(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】衛生薄葉紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A47K 10/16 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
A47K10/16
A47K10/16 D
(21)【出願番号】P 2021019484
(22)【出願日】2021-02-10
(62)【分割の表示】P 2017038743の分割
【原出願日】2017-03-01
【審査請求日】2021-02-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】市川 晴菜
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】居島 一仁
【審判官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-178572(JP,A)
【文献】特開2005-40620(JP,A)
【文献】特開2009-240722(JP,A)
【文献】特開2002-273804(JP,A)
【文献】特開2002-273804(JP,A)
【文献】特開2015-137440(JP,A)
【文献】特開平10-272710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のシートを重ねて一体化した衛生薄葉紙であって、
第1のエンボス部が形成された前記各シートの少なくとも一部が剥離され、
前記少なくとも一部が剥離された各シートが重ねられたシート積層体に第2のエンボス部が形成されており、
前記第1のエンボス部および前記第2のエンボス部は、ピンエンボス加工により
前記ピンエンボス加工用のピンが前記シートの全てに貫通せずに前記シートに孔が形成されたエンボス部である、衛生薄葉紙。
【請求項2】
前記シート積層体は、前記第1のエンボス部が形成された前記各シートが積層されて一体化したものである、請求項1に記載の衛生薄葉紙。
【請求項3】
前記第2のエンボス部が、前記シート積層体の各シートに形成されている、請求項2に記載の衛生薄葉紙。
【請求項4】
前記各シートの坪量が15~25g/m
2であり、
密度が0.10~0.35g/cm
3である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の衛生薄葉紙。
【請求項5】
複数枚のシートが積層された第1のシート積層体に第1のエンボス加工を行う第1のエンボス工程と、
第1のエンボス加工が施された前記第1のシート積層体の各シートを剥がす剥離工程と、
前記各シートを重ねて第2のシート積層体を形成する積層工程と、
前記第2のシート積層体に第2のエンボス加工を行う第2のエンボス工程とを有し、
前記第1のエンボス加工および前記第2のエンボス加工は、ピンを
前記シートの全てに貫通させずに前記シート間に貫通させるピンエンボス加工である、衛生薄葉紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生薄葉紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛生薄葉紙は、家庭用、業務用に限らず、汚れ、水、油等のふき取り等の種々の場面で使用される。衛生薄葉紙には、細部の汚れまで拭き取ることができるように柔軟性が求められる。一方、衛生薄葉紙には、ふき取った水分等の汚れを素早く吸収し、かつ吸収した水分等を保持する等の吸収性が求められる。
【0003】
例えば、特開2005-40620号公報(特許文献1)には、複数枚のシートが積層された衛生薄葉紙が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
衛生薄葉紙では、例えば、原紙の坪量を高くすることにより、吸収性を高めることができる。しかし、坪量が高くなると、原紙が硬くなり、衛生薄葉紙の柔軟性が低下する。一方、原紙の坪量が小さいと、衛生薄葉紙の吸収性が低下する。このように、従来の衛生薄葉紙では、柔軟性と吸収性をともに向上させることが課題となっている。
【0006】
本発明の目的は、柔軟性および吸収性に優れる衛生薄葉紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、複数枚のシートを重ねて一体化した衛生薄葉紙であって、第1のエンボス部が形成された前記各シートの少なくとも一部が剥離され、前記少なくとも一部が剥離された各シートが重ねられたシート積層体に第2のエンボス部が形成されている衛生薄葉紙である。
【0008】
衛生薄葉紙は、複数枚のシートが重ねられて一体化されている。衛生薄葉紙は、特に限定されず、ティシュペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパー、キッチンタオル、ワイパー等の衛生薄葉紙が含まれる。衛生薄葉紙の用途は、家庭用、業務用のいずれも対象となり得る。
【0009】
衛生薄葉紙に用いられる複数枚のシート構成する各シートには、クレープが形成された公知のクレープ紙を用いることができる。クレープ紙は、シートの抄紙工程において抄紙機のドライヤーの出口で、ドクターブレードと呼ばれる刃を当てることにより表面に細かいシワが形成された紙である。また、シートの枚数は、2枚以上であれば特に限定されないが、衛生薄葉紙の製造時または使用時の取り扱い性の観点から、シートの枚数は5枚以下が好ましい。
【0010】
クレープ紙には、パルプを主材とする原紙が用いられる。パルプの組成は、衛生薄葉紙の種類に応じて公知の組成とすることができる。パルプ組成は、例えば、NBKP(針葉樹クラフトパルプ)やNUKP(針葉樹未晒しパルプ)などの針葉樹パルプと、LBKP(広葉樹クラフトパルプ)やLUKP(広葉樹未晒しパルプ)などの広葉樹パルプとを適宜の比率にした組成にすることができる。
【0011】
また、広葉樹パルプに対して針葉樹パルプの比率が多いパルプ組成とするのが好ましい。針葉樹パルプと広葉樹パルプの比は、例えば50:50~100:0とすることができる。より好的には針葉樹パルプの比率は70%以上であるのがよい。また、パルプの種類としては、雑誌や新聞古紙を再生した古紙パルプを使用してもよく、その場合は古紙パルプの比率は10~100%とすることができる。
【0012】
各シートには、第1のエンボス部が形成されている。第1のエンボス部を形成するためのエンボス加工の種類は、特に限定されず、シートの表面に凹凸が形成されるものであればよい。またエンボス加工によりシートに孔が形成されるものでもよい。また、各シートは、第1のエンボス部が形成された状態で、前記各シートの少なくとも一部が剥離されている。各シートの少なくとも一部が剥離されているとは、各シートの一部が剥離されたものと全部が剥離されたものを含むことを意味する。
【0013】
シート積層体は、各シートが積層されたものである。シート積層体としては、各シートが積層される前に予め第1のエンボス部が形成された各シートを積層したものでも、各シートに第1のエンボス部が形成されていない状態で各シートを積層したシート積層体にエンボス加工が施されたものでもよい。なお、シート積層体として、各シートに第1のエンボス部が形成されていない状態で各シートを積層したシート積層体にエンボス加工が施されたものを用いると、積層される前のシート毎に予め第1のエンボス部を形成する必要がないため、製造が容易である。
【0014】
シート積層体には、第2のエンボス部が形成されている。第2のエンボス部は、第1のエンボス部を形成するためのエンボス加工とは別個のエンボス加工により形成されたものであればよい。また、第2のエンボス部を形成するためのエンボス加工の種類(例えばピンエンボス加工等)は、第1のエンボス部を形成するためのエンボス加工と同じ種類でも異なる種類でも良い。
【0015】
第1の態様では、各シートに形成された第1のエンボス部による凹凸により、シート積層体の各シート間に空間が形成され、このシート積層体にさらに第2のエンボス部による凹凸が形成されているため、衛生薄葉紙を柔らかくすることができ、汚れや水分等のふき取りを容易にすることができる。
【0016】
また、各シートに形成された第1のエンボス部による凹凸とシート積層体にさらに第2のエンボス部による凹凸とが存在することにより、汚れや水分等を吸収する速度を高めることができる。さらに、第2のエンボス部が形成されたシート積層体の各シート間に形成された空間に、吸収した水分等を保持することができる。そのため、第1の態様によれば、柔軟性と吸収性がともに優れる衛生薄葉紙を提供することができる。
【0017】
なお、本発明の構成には、製法により特定された構成が一部含まれているが、これは、構造、特性のみを用いて特定することが困難なためである。
【0018】
第2の態様は、前記シート積層体は、前記第1のエンボス部が形成された前記各シートが積層されて一体化したものである。エンボス加工が施された状態で各シートが積層されて一体化されたものシート積層体を用いることにより、各シートに形成された第1のエンボス部による凹凸をシート間に配置することができる。そのため、衛生薄葉紙の各シート間に確実に空間を形成することができ、衛生薄葉紙の柔軟性および吸収性を確実に向上させることができる。
【0019】
第3の態様は、第2のエンボス部が、前記シート積層体の各シートに形成されている。第3の態様では、第1のエンボス部による凹凸と第2のエンボス部による凹凸とが各シート形成されているため、水分等を吸収する速度をさらに高めることができる。
【0020】
第4の態様は、前記各シートの坪量が15~25g/m2であり、密度が0.10~0.35g/cm3である衛生薄葉紙である。シートの坪量と密度がそれぞれこの範囲に含まれることにより、柔軟性および吸収性が高い衛生薄葉紙が得られる。なお、シートの坪量が低すぎると衛生薄葉紙の強度が低下し、坪量が高すぎると衛生薄葉紙の柔軟性が低下する可能性がある。また衛生薄葉紙の密度が低すぎると、衛生薄葉紙の強度が低下し、坪量が高すぎると衛生薄葉紙の柔軟性が低下する可能性がある。
【0021】
第5の態様は、複数枚のシートが積層された第1のシート積層体に第1のエンボス加工を行う第1のエンボス工程と、前記第1のシート積層体の各シートを剥がす剥離工程と、前記各シートを積層して第2のシート積層体を形成する積層工程と、前記第2のシート積層体に第2のエンボス加工を行う第2のエンボス工程とを有する、衛生薄葉紙の製造方法である。
【0022】
第1のエンボス工程では、複数枚のシートが積層された第1のシート積層体に第1のエンボス加工を行われる。第1のシート積層体は、第1のエンボス加工が施される前の複数枚のシートが積層されたものである。
【0023】
剥離工程では、第1のシート積層体の各シートが剥がされる。剥がされた各シートには、第1のエンボス工程で行われた第1のエンボス加工による凹凸が形成されている。
【0024】
積層工程では、第1のシート積層体から分離した各シートが積層され第2のシート積層体が形成される。第1のシート積層体から分離された各シートには、第1のエンボス加工による凹凸が形成されているため、このような凹凸を有するシートが積層されることにより、得られた第2のシート積層体には、シート間に空間を形成することができる。
【0025】
第2のエンボス工程では、第2のシート積層体に第2のエンボス加工を行われる。第2のシート積層体のシート間には上述した空間が形成されているため、このような第2のシート積層体に第2のエンボス加工を施すことにより、衛生薄葉紙の内部に空間を形成しながら、衛生薄葉紙を構成する各シートに第1のエンボス加工と第2のエンボス加工を施すことができる。そのため、吸収性と柔軟性に優れた衛生薄葉紙を得ることができる。
【0026】
また、第1のエンボス工程では、複数枚のシートが積層された第1のシート積層体にエンボス加工が施されるため、シート毎に予め第1のエンボス加工を施す必要がない。また、第2のエンボス工程では、第1のエンボス加工が施された複数枚のシートが積層された第2のシート積層体の状態でエンボス加工が施されるため、シート毎に予め第2のエンボス加工を施す必要がない。そのため、第5の態様では、内部に空間が形成され、各シートに複数のエンボス加工が施された衛生薄葉紙を簡単に製造することができる。そのため、柔軟性および吸収性に優れた衛生薄葉紙の製造が容易である。
【0027】
第6の態様では、前記剥離工程で、前記シートの一部が分離されない。すなわち、剥離工程では、第1のシート積層体の各シートは、シート全体は分離されず、シートの一部が接合した状態で剥がされる。このように第1のシート積層体の各シートを剥がすことにより、シートの一部が接合された状態で形成されるため、各シートの積層が容易である。
【0028】
第7の態様では、分離されない前記シートの一部が、前記シートの端部である。第7の態様では、シートの端部が分離されないため、積層工程において剥離した各シートを積層する際に位置合わせが容易である。
【0029】
第8の態様では、分離されない前記シートの一部が、前記シートの中央部である。第8の態様では、シートの中央部を接合しながら各シートを積層することができるため、積層時のシートの位置合わせが容易である。また、シートの中央部が接合されることにより、積層工程において剥離した各シートを積層する際に、各シートを安定した状態で積層することができるため、各シートを積層する作業が容易である。
【0030】
第9の態様では、前記第2のエンボス加工が、ピンエンボス加工である。ピンエンボス加工は、複数枚のシートを一体化する細かいエンボス凹部またはエンボス凸部(凹凸)を形成するエンボス加工である。このようなピンエンボス加工を行うことにより、各シート間はピンエンボス加工による凹凸を介して接合されるため、第2のシート積層体の各シートを接着剤を用いずに接合することができる。また、ピンエンボス加工は、シートに形成されるエンボス凹部またはエンボス凸部が細かいため、シート間の空間が潰れ難いため、シート間の空間を維持しながらシートにエンボス加工を行うことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一態様によれば、柔軟性および吸収性に優れる衛生薄葉紙を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】(A)は本実施形態に係る衛生薄葉紙の平面を示す図であり、(B)は本実施形態に係る衛生薄葉紙の積層構造を示す図である。
【
図2】(A)は第1のエンボス加工が施される前の第1のシート積層体を示し、(B)は第1のエンボス加工が施された後の第1のシート積層体を示し、(C)は第1のシート積層体が分離された状態を示し、(D)は第2のエンボス加工が施された後の第2のシート積層体を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る衛生薄葉紙の製造方法を実施するフローチャートである。
【
図4】本実施形態の衛生薄葉紙の製造方法を実施する製造工程を示す図である。
【
図5】第1のシート積層体を分離する態様(実施例1)を示す図である。
【
図6】第1のシート積層体を分離する態様(実施例2)を示す図である。
【
図7】第1のシート積層体を分離する態様(実施例3)を示す図である。
【
図8】第1のシート積層体を分離する態様(実施例3の変形例)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、各図面において、特に説明がない限り、同一の又は対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0034】
まず、本実施形態に係る衛生薄葉紙について説明する。
図1(A)は本実施形態に係る衛生薄葉紙(第1実施形態)の平面を示す図であり、(B)は本実施形態に係る衛生薄葉紙の積層構造を示す図である。
図2(A)は第1のエンボス加工が施される前の第1のシート積層体を示し、
図2(B)は第1のシート積層体に第1のエンボス加工が施された状態を示し、
図2(C)は第1のシート積層体分離した状態を示し、
図2(D)は第2のエンボス加工が施された状態(本実施形態の衛生薄葉紙)を示す図である。
【0035】
図1において、ワイパー10は、産業用ワイパーであり、本発明に係る衛生薄葉紙の一例である。ワイパー10は、4枚のクレープ紙11~14を重ねて一体化されて形成されている。クレープ紙11~14は、本発明におけるシートの一例である。
【0036】
図2(A)及び(B)に示すように、クレープ紙11~14は、重ねられた状態でエンボス部PE1が設けられている。エンボス部PE1は、図示しない複数のエンボス加工用のピンをクレープ紙11からクレープ紙13まで貫通させ、クレープ紙14を貫通しないように、クレープ紙11~14にピンエンボス加工を施すことにより、各クレープ紙11~14に形成することができる。クレープ紙11~14は、エンボス部PE1の形成と同時にエンボス部PE2を介して接合され一体化されクレープ積層体10Aとなっている(
図2(B)参照)。
【0037】
クレープ紙11~14は、
図2(C)に示すように、重ねられた状態でクレープ積層体10Bを構成することができる。クレープ積層体10Bは、各クレープ紙11~14にエンボス部PE1が形成された状態で、これらのクレープ紙11~14が積層されたものである。エンボス部PE1は、
図2(B)において、クレープ紙11~14を重ねたクレープ積層体10Aにエンボス加工を行うことによりクレープ紙11~14に形成されたものである。なお、エンボス部PE1は、本発明における第1のエンボス部の一例である。
【0038】
また、クレープ紙11~14は、エンボス部PE1が形成されたクレープ紙11~14が一体化したクレープ積層体10Aからクレープ紙11~14が剥離されたものである。また、クレープ紙11~14は、クレープ紙11~14の間にクレープ紙11~14が分離されない部分15~17を残して、クレープ積層体10Aから剥離されている(
図2(C)参照)。クレープ積層体10Bは、これらの剥離したクレープ紙11~14を重ねたものである。
【0039】
本実施形態では、このようにして構成されたクレープ積層体10Bにエンボス部PE2がさらに形成されている。エンボス部PE2は、図示しない複数のエンボス加工用のピンをクレープ紙11からクレープ紙13まで貫通させ、クレープ紙14を貫通しないように、クレープ紙11~14にピンエンボス加工を施すことにより、各クレープ紙11~14に形成することができる。クレープ紙11~14は、エンボス部PE2の形成と同時にエンボス部PE2を介して接合され一体化されている(
図2(B)参照)。
【0040】
なお、ピンエンボス加工において、エンボス加工用のピンを、クレープ紙11~14の全てに貫通させないのは、ピンエンボス加工の際に紙粉が飛散するのを防ぐためである。
【0041】
なお、エンボス部PE2は、エンボス部PE1と同様にクレープ紙11から貫通させているが、クレープ紙14側からピンエンボス加工を施し、クレープ紙14からクレープ紙12まで貫通させ、クレープ紙11を貫通しないように、クレープ紙11~14にピンエンボス加工を施してもよい。
【0042】
このように、エンボス部PE2は、エンボス部PE1とは別個にエンボス加工を施すことにより形成されている。また、エンボス部PE2は、エンボス部PE1を形成する場合と同様に、ピンエンボス加工により形成することができる。なお、エンボス部PE2は、本発明における第2のエンボス部の一例である。
【0043】
本実施形態では、クレープ紙11~14にエンボス部PE1による凹凸が形成され、クレープ積層体10Bにエンボス部PE2による凹凸が形成されている。この構成により、ワイパー10を柔らかくすることができ、ワイパー10による汚れや水分等のふき取りを容易にすることができる。また、エンボス部PE1とエンボス部PE2の存在により、ワイパー10による汚れや水分等を吸収する速度を高めることができる。さらに、エンボス部PE1が形成されたクレープ紙11~14の間には空間S1~S3が形成され、このクレープ紙間の空間にワイパー10が吸収した水分等を保持することができる。これによりワイパー10は、柔軟性と吸収性に優れたものとなる。
【0044】
また、本実施形態では、クレープ積層体10Bが、エンボス部PE1が形成されたクレープ紙11~14が積層されて一体化されている。すなわち、クレープ紙11~14にエンボス加工が施された状態で、クレープ紙11~14が積層されて一体化されたクレープ積層体10Bにエンボス部PE2が形成されている。
【0045】
これにより、クレープ紙11~14に形成されたエンボス部PE1による凹凸をワイパー10の内部に配置することができる。そのため、ワイパー10の各クレープ紙11~14間に確実に空間S1~S3を形成することができ、衛生薄葉紙の柔軟性および吸収性を確実に向上させることができる(
図2(D)参照)。
【0046】
さらに、本実施形態では、各クレープ紙11~14にエンボス部PE2が形成されている。各クレープ紙11~14にエンボス部PE2を形成するためには、クレープ積層体10Bにピンエンボス加工を行うのが好ましい。これにより、クレープ紙11~14は、エンボス部PE1とエンボス部PE2が形成された状態で、ワイパー10を構成することができる。この構成により、ワイパー10の柔軟性および吸収性をさらに向上させることができる。
【0047】
このような優れた柔軟性と吸収性を備えるワイパー10は、クレープ紙11~14の坪量を15~25g/m2とし、ワイパー10の密度を0.10~0.35g/cm3に調整するのが好ましい。クレープ紙11~14の坪量が低すぎるとワイパー10の強度が低下し、坪量が高すぎるとワイパー10の柔軟性が低下する可能性がある。またワイパー10の密度が低すぎると衛生薄葉紙の強度が低下し、坪量が高すぎると衛生薄葉紙の柔軟性が低下する可能性がある。
【0048】
次に、本実施形態に係る衛生薄葉紙の製造方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る衛生薄葉紙の評価方法を実施するためのフローチャートである。
図4は、本実施形態の衛生薄葉紙の製造方法を実施する製造工程(製造ライン20)を示す図である。本実施形態に係る衛生薄葉紙の製造方法は、第1のエンボス工程、剥離工程、積層工程、第2のエンボス工程を有する。
【0049】
第1のエンボス工程では、クレープ紙11~14が積層されたクレープ積層体10Aに第1のエンボス加工が行われる。クレープ積層体10Aは、第1のエンボス加工が施される前のクレープ紙11~14が積層されたものである(
図2(A))。クレープ積層体10Aは予めクレープ紙11~14を重ねて積層しておく(ステップST1)。クレープ積層体10Aは、
図4に示す製造ライン20の原反ロール21に捲回されている。
【0050】
クレープ積層体10Aは、原反ロール21から巻き出され、第1エンボス加工部22に搬送され、第1のエンボス加工が行われる(ステップST2)。具体的には、クレープ積層体10Aを、
図4に示すように、ラバーロール22aとエンボスロール22bの間を通過させる。また、エンボスロール22bには、複数のピンが形成されており、第1エンボス加工部22では、クレープ積層体10Aにピンエンボス加工が行われる。これにより、クレープ積層体10Aを構成するクレープ紙11~14にエンボス部PE1が形成される。また、このピンエンボス加工により、クレープ紙11~14はクレープ積層体10Aとして一体化される(
図2(B)参照)。
【0051】
剥離工程では、クレープ積層体10Aのクレープ紙11~14を剥す(ステップST3)。剥離工程では、
図4に示すように、第1エンボス加工部22を通過したクレープ積層体10Aに、クレープ積層体10Aが搬送された状態で、
図4、
図5に示すように、剥離加工部23で、各クレープ紙11~14に摺接ロールR1~R4を挿入する。
【0052】
摺接ロールR1~R4の材質は、特に限定されないが、各クレープ紙11~14に挿入する際に変形しない材質(例えば、剛性を有する金属等)が用いられる。また、摺接ロールR1~R4の寸法は、特に限定されないが、製造するワイパー10の寸法に応じて、クレープ紙11~14間に挿入され、クレープ紙11~14が剥れる程度の寸法に定めることができる。
【0053】
剥離工程では、
図5に示すように、クレープ積層体10Aのクレープ紙11とクレープ紙12の間では、クレープ紙11の端部11aとクレープ紙12の端部12a側から摺接ロールR1を挿入し、クレープ紙11の端部11bとクレープ紙12の端部12bとが分離されない部分15が構成されるように、クレープ紙11とクレープ紙12を剥がす。
【0054】
また、クレープ紙12とクレープ紙13との間では、クレープ紙12の端部12aとクレープ紙13の端部13a側から摺接ロールR2を挿入し、クレープ紙12の端部12bとクレープ紙13の端部13b側から摺接ロールR3を挿入し、クレープ紙12の中央部12cとクレープ紙13の中央部13cとが分離されない部分16が構成されるように、クレープ紙12とクレープ紙13を剥がす。
【0055】
さらに、クレープ紙13とクレープ紙14の間では、クレープ紙13の端部13bとクレープ紙14の端部14b側から摺接ロールR4を挿入し、クレープ紙13の端部13aとクレープ紙14の端部14aとが分離されない部分17が構成されるように、クレープ紙13とクレープ紙14を剥がす。
【0056】
これにより、クレープ積層体10Aは、各クレープ紙11~14が分離されないように剥がされる。このようにクレープ積層体10Aのクレープ紙11~14を剥がすことにより、クレープ紙の一部が接合された状態で形成されるため、剥がしたクレープ紙11~14を後述の積層工程において積層する操作が容易である。
【0057】
積層工程では、クレープ積層体10Aから剥がされたクレープ紙11~14が積層される(ステップST4)。
図4の製造ライン20では、クレープ積層体10Aから剥がされたクレープ紙11~14は、第2エンボス加工部24に搬送されるまでの間に移動しながら積層される。クレープ積層体10Aから剥がされたクレープ紙11~14には、エンボス部PE1による凹凸が形成されている。これらの剥がされたクレープ紙11を重ねることにより、得られるクレープ積層体10Bには、クレープ紙11~14間に空間が形成されている。
【0058】
第2のエンボス工程では、
図4に示すように、クレープ積層体10Bが、第2エンボス加工部24に搬送され、ラバーロール24aとエンボスロール24bの間を通過することにより、第2のエンボス加工が行われる(ステップST5)。また、エンボスロール24bには、複数のピンが形成されており、第2エンボス加工部24では、クレープ積層体10Bにピンエンボス加工が行われる。これにより、クレープ積層体10Bを構成するクレープ紙11~14にエンボス部PE2が形成される。また、このピンエンボス加工により、クレープ紙11~14はクレープ積層体10Bとして一体化される(
図2(D)参照)。
【0059】
クレープ積層体10Bのクレープ紙11~14間にはエンボス部PE1の凹凸による空間が形成されている。そのため、このようなクレープ積層体10Bに第2のエンボス加工を施すことにより、ワイパー10の内部に空間S1~S3を形成しながら、ワイパー10を構成するクレープ紙11~14に第1のエンボス加工による凹凸と第2のエンボス加工による凹凸を形成することができる(
図2(D)参照)。そのため、吸収性と柔軟性に優れたワイパー10を得ることができる。
【0060】
また、第1のエンボス工程では、クレープ紙11~14が積層されたクレープ積層体10Aの状態でピンエンボス加工による第1のエンボス加工が施されるため、クレープ紙毎に予め第1のエンボス加工を施す必要がない。
【0061】
また、第2のエンボス工程では、第1のエンボス加工が施されたクレープ紙11~14が積層されたクレープ積層体10Bの状態でピンエンボス加工による第2のエンボス加工が施されるため、クレープ紙毎に予め第2のエンボス加工を施す必要がない。そのため、ワイパー10の内部に空間S1~S3が形成され(
図2(D)参照)、各クレープ紙に複数のエンボス加工が施されたワイパー10を簡単に製造することができる。そのた、柔軟性および吸収性に優れた衛生薄葉紙の製造が容易である。
【0062】
さらに、第2のエンボス加工において、ピンエンボス加工を行うことにより、クレープ紙11~14間はエンボス部PE2を介して接合されるため、剥がされたクレープ紙11~14を接着剤を用いずに接合することができる。また、ピンエンボス加工は、シートに形成されるエンボス凹部またはエンボス凸部が細かいため、シート間の空間が潰れ難いため、シート間の空間を維持しながらシートにエンボス加工を行うことができる。
【0063】
第2のエンボス加工が行われたワイパー10は、フィードロール25(25a、25b)で方向転換され、フォールディングロール26(26a~26d)により四つ折りに折り加工される(ステップST6)。折り加工されたワイパー10は、バンドソー27(カッター27a)により裁断される。
【0064】
図6は、本実施形態の衛生薄葉紙(第2実施形態)を構成するクレープ積層体の一例である。第2実施形態は、3枚のクレープ紙を重ねて一体化したワイパー30である。第2実施形態では、剥離工程で、クレープ積層体10Aのクレープ紙31とクレープ紙32の間で、クレープ紙31の端部31bとクレープ紙32の端部32bとが分離されない部分35が構成されるように、クレープ紙31とクレープ紙32が剥がされ、クレープ紙32の端部32aとクレープ紙33の端部33aとが分離されない部分37が構成されるように、クレープ紙32とクレープ紙33が剥がされる。このように、3枚のクレープ紙31~33を重ねて一体化したワイパー30でも、クレープ紙の一部が接合された状態で形成されるため、剥がしたクレープ紙11~14の積層工程における積層が容易である。
【0065】
図7は、本実施形態の衛生薄葉紙(第3実施形態)を構成するクレープ積層体の一例である。第3実施形態は、2枚のクレープ紙を重ねて一体化したワイパー40である。第3実施形態では、剥離工程で、クレープ積層体のクレープ紙41とクレープ紙42の間で、クレープ紙41の端部41bとクレープ紙42の端部42bとが分離されない部分45が構成されるように、クレープ紙41とクレープ紙42が剥がされる。これにより、クレープ紙41の端部41bと42bとの間に分離されないクレープ紙の一部(クレープ紙41とクレープ紙42とが分離されない部分45)が構成される。第3実施形態ではクレープ紙41の端部41bとクレープ紙42の端部42bとが分離されないため、積層工程において剥離したクレープ紙11~14を積層する際に位置合わせが容易である。
【0066】
図8は、本実施形態の衛生薄葉紙(第4実施形態)を構成するクレープ積層体の一例である。第4実施形態は、2枚のクレープ紙を重ねて一体化したワイパー50である。第4実施形態では、剥離工程で、クレープ積層体のクレープ紙51とクレープ紙52の間で、クレープ紙51の中央部51cとクレープ紙52の中央部52cとが分離されない部分56を構成するように、クレープ紙51とクレープ紙52が剥がされる。
【0067】
これにより、クレープ紙51の中央部51cとクレープ紙52の中央部52cとの間に、分離されないクレープ紙の一部(クレープ紙51とクレープ紙52とが分離されない部分56)が構成される。第4実施形態では、クレープ紙の中央部を接合しながら各クレープ紙を積層することができるため、積層時のシートの位置合わせが容易である。そのため、積層工程において各シート重ねる作業が容易である。
【実施例】
【0068】
以下、本実施形態について、さらに実施例を用いて具体的に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例に限定されるものではない。各実施例、比較例の測定、評価は、以下のようにして行った。
【0069】
[ワイパーの坪量]
ワイパーの坪量(g/m2)は、JIS P 8124(1998)に準拠する方法で測定をした。
【0070】
[密度]
得られたワイパーの坪量と紙厚からワイパーの密度(g/cm3)を算出した。ワイパーの厚み(μm)は、後述する実施例1~3及び比較例1~3で示すように、シートを重ねた状態で、JIS P 8111(1998)の条件下で、ワイパーを十分に調湿した後、ダイヤルゲージ(尾崎製作所製、ピーコックG型)を用いて測定した。密度の算出は、密度(g/cm3)=ワイパーの坪量(g/m2)×シート重ね枚数÷ワイパーの厚み(μm)の式から求めた。
【0071】
[柔軟性]
ワイパーの柔軟性(剛度)を測定した。柔軟性(剛度)の測定は、JIS L 1096:2010 剛軟度 A法を準用した。試験片の長さ(mm)が短い程柔らかい(剛度が低い)。
【0072】
[吸水速度]
300μLの水をマイクロピペットでワイパーに滴下し、水の滴下から吸水が終わるまでの時間(秒)を測定した。これを5回繰り返し、その平均値を採用した。
【0073】
[吸水量]
ワイパーの吸水量を測定した。吸水量の測定は、ワイパーを100mm100mmカットした試験片を水に入れ、この試験片に水が浸透したら、水から引き上げ、30秒後の試験片の重量を測定する。吸水量はワイパーの面積あたりのワイパーが吸収した水の量(g/m2)。
【0074】
以下、実施例及び比較例について、説明する。
【0075】
[実施例1]
実施例1(第1実施形態)では、坪量20.7g/m
2の原紙を
図1、
図2および
図5に示すように4枚重ねとし、密度0.19g/cm
3のワイパー10を得た。得られたワイパー10は、柔軟性49mm、吸水速度2.01秒、吸水量1092g/m
2であった。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0076】
[実施例2]
実施例2(第2実施形態)では、原紙を
図6に示すように3枚重ねとし、密度0.20g/cm
3であること以外は実施例1と同様にワイパー30を得た。得られたワイパー30は、柔軟性45mm、吸水速度2.90秒、吸水量918g/m
2であった。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0077】
[実施例3]
実施例3(第3実施形態)では、原紙を
図8に示すように2枚重ねとし、密度0.19g/cm
3であること以外は実施例1と同様にワイパー50を得た。得られたワイパー50は、柔軟性38mm、吸水速度4.77秒、吸水量572g/m
2であった。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0078】
[比較例1]
比較例1では、第1のエンボス加工後のシート積層体を分離せずそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様にワイパーを得た(
図2(B)参照)。得られたワイパーは、柔軟性67mm、吸水速度3.03秒、吸水量737g/m
2であった。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0079】
[比較例2]
比較例2では、第1のエンボス加工後のシート積層体を分離せずそのまま用い、密度0.20g/cm
3であること以外は、実施例2と同様にワイパーを得た(
図2(B)参照)。得られたワイパーは、柔軟性53mm、吸水速度3.90秒、吸水量574g/m
2であった。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0080】
[比較例3]
比較例3では、第1のエンボス加工後のシート積層体を分離せずそのまま用い、密度0.21g/cm3であること以外は、実施例3と同様にワイパーを得た。得られたワイパーは、柔軟性48mm、吸水速度6.11秒、吸水量430g/m2であった。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
表1より、複数枚のシートを重ねて形成され第1のエンボス加工が施された第1のシート積層体を各シートに分離し、分離した各シートを重ねて形成された第2のシート積層体に第2のエンボス加工が施されたワイパー(実施例1~3)では、複数枚のシートを重ねて形成され第1のエンボス加工が施された第1のシート積層体を各シートに分離しなかった(第2のエンボス加工を施さなかった)ワイパー(比較例1~3)に対して、柔軟性が向上し、吸水時間が短くなり、吸水量が増加した。
【0082】
これらの結果から、本発明によれば、柔軟性および吸収性に優れる衛生薄葉紙が得られることが判った。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0084】
10 ワイパー
10A、10B クレープ積層体
11~14 クレープ紙
11a~14a 端部
11b~14b 端部
12c、13c 中央部
15~17 分離されない部分
PE1、PE2 エンボス部
20 製造ライン
21 原反ロール
22 第1エンボス加工部
22a ラバーロール
22b エンボスロール
23 剥離加工部
R1~R4 摺接ロール
24 第2エンボス加工部
24a ラバーロール
24b エンボスロール