短繊維を液体媒体中で分散混合した後、液体透過性の支持体、例えば網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する方法、などを適用することができるが、これらの中でも水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好ましく選択される。
通常の樹脂混練法で、導電性短繊維、絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子を熱可塑性樹脂などと混練する方法は、絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子に混練中にストレスがかかるため、絶縁材料が軟磁性体粒子が剥離し、軟磁性体粒子同士が接触して、電磁波が反射され吸収され難くなるため、あるいは、導電性短繊維が絡まり均一性が悪くなり、電磁波吸収性の局所的な斑が発生するために好ましくない。
湿式抄造法では、少なくとも導電性短繊維、絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子、上記のアラミドファイブリッド及びアラミド短繊維の単一または混合物の水性スラリーを抄紙機に送液し分散した後、脱水、搾水および乾燥操作を行うことによって、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては、例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機及びこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などを利用することができる。コンビネーション抄紙機での製造の場合、配合比率の異なる水性スラリーをシート成形し合一することにより、複数の紙層からなる複合シートを得ることも可能である。
【0011】
また、本発明の電磁波吸収シートは長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機により、導電性短繊維を一方向に配向させる方が、後述する一方向に移動させると同時に、低空隙率化し、導電性短繊維を変形、切断させるときに、よりインダクタが形成されやすくなる。
湿式抄造の際に必要に応じて分散性向上剤、消泡剤、紙力増強剤などの添加剤を使用することは差し支えないが、本発明の目的を阻害することがないよう、その使用には注意を払う必要がある。
また、本発明の電磁波吸収シートには、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記成分以外に、その他の繊維状成分、例えば、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、セルロース系繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などの有機繊維、ガラス繊維、ロックウール、ボロン繊維などの無機繊維を添加することもできる。尚、上記添加剤や他の繊維状成分を用いる場合には、シート全重量の20wt%以下とするのが好ましい。
このようにして得られたシートを、例えば、一対の回転する金属製ロール間にて圧縮することにより、一方向に移動させると同時に、低空隙率化することができる。一方向に沿って、低空隙率化されるときに、導電性短繊維が変形、切断されることにより、インダクタが形成され、高周波数で広範囲の一方向に特に大きい電波吸収性を示す(好ましくは周波数範囲が6~20GHzの電磁波の少なくとも一方向の電磁波吸収率が99%以上、より好ましくは周波数範囲が4~20GHzの電磁波の少なくとも一方向の電磁波吸収率が90%以上)電磁波吸収シートを得ることが可能となる。また、電磁波吸収シートは、好ましくは300℃で30分間熱処理した後の周波数5GHzでの電磁波吸収率の熱処理前に対する少なくとも一方向の変化率が10%以下であり、より好ましくは1%以下である。
【0012】
本発明において低空隙率化とは、上記一対の回転する金属製ロール間にて圧縮するなどの方法により、低空隙率化前の空隙率の3/4以下の空隙率にすることを意味し、具体的には、低空隙率化前の空隙率が80%であれば、低空隙率化後の空隙率は60%以下、好ましくは55%以下にする。
本発明において、一方向に特に大きい電波吸収性とは、シートの少なくとも一方向の後述する伝送減衰率Rtpの最小値の絶対値とその一方向と直交する方向のRtpの最小値の絶対値との比が1.2以上であることを意味する。前記比は、好ましくは1.5以上である。
一方向に沿って、低空隙率化するための圧縮加工の条件は、一方向に沿って、導電性短繊維が変形、切断されれば、特に制限はない。例えば、一対の回転する金属製ロール間にて圧縮する場合、金属ロールの表面温度100~400℃、金属ロール間の線圧50~1000kg/cmの範囲内を例示することができる。高い引張強度と表面平滑性を得るために、ロール温度は270℃以上とすることが好ましく、より好ましくは300℃~400℃である。又、線圧は100~500kg/cmであるのが好ましい。又、一方向に配向したインダクタの形成のため、シートの移動速度は1m/分以上とすることが好ましく、より好ましくは2m/分以上である。
上記の圧縮加工は複数回行ってもよく、また、上述の方法により得たシート状物を複数枚重ね合わせて圧縮加工を行ってもよい。
さらに、上述の方法により得たシートを重ねたり、接着剤などで貼り合わせて電磁波透過抑制性能、厚みを調整してもよい。例えば貼り合わせるときに上記シート直交方向に重ね合わせることで、通常電磁波の電界の方向と磁界の方向は直交しており、吸収される電磁波の電界、磁界の両方の方向をインダクタと平行方向に、配置することが可能となる。また、本発明は、導電性短繊維の誘電損失と軟磁性体粒子の磁性損失の両方を活用して電磁波を吸収する電磁波吸収シートである。
【0013】
本発明の電磁波吸収シートは、(1)電磁波吸収性を有していること、(2)導電性短繊維の誘電損失と軟磁性体粒子の磁性損失の両方を活用して高周波を含む広い範囲の周波数で、大きな電波吸収性を示すこと、(3)特に、導電性短繊維によりインダクタが形成され、その内部に軟磁性体粒子が配置されるため、磁性損失が大きくなり、極めて大きな電波吸収性を示すこと、(4)耐熱性、難燃性を備えていること、(5)良好な加工性を有していることなどの優れた特性を有しており、電気電子機器、特に軽量化が必要とされるハイブリッドカー、電気自動車中の電子機器などの電磁波吸収シートとして好適に用いることができ、特に本発明の電磁波吸収シートを例えば粘着剤などの絶縁物を介して、例えばプリント基板などの電気・電子回路、ケーブルに装着すると電磁波の発生が抑制される。尚、電気・電子回路を例えば金属、樹脂などの筐体で覆う場合、本発明の電磁波吸収シートを筐体の内部に例えば粘着剤などで固定することにより、装着しても良い。この場合、電気・電子回路と電磁波吸収シートの間に絶縁物(空気、樹脂など)が存在することが好ましい。
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、これらの実施例は、単なる例示であり、本発明の内容を何ら限定するためのものではない。
【実施例
【0014】
(測定方法)
(1)シートの目付、厚み、密度、空隙率
JIS C 2300-2に準じて実施し、密度は(目付/厚み)により算出した。空隙率は、密度、原料組成と原料の比重から算出した。
(2)引張強度
幅15mm、チャック間隔50mm、引張速度50mm/minで実施した。
(3)電磁波吸収性能
IEC 62333に準拠した近傍界用電磁波評価システムを用いて、マイクロストリップライン(MSL)にサンプルシートをポリエチレンフィルム(厚み38μm)を挟んで積層し、シートの上に絶縁性のおもりで500gの荷重をかけて50MHz~20GHzの入射波に対して、反射波S11の電力及び透過波S21の電力をネットワーク・アナライザーで測定した。
下式により伝送減衰率Rtpを求めた。

Rtp=10×log[10S21/10/(1-10S11/10)] (dB)

[10S21/10/(1-10S11/10)]は電磁波減衰率を表し、
1-[10S21/10/(1-10S11/10)]は電磁波吸収率を表す。
Rtp=-20(dB)のとき、電磁波吸収率は99%で、
Rtp<-20(dB)のとき、電磁波吸収率は99%超となる。
Rtpが小さいほど電磁波の減衰が大きく、電磁波吸収性能が高いと言える。

また、サンプルシートを300℃で30分間熱処理した後、下式により、周波数5GHzの電磁波吸収率の変化率Crを求めた。

Cr=|(熱処理した後の電磁波吸収率―熱処理前の電磁波吸収率)/熱処理前の電磁波吸収率|

Crが小さいほど耐熱性が高いと言える。
【0015】
(原料調製)
特開昭52-15621号公報に記載の、ステーターとローターの組み合わせで構成されるパルプ粒子の製造装置(湿式沈殿機)を用いて、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッド(以下「メタアラミドファイブリッド」と記載)を製造した。これを叩解機で処理し長さ加重平均繊維長を0.9mmに調節した(濾水度200cm3)。一方、ポリメタフェニレンイソフタルアミドの短繊維として、デュポン社製メタアラミド繊維(ノーメックス(登録商標)、単糸繊度2.2dtex)を長さ6mmに切断(以下「メタアラミド短繊維」と記載)した。絶縁材料に被覆された軟磁性体粒子として、特開2012-84577号公報に記載の方法でシリカ(体積抵抗率1×1016Ω・cm)に被覆された鉄粒子(平均粒径約20μm、中間層として窒化物層を有する)(以下「被覆粒子」と記載)を作製し、抄紙用原料とした。
【0016】
(実施例1、2)
(シート作製)
上記のとおり調製したメタアラミドファイブリッド(体積抵抗率1×1016Ω・cm)、メタアラミド短繊維(体積抵抗率1×1016Ω・cm)、被覆粒子、及び炭素繊維(東邦テナックス株式会社製、繊維長3mm、単繊維径7μm、繊度0.67dtex、体積抵抗率1.6×10-3Ω・cm)をそれぞれ水中に分散してスラリーを作製した。このスラリーを、メタアラミドファイブリッド、メタアラミド短繊維、被覆粒子、及び炭素繊維が、表1に示す配合比率となるように混合し、タッピー式手抄き機(断面積325cm2)で、処理してシート状物(空隙率83%)を作製した。次いで、得られたシートを1対の金属製カレンダーロールにより表1に示す条件で圧縮加工し、シート状物を得た。カレンダーロールの回転方向と平行な平面方向をたて方向、たて方向と垂直な平面方向をよこ方向とした。
このようにして得られたシートの主要特性値を表1に示す。
(原料の比重については、メタアラミドファイブリッドの比重1.38、メタアラミド短繊維の比重1.38、被覆粒子の比重6.1、炭素繊維の比重1.8とした。)
【0017】
【表1】
【0018】
(比較例)
(シート作製)
上記のとおり調製したメタアラミドファイブリッド、メタアラミド短繊維、被覆粒子、をそれぞれ水中に分散してスラリーを作製した。このスラリーを、メタアラミドファイブリッド、メタアラミド短繊維、及び被覆粒子が、表2に示す配合比率となるように混合し、タッピー式手抄き機(断面積325cm2)で、処理してシート状物を作製した。次いで、得られたシートを1対の金属製カレンダーロールにより表2に示す条件で圧縮加工し、シート状物を得た。カレンダーロールの回転方向と平行な平面方向をたて方向、たて方向と垂直な平面方向をよこ方向とした。
このようにして得られたシートの主要特性値を表2に示す。
【0019】
【表2】
【0020】
表1に示されるように、実施例1及び2の電磁波吸収シートは、20GHzまでの高周波を含む広い範囲の周波数で、電磁波吸収性について優れた特性を示した。特に実施例2に示される電磁波吸収シートは、少なくとも一方向に特に優れた特性を示した。
これに対して、表2に示されるように、比較例のシートの電磁波吸収性を示す周波数範囲は狭く、目的とする電磁波吸収シートとしては不十分であった。