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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】免震機構
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20230529BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
F16F15/02 L
F16F15/02 E
E04H9/02 331E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019171280
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021046932
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】劉 銘崇
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-130216(JP,A)
【文献】特開2017-115960(JP,A)
【文献】特開2015-230033(JP,A)
【文献】特開2004-19859(JP,A)
【文献】特開2018-76701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00-15/36
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に相対変位可能な上部構造体と下部構造体との間に設けられる免震機構であって、
互いに対向配置された一対の案内部材と、
該一対の案内部材の間に介装された可動子と、を備え、
前記一対の案内部材は、
前記上部構造体の底部に固定され、一の水平方向を長手方向とする上部案内部材と、
前記下部構造体の上部に固定され、水平方向のうち前記一の水平方向と直交する方向を長手方向とする下部案内部材と、を有し、
前記可動子は、前記上部案内部材に対して該上部案内部材の前記長手方向に相対変位可能であるとともに、前記下部案内部材に対して該下部案内部材の前記長手方向に相対変位可能であり、
前記案内部材は、それぞれの前記長手方向の中央部から端部側に向かうにしたがって次第に対向する前記案内部材側に近接する傾斜面を有し、
前記案内部材の傾斜面には、複数の滑り板が、それぞれの前記長手方向に連続するとともに水平方向のうち前記長手方向と直交する短手方向の位置を異ならせて設けられ、
前記可動子の上面は、前記上部案内部材の傾斜面に対向配置され、
前記可動子の下面は、前記下部案内部材の傾斜面に対向配置され、
前記可動子の上面及び前記可動子の下面は、対向する前記案内部材の傾斜面に沿うように形成され、
前記可動子の上面及び前記可動子の下面には、複数の摩擦板が、対向する前記案内部材の前記短手方向に隣接配置され、
前記摩擦板は、対向する前記案内部材に設けられた複数の前記滑り板のうち前記短手方向の位置の対応する前記滑り板と当接可能とされ、
一の前記摩擦板と該摩擦板と当接する前記滑り板との間の摩擦係数は、他の前記摩擦板と該摩擦板と当接する前記滑り板との間の摩擦係数と異なることを特徴とする免震機構。
【請求項2】
前記複数の滑り板は、互いに厚みが異なり、
前記複数の摩擦板は、互いに厚みが異なり、
当接する前記滑り板の前記厚みと前記摩擦板の厚みとの合計は一定であることを特徴とする請求項1に記載の免震機構。
【請求項3】
前記案内部材の前記長手方向の端部側に配置された前記滑り板と該滑り板と当接する前記摩擦板との間の摩擦係数は、前記案内部材の前記長手方向の中央部側に配置された前記滑り板と該滑り板と当接する前記摩擦板との間の摩擦係数よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の免震機構。
【請求項4】
前記滑り板の前記案内部材の前記短手方向の長さと、前記滑り板と当接する前記摩擦板の前記案内部材の前記短手方向の長さは、互いに等しいことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の免震機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建物や精密機器等の地震被害を防止(抑止)するための免震機構が知られている。下記の特許文献1には、免震対象となる上部構造体の底部に固定された上部案内部材と、下部構造体の上部に固定された下部案内部材との間に摺動子となる可動子を介装した免震機構が開示されている。この免震機構では、可動子と上部案内部材との摺動面が一の水平方向に沿って逆V字型状となる傾斜面に形成され、可動子と下部案内部材との摺動面が一の水平方向に直交する他の水平方向に沿ってV字状となる傾斜面に形成されている。可動子が傾斜面に沿って移動することにより、地震が生じた際の加速度の低減、振動の減衰及び変位の回復を図ることができる。
【0003】
特許文献1に記載の免震機構では、地震動が大きくなると変位が大きくなるため、上部案内部材及び下部案内部材の長さ(可動子と相対変位する方向の長さ)を長くして対応している。しかし、敷地制限等の関係で免震機構(免震装置)が変位可能なクリアランスは限られている。そのため、免震効果を損なわずに応答変位を抑制できる仕組みが求められている。
【0004】
一般的に、滑り支承においては、滑り板(上部案内部材の下面及び下部案内部材の上面)と摩擦板(可動子の上下面)とはセットで使用することで所要の摩擦係数を実現している。すなわち1種類の摩擦板では、2種類の摩擦係数を実現できない。上記の課題に対して、下記の特許文献2で、地震による応答変位が想定を超えた場合に対して、多段勾配を設置することで応答変位を抑制することができる多段勾配傾斜滑り支承を提案している。
【0005】
図21及び図22に示すように、滑り板201,202及び摩擦板211,212に、θ11及びθ12の2種類の傾斜角度を設けるようにしている。滑り板(滑り面)202の傾斜角度θ12は、滑り板201の傾斜角度θ11より大きくしている。滑り板202の摩擦係数は、滑り板201の摩擦係数より大きくしている。図23に示すように、滑り板の滑り板201と滑り板202とは、別々のレールとしている(水平方向のうち可動子と相対変位する方向と直交する方向の位置を異ならせている)。このようにして、応答変位を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-130216号公報
【文献】特開2017-115960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の免震機構では、上部案内部材、下部案内部材及び可動子の構造は特許文献1に示す構造よりも複雑で、サイズが大きくなり、高い製作精度が求められ、手間がかかり、製作コストも高くなる。また、滑り面1から滑り面2に乗り換える際や滑り板201から滑り板202に乗り換える際に、傾斜角度が異なるため、衝撃力が生じる可能性がある。また、滑り板201と滑り板202との間の乗り換えのために、図24に示す傾斜角度θ11と傾斜角度θ12との重ね範囲A1が必要であり、小さいクリアランスしか設けられない敷地に適用困難である。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、より簡易な構成で、応答変位を抑制することができる免震機構を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る免震機構は、水平方向に相対変位可能な上部構造体と下部構造体との間に設けられる免震機構であって、互いに対向配置された一対の案内部材と、該一対の案内部材の間に介装された可動子と、を備え、前記一対の案内部材は、前記上部構造体の底部に固定され、一の水平方向を長手方向とする上部案内部材と、前記下部構造体の上部に固定され、水平方向のうち前記一の水平方向と直交する方向を長手方向とする下部案内部材と、を有し、前記可動子は、前記上部案内部材に対して該上部案内部材の前記長手方向に相対変位可能であるとともに、前記下部案内部材に対して該下部案内部材の前記長手方向に相対変位可能であり、前記案内部材は、それぞれの前記長手方向の中央部から端部側に向かうにしたがって次第に対向する前記案内部材側に近接する傾斜面を有し、前記案内部材の傾斜面には、複数の滑り板が、それぞれの前記長手方向に連続するとともに水平方向のうち前記長手方向と直交する短手方向の位置を異ならせて設けられ、前記可動子の上面は、前記上部案内部材の傾斜面に対向配置され、前記可動子の下面は、前記下部案内部材の傾斜面に対向配置され、前記可動子の上面及び前記可動子の下面は、対向する前記案内部材の傾斜面に沿うように形成され、前記可動子の上面及び前記可動子の下面には、複数の摩擦板が、対向する前記案内部材の前記短手方向に隣接配置され、前記摩擦板は、対向する前記案内部材に設けられた複数の前記滑り板のうち前記短手方向の位置の対応する前記滑り板と当接可能とされ、一の前記摩擦板と該摩擦板と当接する前記滑り板との間の摩擦係数は、他の前記摩擦板と該摩擦板と当接する前記滑り板との間の摩擦係数と異なることを特徴とする。
【0010】
このように構成された免震機構では、一の摩擦板と摩擦板と当接する滑り板との間の摩擦係数と他の摩擦板と摩擦板と当接する滑り板との間の摩擦係数とが異なる構成で応答変位を抑制することができるため、多段勾配傾斜滑り支承のように多段勾配を設置するよりも簡易な構成であり、製造手間がかからない。
【0011】
また、本発明に係る免震機構は、前記複数の滑り板は、互いに厚みが異なり、前記複数の摩擦板は、互いに厚みが異なり、当接する前記滑り板の前記厚みと前記摩擦板の厚みとの合計は一定であることが好ましい。
【0012】
このように構成された免震機構では、当接する滑り板の厚みと摩擦板の厚みとの合計は一定であるため、一の滑り板及び摩擦板が当接した状態から、可動子が案内部材に対して相対変位して、他の滑り板及び摩擦板が当接した状態に切り替わる際に、上下方向に大きく変位することを抑制することができる。
【0013】
また、本発明に係る免震機構は、前記案内部材の前記長手方向の端部側に配置された前記滑り板と該滑り板と当接する前記摩擦板との間の摩擦係数は、前記案内部材の前記長手方向の中央部側に配置された前記滑り板と該滑り板と当接する前記摩擦板との間の摩擦係数よりも大きくてもよい。
【0014】
このように構成された免震機構では、案内部材の長手方向の中央部側の滑り板及び摩擦板が当接した状態から、案内部材の長手方向の端部側の滑り板及び摩擦板が当接した状態に切り替わると、滑り板と摩擦板との間の摩擦係数が大きくなるため、応答変位をより確実に抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係る免震機構は、前記滑り板の前記案内部材の前記短手方向の長さと、前記滑り板と当接する前記摩擦板の前記案内部材の前記短手方向の長さは、互いに等しくてもよい。
【0016】
このように構成された免震機構では、当接する滑り板と摩擦板とは、案内部材の短手方向の長さは互いに等しいため、滑り板と摩擦板とが当接する面積を大きく確保でき、大きな摩擦力が発揮され、応答変位をより一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る免震機構によれば、より簡易な構成で、応答変位を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る免震機構を上方から見た図である。
図2】本発明の一実施形態に係る免震機構の断面図であり、(a)図1のA1-A1線断面図であり、(b)図1のA2-A2線断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る免震機構の断面図であり、(a)図1のB1-B1線断面図であり、(b)図1のB2-B2線断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る免震機構の上部案内部材を下方から見た斜視図である。
図5】本発明の一実施形態に係る免震機構の下部案内部材を上方から見た斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係る免震機構の可動子を上方から見た斜視図である。
図7】本発明の一実施形態に係る免震機構の可動子を下方から見た斜視図である。
図8】(a)本発明の一実施形態に係る免震機構の下部案内部材の側面図であり、(b)第1滑り板及び第2滑り板を拡大した側面図である。
図9】本発明の一実施形態に係る免震機構の上部案内部材の下面及び下部案内部材の上面を示す図である。
図10】本発明の一実施形態に係る免震機構の可動子の第1下部摩擦板及び第2下部摩擦板の側面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る免震機構の第1滑り板及び第1摩擦板の厚みを説明する図である。
図12】本発明の一実施形態に係る免震機構の第2滑り板及び第2摩擦板の厚みを説明する図である。
図13】本発明の一実施形態に係る免震機構の可動子が下部案内部材の長手方向の中央に配置された状態を示す図である。
図14】本発明の一実施形態に係る免震機構の可動子が切替長さL1の範囲内で移動し、第1滑り板が第1摩擦板に接触している状態を示す図である。
図15】本発明の一実施形態に係る免震機構の可動子が切替長さL1の範囲外に移動し、第2滑り板が第2摩擦板に接触している状態を示す図である。
図16】本発明の一実施形態に係る免震機構の可動子の移動と復元力との関係を示す図であり、(a)は初期状態を示し、(b)は可動子が切替長さL1の範囲内で移動した場合を示し、(c)は可動子が切替長さL1の範囲外に移動した場合を示す。
図17】本発明の一実施形態に係る免震機構の復元力特性を示す図であり、(a)は摩擦力復元力を示し、(b)は傾斜復元力を示し、(c)は摩擦復元力と傾斜復元力との合成後の復元力特性を示している。
図18】本発明の一実施形態等の解析結果(最大応答変位)を示すグラフである。
図19】本発明の一実施形態等の解析結果(残留変位)を示すグラフである。
図20】本発明の一実施形態の変形例に係る免震機構の案内部材において、傾斜面を正面から見た図である。
図21】本発明の一実施形態の変形例に係る免震機構の可動子の第1摩擦板、第2摩擦板及び第3摩擦板の側面図である。
図22】従来の多段勾配傾斜滑り支承の可動子を示す斜視図である。
図23】従来の多段勾配傾斜滑り支承の案内部材を示す側面図である。
図24】従来の多段勾配傾斜滑り支承の案内部材の傾斜面を正面から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る免震機構について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る免震機構を上方から見た図である。図2は、本発明の一実施形態に係る免震機構の断面図であり、(a)図1のA1-A1線断面図であり、(b)図1のA2-A2線断面図である。図3は、本発明の一実施形態に係る免震機構の断面図であり、(a)図1のB1-B1線断面図であり、(b)図1のB2-B2線断面図である。
図2及び図3に示すように、本実施形態に係る免震機構100は、上部構造体101と下部構造体102との間の免震層103に設けられている。
【0020】
下部構造体102は、地盤に支持されている。上部構造体101と下部構造体102とは、水平方向に相対変位可能に構成されている。なお、免震層103には、1以上の免震機構100が設けられている。
【0021】
免震機構100は、上部案内部材(案内部材)1Aと、下部案内部材(案内部材)2Aと、可動子3と、を備えている。上部案内部材1Aは、上部構造体101の底部に固定されている。下部案内部材2Aは、上部案内部材1Aの下方に配置されている。下部案内部材2Aは、下部構造体102の上部に固定されている。上部案内部材1Aと下部案内部材2Aとは、上下方向に対向して配置されている。可動子3は、上部案内部材1Aと下部案内部材2Aとの間に介装されている。
【0022】
上部案内部材1Aと下部案内部材2Aとは、水平方向に相対変位可能に構成されている。上部案内部材1Aと下部案内部材2Aとの鉛直方向の相対変位は、水平方向の相対変位により決定される。
【0023】
図1に示すように、上部案内部材1Aは、長尺のブロック状の部材で構成されている。上部案内部材1Aの長手方向が一の水平方向(X方向とする)となる向きに、上部案内部材1Aは配置されている。上部案内部材1Aは、不図示の固定板部を介して上部構造体101に固定されている。
【0024】
図4は、上部案内部材1Aを下方から見た斜視図である。
図4に示すように、上部案内部材1Aの下面1dの長手方向は、X方向に沿っている。上部案内部材1Aの下面1dの短手方向(幅方向)は、X方向に直交する他の水平方向(Y方向とする)に沿っている。
【0025】
上部案内部材1Aの下面1dは、X方向の略中央部が上側に凸となるように形成されている。上部案内部材1Aの下面1dを上部当接面1dとし、上部当接面1dのX方向の略中央部を上側中央部1mとする。
【0026】
上部当接面1dは、第1上部傾斜面11と、第2上部傾斜面12と、を有している。
【0027】
第1上部傾斜面11は、上側中央部1mからX方向の一方側に延びている。第1上部傾斜面11は、上側中央部1mからX方向の一方側に向かうに従って漸次下方(下部案内部材2A側に近接する方向)に向かう平面に形成されている。第1上部傾斜面11の水平面に対する傾斜角度はθとなっている。
【0028】
第2上部傾斜面12は、上側中央部1mからX方向の他方側に延びている。第2上部傾斜面12は、上側中央部1mからX方向の他方側に向かうに従って漸次下方(下部案内部材2A側に近接する方向)に向かう平面に形成されている。第2上部傾斜面12の水平面に対する傾斜角度は、第1上部傾斜面11の水平面に対する傾斜角度と同じθとなっている。第1上部傾斜面11と第2上部傾斜面12とは、上側中央部1mにおいて連続している。
【0029】
第1上部傾斜面11には、第1滑り板111及び第2滑り板121,122が設けられている。
【0030】
第1滑り板111は、上側中央部1mからX方向の一方側に延びている。第1滑り板111は、第1上部傾斜面11の幅方向の中央に配置されている。
【0031】
第1滑り板111は、X方向を長手方向とし、Y方向を短手方向とする長方形をなしている。
【0032】
第2滑り板121,122は、第1上部傾斜面11のX方向の一方側の端部から上側中央部1m側に延びている。第2滑り板121,122は、第1上部傾斜面11の幅方向の両側に配置されている。第2滑り板121,122のX方向に他方側の端部と第1滑り板111のX方向の一方側との端部とは、X方向に所定長さ重なって配置されている。
【0033】
第2滑り板121,122は、X方向を長手方向とし、Y方向を短手方向とする長方形をなしている。
【0034】
第2上部傾斜面12には、第1滑り板113及び第2滑り板123,124が設けられている。
【0035】
第1滑り板113は、上側中央部1mからX方向の他方側に延びている。第1滑り板113は、第2上部傾斜面12の幅方向の中央に配置されている。第1滑り板113のX方向の一方側の端部は、第1上部傾斜面11に設けられた第1滑り板111のX方向の他方側の端部と接続されている。換言すると、第1滑り板111と第1滑り板113とは連続している。
【0036】
第1滑り板113は、X方向を長手方向とし、Y方向を短手方向とする長方形をなしている。
【0037】
第2滑り板123,124は、第2上部傾斜面12のX方向の他方側の端部から上側中央部1m側に延びている。第2滑り板123,124は、第2上部傾斜面12の幅方向の両側に配置されている。第2滑り板123,124のX方向に一方側の端部と第1滑り板113のX方向の他方側との端部とは、X方向に所定長さ重なって配置されている。
【0038】
第2滑り板123,124は、X方向を長手方向とし、Y方向を短手方向とする長方形をなしている。
【0039】
図5は、下部案内部材2Aを上方から見た斜視図である。
図5に示すように、下部案内部材2Aは、上部案内部材1Aと略同じ長尺のブロック状の部材で構成されている。下部案内部材2Aの長手方向がY方向となる向きに、下部案内部材2Aは配置されている。下部案内部材2Aは、不図示の固定板部を介して下部構造体102に固定されている。
【0040】
下部案内部材2Aは、上部案内部材1Aを上下反転させて、水平方向に90度回転させた構成である。具体的には、下部案内部材2Aの上面2uは、Y方向の略中央部が下側に凸となるように形成されている。下部案内部材2Aの上面2uを下部当接面2uとし、下部当接面2uのY方向の略中央部を下側中央部2mとする。
【0041】
下部当接面2uは、第1下部傾斜面21と、第2下部傾斜面22と、を有している。
【0042】
第1下部傾斜面21は、下側中央部2mからY方向の一方側に延びている。第1下部傾斜面21は、下側中央部2mからY方向の一方側に向かうに従って漸次上方(上部案内部材1A側に近接する方向)に向かう平面に形成されている。第1下部傾斜面21の水平面に対する傾斜角度は、第1上部傾斜面11及び第2上部傾斜面12の水平面に対する傾斜角度と同じθとなっている。
【0043】
第2下部傾斜面22は、下側中央部2mからY方向の他方側に延びている。第2下部傾斜面22は、下側中央部2mからY方向の他方側に向かうに従って漸次上方(上部案内部材1A側に近接する方向)に向かう平面に形成されている。第2下部傾斜面22の水平面に対する傾斜角度は、第1上部傾斜面11,第2上部傾斜面12及び第1下部傾斜面21の水平面に対する傾斜角度と同じθとなっている。第1下部傾斜面21と第2下部傾斜面22とは、下側中央部2mにおいて連続している。
【0044】
第1下部傾斜面21には、第1滑り板115及び第2滑り板125,126が設けられている。
【0045】
第1滑り板115は、下側中央部2mからY方向の一方側に延びている。第1滑り板115は、第1下部傾斜面21の幅方向の中央に配置されている。
【0046】
第1滑り板115は、Y方向を長手方向とし、X方向を短手方向とする長方形をなしている。
【0047】
第2滑り板125,126は、第1下部傾斜面21のY方向の一方側の端部から下側中央部2m側に延びている。第2滑り板125,126は、第1下部傾斜面21の幅方向の両側に配置されている。第2滑り板125,126のY方向に他方側の端部と第1滑り板115のY方向の一方側との端部とは、Y方向に所定長さ重なって配置されている。
【0048】
第2滑り板125,126は、Y方向を長手方向とし、X方向を短手方向とする長方形をなしている。
【0049】
第2下部傾斜面22には、第1滑り板117及び第2滑り板127,128が設けられている。
【0050】
第1滑り板117は、下側中央部2mからY方向の他方側に延びている。第1滑り板117は、第2下部傾斜面22の幅方向の中央に配置されている。第1滑り板117のY方向の一方側の端部は、第1下部傾斜面21に設けられた第1滑り板115のY方向の他方側の端部と接続されている。換言すると、第1滑り板117と第1滑り板115とは連続している。
【0051】
第1滑り板117は、Y方向を長手方向とし、X方向を短手方向とする長方形をなしている。
【0052】
第2滑り板127,128は、第2下部傾斜面22のY方向の他方側の端部から下側中央部2m側に延びている。第2滑り板127,128は、第2下部傾斜面22の幅方向の両側に配置されている。第2滑り板127,128のY方向に一方側の端部と第1滑り板117のY方向の他方側との端部とは、Y方向に所定長さ重なって配置されている。
【0053】
第2滑り板127,128は、Y方向を長手方向とし、X方向を短手方向とする長方形をなしている。
【0054】
第1滑り板111~117及び第2滑り板121~128は、それぞれテフロン(登録商標)等の滑り材で構成されている。
【0055】
図6は、可動子3を上方から見た斜視図である。図7は、可動子3を下方から見た斜視図である。
図6及び図7に示すように、可動子3は、本体部30と、第1上部摩擦板321,323(図6参照。以下同じ)、第2上部摩擦板331~334(図6参照。以下同じ)、第1下部摩擦板325,327(図7参照。以下同じ)及び第2下部摩擦板335~338(図7参照。以下同じ)と、を有している第1上部摩擦板321,323及び第2上部摩擦板331~334は、本体部30の上部に設けられている。第1下部摩擦板325,327及び第2下部摩擦板335~338は、本体部30の下部に設けられている。
【0056】
図6に示すように、本体部30は、基部31と、一対の上部突出板部32と、一対の下部突出板部33と、を有している。
【0057】
基部31は、略直方体状に形成されている。基部31の上面31u及び下面31d(図7参照。以下同じ。)がそれぞれ上下方向を向き、基部31の一対の側面がX方向を向くとともに基部31の他の一対の側面がY方向を向くように、基部31は配置されている。
【0058】
基部31の上面31uは、X方向の略中央部が上側に凸となるように形成されている。基部31の上面31uは、上部案内部材1Aの上部当接面1dに対向配置されている。基部31の上面31uには、第1傾斜上面311及び第2傾斜上面312が形成されている。
【0059】
第1傾斜上面311は、X方向の略中央からX方向の一方側に向かうに従って漸次下方に向かう平面に形成されている。第1傾斜上面311の水平面に対する傾斜角度は、上部案内部材1Aにおける第1上部傾斜面11の水平面に対する傾斜角度と同じθとなっている。
【0060】
第2傾斜上面312は、X方向の略中央からX方向の他方側に向かうに従って漸次下方に向かう平面に形成されている。第2傾斜上面312の水平面に対する傾斜角度は、上部案内部材1Aにおける第2上部傾斜面12の水平面に対する傾斜角度と同じθとなっている。
【0061】
図7に示すように、基部31の下面31dは、Y方向の略中央部が下側に凸となるように形成されている。基部31の下面31dは、下部案内部材2Aの下部当接面2uに対向配置されている。基部31の下面31dには、第1傾斜下面313及び第2傾斜下面314が形成されている。
【0062】
第1傾斜下面313は、Y方向の略中央からY方向の一方側に向かうに従って漸次上方に向かう平面に形成されている。第1傾斜下面313の水平面に対する傾斜角度は、下部案内部材2Aにおける第1下部傾斜面21の水平面に対する傾斜角度と同じθとなっている。
【0063】
第2傾斜下面314は、Y方向の略中央からY方向の他方側に向かうに従って漸次上方に向かう平面に形成されている。第2傾斜下面314の水平面に対する傾斜角度は、下部案内部材2Aにおける第2下部傾斜面22の水平面に対する傾斜角度と同じθとなっている。
【0064】
図6に示すように、一対の上部突出板部32は、基部31のY方向の両端部からそれぞれ上方に突出している。上部突出板部32は、平板状に形成されている。上部突出板部32の板面がY方向を向くように、上部突出板部32は設けられている。一対の上部突出板部32の間には、第1上部摩擦板321,323及び第2上部摩擦板331~334が配置されている。
【0065】
上部突出板部32には、テフロン(登録商標)等の滑り材32aが設けられている。滑り材32aは、一対の上部突出板部32における互いに対向する面の上端部から上部突出板部32の上面にかけて配置されている。
【0066】
一対の上部突出板部32の上端部は、第1上部摩擦板321,323及び第2上部摩擦板331~334よりも上方に突出している。可動子3が上部案内部材1Aの下方に配置されると、一対の上部突出板部32が上部案内部材1AをY方向の両側から挟み込むように、一対の上部突出板部32は上部案内部材1Aの側方に配置される。一対の上部突出板部32に設けられた滑り材32aは、上部案内部材1Aの側面と当接する。
【0067】
図7に示すように、一対の下部突出板部33は、基部31のX方向の両端部からそれぞれ下方に突出している。下部突出板部33は、平板状に形成されている。下部突出板部33の板面がX方向を向くように、下部突出板部33は設けられている。一対の下部突出板部33の間には、第1下部摩擦板325,327及び第2下部摩擦板335~338が配置されている。
【0068】
下部突出板部33には、テフロン(登録商標)等の滑り材33aが設けられている。滑り材33aは、一対の下部突出板部33における互いに対向する面の下端部から下部突出板部33の下面にかけて配置されている。
【0069】
一対の下部突出板部33の下端部は、第1下部摩擦板325,327及び第2下部摩擦板335~338よりも下方に突出している。可動子3が下部案内部材2Aの下方に配置されると、一対の下部突出板部33が下部案内部材2AをX方向の両側から挟み込むように、一対の下部突出板部33は下部案内部材2Aの側方に配置される。一対の下部突出板部33に設けられた滑り材33aは、下部案内部材2Aの側面と当接する。
【0070】
図6に示すように、第1上部摩擦板321,323及び第2上部摩擦板331~334は、それぞれ略板状に形成されている。第1上部摩擦板321,323及び第2上部摩擦板331~334の上面は、上部案内部材1Aの上部当接面1d側を向いている。第1上部摩擦板321,323及び第2上部摩擦板331~334の下面は、本体部30に固定されている。
【0071】
第1上部摩擦板321及び第2上部摩擦板331,332は、基部31の第1傾斜上面311に設けられている。第1上部摩擦板321及び第2上部摩擦板331,332の上面は、第1傾斜上面311と平行に配置されている。
【0072】
第1上部摩擦板322及び第2上部摩擦板333,334は、基部31の第2傾斜上面312に設けられている。第1上部摩擦板322及び第2上部摩擦板333,334の上面は、第2傾斜上面312と平行に配置されている。
【0073】
第1上部摩擦板321は、基部31の第1傾斜上面311のY方向の略中央に配置されている。第2上部摩擦板331,332は、第1上部摩擦板321を挟んでY方向の両側に配置されている。第2上部摩擦板331、第1上部摩擦板321及び第2上部摩擦板332が、Y方向(上部案内部材1Aの短手方向)に並んで隣接配置されている。
【0074】
第1上部摩擦板323は、基部31の第2傾斜上面312のY方向の略中央に配置されている。第2上部摩擦板333,334は、第1上部摩擦板323を挟んでY方向の両側に配置されている。第2上部摩擦板333、第1上部摩擦板323及び第2上部摩擦板334が、Y方向(上部案内部材1Aの短手方向)に並んで隣接配置に並んで隣接配置されている。
【0075】
第1上部摩擦板321及び第2上部摩擦板331,332の上面は、X方向の一方側に向かうに従って漸次下側に向かう平面に形成されている。第1上部摩擦板321は、上部案内部材1Aの第1滑り板111と面接触可能とされている。第2上部摩擦板331,332は、上部案内部材1Aの第2滑り板121,122とそれぞれ面接触可能及び摺動可能とされている。
【0076】
第1上部摩擦板323及び第2上部摩擦板333,334の上面は、X方向の他方側に向かうに従って漸次下側に向かう平面に形成されている。第1上部摩擦板323は、上部案内部材1Aの第1滑り板113と面接触可能とされている。第2上部摩擦板333,334は、上部案内部材1Aの第2滑り板123,124とそれぞれ面接触可能及び摺動可能とされている。
【0077】
図7に示すように、第1下部摩擦板325,327及び第2下部摩擦板335~338は、それぞれ略板状に形成されている。第1下部摩擦板325,327及び第2下部摩擦板335~338の下面は、下部案内部材2Aの下部当接面2u側を向いている。第1下部摩擦板325,327及び第2下部摩擦板335~338の上面は、本体部30に固定されている。
【0078】
第1下部摩擦板325及び第2下部摩擦板335,336は、基部31の第1傾斜下面313に設けられている。第1下部摩擦板325及び第2下部摩擦板335,336の下面は、第1傾斜下面313と平行に配置されている。
【0079】
第1下部摩擦板327及び第2下部摩擦板337,338は、基部31の第2傾斜下面314に設けられている。第1下部摩擦板327及び第2下部摩擦板337,338の下面は、第2傾斜下面314と平行に配置されている。
【0080】
第1下部摩擦板325は、基部31の第1傾斜下面313のX方向の略中央に配置されている。第2下部摩擦板335,336は、第1下部摩擦板325を挟んでX方向の両側に配置されている。第2下部摩擦板335、第1下部摩擦板325及び第2下部摩擦板336が、X方向(下部案内部材2Aの短手方向)に並んで隣接配置に並んで隣接配置されている。
【0081】
第1下部摩擦板327は、基部31の第2傾斜下面314のX方向の略中央に配置されている。第2下部摩擦板337,338は、第1下部摩擦板327を挟んでX方向の両側に配置されている。第2下部摩擦板337、第1下部摩擦板327及び第2下部摩擦板338が、X方向(下部案内部材2Aの短手方向)に並んで隣接配置されている。
【0082】
第1下部摩擦板325及び第2下部摩擦板335,336の下面は、Y方向の一方側に向かうに従って漸次上側に向かう平面に形成されている。第1下部摩擦板325は、下部案内部材2Aの第1滑り板115と面接触可能とされている。第2下部摩擦板335,336は、下部案内部材2Aの第2滑り板125,126とそれぞれ面接触可能及び摺動可能とされている。
【0083】
第1下部摩擦板327及び第2下部摩擦板337,338の下面は、Y方向の他方側に向かうに従って漸次上側に向かう平面に形成されている。第1下部摩擦板327は、下部案内部材2Aの第1滑り板117と面接触可能とされている。第2下部摩擦板337,338は、下部案内部材2Aの第2滑り板127,128とそれぞれ面接触可能及び摺動可能とされている。
【0084】
次に、滑り板及び摩擦板の構成について、詳細に説明する。
なお、第1滑り板111~117を総称して、第1滑り板110と称することがある。第2滑り板121~128を総称して、第2滑り板120と称することがある。第1上部摩擦板321,323及び第1下部摩擦板325,327を総称して、第1摩擦板320と称することがある。第2上部摩擦板331~334及び第2下部摩擦板335~338を総称して、第2摩擦板330と称することがある。上部案内部材1A及び下部案内部材2Aを総称して、案内部材1と称することがある。上部案内部材1Aの上側中央部1m及び下部案内部材2Aの下側中央部2mを総称して、案内部材1の中央部1nを称することがある。
【0085】
図8(a)は、下部案内部材2Aの側面図であり、(b)は第1滑り板110及び第2滑り板120を拡大した側面図である。図9は、上部案内部材1Aの下面1d及び下部案内部材2Aの上面2uを示す図である。図8では、下部案内部材2Aを示しているが、上部案内部材1Aは下部案内部材2Aを上下反転させて水平方向に90度回転させた構成である。
【0086】
図8(b)に示すように、第1滑り板110の厚みをt1pとし、第2滑り板120の厚みをt2pとする。厚みt2pは、厚みt1pよりも大きい。
【0087】
第2滑り板120における案内部材1の中央部1n側の端部には、鉛直面に対して傾斜する傾斜端面120aが形成されている。
【0088】
図9に示すように、第1滑り板110と第2滑り板120とは、案内部材1の長手方向に連続するとともに短手方向の位置を異ならせて配置されている。第1滑り板110における案内部材1の幅方向の外側(中央側と反対側)の端部110bと第2滑り板120における案内部材1の幅方向の中央側の端部120bとは、当接している。
【0089】
案内部材1の中央部1nから第2滑り板120における案内部材1の中央部1n側の端部までの長さを、切替長さをL1とする。第2滑り板120の長手方向の長さを、L2とする。第1滑り板110の幅(短手方向の長さ)を、W1とする。第2滑り板120の幅(短手方向の長さ)を、W2とする。案内部材1の幅方向の両側の第2滑り板120は、案内部材1の幅方向の中心線に対称に配置されている。
【0090】
図10は、可動子3の第1下部摩擦板325,327及び第2下部摩擦板335~338の側面図である。図10では、可動子3の第1下部摩擦板325,327及び第2下部摩擦板335~338を示しているが、可動子3の第1上部摩擦板321,323及び第2上部摩擦板331~334は第1下部摩擦板325,327及び第2下部摩擦板335~338を上下反転させて水平方向に90度回転させた構成である。
図10に示すように、第1摩擦板320のt1sとし、第2摩擦板330の厚みをt2sとする。厚みt1sは、厚みt2sよりも大きい。
【0091】
第1摩擦板320の幅(短手方向の長さ)を、W11とする。第2摩擦板330の幅(短手方向の長さ)を、W12とする。本実施形態では、第1摩擦板320の幅W11は第1滑り板110の幅W1と同一であり、第2摩擦板330の幅W12は第2滑り板120の幅W2と同一である。
【0092】
図11は、第1滑り板110及び第1摩擦板320の厚みを説明する図である。図12は、第2滑り板120及び第2摩擦板330の厚みを説明する図である。
図11及び図12に示すように、t1s+t1p+=t2s+t2pとなるように、t1s,t1p,t2s及びt2pを設定する。
【0093】
次に、上記の免震機構100の挙動について説明する。なお、以下では、可動子3と下部案内部材2Aとの関係について説明するが、可動子3を上部案内部材1Aとの関係は、可動子3と下部案内部材2Aとの関係を上下反転して水平方向の90度回転させた関係と同様である。
図13は、可動子3が下部案内部材2Aの長手方向の中央に配置された状態を示す図である。図14は、可動子3が切替長さL1の範囲内で移動し、第1滑り板110が第1摩擦板320に接触している状態を示す図である。図15は、可動子3が切替長さL1の範囲外に移動し、第2滑り板120が第2摩擦板330に接触している状態を示す図である。
図13に示すように、初期状態では、上部案内部材1Aの上側中央部1m(図4参照。以下同じ。)と、下部案内部材2Aの下側中央部2m(図5参照。以下同じ。)とが上下方向に重なり、これらの上部案内部材1Aの上側中央部1mと、下部案内部材2Aの下側中央部2mとの間に可動子3が配置されている。
【0094】
可動子3の第1下部摩擦板325,327の下面は、下部案内部材2Aの第1滑り板115,117と面接触している。図2(b)に示すように、可動子3の第2下部摩擦板335~338は、下部案内部材2Aの第1滑り板115,117及び第2滑り板125~127に接触していない。
【0095】
図3(a)に示すように、可動子3の第1上部摩擦板321,323の上面は、上部案内部材1Aの第1滑り板111,113と面接触している。図3(b)に示すように、可動子3の第2上部摩擦板331~334は、上部案内部材1Aの第1滑り板111,113及び第2滑り板121~124に接触していない。
【0096】
続いて、地震が生じて上部構造体101と下部構造体102とが水平方向に相対変位すると、上部案内部材1Aと下部案内部材2Aとが水平方向に相対変位する。可動子3は、常に上部案内部材1Aと下部案内部材2Aとの交差部に配置されている。
図13に示す初期状態から、図14及び図15に示すように、可動子3と下部案内部材2AとがY方向に相対変位した状態となると、下部案内部材2Aに対する可動子3の位置が初期状態よりも高い位置となり、ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)が蓄積される。
また、図示はしていないが、初期状態から、可動子3と上部案内部材1AとがX方向に相対変位した状態となると、可動子3に対する上部案内部材1Aの位置が初期状態よりも高い位置となり、ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)が蓄積される。
【0097】
図14に示すように、可動子3と下部案内部材2AとがY方向に切替長さL1の範囲内で相対変位した状態では、可動子3の一方の第1摩擦板320(可動子3がY方向に一方側に相対変位した場合にはY方向の一方側の第1下部摩擦板325であり、可動子3がY方向に他方側に相対変位した場合にはY方向の他方側の第1下部摩擦板327)の下面は、下部案内部材2Aの第1滑り板110と面接触している。可動子3の第2下部摩擦板335~338は、下部案内部材2Aの第1滑り板110及び第2滑り板120に接触していない。
【0098】
図示はしていないが、可動子3と上部案内部材1AとがX方向に切替長さL1の範囲内で相対変位した状態では、可動子3の一方の第1上部摩擦板320(可動子3がX方向に一方側に相対変位した場合にはX方向の一方側の第1上部摩擦板321であり、可動子3がX方向に他方側に相対変位した場合にはX方向の他方側の第1上部摩擦板323)の上面は、上部案内部材1Aの第1滑り板110と面接触している。可動子3の第2上部摩擦板331~334は、上部案内部材1Aの第1滑り板110及び第2滑り板120に接触していない。
【0099】
図15に示すように、可動子3と下部案内部材2AとがY方向に切替長さL1よりも長く相対変位した状態では、可動子3の一方の第2下部摩擦板330(可動子3がY方向に一方側に相対変位した場合にはY方向の一方側の第2下部摩擦板335,336であり、可動子3がY方向に他方側に相対変位した場合にはY方向の他方側の第2下部摩擦板337,338)の下面は、下部案内部材2Aの第2滑り板120と面接触している。可動子3の第1下部摩擦板325,327は、下部案内部材2Aの第1滑り板110及び第2滑り板120に接触していない。
【0100】
図示はしていないが、可動子3と上部案内部材1AとがX方向に切替長さL1よりも長く相対変位した状態では、可動子3の一方の第2上部摩擦板330(可動子3がX方向に一方側に相対変位した場合にはX方向の一方側の第2上部摩擦板331,332であり、可動子3がX方向に他方側に相対変位した場合にはX方向の他方側の第2上部摩擦板333,334)の上面は、上部案内部材1Aの第2滑り板120と面接触している。可動子3の第1上部摩擦板321,323は、上部案内部材1Aの第1滑り板110及び第2滑り板120に接触していない。
【0101】
可動子3と案内部材1とが切替長さL1の範囲内から範囲外に相対変位(切替)する際には、可動子3の第2摩擦板330が案内部材1の第2滑り板120の傾斜端面120a上を摺動する。
【0102】
第1滑り板110と第1摩擦板320との間の摩擦係数をμとし、第2滑り板120と第2摩擦板330との間の摩擦係数をμとする。応答変位を抑制するために、μ>μとする。
【0103】
図16は、可動子3の移動と復元力との関係を示す図であり、(a)は初期状態を示し、(b)は可動子3が切替長さL1の範囲内で移動した場合を示し、(c)は可動子3が切替長さL1の範囲外に移動した場合を示す。図17は、免震機構100の復元力特性を示す図であり、(a)は摩擦力復元力を示し、(b)は傾斜復元力を示し、(c)は摩擦復元力と傾斜復元力との合成後の復元力特性を示している。
免震機構100(支承)が支持する軸力をWとすると、傾斜による復元力(水平力)Fは、第1上部傾斜面11、第2上部傾斜面12、第1下部傾斜面21及び第2下部傾斜面22における水平面に対する傾斜角度はθを用いて、下記の式(1)で表される。
【0104】
【数1】
【0105】
地震時の免震層103に生じる水平変位に対し、免震機構100は、図16の(b),(c)に示すように可動する。免震機構100に作用する軸力(自重)をWとすると、上部案内部材1Aに作用する復元力Fは下記の式(2)で表される。なお、予引張力比(摩擦係数に対する傾斜勾配の比率)α及びαは、0.1~0.4とする。免震機構100の復元力特性は、図17に示す通りである。
【0106】
【数2】
【0107】
これは、免震層103の上部構造体101と下部構造体102の間に予引張力Fの定荷重ばねを設置した場合と同じである。免震層103の変位量によらず一定の復元力Fが作用することになる。tanθ≧μならば残留変位を完全に除去できるが、この1/2~1/10に相当するものであってもほぼ残留変形を除去できることが、特開2013-064418号公報(発明の名称:滑り免震機構)に記載されている。このように、本実施形態では、定荷重ばねを設置しなくても同様の効果を奏することがわかる。
【0108】
次に、上記の免震機構100の解析結果について説明する。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示すように、ケース1~5について、エルセントロ波(50kine基準化)、JMA神戸(1995年)、芳賀波(2011年)、熊本本震、西原村原波(2016年)、CH1(名古屋市港区)について、解析した。
【0111】
最大応答変位の解析結果を図18に示す。
図18に示すように、ケース4(本実施形態)の最大応答変位は、ケース1(特開2013-130216の仕様)の最大応答変位より小さい。ケース5(本実施形態)の最大応答変位は、ケース2(特開2013-130216の仕様)の最大応答変位より小さい。波によって少々異なるが、ケース4またはケース5での最大応答変位は、ケース3(特開2017-115960の仕様)の最大応答変位に近いため、本実施形態でケース3(特開2017-115960の仕様)の効果を達成することが可能であることが分かる。
【0112】
残留変位の解析結果を図19に示す。
図19に示すように、残留変位は、本実施形態のケース4及びケース5は、ケース1~3同じく0.01mm以下(ほぼゼロ)であることを確認した。
【0113】
つまり、本実施形態(1段2摩擦係数タイプ)の傾斜すべり支承は、特開2013-130216の仕様より最大応答変位を抑制する効果がある。また、本実施形態の傾斜すべり支承は、特開2017-115960の仕様と同じ程度の最大応答変位を抑制する効果がある。
【0114】
このように構成された免震機構100では、第1滑り板110と第1摩擦板320との間の摩擦係数μと第2滑り板120と第2摩擦板330との間の摩擦係数μとが異なる構成で応答変位を抑制することができるため、多段勾配傾斜滑り支承のように多段勾配を設置するよりも簡易な構成であり、製造手間がかからない。
【0115】
また、第1滑り板110の厚みt1pと第1摩擦板320の厚みt1sとの合計と、第2滑り板120の厚みをt2pと第2摩擦板330との厚みをt2sとの合計とは同じである。よって、第1滑り板110と第1摩擦板320とが当接した状態から、可動子3が案内部材1に対して相対変位して、第2滑り板120と第2摩擦板330とが当接した状態に切り替わる際に、上下方向に大きく変位することを抑制することができる。
【0116】
また、第1滑り板110と第1摩擦板320との間の摩擦係数μよりも、第2滑り板120と第2摩擦板330との間の摩擦係数μの方が大きい。よって、可動子3が案内部材1に対して切替長さL1以上に相対変位した際に、応答変位を確実に抑制することができる。
【0117】
また、第1滑り板110の幅W1は第1摩擦板320の幅W11は同一であり、第2滑り板120の幅W2は第2摩擦板330の幅W12と同一である。よって、滑り板と摩擦板とが当接する面積を大きく確保でき、大きな摩擦力が発揮され、応答変位をより一層抑制することができる。
【0118】
また、可動子3と案内部材1とが切替長さL1の範囲内から範囲外に相対変位(切替)する際には、可動子3の第2摩擦板330が案内部材1の第2滑り板120の傾斜端面120a上を摺動するため、切替時の衝撃を緩和することができる。
【0119】
また、一の傾斜面(第1上部傾斜面11、第1下部傾斜面21、第1傾斜上面311、第1傾斜下面313等)において傾斜角度が一定であるため、切替部分で傾斜角度が変化する構成の場合のように、傾斜角度の変化による衝撃力が生じない。
【0120】
(変形例)
次に、本発明の一実施形態の変形例に係る免震機構について、主に図20及び図21を用いて説明する。
図20は、本発明の一実施形態の変形例に係る免震機構の案内部材において、傾斜面を正面から見た図である。図21は、本発明の一実施形態の変形例に係る免震機構の可動子の第1摩擦板、第2摩擦板及び第3摩擦板の側面図である。
下記に示す変形例の説明において、前述した部材と同一の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0121】
上記に示す実施形態の免震機構100では、案内部材1の一の傾斜面において長手方向に2種類の滑り板が設けられていたが、本変形例では、図20に示すように、案内部材1Xの一の傾斜面において長手方向に3種類の滑り板が設けられている。滑り板を、案内部材1の中央部1n側から順に滑り板110,120,130とする。なお、案内部材1の一の傾斜面において長手方向に4種類以上の滑り板が設けられていてもよい。
【0122】
図21に示すように、可動子3の上面及び下面には、滑り板と対応した位置に摩擦板320,330,340が設けられている。
【0123】
滑り板110と対応する摩擦板320との摩擦係数を、μ11とする。滑り板120と対応する摩擦板330との摩擦係数を、μ12とする。滑り板130と対応する摩擦板340との摩擦係数を、μ13とする。μ13>μ12>μ11とする。
【0124】
このように構成された免震機構100では、滑り板110と摩擦板320との間の摩擦係数μ、滑り板120と摩擦板330との間の摩擦係数μ及び滑り板130と摩擦板340との摩擦係数μ13が互いに異なる構成で応答変位を抑制することができるため、多段勾配傾斜滑り支承のように多段勾配を設置するよりも簡易な構成であり、製造手間がかからない。
【0125】
また、摩擦係数μ11から摩擦係数μ12、摩擦係数μ12から摩擦係数μ13と、摩擦係数を少しずつ漸増させることで、滑り板(摩擦板)が切り替わる部分での摩擦係数の差の大きな違いによる急ブレーキ減少が生じない。
【0126】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0127】
例えば、上記に示す実施形態では、第1滑り板110の幅W1は第1摩擦板320の幅W11は同一であり、第2滑り板120の幅W2は第2摩擦板330の幅W12と同一であるが、互いに異なっていてもよい。
【0128】
また、上記に示す実施形態では、第1滑り板110の厚みt1pの方が第2滑り板120の厚みt2pよりも薄いが、逆に第2滑り板120の厚みt2pの方が第1滑り板110の厚みt1pの方よりも薄くてもよい。
【0129】
また、上記に示す実施形態では、第2滑り板120と第2摩擦板330との間の摩擦係数μの方が第1滑り板110と第1摩擦板320との間の摩擦係数μよりも大きいが、逆に第1滑り板110と第1摩擦板320との間の摩擦係数μの方が第2滑り板120と第2摩擦板330との間の摩擦係数μよりも大きくてもよい。
【符号の説明】
【0130】
1…案内部材
1A…上部案内部材
1d…上部当接面
2A…下部案内部材
2u…下部当接面
3…可動子
11…第1上部傾斜面
12…第2上部傾斜面
21…第1下部傾斜面
22…第2下部傾斜面
30…本体部
110,111,113,115,117…第1滑り板
120,121,122,123,124,125,126,127,128…第2滑り板
311…第1傾斜上面
312…第2傾斜上面
313…第1傾斜下面
314…第2傾斜下面
320…第1摩擦板
321,323…第1上部摩擦板
325,327…第1下部摩擦板
330…第2摩擦板
331,332,333,334…第2上部摩擦板
335,336,337,338…第2下部摩擦板
100…免震機構
101…上部構造体
102…下部構造体
103…免震層
図1
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