(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】下痢、食欲不振、および体重維持を改善するための化学療法剤の補助剤としてのストレプトコッカス・サーモフィルス株ST4の組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/744 20150101AFI20230529BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230529BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230529BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20230529BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20230529BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20230529BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230529BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20230529BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20230529BHJP
【FI】
A61K35/744 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P1/12
A61P1/14
A61K38/05
A61K31/519
A23L33/135
C12N1/20 E
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020126605
(22)【出願日】2020-07-27
【審査請求日】2020-10-14
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【微生物の受託番号】DSMZ DSM33165
(73)【特許権者】
【識別番号】520278011
【氏名又は名称】シンジェン・バイオテック・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Syngen Biotech. Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】チェン・ウェイ-ジェン
(72)【発明者】
【氏名】ウー・シウアン-フーエイ
(72)【発明者】
【氏名】グン・チアウ-リン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ・ユー-ルン
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-027925(JP,A)
【文献】特表2017-514862(JP,A)
【文献】Journal of Applied Microbiology, 2018, Vol.125 No.5, p.1494-1501
【文献】Cancer Biology& Therapy, 2009, Vol.8, Issue.6, p.505-511
【文献】J Food Protect., 1984, nVol.47 No.3, p.197-199,205
【文献】Cancer Biology& Therapy, 2006, Vol.5, Issue.6, p.593-600
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-フルオロウラシル(5-FU)によって起こる体重減少を軽減するための
補助剤組成物中の有効成分としての、2019年5月28日にドイツのDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託番号DSM33165で寄託された、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株の使用。
【請求項2】
ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株が、
補助剤組成物中で生きているか、または死んでいる、請求項1に記載の
使用。
【請求項3】
ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株が、
補助剤組成物中で死んでいる、請求項2に記載の
使用。
【請求項4】
補助剤組成物が、
5-FUと一緒に
投与される、請求項1に記載の
使用。
【請求項5】
補助剤組成物が、医薬組成物または食品組成物の形態である、請求項1に記載の
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株の組成物、さらに詳しくは、化学療法の副作用を改善するための補助剤組成物としての使用のための該組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤は常に最新の状態であるが、5-フルオロウラシル(5-FU)およびイリノテカンなどの従来の化学療法剤が、依然としてがん治療用の主な薬剤であり、それらの作用機序は、急速に分裂する細胞を殺すことである。したがって、従来の化学療法剤は、がん細胞を毒し、殺すだけでなく、腸上皮細胞および粘膜細胞などの患者の急速に分裂する正常細胞も殺し、粘膜炎、水と栄養素の吸収の減少、ならびに腹痛、下痢、食欲不振、体重減少などの対応する臨床症状を引き起こす。
【0003】
化学療法剤は、栄養吸収能力を低下させ、食欲不振を引き起こし、その結果、患者の体重減少をもたらす。体重が大幅に減少する場合、化学療法コースを終了しなければならず、がんの治癒率が低下する。統計によると、がん患者の20%は、がん自体ではなく、栄養失調により死亡する。この研究はまた、化学療法中、化学療法患者の食欲および体重の維持が化学療法の成功または失敗を決定するための最も重要な鍵であることを指摘した。食欲および体重の維持が良好な患者は、治療結果が優れているだけでなく、治療後の回復も早くなる。
【0004】
ストレプトコッカス・サーモフィルスは、一般的なプロバイオティクス種であり、サワーミルク、ヨーグルト、または栄養補助食品の製造に一般的に使用される。しかしながら、以前の研究では、化学療法剤の副作用に対するストレプトコッカス・サーモフィルスの効果が調査されており、ストレプトコッカス・サーモフィルスは、体重維持にはプラスの効果がないことがわかっている(Cancer biology & therapy、2009、8.6:505-511;cancer biology & therapy、2006、5.6:593-600;Scandinavian journal of gastroenterology、2013、48.8:959-968;cancer biology & therapy、2011、12.2:131-138)。さらに重要なことに、ストレプトコッカス・サーモフィルスは、食欲減退を引き起こす可能性があり(Cancer biology & therapy、2011、12.2:131-138)、このことは、ストレプトコッカス・サーモフィルスが、化学療法患者の食欲と体重を改善しない可能性があること、さらには化学療法患者に悪影響を与える可能性があることを示す。しかしながら、異なる菌株の特性と能力はさまざまである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、スクリーニングを通じて、化学療法患者の食欲を促進し、体重を維持し、腸の炎症を改善し、下痢を改善することができるストレプトコッカス・サーモフィルス株を開発することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の概略
本開示では、生乳の微生物叢から分離された新規ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株が、化学療法剤の副作用を軽減するための補助剤組成物として使用することができ、化学療法による下痢、体重減少、食欲不振および腸の炎症などの症状を効果的に軽減することができることが、予期せぬことに見出された。
【0007】
したがって、本開示の目的は、有効量のストレプトコッカス・サーモフィルスST4株を含む、患者の化学療法剤の副作用を軽減するための補助剤組成物としての使用のための組成物を提供することである。
【0008】
本開示にしたがって、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株は、2019年5月28日にドイツのDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託番号DSM33165で寄託された。
【0009】
本開示の1つの実施態様では、ストレプトコッカス・サーモフィルス株は、組成物中で生きているか、または死んでいる。1つの好ましい実施態様では、株は、死んでいる。
【0010】
1つの実施態様では、組成物の組成物は、医薬組成物または食品組成物の形態で調製することができる。本開示の1つの例では、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株は、化学療法剤と一緒に摂取される。
【0011】
1つの実施態様では、化学療法剤は、5-フルオロウラシル(5-FU)、イリノテカン、オキサリプラチン、ドキソルビシン、メトトレキサート、ブレオマイシンおよびカペシタビンからなる群から選択される。好ましい実施形態では、化学療法剤は5-FUである。
【0012】
1つの実施態様では、組成物の効果は、化学療法剤の副作用を低減することであり、ここで、化学療法剤の副作用は、体重減少、食欲不振、腸の炎症および/または下痢を含む。
【0013】
本開示の前述の説明および以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読む場合によりよく理解されるであろう。本開示を説明するために、現在好ましい実施態様を図面に示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株の細胞形状を示す。
【
図2】
図2は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株のVITEK識別システムの解析結果を示す。
【
図3】
図3は、濃縮高カロリー特別フォーミュラ食を摂取するのを補助するストレプトコッカス・サーモフィルスST4株の体重増加効果を示す。標準:5%(w/w)の脂肪を含む標準成体ラット飼料LabDiet5001を給餌して、3.3 kcal/gを提供する;HF:濃縮高カロリー飼料を給餌して、22.5% (w/w)の脂肪および4.4 kcal/gを提供する;ST2:濃縮高カロリー飼料を給餌して、22.5% (w/w)の脂肪および4.4 kcal/gを提供し、5×10
8 CFU/日/ラットのストレプトコッカス・サーモフィルス ST2をチューブ供給する;ST3:濃縮高カロリー飼料を給餌して、22.5% (w/w)の脂肪および4.4 kcal/gを提供する;ST2:濃縮高カロリー飼料を給餌して、22.5% (w/w)の脂肪および4.4 kcal/gを提供し、5×10
8 CFU/日/ラットのストレプトコッカス・サーモフィルス ST3をチューブ供給する;ST4:濃縮高カロリー飼料を給餌して、22.5% (w/w)の脂肪および4.4 kcal/gを提供し、5×10
8 CFU/日/ラットのストレプトコッカス・サーモフィルス ST4をチューブ供給する。*p<0.05。
【
図4】
図4は、濃縮高カロリー特別フォーミュラ食を摂取することにおけるストレプトコッカス・サーモフィルス ST株の総内臓脂肪形成効果を示す。標準:5%(w/w)の脂肪を含む標準成体ラット飼料LabDiet5001を給餌して、3.3 kcal/gを提供する;HF:濃縮高カロリー飼料を給餌して、22.5% (w/w)の脂肪および4.4 kcal/gを提供する;ST2:濃縮高カロリー飼料を給餌して、22.5% (w/w)の脂肪および4.4 kcal/gを提供し、5×10
8 CFU/日/ラットのストレプトコッカス・サーモフィルス ST2をチューブ供給する;ST3:濃縮高カロリー飼料を給餌して、22.5% (w/w)の脂肪および4.4 kcal/gを提供する;ST2:濃縮高カロリー飼料を給餌して、22.5% (w/w)の脂肪および4.4 kcal/gを提供し、5×10
8 CFU/日/ラットのストレプトコッカス・サーモフィルス ST3をチューブ供給する;ST4:濃縮高カロリー飼料を給餌して、22.5% (w/w)の脂肪および4.4 kcal/gを提供し、5×10
8 CFU/日/ラットのストレプトコッカス・サーモフィルス ST4をチューブ供給する。*p<0.05。
【
図5】
図5は、化学療法剤の副作用を低減するストレプトコッカス・サーモフィルスST4株の実験計画のフローチャートを示す。
【
図6】
図6は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株が5-FUによる体重減少を軽減することを示す。5-FU群と比較して、正常群は$p<0.05、グルタミン群は#p<0.05、ST4群は*p<0.05である。
【
図7】
図7は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株が、5-FUによって誘発される食欲不振を軽減したことを示す。
【
図8】
図8は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株が、5-FUによって誘発される下痢を軽減したことを示す。
【
図9】
図9は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株が、5-FUによって誘発される腸の炎症を軽減したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施態様の詳細な記載
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が関係する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される用語は、特定の実施態様を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0016】
本明細書で使用される、単数形「a」、「an」、および「the」には、特に明記されていない限り、複数形の参照が含まれる。したがって、たとえば、「サンプル」への言及は、複数のそのようなサンプルおよび当業者に知られているそれらの等価物を含む。
【0017】
本明細書で使用される、「コロニー形成単位」(CFU)という用語は、寒天培地での微生物生産によって示された細菌細胞の数として定義される。
【0018】
本明細書で使用される、「改善する」または「改善」という用語は、イベントまたは特徴を治療、治癒、緩和、軽減、変更、修復、改善、強化するか、または影響を及ぼすという効果を示す。本開示の一例は、化学療法によって引き起こされる副作用を軽減することである。
【0019】
本明細書で使用される、「アジュバント」という用語は、化学療法コンプライアンスの増加および化学療法によって引き起こされる副作用の低減に対する効果などの、化学療法の効果を増強する薬剤を示す。
【0020】
本明細書で使用される、「対象」という用語は、ヒトおよびペット(たとえば、イヌ、ネコなど)、家畜(たとえば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)または実験動物(たとえば、ラット、マウス、モルモットなど)などの非ヒト動物を含む。
【0021】
本明細書で使用される、「有効量」という用語は、上記の治療有効性を達成するのに十分な、対象における活性薬剤または組成物の量を示す。有効量は、たとえば、薬剤または組成物の種類または投与量、ならびに治療される対象の体重、年齢、および健康状態に応じて変化しうる。
【0022】
本開示により提供されるストレプトコッカス・サーモフィルスST4株は、2019年5月28日に台湾食品産業研究開発研究所に寄託番号BCRC910922で寄託され、またDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und ZellkulturenGmbHに寄託番号DSM33165で寄託された。
【0023】
本明細書で使用される、「ストレプトコッカス・サーモフィルス」とは、グラム陽性、ホモ発酵性および通性嫌気性菌を示し、緑色連鎖球菌に属する。そのチトクローム、オキシダーゼおよびカタラーゼテストは陰性であり、α溶血性テストは陽性である。運動性および内生胞子を有さない。
【0024】
本開示のストレプトコッカス・サーモフィルスST4株は、生乳の微生物叢から単離された。細菌学的特徴の解析によれば、この菌株は、球形または楕円形の、一対または長鎖形状を有し、胞子形成および運動性がなく、嫌気性または好気性条件下で増殖し、カタラーゼおよびオキシダーゼ活性を有さないグラム陽性菌である。16S rDNA配列解析およびVITEK同定システムによるさらなる同定は、ST4菌がストレプトコッカス・サーモフィルスであることを示す。
【0025】
本開示のST4株は、生菌または死菌など、組成物中に任意の方法で存在することができ、また、同じ特徴および葉状体を有する同等の菌株または該菌株に由来する生成物を含む。
【0026】
本開示によって提供される寄託株を出発物質として使用することによって、当業者は、一般に、従来の突然変異誘導または再分離技術によって他のその突然変異体または誘導体を得ることができ、該突然変異体または誘導体は、本明細書に記載の本開示の組成物を形成する株の関連する特徴および利点を保持または増強する。
【0027】
本開示は、化学療法剤と一緒に摂取される補助剤組成物として使用するためのストレプトコッカス・サーモフィルスST4株の組成物を提供し、該組成物は、化学療法剤を補助するための有効量のストレプトコッカス・サーモフィルスST4株を含む。
【0028】
本開示によれば、補助剤組成物は、化学療法剤の副作用を軽減するためのものである。
【0029】
本開示によれば、化学療法剤の副作用は、体重減少、食欲不振、腸の炎症および/または下痢を含む。
【0030】
本開示によれば、化学療法剤として、5-フルオロウラシル(5-FU)、イリノテカン、オキサリプラチン、ドキソルビシン、メトトレキサート、ブレオマイシンおよびカペシタビンが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施態様において、化学療法剤は、5-フルオロウラシル(5-FU)である。
【0031】
いくつかの実施態様において、本開示の組成物は、化学療法によって引き起こされる副作用を低減する効果を有する。実施例に示されるように、本開示の組成物ががん化学療法中に投与される場合、組成物は、化学療法の副作用を低減すること、特に食欲を改善し、体重回復を促進し、腸の炎症を予防することができることが見出されている。
【0032】
別の態様において、本開示は、医療製品、医薬品、食品、食用製品、栄養補助食品または医療食品を製造するための本開示のST4株の有効量を含む組成物の使用を提供する。
【0033】
本開示の組成物は、固体または液体の形態で調製することができ、特にゼリーバー、抽出バッグ、ビスケット、粉末、ロゼンジまたはバッカル錠、吸引ロゼンジ、フィルム製剤、溶液、エアロゾル、顆粒、丸剤、懸濁液、エマルジョン、カプセル、腸溶性錠剤およびカプセル、シロップ、液体、エリキシル剤、キャンディー、食事代替品、チュアブル錠、坐剤、ミニ浣腸、クリーム、ゲルまたは軟膏の形態でありうる。
【0034】
本開示による組成物は、食品または食用製品の場合、本開示の菌株が唯一の活性剤であるか、1つ以上の他の活性剤と混合される、および/または、薬学的に許容される賦形剤または十分な添加剤または成分と混合される、形態に処方されうる。
【0035】
本開示による組成物は、さまざまな種類の食品に製造することができる。これらの食品の製品は、従来の賦形剤または充填剤を使用する任意の従来の技術によって製造することができ、必要に応じて添加物と混合することができる。
【0036】
本開示の組成物は、そのまま投与することができる栄養補助食品として製造することができ、水、サワーミルク、ミルクまたはジュースなどの適切な飲用液体と混合することができ、または固体または液体食品と混合することができる。いくつかの実施態様では、栄養補助食品は、トローチ剤またはバッカル錠、丸剤、カプセル、顆粒、粉末、懸濁液、小袋、キャンディー、スティック、シロップおよび対応する投与剤形の形態でありえ、通常は単位剤形である。好ましくは、本開示の組成物を含む栄養補助食品は、栄養補助食品を調製するための従来の方法で製造されるようなトローチ剤、バッカル錠、カプセルまたは粉末の形態で投与される。
【0037】
本開示の組成物は、治療有効量の本開示の組成物およびその薬学的に許容される担体を使用する一般的な製薬技術または方法によって製造されうる、さまざまなタイプの薬剤に製造されうる。本開示の組成物の投与は経口投与であり、薬学的に許容される担体、希釈剤、および/または賦形剤をさらに含みうる。担体は、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤などでありうる。希釈剤は、リン酸緩衝液、リンゲル液、グルコース液などでありうる。賦形剤は、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、ラクトース、デンプン、ゼラチン、アルギン酸、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムなどでありうる。
【0038】
本開示の上記の説明および以下の実施態様は、本開示の内容を例示するが、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0039】
ストレプトコッカス・サーモフィルス株 ST4の単離
生乳の微生物叢から菌株を単離した。生乳をMRSブロス培地に加え、嫌気性条件下で42℃で24時間培養した。その後、培養物をMRS寒天プレートに広げ、嫌気性条件下で42℃で3日間インキュベートした後、寒天培地に現れる単一のコロニーを収集し、さらに精製して、グラム陽性、カタラーゼ陰性、球形または楕円形の、および一対または長鎖形状のストレプトコッカス・サーモフィルス ST4を単離した。
【実施例2】
【0040】
ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株の細菌学的特徴
ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株の細菌学的特徴は、以下のように示される:
【0041】
(1)形態学的特徴:
(a)細胞の形とグラム染色:細胞をMRSブロス培地に入れ、嫌気性条件下で42℃にて24時間培養した後、顕微鏡下でのそれらの外観は、
図1に示すように、べん毛およびグラム染色陽性のない、球形または楕円形の、一対または長鎖形状であった。
(b)運動性:運動性なし。
(c)胞子形成:胞子形成なし。
(d)グラム染色:陽性。
【0042】
(2)培養の特徴:
(a)培地:MRSブロス培地、pH = 6.25。
(b)培養条件:嫌気性または好気性条件下、42℃で。
【0043】
(3)生理学的特徴:
(a)カタラーゼ:陰性。
(b)オキシダーゼ::陰性。
【実施例3】
【0044】
ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株の菌株単離
16S rDNAおよびVITEKシステムを用いて、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株の菌株同定を行った。同定結果の訂正を確実にするために、2つの同定方法を使用した。
【0045】
3.1 16S rDNA配列解析
ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株のDNAを抽出して、16S rDNA(リボソームDNA)フラグメントを増幅し、得られたPCR産物に対してアガロースゲル電気泳動を行い、予想サイズに適合しているか確認し、シークエンシングを行った。得られたストレプトコッカス・サーモフィルスST4株の16S rDNA配列を配列番号:1として示し、複合配列アラインメントデータセット(NCBIブラスト)と比較した。配列アラインメントの結果は、ストレプトコッカスサリバリウス亜種サーモフィレスATCC 19258Tに最も近いものであり、類似性は、最大99.67%であった。
【0046】
3.2 VITEK同定システムの解析
VITEK半自動識別システムの解析結果によれば、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株は、ストレプトコッカス・サリバリウス亜種サーモフィルスに最も近く、好熱菌であり、類似性は、
図2に示すように最大99%であった。
【0047】
16S rDNAシークエンシング同定、VITEKアラインメントの結果、および1980年にThe International Committee on Systematics of Prokaryotesが発表した細菌名の承認リストによれば、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株は、ストレプトコッカス・サーモフィルス(ストレプトコッカス・サリバリウス亜種サーモフィルスの同義語)であるべきである。
【実施例4】
【0048】
ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株による体重維持の支援
4.1 実験方法
この試験は、化学療法後にがん患者が必要とする濃縮高カロリー特殊配合食品をシミュレートして、ストレプトコッカス・サーモフィルス株ST2、ST3およびST4の体重増加への影響を評価することであった。8週齢の雄性スプラーグ・ドーリー系統ラットを使用し、摂食環境を22±2℃に維持し、周期を昼夜12時間とし、ラットに自由に摂食させた。正常対照群には、実験中に3.3 kcal/gを提供する5%(w/w)脂肪を含む、標準成体ラット飼料であるLabDiet 5001を与え;対照群および実験群(ST2、ST3およびST4群)には、22.5%(w/w)の脂肪と4.4 kcal/gを提供するために、濃縮高カロリー飼料を与えた。実験群には、それぞれ5×108CFU/日/ラットのストレプトコッカス・サーモフィルスST2、ST3およびST4をチューブにより毎日与えた。動物実験中、飼料摂取量を毎日測定および記録し、飼料を与える前に、1日1回正確にラットの体重を測定し、実験を8週間続けた。
【0049】
4.2 データ処理および統計方法
実験データの統計解析、分散分析および有意差比較は、それぞれ、IBM SPSS(Statistical Product and Service Solutions)ソフトウェア、ANOVAプログラムおよびダンカンの多重範囲(* p <0.05)によって行われる。実験データは、平均±標準偏差(平均±SD)として表される。
【0050】
4.3 実験結果
動物の各グループの1日の平均飼料摂取量に有意差はない(n=5)。8週間の試験期間後、各群の動物の平均体重増加は、他の実験群と比較して、犠牲時にて239.8~315.6gであり、ST4群が有意に高い体重増加を有し(
図3)、これは、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株が、体重増加に役立つ可能性があることを示す。また、総内臓脂肪の結果(
図4)は、濃縮高カロリー飼料を摂取した実験群が正常対照群よりも有意に高く、実験群間で総内臓脂肪に有意差がないことを示す。
【実施例5】
【0051】
ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株による、化学療法剤による体重減少、食欲不振、または腸の炎症の改善
5.1 実験方法
実験動物は5週齢のBALB/cByJNARL雄性マウスであった。給餌環境は23±2℃に維持され、相対湿度は40~60%であり、明周期は12/12明暗周期を採用した。実験動物には、Laboratory Rodent Diet 5001飼料および飲料水を十分に与え、マウスには自由に餌を与えた。
【0052】
5週齢のマウスは、2週間の飼いならし後、ランダムに4つのグループに分けられた:
(1)正常群、合計5匹のマウス:生理食塩水+生理食塩水の腹腔内注射(IP注射)を行う。
(2)5-FU群、合計5匹のマウス:生理食塩水+5-FUの腹腔内注射を行う。
(3)グルタミン、合計5匹のマウス:陽性対照群として、L-グルタミン(1g/kg /日)+5-FUの腹腔内注射を行う。
(4)ST4群、合計3匹のマウス:ストレプトコッカス・サーモフィルスST4株(5×108 CFU/日)+5-FUの腹腔内注射を行う。
【0053】
実験期間は合計18日間であった。実験中、マウスの体重および飼料摂取量を毎日秤量し、サンプルを胃管を使用して毎日経口投与した。PBSまたは50 mgの5-FU/体重kg/日を11、12、および13日目に腹腔内注射した、18日目にマウスを屠殺し、腸の炎症の指標として、盲腸から大腸組織までを採取して大腸の長さを測定した。11~17日目に、各実験マウスの下痢スコアγを、Bowen et al. (Cancer biology & therapy、2007、6.9:1445-1450)に従って、無症候性の0点~最も重症の3点までのスコアとして、実験マウスの糞便および肛門の見た目によって、決定した。実験プロセスを
図5に示す。
【0054】
5.2 データ処理および統計方法
体重変化を計算する方法は、11日目のマウスの体重を100%として使用して、腹腔内注射後のマウスの体重変化の量を計算する。食物摂取量の変化の計算方法は、1~10日目のマウスの平均食物摂取量を100%として使用して、腹腔内注射後の食物摂取量の変化を計算する。データは平均±標準偏差(平均±SD)として表される。5-FUグループとの差は、スチューデントのt検定によって統計的に有意であった。p <0.05の場合、5-FU群との差は統計的に有意であると見なされた。
【0055】
5.3 実験結果
重量変化を
図6に示す。正常群の体重は実験中にゆっくりと増加し、5-FU群の体重は減少し続け、実験終了の時点でも回復しなかったが、ST4群の体重は、13、17、18日目に、5-FU群よりも有意に多く、17日目と18日目に上昇を開始し、ST4が、5-FUによる体重減少を遅らせ、体重回復を促進することができることを示す。
【0056】
食物摂取量の変化を
図7に示す。腹腔内注射後、正常群の食欲は有意に変化しなかったが、5-FU群の食物摂取量は、11日目から15日目まで減少し続け、17日目に回復しなかった。ST4群の食物摂取量は、11日目から16日目で5-FU群のそれより多いか同等であり、食欲は17日目において有意に回復し、1日目から10日目の平均値よりもさらに高く、ストレプトコッカス・サーモフィルスST4が、5-FUによる食欲不振を遅らせ、食欲が正常な状態に戻ることを促進することを示す。
【0057】
5-FU処置は、腸粘膜組織に損傷を与え、下痢を引き起こす。マウスの下痢スコアの変化を
図8に示す。5-FU処置マウスの下痢症状は、13~17日目に発生し、14、15、および17日目に最も重症であった。しかしながら、経口ST4は、5-FUによる下痢を有意に改善することができ、13~17日目にわずかな下痢しか発生せず、ST4が、化学療法剤による下痢を改善することができることを示す。
【0058】
腸の炎症反応が起こると、腸が短くなる。炎症がひどいほど、腸は短くなる。腸の長さを
図9に示す。5-FU群の腸の長さは、正常群よりも有意に短く、5-FUが腸の炎症を引き起こしたことを示す;一方、ST4群の腸の長さは、5-FU群のそれよりも有意に長く、経口ST4が、5-FUによって引き起こされる腸の炎症を予防することができることを示す。
【0059】
当業者は、それらの広範な発明概念から逸脱することなく、上記の特定の実施態様に変更を加えることができることを理解するであろう。したがって、本開示は、開示された特定の実施態様に限定されないが、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の真の趣旨および範囲内の変更をカバーすることを意図することを理解されたい。
【配列表】