(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】ヘッダープレートレス型熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28F 21/08 20060101AFI20230529BHJP
F28F 9/18 20060101ALI20230529BHJP
F28F 9/02 20060101ALI20230529BHJP
F28D 7/16 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
F28F21/08 F
F28F9/18
F28F9/02 Z
F28D7/16 E
(21)【出願番号】P 2019052842
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000222484
【氏名又は名称】株式会社ティラド
(74)【代理人】
【識別番号】100082843
【氏名又は名称】窪田 卓美
(72)【発明者】
【氏名】岩本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 勝則
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-081175(JP,A)
【文献】特開平10-122761(JP,A)
【文献】特開平07-139706(JP,A)
【文献】特開2006-207887(JP,A)
【文献】特開2006-132470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 21/08
F28F 9/18
F28F 9/02
F28D 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ、長手方向の両端部の溝底(1a)の高さが、中間部のそれより高く厚み方向に膨出された膨出部(1d)を有する第1の溝型プレート(1b)と第2の溝形プレート(1c)とを有し、第1の溝形プレート(1b)の溝底と第2の溝型プレート(1c)の溝底とを、互いに対向させて嵌着して偏平チューブ(1)が構成され、複数の偏平チューブ(1)を前記膨出部(1d)で積層してコア(3)が形成され、コア(3)の外周にケーシング(5)が被嵌され、コア(3)の各偏平チューブ(1)内に高温の排ガス(7)が流通すると共に、各偏平チューブ(1)の外周に冷却水(8)が流通するヘッダープレートレス型熱交換器において、
排ガス(7)の入口(2)側に配置され、高耐蝕性材料からなる前記偏平チューブ(1)の積層体からなる入口コア(3a)と、その入口コア(3a)に直列して前記排ガス(7)の出口側に配置され、前記高耐蝕性材料に比べて耐蝕性の低い材料からなる偏平チューブ(1)の積層体からなる出口コア(3b)とを有し、
両コア(3a)(3b)の外周が前記ケーシング(5)で被嵌され
ており、
前記入口コア(3a)と出口コア(3b)との境において、供給する冷却水と接触して発生する前記出口コア(3b)の耐食性の低い材料の自然電位が、その腐食電位より低くなる温度T1となるように構成したヘッダープレートレス型熱交換器。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッダープレートレス型熱交換器において、
前記入口コア(3a)、出口コア(3b)の端どうしが前記長手方向に互いに離間し、少なくとも一方側のコアの偏平チューブ(1)の前記膨出部(1d)の側壁(1f)が前記長手方向に延長されて延長部(1e)を構成し、その延長部(1e)が他方のコアの偏平チューブ(1)の端部に接合されたヘッダープレートレス型熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両端部が厚み方向に膨出した偏平チューブを積層してなる熱交換器であって、そのヘッダープレートを不要とする熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、両端部の溝底高さが厚み方向に膨出した一対の溝型プレートを組み合わせて偏平チューブを形成し、各偏平チューブを膨出部で積層してコアを形成し、そのコアの外周にケーシングを被嵌し、偏平チューブ内に高温の排ガスを流通させると共に、偏平チューブの外周に冷却水を流通して、両流体間熱交換を行ったものが知られている。
即ち、
図5に示す如く、偏平チューブ1の積層体によりコア3を形成し、その外周にケーシング5を被嵌すると共に、コア3の両側とケーシング5との間に排ガス7の出入口タンクを設け、コア3の長手方向の両端部に一対の冷却水パイプを設け、ケーシング5の入口2から排ガス7をコア3の各偏平チューブ1内に導く。それと共に、ケーシング5のコア3の両端から冷却水8を各偏平チューブ1の外面側に流通させ、排ガス7と冷却水8との間に熱交換を行わせたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱交換器の冷却水8として水道水を用いると、それに殺菌剤として、残留塩素、及び塩化物イオンが含まれている。すると、偏平チューブ1にステンレス鋼を用いても、該残留塩素の影響でステンレス鋼の自然電位が上昇し、一方、該塩化物イオンの影響でステンレス鋼の腐食電位は低減することから、特に高温域(一般的に70℃以上)においては、腐食環境(自然電位>腐食電位)に至る。
そのため、熱交換材料には特に質の高い高耐食性のステンレス材料を使用する必要があった。すると、熱交換器の価格が高価にならざるを得ない欠点があった。
そこで、本発明は係る問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明は、それぞれ、長手方向の両端部の溝底1aの高さが、中間部のそれより高く厚み方向に膨出された膨出部1dを有する第1の溝型プレート1bと第2の溝形プレート1cとを有し、第1の溝形プレート1bの溝底と第2の溝型プレート1cの溝底とを、互いに対向させて嵌着して偏平チューブ1が構成され、複数の偏平チューブ1を前記膨出部1dで積層してコア3が形成され、コア3の外周にケーシング5が被嵌され、コア3の各偏平チューブ1内に高温の排ガス7が流通すると共に、各偏平チューブ1の外周に冷却水8が流通するヘッダープレートレス型熱交換器において、
排ガス7の入口2側に配置され、高耐蝕性材料からなる前記偏平チューブ1の積層体からなる入口コア3aと、その入口コア3aに直列して前記排ガス7の出口側に配置され、前記高耐蝕性材料に比べて耐蝕性の低い材料からなる偏平チューブ1の積層体からなる出口コア3bとを有し、
両コア3a,3bの外周が前記ケーシング5で被嵌されており、
前記入口コア3aと出口コア3bとの境において、供給する冷却水と接触して発生する前記出口コア3bの耐食性の低い材料の自然電位が、その腐食電位より低くなる温度T1となるように構成したヘッダープレートレス型熱交換器である。
【0006】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載のヘッダープレートレス型熱交換器において、
前記入口コア3a、出口コア3bの端どうしが前記長手方向に互いに離間し、少なくとも一方側のコアの偏平チューブ1の前記膨出部1dの側壁1fが前記長手方向に延長されて延長部1eを構成し、その延長部1eが他方のコアの偏平チューブ1の端部に接合されたヘッダープレートレス型熱交換器である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の熱交換器は、排ガス7の入口2側に配置された入口コア3aが高耐蝕性材料の偏平チューブ1の積層体からなり、その入口コア3aに直列して排ガス7の出口側に配置され出口コア3bが比較的、耐蝕性の低い材料の偏平チューブ1の積層体からなり、両コア3a,3bの外周がケーシング5に被嵌され、各偏平チューブ1内に排ガス7が流通し、各偏平チューブ1の外周に冷却水8が流通するものである。
即ち、上流側で、より高温の排ガス7が内部を流通する入口コア3aの偏平チューブ1が高耐蝕性材料で形成され、その劣化を効果的に防止し、比較的低温の排ガス7が内部を流通する出口コア3bの偏平チューブ1を低耐蝕性材料で形成したので、少ない高耐蝕材料を用いつつ全体として、耐蝕性の高い経済的なヘッダープレートレス型熱交換器を提供できる。
また、前記入口コア3aと出口コア3bとの境において、供給する冷却水と接触して発生する前記出口コア3bの耐食性の低い材料の自然電位が、その腐食電位より低くなる温度T1となるように構成したものである。
これにより、出口コア3bがその全長で腐食発生温度以下となるため、出口コア3bに廉価材の使用が可能となる効果がある。
【0009】
請求項2に記載の熱交換器は、前記入口コア3a、出口コア3bの端どうしが離間し、一方の偏平チューブ1の延長部1eが他方の偏平チューブ1の端部に接合されたものである。
このように、入口コア3aと出口コア3bとが離間することにより、互いの熱的影響を可及的に少なくすると共に、境目で排ガスを攪拌して温度を均一にし、下流側の出口コア3bの耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のヘッダープレートレス型熱交換器の要部平面図。
【
図3】同熱交換器を構成する偏平チューブ1の説明図であって、(A)はその要部分解図、(B)は同接続説明図、(C)は一対の偏平チューブ1の接続状態を示す要部斜視図である。
【
図4】熱交換器の冷却水に水道水を用いる場合の腐食電位/自然電位と温度との関係を示す説明図。
【
図5】従来型ヘッダープレートレス型熱交換器の要部平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面に基づいて本発明の実施の形態につき説明する。
この熱交換器は、
図2に示す如く、入口コア3aとそれに連結された出口コア3bとを有し、それらがケーシング5に被嵌される。
このケーシング5は、ケーシング本体5aとその上端を被嵌する蓋材5bとからなる。 そして入口コア3a及び出口コア3bは、
図1に示す如く、ケーシング5内に直列的に収納されて、その長手方向の両端部にガスタンク部9が設けられる。この例では、入口コア3a及び出口コア3bの境は、それらコアの向かい合う端どうしが長手方向に互いに離間して空間部14が設けられる。
また、入口コア3aと出口コア3bとからなるコア3の長手方向の一側には、夫々水タンク13(
図1)を介して水パイプ6が突設されている。さらに、ケーシング5はその他側に入口コア3aと出口コア3bの水の流路をつなぐ水側連結部5cが設けられ、その水側連結部5cとコア3との間に水タンク13が形成されている。水側連結部5cを構成する水タンク13の位置は、空間部14の位置に整合する。
【0013】
入口コア3a,出口コア3bは、夫々偏平チューブ1の積層体からなる。
各偏平チューブ1は、
図3に示す如く、第1の溝型プレート1bと第2の溝型プレート1cとの嵌着体からなる。それらは、長手方向の両端部に溝底1aの高さが中間部のそれより高く厚み方向に膨出された膨出部1dを有する。そして、それらは互いに溝底1aを対向させて嵌着したものからなる。そして、複数の偏平チューブ1を膨出部1dで積層して、入口コア3a,出口コア3bが形成される。
なお、この例では
図3(A)~(C)に示す如く、偏平チューブ1の第2の溝型プレート1cの端部に延長部1eが突設され、それが互いに
図3(C)の如く接続される。それにより、入口コア3a,出口コア3bは、
図1に示す如く、空間部14を介して連結される。
これにより、入口コア3a及び出口コア3bの排ガス7流通側は、積層された前記延長部1eとケーシング5とのろう付接合により、ケーシング5の長手方向の中間の水タンク13を流通する冷却水を封止する構成をとっている。
【0014】
このようなヘッダープレートレス型熱交換器において、入口コア3a,出口コア3bの端部に形成されたガスタンク部9には、夫々ガスパイプ10が設けられる。そして、入口2側のガスパイプ10から排ガス7が各偏平チューブ1の内部に導かれる。
そして、排ガス7はケーシング5の入口2からガスタンク部9を介して、入口コア3aの各偏平チューブ1の内部に流入し、ついで出口コア3bの各偏平チューブ1内部を流通し、出口側のガスパイプ10に流出する。
【0015】
また、冷却水8は、水道水が一方の水パイプ6から出口コア3bの各偏平チューブ1の外周を流通して、ケーシング5の長手方向の中間の水側連結部5cを構成する水タンク13を迂回し、入口コア3aの各偏平チューブ1の外周を流通し、他方の水パイプ6より流出する。そして、排ガス7と冷却水8との間に熱交換が行われるものである。
【0016】
入口コア3aを構成する偏平チューブ1は、高耐食性を有するステンレス鋼からなり、出口コア3bはそれに比べて耐食性の低いステンレス鋼からなる偏平チューブ1の積層体からなる。
一例として、高耐食性を有するステンレス鋼(価格は廉価ステンレス鋼に比べ高価である)として、Cr10.5%以上、C1.2%以下を含むSUS445J2、所謂スーパーステンレス等を用いることができる。耐食性の低い廉価なステンレス鋼として、SUS316L等を用いることができる。
入口コア3aは排ガス7の上流側にあり、その入口コア3aの内部に高温の排ガス7が流通する。これに対して、出口コア3bは排ガス7の下流側に位置して、排ガス7の温度が低下している。排ガス7は、上流側から下流側に流通するにつれて、熱交換されているため、排ガス7の温度が徐々に下がる。言い換えると、コア3全体の長手方向における温度分布は上流側が高くなり、下流側は低くなる。
耐食性の低い廉価ステンレス材を使用した出口コア3bの腐食発生境界の温度T1の位置は、コア3全体を廉価ステンレス材とした時の長手方向における温度分布の熱解析結果と、後述のように導出する温度T1から、把握することができる。
【0017】
図4は、出口コア3bを構成する耐食性の低いステンレス材料に対し、冷却水として水道水を用いた場合の温度と腐食電位及び自然電位の関係を示したものである。
水道水の残留塩素濃度に伴い、前記ステンレス材料の自然電位は上昇するが、一方、温度上昇に伴い、その自然電位は低減する。従って、例えば残留塩素濃度を1ppm(水質管理目標の最大値)と固定した場合の自然電位は、
図4に示す通り、温度上昇に伴って、次第に低下する。
また、同様に、水道水中の塩化物イオン濃度に伴い、前記ステンレス材料の腐食電位は上昇するが、一方、温度上昇に伴い、その腐食電位は低減する。従って、例えば、塩化物イオン濃度200ppm(省令水質基準の最大値)と固定した場合の腐食電位は、
図4に示す通り、温度上昇に伴って、次第に低下する。
以上の関係より、出口コア3bを構成する耐食性の低いステンレス材料自体の温度を、所定の水道水環境で上昇させていくと、(自然電位>腐食電位)の関係となるT1が導出される。温度T1よりも高温になると腐食が進行し、腐食発生の温度域となる。
【0018】
そこで、本発明では
図1に示す如く、供給する冷却水と接触して発生する前記出口コア3bの耐食性の低い材料の自然電位が、その腐食電位より低くなる温度T1の位置を入口コア3aと出口コア3bとの境の空間部14に位置させる。
一方、入口コア3aのステンレス材料は、所定の水道水環境下で、想定される最大温度においても、(自然電位<腐食電位)の関係を維持できる高耐食性ステンレス材料を選定することとなる。
即ち、入口コア3a及び出口コア3bは、共にステンレス鋼板を用いると共に、廉価ステンレス材の腐食発生の温度域に配置される入口コア3aは、より耐食性の高い高価な素材を用いる。そして、廉価ステンレス材の腐食が生じ難い温度領域に配置される出口コア3bは入口コア3aの材料よりも廉価な素材を用いることができる。それにより、全体として熱交換器を安価に形成できるとともに、腐食の生じ難い信頼性の高い熱交換器を形成することができる。
本願発明は、排熱回収用の熱交換器として利用できる。
【符号の説明】
【0019】
1 偏平チューブ
1a 溝底
1b 第1の溝型プレート
1c 第2の溝型プレート
1d 膨出部
1e 延長部
1f 側壁
2 入口
3 コア
3a 入口コア
3b 出口コア
【0020】
5 ケーシング
5a ケーシング本体
5b 蓋材
5c 水側連結部
6 水パイプ
7 排ガス
8 冷却水
9 ガスタンク部
10 ガスパイプ
11 インナーフィン
12 ディンプル
13 水タンク
14 空間部
T1 温度