(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20230529BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20230529BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
H02P21/22
H02M7/48 E
H02P27/06
(21)【出願番号】P 2019225619
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
(72)【発明者】
【氏名】杉本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小沼 雄作
(72)【発明者】
【氏名】青柳 滋久
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-220331(JP,A)
【文献】特開2019-41562(JP,A)
【文献】特開2018-182989(JP,A)
【文献】特開平11-197897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
H02M 7/48
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導モータを駆動制御する電力変換装置であって、
トルク軸の電流検出値と磁束軸の電流検出値に基づいて、トルク軸の電圧指令を修正する電圧指令修正値を演算する電圧指令修正演算部を備え、
前記電圧指令修正演算部は、トルク軸の電流検出値の絶対値に、励磁電流に応じて変化する磁束飽和係数を乗じた修正トルク電流と、前記磁束軸の電流検出値との偏差に基づいて、前記電圧指令修正値を演算することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
誘導モータを駆動制御する電力変換装置であって、
トルク軸の電流検出値と磁束軸の電流検出値に基づいて、トルク軸の電圧指令を修正する電圧指令修正値を演算する電圧指令修正演算部を備え、
前記電圧指令修正演算部は、前記トルク軸の電圧指令と前記トルク軸の電流検出値とを乗算した有効電力の絶対値に、励磁電流に応じて変化する磁束飽和係数を乗じた修正有効電力と、前記トルク軸の電圧指令と前記磁束軸の電流検出値とを乗算した無効電力との偏差に基づいて、前記電圧指令修正値を演算することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
誘導モータの出力電圧と出力周波数の比率(V/f比率)に出力周波数を乗じてトルク軸の電圧指令を演算し、磁束軸の電圧指令を零とするV/f制御演算部を備え、
前記トルク軸の電圧指令を前記電圧指令修正値で修正することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電力変換装置において、
誘導モータの出力電圧と出力周波数の比率(V/f比率)に出力周波数を乗じてトルク軸の電圧指令を演算し、磁束軸の電圧指令を零とするV/f制御演算部を備え、
前記トルク軸の電圧指令を前記電圧指令修正値で修正することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の電力変換装置において、
前記磁束飽和係数は、励磁電流を変化させて測定した誘導モータの複数の相互インダクタンス値と、通常の励磁電流で測定した誘導モータの相互インダクタンス値との比率であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電力変換装置において、
前記磁束飽和係数は、励磁電流に応じたテーブルを参照して、あるいは励磁電流に応じて近似数式での演算により求めることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項3に記載の電力変換装置において、
前記トルク軸の電圧指令の演算は、前記修正トルク電流と前記磁束軸の電流検出値との偏差を零とするように、比例制御と積分制御により演算することを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項4に記載の電力変換装置において、
前記トルク軸の電圧指令の演算は、前記修正有効電力の絶対値と前記無効電力の絶対値の偏差を零とするように、比例制御と積分制御により演算することを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の電力変換装置において、
前記誘導モータの出力周波数に基づいて、前記比例制御と前記積分制御の制御ゲインを自動修正することを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
誘導モータの励磁電流指令およびトルク電流指令と、磁束軸およびトルク軸の電流検出値と、速度検出値あるいは速度推定値を用いて、磁束軸およびトルク軸の電圧指令を演算するベクトル制御の電力変換装置であって、
前記励磁電流指令および前記トルク電流指令に基づいて、修正励磁電流指令を演算する励磁電流指令修正演算部を備え、
前記励磁電流指令修正演算部は、前記トルク電流指令の絶対値に、励磁電流に応じて変化する磁束飽和係数を乗じた修正トルク電流指令に、前記修正励磁電流指令が追従するように前記励磁電流指令を修正することを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電力変換装置において、
前記修正励磁電流指令の演算は、前記修正トルク電流指令と前記修正励磁電流指令の偏差を、零とするように比例制御と積分制御により演算することを特徴とする電力変換装置。
【請求項12】
請求項11に記載の電力変換装置において、
前記誘導モータの出力周波数に基づいて、前記比例制御と前記積分制御の制御ゲインを自動修正することを特徴とする電力変換装置。
【請求項13】
請求項10に記載の電力変換装置において、
前記磁束飽和係数は、励磁電流を変化させて測定した誘導モータの複数の相互インダクタンス値と、通常の励磁電流で測定した誘導モータの相互インダクタンス値との比率であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項14】
請求項13に記載の電力変換装置において、
前記磁束飽和係数は、励磁電流に応じたテーブルを参照して、あるいは励磁電流に応じて近似数式での演算により求めることを特徴とする電力変換装置。
【請求項15】
請求項7または請求項8または請求項11に記載の電力変換装置において、
デジタル・オペレータ、パーソナル・コンピュータ、タブレット、スマートフォン機器などの上位装置に接続して、前記比例制御あるいは前記積分制御に設定する制御の応答周波数あるいは制御ゲインを設定・変更できることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導モータを駆動する電力変換装置のドライブ制御に係わり、出力電流を低減し、高効率に運転する電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘導モータの高効率制御方法として、特開2010-220331号公報(特許文献1)記載のように、励磁電流指令が飽和電流制限閾値以下である場合と、超える場合とで、第1と第2の磁束指令を変更する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法は、磁束飽和点を設け、励磁電流指令が飽和電流制限閾値以下である場合と超える場合とで、第1と第2の磁束指令の傾きを2点で近似している。このため、他機種の誘導モータにおいて出力電流が最小とならない可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、汎用インバータでも出力電流を低減し、高効率な出力電流特性を実現できる電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための、本発明の「電力変換装置」の一例を挙げるならば、
誘導モータを駆動制御する電力変換装置であって、トルク軸の電流検出値と磁束軸の電流検出値に基づいて、トルク軸の電圧指令を修正する電圧指令修正値を演算する電圧指令修正演算部を備え、前記電圧指令修正演算部は、トルク軸の電流検出値の絶対値に、励磁電流に応じて変化する磁束飽和係数を乗じた修正トルク電流と、前記磁束軸の電流検出値との偏差に基づいて、前記電圧指令修正値を演算するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、出力電流を低減し、高効率な出力電流特性を実現できる電力変換装置を提供することができる。
【0008】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施例1に係る電圧指令修正演算部の構成図。
【
図4】実施例1に係るd軸の電流検出値と磁束飽和係数の関係図。
【
図5】本発明を用いた出力電流の実測結果を示す図。
【
図6】実施例1に係る電圧指令修正演算部の変形例の構成図。
【
図7】実施例1に係る顕現性を確認するための構成図。
【
図9】実施例2に係る電圧指令修正演算部の構成図。
【
図11】実施例3に係る励磁電流指令修正演算部の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明する。なお、実施例を説明するための各図における共通の構成については同一の名称、参照番号を付して、その繰り返しの説明を省略する。また、以下に説明する各実施例は、図示例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
図1は、実施例1に係る電力変換装置の構成図を示す。本実施例は、V/f制御の電力変換装置に適用したものである。
【0012】
誘導モータ1は、磁束軸(d軸)成分の電流(励磁電流)により磁束を発生し、磁束軸に直行するトルク軸(q軸)成分の電流(トルク電流)によりトルクを発生する。
電力変換器2は、例えばインバータで構成され、3相交流の電圧指令Vu
*,Vv
*,Vw
*に比例した電圧値を出力し、誘導モータ1の出力電圧値と出力周波数値を可変する。
直流電源3は、電力変換器2に直流電圧EDCを供給する。
電流検出器4は、誘導モータ1の3相の交流電流iu,iv,iwの検出値であるiuc,ivc,iwcを出力する。電流検出器4は、誘導モータ1の3相の内の2相、例えば、u相とw相の線電流を検出し、v相の線電流は、交流条件(iu+iv+iw=0)から、iv=-(iu+iw)として求めてもよい。
座標変換部5は、3相の交流電流iu,iv,iwの検出値iuc,ivc,iwcと位相演算値θdcから、d軸の電流検出値(励磁電流検出値)idcおよびq軸の電流検出値(トルク電流検出値)iqcを出力する。
V/f制御演算部6は、周波数指令ωr
*に基づいて、「0」(零)であるd軸の電圧指令Vdc
*と、周波数指令ωr
*に比例したq軸の電圧指令Vqc
*を出力する。
電圧指令修正演算部7は、q軸の電流検出値iqcとd軸の電流検出値idcに基づいて演算したq軸の電圧指令修正値ΔVqc
*を出力する。
位相演算部8は、周波数指令ωr
*を積分して位相演算値θdcを出力する。
加算部9は、q軸の電圧指令Vqc
*とq軸の電圧指令修正値ΔVqc
*を加算して、q軸の修正電圧指令Vqc
**を出力する。
座標変換部10は、d軸の電圧指令Vdc
*とq軸の修正電圧指令Vqc
**と、位相演算値θdcから3相交流の電圧指令Vu
*,Vv
*,Vw
*を出力する。
【0013】
最初に、本実施例の特徴である電圧指令修正演算部7を用いた場合のV/f制御方式の基本動作について説明する。
【0014】
V/f制御演算部6は、(数1)に従い「0」であるd軸の電圧指令Vdc
*、および、周波数指令ωr
*と直流電圧EDCを用いてq軸の電圧指令Vqc
*を出力する。
【0015】
【0016】
ここに、ωr_maxは基底角周波数である。
位相演算部8は、(数2)に従い周波数指令ωr
*から誘導モータ1の磁束軸の位相θdcを演算する。
【0017】
【0018】
図2に、本実施例の特徴である電圧指令修正演算部7のブロック構成を示す。
絶対値演算部71では、q軸の電流検出値(トルク電流検出値)i
qcが入力され、i
qcの絶対値|i
qc|を出力する。
テーブル72には、励磁電流と誘導モータの相互インダクタンス値M^との関係が記憶されており、d軸の電流検出値(励磁電流検出値)i
dcが入力され、対応する相互インダクタンス値M^を出力する。ローパスフィルタ73では、相互インダクタンス値M^が入力され、その一次遅れ信号となるM^^を出力する。設定部74では、基底周波数で測定したときの基準となる誘導モータの相互インダクタンス値M
0を出力する。除算部75では、相互インダクタンス値M^^と基準となる相互インダクタンス値M
0が入力され、(数3)に示す演算により磁束飽和係数Gを出力する。
【0019】
【0020】
なお、テーブル72は、励磁電流を変化させて誘導モータの相互インダクタンスを測定することにより、予め作成しておく。また、
図2のテーブル72は励磁電流と相互インダクタンスM^の関係を示すものであるが、相互インダクタンスから(数3)により磁束飽和係数Gを演算することにより、励磁電流と磁束飽和係数Gとの関係を示すテーブルとしてもよい。また、テーブルを参照するに代えて、励磁電流に応じて近似数式により磁束飽和係数Gを演算するようにしてもよい。
乗算部76では、q軸の電流検出値i
qcの絶対値|i
qc|と磁束飽和係数Gが入力され、(数4)に示すq軸の修正電流(修正トルク電流)i
qc
’を出力する。
【0021】
【0022】
減算部77では、q軸の修正電流iqc
’とd軸の電流検出値idcが入力され、電流偏差Δiを出力する。電流偏差Δiは比例ゲインKp1の定数を持つ比例演算部78と、積分ゲインKi1の定数を持つ積分演算部79に入力され、それらの出力信号は加算部791に出力される。その結果、(数5)に示す演算よりq軸の電圧指令Vqc
*の電圧指令修正値ΔVqc
*を演算する。
【0023】
【0024】
本発明が高効率となる原理について説明する。
図3に、誘導モータの電流ベクトル図を示す。励磁電流i
dにより発生する磁束の方向をd軸、それよりπ/2進んだ方向をトルク軸であるq軸とよび、出力電流i
1と励磁電流i
dとの位相角をθ
iとすると、励磁電流i
dおよびトルク電流i
qは数(6)で与えられる。
【0025】
【0026】
(数6)において位相角θi=π/4のとき、同一トルクにおいて出力電流i1は(数7)の関係で最小となる。
【0027】
【0028】
誘導モータのトルクは(数8)で与えられる。
【0029】
【0030】
ここで、Mは相互インダクタンス、L2は二次インダクタンス、φ2dはd軸の磁束、φ2qはq軸の磁束である。
ここで、モータ制御において磁束の理想条件は(数9)であり、
【0031】
【0032】
(数9)を(数8)に代入すると、(数10)が得られる。
【0033】
【0034】
さらに、(数7)を(数10)に代入すると、出力電流が最小におけるトルク式である(数11)が得られる。
【0035】
【0036】
しかし、実際には相互インダクタンスMは電流値に応じて変化する飽和特性を有する。d軸の磁束φ2dは飽和現象により増加しない場合もあり、d軸の電流(励磁電流)idを流し過ぎる状態では出力電流i1の最小点ずれが考えられる。そこで本発明は、これまで述べたように磁束飽和係数Gを導入し、必要以上にd軸の電流(励磁電流)idが流れないように工夫をしている。
【0037】
本発明では、力行/回生運転の両方に対応するため、q軸の電流検出値iqcの絶対値|iqc|に磁束飽和係数Gを乗算したq軸の修正電流iqc’とd軸の電流検出値idcが追従するように、q軸の電圧指令Vqc
*を修正している。
【0038】
本実施例に係るd軸の電流検出値i
dcと磁束飽和係数Gの特性を、
図4に示す。同図は数(3)の演算結果であり、本実施例では16点で測定した例である。図に示されるように、磁束飽和係数Gは、d軸の電流検出値i
dcが小さい範囲では一定値であり、ある値を越えるとd軸の電流検出値i
dcに応じて次第に小さくなっている。2点で近似できる特性ではないことがわかる。
【0039】
図5に、本発明を用いた実測結果を示す。横軸に磁束飽和係数Gを、縦軸では誘導モータの出力電流の大きさを示している。(A)G=0.0が本発明を適用しないとき(数3)を演算せずに、(B)G=0.3、(C)G=0.6、(D)G=0.8、(E)G=1.0として(数4)を演算した場合の出力電流を測定した結果である。G=0.0のときの出力電流を1.0として規格化してある。G=1.0は磁束飽和を考慮しない場合であり(C)G=0.6と(D)G=0.8のときより出力電流は大きいことがわかる。(F)は、本発明の(数3)を演算した場合である。(F)において出力電流は最小となり、本発明の効果は明白である。
【0040】
本実施例によれば、q軸の電流検出値iqcの絶対値|iqc|に励磁電流に応じて変化する磁束飽和係数Gを乗算したq軸の修正電流iqc
‘とd軸の電流検出値idcが追従するようにq軸の電圧指令Vqc
*を修正することで、(A)G=0.0のV/f制御に比べ、電流値がより少なく高効率な電流特性を実現することができる。
【0041】
また、上記の本実施例では、電圧指令修正演算部7において、比例演算と積分演算のゲイン(K
p1、K
i1)は固定値としているが、
図6の変形例に示すように周波数指令ω
r
*に応じて変化させてもよい。
図6における電圧指令修正演算部7aは、
図2における電圧指令修正演算部7に相当するものである。また、
図6における符号7a1、7a2、7a3、7a4、7a5、7a6、7a7、7a91は、
図2の符号71、72、73、74、75、76、77、791と同一物である。
【0042】
図6において、q軸の修正電流i
qc
‘とd軸の電流検出値i
dcの偏差であるΔiは、周波数指令ω
r
*の大きさに応じて変化する比例ゲインK
p1を持つ比例演算部7a8と積分ゲインK
i1を持つ積分演算部7a9に入力され、それらの出力値は加算部7a91で加算され、q軸の電圧指令V
qc
*の電圧指令修正値ΔV
qc
**として出力される。同図において、周波数指令ω
r
*の大きさに略比例してK
p1、K
i1を変化させることで、q軸の修正電流i
qc
‘にd軸の電流検出値i
dcが追従する作用は周波数に応じて変化する。つまり、低速域から高速域において高効率制御に係わるフィードバック・ループの安定性を高応答化することで、より短時間で出力電流の最小化を実現することができる。
【0043】
ここで、
図7を用いて本実施例を採用した場合の検証方法について説明する。誘導モータ1を駆動する電力変換装置20に電流検出器21を取り付け、誘導モータ1のシャフトにエンコーダ22を取り付ける。
ベクトル電流成分の計算部23は、電流検出器21の出力である三相交流の電流検出値(i
uc,i
vc,i
wc)とエンコーダの出力である位置θが入力され、(数12)に従いベクトル電流成分のi
dc,i
qcを算出する。
【0044】
【0045】
【0046】
磁束飽和係数の演算部24は、磁束飽和係数Gの推定値G^を(数13)に従い演算する。推定値G^が本発明を用いたインバータで測定した磁束飽和係数Gと同一であれば、本発明を採用していることが明白となる。
【実施例2】
【0047】
図8は、実施例2に係る電力変換装置の構成図である。本実施例も、V/f制御の電力変換装置に適用したものである。第1の実施例では、q軸の修正電流(修正トルク電流)i
qc
‘を演算し、励磁電流i
dを追従させる方式としたが、本実施例は有効電力の絶対値|P
c|に無効電力の絶対値|Q
c|を追従させる方式である。
【0048】
図において、符号1~6、8~10は
図1のものと同一物である。
電圧指令修正演算部7bは、有効電力演算値の絶対値|P
c|に磁束飽和係数Gを乗算した修正有効電力P
c
‘と無効電力演算値の絶対値|Q
c|に基づいて、q軸の電圧指令V
qc
*を修正する電圧指令修正値ΔV
qc
***を出力する。
【0049】
図9に、電圧指令修正演算部7bの構成を示す。符号7b2、7b3、7b4、7b5、7b6、7b7、7b8、7b9、7b91は、
図2の符号72、73、74、75、76、77、78、79、791と同一物である。
乗算部7b92では、q軸の電圧指令V
qc
**とq軸の電流検出値i
qcが入力され、それらの乗算値である有効電力演算値P
cを出力する。絶対値演算部7b93では、乗算部7b92の出力である有効電力演算値P
cが入力され、P
cの絶対値|P
c|を出力する。
乗算部7b6では、有効電力演算値P
cの絶対値|P
c|と磁束飽和係数Gが入力され修正有効電力P
c
’を出力する。
【0050】
乗算部7b94では、q軸の電圧指令Vqc
**とd軸の電流検出値idcが入力され、それらの乗算値である無効電力演算値Qcを出力する。絶対値演算部7b95では、無効電力演算値Qcが入力され、絶対値|Qc|を出力する。
減算部7b7では、修正有効電力Pc
’と無効電力演算値Qcの絶対値|Qc|が入力され、電力偏差Δpを出力する。
【0051】
電力偏差Δpは比例ゲインKp2の定数を持つ比例演算部7b8と、積分ゲインKi2の定数を持つ積分演算部7b9に入力され、それらの出力信号は加算部7b91に出力する。その結果(数14)に示す演算より、q軸の電圧指令Vqc
**の電圧指令修正値ΔVqc
***を演算する。
【0052】
【0053】
ここで、本実施例が高効率となる原理について説明する。d軸の電圧指令Vdc
*=0のとき、制御軸上で演算される有効電力Pcは(数15)で与えられる。
【0054】
【0055】
有効電力Pcの絶対値は(数16)である。
【0056】
【0057】
有効電力Pcの絶対値に磁束飽和係数Gを乗じると、(数17)が与えられる。
【0058】
【0059】
また、制御軸上で演算される無効電力Qcは、(数18)で与えられる。
【0060】
【0061】
無効電力Qcの絶対値は、(数19)である。
【0062】
【0063】
Pc’と|Qc|を用いてq軸の電圧指令値Vqc
*を修正する。(数17)=(数19)となるように制御すると、(数20)が与えられる。
【0064】
【0065】
その結果、第1の実施例と同様な高効率な運転を実現することができる。
【0066】
本実施例によれば、有効電力Pcの絶対値|Pc|に励磁電流に応じて変化する磁束飽和係数Gを乗算した修正有効電力Pc
‘と無効電力の絶対値|Qc|が追従するようにq軸の電圧指令Vqc
*を修正することで、電流値がより少なく高効率な電流特性を実現することができる。
【実施例3】
【0067】
図10は、実施例3に係る電力変換装置の構成図である。本実施例は、ベクトル制御の電力変換装置に適用したものである。第1と第2の実施例では、誘導モータ1をV/f制御する方式であったが、本実施例は、速度制御と電流制御およびベクトル制御の演算をする方式である。
【0068】
図において符号1~5、8、10は、
図1のものと同一物である。
フィードバック制御演算部11では、修正励磁電流指令i
d
**、d軸およびq軸の電流検出値i
dc,i
qc、周波数指令ω
r
*、推定周波数ω
r^および出力周波数ω
1
*を入力する。フィードバック制御演算部11の内部では、速度制御と電流制御およびベクトル制御のフィードバック制御を演算する。
修正励磁電流指令であるi
d
**は可変値となり、誘導モータ1内部に可変するd軸の磁束φ
2dを発生させる。
【0069】
速度制御は、周波数指令ωr
*に推定周波数ωr^が追従するように、比例制御と積分制御により(数21)に従いトルク電流指令であるq軸の電流指令iq
*を演算する。
【0070】
【0071】
ここに、Ksp:速度制御の比例ゲイン、Ksi:速度制御の積分ゲイン。
【0072】
ベクトル制御は、d軸およびq軸の電流指令id
**、iq
*、誘導モータ1の電気回路定数(R1、Lσ、M、L2)、d軸の磁束指令φ2d
*および出力周波数ω1
*を用いて、(数22)に従い電圧指令Vdc
*、Vqc
*を演算する。
【0073】
【0074】
ここに、Tacr:電流制御遅れ相当の時定数、R1:一次抵抗値、Lσ:漏れインダクタンス値、M:相互インダクタンス値、L2:二次側インダクタンス値。
【0075】
電流制御は、d軸およびq軸の電流指令id
**、iq
*に各成分の電流検出値idc、iqcが追従するよう、比例制御と積分制御により(数23)に従い、d軸およびq軸の電圧補正値ΔVdc、ΔVqcを演算する。
【0076】
【0077】
ここに、Kpd:d軸の電流制御の比例ゲイン、Kid:d軸の電流制御の積分ゲイン、Kpq:q軸の電流制御の比例ゲイン、Kiq:q軸の電流制御の積分ゲイン。
さらに、(数24)に従い、d軸およびq軸の電圧指令Vdc
**、Vqc
**を演算する。
【0078】
【0079】
図11に、本実施例の特徴である励磁電流指令修正演算部12のブロック構成を示す。
【0080】
励磁電流指令修正演算部12は、q軸の電流指令iq
*の絶対値|iq
*|に磁束飽和係数Gを乗算したq軸の修正電流指令iq
*‘とd軸の電流指令id
*に基づいてd軸の修正電圧指令id
**を出力する。
【0081】
図において符号121、122、123、124、125、126、127、128、129、1291は、
図2の符号71、72、73、74、75、76、77、78、79、791と同一物である。
絶対値演算部121では、q軸の電流指令i
q
*が入力され、i
q
*の絶対値|i
q
*|を出力する。テーブル122には、励磁電流と誘導モータの相互インダクタンス値M^との関係が記憶されており、d軸の修正電流指令i
d
**が入力され、対応する相互インダクタンス値M^を出力する。ローパスフィルタ123では、相互インダクタンス値M^が入力され、その一次遅れ信号となるM^^を出力する。設定部124は、基底周波数で測定したときの基準となる誘導モータの相互インダクタンス値M
0を出力する。除算部125では、相互インダクタンス値M^^とM
0が入力され、前述の(数3)に示す演算により磁束飽和係数Gを出力する。
なお、テーブル122は、励磁電流を変化させて誘導モータの相互インダクタンスを測定することにより、予め作成しておく。また、
図11のテーブル122は励磁電流と相互インダクタンスM^の関係を示すものであるが、相互インダクタンスから(数3)により磁束飽和係数Gを演算することにより、励磁電流と磁束飽和係数Gとの関係を示すテーブルとしてもよい。また、テーブルを参照するに代えて、励磁電流に応じて近似数式により磁束飽和係数Gを演算するようにしてもよい。
乗算部126では、q軸の電流指令i
q
*の絶対値|i
q
*|と磁束飽和係数Gが入力され、(数25)に従いq軸の修正電流指令i
q
*‘を出力する。
【0082】
【0083】
減算部127では、q軸の修正電流指令iq
*‘とd軸の修正電流指令id
**が入力され、電流偏差Δi*を出力する。電流偏差Δi*は比例ゲインKp3の定数を持つ比例演算部128と、積分ゲインKi3の定数を持つ積分演算部129に入力され、それらの出力信号は加算部1291に出力される。その結果(数26)に従い電流指令修正値Δid
*を出力する。
【0084】
【0085】
加算部1292では、(数27)に従いd軸の電流指令id
*と電流指令修正値ΔId
*が加算され、d軸の修正電流指令Id
**を出力する。
【0086】
【0087】
図10の周波数推定演算部13では、(数28)に従い誘導モータ1の推定周波数ω
r^および出力周波数ω
1
*を出力する。
【0088】
【0089】
ここに、R*:一次抵抗値と二次抵抗の一次側換算の加算値、Tobs:オブザーバ時定数、T2:二次時定数値。
【0090】
V/f制御の代わりに、速度制御と電流制御およびベクトル制御を演算するような本実施例でも、d軸の修正電流指令Id
**をq軸の修正電流指令iq
*‘に追従するように制御することで、高効率な運転を実現することができる。
なお、本実施例では推定周波数ωr^を演算しているが、誘導モータ1にエンコーダを取り付けて、速度を検出するようにしてもよい。
【0091】
本実施例によれば、q軸の電流指令iq
*の絶対値|iq
*|に励磁電流に応じて変化する磁束飽和係数Gを乗算したq軸の修正電流指令iq
*‘とd軸の修正電流指令id
**が追従するように制御することで、電流値がより少なく高効率な電流特性を実現することができる。
【0092】
第3の実施例においては、電流指令id
**,iq
*と電流検出値idc,iqcから電圧修正値ΔVdc,ΔVqcを作成し(数23)、この電圧修正値とベクトル制御の電圧指令を加算する(数24)に示す演算を行ったが、電流指令id
**,iq
*および電流検出値idc,iqcからベクトル制御演算に使用する(数29)に示す中間的な電流指令id
***,iq
**を作成し、出力周波数ω1
*および誘導モータ1の電気回路定数を用いて(数30)に示すベクトル制御演算を行ってもよい。
【0093】
【0094】
【0095】
ここに、Kpd1:d軸の電流制御の比例ゲイン、Kid1:d軸の電流制御の積分ゲイン、Kpq1:q軸の電流制御の比例ゲイン、Kiq1:q軸の電流制御の積分ゲイン、Td:d軸の電気時定数(Lσ/R)、Tq:q軸の電気時定数(Lσ/R)。
【0096】
あるいは、電流指令id
**,iq
*および電流検出値idc,iqcから、ベクトル制御演算に使用するd軸の比例演算成分の電圧修正値ΔVd_p
*、d軸の積分演算成分の電圧修正値ΔVd_i
*、q軸の比例演算成分の電圧修正値ΔVq_p
*、q軸の積分演算成分の電圧修正値ΔVq_i
*を(数31)により演算し、出力周波数ω1
*および誘導モータ1の電気回路定数を用いて、(数32)に示すベクトル制御演算を行ってもよい。
【0097】
【0098】
ここに、Kpd2:d軸の電流制御の比例ゲイン、Kid2:d軸の電流制御の積分ゲイン、Kpq2:q軸の電流制御の比例ゲイン、Kiq2:q軸の電流制御の積分ゲイン。
【0099】
【0100】
また、d軸の電流指令id
**およびq軸の電流検出値iqcの一次遅れ信号iqctdおよび周波数指令ωr
*および誘導モータ1の電気回路定数を用いて、(数33)に示す出力周波数指令ω1
**と(数34)に示すベクトル制御演算を行ってもよい。
【0101】
【0102】
【0103】
ここで、iqctdはiqcを一次遅れフィルタに通した信号である。
【0104】
ここまでの第3の実施例においては、周波数推定演算部13では(数28)に従い速度推定値ωr^を演算していたが、q軸電流制御で電流制御と速度推定を併用する方式でも良い。(数35)に示すように速度推定値ωr^^を演算する。
【0105】
【0106】
ここで、Kpq3は電流制御の比例ゲイン、Kiq3は電流制御の積分ゲインである。
【0107】
さらに、第3の実施例におけるフィードバック制御演算部11において、(数28)あるいは(数35)に従い速度推定値ωr^,ωr^^を演算していたが、誘導モータ1にエンコーダを取りつけ、エンコーダ信号から速度検出値を演算する方式でも良い。
【実施例4】
【0108】
図12は、実施例4に係る電力変換装置の構成図である。
【0109】
本実施例は、誘導モータ駆動システムに本実施例を適用したものである。図において、構成要素の符号1、5~10は、
図1のものと同一物である。
【0110】
誘導モータ1は、電力変換装置20により駆動される。電力変換装置20では、
図1の符号5~10の構成要素はソフトウェア20aとして、
図1の符号2、3、4の構成要素はハードウェアとして、実装されている。また、デジタル・オペレータ20b、パーソナル・コンピュータ28、タブレット29、スマートフォン30などの上位装置により、ソフトウェア20aの所定の比例ゲインK
p125と所定の積分ゲインK
i126を設定・変更することができる。
【0111】
本実施例を誘導モータ駆動システムに適用すれば、V/f制御や速度センサレスベクトル制御において高効率な運転を実現することができる。また、所定の比例ゲインKp125、所定の積分ゲインKi126はプログラマブル・ロジック・コントローラ、コンピュータと接続するローカル・エリア・ネットワーク、制御装置のフィールドバス上で設定してもよい。
【0112】
さらに、本実施例では第1の実施例を用いて開示してあるが、第2や第3の実施例であっても良い。
【0113】
なお、第1から第4の実施例において、電力変換器2を構成するスイッチング素子としては、Si(シリコン)半導体素子であっても、SiC(シリコンカーバイト)やGaN(ガリュームナイトライド)などのワイドバンドギャップ半導体素子であってもよい。
【符号の説明】
【0114】
1…誘導モータ、2…電力変換器、3…直流電源、4…電流検出器、5…座標変換部、6…V/f制御演算部、7,7a,7b…電圧指令修正演算部、8…位相演算部、9…加算部、10…座標変換部、11…フェードバック制御演算部、12…励磁電流指令修正演算部、13…周波数推定演算部、20…電力変換装置、20a…電力変換装置のソフト部、20b…電力変換装置のデジタル・オペレータ、21…電流検出器、22…エンコーダ、23…ベクトル電流成分の計算部、24…磁束飽和係数の演算部、25…所定の比例ゲイン、26…所定の積分ゲイン、28…パーソナル・コンピュータ、29…タブレット、20…スマートフォン、72…テーブル、73…ローパスフィルタ(LPF)、74…設定部、75…除算部、76…乗算部、77…減算部、78…比例演算部、79…積分演算部、
G…磁束飽和係数、id
*,id
**…d軸の電流指令、iq
*…q軸の電流指令、ωr
*…周波数指令、ω1
*…出力周波数、ωr…誘導モータの速度、ωr^…速度推定値、ωs
*…すべり周波数指令、Vdc
*,Vdc
**,Vdc
***,Vdc
****…d軸の電圧指令、Vqc
*,Vqc
**,Vqc
***,Vqc
****…q軸の電圧指令、ΔVqc
*…q軸の電圧指令修正値、Δid
*…d軸の電流指令修正値。