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  • 特許-溶接トーチ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20230529BHJP
   B23K 9/133 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
B23K9/29 E
B23K9/133 502D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018231419
(22)【出願日】2018-12-11
(65)【公開番号】P2020093270
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】玉城 怜士
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-052274(JP,U)
【文献】米国特許第09186746(US,B2)
【文献】特表2002-508258(JP,A)
【文献】実開昭50-024720(JP,U)
【文献】特開2007-330990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップボディと、その先端側に接続された給電チップと、先端が上記チップボディの中心孔に導入され、溶接ワイヤを案内するワイヤガイドライナと、上記チップボディおよび上記給電チップを取り囲むノズルと、を備え、上記チップボディの中心孔から導出させたシールドガスを上記ノズルから噴射しつつ、上記給電チップから上記溶接ワイヤを送出させて溶接を行う溶接トーチであって、
上記ワイヤガイドライナは、少なくとも上記チップボディの中心孔においては金属製のパイプ材により形成され、
上記中心孔は、先端側の第1領域と、後端側の第2領域とを有し、
上記パイプ材の外径は、3~10mmであるとともに上記第1領域の長さは、20~30mmであり、
上記第1領域は上記パイプ材の外径と対応した内径を有して上記パイプ材の先端側を嵌合保持するとともに、上記第2領域は上記パイプ材の外径より大の内径を有して上記パイプ材の外周面との間に上記シールドガスの流路を形成することを特徴とする、溶接トーチ。
【請求項2】
上記パイプ材の長さは、100~300mmである、請求項に記載の溶接トーチ。
【請求項3】
上記第2領域において、上記パイプ材は上記チップボディの中心孔と同心状である、請求項に記載の溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極式ガスシールドアーク溶接に用いられる溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の溶接トーチは、可撓性を持たせた溶接ケーブルの先端に接続され、ワイヤ送給機から送り出されて溶接ケーブル内を案内されてきた溶接ワイヤに給電しつつ、ノズルから噴射されるシールドガスで覆いながら繰り出す役割を果たす部材であり、その構造は、たとえば特許文献1、とくにその図6に表れている。
【0003】
ワイヤは、溶接ケーブルから溶接トーチにおいてチップボディと呼ばれる部材の中心孔にまでいたるライナに案内される。ワイヤは、チップボディの先端側に接続される給電チップの中心孔を通る際に給電を受ける。シールドガスは、チップボディの内部空間から当該チップボディに設けた通気孔、当該チップボディの外周に設けたオリフィス部材を介してノズル内空間に導出され、給電チップから送出されるワイヤの周囲を取り囲むようにしてノズル先端から噴射される。
【0004】
溶接品位を維持するための重要な要素として、ノズルから噴射されるシールドガスに偏流が生じないようにする、すなわち、シールドガスがワイヤの周囲を偏りなく流れるようにすることが求められる。そのために、チップボディの内部空間からその外部のオリフィス部材ないしノズル空間へのガス通路を形成するためにチップボディに設けられる通気孔は、複数のものがチップボディの周方向等間隔に設けられる。
【0005】
しかしながら、ワイヤを案内するライナは、コイル状のものが一般的であるため、撓みが生じてチップボディの中心孔断面における位置が安定せず、複数の通気孔を部分的に塞ぐ状態となることがある。そうすると、ノズル空間でのシールドガスに偏流が生じることとなり、これが溶接品位の悪化原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-87628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、ノズルを流れるシールドガスに偏流が生じないようにした溶接トーチを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0009】
すなわち、本発明によって提供される溶接トーチは、チップボディと、その先端側に接続された給電チップと、先端が上記チップボディの中心孔に導入され、溶接ワイヤを案内するワイヤガイドライナと、上記チップボディおよび上記給電チップを取り囲むノズルと、を備え、上記チップボディの中心孔から導出させたシールドガスを上記ノズルから噴射しつつ、上記給電チップから上記溶接ワイヤを送出させて溶接を行う溶接トーチであって、上記ワイヤガイドライナは、少なくとも上記チップボディの中心孔においてはパイプ材により形成され、上記中心孔は、先端側の第1領域と、後端側の第2領域とを有し、上記第1領域は上記パイプ材の外径と対応した内径を有して上記パイプ材の先端側を所定長さにわたって嵌合保持するとともに、上記第2領域は上記パイプ材の外径より大の内径を有して上記パイプ材の外周面との間に上記シールドガスの流路を形成することを特徴とする。
【0010】
好ましい実施の形態では、上記パイプ材の外径は、3~10mmである。
【0011】
好ましい実施の形態では、上記第1領域の長さは、6~50mmである。
【0012】
好ましい実施の形態では、上記パイプ材の長さは、100~300mmである。
【0013】
好ましい実施の形態では、上記第2領域において、上記パイプ材は上記チップボディの中心孔と同心状である。
【発明の効果】
【0014】
上記構成の溶接トーチでは、ワイヤガイドライナのうちの少なくともチップボディの中心孔に位置する部分はハイプ材で形成され、その先端はチップボディの中心孔の先端側第1領域に嵌合保持されている。このようにパイプ材の先端側が固定されることから、チップボディの中心孔の第2領域において、パイプ材がチップボディの中心孔の内壁に不用意に接触することがない。したがって、ワイヤガイドライナが撓んでチップボディの複数の通気孔の一部を塞ぐといった事態が防止され、ノズル内でのシールドガスの偏流を防止することができる。
【0015】
本発明のその他の特徴および利点は、図面を参照して以下に行う詳細な説明から、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る溶接トーチの縦断面図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3図1のIII-III線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
図1は本発明の一実施形態に係る溶接トーチA1の縦断面図、図2図1の要部拡大図、図3図1のIII-III線に沿う断面図である。
【0019】
溶接トーチA1は、消耗電極式ガスシールドアーク溶接に用いられるものであり、冷却機構を備えた構成を有する。この溶接トーチA1は、トーチボディ100と、チップボディ200と、給電チップ250と、ワイヤガイドライナ300と、ノズル400と、オリフィス部材500と、を有する。
【0020】
トーチボディ100は、円筒状の部材であり、その前端部が連結筒150を介してノズル400の後端に連結されている。連結筒150は、チップボディ200に外嵌された絶縁部材160に外嵌されるノズル400の後端部と、トーチボディ100とをねじ手段151により連結している。ノズル400は、円筒状をしており、ノズル壁410の厚さの内部に冷却用の往路通水路421、および復路通水路422が形成されているが、これについては後述する。
【0021】
チップボディ200は、概して円筒状をしており、前後方向に貫通する中心孔210を有する。このチップボディ200は、導電性金属でできており、テーパ状に縮径した先端部には、給電チップ250が連結されている。給電チップ250もまた導電性金属でできており、トーチ中心軸CLに沿ってワイヤ送出孔251が貫通形成されている。チップボディ200は、図示しない給電ケーブルに導通させられる。
【0022】
チップボディ200の中心孔210はトーチ中心軸CLに沿って延び、前方側第1領域211と、後方側第2領域212とを有する。第1領域211の内径は、後記するワイヤガイドライナ300のパイプ材310の外径と対応している。第2領域212の内径は第1領域211の内径より大である。
【0023】
チップボディ200のノズル内空間402に臨む部位には、環状のオリフィス部材500が外嵌されている。オリフィス部材500の内周面501とチップボディ200の外周面201との間には環状空間202が形成されている。チップボディ200には、環状空間202とチップボディ200の中心孔(第2領域212)210とを連通させる通気孔220が形成されている。この通気孔220は、複数のものがチップボディ200の周方向等間隔に形成されている(図3参照)。オリフィス部材500には、上記環状空間202とノズル内空間402とを連通させるオリフィス孔510が形成されている。このオリフィス孔510もまた、複数のものがオリフィス部材500の周方向等間隔に形成される。このチップボディ200にも、いくつかの通水路231,232,241,242が形成されているが、これについてはさらに後述する。
【0024】
トーチボディ100の内部には、チップボディ200の後端に隣接するようにして内筒110と外筒120とが同心状に配置されている。内筒110の内径はチップボディ200の中心孔210の第2領域212の内径と同じである。外筒120と内筒110との間の空間は、冷却用通水空間131,132として利用される。この通水空間131,132は、断面において2つの領域に区分されており、一方は往路用通水空間131、他方は復路用通水空間132である。これら通水空間131,132は、図示しない往路用通水ポートおよび復路用通水ポートに連通させられている。なお、チップボディ200の中心孔210ないし上記内筒110と後記するワイヤガイドライナ300(パイプ材310)との間の環状空間112は、シールドガス通路とされ、これは図示しないシールドガス供給路に連通させられている。
【0025】
ワイヤガイドライナ300は、ワイヤ送給装置(図示略)から送給される溶接ワイヤWを内包しつつ案内する筒状の部材であり、少なくともチップボディ200の中心孔210に位置する部分は、たとえば銅、ステンレス、真鍮などの金属製パイプ材310である。この種の溶接トーチA1は通常、可撓性のコンジットケーブル(図示略)を介して制御装置やワイヤ送給装置に連結され、コンジットケーブルの内部には給電ケーブルやワイヤガイドライナ300などが挿通されるが、ワイヤガイドライナのうちのコンジットケーブル内に挿通される部分は、上記したパイプ材310の後端に実質的に接続された、たとえばコイル状の可撓管とされる。
【0026】
パイプ材310の外径はチップボディ200の中心孔210の第1領域211の内径と対応しており、当該パイプ材310は、上記中心孔210の第1領域211に嵌合保持される。第1領域211の長さは、パイプ材310を、アーク溶接による熱影響を受けてもなお長期間安定してトーチ中心軸CLに沿って位置させるのに十分な長さに設定される。この第1領域211の長さが短すぎるとパイプ材310の安定保持に支障をきたす。また長すぎるとチップボディ200におけるノズル内空間402に臨む長さが不当に長くなり、不適である。パイプ材310の外径を基準とし、これを3~10mmとした場合、上記中心孔210の第1領域211の長さは、6~50mm、より好ましくは、20~30mmとすることが適当である。
【0027】
チップボディ200には、その基端側に位置し、トーチボディ100内に形成された往路通水空間131に連通する第1往路通水路231、これに連通し、チップボディ200の先端側に位置する第2往路通水路232、当該第2往路通水路232から折り返して当該チップボディ200の先端側に位置する第2復路通水路242および上記トーチボディ100内に形成された復路通水空間422に連通する第1復路通水路241が形成されている。ただし、チップボディ200の第2復路通水路242は、上記絶縁部材160に形成された往路用連絡路161を介してノズル400の往路通水路421に連通させられており、ノズル400の復路通水路422は、上記絶縁部材160に形成された復路用連絡路162を介してチップボディ200の第1復路通水路241に連通させられている。
【0028】
したがって、冷却水は、図2に矢印で経路を示すように、トーチボディ100の往路通水路131、チップボディ200の第1往路通水路231、同第2往路通水路232、同第2復路通水路242、絶縁部材160の往路用連絡路161、ノズル400の往路通水路421、同復路通水路422、絶縁部材160の復路用連絡路162、チップボディ200の第1復路通水路241およびトーチボディ100の復路通水空間132の順に通水されて溶接トーチA1の冷却作用を行い、溶接品位の安定に寄与する。
【0029】
次に、実施形態に係る上記構成の溶接トーチA1の作用について説明する。
【0030】
ワイヤガイドライナ300を通じて送られてきた溶接ワイヤWは、パイプ材310から給電チップ250を経て溶接トーチA1の先端から送出される。シールドガスは、トーチボディ100の内筒110とパイプ材310との間ないしチップボディ200の中心孔210の第2領域212とパイプ材310との間の環状空間112(シールドガス通路)から通気孔220ないしオリフィス部材500のオリフィス孔510を経てノズル内空間402に導出され、ノズル400の先端から上記のように送出される溶接ワイヤWを取り囲むようにして噴射させられる。こうして噴射させられるシールドガスが溶接部位をシールドし、溶接品位を保持する。
【0031】
ワイヤガイドライナ300の先端部分を構成するパイプ材310は、ある程度の剛性を有し、その先端がチップボディ200の中心孔210の第1領域211に所定の長さにわたって嵌合保持されているため、チップボディ200の中心孔210の第2領域212においては、その中心位置(トーチ中心軸CL)に沿って保持され、決して上記第2領域212の内壁に接触するなどして複数の通気孔220の一部を塞ぐといった事態は起こり得ない。その結果、ノズル400においてシールドガスに偏流が生じることはなく、溶接品位が好適に保持される。
【0032】
なお、実施形態に係る溶接トーチA1は冷却機能を有するが、その作用は上述したとおりである。
【0033】
もちろん、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に含まれる。
【0034】
本発明では、ワイヤガイドライナ300の先端部分、すなわちチップボディ200の中心孔210に進入している部分がある程度の剛性を有するパイプ材310とし、この部の先端が中心孔210の第1領域211に嵌合保持されていればよいのであって、先端部分以外は、たとえば可撓性のコイル状ライナで構成してもよい。実施形態は、トーチボディ100を含め、全体が直線状に延びる溶接トーチA1に本発明を適用したが、ワイヤガイドライナ300の先端部以外を可撓性のライナで構成することにより、トーチボディが湾曲するタイプの溶接トーチにも本発明を適用できる。
【0035】
また、全体が湾曲し、チップボディ200およびその中心孔210も湾曲する溶接トーチにも本発明を適用することができ、その場合、ワイヤガイドライナ300のパイプ材310も、チップボディ200の中心孔210の湾曲に対応した湾曲形態をとることになる。
【符号の説明】
【0036】
A1:溶接トーチ,W:溶接ワイヤ,200:チップボディ,210:中心孔,211:第1領域,212:第2領域,250:給電チップ,300:ワイヤガイドライナ,310:パイプ材,400:ノズル
図1
図2
図3