(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】梁の耐火構造とその施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
E04B1/94 F
(21)【出願番号】P 2019118924
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】内田 昌輝
(72)【発明者】
【氏名】藤井 良清
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-090236(JP,A)
【文献】実開平03-080810(JP,U)
【文献】特開平04-020633(JP,A)
【文献】特開2017-066679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 - 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の外壁パネルにより構成される外壁の室内側において、該外壁との間に隙間を置いて該外壁の幅方向に延設する梁が設けられており、
前記梁は階間に位置しており、
前記梁には、前記幅方向に所定の間隔を置いて屋外側に張り出す複数のガセットプレートが取り付けられており、
前記幅方向に対向する前記ガセットプレートの広幅面には、被係合金具が取り付けられ、前記ガセットプレートの上端と下端にはそれぞれ、上方固定金具と下方固定金具が取り付けられており、
前記上方固定金具に上階の外壁パネルが固定され、前記下方固定金具に下階の外壁パネルが固定されており、
耐火ボードに取り付けられている係合金具が前記被係合金具に係合されて、前記梁の屋外側の側方に該耐火ボードが配設されていることを特徴とする、梁の耐火構造。
【請求項2】
前記ガセットプレートの前記広幅面の上下にそれぞれ上方張り出し金具と下方張り出し金具が取り付けられ、該上方張り出し金具に上ナットが取り付けられ、該下方張り出し金具に下ナットが取り付けられており、
前記上方固定金具と前記下方固定金具がいずれもボルト孔を有し、
前記上ナットに対して前記上方固定金具の前記ボルト孔が位置決めされ、ボルトが挿通されてボルト接合されることにより前記上階の外壁パネルが固定され、
前記下ナットに対して前記下方固定金具の前記ボルト孔が位置決めされ、ボルトが挿通されてボルト接合されることにより前記下階の外壁パネルが固定されていることを特徴とする、請求項
1に記載の梁の耐火構造。
【請求項3】
前記梁は上方のフランジと下方のフランジをウエブが繋ぐH形鋼により形成され、
前記耐火ボードは、前記上方のフランジから前記下方のフランジに跨り、双方の該フランジの屋外側の小口面を包囲していることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の梁の耐火構造。
【請求項4】
複数の外壁パネルにより構成される外壁の室内側において、該外壁との間に隙間を置いて該外壁の幅方向に延設する梁が設けられており、
前記梁の屋外側には、被係合金具が該梁に対して直接的もしくは間接的に取り付けられており、
耐火ボードに取り付けられている係合金具が前記被係合金具に係合されて、前記梁の屋外側の側方に該耐火ボードが配設されており、
前記外壁パネルは、外装材と、該外装材の室内側に配設されているパネルフレームと、該パネルフレームの内部に配設されている断熱材と、を少なくとも備え、
前記断熱材の内部に壁内耐火ボードが配設されて前記梁に臨んでいることを特徴とす
る、梁の耐火構造。
【請求項5】
前記梁の室内側の周囲に耐火被覆材が取り付けられていることを特徴とする、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の梁の耐火構造。
【請求項6】
複数の外壁パネルにより構成される外壁の室内側において、該外壁との間に隙間を置いて該外壁の幅方向に延設する梁が設けられており、
前記梁の屋外側には、被係合金具が該梁に対して直接的もしくは間接的に取り付けられており、
耐火ボードに取り付けられている係合金具が前記被係合金具に係合されて、前記梁の屋外側の側方に該耐火ボードが配設されており、
前記梁の上面において室内側に延設するALC床パネルが載置され、前記外壁パネルと該ALC床パネルの間の隙間に閉塞材が配設されていることを特徴とす
る、梁の耐火構造。
【請求項7】
梁の屋外側には、被係合金具が該梁に対して直接的もしくは間接的に取り付けられており、該梁の屋外側に、該梁との間に隙間を置いて複数の外壁パネルにより構成される外壁を施工する外壁施工工程と、
係合金具が取り付けられている耐火ボードを、前記梁の上方もしくは下方から前記隙間に挿通し、前記被係合金具に対して前記係合金具を係合することにより、前記梁の屋外側の側方に該耐火ボードを取り付ける耐火ボード設置工程と、を有することを特徴とする、梁の耐火構造の施工方法。
【請求項8】
梁の屋外側において、該梁に対して直接的もしくは間接的に取り付けられている被係合金具に、耐火ボードに取り付けられている係合金具を係合することにより、前記梁の屋外側の側方に該耐火ボードを取り付ける耐火ボード設置工程と、
前記梁と前記耐火ボードから隙間を置いて、複数の外壁パネルにより構成される外壁を施工する外壁施工工程と、を有することを特徴とする、梁の耐火構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁の耐火構造とその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の階間には、外壁の室内側において、H形鋼等の形鋼材により形成される梁が外壁の幅方向に延設するようにして設けられており、この梁に対して外壁を形成する外壁パネルが取り付けられている。
【0003】
上記する外壁の室内側に配設される形鋼材からなる梁には、様々な耐火対策が講じられている。例えば、梁の周囲を包囲するようにして耐火板を配設する対策や、H形鋼からなる梁の上下のフランジとウエブにて形成される空間に耐火性能を有する平面視矩形状の耐火板を嵌合させる対策などがその一例として挙げられる。
【0004】
しかしながら、梁の周囲を包囲するようにして耐火板を配設する対策では、梁の周囲に耐火板を配設することから施工に手間がかかる。特に、上記するように外壁が側方に配設されている梁が耐火対策の対象となる場合には、梁と外壁の間の隙間が狭小であることから施工性が悪く、施工手間がかかることは一層顕著となる。
【0005】
一方、H形鋼の上下のフランジとウエブにて形成される空間に耐火性能を有する平面視矩形状の耐火板を嵌合させる対策によれば、当該空間を閉塞するようにして耐火板を嵌め込むのみであることから、施工効率は良好になり得る。しかしながら、例えばH形鋼のフランジの屋外側端部(小口面)を覆うことができず、露出した小口面が耐火性能の低下に繋がる。
【0006】
そこで、形鋼材により形成される梁に対して簡易に着脱可能であるとともに、耐火性能を向上させることができる耐火部材とこの耐火部材を備えた梁が提案されている。具体的には、H形鋼からなる梁に取り付けられる耐火部材であり、この耐火部材は、上下のフランジとウエブとにより形成される空間である梁空間に挿入される梁挿入部と、耐火性能を有する素材で形成されるとともに、梁挿入部と一体的に形成される被覆部とを備える。被覆部の端部は、上下のフランジ間に亘る方向において、梁挿入部よりも突出するように延設され、被覆部は、梁挿入部が梁空間に挿入された状態において、フランジの小口面を被覆する位置に形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の耐火部材によれば、梁の上下のフランジ間に形成される空間と梁のフランジの小口面とを同時に耐火被覆できることから、梁の耐火性能を向上させることができる。ところで、特許文献1に記載の耐火部材は、梁の側方から上下のフランジ間に形成される空間を塞ぐように嵌め込まれることから、梁の側方に外壁が施工されていない場合は効率的に取り付けを行うことができる。一方、梁の側方に外壁が施工されている場合は、外壁と梁の間の空間が一般に狭小であることから、梁の側方から耐火部材を取り付ける際に施工手間がかかり得る。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、耐火ボード(耐火部材)の設置に先行して梁の側方に外壁が施工される場合と、外壁の施工に先行して耐火ボードが設置される場合のいずれにおいても、梁に対して耐火ボードを効率的に取り付けることを可能にして、耐火性能に優れた梁の耐火構造とその施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による梁の耐火構造の一態様は、
複数の外壁パネルにより構成される外壁の室内側において、該外壁との間に隙間を置いて該外壁の幅方向に延設する梁が設けられており、
前記梁の屋外側には、被係合金具が該梁に対して直接的もしくは間接的に取り付けられており、
耐火ボードに取り付けられている係合金具が前記被係合金具に係合されて、前記梁の屋外側の側方に該耐火ボードが配設されていることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、梁の屋外側において、梁に直接的もしくは間接的に取り付けられている被係合金具に対して、耐火ボードに取り付けられている係合金具が係合され、梁の屋外側の側方に耐火ボードが配設されている構成を有することにより、梁と外壁の間の隙間が狭い場合であっても、被係合金具に対して係合金具を上下方向に係合させる(引っ掛ける)ことができる。そのため、梁の側方に外壁が施工されている場合と外壁が施工されていない場合のいずれにおいても、梁に対する耐火ボードの効率的な取り付けを可能とする梁の耐火構造を提供できる。ここで、「被係合金具が梁に対して直接的もしくは間接的に取り付けられ」とは、被係合金具が梁に対して溶接等により直接取り付けられている形態と、梁に鋼材等が溶接等により接合され、鋼材等に被係合金具が溶接等により接合されることにより、被係合金具が梁に対して間接的に取り付けられる形態を含む意味である。
【0012】
また、本発明による梁の耐火構造の他の態様において、前記梁は階間に位置しており、
前記梁には、前記幅方向に所定の間隔を置いて屋外側に張り出す複数のガセットプレートが取り付けられており、
前記幅方向に対向する前記ガセットプレートの広幅面には、前記被係合金具が取り付けられ、前記ガセットプレートの上端と下端にはそれぞれ、上方固定金具と下方固定金具が取り付けられており、
前記上方固定金具に上階の外壁パネルが固定され、前記下方固定金具に下階の外壁パネルが固定されていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、梁に対して外壁の幅方向に複数のガセットプレートが取り付けられ、各ガセットプレートに被係合金具が取り付けられ、各ガセットプレートの上端と下端に上方固定金具と下方固定金具が取り付けられ、これらに上階の外壁パネルと下階の外壁パネルが固定されることにより、耐火性能に優れ、梁に対して外壁パネルが強固に固定された梁の耐火構造を提供できる。ここで、ガセットプレートの二つの広幅面に被係合金具が取り付けられ、二つのガセットプレートに跨る長さを有する耐火ボードの両端に係合金具が取り付けられていることから、両側に位置する二つのガセットプレートに対して耐火ボードを係合させることにより、二つのガセットプレートを介して耐火ボードを梁に対して安定的に取り付けることができる。
【0014】
また、本発明による梁の耐火構造の他の態様は、前記ガセットプレートの前記広幅面の上下にそれぞれ上方張り出し金具と下方張り出し金具が取り付けられ、該上方張り出し金具に上ナットが取り付けられ、該下方張り出し金具に下ナットが取り付けられており、
前記上方固定金具と前記下方固定金具がいずれもボルト孔を有し、
前記上ナットに対して前記上方固定金具の前記ボルト孔が位置決めされ、ボルトが挿通されてボルト接合されることにより前記上階の外壁パネルが固定され、
前記下ナットに対して前記下方固定金具の前記ボルト孔が位置決めされ、ボルトが挿通されてボルト接合されることにより前記下階の外壁パネルが固定されていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、上ナットを有する上方張り出し金具と下ナットを有する下方張り出し金具がガセットプレートに取り付けられ、上ナットと下ナットに対してそれぞれ上方固定金具と下方固定金具がボルト接合されることにより、梁に対して効率的に外壁パネルを取り付けることができ、梁に対して外壁パネルが強固に固定された梁の耐火構造を提供できる。上方固定金具と下方固定金具は例えば山形鋼等の形鋼材により形成され、梁の長手方向に延設する長尺の上方固定金具と下方固定金具を適用することにより、これらに複数の外壁パネルを効率的に取り付けることができる。
【0016】
また、本発明による梁の耐火構造の他の態様において、前記梁は上方のフランジと下方のフランジをウエブが繋ぐH形鋼により形成され、
前記耐火ボードは、前記上方のフランジから前記下方のフランジに跨り、双方の該フランジの屋外側の小口面を包囲していることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、梁に係合される耐火ボードがH形鋼により形成される梁の上下のフランジの屋外側の小口面を覆うことにより、耐火性能に優れた梁の耐火構造を形成することができる。
【0018】
また、本発明による梁の耐火構造の他の態様において、前記外壁パネルは、外装材と、該外装材の室内側に配設されているパネルフレームと、該パネルフレームの内部に配設されている断熱材と、を少なくとも備え、
前記断熱材の内部に壁内耐火ボードが配設されて前記梁に臨んでいることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、外壁パネルが梁に臨んでいる壁内耐火ボードを有することから、隙間を挟んで、梁の側方に配設されている耐火ボードと外壁パネル内にある壁内耐火ボードが対向して配設されることにより、より一層耐火性能に優れた梁の耐火構造を形成することができる。
【0020】
また、本発明による梁の耐火構造の他の態様において、前記梁の室内側の周囲に耐火被覆材が取り付けられていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、梁の屋外側に耐火ボードが取り付けられ、梁の室内側に耐火被覆材が取り付けられていることから、梁が耐火ボードと耐火被覆材により包囲されることにより、より一層耐火性能に優れた梁の耐火構造を形成することができる。
【0022】
また、本発明による梁の耐火構造の他の態様は、前記梁の上面において室内側に延設するALC床パネルが載置され、前記外壁パネルと該ALC床パネルの間の隙間に閉塞材が配設されていることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、梁の上に上階のALC(軽量気泡コンクリート、Autoclaved Light weight Concrete)床パネルが配設されていることから、梁が耐火ボードと耐火被覆材とALC床パネルにて完全に包囲されることにより、より一層耐火性能に優れた梁の耐火構造を形成することができる。また、外壁パネルとALC床パネルの間の隙間を閉塞材が埋めることにより、より一層耐火性能に優れた梁の耐火構造を形成できる。
【0024】
また、本発明による梁の耐火構造の施工方法の一態様は、
梁の屋外側には、被係合金具が該梁に対して直接的もしくは間接的に取り付けられており、該梁の屋外側に、該梁との間に隙間を置いて複数の外壁パネルにより構成される外壁を施工する外壁施工工程と、
係合金具が取り付けられている耐火ボードを、前記梁の上方もしくは下方から前記隙間に挿通し、前記被係合金具に対して前記係合金具を係合することにより、前記梁の屋外側の側方に該耐火ボードを取り付ける耐火ボード設置工程と、を有することを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、耐火ボードの設置に先行して、外壁施工工程にて梁の屋外側に外壁が施工された後に耐火ボード設置工程にて梁と外壁の間の隙間に耐火ボードを設置する施工方法であっても、耐火ボードの有する係合金具を梁の有する被係合金具に係合させながら(引っ掛けながら)梁に耐火ボードを取り付けることにより、梁に対して耐火ボードを効率的に取り付けることができる。尚、梁が階間にある場合であって、外壁が下階の外壁と上階の外壁により形成される場合において、外壁施工工程は、下階の外壁と上階の外壁の双方を施工することと、下階の外壁と上階の外壁のそれぞれを施工することを含んでいる。後者の場合、下階の外壁を先行して施工する外壁施工工程、耐火ボード設置工程、上階の外壁を施工する外壁施工工程がシーケンシャルに実行される。
【0026】
また、本発明による梁の耐火構造の施工方法の他の態様は、
梁の屋外側において、該梁に対して直接的もしくは間接的に取り付けられている被係合金具に、耐火ボードに取り付けられている係合金具を係合することにより、前記梁の屋外側の側方に該耐火ボードを取り付ける耐火ボード設置工程と、
前記梁と前記耐火ボードから隙間を置いて、複数の外壁パネルにより構成される外壁を施工する外壁施工工程と、を有することを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、外壁施工工程に先行して耐火ボード設置工程を行う施工方法により、梁の屋外側に外壁が施工されていない状態、すなわち、梁の屋外側に比較的広い施工スペースが確保された状態で耐火ボードを取り付けることができるため、梁に対して耐火ボードをより一層効率的に取り付けることができる。
【発明の効果】
【0028】
以上の説明から理解できるように、本発明の梁の耐火構造とその施工方法によれば、耐火ボードの設置に先行して梁の側方に外壁が施工される場合と、外壁の施工に先行して耐火ボードが設置される場合のいずれにおいても、梁に対して耐火ボードを効率的に取り付けることを可能にして、耐火性能に優れた梁の耐火構造とその施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施形態に係る梁の耐火構造を形成する梁と、梁に取り付けられているガセットプレートを示す図であって、梁の長手方向に直交する縦断面図である。
【
図2】
図1のII-II矢視図であって、被係合金具の背面から見た梁の側面図である。
【
図3】
図1のIII-III矢視図であって、上方張り出し金具と下方張り出し金具の背面から見た梁の側面図である。
【
図4】(a)は、耐火ボードを係合金具が取り付けられている広幅面から見た側面図であり、(b)は、(a)のb方向矢視図である。
【
図5】実施形態に係る梁の耐火構造の一例を示す縦断面図である。
【
図6】実施形態に係る梁の耐火構造の施工方法の一例を示す工程図である。
【
図7】
図6に続いて、梁の耐火構造の施工方法の一例を示す工程図である。
【
図8】
図7に続いて、梁の耐火構造の施工方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施形態に係る梁の耐火構造とその施工方法の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0031】
[実施形態に係る梁の耐火構造]
はじめに、
図1乃至
図5を参照して、実施形態に係る梁の耐火構造の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る梁の耐火構造を形成する梁と、梁に取り付けられているガセットプレートを示す図であって、梁の長手方向に直交する縦断面図である。また、
図2は、
図1のII-II矢視図であって、被係合金具の背面から見た梁の側面図であり、
図3は、
図1のIII-III矢視図であって、上方張り出し金具と下方張り出し金具の背面から見た梁の側面図である。また、
図4(a)は、耐火ボードを係合金具が取り付けられている広幅面から見た側面図であり、
図4(b)は、
図4(a)のb方向矢視図である。さらに、
図5は、実施形態に係る梁の耐火構造の一例を示す縦断面図である。尚、図示例は、梁を形成するH形鋼にガセットプレートが取り付けられ、ガセットプレートに取り付けられている被係合金具に対して耐火ボードに取り付けられている係合金具が係合する例を示しているが、H形鋼に直接溶接等にて取付けられている被係合金具に対して耐火ボードが係合する形態等、他の形態であってもよい。
【0032】
図1に示す梁10は、一階と二階の間、二階と三階の間等の階間において、外壁の側方に配設される梁であり、上方のフランジ11と下方のフランジ12、及びこれらを繋ぐウエブ13を有するH形鋼により形成される。
【0033】
梁10のうち、上方のフランジ11と下方のフランジ12、及びウエブ13にて形成される屋外側の空間にはガセットプレート20が取り付けられており、
図2に示すように、外壁の幅方向であり、かつ梁10の長手方向であるL方向において、
図4に示す外壁パネル30の幅に相当する間隔tを置いて複数のガセットプレート20が取り付けられている。例えば、この間隔tは、外壁パネル30の幅が1P(1Pは800mm乃至1000mm程度で、例えば910mm)の場合に、1Pもしくは2Pに設定できる。
【0034】
図1に示すように、ガセットプレート20は、上方のフランジ11と下方のフランジ12、及びウエブ13にて形成される空間に収容されてこれらに溶接接合される接合プレート21と、接合プレート21の上方に連続して屋外側に張り出す張り出しプレート22とを有し、平鋼板により形成されている。
【0035】
図1及び
図2に示すように、ガセットプレート20の左右の広幅面のうち、接合プレート21における張り出しプレート22との取り合い近傍には、山形鋼により形成される二つの被係合金具24が溶接により接合されている。
【0036】
また、
図1及び
図3に示すように、ガセットプレート20の左右の広幅面のうち、張り出しプレート22の上端には、山形鋼により形成される二つの上方張り出し金具25が、その広幅面を上下に向けた姿勢で溶接により接合されている。上方張り出し金具25にはボルト孔25aが開設されており、上方張り出し金具25の下面において、ボルト孔25aに対応する位置には上ナット26が溶接により接合されている。
【0037】
同様に、
図1及び
図3に示すように、ガセットプレート20の左右の広幅面のうち、張り出しプレート22の下端には、山形鋼により形成される二つの下方張り出し金具27が、その広幅面を上下に向けた姿勢で溶接により接合されている。下方張り出し金具27にはボルト孔27aが開設されており、下方張り出し金具27の上面において、ボルト孔27aに対応する位置には下ナット28が溶接により接合されている。
【0038】
図4(a)、(b)に示すように、耐火ボード30は、平面視矩形(例えば、903×400×21mm(厚み))のロックウールボードや石膏ボード等により形成されるが、中でも、石膏の芯にガラス繊維を加えて耐火性能が強化された強化石膏ボードが好適である。
【0039】
耐火ボード30の室内側の広幅面31のうち、左右の狭幅端面32の近傍には、二つの係合金具35がビス40等の固定手段により固定されている。係合金具35は平鋼材を曲げ加工することにより形成され、ビス40が打ち込まれる固定片35aと、固定片35aの端辺から屈曲して室内側に回り込む回り込み片35bと、回り込み片35bの端辺から屈曲して被係合金具24に直接係合する係合片35cとを有する。
【0040】
また、耐火ボード30の屋外側の広幅面31の下端のうち、左右の狭幅端面32の近傍には、二つの把持金具38がビス40等の固定手段により固定されている。尚、把持金具38は、耐火ボード30の屋外側の広幅面において、作業員が耐火ボード30を把持してハンドリングし易い適宜の位置に設けられてよい。
【0041】
図5は、梁10が外壁70の室内側の側方に位置し、梁10に取付けられているガセットプレート20の有する被係合金具24に対して、耐火ボード30の有する係合金具35が係合することにより形成される、梁の耐火構造100を示している。
【0042】
梁10と外壁70の間には狭い隙間Gがあり、梁10の屋外側の側方(隙間Gの内部)には、被係合金具24に対して係合金具35が係合することにより耐火ボード30が取付けられている。より具体的には、耐火ボード30は、梁10の側方であって、上方のフランジ11の屋外側の小口面から下方のフランジ12の屋外側の小口面に亘って延設し、これら上下の小口面を完全に塞ぐようにして取り付けられている。
【0043】
梁10は階間に配設されており、隙間Gを挟んで梁10の屋外側にある外壁70は、下階の外壁70Bと上階の外壁70Aにより形成されており、各外壁70A、70Bはいずれも、複数の外壁パネルにより形成されている。
【0044】
外壁パネル70は、屋外側から順に、外装材71と、下張材72と、パネルフレーム73が積層して構成されており、パネルフレーム73の内部には断熱材74が充填されている。
【0045】
外装材71は、例えば窯業系もしくは金属系のサイディングボードにより形成される。また、下張材72は、グラスウールボード等により形成される。そして、外装材71と下張材72の間には硬質木片セメント板等により形成される外装下地材(図示せず)が介在し、外装下地材により外装材71と下張材72の間に通気層75が形成されている。パネルフレーム73は、軽鉄の溝形鋼を枠状に組み付けることにより形成されている。さらに、断熱材74は、グラスウールやロックウール等により形成されている。尚、図示を省略するが、外壁パネル70の室内側には、防湿シートと石膏ボード等により形成される内装材が取り付けられる。
【0046】
また、上階の外壁パネル70Aの断熱材74の内部において、耐火ボード30に対向する位置には、ロックウールボードや石膏ボード等により形成される壁内耐火ボード78が配設されて梁10に臨んでいる。ここで、梁10周りの耐火性能の観点から、耐火ボード30と壁内耐火ボード78がいずれも強化石膏ボードにて形成されるのが好ましい。尚、図示例は、上階の外壁パネル70Aの断熱材74の内部にのみ壁内耐火ボード78が埋設されているが、これに加えて、下階の外壁パネル70Bの断熱材74の内部にも壁内耐火ボードが埋設されている形態であってもよい。
【0047】
図3に示す複数のガセットプレート20の上端に取り付けられている上方張り出し金具25の上面には、梁の長手方向に延設して山形鋼により形成される上方固定金具50が載置され、この載置された状態の上方固定金具50において、それぞれの上方張り出し金具25の有するボルト孔25aに対応する位置にはボルト孔51が開設されている。対応する上ナット26とボルト孔25a,51にボルト60(両切ボルト)が螺合されることにより、複数のガセットプレート20の上端に亘り上方固定金具50がボルト接合される。
【0048】
同様に、
図3に示す複数のガセットプレート20の下端に取り付けられている下方張り出し金具27の下面には、梁の長手方向に延設して山形鋼により形成される下方固定金具55が当接され、この当接された状態の下方固定金具55において、それぞれの下方張り出し金具27の有するボルト孔27aに対応する位置にはボルト孔56が開設されている。対応する下ナット28とボルト孔27a,56にボルト60(両切ボルト)が螺合されることにより、複数のガセットプレート20の下端に亘り下方固定金具55がボルト接合される。
【0049】
上方張り出し金具25の上面にボルト接合されている山形鋼からなる上方固定金具50のうち、上方に立ち上がるフランジには上方固定金具50の長手方向に所定の間隔を置いてボルト孔52が開設されている。一方、上階の外壁パネル70Aを構成するパネルフレーム73にも、外壁パネル70Aの幅方向に間隔を置いてボルト孔73aが開設されており、対応する双方のボルト孔52,73aにボルト65(フックボルト)が螺合されることにより、上方固定金具50に対して上階の外壁パネル70Aがボルト接合される。
【0050】
同様に、下方張り出し金具27の下面にボルト接合されている山形鋼からなる下方固定金具55のうち、下方に下がるフランジには下方固定金具55の長手方向に所定の間隔を置いてボルト孔57が開設されている。一方、下階の外壁パネル70Bを構成するパネルフレーム73にも、外壁パネル70Bの幅方向に間隔を置いてボルト孔73aが開設されており、対応する双方のボルト孔57,73aにボルト65(フックボルト)が螺合されることにより、下方固定金具55に対して下階の外壁パネル70Bがボルト接合される。
【0051】
上方固定金具50と下方固定金具55のそれぞれにボルト接合された、上階の外壁パネル70Aと下階の外壁パネル70Bの界面には横目地が形成され、この横目地に、乾式や湿式のシール材76が配設されることにより、階間における上階の外壁パネル70Aと下階の外壁パネル70Bが施工される。
【0052】
梁10のうち、上方のフランジ11の室内側の小口面や下方のフランジ12の下面には、複数の溶接ピン85が接合されている。そして、梁10の上方のフランジ11の室内側の小口面から下方のフランジ12の室内側の小口面に亘り、さらに下方のフランジ12の下面に亘るように耐火被覆材80が配設され、複数の溶接ピン85に固定される。図示例では、下階の外壁パネル70Bの側面まで耐火被覆材80が延びており、耐火被覆材80の端部は壁パネル70Bの側面にビス40により固定されている。ここで、耐火被覆材80は、例えばフェルト状に成形された耐熱ロックウールと、難燃性不織布の積層体により形成される。
【0053】
梁10を形成する上方のフランジ11の上面には、室内側に延設するALC床パネル90が載置され、外壁パネル70とALC床パネル90の間の隙間には閉塞材95が配設されている。
【0054】
ここで、閉塞材95としては、ロックウールやグラスウールが適用される。これらの素材は繊維系断熱材であり、断熱性能や遮熱性能を有することから、外壁パネル70とALC床パネル90の間の隙間を完全に閉塞して梁の耐火構造100の耐火性能の向上に寄与する。さらに、例えばグラスウール断熱材に入射した音のエネルギーはグラスウール内部に伝搬し、ガラス繊維や空気を振動させて熱エネルギーに変換されることから、特にグラスウール断熱材を適用した場合は、低音域から高音域まで幅広い吸音特性を有することになる。
【0055】
梁の耐火構造100によれば、梁10に対してその屋外側に取り付けられている被係合金具24に対して、耐火ボード30に取り付けられている係合金具35が係合され、梁10の屋外側の側方に耐火ボード30が配設されている構成を有することにより、梁10と外壁70の間の隙間Gが狭い場合であっても、被係合金具24に対して係合金具35を上下方向に引っ掛けることができる。そのため、梁10の側方に外壁70が施工されている場合と外壁70が施工されていない場合のいずれにおいても、梁10に対する耐火ボード30の効率的な取り付けが可能になる。
【0056】
また、上ナット26を有する上方張り出し金具25と、下ナット28を有する下方張り出し金具27がガセットプレート20に取り付けられ、上ナット26と下ナット28に対してそれぞれ上方固定金具50と下方固定金具55がボルト接合され、上方固定金具50と下方固定金具55に対して外壁パネル70がボルト接合されることにより、梁10に対して外壁パネル70を効率的かつ強固に取り付けることができる。
【0057】
また、梁10に係合される耐火ボード30が梁10の上方のフランジ11と下方のフランジ12の屋外側の小口面を覆い、かつ、梁10の上方のフランジ11の室内側の小口面から下方のフランジ12の室内側の小口面に亘り、さらに下方のフランジ12の下面に亘るように耐火被覆材80が配設されていることにより、耐火性能に優れた梁の耐火構造100となる。梁の耐火構造100では、外壁パネル70Aの断熱材74の内部において、耐火ボード30に対向する位置に壁内耐火ボード78が配設されて梁10に臨んでおり、さらに、梁10の上方のフランジ11の上面にALC床パネル90が載置されていることも、優れた耐火性能に寄与する。
【0058】
[実施形態に係る梁の耐火構造の施工方法]
次に、
図6乃至
図8と、梁の耐火構造の説明において既に参照した
図5をともに参照して、実施形態に係る梁の耐火構造の施工方法の一例について説明する。ここで、
図6乃至
図8、さらに続いて
図5はその順に、耐火構造の施工方法の一例の工程図である。
【0059】
まず、
図6に示すように、屋外側に張り出すガセットプレート20が取り付けられている梁10の屋外側において、梁10との間に隙間Gを置いて複数の外壁パネル70により構成される外壁を施工する。
【0060】
ここで、梁10は階間にある梁であり、梁10に対してその長手方向に間隔を置いて接合されている複数のガセットプレート20の上下端において、上ナット26を備えた上方張り出し金具25と下ナット28を備えた下方張り出し金具27を取り付けておく。
【0061】
そして、梁10の長手方向に延設する上方固定金具50を上方張り出し金具25に載置して上ナット26にボルト接合し、梁10の長手方向に延設する下方固定金具55を下方張り出し金具27に当接させて下ナット28にボルト接合する。
【0062】
上方固定金具50に対して上階の外壁パネル70Aをボルト接合することにより上階の外壁を施工し、下方固定金具55に対して下階の外壁パネル70Bをボルト接合することにより下階の外壁を施工する(以上、外壁施工工程)。
【0063】
次に、
図7に示すように、係合金具35が取り付けられている耐火ボード30を、梁10の上方からX1方向に、もしくは梁10の下方からX2方向に隙間Gに挿通する。この際、作業員は耐火ボード30の下端にある把持金具38を把持しながら耐火ボード30の隙間Gへの挿通を行う。
【0064】
耐火ボード30を隙間Gへ挿通させた後、耐火ボード30の室内側の広幅面が梁10の上方のフランジ11と下方のフランジ12の双方の屋外側の小口面に当接するまでX3方向にスライドさせる。次いで、ガセットプレート20に取り付けられている被係合金具24に対して、耐火ボード30の広幅面に取付けられている係合金具35の係合片35cを下方へX4方向に落とし込んで係合させることにより、梁10の屋外側の側方に耐火ボード30を設置する(耐火ボード設置工程)。
【0065】
梁10の屋外側の側方に耐火ボード30が設置された後、
図8に示すように、梁10の上方のフランジ11の上面にALC床パネル90を設置し、外壁70とALC床パネル90の間に閉塞材95を充填した後、
図5に示すように、梁10の室内側に耐火被覆材80を設置することにより、梁の耐火構造100が施工される。
【0066】
尚、図示例は、外壁施工工程に次いで耐火ボード設置工程を行う施工方法であるが、耐火ボード設置工程を先行して行い、次に外壁施工工程を行う施工方法であってもよい。
【0067】
このように、耐火ボード30の設置に先行して梁10の側方に外壁70を施工する方法、外壁70の施工に先行して耐火ボード30を設置する方法のいずれの施工方法であっても、梁10の側方の隙間Gに耐火ボード30を挿通し、梁10の有する被係合金具24に耐火ボード30の有する係合金具35を落とし込んで係合させ、耐火ボード30を取り付けることから、梁10に対する耐火ボード30の効率的な取り付けが可能になる。
【0068】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0069】
10:梁(H形鋼)
11:上方フランジ
12:下方フランジ
13:ウエブ
20:ガセットプレート
21:接合プレート
22:張り出しプレート
24:被係合金具
25:上方張り出し金具
26:上ナット
27:下方張り出し金具
28:下ナット
30:耐火ボード
31:広幅面
32:狭幅端面
35:係合金具
35c:係合片
38:把持金具
40:ビス(固定手段)
50:上方固定金具
51:ボルト孔
55:下方固定金具
56:ボルト孔
60,65:ボルト
70:外壁パネル(外壁)
70A:上階の外壁パネル(外壁パネル、外壁)
70B:下階の外壁パネル(外壁パネル、外壁)
71:外装材
72:下張材
73:パネルフレーム
74:断熱材
80:耐火被覆材
85:溶接ピン
90:ALC床パネル
95:閉塞材
100:梁の耐火構造
G:隙間