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特許7286624体臭のモデル組成物、ガス組成物、ガスの採取方法、及び精神状態の判定方法
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  • 特許-体臭のモデル組成物、ガス組成物、ガスの採取方法、及び精神状態の判定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】体臭のモデル組成物、ガス組成物、ガスの採取方法、及び精神状態の判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/497 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
G01N33/497 D
G01N33/497 A
【請求項の数】 37
(21)【出願番号】P 2020513247
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2019015213
(87)【国際公開番号】W WO2019198648
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2018078039
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】000169466
【氏名又は名称】高砂香料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】勝山 雅子
(72)【発明者】
【氏名】城市 篤
(72)【発明者】
【氏名】菅野 直美
(72)【発明者】
【氏名】草場 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 優哉
(72)【発明者】
【氏名】成田 智美
(72)【発明者】
【氏名】瓦谷 明宏
(72)【発明者】
【氏名】桑原 裕香理
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴大
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-506469(JP,A)
【文献】特開2004-205496(JP,A)
【文献】特表2009-520701(JP,A)
【文献】特開2010-148692(JP,A)
【文献】特開2010-022554(JP,A)
【文献】特開2005-017272(JP,A)
【文献】特開2013-144664(JP,A)
【文献】特開2013-220046(JP,A)
【文献】SHIRASU, M. et al.,Dimethyl Trisulfide as a Characteristic Odor Associated with Fungating Cancer Wounds,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2009年,Vol. 73, No. 9,pp. 2117-2120
【文献】角田正健ほか,口臭への対応と口臭症治療,におい・かおり環境学会誌,2013年,Vol. 44, No. 4,pp. 230-237
【文献】MARTIN, H.J. et al.,Volatile organic compound markers of psychological stress in skin: a pilot study,Journal of Breath Research,2016年,Vol. 10, No. 4, 046012,pp. 1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
C11B 9/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精神的ストレスに起因して体内から発せられる体臭のモデル組成物であり、
アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つを含む硫黄化合物を含む、体臭のモデル組成物。
【請求項2】
前記精神的ストレスは対人に関するストレスである、請求項1に記載のモデル組成物。
【請求項3】
前記精神的ストレスは、安静平常時よりも心拍数が20bpm以上高まった状態において掛かるストレスである、請求項1又は2に記載のモデル組成物。
【請求項4】
アリルメルカプタンを0.1ppb~1,000ppm含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のモデル組成物。
【請求項5】
ジメチルトリスルフィドを1ppb~10,000ppm含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のモデル組成物。
【請求項6】
前記硫黄化合物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドの両方を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のモデル組成物。
【請求項7】
アリルメルカプタン1質量部に対して、ジメチルトリスルフィドが2質量部~50質量部である、請求項6に記載のモデル組成物。
【請求項8】
前記硫黄化合物は、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、及びジメチルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のモデル組成物。
【請求項9】
前記硫黄化合物を0.1ppb~10,000ppm含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のモデル組成物。
【請求項10】
0.1ppb~1,000ppmの1-オクテン-3-オンをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のモデル組成物。
【請求項11】
空気を主たる成分として含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のモデル組成物。
【請求項12】
精神的ストレスが掛かった状態にある人の体内から発生した分泌成分を含み、
前記分泌成分は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つを含む硫黄化合物を含み、
前記分泌成分による生理活性作用の研究開発に用いられるガス組成物。
【請求項13】
前記精神的ストレスは対人に関するストレスである、請求項12に記載のガス組成物。
【請求項14】
前記精神的ストレスは、安静平常時よりも心拍数が20bpm以上高まった状態において掛かるストレスである、請求項12又は13に記載のガス組成物。
【請求項15】
前記分泌成分は、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、及びジメチルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項12~14のいずれか一項に記載のガス組成物。
【請求項16】
前記分泌成分は、1-オクテン-3-オンをさらに含有する、請求項12~15のいずれか一項に記載のガス組成物。
【請求項17】
空気を主たる成分として含む、請求項12~16のいずれか一項に記載のガス組成物。
【請求項18】
被検者に精神的ストレスを付与するストレス付与工程と、
前記被検者が前記精神的ストレスを受けている間に前記被検者の体内から発生する成分を含むガスを採取する採取工程と、
を含み、
前記採取工程において採取したガスから前記成分として硫黄化合物を抽出し、
前記硫黄化合物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つを含む、分泌成分の採取方法。
【請求項19】
前記精神的ストレスは対人に関するストレスである、請求項18に記載の採取方法。
【請求項20】
前記ストレス付与工程において、前記被検者の心拍数を安静平常時よりも20bpm以上高める精神的ストレスを前記被検者に付与する、請求項18又は19に記載の採取方法。
【請求項21】
前記硫黄化合物は、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、及びジメチルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の採取方法。
【請求項22】
前記採取工程において採取したガスから前記成分として1-オクテン-3-オンを抽出する、請求項18~21のいずれか一項に記載の採取方法。
【請求項23】
前記採取工程において、前記成分は、前記被検者の手のひら、脇、足、背中、頭部、口腔及び呼気のうちの少なくとも1つから発せられる成分である、請求項18~22のいずれか一項に記載のガス採取方法。
【請求項24】
被検者の体内から発生する第1の分泌成分を採取する第1の採取工程と、
前記第1の分泌成分に含まれる硫黄化合物を分析する第1の分析工程と、
前記第1の分泌成分を使用して前記被検者の精神状態を判定する判定工程と、
を含み、
前記硫黄化合物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つである、被検者の精神状態の判定方法(医療目的とするものを除く)
【請求項25】
前記判定工程において、前記第1の分泌成分の臭いによって前記被検者の精神状態を判定する、請求項24に記載の判定方法。
【請求項26】
前記判定工程においてガスクロマトグラフィ嗅覚分析法を用いて前記臭いを検知する、請求項25に記載の判定方法。
【請求項27】
前記判定工程において、前記第1の分泌成分から硫黄化合物に起因する臭いを検知した場合に前記被検者は精神的ストレス負荷状態にあると判定する、請求項24~26のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項28】
前記判定工程において、前記第1の分析工程において硫黄化合物が検出された場合に前記被検者は精神的ストレス負荷状態にあると判定する、請求項24~27のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項29】
前記硫黄化合物には、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、及びジメチルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物がさらに含まれる、請求項24~28のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項30】
前記第1の分析工程において、前記第1の分泌成分に1-オクテン-3-オンがさらに含まれているかを分析し、
前記判定工程において、前記第1の分析工程において1-オクテン-3-オンがさらに検出された場合に前記被検者は精神的ストレス負荷状態にあると判定する、請求項24~29のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項31】
前記第1の採取工程の前又は前記第1の採取工程の間に、前記被検者に精神的ストレスが掛かっているかを判定するための第1の状態に前記被検者をおく第1の状態設定工程をさらに含む、請求項24~30のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項32】
前記被検者に精神的ストレスが掛かっていない第2の状態に前記被検者をおく第2の状態設定工程と、
前記被検者が前記第2の状態にあるときに前記被検者の体内から発生する第2の分泌成分を採取する第2の採取工程をさらに含み、
前記判定工程において、前記第1の分泌成分と前記第2の分泌成分の比較によって前記被検者の精神状態を判定する、請求項24~31のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項33】
前記判定工程において、前記第1の分泌成分の臭いと前記第2の分泌成分の臭いとを比較する、請求項32に記載の判定方法。
【請求項34】
前記判定工程において、前記第1の分泌成分に含まれる硫黄化合物と前記第2の分泌成分に含まれる硫黄化合物とを比較する、請求項32又は33に記載の判定方法。
【請求項35】
被検者から発生した分泌成分に、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つが含まれているかを分析する分析工程を含み、
前記分析工程の結果は、前記被検者の精神状態の判定に用いられる、分析方法。
【請求項36】
前記分泌成分は、前記被検者の手のひら、脇、足、背中、頭部、口腔及び呼気のうちの少なくとも1つから発せられた成分である、請求項35に記載の分析方法。
【請求項37】
前記分析工程の結果は、前記被検者は精神的ストレス負荷状態の判定に用いられる、請求項35又は36に記載の分析方法。



【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本発明は、日本国特許出願:特願2018-078039号(2018年4月13日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、体臭のモデル組成物に関し、特に、人が緊張状態にあるときの体臭のモデル組成物に関する。本開示は、人体から分泌されるガス組成物に関し、特に、人が緊張状態にあるときに人体から分泌されるガス組成物に関する。本開示は、人体から分泌されるガスの採取方法に関し、特に、緊張状態にある人から分泌されるガスの採取方法に関する。また、本開示は、精神状態の判定方法に関し、特に、人が緊張状態にあるか否かを判定する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
人体の皮膚から発せられる臭気成分による臭いの多くは、不快に感じる臭いであり、一般的には「体臭」と呼ばれている。例えば、中高年に特有の体臭として「加齢臭」が知られている。加齢臭は、人の皮膚上で生成されるノネナールに起因するものと、体内から生じるものがある。加齢に伴って加齢臭が強くなるのは、体表においてノネナールの原料物質となる皮脂中の9-ヘキサデセン酸が加齢に伴って増加するためであることが判明している(例えば、特許文献1参照)。また、ニンニクの摂取に起因するニンニク臭は、口臭のみならず、血液中に吸収されたニンニク臭成分が皮膚からも放出されて体臭にもなることが知られている。このように、体臭の原因としては、加齢、食事等、種々の要因があると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-286423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、精神的ストレスによって心拍数が上がるようなストレス状態(緊張状態)にある人の周囲に特有の臭いがあることに気が付いた。そこで、本発明者らは、その臭いの原因について研究したところ、その臭いは、精神的ストレス状態にある人から分泌・放出される物質に起因する体臭(以下、本開示において「ストレス臭」及び「緊張臭」と称する。)であることが判明した。
【0006】
このストレス臭は、硫黄系の臭いであり、多くの人が不快に感じるであろう臭いである。近年、体臭への関心が高まっていることもあり、ストレス臭を抑制する香料(マスキング剤)、消臭剤等のストレス臭抑制手段の研究開発が期待される。このような研究開発のためには、ストレス臭原因成分を含有するガスが必要となる。しかしながら、ストレス臭ガスを人から直接収集するためには、被検者を緊張状態に落とし入れなければならないので状況設定に多大な労力を要する。また、慣れ等により被検者がストレス状態にならなくなった場合にはその被検者からはストレス臭ガスを採取することが困難となり、さらには、一人の被検者からはストレス臭ガスをごく少量しか採取することができないので、ストレス臭ガスの直接採取のためには大人数の被検者が必要となる。そこで、ストレス臭対策の効率的な研究開発のためには、ストレス臭と同じか又は類似する臭いを有するモデルガス(以下、「モデル組成物」という。)が必要となる。
【0007】
また、精神的ストレス状態にある人から分泌、放出される物質については未解明な点も多い。例えば、精神的ストレス状態にある人から分泌された物質が、フェロモンのように何らかの生理活性作用を有する可能性も否定することはできない。そこで、ストレス臭対策の研究開発の他にも、分泌物質による作用の研究開発のためには、人から直接採取された分泌ガス組成物が必要になると共に、その採取方法が確立されていることが望まれる。
【0008】
人は、現在、自分がどのような精神状態にあるのか認識することが困難なことがある。また、自分がどのような状況によって精神的ストレス状態や緊張状態となるのかを自覚していないこともある。また、どのような状態のときに精神的ストレス状態や緊張状態となるかは個人差があると考えられる。心拍数によってストレス状態を判定することもあるが、心拍数は、精神状態とは関係なく変動することがあるので、精神状態を判定するための客観的な指標として使用できないことがある。そこで、客観的な指標によって精神状態を判定する方法があることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1視点によれば、精神的ストレスに起因して体内から発せられる体臭のモデル組成物であり、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つを含む硫黄化合物を含む、体臭のモデル組成物が提供される。
【0010】
本開示の第2視点によれば、精神的ストレスが掛かった状態にある人の体内から発生した分泌成分を含むガス組成物が提供される。分泌成分は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つを含む硫黄化合物を含む。
【0011】
本開示の第3視点によれば、被検者に精神的ストレスを付与するストレス付与工程と、被検者が精神的ストレスを受けている間に被検者の体内から発生する成分を含むガスを採取する採取工程と、を含む、分泌成分の採取方法が提供される。採取工程において採取したガスから成分として硫黄化合物を抽出する。硫黄化合物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つを含む。
【0012】
本開示の第4視点によれば、被検者の体内から発生する第1の分泌成分を採取する第1の採取工程と、第1の分泌成分に含まれる硫黄化合物を分析する第1の分析工程と、第1の分泌成分を使用して被検者の精神状態を判定する判定工程と、を含む、被検者の精神状態の判定方法が提供される。硫黄化合物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つである。
【0013】
本開示の第5視点によれば、被検者から発生した分泌成分に、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つが含まれているかを分析する分析工程を含む分析方法が提供される。分析工程の結果は、被検者の精神状態の判定に用いられる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の体臭のモデル組成物によれば、ストレス臭と同じ又は類似の臭いを有するガスを簡易に準備することができる。これより、ストレス臭対策に係る研究開発を容易にかつ低コストで実施することができる。
【0015】
本開示のガス組成物及びその採取方法によれば、ストレス臭対策に係る研究開発のみならず、精神的ストレス状態にある人から分泌される成分に係る研究開発、例えば生理活性作用の有無等を容易に行うことができる。
【0016】
本開示の精神状態の判定方法によれば、被検者に主観に関わらず、ある状況下において被検者が緊張状態にあるのか、被検者にストレスが負荷された状態にあるのかを客観的に判定することができる。また、本開示の精神状態の判定方法によれば、被検者がどのような状況によって緊張するのか、被検者にストレスが掛かるのかを客観的な指標によって判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第2実施形態に係る分泌ガス組成物の採取方法の概略工程図。
図2】第3実施形態の第1例に係る精神状態の判定方法の概略工程図。
図3】第3実施形態の第2例に係る精神状態の判定方法の概略工程図。
図4】第3実施形態の第3例に係る精神状態の判定方法の概略工程図。
図5】試験例において被検者から分泌ガスを採取している状態を説明するための写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の説明において、図面参照符号は発明の理解のために付記しているものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。また、図示の形状、寸法、縮尺等も図面に示す形態に発明を限定するものではない。各実施形態において、同じ要素には同じ符号を付してある。
【0019】
上記各視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0020】
上記第1視点の好ましい形態によれば、体臭は、精神的ストレスに起因して体内から発せられる臭いである。
【0021】
上記第1視点の好ましい形態によれば、精神的ストレスは対人に関するストレスである。
【0022】
上記第1視点の好ましい形態によれば、精神的ストレスは、安静平常時よりも心拍数が20bpm以上高まった状態において掛かるストレスである。
【0023】
上記第1視点の好ましい形態によれば、モデル組成物は、アリルメルカプタンを0.1ppb~1,000ppm含む。
【0024】
上記第1視点の好ましい形態によれば、モデル組成物は、ジメチルトリスルフィドを1ppb~10,000ppm含む。
【0025】
上記第1視点の好ましい形態によれば、硫黄化合物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドの両方を含む。
【0026】
上記第1視点の好ましい形態によれば、アリルメルカプタン1質量部に対して、ジメチルトリスルフィドが2質量部~50質量部である。
【0027】
上記第1視点の好ましい形態によれば、硫黄化合物は、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、及びジメチルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する。
【0028】
上記第1視点の好ましい形態によれば、モデル組成物は、硫黄化合物を0.1ppb~10,000ppm含む。
【0029】
上記第1視点の好ましい形態によれば、モデル組成物は、0.1ppb~1,000ppmの1-オクテン-3-オンをさらに含む。
【0030】
上記第1視点の好ましい形態によれば、モデル組成物は、空気を主たる成分として含む。
【0031】
上記第2視点の好ましい形態によれば、精神的ストレスは対人に関するストレスである。
【0032】
上記第2視点の好ましい形態によれば、精神的ストレスは、安静平常時よりも心拍数が20bpm以上高まった状態において掛かるストレスである。
【0033】
上記第2視点の好ましい形態によれば、分泌成分は、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、及びジメチルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する。
【0034】
上記第2視点の好ましい形態によれば、分泌成分は、1-オクテン-3-オンをさらに含有する。
【0035】
上記第2視点の好ましい形態によれば、ガス組成物は、空気を主たる成分として含む。
【0036】
上記第3視点の好ましい形態によれば、精神的ストレスは対人に関するストレスである。
【0037】
上記第3視点の好ましい形態によれば、ストレス付与工程において、被検者の心拍数を安静平常時よりも20bpm以上高める精神的ストレスを被検者に付与する。
【0038】
上記第3視点の好ましい形態によれば、採取工程において採取したガスから成分として硫黄化合物を抽出する。
【0039】
上記第3視点の好ましい形態によれば、硫黄化合物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つを含む。
【0040】
上記第3視点の好ましい形態によれば、硫黄化合物は、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、及びジメチルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含む。
【0041】
上記第3視点の好ましい形態によれば、採取工程において採取したガスから成分として1-オクテン-3-オンを抽出する。
【0042】
上記第3視点の好ましい形態によれば、採取工程において、成分は、被検者の手のひら、脇、足、背中、頭部、口腔及び呼気のうちの少なくとも1つから発せられる成分である。
【0043】
上記第4視点の好ましい形態によれば、判定工程において、第1の分泌成分の臭いによって被検者の精神状態を判定する。
【0044】
上記第4視点の好ましい形態によれば、判定工程において、第1の分泌成分から硫黄化合物に起因する臭いを検知した場合に被検者は精神的ストレス負荷状態にあると判定する。
【0045】
上記第4視点の好ましい形態によれば、判定工程においてガスクロマトグラフィ嗅覚分析法を用いて臭いを検知する。
【0046】
上記第4視点の好ましい形態によれば、判定方法は、第1の分泌成分に含まれる硫黄化合物を分析する第1の分析工程をさらに含む。判定工程において、分析工程において硫黄化合物が検出された場合に被検者は精神的ストレス負荷状態にあると判定する。
【0047】
上記第4視点の好ましい形態によれば、硫黄化合物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つである。
【0048】
上記第4視点の好ましい形態によれば、硫黄化合物には、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、及びジメチルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物がさらに含まれる。
【0049】
上記第4視点の好ましい形態によれば、第1の分析工程において、第1の分泌成分に1-オクテン-3-オンがさらに含まれているかを分析する。判定工程において、第1の分析工程において1-オクテン-3-オンがさらに検出された場合に被検者は精神的ストレス負荷状態にあると判定する。
【0050】
上記第4視点の好ましい形態によれば、判定方法は、第1の採取工程の前又は第1の採取工程の間に、被検者に精神的ストレスが掛かっているかを判定するための第1の状態に被検者をおく第1の状態設定工程をさらに含む。
【0051】
上記第4視点の好ましい形態によれば、判定方法は、被検者に精神的ストレスが掛かっていない第2の状態に被検者をおく第2の状態設定工程と、被検者が第2の状態にあるときに被検者の体内から発生する第2の分泌成分を採取する第2の採取工程をさらに含む。判定工程において、第1の分泌成分と第2の分泌成分の比較によって被検者の精神状態を判定する。
【0052】
上記第4視点の好ましい形態によれば、判定工程において、第1の分泌成分の臭いと第2の分泌成分の臭いとを比較する。
【0053】
上記第4視点の好ましい形態によれば、判定工程において、第1の分泌成分に含まれる硫黄化合物と第2の分泌成分に含まれる硫黄化合物とを比較する。
【0054】
上記第5視点の好ましい形態によれば、分泌成分は、被検者の手のひら、脇、足、背中、頭部、口腔及び呼気のうちの少なくとも1つから発せられた成分である。
【0055】
上記第5視点の好ましい形態によれば、分析工程の結果は、被検者は精神的ストレス負荷状態の判定に用いられる。
【0056】
本開示の第1実施形態に係る体臭のモデル組成物について説明する。第1実施形態における体臭とは、精神的ストレスが掛かっているとき(ないし緊張しているとき)に体内から発せられる臭いである。ここでいう精神的ストレスには、例えば、対人関係に依拠するストレス等が挙げられる。対人に依拠するストレスとは、例えば、人前(特に大人数の前)で発表している最中のストレス、大切な面接や圧迫的な面接を受けている最中のストレス等が挙げられる。このような精神的ストレス状態は、例えば、運動に起因する心拍数上昇が無い場合には、1分間当たりの心拍数が平常安静時よりも20bpm(beats per minute)以上、好ましくは30bpm以上高くなっている状態ということもできる。平常安静時とは、精神的ストレスなく安静にして心拍数の変動の少ない状態、例えば所定時間以上座ってリラックスした状態、をいう。
【0057】
本開示のモデル組成物の組成は、精神的ストレス状態にある人の体内から分泌・放出されたガスの分析に基づいて決定することができる。
【0058】
本開示における臭気成分は血中に含まれていた成分に基づいていると考えられている。本開示において、「体内から発生(分泌・放出)」とは、皮膚、粘膜及び/又は口腔から発生(分泌・放出)することを意味する。本開示にいう「体臭」には口臭も含まれる。
【0059】
本開示のモデル組成物は、硫黄元素を含有する化合物(硫黄化合物)を含む。硫黄化合物としては、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つが挙げられる。好ましくは、モデル組成物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドの両方を含む。
【0060】
アリルメルカプタンは、モデル組成物の容量に対して、0.1ppb以上であると好ましく、0.3ppb以上であるとより好ましく、0.5ppb以上であるとさらに好ましい。アリルメルカプタンは、1ppb以上又は10ppb以上とすることができる。アリルメルカプタンが0.1ppb未満であると、ストレス臭の再現効果が低くなってしまう。アリルメルカプタンは、モデル組成物の容量に対して、1,000ppm以下であると好ましく、100ppm以下であるとより好ましく、10ppm以下であるとさらに好ましい。アリルメルカプタンは、1ppm以下、500ppb以下、100ppb以下、又は10ppb以下とすることができる。アリルメルカプタンが1,000ppmを超えると、ストレス臭の再現効果が低くなってしまう。
【0061】
ジメチルトリスルフィドは、モデル組成物の容量に対して、1ppb以上であると好ましく、2ppb以上であるとより好ましく、3ppb以上であるとより好ましく、5ppb以上であるとさらに好ましい。ジメチルトリスルフィドは、10ppb以上、20ppb以上、50ppb以上、又は100ppb以上とすることができる。ジメチルトリスルフィドが1ppb未満であると、ストレス臭の再現効果が低くなってしまう。ジメチルトリスルフィドは、モデル組成物の容量に対して、10,000ppm以下であると好ましく、1,000ppm以下であるとより好ましく、100ppm以下であるとさらに好ましい。ジメチルトリスルフィドは、10ppm以下、1ppm以下、100ppb以下、又は10ppb以下とすることができる。ジメチルトリスルフィドが10,000ppmを超えると、ストレス臭の再現効果が低くなってしまう。
【0062】
本開示のモデル組成物において、アリルメルカプタンとジメチルトリスルフィドの質量比は、例えば、アリルメルカプタン1質量部に対して、ジメチルトリスルフィドは、2質量部以上、5質量部以上、10質量部以上、又は15質量部以上とすることができる。アリルメルカプタンとジメチルトリスルフィドの質量比は、例えば、アリルメルカプタン1質量部に対して、ジメチルトリスルフィドは、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、又は25質量部以下とすることができる。アリルメルカプタンとジメチルトリスルフィドの質量比がこの範囲内であれば、モデル組成物は、ストレス臭又はストレス臭に近い臭いを再現することができる。
【0063】
モデル組成物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィド以外の硫黄化合物(以下「その他硫黄化合物」という。)として、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、及びジメチルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有すると好ましい。硫黄化合物の総量は、モデル組成物の容量に対して、0.1ppb以上であると好ましく、1ppb以上であるとより好ましく、10ppb以上であるとさらに好ましい。硫黄化合物の総量が0.1ppb未満であると、ストレス臭の再現効果が低くなってしまう。硫黄化合物の総量は、モデル組成物の容量に対して、10,000ppm以下であると好ましく、1,000ppm以下であるとより好ましい。硫黄化合物の総量が10,000ppmを超えると、ストレス臭の再現効果が低くなってしまう。
【0064】
モデル組成物は、非硫黄化合物として、硫黄化合物に対して追加的に又は単独で、1-オクテン-3-オンを含有することができる。1-オクテン-3-オンは、モデル組成物の容量に対して、例えば、0.1ppb以上、0.5ppb以上、1ppb以上、10ppb以上、100ppb以上、又は1ppm以上とすることができる。1-オクテン-3-オンは、モデル組成物の容量に対して、例えば、1,000ppm以下、100ppm以下、10ppm以下、又は1ppm以下とすることができる。
【0065】
モデル組成物における硫黄化合物以外の成分は無臭成分であると好ましい。例えば、無臭成分は、空気又は空気と同組成の気体とすることができる。モデル組成物は、有臭成分であっても、ストレス臭を阻害しない範囲において硫黄化合物以外の化合物を含むことができる。
【0066】
第1実施形態に係る体臭のモデル組成物は、上述の各物質を混合することによって製造することができる。例えば、空気等の無臭の気体に、所定量の硫黄化合物を混合することによって第1実施形態に係るモデル組成物を製造することができる。
【0067】
第1実施形態に係る体臭のモデル組成物は、ストレス臭と同等又は類似の臭いを有することができる。第1実施形態に係るモデル組成物によれば、人から分泌されたストレス臭ガスを収集するよりも容易に準備することができる。第1実施形態に係るモデル組成物を用いれば、ストレス臭対策の研究開発を容易に行うことができる。
【0068】
本開示の第2実施形態に係るガス組成物及びその採取方法について説明する。本開示にいうガス組成物は、精神的ストレスが掛かった状態にある人から分泌された成分(分泌物)を含む。この分泌成分の全組成は、本願出願時点においては特定することができていない。また、本開示のガス組成物におけるストレス臭成分の成分割合(含有率)は、個人差があり、また、被検者の体調等にも依存して、ある程度変化すると考えられるため、厳密に特定することが困難である。したがって、第2実施形態に係るガス組成物は、その組成(構造)により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではない。また、ガス組成物の特性の一部は、その臭いにあるが、臭いを明確に表現することも不可能であり、ガス組成物はその特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではない。したがって、本開示のガス組成物は、その製造方法ないし採取方法によって記載することが許されるべきものである。本開示のガス組成物の以下の組成は、採取した分泌成分の分析によって設定することができる。
【0069】
本開示のガス組成物は、硫黄化合物を含む。硫黄化合物としては、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つが挙げられる。好ましくは、モデル組成物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドの両方を含む。
【0070】
分泌ガス組成物は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィド以外の硫黄化合物(以下「その他硫黄化合物」という。)として、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、及びジメチルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有することがある。
【0071】
本開示のガス組成物は、硫黄化合物以外の化合物(非硫黄化合物)を含有することがある。非硫黄化合物としては、例えば、1-オクテン-3-オンを挙げることができる。
【0072】
ガス組成物における分泌成分以外の成分は空気又は不活性ガス(例えば窒素ガス)であると好ましい。
【0073】
本開示のガス組成物は、以下の採取方法によって得られたものとすることができる。図1に、第2実施形態に係るガス組成物の採取方法の概略工程図を示す。
【0074】
まず、被検者に精神的ストレスを付与する(S11;ストレス付与工程)。精神的ストレスとしては、例えば、対人関係に関し被検者が緊張するようなストレスを挙げることができる。例えば、運動に起因する心拍数上昇が無い場合には、被検者の心拍数が平常安静時よりも20bpm以上、好ましくは30bpm以上高くなるような精神的ストレスを被検者に掛けると好ましい。精神的ストレスを付与する方法としては、例えば、数人(人数が多いほど好ましい)の前で特定の行為(例えばプレゼンテーション)をさせる、重要な面接であると被検者に偽って面接を受けさせる、被検者がプレッシャーを感じるように、目的を知らない被検者を圧迫しながら被検者に面接を受けさせる等が挙げられる。
【0075】
次に、被検者が精神的ストレスを受けている間に被検者の体内から分泌された成分(分泌成分)を採取する(S12;採取工程)。分泌成分は、気体又は揮発性であるので、分泌成分を分泌する皮膚の周囲にあるガスを採取することによって採取することができる。
【0076】
分泌成分を採取する箇所としては、例えば、手(特に手のひら)、脇、足(特に足の裏)、背中、頭部、口腔、呼気等が挙げられる。例えば、手からの分泌成分を採取する場合には、手全体を非透過性の袋(例えばビニル袋)で覆って手首の部分で密封しておくことができる。袋には、袋の中のガスを取り出すことができる開閉可能な採取口を有すると好ましい。分泌成分を採取する準備は、ストレス付与工程の前にしておくと好ましい。袋の中のガスは、空気であるか、又は不活性ガス(例えば窒素ガス)で置換してあると好ましい。被検者に精神的ストレスを付与した後、袋の中のガスを上述の採取口から別の容器に移し替えることができる。
【0077】
次に、採取したガスから硫黄化合物及び/又は生理活性物質を抽出してもよい(S13;抽出工程)。硫黄化合物としては上述に挙げたような硫黄化合物が挙げられる。抽出成分には、特に、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドが含まれると好ましい。
【0078】
本開示の第2実施形態に係る分泌ガス組成物及びその採取方法によれば、ストレス臭対策の研究開発のみならず、精神的ストレス状態にある時に分泌される物質の研究開発を行うことができる。例えば、精神的ストレス状態にあるときに分泌された物質の生理活性作用等の研究開発を行うことができる。
【0079】
本開示の第3実施形態に係る精神状態の判定方法について説明する。第3実施形態においては、精神的ストレスが掛かると硫黄化合物が分泌されることを利用して、被検者の精神状態を判定する。あるいは、被検者がどのような状態において精神的ストレスが掛かるかを判定する。図2に、第3実施形態の第1例に係る精神状態の判定方法の概略工程図を示す。
【0080】
まず、第2実施形態における採取工程(S12)と同様にして、被検者から分泌された成分を含むガスを採取する(S21;第1の採取工程)。被検者の体内から検査対象となるガスが発生していない場合、空気を採取することになる。
【0081】
次に、第1の採取工程(S21)において採取したガスに精神的ストレス分泌成分が含まれているか否かによって被検者の精神状態を判定する(S22;判定工程)。精神的ストレス分泌成分は、第2実施形態における被検者からの分泌成分と同じである。
【0082】
精神状態を判定する第1の方法としては、採取したガスの臭いを分析することができる。採取したガスから硫黄化合物(特に、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも一方)の臭いを検知した場合に、被検者は精神的ストレスが負荷された状態にあったと判定することができる。付随的に又は単独で、採取したガスから1-オクテン-3-オンの臭いを検知した場合にも被検者は精神的ストレスが負荷された状態にあったと判定することができる。臭いを検知する方法としては、例えば、採取したガスの臭いを直接嗅ぐことによって硫黄化合物の臭いがするかどうかを確認することができる。また、ガスクロマトグラフィ嗅覚分析法(Gas Chromatography Olfactometry)を用いて硫黄化合物の臭いがするかどうかを確認することができる。
【0083】
精神状態を判定する第2の方法としては、採取したガスの組成分析をすることができる。採取ガスから硫黄化合物が検知された場合、又は所定量以上の硫黄化合物が検知された場合に、被検者は精神的ストレスが負荷された状態にあったと判定することができる。検知対象となる硫黄化合物としては、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも一方とすることができる。アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィド以外の硫黄化合物としては、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、及びジメチルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物が所定量以上検知された場合にも被検者は精神的ストレスが負荷された状態にあったと判定することができる。付随的に又は単独で、採取したガスから1-オクテン-3-オンを検知した場合、又は所定量以上の1-オクテン-3-オンを検知した場合に、被検者は精神的ストレスが負荷された状態にあったと判定してもよい。硫黄化合物及び1-オクテン-3-オンの検知には、例えば、ガスクロマトグラフィ、直接質量分析法(DART(Direct Analysis in Real Time)-MS(Mass Spectrometry))等を使用することができる。例えば、アリルメルカプタンを0.1ppb以上検知した場合に、ジメチルトリスルフィドを1ppb以上検知した場合に、1-オクテン-3-オンを0.1ppb以上検知した場合に、及び/又はこれらのいずれかの組み合わせが生じた場合に、被検者は精神的ストレスが負荷された状態にあったと判定することができる。
【0084】
精神状態を判定する第1の方法と第2の方法は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0085】
図3に、第3実施形態の第2例に係る精神状態の判定方法の概略工程図を示す。第2例は、第1例の各工程に加えて、判定工程(S33)の前であって、第1の採取工程(S32)の前又は第1の採取工程の間に、被検者を第1の状態に置く工程(S31;第1の状態設定工程)をさらに含む。第1の状態は、被検者の精神状態を判定したい状態である。例えば、被検者を特定の状態においたり、被検者に何らかの行為を要求したり、被検者に対し何らかの精神的ストレスを掛けたりすることもできる。
【0086】
第1の採取工程(S32)においては、第1の状態にある被検者から分泌された分泌成分を採取する。第1の状態において被検者に精神的ストレスが掛かっていた場合には、被検者から精神的ストレス分泌物が分泌される。被検者に精神的ストレスが掛かっていない場合には、精神的ストレス分泌物が分泌されない。
【0087】
判定工程(S33)は第1例と同様である。
【0088】
図4に、第3実施形態の第3例に係る精神状態の判定方法の概略工程図を示す。第3例は、第2例の各工程に加えて、第2の状態設定工程、及び第2の採取工程をさらに含む。第3例においては、第1の状態のときの採取ガスと第2の状態のときの採取ガスとの比較によって精神状態を判定することができる。以下においては、第2の状態を精神的ストレスのかかっていない状態(基準状態;例えばリラックスした状態)とする。第1の状態設定工程(S41)及び第1の採取工程(S42)は第2例と同様とすることができる。
【0089】
第1の状態が、被検者の精神状態を判定したい状態とする場合には、第2の状態は、第1の状態の比較対照となる基準状態とすることができる。例えば、第2の状態は、被検者に精神的ストレスが掛かっていない状態とすることができる。
【0090】
第1の状態と第2の状態の差異以外は、第2の状態設定工程(S43)及び第2の採取工程(S44)は、第1の状態設定工程(S41)及び第1の採取工程(S42)と同様とすることができる。S41~S44において被検者は同一人である。第1の状態に係る工程と第2の状態に係る工程の順序はいずれであってもよい。第1の状態に係る工程と第2の状態に係る工程は、分泌物量の変動を抑制するため、近接した時間に行うと好ましい。例えば、第1の状態に係る工程と第2の状態に係る工程は同日に行うと好ましい。
【0091】
判定工程(S45)においては、第1の状態において採取した第1のガスと第2の状態において採取した第2のガスとを比較して被検者の精神状態を判定する。例えば、第1のガスの硫黄化合物の臭いが、基準となる第2のガスよりも強い場合に、被検者は第1の状態において精神的ストレスが掛かった状態にあったと、あるいは、第2の状態よりも第1の状態のほうが精神的ストレスが掛かると判定することができる。また、第1のガスにおける硫黄化合物の量が第2のガスよりも多い場合に被検者は第1の状態において精神的ストレスが掛かった状態にあったと、あるいは、第2の状態よりも第1の状態のほうが精神的ストレスが掛かると判定することもできる。ここでいう硫黄化合物は、第1及び第2実施形態における硫黄化合物と同じである。第1のガスと第2のガスとで、硫黄化合物に臭い及び/又は硫黄化合物量に有意な差がなかった場合には、第1の状態において被検者には精神的ストレスが掛かっていなかった(精神的ストレスが掛かっていない状態にあった)、あるいは、被検者にとって第1の状態は精神的ストレスが掛かっていない状態である(精神的ストレスが掛からない)と判定することができる。
【0092】
第1の状態とは条件を変更した第3の状態、第4の状態等の複数の状態で同様の工程を行うことにより、被検者がどのような状態において精神的ストレスが掛かるかも判定することができる。
【0093】
第3例によれば、にんにく等の硫黄含有食物の経口摂取により体内から硫黄化合物が放出されている場合であっても、第1の状態における第1のガスと第2の状態における第2のガスとの相対的比較によって、第1の状態と第2の状態との硫黄化合物の増減を確認することができる。
【0094】
第3実施形態によれば、被検者に精神的ストレスが掛かっているかどうかを判定することができる。特に、被検者が精神的ストレスを自覚できていなくても、精神的ストレスを感じているかどうかを客観的に判定することができる。また、被検者がどのような状態にあるときに精神的ストレスを感じるかを客観的に判定することができる。
【実施例
【0095】
本開示のガス組成物及びその採取方法について、以下に例を挙げて説明する。しかしながら、本開示の分泌ガス組成物及びその採取方法は以下の例に限定されるものではない。
【0096】
[試験例1~5]
ストレス臭がいかなる状況によって生じるかを検証した。被検者を表1に示す試験条件下におき、その際に被検者の手から分泌されるガスを採取した。被検者からの分泌ガスは、図5に示すように、試験中、被検者の手全体をビニル袋で覆って手首の部分で密封することによって採取した。試験終了後、各袋の中のガスの臭いを判定者が直接嗅ぎ、ストレス臭の強度を以下の基準で確認した。表1に、各試験例における試験中の被検者の心拍数及びストレス臭の強度を示す。
【0097】
ストレス臭の強度:
A 硫黄化合物の臭いが強くした;
B 硫黄化合物の臭いが少しした;
C 硫黄化合物の臭いはしなかった。
【0098】
【表1】
【0099】
被検者が(精神的に)緊張したと感じた試験例1及び2においてはストレス臭の臭いが強くした。しかしながら、試験例3~5における思考時、運動時、及び安静時においてはストレス臭はしなかった。これより、ストレス臭は、物理的・生理的な原因(運動)によるものではなく、精神的負荷により心拍数が上がるような緊張している状態において分泌されるものと考えられる。
【0100】
また、この結果を利用することにより、被検者からストレス臭するか否か、又はストレス臭成分が分泌されるか否かによって、被検者が緊張状態にあるかどうかを判定することができると考えられる。また、被検者がどのような状況のときに緊張するのかを判定することができると考えられる。
【0101】
[試験例6]
ストレス臭の原因物質について調査した。まず、被検者を試験例2と同様の条件下において緊張状態とさせた。このとき、試験例2と同様にして被検者の手からの分泌成分を含むガスを採取した。分泌ガスに含まれている硫黄化合物について、ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC/MS)によって分析した。分析結果を表2に示す。
【0102】
精神的に緊張している人からは、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドを含む硫黄化合物が分泌されることが確認された。これらの硫黄化合物の臭いは、ストレス臭とも合致している。したがって、ストレス臭の原因は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドを含む硫黄化合物であると考えられる。また、メチルメルカプタンもストレス臭に関与していると考えられる。表2に示す成分以外にも、硫化水素、硫化メチル、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド等の硫黄化合物が採取ガスから検出された。
【0103】
【表2】
【0104】
[試験例7]
試験例6の結果を基に、ストレス臭のモデル組成物を作製した。モデル組成物は、空気に各硫黄化合物を混合することによって作製した。モデル組成物の組成を表3に示す。
【0105】
作製したモデル組成物の臭いと、被検者から採取したストレス臭とを比較した。その結果、モデル組成物の臭いは、ストレス臭と同様の臭いであった。これより、少なくとも表3に示す組成と同様ないし近似の組成であれば、ストレス臭は再現できると考えられる。
【0106】
【表3】
【0107】
本発明の体臭のモデル組成物、ガス組成物、ガスの採取方法、及び精神状態の判定方法
は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0108】
本発明のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0109】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5