IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ HOYA株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ガラスレンズ成形型 図1
  • 特許-ガラスレンズ成形型 図2
  • 特許-ガラスレンズ成形型 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】ガラスレンズ成形型
(51)【国際特許分類】
   C03B 11/08 20060101AFI20230529BHJP
   C03B 11/00 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
C03B11/08
C03B11/00 N
C03B11/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022073080
(22)【出願日】2022-04-27
(62)【分割の表示】P 2018106637の分割
【原出願日】2018-06-04
(65)【公開番号】P2022093460
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】藤本 忠幸
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-223875(JP,A)
【文献】特開平2-160631(JP,A)
【文献】国際公開第2007/55360(WO,A1)
【文献】特開2007-302502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 11/08
C03B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスレンズを押圧成形するガラスレンズ成形型において、
型移動方向に延びる内部空間を有する胴型と、
前記胴型の前記内部空間に前記型移動方向へ移動可能に挿入され、前記型移動方向の一端に基材側当接部を有する金属又はセラミックス製の型基材と、
前記ガラスレンズの素材である被成形ガラスよりもガラス転移温度が高いガラスからなり、前記ガラスレンズの一方のレンズ面を形成する成形面と、前記型移動方向で前記成形面と反対側に向き前記基材側当接部に対して接離可能な型側当接部とを有するガラス製成形型と、
前記成形面に対向して前記ガラスレンズの他方のレンズ面を形成する第2の成形面を有し、前記ガラス製成形型と前記型移動方向に相対移動可能な対向型と、
を備え、
前記基材側当接部と前記型側当接部の少なくとも一方は、前記型移動方向に延びる軸線を中心とする円錐面の一部である調芯面を有し、前記基材側当接部と前記型側当接部の当接により前記型基材に対して前記ガラス製成形型を前記型移動方向及び前記型移動方向と垂直な方向で一定位置に保持することを特徴とするガラスレンズ成形型。
【請求項2】
前記型基材は、前記調芯面によって保持する吸引力を前記ガラス製成形型に作用させる吸引孔を備えている、請求項1記載のガラスレンズ成形型。
【請求項3】
前記基材側当接部は前記調芯面を有し、
前記型基材は、前記調芯面と底面とを含む凹部を有し、
前記凹部の前記底面に前記吸引孔が開口している、請求項2記載のガラスレンズ成形型。
【請求項4】
前記対向型は、
前記胴型の前記内部空間に前記型移動方向に移動可能に挿入され、前記型移動方向の一端に第2の基材側当接部を有する、金属又はセラミックス製の第2の型基材と、
前記ガラスレンズの素材である被成形ガラスよりもガラス転移温度が高いガラスからなり、前記第2の成形面と、前記型移動方向で前記第2の成形面と反対側に向き前記第2の基材側当接部に対して接離可能な第2の型側当接部とを有する第2のガラス製成形型と、
を備え、
前記第2の基材側当接部と前記第2の型側当接部の少なくとも一方は、前記軸線を中心とする円錐面の一部である調芯面を有し、前記第2の基材側当接部と前記第2の型側当接部の当接により前記第2の型基材に対して前記第2のガラス製成形型を前記型移動方向及び前記型移動方向と垂直な方向で一定位置に保持する、請求項1から3のいずれか1項記載のガラスレンズ成形型。
【請求項5】
前記第2の型基材は、前記調芯面によって保持する吸引力を前記第2のガラス製成形型に作用させる吸引孔を備えている、請求項4記載のガラスレンズ成形型。
【請求項6】
前記第2の基材側当接部は前記調芯面を有し、
前記第2の型基材は、前記調芯面の中心部から凹設された凹部を有し、
前記凹部の底面に前記吸引孔が開口している、請求項5記載のガラスレンズ成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスレンズを成形する成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスレンズの製造において、素材となるガラスを概略の形状にしてから研削や研磨によって仕上げる方法が従来から用いられている。近年では、加熱して軟化させた状態のガラスに対して成形用の型(以下、成形型)による押圧成形を行って、研削や研磨を経ずにガラスレンズを製造する方法も実用化されている(例えば、特許文献1)。このような成形型を用いた成形により、球面レンズのみならず、複雑な形状の非球面レンズ等も、低コストで大量に生産することが可能になった。
【0003】
押圧成形では、成形型の表面形状(成形面)が被成形物に転写されるため、成形型の精度が極めて需要になる。例えば、押圧時に作用する負荷や加熱を起因とした変形を生じないように、成形型には高い剛性と耐熱性が求められる。また、成形型への被成形物の貼り付きや被成形物の割れを防ぐために、成形型が被成形物に対して適切な熱膨張率を有することも必要となる。
【0004】
以上のような条件を満たすものとして、金属やセラミックス等を素材とした成形型が広く用いられている。しかし、このような成形型を精度のばらつきを抑えながら削り出し等で個別に製造するには、コストと手間がかかる。特に、光学機器用のガラスレンズを大量生産する場合には、成形型も多く必要とされる。その対策として、ガラス製の成形型を用いる技術が提案されている(例えば、特許文献2、3)。
【0005】
具体的には、基準となる成形面を有するマスター型(母型)を準備し、加熱により軟化させた成形型用ガラス材料をマスター型で押圧成形することによって、マスター型の成形面が転写されたガラス製の成形型(以下、ガラス製成形型)が得られる。ガラス製成形型は、高精度のマスター型を一旦製造してしまえば量産が容易で、形状設定の自由度が高いという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-127956号公報
【文献】特許第2616964号公報
【文献】特開平2-102136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラス製成形型の課題として、金属やセラミックス製の成形型に比して、高温下での成形を繰り返す場合の耐熱性や、外部からの衝撃に対する耐衝撃性の確保が難しいことがあり、耐久性の向上が望まれていた。その対策として、特許文献3では、ガラス製成形型を構成する素材ガラスと熱膨張率(線膨張係数)がほぼ等しい金属またはセラミックスからなる接合体を、ガラス製成形型に接合して一体化させている。
【0008】
しかしながら、ガラス製成形型に対して他材料からなる接合体を接合する構成は、接合体の熱膨張率がガラス製成形型と同等であることが要求されるため、材料選択の自由度が低い。また、ガラス製成形型と接合体の熱膨張率を完全に一致させることは困難であるため、接合で一体化させた状態で加熱すると、熱膨張率の違いによって互いの接合箇所にストレスが加わることは避けられない。さらに、ガラス製成形型と接合体とを一体化する際には、ガラス製成形型における中心軸(ガラス製成形型により成形されるレンズの光軸)と接合体の中心軸を高精度に一致させる必要があり、製造の難度が高く手間やコストがかかる。
【0009】
特許文献1には、ガラスレンズを成形するキャビティ面を有するキャビティダイと、キャビティダイよりも線膨張係数が小さい材料からなる金型とを組み合わせて成形型を構成する技術が記載されている。金型には、キャビティダイの先端側(成形面を有する側)に進むにつれて徐々に径が大きくなる断面円錐台形の孔が形成され、この孔がキャビティダイに嵌着されている。金型の孔の内周面とキャビティダイの周面がそれぞれ、相互に摺接可能な状態で重合するテーパ面となっており、テーパ面の重合状態でキャビティダイと金型の中心軸のずれを防ぐことができる。しかし、キャビティダイと金型が接合されていないため、成形型を離間させた状態で金型からキャビティダイが脱落するおそれがあり、実用性が低い。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、生産性、耐久性、精度の高さ、実用性に優れたガラスレンズ成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ガラスレンズを押圧成形するガラスレンズ成形型において、型移動方向に延びる内部空間を有する胴型と、胴型の内部空間に型移動方向へ移動可能に挿入され、型移動方向の一端に基材側当接部を有する金属又はセラミックス製の型基材と、ガラスレンズの素材である被成形ガラスよりもガラス転移温度が高いガラスからなり、ガラスレンズの一方のレンズ面を形成する成形面と、型移動方向で成形面と反対側に向き基材側当接部に対して接離可能な型側当接部とを有するガラス製成形型と、ガラス製成形型の成形面に対向してガラスレンズの他方のレンズ面を形成する第2の成形面を有し、ガラス製成形型と型移動方向に相対移動可能な対向型と、を備える。基材側当接部と型側当接部の少なくとも一方は、型移動方向に延びる軸線を中心とする円錐面の一部である調芯面を有し、基材側当接部と型側当接部の当接により型基材に対してガラス製成形型を型移動方向及び型移動方向と垂直な方向で一定位置に保持する。
【0012】
型基材は、調芯面によって保持する吸引力をガラス製成形型に作用させる吸引孔を備えていることが好ましい。
【0013】
基材側当接部は調芯面を有し、型基材は調芯面と底面とを含む凹部を有し、凹部の底面に吸引孔が開口していることが好ましい。
【0014】
対向型は、金属又はセラミックス製の第2の型基材と、ガラスレンズの素材である被成形ガラスよりもガラス転移温度が高いガラスからなる第2のガラス製成形型とによって構成できる。第2の型基材は、胴型の内部空間に型移動方向に移動可能に挿入され、型移動方向の一端に第2の基材側当接部を有する。第2のガラス製成形型は、第2の成形面と、型移動方向で第2の成形面と反対側に向き第2の基材側当接部に対して接離可能な第2の型側当接部とを有する。そして、第2の基材側当接部と第2の型側当接部の少なくとも一方は、前記軸線を中心とする円錐面の一部である調芯面を有し、第2の基材側当接部と第2の型側当接部の当接により第2の型基材に対して第2のガラス製成形型を型移動方向及び型移動方向と垂直な方向で一定位置に保持する。
【0015】
第2の型基材は、調芯面によって保持する吸引力を第2のガラス製成形型に作用させる吸引孔を備えていることが好ましい。
【0016】
第2の基材側当接部は調芯面を有し、第2の型基材は、調芯面の中心部から凹設された凹部を有し、凹部の底面に吸引孔が開口していることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上の本発明のガラスレンズ成形型によれば、ガラスレンズのレンズ面を成形する成形面を有する部分をガラス製成形型とし、このガラス製成形型に当接する金属又はセラミックス製の型基材を胴型内で移動可能に支持させている。そのため、ガラス製成形型を低コストで大量生産できると共に、耐熱性や耐衝撃性に優れる型基材によって耐久性を向上させることができる。また、ガラス製成形型と型基材は、接合固定されずに互いの当接部の当接によって相対的な位置を定めるので、ガラス製成形型と型基材の熱膨張率の違いによる負荷がかかりにくく、高精度な型精度を得られると共に、ガラス製成形型や型基材における材料の選択自由度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のガラスレンズ成形型における押圧成形の準備状態を示す断面図である。
図2】ガラスレンズ成形型における押圧成形完了状態を示す断面図である。
図3】押圧成形完了後に上型ユニットと下型ユニットを離間させて成形後のガラスレンズを取り出す工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態のガラスレンズ成形型10は、上型ユニット11と下型ユニット(対向型)12を基準軸(軸線)Xに沿って相対移動させて、成形前の被成形ガラスであるガラスプリフォーム13(図1)を押圧加工してガラスレンズ14(図2図3)を成形するものである。
【0020】
図3に示すように、ガラスレンズ14は両方のレンズ面14a、14bが非球面である非球面レンズであり、一方のレンズ面14aが凹面、他方のレンズ面14bが凸面となっている。また、ガラスレンズ14の周縁には環状のコバ部14cが形成される。
【0021】
ガラスレンズ成形型10は、上型ユニット11と下型ユニット12をガイドする胴型20を備えている。上型ユニット11は、上型基材(型基材)30と上型(ガラス製成形型)40を備えている。下型ユニット12は、下型基材(第2の型基材)50と下型(第2のガラス製成形型)60を備えている。上型40と下型60は後述する条件を満たすガラス製である。胴型20と上型基材30と下型基材50は非ガラス製の材料からなり、具体的には、炭化ケイ素(SiC)や窒化ケイ素(Si)のようなセラミックス、あるいは超硬合金のような金属で形成されている。
【0022】
基準軸Xは、ガラスレンズ成形型10により成形されるガラスレンズ14の光軸に一致するものである。上型40と下型60は、それぞれの中心軸が基準軸Xと一致するように上型基材30と下型基材50を介して位置決め(芯出し)された状態で押圧成形を行う。この位置決めの詳細については後述する。以下の説明では、基準軸Xに沿う方向を上下方向(型移動方向)とし、基準軸Xに対して垂直な方向を径方向とする。
【0023】
胴型20は、基準軸Xを囲む筒状体であり、上下方向に貫通する内部空間S(図3)を内側に有する。胴型20の内側には、上端側から上下方向に所定の範囲で上部内面21が形成され、下端側から上下方向に所定の範囲で下部内面22が形成されている。上部内面21と下部内面22はそれぞれ、基準軸Xを中心とする円筒面(円筒の内面)であり、上部内面21の内径が下部内面22の内径よりも大きい。
【0024】
胴型20の内部には、上部内面21と下部内面22の間に上型規制面(規制面)23が設けられている。より詳しくは、胴型20には、内径方向へ向けて突出する突出部24が周方向に連続して環状に設けられており、突出部24上に上型規制面23が形成されている。上型規制面23は、基準軸Xを中心とする円錐面(円錐の内面)の一部であり、下方に進むにつれて径を小さくする。すなわち、上型規制面23は、上部内面21から離れて下方に進むにつれて内径側への突出量を大きくするテーパ形状となっている。
【0025】
上部内面21の下端部分(突出部24の上部)に、胴型20を径方向へ貫通する貫通孔25が形成されている。また、下部内面22の上端部分(突出部24の下部)に、胴型20を径方向へ貫通する貫通孔26が形成されている。
【0026】
上型基材30は、胴型20の内部に上下方向へ移動可能に挿入される。上型基材30の外面には、上部内面21の内径サイズに対応する外径サイズを有する円筒状のスライド案内面31が形成されている。上部内面21とスライド案内面31の当接によって、胴型20と上型基材30の互いの中心軸が一致する。この胴型20と上型基材30の中心軸は基準軸Xと一致している。また、上部内面21に対してスライド案内面31は、傾きやガタつきを生じずに上下方向に摺動可能に支持される。なお、基準軸Xを中心とする周方向への胴型20と上型基材30の相対回転を防ぐように、胴型20と上型基材30の間に回転規制構造を備えてもよい。
【0027】
ガラスレンズ成形型10は、胴型20に対して上型基材30を上下方向に移動させる駆動手段70と、胴型20に対して下型基材50を上下方向に移動させる駆動手段71とを有する。
【0028】
上型基材30の下端(型移動方向の一端)には、調芯面(基材側当接部)32と底面33が形成されている。調芯面32は、基準軸Xを中心とする円錐面(円錐の内面)の一部であり、上方に進むにつれて径を小さくする。底面33は、調芯面32の上端を塞ぐ平面である。上型基材30の下端は、テーパ形状の調芯面32によるすり鉢状の凹部になっている。
【0029】
上型基材30には上下方向に貫通する吸引孔34が形成されている。吸引孔34の中心線は基準軸Xとほぼ一致している。吸引孔34の下端は、底面33の中央に開口している。吸引孔34の上端は、上型基材30の上端面に開口して、吸引源15から延びる吸引管16に接続している。
【0030】
ガラスレンズ成形型10の完成状態(図1)で成形するときに真空ガス置換が行われる。その際、吸引源15を駆動して、吸引管16及び吸引孔34を通じて、上型基材30の底面33と上型40の上面44との間のエア抜きを行う。また、この吸引源15から吸引孔34までの吸引構造を用いて、上型基材30の下端の凹部(調芯面32と底面33で囲まれる領域)に、上型40を吸着保持する吸引力を作用させることができる。
【0031】
下型基材50は、大径部51と、大径部51よりも小径で大径部51から上方へ突出する小径部52を有している。大径部51は、胴型20とほぼ同じ外径サイズを有している。小径部52の外面には、胴型20の下部内面22の内径サイズに対応する外径サイズを有する円筒状のスライド案内面53が形成されている。
【0032】
下型基材50は、胴型20に対して下方から小径部52を挿脱可能である。胴型20に対する小径部52の挿入状態では、下部内面22とスライド案内面53の当接によって、胴型20と下型基材50との同心性が保たれる(下型基材50の中心軸が基準軸Xと一致する)。また、下部内面22に対してスライド案内面53は、傾きやガタつきを生じずに上下方向に摺動可能に支持される。なお、基準軸Xを中心とする周方向への胴型20と下型基材50の相対回転を防ぐように、胴型20と下型基材50の間に回転規制構造を備えてもよい。
【0033】
胴型20の下端が大径部51に当接することによって、胴型20に対する小径部52の最大挿入量が決まる(図1図2参照)。この最大挿入状態で、小径部52の上端は貫通孔26よりも下方に位置する。すなわち、貫通孔26及びその上方の貫通孔25が下型基材50によって塞がれることはない。
【0034】
下型基材50の上端(型移動方向の一端)には、調芯面(第2の基材側当接部)54と凹部55と内周面56が形成されている。調芯面54は、基準軸Xを中心とする円錐面(円錐の内面)の一部であり、下方に進むにつれて径を小さくする。凹部55は、調芯面54の中心部からさらに下方へ凹設されている。内周面56は、基準軸Xを中心とする円筒状の面(円筒の内面)であり、調芯面54の上端縁から上方に突出している。下型基材50の上端は、テーパ形状の調芯面54を内面に含むすり鉢状の凹部になっている。
【0035】
下型基材50には上下方向に貫通する吸引孔57が形成されている。吸引孔57の中心線は基準軸Xとほぼ一致している。吸引孔57の上端は凹部55の底面中央に開口しており、吸引孔57の下端は、吸引源17から延びる吸引管18に接続している。
【0036】
ガラスレンズ成形型10の完成状態(図1)での真空ガス置換の際に、吸引源17を駆動して、吸引管18及び吸引孔57を通じて、下型基材50の凹部55と下型60との間のエア抜きを行う。また、この吸引源17から吸引孔57までの吸引構造を用いて、小径部52の上端部(調芯面54と凹部55と内周面56で囲まれる凹状部分)に、下型60を吸着保持する吸引力を作用させることができる。
【0037】
上型40と下型60は、互いに対向する側に成形面41と成形面(第2の成形面)61を有している。上型40において、成形面41を有する側を表面側とし、その反対側を裏面側とする。同様に、下型60において、成形面61を有する側を表面側とし、その反対側を裏面側とする。成形面41と成形面61はそれぞれ、ガラスレンズ14の一方のレンズ面14aと他方のレンズ面14bに対応する形状の非球面である。成形面61は、レンズ面14bの凸面形状に対応する凹面部の周縁に、コバ部14cに対応する円筒面部を有している。なお、本発明は、図示するガラスレンズ14以外の形態のガラスレンズの成形にも適用が可能であり、成形面41や成形面61の形状はレンズ形状に応じて適宜設定される。
【0038】
成形面41や成形面61上にはコーティング層(図示略)を形成してもよい。コーティング層は炭素膜等からなり、ガラスレンズ14を構成する被成形ガラスの融着を抑える効果を有する。コーティング層は単層構造でもよいし、異なる組成からなる複層構造のコーティング層を設けることもできる。あるいは、コーティング層を備えずに成形面41や成形面61が露出した構成も選択可能である。
【0039】
上型40の表面側には、成形面41の周囲に被規制面42が形成されている。被規制面42は、基準軸Xを中心とする円錐面(円錐の外面)の一部であり、下方に進むにつれて径を小さくする。成形面41と被規制面42の間には、基準軸Xを中心とする環状の段部43が形成されている。
【0040】
上型40の裏面側には、成形面41の裏側に位置する上面44と、被規制面42の裏側に位置する調芯面(型側当接部)45が形成されている。調芯面45は、基準軸Xを中心とする円錐面(円錐の外面)の一部であり、上方に進むにつれて径を小さくする。調芯面45は、上型基材30の調芯面32と同一の(頂角が等しい)円錐面の一部である。
【0041】
上型40にはさらに、被規制面42と調芯面45の間に円筒状の外周面46が形成されている。外周面46の外径サイズは、胴型20の上部内面21の内径サイズよりも小さく、後述する上型40の位置決め状態では外周面46は上部内面21から径方向に離間する。
【0042】
上型40は、調芯面45を調芯面32に当接させることによって、上型基材30に対する位置が定まる。調芯面32と調芯面45は、互いに面接触可能な円錐状のテーパ面であり、互いの中心軸(円錐の高さ方向に延びて頂点を通る直線)が一致する状態で当接する。この当接により、上型基材30に対して、上下方向への上型40の位置が定まると共に、基準軸Xを中心とする径方向における上型40の位置も定まる。そして、胴型20内に上型基材30を収めた状態で調芯面32と調芯面45の当接による上型40の位置決めを行うと、上型基材30と上型40のそれぞれの中心軸が基準軸Xと一致する。すなわち、胴型20及び上型基材30に対して上型40が適正に調芯された状態になり、成形面41の中心を基準軸Xが通るようになる。
【0043】
調芯面32と調芯面45が当接する上型40の位置決め状態で、底面33と上面44の間には上下方向への隙間がある。また、当該位置決め状態では、上部内面21と外周面46の間には径方向への隙間がある。これにより、上型40に対して直接的に当接して位置決めを行うのは調芯面32のみとなり、調芯面32以外の箇所は上型40の位置決めを妨げない。
【0044】
以上のように、非ガラス製(金属やセラミックス製)の上型基材30とガラス製の上型40によって上型ユニット11を構成している。上型40は、上型ユニット11のうちガラスレンズ14を成形するための成形面41を含む一部分であり、その他の部分である上型基材30は、ガラスに比して耐熱性や耐衝撃性に優れる金属やセラミックスで形成される。特に、上型基材30は、胴型20に対して摺動したり、後述する押圧成形時に外部からの押圧力を受けたりする部分であるため、機械的強度に優れる金属やセラミックスで形成することが有効であり、上型基材30を用いることで上型ユニット11の精度確保に寄与する。
【0045】
上型40は、成形面41とその周囲に特化した小型で簡単な形状にすることができ、製造しやすい。より詳しくは、上型40は、表裏に位置する成形面41と上面44の周囲を、円錐状の被規制面42及び調芯面45と円筒状の外周面46とで囲んでおり、凸レンズに似たシンプルな断面形状である。また、上下方向への上型ユニット11全体の大きさに比して、成形面41から上面44までの上型40の肉厚が数分の一程度である。そのため、上型40を構成するガラスの量が少なくて済み、上型40を製造する際にコストを抑制できる。また、上型40の製造時に、成形後の冷却によるガラスの収縮が少なく、精度管理を行いやすい。
【0046】
上型基材30と上型40は、互いに接着等で固定されず、接離可能な調芯面32と調芯面45の当接によって上型40を位置決めするように構成される。そのため、上型基材30と上型40をそれぞれ構成する材料の熱膨張率がある程度異なっていても、加熱時に互いの境界(接触)部分に過大なストレスがかかりにくい。すなわち、上型基材30と上型40を相対的に固定させる構成に比して、上型基材30と上型40をそれぞれ構成する材料の熱膨張率の許容範囲が広く、材料の選択自由度が向上する。
【0047】
上型40は上型基材30の下方に位置しており、調芯面32と調芯面45はそれぞれ下方に進むにつれて径を大きくする円錐状の面である。従って、上型基材30は下方(調芯面32から調芯面45が離れる方向)への上型40の移動を制限しない。
【0048】
胴型20に設けた上型規制面23によって、下方への上型40の移動量が制限される。すなわち、下方への上型40の脱落が防止される。上型規制面23は、上下方向で上型40の被規制面42に対向する位置に設けられており、胴型20内で上型40が下方に移動すると、被規制面42が上型規制面23に当接する(図3)。上型40の成形面41及び段部43は、上型規制面23の内側を通過可能な径であり、突出部24よりも下方に突出できる(図2図3参照)。
【0049】
下型60の表面側には、成形面61の周縁から上方へ突出する環状突出部62が形成されている。上型40と下型60を上下方向に接近させたときに、環状突出部62の内側に上型40の段部43が進入可能である(図2参照)。
【0050】
下型60の裏面側には調芯面(第2の型側当接部)63が形成されている。調芯面63は、基準軸Xを中心とする円錐面(円錐の外面)の一部であり、下方に進むにつれて径を小さくする。調芯面63は、下型基材50の調芯面54と同一の(頂角が等しい)円錐面の一部である。
【0051】
下型60はさらに、調芯面63の周縁から上方に向けて突出する外周面64を有する。外周面64は基準軸Xを中心とする円筒状の面であり、環状突出部62の位置まで連続している。調芯面63と外周面64の間は、緩やかに湾曲する曲面形状になっている。
【0052】
下型60は、調芯面63を調芯面54に当接させることによって、下型基材50に対する位置が定まる。調芯面54と調芯面63は、互いに面接触可能な円錐状のテーパ面であり、互いの中心軸(円錐の高さ方向に延びて頂点を通る直線)が一致する状態で当接する。これにより、下型基材50に対して、上下方向への下型60の位置が定まると共に、基準軸Xを中心とする径方向における下型60の位置も定まる。そして、胴型20内に下型基材50の小径部52を挿入した状態(図1図2)で調芯面54と調芯面63の当接による下型60の位置決めを行うと、下型基材50と下型60のそれぞれの中心軸が基準軸Xと一致する。すなわち、胴型20及び下型基材50に対して下型60が適正に調芯された状態になり、成形面61の中心を基準軸Xが通るようになる。
【0053】
調芯面54と調芯面63が当接する下型60の位置決め状態で、内周面56と外周面64の間には径方向への隙間がある。これにより、下型60に対して直接的に当接して位置決めを行うのは調芯面54のみとなり、調芯面54以外の箇所は下型60の位置決めを妨げない。
【0054】
上型ユニット11と同様に、非ガラス製(金属やセラミックス製)の下型基材50とガラス製の下型60によって下型ユニット12を構成している。下型60は、下型ユニット12のうちガラスレンズ14を成形するための成形面61を含む一部分であり、その他の部分である下型基材50は、ガラスに比して耐熱性や耐衝撃性に優れる金属やセラミックスで形成される。特に、下型基材50は、胴型20に対して摺動したり、後述する押圧成形時に外部からの押圧力を受けたりする部分であるため、機械的強度に優れる金属やセラミックスで形成することが有効であり、下型基材50を用いることで下型ユニット12の精度確保に寄与する。
【0055】
下型60は、成形面61とその周囲に特化した小型で簡単な形状にすることができ、製造しやすい。より詳しくは、下型60は、成形面61と調芯面45が表裏に位置する凹レンズに似たシンプルな断面形状である。また、上下方向への下型ユニット12全体の大きさに比して、上下方向への下型60の肉厚が数分の一程度である。そのため、下型60を構成するガラスの量が少なくて済み、下型60を製造する際にコストを抑制できる。また、下型60の製造時に、成形後の冷却によるガラスの収縮が少なく、精度管理を行いやすい。
【0056】
下型基材50と下型60は、互いに接着等で固定されず、接離可能な調芯面54と調芯面63の当接によって下型60を位置決めするように構成される。そのため、下型基材50と下型60をそれぞれ構成する材料の熱膨張率がある程度異なっていても、加熱時に互いの境界(接触)部分に過大なストレスがかかりにくい。すなわち、下型基材50と下型60を相対的に固定させる構成に比して、下型基材50と下型60をそれぞれ構成する材料の熱膨張率の許容範囲が広く、材料の選択自由度が向上する。
【0057】
胴型20の外側には、図示を省略するヒーターが設けられている。ガラスレンズ14を押圧成形するときには、ガラスプリフォーム13(被成形ガラス)が軟化する成形温度まで、ヒーターによって胴型20内を加熱する。
【0058】
図示を省略するが、上型40や下型60は、マスター型(母型)を用いた押圧成形によって製造される。上型40と下型60を製造するためのマスター型が個別に準備される。これらのマスター型は金属やセラミックス等で形成されており、成形面41や成形面61の元となる基準成形面を備えている。加熱して軟化させた成形型用ガラス材料(後述する各条件を満たすガラスであり、ガラスレンズ14用の被形成ガラスとは別のもの)を各マスター型の基準成形面で押圧することにより、該基準成形面が成形面41や成形面61として転写された上型40や下型60が成形される。
【0059】
上型40と下型60はそれぞれ、以下の条件を満たすガラス材料からなる。
(1)ヤング率が85GPa以上であること。
(2)ガラス転移温度(Tg)が650℃以上であること。
(3)100℃~300℃の平均熱膨張係数(α100-300)が30×10-7/℃~80×10-7/℃であること。
【0060】
条件(1)は、上型40や下型60の剛性に関係する。押圧成形する際に上型40や下型60に撓みが発生すると、成形面41、61の形状が維持されず、ガラスレンズ14に対する成形精度に影響を及ぼす。ヤング率が85GPa以上であると、ガラスレンズ14の成形時に所定の押圧力を加えても、負荷による上型40や下型60の撓みを防止でき、成形面41、61の精度を損なわずに成形することができる。
【0061】
条件(2)は、成形時の加熱による上型40や下型60への影響に関係する。ガラスレンズ14の素材となる被成形ガラスよりもガラス転移点が高いガラスを上型40や下型60の材料とした上で、上型40や下型60用のガラスのガラス転移点よりも低い温度を成形温度とすることにより、上型40や下型60の軟化を伴わずに被成形ガラスのみを軟化させることができる。
【0062】
より詳しくは、上型40や下型60の材料であるガラスのガラス転移温度をTg(A)、ガラスレンズ14の素材となる被成形ガラスのガラス転移温度をTg(B)とした場合、Tg(A)-Tg(B)≧30℃であるとよい。さらに、Tg(A)-Tg(B)≧50℃が好ましく、Tg(A)-Tg(B)≧100℃がより好ましい。
【0063】
例えば、出願人が製造するガラスモールドレンズ用の硝材では、ガラス転移点が最も高いものが612℃である(硝材名M-TAFD305)。従って、条件(2)を満たすことにより、上型40や下型60の熱変形を防ぎながら、様々な被成形ガラスに有効な成形温度に設定することができる。
【0064】
条件(3)は、上型40や下型60と被成形ガラスとの熱膨張率の差を適切に管理して、被成形ガラスの貼り付きや割れを防いで良好な成形を行うための条件である。被成形ガラスに対して上型40や下型60の熱膨張係数が相対的に大きすぎると、成形時に被成形ガラスの割れが生じやすくなる。また、上型40や下型60と被成形ガラスとの熱膨張係数の差が小さすぎると、上型40や下型60への被成形ガラスの貼り付きが生じやすくなる。
【0065】
より詳しくは、上型40や下型60の材料であるガラスの平均熱膨張係数(100℃~300℃)をα(A)、ガラスレンズ14の素材となる被成形ガラスの平均熱膨張係数(100℃~300℃)をα(B)とした場合、α(A)-α(B)が+20×10-7/℃~-120×10-7/℃であるとよい。さらに、α(A)-α(B)が+10×10-7/℃~-120×10-7/℃が好ましく、α(A)-α(B)が0×10-7/℃~-100×10-7/℃がより好ましい。ガラスモールドレンズ用の硝材ではα(B)が70×10-7/℃~90×10-7/℃前後のものが多く、条件(3)を満たすことにより、被成形ガラスの割れや上型40及び下型60への貼り付きを防ぐ効果が得られる。
【0066】
また、条件(3)は、マスター型によって上型40や下型60を押圧成形する際の成形性にも関係する。一例として、炭化ケイ素(SiC)を主素材としてマスター型を形成した場合、炭化ケイ素の平均熱膨張係数(100℃~300℃)は40×10-7/℃程度であるため、条件(3)によって成形型用ガラス材料を良好に成形してガラス製の上型40や下型60を得ることができる。特に、条件(3)の下限値を満たすことで、マスター型の熱膨張率が相対的に過大にならず、上型40や下型60の製造時に割れを生じにくくできる。
【0067】
例えば、下記の原料組成によれば、条件(1)、(2)及び(3)を満たした成形型用ガラス材料を得ることができる。
モル%表示にて
SiOを50~75%、
Alを0~5%、
ZnOを0~5%、
NaOおよびKOを合計で3~15%、
MgO、CaO、SrOおよびBaOを合計で14~35%、
ZrO、TiO、La、Y、Yb、Ta、NbおよびHfOを合計で2~9%、
含み、
モル比{(MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO)}が0.85~1の範囲であり、かつモル比{Al/(MgO+CaO)}が0~0.30の範囲であるガラス。
【0068】
以上の構成のガラスレンズ成形型10によるガラスレンズ14の成形工程について説明する。まず、準備段階となる部品組み込みで、胴型20の内部空間Sに対して上方から、上型40、上型基材30の順に挿入する。胴型20内の上型規制面23に被規制面42が当接して、下方への上型40の脱落が防止される。上型40の調芯面45に対して上型基材30の調芯面32が当接して、上型基材30も下方への移動が規制される。具体的には、上型ユニット11が図3に示す状態になる。また、下型基材50の調芯面54上に下型60の調芯面63が載せられる。
【0069】
上型規制面23と被規制面42はそれぞれ、基準軸Xを中心とする円錐面の一部であるため、上型40と上型基材30の重さが加わると、上型規制面23に被規制面42が押し付けられて、下方への上型40の移動が規制されると共に、径方向での上型40の位置も一定に保たれる。従って、胴型20内での上型40の位置が安定し、外力によって上型40が胴型20内でガタつきにくくなり、上型40に対する衝撃を抑制できる。
【0070】
続いて、図1のようにガラスレンズ成形型10を押圧成形の準備状態にセットする。具体的には、下型60の成形面61上にガラスプリフォーム13を載せ、駆動手段71により下型基材50を上方に移動させて、胴型20に対して下方から小径部52を挿入する。胴型20の下端に大径部51が当接すると、小径部52のそれ以上の挿入が制限されて、上下方向における胴型20と下型基材50の互いの位置が定まる。
【0071】
胴型20内に下型基材50の小径部52と下型60が挿入されると、成形面61上に支持されたガラスプリフォーム13が上型40の成形面41に当接する。ガラスプリフォーム13は、成形後のガラスレンズ14に比して上下方向の厚みが大きい形状であるため、成形面41と成形面61の間にガラスプリフォーム13を挟みながら、上型40と上型基材30が胴型20の内部空間S内で上方に押し上げられる。この移動によって、上型40の被規制面42が胴型20の上型規制面23に対して上方へ離間する(図1参照)。また、上型40の調芯面45が上型基材30の調芯面32を下方から押し上げて、上型基材30の一部が胴型20の上端よりも上方へ突出する(図1参照)。
【0072】
図1のように押圧成形の準備が完了した状態では、上型基材30の調芯面32と上型40の調芯面45が当接して、上型基材30の重さによる力を受けている。そのため、調芯面32、45によって上型基材30に対して上型40が調芯され、上型40の中心軸が基準軸Xと一致する状態になっている。この段階で、吸引源15を駆動して上型40を吸引して、調芯面32に調芯面45を当接させる力を強めてもよい。
【0073】
また、図1の状態では、下型基材50の調芯面54と下型60の調芯面63が当接して、上型基材30と上型40とガラスプリフォーム13と下型60の重さによる力を受けている。そのため、調芯面54、63によって下型基材50に対して下型60が調芯され、下型60の中心軸が基準軸Xと一致する状態になっている。この段階で、吸引源17を駆動して下型60を吸引して、調芯面54に調芯面63を当接させる力を強めてもよい。
【0074】
続いて、ガラスプリフォーム13を成形可能な成形温度まで胴型20内を加熱した状態で、図2のように、駆動手段70によって上型基材30を上方から下方に向けて押圧する。すると、上型基材30を介して上型40が下方へ押圧され、加熱されたガラスプリフォーム13を変形させながら、上型40の成形面41と下型60の成形面61の間隔が狭くなる。
【0075】
上型40と下型60が接近すると、胴型20の内部空間Sの空き容積が減少する。このとき、貫通孔25、26を通して内部空間Sの気体(ガラスの押圧成形の際に生じるガス等)が外部へ排出され、胴型20内が調圧される。図2に示すように、貫通孔25は、押圧で下方に移動した上型40の外周面46の側方に形成され、貫通孔26は、下型60の外周面64の側方に形成されている。そのため、上型ユニット11が挿入されている上部内面21の領域と、下型ユニット12が挿入されている下部内面22の領域の両方から、確実に気体を排出することができる。
【0076】
駆動手段70による押圧が行われると、上型基材30と下型基材50との間で圧縮荷重が作用し、上型ユニット11における調芯面32、45と、下型ユニット12における調芯面54、63のそれぞれで上下方向への押圧力が強まる。押圧力が増大するにつれて、上型40と下型60に対する位置決めの効果が高まり、上型40と下型60を位置ずれさせずに確実に拘束しながら押圧加工を行うことができる。
【0077】
駆動手段70は、上型基材30の上端面が胴型20の上端面と面一になる位置(図2)まで上型基材30を押圧する。例えば、胴型20の上端面に当接して下方への移動規制を受けるストッパ(図示略)を駆動手段70に備えるとよい。上型基材30が図2の位置まで押圧されると、上型40の段部43が下型60の環状突出部62の内側に僅かに進入し、成形面41と成形面61と環状突出部62によって囲まれる空間内にガラスレンズ14が形成される。このとき、上型40の被規制面42と胴型20の上型規制面23との間には隙間があり、上型40は胴型20による直接的な位置規制を受けない。
【0078】
図2に示す押圧加工が完了したら、胴型20内を成形温度よりも低い所定の温度まで下げて、ガラスレンズ14を硬化させる。続いて、図3に示すように、駆動手段71によって下型基材50を下方に移動させ、上型40と下型60を上下方向に離間させる。このとき、吸引源17を駆動して下型基材50の調芯面54側に下型60を吸着保持させることで、下型60がガラスレンズ14と共に上型40に貼り付いた状態にならずに、確実に下型60を下方に離間させることができる。上型40と下型60の離間が完了したら、下型60からガラスレンズ14を取り外す。これにより、上型40と下型60の各成形面41、61がレンズ面14a、14bとして転写されたガラスレンズ14が完成する。
【0079】
図3のように下型60が下方に移動すると、上型40は下型ユニット12によって下方から支持されない状態になる。しかし、胴型20の上型規制面23に対して被規制面42が当接することで、胴型20内での下方への上型40の移動量が制限され、上型40が脱落せずに上型ユニット11としての形態を維持できる。従って、上型40を上型基材30に対して固定しない構成でありつつ、一体構造の成形型である場合と同様に上型ユニット11を取り扱うことができ、優れた生産性が得られる。
【0080】
なお、図3のように上型40と下型60を離間させる際に、吸引源15を駆動して、上型基材30の調芯面32側に上型40を吸着保持させてもよい。上述のように、上型40は上型規制面23によって下方への移動が規制されるので、上型40が下型60に貼り付いた状態のまま追従して下方へ脱落することはないが、上型基材30側に吸着保持させることで、上型40の安定性が向上し、成形面41からガラスレンズ14を取り外し易くなる。
【0081】
以上のように、本実施形態のガラスレンズ成形型10では、ガラス製の上型40や下型60と、金属やセラミックス等の非ガラス材料からなる上型基材30や下型基材50とを組み合わせて上型ユニット11と下型ユニット12を構成している。
【0082】
上型ユニット11と下型ユニット12のいずれも、胴型20に対する直接の位置決めと駆動手段70、71による駆動負荷を受ける部分は、強度、耐衝撃性、耐熱性等に優れた上型基材30や下型基材50で構成している。そのため、ガラスレンズ14の成形を繰り返し行っても、精度の狂いが生じにくく、高度な耐久性を得ることができる。その一方で、成形面41、61を有してガラスレンズ14の形成に直接関与する部分は、ガラス製の上型40と下型60を用いており、低コストに量産可能である。
【0083】
上型基材30と上型40は、互いに固定せずに、上下方向への負荷に応じて位置決め(調芯)を行うテーパ形状の調芯面32、45を当接させている。下型基材50と下型60も同様に、互いに固定せずに、上下方向への負荷に応じて位置決め(調芯)を行うテーパ形状の調芯面54、63を当接させている。従って、上型基材30と上型40の間や、下型基材50と下型60の間での、熱膨張率の違いに起因する加熱時の負担が少なく、上型ユニット11と下型ユニット12の個々の耐久性にも優れている。また、上型40と下型60に対する上型基材30と下型基材50の熱膨張率の相違の許容範囲が広いため、材料の選択自由度が高くなる。
【0084】
さらに、上型基材30に対して別体のまま使用される上型40に対して、胴型20に設けた上型規制面23によって、調芯面32と調芯面45が離間する方向への移動量を制限している。これにより、下型ユニット12が離れた状態でも、上型ユニット11側に上型40を保持させることができ、そのまま次の成形工程を実行することができる。そして、ガラス製の上型40と下型60を固定しない構造でありつつ、駆動手段70や駆動手段71を用いて行わせる動作は、一体構成の成形型を用いる場合と同様のシンプルなものにできるので、成形加工の効率が良く、複雑な制御も要さない。また、上型規制面23への被規制面42の当接は、ガラスレンズ14を押圧成形するときの動作では生じないように構成されており(図2参照)、成形精度には影響を及ぼさない。
【0085】
以上のように、本実施形態のガラスレンズ成形型10は、生産性、耐久性、精度の高さ、実用性に優れている。但し、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨内において様々な変更を行うことが可能である。
【0086】
例えば、上記実施形態では、上型ユニット11と下型ユニット12の両方を、ガラス製の上型40及び下型60と、金属又はセラミックス製の上型基材30及び下型基材50との組み合わせで構成している。これと異なり、下型ユニット12に相当する部分については、2つのパーツに分けずに一体構造の成形型を選択することも可能である。この場合、下型ユニット12に代わる一体型の成形型は、ガラス製であってもよいし、金属やセラミックス等の非ガラス製であってもよい。
【0087】
上記実施形態では、胴型20の上部内面21と上型基材30のスライド案内面31、胴型20の下部内面22と下型基材50のスライド案内面53をそれぞれ、基準軸Xを中心とする円筒面としている。しかし、上部内面21とスライド案内面31、下部内面22とスライド案内面53はそれぞれ、胴型20に対して上型基材30や下型基材50を傾きやガタつきを生じさせずに上下方向へ相対移動させるものであれば、様々な形状を選択可能である。例えば、基準軸Xに対して垂直な断面形状が、多角形や楕円形等である面を用いてもよい。
【0088】
上型ユニット11と下型ユニット12を離間させたときに、下方への上型40の移動量を制限する規制部(規制面)は、上型規制面23のような円錐状の面であることが好ましい。上述したように、円錐状の上型規制面23に対して同じく円錐状の被規制面42が当接する構成は、当接時の上型40の安定性に優れており、上型40が不用意に移動して周囲に衝突してダメージを受けたりするおそれが少ない。また、周方向の全体で上型40を支持するので、上型40に対して局所的な負荷が加わりにくい。
【0089】
しかし、下方への上型40の移動規制を行うという点に着目すれば、上型規制面23以外の形状の規制面を選択することも可能である。一例として、基準軸Xに対して垂直な平面状(階段状)の規制面を胴型20に設けることができる。
【0090】
また、上型規制面23(突出部24)のように基準軸Xを中心とする周方向へ途切れずに続く構成ではなく、周方向で部分的に設けられた規制部(規制面)を選択することも可能である。例えば、周方向にある程度以上の長さを有するものであれば2箇所、周方向に短いものであれば3箇所(あるいは4箇所)以上に分けて、突出部24に相当する部分を間欠的に設けることができる。
【0091】
上記実施形態では、上型ユニット11で上型基材30と上型40の双方に円錐状の調芯面32、45を設け、下型ユニット12で下型基材50と下型60の双方に円錐状の調芯面54、63を設けている。変形例として、上型基材30と上型40の一方、あるいは下型基材50と下型60の一方にのみ円錐状の調芯面を設け、他方には円錐面以外の形状の当接部を設けることも可能である。この場合の当接部は、円錐状の調芯面に対して押し付けられたときに径方向の位置が定められる形状であればよく、様々な形状を選択可能である。
【0092】
上記実施形態では、胴型20における上部内面21の内径が下部内面22の内径よりも大きく設定されているが、上部内面21よりも下部内面22の内径が大きい構成や、上部内面21と下部内面22の内径が等しい構成を採用することも可能である。
【0093】
上記実施形態では、上型40と下型60を接近させる押圧動作時(図2)には駆動手段70により上型基材30を下方に押圧し、上型40と下型60を離間させるとき(図3)には、駆動手段71により下型基材50を下方に移動させている。これとは異なる形態で成形型の動作を行わせることも可能である。
【0094】
成形型の動作の異なる例として、図1の準備状態からの押圧動作時に、上型基材30を固定した上で、下型基材50及び下型60を上方に移動させてもよい。
【0095】
さらに異なる例として、図2の押圧成形完了から上型40と下型60を離間させるときに、上型40を上方に移動させてもよい。この場合、胴型20に対して上方への移動力を付与する第1の形態と、上型基材30に対して上方への移動力を付与する第2の形態を選択できる。
【0096】
胴型20を上方に移動させる第1の形態では、上型規制面23が被規制面42に当接して、上型40に対して上方への移動力を伝え、上型40から上型基材30に対して上方への移動力を伝える。このとき、上型規制面23と被規制面42が基準軸Xを中心とする円錐形状であるため、上型40が径方向へ位置ずれすることなく上方へ移動される。その結果、ガラスレンズ14に対して不要な負荷をかけずに、下型60の成形面61から上方に離脱させることができる。
【0097】
上型基材30に対して上方への移動力を付与する第2の形態では、吸引源15を駆動して、上型基材30の調芯面32側に上型40を吸着保持させる。これにより、上型40がガラスレンズ14と共に下型60に貼り付いた状態にならずに、確実に上型40を上方に離間させることができる。
【0098】
上記実施形態の下型60は、環状突出部62によってコバ部14cの外周面を形成し、一度の押圧成形によってガラスレンズ14の基本形状を完成させるタイプである。これと異なり、コバ部14cの外周面を囲まない(下型60が環状突出部62を備えない)の構造の成形型を選択することも可能である。この場合、押圧成形後に、ガラスレンズ14の周縁に突出した余肉部を除去する加工を行う。
【符号の説明】
【0099】
10 :ガラスレンズ成形型
11 :上型ユニット
12 :下型ユニット(対向型)
13 :ガラスプリフォーム
14 :ガラスレンズ
14a、14b :レンズ面
14c :コバ部
15、17 :吸引源
20 :胴型
21 :上部内面
22 :下部内面
23 :上型規制面
24 :突出部
30 :上型基材(型基材)
31 :スライド案内面
32 :調芯面(基材側当接部)
33 :底面
34 :吸引孔
40 :上型(ガラス製成形型)
41 :成形面
42 :被規制面
43 :段部
45 :調芯面(型側当接部)
50 :下型基材(第2の型基材)
51 :大径部
52 :小径部
53 :スライド案内面
54 :調芯面(第2の基材側当接部)
57 :吸引孔
60 :下型(第2のガラス製成形型)
61 :成形面(第2の成形面)
62 :環状突出部
63 :調芯面(第2の型側当接部)
64 :外周面
70、71 :駆動手段
S :内部空間
X :基準軸(軸線)
図1
図2
図3