(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】無菌コネクタ
(51)【国際特許分類】
A61M 39/18 20060101AFI20230529BHJP
A61M 39/26 20060101ALI20230529BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20230529BHJP
【FI】
A61M39/18
A61M39/26
C12M1/00 C
(21)【出願番号】P 2019159808
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100189289
【氏名又は名称】北尾 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】北▲詰▼ 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山口 賢二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 知正
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-200098(JP,A)
【文献】特開2010-012234(JP,A)
【文献】特開2006-141714(JP,A)
【文献】特開2015-043840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/18
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コネクタ部と第2コネクタ部とで構成され、外部からの雑菌の侵入を抑制しつつ前記第1コネクタ部に対し前記第2コネクタ部が差し込まれることで前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部とが結合して前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部との間における流体の流通が可能となる無菌コネクタにおいて、
前記第1コネクタ部が、
前記流体が流出する流出口が形成された尖った先端部を有し前記流出口に至る前記流体の流通路が内部に形成された中空針と、前記中空針の前記先端部とは反対側の前記中空針の後端部と一方の面で接続して前記中空針が該一方の面から突出した状態で前記中空針を支持する板状の底部であって前記中空針の前記流通路と挿通する貫通孔が形成された底部と、を備えた本体部であって、前記中空針および前記底部は樹脂材料で一体的に形成されたものである本体部と、
前記中空針を覆うとともに周縁部が前記中空針の周囲を取り巻く態様で前記底部の前記一方の面に固定された弾性膜と、
前記弾性膜に覆われた前記中空針を取り囲み一端部が前記底部の前記一方の面に固定された筒状の筐体と、を備えたものであり、
前記第2コネクタ部が、
2つの端面の間に、前記流体を流通させるための貫通孔である流通孔が形成された流通孔部材と、
前記流通孔部材の一方の端面における前記流通孔の開口部を封止しつつ該一方の端面を被覆する弾性部材と、を備え、
前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部の前記結合は、前記第2コネクタ部の前記流通孔部材の少なくともの一部が前記第1コネクタ部の前記底部に向かって前記第1コネクタ部の前記筐体の内側に相対的に差し込まれることによって行われるものであって、該差し込みの際には、まず、前記第1コネクタ部の前記中空針の延長上に前記第2コネクタ部の前記流通孔が位置する状態で前記第1コネクタ部の前記弾性膜と前記第2コネクタ部の前記弾性部材とが互いに接触し、次に、前記流通孔部材が、該前記流通孔部材の前記一方の端面を被覆する前記弾性部材を介して前記弾性膜を前記第1コネクタ部の前記中空針の前記先端部に向かって押し付けることで、前記中空針が、該中空針を覆う前記弾性膜、および、前記流通孔の前記開口部を封止する前記弾性部材をこの順に貫通して前記流通孔内を前記流通孔部材の押し付け方向とは反対方向に向かって相対的に進行し前記流通孔内の所定位置に到達するものであ
って、
前記本体部は、前記底部の前記一方の面とは反対側の前記底部の他方の面から前記中空針の突出方向とは反対方向に突出した管状部であって、前記底部の前記貫通孔と挿通する流通路が内部に形成され該流通路に前記流体が流れ込むための流入口を先端に有する管状部をさらに備えたものであって、前記中空針、前記底部、および前記管状部は前記樹脂材料で一体的に形成されたものであり、
前記流通路を形成する前記管状部の内壁は、前記底部の前記他方の面から離れて前記先端部の前記流入口に近づくにつれて広がるテーパー形状を有し、前記管状部の前記突出方向に垂直な前記流通路の断面の面積は、前記底部の前記他方の面から離れて前記先端の前記流入口に近づくにつれて大きくなり前記流入口において最大となるものであって、
前記本体部は、さらに、膨らんだ先端部を有し前記底部の前記一方の面から前記中空針の突出方向と同じ方向に突出する複数の突起部を備えたものであって、前記中空針、前記底部、および前記複数の突起部は前記樹脂材料で一体的に形成されたものであり、
前記筐体は、前記一端部において、前記複数の突起部をそれぞれ収容するとともに該複数の突起部の前記先端部とそれぞれ係合して前記筐体の前記一端部を前記底部の前記一方の面に固定する複数の突起部収容孔を備えたものであり、
前記弾性膜の前記周縁部は、前記本体部の前記複数の突起部の前記先端部と前記筐体の前記複数の突起部収容孔とが互いに係合する際に前記底部の前記一方の面と前記筐体の前記一端部との間に挟み込まれることで、前記底部に固定されるものである無菌コネクタ。
【請求項2】
前記中空針は、前記底部に向かって広がるテーパー形状の側面を有し、前記中空針が、前記流通孔内を前記押し付け方向とは反対方向に向かって相対的に進行するにつれ、前記中空針の前記側面と前記流通孔の内壁面との隙間が狭くなっていくものである請求項
1に記載の無菌コネクタ。
【請求項3】
前記中空針の前記先端部は、該中空針の突出方向に沿って水平に広がる平坦部を側面に有するとともに、該平坦部において、前記平坦部に垂直な方向に開口する流出口を前記流出口として有するものである請求項1
又は2に記載の無菌コネクタ。
【請求項4】
前記第1コネクタ部の前記筐体は、前記筒状の内側の面において、前記底部の側を向いた第1斜面が前記底部の側とは反対側を向いた第2斜面に比べ傾斜が急になっている山をそれぞれ有する複数のラチェット部が形成されているものであり、
前記第2コネクタ部の前記流通孔部材は、該流通孔部材の前記少なくともの一部の、前記流通孔から離れる外側方向を向いた側面において、該外側方向に突き出すとともに前記流通孔を周回する態様で延びる突条であって、前記押し付け方向を向いた第1斜面が、該押し付け方向とは反対側を向いた第2斜面よりも緩やかに傾斜している突条からなるラチェット爪が形成されているものであり、
前記中空針が前記流通孔内を前記押し付け方向とは反対方向に相対的に進行して前記所定位置に到達する際には、前記ラチェット爪は、前記複数のラチェット部それぞれの前記第2斜面を、前記ラチェット爪の前記第1斜面で押しながら、前記複数のラチェット部それぞれの前記第2斜面に沿って前記底部の側に相対的に進行して、前記複数のラチェット部それぞれの前記第1斜面に対して前記ラチェット爪の前記第2斜面が当接する当接位置に到達するものであり、該当接位置への前記ラチェット爪の到達により前記複数のラチェット部と前記ラチェット爪とが互いに係合するものである請求項1~
3のいずれかに記載の無菌コネクタ。
【請求項5】
前記第1コネクタ部の前記筐体は、前記筒状の内側の面において前記押し付け方向に沿って延びる複数の溝部を有するものであり、
前記第2コネクタ部の前記流通孔部材は、該流通孔部材の前記少なくともの一部の前記側面において、前記押し付け方向に沿って延びる複数の突条を有するものであり、
前記中空針が前記流通孔内を前記押し付け方向とは反対方向に相対的に進行する際には、前記複数の突条は、前記複数の溝部にそれぞれ嵌まり込みその嵌まり込んだ溝部に沿って前記押し付け方向に相対的に進行するものである請求項
4に記載の無菌コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのコネクタ部で構成され、外部からの雑菌の侵入を抑制しつつこれら2つのコネクタ部が結合することでこれら2つのコネクタ部の間における流体の流通を実現する無菌コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
医療機器の分野では、薬液等の流体が流れる管や、こうした流体を含む容器や、こうした流体を処理する医療用装置などを互いに接続しこれらの間で流体を流通させるための医療用コネクタが従来から知られている。こうした医療用コネクタは、2つのコネクタ部で構成されており、これら2つのコネクタ部が結合することでこれら2つのコネクタ部の間における流体の流通が実現する。
【0003】
こうした医療用コネクタの中には、外部からの雑菌の侵入を抑制しつつこれら2つのコネクタ部の結合が行われるものがあり、無菌コネクタと呼ばれている。無菌コネクタの中には、弾性膜により先端側の部分が覆われて外部から隔離された中空針を有する第1コネクタ部と、弾性部材により外部から隔離された流通孔が形成された第2コネクタ部とが結合するタイプのものが知られている(たとえば特許文献1参照)。このタイプの無菌コネクタでは、結合の際に、第1コネクタ部の弾性膜と第2コネクタ部の弾性部材とが接触した状態で、第1コネクタ部の中空針が、弾性膜および弾性部材を貫通して第2コネクタ部の流通孔に到達する。この結果、第1コネクタ部と第2コネクタ部との間において、中空針および流通孔を介した流体の流通が実現する。このタイプの無菌コネクタでは、結合前には弾性膜や弾性部材により中空針や流通孔が外部から遮断されており、結合時にもこれら弾性膜や弾性部材により中空針や流通孔のシール性が維持されるため、結合の前後で雑菌が侵入しにくい状態が維持される。
【0004】
なお、第1コネクタ部と第2コネクタ部のうちの一方のみにおいて、弾性膜や弾性部材による雑菌の侵入防止機構が備えられている無菌コネクタも存在する(たとえば、特許文献2,3参照)。ただし、外部からの雑菌の侵入を十分に抑制する観点から考えると、やはり特許文献1のように第1コネクタ部と第2コネクタ部の双方において弾性膜や弾性部材による雑菌の侵入防止機構が備えられていることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-200098号公報
【文献】特表2002-501793号公報
【文献】特表2002-520093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
弾性膜と弾性部材の双方が備えられている無菌コネクタでは、中空針が弾性膜および弾性部材を貫通して流通孔に向かって進み、所定の結合位置で第1コネクタ部と第2コネクタ部の結合状態が実現する。このように無菌コネクタでは、電気配線等で使用される一般的なコネクタよりも複雑な動作が伴うため、部品点数が多くなりやすくコネクタ製造の手間がかかる傾向が強い。このため、部品点数を減らして製造効率を向上させることが望まれる。
【0007】
特に近年では、細胞培養等を目的とする、小型の装置や容器や管で構成された医療システムにおいて、培養液等の少流量の流体の流通のための小型の無菌コネクタの需要が高まっている。一般に小型の無菌コネクタほど、部品点数が多いときに組み立てが難しくなり製造効率が低下しやすい。このため、小型の無菌コネクタでは、部品点数を減らして製造効率を向上させる必要性は特に大きい。
【0008】
上記の事情を鑑み、本発明は、製造効率の向上に適した無菌コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下の無菌コネクタを提供する。
【0010】
[1] 第1コネクタ部と第2コネクタ部とで構成され、外部からの雑菌の侵入を抑制しつつ前記第1コネクタ部に対し前記第2コネクタ部が差し込まれることで前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部とが結合して前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部との間における流体の流通が可能となる無菌コネクタにおいて、前記第1コネクタ部が、前記流体が流出する流出口が形成された尖った先端部を有し前記流出口に至る前記流体の流通路が内部に形成された中空針と、前記中空針の前記先端部とは反対側の前記中空針の後端部と一方の面で接続して前記中空針が該一方の面から突出した状態で前記中空針を支持する板状の底部であって前記中空針の前記流通路と挿通する貫通孔が形成された底部と、を備えた本体部であって、前記中空針および前記底部は樹脂材料で一体的に形成されたものである本体部と、前記中空針を覆うとともに周縁部が前記中空針の周囲を取り巻く態様で前記底部の前記一方の面に固定された弾性膜と、前記弾性膜に覆われた前記中空針を取り囲み一端部が前記底部の前記一方の面に固定された筒状の筐体と、を備えたものであり、前記第2コネクタ部が、2つの端面の間に、前記流体を流通させるための貫通孔である流通孔が形成された流通孔部材と、前記流通孔部材の一方の端面における前記流通孔の開口部を封止しつつ該一方の端面を被覆する弾性部材と、を備え、前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部の前記結合は、前記第2コネクタ部の前記流通孔部材の少なくともの一部が前記第1コネクタ部の前記底部に向かって前記第1コネクタ部の前記筐体の内側に相対的に差し込まれることによって行われるものであって、該差し込みの際には、まず、前記第1コネクタ部の前記中空針の延長上に前記第2コネクタ部の前記流通孔が位置する状態で前記第1コネクタ部の前記弾性膜と前記第2コネクタ部の前記弾性部材とが互いに接触し、次に、前記流通孔部材が、該前記流通孔部材の前記一方の端面を被覆する前記弾性部材を介して前記弾性膜を前記第1コネクタ部の前記中空針の前記先端部に向かって押し付けることで、前記中空針が、該中空針を覆う前記弾性膜、および、前記流通孔の前記開口部を封止する前記弾性部材をこの順に貫通して前記流通孔内を前記流通孔部材の押し付け方向とは反対方向に向かって相対的に進行し前記流通孔内の所定位置に到達するものである無菌コネクタ。
【0011】
上記において、「相対的に進行」とは、流通孔部材の静止系から見たときに中空針が進行してみえることを指している、すなわち、「相対的に進行」には、流通孔部材に向かって中空針が進行する場合に加え、中空針は静止しているが流通孔部材が中空針に向かって進行する場合や、流通孔部材と中空針とが互いに向かって進行する場合も含まれる。本明細書では、中空針が相対的に進行する場合に限らず、「相対的」の意味を、一般に、一方の静止系から見たときの他方の状態を指すものとして用いている。たとえば、「相対的に差し込まれる」は、一方の静止系から見たときの他方がその一方に向かって差し込んでくることを指す。
【0012】
[2] 前記本体部は、前記底部の前記一方の面とは反対側の前記底部の他方の面から前記中空針の突出方向とは反対方向に突出した管状部であって、前記底部の前記貫通孔と挿通する流通路が内部に形成され該流通路に前記流体が流れ込むための流入口を先端に有する管状部をさらに備えたものであって、前記中空針、前記底部、および前記管状部は前記樹脂材料で一体的に形成されたものであり、前記流通路を形成する前記管状部の内壁は、前記底部の前記他方の面から離れて前記先端部の前記流入口に近づくにつれて広がるテーパー形状を有し、前記管状部の前記突出方向に垂直な前記流通路の断面の面積は、前記底部の前記他方の面から離れて前記先端の前記流入口に近づくにつれて大きくなり前記流入口において最大となるものである[1]に記載の無菌コネクタ。
【0013】
[3] 前記本体部は、さらに、膨らんだ先端部を有し前記底部の前記一方の面から前記中空針の突出方向と同じ方向に突出する複数の突起部を備えたものであって、前記中空針、前記底部、および前記複数の突起部は前記樹脂材料で一体的に形成されたものであり、
前記筐体は、前記一端部において、前記複数の突起部をそれぞれ収容するとともに該複数の突起部の前記先端部とそれぞれ係合して前記筐体の前記一端部を前記底部の前記一方の面に固定する複数の突起部収容孔を備えたものであり、前記弾性膜の前記周縁部は、前記本体部の前記複数の突起部の前記先端部と前記筐体の前記複数の突起部収容孔とが互いに係合する際に前記底部の前記一方の面と前記筐体の前記一端部との間に挟み込まれることで、前記底部に固定されるものである[1]又は[2]に記載の無菌コネクタ。
【0014】
[4] 前記中空針は、前記底部に向かって広がるテーパー形状の側面を有し、前記中空針が、前記流通孔内を前記押し付け方向とは反対方向に向かって相対的に進行するにつれ、前記中空針の前記側面と前記流通孔の内壁面との隙間が狭くなっていくものである[1]~[3]のいずれかに記載の無菌コネクタ。
【0015】
[5] 前記中空針の前記先端部は、該中空針の突出方向に沿って水平に広がる平坦部を側面に有するとともに、該平坦部において、前記平坦部に垂直な方向に開口する流出口を前記流出口として有するものである[1]~[4]のいずれかに記載の無菌コネクタ。
【0016】
[6] 前記第1コネクタ部の前記筐体は、前記筒状の内側の面において、前記底部の側を向いた第1斜面が前記底部の側とは反対側を向いた第2斜面に比べ傾斜が急になっている山をそれぞれ有する複数のラチェット部が形成されているものであり、前記第2コネクタ部の前記流通孔部材は、該流通孔部材の前記少なくともの一部の、前記流通孔から離れる外側方向を向いた側面において、該外側方向に突き出すとともに前記流通孔を周回する態様で延びる突条であって、前記押し付け方向を向いた第1斜面が、該押し付け方向とは反対側を向いた第2斜面よりも緩やかに傾斜している突条からなるラチェット爪が形成されているものであり、前記中空針が前記流通孔内を前記押し付け方向とは反対方向に相対的に進行して前記所定位置に到達する際には、前記ラチェット爪は、前記複数のラチェット部それぞれの前記第2斜面を、前記ラチェット爪の前記第1斜面で押しながら、前記複数のラチェット部それぞれの前記第2斜面に沿って前記底部の側に相対的に進行して、前記複数のラチェット部それぞれの前記第1斜面に対して前記ラチェット爪の前記第2斜面が当接する当接位置に到達するものであり、該当接位置への前記ラチェット爪の到達により前記複数のラチェット部と前記ラチェット爪とが互いに係合するものである[1]~[5]のいずれかに記載の無菌コネクタ。
【0017】
[7] 前記第1コネクタ部の前記筐体は、前記筒状の内側の面において前記押し付け方向に沿って延びる複数の溝部を有するものであり、前記第2コネクタ部の前記流通孔部材は、該流通孔部材の前記少なくともの一部の前記側面において、前記押し付け方向に沿って延びる複数の突条を有するものであり、前記中空針が前記流通孔内を前記押し付け方向とは反対方向に相対的に進行する際には、前記複数の突条は、前記複数の溝部にそれぞれ嵌まり込みその嵌まり込んだ溝部に沿って前記押し付け方向に相対的に進行するものである[6]に記載の無菌コネクタ。
【発明の効果】
【0018】
本願の無菌コネクタでは、中空針が別個の部材となっている従来の無菌コネクタ(典型的には金属製の中空針を樹脂製の底部が支持する形態の無菌コネクタ)と異なり、中空針と、中空針を支持する底部とが樹脂材料で一体的に形成されている。このため、中空針と底部とが別体の従来の無菌コネクタと比べ、第1コネクタ部の構成部品の部品点数が少なくてすみ、第1コネクタ部の組み立てが容易となっている。この結果、本願の無菌コネクタは、従来の無菌コネクタと比べ、製造効率が向上している。さらに、無菌コネクタを廃棄する際に、金属製の中空針を樹脂製の底部から分離するといった分離作業が不要となり、廃棄処理が簡略化される。また、金属製の中空針を使用しないため、金属特有の滅菌処理以外の滅菌手法も採用でき、滅菌手法の選択肢が広がる。
【0019】
特に、無菌コネクタの中でも医療用の無菌コネクタは、小さい構成部品で構成された比較的小型のものが多いため、部品点数が多いときに組み立てが難しくなり製造効率が低下する。このため、本願の無菌コネクタを医療用の無菌コネクタに適用した場合、上述した製造効率を向上する本願の無菌コネクタの効果がとりわけ有意義である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態の無菌コネクタの結合前の外観を、無菌コネクタを構成する第1コネクタ部および第2コネクタ部のうちの第2コネクタ部側から表した斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態の無菌コネクタの結合前の外観を、第1コネクタ部側から表した斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態の無菌コネクタの結合後の外観を、第2コネクタ部側から表した斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態の無菌コネクタの結合前の外観を、第1コネクタ部側から表した斜視図である。
【
図5】第1コネクタ部の中心軸に沿って、第1コネクタ部を構成する本体部、弾性膜、および筐体の3つの構成要素に第1コネクタ部を分解したときに、筐体4側から3つの構成要素を表した斜視図である。
【
図6】第1コネクタ部の中心軸に沿って
図5の3つの構成要素に第1コネクタ部を分解したときに、本体部側から3つの構成要素を表した斜視図である。
【
図7】
図5および
図6に示す3つの構成要素からなる第1コネクタ部の模式的な断面図である。
【
図8】第2コネクタ部の中心軸に沿って、第2コネクタ部を構成する流通孔部材および弾性部材の2つの構成要素に第2コネクタ部を分解したときに、流通孔部材側から2つの構成要素を表した斜視図である。
【
図9】第2コネクタ部を構成する流通孔部材および弾性部材の2つの構成要素に第2コネクタ部を分解したときに、弾性部材側から2つの構成要素を表した斜視図である。
【
図10】
図8および
図9に示す2つの構成要素からなる第2コネクタ部の模式的な断面図である。
【
図11】
図7の第1コネクタ部と
図10の第2コネクタ部とが結合して第1コネクタ部の中空針が、第2コネクタ部の流通孔内の所定位置に到達したときの無菌コネクタの模式的な断面図である。
【
図13】
図7に示す中空針の先端部付近の拡大図である。
【
図14】流出口が中空針の突出方向に開口している中空針の先端部付近の拡大図である。
【
図15】
図5に示す筐体の内側の形状を表した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態の無菌コネクタ10の結合前の外観を、無菌コネクタ10を構成する第1コネクタ部1および第2コネクタ部2のうちの第2コネクタ部2側から表した斜視図であり、
図2は、本発明の一実施形態の無菌コネクタ10の結合前の外観を、第1コネクタ部1側から表した斜視図である。
【0023】
また、
図3は、本発明の一実施形態の無菌コネクタ10の結合後の外観を、第2コネクタ部2側から表した斜視図であり、
図4は、第1コネクタ部1側から表した斜視図である。
【0024】
以下では、一例として、
図1~
図4の無菌コネクタ10は、細胞培養等を目的とする、小型の装置や容器や管で構成された医療システムにおいて、培養液等の流体の流通のために用いられる医療用コネクタであるものとして説明を行う。
【0025】
図1および
図2に示すように、無菌コネクタ10は、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2とで構成されている。
図1および
図2には、第1コネクタ部1の中心軸と第2コネクタ部2の中心軸とが同一の直線OO’上にのっている状態で、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2とが分かれて配置されている様子が示されている。この状態で、第1コネクタ部1に対し第2コネクタ部2が第1コネクタ部1に向かって直線OO’上を相対的に進行して第1コネクタ部1に差し込まれる。このような第1コネクタ部1に対する第2コネクタ部2の差し込みにより、
図3および
図4に示すように第1コネクタ部1と第2コネクタ部2とが結合する。この結合は、後述するように、外部からの雑菌の侵入を抑制しつつ行われる。
【0026】
図1~
図4の無菌コネクタ10では、第1コネクタ部1が有する細長い管状部1A、および、第2コネクタ部2が有する細長い管状部2Aには、それぞれ、上述の医療システムで用いられる小型の装置や容器に接続した、流体を流通させるための管(不図示)が接続する。
図3および
図4に示すように第1コネクタ部1と第2コネクタ部2とが結合することで、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2との間における流体の流通が可能となる。
【0027】
以下、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2のそれぞれの構成について詳しく説明する。まず、第1コネクタ部1について説明する。
【0028】
図5は、第1コネクタ部1の中心軸に沿って、第1コネクタ部1を構成する本体部3、弾性膜5、および筐体4の3つの構成要素に第1コネクタ部1を分解したときに、筐体4側から3つの構成要素を表した斜視図であり、
図6は、第1コネクタ部1の中心軸に沿って
図5の3つの構成要素に第1コネクタ部1を分解したときに、本体部3側から3つの構成要素を表した斜視図であり、
図7は、
図5および
図6に示す3つの構成要素からなる第1コネクタ部1の模式的な断面図である。
【0029】
図5および
図6に示すように、第1コネクタ部1は、本体部3、弾性膜5、および筐体4を備えており、
図5および
図6では、
図1および
図2と同様に第1コネクタ部1の中心軸がのっている直線OO’に沿ってこれら3つの構成要素が示されている。また、
図7では、第1コネクタ部1の中心軸に沿った第1コネクタ部1の断面が示されている。以下、
図7を主に参照しつつ、これら3つの構成要素それぞれについて説明する。
【0030】
本体部3は、中空針31および底部30を備えており、これら中空針31および底部30は、樹脂材料で一体的に形成されている。
図7に示すように、中空針31は、流体が流出する流出口311が形成された尖った先端部310を有しており、中空針31の内部には、流出口311に至る流体の流通路312が形成されている。底部30は、板状の形状を有し、中空針31の先端部310とは反対側の中空針31の後端部313と一方の面301で接続して中空針31がその一方の面301から突出した状態で中空針31を支持している。また、底部30には、中空針31の流通路312と挿通する貫通孔302が形成されている。なお、上述した第1コネクタ部1の管状部1Aは本体部3の一部である。
【0031】
弾性膜5は、中空針31を覆う、弾性体材料で構成された部材であり、弾性膜5の周縁部50は、中空針31の周囲を取り巻く態様で底部30の上述の一方の面301に固定されている。
【0032】
筐体4は筒状の形状を有しており、弾性膜5に覆われた中空針31を取り囲んでいる。筐体4の一端部は、底部30の上述の一方の面301に固定されている。
【0033】
次に、第2コネクタ部2について説明する。
【0034】
図8は、第2コネクタ部2の中心軸に沿って、第2コネクタ部2を構成する流通孔部材20および弾性部材21の2つの構成要素に第2コネクタ部2を分解したときに、流通孔部材20側から2つの構成要素を表した斜視図であり、
図9は、第2コネクタ部2を構成する流通孔部材20および弾性部材21の2つの構成要素に第2コネクタ部2を分解したときに、弾性部材21側から2つの構成要素を表した斜視図であり、
図10は、
図8および
図9に示す2つの構成要素からなる第2コネクタ部2の模式的な断面図である。
【0035】
図8および
図9に示すように、第2コネクタ部2は、流通孔部材20および弾性部材21を備えており、
図8および
図9では、
図1および
図2と同様に第2コネクタ部2の中心軸がのっている直線OO’に沿ってこれら2つの構成要素が示されている。また、
図10では、第2コネクタ部2の中心軸に沿った第2コネクタ部2の断面が示されている。以下、
図10を主に参照しつつ、これら2つの構成要素それぞれについて説明する。
【0036】
流通孔部材20は、2つの端面の間に、
図7に示すように、流体を流通させるための貫通孔である流通孔202が形成された部材である。なお、上述した第2コネクタ部2の管状部2Aは流通孔部材20の一部である。
【0037】
弾性部材21は、
図7に示すように、流通孔部材20の一方の端面201における流通孔202の開口部201aを封止しつつその一方の端面201を被覆する部材である。
【0038】
以下では、
図7の第1コネクタ部1と
図10の第2コネクタ部2との結合について詳しく説明する。
【0039】
第1コネクタ部1と第2コネクタ部2の結合は、第2コネクタ部2の流通孔部材20の少なくともの一部が第1コネクタ部1の底部30に向かって第1コネクタ部1の筐体4の内側に相対的に差し込まれることによって行われる。この差し込みの際には、まず、第1コネクタ部1の中空針31の延長上に第2コネクタ部2の流通孔202が位置する状態で第1コネクタ部1の弾性膜5と第2コネクタ部2の弾性部材21とが互いに接触する。
【0040】
このような弾性膜5と弾性部材8との接触は、典型的には、第1コネクタ部1に対し第2コネクタ部2が、
図1および
図2の直線OO’に沿って第2コネクタ部2から第1コネクタ部1に向かう方向に相対的に進行して第1コネクタ部1に差し込まれた直後に実現するものである。なお、ここでいう、中空針31の延長上に流通孔202が位置する状態は、
図1および
図2に示すような、第1コネクタ部1の中心軸と第2コネクタ部2の中心軸とが同一の直線OO’上にのっている状態と同じである。
【0041】
次に、流通孔部材20が、流通孔部材20の一方の端面201を被覆する弾性部材21を介して弾性膜5を第1コネクタ部1の中空針31の尖った先端部310に向かって押し付ける。これにより、中空針31が、中空針31を覆う弾性膜5、および、流通孔202の開口部201aを封止する弾性部材21をこの順に貫通する。そして、中空針31は、流通孔202内を流通孔部材20の押し付け方向とは反対方向に向かって相対的に進行し流通孔202内の所定位置に到達する。
【0042】
図11は、
図7の第1コネクタ部1と
図10の第2コネクタ部2とが結合して第1コネクタ部1の中空針31が、第2コネクタ部2の流通孔202内の所定位置に到達したときの無菌コネクタ10の模式的な断面図である。
【0043】
図11で示すように、中空針31が流通孔202内の所定位置に到達すると、第1コネクタ部1側の、底部30の貫通孔302および中空針31内の流通路312は、中空針31の先端部310の流出口311を介して、第2コネクタ部2側の流通孔部材20の流通孔202とつながる。この結果、第1コネクタ部1の管状部1Aと第2コネクタ部2の管状部2Aとの間で流体の流通が可能となる。なお、中空針31が流通孔202内を上述の押し付け方向とは反対方向に相対的に進行する際には、中空針31に貫通された後の弾性膜5は、中空針31に沿って弾性部材8に押し下げられ、
図11に示すように、弾性部材8と底部30と筐体4とで囲まれた空間内でつぶれた状態となる。なお、図では、図示の都合上、塊状につぶれた形状が示されているが、蛇腹状に折りたたまれて圧縮された形状が好ましい。
【0044】
以上説明したように無菌コネクタ10では、結合前には弾性膜5や弾性部材21により中空針31や流通孔202が外部から遮断されており、結合時にもこれら弾性膜5や弾性部材21により中空針31や流通孔202のシール性が維持される。このため、無菌コネクタ10では、結合の前後で雑菌が侵入しにくい状態が維持されており、無菌コネクタとしての機能が発揮されている。
【0045】
このように弾性膜と弾性部材の双方が備えられている無菌コネクタでは、電気配線等で使用される一般的なコネクタよりも、結合の際に複雑な動作がより多く伴うため、部品点数が多くなりやすくコネクタ製造の手間がかかる傾向が強い。このため、部品点数を減らして製造効率を向上させることが望まれる。
【0046】
特に近年では、細胞培養等を目的とする、小型の装置や容器や管で構成された医療システムにおいて、培養液等の少流量の流体の流通のための小型の無菌コネクタの需要が高まっている。一般に小型の無菌コネクタほど、部品点数が多いときに組み立てが難しくなり製造効率が低下しやすい。このため、小型の無菌コネクタでは、部品点数を減らして製造効率を向上させる必要性は特に大きい。
【0047】
本実施形態の無菌コネクタ10では、中空針が別個の部材となっている従来の無菌コネクタ(典型的には金属製の中空針を樹脂製の底部が支持する形態の無菌コネクタ)と異なり、中空針31と、中空針31を支持する底部30とが、いずれも本体部3の一部として樹脂材料で一体的に形成されている。このため、中空針と底部とが別体の従来の無菌コネクタと比べ、第1コネクタ部1の構成部品の部品点数が少なくてすみ、第1コネクタ部1の組み立てが容易となっている。この結果、本実施形態の無菌コネクタ10では、従来の無菌コネクタと比べ、製造効率が向上している。さらに、無菌コネクタを廃棄する際に、金属製の中空針を樹脂製の底部から分離するといった分離作業が不要となり、廃棄処理が簡略化される。また、金属製の中空針を使用しないため、金属特有の滅菌処理以外の滅菌手法も採用でき、滅菌手法の選択肢が広がる。
【0048】
特に、無菌コネクタの中でも医療用の無菌コネクタは、小さい構成部品で構成された比較的小型のものが多いため、部品点数が多いときに組み立てが難しくなり製造効率が低下する。このため、本実施形態の無菌コネクタ10を医療用の無菌コネクタに適用した場合、上述した製造効率を向上する本実施形態の無菌コネクタ10の効果がとりわけ有意義である。
【0049】
以下、本実施形態の無菌コネクタ10の他の特徴について詳しく説明する。
【0050】
本実施形態の無菌コネクタ10の第1コネクタ部1では、本体部3は、上述したように、本体部3の一部として、底部30の一方の面301とは反対側の底部30の他方の面303から中空針31の突出方向とは反対方向に突出した管状部1Aを備えている。
図7に示すように、管状部1Aの内部には、底部30の貫通孔302と挿通する流通路12Aが形成されており、その流通路12Aに流体が流れ込むための流入口11Aが管状部1Aの先端に設けられている。
【0051】
【0052】
流通路12Aを形成する管状部1Aの内壁は、
図12に示すように、底部30の上述の他方の面303から離れて先端部の流入口11Aに近づくにつれて広がるテーパー形状を有しており、管状部1Aの突出方向に垂直な流通路12Aの断面の面積は、底部30の他方の面303から離れて先端部の流入口11Aに近づくにつれて大きくなり流入口11Aにおいて最大となる。ここで、本実施形態の無菌コネクタ10では、中空針31、底部30、および管状部1Aが上述の樹脂材料で一体的に形成されたものであることが好ましい。
【0053】
一般に、管状部1Aに接続する外部の管(不図示)は、管状部1Aの側面に外部の管の内面を密着させる態様で管状部1Aに接続する。上述したように、管状部1Aの内壁が上述のテーパー形状を有し流通路12Aの断面積が流入口11Aに近いほど大きくなることで、流入口11Aの大きさが、管状部1Aに接続する外部の管(不図示)の大きさに近い値となる。このため、本実施形態の無菌コネクタ10では、外部の管から流体が管状部1Aに流入するときに管状部1Aの先端から流体が受ける抵抗が減じ、流体が無菌コネクタ10に流れ込みやすくなる。仮に、このような利点を有する管状部1Aが中空針31や底部30とは別個の部品であると部品点数が増加し製造効率の低下を招くことになりかねない。しかしながら、上述の好ましい形態では、中空針31、底部30、および管状部1Aが上述の樹脂材料で一体的に形成されたものであることにより、製造効率を下げることなく上述の管状部1Aの利点を活かすことができる。
【0054】
また、本実施形態の無菌コネクタ10の第1コネクタ部1では、
図5、
図6および
図7に示すように、本体部3が、膨らんだ先端部321を有し底部30の上述の一方の面301から中空針31の突出方向と同じ方向に突出する複数の突起部32(
図5ではその一例として3つの突起部32が示されている)を備えている。また、筐体4は、
図6および
図7に示すように、底部30に固定される筐体4の筒状の形状の一端部において、上述の複数の突起部32をそれぞれ収容する複数の突起部収容孔41(
図6ではその一例として3つの突起部収容孔41が示されている)を備えている。複数の突起部収容孔41は、複数の突起部32の先端部321とそれぞれ係合して筐体4の一端部を底部30の上述の一方の面301に固定する役割を果たす。なお、複数の突起部32と複数の突起部収容孔41との係合の、より具体的な例としては、たとえば、ラチェット係合(この係合の原理については後述)が挙げられる。複数の突起部32の先端部321と複数の突起部収容孔41とが互いに係合する際には、弾性膜5の周縁部50は、
図7に示すように、底部30の一方の面301と筐体4の一端部との間に挟み込まれることで底部30に固定される。ここで、中空針31、底部30、および複数の突起部32は上述の樹脂材料で一体的に形成されたものであることが好ましい。
【0055】
従来の無菌コネクタの第1コネクタ部では、筐体を底部に固定するにあたり樹脂溶着が行われることが多い。一方、本実施形態の無菌コネクタ10の第1コネクタ部1では、複数の突起部32の先端部321を複数の突起部収容孔41に係合させるだけで(すなわち、いわゆるワンタッチの操作で)、筐体4の一端部が底部30の一方の面301に固定される。このように樹脂溶着は不要であって第1コネクタ部1の組み立てが容易となっているため、本実施形態では、無菌コネクタ10の製造効率が向上している。特に、上述のワンタッチの操作の際に弾性膜5の周縁部50が底部30と筐体4とに挟み込まれて固定されるため、弾性膜5の組付けについても従来のような樹脂溶着は不要であり、第1コネクタ部1の組み立てが、より一層容易となっている。このような利点を実現する上で大きな役割を果たす複数の突起部32が、仮に、中空針31や底部30とは別個の部品であるとすると、部品点数が増加し製造効率の低下を招くことになりかねない。しかしながら、上述の好ましい形態では、中空針31、底部30、および複数の突起部32が上述の樹脂材料で一体的に形成されたものであることにより、製造効率を下げることなく、複数の突起部32がもたらす上述の利点を活かすことができる。
【0056】
また、本実施形態の無菌コネクタ10では、
図7に示すように、中空針31は、底部30に向かって広がるテーパー形状の側面314を有している。第1コネクタ部1と第2コネクタ部2とが結合する際には、
図11に示すように、中空針31が流通孔202内を上述の押し付け方向とは反対方向に向かって相対的に進行するにつれ、上述のテーパー形状の側面314のため中空針31の側面314と流通孔202の内壁面との隙間が狭くなっていく。
【0057】
このような形態によれば、流体が、中空針31の内部の流通路312を通って先端部310の流出口311から流通孔202に流出したときに、中空針31の側面314と流通孔202の内壁面との隙間が狭いため、流体がこの隙間を通って逆流することが抑制される。
【0058】
次に、中空針31の先端部310付近の特徴について説明する。
【0059】
図13は、
図7に示す中空針31の先端部310付近の拡大図である。
【0060】
本実施形態の無菌コネクタ10の第1コネクタ部1では、
図13に示すように、中空針31の先端部310に形成された流出口311は、中空針31の突出方向に垂直な、図の2つの矢印で示す横方向に開口している。
【0061】
一般に、中空針の先端部において流出口が中空針の突出方向に開口しているものであると、流出口から流出する流体は、流出口から流出したときの勢いのまま流通孔を流れていくため、無菌コネクタ内部での流体の滞留が起こりにくい。しかしながら、流出口が中空針の突出方向に開口していると、中空針が第1コネクタ部の弾性膜や第2コネクタ部の弾性部材を貫通する際に、流出口付近で弾性膜や弾性部材の一片が削り取られてそのまま流出口付近に残るという、いわゆるコアリングが起きることがある。コアリングが起きると、流出口が詰まって流体が流れにくくなるといった問題が生じる。
【0062】
本実施形態では、中空針31の先端部310の側面には、中空針31の突出方向に沿って水平に広がる平坦部311aにおいて、流出口311が、平坦部311aに垂直な方向に開口している。このため、流出口311付近で弾性膜や弾性部材の一片が削り取られるといったことが起きにくい。この結果、コアリングによって生じる上述の問題は回避される。
【0063】
ただし、本発明では、弾性膜や弾性部材が、比較的削り取られにくい材料で構成されている等の理由によりコアリングの問題がそれほど深刻ではない場合には、中空針の先端部において流出口が中空針31の突出方向に開口している形態を採用してもよい。
【0064】
図14は、流出口311’が中空針31’の突出方向に開口している中空針31’の先端部310’付近の拡大図である。
【0065】
コアリングの問題がそれほど深刻ではない場合には、
図14の中空針31’のように流出口311’が中空針31’の突出方向に開口していることで、流出口から流出する流体は、流出口から流出したときの勢いのまま流通孔を流れていくことができる。本発明では、コアリングの問題がそれほど深刻ではない場合にはこのような中空針31’を採用することで、無菌コネクタ内部での流体の滞留を起こしにくくすることができる。
【0066】
以下、上述の押し付け方向についての第1コネクタ部1と第2コネクタ部2の位置関係を固定するための工夫について説明する。
【0067】
本実施形態の無菌コネクタ10には、
図5および
図7に示すように、第1コネクタ部1の筐体4の筒状の内側の面において、複数のラチェット部42(
図5では一例として3つのラチェット部42)が形成されている。複数のラチェット部42のそれぞれは、
図7に示すように、底部30の側を向いた第1斜面421が底部30の側とは反対側を向いた第2斜面422に比べ傾斜が急になっている山をそれぞれ有している。
【0068】
また、第2コネクタ部2の流通孔部材20には、
図8、
図9、および
図10に示すように、流通孔部材20の側面(より正確には、第1コネクタ部1の筐体4の内側に相対的に差し込まれる、上述した流通孔部材20の少なくともの一部の側面)において、ラチェット爪203が形成されている。ラチェット爪203は、
図8および
図9に示すように、上述の外側方向に突き出すとともに流通孔202を周回する態様で延びる突条からなるものである。
図10に示すように、ラチェット爪203の突条では、上述の押し付け方向を向いた第1斜面2031が、押し付け方向とは反対側を向いた第2斜面2032よりも緩やかに傾斜している。
【0069】
中空針31が流通孔202内を上述の押し付け方向とは反対方向に相対的に進行する際には、ラチェット爪203は、複数のラチェット部42それぞれの第2斜面422を、ラチェット爪203の第1斜面2031で押しながら、複数のラチェット部42それぞれの第2斜面422に沿って底部30の側に相対的に進行する。そして、
図11に示すように、複数のラチェット部42それぞれの第1斜面421に対してラチェット爪203の第2斜面2032が当接する当接位置にラチェット爪203が到達する。このような当接位置へラチェット爪203の到達により複数のラチェット部42とラチェット爪203とが互いに係合(ラチェット係合)する。このような状態が実現するときの流通孔202内における中空針31の位置が、上述した所定位置である。
【0070】
このようなラチェット係合が行われる形態によれば、第1コネクタ部1に対し第2コネクタ部2が各中心軸の方向(
図1および
図2の直線OO’の方向)に差し込まれるだけで、上述の押し付け方向について第1コネクタ部1と第2コネクタ部2の位置関係が固定され両者の結合が実現する。従って、たとえば特許文献1の無菌コネクタのように、結合時において第1コネクタ部1に対し第2コネクタ部2を各中心軸の周りに回転させる(たとえば特許文献1の段落[0026]および[0029]参照)といった操作は不要である。このように本実施形態の無菌コネクタ10では、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2の結合を実現する(より正確には結合状態を固定する)のがきわめて簡便であるため、結合に手間がかからない。このため、本実施形態の無菌コネクタ10は、結合時の操作性が高く小型化に適している。実際、無菌コネクタ10が小型化するほど、第1コネクタ部1に対し第2コネクタ部2を各中心軸の周りに回転させるといった操作がしづらくなる。上述したように、こうした回転操作を省くことで、本実施形態の無菌コネクタ10では、小型であっても高い操作性を結合時に発揮できる。
【0071】
ここで、
図5に示す第1コネクタ部1の筐体4では、上述したように、複数のラチェット部の一例として3個のラチェット部42が形成されている。そして、ラチェット部42が形成されている側壁43(以下、ラチェット部形成側壁43と呼ぶ)は、切り欠け部44を間に置いて、ラチェット部42が形成されていない隣の側壁45(以下、非ラチェット部形成側壁45と呼ぶ)から分離している。
図7では、筐体4の断面において、中空針31よりも上側のラチェット部形成側壁43の断面と、中空針31よりも下側の非ラチェット部形成側壁45の断面とが示されている。
【0072】
このように上記2種類の側壁が互いに分離している理由は、3個のラチェット部形成側壁43が変形を起こしやすくするためである。より詳しくは、ラチェット爪203が、3個のラチェット部42それぞれの第2斜面422をラチェット爪203の第1斜面2031で押す際に、3個のラチェット部形成側壁43が、直線OO’から離れる方向に広がる変形を起こしやすくするためである。このような変形は元の形状に戻ろうとする反跳力を生じる。ラチェット爪203の第1斜面2031が3個のラチェット部42の第2斜面422を通り過ぎた瞬間に、3個のラチェット部形成側壁43は、ラチェット爪203の第1斜面2031からの力を受けなくなるため、上述の反跳力で元の形状に戻ろうとして、ラチェット爪203の第2斜面2032が3個のラチェット部42それぞれの第1斜面421に当接することとなる。このように上記2種類の側壁が互いに分離している構成により、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2とが強固に結合しやすくなる。
【0073】
次に、中心軸まわりの回転方向について第1コネクタ部1と第2コネクタ部2の位置関係を固定するための工夫について説明する。
【0074】
図15は、
図5に示す筐体4の内側の形状を表した斜視図である。
【0075】
図15に示すように、第1コネクタ部1の筐体4は、その筒状の内側の面において上述の押し付け方向に沿って延びる複数の溝部46を有している。この図では、一例として、筐体4の非ラチェット部形成側壁45の内側において、1つの非ラチェット部形成側壁45あたり2本の溝部46が、図の直線OO’上の筐体4の中心軸に沿って図の奥側に向かう方向に沿って延びている様子が示されている。ここで、
図7の断面図では、非ラチェット部形成側壁45において、非ラチェット部形成側壁45よりも底部30側の筐体4の他の側壁部分よりも図の下方向に少し凹んだ部分として溝部46が表されている。
【0076】
一方、
図8および
図9に示すように、第2コネクタ部2の流通孔部材20は、流通孔部材20の側面(より正確には、第1コネクタ部1の筐体4の内側に相対的に差し込まれる、上述した流通孔部材20の少なくともの一部の側面)において、上述の押し付け方向に沿って延びる複数の突条204を有している。ここで、
図10の断面図では、周囲よりも図の下方向に突出した部分として突条204が表されている。
【0077】
中空針31が流通孔202内を上述の押し付け方向とは反対方向に相対的に進行する際には、流通孔部材20の側面上の複数の突条204は、筐体4の内側の面上の複数の溝部46にそれぞれ嵌まり込む。そして、複数の突条204のそれぞれは、その嵌まり込んだ溝部46に沿って押し付け方向に相対的に進行する。
【0078】
このように複数の突条204が複数の溝部46に嵌まり込んだ状態は、中空針31が上述の所定位置に達し第1コネクタ部1と第2コネクタ部2の結合が完了したときも維持される。
図7では、上述した所定位置で上述のラチェット係合が行われた状態において、突条204が溝部46に嵌まり込んでいる様子が示されている。
【0079】
このような形態によれば、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2の結合の際に複数の溝部46に複数の突条204が嵌まり込むことで、第1コネクタ部1および第2コネクタ部2の中心軸まわりの回転が抑制される。この結果、中心軸まわりの回転方向について第1コネクタ部1と第2コネクタ部2の位置関係が固定されることとなる。
【0080】
最後に、本実施形態における弾性膜5や弾性部材21の特徴についてもう少し詳しく説明する。
【0081】
本実施形態の無菌コネクタ10では、中空針31によって貫通される、中空針31の尖った先端部310に近接した箇所の弾性膜5は、弾性膜5の残りの部分よりも厚さが薄くなっている(
図7参照)。同様に、中空針31によって貫通される、流通孔202の開口部201aを封止する箇所の弾性部材21は、弾性部材21の残りの部分よりも厚さが薄くなっている(
図10参照)。このように貫通箇所の弾性膜5や弾性部材21の厚さが薄くなることで、本実施形態の無菌コネクタ10では、中空針31が弾性膜5や弾性部材21を貫通する際に弾性膜5や弾性部材21から受ける弾性抵抗が小さく結合しやすくなっている。このため、本実施形態の無菌コネクタ10は、結合時の操作性が高く小型化に適している。
【0082】
以上が本実施形態の説明である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、無菌コネクタの製造効率の向上に有用である。
【符号の説明】
【0084】
1:第1コネクタ部、1A:管状部、2:第2コネクタ部、2A:管状部、3:本体部、4:筐体、5:弾性膜、10:無菌コネクタ、20:流通孔部材、21:弾性部材、30:底部、31:中空針、32:突起部、41:突起部収容孔、42:ラチェット部、43:ラチェット部形成側壁、44:切り欠け部、45:非ラチェット部形成側壁、46:溝部、201:一方の端面、201a:開口部、202:流通孔、203:ラチェット爪、204:突条、301:一方の面、302:貫通孔、303:他方の面、310:先端部、311:流出口、311a:平坦部、312:流通路、313:後端部、314:側面、321:先端部、421:第1斜面、422:第2斜面、2031:第1斜面、2032:第2斜面