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<図1>
  • 特許-ラケット 図1
  • 特許-ラケット 図2
  • 特許-ラケット 図3
  • 特許-ラケット 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】ラケット
(51)【国際特許分類】
   A63B 49/022 20150101AFI20230529BHJP
   A63B 60/54 20150101ALI20230529BHJP
   A63B 102/02 20150101ALN20230529BHJP
【FI】
A63B49/022
A63B60/54
A63B102:02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019042724
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020141993
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390010917
【氏名又は名称】ヨネックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100120444
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】川端 雅人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】長澤 康史
(72)【発明者】
【氏名】井上 直
【審査官】柳 重幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-345052(JP,A)
【文献】特開2015-217192(JP,A)
【文献】特公昭49-023864(JP,B1)
【文献】実開平05-076466(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 49/02-49/022
60/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストリングが縦方向及び横方向に張設されて表裏両面を打球面として形成するフレームと、
前記フレームに形成された孔に貫通して装着されて前記ストリングが通過する筒部を複数備えたグロメットと、を備えたラケットであって、
前記筒部は、その中心軸位置を挟む両側を形成する第1形成部と、
前記中心軸位置周りに90°回転した該中心軸位置を挟む両側を形成する第2形成部とを備え、前記第1形成部及び前記第2形成部の一方が表裏方向両側に配置され、
前記第1形成部と前記第2形成部とは、剛性が異なって形成され
前記孔は円形に形成され、前記筒部は、前記孔に貫通した状態で該孔の内周縁との径方向の距離が、前記第1形成部と前記第2形成部とで異なっていることを特徴とするラケット
【請求項2】
前記筒部は、その中心軸の延出方向から見て、内周を円形、外周を楕円形又は長円形に形成することで、前記第1形成部及び前記第2形成部が設けられることを特徴とする請求項1に記載のラケット
【請求項3】
縦方向に張設される前記ストリングを挿通する前記筒部と、横方向に張設される前記ストリングを挿通する前記筒部とは、該筒部の中心軸位置周りにて前記第1形成部及び前記第2形成部の形成位置が90°異なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のラケット。
【請求項4】
前記第1形成部は、前記第2形成部に比べて高剛性に設けられ、
縦方向に張設される前記ストリングを挿通する前記筒部は、表裏方向両側に前記第1形成部が形成され、
横方向に張設される前記ストリングを挿通する前記筒部は、表裏方向両側に前記第2形成部が形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のラケット。
【請求項5】
複数の前記筒部のうち、縦方向及び又は横方向に張設され且つ前記打球面の中央領域を通過する前記ストリングが挿通される前記筒部に対し、前記第1形成部及び前記第2形成部が形成されることを特徴とする請求項ないし請求項のいずれか一項に記載のラケット。
【請求項6】
前記第1形成部及び前記第2形成部が形成される前記筒部は、前記第1形成部及び前記第2形成部が形成されない前記筒部に比べ、前記フレームの内周面からの突出量が小さいことを特徴とする請求項に記載のラケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラケットのフレームに装着されてストリングとフレームとの接触を回避するグロメットを用いたラケットに関する。
【背景技術】
【0002】
テニスやバドミントンのラケットにおいては、特許文献1に開示されるように、ループ状に形成されたフレームを備え、フレームの内側にストリングが張設されて打球面(フェース)が形成される。また、フレームには、ストリングが挿通される孔が所定の間隔を隔てて多数形成される。各孔にはグロメットが装着され、グロメットの筒状に形成された部分が孔の内周面とストリングとの間に介在し、それらの接触を回避するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2012-517873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ストリングにあっては、ラケットによる打球時に、打球面の表裏方向の力を受けることとなり、この力はストリングを介してグロメットにも作用する。また、例えば、ボールにスピン回転を掛けて打球する場合には、縦方向に張設されたストリングが横方向の力も受けることとなり、該横方向の力がグロメットにも作用する。本発明者は、このようにグロメットに力が作用することに着目し、グロメットの剛性を変えた設計を採用できるようにして、ラケットの種々の性能を変えることができる発明を案出したものである。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、筒部の構成によってラケットの性能を変えた設計を容易に採用することができるラケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における一態様のラケットは、ストリングが縦方向及び横方向に張設されて表裏両面を打球面として形成するフレームと、前記フレームに形成された孔に貫通して装着されて前記ストリングが通過する筒部を複数備えたグロメットと、を備えたラケットであって、前記筒部は、その中心軸位置を挟む両側を形成する第1形成部と、前記中心軸位置周りに90°回転した該中心軸位置を挟む両側を形成する第2形成部とを備え、前記第1形成部及び前記第2形成部の一方が表裏方向両側に配置され、前記第1形成部と前記第2形成部とは、剛性が異なって形成され、前記孔は円形に形成され、前記筒部は、前記孔に貫通した状態で該孔の内周縁との径方向の距離が、前記第1形成部と前記第2形成部とで異なっていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、筒部の向きとして表裏方向に第1形成部及び第2形成部のいずれを配置するかを選択した設計を行うことができる。これにより、表裏方向やこれに直交する方向での筒部の剛性を変化させることができ、打球の飛び性能やスピン性能等の打球に関する種々の性能を変化させ、ユーザの様々なニーズに対応する設計を容易に行うことが可能となる。また、筒部が貫通するフレームの孔との関係において、第1形成部及び第2形成部のうち可動域を大きく確保したい方の孔との隙間を大きく形成することができる。つまり、筒部の第1形成部及び第2形成部によって可動域を大きくできるだけでなく、筒部が貫通する孔との関係においても筒部の可動域をより大きく確保することができる。
【0008】
また、本発明のグロメットにおいて、前記筒部は、その中心軸の延出方向から見て、内周を円形、外周を楕円形又は長円形に形成することで、前記第1形成部及び前記第2形成部が設けられるとよい。この構成によれば、筒部を単純で簡単な形状に維持しつつ、筒部の楕円形又は長円形となる長手方向の剛性を相対的に高め、短手方向の剛性を相対的に小さくすることができる。
【0010】
また、本発明のラケットにおいて、縦方向に張設される前記ストリングを挿通する前記筒部と、横方向に張設される前記ストリングを挿通する前記筒部とは、該筒部の中心軸位置周りにて前記第1形成部及び前記第2形成部の形成位置が90°異なるとよい。この構成によれば、縦方向のストリングを挿通する筒部と、横方向のストリングを挿通する筒部との第1形成部及び第2形成部の向きを変えた状態での打球性能を得ることができる。
【0011】
また、本発明のラケットにおいて、前記第1形成部は、前記第2形成部に比べて高剛性に設けられ、縦方向に張設される前記ストリングを挿通する前記筒部は、表裏方向両側に前記第1形成部が形成され、横方向に張設される前記ストリングを挿通する前記筒部は、表裏方向両側に前記第2形成部が形成されるとよい。この構成によれば、縦方向のストリングを挿通する筒部で横方向の剛性を相対的に小さくし、該筒部における打球時の横方向の可動域を大きくして縦方向のストリングによる打球のスピン性能を向上させることができる。しかも、横方向のストリングを挿通する筒部で表裏方向の剛性を相対的に小さくし、該筒部における打球時の表裏方向の可動域を大きくして横方向のストリングによる打球の飛び性能を向上させることができる。
【0013】
また、本発明のラケットにおいて、複数の前記筒部のうち、縦方向及び又は横方向に張設され且つ前記打球面の中央領域を通過する前記ストリングが挿通される前記筒部に対し、前記第1形成部及び前記第2形成部が形成されるとよい。この構成によれば、いわゆるスイートスポットのストリングについて効果的に打球性能を高めることができる。
【0014】
また、本発明のラケットにおいて、前記第1形成部及び前記第2形成部が形成される前記筒部は、前記第1形成部及び前記第2形成部が形成されない前記筒部に比べ、前記フレームの内周面からの突出量が小さいとよい。この構成によれば、上記の筒部の突出量を小さくすることで、該筒部に挿通されるストリングの可動域を大きく確保することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、筒部に剛性が異なる第1形成部及び第2形成部を上述のように設けることで、ラケットの性能を高める設計を容易に採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態に係るラケットの外観図であり、図1Aは、前記ラケットの正面図、図1Bは、前記ラケットの側面図である。
図2】フレームからグロメットを取り外した状態の説明用正面図である。
図3図3Aは、図1のA-A線断面図、図3Bは、図1のB-B線断面図である。
図4】一部の筒部を例示する説明用断面図である。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下においては、本発明に係るグロメットをソフトテニス用のラケットに適用した例について説明するが、適用対象はこれに限定されることなく変更可能である。例えば、硬式テニス用のテニスラケットや、スカッシュ用のラケット、バドミントン用のラケットなどに適用してもよい。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係るラケットの外観図であり、図1Aは、前記ラケットの正面図、図1Bは、前記ラケットの側面図である。なお、以下の各図では、説明の便宜上、一部の構成を省略している。
【0019】
図1に示すように、ラケット10は、ボールを打つ部位であるヘッド11と、プレーヤがラケット10を把持する部位であるグリップ12と、ヘッド11とグリップ12とを一体に連結するシャフト13とを備えている。なお、以下の説明において、図1中矢印にて示すように、ラケット10の長手方向を縦方向とし、この縦方向にてヘッド11が位置する側を先端側とし、グリップ12が位置する側を後端側とする。また、ラケット10の打球面22上において(即ち打球面22に沿う平面上において)縦方向に直交する方向を横方向(あるいは、左右方向)とし、ラケット10の打球面22に直交する方向を表裏方向(あるいは、前後方向)とし、図1Aの紙面手前側(図1Bの紙面左側)を表側とし、その反対側を裏側とする。
【0020】
シャフト13は、前後方向から見て、グリップ12からヘッド11に向かって二股に分岐するスロート15を備え、左右のスロート15の間にはヘッド11の一部を形成するヨーク17が形成されている。なお、シャフト13は、これに限らず、二股に分岐していないものとしてもよい。
【0021】
ヘッド11は、縦方向に長い楕円形状のフレーム20と、フレーム20の内側に縦方向及び横方向に張設されたストリング21とを備えている。ストリング21は、フレーム20の内側における表裏両面に打球面(フェース)22を形成する。フレーム20は、例えば繊維強化樹脂等からなる中空の筒状体を楕円形状に成形したものである。なお、フレーム20は中空とせずに内部に発泡材を充填したり、木製或いは金属製としたりしてもよい。
【0022】
フレーム20の外周面20aには、厚さ方向における中央部が両側部に比べて凹んだ溝部20bが設けられている。溝部20bは、フレーム20の周方向に沿って連続して設けられている。また、フレーム20には、貫通孔(孔)23が設けられ、かかる貫通孔23は、フレーム20の溝部20bの底側から内周面20cまで貫通して形成されている。貫通孔23は、フレーム20の周方向に沿って複数設けられている。
【0023】
図2は、フレームからグロメットを取り外した状態の説明用正面図である。図2にも示すように、フレーム20には、その外周側から4体のグロメット25~28が装着され、これらグロメット25~28を介してストリング21がフレーム20に張設される。本実施の形態では、先端側のグロメット25は、図2のフレーム20の正面視にて、約10時方向の個所から約2時方向の個所に亘って設けられ、フレーム20のトップ20A側を保護している。左右のグロメット26、27は、先端側のグロメット25の左右両端近傍からフレーム20の左右の側面に形成された最下位の貫通孔23に達する位置に亘って設けられている。また、後端側のグロメット28は、ヨーク17に設けられている。なお、後端側のグロメット28を除く各グロメット25~27は、各種条件に応じ、フレーム20の周方向に沿う長さを変えてもよい。
【0024】
各グロメット25~28は、熱可塑性樹脂を射出成形した成形体とすることが例示できる。各グロメット25~28は、フレーム20の周方向に延在する帯状部31と、この帯状部31の一方の面となる裏面から突出する複数の筒部32とを備えている。帯状部31の前後幅は、溝部20bの前後幅より大きく又は同一とされ、フレーム20の前後幅より小さく設定されている。先端側のグロメット25にあっては、帯状部31の前後幅がフレーム20の前後幅と概略同一に形成されてフレーム20のトップ20A側を保護している。
【0025】
筒部32は、帯状部31側が基部とされ、基部と反対側の先端部がフレーム20の外側から貫通孔23に貫通される。この貫通によってグロメット25~28がフレーム20に装着され、この状態で、筒部32の先端側は、フレーム20の内周面20c側から内方に突出するように配設される。ここで、各筒部32の内部空間は、ストリング21を挿通する挿通路33(図3参照)として形成される。なお、挿通路33の内径寸法は、ストリング21の直径寸法と略同一または該直径寸法より若干大きく形成され、それらの寸法を同一に近付けることで、打球時に挿通路33に対するストリング21の相対変位を抑制している。ストリング21の直径寸法を100としたときに、挿通路33の内径寸法は、100以上165以下に設定される。
【0026】
続いて、筒部の具体的構成について図3を参照して説明する。図3Aは、図1のA-A線断面図、図3Bは、図1のB-B線断面図である。図3Aでは、縦方向に張設されるストリング21を挿通する筒部32(以下、「縦筒部32A」とする)を表しており、図3Bでは、横方向に張設されるストリング21を挿通する筒部32(以下、「横筒部32B」とする)を表している。
【0027】
図3A及び図3Bでは、ストリング21の中心軸の延出方向(図中紙面直交方向)から見ており、同図に示すように、縦筒部32A及び横筒部32Bは、挿通路33となる内周を円形、外周を楕円形に形成し、それらの中心軸位置Cは同一となっている。ここで、縦筒部32A及び横筒部32Bにおいては、中心軸位置Cを挟んで長軸方向両側を形成する第1形成部35と、短軸方向両側を形成する第2形成部36とを備えている。従って、第2形成部36は、第1形成部35に対して中心軸位置C周りに90°回転した位置に形成される。
【0028】
第1形成部35は、楕円の長軸を含む所定領域とされる一方、第2形成部36は、楕円の短軸を含む所定領域とされる。これにより、縦筒部32A及び横筒部32Bにおいて、第1形成部35は、第2形成部36と厚みが異なることで剛性が異なって形成され、本実施の形態では、第1形成部35が第2形成部36に比べて高剛性に設けられる。なお、上記所定領域としては、挿通路33の直径幅に応じた領域としたり、中心軸位置C周りに長軸及び短軸を中央とする約90°の範囲の領域としたりすることが例示できる。
【0029】
縦筒部32Aと横筒部32Bとは、その中心軸位置C周りにて第1形成部35及び第2形成部36の形成位置が90°異なっている。具体的には、図3Aの縦筒部32Aでは、表裏方向両側に第1形成部35が形成され、打球面22(図1参照)の面方向にて表裏方向に直交する方向すなわち横方向両側に第2形成部36が形成される。これとは反対に、図3Bの横筒部32Bでは、表裏方向両側に第2形成部36が形成され、打球面22の面方向にて表裏方向に直交する方向すなわち縦方向両側に第1形成部35が形成される。
【0030】
フレーム20に形成された貫通孔23は、円形(真円形)となる開口形状に形成され、かかる円形の貫通孔23に外周が楕円形の縦筒部32Aと横筒部32Bが貫通して装着される。これにより、楕円の長軸方向両側に形成された第1形成部35と、楕円の短軸方向両側に形成された第2形成部36とでは、貫通孔23の内周縁との径方向の距離が異なるようになる。具体的には、第2形成部36と貫通孔23の内周縁との間には、隙間Sが形成され、該隙間S側に各筒部32A、32Bが傾倒する方向(図中白矢印参照)に変形する変形代を形成するようになる。一方、第1形成部35と貫通孔23の内周縁とは接触、又はそれらの間に若干の隙間が形成され、各筒部32A、32Bが第1形成部35側に傾倒する変形を貫通孔23の内周縁で規制するようになる。
【0031】
縦筒部32Aと横筒部32Bとは、上述のように第1形成部35及び第2形成部36の形成位置が異なるので、隙間Sも異なる位置(向き)に形成される。具体的には、図3Bの横筒部32Bでは、表裏方向両側に隙間Sが形成され、図3Aの縦筒部32Aでは、表裏方向に対し打球面22の面方向に直交する方向(横方向)両側に隙間Sが形成される。
【0032】
ここで、全ての縦筒部32A及び横筒部32Bに、第1形成部35及び第2形成部36を形成した構成としてもよいが、一部の縦筒部32A及び横筒部32Bについて、円形の外周形状として周方向に均一な厚みとなる形状(図4参照)としてもよい。例えば、縦筒部32A及び横筒部32Bとしては、いわゆるスイートスポットと称される打球面22の中央領域を通過するストリング21が挿通される縦筒部32A及び横筒部32Bに対し、第1形成部35及び第2形成部36を形成してもよい。具体的には、図1の領域SS1内の縦筒部32A及び図1の領域SS2内の横筒部32Bに、第1形成部35及び第2形成部36を形成してもよい。
【0033】
更に、第1形成部35及び第2形成部36が形成される縦筒部32A及び横筒部32Bは、第1形成部35及び第2形成部36が形成されない縦筒部32A及び横筒部32Bに比べ、フレーム20の内周面20cからの突出量を小さくしてもよい。この場合、第1形成部35及び第2形成部36が形成される各筒部32A、32Bに挿通されるストリング21が打球によってより撓み変形し易くなる。
【0034】
ここで、ラケット10を用いたプレーにおいては、スピン回転をかけるように打球する場合、縦方向に張設されたストリング21が横方向の力を受けて撓むようになり、撓んだストリング21が戻る力によってボールにスピン回転がかかるようになる。上記のように縦筒部32Aの横方向両側に第2形成部36を形成して第1形成部35より剛性を小さくしたので、縦筒部32Aの横方向の可動量(変形量)を大きくでき(図3A参照)、可動後に復元する縦筒部32Aの横方向の弾性力も大きくすることができる。これにより、ボールのスピン量を増大させることができ、打球のスピン性能を向上させることができる。
【0035】
また、ラケット10における打球では、ストリング21が表裏方向の力を受けて該表裏方向に撓むようになり、撓んだストリング21が戻る力でボールが反発して弾き飛ぶようになる。上記のように横筒部32Bの表裏方向両側に第2形成部36を形成して第1形成部35より剛性を小さくした場合、横筒部32Bの表裏方向の可動量(変形量)を大きくでき、可動後に復元する横筒部32Bの表裏方向の弾性力も大きくすることができる。これにより、ボールに対する反発力を増大させることができ、打球の飛び性能を向上させることができる。
【0036】
ここで、縦筒部32Aにあっては表裏方向両側に高剛性の第1形成部35を形成しているので、縦方向に張設されたストリング21だけに着目すると、表裏方向に変形し難く飛び性能が低下するようにも見える。しかしながら、ラケット10にあっては、縦方向のストリングの方が横方向のストリングより長くなるので、飛び性能については、相対的に長さが短い横方向に張設されたストリング21の方が影響が大きくなる。また、横筒部32Bひいては横方向のストリング21の可動量が大きくなるので、縦横のストリング21の可動量を近づけてストリング21全体での撓み変形量を大きくでき、スイートスポットの拡大を図りつつ、飛び性能を向上することができる。ここで、縦筒部32Aと横筒部32Bとで材質を異ならせ、横筒部32Bの方が縦筒部32Aより柔らかい(変形し易い)構成も併せて採用できる。これによれば、横筒部32B及び横方向のストリング21の可動量が更に大きくなり、縦横のストリング21の可動量をより一層近づけて、スイートスポットの拡大、飛び性能の向上を図ることができる。
【0037】
このように、本実施の形態では、縦筒部32A及び横筒部32Bにて剛性が異なる各形成部35、36の向きを変えて配置する設計を容易に行えるようにしている。これにより、打球に対して可動量(変形量)が異なる各形成部35、36を上記のように配置し、飛び性能とスピン性能との両方の性能向上を実現することができる。
【0038】
ところで、従来構造として、筒部における挿通路の開口面積をストリングに対して大きくすることで、ストリングの可動量を大きくした構成が採用されている。ところが、かかる構成では、打球によってストリングが撓んだときに、挿通路内でストリングが変位してストリングが筒部からの力を受け難くなる。
【0039】
この点、本実施の形態では、ストリング21の直径寸法と挿通路33の内径寸法とを同一に近付けているので、打球時のストリング21の撓みに応じて筒部32が変形することとなる。従って、打球によって変形した筒部32の復元力をストリング21ひいてはボールに作用させることができ、従来構造に比べて打球性能の向上を図ることができる。更に、打球時に挿通路33に対するストリング21の相対変位を抑制し、プレーヤにとって不快な雑振動が発生することを防止でき、ぼやけた打球感になることを回避することができる。
【0040】
このような実施の形態によれば、筒部32の外周を楕円形として第1形成部35及び第2形成部36を形成したので、単純且つ簡単な形状によって第1形成部35と第2形成部36との剛性を変化させ、上述した打球性能を発揮できるようになる。しかも、縦筒部32Aと横筒部32Bとで、表裏方向に対する第1形成部35及び第2形成部36の向きを変えた構成も簡単に採用することが可能となる。
【0041】
また、筒部32の外周を楕円形としたので、円形の貫通孔23に筒部32を貫通した状態で、短軸方向両側となる第2形成部36と貫通孔23との間に隙間Sを形成することができる。筒部32にあっては、剛性が低い第2形成部36側に倒れる方向に可動(変形)し易くなるが、隙間Sによって、筒部32の隙間S側への可動域をより大きく確保して上述の打球性能をより良く発揮させることができる。
【0042】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状、方向などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0043】
例えば、縦筒部32A及び横筒部32Bにおける第1形成部35及び第2形成部36は上述した向きに限定されるものでなく、上記実施の形態に対し、縦筒部32A及び横筒部32Bの両方、或いは、何れか一方の第1形成部35及び第2形成部36の向きを中心軸位置C周りに90°変更してもよい。また、第1形成部35より第2形成部36が高剛性となることを妨げるものでない。これにより、例えば、各筒部32A、32Bによるスピン性能や飛び性能が抑制される可能性があるが、フレーム20やシャフト13の構造や材質等による打球性能と相俟ってラケット10全体としてバランスの良い性能を発揮するよう設計可能となる。このように、本発明では、各筒部32A、32Bの向きとして表裏方向に第1形成部35及び第2形成部36のいずれを配置するかを選択して設計可能となるので、ユーザの様々なニーズに対応可能なラケット10を製造できるようになる。
【0044】
また、筒部32の外周形状を楕円形としたが長円形としても、上記と同様に第1形成部35及び第2形成部36を形成することができる。
【0045】
また、筒部32の第1形成部35及び第2形成部36は同一の厚さに形成しつつ異なる材料によって形成することで剛性を変化させてもよい。このとき、筒部32が貫通する貫通孔23の開口形状は楕円形や長円形として貫通孔23の内周縁との径方向の距離が、第1形成部35及び第2形成部36で異なるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、筒部の構成によってラケットの性能を変えた設計を容易に採用することができるグロメット及びこれを用いたラケットに関する。
【符号の説明】
【0047】
10 ラケット
20 フレーム
21 ストリング
23 貫通孔(孔)
25~28 グロメット
32 筒部
32A 縦筒部(筒部)
32B 横筒部(筒部)
33 挿通路
35 第1形成部
36 第2形成部
C 中心軸位置
SS1、SS2 中央領域
図1
図2
図3
図4