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特許7286542GLP-1受容体アゴニストの持続的投与及び薬物の同時投与を含む方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】GLP-1受容体アゴニストの持続的投与及び薬物の同時投与を含む方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/54 20060101AFI20230529BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20230529BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230529BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20230529BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20230529BHJP
   A61K 31/401 20060101ALI20230529BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20230529BHJP
   A61K 31/567 20060101ALI20230529BHJP
   A61K 31/37 20060101ALI20230529BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230529BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230529BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230529BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230529BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230529BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230529BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20230529BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20230529BHJP
   A61P 15/18 20060101ALI20230529BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230529BHJP
   C07K 14/605 20060101ALN20230529BHJP
【FI】
A61L27/54 ZMD
A61K38/22 ZNA
A61K45/00
A61K31/167
A61K31/40
A61K31/401
A61K31/704
A61K31/567
A61K31/37
A61P3/06
A61P3/10
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/12
A61P7/02
A61P25/04
A61P25/02
A61P15/18
A61P43/00 121
C07K14/605
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019536181
(86)(22)【出願日】2018-01-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 US2018012204
(87)【国際公開番号】W WO2018129058
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2021-01-04
(31)【優先権主張番号】62/441,833
(32)【優先日】2017-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516361587
【氏名又は名称】インターシア セラピューティクス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ヤング
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・バロン
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-526288(JP,A)
【文献】特表2013-525471(JP,A)
【文献】特表2013-505932(JP,A)
【文献】Clin. Ther. (2006) vol.28, no.5, p.652-665
【文献】BMC Clin. Pharmacol. (2012) vol.12, Articlenumber:8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/54
A61K 38/22
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アナログ及び薬物の組み合わせ物であって、
前記GLP-1)アナログは、植え込み型送達デバイスによって持続的な皮下用量が対象に投与され
前記薬物は、前記植え込み型送達デバイスの植え込み後及び前記GLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に、対象に経口的に同時投与され、
前記経口的に同時投与される薬物が、鎮痛剤、経口避妊薬、スタチン、高血圧及び/または心臓疾患の処置のための薬物、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、心臓発作、卒中、高血圧、または凝血の処置のための薬物、及び抗凝血剤から成る群から選択され、
前記経口的に同時投与される薬物が、2型糖尿病以外の疾患または障害の処置のために用量調整なしで同時投与される、前記組み合わせ物
【請求項2】
2型糖尿病以外の前記疾患または障害が、疼痛、血中コレステロールレベル上昇、心臓疾患、高血圧、心臓発作、卒中、または凝血からなる群より選択される、請求項1に記載の組み合わせ物
【請求項3】
前記経口的に同時投与される薬物が、小児の受胎を予防するためものである、請求項1に記載の組み合わせ物
【請求項4】
前記経口的に同時投与される薬物が、アセトアミノフェン、アトルバスタチン、リシノプリル、ジゴキシン、エチニルエストラジオール、レボノルゲストレル、R-ワルファリン、及びS-ワルファリンからなる群より選択される、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項5】
前記経口的に同時投与される薬物が前記対象によって自己投与される、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項6】
前記GLP-1アナログがエキセナチドである、請求項1に記載の組み合わせ物
【請求項7】
前記GLP-1アナログがエキセナチド以外である、請求項1に記載の組み合わせ物
【請求項8】
前記GLP-1アナログが、Ozempic(登録商標)(セマグルチド)、Victoza(登録商標)(リラグルチド)、Adlyxin(登録商標)(リキシセナチド)、Tanzeum(登録商標)(アルビグルチド)、及びTrulicity(登録商標)(デュラグルチド)からなる群より選択される、請求項7に記載の組み合わせ物
【請求項9】
前記GLP-1アナログが、代謝障害の処置のためのものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の組み合わせ物
【請求項10】
前記GLP-1アナログが、2型糖尿病の処置のためのものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の組み合わせ物
【請求項11】
前記GLP-1アナログが、肥満の処置のためのものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の組み合わせ物
【請求項12】
前記GLP-1アナログが、前記対象における体重減少をもたらすためのものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の組み合わせ物
【請求項13】
前記対象が、エキセナチド20μg/日の用量を投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組み合わせ物
【請求項14】
前記対象が、エキセナチド60μg/日の用量を投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組み合わせ物
【請求項15】
前記対象がヒトである、請求項1~14のいずれか1項に記載の組み合わせ物
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
いくつかの推定値によれば、現在、全世界で3億5000万人を超える人々が2型糖尿病(T2D)と診断されており、米国では3人に1人が一生のうちにT2Dに罹患する。この疾患の処置に関し、American Diabetes Association(ADA)はメトホルミンを第一選択治療として推奨しており、その理由は低コスト、可用性、及び糖化ヘモグロビン(HbA1c)低下における妥当な有効性によるものであるが、この薬物にはある特定の欠点が付随する。また、ADAは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体アゴニスト、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害物質、ジペプチジルペプチダーゼ-4阻害物質(DPP-4)、スルホニルウレア、チアゾリジンジオン、及びインスリンを含めた有望な第二選択肢も推奨している。GLP-1受容体アゴニストペプチドによるT2Dの処置が特に増えている。概して、GLP-1受容体アゴニストは、対象において血糖制御を超えた重要な効果をもたらし、例えば、体重減少をもたらし、ベータ細胞機能を保持し、高血圧、低血糖、及び/または高脂血症を緩和する。現在、GLP-1受容体アゴニストによる処置をより十分かつ適切に実施し、かつT2D、肥満、または過剰な体重を有する対象(対象の一部は、無関係の疾患または障害の処置を同時に管理しなければならない)による需要の高まりにより良好に対処するための方法が必要とされている。
【0002】
配列表
本出願は、EFS-Webを介してASCII形式で提出された配列表を含み、この配列表は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。前述のASCIIコピーは2018年1月2日に作成され、名称はITCA-052001WO_ST25.txt、サイズは743バイトである。
【発明の概要】
【0003】
現在、GLP-1受容体アゴニストの定期的な皮下投与(例えば、注射)は、T2Dを有する対象におけるグルコース依存的なインスリンの増加を達成するために使用されている。本発明は、GLP-1受容体アゴニストによるT2Dの処置に関する問題の認識を包含する。具体的には、ある特定のGLP-1受容体アゴニストの注射は、概して胃排出を遅らせ、また経口投与された薬物が吸収される程度及び速度を低下させる恐れがある。ある特定のGLP-1受容体アゴニストを注射する際、T2D以外の疾患を処置するためのある特定の薬物の同時投与は、このような薬物の(単独投与される場合の薬物に処方される用量に対する)用量調整が要件となる場合もあれば、GLP-1受容体アゴニストの注射時のある特定の薬物の同時投与が不可能となる場合もある。ある特定の注射用GLP-1受容体アゴニストは、同時投与すると、T2Dとは無関係の疾患、障害、状態の処置のためのある特定の経口利用可能な薬物における曲線下面積(AUC)、Cmax、及びTmaxを歪めることが分かっている。その結果、用量調整が実際的でない場合が多いことにより、このような薬物は、GLP-1受容体アゴニストを注射する前(1時間以上前)に投与しなければならない。
【0004】
例えば、T2D処置のための注射用Byetta(登録商標)(エキセナチド)の処方情報(PI)によれば、「[経口避妊薬]OC製品は、BYETTA注射の1時間以上前に投与すること」とある。Byetta(登録商標)のPIで説明されているように、経口避妊薬及びByetta(登録商標)の同時投与は、経口避妊薬におけるCmaxの減少とTmaxの遅延とをもたらす:「健康な女性対象において、BYETTA(10mcg BID)が単回及び複数回用量の配合経口避妊薬(エチニルエストラジオール35mcg及びレボノルゲストレル150mcg)に及ぼす影響を試験した。BYETTA投与から30分後に1日用量の経口避妊薬(OC)を反復投与したところ、経口避妊薬を単独投与した場合と比較して、エチニルエストラジオール及びレボノルゲストレルのCmaxはそれぞれ45%及び27%減少し、エチニルエストラジオール及びレボノルゲストレルのTmaxはそれぞれ3.0時間及び3.5時間遅延した。BYETTA投与の1時間前に1日用量のOCを反復投与したところ、OCを単独投与した場合と比較して、エチニルエストラジオールの平均Cmaxは15%減少したが、レボノルゲストレルの平均Cmaxは有意に変化しなかった」。
【0005】
また、T2D処置のための注射用Byetta(登録商標)(エキセナチド)の処方情報(PI)によれば、「アセトアミノフェンをBYETTA注射の1時間前に投与した場合、アセトアミノフェンのAUC、Cmax、及びTmaxは有意に変化しなかった」とある。ただし、BYETTA(登録商標)のPIで説明されているように、アセトアミノフェンなどの鎮痛剤をByetta(登録商標)と共に、またはByetta(登録商標)注射後に同時投与すると、アセトアミノフェンにおける曲線下面積(AUC)及びCmaxの減少とTmaxの増加とがもたらされる。「アセトアミノフェンエリキシル剤1000mgを、BYETTA 10mcgと共に(0時間)、ならびにBYETTA注射から1時間後、2時間後、及び4時間後に投与した場合、アセトアミノフェンのAUCは、それぞれ21%、23%、24%、及び14%減少し、Cmaxは、それぞれ37%、56%、54%、及び41%減少し、Tmaxは、対照期間における0.6時間からそれぞれ0.9時間、4.2時間、3.3時間、及び1.6時間増加(遅延)した」。
【0006】
残念ながら、実生活の状況により、対象(すなわち、ヒト対象)は、多くの場合、T2Dの処置のためのGLP-1受容体アゴニスト注射前にT2Dとは無関係の処置(複数可)のための薬物の事前投与を行うことに関する処方情報を遵守することができない。GLP-1受容体アゴニストとしては、1日2回注射用のByetta(登録商標)(エキセナチド)、1日1回注射用のVictoza(登録商標)(リラグルチド)、週1回注射用のTrulicity(登録商標)(デュラグルチド)、及び週1回注射用のTrulicityのOzempic(登録商標)(セマグルチド)が挙げられる。具体的には、実生活における疼痛、心臓発作、卒中、凝結などの状態の発症、または避妊薬の必要性は、一般的には、GLP-1受容体アゴニストのボーラス注射の後、場合によってはその直後に発生する。それにもかかわらず、このような状況に直面した場合、対象は、次のGLP-1受容体アゴニスト注射投与の1時間前または数時間前まで処置を遅延させなければならない。当該処方情報を遵守できないことにより(当該処方情報がこのような薬物をGLP-1受容体アゴニストのボーラス注射前に事前投与することに関するため)、対象は、このような薬物における最適以下のAUC、Cmax、及び/またはTmaxを引き起こすリスクにさらされる。
【0007】
植え込み型送達デバイスを介したエキセナチドなどのGLP-1受容体アゴニストの持続的投与は、胃排出における実質的な遅延を伴わず(図1及び2を参照)、またグルカゴンの血中濃度の実質的な低下も伴わない(図3~5を参照)ことが発見された。いかなる理論にも拘泥するものではないが、このように、胃排出における遅延やグルカゴンの血中濃度の低下は、ある特定のGLP-1受容体アゴニストにおける投与様式に実質的に起因し得るように思われる。
【0008】
また、T2D処置以外のためのある特定の薬物(例えば、疼痛、心臓疾患もしくは心臓発作に付随する状態、高血圧、卒中、または凝血の処置または予防のための薬物、及び経口避妊薬)が、植え込み型送達デバイスを介したGLP-1受容体アゴニストの持続的投与時に、有効に同時投与することができることも発見された。そのため、エキセナチドなどのGLP-1受容体アゴニストの注射に対するある特定の薬物における事前投与の要件は、同様にGLP-1受容体アゴニストの投与様式に起因し得るように思われる。
【0009】
このように、Byetta(登録商標)などのGLP-1受容体アゴニストのボーラス注射が、ある特定の薬物(例えば、疼痛の処置または予防用、及び経口避妊薬)においてByetta(登録商標)注射の1時間以上前の事前の経口投与を要件とする一方で、出願人らは、このような薬物が、浸透圧送達デバイスの植え込み後、及びエキセナチドなどのGLP-1アナログ(例えば、ITCA-650で20μg/日または60μg/日)の持続的な皮下送達中(例えば、3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月、または24ヵ月の投与期間中)に経口投与されてもよいことを発見した。このように同時投与の多用性が増大することで、GLP-1アナログの持続的な皮下送達のために植え込み型浸透圧送達デバイスを投与されている対象に、GLP-1アナログの持続的な皮下送達における3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月、または24ヵ月の投与期間中の任意の時点において、経口利用可能な薬物(例えば、疼痛、心臓の状態、心臓発作、高血圧、卒中の処置、及び/または凝血の予防、または避妊の提供のための薬物)を有効に同時投与する選択肢が提供される。
【0010】
ある特定の実施形態において、本発明は、対象に、植え込み型送達デバイスを介して持続的な皮下用量のグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アナログを投与する方法であって、対象が、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に、薬物を経口的に同時投与される、方法を提供する。言い換えれば、対象は、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下送達における3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月、または24ヵ月の投与期間中、薬物を、GLP-1アナログの投与(例えば、植え込み)前の事前投与に頼ることなく同時投与される。
【0011】
以下に、本発明の実施または試験に好適な方法及び材料を記載するが、本明細書に記載のものに類似または同等の方法及び材料を使用することもできる。本明細書で言及されている全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。本明細書で引用されている参考文献は、特許請求されている発明に対する先行技術として認められるものではない。矛盾が生じる場合は、定義を含め本明細書が優先される。加えて、材料、方法、及び実施例は、例示的なものに過ぎず、限定的であるようには意図されていない。本発明における他の特徴及び利点は、以下の発明を実施するための形態及び請求項から明らかとなる。
【0012】
上記の特徴及びさらなる特徴は、以下の発明を実施するための形態及び付属の図面を考慮して、より明確に理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】10μg/日、20μg/日、40μg/日、及び80μg/日のエキセナチド処置において、5日、15日、及び29日の処置の前及び後に測定された、試験食の間の血漿グルコースレベルにおける0~30分の増加分を図示するグラフである。記号は、個別の増加分の集団平均±平均値の標準誤差(SEM)である。
図2】処置前の値に対する試験食の間のグルコース濃度における30分の変化についての用量反応を図示するグラフである。5日目、15日目、及び29日目の曲線は、50%の阻害を引き起こす共通の有効な用量(ED50)を共有するように拘束された3-パラメーターシグモイドである。記号は、個々の値の集団平均±SEMである。
図3】4つの用量群の各々(別々のパネル)について、処置持続期間(異なる記号及び色)に従ってプロットされた食事負荷試験中の血漿グルカゴンプロファイルを図示するグラフを示している。記号は、各条件において存在するデータについての平均±SEMである。
図4】試験食の間の血漿グルカゴン濃度における食前の値からの変化を図示するグラフを示している。記号、色、及びレイアウトは、図3におけるものと同じ意味を有する。
図5】用量群ごとの処置持続期間の関数としての、食事負荷試験(MTT)中の一体化されたグルカゴン濃度(左パネル)またはグルカゴンの変化(右パネル)を図示するグラフを示している。
図6】Saad et al.から描き直した図6A(左)は、正常なグルコース耐性からT2Dに進行する間の[インスリン]対[グルコース]相関の変化を図示するグラフである。図6B(右)は、本試験における多様な[インスリン]対[グルコース]相関を例示するグラフである。
図7】最良適合の[インスリン]×[グルコース]の傾きにおける処置前のベースラインを上回る倍数を図示するグラフである。曲線は、処置持続期間の関数としての最良適合の指数関数的結合である。
図8】ITCA-650が[インスリン]/[グルコース]相関の傾きを増加させる影響についての用量反応を図示するグラフである。
図9】27日目、単独投与時と、植え込み型浸透圧送達デバイスを介したエキセナチドの持続的な送達が行われている間のITCA-650との同時投与時とにおける、経時的なアセトアミノフェンの平均血漿濃度を図示するグラフである。
図10】植え込み型浸透圧送達デバイスを介したエキセナチドの持続的な送達が行われている間の、エキセナチドと、Levora(登録商標)(OC)からのエチニルエストラジオール(EE)及びレボノルゲストレル(LNG)との薬物間相互作用に対する統計的評価を示している。
図11】薬物動態パラメーターを図示する図表であり、ITCA-650がある特定の経口的に同時投与される医薬品の薬物動態に対し、臨床的に意義のある程度において実質的に影響を及ぼさなかったことを実証している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は、158アミノ酸前駆体ポリペプチドであるプレプログルカゴンに由来し、プレプログルカゴンは、種々の組織内で処置されて、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)、及びオキシントモジュリン(OXM)を含めた複数の種々のプログルカゴン由来ペプチドを形成し、これらのプログルカゴン由来ペプチドは、グルコース恒常性、インスリン分泌、胃排出、腸管の成長、さらに食物摂取量の調節を含めた多岐にわたる生理的機能に関与する。GLP-1は、プログルカゴンのアミノ酸72から108(プレプログルカゴンの92から128)に対応する37アミノ酸ペプチドとして産生される。GLP-1(7-36)アミドまたはGLP-1(7-37)酸は、GLP-1受容体にて実質的に同等の活性を示す、生物活性形態のGLP-1である。
【0015】
GLP-1受容体にてアゴニストとして作用するGLP-1及びGLP-1アナログは、例えば、2型糖尿病を有する患者を処置するための、有効な低血糖制御をもたらすことが示されている。2型糖尿病処置のためのある特定のGLP-1アナログが販売中または開発中であり、これには、Byetta(登録商標)及びBydureon BCise(登録商標)(エキセナチド)、Ozempic(登録商標)(セマグルチド)、Victoza(登録商標)(リラグルチド)、Adlyxin(登録商標)(リキシセナチド)、Tanzeum(登録商標)(アルビグルチド)、ならびにTrulicity(登録商標)(デュラグルチド)が含まれる。
【0016】
本明細書において「浸透圧送達デバイス」という用語は、典型的には、薬物(例えば、インスリン分泌性ペプチド)を対象に送達するために使用されるデバイスを指し、当該デバイスは、例えば、薬物(例えば、インスリン分泌性ペプチド)と浸透圧剤製剤とを含む懸濁液製剤を収容する腔部を有するリザーバー(例えば、チタン合金製)を含む。腔部内に位置決めされたピストン組立品は、懸濁剤を浸透圧剤製剤から分離する。浸透圧剤製剤に隣接したリザーバーの第一の遠位端に半浸透性膜が位置決めされ、懸濁液製剤に隣接したリザーバーの第二の遠位端に拡散調節器(懸濁液製剤が当該デバイスから出る際に通る送達開口部を規定)が位置決めされている。典型的には、浸透圧送達デバイスは、対象内に、例えば、真皮下的または皮下的に(例えば、腹部領域または上腕の内側、外側、もしくは背部において)植え込まれる。例示的な浸透圧送達デバイスとして、DUROS(登録商標)送達デバイスがある。「浸透圧送達デバイス」と同義の用語の例としては、以下に限定されないが、「浸透圧薬物送達デバイス」、「浸透圧薬物送達システム」、「浸透圧デバイス」、「浸透圧送達デバイス」、「浸透圧送達システム」、「浸透圧ポンプ」、「植え込み型薬物送達デバイス」、「薬物送達システム」、「薬物送達デバイス」、「植え込み型浸透圧ポンプ」、「植え込み型薬物送達システム」、及び「植え込み型送達システム」が挙げられる。「浸透圧送達デバイス」に関する他の用語は当技術分野で公知である。本明細書において「ITCA-650」とは、配列番号1:H-His-Gly-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Leu-Ser-Lys-Gln-Met-Glu-Glu-Glu-Ala-Val-Arg-Leu-Phe-Ile-Glu-Trp-Leu-Lys-Asn-Gly-Gly-Pro-Ser-Ser-Gly-Ala-Pro-Pro-Pro-Ser-NHのアミノ酸配列を有するエキセナチドを含む浸透圧送達デバイスである。
【0017】
本明細書において「持続的な送達」という用語は、典型的には、浸透圧送達デバイスから植え込み部位付近の組織(例えば、真皮下及び皮下の組織)への実質的に持続的な薬物の放出を指す。例えば、浸透圧送達デバイスは、浸透の原理に基づいた所定速度にて薬物を放出する。細胞外液は、浸透圧デバイスに進入し、半浸透性膜を通って、ゆっくりとした一定の移動速度でピストンを駆動するように拡張する浸透圧エンジン内に直接入る。ピストンの運動により、拡散調節器の開口部から薬物製剤が強制的に放出される。このようにして、浸透圧送達デバイスからの薬物は、ゆっくりとした、制御された一定の速度にて放出される。
【0018】
本明細書において「実質的な定常状態送達」という用語は、典型的には、規定の時間期間にわたるターゲット濃度における、またはターゲット濃度付近における薬物の送達を指し、このとき、浸透圧送達デバイスから送達されている薬物の量は、実質的なゼロ次送達である。治療剤における実質的なゼロ次送達(例えば、インスリン分泌性ペプチド、好ましくはエキセナチド)とは、薬物送達速度が一定であり、かつ送達システムにおいて利用可能な薬物とは無関係であることを意味する。例えば、ゼロ次送達において、薬物送達速度が時間に対しグラフ化され、線がデータに適合している場合、この線は、標準的方法(例えば、線形回帰)が決定するところにより、およそゼロの傾きを有する。
【0019】
本明細書において「処置」、「処置する」、及び「処置すること」という用語は、本明細書に記載されている疾患もしくは障害、またはその1つ以上の症状を反転、軽減、寛解すること、その発症を遅延させること、またはその進行を阻害することを指す。一部の実施形態において、処置は、1つ以上の症状が発生した後に投与され得る。他の実施形態において、処置は、症状の不在下で投与され得る。例えば、処置は、症状の発症前に(例えば、症状歴を踏まえて、及び/または遺伝的要因もしくは他の感受性要因を踏まえて)、感受性を有する対象に投与され得る。また、処置は、症状が解消した後も、例えば、症状の再発を予防または遅延させるために、継続され得る。
【0020】
本明細書において「対象」という用語は動物を意味し、好ましくは哺乳類、最も好ましくはヒトを意味する。また、本明細書において「対象」という用語は患者も意味し、好ましくは、T2D、肥満に罹患している、または体重減少を必要とするヒト患者を意味する。
【0021】
本明細書において「同時投与」という用語は、概して、対象へのGLP-1受容体アゴニストのボーラス注射中もしくは注射後に、対象に薬物を別々に投与すること、または対象における、エキセナチドなどのGLP-1受容体アゴニストを含む浸透圧送達デバイスの挿入中もしくは挿入後に、対象に薬物を別々に投与することを指す。
【0022】
「用量調整」という用語は、2型糖尿病以外の疾患または障害の処置のための薬物において、単独またはGLP-1受容体アゴニストの不在下での薬物投与時に使用される投薬量に対し、GLP-1受容体アゴニストの同時投与時になされる投薬量の変化を指す。
【0023】
別途定義されない限り、本明細書で使用する全ての技術的用語及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書において、文脈による別段の明確な定めがない限り、単数形は複数形も含み、例として、「a」、「an」、及び「the」という用語は単数または複数であるように理解され、「or」という用語は包括的であるように理解される。例として、「要素(an element)」とは1つ以上の要素を意味する。本明細書全体において、「含む(comprising)」という語または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などのバリエーションは、述べられた要素、整数、もしくはステップ、または要素、整数、もしくはステップの群を含み、ただし任意の他の要素、整数、もしくはステップ、または要素、整数、もしくはステップの群を除外しないように理解されたい。約は、記載値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%以内と理解することができる。文脈から別のことが明らかでない限り、本明細書で示される全ての数値は、約という用語によって修飾される。
【0024】
例示的な実施形態の説明
一態様において、本発明は、対象に、植え込み型送達デバイスを介して持続的な皮下用量のグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アナログを投与することを含む方法であって、対象が、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に、薬物を経口的に同時投与される、方法を提供する。
【0025】
別の態様において、本発明は、対象(例えば、T2D及び/または肥満を患っている、及び/または体重減少を必要とする患者)の処置方法で使用するための薬物であって、当該処置方法が、対象(例えば、患者)に、植え込み型浸透圧送達デバイスを介して、持続的な皮下用量のグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アナログを投与することと、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に、薬物を経口的に同時投与することとを含む、薬物を提供する。
【0026】
一部の実施形態において、対象は、植え込み型送達デバイスの植え込み後1時間から6ヵ月、薬物を経口的に同時投与される。一部の実施形態において、対象は、植え込み型送達デバイスの植え込み後1時間から24時間、薬物を経口的に同時投与される。一部の実施形態において、対象は、植え込み型送達デバイスの植え込み後1日から7日、薬物を経口的に同時投与される。一部の実施形態において、対象は、植え込み型送達デバイスの植え込み後1週間から1ヵ月、薬物を経口的に同時投与される。一部の実施形態において、対象は、植え込み型送達デバイスの植え込み後1ヵ月から3ヵ月、薬物を経口的に同時投与される。一部の実施形態において、対象は、植え込み型送達デバイスの植え込み後3ヵ月から6ヵ月、薬物を経口的に同時投与される。一部の実施形態において、対象は、植え込み型送達デバイスの植え込み後6ヵ月から1年、薬物を経口的に同時投与される。一部の実施形態において、対象は、植え込み型送達デバイスの植え込み後1年から2年、薬物を経口的に同時投与される。
【0027】
一部の実施形態において、薬物は、2型糖尿病以外の疾患または障害の処置のために投与される。一部の実施形態において、2型糖尿病以外の疾患または障害は、疼痛、血中コレステロールレベル上昇、心臓疾患、高血圧、心臓発作、卒中、または凝血からなる群より選択される。
【0028】
一部の実施形態において、薬物は、小児の受胎を予防するために投与される避妊薬である。
【0029】
一部の実施形態において、薬物は、アセトアミノフェン、アトルバスタチン、リシノプリル、ジゴキシン、エチニルエストラジオール、レボノルゲストレル、R-ワルファリン、及び/またはS-ワルファリンからなる群より選択される。
【0030】
一部の実施形態において、薬物は、アセトアミノフェンなどの鎮痛剤である。
【0031】
一部の実施形態において、薬物はアセトアミノフェンであり、単独で投与されるアセトアミノフェンの参照AUCに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるアセトアミノフェンのAUCの比は、1.0から1.25の間または0.75から1.25の間である。
【0032】
一部の実施形態において、薬物はアセトアミノフェンであり、同時投与されるアセトアミノフェン(例えば、植え込みから1時間、2時間、または4時間以内及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中)におけるAUCは、単独投与されるアセトアミノフェンにおける参照AUCに対し10%または5%未満低下する。
【0033】
一部の実施形態において、薬物はアセトアミノフェンであり、単独投与されるアセトアミノフェンの参照Cmaxに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるアセトアミノフェンのCmaxの比は、1.0から1.25の間または0.75から1.25の間である。
【0034】
一部の実施形態において、薬物はアセトアミノフェンであり、同時投与されるアセトアミノフェン(例えば、植え込みから1時間、2時間、または4時間以内及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中)におけるCmaxは、単独投与されるアセトアミノフェンにおける参照Cmaxに対し30%、20%、10%、または5%未満低下する。
【0035】
一部の実施形態において、薬物はアセトアミノフェンであり、同時投与されるアセトアミノフェン(例えば、植え込みから1時間、2時間、または4時間以内及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中)Tmaxは、単独投与されるアセトアミノフェンにおける参照Tmaxに対し2時間または1時間未満増加する。
【0036】
一部の実施形態において、薬物は、エチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレルなどの経口避妊薬である。一部の実施形態において、経口避妊薬は、エチニルエストラジオール及びレボノルゲストレルの配合薬である(例えば、Levora(登録商標)(エチニルエストラジオール35mcg及びレボノルゲストレル150mcg))。
【0037】
一部の実施形態において、薬物はエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレルであり、単独投与されるエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレルの参照AUCに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレルのAUCの比は、0.75から1.25の間または0.75から1.50の間である。
【0038】
一部の実施形態において、薬物はエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレルであり、単独投与されるエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレルの参照Cmaxに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレルのCmaxの比は、0.75から1.25の間または0.75から1.50の間である。
【0039】
一部の実施形態において、薬物はエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレルであり、同時投与されるエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレル(例えば、植え込みから1時間、2時間、または4時間以内及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中)におけるCmaxは、単独投与されるエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレルにおける参照Cmaxに対し30%、20%、10%、または5%未満低下する。
【0040】
一部の実施形態において、薬物はエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレルであり、同時投与されるエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレル(例えば、植え込みから1時間、2時間、または4時間以内及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中)におけるTmaxは、単独投与されるエチニルエストラジオール及び/またはレボノルゲストレルにおける参照Tmaxに対し3時間、2時間、または1時間未満増加する。
【0041】
一部の実施形態において、薬物は、血中コレステロールレベル上昇の処置または予防のためである。一部の実施形態において、薬物はスタチンである。一部の実施形態において、薬物はアトルバスタチンである。
【0042】
一部の実施形態において、薬物はアトルバスタチンであり、単独投与されるアトルバスタチンの参照AUCに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるアトルバスタチンのAUCの比は、1.0から1.25の間または1.0から1.50の間である。
【0043】
一部の実施形態において、薬物はアトルバスタチンであり、単独投与されるアトルバスタチンの参照Cmaxに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるアトルバスタチンのCmaxの比は、1.0から1.5の間または1.0から1.75の間である。
【0044】
一部の実施形態において、薬物は、高血圧及び/または心臓疾患の処置または予防のためである。一部の実施形態において、薬物はジゴキシンである。
【0045】
一部の実施形態において、薬物はジゴキシンであり、単独投与されるジゴキシンの参照AUCに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるジゴキシンのAUCの比は、1.0から1.25の間または1.0から1.50の間である。
【0046】
一部の実施形態において、薬物はジゴキシンであり、単独投与されるジゴキシンの参照Cmaxに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるジゴキシンのCmaxの比は、1.0から1.25の間または1.0から1.50の間である。
【0047】
一部の実施形態において、薬物はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤である。一部の実施形態において、薬物はリシノプリルである。
【0048】
一部の実施形態において、薬物はリシノプリルであり、単独投与されるリシノプリルの参照AUCに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるリシノプリルのAUCの比は、1.5から2.0の間または1.0から2.0の間である。
【0049】
一部の実施形態において、薬物はリシノプリルであり、単独投与されるリシノプリルの参照Cmaxに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるリシノプリルのCmaxの比は、1.25から1.75の間または1.0から2.0の間である。
【0050】
一部の実施形態において、薬物は、心臓発作、卒中、及び/または凝血の処置または予防のためである。一部の実施形態において、薬物は抗凝血剤である。一部の実施形態において、薬物はR-ワルファリン及び/またはS-ワルファリンである。
【0051】
一部の実施形態において、薬物はR-ワルファリン及び/またはS-ワルファリンであり、単独投与されるR-ワルファリン及び/またはS-ワルファリンの参照AUCに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるR-ワルファリン及び/またはS-ワルファリンのAUCの比は、1.0から1.25の間または0.75から1.5の間である。
【0052】
一部の実施形態において、薬物はR-ワルファリン及び/またはS-ワルファリンであり、単独投与されるR-ワルファリン及び/またはS-ワルファリンの参照Cmaxに対する、植え込み型送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中に同時投与されるR-ワルファリン及び/またはS-ワルファリンのCmaxの比は、1.5未満または1.25未満である。
【0053】
一部の実施形態において、薬物は、用量調整なしで同時投与される。言い換えれば、薬物に対し通常処方される用量は、送達デバイスの植え込み後及びGLP-1アナログの持続的な皮下投薬中、変化しない。
【0054】
一部の実施形態において、薬物は、対象により自己投与される。言い換えれば、薬物は、医師により処方された場合もOTC薬として得られた場合も、対象により経口摂取される。
【0055】
別の態様において、本発明は、対象に、植え込み型送達デバイスを介して持続的な皮下用量のグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)を投与することを含む方法であって、投与後、対象の胃排出速度において、投与前の対象の胃排出速度に対する実質的な遅延をもたらさない、方法を提供する。
【0056】
別の態様において、本発明は、対象(例えば、T2D及び/または肥満を患っている、及び/または体重減少を必要とする患者)の処置方法で使用するための薬物であって、当該処置方法が、対象(例えば、患者)に、植え込み型浸透圧送達デバイスを介して、持続的な皮下用量のグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アナログを投与することを含み、投与後、対象の胃排出速度において、投与前の対象の胃排出速度に対する実質的な遅延をもたらさない、薬物を提供する。
【0057】
一部の実施形態において、方法は、投与後、対象の胃排出速度において、投与前の対象の胃排出速度に対する約20%未満の遅延をもたらす。一部の実施形態において、方法は、投与後、対象の胃排出速度において、投与前の対象の胃排出速度に対する10%、5%、または1%未満の遅延をもたらす。
【0058】
一部の実施形態において、方法は、投与後5日から29日の間、対象の胃排出速度において、投与前の対象の胃排出速度に対する実質的な遅延をもたらさない。一部の実施形態において、方法は、投与後1日から1週間の間、1日から2週間の間、または1日から1ヵ月の間、対象の胃排出速度において、投与前の対象の胃排出速度に対する実質的な遅延をもたらさない。一部の実施形態において、方法は、エキセナチド(例えば、ITCA-650によるエキセナチド20μg/日またはITCA-650によるエキセナチド60μg/日)などのGLP-1アナログの持続的な皮下送達中(例えば、3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月、または24ヵ月の投与期間中)、対象の胃排出速度において実質的な遅延をもたらさない。
【0059】
一部の実施形態において、方法は、空腹時胃排出速度において実質的な遅延をもたらさない。空腹状態(例えば、食物または食事の消費を伴わない少なくとも24時間、12時間、8時間、6時間、4時間、または2時間の空腹期間内における状態)は、当業者に周知されている空腹状態に対応する。本明細書において「実質的な」という用語は、20%未満、10%未満、5%未満、または1%未満に対応する。
【0060】
一部の実施形態において、方法は、食後胃排出速度において、実質的な(例えば、20%未満、10%未満、5%未満、または1%未満)遅延をもたらさない。食後状態(例えば、食物または食事が消費された12時間、8時間、6時間、4時間、2時間、または1時間の摂食期間内における状態)は、当業者に周知の空腹状態に対応する。
【0061】
別の態様において、本発明は、対象に、植え込み型送達デバイスを介して持続的な皮下用量のグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)を投与することを含む方法であって、投与後、対象の血液中のグルカゴン濃度において、投与前の対象の血液中のグルカゴン濃度に対する実質的な低下をもたらさない、方法を提供する。
【0062】
別の態様において、本発明は、対象(例えば、T2D及び/または肥満を患っている、及び/または体重減少を必要とする患者)の処置方法で使用するための薬物であって、当該処置方法が、対象(例えば、患者)に、植え込み型浸透圧送達デバイスを介して、持続的な皮下用量のグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アナログを投与することを含み、投与後、対象の血液中のグルカゴン濃度において、投与前の対象の血液中のグルカゴン濃度に対する実質的な減少をもたらさない、薬物を提供する。
【0063】
一部の実施形態において、方法は、投与後、対象の血液中のグルカゴン濃度に、投与前の対象の血液中のグルカゴン濃度に対する20%未満の低下をもたらす。一部の実施形態において、方法は、投与後、対象の血液中のグルカゴン濃度に、投与前の対象の血液中のグルカゴン濃度に対する10%未満、5%未満、または1%未満の低下をもたらす。
【0064】
一部の実施形態において、方法は、投与後5日から29日の間、対象の血液中のグルカゴン濃度において、投与前の対象の血液中のグルカゴン濃度に対する実質的な低下をもたらさない。一部の実施形態において、方法は、投与後1日から1週間の間、1日から2週間の間、または1日から1ヵ月の間、対象の血液中のグルカゴン濃度において、投与前の対象の血液中のグルカゴン濃度に対する実質的な低下をもたらさない。一部の実施形態において、方法は、エキセナチド(例えば、ITCA-650によるエキセナチド20μg/日またはITCA-650によるエキセナチド60μg/日)などのGLP-1アナログの持続的な皮下送達中(例えば、3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月、または24ヵ月の投与期間中)、対象の血液中のグルカゴン濃度において実質的な低下をもたらさない。
【0065】
一部の実施形態において、方法は、空腹時グルカゴン濃度において、実質的な(例えば、20%未満、10%未満、5%未満、または1%未満)低下をもたらさない。
【0066】
一部の実施形態において、方法は、食後グルカゴン濃度において、実質的な(例えば、20%未満、10%未満、5%未満、または1%未満)低下をもたらさない。
【0067】
一部の実施形態において、GLP-1アナログはエキセナチドである。一部の実施形態において、GLP-1アナログはエキセナチド以外である。一部の実施形態において、GLP-1アナログは、Ozempic(登録商標)(セマグルチド)、Victoza(登録商標)(リラグルチド)、Adlyxin(登録商標)(リキシセナチド)、Tanzeum(登録商標)(アルビグルチド)、及びTrulicity(登録商標)(デュラグルチド)からなる群より選択される。一部の実施形態において、GLP-1アナログはOzempic(登録商標)(セマグルチド)である。一部の実施形態において、GLP-1アナログはVictoza(登録商標)(リラグルチド)である。一部の実施形態において、GLP-1アナログはAdlyxin(登録商標)(リキシセナチド)である。一部の実施形態において、GLP-1アナログはTrulicity(登録商標)(デュラグルチド)である。一部の実施形態において、GLP-1アナログはTanzeum(登録商標)(アルビグルチド)である。
【0068】
一部の実施形態において、GLP-1アナログは、代謝障害の処置のために投与される。一部の実施形態において、GLP-1アナログは、2型糖尿病の処置のために投与される。一部の実施形態において、GLP-1アナログは、肥満の処置のために投与される。一部の実施形態において、GLP-1アナログは、対象における体重減少をもたらすために投与される。
【0069】
一部の実施形態において、対象は、20μg/日の用量のITCA-650を投与される。一部の実施形態において、対象は、60μg/日の用量のITCA-650を投与される。
【0070】
一部の実施形態において、対象はヒトである。
【実施例
【0071】
以下の実施例は、本発明の実施方法の完全な開示及び説明を当業者に提供するために示されるものであり、発明者らが発明とみなすものの範囲を限定するようには意図されていない。使用する数字(例えば、量、濃度、及びパーセント変化)に対し正確さを保証するように努力が払われたが、いくらかの実験的誤差及び偏差が残存する可能性はある。
【0072】
実施例1~3における全般的方法
データソース:食事負荷試験(MTT)に関するデータは、1日目(処置前)のMTT評価を完了し、予定された3つの処置後MTT評価のうちの少なくとも1つについての全ての薬物力学評価を完了した、全てのランダム化された対象を含む、評価可能なコホートから導き出した。処置前MTTを完了した、当初ランダム化されたn=45のコホートからの対象1名は、いずれの処置後MTT評価も完了しなかったので、評価可能なコホートから除外した。したがって、評価可能な集団には対象が44名が存在し、このうち、対象12名をITCA 650 10mcg/日群、対象11名をITCA 650 20mcg/日群、対象10名をITCA 650 40mcg/日群、対象11名をITCA 650 80mcg/日群とした。全ての予定されたMTT評価のうち、43/44(98%)が5日目に完了し、37/44(84%)が15日目に完了し、42/44(95%)が29日目に完了した。
【0073】
血漿グルコース、インスリン、及びグルカゴンの値を、食事負荷評価内の処置群、対象、受診番号、及び時間によって並び替えるために、全ての実験値を収容するSASデータセット「LB」からのデータをExcelファイル(2013 v15 Office 365モジュール)にダウンロードした(アナライトごとに、食前の値1つ及び食後の値6つを含めた7つの値が存在した)。組み立てたExcel表を、グラフ解析のためにGraphPad Prism(v7.02.185、www.graphpad.com、San Diego,CA)にインポートした。
【0074】
時系列からの欠損値は、先行値及び後続値が存在する場合、線形補間により補完した。時系列において初期値が欠損している場合、その時点に存在する値の中央値として補完した。初期値は典型的に低かったため、この処理によるバイアスは無視できると考えられる。この方法により補完された値の数は11(3611の値の最終マトリックスのうちの0.3%)であった。
【0075】
実施例1.ITCA-650と胃排出速度
血漿グルコースの変化は、出現率(Ra)と消失率(Rd;廃棄)との差から得られる。Rdは、主としてインスリン駆動型の流量である。Raは、食事関連の出現率と、肝臓糖新生などの内因性供給源からのグルコースとから構成される。インスリンは、最初は値が低く、脂肪及び筋肉の間質内の細胞ターゲットに到達するのに時間がかかるため、またインスリンは、GLUT4輸送体を動員するという細胞的効果を発揮するのに時間がかかるため、食事の後の最初の30~60分における食事関連変化のほとんどが出現率に関係する。アミリンアゴニスト、CCKアゴニスト、PYYアゴニスト、及びGLP-1アゴニストを含めた胃の排出を遅くする薬剤は、このような薬剤のインスリン分泌修飾効果に関係なく、試験食の後のグルコース上昇を用量依存的に抑制する。グルコースが試験食である(OGTT)場合、同時に測定される胃排出は、30分時における血漿グルコースの変化との相関が高かった(Horowitz,M.,M.A.Edelbroek,J.M.Wishart and J.W.Straathof(1993).“Relationship between oral glucose tolerance and gastric emptying in normal healthy subjects.”Diabetologia 36(9):857-862)。食前から食後30分の血漿グルコースの変化(Δグルコース30)を、ITCA-650が胃排出に及ぼす影響の根拠として調べた。
【0076】
方法
変化(Δグルコース30)を処置前に観察された変化と関係付け、差(ΔΔグルコース30)を処置持続期間とエキセナチド注入速度との関数として調べた。用量反応を3-パラメーターシグモイド(GraphPad Prism v7;www.graphpad.com;San Diego CA)に適合させ、3通りの処置持続期間(5日、15日、及び29日)の各々からの用量反応が共通のED50を共有するように適合値を拘束した。
【0077】
結果
5日、15日、及び29日の処置前及び処置後の用量群ごとのΔグルコース30図1に示す。図1では、エキセナチド10μg/日、20μg/日、40μg/日、及び80μg/日の処置について、5日、15日、及び29日の処置前及び処置後に測定された、試験食の間の血漿グルコースにおける0~30分の増加分が図示されている。記号は、個別の増加分の集団平均±平均値の標準誤差(SEM)である。
【0078】
処置前参照変化を表すΔΔグルコース30は、図2に用量の関数としてプロットされている。Δグルコース30の用量依存性が15日の処置の後に示唆された(r 0.22)が、この用量依存性は、それより前の5日時(r 0.02)においても、それより後の29日時(r 0.01)においても明らかではなかった。
【0079】
図2は、処置前の値に対する試験食の間のグルコース濃度における30分の変化についての用量反応を図示している。5日目、15日目、及び29日目の曲線は、共通のED50を共有するように拘束された3-パラメーターシグモイドである。記号は、個々の値の集団平均±SEMである。
【0080】
実施例による結論
図1に示されているように、試験食後の血漿グルコースにおける変化は、食事から30分後に40~60mg/dLのオーダーであった。処置後の増加分は、処置前の同じ対象において記録された値に類似していた。
【0081】
処置前に観察された変化に対する変化の用量依存性が15日の処置の後に示唆されたが、この用量依存性は、5日の処置の後にも29日の処置の後にも存在しなかった。
【0082】
食後にグルコース増加分が抑制される大きさは、存在する場合、エキセナチド5μgまたは19μgの皮下ボーラス注射の後に食後のグルコース変化を測定した非糖尿病対象における別の研究と比較して小さいものであった(Linnebjerg,H.,P.A.Kothare,Z.Skrivanek,A.de la Pena,C.Ernest,M.Atkins and M.E.Trautmann(2004).“Exenatide:postprandial glucose pharmacodynamics at various dosing times relative to a meal in patients with type 2 diabetes.”Diabetologia 47(suppl 1):A280.Abstract 776)。この研究において、さらにグルコースを試験食とした(OGTT)別の研究(Kolterman,O.G.,J.B.Buse,M.S.Fineman,E.Gaines,S.Heintz,T.A.Bicsak,K.Taylor,D.Kim,M.Aisporna,Y.Wang and A.D.Baron(2003).“Synthetic exendin-4(exenatide) significantly reduces postprandial and fasting plasma glucose in subjects with type 2 diabetes.”J Clin Endocrinol Metab 88(7):3082-3089)において観察されたエキセナチドの用量依存性は、本研究では一貫した特徴ではなかった。
【0083】
いかなる理論にも拘泥するものではないが、このように、エキセナチドのボーラス注射が食後のグルコース変化に及ぼす影響は、少なくとも部分的には、胃排出の阻害による結果であり得るように思われる。これに対し、本試験におけるように、エキセナチドの長期注入時には胃排出が阻害されないように思われる。
【0084】
実施例2.ITCA-650と食後のグルカゴン分泌
重症の2型糖尿病を含めたインスリン不足性糖尿病を有する対象において、タンパク質含有食に応答してのグルカゴン分泌過剰が報告されており(Raskin,P.,I.Aydin,T.Yamamoto and R.H.Unger(1978).“Abnormal alpha cell function in human diabetes:the response to oral protein.”Am J Med 64(6):988-997)、これは代謝障害の病因と結び付けられている(Unger,R.H.(1978).“Role of glucagon in the pathogenesis of diabetes:the status of the controversy.”Metabolism 27(11):1691-1709)。
【0085】
方法
食事負荷試験中の血漿グルカゴン濃度プロファイルを処置(1日当たりエキセナチド10μg/日、20μg/日、40μg/日、及び80μg/日)の関数として、及び処置持続期間(処置前ならびに処置後5日、15日、及び29日)の関数としてプロットした。これらの16通りの条件(4通りの処置×4通りの持続期間)の各々におけるデータの平均及びSEMを、欠損値の補完なしで存在するデータから導き出した。存在する値の数は7~12の範囲であった。
【0086】
データは、ベースラインからの絶対的変化(Δグルカゴン)としても解析し、16通りの条件の各々におけるグルカゴンについてプロットした。
【0087】
総グルカゴンについての曲線下面積(AUC0-3)及びMTT中の0分からのグルカゴンにおける変化についての曲線下面積(ΔAUC0-3)を台形補間により導き出し、処置群の各々について処置持続期間の関数としてそれぞれプロットした。
【0088】
結果
食事負荷試験中の血漿グルカゴンプロファイルは、図3において用量群ごとに別々のパネル内に、処置持続期間の関数としてプロットされている。血漿グルカゴンプロファイルは、典型的には試験食から30分後に最大となり、その後徐々に減少した。プロファイルは、示されている16通りの処置全てにおいて類似していた。80μg/日処置群では、29日目に高い初期ベースライン及び高いSEMが2名の対象によって生じ、他の15通りの処置条件における値よりも4倍~6倍高い値となったが、これは信頼性が低いと考えられる。
【0089】
図3は、4つの用量群の各々(別々のパネル)について、処置持続期間(異なる記号及び色)に従ってプロットされた食事負荷試験中の血漿グルカゴンプロファイルを図示している。記号は、各条件において存在するデータについての平均±SEMである。
【0090】
血漿グルカゴンにおける食前の値からの変化が図4にプロットされている。概して、プロファイルは16通りの条件の各々について類似するものであった。29日目には40μg/日及び80μg/日について変化が少ないように思われ、一方15日目には食後のグルカゴンの抑制の徴候が見られなかった。これらの測定値は、上記に記載の理由のため、信頼性が低いと考えられる。
【0091】
図4は、試験食の間の血漿グルカゴン濃度における食前の値からの変化を図示している。記号、色、及びレイアウトは、図3におけるものと同じ意味を有する。
【0092】
図3及び4にグラフで示されている絶対的なグルカゴン濃度についてのAUC及び食後の濃度変化についてのAUCは、図5において、4つの用量群の各々について処置持続期間の関数としてプロットされている。
【0093】
いずれの解析によっても、いずれの処置持続期間におけるAUC0-3またはΔAUC0-3についても処置前からの変化は見られないように思われる。
【0094】
図5は、用量群ごとの処置持続期間の関数としての、食事負荷試験中の一体化されたグルカゴン濃度(左パネル)またはグルカゴンの変化(右パネル)を図示している。
【0095】
実施例による結論
ITCA-650によるエキセナチドの持続的な皮下注入について得られたデータは、そのグルコース低下効果の基礎となる重要な機構としての食後のグルカゴンの抑制を支持するものではない。これらの所見は、エキセナチド1μg/kgのボーラス皮下注射が、試験食から1時間後の血漿グルカゴンにおける約70pg/mLの増加を抑止したというKolterman et al.(Kolterman,et al.,J Clin Endocrinol Metab 2003)の所見と対照をなすものである。食事で刺激されるグルカゴン分泌は、少なくとも部分的には胃排出の変化により調節され得ることから、本件における影響の不在は、本明細書に記載されているような、持続的に送達されるエキセナチドが胃排出に及ぼす影響の不在と整合していると考えられる。
【0096】
実施例3.ITCA-650とグルコース刺激インスリン分泌
グルカゴン様ペプチド-1の能力についての1987年の報告によれば(Mojsov,S.,G.C.Weir and J.F.Habener(1987).“Insulinotropin:glucagon-like peptide I(7-37) co-encoded in the glucagon gene is a potent stimulator of insulin release in the perfused rat pancreas.”J Clin Invest 79(2):616-619)、グルカゴン様ペプチド-1は、グルコース依存的な方法でインスリン分泌を刺激し、血漿グルコース濃度が低い場合は影響を及ぼさないというものであった。これ以降に報告されたあらゆるGLP-1アゴニストは、この特性を有するように思われる。そのため発明者らは、本試験における、得られた血漿インスリン濃度と、同時に決定された血漿グルコース濃度との相関が、このような機構を支持するかどうかを決定するよう努めた。
【0097】
T2Dの自然経過により、対象が疾患の段階に応じて[インスリン]*[グルコース]面の異なるゾーンに配置されることから、1つの課題は、2型糖尿病を有する対象における[インスリン]/[グルコース]の相関を決定することにある。Reaven及びMillerにより横断的データに基づいて提唱され(Reaven,G.M.and R.Miller(1968).“Study of the relationship between glucose and insulin responses to an oral glucose load in man.”Diabetes 17(9):560-569)、Saad et al.により縦断的データに基づいて確認されたところによれば(Saad,M.F.,W.C.Knowler,D.J.Pettitt,R.G.Nelson,D.M.Mott and P.H.Bennett(1989).“Sequential changes in serum insulin concentration during development of non-insulin-dependent diabetes.”Lancet 1(8651):1356-1359)、進行は、インスリン分泌の増幅で始まり、インスリン抵抗性が確立するにつれて、中等度の血糖代謝異常を伴う。個体のサブセットでは、この次に顕性高血糖症が生じる。これは、おそらくはアミロイドによる島破壊に起因してインスリン分泌能が不全となるためである。結果は、[インスリン]/[グルコース]データ対における逆U字形の分布となり、OGTT後2時間時点の分布が図6Aに示されている。個体は、正常からIGT、T2Dに進行するにつれ、黄色矢印の軌跡をたどる傾向がある。図6Bは、エキセナチド80μg/日による処置を行う前のT2DにおけるMTTからの[インスリン]/[グルコース]の図表を示している。図6Aにマッピングされた進行は、図6Bの本試験からの[インスリン]/[グルコース]図表において明らかである。連続的な測定値の順序は、矢印の方向により示されている。例えば、対象31-047及び31-044は、試験食の後に激しいインスリン応答と共に中程度のグルコース増加を示しており、これは進行におけるインスリン抵抗期と整合している。これに対し、対象32-021及び33-026は、大きな血糖可動域とほんのわずかなインスリン応答とを示しており、これは疾患進行における分泌不全期と整合している。本試験における[インスリン]/[グルコース]軌跡のもう1つの特徴はヒステリシスであり、下降方向のデータ対の経路が上昇方向のデータ対の経路と異なっている。これらの特徴の適応について、解析方法で対処した。
【0098】
Saad et al.から描き直した図6A(左)は、正常なグルコース耐性からT2Dに進行する間の[インスリン]対[グルコース]相関の変化をマッピングしている。図6B(右)は、本試験における多様な[インスリン]対[グルコース]相関を例示している。
【0099】
方法
図6Bに例示されているように、グルコースがインスリン分泌に及ぼす影響を[インスリン]対[グルコース]相関の傾きとして定量化した。傾きは線形回帰により推定され、X軸との交差は対象ごとに一意であった。
【0100】
インスリン効果誘導のタイムタグなどの要因のため、また分泌インスリンの即効的でないクリアランスのため、ヒステリシスループの上昇方向部分におけるデータ対のみを解析に使用した。このようなセグメントは、図6Bに太い線で示されている。このようにして、対象31-044及び31-047は類似の傾きをもたらした。対象32-021及び32-032の傾きは類似していたが、X軸との交差は異なっていた。対象33-026の傾きは最も小さかった。
【0101】
このような図表を、対象ごとに各食事負荷試験について(処置前ならびに処置後5日、15日、及び29日)解析した。所見からは、X切片(インスリンが分泌されなかった濃度を下回るグルコース濃度)が処置によって本質的に変化しなかったことが示唆され、そのため、所与の対象における全ての試験に最も良く適合した固定のX切片をもたらすように、線形回帰を拘束した。最大4つの[インスリン]対[グルコース]相関のファミリーを、X切片は共有されるが傾きは変動可能である1つの直線に適合させた。これは、Prism v7(www.graphpad.com;San Diego,CA)の非線形モジュールにおける最小2乗相互作用を用いて方程式[グルコース]=m[インスリン]+c(実際には図6Bにおける傾きの逆数)を適合させ、[インスリン]対[グルコース]の傾きとしてmの逆数を検索することにより行われた。
【0102】
個体間で処置前の傾きが幅広く変動したため、処置中に導き出された傾きを、処置前の傾きの倍数として表現した。導き出された傾きのうち、4/216(1.8%)を構成した負の傾きについては無視した。
【0103】
結果
[インスリン]/[グルコース]相関の傾きは、10μg/日の処置による1.7倍から80μg/日の処置による3.45倍まで増加した。図7に示されているように、傾きは1週間後にほぼ最大となった(tau 3.5日)。
【0104】
図7は、最良適合の[インスリン]×[グルコース]の傾きにおける処置前のベースラインを上回る倍数を図示している。曲線は、処置持続期間の関数としての最良適合の指数関数的結合である。
【0105】
29日後の傾きにおける相対的増加分を用量群ごとに解析して、図8に示される用量反応相関を得た。シグモイド適合からは、傾き変化におけるED50が約40μg/日であることが示唆される。
【0106】
図8は、ITCA-650が[インスリン]/[グルコース]相関の傾き増加に及ぼす影響についての用量反応を図示している。
実施例による結論
【0107】
食事負荷試験中の[インスリン]対[グルコース]相関における処置関連の変化の解析は、ITCA-650のインスリン分泌性効果を示している。用量反応解析は、この影響が用量依存的であり、ED50が示された用量付近であるかまたはそれを下回る可能性があることを示している。
【0108】
実施例4.ITCA-650と薬物動態(PK):アセトアミノフェン(APAP)及び一般的に同時投与される他の薬物
方法
33名の健康なボランティアを経時的な非盲検試験に登録させて、ITCA-650がAPAP 1000mgのPKに及ぼす影響と、ITCA-650が一般的に同時投与される4種の薬物:アトルバスタチン(40mg)、リシノプリル(20mg)、ジゴキシン(0.5mg)、及びワルファリン(25mg)(カクテルとして投与される)のPK及び薬物力学(PD)に及ぼす影響とを評価した。図9を参照。1日目(D1)に胃排出のマーカーとなるAPAPを投与し、続いてD2にカクテルを投与した。D6にITCA 650 20mcg/日を設置し、D20にITCA 650 60mcg/日で置き換えた。D27にAPAP、D28にカクテルを再び投与した。D32にITCA 650 60mcg/日を除去した。連続的PK(エキセナチド;同時投与薬物)及びPD(PT-INR)の試料を収集した。
【0109】
結果
図9に見られるように、ITCA-650が胃排出速度に及ぼす影響は最小限であり、AUCにおけるLS平均比の90% CIは80~125%の間であった。ジゴキシン及びワルファリンのPKまたはINRにおける変化は見られなかった。リシノプリル及びアトルバスタチンの曝露において中程度の増加が見られたものの、いずれの薬物についても、安全性及び忍容性に対する臨床的に重要な影響は見られなかった。
【0110】
実施例による結論
ITCA-650が胃排出に及ぼす影響は見られず、ITCA 650をこれらの一般的に使用される薬物と同時使用する際の投薬量調整は不要であるとみなされる。
【0111】
実施例5.ITCA650とPK・薬物力学(PD):配合経口避妊薬(OC)
方法
安定したレジメンでOC投与を受けている28名の健康な閉経前の女性が、ランダム化二重盲検プラセボ対照2期クロスオーバー試験に参加した。ITCA-650がLevora(登録商標)(OC)からのエチニルエストラジオール(EE)及びレボノルゲストレル(LNG)の定常状態PKに及ぼす影響を評価した。本試験には、Levoraの2週間の観察期間及び2つの処置期間(各28日間)が含まれた。期間1では、1日目(D1)にITCA 650 20mcg/日またはITCAプラセボが設置され、続いてD15にITCA 650 60mcg/日またはITCAプラセボへの置き換えを行った。期間2では、対象を代替の処置にクロスオーバーし、手順を繰り返した。OCは、各期間のD28まで毎日投与した。エキセナチド、EE、LNGのPK解析ならびに薬物力学(LH、FSH、及びプロゲステロン)解析のための連続的な試料を収集した。
【0112】
結果
ITCA 650 60mcg/日がEE及びLNGのPKに及ぼす影響は観察されなかった(図10)。AUCss及びCmax,ssにおける幾何LS平均処置比の90% CIは、80%~125%の同等性限界に含まれた。LH、FSH、及びプロゲステロンのレベルは、ITCA 650の投与による影響を受けなかった。
【0113】
実施例による結論
ITCA 650を配合OCのLevoraと共に投与する際には、用量調整は不要である。
【0114】
実施例6.薬物相互作用試験(エキセナチドが他の薬物の薬物動態に影響を及ぼす潜在可能性)
臨床的薬理学試験において、ITCA-650は、経口投与医薬品の薬物動態に対し、臨床的に意義のある程度に影響を及ぼすことはなかった。図11は、薬物動態パラメーター及びその90%信頼区間(CI)を図示しており、これらの相互作用の大きさを示している。評価対象の同時投与される医薬品のいずれについても、用量調整は推奨されない。アセトアミノフェンの薬物動態に対しITCA-650が有する影響は最小限であった。これは、胃排出に対しITCA-650が有する影響も最小限であることを示すものである。ITCA-650は、国際標準比(INR)により測定されるワルファリンの薬物動態効果を有意に変更しなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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