(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】水性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 71/10 20060101AFI20230529BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20230529BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20230529BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20230529BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230529BHJP
C09D 171/10 20060101ALI20230529BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
C08L71/10
C08L79/08 A
C08K3/20
C08K5/05
B05D7/24 301F
B05D7/24 302R
C09D171/10
C09D179/08 A
(21)【出願番号】P 2020526229
(86)(22)【出願日】2018-11-13
(86)【国際出願番号】 EP2018081109
(87)【国際公開番号】W WO2019096799
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-10-13
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】メンネッラ, アメーリア
(72)【発明者】
【氏名】ファシオ, エリク
(72)【発明者】
【氏名】デニーノ, リリアーナ
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許発明第02969635(FR,A)
【文献】特表2007-500762(JP,A)
【文献】特開平05-345829(JP,A)
【文献】LARSSON et.al.,Suspension Stability; Why Particle Size, Zeta Potential and Rheology are important,ANNUAL TRANSACTION OF THE NORDIC RHEOLOGY SOCIETY,2012年,20,209-214
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 65/00-67/04
C08G 73/00-73/26
B05D 7/00-7/26
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 少なくとも1μm且つ最大25μm
の粒径d
50を有する少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンポリマー[ポリマー(PAEK)]粒子;
- 繰り返し単位を含む少なくとも1種の芳香族ポリアミド酸であって、前記繰り返し単位の50モル%超が少なくとも1つの芳香環と少なくとも1つのアミド酸基及び/又はイミド基とを含み[繰り返し単位(R
PAI)]、繰り返し単位(R
PAI)の50モル%超が少なくとも1つのアミド酸基を含み[ポリマー(PAI)]、前記アミド酸基の一部又は全てが少なくとも1種の塩基性化合物(B)で中和されている芳香族ポリアミド酸;
- 水;
- モノアルコール、ポリオール、グリコール誘導体、及びこれらの混合物からなる群から選択される、塩基性化合物(B)とは異なる少なくとも1種の有機溶媒(S)であって
、組成物の総重量に対して少なくとも1重量%且つ最大15重量%の量で存在する有機溶媒(S);
を含有する、水性ポリマー組成物
であって、
d
50
が、ポリマー(PAEK)の体積の50%がこの値より小さい直径を有する粒子から構成される大きさである、水性ポリマー組成物。
【請求項2】
ポリマー(PAEK)が、以下の式(K-A)~(K-O):
(上の式(K-A)~(K-O)のそれぞれにおいて、互いに等しいか又は異なるR’のそれぞれは、独立して、出現ごとに、1つ以上のヘテロ原子を任意選択的に含むC
1~C
12基;スルホン酸及びスルホネート基;ホスホン酸及びホスホネート基;アミン及び四級アンモニウム基から選択され;及び互いに等しいか又は異なるj’のそれぞれは、独立して、出現ごとに0及び1~4の整数から選択され、好ましくはj’はゼロに等しい)
の単位及びこれらのうちの2種以上の混合物からなる群から選択される繰り返し単位(R
PAEK)を50モル%超含むポリマーであり、好ましくは、前記繰り返し単位(R
PAEK)が、式(J’-A)~(J’-D):
の単位からなる群から選択される、請求項1に記載の水性ポリマー組成物。
【請求項3】
前記組成物の総重量に対して少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%のポリマー(PAEK)を含有する、及び/又は前記組成物の総重量に対して最大45重量%、より好ましくは最大43重量%、より好ましくは最大42重量%のポリマー(PAEK)を含有する、請求項1
又は2に記載の水性ポリマー組成物。
【請求項4】
ポリマー(PAEK)の粒子が、少なくとも3μm、より好ましくは少なくとも5μm、更に好ましくは10μm、及び/又は最大22μm、より好ましくは少なくとも20μm
の粒径d
50を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性ポリマー組成物。
【請求項5】
前記繰り返し単位(R
PAI)が:
からなる群から選択され、
式中、
-
矢印は
、芳香族ポリアミド酸構造内の任意の繰り返し単位において、前記矢印が指し示す基が示されるとおりに又は入れ替わった位置に存在してもよいような異性を意味し;
- Arは、芳香族四価の基であり、これは1つ以上の芳香環を含んでいてもよく、好ましくは、
(Xは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO
2-、-CH
2-、-C(CF
3)
2-、-(CF
2)
n-(n=0、1、2、3、4、又は5である)からなる群から選択される)
からなる群から選択され;
- Rは芳香族二価の基であり、これは1つ以上の芳香環を含んでいてもよく、好ましくは、
(Yは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO
2-、-CH
2-、-C(CF
3)
2-、-(CF
2)
n-(n=0、1、2、3、4、又は5である)からなる群から選択される)
からなる群から選択され、
前記繰り返し単位(R
PAI)が、好ましくは以下に詳述する単位(i)、(ii)、及び(iii):
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
(式中、(i-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミド酸配置を表すと理解される);
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
(式中、(ii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミド酸配置を表すと理解される);並びに
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
(式中、(iii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミド酸配置を表すと理解される)
からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性ポリマー組成物。
【請求項6】
前記ポリマー(PAI)の酸価(KOHのミリグラム/グラム)が、少なくとも80、より好ましくは少なくとも90、更に好ましくは少なくとも100であり、これは最大でアミド酸単位のみを含む樹脂の理論上の酸価までであってもよい、請求項1~5のいずれか1項に記載の水性ポリマー組成物。
【請求項7】
前記組成物の総重量に対して少なくとも0.01重量%、好ましくは少なくとも0.05重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%のポリマー(PAI)及び/又は前記組成物の総重量に対して最大15重量%、好ましくは最大10重量%、より好ましくは最大8重量%のポリマー(PAI)を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の水性ポリマー組成物。
【請求項8】
前記塩基性化合物(B)が無機及び有機塩基からなる群から選択され、
- 前記無機塩基が、好ましくは、NaOH、KOH、Mg(OH)
2などのアルカリ及びアルカリ土類金属水酸化物、並びにアンモニアからなる群から選択され;
- 前記有機塩基が、トリメチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジメチルプロピルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、ジエチル-2-ヒドロキシエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、ピリジン、N-メチルピロール、N,N’-ジメチルピペリジン、N,N,N’,N’-テトラアルキル-アルカリジアミン、及びポリ-N-アルキル化アルカレントリアミンからなる群から選択される;
請求項1~7のいずれか1項に記載の水性ポリマー組成物。
【請求項9】
前記有機溶媒(S)が、モノアルコール、ポリオール、グリコール誘導体、及びこれらの混合物からなる群からなる群から選択され、
- モノアルコールが、好ましくはイソプロパノール、メタノール、エタノール、ブタノール、及びそれらの混合物からなる群から選択され;
- ポリオールが、好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群から選択され;
- グリコール誘導体が、好ましくは一般式(I):
(式中、Rは、任意選択的に1つ以上のエーテル結合を含んでいるC
1~C
6の直鎖又は分岐の二価炭化水素基であり;
X及びYは、互いに同じであるか異なり、XとYのうちの少なくとも1つが水素原子ではないことを条件として、独立に、水素原子、直鎖又は分岐のC
1~C
6アルキル基、又は式-C(O)-R’の基(R’は直鎖又は分岐のC
1~C
6アルキル基である)であり、nは1~3の整数である)
を満たすものからなる群から選択され、好ましくは、以下の式(II):
(式中、R
2は水素原子又はメチル基であり;X
2及びY
2は、互いに同じであるか異なり、X
2とY
2のうちの少なくとも1つが水素原子ではないことを条件として、独立に、水素原子、-R”基、又は-C(O)-R”基(R”はC
1~C
4アルキル基である)であり;n2は1~3の整数である)
を満たすものからなる群から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の水性ポリマー組成物。
【請求項10】
前記水の量が、前記組成物中の他の成分を必然的に補完しており、前記組成物の総重量に対して通常少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも35重量%、より好ましくは少なくとも38重量%である、請求項1~9のいずれか1項に記載の水性ポリマー組成物。
【請求項11】
中和された
前記ポリマー(PAI)
の水溶液中に前記ポリマー(PAEK)を分散させることを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の水性ポリマー組成物の製造方法。
【請求項12】
-
表面の少なくとも一部に請求項1~10のいずれか1項に記載の水性ポリマー組成物を塗布することで前記表面上に濡れた状態の層を得ること;及び
- 前記濡れた状態の層を乾燥及び裏張りして、前記表面上にコーティング層を得ること;
を含む、少なくとも1つの表面を有する基材のコーティング方法。
【請求項13】
前記水性ポリマー組成物が、スプレー、ブラッシング、ローラーコーティング、ディッピングによって、又は電着によって、プライマー又はコーティングとして塗布される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の水性ポリマー組成物を含む物品。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載の水性ポリマー組成物を含む少なくとも1つの層を含む、多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年11月14日出願の欧州特許出願第17201498.7号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、優れた貯蔵安定性を有し、様々な基材上にコーティングされた場合に優れた接着性を付与する水性ポリアリールエーテルケトン組成物、それを使用する基材のコーティング方法、及びそれから得られるコーティングされた基材に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリアリールエーテルケトン材料は、極限条件に対する耐性が必要とされる多数の工業的用途のために使用される、高耐熱性を備える高性能プラスチックとして公知である。
【0004】
例えば、油及びガスの探査及び開発は、高温及び高圧に耐性を有することができ、特に塩水、炭化水素、CO2、H2Sなどを含むダウンホール環境内に存在する刺激性化学物質に前記の極度の圧力及び温度条件で長期間曝露される場合に必要とされる性能を維持できる材料を必要とする。
【0005】
更に、医療デバイスの分野では、ポリアリールエーテルケトン材料は、それらの比類ない機械的特性及び体液環境に耐える能力のため、骨置換やプロテーゼなどの非金属構造体インプラントに最適な材料になっている。
【0006】
ポリアリールエーテルケトン材料から射出成形又はその他の機械加工された部材は現在広く使用されているものの、ポリアリールエーテルケトン材料が与える有利な特性を最終的な組み立て体に付与するために、ポリアリールエーテルケトン材料の薄層を様々な基材に塗布するための解決手段を提供することに関心が高まっている。
【0007】
公知の粉体塗装技術によりポリアリールエーテルケトン粉末の層を塗布する方法は公知である。しかしながら、様々な基材への接着及び十分な貯蔵寿命安定性の要件に適合させ、最終使用者が既製の配合物を利用できるようにするための、液体コーティング配合物、より具体的には水性組成物が、市場において現在不足している。
【0008】
金属及び非金属基材上に、様々な種類のエンジニアリングプラスチックコーティングを接着させるプライマー組成物について、既に様々な解決手段が提案されている。異なるポリマーと混合することが特に興味深いポリマー接着促進剤の分類は、ポリイミド、特にポリアミドイミド(PAI)から構成される。実際、ポリイミドは、通常優れた膜形成能力を有しており、これらは、通常高い耐薬品性と耐熱性を提供すると同時に、様々な基板への接着を促進する。
【0009】
ポリイミド、特にポリアミド酸形態のポリアミドイミドは、室温でも水性媒体中で加水分解を受け、その分子量が不可逆的に低下し、最終的な機械的特性に悪影響を及ぼすと考えられていたため、これらは水性媒体ではなく適切な有機溶媒に溶解させた膜形成物質として過去に使用されていた。
【0010】
環境破壊防止への関心の高まりにより、コーティング性能、特に基材の接着性並びに機械的及び化学的耐性を維持更には改善しながらも、純粋に溶媒フリーのプライマー組成物へ移行することに対する強い要求が生じている。
【0011】
ポリマー自体に対する強い親和性のため、有機溶媒の除去には多くの場合減圧下での長い乾燥期間が必要とされることから、この技術では、ポリイミド、特にPAIの安定性及び水への溶解性を改善して有機溶媒の量を減らすために、様々な方法が研究された。乾燥と硬化に関連するエネルギーコストに加えて、環境への配慮による揮発した溶媒の回収の必要性、及び溶媒のコストは、溶媒を主体とする溶液の商業的魅力に大きな影響を及ぼす。
【0012】
国際公開第2015/012423号パンフレットは、多数の熱可塑性物質の中から選択することができ特にはポリアリールエーテルケトンも含有するポリマー;アミド酸基の一部又は全部が少なくとも1種の塩基性化合物(B)によって中和されている芳香族ポリアミド酸;水;任意選択的な、芳香族ポリアミド酸の重量に対して20重量%未満の量のポリマー(PAI)の少なくとも1種の有機溶媒(S);を含有する水性ポリマー組成物に関する。この発明の水性ポリマー組成物は、有機溶媒が望ましくないか許容されない可能性がある場合のコーティング用途に特に有用であることが見出され得る。
【0013】
同様に、仏国特許第2969635号明細書には、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)に基づくコーティングを含む物品を製造する方法が開示されており、前記方法は、塩基を用いて少なくとも部分的に中和されたポリアミド酸を含むPAEKの水性分散液を物品に塗布すること;並びにコーティングのための水性分散液の加熱を行うこと;を含む。ポリアリールエーテルケトン材料は、少なくとも20nm、最大125μmの大きさを有する粒子の形態で提供され、50μmの粒径が典型である実施形態が例示されている。
【0014】
しかしながら、前述したコーティング組成物は、処理を容易にする要件と両立しない著しい沈降現象を生じることなく長期間保存することができないという点で、安定性に欠けている。
【発明の概要】
【0015】
本発明によれば、上述した課題は、注目すべきことには、
- 少なくとも1且つ最大25μmの平均粒径d50を有する少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンポリマー[ポリマー(PAEK)]粒子;
- 繰り返し単位を含む少なくとも1種の芳香族ポリアミド酸であって、前記繰り返し単位の50モル%超が少なくとも1つの芳香環と少なくとも1つのアミド酸基及び/又はイミド基とを含む繰り返し単位[繰り返し単位(RPAI)]であり、繰り返し単位(RPAI)の50モル%超が少なくとも1つのアミド酸基を含み、アミド酸基の一部又は全てが少なくとも1種の塩基性化合物(B)で中和されている芳香族ポリアミド酸[ポリマー(PAI)];
- 水、
- モノアルコール、ポリオール、グリコール誘導体、及びこれらの混合物からなる群から選択される、塩基性化合物(B)とは異なる少なくとも1種の有機溶媒であって、組成物の総重量に対して少なくとも1重量%且つ最大15重量%の量で存在する有機溶媒(S);
を含有する水性ポリマー組成物によって克服される。
【0016】
出願人は、上述した量の有機溶媒(S)、ポリマー(PAI)、及び上で詳述した粒径を有するポリマー(PAEK)粒子を組み合わせることのみで、優れた貯蔵寿命を有する水性ポリマーを組成物が得られることを見出した。この組成物は、基材への高い接着力を有するコーティングを得るのによく適しており、特定の具体的な有機溶媒を比較的少量含んでいるため、エネルギーコスト及び環境要因が重要な考慮事項である場合の用途により望ましいことが見出された。
【0017】
ポリマー(PAEK)
本明細書において、「ポリ(アリールエーテルケトン)」又は「ポリマー(PAEK)」という表現は、-O-Ar’-C(=O)-Ar*基(Ar’及びAr*は、互いに等しいか又は異なり、芳香族基である)を含む繰り返し単位(R
PAEK)を50モル%超含む任意のポリマーを意味し、モル%は、ポリマー(PAEK)中の合計モル数に基づいている。繰り返し単位(R
PAEK)は一般的に、以下の式(K-A)~(K-O)の単位、及び同単位の2つ以上の混合物:
からなる群から選択され、上の式(K-A)~(K-O)のそれぞれにおいて、互いに等しいか又は異なるR’のそれぞれは、独立して、出現ごとに、1つ以上のヘテロ原子を任意選択的に含むC
1~C
12基;スルホン酸及びスルホネート基;ホスホン酸及びホスホネート基;アミン及び四級アンモニウム基から選択され;及び互いに等しいか又は異なるj’のそれぞれは、独立して、出現ごとに、0及び1~4の整数から選択され、好ましくはj’はゼロに等しい。
【0018】
繰り返し単位(RPAEK)のそれぞれのフェニレン部分は、互いに独立して、他のフェニレン部分への1,2-、1,3-又は1,4-結合を有し得る。一実施形態によれば、繰り返し単位(RPAEK)のそれぞれのフェニレン部分は、互いに独立して、他のフェニレン部分への1,3-又は1,4-結合を有する。更に別の実施形態によれば、繰り返し単位(RPAEK)のそれぞれのフェニレン部分は、他のフェニレン部分への1,4-結合を有する。
【0019】
好ましい実施形態によれば、j’は、上に詳述された式(K-A)~(K-O)のそれぞれのR’についてゼロである。
【0020】
好ましい実施形態によれば、繰り返し単位(R
PAEK)は、式(J’-A)~(J’-D)の単位:
からなる群から選択される。
【0021】
一部の実施形態では、ポリマー(PAEK)は、ポリ(エーテルエーテルケトン)[ポリマー(PEEK)]である。本明細書で使用される場合、「ポリ(エーテルエーテルケトン)」又は「ポリマー(PEEK)」という表現は、その繰り返し単位(R
PAEK)の50モル%超が、式(K’-A):
の繰り返し単位である任意のポリマーを意味し、モル%は、ポリマー(PEEK)中の繰り返し単位の総モル数に基づいている。
【0022】
これらの実施形態によれば、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%、又は更に実質的に全ての繰り返し単位(RPAEK)が、上に詳述されたような繰り返し単位(K’-A)である。好ましいポリマー(PEEK)は、実質的に全ての繰り返し単位が式(K’-A)の単位であるポリマーであり、末端基、欠陥及び少量の不純物が存在していてもよいと理解されている。
【0023】
他の実施形態において、ポリマー(PAEK)はポリ(エーテルケトンケトン)[ポリマー(PEKK)]である。本明細書中で用いられるとき、「ポリ(エーテルケトンケトン)」又は「ポリマー(PEKK)」という表現は、繰り返し単位(R
PAEK)の50モル%超が式(K’-B)の繰り返し単位及び/又は式(K’’-B)の繰り返し単位:
である任意のポリマーを意味し、モル%はポリマー(PEKK)中の繰り返し単位の総モル数に基づいている。
【0024】
これらの実施形態によれば、繰り返し単位(RPAEK)の少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%、又は更に実質的に全てが繰り返し単位(K’-B)又は(K’’-B)、或いは好ましくはそれらの組合せである。好ましいポリマー(PEKK)は、実質的に全ての繰り返し単位が式(K’-B)及び/又は(K’’-B)の単位であるポリマーであり、末端基、欠陥及び少量の不純物が存在していてもよいと理解されている。
【0025】
更に他の実施形態において、ポリマー(PAEK)は、ポリ(エーテルケトン)[ポリマー(PEK)]である。本明細書で使用される場合、「ポリ(エーテルケトン)」及び「ポリマー(PEK)」という表現は、その繰り返し単位(R
PAEK)の50モル%超が、式(K’’-C):
の繰り返し単位である任意のポリマーを意味し、モル%はポリマー(PEK)中の繰り返し単位の総モル数に基づいている。
【0026】
これらの実施形態によれば、繰り返し単位(RPAEK)の少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%、又は更に実質的に全てが繰り返し単位(K’-C)である。好ましいポリマー(PEK)は、実質的に全ての繰り返し単位が式(K’-C)の単位であるポリマーであり、末端基、欠陥及び少量の不純物が存在していてもよいと理解されている。
【0027】
いくつかの実施形態において、ポリマー(PAEK)はポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)[ポリマー(PEDEK)]である。本明細書中で用いられるとき、「ポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)」又は「ポリマー(PEDEK)」という表現は、繰り返し単位(R
K)の50モル%超が式(K’-D)の繰り返し単位:
の繰り返し単位であり、モル%はポリマー(PEDEK)中の繰り返し単位の総モル数に基づいている。
【0028】
これらの実施形態によれば、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%、又は更に実質的に全ての繰り返し単位(RK)が、上に詳述されたような繰り返し単位(K’-D)である。好ましいポリマー(PEDEK)は実質的に全ての繰り返し単位が式(K’-D)の単位であるポリマーであり、末端基、欠陥及び少量の不純物が存在していてもよいと理解されている。
【0029】
いくつかの他の実施形態において、ポリマー(PAEK)はポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)-ポリ(エーテルエーテルケトン)コポリマー[ポリマー(PEEK-PEDEK)]である。本明細書中で用いられるとき、「ポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)-ポリ(エーテルエーテルケトン)コポリマー」又は「ポリマー(PEEK-PEDEK)」という表現は、繰り返し単位(RK)の50モル%超が、相対的なモル比(K’-A):(K’-D)95:5~5:95、好ましくは80:20~20:80の式(K’-A)及び(K’-D)の繰り返し単位の混合物である任意のポリマーを意味する。
【0030】
好ましくは、ポリマー(PAEK)は、0.5×3.175mmのタングステンカーバイドダイを使用してASTM D3835に従って400℃及び1000s-1で測定されたとき少なくとも0.07kPa×s、より好ましくは少なくとも0.09Pa×s、最も好ましくは少なくとも0.12kPa×s、及び/又は高くても0.65kPa×s、より好ましくは高くても0.55kPa-s、より好ましくは高くても0.50kPa×s、最も好ましくは高くても0.45kPa×sの溶融粘度を示す。
【0031】
好ましい実施形態によれば、PAEKは、PEEKである。PEEKは特に、Solvay Specialty Polymers USA,LLCからKetaSpire(登録商標)PEEKとして市販されている。
【0032】
本発明の水性ポリマー組成物は、有利には組成物の総重量に対して少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%のポリマー(PAEK)を含有する。
【0033】
本発明の水性ポリマー組成物は、有利には組成物の総重量に対して最大45重量%、好ましくは最大43重量%、より好ましくは最大42重量%のポリマー(PAEK)を含有する。
【0034】
組成物の総重量に対して26~38重量%のポリマー(PAEK)を含有する水性ポリマー組成物が、非常に満足できる結果を与えた。
【0035】
前述したように、ポリマー(PAEK)は、本発明の組成物中に粒子形態で、すなわち適切な分析技術による寸法特徴によって特徴付けることができる不連続な三次元物体の形態で存在する。
【0036】
前述したように、本発明の組成物のポリマー(PAEK)の粒子は、少なくとも1μm、好ましくは少なくとも3μm、より好ましくは少なくとも5μm、更に好ましくは少なくとも10μm、及び/又は最大25μm、好ましくは最大22μm、より好ましくは少なくとも20μmの平均粒径d50を有する。
【0037】
「平均粒径d50」という表現は、その通常の意味に従って本発明の文脈内で使用される。すなわち、ポリマー(PAEK)の体積の50%がこの値より小さい直径を有する粒子から構成される大きさである。
【0038】
同様に、「平均粒径d10」という表現は、ポリマー(PAEK)の体積の10%がこの値より小さい直径を有する粒子から構成される大きさであり、「平均粒径d90」という表現は、ポリマー(PAEK)の90体積%がこの値より小さい直径を有する粒子から構成される大きさである。
【0039】
本発明の組成物のポリマー(PAEK)の粒子は、少なくとも0.5μm、好ましくは少なくとも1μm、より好ましくは少なくとも2μm、及び/又は最大18μm、好ましくは最大17μm、より好ましくは少なくとも15μm、更に好ましくは最大13μm、最も好ましくは最大10μmの平均粒径d10を有する。
【0040】
本発明の組成物のポリマー(PAEK)の粒子は、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも12μm、より好ましくは少なくとも15μm、及び/又は最大40μm、好ましくは最大38μm、より好ましくは最大35μmの平均粒径d90を有する。
【0041】
平均粒径d10、d50、d90は、ISO13320に従ってレーザー光散乱により決定される。
【0042】
ポリマー(PAI)
前述したように、ポリマー(PAI)は、繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位の50モル%超は少なくとも1つの芳香環と少なくとも1つのアミド酸基及び/又はイミド基とを含む繰り返し単位[繰り返し単位(RPAI)]であり、繰り返し単位(RPAI)の50モル%超は少なくとも1つのアミド酸基を含み、アミド酸基の一部又は全ては少なくとも1種の塩基性化合物(B)で中和されている。
【0043】
繰り返し単位(R
PAI)は有利には:
から選択され、式中、
- →は、芳香族ポリアミド酸構造内の任意の繰り返し単位において、矢印が指し示す基が示されるとおりに又は入れ替わった位置に存在してもよいような異性を意味し;
- Arは、芳香族四価の基であり、これは1つ以上の芳香環を含んでいてもよく、好ましくは、
(Xは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO
2-、-CH
2-、-C(CF
3)
2-、-(CF
2)
n-(n=0、1、2、3、4、又は5である)からなる群から選択される)
からなる群から選択され;
- Rは芳香族二価の基であり、これは1つ以上の芳香環を含んでいてもよく、好ましくは、
(Yは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO
2-、-CH
2-、-C(CF
3)
2-、-(CF
2)
n-(n=0、1、2、3、4、又は5である)からなる群から選択される)
からなる群から選択される。
【0044】
繰り返し単位(R
PAI)は、より好ましくは以下に詳述する単位(i)、(ii)、及び(iii):
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
(式中、(i-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミド酸配置を表すと理解される);
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
(式中、(ii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミド酸配置を表すと理解される);並びに
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
(式中、(iii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミド酸配置を表すと理解される)
からなる群から選択される。
【0045】
繰り返し単位(RPAI)は、好ましくは繰り返し単位(i)、又は繰り返し単位(ii)と(iii)との混合物である。
【0046】
非常に好ましくは、ポリマー(PAI)は、90モル%超の繰り返し単位(RPAI)を含む。更により好ましくは、これは、繰り返し単位(RPAI)以外の繰り返し単位を全く含有しない。
【0047】
繰り返し単位(i)、又は繰り返し単位(ii)と(iii)との混合物からなるポリマー(PAI)で優れた結果が得られた。
【0048】
前述したように、50モル%超の繰り返し単位(RPAI)が、少なくとも1つのアミド酸基を含む。
【0049】
アミド酸基を含む繰り返し単位の量は、特には当業者に周知の分光技術又は滴定技術などの任意の適切な技術によって決定することができる。
【0050】
繰り返し単位(R
PAI)は、上で詳述した式(R
PAI-A)、(R
PAI-B)、(R
PAI-C)、(R
PAI-D)、(R
PAI-E)のものから選択され、少なくとも1つのアミド酸基を含む繰り返し単位(R
PAI)のモルパーセントは以下の通りに表すことができる:
(式中、[(R
PAI-A)単位]、[(R
PAI-B)単位]、[(R
PAI-C)単位]、[(R
PAI-D)単位]、及び[(R
PAI-E)単位]は、それぞれ上述した異なる繰り返し単位(R
PAI)のモル濃度を意味する)。
【0051】
好ましい実施形態では、少なくとも好ましくは55モル%、より好ましくは60モル%の繰り返し単位(RPAI)が少なくとも1つのアミド酸基を含む。
【0052】
ポリマー(PAI)の酸価(KOHのミリグラム/グラム)は、有利には少なくとも80、より好ましくは少なくとも90、更に好ましくは少なくとも100であり、これは最大でアミド酸単位のみを含む樹脂の理論上の酸価までであってもよい。
【0053】
ポリマー(PAI)の数平均分子量(Mn)は、有利には少なくとも1000、好ましくは少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2000である。
【0054】
ポリマー(PAI)の数平均分子量(Mn)は、有利には最大20000、好ましくは最大15000、より好ましくは最大10000である。
【0055】
ポリマー(PAI)の固有粘度は、30℃でN,N-ジメチルアセトアミド中の0.5重量%溶液として測定した場合、少なくとも0.1、好ましくは少なくとも0.15、より好ましくは少なくとも0.2dl/gである。
【0056】
ポリマー(PAI)は、特に、(I)無水ピロメリット酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、トリメリット酸無水物、及びトリメリット酸無水物一酸ハロゲン化物から選択される少なくとも1種の酸モノマーと、(II)ジアミン及びジイソシアネートから選択される少なくとも1種のコモノマーと、の間の重縮合反応を含むプロセスにより製造することができる。
【0057】
無水ピロメリット酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、トリメリット酸無水物、及びトリメリット酸無水物一酸ハロゲン化物の中でも、トリメリット酸無水物一酸塩化物が好ましい。
【0058】
コモノマーは、好ましくは少なくとも1つの芳香環を含む。更に、これは、最大2つの芳香環を含むのが好ましい。より好ましくは、コモノマーは、ジアミンである。更に好ましくは、ジアミンは、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、m-フェニレンジアミン、パラ-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0059】
重縮合反応は、有利には、実質的に化学量論量の酸モノマー及びコモノマーを使用して、極性溶媒中、150℃未満の温度で、実質的に無水条件下で行われる。分子量を制御するために、必要に応じて、いずれかのモノマー、好ましくは酸モノマーを、わずかに化学量論量より過剰に、通常約0.5~約5モル%過剰に使用することができ、或いは、この目的のために、及び安定性を改善するために、一官能性反応物をエンドキャッピング剤として使用することができる。
【0060】
ポリマー(PAI)は、有利には、穏やかな条件下で、好ましくは、例えば水、低級アルキルアルコールなどの混和性非溶媒を添加して極性反応溶媒から凝固又は析出させることにより、固体形態で単離される。任意選択的には、その後固体樹脂を回収し、水で十分に洗浄し、遠心分離又はプレスすることで、熱をかけずに固体の含水率が更に下げられてもよい。水及び低級アルキルアルコール以外の非溶媒は公知であり、例えば、エーテル、芳香族炭化水素、ケトンなどを含む溶液からポリマー(PAI)を析出させるために当該技術分野で使用されている。
【0061】
本発明の水性ポリマー組成物は、有利には組成物の総重量に対して少なくとも0.01重量%、好ましくは少なくとも0.05重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%のポリマー(PAI)を含有する。
【0062】
本発明の水性ポリマー組成物は、有利には組成物の総重量に対して最大15重量%、好ましくは最大10重量%、より好ましくは最大8重量%のポリマー(PAI)を含有する。
【0063】
組成物の総重量に対して0.5~7重量%のポリマー(PAI)を含有する水性ポリマー組成物が、非常に満足できる結果を与えた。
【0064】
用いられる塩基性化合物(B)の最小量は、ポリマー(PAI)中のアミド酸基を中和するために必要とされる化学量論量にほぼ等しく、好ましくはポリマー(PAI)中のアミド酸基の各モルに対して少なくとも0.8モル、より好ましくは少なくとも0.9モルである。
【0065】
用いられる塩基性化合物の最大量は、ポリマー(PAI)中のアミド酸基の各モルに対して有利には最大5モル、好ましくは4.5モル、より好ましくは最大4.0モルである。
【0066】
芳香族ポリマー(PAI)を含有し、且つポリマー(PAI)中に存在するアミド酸基の量を基準として100%を超える化学量論量又は中和量の塩基性化合物を含有する水性ポリマー組成物が加水分解に対して著しく安定であることが公知であるため、同様に高レベルの塩基(B)を含むポリマーの塩(PAI)に基づく配合物が好ましいであろう。
【0067】
水性ポリマー組成物のコーティング特性に悪影響を及ぼすことなしに、更に高いレベルの塩基性化合物(B)を都合よく使用することができる。
【0068】
これらの組成物の溶液安定性を改善することに加えて、大過剰の塩基性化合物は、固体樹脂の溶解速度を改善することが特に見出され得る。
【0069】
ポリマー(PAI)のアミド酸基の一部又は全部を中和するために、ポリマー(PAI)は、有利には水性媒体中でRPAI繰り返し単位のカルボキシル基を中和するのに適した塩基性化合物(B)と反応する。
【0070】
ポリマー(PAI)の中和及び溶解は、ポリマー(PAI)を、好ましくは固体形態で、塩基性化合物を含有する必要量の水に添加することにより、単一の操作で都合よく行うことができる。アミド酸基を実質的に中和し、特にポリマー(PAI)を溶解するのに十分な対応する塩を形成するのに有効な量の適切な塩基性化合物(B)と、固体形態のポリマー(PAI)を組み合わせると、追加の有機溶媒又は融合剤の必要がない。
【0071】
この段階で使用される水の量は、通常、0.5~約30重量%、好ましくは約1~約25重量%、より好ましくは約1~約15重量%のポリマー(PAI)を含有する原液を提供するのに十分であろう。
【0072】
ポリマー(PAI)のアミド酸基の一部又は全部の中和において、成分を組み合わせる任意の好都合な方法が使用されてもよい。
【0073】
固体形態のポリマー(PAI)は、塩基性化合物(B)と水との撹拌された混合物に段階的に添加されてもよく、ポリマー(PAI)が溶解するまで撹拌が継続される。
【0074】
或いは、塩基性化合物(B)は、固体が溶解するまで撹拌を続けながら、ポリマー(PAI)の撹拌されている水性懸濁液にゆっくりと添加することができる。
【0075】
任意の酸-塩基反応と同様に、最初に外部冷却が必要であることが判明する場合がある。その後の加温と撹拌は、合理的な時間内にポリマー(PAI)を完全に溶解させるために望ましい場合がある。
【0076】
好ましくは、ポリマー(PAI)と塩基性化合物(B)との混合物は、少なくとも40℃、好ましくは少なくとも45℃、より好ましくは少なくとも50℃の温度で加熱される。
【0077】
適切な塩基性化合物(B)は、特に、ポリマー(PAI)の繰り返し単位RPAIのアミド酸基を中和することができる全てのものである。
【0078】
ポリマー(PAI)のアミド酸基の一部又は全部を中和するために、無機及び有機塩基を使用することができる。
【0079】
無機塩基の非限定的な例は、特には、NaOH、KOH、Mg(OH)2などのアルカリ及びアルカリ土類金属水酸化物、アンモニアなどである。
【0080】
有機塩基の非限定的な例は、特に、脂肪族、芳香族、ヘテロ環式、又はヘテロ芳香族のアミンなどの有機アミンである。
【0081】
好ましくは、塩基性化合物(B)は三級アミンである。三級アミンは、特に、例えば、トリメチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジメチルプロピルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのようなトリ-(C1~C4アルキル)アミンであってよい。N,N-ジメチルエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、ジエチル-2-ヒドロキシエチルアミンなどを含む任意の様々な周知の水混和性の三級アルカノールアミンのような環状三級アミンも有用である場合がある。N,N-ジメチルアニリン、ピリジン、N-メチルピロールなどの芳香族アミンも使用することができる。N,N’-ジメチルピペリジン、並びにN,N,N’,N’-テトラアルキル-アルカリジアミン及びポリ-N-アルキル化アルカレントリアミンなどの多官能性アミンも有効である場合があるものの、多官能性アミンは会合性の架橋及びゲルを形成する傾向がある場合があり、あまり好ましくない。
【0082】
最も好ましい塩基性化合物(B)は、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、ジエチル-2-ヒドロキシエチルアミン、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0083】
三級アミンは、ポリマー(PAI)の熱イミド化及び硬化の速度を高めることが特に知られており、ポリマー(PAI)膜及びコーティングの迅速な硬化を促進するのに効果的な場合がある。
【0084】
本発明の水性ポリマー組成物は、塩基性化合物(B)とは異なる少なくとも1種の有機溶媒(S)を、組成物の総重量に対して少なくとも0.5重量%且つ最大25重量%の量で含有する。
【0085】
溶媒(S)
水性ポリマー組成物は、組成物の重量に対して、好ましくは15重量%を超えない、より好ましくは14重量%を超えない、最も好ましくは13重量%を超えない量の有機溶媒(S)を含有する。
【0086】
しかし、水性ポリマー組成物は、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも1.5重量%の量の前記有機溶媒(S)を含有する。
【0087】
塩基性化合物(B)とは異なる有機溶媒(S)は、モノアルコール、ポリオール、グリコール誘導体、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0088】
本明細書で使用される「モノアルコール」という用語は、少なくとも1つのヒドロキシル基を含み前記ヒドロキシル基以外の官能基を含まない有機溶媒を指す。非限定的な例は、イソプロパノール、メタノール、エタノール、ブタノール、及びそれらの混合物である。本明細書で使用される「ポリオール」という用語は、例えばエチレングリコール及びプロピレングリコールなどの2つのヒドロキシル基を含むジオール、並びにグリセリンなどの3つのヒドロキシル基を含むポリオールなどの2つ以上のヒドロキシル基を含む有機溶媒を指す。本明細書で使用される「グリコール誘導体」という用語は、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む化合物に由来する溶媒を指し、ヒドロキシル基のうちの少なくとも1つは、エーテル基又はエステル基の一部である。好ましくは、少なくとも1つのグリコール誘導体溶媒は、少なくとも100℃の沸点を有する。好ましくは、グリコール誘導体は、一般式(I):
を満たし、式中、Rは、任意選択的に2つ以上のエーテル結合を含んでいてもよいC
1~C
6の直鎖又は分岐の二価炭化水素基であり;
X及びYは、互いに同じであるか異なり、XとYのうちの少なくとも1つが水素原子ではないことを条件として、独立に、水素原子、直鎖又は分岐のC
1~C
6アルキル基、又は式-C(O)-R’の基(R’は直鎖又は分岐のC
1~C
6アルキル基である)であり、nは1~3の整数である。
好ましくは、グリコール誘導体は、以下の式(II);
を満たし、式中、R
2は水素原子又はメチル基であり;X
2及びY
2は、互いに同じであるか異なり、X
2とY
2のうちの少なくとも1つが水素原子ではないことを条件として、独立に、水素原子、-R”基、又は-C(O)-R”基(R”基はC
1~C
4アルキル基である)であり;n2は1~3の整数である。好ましい有機溶媒(S)は、イソブチルアルコール(IBA)、1-プロポキシ-2-プロパノール(プロピレングリコールn-プロピルエーテル、PNP)、トリプロピレングリコール(TPG)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPM)、((2-(2-メトキシメチルエトキシ)メチルエトキシ)-プロパノール(TPGメチルエーテル)、及びこれらの混合物である。
【0089】
水性ポリマー組成物
前述したように、組成物は水性であり、有利には主要な液体媒体として水を含有する。
【0090】
水の量は、組成物中の他の成分を必然的に補完しており、組成物の総重量に対して通常少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも35重量%、より好ましくは少なくとも38重量%である。
【0091】
水の上限量は、他の列挙された必須成分の存在によることを除いては、特に限定されない。
【0092】
基材上の適切なコーティングされた重量を確実にするために、水性ポリマー組成物は、10rpmで作動するBrookfield粘度計を使用して22℃で測定した場合に、通常少なくとも500、少なくとも800、好ましくは少なくとも1000mPa.secの液体粘度を有する。
【0093】
逆に、異なるコーティング技術によるコーティング中の許容可能な液体の加工性を確保するために、水性ポリマー組成物は、10rpmで作動するBrookfield粘度計を使用して22℃で測定した場合に、最大5000mPa.sec、最大4700mPa.secの液体粘度を有することが通常好ましい。
【0094】
任意選択的には、水性ポリマー組成物は、特に:
(i)チキソトロピー剤(レオロジー添加剤とも呼ばれる)、すなわち、様々な剪断速度で組成物の液体粘度の特定の変更を可能にし、そのため処理の様々な段階での要件に一致させる化合物;
(ii)界面活性剤、すなわち水性ポリマー組成物の表面張力を変更することができる化合物;
(iii)特にはリン酸トリブチルなどの消泡剤;
(iii)カーボンブラック、ケイ酸塩、金属酸化物、及び硫化物などの顔料;
(iv)ケイ酸塩化合物などの無機フィラー/硬化剤、例えば金属ケイ酸塩(ケイ酸アルミニウム);TiO2、Al2O3、及びSiO2、ゼオライト、マイカ、タルカム、カオリンなどの粒子状金属酸化物;炭素繊維、ガラス繊維;BaSO4、CaSO4、SrSO4などの金属硫酸塩;
(v)有機フィラー、好ましくはポリマー(PAEK)とは異なる芳香族重縮合物のような熱的に安定なポリマー;
(vi)コロイダルシリカのような接着促進剤及び金属リン酸塩(例えばZn、Mn又はFeのリン酸塩)などのリン酸塩化合物;
のようなコーティング組成物の通常の成分を更に含有していてもよい。
【0095】
本発明では、任意の種類の顔料を使用することができる。好ましい顔料は、以下のもの:Whittaker,Clark&Daniels,South Plainfield,New Jersey,USAから入手可能な二酸化チタン;Shepard Color Company,Cincinnati,Ohio,USAから入手可能なArctic blue #3、Topaz blue #9、Olympic blue #190、Kingfisher blue #211、Ensign blue #214、Russet brown #24、Walnut brown #10、Golden brown #19、Chocolate brown #20、Ironstone brown #39、Honey yellow #29、Sherwood green #5、及びJet black #1;Ferro Corp.,Cleveland,Ohio,USAから入手可能なblack F-2302、blue V-5200、turquoise F-5686、green F-5687、brown F-6109、buff F-6115、chestnut brown V9186、及びyellow V-9404並びにEngelhard Industries,Edison,New Jersey,USAから入手可能なMETEOR(登録商標)顔料;のうちの1つ以上であるかそれを含むであろう。
【0096】
特に有用であることが見出されたチキソトロピー剤は、BYK Altanaグループにより商品名BYK-420(登録商標)、BYK-425(登録商標)、及びBYK-7420(登録商標)として市販されているものなどの尿素変性ポリウレタンに基づく化合物であり;代わりに、BENTONITE(登録商標)、LAPONITE(登録商標)などの特定のケイ酸塩化合物又は合成粘土及び類似化合物をチキソトロピー剤として使用することもできる。
【0097】
好ましくは、本発明の組成物は、少なくとも1種のチキソトロピー剤を含有する。
【0098】
少なくとも1種のチキソトロープ剤が存在すると、本発明による組成物の沈降に対する安定性が有利に高まり、その結果、穏やかな撹拌又は振とうにより均一な分散液として形成してから又は得てから最大12~24時間貯蔵した後に、追加の処理なしでスプレーコーティングによって塗布することができることが見出された。存在する場合、本発明による組成物中の前記少なくとも1種のチキソトロピー剤の量は、組成物中の固形分の重量部あたり0.01~2%である。
【0099】
コーティングの形成又は流動促進に役立つ化学物質などの添加剤が、水性ポリマー組成物の中に配合されてもよい。これらの添加剤の例は、Lubrizol,Wickliffe,Ohio,USAから入手可能なLanco(商標)Flow P10及びSolutia,St.Louis,Missouri,USAから入手可能なMODAFLOW(登録商標)Powderである。
【0100】
本発明の別の目的は、上述した水性ポリマー組成物の製造方法である。
【0101】
水性ポリマー組成物は、ポリマー(PAEK)を乾燥粒子として、上述した通りに調製した中和されたポリマー(PAI)の水溶液中に、上で詳述した溶媒(S)の存在下又はその添加前に分散させることにより有利に製造することができる。顔料や添加剤などの水性ポリマー組成物のその他の成分は、ポリマー(PAEK)が水溶液中に分散される前又は後のいずれかに、水性PAI溶液に添加することができる。
【0102】
任意選択的には、溶液中でポリマー(PAI)の塩との均質混合物を得ながらポリマー(PAEK)粒子又は他の成分の粒径を小さくする(同時粉砕)ために、高圧ホモジナイザー、コロイドミル、高速ポンプ、振動撹拌機、又は超音波装置が使用されてもよい。
【0103】
第1の代替形態として、ポリマー(PAI)の塩の水溶液は、本発明の水性ポリマー組成物を製造するために、ポリマー(PAEK)の水性分散液と特にブレンドすることができる。粉砕操作及びその後のポリマー(PAEK)の水性分散液とのブレンドに使用される装置は、従来のものであってもよい。混合装置の非限定的な例としては、特に撹拌機ブレードを備えた混合タンクを挙げることができる。
【0104】
第2の代替形態として、組成物を調製する際にポリマー(PAI)の塩を直接形成するために、ポリマー(PAI)及び塩基性化合物(B)がポリマー(PAEK)分散液に添加されてもよい。ポリマー(PAEK)の水分散液が単なる水の代わりに使用されることを条件として、ポリマーの塩(PAI)を得るために上述した全ての方法が特に適用されてもよい。
【0105】
本発明の水性ポリマー組成物は、有機溶媒が望ましくないか許容されない場合があるコーティング用途に特に有用である場合がある。
【0106】
本発明の水性ポリマー組成物は、コーティングされた表面の靭性が改善された接着性及び大きい強度を有する連続コーティング層を与え、優れた接着性及び膜形成特性を示し、ポリマー(PAEK)の分散安定性(コーティング前)及びコーティングの硬化又は焼成中の熱安定性を向上させる、コーティング用途における使用が意図された配合物において特に望ましいことが見出され得る。
【0107】
そのため、本発明の水性ポリマー組成物は、金属及びガラスのプライマーとして、繊維、繊維製品、及び不織繊維支持体のコーティング配合物として(特にガラス繊維及びマット、並びにそれら由来の繊維製品を含む);容器コーティング用途のエナメルとして;自動車塗装の既存の層間の、又は他の金属仕上げ材との接着を改善するための、自動車塗装用のバインダー層として;金属又は他の基材の薬品による腐食に耐性を有するコーティングとして;こびりつき防止処理された調理器具のバインダー層として;セメントで使用するタイバーのコーティングとして;金属化工程で使用される場合の例えばポリエステル、ポリアミド、及びポリイミド膜などのポリマー膜の前処理コーティングとして;液晶ポリマーやポリイミドなどの様々なプラスチックや金属膜材料への接着剤として;の使用のための配合物の提供に特に有用であることも見出され得る。
【0108】
上述した水性ポリマー組成物は、特に、スプレー、ブラッシング、ローラーコーティング、ディッピングによって、又は電着によって、プライマー又はコーティングとして塗布することができる。
【0109】
プライマーとして使用される際に、コーティングされる基材が金属である場合には、前記基材は、通常グリットブラスト、金属又は金属酸化物のフレーム溶射、又はフリットコーティングによって前処理されるが、組成物は、有利にはリン酸塩処理及びクロメート処理された基材に塗布することもできる。
【0110】
コーティングされる基材がガラスである場合、それは好ましくは最初にグリットブラスト又はフリットコーティングされる。しかしながら、上述したような水性ポリマー組成物は、接着を妨げる可能性のあるグリース及び他の汚染物質を除去するための洗浄のみで処理された特に平滑な基材上に塗布することもでき、良好なコーティング特性が得られる。
【0111】
その他、本発明の水性ポリマー組成物は、任意選択的には単層又は多層構造におけるプライマー層に塗布される、トップコート、保護コーティング、又は仕上げ層、特には非粘着性仕上げとして使用されてもよい。
【0112】
したがって、本発明の別の目的は、
- 前記表面の少なくとも一部に上で詳述した水性ポリマー組成物を塗布することで前記表面上に濡れた状態の層を得ること;及び
- 前記濡れた状態の層を乾燥及び裏張りして、前記表面上にコーティング層を得ること;
を含む、少なくとも1つの表面を有する基材のコーティング方法である。
【0113】
本発明の水性ポリマー組成物は、通常、前記基材の少なくとも1つの表面に塗布されることで、少なくとも1μm、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも8μm、及び/又は最大350μm、好ましくは最大300μm、更に好ましくは最大250μmの厚さを有する濡れた状態の層を与える。
【0114】
上述した水性ポリマー組成物の濡れた状態の層は、その後風乾され、ポリマー(PAI)のイミド化並びにポリマー(PAEK)粒子の溶融及び融合に影響を与えるのに十分な高い温度で焼成又は硬化される。
【0115】
焼成は、有利には、塩基性化合物(B)が揮発性有機塩基である場合、イミド結合が焼成中に形成されるのに伴って、水と任意選択的なポリマー(PAI)塩の塩部位とを含む、コーティング組成物中に存在する揮発性物質を有利に追い出し、それと同時に、焼成は、上で詳述したように、ポリマー(PAEK)の膜粒子への融合を有利に行う。
【0116】
上述した水性ポリマー組成物を硬化させるための焼成温度は、有利には少なくとも350℃、好ましくは少なくとも370℃、より好ましくは少なくとも375℃、及び/又は最高470℃、好ましくは最高455℃、より好ましくは最高440℃である。
【0117】
特定の実施形態によれば、本発明の水性ポリマー組成物とは異なる追加のコーティング配合物が、予め下塗りされた前記水性ポリマー組成物の層上に塗布されてもよい。本発明の第1の好ましい水性ポリマー組成物で下塗りされた基材上のトップコーティング(すなわち、上塗りされた下塗りされた基材)も、これらの温度範囲で硬化することができる。
【0118】
水性ポリマー組成物は、通常、約1分間~約30分間、好ましくは約5分間~約20分間、最も好ましくは約7分間~約15分間焼成される。各コーティング層は、同じ時間焼成できるものの、トップコート層の典型的な焼成時間は通常部材/部材の質量及び形状に依存する。
【0119】
上述した水性ポリマー組成物は、従来の組成物を超える複数の利点を有している。乾燥及び焼成中に、有機溶媒の放出が徐々に適度に抑制され、これは別の形での環境上許容されるプロファイルを有している。焼成温度が下がり、基材をコーティングするための全体のエネルギーコストが削減される。また、より低い焼成温度の結果として、より低い粘度を有する水性ポリマー組成物を使用して、厚膜コーティングを得ることも可能である。基材、特に金属基材の予熱プロセスは、本発明の水性ポリマー組成物により排除される。
【0120】
したがって、本発明の別の目的は、上述した水性ポリマー組成物を含む物品である。
【0121】
第1の実施形態によれば、本発明は、上述した水性ポリマー組成物を含むコーティングされた膜に関する。
【0122】
第2の実施形態によれば、本発明は、本発明の水性ポリマー組成物を含む中間層(結合層)にも関する。この結合層は、多層構造の中に更に含まれてもよい。
【0123】
したがって、更に本発明の目的は、上述した水性ポリマー組成物を含む少なくとも1つの層を含む多層構造体である。
【0124】
本発明による水性ポリマー組成物は、先行技術のコーティング及びプライマー配合物とは異なり、基材への高い接着性を有し少量の有機溶媒を含むコーティングに特に有用であり、上述した対応する物品を与える。したがって、本発明による水性ポリマー組成物及び物品は、エネルギーコスト及び環境要因が重要な考慮事項である場合の用途により望ましい。
【0125】
参照により本明細書に援用されるいずれかの特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0126】
本発明は、実施例を参照することにより以下でより詳細に記載されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0127】
原材料:
TORLON(登録商標)PAI10174(以降PAI-1溶液)は、PAI AI-50の10.6重量%水溶液であり、酸価が110mgKOH/gであり、アミド酸(非イミド化)形態の単位を60モル%より多く有し、ポリマー(PAI)の重量に対して7.5重量%の2,2-ブチルイミノジエタノールを更に含む。
【0128】
KETASPIRE(登録商標)PEEK KT 880(PEEK-1)は、d10=6.9μm、d50=14.0μm、及びd90=23.1μmの平均粒径を有するように粉砕されたポリエーテルエーテルケトン粉末である。
【0129】
KETASPIRE(登録商標)PEEK KT 880(PEEK-2)は、d10=15.5μm、d50=31.8μm、及びd90=67.4μmの平均粒径を有するように粉砕されたポリエーテルエーテルケトン粉末である。
【0130】
BYK7420ESは、BYK Altana Groupから市販されているチキソトロピー剤である。
【0131】
リン酸トリブチルは、The Dow Chemical Companyから市販されている消泡剤である。
【0132】
Mackamine(登録商標)LAは、Rhodiaから市販されているN,N-ジメチルジデシルアミン-N-オキシド界面活性剤である。
【0133】
イソプロピルアルコール(IPA)(26重量%);イソブチルアルコール(4重量%);プロピレングリコールn-プロピルエーテル(PNP)(20重量%);トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPM)(20重量%);トリプロピレングリコール(TPG)(30重量%);から構成される溶媒混合物を使用した。上述した全ての溶媒は、The Dow Chemical Companyから供給された(以降Solvent Mix)。
【0134】
キャラクタリゼーション方法:
ポリマー(PAI-1)溶液の固形分の決定
約0.5gのポリマー(PAI)溶液を、予め秤量したアルミニウム秤量皿で正確に秤量し、250℃の乾燥オーブン中に15分間置いた。その後、室温に冷却した後にサンプルの重量を再度記録することで、以下の式を使用して使用したポリマー樹脂のパーセント固形分を決定した。
%固形分={[(乾燥サンプル&皿の重量)-(皿の重量)]/(元のサンプルの重量)}×100
【0135】
ポリマー(PAEK)粒径の決定
粒径分布は、ISO 13320に従って、乾燥サンプル上でのレーザー光散乱によりキャラクタリゼーションした。
【0136】
コーティング厚さの測定
コーティングの厚さを評価するために、0.001mmの公差を有する電子マイクロメーターを使用した。平均厚さの値は、長さ2メートルの非焼結コーティングテープで、テープの中央の厚さを400mm毎に6回測定することによって計算した。
【0137】
液体コーティングの塗布
異なる旨の明記がない限り、水性ポリマー組成物は、従来のエアスプレー技術によって炭素鋼パネル基材に塗布した。濡れた状態の膜を最初に150℃のオーブンで乾燥して過剰な水を除去し、その後390℃で焼成して膜を形成した。
【0138】
接着特性の決定
基材上に形成された膜の接着性は、NACE TMO185-06によるクロスカット試験により評価した。
【0139】