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特許7286457シールド掘削機制御システム及びシールド掘削機制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】シールド掘削機制御システム及びシールド掘削機制御方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/093 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
E21D9/093 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019134642
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021017758
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】和田 健介
(72)【発明者】
【氏名】杉山 博一
(72)【発明者】
【氏名】野澤 剛二郎
(72)【発明者】
【氏名】本多 眞
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-21402(JP,A)
【文献】特開2019-39264(JP,A)
【文献】国際公開第01/34941(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘削機から供給される掘削状況を示す特徴量を入力することにより、推定値として当該シールド掘削機の操作確率を出力する操作判定モデルと、
シールド掘削機から供給される掘削状況を示す特徴量を入力することにより、推定値として当該シールド掘削機の操作パラメータを出力する操作予測モデルと、
前記操作判定モデルが所定の閾値以上の操作確率を出力した場合に、前記操作予測モデルに対して前記操作パラメータの推定を行わせる処理制御部と
を備えることを特徴とするシールド掘削機制御システム。
【請求項2】
前記操作判定モデルが、取得された前記掘削状況のレコードが記録された履歴テーブルを教師データとし、前記掘削状況のデータを入力値として操作変更の有無を出力値として機械学習させた、前記掘削状況のデータに対応した前記操作確率を推定操作判定値として出力する機械学習モデルである
ことを特徴とする請求項1に記載のシールド掘削機制御システム。
【請求項3】
前記操作判定モデルの学習を行う際、前記履歴テーブルにおいて、前記操作変更しないレコードの数を前記操作変更したレコードの数で除算した数値を重みとして用い、前記操作判定モデルの学習を行う
ことを特徴とする請求項2に記載のシールド掘削機制御システム。
【請求項4】
学習済みの前記操作判定モデルにより、教師データによる推定値を求め、操作変更しないレコードが操作変更しないと判定される第1グループにおけるレコード数TNと、操作変更しないレコードが操作変更すると判定される第2グループにおけるレコード数FNと、操作変更したレコードが操作変更すると判定される第3グループにおけるレコード数TPと、操作変更したレコードが操作変更しないと判定される第4グループにおけるレコード数FNとの各々のデータ数により、操作を行うか否かの前記閾値が設定されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシールド掘削機制御システム。
【請求項5】
前記操作予測モデルが、前記第2グループと前記第3グループとにおける前記閾値以上の操作確率を有するレコードの掘削状況を示す特徴量を入力とし、シールド掘削機の操作パラメータを推定値とする教師データにより機械学習されている
ことを特徴とする請求項4に記載のシールド掘削機制御システム。
【請求項6】
操作判定モデルにより、シールド掘削機から供給される掘削状況を示す特徴量を入力することにより、推定値として当該シールド掘削機の操作確率を出力する操作判定過程と、
操作予測モデルにより、シールド掘削機から供給される掘削状況を示す特徴量を入力することにより、推定値として当該シールド掘削機の操作パラメータを出力する操作予測過程と、
処理制御部が、前記操作判定モデルが所定の閾値以上の操作確率を出力した場合に、前記操作予測モデルに対して前記操作パラメータの推定を行わせる処理制御過程と
を有することを特徴とするシールド掘削機制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘削機制御システム及びシールド掘削機制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルなどの築造に地山を掘削するシールド掘削機が用いられている。シールド掘削機を操作するオペレータは、予め計画された掘削の指示を示す掘削指示書に従い、シールド掘削機が掘削する現場の施工環境(土質、水圧などの状態)を、各種計測器からの計測データを監視しながら掘削する方向を操作している。
【0003】
シールド掘削機においては、円筒形のスキンプレートの内周に沿って複数のシールドジャッキが設けられる。この複数のシールドジャッキの全部又は一部が油圧操作により推進(伸長)されることによりスキンプレートの面が押され、シールド掘削機の掘進する方向が制御される。オペレータは、複数のシールドジャッキの何れを伸長させるかを選択するにより、シールド掘削機に作用させる力点の位置を調整し、シールド掘削機が掘削する方向を制御している。
【0004】
オペレータは、様々な現場においてトンネルの施工を行うことで、施工環境の変化に対応したシールド掘削機の制御の経験を養い、熟練度を向上させている。熟練度が向上した熟練したオペレータは、掘削中の現場におけるシールド掘削機の制御を行う際、現在の現場の施工環境に対応した制御を、過去の似たような施工環境における制御の知識を応用して行っている。しかし、施工した現場の数の少ないオペレータの場合、経験したことのない施工環境においては、経験と操作知識が不十分であり、その施工環境における適切なシールド掘削機の制御を行うことができない。
【0005】
すなわち、オペレータの各々のシールド掘削機の制御の熟練度によって、掘削されるトンネルの設計に対する精度や安全性がばらついてしまう問題がある。この問題を解決するため、掘削の際におけるシールド掘削機のカッターの回転状態及び推進ジャッキの推進状態を示す計測データにより、シールド掘削機を自動運転させる構成がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、人間の感情解析などを行うために人工知能(AI(Artificial Intelligence))を用いることが一般的に行われている。AIを用いた手法では、例えば、人間の表情(入力)と、その表情に対応する感情(出力)とを対応付けた教師データを用いて機械学習を実行することにより、学習済みモデル(機械学習モデル)を作成する。この学習済みモデルに人間の表情を入力させることにより、その表情が意味する感情を推定させることができ、人間の感情解析を行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-154998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1においては、熟練したオペレータによるシールド掘削機の操作を十分に再現することができない。すなわち、測定したデータと設定値とを比較することにより制御が行われるため、熟練したオペレータの経験に基づいた制御と異なり、時々刻々と変化する現場の施工環境に対応した制御が適切に行われているとは限らず、掘削されたトンネルの設計に対する精度や安全性が向上するとは言い難かった。
【0009】
一方、上述したAIの手法を、シールド掘削機の操作に応用することが考えられる。例えば、シールド掘削機から得られる掘削状況(入力される監視項目データ)と、その掘削状況に対応する熟練したオペレータの操作(出力)とを対応付けた教師データを用いて機械学習を実行することにより機械学習モデルを作成する。この機械学習モデルに、現在掘削している掘削状況を示すデータを入力させることにより、シールド掘削機の望ましい操作の内容を推定することが可能である。例えば、機械学習モデルが推定した力点の位置に、シールド掘削機の力点がくるようにシールドジャッキを選択する操作を行うことで、経験が少ないオペレータであっても熟練したオペレータに近い操作を行うことができると考えられる。
【0010】
しかしながら、シールド掘削機は、操作を行う頻度が低いため、例えば数十秒から数百秒に一回程度である。この掘削状況に対応する熟練したオペレータの操作とを対応付けた教師データを用いてとして機械学習を行うため、掘削状況に対して常に操作しないことを正解とする機械学習モデルが生成されてしまう傾向がある。この機械学習モデルが推定する推定結果を、経験の少ないオペレータに対するガイダンスとして使用することは難しい。
【0011】
また、機械学習モデルのパラメータ(設定値あるいは制限値)を調整するなどして、常に操作しないことを正解とする機械学習モデルが生成される問題を解決することができる。
しかし、シールド掘削機から得られる掘削状況のデータ(特徴量)が時々刻々変化するのに伴い、機械学習モデルの予測値も変動する。これにより、機械学習モデルが常に操作の変更の指示を推定結果として出力し、操作を行う頻度が高くなり、推定結果を経験の少ないオペレータに対するガイダンスとして使用することは現実的でない。
【0012】
本発明は、上記の事情を考慮してなされたものであり、シールド掘削機から得られる掘削状況のデータが操作を行う頻度が低い特徴量であっても、熟練したオペレータの望ましい操作の頻度及び操作量を出力するシールド掘削機制御システム及びシールド掘削機制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明のシールド掘削機制御システムは、シールド掘削機から供給される掘削状況を示す特徴量を入力することにより、推定値として当該シールド掘削機の操作確率を出力する操作判定モデルと、シールド掘削機から供給される掘削状況を示す特徴量を入力することにより、推定値として当該シールド掘削機の操作パラメータを出力する操作予測モデルと、前記操作判定モデルが所定の閾値以上の操作確率を出力した場合に、前記操作予測モデルに対して前記操作パラメータの推定を行わせる処理制御部とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明のシールド掘削機制御システムは、前記操作判定モデルが、取得された前記掘削状況のレコードが記録された履歴テーブルを教師データとし、前記掘削状況のデータを入力値として操作変更の有無を出力値として機械学習させた、前記掘削状況のデータに対応した前記操作確率を推定操作判定値として出力する機械学習モデルであることを特徴とする。
【0015】
本発明のシールド掘削機制御システムは、前記操作判定モデルの学習を行う際、前記履歴テーブルにおいて、前記操作変更しないレコードの数を前記操作変更したレコードの数で除算した数値を重みとして用い、前記操作判定モデルの学習を行うことを特徴とする。
【0016】
本発明のシールド掘削機制御システムは、学習済みの前記操作判定モデルにより、教師データによる推定値を求め、操作変更しないレコードが操作変更しないと判定される第1グループにおけるレコード数TNと、操作変更しないレコードが操作変更すると判定される第2グループにおけるレコード数FNと、操作変更したレコードが操作変更すると判定される第3グループにおけるレコード数TPと、操作変更したレコードが操作変更しないと判定される第4グループにおけるレコード数FNとの各々のデータ数により、操作を行うか否かの前記閾値が設定されていることを特徴とする。
【0017】
本発明のシールド掘削機制御システムは、前記操作予測モデルが、前記第2グループと前記第3グループとにおける前記閾値以上の操作確率を有するレコードの掘削状況を示す特徴量を入力とし、シールド掘削機の操作パラメータを推定値とする教師データにより機械学習されていることを特徴とする。
【0018】
本発明のシールド掘削機制御方法は、操作判定モデルにより、シールド掘削機から供給される掘削状況を示す特徴量を入力することにより、推定値として当該シールド掘削機の操作確率を出力する操作判定過程と、操作予測モデルにより、シールド掘削機から供給される掘削状況を示す特徴量を入力することにより、推定値として当該シールド掘削機の操作パラメータを出力する操作予測過程と、処理制御部が、前記操作判定モデルが所定の閾値以上の操作確率を出力した場合に、前記操作予測モデルに対して前記操作パラメータの推定を行わせる処理制御過程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シールド掘削機から得られる掘削状況のデータが操作を行う頻度が低い特徴量であっても、熟練したオペレータの望ましい操作の頻度及び操作量を推定して出力(提示)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態のシールド掘削機制御システムが適用される、土圧式シールド工法によるシールド掘削機の構成例を示す概略構成図である。
図2】本実施形態によるシールド掘削機制御システムの構成例を示す図である。
図3】本実施形態における教師データ記憶部37における教師データテーブルの構成例を示す図である。
図4】操作閾値の決定処理を説明する推定操作判定値の確率分布を示すグラフである。
図5】本実施形態によるシールド掘削機制御システムのシールド掘削機の制御データの推定処理の動作例を示すフローチャートである。
図6】本実施形態における操作判定モデルの判定結果と実測との比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本実施形態のシールド掘削機制御システムが適用される、土圧式シールド工法によるシールド掘削機の構成例を示す概略構成図である。図1(a)は、シールド掘削機10を側面から見た概念図、図1(b)は、シールド掘削機10を推進させるシールドジャッキ(推進ジャッキ)20を正面からみた概念図をそれぞれ示している。
図1(a)に示すように、シールド掘削機10は、円筒形のスキンプレート11の後部において、エレクタ(不図示)によりセグメントを組み立てて、一次覆工Sを施工しつつ、地山を掘削するための機構である。シールド掘削機10においては、カッタービット15を備えた環状かつ面板型のカッター16の後部にチャンバー12が設けられている。チャンバー12内の側壁には複数の土圧計Dが設置される。土圧計Dは、チャンバー12における泥土の圧力(制御土圧)を測定する。
【0022】
チャンバー12には作泥土材注入管13から添加材14が注入される。チャンバー12内に堆積された掘削土は、練混ぜ翼(不図示)により、添加材14と撹拌されることで練混ぜられ、泥土に変換される。
スクリューコンベア17は、チャンバー12の泥土を、排土ゲートGを介してコンベア18に排土する。そして、コンベア18は、スクリューコンベア17より排出された泥土を、コンベア19を介してトンネルの外部に搬出する。架台Mは、スクリューコンベア17と、コンベア18及び19とを支持している。また、図示していないが、シールド掘削機10は、推進ジャッキ(後述)が設けられており、この推進ジャッキにより掘削方向及び推進速度の制御が行なわれる。
【0023】
本実施形態においては、推進ジャッキの油圧制御により、スキンプレート11の推進方向及び推進速度を制御(以下、単に方向制御と示す場合もある)し、また、スクリューコンベア17のスクリューの回転速度(後述するスクリュー速度)を制御することにより、泥土圧を制御(以下、単に土圧制御と示す場合もある)している。後述するシールド掘削機制御システムは、これらの制御対象の状態を示す監視項目データ、操作の有無の各々を取得し、シールド掘削機を制御する制御データ、操作を行うか否かの操作判定を、機械学習モデルにより推定する(後述)。ここで、機械学習モデルを作成する機械学習の技法としては、決定木学習、ニューラルネットワーク、遺伝的プログラミング、サポートベクタマシン、ディープラーニングなどの一般的に用いられている技法のいずれを用いても良い。
【0024】
本実施形態においては、推進ジャッキ20の制御データとして油圧制御などにより、スキンプレートの推進方向及び推進速度を制御(方向制御)し、また、スクリューコンベア17の制御データとしてスクリューの回転速度(スクリュー回転速度)などを制御することにより、泥土圧を制御(土圧制御)する制御データを取得するものとする。また、本実施形態において、監視項目データとしては、掘削している施工環境及びシールド掘削機10の稼働状態を監視するデータ(監視項目データ)として、例えば、カッタートルク、カッター速度、推進圧力、推進速度、推進速度指示書逸脱値、制御土圧、切羽土圧平均値指示書範囲外ダミー、アジテータトルク、スクリュー速度、1次スクリュー圧力、2次スクリュー圧力、NO.1コピーストローク、NO.1コピーストローク指示値差、NO.1コピー位置、NO.1コピー位置指示書逸脱値、ピッチング、ピッチング指示値差(ピッチング角誤差)、ローリング、ローリング指示値差、上下中折れ角度、上下中折れ角度指示値差、左右中折れ角度、左右中折れ角度指示値差、S/M前胴方位、S/M前胴方位指示値差、S/M後胴方位、S/M後胴方位指示値差、計画路線水平偏差(水平偏差:管理点)、計画路線垂直偏差(鉛直偏差:管理点)、方位(方位角誤差:管理点)、方位指示値差(管理点)、計画路線方位(管理点)、ピッチ(管理点)、計画路線ピッチ(管理点)などがある。ここで、指示書は掘削指示書を示している。上記した監視項目データは、操作の有無と共に、機械学習モデルに入力される説明変数としての特徴データである。
【0025】
図1(b)は、シールド掘削機10を推進させる推進ジャッキを説明する概念図を示している。図1(b)に示すように、いずれの位置の推進ジャッキ20を駆動するかにより、スキンプレート11の面を推進させる力点を設定する。図1(b)においては、22個の推進ジャッキが示されているが、この数は限定されない。各推進ジャッキ20のジャッキ圧の配分を行なうことにより、x軸における推進ジャッキ力点位置Fxと、z軸における推進ジャッキ力点位置Fzとが設定され、スキンプレート11の面をy軸方向に推進させる力点の位置が設定される。スキンプレート11の面の力点に対応した位置に、推進する圧力がかかることで、シールド掘削機10が推進する方向が設定される。この方向の制御は、推進ジャッキ20のいずれを駆動するかを示す推進ジャッキパターンにより行なわれる。そして、ジャッキ圧を上げるために単位時間あたりに供給する油の量(油量)により、推進速度が設定される。
【0026】
図2は、本実施形態によるシールド掘削機制御システムの構成例を示す図である。図2において、シールド掘削機制御システム30は、監視項目データ入力部31、操作判定部32、処理制御部33、操作予測部34、機械学習モデル生成部35、学習済みモデル記憶部36、教師データ記憶部37及び操作状況データ記憶部38の各々を備えている。
監視項目データ入力部31は、図示しない計時手段(タイマーなど)からの所定の測定周期の時間(例えば、1秒間)の経過を示す計時信号が供給されたタイミングにおいて、上述した監視項目の各々のデータを計測値として、各部位に備えられた検出手段(センサ及び測定器など)それぞれから、上記監視項目データを取得する。また、監視項目データ入力部31は、操作状況データ記憶部38における監視項目データテーブルに対して、取得した監視項目データの計測値を順次書き込んで記憶させる。このとき、監視項目データ入力部31は、監視項目データの種類毎に、所定の期間の複数の計測値を記憶しており、新たな計測値を書き込む際、最も古い計測値に上書きして書き込んで記憶させる。
【0027】
また、監視項目データ入力部31は、後述する機械学習モデルに対して、監視項目データによって計測値を基準化(規格化)された数値や平均化された数値として供給する必要がある場合、基準化や平均化の計算を行う。この平均化する処理とは、例えば監視項目データにおける制御土圧など計測値の場合、ノイズが重畳するなどして異常に高い、あるいは異常に低い数値として供給されることがある。この結果、ノイズによって異常停止を繰り返すことにより、シールド掘削機による工事の進捗に影響を与えてしまう。このため、監視項目データ入力部31は、予め設定された監視項目データの計測値については、過去の所定の期間における計測値と移動平均などを求めて、この移動平均を監視項目データの計測値として用いる。
【0028】
操作判定部32は、学習モデルである操作判定モデルを学習済みモデル記憶部36から読み込む。そして、操作判定部32は、読み出した操作判定モデルに対して、監視項目データ入力部31から供給される監視項目データの各々を特徴データとして入力し、操作確率としての推定操作判定値を推定する。
処理制御部33は、操作判定部32から供給される推定操作判定値が、操作閾値以上か否かの判定を行う。そして、処理制御部33は、推定操作判定値が操作閾値以上の場合、操作予測部34に対して、その監視項目データにより推定制御データの推定を行わせる。一方、処理制御部33は、推定操作判定値が操作閾値未満の場合、操作予測部34に対して、その監視項目データによる推定制御データの推定を行わせない。
【0029】
操作予測部34は、学習モデルである操作予測モデルを学習済みモデル記憶部36から読み込む。そして、操作予測部34は、読み出した操作予測モデルに対して、監視項目データ入力部31から供給される監視項目データの各々を特徴データとして入力し、推定制御データ(例えば、推進ジャッキの油圧制御のデータ、スクリューコンベア17のスクリュー速度)を推定する。
機械学習モデル生成部35は、教師データ記憶部37に記憶されている、少なくとも監視項目データと、操作判定値と、制御データとの組からなる教師データを用いて、機械学習モデルの学習を行い、操作判定モデルと操作予測モデルとを生成する。
【0030】
学習済みモデル記憶部36は、機械学習モデル生成部35が生成した操作判定モデル及び操作予測モデルの各々が記憶されている。
教師データ記憶部37は、機械学習モデルを学習させて操作判定モデル及び操作予測モデルの各々を生成する教師データが記憶されている。
操作状況データ記憶部38は、時系列に監視項目データ入力部31から供給される監視項目データが監視項目データテーブルにレコード単位で記憶されている。
【0031】
図3は、本実施形態における教師データ記憶部37における教師データテーブルの構成例を示す図である。教師データテーブルは、測定周期毎のレコードで構成され、レコード番号に対応して、少なくとも、特徴データ、操作判定値、制御データ、重み、推定操作判定値の欄が設けられている。レコード番号は、時系列の測定周期の順番を示している。特徴データは、すでに説明した監視項目データとしての、掘削している施工環境及びシールド掘削機10の稼働状態を監視するデータの各々である。操作判定値は、特徴データに対して操作を行ったか否かの判定値が記載されている。ここで、本実施形態においては、一例として、操作が行われたレコード(操作有りレコード)には操作有値として「1」が付与され、操作が行われないレコード(操作無しレコード)には操作無値として「0」が付与されている。しかしながら、操作有値及び操作無値としては、推定操作判定値を、これら操作有値と操作無値との範囲の操作確率として求められる数値であれば、いずれの数値を用いてもよい。例えば、操作有値として「100」、操作無値として「1」など、操作有りと操作無しとで異なる数値を用いる。また、制御データは、特徴データに対応して操作された操作量を示している。
【0032】
重みは、本実施形態において機械学習を行う際に、操作無しレコードのレコード数n0と、操作有りレコードのレコード数n1とのバランスを取るための重みである。ここで、すでに述べたように、操作無しレコードのレコード数n0が、操作有りレコードのレコード数n1に対して多いため、操作無しレコードの重みを「1」とし、操作有りレコードの重みを「n0/n1」としている。推定操作判定値は、教師データで学習させた操作判定モデルに対して、監視項目データを入力して推定された操作判定値(推定操作判定値)が示されている。
ここで、機械学習モデル生成部35は、操作判定モデルの学習として、上記操作判定値を目的変数とし、監視項目データを説明変数とし、上述した重みを考慮して行う。そして、機械学習モデル生成部35は、生成した操作判定モデルに対して、各レコードの監視項目データを入力し、推定される推定操作判定値をそれぞれのレコードの推定操作判定値の欄に書き込んで記憶させる。
【0033】
次に、操作閾値を決定する処理が以下に示すように行われる。図4は、操作閾値の決定処理を説明する推定操作判定値の確率分布を示すグラフである。この図において、横軸が推定操作判定値を示し、縦軸が確率分布を示している。また、破線は操作無しレコードの確率分布を示し、実線は操作有りのレコードの確率分布を示している。以下、確率分布を操作無しレコード及び操作有りレコードのそれぞれのレコード数として説明する。
操作閾値は、予測値を変化させ、そのときの第1グループ、第2グループ、第3グループ及び第4グループに含まれるレコード数が適切となる閾値を説明する。ここで、第1グループ(TN)は、 操作判定値が「0(操作無値)」の操作変更無しであり、操作閾値未満の推定操作判定値となる操作変更無しレコードのグループである。第2グループ(FN)は、操作判定値が「0(操作無値)」の操作変更無しであるが、操作閾値以上の推定操作判定値となる操作変更無しレコードのグループである。第3グループ(TP)は、 操作判定値が「1(操作有値)」の操作変更有りであり、操作閾値以上の推定操作判定値となる操作変更有りレコードのグループである。第4グループ(FP)は、操作判定値が「1(操作有値)」の操作変更有りであるが、操作閾値未満の推定操作判定値となる操作変更有りレコードのグループである。
【0034】
本実施形態の場合、 第1グループに属する操作変更無しのレコード数TNと、第2グループに属する操作変更無しのレコード数FNと、第3グループに属する操作変更ありのレコード数TPと、第4グループに属する操作変更有りのレコード数FPとにより、以下の式(1)により、操作閾値を求めている。 すなわち、式(1)により求められる評価値BER(balannced error ratio)が最小となる推定操作判定値を操作閾値として設定している。
BER=0.5×((FP/(TN+FP))+(FN/(FN+FP)))…(1)
しかし、この式(1)により求めるのではなく、他の式を用いたり、任意の推定操作判定値を操作閾値として設定しても良い。
【0035】
また、機械学習モデル生成部35は、操作予測モデルを学習させる場合、設定した操作閾値に対応して、第2グループに属する操作変更無しのFN個のレコードと、第3グループに属する操作変更有りTP個のレコードとを、教師データとして用いる。すなわち、機械学習モデル生成部35は、教師データ記憶部37の教師データテーブルを参照し、推定操作判定値が操作閾値を超えるレコードの監視項目データの各々を説明変数とし、それぞれ対応する制御データを目的変数として、操作予測モデルの学習を行う。また、機械学習モデル生成部35は、操作予測モデルの学習においても、操作判定モデルの場合と同様に重みを考慮した学習を行う。
機械学習モデル生成部35が操作予測モデル及び操作判定モデル機械学習を行う際、回帰、木(決定木、回帰木など)、ニューラルネットワーク、遺伝的プログラミング、サポートベクタマシン、ディープラーニング、アンサンブル学習(勾配ブースティング、バギングなど)をはじめとして、一般的に用いられている技法のいずれを用いても良い。
【0036】
図5は、本実施形態による装置制御システムのシールド掘削機の制御データの推定処理の動作例を示すフローチャートである。
監視項目データ入力部31は、所定の計測周期か否かの判定を行い(ステップS1)、計測周期が経過した場合に処理をステップS2へ進め、計測周期が経過してない場合にステップS1の処理を繰返す。
そして、監視項目データ入力部31は、監視項目データを入力し(ステップS2)、監視項目データを操作判定部32へ出力するとともに、操作状況データ記憶部38の操作状況データテーブルにレコード番号を付与して書き込んで記憶させる。ここで、操作状況データテーブルは、既に説明した教師データテーブルと同様の構成である。
【0037】
操作判定部32は、学習済みモデル記憶部36から操作判定モデルを読出し、読み出した操作判定モデルに対して監視項目データを説明変数として入力し、推定操作判定値を推定させる(ステップS3)。操作判定部32は、推定させた推定操作判定値を処理制御部33へ出力するとともに、操作状況データテーブルに書き込んで記憶させる。
そして、処理制御部33は、供給される推定操作判定値が操作閾値以上か否かの判定を行い(ステップS4)、操作閾値以上の場合に処理をステップS5へ進め、操作閾値未満の場合に処理をステップS1へ進める(操作予測の処理は行わない)。
【0038】
操作予測部34は、学習済みモデル記憶部36から操作予測モデルを読出し、読み出した操作予測モデルに対して監視項目データを説明変数として入力し、推定制御データを推定させる(ステップS5)。操作予測部34は、推定させた推定制御データを画像表示装置(不図示)などの表示画面に表示させて、推定制御データを通知する(ステップS6)。
そして、処理制御部33は、装置制御システムの入力手段(不図示)から、制御データの推定処理を終了する制御が行われるか否かの検出を行い(ステップS7)、終了でない場合に処理をステップS1へ進め、終了の場合に処理を終了する。
【0039】
図6は、本実施形態における操作判定モデルの判定結果と実測との比較を示すグラフである。比較に用いた操作判定モデルは、実際のシールド掘削を行った現場の監視項目データを用いて行った。シールド現場における1~273リングにおける監視項目データ及び操結果(操作判定部)を教師データとして操作判定モデルを学習させた。そして、この操作判定モデルに238~294リングの各々の監視項目データを入力し、それぞれの推定操作判定値を推定した。図6(a)~図6(d)の各々は、238~294リングのデータ分布を棒グラフ(左の縦軸がデータ数)で、オペレータの操作回数と操作判定モデルが出力した操作指示(操作予測)の回数を折れ線グラフ(右の縦軸が操作回数)で描いた。実線が操作判定モデルが推定した推定操作判定値に基づく回数であり、破線が実際に熟練したオペレータが操作した回数である。
【0040】
図6(a)及び図6(b)の各々は、シールド掘削機10の先端の計画線形からの水平偏差、鉛直偏差それぞれ関するグラフであり、横軸において管理値までの近接割合(%)で表示している。図6(c)及び図6(d)の各々は、シールド掘削機10の方位角およびピッチング角と計画値との誤差に関するグラフ(横軸が誤差角度を示している)である。 オペレータの実際の操作回数と操作判定モデルの推定に基づく操作回数は、監視項目データを10分毎に区切り、この10分間に操作があった場合を1回としてカウントしている。また、図6(a)、図6(b)、図6(c)及び図6(d)の各々においては、水平偏差、鉛直偏差、方位角誤差、ピッチング角誤差それぞれの10分毎の最大値を用いてプロットしている。図6(a)、図6(b)、図6(c)及び図6(d)の各々のグラフにおいて、オペレータが実際に操作した回数と、操作判定モデルの推定に基づく操作回数との分布が同様の傾向を示している。このため、機械学習により生成した操作判定モデルが熟練したオペレータの操作を模擬できており、シールドジャッキ操作を行うタイミングを適切に判定できる。
【0041】
上述したように、本実施形態によれば、シールド掘削機10から得られる掘削状況あるいは環境を示す監視項目データが操作を行う頻度が低い特徴量であっても、操作判定モデルが監視項目データに対応して操作を行うか否かの予測を、熟練したオペレータの操作の有無に対応して推定することができ、かつ操作予測モデルがその監視項目データに対応した熟練したオペレータが操作する操作量を制御データとして推定することができるため、掘削状況のデータが操作を行う頻度が低い特徴量であっても、熟練したオペレータの望ましい操作の頻度及び操作量を得ることが可能となる。
また、操作状況データ記憶部38の操作状況データテーブルに対して、操作判定値が書き込まれたレコードを教師データとして、教師データ記憶部37の教師データテーブルに加えて、操作判定モデル及び操作予測モデルの各々の再学習を、機械学習モデル生成部35に対して行わせるようにしてもよい。この場合、操作閾値も再設定する。
【0042】
なお、本発明における図1のシールド掘削機制御システム30の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、操作判定及び操作予測の処理、および操作判定モデル及び操作予測モデルの各々の機械学習の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWW(World Wide Web)システムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc - Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM(Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0043】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0044】
10…シールド掘削機 11…スキンプレート 17…スクリューコンベア 20…推進ジャッキ 30…シールド掘削機制御システム 31…監視項目データ入力部 32…操作判定部 33…処理制御部 34…操作予測部 35…機械学習モデル生成部 36…学習済みモデル記憶部 37…教師データ記憶部 38…操作状況データ記憶部 D…土圧計
図1
図2
図3
図4
図5
図6