(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】測距装置及び測距方法
(51)【国際特許分類】
G01S 17/894 20200101AFI20230529BHJP
【FI】
G01S17/894
(21)【出願番号】P 2020043097
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501009849
【氏名又は名称】株式会社日立エルジーデータストレージ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 浩
(72)【発明者】
【氏名】新谷 俊通
(72)【発明者】
【氏名】小牧 孝広
(72)【発明者】
【氏名】杉山 久貴
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-027598(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0394386(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0261497(US,A1)
【文献】特開2019-045334(JP,A)
【文献】特開2019-194529(JP,A)
【文献】特表2015-532077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - G01S 7/51
G01S 17/00 - G01S 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の伝達時間に基づいて対象物までの距離を測定する測距装置において、
前記対象物に向けて照射光を出射する発光部と、
前記対象物からの反射光を受光する受光部と、
前記受光部にて受光した反射光の伝達時間に基づき前記対象物までの距離を算出する距離計算部と、
少なくとも前記受光部の姿勢を調整する姿勢調整機構と、
前記姿勢調整機構を駆動する姿勢制御部と、を備え、
前記受光部は、複数の画素を2次元配列した2次元センサで構成され、
前記距離計算部は、前記2次元センサの各画素における受光データから2次元状の距離データを算出するものであって、
前記姿勢制御部は前記姿勢調整機構を介し、前記対象物の稜線方向に対し、前記2次元センサの画素列方向を所定の角度θだけ傾斜させて受光するよう前記受光部の姿勢を制御し、
前記受光部の前記2次元センサに写し出された前記対象物の稜線の長さをWとし、前記対象物の稜線と直交する方向の前記2次元センサの画素間隔をVとするとき、
前記姿勢制御部は、前記所定の角度θが(W/V)sinθ≧2を満足するように前記受光部の姿勢を制御することを特徴とする測距装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測距装置において、
前記発光部、前記受光部、前記距離計算部、及び前記姿勢制御部は、共通の筐体に収納され、
前記姿勢調整機構は、前記筐体の姿勢を調整することを特徴とする測距装置。
【請求項3】
光の伝達時間に基づいて対象物までの距離を測定する測距方法において、
前記対象物で反射された光を、複数の画素を2次元配列した2次元センサで受光し、各画素における受光データから2次元状の距離データを得るものであって、
前記対象物の稜線方向に対し、前記2次元センサの画素列方向を所定の角度θだけ傾斜させて受光し、
前記2次元センサに写し出された前記対象物の稜線の長さをWとし、前記対象物の稜線と直交する方向の前記2次元センサの画素間隔をVとするとき、
前記所定の角度θが(W/V)sinθ≧2を満足するように設定することを特徴とする測距方法。
【請求項4】
光の伝達時間に基づいて対象物までの距離を測定する測距方法において、
前記対象物で反射された光を、複数の画素を2次元配列した2次元センサで受光し、各画素における受光データから2次元状の距離データを得るものであって、
前記対象物の稜線方向に対し、前記2次元センサの画素列方向を所定の角度θだけ傾斜させて受光し、
前記対象物の稜線方向を検出するために、前記2次元センサに写し出された前記対象物に対する各画素の輝度データを用いることを特徴とする測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の伝達時間に基づいて対象物までの距離を測定する測距装置及び測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光の伝達時間に基づいて対象物までの距離を測定する方式(以下、TOF法:タイム・オブ・フライト)による測距装置(以下、TOF装置とも呼ぶ)が知られる。TOF装置の原理は、発光部から出射した照射光が対象物にて反射し、受光部に戻ってくるまでの遅延時間を計測することで、対象物までの距離を算出するものである。受光部にCCD等の2次元イメージセンサを用いることで、距離データを2次元の距離画像として表示し、対象物の3次元位置や形状を知ることができる。
【0003】
対象物が小さい場合や、対象物の形状を高精度に測定したい場合には、2次元面内の解像度を向上させる必要がある。すなわちここで問題となるのは、対象物までの距離の解像度ではなく、測定領域内の垂直/水平方向の測定間隔である。これに関し例えば特許文献1には、リサージュ走査により決定される投光タイミングにより、測定対象物に向けて放射光を投光し、測定対象物からの反射光により距離を測定する光測距装置が記載される。その際、リサージュ走査の対象領域内に、レーザ放射タイミングを変更して異なる照射パターンに切り替えて照射することで、実質的に計測位置の間隔を小さくしたのと等価になり、解像度を向上させることができる、と述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
測距装置の受光部が2次元センサで構成されている場合、2次元センサの画素数と対象物までの距離、及び視野角によって2次元面内の測定精度(解像度)が決定される。例えば、対象物が主に平面によって構成される立体物であって、その稜線(エッジ)位置を測定したい場合がある。その際、稜線と平行に2次元センサの画素列を配置すると、稜線位置の測定精度は稜線と直交する方向の画素の間隔で決まり、所望の精度を満足できないことがある。
【0006】
特許文献1に記載の技術は、レーザ放射タイミングを変更して異なる照射パターンに切り替えるものであるが、1つの照射パターンによる解像度の向上は2次元面内の一方向しか期待できない。例えば、ある照射パターンにより垂直方向の解像度を向上させたとしても、これに直交する水平方向の解像度を向上させることはできない。仮に、特許文献1の思想のもとに両方向の解像度を同時に向上させる照射パターンを想定すると、測定時間が増加し、フレームレートが低下することが予想される。
【0007】
本発明の目的は、測定時間を増加することなく、2次元面内の直交する両方向の解像度を向上させる測距装置及び測距方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光の伝達時間に基づいて対象物までの距離を測定する測距装置において、前記対象物に向けて照射光を出射する発光部と、前記対象物からの反射光を受光する受光部と、前記受光部にて受光した反射光の伝達時間に基づき前記対象物までの距離を算出する距離計算部と、少なくとも前記受光部の姿勢を調整する姿勢調整機構と、前記姿勢調整機構を駆動する姿勢制御部と、を備える。前記受光部は、複数の画素を2次元配列した2次元センサで構成され、前記距離計算部は、前記2次元センサの各画素における受光データから2次元状の距離データを算出するものであって、前記姿勢制御部は前記姿勢調整機構を介し、前記対象物の稜線方向に対し、前記2次元センサの画素列方向を所定の角度θだけ傾斜させて受光するよう前記受光部の姿勢を制御する。
【0009】
また本発明は、光の伝達時間に基づいて対象物までの距離を測定する測距方法において、前記対象物で反射された光を、複数の画素を2次元配列した2次元センサで受光し、各画素における受光データから2次元状の距離データを得るものであって、前記対象物の稜線方向に対し、前記2次元センサの画素列方向を所定の角度θだけ傾斜させて受光することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、測定時間を増加することなく、2次元面内の直交する両方向の解像度が同時に向上する。その結果、特に対象物が主に平面によって構成される立体物について、その稜線位置を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】TOF法による距離測定の原理を説明する図。
【
図3】受光部を傾斜させない場合の解像度を説明する図。
【
図4】受光部を傾斜させた場合の垂直解像度を説明する図。
【
図5】受光部を傾斜させた場合の水平解像度を説明する図。
【
図7】筐体(受光部)の姿勢調整の手順を示すフローチャート。
【
図8】本実施例による解像度向上の効果の一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の測距装置の実施形態について説明する。本発明の測距装置は受光部の姿勢を調整する機能を備え、これにより垂直/水平方向の解像度を向上させるものである。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明に係る測距装置の第1の構成例を示す図である。測距装置(TOF装置)1は、距離測定機能として、光源から対象物にパルス光を照射する発光部11、対象物から反射したパルス光を2次元センサで受光する受光部12、発光部11の点灯/消灯と発光量の制御を行う発光制御部13、受光部12の検出信号(受光データ)から対象物までの距離を計算する距離計算部14、を備え、これらは筐体10の内部に収納されている。
【0014】
また測距装置1の受光部12の姿勢調整機能として、筐体10の内部には姿勢制御部15を、筐体10の外部には姿勢調整機構16を備えている。姿勢調整機構16は筐体10全体を保持し、その姿勢(設置面に対する傾斜角度θ)を調整する。姿勢制御部15は、受光部12の検出信号(輝度データ)をもとに姿勢調整機構16を駆動し、筐体10の姿勢、すなわち受光部12の傾斜角度θを制御する。
【0015】
姿勢調整の詳細は後述するが、距離測定時に筐体10を傾斜させ、受光部12の2次元センサの画素列方向が測定対象物の稜線方向に対し所定の角度で斜交する状態とすることで、垂直/水平方向の解像度を同時に向上させることができる。
【0016】
測距装置1では、距離計算部14で算出された距離データは外部処理装置2へ送られる。外部処理装置2は例えばパソコンからなり、距離データに基づき対象物の形状を表す距離画像や、対象物の稜線位置を示す位置データを作成し、ディスプレイ等に表示する。
【0017】
図2は、TOF法による距離測定の原理を説明する図である。測距装置1は発光部11と受光部12を有し、レーザダイオード(LD)や発光ダイオード(LED)などの発光部11から対象物3に向けて距離測定用の照射光L1を出射する。ここでは対象物3として、フォークリフト用パレットの例を示す。パレットは、主に平面によって構成される立体物であって、前面には、水平稜線31、垂直稜線32と、フォークを挿入する開口部33を有する。例えばフォークリフト作業では、測距装置1により稜線31、32や開口部33の位置を精度良く検出して、フォークを開口部33に正しく挿入する必要がある。
【0018】
受光部12は、対象物3で反射された反射光L2を対物レンズ17を介して2次元センサ12aで受光する。2次元センサ12aはCCDセンサやCMOSセンサなどの複数の画素を2次元配列したもので、各画素における受光データから2次元状の距離データを得ることができる。また、2次元センサ12aの各画素における輝度データから、対象物3の輝度画像を得ることができる。
【0019】
対象物3は、発光部11および受光部12から距離Dだけ離れた位置に存在する。ここで、光速をcとして、発光部11が照射光L1を出射してから受光部12が反射光L2を受光するまでの伝達時間をtとすると、対象物3までの距離Dは、D=c×t/2で求められる。なお、距離計算部14の行う実用的な距離測定では、伝達時間tの代わりに、所定幅の照射パルスを出射し、これを2次元センサ12aの露光ゲートのタイミングをずらしながら受光し、異なるタイミングにおける受光量(蓄積量)の値から距離Dを算出するようにしている。
【0020】
以下、本実施例の測距装置1による測定時の解像度について、対象物3として
図2のパレットを例に説明する。対象物3(パレット)は床面に水平に設置され、また測距装置1も床面に平行に設置しているものとする。よってそのままでは、対象物3の稜線方向と受光部12(2次元センサ12a)の画素列の方向は、ほぼ平行になっている。本実施例では、姿勢調整機構16により筐体10の姿勢を調整して、受光部12(2次元センサ12a)の画素列の方向を対象物3の稜線方向に対し傾斜させることで、2次元面内の垂直/水平方向の解像度を向上させるものである。
【0021】
図3は、比較のために、筐体(受光部)を傾斜させない場合の解像度を説明する図である。(a)は測距装置1を正面から見た図であり、筐体10は床面に平行である(傾斜角θ=0)。筐体10には、左右に2個の発光部11とこれに挟まれた受光部12が存在する。ここでは2個の発光部11としたが、片側1個の発光部11としても構わない。受光部12は2次元センサ12aを有しているが、2次元センサ12aの画素列水平方向は筐体10の底面に平行とする。
【0022】
(b)と(c)は、受光部12内の2次元センサ12aの画素配置をマス目で示し、これに写る対象物3(パレット)の形状を重ねて示している。(b)と(c)では、対象物3の位置を垂直方向に1画素分ずらし、<状態1>から<状態2>に遷移した場合を示す。
【0023】
なお、対象物3の実際のサイズは2次元センサ12aのサイズよりもはるかに大きいが、受光部12の入射側に設けた対物レンズ17によりレンズ倍率だけ縮小されて2次元センサ12aに写し出される。以下の説明では、対象物3のサイズ(移動量)と、2次元センサ12aの画素サイズを比較する場合には、特に断らずに、いずれか一方の値をレンズ倍率だけ補正して比較している。
【0024】
2次元センサ12aの画素列の水平/垂直方向と、対象物3の稜線の水平/垂直方向とは互いに平行に配置されている。画素数は12×12の配列で、対象物3を検出した画素は灰色(画素値=1)で示し、対象物3を検出しない画素は白色(画素値=0)で示している。ここでは画素値の定義として、1つの画素領域(マス目)に対象物3が一部でも存在する場合、灰色(画素値=1)としている。ただしこの定義は任意であり、例えば対象物3が50%存在したら画素値=1としても以下の結論は同じである。
【0025】
(b)の<状態1>では、対象物3の水平稜線31の位置がラインaであり、例えば画素P1,P2においては対象物3が検出されない。
(c)の<状態2>では、対象物3を垂直方向に1画素分(垂直画素間隔V)だけ移動させている。水平稜線31の位置がラインbに移動し、例えば画素P1,P2において対象物が検出されている。
(d)は、上記<状態1>と<状態2>における、センサ領域12b(破線枠で示す)内の画素状態を拡大し、比較して示している。
【0026】
ここで解像度の定義として、対象物3を垂直方向に移動させたとき、注目する水平稜線31の検出に関わる2次元センサ12a内のいずれの画素の画素値も変化しない最大移動量、すなわち対象物の移動に対する不感帯の幅を垂直解像度とする。この例では、水平稜線31がラインaを超えると、画素P1,P2を含む水平画素列の画素値が一斉に0から1に切り替わり、水平稜線31がラインbに到達するまで維持される。水平稜線31がラインbを超えると画素P1,P2の上側に隣接する画素列の画素値が切り替わる。すなわち、ラインaからラインbまでの区間が不感帯であり、垂直解像度yは、y=V(垂直画素間隔)となる。
【0027】
水平解像度も同様に定義される。本例では対象物3の垂直稜線と画素列の垂直方向は互いに平行に配置されているので、水平解像度xは、x=H(水平画素間隔)となる。
このように2次元センサ12aの画素列を稜線と平行に配置すると、稜線位置の測定精度は稜線とこれに直交する方向の画素間隔で決まり、所望の精度を満足できないことになる。
【0028】
図4は、本実施例において、筐体(受光部)を傾斜させた場合の垂直解像度を説明する図である。(a)は測距装置1を正面から見た図であり、筐体10を床面に対し角度θだけ傾斜させている。本例の図面では傾斜角θ=約10degとしているが、後述するように、所望の解像度に応じて最適の角度に設定する。これに伴い、受光部12に含まれる2次元センサ12aaの画素列水平方向も、床面に対して角度θだけ傾斜している。
【0029】
(b)と(c)は、受光部12内の2次元センサ12aの画素配置をマス目で示し、これに写る対象物3(パレット)の形状を重ねて示している。(b)と(c)では、対象物3の位置を垂直方向(上方向)にyだけずらし、<状態1>から<状態2>に遷移した場合を示す。
【0030】
2次元センサ12aの画素列の水平方向と、対象物3の水平稜線31とは角度θで斜交して配置されている。
図3と同様に、対象物3を検出した画素は灰色(画素値=1)で、対象物3を検出しない画素は白色(画素値=0)で示している。その際、前述のように、1つの画素領域(マス目)に対象物3がわずかでも存在する場合、画素値=1(灰色)と定義している。
【0031】
(b)の<状態1>では、対象物3の水平稜線31の位置がラインaであり、画素P1の左下隅を通過している。この状態では、例えば画素P1,P2においては対象物3が検出されない。
【0032】
(c)の<状態2>では、対象物3を垂直方向(上方向)にyだけ移動させており、水平稜線31の位置がラインbに移動し、画素P2の左下隅を通過している。移動量yは垂直画素間隔Vよりも小さく、y=Hsinθ(Hは水平画素間隔)で表される。この状態では、例えば画素P1においては対象物の一部が検出されているので、画素P1は画素値=1となる。
(d)は、上記<状態1>と<状態2>における、センサ領域12b(破線枠で示す)内の画素状態を拡大し、比較して示している。
【0033】
この場合の垂直解像度を前述の定義に従って求める。水平稜線31がラインaを超えると、画素P1の画素値が0から1に切り替わり、画素P2の画素値は0のままである。水平稜線31がラインbを超えると、画素P2の画素値が0から1に切り替わる。よって、ラインaからラインbまでの区間が不感帯であり、その区間の幅y=Hsinθが垂直解像度となる。
図3の垂直解像度y=Vと比較すると、解像度は大幅に向上する。
【0034】
図5は、本実施例において、筐体(受光部)を傾斜させた場合の水平解像度を説明する図である。(a)は測距装置1を正面から見た図であり、
図4(a)と同様に、筐体10を床面に対し角度θだけ傾斜させている。これに伴い、受光部12に含まれる2次元センサ12aの画素列垂直方向も、床面の法線に対して角度θだけ傾斜している。
【0035】
(b)と(c)は、受光部12内の2次元センサ12aの画素配置をマス目で示し、これに写る対象物3(パレット)の形状を重ねて示している。(b)と(c)では、対象物3の位置を水平方向(右方向)にxだけずらし、<状態1>から<状態2>に遷移した場合を示す。
【0036】
2次元センサ12aの画素列の垂直方向と、対象物3の垂直稜線32とは角度θで斜交して配置されている。
図4と同様に、対象物3を検出した画素は灰色(画素値=1)で、対象物3を検出しない画素は白色(画素値=0)で示している。その際、前述のように、1つの画素領域(マス目)に対象物3がわずかでも存在する場合、画素値=1(灰色)と定義している。
【0037】
(b)の<状態1>では、対象物3の垂直稜線32の位置がラインcであり、画素P3の左上隅を通過している。この状態では、例えば画素P3,P4においては対象物3が検出されない。
【0038】
(c)の<状態2>では、対象物3を水平方向(右方向)にxだけ移動させており、垂直稜線32の位置がラインdに移動し、画素P4の左上隅を通過している。移動量xは水平画素間隔Hよりも小さく、x=Vsinθ(Vは水平画素間隔)で表される。この状態では、例えば画素P3において対象物の一部が検出されているので、画素P3は画素値=1となる。
(d)は、上記<状態1>と<状態2>における、センサ領域12c(破線枠で示す)内の画素状態を拡大し、比較して示している。
【0039】
この場合の水平解像度を前述の定義に従って求める。垂直稜線32がラインcを超えると、画素P3の画素値が0から1に切り替わり、画素P4の画素値は0のままである。垂直稜線32がラインdを超えると、画素P4の画素値が0から1に切り替わる。よって、ラインcからラインdまでの区間が不感帯であり、その区間の幅x=Vsinθが水平解像度となる。
図3の水平解像度x=Hと比較すると、解像度は大幅に向上する。
【0040】
このように、筐体10(受光部12)を傾斜させて2次元センサ12aの画素列の方向を対象物3の稜線と斜交させることで、垂直方向と水平方向の両方の解像度を同時に向上させることができる。次に、傾斜角度θの最適な範囲について説明する。
【0041】
図6は、傾斜角度θの最適な範囲を説明する図である。(a)は水平稜線31と水平画素列が角度θで交差している状態であり、(b)は水平稜線31が長く、交差数を増加させた状態である。画素を丸印(〇,●)で示し、特に稜線31上にある画素を●印で示す。
【0042】
(a)において、垂直解像度yは前記したようにy=Hsinθとなり、角度θが小さいほど解像度が向上する。逆に言えば、角度θが大きくなるほど解像度の改善効果は少なくなり、角度θ=45degのときは垂直解像度y=H/√2となる。なお、角度θが45degを超えると、水平画素列ではなくこれに直交する垂直画素列との交差状態、すなわち傾斜角度(90deg-θ)により解像度が決まる。
【0043】
一方、水平稜線31に交差する水平画素列のライン数を考える。水平稜線31上の水平画素列の間隔(交差間隔)Uは、U=V/sinθで表される。水平稜線31の長さをWとすると、水平稜線31に交差する水平画素列のライン数(交差ライン数)nは、n=W/U=(W/V)sinθである。
図6(a)の例では、交差ライン数n=2で、●印の画素が交差している状態である。
【0044】
稜線の長さWが短いほど、あるいは傾斜角度θが小さいほど、交差ライン数nは小さくなる。もしも、交差ライン数nがn<1になると、水平画素列により上記の解像度yで稜線を検出できない区間が発生するので、不適当である。また、稜線の方向も捉えつつ検出するためには、2点以上で検出する必要があるので、交差ライン数nはn≧2であることが望ましい。すなわち、n=(W/V)sinθ≧2を満足するように傾斜角度θを設定することが望ましい。
水平解像度についても同様のことが言える。垂直稜線32の長さをW’とするとき、n=(W’/H)sinθ≧2を満足するよう傾斜角度θを設定することが望ましい。
【0045】
図6(b)に示す例は、交差ライン数n=4とした場合である。この図では稜線の両端で検出しているので検出点は5か所となっている。両端のデータは不安定であるとしても、中央部の3点で稜線長さWの50%以上をカバーしているので、信頼あるデータを取得できる。
【0046】
図7は、筐体(受光部)の姿勢調整の手順を示すフローチャートである。筐体の姿勢調整は、姿勢制御部15が姿勢調整機構16を駆動して筐体10の姿勢を調整し、受光部12内の2次元センサ12aの画素列方向を対象物3の稜線方向に対し所定の角度θtgtだけ傾斜させることである。ただし、一般には対象物3の稜線は任意の方向に存在しているので、まず稜線の方向を検出し、それに合わせて画素列方向を斜交させることになる。
【0047】
本実施例では、稜線の方向を検出するために、受光部12の2次元センサ12aの輝度データを用いる。その場合、2次元センサ12aの画素列方向を基準として、対象物3の稜線方向の角度を調整すればよいので、効率良く処理が行える。以下、ステップ順に説明する。
【0048】
S101:姿勢制御部15は、受光部12の輝度データから、対象物3のカメラ画像を取得する。
S102:対象物のカメラ画像から、測定対象である稜線部分(例えば水平稜線)を抽出する。その際稜線の方向は、2次元センサ12a内の各画素の輝度レベルの違いから、精度良く抽出できる。なお、対象物に稜線が複数存在するときは、作業者がモニター画像を見ながら所望の稜線を選択してもよい。
【0049】
S103:2次元センサ12aの画素列方向を基準とし、抽出した稜線の方向の傾斜角度θを算出する。
S104:
図6で述べたように、(W/V)sinθ≧2を満足するよう傾斜角度の目標角度θtgtを設定する。稜線の長さWについては、S102で抽出した稜線の長さを計測してもよい。
【0050】
S105:S103で算出した傾斜角度θは目標角度θtgtに等しいかどうかを判定する。
S106:傾斜角度θが目標角度θtgtに等しくない場合は、姿勢調整機構16を駆動して、角度の差分だけ筐体10の姿勢を修正する。その後S101に戻り、上記の処理を繰り返す。
S107:傾斜角度θが目標角度θtgtに等しい場合は調整処理を終了し、測距動作に移行する。
【0051】
以上のフローチャートにおいて、対象物内の測定すべき稜線部分(例えばパレットの開口部)が決まっている場合には、S102の稜線の抽出を自動的に行える。よって、対象物の姿勢が任意の方向を向いていても、それに合わせて受光部12(2次元センサ12a)の方向を自動的に最適状態に調整することができる。
【0052】
図8は、本実施例による解像度向上の効果の一例を説明する図である。(a)は確認実験方法の説明図で、(b)は比較例として傾斜角θ=0の場合、(c)は傾斜角θ=10degの場合の測定結果を示している。
【0053】
(a)に示すように、対象物(パレット)3を垂直方向に移動させながら、パレット穴33の位置(高さ)を測距装置1で測定する。測定対象であるパレット穴33の水平稜線の長さW=260mmである。
【0054】
(b)は測距装置1の筐体を水平(傾斜角θ=0)に設置した場合で、パレットの移動を、1mm間隔で20mmまで移動させている。横軸にパレットの移動量、縦軸にパレット穴の測定結果をプロットしている。得られた結果は、1mmの移動間隔には追従できず、垂直方向の画素間隔に相当する約7mmの不感帯があり、垂直解像度は約7mmであった。
【0055】
(c)は測距装置1の筐体を傾斜させて設置した場合である。この場合の傾斜角はθ=10degで、交差ライン数n=(W/V)sinθ=4.5としている。得られた結果は、1mmの移動間隔にほぼ追従し、垂直解像度は約1mmに向上することを確認できた。
【0056】
このように本実施例によれば、受光部12(2次元センサ12a)自身を高密度化することなく、2次元面内の直交する両方向の解像度が同時に向上する。その結果、特に対象物が主に平面によって構成される立体物について、その稜線位置を高精度に測定することができる。
【実施例2】
【0057】
図9は、本発明に係る測距装置の第2の構成例を示す図である。測距装置(TOF装置)1’は、実施例1(
図1)と同様の構成要素を備えているが、姿勢調整機能の構成が異なっている。(a)は装置の全体構成を示し、(b)は装置を正面から見た図である。
【0058】
実施例2における姿勢調整機構16’は、筐体10内部に設置され、受光部12のみを保持し、筐体10に対する受光部12の姿勢を調整する。これにより、受光部12の2次元センサ12aの画素列の方向と測定対象物3の稜線方向とを斜交させ、実施例1と同様に、垂直/水平方向の解像度を同時に向上させることができる。姿勢調整の動作は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0059】
実施例2の構成によれば、実施例1と同様の効果が得られるだけでなく、可動部が受光部12のみとなるので、実施例1の構成と比較して装置全体を小型化できるメリットがある。
【符号の説明】
【0060】
1,1’:測距装置(TOF装置)、
2:外部処理装置、
3:測定対象物(パレットの例)、
10:筐体、
11:発光部、
12:受光部、
12a:2次元センサ、
13:発光制御部、
14:距離計算部、
15:姿勢制御部、
16,16’:姿勢調整機構、
31:水平稜線、
32:垂直稜線。