(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】ワイヤロープ、ワイヤロープの端部処理方法、及び、螺旋部材
(51)【国際特許分類】
D07B 9/00 20060101AFI20230529BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
D07B9/00
D07B1/06 Z
(21)【出願番号】P 2019095083
(22)【出願日】2019-05-21
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】橋口 寛史
(72)【発明者】
【氏名】檜 弥生
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-022504(JP,A)
【文献】特開2014-125707(JP,A)
【文献】特開2007-321259(JP,A)
【文献】特開2017-127131(JP,A)
【文献】特開平04-163382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻付グリップによって端部処理されたワイヤロープであって、
少なくとも前記巻付グリップによって巻付けられている範囲において、隣り合うストランド又は素線の間の空隙部分に配された、螺旋部材を備え
、
前記巻き付けグリップに引張荷重がかかったことにより前記巻き付けグリップによって前記螺旋部材を備えているワイヤロープが締め付けられた際に、前記螺旋部材が前記巻き付けグリップと接触して、両者間に抗力が生じるように構成されていることを特徴とするワイヤロープ。
【請求項2】
前記螺旋部材が、全ての隣り合う前記ストランド又は素線の間の空隙部分に配されていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤロープ。
【請求項3】
前記螺旋部材の一部が、外部に露出していることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤロープ。
【請求項4】
前記螺旋部材に、前記ストランド又は素線との間で前記螺旋部材を視覚的に識別させる識別加工が施されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のワイヤロープ。
【請求項5】
前記ワイヤロープの断面視において前記ワイヤロープに外接する円
よりも、前記螺旋部材が
内側であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のワイヤロープ。
【請求項6】
前記螺旋部材が、前記ストランド又は素線より柔らかい材料によって形成されており、
前記巻き付けグリップが巻き付けられていない状態において、前記ワイヤロープの断面視において前記ワイヤロープに外接する円
よりも前記螺旋部材が
飛び出していることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のワイヤロープ。
【請求項7】
前記ワイヤロープが3×7構造又は1×7構造であることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載のワイヤロープ。
【請求項8】
ワイヤロープの端部処理方法であって、少なくとも巻付グリップによって巻付けられる範囲において、隣り合うストランド又は素線の間の空隙部分に螺旋部材を配するステップと、前記螺旋部材が配されたワイヤロープに対して、前記巻付グリップを巻付けるステップと、により、
前記巻き付けグリップに引張荷重がかかったことにより前記巻き付けグリップによって前記螺旋部材を備えているワイヤロープが締め付けられた際に、前記螺旋部材が前記巻き付けグリップと接触して、両者間に抗力が生じるように構成することを特徴とするワイヤロープの端部処理方法。
【請求項9】
前記螺旋部材の一部を外部に露出させることを特徴とする請求項8に記載のワイヤロープの端部処理方法。
【請求項10】
前記螺旋部材に、前記ストランド又は素線との間で前記螺旋部材を視覚的に識別させる識別加工を施すことを特徴とする請求項8又は9に記載のワイヤロープの端部処理方法。
【請求項11】
請求項1から7の何れかに記載のワイヤロープに使用する前記螺旋部材であって、前記ワイヤロープの撚りピッチと略同一のピッチの螺旋形状を有し、
前記巻き付けグリップに引張荷重がかかったことにより前記巻き付けグリップによって前記螺旋部材を備えているワイヤロープが締め付けられた際に、前記螺旋部材が前記巻き付けグリップと接触して、両者間に抗力が生じるように構成されていることを特徴とする螺旋部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープ、ワイヤロープの端部処理方法、及び、螺旋部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤロープは、構造物の補強等の目的で、構造物の2点間を接続するためなどに使用されている。
この際、ワイヤロープの端末を引留める必要があり、そのために端末にアイを形成する等のワイヤロープの端部処理が行われる。
ワイヤロープの端部処理の方法の一つとして、巻付グリップを用いる方法がある。このような巻付グリップに関する従来技術が特許文献1によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
巻付グリップは、U字状に折り曲げられその両端部がらせん状に形成された鋼線によって形成されており、両端部のらせん状部分を、ワイヤロープに巻付けて使用するものである。工具などを要せずに、手で簡単に巻付けることができるため、作業性に優れている。
巻付グリップは、その構造上、引張荷重がかかるとワイヤロープを締め付けるため、緩むことがなく、締め直しの必要が無いものである。しかしながら、例えば落石防護柵等の用途において、落石の衝突による作用時間の短い衝撃引張力がかかった場合には、締結効率が低下し、巻付グリップが本来有する限界荷重までその性能を発揮できない場合がある。
作用時間の短い衝撃引張力に対する対策として、巻付グリップの上からさらにワイヤグリップ等の金具で締結するものがある。
U字ボルトやナット等で構成されているワイヤグリップの取り付け作業は、比較的単純な作業といえるが、多数のボルトナットを締める必要があり、作業効率は非常によくない。また、作業者の技量による差が出やすく、均一な施工が難しいという問題がある。さらに、ボルトナットを使用していることから、増し締め等、保守管理においても煩雑な面を有する(緩み止めナットを使用した場合にはコスト高となってしまう)。即ち、巻付グリップの上からさらにワイヤグリップで締結することは、巻付グリップが有している“優れた作業性”や、“締め直し作業が不要”といった利便性を減殺させてしまうものである。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、巻付グリップによる端部処理をしたワイヤロープであって、作用時間の短い衝撃引張力がかかった際においても締結効率の低下が抑止され、巻付グリップ利便性を損なわないワイヤロープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
巻付グリップによって端部処理されたワイヤロープであって、少なくとも前記巻付グリップによって巻付けられている範囲において、隣り合うストランド又は素線の間の空隙部分に配された、螺旋部材を備えることを特徴とするワイヤロープ。
【0007】
(構成2)
前記螺旋部材が、全ての隣り合う前記ストランド又は素線の間の空隙部分に配されていることを特徴とする構成1に記載のワイヤロープ。
【0008】
(構成3)
前記螺旋部材の一部が、外部に露出していることを特徴とする構成1又は2に記載のワイヤロープ。
【0009】
(構成4)
前記螺旋部材に、前記ストランド又は素線との間で前記螺旋部材を視覚的に識別させる識別加工が施されていることを特徴とする構成1から3の何れかに記載のワイヤロープ。
【0010】
(構成5)
前記ワイヤロープの断面視において前記ワイヤロープに外接する円に、前記螺旋部材が収まっていることを特徴とする構成1から4の何れかに記載のワイヤロープ。
【0011】
(構成6)
前記螺旋部材が、前記ストランド又は素線より柔らかい材料によって形成されており、前記ワイヤロープの断面視において前記ワイヤロープに外接する円に、前記螺旋部材が接触していることを特徴とする構成1から4の何れかに記載のワイヤロープ。
【0012】
(構成7)
前記ワイヤロープが3×7構造又は1×7構造であることを特徴とする構成1から6の何れかに記載のワイヤロープ。
【0013】
(構成8)
ワイヤロープの端部処理方法であって、少なくとも巻付グリップによって巻付けられる範囲において、隣り合うストランド又は素線の間の空隙部分に螺旋部材を配するステップと、前記螺旋部材が配されたワイヤロープに対して、前記巻付グリップを巻付けるステップと、を有することを特徴とするワイヤロープの端部処理方法。
【0014】
(構成9)
前記螺旋部材の一部を外部に露出させることを特徴とする構成8に記載のワイヤロープの端部処理方法。
【0015】
(構成10)
前記螺旋部材に、前記ストランド又は素線との間で前記螺旋部材を視覚的に識別させる識別加工を施すことを特徴とする構成8又は9に記載のワイヤロープの端部処理方法。
【0016】
(構成11)
構成1から7の何れかに記載のワイヤロープに使用する前記螺旋部材であって、前記ワイヤロープの撚りピッチと略同一のピッチの螺旋形状を有することを特徴とする螺旋部材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、作用時間の短い衝撃引張力がかかった際においても締結効率の低下が抑止され、巻付グリップの利便性を損なわないワイヤロープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係るワイヤロープ(巻付グリップ付き)を示す概略図
【
図2】実施形態のワイヤロープ(巻付グリップ付き)の概略断面図
【
図4】ワイヤロープに下巻ロッド(螺旋部材)を設けた状態を示す図
【
図5】ワイヤロープに下巻ロッド(螺旋部材)を設けた状態を示す概略断面図
【
図6】3×7構造のワイヤロープに巻付グリップを取付けた状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0020】
図1は本実施形態に係るワイヤロープ(巻付グリップ付き)を示す概略図であり、
図2は同ワイヤロープの巻付グリップがある箇所における概略断面図である。
巻付グリップ付きワイヤロープ100は、ワイヤロープ1に対して巻付グリップ3が巻きつけられたものであり、少なくとも巻付グリップ3によって巻付けられている範囲において、ワイヤロープ1の隣り合うストランドの間の空隙部分に配された下巻ロッド(螺旋部材)2を備えている。
【0021】
ワイヤロープ1は、
図2に示されるように、7本の素線によって形成されたストランド11を使用し、3本のストランド11が撚られた構成である3×7構造である。
巻付グリップ3は、U字状に折り曲げられてその両端部がらせん状に形成された鋼線によって形成されており、両端部のらせん状部分を、ワイヤロープに巻付けて使用するものである。ワイヤロープ1自体、及び、巻付グリップ3自体は公知の構成であるため、ここでのこれ以上の説明を省略する。
【0022】
図3は、下巻ロッド2を示す概略図である。
下巻ロッド2は、
図3に示されるように、螺旋状の部材であり、本実施形態では、ストランド11を構成する素線と同種の材料を用いて形成されている。JIS G 3548「亜鉛めっき鋼線」若しくはJIS G 3522 「ピアノ線」又はこれらと同等以上の線材である。
【0023】
巻付グリップ付きワイヤロープ100は、前述のごとく、巻付グリップ3によって巻付けられている範囲において、ワイヤロープ1の隣り合うストランド11の間の空隙部分に下巻ロッド2が配されている。本実施形態では、全ての隣り合うストランド11の間の空隙部分に下巻ロッド2が配されている。本実施形態のワイヤロープ1は3×7構造であり、3本のストランド11を有するため、これらの間に配される下巻ロッド2も3本である。
図4は、ワイヤロープ1に下巻ロッド(螺旋部材)を設けた状態を示す図である。
図4に示されるように、下巻ロッド2は、ワイヤロープ1の隣り合うストランド11の間の空隙部分に沿って、螺旋状に配置される。即ち、下巻ロッド2は、ワイヤロープ1の撚りピッチと略同一のピッチの螺旋形状を有しているものである。
【0024】
下巻ロッド2は、
図5に示されるように、ワイヤロープ1の断面視においてワイヤロープ1に外接する円Cに、下巻ロッド2が収まる太さにて形成される。“ワイヤロープ1の断面視においてワイヤロープ1に外接する円Cに下巻ロッド2が収まる”とは、円Cから下巻ロッド2が飛び出さないことを指し、円Cに下巻ロッド2が接しているものも含む概念である。
本実施形態のごとく、下巻ロッド2がストランドと同種の材料(亜鉛めっき鋼線等)で形成されている場合、ワイヤロープ1の断面視においてワイヤロープ1の外接円Cに、下巻ロッド2が収まる太さであることにより、巻付グリップ3を巻付ける作業の作業性に優れるものである。
なお、下巻ロッドがストランドと同種の材料で形成される場合においても、ワイヤロープの断面視においてワイヤロープに外接する円Cに、下巻ロッドが接触する(少し飛び出す)ような太さとしてもよい。締結力の増加という面では、下巻ロッドが外接円Cにちょうど接するか、僅かに飛び出すぐらいが好ましい。あまり太い下巻ロッドを用いると、巻付グリップの巻付け作業の効率が悪くなるが、作業効率として許容範囲であれば
図7(a)に示されるように、ワイヤロープの外接円Cの外側にふくらむような太さの下巻ロッドを用いてもよい。また、例えば、巻付グリップの内径がワイヤロープの外径に対して若干大きいような場合には、ワイヤロープの外接円Cの外側にふくらむような太さの下巻ロッドを用いると好適である。
【0025】
また、下巻ロッド2は、巻付グリップ3がワイヤロープ1に巻付く部分よりも長い長さを有している。これにより、下巻ロッド(螺旋部材)2の一部が外部に露出する。
図4におけるHの範囲が、巻付グリップ3がワイヤロープ1に巻付く部分であり、下巻ロッド2はこれより長い長さを有している。これにより、下巻ロッド2の両端部(EX1、EX2の部分)が外部に露出して、外部から視認できる構成となる。
本実施形態の下巻ロッド2は、少なくとも両端部のEX1、EX2の部分において赤色に着色されており、これにより、一目で下巻ロッド2の有無を認識できるようにされている。
【0026】
次に、巻付グリップ付きワイヤロープ100の形成方法、即ち、ワイヤロープ1の端部処理方法について説明する。
先ず、ワイヤロープ1を施工箇所で必要な長さに合わせてカットする。
次に、ワイヤロープ1の両端部にそれぞれ下巻ロッド2を配置する。なお、下巻ロッド2の長さを調節する必要があれば、長さの調節(カット等)をした上で配置する。前述のごとく下巻ロッド2はワイヤロープ1と略同一のピッチのらせん形状を有しているため、下巻ロッド2の先端位置を決めた後は、これをワイヤロープ1の周りにくるくると回すようにすることで、手で簡単に取り付けることができる。
図4に示されるように、ワイヤロープ1の端部(
図4では左端)に下巻ロッド2の端部を合わせて取り付けを行う。同じ作業を3回行うことで、3本の下巻ロッド2が、ワイヤロープ1の隣り合うストランド11の間の空隙部分に沿って、螺旋状に配置される。なお、下巻ロッド2の両端のEX1、EX2の部分を、予め赤く着色しておく(下巻ロッド(螺旋部材)2に、ストランド11との間で下巻ロッド2を視覚的に識別させる識別加工を施す)。
最後に、下巻ロッド2が配されたワイヤロープ1に対して、巻付グリップ3を巻付ける。前述のごとく、ワイヤロープ1の端部に下巻ロッド2の端部が合わせてあるため、先端側のEX1(
図4)の部分が外部に露出することになる。また、同じく
図4に示されるように、巻付グリップ3をHの範囲で巻きつけることにより、下巻ロッド2の他端側のEX2の部分も外部に露出することになる。なお、巻付グリップ3の巻付け作業は、従来通りの作業であるため、ここでの具体的な説明を省略する。
【0027】
なお、ワイヤロープ1の端部処理は、基本的には施工現場で行われるものであるが、巻付グリップ付きワイヤロープ100としての長さが予め決まっているような場合には、巻付グリップ付きワイヤロープ100が工場等において製造されるものであってもよい。
【0028】
本実施形態の巻付グリップ付きワイヤロープ100によれば、作用時間の短い衝撃引張力がかかった際における締結効率の低下を抑止することができる。
複数のストランドを撚ったものであるワイヤロープは、その構造上、ストランドとストランドの間に隙間ができてしまい、この外側に設けられる巻付グリップとの接触面積が低下する傾向となる。この傾向は特に3×7構造のワイヤロープにおいて顕著となる。即ち、
図6(a)からも理解されるように、ワイヤロープの断面視の構造が三角形に近い形状となり、巻付グリップとの接触面積が少ない。巻付グリップは、引張荷重がかかるとワイヤロープを締め付けるため、接触面積の増加が期待できる。即ち、
図6(a)で示した一点鎖線T(隣り合うストランドの双方に接する直線)に近い形状まで変形して接触面積が増加することが期待される。しかしながら、当該接触箇所におけるストランドに対する巻付グリップの垂直抗力Nはほとんど得られない。従って、接触面積の増加による摩擦の増加(≒締結力の増加)はあまり望めない。
これに対し、本実施形態の巻付グリップ付きワイヤロープ100では、
図6(b)からも理解されるように、下巻ロッド2が隣り合うストランドの双方に接する直線Tよりも飛び出た構造であるため、下巻ロッド2に対する巻付グリップの垂直抗力Nが得られる。従って、下巻ロッド2が配されることによる接触面積の増加によって、摩擦の増加(≒締結力の増加)が得られるものである。
作用時間の短い衝撃引張力がかかった際における締結効率を検証するために行った実験によれば、下巻ロッド2を設けない場合に比べ、下巻ロッド2を設けた場合において、締結効率が向上したことが確認された。同実験は、供試体として、下巻ロッドを設けた巻付グリップ付きワイヤロープと、下巻ロッドを設けない巻付グリップ付きワイヤロープを用意し、当該供試体に対する落下衝撃試験(供試体の一端を櫓に固定し、他端に重錘を取付けて、重錘を落下させる試験)として行った。下巻ロッドを設けない供試体では、巻付グリップが抜けてしまう条件においても、下巻ロッドを設けた供試体では、巻付グリップの抜けは無く、目標値である締結効率95%以上を得られることが確認できた。
【0029】
以上のごとく、本実施形態の巻付グリップ付きワイヤロープ100によれば、作用時間の短い衝撃引張力がかかった際においても締結効率の低下が抑止される。尚且つ、下巻ロッド2は、巻付グリップ3と同様に手で簡単に巻付けることができるため、作業性に優れている。本実施形態の巻付グリップ付きワイヤロープ100によれば、巻付グリップが有している“優れた作業性”や、“締め直し作業が不要”といった利便性を損なわずに、締結効率を向上することができるものである。
また、本実施形態の巻付グリップ付きワイヤロープ100によれば、下巻ロッド2の端部(EX1、EX2)を外部に露出させる構成としているため、下巻ロッド2の取付の有無を外部から視認することができる。さらに、このEX1、EX2の部分を赤色に着色しているため、一瞥にて下巻ロッド2の取付の有無(施工忘れなどの確認)をすることができる。なお、本実施形態では、EX1、EX2の部分を赤色に着色するものを例としたが、ストランドとの間で下巻ロッド2目立たせる(視覚的に識別させる)ものであればよい(例えばテープの貼付等)。なお、下巻ロッド2の両端部を露出させるものを例としているが、一方のみを露出させるものであってもよい。先端側(アイの部分)は他の構造物に締結される箇所であり、隠れやすい(視認し難くなる)傾向となるため、どちらかと言えば、先端側ではなく、他端側において露出させるとよい。
【0030】
本実施形態では、全ての隣り合うストランド11の間の空隙部分に下巻ロッド2を配するものを例としたが、一部の隣り合うストランド11の間の空隙部分にのみ下巻ロッド2を設けるものであっても、締結効率の向上効果を得ることができる。
また、螺旋部材として、素線で形成される下巻ロッド2を用いるものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、例えばストランドやロープを螺旋部材として用いても良い。
また、摩擦抵抗の増加を目的として、螺旋部材の表面に研削材(巻付グリップの内面に塗布されているものと同様のもの)を塗布してもよい。
【0031】
本実施形態では、螺旋部材(下巻ロッド2)がストランドと同種の材料で形成されているものを例としているが、これに限定されるものでは無く、螺旋部材は各種の材料にて形成することができる。例えばエラストマー性を有する材料によって形成してもよい。
図7には、ゴム等のエラストマー性を有する材料(ストランドより柔らかい材料)によって螺旋部材(下巻ロッド2´)を形成した例を示した。
図7の巻付グリップ付きワイヤロープ100´では、
図7(a)に示されるように、ワイヤロープの断面視においてワイヤロープに外接する円Cに、螺旋部材(下巻ロッド2´)が接触しているものを例としている。これに対して、巻付グリップ3を巻付けて締め付けると、
図7(b)に示されるように、螺旋部材(下巻ロッド2´)が変形し、ストランド11や巻付グリップ3とそれぞれより広い面積で密着するようになる。これにより、締結効率を向上することができる。なお、“ワイヤロープの断面視において前記ストランドに外接する円に、前記螺旋部材が接触している”とは、
図7(a)に示されるように、円Cから螺旋部材(下巻ロッド2´)が飛び出しているものの他、円Cに螺旋部材(下巻ロッド2´)が接しているものも含む概念である。
【0032】
本実施形態では、3×7構造のワイヤロープに適用するものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、他の構造のワイヤロープに対しても、下巻ロッド(螺旋部材)を適用することができる。
例えば、1×7構造等の素線を撚ったワイヤロープに対しても適用することができる。概念的には、上記の説明において、“ストランド”と記載されている箇所を“素線”にて読み替えればよいものである。
【符号の説明】
【0033】
100...巻付グリップ付きワイヤロープ
1...ワイヤロープ
11...ストランド
2...下巻ロッド(螺旋部材)
3...巻付グリップ