(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】α-グルコシダーゼの活性が強化されたL-アミノ酸を生産する微生物及びそれを用いたL-アミノ酸生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20230529BHJP
C12P 13/08 20060101ALI20230529BHJP
C12P 13/06 20060101ALI20230529BHJP
C12N 9/26 20060101ALI20230529BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230529BHJP
C12N 15/56 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P13/08 A
C12P13/08 C
C12P13/06 C
C12N9/26 Z
C12N15/31
C12N15/56
(21)【出願番号】P 2021510128
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(86)【国際出願番号】 KR2019004228
(87)【国際公開番号】W WO2020067618
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】10-2018-0116540
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12228P
(73)【特許権者】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center,330,Dongho-ro,Jung-gu,Seoul,Republic Of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョンリム
(72)【発明者】
【氏名】ピョン,ヒョ チョン
(72)【発明者】
【氏名】リ,カン ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン チュン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ヨン ウク
(72)【発明者】
【氏名】リ,チョン キ
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/027870(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/060391(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/088049(WO,A1)
【文献】特表2006-511216(JP,A)
【文献】NCBI Reference Sequence No. WP_011743867.1,Database NCBI [online],2017年09月26日,URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/WP_011742867.1,[retrieved on 2022.2.18]
【文献】Accession No.E5B5H7,Database UniProt [online],2018年02月28日,URL:https://www.uniprot.org/uniprot/P53051.txt?version=151,[retrieved on 2022.2.18]
【文献】Accession No.P53051,Database UniProt [online],2018年09月12日,URL:https://www.uniprot.org/uniprot/E5B5H7.txt?version=122,[retrieved on 2022.2.18]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/21
C12P 13/04-13/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-グルコシダーゼの活性が強化されたL-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属(the genus of Corynebacterium)微生物であって、
前記α-グルコシダーゼは、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)、又はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のα-グルコシダーゼである、微生物。
【請求項2】
前記α-グルコシダーゼは、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスのα-グルコシダーゼである、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記α-グルコシダーゼは、aglA遺伝子によりコードされるものである、請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
前記α-グルコシダーゼは、配列番号1、28又は29のアミノ酸配列を含むタンパク質である、請求項1に記載の微生物。
【請求項5】
前記L-アミノ酸は、L-リシン、L-トレオニン及びL-イソロイシンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の微生物。
【請求項6】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項1に記載の微生物。
【請求項7】
α-グルコシダーゼの活性が強化されたL-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属(the genus of Corynebacterium)微生物を培地で培養することを含む、L-アミノ酸の生産方法であって、
前記α-グルコシダーゼは、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)、又はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のα-グルコシダーゼである、生産方法。
【請求項8】
前記培養した培地又は微生物からL-アミノ酸を回収することをさらに含む、請求項7に記載のL-アミノ酸の生産方法。
【請求項9】
前記α-グルコシダーゼは、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスのα-グルコシダーゼである、請求項7に記載のL-アミノ酸の生産方法。
【請求項10】
前記α-グルコシダーゼは、aglA遺伝子によりコードされるものである、請求項7に記載のL-アミノ酸の生産方法。
【請求項11】
前記α-グルコシダーゼは、配列番号1、28又は29のアミノ酸配列を含むタンパク質である、請求項7に記載のL-アミノ酸の生産方法。
【請求項12】
前記L-アミノ酸は、L-リシン、L-トレオニン及びL-イソロイシンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項7に記載のL-アミノ酸の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、α-グルコシダーゼ(α-Glucosidase)の活性が強化されたL-アミノ酸を生産する微生物及びそれを用いたL-アミノ酸生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸は、動物飼料、医薬品及び化粧品産業などに用いられており、主にコリネバクテリウム属菌株やエシェリキア属菌株を用いた発酵により生産されている。L-アミノ酸の生産のために、高効率生産菌株、発酵工程技術開発などの様々な研究が行われている。具体的には、L-アミノ酸生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させたり、生合成に不要な遺伝子を除去するなどの標的物質特異的アプローチ方法が主に用いられている(特許文献1)。
【0003】
一方、微生物の標的産物生産能を向上させるために、糖利用能を増加させる様々な研究が行われており、それと共に効率的な培地の構成及び微生物の生長が継続して求められている。例えば、ascB又はchbF遺伝子の過剰発現によりセロビオースの利用率を増加させ、セロビオース、キシロース、マンノース、ガラクトースなどの他の糖を同時に用いることのできる変異微生物を作製し、それを用いてバイオ燃料を生産する技術が報告されている(特許文献2)。しかし、微生物の糖利用能とL-アミノ酸生産性の関連性については継続的な研究が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国登録特許第10-0838038号公報
【文献】韓国登録特許第10-1484108号公報
【文献】韓国登録特許第10-0620092号公報
【文献】韓国登録特許第10-1783170号公報
【文献】韓国登録特許第10-0924065号公報
【文献】韓国登録特許第10-0159812号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Glycobiology. 2010 Nov;20(11)
【文献】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【文献】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【文献】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【文献】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【文献】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【文献】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【文献】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【文献】Van der Rest et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 52:541-545, 1999
【文献】Binder et al. Genome Biology 2012, 13:R40
【文献】R. Winkels, S. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 45, 612-620, 1996
【文献】S. Morbach et al., Appl. Enviro. Microbiol., 62(12): 4345-4351, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、イソマルトース、マルトースを分解することが知られているα-グルコシダーゼをコリネバクテリウム属菌株に導入したところ、驚くべきことに培地中にイソマルトース及びマルトースを添加しなくても標的産物であるL-アミノ酸の収率が向上するという効果を確認し、本出願を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願は、α-グルコシダーゼの活性が強化されたL-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本出願は、前記微生物を培地で培養するステップと、前記培養した培地又は微生物からL-アミノ酸を回収するステップとを含む、L-アミノ酸の生産方法を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本出願は、微生物においてα-グルコシダーゼ発現を強化することを含む、L-アミノ酸生産増加方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本出願は、α-グルコシダーゼのL-アミノ酸生産増加用途を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0011】
本出願のL-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属微生物は、α-グルコシダーゼ活性が強化され、L-アミノ酸生産収率が向上したものである。よって、前記微生物は、L-アミノ酸生産用途に非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】コリネバクテリウム・グルタミカム菌株においてα-グルコシダーゼ発現を確認したSDS-PAGE結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。
【0014】
前記目的を達成するための本出願の一態様は、α-グルコシダーゼの活性が強化されたL-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物である。本出願のコリネバクテリウム属微生物は、α-グルコシダーゼの活性が強化されることによりL-アミノ酸生産能が向上したものである。よって、本出願のコリネバクテリウム属微生物は、L-アミノ酸生産に非常に有用である。
【0015】
本出願における「α-グルコシダーゼ(α-glucosidase)」とは、糖をグルコースに分解するグルコシダーゼの一種であり、特にα(1→4)結合を分解する特性を有する酵素を意味する。本出願におけるα-グルコシダーゼは、aglA遺伝子によりコードされるα-グルコシダーゼ活性を有するタンパク質であってもよいが、グルコシダーゼに相当する活性を有し、コリネバクテリウム属微生物においてその活性が強化されることによりL-アミノ酸の生産能を向上させるものであれば、その種類が特に限定されるものではない。前記aglA遺伝子によりコードされるα-グルコシダーゼ活性を有するタンパク質は、イソマルトース又はマルトース分解活性を有することが知られており(非特許文献1)、前記α-グルコシダーゼに関する情報は、公知のデータベース(例えば、NCBI、UniProtなど)から当業者が容易に得ることができる。本出願におけるα-グルコシダーゼは、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)、又はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のα-グルコシダーゼであってもよく、具体的にはビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)由来のα-グルコシダーゼであってもよいが、これらに限定されるものではない。本出願において一例として提示したビフィドバクテリウム・アドレセンティス由来のα-グルコシダーゼは、これに限定されるものではないが、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質である。前記エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)由来のα-グルコシダーゼは、これに限定されるものではないが、配列番号28のアミノ酸配列を含むタンパク質である。前記サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のα-グルコシダーゼは、これに限定されるものではないが、配列番号29のアミノ酸配列を含むタンパク質である。配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と混用されてもよい。
【0016】
また、本出願において「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はポリペプチド」と記載されているとしても、当該配列番号のアミノ酸配列を含むポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願に含まれることは言うまでもない。例えば、前記当該配列番号のアミノ酸配列を含むポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、前記アミノ酸配列の前後へのタンパク質の機能を変更しない配列の付加、自然に発生し得る突然変異、その非表現突然変異(silent mutation)又は保存的置換を除外するものではなく、そのような配列の付加や突然変異を有するものも本出願に含まれることは自明である。また、当該配列番号のアミノ酸配列を含むポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、当該配列番号のアミノ酸配列と80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には99%以上の相同性(homology)又は同一性(identity)を有するアミノ酸配列も本出願に含まれてもよい。
【0017】
例えば、本出願におけるα-グルコシダーゼ活性を有するタンパク質は、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)由来のα-グルコシダーゼのアミノ酸配列(配列番号1)、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)由来のα-グルコシダーゼのアミノ酸配列(配列番号28)、又はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のα-グルコシダーゼのアミノ酸配列(配列番号29)を含むタンパク質であってもよい。本出願のα-グルコシダーゼは、α-グルコシダーゼに相当する効能を示し、コリネバクテリウム属微生物においてその活性が強化されることによりL-アミノ酸の生産能を向上させるタンパク質であれば、本出願のα-グルコシダーゼの活性を有するタンパク質に含まれることは言うまでもない。具体的には、本出願のα-グルコシダーゼは、α-グルコシダーゼの活性を示し、コリネバクテリウム属微生物においてその活性が強化されることによりL-アミノ酸の生産能を向上させるものであれば、配列番号1、配列番号28又は29のアミノ酸配列と80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には99%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列も本出願に含まれてもよい。
【0018】
本出願における「相同性(homology)又は同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が関連する程度を意味し、百分率で表される。また、前記相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に用いられてもよい。
【0019】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準的な配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上ハイブリダイズしてもよい。ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドがコドンの代わりに縮退コドンを有するようにするものであってもよい。
【0020】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献2のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献3)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献4)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献5)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献6,7,8)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0021】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献9に開示されているように、非特許文献4などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)一進法比較マトリクス(同一性は1、非同一性は0の値を含む)及び非特許文献10に開示されているように、非特許文献11の加重比較マトリクス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリクス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含んでもよい。よって、本出願における「相同性」又は「同一性」は、配列間の関連性(relevance)を示す。
【0022】
本出願における「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。前記変異型は、少なくとも1つの生物学的活性を依然として有する状態で、例えば少なくとも1つの保存的置換を有してもよい。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。例えば、正に荷電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リシン及びヒスチジンが挙げられ、負に荷電した(酸性)アミノ酸としては、グルタミン酸及びアスパラギン酸が挙げられ、芳香族アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが挙げられ、疎水性アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンが挙げられる。
【0023】
また、前記α-グルコシダーゼをコードするポリヌクレオチド配列は、α-グルコシダーゼの活性を示し、コリネバクテリウム属微生物においてその活性が強化されることによりL-アミノ酸の生産能を向上させるタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であってもよい。例えば、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)由来のα-グルコシダーゼ(配列番号1)、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)由来のα-グルコシダーゼ(配列番号28)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のα-グルコシダーゼ(配列番号29)をコードするポリヌクレオチド配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、配列番号2の塩基配列、配列番号30の塩基配列、配列番号31の塩基配列を有するものであってもよく、前記塩基配列は、コドンの縮退によりコード領域に改変が行われてもよく、また前記塩基配列を発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、アミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変が行われてもよい。前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列、又はそれと80%、90%、95%もしくは99%以上の相同性又は同一性を有するポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドであってもよい。また、そのような相同性又は同一性を有し、実質的に前記タンパク質と同一又は相当する効能を示すタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたポリヌクレオチド配列も本出願に含まれることは言うまでもない。
【0024】
あるいは、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記ポリヌクレオチド配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより、本出願のα-グルコシダーゼの活性を有するタンパク質をコードする配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は文献(例えば、非特許文献12)に具体的に記載されている。例えば、相同性の高い遺伝子同士、80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性の低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つのポリヌクレオチドが相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願には、実質的に類似したヌクレオチド配列だけでなく、全配列に相補的な単離されたヌクレオチド断片が含まれてもよい。具体的には、相同性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節されてもよい。ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切な厳格さはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(非特許文献13参照)。
【0025】
本出願における「活性の強化」とは、本来微生物が天然の状態又は改変されていない状態で示すタンパク質の活性、すなわち内在性活性と比較して、その活性が向上することを意味し、特定タンパク質の活性を示さない微生物にそのタンパク質を導入してその活性を付与する活性の導入をも含む概念である。前記「内在性活性」とは、本来微生物が天然の状態又は改変されていない状態で示すタンパク質の活性状態を意味する。
【0026】
具体的には、前記「活性の強化」とは、特にこれらに限定されるものではないが、タンパク質自体の活性が増大して本来の機能以上の効果を発揮することを意味するだけでなく、内在性遺伝子の活性の増加、内部又は外部要因による内在性遺伝子の増幅、外部からの遺伝子導入、プロモーターの置換又は改変、突然変異による酵素活性の向上などによるその活性の向上をも意味する。例えば、前記タンパク質をコードする遺伝子の細胞内コピー数を増加させる方法、前記ポリペプチドをコードする遺伝子発現調節配列を改変する方法、前記ポリペプチド活性が増加するように突然変異させた遺伝子により染色体上の前記ポリペプチドをコードする遺伝子を代替するか、前記ポリペプチドの活性が強化されるように前記ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子に変異を誘導することにより、染色体上の前記ポリペプチドをコードする遺伝子を改変する方法、外部から遺伝子を導入するか、染色体に遺伝子を挿入する方法などにより行われるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0027】
前記遺伝子のコピー数を増加させる方法は、特にこれらに限定されるものではないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われるか、宿主細胞内の染色体内に挿入されることにより行われてもよい。具体的には、本出願のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターが宿主細胞に導入されることにより行われてもよい。あるいは、前記ポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入することのできるベクターが宿主細胞の染色体内に導入されることにより行われてもよい。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換えにより行うことができる。本出願のベクターは、相同組換えを起こして染色体内に挿入されるので、前記染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択し、標的ポリヌクレオチドが挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面タンパク質の発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられてもよいが、これらに限定されるものではない。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0028】
本出願における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的タンパク質を発現させることができるように、好適な発現調節配列に作動可能に連結された前記標的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含有するDNA産物を意味する。前記発現調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製又は機能することができ、ゲノム自体に組み込まれる。本出願に用いられるベクターは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、λMBL3、λMBL4、λIXII、λASHII、λAPII、λt10、λt11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pDZ系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系などを用いることができる。
【0029】
また、前記ベクターは、シグナルペプチド(signal peptide)をコードするポリヌクレオチド配列を含むものであってもよい。本出願における「シグナルペプチド」とは、標的タンパク質を細胞外に分泌させることのできるタンパク質を意味し、これは標的タンパク質をコードする遺伝子に融合された状態又は分離された状態で発現して作用する。本出願におけるシグナルペプチドは、標的タンパク質の機能を維持したまま細胞外に分泌させるものであれば、その種類が特に限定されるものではない。例えば、本出願におけるシグナルペプチドの一例として、CgR0949、NCgl2101、CgR1834及びST2(配列番号14~17)を用いることができ、さらに当業者であれば公知の好適なシグナルペプチドを選択してα-グルコシダーゼの分泌発現の目的で用いることができる。
【0030】
本出願における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、それらが全て含まれるものである。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されるが、これに限定されるものではない。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよい。
【0031】
また、前記「作動可能に連結」とは、本出願の標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するようにするプロモーター配列と前記遺伝子配列を機能的に連結することを意味する。
【0032】
次に、ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列を改変する方法は、特にこれらに限定されるものではないが、前記発現調節配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、より強い活性を有する核酸配列に置換することにより行うこともできる。具体的には、強力なプロモーターに置換することにより行うことができる。前記発現調節配列には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。
【0033】
前記ポリヌクレオチド発現単位の上流には、本来のプロモーターに代えて強力なプロモーターが連結されてもよいが、これに限定されるものではない。公知の強力なプロモーターの例としては、cj1~cj7プロモーター(特許文献3)、spl1、7又は13プロモーター(特許文献4)、PgapAプロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター及びtetプロモーターが挙げられる。
【0034】
また、染色体上のポリヌクレオチド配列を改変する方法は、前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より高い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行うこともできる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0035】
このようなタンパク質活性の強化とは、対応するタンパク質の以前にはなかった活性が現れるようになることや、その活性又は濃度が野生型タンパク質や初期の微生物菌株における活性又は濃度に比べて、一般に1%、10%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%又は500%、最大で1000%又は2000%まで増加することを意味するが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本出願のコリネバクテリウム属微生物は、前述したようにα-グルコシダーゼの活性が強化されることによりL-アミノ酸生産能が向上する。よって、本出願のコリネバクテリウム属微生物は、L-アミノ酸生産用途に用いられる。
【0037】
本出願における「L-アミノ酸」とは、一般にアミノ基とカルボキシ基が同じ炭素原子に結合されている、生物の体を構成するタンパク質の基本構成単位を意味する。前記L-アミノ酸は、例えばL-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リシン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン及びL-バリンからなる群から選択される少なくとも1つである。また、前記L-アミノ酸は、例えば微生物の生合成経路におけるL-アスパラギン酸由来のL-アミノ酸であってもよく、L-アスパラギン酸を基質又は中間体として用いて生合成されるL-アミノ酸であってもよい。前記L-アスパラギン酸由来のL-アミノ酸は、より具体的な例として、L-リシン、L-トレオニン及びL-イソロイシンからなる群から選択される少なくとも1つであるが、これに限定されるものではない。
【0038】
本出願における「L-アミノ酸を生産する微生物」は、培地中の炭素源からL-アミノ酸を生産して蓄積することのできる微生物であってもよい。前記L-アミノ酸を生産する微生物は、その種類が特に限定されるものではないが、エンテロバクター(Enterbacter)属、エシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物であってもよい。より具体的には、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する微生物であってもよい。本出願における「コリネバクテリウム属微生物」は、具体的にはコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)などであるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。より具体的には、前記L-アミノ酸を生産する微生物はコリネバクテリウム・グルタミカムであるが、これに限定されるものではない。
【0039】
本出願におけるα-グルコシダーゼの活性が強化されたコリネバクテリウム属微生物は、前記タンパク質の活性が強化される前の微生物、すなわち非改変微生物に比べて、高いL-アミノ酸生産収率でL-アミノ酸を生産することができる。
【0040】
本出願の他の態様は、前記α-グルコシダーゼの活性が強化されたL-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属微生物を培地で培養することを含む、L-アミノ酸の生産方法である。
【0041】
前記L-アミノ酸の生産方法は、前記培養した培地又は微生物からL-アミノ酸を回収することをさらに含んでもよい。
【0042】
α-グルコシダーゼの活性が強化された微生物及びL-アミノ酸については前述した通りである。
【0043】
本出願における「培養」とは、前記微生物を適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行うことができる。このような培養過程は、当業者であれば選択される菌株に応じて容易に調整して用いることができる。具体的には、前記培養は、回分、連続及び流加培養であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0044】
前記培地に含まれる炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースなどの糖及び炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などの油脂、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、グリセリン、エタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸が挙げられる。これらの物質は、単独で用いることもでき、混合物として用いることもできるが、これらに限定されるものではない。前記培地に含まれる窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆粕などの有機窒素源、及び尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源が挙げられる。これらの窒素源は、単独で用いることもでき、組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。前記培地に含まれるリン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、及びそれらに相当するナトリウム含有塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、培地は、硫酸マグネシウム、硫酸鉄などの金属塩を含有してもよく、その他、アミノ酸、ビタミン、好適な前駆体などを含有してもよい。これらの培地又は前駆体は、培養物に回分式又は連続式で添加することができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培養物に好適な方式で添加することにより、培養物のpHを調整することができる。また、培養中には、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。さらに、培養物の好気状態を維持するために、培養物中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよい。培養物の温度は、通常は25~40℃、具体的には27~35℃であってもよい。培養期間は、所望の有用物質の生産量が得られるまで続けられてもよく、具体的には10~100時間であるが、これに限定されるものではない。
【0046】
本出願は、前記培養ステップで生産されたL-アミノ酸をさらに回収及び/又は精製してもよい。その方法は、培養方法、例えば回分、連続、流加培養方法などに応じて、当該分野で公知の好適な方法を用いて培地から目的とするL-アミノ酸を回収するものであるが、これらに限定されるものではない。例えば、遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化、HPLCなどが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培養された培地又は微生物から目的とするL-アミノ酸を回収することができる。
【0047】
本出願のさらに他の態様は、微生物においてα-グルコシダーゼの活性を強化することを含む、L-アミノ酸生産増加方法を提供する。
【0048】
本出願のさらに他の態様は、α-グルコシダーゼのL-アミノ酸生産増加用途を提供する。
【0049】
前記「L-アミノ酸生産増加」とは、前記タンパク質の活性が強化される前の微生物、すなわち非改変微生物に比べて、高いL-アミノ酸生産収率でL-アミノ酸を生産することができ、L-アミノ酸生産能が向上することを意味する。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本出願を詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本出願を例示するものにすぎず、本出願がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
α-グルコシダーゼ(α-glucosidase)遺伝子導入用ベクターの作製
α-グルコシダーゼであるaglA遺伝子の効果を確認するために、例としてビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)由来のaglA遺伝子(配列番号2)をコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)菌株の染色体上に挿入するためのベクターを作製した。コリネバクテリウム・グルタミカム由来のPgapAプロモーターを増幅するために、PgapAプロモーターの5'末端にEcoRI制限酵素部位が挿入されるように考案したプライマー(配列番号3)、及び3'末端にNdeI制限酵素部位が挿入されるように考案したプライマー(配列番号4)を合成した。その結果、5'末端にEcoRI制限酵素部位を含み、3'末端にNdeI制限酵素部位を含むPgapAプロモーターDNA断片が得られた。PCR条件は、94℃で5分間の変性を行い、その後94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。
PgapAプロモーター増幅用プライマー
正方向:5'-TCAGAATTCTTGGGATTACCATTGAAGCC-3'(配列番号3)
逆方向:5'-TCACATATGGTGTCTCCTCTAAAGATTGT-3'(配列番号4)
【0052】
報告されている塩基配列に基づいて、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス由来のaglA遺伝子のORFを増幅するために、開始コドンの位置にNdeI制限酵素部位とタンパク質分泌目的のシグナルペプチド(signal peptide)が挿入されるように考案したプライマー(配列番号5~8)と、終結コドンの下流にSpeI制限酵素部位が含まれるように考案したプライマー(配列番号9)を合成した。
【0053】
シグナルペプチドは、例としてaglA酵素が細胞外に放出されるように助ける4種(配列番号14~17)のタンパク質を選択して実験を行った。前記プライマー配列及びシグナルペプチドのアミノ酸配列は、次の通りである(表1)。
【0054】
【0055】
ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)のゲノムDNAを鋳型とし、5'末端にNdeI制限酵素部位及び各シグナルペプチドを含み、3'末端にSpeI制限酵素部位を含むaglA ORF断片を得た。PCR条件は、94℃で5分間の変性を行い、その後94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。
【0056】
前記4つのPCR増幅産物をそれぞれ両末端に含む制限酵素で処理し、その後pDZベクター(特許文献5)を制限酵素EcoRI及びSalIで処理して得たDNA断片に連結し、pDZ-PgapA-SP1-aglA(B.al)、pDZ-PgapA-SP2-aglA(B.al)、pDZ-PgapA-SP3-aglA(B.al)及びpDZ-PgapA-SP4-aglA(B.al)ベクターを作製した。
【0057】
また、他にもα-グルコシダーゼの活性を強化した微生物を作製するために、次の菌株由来のα-グルコシダーゼ遺伝子を確保した。具体的には、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)CFBP1430のEAMY_1858(malL)ゲノム及びサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のIMA1ゲノムDNAを鋳型とし、5'末端にNdeI制限酵素部位及び各シグナルペプチドを含み、3'末端にSpeI制限酵素部位を含むmall、Ima1 ORF断片を得た。PCR条件は、94℃で5分間の変性を行い、その後94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。
【0058】
前記2つのPCR増幅産物をそれぞれ両末端に含む制限酵素で処理し、その後pDZベクター(特許文献5)を制限酵素EcoRI及びSalIで処理して得たDNA断片に連結し、pDZ-PgapA-SP3-malL(E.am)、pDZ-PgapA-SP3-Ima1(S.ce)ベクターを作製した。
【実施例2】
【0059】
α-グルコシダーゼを導入した微生物の作製
α-グルコシダーゼをコードする遺伝子をコリネバクテリウム・グルタミカム菌株に導入するために、実施例1で作製したベクター6種をそれぞれコリネバクテリウム・グルタミカムのリシン生産株であるKCCM11016P(前記微生物は、KFCC10881として公開され、ブダペスト条約上の国際寄託機関に寄託番号KCCM11016Pとして再寄託された;特許文献6)に電気パルス法(非特許文献14)で形質転換し、相同染色体組換えにより各遺伝子が導入されたコロニーを選択した。PCR法によりコロニーを選択するために、配列番号18及び19のプライマーを用いた。
aglA遺伝子導入確認用プライマー
正方向:5'-GACCATTTATTCGCAACTGTG-3'(配列番号18)
逆方向:5'-TCTGCAAGGCGTTCGGAATT-3'(配列番号19)
【0060】
前記形質転換された菌株をそれぞれKCCM11016P::PgapA-SP1-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP2-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP3-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP4-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP3-malL(E.am)、及びKCCM11016P::PgapA-SP3-Ima1(S.ce)と命名した。
【実施例3】
【0061】
α-グルコシダーゼを導入したリシン生産微生物のタンパク質発現の確認
親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016Pを対照群として用いて、実施例2で作製したKCCM11016P::PgapA-SP1-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP2-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP3-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP4-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP3-malL(E.am)、及びKCCM11016P::PgapA-SP3-Ima1(S.ce)の6種を実施例4に示す方法で培養し、その後高速遠心分離して上清を得た。得られた上清の一部を用いて、SDS-PAGE法により培養培地中のα-グルコシダーゼ酵素の発現を測定した。その結果、70Kdaの位置に発現したタンパク質が確認された(
図1)。
【実施例4】
【0062】
α-グルコシダーゼを導入したリシン生産微生物のL-アミノ酸生産能の評価
親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016Pを対照群として用いて、実施例2で作製したKCCM11016P::PgapA-SP1-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP2-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP3-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP4-aglA(B.al)、KCCM11016P::PgapA-SP3-malL(E.am)、及びKCCM11016P::PgapA-SP3-Ima1(S.ce)の6種を次の方法で所定時間培養し、その後リシン濃度を測定した。その結果を表2に示す。まず、種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、32℃、200rpmで72時間振盪培養した。前記種培地及び生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。培養終了後に、HPLC(Waters 2478)によりL-リシンの濃度を測定した。
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KH2PO4 4g,K2HPO4 8g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース100g,(NH4)2SO4 40g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,KH2PO4 1g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド3000μg,CaCO3 30g(蒸留水1リットル中)
【0063】
【0064】
これらの結果から、α-グルコシダーゼ発現能が導入されたリシン生産菌株6種の全てにおいて、対照群に比べてリシン生産能が向上することが分かった。特に、KCCM11016P::PgapA-SP3-aglA(B.al)において、生産能の向上率が最も高かった。微生物の培養において、生合成経路でない他の遺伝子の活性調節によりリシンの生産能が最小3.2%~最大9.7%向上したので、非常に有意な結果である。また、α-グルコシダーゼが基質として用いるものと予想されるイソマルトース、マルトースを培地中に添加しなくても、L-アミノ酸生産能が向上することが確認されたので、本出願のα-グルコシダーゼ活性を増加させることによりL-アミノ酸生産能を向上させる効果が確認された。さらに、これらの結果から、当業者の選択により好適なシグナルペプチドを用いると、より高い増加率が得られるものと予想される。
【0065】
前述したように作製したKCCM11016P::PgapA-SP2-aglA(B.al)をコリネバクテリウム・グルタミカムCA01-7523と命名し、2018年3月5日付けでブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に受託番号KCCM12228Pとして寄託した。
【実施例5】
【0066】
α-グルコシダーゼが導入されたCJ3P菌株の作製及びリシン生産能の分析
L-リシンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカムに属する菌株においても前記と同じ効果があるか否かを確認するために、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株に3種の変異[pyc(P458S),hom(V59A),lysC(T311I)]を導入し、L-リシン生産能を獲得したコリネバクテリウム・グルタミカムCJ3P(非特許文献15)菌株を対象に、実施例2の方法でPgapA-SP3-aglA(B.al)を導入し、α-グルコシダーゼが導入された菌株を作製した。前述したように作製した菌株をCJ3P::PgapA-SP3-aglA(B.al)と命名した。対照群であるCJ3P菌株とCJ3P::PgapA-SP3-aglA(B.al)を実施例4と同様に培養し、リシン生産能を分析した。その結果を表3に示す。
【0067】
【0068】
リシン濃度分析の結果、α-グルコシダーゼが導入された菌株において、リシン収率が増加することが確認された。これもまた、微生物の培養において、生合成経路でない他の遺伝子の活性調節によりリシンの生産能が8.8%向上したので、非常に有意な結果である。さらに、当業者の選択により好適なシグナルペプチドを用いると、より高い増加率が得られるものと予想される。
【実施例6】
【0069】
α-グルコシダーゼが導入されたトレオニン生産菌株の作製及びトレオニン生産能の分析
α-グルコシダーゼの導入によるL-トレオニン生産能の変化を明確に確認するために、L-トレオニン、L-イソロイシン生合成経路の共通の中間体であるホモセリン(homoserine)を生産するホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserin dehydrogenase)をコードする遺伝子に変異を導入して強化した。具体的には、実施例5で用いたCJ3P::PgapA-SP3-aglA(B.al)菌株に公知のhom(G378E)変異(非特許文献16)が導入された菌株を作製した。また、その対照群として、CJ3Pにhom(G378E)変異のみが導入された菌株も作製した。変異導入のための組換えベクターは、次の方法で作製した。
【0070】
hom(G378E)を導入するベクターを作製するために、まず、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、hom遺伝子の1131~1134番目の位置から前後にそれぞれ約600bp離れた位置の5’断片及び3’断片に制限酵素XbaI認識部位を挿入したプライマー(配列番号20及び21)を合成した。また、hom遺伝子の塩基配列を置換するためのプライマー(配列番号22及び23)を合成した。pDZ-hom(G378E)プラスミドは、hom遺伝子の5’及び3’末端に位置するDNA断片(各600bp)がpDZベクター(特許文献5)に連結された形態に作製した。
XbaI認識部位挿入用プライマー
5'断片:5'-TCCTCTAGACTGGTCGCCTGATGTTCTAC-3'(配列番号20)
3'断片:5'-GACTCTAGATTAGTCCCTTTCGAGGCGGA-3'(配列番号21)
hom遺伝子置換用プライマー
5'-GCCAAAACCTCCACGCGATC-3'(配列番号22)
5'-ATCGCGTGGAGGTTTTGGCT-3'(配列番号23)
【0071】
野生型菌株の染色体を鋳型とし、プライマー(配列番号20及び22)を用いたPCRにより5'末端遺伝子断片を作製した。PCR条件は、94℃で2分間の変性を行い、その後94℃で1分間の変性、56℃で1分間のアニーリング、72℃で40秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で10分間の重合反応を行うものとした。同様に、プライマー(配列番号21及び23)を用いたPCRにより、hom遺伝子の3'末端に位置する遺伝子断片を作製した。増幅したDNA断片をQuiagen社のPCR Purification kitで精製し、ベクターの作製のための挿入DNA断片として用いた。一方、制限酵素XbaIで処理し、その後65℃で20分間熱処理したpDZベクターと前記PCRにより増幅した挿入DNA断片をInfusion Cloning Kitで連結し、次いで大腸菌DH5αに形質転換してカナマイシン(25mg/l)を含むLB固体培地に塗抹した。配列番号20及び21のプライマーを用いたPCRにより標的遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選択し、その後通常のプラスミド抽出法によりプラスミドを得て、hom(G378E)の塩基置換変異を染色体上に導入するためのベクターpDZ-hom(G378E)を作製した。
【0072】
次に、前述したように作製したpDZ-hom(G378E)ベクターをCJ3P及びCJ3P::PgapA-SP3-aglA(B.al)菌株に実施例2の方法で導入することにより、CJ3P::hom(G378E)とCJ3P::PgapA-SP3-aglA(B.al)-hom(G378E)菌株を得た。得られた2種の菌株を実施例4と同様に培養し、トレオニン生産濃度を分析した。その結果を表4に示す。
【0073】
【0074】
トレオニン濃度分析の結果、α-グルコシダーゼが導入された菌株において、トレオニン濃度が増加することが確認された。微生物の培養において、生合成経路でない他の遺伝子の活性調節によりトレオニンの生産能が30%向上したので、非常に有意な結果である。また、当業者の選択により好適なシグナルペプチドを用いると、より高い増加率が得られるものと予想される。
【実施例7】
【0075】
α-グルコシダーゼが導入されたイソロイシン生産菌株の作製及びイソロイシン生産能の分析
α-グルコシダーゼの導入がL-イソロイシン生産能に及ぼす効果を確認するために、公知のトレオニンデヒドラターゼ(L-threonine dehydratase)をコードする遺伝子に変異を導入して強化した。具体的には、実施例6で用いたCJ3P::PgapA-SP3-aglA(B.al)-hom(G378E)菌株に公知のilvA(V323A)変異(非特許文献17)が導入された菌株を作製した。また、その対照群としてCJ3P::hom(G378E)にilvA(V323A)変異のみが導入された菌株も作製した。変異導入のための組換えベクターは、次の方法で作製した。
【0076】
ilvA(V323A)を導入するベクターを作製するために、まず、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、hom遺伝子の966~969番目の位置から前後にそれぞれ約600bp離れた位置の5’断片及び3’断片に制限酵素XbaI認識部位を挿入したプライマー(配列番号24及び25)を合成した。また、ilvA遺伝子の塩基配列を置換するためのプライマー(配列番号26及び27)を合成した。pDZ-ilvA(V323A)プラスミドは、ilvA遺伝子の5’及び3’末端に位置するDNA断片(各600bp)がpDZベクター(特許文献5)に連結された形態に作製した。
XbaI認識部位挿入用プライマー
5'断片:5'-ACGGATCCCAGACTCCAAAGCAAAAGCG-3'(配列番号24)
3'断片:5'-ACGGATCCAACCAAACTTGCTCACACTC-3'(配列番号25)
ilvA遺伝子置換用プライマー
5’-ACACCACGGCAGAACCAGGTGCAAAGGACA-3’(配列番号26)
5’-CTGGTTCTGCCGTGGTGTGCATCATCTCTG-3’(配列番号27)
【0077】
野生型菌株の染色体を鋳型とし、プライマー(配列番号24及び26)を用いたPCRにより5'末端遺伝子断片を作製した。PCR条件は、94℃で2分間の変性を行い、その後94℃で1分間の変性、56℃で1分間のアニーリング、72℃で40秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で10分間の重合反応を行うものとした。同様に、プライマー(配列番号25及び27)を用いたPCRにより、ilvA遺伝子の3’末端に位置する遺伝子断片を作製した。増幅したDNA断片をQuiagen社のPCR Purification kitで精製し、ベクターの作製のための挿入DNA断片として用いた。一方、制限酵素XbaIで処理し、その後65℃で20分間熱処理したpDZベクターと前記PCRにより増幅した挿入DNA断片をInfusion Cloning Kitで連結し、次いで大腸菌DH5αに形質転換してカナマイシン(25mg/l)を含むLB固体培地に塗抹した。配列番号24及び25のプライマーを用いたPCRにより標的遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選択し、その後通常のプラスミド抽出法によりプラスミドを得て、ilvA(V323A)変異を染色体上に導入するためのベクターpDZ-ilvA(V323A)を作製した。
【0078】
次に、前述したように作製したpDZ-ilvA(V323A)ベクターをCJ3P::hom(G378E)及びCJ3P::PgapA-SP3-aglA(B.al)-hom(G378E)菌株に実施例2の方法で導入することにより、CJ3P::hom(G378E)-ilvA(V323A)とCJ3P::PgapA-SP3-aglA(B.al)-hom(G378E)-ilvA(V323A)を得た。得られた2種の菌株を実施例4と同様に培養し、イソロイシン生産濃度を分析した。その結果を表5に示す。
【0079】
【0080】
表5に示すように、α-グルコシダーゼが導入された菌株において、イソロイシン濃度が増加することが確認された。微生物の培養において、生合成経路でない他の遺伝子の活性調節によりイソロイシンの生産能が30%向上したので、非常に有意な結果である。また、当業者の選択により好適なシグナルペプチドを用いると、より高い増加率が得られるものと予想される。
【0081】
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0082】
【配列表】