(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】複数の無線システム共存時の無線信号処理を実行する受信装置、処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 27/00 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
H04L27/00 Z
(21)【出願番号】P 2020127610
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2022-07-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)令和2年度総務省「異システム間の周波数共用技術の高度化に関する研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599108264
【氏名又は名称】株式会社KDDI総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】菅野 一生
(72)【発明者】
【氏名】堅岡 良知
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利則
(72)【発明者】
【氏名】石川 博康
(72)【発明者】
【氏名】岸 洋司
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-235860(JP,A)
【文献】特開2007-324753(JP,A)
【文献】特表2003-526238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/00
H04B 7/0413
H04B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無線システムと第2の無線システムとにおいて同一の周波数帯で送信された信号を受信する受信手段と、
前記受信手段によって受信された第1の信号を、事前知識を用いない信号分離手法を用いて分離して、少なくとも前記第1の無線システムの信号の数と前記第2の無線システムの信号の数との総和以上の数の第2の信号を出力する分離手段と、
前記第2の信号のそれぞれに対して、前記第2の無線システムの参照信号を用いて位相を補正した第3の信号をそれぞれ出力する補正手段と、
前記第2の信号のそれぞれに対応する複数の前記第3の信号のうち、前記第2の無線システムの信号として扱うべき信号を特定する特定手段と、
前記第3の信号のうちの前記特定手段によって特定された信号を復調および復号した結果を出力する出力手段と、
を有することを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記信号分離手法は、前記第1の無線システムの信号と前記第2の無線システムの信号との統計的な独立性に基づいて信号を分離する手法である、ことを特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記第2の信号のそれぞれについて、前記第2の無線システムの信号における前記参照信号が配置される位置の当該第2の信号の値と、当該位置における当該参照信号の値とに基づいて位相回転量を推定して、当該位相回転量に応じて当該第2の信号の位相を回転させることによって、当該第2の信号の位相を補正する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の受信装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記第2の信号のそれぞれについて、複数の前記参照信号に関する前記位相回転量の平均値を算出し、算出した量に応じて当該第2の信号の位相を回転させる、ことを特徴とする請求項3に記載の受信装置。
【請求項5】
前記補正手段は、前記第2の無線システムの信号が経た伝送路の特性が一定である周波数および時間の範囲内に配置される複数の前記参照信号に関して、前記位相回転量の前記平均値を算出し、前記範囲内において前記第2の信号の位相を回転させる、ことを特徴とする請求項4に記載の受信装置。
【請求項6】
前記特定手段は、前記第3の信号のそれぞれについて、前記第2の無線システムの信号における前記参照信号が配置される位置の当該第3の信号の値と、当該位置における当該参照信号の値とに基づく相関検出を行うことにより、前記第2の無線システムの信号として扱うべき信号を特定する、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の受信装置。
【請求項7】
前記特定手段は、前記第3の信号のそれぞれの値のIQ平面上の分布と、前記第2の無線システムの信号の変調方式とに基づいて、前記第2の無線システムの信号として扱うべき信号を特定する、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の受信装置。
【請求項8】
前記特定手段は、前記第3の信号のうち、復調および復号した後のデータに誤りが含まれていない信号を、前記第2の無線システムの信号として扱うべき信号として特定する、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の受信装置。
【請求項9】
前記受信手段は、前記分離手段によって出力される前記第2の信号の数に応じた数のアンテナを含み、当該アンテナのそれぞれで受信した複数の前記第1の信号を前記分離手段に入力する、ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の受信装置。
【請求項10】
前記第1の信号に前記第2の無線システムの第4の信号および第5の信号が含まれる場合、
前記補正手段は、前記第2の信号のそれぞれに対して、前記第4の信号に関する前記参照信号を用いて位相を補正した信号と前記第5の信号に関する前記参照信号を用いて位相を補正した信号とを、前記第3の信号としてそれぞれ出力し、
前記特定手段は、前記第2の信号のそれぞれに対応する複数の前記第3の信号のうち、前記第4の信号および前記第5の信号として扱うべき信号をそれぞれ特定する、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の受信装置。
【請求項11】
受信装置によって実行される処理方法であって、
第1の無線システムと第2の無線システムとにおいて同一の周波数帯で送信された信号を受信する受信工程と、
前記受信工程において受信された第1の信号を、事前知識を用いない信号分離手法を用いて分離して、少なくとも前記第1の無線システムの信号の数と前記第2の無線システムの信号の数との総和以上の数の第2の信号を出力する分離工程と、
前記第2の信号のそれぞれに対して、前記第2の無線システムの参照信号を用いて位相を補正した第3の信号をそれぞれ出力する補正工程と、
前記第2の信号のそれぞれに対応する複数の前記第3の信号のうち、前記第2の無線システムの信号として扱うべき信号を特定する特定工程と、
前記第3の信号のうちの前記特定工程において特定された信号を復調および復号した結果を出力する出力工程と、
を有する処理方法。
【請求項12】
コンピュータを、請求項1から10のいずれか1項に記載の受信装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の無線システムが共存する際の無線信号処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の需要が増加するに伴い、通信に使用可能な周波数リソースを確保することが喫緊の課題となっている。このような課題に鑑み、既存の第1の無線システムで使用されている周波数リソースを、第1の無線システムと異なる第2の無線システムが再利用することが検討されている。このような周波数リソースの再利用の際には、既存の第1の無線システムへの干渉が十分に抑制されるように、例えば十分な低電力で第2の無線システムの信号が送受信されるように制御が行われる。この場合、第2の無線システムでは、第1の無線システムの信号からの干渉を強く受けることが想定され、そのような第1の無線システムの信号からの干渉を低減することが必要となる。
【0003】
このとき、第2の無線システムの受信機は、第1の無線システムの信号について、その信号の参照信号等に基づいて、第1の無線システムの送信機から自装置の間の伝送路推定を実行しうる。そして、第2の無線システムの受信機は、その推定した伝送路の情報に基づいて、例えば、受信機は、複数のアンテナを有し、そのアンテナウェイトを伝送路の推定値に基づいて調節することにより、第1の無線システムの信号の影響を低減することができる。一方で、第2の無線システムの受信機が正確に第1の無線システムについての伝送路推定を行うためには、第1の無線システムの信号で用いられる参照信号の周波数および時間位置を事前に知っている必要がある。また、一般に異なるシステム間の信号は直交しておらず、第1の無線システムの信号と第2の無線システムの信号が混在している状態での第1の無線システムについての伝送路推定は十分な精度が得られないことが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば独立成分分析のような事前知識を必要としない信号分離技術を第2の無線システムの受信機が用いることで、事前知識なく高精度に第1の無線システムの信号と第2の無線システムの信号とを分離することができる(特許文献1参照)。しかしながら、事前知識を用いない信号分離技術では、分離抽出された信号が希望信号と干渉信号とのいずれであるかを認識することができず、また、信号の位相が不確定になり、復調性能が劣化してしまいうる。
【0006】
本発明は、複数の無線システムが共存する環境において、所望信号を適切に抽出して復調することを可能とする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による受信装置は、第1の無線システムと第2の無線システムとにおいて同一の周波数帯で送信された信号を受信する受信手段と、前記受信手段によって受信された第1の信号を、事前知識を用いない信号分離手法を用いて分離して、少なくとも前記第1の無線システムの信号の数と前記第2の無線システムの信号の数との総和以上の数の第2の信号を出力する分離手段と、前記第2の信号のそれぞれに対して、前記第2の無線システムの参照信号を用いて位相を補正した第3の信号をそれぞれ出力する補正手段と、前記第2の信号のそれぞれに対応する複数の前記第3の信号のうち、前記第2の無線システムの信号として扱うべき信号を特定する特定手段と、前記第3の信号のうちの前記特定手段によって特定された信号を復調および復号した結果を出力する出力手段と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば複数の無線システムが共存する環境において、所望信号を適切に抽出して復調することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】通信装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
(システム構成)
図1に、本実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す。本無線通信システムは、例えば、既存の第1の無線システムの送信機101が信号を送信している状況において、その第1の無線システムと同じ周波数帯で共存する第2の無線システムの通信装置が、第1の無線システムの通信に影響しない態様で通信を行う。すなわち、第1の無線システムと第2の無線システムとが同一の周波数帯を共用するシステムにおいて、第1の無線システムの通信において第2の無線システムの信号が無視できる態様で、第2の無線システムの通信が行われる。ここで、第2の無線システムは、例えば、ロングタームエボリューション(LTE)や5Gのセルラ通信システムである。ただし、これに限られず、他の無線システムが用いられてもよい。
【0012】
例えば、第2の無線システムの送信機102は、第1の無線システムの受信機における受信電力が十分に小さくなるように、信号の送信電力を決定して送信しうる。第2の無線システムの受信機103は、送信機102が送信した信号を希望信号として受信する。このとき、受信機103は、送信機102が送信した信号と共に、干渉信号として、第1の無線システムの送信機101が送信した信号をも受信する。このため、受信機103は、希望信号と干渉信号とを分離し、希望信号の復調を行う必要がある。このとき、上述のように、受信機103は、第1の無線システムの参照信号の位置などの事前知識を利用しても、十分な精度で伝送路推定を行うことができず、信号を正確に分離することができない。このため、本実施形態では、受信機103は、事前知識を用いない信号分離技術を利用する。例えば、受信機103は、第1の無線システムの波形と第2の無線システムの波形とが統計的に独立であることを利用した独立成分分析を実行することにより、各システムの信号を分離する。
【0013】
なお、受信機103は、独立成分分析以外の手法によって信号の分離を行ってもよいが、いずれの場合であっても、少なくとも第1の無線システムの信号の第1のストリーム数と、第2の無線システムの信号の第2のストリーム数の総和以上の出力を得ることができるように構成される。一例において、受信機103は、その第1のストリーム数と第2のストリーム数の総和以上の本数のアンテナを有し、独立成分分析などの事前知識を用いない信号分離アルゴリズムによってアンテナウェイトを調整し、アンテナ本数に対応する数の出力を得るように構成されうる。ただしこれは一例であり、例えば少数のアンテナで受信された信号の時間領域や周波数領域の複数のサンプルを用いて信号分離が行われるようにしてもよい。ただし、少なくとも第2の無線システムの信号が分離後の信号に含まれることが保証されるような任意の信号分離手法が用いられる。
【0014】
一方、事前知識を用いずに分離された信号は、第1の無線システムの信号と第2の無線システムの信号とが区別可能な状態では出力されない。すなわち、分離後に出力された信号は、それぞれが、第1の無線システムの信号であるか第2の無線システムの信号であるかが不明な形式で出力される。さらに、出力された信号が雑音成分に相当する場合もありうる。このため、本実施形態の受信機103は、出力された信号のうちのどの信号が希望信号(第2の無線システムの信号)であるかを特定する機能を有する。また、事前知識を用いずに分離された信号は、任意の位相回転が加わった状態で出力される。このため、受信機103は、例えば、希望信号の位相回転量を推定する機能をも有する。例えば、受信機103は、分離後に得られたすべての出力に対して、第2の無線システムの信号における参照信号(例えば、復調参照信号(DMRS))を用いた位相推定を実行する。例えば、受信機103は、分離後の出力のうちの、第2の無線システムの参照信号が配置される周波数・時間リソースの値に対して、参照信号の複素共役値(参照信号の同相成分の符号は反転せずに直交成分の符号が反転した値)を乗じることにより、位相回転量が推定される。なお、参照信号の複素振幅が1の場合、この乗算により、振幅変動量も推定することができる。なお、例えば1つの物理リソースブロックの範囲内などの伝送路の特性が一定で、かつ、例えば信号分離において共通のウェイト行列が用いられるなどの、信号分離の影響も共通の周波数・時間範囲に配置された複数の参照信号について、位相回転量の推定値の平均値を算出することにより、位相回転量の推定をより高精度化することができる。なお、分離後に得られた出力のうち、第1の無線システムの信号や雑音成分については、第2の無線システムの参照信号とは何ら関係がない。このため、例えば、伝送路等の状態が一定の周波数・時間範囲に配置された複数の参照信号を用いても、それぞれの位相回転量の推定値が相互に関連しない結果となるため、上述のような平均値を算出することにより、推定値がゼロに近付く。すなわち、有意な位相回転量の推定値が得られなくなる。ここで、受信機103は、この推定値を用いて参照信号の位相を補正し、補正された参照信号に対応する周波数・時間リソースの値に、その参照信号の複素共役値を乗じて加算した値が最大となる出力が、第2の無線システムの信号であると判定しうる。すなわち、第2の無線システムの参照信号と位相回転量の推定値とを用いた相関検出により、第2のシステムの信号を特定しうる。
【0015】
すなわち、受信機103は、例えば、参照信号の数がL
RSであり、l番目(1≦l≦L
RS)の参照信号をs
lとし、i番目の出力系列のl番目の参照信号が送信される周波数・時間リソースにおける値をd
i,lとする場合に、その出力系列に対する位相回転量の推定値p
i を、
のように算出する。なお、「*」は複素共役値を示す。また、このようにして算出した位相回転量の推定値p
i を用いて、第2の無線システムの信号を
のように特定しうる。このようにして、受信機103は、希望信号を特定し、かつ、その希望信号の位相回転量を特定することが可能となる。受信機103は、特定した希望信号について、得られた位相回転量(及び場合によっては振幅変動量)の推定値を用いて位相(振幅変動量が推定される場合は振幅)の補正を実行する。例えば、受信機103は、k番目の出力系列が希望信号であった場合に、得られた位相回転量及び振幅変動量の推定値p
kを用いて、(p
i
*/||p
i ||
2)をk番目の出力系列に乗じることにより、伝送路の影響及び信号分離の計算の影響を取り除いてもよい。
【0016】
なお、希望信号の特定は、上述のような相関検出以外の方法によって行われてもよい。例えば、受信機103は、上述のようにして得られた各出力系列に対する位相回転量及び振幅変動量の推定値を用いて、位相回転及び振幅変動の影響を除いた信号を得る。その後、受信機103は、得られた信号のIQ平面上の点(同相成分および直交成分の組み合わせを示す座標値)と、その点に最も近い座標値を有する第2の無線システムで使用されている変調方式に対応するIQ平面上の点との間のユークリッド距離の二乗を算出する。そして、受信機103は、複数の点について算出された値の和を算出し、その和が最小の出力系列を、第2の無線システムの信号として特定しうる。すなわち、第1の無線システムの変調方式が第2の無線システムと異なる場合や、第1の無線システムと第2の無線システムが直交しない場合などには、第1の無線システムの信号のIQ平面上の点の分布と、第2の無線システムの信号のIQ平面上の点の分布とが大きく異なることになる。受信機103は、この特性を利用して、希望信号の検出を行うことができる。また、受信機103は、例えば、各出力系列を第2の無線システムの信号として扱って復調し、その復調によって得られた復調データ列が誤りを含んでいるか否かによって、希望信号を特定してもよい。すなわち、第1の無線システムの信号は、一般に第2の無線システムの信号として復調した場合には誤りを多く含むこととなるため、受信機103は、誤りがある系列については希望信号でないと判定しうる。
【0017】
なお、第2の無線システムでは、複数ストリームが送信されてもよく、その場合、ストリームごとに異なる周波数・時間リソースの位置が、参照信号の送信用に割り当てられる。なお、各ストリームの特定と各ストリームにおける位相回転量(及び振幅変動量)の推定は、上述の式を用いて実行される。ここで、第2の無線システムにおいて、第1のストリームの参照信号の周波数・時間リソースは、第2のストリームにおいては参照信号およびデータ信号の送信に使用されないように構成されうる。また同様に、第2のストリームの参照信号の周波数・時間リソースは、第1のストリームにおいては参照信号およびデータ信号の送信に使用されないように構成されうる。これにより、第1のストリーム用の参照信号を用いて出力の中から第1のストリームを特定し、第2のストリーム用の参照信号を用いて出力の中から第2のストリームを特定することができる。また、第1のストリームが第2のストリームとして特定されることや、第2のストリームが第1のストリームとして特定されることを防ぐことができる。
【0018】
なお、上述のような希望信号(ストリーム)の特定は、例えば、物理リソースブロック単位など、伝送路の特性(及び信号分離の際の処理の内容)が一定とみなすことができる周波数および時間の範囲を単位として実行される。すなわち、伝送路の特性等が一定でない場合、平均値の算出などにより、希望信号についても上述の式によって算出される値がゼロに漸近するからである。このため、受信機103は、例えば、第2の無線システムの信号が経る伝送路の特性や信号分離の内容が一定とみなすことが可能な周波数および時間の範囲を事前に設定しうる。また、受信機103は、例えば受信機103の移動速度や位置などに応じて、この範囲を動的に設定してもよい。例えば、最小の周波数および時間の範囲をリソースブロックとし、受信機103と送信機102との間で見通しが確保されている場合などで伝送路の状況が安定している場合には、より大きい範囲を、伝送路の特性が一定とみなすことができる周波数および時間の範囲として設定されてもよい。この場合に、受信機103は、例えば信号分離のためのウェイト行列を一括して算出する周波数範囲を、伝送路の特性が一定とみなすことができる周波数及び時間の範囲に動的に設定することにより、その範囲内での希望信号の位相回転量をほぼ一定とすることができる。
【0019】
以上のようにして、複数の無線システムが共存する環境において、各無線システムの信号を分離し、分離された信号の中から希望信号成分を特定し、かつ、位相回転量などの推定と信号の復調・復号を実行することができる。
【0020】
(装置構成)
続いて、上述のような処理を実行する通信装置(受信機103)の構成について説明する。
図2に、受信機103のハードウェア構成例を示す。受信機103は、一例において、プロセッサ201、ROM202、RAM203、記憶装置204、及び通信回路205を有する。受信機103では、例えばROM202、RAM203及び記憶装置204のいずれかに記録された、上述のような各装置の各機能を実現するコンピュータが可読のプログラムがプロセッサ201により実行される。なお、プロセッサ201は、ASIC(特定用途向け集積回路)、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)等の1つ以上のプロセッサによって置き換えられてもよい。
【0021】
受信機103は、例えばプロセッサ201により通信回路205を制御して、相手装置(送信機102)との間の通信を行う。なお、
図2では、受信機103は、1つの通信回路205を有するような概略図を示しているが、これに限られない。
【0022】
図3に、本実施形態に係る受信機103の機能構成例を示す。なお、
図3に示す機能構成は、例えば、通信回路205の機能として実装されうる。なお、例えば受信機103が通信を開始する前に通信回路205によって第1の無線システムの信号等の電力が検出された場合に、その電力値がプロセッサ201に通知され、プロセッサ201がその電力値が所定値を超える場合などに所定の指示を通信回路205に入力することにより、
図3の機能が起動されてもよい。すなわち、通信回路205単体で
図3の機能が実現されてもよいし、プロセッサ201等と通信回路205の協働により
図3の機能が実現されてもよい。また、プロセッサ201が、ROM202や記憶装置204に記憶されたプログラムを実行することにより、
図3に示す各機能を実現してもよい。
【0023】
なお、本実施形態では、送信機102と受信機103との間で送受信される信号は、例えば、LTEや5Gで使用されるような、直交周波数分割多重(OFDM)信号であるものとする。このため、受信機103は、アンテナを介して受信した信号について、送信機102と受信機103との間の通信で送受信される信号に応じたサンプリングレートでサンプリングし、離散信号を取得する。また、受信機103は、受信信号から、送信機102と受信機103との間の通信で送受信される信号のサイクリックプリフィックス(CP)の長さに応じて、受信信号からCPに相当する部分を除去し、CP除去後の信号に対してフーリエ変換(FFT)を施し、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する。
図3には、FFT以降の処理に対応する機能ブロックを示す。
【0024】
本実施形態では、上述のように、受信機103が複数のアンテナを有し、空間的に第1の無線システムの信号と第2の無線システムの信号とを分離するものとする。この場合、アンテナごとにFFT301が用意される。FFT301によって出力される周波数領域の信号は、例えば、サブキャリアごとの処理部302に入力される。処理部302は、対応するサブキャリアにおける受信信号について、例えば、複数のアンテナによって受信された信号にそれぞれ重み係数を乗算した値を算出し、その算出結果を加算することにより、複数の信号ストリームを出力する信号分離部303を含む。なお、この信号分離部303で用いられる重み係数の値(ウェイト行列の要素の値)は、例えば、時間信号波形や周波数領域の信号に対して独立成分分析を実行することによって算出される。なお、この算出は、例えばリソースブロック単位など、伝送路の特性値が同じとみなせる程度の範囲に対応する複数のサブキャリアに対してまとめて行われうる。一例において、受信信号のサンプル値がプロセッサ201に入力され、プロセッサ201が、事前情報を用いずに、例えば信号の統計的性質(独立成分分析の場合は信号の統計的独立性)を用いた信号分離を実行し、ウェイト行列を算出し、その算出結果を通信回路205に出力しうる。また、ウェイト行列は、例えば通信回路205内のウェイト行列計算部(不図示)によって算出されてもよい。なお、信号分離部303は、複数の信号成分が混合して入力された信号から、その複数の信号成分の数以上の出力が得られるように構成される。例えば、第1の無線システムの信号と第2の無線システムの信号がそれぞれ1ストリームずつ混合した信号の入力が想定される場合に、信号分離部303は、少なくとも2つの出力が得られるように構成される。また、第1の無線システムの1ストリームの信号と、第2の無線システムの2ストリームの信号が混合した信号の入力が想定される場合、信号分離部303は、少なくとも3つの出力が得られるように構成される。事前情報を用いない信号分離手法では、複数の出力結果のいずれが希望信号であるかが定まらず、出力の数が入力信号に含まれるストリーム数より少ないと、希望信号が出力されない可能性があるからである。このため、入力される信号のストリーム数が不明である場合、信号分離部303は、十分に多くの出力を得られるように構成される。この場合、信号分離部303は、分離の結果として雑音系列を出力することとなりうるが、後述の希望信号特定部305の動作により、これらの雑音系列を復調・復号の対象から除外することができる。
【0025】
位相補正部304は、信号分離部303から出力された系列のそれぞれに対して、希望信号の参照信号(例えば、復調参照信号(DMRS))を用いて位相の補正を行う。例えば、位相補正部304は、上述のように、信号分離部303から出力された系列が希望信号であると仮定した場合の、参照信号が配置される複数の周波数・時間リソース(例えばリソースエレメント)のそれぞれにおける、その出力された系列の値に参照信号の複素共役値を乗じた値を算出する。そして、位相補正部304は、算出した値の平均値を位相回転量の推定値として特定し、その推定値と反対方向に出力系列の位相を回転させることにより、位相変化の補正を行う。なお、位相補正部304は、例えば参照信号の複素振幅が1の場合に、振幅変動量をも算出することができる。この場合、位相補正部304は、その振幅変動量の逆数を入力信号に乗じることにより、振幅変動の補正をも行うことができる。なお、希望信号以外の信号については、位相回転量や振幅変動量が適正に推定されることはなく、ここでは正確でない推定値に基づいて位相回転などが施されることとなる。
【0026】
希望信号特定部305は、位相回転が施された複数の信号に基づいて、その複数の信号のうちのいずれが希望信号であるかを特定する。例えば、希望信号特定部305は、上述のように、複数の信号のそれぞれについて、参照信号が配置される複数の周波数・時間リソース(例えばリソースエレメント)のそれぞれにおける値に、参照信号の複素共役値を乗じて加算し、その加算結果の値の大きさが最大となる信号を希望信号として特定する。また、希望信号特定部305は、例えば、位相回転(及び振幅変動)が施された信号の、IQ平面上での分布と、希望信号の送信に用いられる変調方式のコンスタレーションの分布との差分が最も小さくなる信号を、希望信号として特定してもよい。例えば、希望信号特定部305は、位相回転等の後の信号のIQ平面上の各点について、希望信号の変調方式のコンスタレーションを示す点のうちの最も近い点とのユークリッド距離を算出する。そして、希望信号特定部305は、そのユークリッド距離の総和が最も小さい信号を、希望信号として特定しうる。
【0027】
希望信号特定部305によって特定された位相回転後の信号は、処理部302から復調・復号部306へ入力される。復調・復号部306は、入力された信号のIQ平面上の点を、希望信号の変調方式に基づいて復調(デマップ)し、復調により得られたデータ列に対して誤り訂正復号を実行し、その結果を出力する。なお、希望信号特定部305は、例えば復調・復号部306に含まれてもよく、例えば、分離された複数の信号に対してそれぞれ復調・復号を試み、その復号結果に誤りが含まれているかを、例えばサイクリックリダンダンシチェックにより判定しうる。そして、希望信号特定部305は、誤りが含まれていない信号を、希望信号として特定してもよい。
【0028】
なお、希望信号が2ストリーム以上存在する場合は、その複数のストリームのそれぞれについて、分離された信号に対する固有の参照信号を用いた位相回転量の推定及び補正を実行すると共に、分離された信号のいずれがそのストリームに対応する希望信号であるかの特定が行われうる。このために、例えば、各サブキャリアに対応する処理部302が、希望信号のストリーム数に対応する個数だけ、用意されてもよい。
【0029】
このようにして、事前情報を用いない信号分離技術を用いて分離された複数の信号の中から、希望信号を抽出して復調・復号を行うことができるようになる。
【0030】
なお、第2の無線システムの信号は、OFDM形式の信号である必要はなく、任意の形式の信号であってもよい。例えば、第2の無線システムの信号は、シングルキャリア信号であってもよい。いずれの場合も、参照信号を用いて位相回転量等を特定して、その特定された位相回転量等で分離後の信号に対して位相回転等を施し、例えば参照信号部分に参照信号の複素共役値を乗じて加算するなどによって希望信号が特定される。
【0031】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。