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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】位置検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20230529BHJP
   G01S 5/14 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
G01S5/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019035926
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139845
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-08-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大石 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健一
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-025715(JP,A)
【文献】特開2019-014309(JP,A)
【文献】特開2018-021385(JP,A)
【文献】国際公開第2017/207050(WO,A1)
【文献】特開2016-000905(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0234797(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00-5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末及び操作対象の少なくとも一方に設けられたセンサの出力を取得する取得部と、
前記操作対象に設けられた通信機と前記端末との間の通信を通じて、前記通信機に対する前記端末の位置を測定する測定部と、
前記センサの検出信号の時系列変化と、前記測定部の測定結果とを基に、前記端末の状況を推定する推定部と、
前記推定部の推定結果を用いて、前記通信機に対する前記端末の位置を判定する位置判定部と、を備え、
前記位置判定部は、前記測定部が求めた測定値と、前記推定結果を基に設定された基準値とを比較することにより、前記通信機に対する前記端末の位置を判定するものであって、
前記位置判定部の前記端末の位置判定に用いられる前記基準値として、前記推定部の推定結果を反映した前記基準値が設定されるものであって、前記推定部にて推定した前記端末の状況から前記操作対象の不正使用の可能性がある場合には、そうでない場合に比べて、前記位置判定に用いる前記基準値を厳しくする位置検出システム。
【請求項2】
前記推定部の推定結果に準じた態様で前記操作対象の操作を許可する作動実行部を備えた
請求項1に記載の位置検出システム。
【請求項3】
前記センサは、前記端末及び前記操作対象の少なくとも一方について、位置、方向及び動きの少なくとも1つを検出する
請求項1又は2に記載の位置検出システム。
【請求項4】
前記センサは、前記端末及び前記操作対象の少なくとも一方で行われる操作を検出するものである
請求項1~3のうちいずれか一項に記載の位置検出システム。
【請求項5】
前記測定部は、前記端末と前記通信機との間のブルートゥースの通信を介して、前記端末及び前記通信機の間の位置関係を測定する
請求項1~4のうちいずれか一項に記載の位置検出システム。
【請求項6】
前記測定部は、前記端末と前記通信機との間でUWB電波を送信する通信を通じて、前記端末及び前記通信機の間の位置関係を測定する
請求項1~4のうちいずれか一項に記載の位置検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機に対する端末の位置を検出する位置検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、端末及び通信機の間の通信を通じて互いの位置関係を判定する位置検出システムが周知である(特許文献1等参照)。この種の位置検出システムとしては、例えばブルートゥース(Bluetooth:登録商標)の通信を介して、端末及び通信機の間の位置関係を測定するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-212420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、端末及び通信機の間の通信を通じて2者間の位置関係を測定する場合、通信に使用する電波が周囲の通信環境や人体に影響を受けてしまうことがある。この場合、正確な位置関係を判定することができない可能性があった。
【0005】
本発明の目的は、端末及び通信機の位置関係の判定精度を確保可能にした位置検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題点を解決する位置検出システムは、端末及び操作対象の少なくとも一方に設けられたセンサの出力を取得する取得部と、前記操作対象に設けられた通信機と前記端末との間の通信を通じて、前記通信機に対する前記端末の位置を測定する測定部と、前記センサの検出信号の時系列変化と、前記測定部の測定結果とを基に、前記端末の状況を推定する推定部とを備えた。
【0007】
前記問題点を解決する位置検出システムは、端末の操作対象に設けられた通信機と前記端末との間の通信を通じて、前記通信機に対する前記端末の位置を複数回測定する測定部と、前記測定部により求められた測定値と基準値とを比較することにより、前記通信機に対する前記端末の位置を判定する位置判定部とを備え、前記位置判定部は、前記測定値を用いた位置の判定を、複数の基準値を用いて実行する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、端末及び通信機の位置関係の判定精度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の位置検出システムの構成図。
図2】認証通信の概要図。
図3】位置検出通信の概要図。
図4】端末の状況の推定時に実行されるフローチャート。
図5】位置検出システムの他の例の構成図。
図6】第2実施形態の位置検出システムの構成図。
図7】(a)は端末が車外に位置するときの位置測定の説明図、(b)は端末が車内に位置するときの位置測定の説明図。
図8】(a)は第1基準値で位置判定するときの説明図、(b)は第2基準値で位置判定するときの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、位置検出システムの第1実施形態を図1図5に従って説明する。
図1に示すように、端末1の操作対象2である車両3は、無線を通じて端末1を認証して車載機器4の作動を許可又は実行するキーシステム5を備える。本例のキーシステム5は、近距離無線通信を通じて車両3及び端末1の間の認証を実行する。近距離無線通信は、例えばブルートゥース(Bluetooth:登録)を用いた通信や、UWB(Ultra Wide Band)帯の電波を使用した通信などがある。端末1は、例えばキー機能が登録された高機能携帯電話であることが好ましい。
【0011】
車両3は、キーシステム5の作動を制御するコントローラ8と、車両3において近距離無線通信を実行する通信機9とを備える。コントローラ8には、端末1との認証時に使用されるキーID及びキー固有鍵がメモリ(図示略)に書き込み保存されている。コントローラ8は、端末1との間で行った認証の結果を基に作動を制御する車載機器4が接続されている。車載機器4は、例えば車両ドアの施解錠を切り替えるドアロック装置や、車両3のエンジンなどがある。通信機9は、複数設けられ、各通信機9の固有IDとして識別ID(図示略)が登録されている。識別IDは、どの通信機9と端末1とを通信させるのかを特定するために使用する。
【0012】
図2及び図3に示すように、通信機9は、端末1が車体10のどの方向から近づいても端末1と通信できるように車体10に複数設けられている。本例の場合、車体右側前部に配置された第1通信機9aと、車体右側後部に配置された第2通信機9bと、車体左側前部に配置された第3通信機9cと、車体左側後部に配置された第4通信機9dとを備える。
【0013】
図1に戻り、端末1は、端末1の作動を制御する端末制御部11と、端末1において近距離無線通信を実行する通信部12とを備える。端末制御部11には、各端末1に各々登録された固有のキーID及びキー固有鍵がメモリ(図示略)に書き込み保存されている。端末1は、例えば高機能携帯電話の場合、ネットワーク通信を介してサーバ等にアクセスして、端末1を車両キーとして作動させるアプリケーションを登録することにより、車両キーとして使用することができる。また、端末制御部11には、各通信機の識別IDが登録されている。
【0014】
車両3は、端末1との間の通信を介して通信機9に対する端末1の位置を検出する位置検出システム13を備える。本例の操作対象2は、端末1と無線による認証を行う車両3である。本例の位置検出システム13は、例えばブルートゥースや、UWB帯の電波などを用いた無線通信を介して、端末1及び通信機9の間の位置関係を判定する。
【0015】
位置検出システム13は、端末1及び操作対象2の少なくとも一方に設けられたセンサ14の出力を取得する取得部15を備える。本例のセンサ14は、端末1に設けられたセンサ(以降、端末側センサ14aと記す)と、操作対象2としての車両3に設けられたセンサ(以降、車両側センサ14bと記す)とを備える。本例の取得部15は、端末側センサ14aの出力を取得する第1取得部15aと、車両側センサ14bの出力を取得する第2取得部15bとを備える。
【0016】
端末側センサ14aは、例えば端末1に発生する加速度を検出する加速度センサや、端末1の向きを検出する方位センサや、端末1の位置を検出するGPS(Global Positioning System)などがある。第1取得部15aは、端末側センサ14aからセンサ出力である検出信号Stとして「St1」を入力する。第1取得部15aは、例えば端末1が車両3の周囲に位置する間、端末側センサ14aのセンサ出力を定期的に監視することにより、検出信号St1を時系列のデータ群として取得する。端末1が車両3の周囲に位置するか否かは、例えば端末1及び通信機9の近距離無線通信の接続可否から判断するとよい。
【0017】
車両側センサ14bは、例えば車両ドアの開閉を検出するドアカーテシスイッチや、車両ドアのアンロック操作のトリガを検出するために車両ドアのハンドルノブに設けられた静電センサや、車両3の位置を検出するGPSなどがある。第2取得部15bは、車両側センサ14bからセンサ出力である検出信号Stとして「St2」を入力する。第2取得部15bは、例えば端末1が車両3の周囲に位置する間、車両側センサ14bのセンサ出力を定期的に監視することにより、検出信号St2を時系列のデータ群として取得する。
【0018】
位置検出システム13は、端末1及び通信機9の通信を通じて通信機9に対する端末1の位置を測定する測定部18を備える。本例の測定部18は、端末1に設けられた第1測定部18aと、車両3に設けられた第2測定部18bとを備える。位置測定は、例えばブルートゥース通信の電波を用いた測距方式や、UWB通信の電波を用いた測距方式がある。位置測定は、端末1の認証通信、すなわちキーID及びキー固有鍵を用いた認証通信に対し、前、後、同時のいずれでもよい。測定部18は、端末1及び車両3の認証通信が実行された際に測定を実行して、端末1及び車両3の間の位置関係に係る測定値Dxを取得する。測定部18は、認証通信が開始されてから一定時間の間、この測定値Dxの測定を繰り返し実施し、これら測定値Dxを、測定値Dxの時系列のデータ群として取得する。測定部18は、複数存在する各々の通信機9と端末1との間で測定値Dxの測定を実行する。
【0019】
位置検出システム13は、センサ14及び測定部18から得られる時系列のデータ群から端末1の状況を推定する推定部19を備える。推定部19は、コントローラ8に設けられている。本例の推定部19は、センサ14の検出信号Stの時系列変化と測定部18の測定結果とを基に、端末1の状況を推定する。端末1の状況としては、例えば車両3に対する操作が正規ユーザによるものか否かが挙げられる。本例の推定部19では、乗車か否か例えば端末1と車両3とが中継器によって不正通信されていること、端末1及び車両3の間の位置検出通信の電波の伝搬環境、正規ユーザが正しく車両3に乗車したことなどが推定される。
【0020】
位置検出システム13は、推定部19の推定結果を用いて通信機9及び端末1の位置関係を判定する位置判定部20を備える。位置判定部20は、コントローラ8に設けられている。位置判定部20は、測定部18により求められる測定値Dxと基準値Dkとを比較することにより、通信機9に対する端末1の位置、すなわち端末1の位置の正否を判定する。なお、位置判定に用いる測定値Dxは、端末1の状況の推定後に新たに測定された値、端末1の状況の推定時に用いた値、これらから複合的に算出された値のいずれでもよい。
【0021】
本例の基準値Dkは、推定部19の推定結果を基に設定されることが好ましい。例えば、推定部19は、車両3に対する操作が正規ユーザによるものと推定した場合、基準値Dkを緩く設定し、車両3に対する操作が正規ユーザによるものではないと推定した場合、基準値Dkを厳しく設定する。位置判定部20は、このようにして推定部19により設定された基準値Dkを用いて、通信機9に対する端末1の位置を判定する。
【0022】
次に、図2図5を用いて、本実施形態の位置検出システム13の作用及び効果について説明する。
図2に示すように、コントローラ8は、近距離無線による認証通信を行うにあたり、端末1を探索するアドバタイズを通信機9から定期的に送信する。本例の場合、通信機9が複数設けられているので、これら通信機9が順番にアドバタイズ送信を実行する。端末1は、このアドバタイズを受信すると、その応答を返信する。これにより、端末1及び通信機9の近距離無線通信が接続される。
【0023】
いずれかの通信機9と端末1との近距離無線通信が接続された場合、コントローラ8は、端末1との間の認証通信を、近距離無線を介して実行する。本例の場合、端末1は、自身に登録されているキーIDを通信機9に近距離無線送信する。コントローラ8は、端末1から受信したキーIDを認証するキーID照合を実行し、自身に登録されているキーIDと一致するか否かを確認する。また、コントローラ8及び端末1は、キー固有鍵を使用したチャレンジレスポンス認証も実行する。本例の場合、コントローラ8は、送信の度に値が毎回変化するチャレンジコードを端末1に近距離無線送信し、端末1にキー固有鍵を用いてチャレンジコードに対するレスポンスコードを演算させる。端末1は、演算したレスポンスコードを通信機9に返信する。コントローラ8は、自身もレスポンスコードを演算し、端末1から受信したレスポンスコードと一致するか否かを確認する。
【0024】
コントローラ8は、キーID照合及びチャレンジレスポンス認証が成立すれば、端末1との認証を成立とする。一方、コントローラ8は、キーID照合及びチャレンジレスポンス認証の少なくとも一方が成立しないと、端末1との認証を不成立とする。コントローラ8は、端末1との認証が不成立となる場合、端末1による車両3の作動を許可しない。
【0025】
図3に示すように、端末1及びコントローラ8は、端末1及び通信機9の近距離無線通信が接続された場合、通信機9に対する端末1の確認する位置検出通信を実行する。この位置検出通信は、近距離無線を介して実行される。また、位置検出通信は、端末1の認証通信の過程において、通信前、通信中、又は通信後のどのタイミングで実施されてもよい。位置検出通信定では、2者間の近距離無線通信を介して通信機9に対する端末1の位置を測定する位置判定を実行し、この測定値Dxを基に、端末1が車両3の室外又は室内のいずれに存在するのかを判定する。
【0026】
位置検出通信の方式には、例えばブルートゥース通信の電波を用いて測距や方向推定を行う方式がある。ブルートゥース通信の測距方式には、例えば伝搬特性から推定する方式、電波の受信信号強度から推定する方式、電波の送受信に要する時間から推定する方式などがある。また、ブルートゥース通信の方向推定方式には、アレーアンテナで受信した信号の位相から電波の到来方向を推定する方式などがある。
【0027】
一例として、ブルートゥース通信の電波特性から位置を推定する測距方式の概略を述べる。測距通信時、端末1及び通信機9の一方から他方に、ブルートゥース通信により電波を送信する。この電波は、測距専用の電波でもよいし、端末1の認証時に送信される電波を共用してもよい。電波を受信した側の測定部18は、電波を受信した際、この受信電波の伝搬特性を測定する。伝搬特性は、例えば受信電波のベースバンド信号をフーリエ変換して算出されることが好ましい。伝搬特性は、受信電波の中心周波数の伝搬特性であることが好ましい。
【0028】
続いて、電波を受信した側が今度は送信側となって、ブルートゥース通信により電波を送信する。すなわち、端末1及び通信機9の他方から一方に、ブルートゥース通信により電波を送信する。そして、この電波を受信した側の測定部18も、前述のように受信電波の伝搬特性を測定する。このように、端末1及び通信機9の間で電波を送受信し合って互いに伝搬特性を測定するのは、これら伝搬特性を乗算した値から測定値Dxを算出すれば、クロック誤差やPLLの初期位相誤差を、乗算により相殺することができるからである。
【0029】
端末1及び通信機9は、この伝搬特性の測定を、複数のチャネルで順次実行する。ブルートゥース通信は、チャネルが複数存在するので、これらチャネルにおいて伝搬特性が各々測定される。
【0030】
測定部18は、チャネルごとに測定した伝搬特性を合成し、各チャネルの伝搬特性を並べたベクトルを作る。測定部18は、合成後の伝搬特性を逆フーリエ変換することにより、その演算結果を得る。逆フーリエ変換の演算結果は、時間データとして取得することができる。そして、測定部18は、この時間データを測定値Dxとして取得する。
【0031】
他の例として、ブルートゥース通信の電波の受信信号強度から位置を推定する方式の概略を述べる。ブルートゥース通信では、端末1及び通信機9が通信するにあたり、周波数ホッピングによりチャネルが適宜切り替えられながら電波が送信される。電波を受信する側の測定部18は、各チャネルの受信電波を受信する度、その受信電波の受信信号強度を測定する。
【0032】
車体10には、複数の通信機9が設けられている。このため、所定の通信機9と端末1との一通りの通信が完了後、別の通信機9と端末1との通信が実行されるように、通信機9が順次切り替わりながら、端末1とのブルートゥース通信が実行される。測定部18は、端末1及び通信機9の各組のブルートゥース通信において、各々のチャネルの受信電波の受信信号強度を測定する。測定部18は、端末1及び通信機9の組ごとに、受信信号強度の平均値を算出する。車体10に4つの通信機9が存在する場合、4つの平均値が算出される。測定部18は、これら平均値を基に求めた端末1の位置を測定値Dxとして取得する。
【0033】
また、位置検出通信の方式には、ブルートゥース通信を使用する以外の方式として、例えばUWB通信の電波を用いた方式がある。UWB通信の位置検出方式には、例えば電波の送受信に要する時間から距離を推定する方式、アレーアンテナで受信した信号の位相から電波の到来方向を推定する方式などがある。
【0034】
一例として、UWB通信の電波の送受信に要する時間から位置を推定する方式の概略を述べる。UWB通信では、端末1及び通信機9の一方から他方に向けて、測距用のUWB電波が送信され、他方から一方にUWB電波が返信される。測定部18は、UWB電波の送受信に要した伝搬時間を求め、この伝搬時間を、端末1及び通信機9の間の位置関係に応じた測定値Dxとして取得する。
【0035】
図4に示すように、推定部19は、測定部18によって求められた測定値Dxと、センサ14から取得した検出信号Stとを基に、端末1の状況、すなわちキーシステム5の使用状況を推定する。この推定は、推定に必要な時系列のデータ群が取得できれば、どの時点で実行されてもよい。
【0036】
まずS101(「S」はステップの略、以下同様)において、推定部19は、センサ14の検出信号Stを取得する。端末側センサ14aの検出信号St1は、無線によって端末1から通信機9を経由してコントローラ8に送られる。推定部19は、センサ14の検出信号Stを一定時間の間に亘って入力することにより、検出信号Stの時系列データを得る。
【0037】
S102において、推定部19は、測定部18によって求められた測定値Dxを取得する。推定部19は、測定部18によって複数回に亘って実行された複数の測定結果、すなわち測定値Dxを入力することにより、測定値Dxの時系列データを得る。
【0038】
S103において、推定部19は、センサ14の検出信号Stの時系列データと、測定値Dxの時系列データとを用いて、端末1の状況、すなわちキーシステム5の使用状況を推定する。例えば、加速度センサの変動がない状態で、かつ位置検出の推定結果が大きく変動する場合、正規ユーザでないものが車両3を操作している可能性があるとして、位置判定に用いる基準値Dkを厳しくする。このため、例えば車両3から遠く離れた位置にある端末1を第三者が中継器を用いて不正に接続する為が行われた場合、測定値Dxが基準値Dk未満とならず、位置判定が成立に移行しない。よって、車両3の不正使用に対するセキュリティ性が確保される。
【0039】
また、端末1の加速度センサのセンサ出力が「大」となり、ハンドルノブの静電センサと車両ドアのカーテシスイッチとで車両ドアの開閉を検出し、端末1の加速度センサのセンサ出力が「小」となったことを検出したとする。このとき、正規ユーザが車両3に乗車した可能性が高いとして、位置判定に用いる基準値Dkを緩くする。このため、正規ユーザがエンジンスイッチを操作してエンジンを始動させるときに位置検出通信を行うようにした場合、位置判定を成立に移行させ易くなる。よって、車両3の使用者が正規ユーザの場合に、スムーズなエンジン始動への移行が確保される。
【0040】
以上、本例によれば、位置検出システム13に推定部19を設け、端末1や車両3に設けたセンサ14の出力と、通信機9に対する端末1の位置を測定した際の測定結果とを用いて、端末1の状況を推定する。このため、端末1及び車両3が通信する際において、端末1の状況を、より精度よく推定することができる。そして、この推定結果を用いて端末1及び通信機9の位置関係の判定を行うようにした場合には、端末1及び通信機9の位置関係の判定を精度よく行うことができるようになる。
【0041】
位置判定部20は、測定部18が求めた測定値Dxと、推定部19による推定結果を基に設定された基準値Dkとを比較することにより、通信機9に対する端末1の位置を判定する。よって、推定結果を反映した基準値Dkを用いて端末1の位置判定を行うので、通信機9に対する端末1の位置を、精度よく判定することができる。
【0042】
センサ14は、端末1及び車両3の少なくとも一方について、位置、方向及び動きの少なくとも1つを検出するものである。よって、端末1や車両3の位置、方向、動きなどから、端末1の状況を精度よく推定することができる。
【0043】
センサ14は、例えば車両ドアの開閉を検出するドアカーテシスイッチや、車両ドアのハンドルノブに設けられた静電センサなど、車両3に行われる操作を検出するものである。よって、車両3に行われる操作から、端末1の状況を精度よく推定することができる。なお、センサ14は、端末1に行われる操作を検出するものでもよい。
【0044】
なお、図5に示すように、正規ユーザの乗車ではないと推定部19によって推定された場合、車両3の操作に対し、ユーザに個別操作を課す構成としてもよい。この場合、位置検出システム13は、推定部19の推定結果に準じた態様で車両3の操作を許可する作動実行部31を備える。作動実行部31は、コントローラ8に設けられている。ユーザの個別操作とは、例えば端末1の操作であることが好ましい。
【0045】
作動実行部31は、車両3に対する操作が正規ユーザによるものではないと推定部19によって推定された場合、例えば車両3の操作にあたり、端末1の操作をユーザに課す。具体的には、端末1及び車両3の間の近距離無線による認証通信を停止し、車両3の作動を許可するにあたり、端末1の操作ユーザに課す状態に移行する。このため、例えば駐車中の車両3に乗車する場合には、端末1において車両ドアの解錠操作を実行する操作が必要となる。
【0046】
このとき、ユーザは、端末1を操作することにより、端末1の画面に「車両ドアの解錠ボタン」を表示する。そして、ユーザは、画面上の「車両ドアの解錠ボタン」をタップ操作する。このとき、端末1は、端末1から車両3に向けて解錠要求を、近距離無線通信を介して送信する。コントローラ8は、この解錠要求を通信機9で受信すると、車両ドアを解錠する。
【0047】
このように、位置検出システム13に作動実行部31を設けて、車両3の使用を、推定部19の推定結果に準じた態様で許可するようにすれば、正規ユーザの操作でない可能性がある場合に、車両3を通常通りの態様で自由に操作できないようにすることが可能となる。よって、車両3の不正使用に対するセキュリティ性を確保することができる。
【0048】
記測定部18は、端末1と通信機9との間のブルートゥースの通信を介して、端末1及び通信機9の間の位置関係を測定することが好ましい。このように、位置検出方式としてブルートゥース通信を使用すれば、広く普及している通信を用いて、精度よく互いの位置関係を測定することができる。
【0049】
測定部18は、端末1と通信機9との間でUWB電波を送信する通信を通じて、端末1及び通信機9の間の位置関係を測定することが好ましい。このように、位置検出方式としてUWB通信を使用すれば、車両3に対する端末1の位置を、細かい位置間隔で精度よく検出することができる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図6図8に従って説明する。なお、第2実施形態は、正規ユーザではない乗車であると推定された場合の対処方法を変更した実施例である。よって、第1実施形態と同一部分には同じ符号を付して詳しい説明を省略し、異なる部分についてのみ詳述する。
【0051】
図6に示すように、本例の位置検出システム13は、複数の基準値Dkを用いて通信機9に対する端末1の位置を判定する位置判定部20を備える。本例の位置判定の場合、第1基準値Dk1及び第2基準値Dk2の2つを用いる。本例の位置判定部20は、例えば通常使用する第1基準値Dk1で位置判定を実行し、複数の測定値Dxのうち1つでも第1基準値Dk1に収まらないものがあれば、基準値Dkを緩めの第2基準値Dk2に変更して、位置判定が成立するか否かを判定する。また、本例の場合、端末1及び車両3からセンサ14及び取得部15が省略されている。
【0052】
次に、図7及び図8を用いて、本実施形態の位置検出システム13の作用及び効果について説明する。
図7(a)に示すように、駐車状態の車両3に車外からユーザが近づき、車両ドアを解錠しようとして車両ドアのハンドルノブをタッチ操作する場合を考える。この例の場合でも、測定部18は、所定のタイミングにおいて端末1及び通信機9の間の位置測定を複数回実行する。本例の場合、例えば1回目の測定値Dxを「Dx1」とし、2回目の測定値Dxを「Dx2」とし、3回目の測定値Dxを「Dx3」とし、4回目の測定値Dxを「Dx4」とする。なお、複数の通信機9が車載されている場合、各通信機9において測定が複数実施されることが好ましい。
【0053】
位置判定部20は、車両ドアのハンドルノブがタッチ操作された場合に、複数求められた測定値Dxを用いて、端末1の位置の正否を判定する位置判定を実行する。位置判定部20は、例えば測定値Dxの全てが第1基準値Dk1未満となる場合、端末1が車外において正しい位置に存在すると判定する。よって、コントローラ8が車両ドアの解錠を許可し、車内へ乗車することが可能となる。
【0054】
図7(b)に示すように、ユーザが車内に乗車して、車両3のエンジンをかけようとして運転席のエンジンスイッチを操作する場合を考える。この例の場合も、測定部18は、所定のタイミングにおいて端末1及び通信機9の間の位置測定を複数回実行する。また、複数の通信機9が車載されている場合、各通信機9において測定が複数実施されることが好ましい。
【0055】
位置判定部20は、車両3のエンジンスイッチが操作された場合に、複数求められた測定値Dxを用いて、端末1の位置の正否を判定する位置判定、すなわち端末1の車内外判定を実行する。位置判定部20は、例えば測定値Dxの全てが第1基準値Dk1未満となる場合、端末1が車内に位置すると判定する。よって、コントローラ8が車両3のエンジン始動を許可し、エンジンが停止状態から始動状態に切り替えることが可能となる。
【0056】
ところで、図8(a)に示すように、車内に端末1が位置する位置判定において、位置検出通信で使用する電波が車体や人体等に影響を受けて、複数の測定値Dxのうちの一部が、第1基準値Dk1以上となってしまうことがある。図8では、第2測定値Dx2が第1基準値Dk1以上となった例を図示している。
【0057】
この場合、図8(b)に示すように、位置判定部20は、第1基準値Dk1未満に収まる測定値Dxが全てではなく一定数以上となるとき、基準値Dkを第2基準値Dk2に切り替え、この第2基準値Dk2によって位置判定を実行する。そして、位置判定部20は、第1基準値Dk1の判定に漏れた他の測定値Dxが、全て第2基準値Dk2未満に収まることを確認できると、端末1が車内に位置すると判定する。このとき、コントローラ8は、車両電源の遷移操作を許可する。よって、運転席のエンジンスイッチの操作により、車両3のエンジンを始動させることが可能となる。
【0058】
一方、位置判定部20は、第1基準値Dk1の判定に漏れた他の測定値Dxが第2基準値Dk2以上となる場合、端末1が車外に位置すると判定する。このとき、コントローラ8は、車両電源の遷移操作を許可しない。よって、例えば第三者によって運転席のエンジンスイッチが操作されても、エンジンを始動状態に移行させずに済む。
【0059】
以上、本例によれば、端末1の位置判定を、複数の基準値Dkを用いて行うので、端末1の位置が車両3に対して正しいにも拘わらず、第1基準値Dk1では位置判定が否と判定されても、他の基準値Dkである第2基準値Dk2では位置判定を正に移行させることが可能となる。よって、端末1及び通信機9の位置関係の判定を精度よく行うことができるようになる。
【0060】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
[キーシステム5について]
・各実施形態において、キーシステム5でのキーIDの認証は、複数の通信機9のうち、1つの通信機9のみで実施されればよい。
【0061】
・各実施形態において、キーシステム5は、1つのシステムで認証通信及び位置検出通信の両方が可能な構成に限定されず、各々が異なるシステムから構築されてもよい。
・各実施形態において、キーシステム5は、近距離無線通信を用いたシステムに限定されず、例えば車両3からの電波送信をLF(Low Frequency)帯の電波で行い、端末1からの電波送信をUHF(Ultra High Frequency)帯の電波で行うシステム、いわゆるスマート照合システムでもよい。
【0062】
・各実施形態において、キーシステム5の一例であるスマート照合システムは、通信の往路と復路とで周波数が異なる電波が送受信される態様に限定されず、往復の両方で同じ周波数の電波が送受信される態様でもよい。
【0063】
・各実施形態において、スマート照合システムは、車内外にそれぞれ個別のLFアンテナを配置して、端末1の車内外判定を行うものに限定されず、例えば車体の左右にLFアンテナを設置し、これらLFアンテナに対する端末1の応答結果の組み合わせから、端末1が車内外のどちらに位置するのかを判定するシステムでもよい。
【0064】
・各実施形態において、キーシステム5で使用する電波の周波数は、ブルートゥースやUWBに限定されず、他の周波数を使用してもよい。
・各実施形態において、キーシステム5は、RFID(Radio Frequency IDentification)等の近距離無線通信、赤外線などを使用した通信でもよい。
【0065】
・各実施形態において、キーシステム5は、スマート照合システムに限定されず、例えば端末1側からの通信を契機に端末1を認証するワイヤレスキーシステムや、近距離無線通信を用いて端末1を認証するイモビライザーシステムでもよい。
【0066】
[位置検出システム13について]
・各実施形態において、位置検出システム13は、認証通信でやり取りされる電波から、測定値Dxを測定してもよい。
【0067】
・各実施形態において、車内外の各判定において、基準値Dkをそれぞれ異なる値に設定してもよい。
・各実施形態において、位置検出システム13は、通信機9が車体に複数搭載されている場合、各通信機9と各々通信して、距離を測定することが好ましい。この場合、これら各距離を確認することで、位置関係が妥当か否かを判定することが好ましい。
【0068】
・各実施形態において、位置検出通信は、認証通信とは別のタイミングで実施されてもよい。
・各実施形態において、複数の通信機9のうち、特定の1つをマスタとし、他の複数をスレーブの位置付けとしてもよい。この場合、スレーブ位置付けの通信機9は、マスタ位置づけの通信機9を介してコントローラ8と通信する動作をとってもよい。
【0069】
[センサ14について]
・第1実施形態において、センサ14は、車両3に対する操作を検出するセンサ類であればよい。
【0070】
・第1実施形態において、センサ14は、車載品の作動を検出する既設のセンサであることが好ましい。
・第1実施形態において、センサ14は、端末1及び車両3の一方にのみ設けられる構成でもよい。
【0071】
・第1実施形態において、センサ14は、端末1や車両3の使用状況や使用状態を検出できるものであればよい。
[取得部15について]
・第1実施形態において、取得部15は、センサ14の出力をどのタイミングで取得してもよい。例えば、取得部15は、車両3が駐車中のときにセンサ出力を収集してもよい。
【0072】
・第1実施形態において、取得部15をネットワーク上に設け、ネットワーク通信を通じて、端末1や車両3のセンサ出力を収集してもよい。
[測定部18について]
・第1実施形態において、測定部18は、例えば電波の反射波から距離を測定する方式の場合、端末1及び車両3の一方にのみ設ければよい。
【0073】
・第1実施形態において、測定部18が求める測定値Dx、すなわち位置検出に係るパラメータは、端末1及び通信機9の位置に準じた物性値であればよい。
[推定部19について]
・第1実施形態において、推定部19は、車両3に設けられることに限らず、例えば端末1や、ネットワーク通信により接続されるサーバなど、他の箇所に設けられてもよい。
【0074】
・第1実施形態において、推定部19が行う推定は、車両3に対する操作が、正規ユーザがとる操作に沿うものか否かを推定するものであればよい。
・第1実施形態において、推定部19は、例えば正規操作であるか否かの確度を算出し、この確度が規定値以上か否かを確認することで、正規ユーザの操作か否かを推定するものでもよい。
【0075】
[位置判定部20について]
・各実施形態において、位置判定部20は、例えば通信機9に対する端末1の位置を座標で検出する態様としてもよい。この場合、端末1及び通信機9の位置関係を、より精度よく特定することができる。
【0076】
・各実施形態において、位置判定部20は、測定値Dxを基に位置判定を行う際に、推定部19による推定結果を加味した判定処理を実行するものであればよい。
・各実施形態において、位置判定部20は、位置検出システム13の構成要素から省略することも可能である。
【0077】
[作動実行部31について]
・第1実施形態において、作動実行部31がユーザに課す操作は、端末1を使用する操作に限定されず、例えば車両3に対する特定の操作であってもよい。
【0078】
・第1実施形態において、作動実行部31による動作は、例えば車両3の操作を禁止したり、車両使用に制限を加えたりする動作としてもよい。
・第1実施形態において、作動実行部31が実行する動作は、通常の車両操作に対し、ユーザであれば実施可能であると想定される所定操作をユーザに課す動作であればよい。
【0079】
[その他]
・各実施形態において、端末1は、電子キーや高機能携帯電話に限定されず、操作対象2のキーとなり得るものであればよい。
【0080】
・各実施形態において、操作対象2は、車両3に限定されず、種々の装置や機器が適用可能である。
次に、上記実施形態及び変更例ら把握できる技術的思想について記載する。
【0081】
(イ)端末及び操作対象の少なくとも一方に設けられたセンサの出力を、取得部によって取得するステップと、前記操作対象に設けられた通信機と前記端末との間の通信を通じて、前記通信機に対する前記端末の位置を、測定部により測定するステップと、前記センサの検出信号の時系列変化と、前記測定部の測定結果とを基に、推定部によって前記端末の状況を推定するステップとを備えた位置検出方法。
【0082】
(ロ)端末の操作対象に設けられた通信機と前記端末との間の通信を通じて、前記通信機に対する前記端末の位置を、測定部によって複数回測定するステップと、前記測定部により求められた測定値と基準値とを比較することにより、前記通信機に対する前記端末の位置を、位置判定部によって判定するステップとを備え、前記位置判定のステップでは、前記測定値を用いた位置の判定を、複数の基準値を用いて実行する位置検出方法。
【符号の説明】
【0083】
1…端末、2…操作対象、3…車両、5…キーシステム、9…通信機、13…位置検出システム、14…センサ、15…取得部、18…測定部、19…推定部、20…位置判定部、31…作動実行部、St…検出信号、Dx…測定値、Dk…基準値、Dk1…第1基準値、Dk2…第2基準値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8