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特許7286687活物質粉体の粒子表面のLi量測定方法及び被膜含有活物質粉体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】活物質粉体の粒子表面のLi量測定方法及び被膜含有活物質粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230529BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230529BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230529BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230529BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/58
C01G53/00 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021017605
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120609
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石垣 有基
(72)【発明者】
【氏名】上田 将史
(72)【発明者】
【氏名】高木 英一
(72)【発明者】
【氏名】北吉 雅則
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-524776(JP,A)
【文献】特開2016-205862(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133434(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/193873(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/035852(WO,A1)
【文献】特開2011-113792(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102881911(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105070896(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0145324(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質からなる粒子本体と、
上記粒子本体の粒子表面に形成され、Li、P及びOを含む非晶質の非晶質LPO被膜と、を備える
被膜付き正極活物質粒子が集合した被膜含有活物質粉体の製造方法であって、
上記粒子本体と、上記粒子本体の粒子表面に存在し、LiOH及びLi 2 CO 3 を含む表面Li化合物層とを備える正極活物質粒子が集合した活物質粉体について、単位重量当たりの上記活物質粉体における、上記表面Li化合物層に含まれるLi量を測定するLi量測定工程と、
上記表面Li化合物層から上記非晶質LPO被膜を形成する被膜形成工程と、を備え、
上記Li量測定工程は、
上記活物質粉体の一部のサンプル粉体を水に浸漬し、上記表面Li化合物層を上記水に溶解する浸漬工程と、
上記浸漬工程で得た混合液をろ過するろ過工程と、
上記ろ過工程で得たろ液に含まれているLi量を測定する測定工程と、を有し、
上記被膜形成工程は、
測定された上記Li量に基づいて、上記被膜形成工程で処理する上記活物質粉体における、上記表面Li化合物層の全量を上記非晶質LPO被膜に変えるのに要する最低量のPを含む処理液を、上記活物質粉体に混合して、上記非晶質LPO被膜を形成する工程であり、
上記Li量測定工程及び上記被膜形成工程を、上記活物質粉体のロット毎に行う
被膜含有活物質粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質粒子が集合した活物質粉末について、粒子表面に存在する表面Li化合物層に含まれるLi量を測定するLi量測定方法、及び、正極活物質粒子が集合した活物質粉末から、被膜付き正極活物質粒子が集合した被膜含有活物質粉体を製造する被膜含有活物質粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(以下、単に「電池」ともいう)の正極板に用いられる活物質粉体として、正極活物質からなる粒子本体の粒子表面に、Li(リチウム)、P(リン)及びO(酸素)を含む非晶質の非晶質LPO被膜を形成した被膜付き正極活物質粒子が集合した被膜含有活物質粉体が知られている。このような被膜含有活物質粉体を用いて製造した電池では、非晶質LPO被膜の無い正極活物質粒子が集合した活物質粉体を用いた電池に比べて、電池抵抗を低くできる。
【0003】
この被膜含有活物質粉体は、例えば以下の手法により製造する。即ち、正極活物質からなる粒子本体の粒子表面に、LiOH(水酸化リチウム)及びLi2CO3(炭酸リチウム)を含む表面Li化合物層を有する正極活物質粒子が集合した活物質粉体を用意する。また別途、例えばH3PO4(オルトリン酸)等のリン化合物を水に溶解した、Pを含む処理液を作製しておく。そして、これら活物質粉体とPを含む処理液とを混合して、表面Li化合物層から非晶質LPO被膜を形成し、粒子表面に非晶質LPO被膜を有する被膜付き正極活物質粒子が集合した被膜含有活物質粉体を得る。なお、この手法に関連する従来技術として、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-153462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が調査した結果、活物質粉体から被膜含有活物質粉体を作製する際に、活物質粉体に添加するP量によって、電池抵抗の大きさが異なる。具体的には、添加するP量を適切な値としたときに、電池抵抗が最も低くなり、この値よりもP量が少ない場合でも多い場合でも、電池抵抗が高くなる。詳細には、活物質粉体の表面Li化合物層に含まれるLiと、処理液に含まれるPとが過不足なく反応して非晶質LPO被膜を形成するときに、電池抵抗が最も低くなる。非晶質LPO被膜は、主としてLi3PO4の組成で示される被膜であるため、活物質粉体の表面Li化合物層に含まれるLiと処理液に含まれるPとを3:1のモル割合としたときに、電池抵抗が最も低くなることが判ってきた。
【0006】
更に本発明者が調査した結果、活物質粉体の表面Li化合物層に含まれるLi量は、活物質粉体のロットによってバラツキがある。このため、一律に所定量のPを含む処理液を活物質粉体に混合して非晶質LPO被膜を形成する手法では、活物質粉体のロットによっては、P量が少なすぎたり多すぎたりする。このため、この活物質粉体から製造した被膜含有活物質粉体を用いて電池を作製すると、電池抵抗を適切に低減できない場合がある。
【0007】
そこで、本発明者は、活物質粉体の表面Li化合物層に含まれるLi量を、例えば活物質粉体のロット毎に予め測定し、測定されたLi量に基づいた過不足ない量のPを含む処理液を、活物質粉体に混合して、表面Li化合物層から非晶質LPO被膜を形成することを検討した。具体的には、活物質粉体を水に浸漬し、表面Li化合物層を水に溶解する。続いて、この混合液に含まれているLi量を、例えばHCl(塩酸)を用いた中和滴定により測定することを試みた。しかしながら、活物質粉体を水に長い時間にわたり浸漬すると、粒子本体の内部から粒子表面に染み出したLiが水に溶解するため、測定されるLi量が、表面Li化合物層に含まれているLi量よりも多くなってしまう。
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、正極活物質粒子が集合した活物質粉体について、表面Li化合物層に含まれるLi量を適切に測定できる活物質粉体の粒子表面のLi量測定方法、及び、活物質粉体の表面Li化合物層に含まれるLi量を適切に測定して、電池抵抗が低くなる被膜含有活物質粉体を製造できる被膜含有活物質粉体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質からなる粒子本体と、上記粒子本体の粒子表面に存在し、LiOH及びLi2CO3を含む表面Li化合物層と、を備える正極活物質粒子が集合した活物質粉体について、単位重量当たりの上記活物質粉体における、上記表面Li化合物層に含まれるLi量を測定する、活物質粉体の粒子表面のLi量測定方法であって、上記活物質粉体の一部のサンプル粉体を水に浸漬し、上記表面Li化合物層を上記水に溶解する浸漬工程と、上記浸漬工程で得た混合液をろ過するろ過工程と、上記ろ過工程で得たろ液に含まれているLi量を測定する測定工程と、を備える活物質粉体の粒子表面のLi量測定方法である。
【0010】
上述の活物質粉体の粒子表面のLi量測定方法では、まず活物質粉体の一部のサンプル粉体を水に浸漬して、表面Li化合物層を水に溶解した後(浸漬工程)、その混合液をろ過する(ろ過工程)。このようにろ過を行えば、粒子本体の内部から粒子表面にLiが染み出して水に溶解するのを防止できる。従って、このろ液に含まれているLi量を測定すれば、単位重量当たりの活物質粉体における表面Li化合物層に含まれるLi量を適切に測定できる。
【0011】
なお、「測定工程」において、ろ液に含まれているLi量を測定する具体的な手法としては、例えば、HCl等の酸を用いて中和滴定することによりLi量を測定する手法や、ICPによりLi量を測定する手法が挙げられる。
「正極活物質」としては、例えばリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。このリチウム遷移金属酸化物としては、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLiCoO2)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn24)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/32)のような三元系のリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。更に、リチウム遷移金属酸化物として、リン酸マンガンリチウム(例えばLiMnPO4)、リン酸鉄リチウム(例えばLiFePO4)等の、リチウム及び遷移金属元素を含むリン酸塩なども挙げられる。
【0012】
また、他の態様は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質からなる粒子本体と、上記粒子本体の粒子表面に形成され、Li、P及びOを含む非晶質の非晶質LPO被膜と、を備える被膜付き正極活物質粒子が集合した被膜含有活物質粉体の製造方法であって、上記粒子本体と、上記粒子本体の粒子表面に存在し、LiOH及びLi 2 CO 3 を含む表面Li化合物層とを備える正極活物質粒子が集合した活物質粉体について、単位重量当たりの上記活物質粉体における、上記表面Li化合物層に含まれるLi量を測定するLi量測定工程と、上記表面Li化合物層から上記非晶質LPO被膜を形成する被膜形成工程と、を備え、上記Li量測定工程は、上記活物質粉体の一部のサンプル粉体を水に浸漬し、上記表面Li化合物層を上記水に溶解する浸漬工程と、上記浸漬工程で得た混合液をろ過するろ過工程と、上記ろ過工程で得たろ液に含まれているLi量を測定する測定工程と、を有し、上記被膜形成工程は、測定された上記Li量に基づいて、上記被膜形成工程で処理する上記活物質粉体における、上記表面Li化合物層の全量を上記非晶質LPO被膜に変えるのに要する最低量のPを含む処理液を、上記活物質粉体に混合して、上記非晶質LPO被膜を形成する工程であり、上記Li量測定工程及び上記被膜形成工程を、上記活物質粉体のロット毎に行う被膜含有活物質粉体の製造方法である。
【0013】
上述の被膜含有活物質粉体の製造方法では、前述のLi量測定方法により、単位重量当たりの活物質粉体における表面Li化合物層に含まれるLi量を測定し(Li量測定工程)、その後、測定されたLi量に基づいて、表面Li化合物層から非晶質LPO被膜を形成する(被膜形成工程)。具体的には、表面Li化合物層の全量を非晶質LPO被膜に変えるのに要する最低量(過不足ない量)のPを含む処理液を、活物質粉体に混合して、非晶質LPO被膜を形成する。これにより、表面Li化合物層が殆ど残っておらず、かつ、余剰のPも殆ど含まれていない被膜含有活物質粉体を得ることができる。そして、この被膜含有活物質粉体を用いて電池を製造すれば、電池抵抗をより一層低くできる。
【0014】
なお、「非晶質LPO被膜」としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸水素二リチウム(Li2HPO4)、リン酸二水素リチウム(LiH2PO4)などの組成で示されるLi、P及びOを含む非晶質の被膜が挙げられる。
「Pを含む処理液」としては、例えば、五酸化二リン(P25)(十酸化四リン (P410))、オルトリン酸(H3PO4)、ピロリン酸(H427)、三リン酸(H5310)、ポリリン酸(HO(HPO3nH)、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸水素リチウム(Li2HPO4)等のリン化合物を、2-プロパノール(イソプロピルアルコール,IPA)等のアルコール、N-メチルピロリドン(NMP)、水等の溶媒に溶解または分散させた処理液が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係り、被膜含有活物質粉体をなす被膜付き正極活物質粒子の模式的な断面図である。
図2】実施形態に係り、活物質粉体をなす正極活物質粒子の模式的な断面図である。
図3】実施形態に係り、活物質粉体の粒子表面のLi量測定方法を含む被膜含有活物質粉体の製造方法のフローチャートである。
図4】実施形態に係り、浸漬工程を模式的に示す説明図である。
図5】実施形態に係り、被膜形成工程を模式的に示す説明図である。
図6】HClの滴下量とろ液のpHとの関係を模式的に示す中和滴定曲線である。
図7】実施例及び比較例に係り、HClの滴下量とろ液(比較例では混合液)のpHとの関係を示す中和滴定曲線である。
図8】被膜形成工程で添加するP量WPと電池抵抗比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1に本実施形態に係る被膜付き正極活物質粒子40の断面図を模式的に示す。被膜付き正極活物質粒子40が集合した被膜含有活物質粉体30は、リチウムイオン二次電池を構成する正極板の正極活物質層に用いられる。被膜付き正極活物質粒子40は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質からなる粒子本体21と、この粒子本体21の粒子表面21mに形成された非晶質LPO被膜43とを備える。
【0017】
本実施形態では、被膜付き正極活物質粒子40のメディアン径D50は、5μm程度である。粒子本体21をなす正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物、具体的には、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(詳細にはLiNi0.2Co0.5Mn0.32)である。一方、非晶質LPO被膜43は、Li、P及びOを含む非晶質のLPO被膜、具体的には、主としてLi3PO4の組成で示される非晶質の被膜であると考えられる。この非晶質LPO被膜43は、粒子本体21の粒子表面21mの一部に、詳細には、粒子表面21mのうちエッジ面21maの一部に、海島状に複数形成されている。各非晶質LPO被膜43は、それぞれ後述する正極活物質粒子20の表面Li化合物層23(図2参照)から生成された被膜である。各非晶質LPO被膜43の厚みは、0.2nm程度である。
【0018】
次いで、上記被膜含有活物質粉体30の製造方法について説明する(図2図7参照)。まず正極活物質粒子20が集合した活物質粉体10を用意する(図2参照)。この正極活物質粒子20は、メディアン径D50が5μm程度の粒子であり、前述した正極活物質(本実施形態ではLiNi0.2Co0.5Mn0.32)からなる粒子本体21と、この粒子本体21の粒子表面21mに存在する表面Li化合物層23とを備える。この表面Li化合物層23は、粒子本体21をなす正極活物質に含まれていた余剰のLiを起源としており、主としてLiOHからなり、僅かにLi2CO3も含んでいると考えられる(Li換算でLiOHが9割以上、Li2CO3が1割未満である)。表面Li化合物層23は、粒子表面21mのうちエッジ面21maに、海島状に複数存在している。
【0019】
次に、「Li量測定工程S1」(図3参照)において、単位重量当たりの活物質粉体10における、表面Li化合物層23に含まれるLi量WL(wt%)を測定する。このLi量測定工程S1では、「浸漬工程S11」、「ろ過工程S12」及び「測定工程S13」をこの順に行う。
まず浸漬工程S11において、活物質粉体10の一部のサンプル粉体10Sを水100に浸漬し、表面Li化合物層23を水100に溶解する(図4参照)。本実施形態では、ビーカに100mlの水100を入れ、これに10.0gのサンプル粉体10Sを加えて、マグネチックスターラを用いて1分間にわたり攪拌混合する。なお、この攪拌混合は、マグネチックスターラ以外の物(ガラス棒など)や攪拌装置を利用してもよい。これにより、サンプル粉体10Sに含まれる表面Li化合物層23(LiOH及びLi2CO3)が水100に溶解して、次工程でろ液120となる水溶液となる。なお、水100に浸漬するサンプル粉体10Sの量は、10.0gに限らず、適宜変更できる。
【0020】
続いて、ろ過工程S12において、上述の浸漬工程S11で得た混合液110を、ろ紙(不図示)を用いてろ過し、サンプル粉体10S(表面Li化合物層23が無くなった粒子本体21が集合した活物質粉体)と、ろ液120(LiOH及びLi2CO3が水100に溶解した溶液)とに分離する。
【0021】
次に、測定工程S13において、上述のろ過工程S12で得たろ液120について、HCl(塩酸)を用いた中和滴定を行って、ろ液120に含まれているLi量WLを測定する(図6及び図7参照)。なお、図6の中和滴定曲線は、本実施形態に係る中和滴定を説明するために判り易く模式的に示したものであり、図7の実施例の中和滴定曲線は、実際にろ液120に中和滴定を行った結果に基づくものである。
【0022】
本実施形態では、LiOHとHClの中和と、Li2CO3とHClの中和を2段階に分ける中和滴定を行って、ろ液120に含まれているLi量WLを、LiOH由来のLi量WLaとLi2CO3由来のLi量WLbとを分けて測定した(WL=WLa+WLb)。具体的には、表面Li化合物層23に含まれていたLi2CO3は、水100に溶解すると、Li2CO3→2Li++CO3 2-となるが、CO3 2-(炭酸イオン)は、ろ液120のpHがpH=約8以上では、CO3 2-+H+→HCO3 -となり、更にpH=約4~約8では、HCO3 -+H+→H2O+CO2↑となる。このようにCO3 2-は、ろ液120中のH+を消費するため、これに伴ってろ液120のpHが変動する。このため、単にろ液120にHClを滴下する手法では、LiOHとHClの中和とLi2CO3とHClの中和とが並行して生じるため、LiOHとHClの中和とLi2CO3とHClの中和を2段階に分けることができない。
【0023】
そこで、本実施形態では、中和滴定を行うのに先立ち、ろ液120に10%BaCl2水溶液を2ml加えておく。これにより、CO3 2-はマスキングされる。即ち、Li2CO3は、Li2CO3+BaCl2 →2LiCl+BaCO3 ↓となって、BaCO3(炭酸バリウム)の沈殿物となるため、ろ液120中のCO3 2-が無くなる。このようにすることで、その後に行う中和滴定では、図6に示すように、中和点Aまでは、LiOHとHClの中和(LiOH+HCl→LiCl+H2O)が生じる。続いて、中和点Aから中和点Bまでは、Li2CO3とHClの中和(Li2CO3+2HCl→2Li++H2O+CO2↑)が生じる(中和が2段階に分かれる)。詳細には、Li2CO3は、中和点Aまでは、前述のように、Li2CO3+BaCl2 →2LiCl+BaCO3となっている。このBaCO3は、中和点Aから中和点Bにおいて、更に滴下したHClと反応し、BaCO3+2HCl→BaCl2+H2O+CO2↑となる。
【0024】
中和滴定は、本実施形態では、ビーカに入れたろ液120をマグネチックスターラで攪拌する共に、pHメータによりろ液120のpHを測定しながら、1.0MのHClを25μlずつ30秒間隔で加えた。この中和滴定の結果の一例を図7(実施例)に示す。なお、前述のように、活物質粉体10の表面Li化合物層23に含まれるLi量WLは、活物質粉体10のロットによって異なる。
図7に示した実施例では、LiOHとHClの中和が完了する中和点Aまでに、滴下量Ta=0.325mlの1.0MHClを要した。また、中和点Aから、Li2CO3とHClの中和が完了する中和点Bまでに、更に滴下量Tb=0.025mlの1.0MHClを要した(中和点Bまでの滴下量の合計は0.325+0.025=0.350ml)。なお、図7の中和滴定曲線において、図6の中和滴定曲線のように明確に2段階に分かれてない理由は、ろ液120に含まれているLi2CO3の量が少ないからである。このため、中和点Aから中和点Bまでの上述の滴下量Tbは、中和滴定における1回分の滴下量(Tb=25μl=0.025ml)とした。
【0025】
次に、上述の中和滴定の結果に基づいて、活物質粉体10(サンプル粉体10S)の表面Li化合物層23に含まれるLiOH量Wa(wt%)とLi2CO3量Wb(wt%)を、以下の算出式(1)(2)を用いてそれぞれ算出する。
Wa(wt%)=Ta×(Mc/1000)×Fc×Mra×(1/m)×100 ・・・(1)
Wb(wt%)=(Tb/2)×(Mc/1000)×Fc×Mrb×(1/m)×100 ・・・(2)
Ta(ml):中和点Aに至るまでに要するHClの滴下量、
Tb(ml):中和点Aから中和点Bに至るまでに要するHClの滴下量、
Mc(M,mol/L):HClの濃度(本実施形態ではMc=1.0M)、
Fc:濃度ファクタ(本実施形態ではFc=1.01)、
Mra(g/mol):LiOHの分子量(Mra=23.95g/mol)、
Mrb(g/mol):Li2CO3の分子量(Mrb=73.89g/mol)、
m(g):用いたサンプル粉体10Sの量(本実施形態ではm=10.0g)。
【0026】
図7に示した実施例では、前述のように、中和点Aまでに要するHClの滴下量TaがTa=0.325mlであるので、活物質粉体10の表面Li化合物層23に含まれるLiOH量Waは、活物質粉体10に対し、Wa=0.325×(1.0/1000)×1.01×23.95×(1/10.0)×100=0.079wt%である。また、中和点Aから中和点Bまでに要するHClの滴下量TbはTb=0.025mlであるので、活物質粉体10の表面Li化合物層23に含まれるLi2CO3量Wbは、活物質粉体10に対し、Wb=(0.025/2)×(1.0/1000)×1.01×73.89×(1/10.0)×100=0.0093wt%である。
【0027】
また、活物質粉体10(サンプル粉体10S)の表面Li化合物層23に含まれるLi量WL(wt%)は、以下の算出式(3)を用いて算出する。
WL(wt%)=WLa+WLb=Wa×(Mrl/Mra)+Wb×(2×Mrl/Mrb) ・・・(3)
WLa(wt%):LiOH由来のLi量
WLb(wt%):Li2CO3由来のLi量
Mrl(g/mol):Liの原子量(Mrl=6.94g/mol)。
【0028】
図7に示した実施例では、活物質粉体10の表面Li化合物層23に含まれるLi量WLは、活物質粉体10に対し、WL=0.079×(6.94/23.95)+0.0093×(2×6.94/73.89)=0.023+0.0017=0.025wt%である。
従って、図7の実施例では、例えば100gの活物質粉体10当たり、粒子表面21mの表面Li化合物層23に含まれるLi量WLは、0.025gである。
なお、上記の計算から判るように、LiOH由来のLi量WLaはWLa=0.023wt%、Li2CO3由来のLi量WLbはWLb=0.0017wt%であるため、表面Li化合物層23のうち、Li換算で、LiOHの割合はWLa/WL×100=約93%、Li2CO3の割合はWLb/WL×100=約7%である。
【0029】
なお、本実施形態では、前述のように、ろ液120にBaCl2水溶液を加えてLiOHの中和とLi2CO3の中和とを分けたが、このように2段階に分けることなく、中和滴定を行ってもよい。即ち、ろ過工程S12後、ろ液120にBaCl2水溶液を加えることなく、ろ液120に中和滴定を行う。この場合、図7の実施例で用いた活物質粉体10では、中和完了までに滴下量Tc=0.350ml(=Ta+Tb=0.325+0.025)の1.0MHClを要する。この場合、以下の算出式(4)を用いて、活物質粉体10の表面Li化合物層23に含まれるLi量WL(wt%)を算出する。
WL(wt%)=Tc×(Mc/1000)×Fc×Mrl×(1/m)×100 ・・・(4)
本例では、Li量WL=0.350×(1.0/1000)×1.01×6.94×(1/10.0)×100=0.025wt%となり、中和を2段階に分けた場合と同じ値が得られる。
【0030】
ここで、比較例として、ろ過工程S12を行わずに、浸漬工程S11に続いて測定工程S13を行う場合について説明する(図7における比較例を参照)。この比較例では、中和点Aまでに要するHClの滴下量TaはTa=0.600ml、中和点Aから中和点Bまでに要するHClの滴下量TbはTb=0.125mlであった(中和点Bまでの滴下量の合計は0.600+0.125=0.725ml)。
従って、LiOH量Waは、前述の算出式(1)より、Wa=0.600×(1.0/1000)×1.01×23.95×(1/10.0)×100=0.15wt%である。
また、Li2CO3量Wbは、前述の算出式(2)より、Wb=(0.125/2)×(1.0/1000)×1.01×73.89×(1/10.0)×100=0.047wt%である。
更に、活物質粉体10(サンプル粉体10S)の表面Li化合物層23に含まれるLi量WLは、前述の算出式(3)より、WL=0.15×(6.94/23.95)+0.047×(2×6.94/73.89)=0.043+0.0088=0.052wt%である。
【0031】
同一ロットの活物質粉体10を用いて測定したLi量WLが、実施例ではWL=0.025wt%であるのに対し、比較例ではWL=0.052wt%と多くなった理由は、比較例では、ろ過工程S12を行わずに浸漬工程S11に続いて測定工程S13を行っているので、測定工程S13中(中和滴定中)に、粒子本体21内からLiが混合液110に溶出する。このため、表面Li化合物層23に含まれるLiのほか、粒子本体21内から混合液110に溶出したLiも、中和滴定で消費されるため、Li量WLが多くなったと考えられる。この結果から、実施例のようにろ過工程S12を行うことで、表面Li化合物層23に含まれるLiのみを適切に測定できることが判る。
【0032】
次に、「被膜形成工程S2」(図3参照)において、活物質粉体10とPを含む処理液150とを混合して、活物質粉体10をなす正極活物質粒子20の表面Li化合物層23から非晶質LPO被膜43を形成して、被膜付き正極活物質粒子40が集合した被膜含有活物質粉体30を得る(図5参照)。
【0033】
まず被膜形成工程S2で処理する活物質粉体10における、表面Li化合物層23の全量を非晶質LPO被膜43に変えるのに要する最低量のPを求める。図7で用いた活物質粉体10では、前述のように、表面Li化合物層23に含まれるLi量WLはWL=0.025wt%である。一方、非晶質LPO被膜43は主としてLi3PO4の組成で示される被膜であるため、必要となる最低のP量WP(wt%)を、以下の算出式(5)を用いて算出する。
WP(wt%)=(WL/3)×(Mrp/Mrl) ・・・(5)
Mrp(g/mol):Pの原子量(Mrp=30.97g/mol)。
本例では、P量WP=(0.025/3)×(30.97/6.94)=0.037wt%である。
【0034】
そこで、本実施形態では、P換算で0.037wt%となるように、IPAにP25を溶解して、Pを含む処理液150を得た。そして、例えば100gの活物質粉体10に対して、これと同量の100gの処理液150を加え、この混合物をプラネタリーミキサで3分間にわたり混合し、表面Li化合物層23と処理液150中のリン酸イオンとを反応させて、表面Li化合物層23から非晶質LPO被膜43を形成する。その後、この混合物を80℃に加熱し乾燥させて、被膜付き正極活物質粒子40が集合した被膜含有活物質粉体30を得る。このようにすることで、理論上、表面Li化合物層23の全量が非晶質LPO被膜43となり、かつ、余剰のPが被膜含有活物質粉体30に含まれることもない。
【0035】
(試験結果)
次いで、本発明の効果を検証するために行った試験結果について説明する(図8参照)。図7で示した活物質粉体10を用い、被膜形成工程S2において活物質粉体10に添加するP量WPを、0wt%(Pを全く添加しない)、0.009wt%、0.015wt%、0.018wt%、0.027wt%、0.044wt%または0.073wt%に変更し、それ以外は実施形態と同様にして、被膜含有活物質粉体30をそれぞれ製造した。
【0036】
次に、これらの被膜含有活物質粉体30を用いて、それぞれラミネートセル型のリチウムイオン電池(不図示)を作製した。即ち、被膜含有活物質粉体30を用いて、それぞれ正極板を作製する。具体的には、被膜含有活物質粉体30と、導電粒子(アセチレンブラック粒子)と、結着剤(ポリフッ化ビニリデン)と、分散媒(NMP)とを混合して、正極活物質ペーストを作製する。そして、この正極活物質ペーストをアルミニウム箔からなる正極集電箔上に塗布し、加熱乾燥させて、正極集電箔上に正極活物質層を形成する。その後、これをプレスして正極活物質層の密度を高めて、正極板を形成した。
【0037】
また別途、負極板を作製する。具体的には、負極活物質粒子(黒鉛粒子)と、結着剤(スチレンブタジエンゴム)と、増粘剤(カルボキシメチルセルロース)と、分散媒(水)とを混合して、負極活物質ペーストを作製する。そして、この負極活物質ペーストを銅箔からなる負極集電箔上に塗布し、加熱乾燥させて、負極集電箔上に負極活物質層を形成する。その後、これをプレスして負極活物質層の密度を高めて、負極板を形成した。
次に、各正極板と負極板とをセパレータを介して対向させて、電解液と共にラミネートフィルムからなる外装体内に収容し、電池をそれぞれ作製した。
【0038】
次に、各電池について、それぞれ電池抵抗Rを測定した。具体的には、各電池を、環境温度-10℃下において、SOCを56%(電池電圧3.70V)に調整する。その後、1Cの定電流Iで2秒間放電を行い、放電前後の電池電圧Vを測定し、電池電圧Vの変化量ΔVを求める。また、R=ΔV/Iにより各電池の電池抵抗(IV抵抗)Rをそれぞれ求める。そして、Pを全く添加しない場合(0wt%)の電池抵抗Rの基準(=1)として、それ以外の各電池について電池抵抗Rの「電池抵抗比」をそれぞれ算出した。添加したP量WP(wt%)と電池抵抗比との関係をまとめて図8に示す。
【0039】
図8のグラフから明らかなように、図7で示した活物質粉体10に添加するP量WPをWP=0.037wt%程度とすると、電池抵抗比(電池抵抗R)が最も小さくなり、添加するP量WPが0.037wt%より少なくなっても多くなっても、電池抵抗比(電池抵抗R)が大きくなることが判る。
前述のように、図7で示した活物質粉体10は、表面Li化合物層23に含まれるLi量WLがWL=0.025wt%であり、この活物質粉体10における表面Li化合物層23の全量を非晶質LPO被膜43に変えるのに要する最低のP量WPはWP=0.037wt%である。
【0040】
従って、添加するP量WPをWP=0.037wt%としたときに、活物質粉体10における表面Li化合物層23の全量が非晶質LPO被膜43に変わり、かつ、被膜含有活物質粉体30に余剰のPが含まれなくなる。非晶質LPO被膜43はリチウムイオン伝導性が高いため、非晶質LPO被膜43が粒子表面21mに多く存在するほど、放電の際に電解液中のリチウムイオンが非晶質LPO被膜43を通じて粒子表面21mに移動し易くなる。このため、電池抵抗比(電池抵抗R)が小さくなる。なお、充電の場合は、リチウムイオンが粒子表面21mから電解液中への移動し易くなる。
【0041】
これに対し、添加するP量WPを0.037wt%よりも少なくするほど、表面Li化合物層23が多く残り、形成される非晶質LPO被膜43の量が少なくなる。このため、添加するP量WPを0.037wt%よりも少なくするほど、電池抵抗Rを低下させる効果が減少し、電池抵抗比(電池抵抗R)が大きくなる。
一方、添加するP量WPを0.037wt%よりも多くするほど、被膜含有活物質粉体30に含まれる余剰のPが多くなる。余剰のPは、正極板の作製工程及び電解液等の材料中に含まれる水分と反応してH3PO4などの酸に変化し、この酸により被膜付き正極活物質粒子40が損傷する。これにより、添加するP量WPを0.037wt%よりも多くするほど、電池抵抗比(電池抵抗R)が大きくなったと考えられる。
【0042】
以上で説明したように、活物質粉体10の粒子表面21mのLi量測定方法では、まず活物質粉体10の一部のサンプル粉体10Sを水100に浸漬して、表面Li化合物層23を水100に溶解した後(浸漬工程S11)、その混合液110をろ過する(ろ過工程S12)。このようにろ過を行えば、粒子本体21の内部から粒子表面21mにLiが染み出して水100に溶解するのを防止できる。従って、このろ液120に含まれているLi量WLを測定すれば、単位重量当たりの活物質粉体10における、表面Li化合物層23に含まれるLi量WLを適切に測定できる。
【0043】
また、被膜含有活物質粉体30の製造方法では、前述のLi量測定方法により、単位重量当たりの活物質粉体10における表面Li化合物層23に含まれるLi量WLを測定し(Li量測定工程S1)、その後、測定されたLi量WLに基づいて、表面Li化合物層23から非晶質LPO被膜43を形成する(被膜形成工程S2)。具体的には、表面Li化合物層23の全量を非晶質LPO被膜43に変えるのに要する最低量(過不足ない量)のPを含む処理液150を、活物質粉体10に混合して、非晶質LPO被膜43を形成する。これにより、表面Li化合物層23が殆ど残っておらず、かつ、余剰のPも殆ど含まれていない被膜含有活物質粉体30を得ることができる。そして、この被膜含有活物質粉体30を用いて電池を製造すれば、電池抵抗Rをより一層低くできる。
【0044】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0045】
10 活物質粉体
10S サンプル粉体
20 正極活物質粒子
21 粒子本体
21m 粒子表面
23 表面Li化合物層
30 被膜含有活物質粉体
40 被膜付き正極活物質粒子
43 非晶質LPO被膜
100 水
110 混合液
120 ろ液
150 (Pを含む)処理液
S1 Li量測定工程
S11 浸漬工程
WL Li量
S12 ろ過工程
S13 測定工程
S2 被膜形成工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8